説明

コーティング剤、硬化コート層および構造体

【課題】 有機系基材と金属や無機化合物蒸着膜との密着性を向上させるために、それらの間に介在させるコート層形成用のコーティング剤を提供する。
【解決手段】 (A)(a−1)下記一般式(I)で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物と、(a−2)下記一般式(II)で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物とを、加水分解・縮合して得られたポリオルガノシロキサンゾル、および(B)アクリル系有機高分子化合物を含むコーティング剤である。
CH=C(R)−COO−A−SiR(OR3−n …(I)
(RはH、CH基、Aはアルキレン基、R、RはC〜C10のアルキル基、nは0〜2の整数)
Si(OR4−m …(II)
(RはH、C〜C10のアルキル基、アリール基、アラルキル基またはビニル基、RはC〜C10のアルキル基、mは0〜3の整数)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤、硬化コート層および構造体に関する。さらに詳しくは、本発明は、有機系基材と金属や無機化合物蒸着膜との密着性を向上させるために、それらの間に介在させるコート層形成用のコーティング剤、このコーティング剤を用いて有機系基材上に設けられた硬化コート層、および該硬化コート層を有する構造体、特に前記硬化コート層上に、金属や無機化合物蒸着膜が設けられてなる構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、反射ミラーや光学レンズなどの光学部品ではガラス基材が多く使われていた。反射ミラーではガラス基板上にアルミニウム等の金属を真空蒸着等で成膜することにより、反射膜を形成していた。また、光学レンズでは部品表面の反射を防止するためにTiO等の高屈折率材料の薄膜とSiO等の低屈折率材料の薄膜を交互に蒸着した多層膜からなる反射防止膜を設けることがなされてきた。
【0003】
しかしながら、近年、軽量で低コストである上、生産性に優れることから透明樹脂、例えばポリメチルメタクリレートで代表されるアクリル系樹脂を始め、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリノルボルネンなどのポリシクロオレフィン系樹脂などが、光学材料の基材として使用されている。このようなプラスチック基材上に、金属系蒸着膜を設けた例として、以下に示すものを挙げることができる。
【0004】
プラズマディスプレイ(PDP)、ブラウン管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)などのディスプレイにおいては、画面に外部から光が入射し、この光が反射して表示画像を見ずらくすることがあり、特に近年、フラットパネルディスプレイの大型化に伴い、上記問題を解決することが、ますます重要な課題となってきている。このような問題を解決するために、これまで種々のディスプレイに対して、様々な反射防止処置や防眩処置がとられている。その一つとして反射防止フィルムを各種のディスプレイに使用することが行われている。
【0005】
この反射防止フィルムの作製方法としては、ドライプロセス法(蒸着法)とウェットプロセス法(コーティング法)が知られており、ドライプロセス法によれば、基材フィルム上に、低屈折率の物質(MgF)を薄膜化する方法や、屈折率の高い物質[ITO(錫ドープ酸化インジウム)、TiOなど]と屈折率の低い物質(MgF、SiOなど)を交互に積層する方法などで作製される。
【0006】
また、建物の窓、乗物の窓、あるいは冷蔵、冷凍ショーケースの窓などにおいて、暑さの軽減、省エネルギー化を図るために、これらの窓に熱線(赤外線)を反射又は吸収する性能を付与する方法が提案されている。例えば、透明基材フィルムの表面に、アルミニウム、銀、金等の金属薄膜をスパッタリングや蒸着により形成してなる熱線反射フィルムを窓に貼付する方法が知られている。
【0007】
一方、表面に導電性材料層を有する有機基材、特にプラスチックフィルムは、エレクトロルミネッセンス素子(EL素子)、液晶表示素子(LCD素子)、太陽電池などに用いられ、さらに電磁波遮蔽フィルムや帯電防止性フィルムなどとして用いられている。このような用途に用いられる導電性材料としては、例えば酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化カドミウム、ITOなどの金属酸化物や、金、白金、銀、ニッケル、アルミニウム、銅のような金属などの無機系または金属系導電性材料が用いられる。そして、これらの無機系または金属系導電性材料は、通常真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の手段により、プラスチックフィルムなどの有機基材上に、厚さ5〜200nm程度の薄膜として形成される。
【0008】
さらに、近年、書き換え可能、高密度、大容量の記憶容量、記録再生ヘッドと非接触等の特徴を有する光記録媒体として、半導体レーザー光等の熱エネルギーを用いて磁性膜の磁化反転を利用して情報を記録し磁気光学効果を利用して読み出す光磁気ディスクや結晶から、アモルファスへの相変化を利用した相変化ディスクが開発され、実用化に至っている。
【0009】
このような光記録媒体は、一般に、透光性有機基材、例えばポリカーボネートやポリメチルメタクリレートなどの基材上に光記録材料層、誘電体層、金属反射層、有機保護層などが順次積層された構造を有しており、また、基材と光記録材料層との間に、誘電体下地層を設ける場合もある。
【0010】
基板上に設けられる光記録材料層には、例えばTb−Fe、Tb−Fe−Co、Dy−Fe−Co、Tb−Dy−Fe−Coなどの無機系の光磁気型記録材料、あるいはTeOx、Te−Ge、Sn−Te−Ge、Bi−Te−Ge、Sb−Te−Ge、Pb−Sn−Te、Tl−In−Seなどの無機系の相変化型記録材料が用いられる。また、所望により、基板と光記録材料層との間に設けられる誘電体下地層には、例えばSiN、SiO、SiO、Taなどの無機系材料が用いられる。前記無機系の光記録材料層や誘電体下地層は、通常真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの公知の手段によって形成される。
【0011】
しかしながら、このようにプラスチック基材上に金属や無機化合物蒸着膜を設けた場合、該蒸着膜とプラスチック基材との密着性が乏しいという問題を有し、その向上が求められていた。
【0012】
金属や無機化合物蒸着膜とプラスチック基材との密着性を向上させる手段として、例えばプラスチック基材上に、真空蒸着法により反射防止膜を形成させる際に、無機系微粒子と、シランカップリング剤と、樹脂成分とを含む密着力強化層を、前記プラスチック基材と反射防止膜との間に介在させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0013】
しかしながら、この技術においては、無機微粒子としてポリオルガノシロキサンゾルは用いておらず、また、樹脂成分としてアクリル系有機高分子化合物を用いているが、分子中に加水分解により金属酸化物と結合し得る金属含有基は有していない。
【特許文献1】特開2000−241604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような事情のもとで、有機系基材と金属や無機化合物蒸着膜との密着性を向上させるために、それらの間に介在させるコート層形成用のコーティング剤、このコーティング剤を用いて有機系基材上に設けられた硬化コート層、および該硬化コート層を有する構造体、特に前記硬化コート層上に、金属や無機化合物蒸着膜が設けられてなる構造体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ゾル−ゲル法で得られた特定のポリオルガノシロキサンゾルと、アクリル系有機高分子化合物、特に分子中に加水分解により金属酸化物と結合し得る金属含有基を有するアクリル系単量体と、金属を含まないアクリル系単量体とを共重合させて得られた重合体とを含むコーティング剤により、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、
(1) 有機系基材と、該基材上に形成される金属系蒸着膜との間に設けられる中間層を形成するためのコーティング剤であって、
(A)(a−1)一般式(I)
【0017】
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Aは炭素数1〜6のアルキレン基、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、nは0〜2の整数を示し、Rが複数ある場合には、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、ORが複数ある場合には、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物と、(a−2)一般式(II)
Si(OR4−m …(II)
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基またはビニル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基、mは0〜3の整数を示し、Rが複数ある場合には、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、ORが複数ある場合には、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物とを、加水分解・縮合して得られたポリオルガノシロキサンゾル、および(B)アクリル系有機高分子化合物を含むことを特徴とするコーティング剤、
(2) (A)成分と(B)成分とを、固形分質量比95:5〜5:95の割合で含む上記(1)項に記載のコーティング剤、
(3) (A)成分のポリオルガノシロキサンゾルにおける、原料の(a−1)成分と(a−2)成分とのモル比が99:1〜60:40である上記(1)または(2)項に記載のコーティング剤、
(4) 一般式(I)で表されるシラン化合物が、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび/または3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランである上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載のコーティング剤、
(5) 一般式(II)で表されるシラン化合物が、メチルトリメトキシシランである上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載のコーティング剤、
(6) (B)成分のアクリル系有機高分子化合物が、(b−1)分子中に加水分解により金属酸化物と結合し得る金属含有基を有するアクリル系単量体と、(b−2)金属を含まないアクリル系単量体とを共重合させて得られたものである上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載のコーティング剤、
(7) (b−1)成分のアクリル系単量体が、一般式(I)
【0018】
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Aは炭素数1〜6のアルキレン基、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、nは0〜2の整数を示し、Rが複数ある場合には、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、ORが複数ある場合には、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物である上記(6)項に記載のコーティング剤、
(8) (b−2)成分のアクリル系単量体が、一般式(III)
【0019】
【化3】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)
で表される化合物である上記(6)または(7)項に記載のコーティング剤、
(9) (b−1)成分のアクリル系単量体が、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび/または3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランである上記(7)または(8)項に記載のコーティング剤、
(10) (B)成分のアクリル系有機高分子化合物が、(b−1)成分のアクリル系単量体と、(b−2)成分のアクリル系単量体とを、モル比1:99〜15:85の割合で共重合させて得られたものである上記(6)〜(9)項のいずれか1項に記載のコーティング剤、
(11) 上記(1)〜(10)項のいずれか1項に記載のコーティング剤を用いて、有機系基材表面に形成されたことを特徴とする硬化コート層、
(12) 厚さが0.01〜10μmである上記(11)項に記載の硬化コート層、
(13) 上記(11)または(12)項に記載の硬化コート層を有することを特徴とする構造体、および
(14) 硬化コート層上に、物理的気相蒸着法または化学的気相蒸着法により、金属膜および無機化合物膜の中から選ばれる少なくとも1層の薄膜が設けられてなる上記(13)項に記載の構造体、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、有機系基材と金属や無機化合物蒸着膜との密着性を向上させるために、それらの間に介在させるコート層形成用のコーティング剤、このコーティング剤を用いて有機系基材上に設けられた硬化コート層、および該硬化コート層を有する構造体、特に前記硬化コート層上に、金属や無機化合物蒸着膜が設けられてなる構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
まず、本発明のコーティング剤について説明する。本発明のコーティング剤は、有機系基材と、該基材上に形成される金属や無機化合物蒸着膜との間に設けられる中間層を形成するためのコーティング剤であって、(A)特定のポリオルガノシロキサンゾル、および(B)アクリル系有機高分子化合物を含むことを特徴とする。
[(A)ポリオルガノシロキサンゾル]
この(A)成分のポリオルガノシロキサンゾルは、以下に示す(a−1)一般式(I)
【0022】
【化4】

で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物と、(a−2)一般式(II)
Si(OR4−m …(II)
で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物とを、加水分解・縮合して得られたゾルである。
【0023】
前記(a−1)成分である一般式(I)において、Rは水素原子またはメチル基を示す。Aは炭素数1〜6のアルキレン基、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、このアルキレン基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよいが、直鎖状のものが好ましく、例えばエチレン基、トリメチレン基を好ましく挙げることができる。
【0024】
およびRは、それぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基を示す。このアルキル基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基などを挙げることができる。nは0〜2の整数を示し、Rが複数ある場合には、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、ORが複数ある場合には、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。
【0025】
前記一般式(I)における−SiR(OR3−nで表される基としては、例えばトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリ−n−プロポキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリ−n−ブトキシシリル基、トリイソブトキシシリル基、トリ−sec−ブトキシシリル基、トリ−tert−ブトキシシリル基、ジメチルメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基などを挙げることができる。
【0026】
前記一般式(I)で表されるシラン化合物としては、例えば2−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、2−アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−アクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。これらの中では、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが、得られるコーティング剤の性能の観点から好適である。
【0027】
本発明においては、(a−1)成分として、前記一般式(I)で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
一方、前記(a−2)成分である一般式(II)において、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基またはビニル基を示す。
【0029】
前記炭素数1〜10のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。このアルキル基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基などを挙げることができる。
【0030】
また、炭素数6〜10のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられ、炭素数7〜10のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基などが挙げられる。
【0031】
は炭素数1〜10のアルキル基を示し、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。このアルキル基としては、前記Rのうちのアルキル基の説明で例示したものと同じものを挙げることができる。
【0032】
mは0〜3の整数を示し、Rが複数ある場合には、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、ORが複数ある場合には、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。
【0033】
mとしては1〜3の整数が好ましく、このような一般式(II)で表されるシラン化合物としては、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシシラン、メチルフェニルジメトキシシランなどが挙げられ、これらの中では、得られるコーティング剤の性能の観点から、メチルトリメトキシシランが好ましい。
【0034】
本発明においては、(a−2)成分として、前記一般式(II)で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明においては、得られるコーティング剤の性能の観点から、前記(a−1)成分と(a−2)成分の使用割合は、モル比で99:1〜60:40が好ましく、90:10〜65:35がより好ましい。
【0036】
本発明においては、前記(a−1)成分と(a−2)成分との混合物を加水分解・縮合させることにより、所望する(A)成分のポリオルガノシロキサンゾルを調製する。
【0037】
加水分解・縮合反応については、アルコール、ケトン、エーテルなどの極性溶媒中において、(a−1)成分と(a−2)成分との混合物を塩酸、硫酸、硝酸などの酸、あるいは固体酸としてのカチオン交換樹脂を用い、通常−10〜70℃、好ましくは10〜40℃の温度において、好ましくは5分間以上共加水分解縮重合させ、固体酸を用いた場合には、それを除去して、(A)成分のポリオルガノシロキサンゾルを得る。このようにして得られたポリオルガノシロキサンゾルの濃度は、通常0.5〜50質量%程度、好ましくは1〜30質量%である。
【0038】
なお、この加水分解・縮合反応においは、(a−1)成分における(メタ)アクリロキシ基の重合は、実質上起こらない。該(メタ)アクリロキシ基の重合が起こると、得られるコーティング剤の性能が不十分なものとなる。
[(B)アクリル系有機高分子化合物]
この(B)成分のアクリル系有機高分子化合物としては、(b−1)分子中に加水分解により金属酸化物と結合し得る金属含有基を有するアクリル系単量体と、(b−2)金属を含まないアクリル系単量体とを共重合させて得られた重合体を用いることが好ましい。
【0039】
前記(b−1)成分のアクリル系単量体としては、前述の(a−1)成分として用いた一般式(I)で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物と同じものを挙げることができる。
【0040】
本発明においては、この(b−1)成分のアクリル系単量体として、一般式(I)で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、(a−1)成分として使用したものと同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。この(b−1)成分の好ましいものは、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび/または3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランである。
【0041】
一方、(b−2)成分の金属を含まないアクリル系単量体としては、一般式(III)
【0042】
【化5】

で表される化合物を用いることができる。
【0043】
前記一般式(III)において、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。Rで示される炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。炭素数1〜10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、および各種のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。炭素数3〜10のシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基などが、炭素数6〜10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが、炭素数7〜10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチチル基などが挙げられる。
【0044】
この一般式(III)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本発明においては、必要に応じ、密着性向上剤として、(b−3)一般式(IV)
【0046】
【化6】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rはエポキシ基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基を示す。)
で表されるアクリル系単量体を適宜用いることができる。
【0047】
前記一般式(IV)で表されるアクリル系単量体において、Rで示されるエポキシ基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。上記置換基のハロゲン原子としては、塩素原子および臭素原子が好ましく、またアミノ基は遊離のアミノ基、モノアルキル置換アミノ基、ジアルキル置換アミノ基のいずれであってもよい。上記炭化水素基の具体例としては、前述の一般式(III)におけるRの説明において例示した基と同じものを挙げることができる。
【0048】
前記一般式(IV)で表されるアクリル系単量体の例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3−グリシドキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メルカプトエチル(メタ)アクリレート、3−メルカプトプロピル(メタ)アクリレート、2−メルカプトプロピル(メタ)アクリレート、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、4−ジメチルアミノベンジル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレートなどを好ましく挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
前記(b−1)成分と(b−2)成分と、必要により用いられる(b−3)成分とを、メチルイソブチルケトンなどの適当な溶媒中において、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル共重合させることにより、所望の(B)成分であるアクリル系有機高分子化合物を得ることができる。
【0050】
本発明においては、前記(B)成分のアクリル系有機高分子化合物は、(b−1)成分のアクリル系単量体と、(b−2)成分のアクリル系単量体とを、モル比1:99〜15:85の割合で共重合させてなる重合体が好ましく、2:98〜10:90の割合で共重合させてなる重合体がより好ましい。なお、必要により(b−3)成分を用いる場合には、前記(b−2)成分の一部を該(b−3)成分に置き換えればよい。
[コーティング剤]
本発明のコーティング剤は、前記のようにして調製した(A)成分のポリオルガノシロキサンゾルと、(B)成分のアクリル系有機高分子化合物とを含むものであり、その含有割合は、密着性の観点から、(A)成分と(B)成分との固形分質量比で95:5〜5:95の範囲が好ましく、90:10〜10:90の範囲がより好ましい。
【0051】
本発明のコーティング剤の溶媒としては、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、セロソルブ系溶媒、ケトン系溶媒およびこれらの混合溶媒などを挙げることができる。
【0052】
本発明のコーティング剤には、所望により密着性などの本発明の特性を損なわない範囲で、(A)成分と(B)成分以外に他の成分を加えることができる。例えば、アクリル系化合物のモノマーやオリゴマー、重合開始剤などが挙げられる。アクリル系化合物のモノマーやオリゴマーの例としては、多官能アクリレートが挙げられ、具体的には、(C)多官能アクリレート化合物と(D)熱重合開始剤、あるいは(C)多官能アクリレート化合物と(E)光重合開始剤を含有させることができる。これらを加えることで、硬化速度を早めることができる。
【0053】
前記(C)成分の多官能アクリレート化合物としては、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストリールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(D)成分の熱重合開始剤としては、従来公知のもの、例えば各種の有機過酸化物やアゾ化合物などの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。一方、(E)成分の光重合開始剤としては、従来公知のもの、例えばベンゾイン系、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、アントラキノン系、チオキサントン系、ケタール系などの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0055】
前記多官能アクリレート化合物と熱重合開始剤を含有させる場合、この熱重合開始剤の使用量は、全固形成分に対して、通常0.01〜50質量%程度、好ましくは1〜20質量%である。これらを含有させることにより、本発明のコーティング剤を有機系基材に塗布した後の硬化膜形成を促進させることができる。
【0056】
また、前記多官能アクリレート化合物と光重合開始剤を含有させる場合、この光重合開始剤の使用量は、全固形成分に対して、通常0.01〜50質量%程度、好ましくは1〜20質量%である。これらを含有させることにより、本発明のコーティング剤を有機系基材に塗布したのち、紫外線を照射することにより、硬化膜をすばやく形成することができる。
【0057】
本発明のコーティング剤における固形分濃度としては、該コーティング剤が塗工可能な粘度になるような濃度であればよく、特に制限はないが、通常0.01〜50質量%程度、好ましくは0.1〜30質量%である。
[硬化コート層]
本発明の硬化コート層は、前述した本発明のコーティング剤を用いて、有機系基材表面に形成されてなる層である。
【0058】
前記有機系基材の材質としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン−1、ポリブテン−1などのポリオレフィン系樹脂;ポリノルボルネンなどのポリシクロオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリフェニレンサルファイド系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリエチレンサルファイド系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;スチレン系樹脂;アクリル系樹脂;ポリアミド系樹脂;セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂;などを挙げることができる。これらの中で、透明性、耐熱性、低吸水性、経済性などの観点から、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびポリシクロオレフィン系樹脂が好適である。有機系基材の形状に特に制限はなく、フィルム状、シート状、板状など、いずれであってもよい。
【0059】
また、前記有機系基材は、その上に設けられる硬化コート層との密着性をさらに向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。
【0060】
本発明の硬化コート層は、以下に示す方法により形成することができる。すなわち、前述した本発明のコーティング剤(多官能アクリレート化合物と熱重合開始剤を含んでいてもよい)を用い、前記有機系基材上に、乾燥厚さが、通常0.01〜10μm程度、好ましくは0.02〜3μmになるように、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段により塗膜を形成し、公知の乾燥処理、例えば50〜200℃程度の温度で加熱乾燥処理することにより、本発明の硬化コート層を形成することができる。
【0061】
本発明のコーティング剤が、多官能アクリレート化合物と光重合開始剤を含む場合、前記と同様にして、有機系基材上に塗膜を形成し、必要に応じて50〜200℃程度で乾燥処理後、紫外線を照射し、さらに50〜200℃程度の温度でエージングを行うことにより、本発明の硬化コート層を形成することができる。
【0062】
このようにして形成された本発明の硬化コート層は、有機系基材との密着性に優れている。
[構造体]
本発明の構造体は、有機系基材上に設けられた本発明の硬化コート層を有することを特徴とする。該硬化コート層は、有機系基材との密着性に優れると共に、その上に形成される金属や無機化合物蒸着膜との密着性にも優れている。したがって、本発明の構造体としては、前記硬化コート層上に、物理的気相蒸着法(PDV法)または化学的気相蒸着法(CVD法)により、金属膜および無機化合物膜の中から選ばれる少なくとも1層の薄膜が設けられてなるものが好ましい。なお、前記PDV法には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などがある。
【0063】
このような本発明の構造体としては、以下に示すものを挙げることができる。
(1)反射防止フィルム
PDP、CRT、LCDなどのフラットパネルディスプレイにおける画面の反射を防止するための反射防止フィルムとして、基材フィルム上に、本発明の硬化コート層を設けその上に、PVD法やCVD法により、MgFなどの低屈折率薄膜を設けた反射防止フィルム、あるいは屈折率の高い物質(ITO、TiOなど)と屈折率の低い物質(MgF、SiOなど)を交互に積層した反射防止フィルムなどを挙げることができる。
(2)熱線反射フィルム
建物の窓、乗物の窓、あるいは冷蔵、冷凍ショーケースの窓などにおいて、暑さの軽減、省エネルギー化を図る目的で、これらの窓に熱線(赤外線)を反射するために貼付される熱線反射フィルムとして、透明基材フィルム表面に、本発明の硬化コート層を設けその上に、PVD法により、アルミニウム、銀、金などの金属薄膜を設けた熱線反射フィルムなどを挙げることができる。
(3)導電性フィルム
EL素子、LCD素子、太陽電池、抵抗膜方式のタッチパネルなどに用いられ、さらに電磁波遮蔽フィルムや帯電防止性フィルムなどとして用いられる導電性フィルムとして、プラスチックフィルム表面に、本発明の硬化コート層を設けその上に、PVD法やCVD法により、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化カドミウム、ITOなどの金属酸化物や、金、白金、銀、ニッケル、アルミニウム、銅のような金属などの無機系または金属系導電性材料からなる薄膜を設けた導電性フィルムなどを挙げることができる。
(4)光記録材料層が設けられた有機系基材
光記録媒体は、一般に、透光性有機系基材、例えばポリカーボネートやポリメチルメタクリレートなどの基材上に光記録材料層、誘電体層、金属反射層、有機保護層などが順次積層された構造を有しており、また、基材と光記録材料層との間に、誘電体下地層を設ける場合もある。
【0064】
透光性有機系基材表面に、本発明の硬化コート層を設けその上に、PVD法やCVD法により、例えばTb−Fe、Tb−Fe−Co、Dy−Fe−Co、Tb−Dy−Fe−Coなどの無機系の光磁気型記録材料、あるいはTeOx、Te−Ge、Sn−Te−Ge、Bi−Te−Ge、Sb−Te−Ge、Pb−Sn−Te、Tl−In−Seなどの無機系の相変化型記録材料からなる層が設けられた構造体を挙げることができる。
【0065】
また、前記の光磁気型記録材料または相変化型記録材料からなる層の代わりに、SiN、SiO、SiO、Taなどからなる誘電体下地層が設けられた構造体を挙げることができる。
(5)PDP用近赤外線吸収フィルム
PDPにおいては、近赤外線を発することが知られている。この近赤外線は、コードレスホン、近赤外線リモートコントロール装置を使用するビデオデッキなど、周辺にある電子機器に作用し、正常な動作を阻害するおそれがあり、この近赤外線を極力遮断することが要求される。
【0066】
また、PDPにおいては、電磁波遮断、反射防止機能も要求されるため、一般に表示画面に、(1)電磁波遮断フィルム、(2)近赤外線吸収フィルム及び(3)反射防止フィルムの少なくとも3枚の機能性フィルムを有する前面板を、該反射防止フィルムが、最表面(観察者側)になるように配置する処置が講ぜられている。
【0067】
前記(2)の近赤外線吸収フィルムとして、透明基材フィルム表面に、本発明の硬化コート層を設けその上に、PVD法やCVD法により、金属系近赤外線吸収剤の薄膜層を形成させた近赤外線吸収フィルムなどを挙げることができる。
また、その他に、反射ミラー、光学レンズ、携帯電話の外装、カメラカバーなども挙げられる。
【実施例】
【0068】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0069】
なお、各例における諸特性は、以下に示す方法に従って求めた。
(1)密着性
JIS K5400に準拠し、シリカ系薄膜コートアクリル基材及び反射防止膜付きシリカ系薄膜コートアクリル基材表面にロータリーカッターにて1mm角の碁盤目100マスを付け、セロテープ[ニチバン(株)製、登録商標]を圧着させたのち、一気に引き剥がし、その剥離面積より、JIS K5400に準拠して下記点数により薄膜の密着性を評価した。
【0070】
10点:剥離面積0%、8点:剥離面積5%以内、6点:同5%超〜15%、4点:同15%超〜35%、2点:同35%超〜65%、0点:65%超
(2)ヘイズ値および全光線透過率
JIS K7361に準拠し、濁度計NDH2000[日本電色工業(株)製]を用いて、シリカ系薄膜コートアクリル基材及び反射防止膜付きシリカ系薄膜コートアクリル基材のヘイズ値及び全光線透過率を測定した。
(3)波長600nmにおける透過率
紫外可視近赤外分光光度計「V−670DS」[日本分光(株)製]を用いて、シリカ系薄膜コートアクリル基材の波長600nmにおける透過率を測定した。
(4)耐環境性
反射防止膜付きシリカ系薄膜コートアクリル基材を以下の各条件下で放置後、上記の密着性評価と同様に密着性を評価した。
【0071】
(ア)耐湿熱試験:60℃、相対湿度90%の条件下で24時間
(イ)長期耐湿熱試験:60℃、相対湿度90%の条件下で500時間
(ウ)低温試験:−20℃の条件下で500時間
(エ)温水試験:60℃に加熱したイオン交換水中に4時間浸漬
なお、この耐環境性は、密着性が6点以上のものについて行った。
実施例1
(1)コーティング液の調製
3−メタクロキシプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)16.25gとメチルトリメトキシシラン(MTMS)3.81gをMeOH 38.39gに加えて30℃で15分間撹拌した後、0.1モル/L硝酸1.17gと蒸留水8.93gとMeOH 16.45gの混合溶液を添加して30℃で24時間撹拌を行って加水分解・重縮合し、ポリオルガノシロキサンゾル アとした。
【0072】
MPTMS:MTMSモル比は70:30であり、ポリオルガノシロキサンゾル アの固形分濃度は16質量%であった。
【0073】
一方、メチルイソブチルケトン(MIBK)47.81gにメタクリル酸メチル(MMA)23.91g、MPTMS 3.01gを加え、これにMIBK 10.04gと2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.23gの混合溶液を添加、撹拌して均一溶液とした。この溶液を撹拌しながら60℃で30時間反応をさせることによりアクリル系有機高分子化合物を得た。これにMIBKを94.47g加えてアクリル系有機高分子化合物溶液とした。
【0074】
MPTMS:MMAモル比は5:95であり、アクリル系有機高分子化合物溶液の固形分濃度は15質量%であった。
【0075】
次に、MIBK 34.31gに上記アクリル系有機高分子化合物溶液 2.83gを加え、更にプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)23.95g、ポリオルガノシロキサンゾル ア 23.91gの順に添加し、固形成分濃度5質量%のコーティング液を調製した。
【0076】
ポリオルガノシロキサンゾル ア:アクリル系有機高分子化合物溶液の固形分質量比は90:10であった。
(2)シリカ系薄膜作製および反射防止膜の蒸着
アクリル基材のアクリライト(50mm×50mm、t=2mm、三菱レイヨン社製)を、MeOHで5分間の超音波洗浄を行った後、この基材上にスピンコート法(600rpm×30秒)により上記コーティング液を塗布した。120℃で1.5分間の予備加熱を行い、90℃、で18時間のエージングを行った。得られたシリカ系薄膜表面にTiO、SiOの順に真空蒸着(シンクロン製BMC−1050型蒸着装置、中心波長550nm、非加熱)により、厚さ0.15μmの反射防止膜を形成した。
(3)特性評価
上記のように作製したシリカ系薄膜コートアクリル基材及び反射防止膜付きシリカ系薄膜コートアクリル基材において、密着性、ヘイズ値、全光線透過率、透過率(波長600nm)、耐環境性を評価した。その結果、シリカ系薄膜コートアクリル基材の密着性は8点と良好であり、ヘイズ値は0.2%、全光線透過率は92.5%と透明であった。このときの波長600nmにおける透過率は92.5%であり、アクリル基材のみの92.5%と同程度であった。反射防止膜付きシリカ系薄膜コートアクリル基材の密着性は8点と良好であり、ヘイズ値は0.2%、全光線透過率は94.9%と透明であった。また、耐湿熱試験後の密着性は8点と良好であった。
【0077】
また、シリカ系薄膜コートアクリル基材の耐環境性を評価した。その結果、長期耐湿熱試験、低温試験、温水試験後の密着性はそれぞれ8点、8点、8点および10点と良好であった。
【0078】
表1にコーティング液の組成を、表2に特性評価結果を示す。
実施例2〜4
表1に示す組成で各コーティング液を調製した以外は、実施例1と同様に行った。表2に特性評価結果を示す。
実施例5
コーティング液を調製する際にPGM、MIBKの代わりにシクロヘキサノール(CH)29.13g、ジアセトンアルコール(DAA)29.13gを用いた以外は、実施例1と同様に行った。
【0079】
表1にコーティング液の組成を、表2に特性評価結果を示す。
実施例6
アクリライト上にコーティング液を塗布する際にスプレーコート法で行った以外は、実施例5と同様に行った。
【0080】
表1にコーティング液の組成を、表2に特性評価結果を示す。
実施例7
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(APTMS)16.43gとMTMS 4.09gをMeOH 37.56gに加えて30℃で15分間撹拌した後、0.1モル/L硝酸 1.25gと蒸留水 9.58gとMeOH 16.10gの混合溶液を添加して30℃で24時間撹拌を行って加水分解・重縮合し、ポリオルガノシロキサンゾル イとした。このポリオルガノシロキサンゾル イをポリオルガノシロキサンゾル アの代わりに用いた以外、実施例1と同様に行った。
【0081】
APTMS:MTMSモル比は70:30であり、ポリオルガノシロキサンゾル イの固形分濃度は16質量%であった。
【0082】
表1にコーティング液の組成を、表2に特性評価結果を示す。
実施例8
MIBK 34.04gにアクリル系有機高分子化合物溶液 2.83gを加え、これにPGM 34.04g、ポリオルガノシロキサンゾル イ 11.95gを添加した。更に、多官能アクリレート(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート系)として「KAYARAD DPHA」(日本化薬(株)製)1.91g、熱重合開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)0.21gを加えてコーティング液を調製した。これ以外は実施例1と同様に行った。
【0083】
ポリオルガノシロキサンゾル イ:アクリル系有機高分子化合物溶液の固形分質量比は50:50であった。
【0084】
表1にコーティング液の組成を、表2に特性評価結果を示す。
実施例9
MIBK 34.04gにアクリル系有機高分子化合物溶液 2.83gを加え、これにPGM 34.04g、ポリオルガノシロキサンゾル イ 11.95gを添加した。更に、多官能アクリレートとして「KAYARAD DPHA」(日本化薬(株)製)1.91g、光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン0.21gを加えてコーティング液を調製した。このコーティング液をスピンコート法によりアクリライト上に塗布後、紫外線照射(照度:約60mW/cm)を行い、最後に90℃で1時間のエージングを行った。これ以外は実施例1と同様に行った。
【0085】
表1にコーティング液の組成を、表2に特性評価結果を示す。
比較例1
実施例1において、アクリライト上にコーティング液を塗布せずに、アクリライト上に直接、反射防止膜を蒸着した。
【0086】
表2に特性評価結果を示す。
比較例2
MIBK 37.15gにPGM 21.29g、ポリオルガノシロキサンゾル ア 26.56gの順に添加し、固形成分濃度5質量%のコーティング液を調製した。これ以外は実施例1と同様に行った。
【0087】
表1にコーティング液の組成を、表2に特性評価結果を示す。
比較例3
MIBK 8.81gにアクリル系有機高分子化合物溶液 28.33g、PGM 47.86gの順に添加し、固形成分濃度5質量%のコーティング液を調製した。これ以外は実施例1と同様に行った。
【0088】
表1にコーティング液の組成を、表2に特性評価結果を示す。
比較例4
MPTMS 16.25gと2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.32g、MeOH 38.06gを70℃で2時間撹拌を行ってMPTMSのメタクロキシプロピル基の重合を行った。その後、MTMS 3.81gを加えて30℃で15分間撹拌した後、0.1モル/L硝酸 1.17gと蒸留水 8.93gとMeOH 16.45gの混合液を添加した。これを30℃で24時間撹拌を行って加水分解・重縮合し、ポリオルガノシロキサンゾル ウとした。このポリオルガノシロキサンゾル ウをポリオルガノシロキサンゾル アの代わりに用いた以外、実施例1と同様に行った。
【0089】
表1にコーティング液の組成を、表2に特性評価結果を示す。
【0090】
【表1】

[注]
1)実施例8:コーティング液中に、多官能アクリレート「KAYARAD DPHA」および熱重合開始剤を含有。
【0091】
2)実施例9:コーティング液中に、多官能アクリレート「KAYARAD DPHA」および光重合開始剤を含有。
【0092】
【表2】

[注]
1)実施例6:コーティング液をスプレー法にて塗布する。その他の例は、いずれもスピンコート法による塗布である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のコーティング剤は、有機系基材と金属や無機化合物蒸着膜との密着性を向上させるために、それらの間に介在させるコート層を形成するためのものであって、有機系基材上に、PVD法やCVD法により、反射防止膜、熱線反射膜、導電性膜、その他の機能膜などの形成に、好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機系基材と、該基材上に形成される金属系蒸着膜との間に設けられる中間層を形成するためのコーティング剤であって、
(A)(a−1)一般式(I)
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Aは炭素数1〜6のアルキレン基、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、nは0〜2の整数を示し、Rが複数ある場合には、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、ORが複数ある場合には、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物と、(a−2)一般式(II)
Si(OR4−m …(II)
(式中、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基またはビニル基、Rは炭素数1〜10のアルキル基、mは0〜3の整数を示し、Rが複数ある場合には、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、ORが複数ある場合には、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物とを、加水分解・縮合して得られたポリオルガノシロキサンゾル、および(B)アクリル系有機高分子化合物を含むことを特徴とするコーティング剤。
【請求項2】
(A)成分と(B)成分とを、固形分質量比95:5〜5:95の割合で含む請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
(A)成分のポリオルガノシロキサンゾルにおける、原料の(a−1)成分と(a−2)成分とのモル比が99:1〜60:40である請求項1または2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
一般式(I)で表されるシラン化合物が、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび/または3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランである請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項5】
一般式(II)で表されるシラン化合物が、メチルトリメトキシシランである請求項1〜4のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項6】
(B)成分のアクリル系有機高分子化合物が、(b−1)分子中に加水分解により金属酸化物と結合し得る金属含有基を有するアクリル系単量体と、(b−2)金属を含まないアクリル系単量体とを共重合させて得られたものである請求項1〜5のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項7】
(b−1)成分のアクリル系単量体が、一般式(I)
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Aは炭素数1〜6のアルキレン基、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、nは0〜2の整数を示し、Rが複数ある場合には、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、ORが複数ある場合には、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表されるシラン化合物またはその部分加水分解物である請求項6に記載のコーティング剤。
【請求項8】
(b−2)成分のアクリル系単量体が、一般式(III)
【化3】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を示す。)
で表される化合物である請求項6または7に記載のコーティング剤。
【請求項9】
(b−1)成分のアクリル系単量体が、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランおよび/または3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランである請求項7または8に記載のコーティング剤。
【請求項10】
(B)成分のアクリル系有機高分子化合物が、(b−1)成分のアクリル系単量体と、(b−2)成分のアクリル系単量体とを、モル比1:99〜15:85の割合で共重合させて得られたものである請求項6〜9のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のコーティング剤を用いて、有機系基材表面に形成されたことを特徴とする硬化コート層。
【請求項12】
厚さが0.01〜10μmである請求項11に記載の硬化コート層。
【請求項13】
請求項11または12に記載の硬化コート層を有することを特徴とする構造体。
【請求項14】
硬化コート層上に、物理的気相蒸着法または化学的気相蒸着法により、金属膜および無機化合物膜の中から選ばれる少なくとも1層の薄膜が設けられてなる請求項13に記載の構造体。

【公開番号】特開2008−201922(P2008−201922A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40336(P2007−40336)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】