説明

サイドエアバッグ装置

【課題】胸保護部に腕押し抑制結合部を有するエアバッグにおいて、その胸保護部を早く前方へ展開膨張させることのできるサイドエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】エアバッグ30の胸保護部39は、収納用形態にされる前に、少なくともガス供給口61よりも上方において、腕押し抑制結合部50を通る折り線74に沿って折り返されることにより、ガス供給口61から膨張用ガスGが供給される主保護部75と、主保護部75を経た後に膨張用ガスGが供給される副保護部76とに仕切られる。腕押し抑制結合部50は、自身の後端部に、後方へ向けて膨らむ円弧部53を有しており、その円弧部53の後端53Rが副保護部76に位置するように胸保護部39に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに着座した乗員の少なくとも胸部の側方でエアバッグを展開膨張させ、側方から加わる衝撃を緩和して乗員を保護するサイドエアバッグ装置に関し、より詳しくは、エアバッグにおいて乗員の腕部と対応する箇所に腕押し抑制結合部を有し、腕部がエアバッグによって胸部側へ押圧されるのを抑制するようにしたサイドエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
側突等、車両に側方からの衝撃が加わった場合にその衝撃から乗員を保護する装置として、エアバッグ及びインフレータを備えたサイドエアバッグ装置が広く知られている。このサイドエアバッグ装置では、エアバッグが、車両用シートの幅方向(車幅方向)に互いに重ね合わされた一対の布部を袋状に結合することにより形成されている。また、インフレータはエアバッグ内の後端部に配置されている。そして、エアバッグが折り畳まれてコンパクトな収納用形態にされた状態で、インフレータとともに、車両用シートのシートバック内に組み込まれている。このサイドエアバッグ装置では、車両のサイドドア等のボディサイド部に側方から衝撃が加わると、インフレータから膨張用ガスがエアバッグ内に噴出される。噴出された膨張用ガスによりエアバッグが、車両用シートに着座した乗員とボディサイド部との間の狭い空間において、シートバックから車両前方へ向けて展開膨張し、ボディサイド部を通じて乗員へ伝わる側方からの衝撃を緩和する。
【0003】
ここで、一般に、人体側部の耐衝撃性については、腰部が胸部よりも勝っていることが知られている。そのため、エアバッグが展開膨張する際に、乗員の腕部がそのエアバッグによって、車両用シートの幅方向についての内側(胸部側)へ押圧されると、耐衝撃性があまり高くない胸部が腕部によって圧迫されるおそれがある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1及び特許文献2では、乗員の胸部を保護する胸保護部を少なくとも有するエアバッグを備え、その胸保護部において乗員の腕部と対応する箇所に腕押し抑制結合部を設けたサイドエアバッグ装置が提案されている。腕押し抑制結合部は、エアバッグの両布部を、乗員の腕部と対応する位置で、互いに接触又は接近させた状態で結合することにより形成されている。この腕押し抑制結合部を有するサイドエアバッグ装置によれば、胸保護部において腕押し抑制結合部の設けられた箇所では、車両用シートの幅方向の厚みが規制されるため、腕部が胸保護部により押圧されて胸部が圧迫される現象が起こりにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−184159号公報
【特許文献2】特開2009−001057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記サイドエアバッグ装置では、衝撃から乗員の胸部を早期に保護する観点から、折り畳まれてコンパクトな収納用形態にされたエアバッグの胸保護部を早く前方へ展開膨張させることが望ましい。この点、上記腕押し抑制結合部は、インフレータからの膨張用ガスの流れ方向についての経路上に配置されている。しかし、上述した特許文献1においても特許文献2においても、腕押し抑制結合部が、上記胸保護部の前方への早期展開膨張に及ぼす影響についてまでは考慮されていない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、胸保護部に腕押し抑制結合部を有するエアバッグにおいて、その胸保護部を早く前方へ展開膨張させることのできるサイドエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、車両用シートに着座した乗員の胸部を保護する胸保護部を少なくとも有し、前記車両用シートの幅方向に互いに重ね合わされた一対の布部により袋状に形成されるとともに、折り畳まれた状態の収納用形態で収納され、ガス供給源のガス供給口から供給される膨張用ガスにより、前記乗員の側方で折りを解消しながら前記車両用シートの前方へ向けて膨張するエアバッグを備え、前記胸保護部には、前記ガス供給口よりも前方であって、前記乗員の腕部と対応する箇所で、前記一対の布部を互いに接近又は接触させた状態で結合し、前記車両用シートの幅方向における前記胸保護部の厚みを規制し、前記腕部が前記胸部側へ押圧されるのを抑制する腕押し抑制結合部が設けられ、前記胸保護部は、前記エアバッグが前記収納用形態にされる前に、少なくとも前記ガス供給口よりも上方において、前記腕押し抑制結合部を通る折り線に沿って折り返されることにより、前記ガス供給口から前記膨張用ガスが供給される主保護部と、前記主保護部を経た後に前記膨張用ガスが供給される副保護部とに仕切られるものであり、前記腕押し抑制結合部は、自身の後端部に、後方へ向けて膨らむ円弧部を有しており、その円弧部の後端が前記副保護部に位置するように前記胸保護部に配置されていることを要旨とする。
【0009】
上記の構成によれば、エアバッグの胸保護部では、主保護部内にガス供給源のガス供給口が位置するとともに、腕押し抑制結合部において、円弧部の後端よりも低い部分の少なくとも一部が位置する。円弧部の後端は主保護部内には位置しない。
【0010】
車両の衝突等により、車両用シートの側方から衝撃が加わると、ガス供給源のガス供給口から膨張用ガスがエアバッグの各部に供給される。膨張用ガスの供給された胸保護部は、車両用シートに着座した乗員の胸部の側方で、折りを解消(展開)しながら車両用シートの前方へ向けて膨張する。ただし、このときには、一対の布部を互いに接近又は接触させた状態で結合してなる腕押し抑制結合部が、これに当たる膨張用ガスの流れ方向を変える。
【0011】
そのため、胸保護部の展開膨張の初期には、ガス供給口からの膨張用ガスは、まず、同ガス供給口のある主保護部を流れる。
この際、仮に、主保護部に、上記腕押し抑制結合部における円弧部の後端が位置していると、ガス供給口からの膨張用ガスのうち腕押し抑制結合部に当たるものは、円弧部の後端を境として、それよりも下側と上側とに分けられる。下側へ分けられた膨張用ガスは、腕押し抑制結合部の下端部によって主保護部内を前方へ導かれ、同主保護部を展開膨張させる。これに対し、上側へ分けられた膨張用ガスは、折り線を跨いで副保護部へ流入して、同副保護部を展開膨張させる。この副保護部へ流入する分、主保護部に流入する膨張用ガスが少なくなり、同主保護部の前方への展開膨張が遅くなる。
【0012】
これに対し、請求項1に記載の発明では、円弧部の後端が副保護部に配置されていて、後端よりも上側部分が主保護部に位置していない。このため、ガス供給口から主保護部に供給される膨張用ガスのうち腕押し抑制結合部に当たるものは、専ら円弧部の後端よりも下側を、同腕押し抑制結合部の下端部によって前方へ導かれ、同主保護部を展開膨張させる。腕押し抑制結合部によって上側へ流れ方向を変えられ、折り線を跨いで副保護部へ流入する膨張用ガスは僅かである。そのため、上述した円弧部の後端が主保護部に位置するものに比べ、主保護部に供給される膨張用ガスが多く、同主保護部が前方へ早く展開膨張する。その結果、側方からの衝撃に対する胸保護部による胸部の保護が、早い時期から開始される。
【0013】
ところで、上記胸保護部の多くの部分では、車両用シートの幅方向についての厚みが増すが、乗員の腕部と対応し、かつ腕押し抑制結合部が設けられた箇所では、同厚みの増大が規制される。そのため、例えば、標準体格を有する乗員の腕部が腕押し抑制結合部に対応する箇所に位置している状況下で胸保護部が展開膨張した場合には、その乗員の腕部が胸保護部によって車両用シートの幅方向についての内側(胸部側)へ押圧されにくく、耐衝撃性のあまり高くない胸部が圧迫されにくい。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記腕押し抑制結合部において、前記円弧部に繋がる下端部は前側ほど低くなるように傾斜していることを要旨とする。
【0015】
上記の構成によれば、ガス供給口からの膨張用ガスのうち腕押し抑制結合部に当たるものは、前側ほど低くなるように傾斜する、同腕押し抑制結合部の下端部に沿って前下方へスムーズに流れ、主保護部をスムーズに前方へ展開膨張させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のサイドエアバッグ装置によれば、胸保護部に腕押し抑制結合部を有するエアバッグにおいて、その胸保護部を早く前方へ展開膨張させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を具体化した一実施形態において、サイドエアバッグ装置が設けられた車両用シートを乗員とともに示す概略側面図。
【図2】車両用シート及びボディサイド部の位置関係を乗員とともに示す概略平面図。
【図3】同じく、車両用シート及びボディサイド部の位置関係を乗員とともに示す概略正断面図。
【図4】エアバッグモジュールを、斜め後ろ上方から見た状態を示す概略平断面図。
【図5】エアバッグが膨張用ガスを充填されることなく展開させられた状態のエアバッグモジュールを、乗員とともに模式的に示す側面図。
【図6】(A),(C)は、エアバッグが折り畳まれる途中の段階のエアバッグモジュールを模式的に示す側面図、(B)は上記(A)のE−E線断面図、(D)は上記(C)のF−F線断面図。
【図7】(A),(C)は、エアバッグが折り畳まれる途中の段階のエアバッグモジュールを模式的に示す側面図、(B)は上記(A)のG−G線断面図、(D)は上記(C)のH−H線断面図。
【図8】(A)〜(C)は、エアバッグが折り畳まれる途中の段階のエアバッグモジュールを模式的に示す側面図、(D)は、エアバッグが折り畳まれた状態のエアバッグモジュールを模式的に示す側面図。
【図9】図5に対応する図であり、円弧部の後端が主保護部内に位置する比較例を説明する側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の記載において、車両の前進方向を前方(車両前方)として説明し、車両の後進方向を後方(車両後方)として説明する。また、以下の記載における上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車両の幅方向(車幅方向)であって車両前進時の左右方向と一致するものとする。
【0019】
図1〜図3に示すように、車両10においてボディサイド部11の車内側(図2の上側、図3の右側)の近傍には車両用シート12が配置されている。ここで、ボディサイド部11とは、車両10の側部に配置された部材を指し、主としてドア、ピラー等がこれに該当する。例えば、前席に対応するボディサイド部11は、フロントドア、センターピラー(Bピラー)等である。また、後席に対応するボディサイド部11は、サイドドア(リアドア)の後部、Cピラー、タイヤハウスの前部、リアクォータ等である。
【0020】
車両用シート12は、シートクッション(座部)13と、そのシートクッション13の後側から起立し、かつ傾き調整機構(図示略)を有するシートバック(背もたれ部)14とを備えて構成されている。車両用シート12は、シートバック14が前方を向く姿勢で車両10に配置されている。このように配置された車両用シート12の幅方向は、車幅方向と合致する。
【0021】
シートバック14の車外側の側部には収納部15が設けられており(図2参照)、サイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールAMがこの収納部15に収納されている。収納部15の位置は、車両用シート12に着座した乗員Pの外側方近傍となる。エアバッグモジュールAMは、図4に示すように、インフレータアセンブリ20及びエアバッグ30を主要な構成部材として備えている。
【0022】
次に、これらの構成部材の各々について説明する。ここで、本実施形態では、エアバッグモジュールAM及びその構成部材について「上下方向」、「前後方向」というときは、車両用シート12のシートバック14を基準としている。シートバック14の起立する方向を「上下方向」とし、この方向に対し車両の略前後方向に直交する方向を「前後方向」としている。通常、シートバック14は前側ほど低くなるように傾斜した状態で使用されることから、「上下方向」は厳密には鉛直方向ではなく、多少傾斜している。同様に、「前後方向」は厳密には水平方向ではなく、多少傾斜している。
【0023】
<インフレータアセンブリ20>
図4及び図5に示すように、インフレータアセンブリ20は、ガス供給源としてのインフレータ21と、そのインフレータ21の外側に装着されたリテーナ22とを備えて構成されている。本実施形態では、インフレータ21として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ21は、上下方向に細長い略円柱状をなしている。インフレータ21の内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ21の下端部には、同インフレータ21が生成した膨張用ガスGを径方向外方へ噴出するガス噴出部21Aが設けられている。インフレータ21の上端部には、同インフレータ21への制御信号の印加配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0024】
なお、インフレータ21としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断してガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)が用いられてもよい。
【0025】
一方、リテーナ22は、ディフューザとして機能するとともに、上記インフレータ21をエアバッグ30と一緒にシートバック14内のサイドフレーム部16(図4参照)に締結する機能を有する部材である。リテーナ22の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって上下方向に細長い略筒状に形成されている。リテーナ22の前側には、インフレータ21のガス噴出部21Aの一部を露出させる窓部(図示略)が設けられている。
【0026】
リテーナ22には、これを上記サイドフレーム部16に取付けるための係止部材として、複数本(本実施形態では2本)のボルト23が固定されている。表現を変えると、両ボルト23が、リテーナ22を介してインフレータ21に間接的に固定されている。
【0027】
なお、インフレータアセンブリ20は、インフレータ21とリテーナ22とが一体になったものであってもよい。
<エアバッグ30>
図1〜図3に示すエアバッグ30は、折り畳まれた状態で上記収納部15に収納されている。エアバッグ30は、車両用シート12に着座した乗員Pを保護対象とし、インフレータ21からの膨張用ガスGにより折り状態を解消しながら、自身の一部(後部)を収納部15内に残した状態で同収納部15から略前方へ向けて飛び出す。さらに、エアバッグ30は、乗員P及びボディサイド部11間で展開膨張することにより乗員Pを拘束して、上記衝撃から保護するためのものである。
【0028】
図5は、エアバッグ30が膨張用ガスGを充填されることなく平面状に展開させられた状態(以下「平面展開状態」という)のエアバッグモジュールAMを模式的に示している。エアバッグ30は、上下2枚のパネル布(基布とも呼ばれる)31を、それぞれ中央部分に設定した折り線32に沿って二つ折りして車両用シート12の幅方向(車幅方向)に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を結合させることにより形成されている。
【0029】
ここで、エアバッグ30の上記の重ね合わされた2つの部分を区別する必要がある場合には、図2〜図5に示すように、膨張時に乗員P側(車内側)に位置するものを「車内側の布部33」といい、同じく膨張時に上記車内側の布部33を挟んで乗員Pとは反対側(車外側)に位置するものを「車外側の布部34」というものとする。両パネル布31においては、両布部33,34の外形形状が、折り線32を対称軸として互いに線対称の関係にある。
【0030】
上記両パネル布31としては、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸やポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。両布部33,34は、エアバッグ30が展開膨張を完了したときに、車両用シート12に着座している乗員Pの腰部PPから胸部PTにかけての広い領域を占有し得る大きさ・形状を有している。
【0031】
図3及び図5に示すように、両布部33,34の上記結合は、結合部35においてなされている。結合部35の一部を除く大部分は、両布部33,34の周縁部を縫糸で縫合してなる周縁結合部36によって構成されている。ここでの一部は、エアバッグ30を複数の膨張部に区画する区画部37によって構成されている。区画部37によって区画される複数の膨張部は、腰保護部38及び胸保護部39からなる。区画部37は、前側ほど低くなるように傾斜している。
【0032】
腰保護部38は、エアバッグ30において上記区画部37よりも下側の部分によって構成されている。この腰保護部38は、標準的な体格を有する乗員P(大人)が、車両用シート12に標準的な姿勢で着座しているときの腰部PPの外側方で膨張して同腰部PPを保護する。
【0033】
胸保護部39は、エアバッグ30において区画部37よりも上側の部分によって構成されている。この胸保護部39は、標準的な体格を有する乗員P(大人)が、車両用シート12に標準的な姿勢で着座しているときの胸部PTの外側方で膨張してその胸部PTを保護する。
【0034】
両布部33,34において区画部37によって囲まれた部分は、膨張用ガスGによる膨張が起こらない非膨張部42となっている。
なお、エアバッグ30は、互いに独立した一対のパネル布31を車幅方向に重ね合わせ、車内側に位置するパネル布31を車内側の布部33とし、車外側に位置するパネル布31を車外側の布部34とし、両布部33,34を袋状となるように結合させることにより形成されたものであってもよい。また、結合部35は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されたものであってもよい。また、結合部35は1列設けられても複数列設けられてもよく、本実施形態では、結合部35は2列設けられている。上述した変更(結合部35が接着によるものであってもよいこと、結合部35が何列設けられてもよいこと)は、後述する腕押し抑制結合部50についても同様に適用可能である。
【0035】
平面展開状態のエアバッグ30の胸保護部39において、乗員Pの腕部PAに対応する箇所には腕押し抑制結合部50が設けられている。腕押し抑制結合部50は、胸保護部39において、腕部PAと対応する箇所で両布部33,34を互いに接近又は接触させた状態で結合することにより、車両用シート12の幅方向(車幅方向)についての胸保護部39の厚みを規制して、同腕部PAが胸保護部39によって、同幅方向内側(胸部PT側)へ強く押圧されるのを抑制するためのものである。この腕押し抑制結合部50は、本実施形態では、両布部33,34を互いに接触させた状態で、縫糸で縫合することによって形成されている。なお、この「互いに接触」には、各布部33,34の内側に補強布が重ねられたエアバッグにおいて、それらの補強布を間に挟んだ状態も含まれるものとする。この場合には、両布部33,34が互いに実質的に接触させられた状態となっているからである。
【0036】
胸保護部39における腕押し抑制結合部50の位置は、標準的な体格を有する乗員P(大人)が、車両用シート12に標準的な姿勢で着座しているときの腕部PAの側方近傍に対応する箇所である。例えば、乗員Pとしての運転者がステアリングホイールを握ったときの姿勢を、標準的な姿勢とすることができる。
【0037】
腕押し抑制結合部50は、ともに直線状をなす上直線部51及び下直線部52と、略半円弧状をなす円弧部53とを備えて構成されている。上直線部51は、腕押し抑制結合部50の上端部を構成する箇所であり、本実施形態では前側ほど高くなるように、水平に対し一定の角度で傾斜している。上直線部51の前端部は周縁結合部36と交差している。下直線部52は、腕押し抑制結合部50の下端部を構成する箇所であり、本実施形態では、乗員Pの腕部PAの側方で、前側ほど低くなるように水平に対し一定の角度で傾斜している。下直線部52の前端部は周縁結合部36と交差している。円弧部53は、後方へ向けて膨らんでおり、上記上直線部51の後端と下直線部52の後端とを繋いでいる。このように上下両直線部51,52と円弧部53とからなる腕押し抑制結合部50は、側面視で略C字形をなしている。上記構成の腕押し抑制結合部50では、円弧部53の後端53Rが、同腕押し抑制結合部50の最も後端に位置している。この後端53Rは、胸保護部39の後述する副保護部76に配置されている(後端53Rは、後述する主保護部75には配置されていない)。
【0038】
胸保護部39の後部であって、上記腕押し抑制結合部50の下直線部52の後方となる箇所には、インフレータ挿通口55が形成されている。インフレータ挿通口55は、上記折り線32に交差(本実施形態では直交)する方向に延びている。このインフレータ挿通口55は、パネル布31の上部において、両布部33,34に跨るスリットによって構成されている。上記折り線32は、インフレータ挿通口55により上下に分断されている。分断された折り線32の一部、ここでは、インフレータ挿通口55よりも上側部分によって折り線32Uが構成されている。
【0039】
両布部33,34について折り線32Uを挟んだ両側部分は、その折り線32Uに沿って折り曲げられている。この折り曲げの方向は、上記折り線32に沿った二つ折りの折り曲げの方向とは逆である。両布部33,34について、上記のように折り線32Uに沿って折り曲げられた部分と、それ以外の部分とを区別するために、ここでは、前者を「内折り部56」といい、後者を「一般部57」というものとする。従って、折り線32Uに沿って折り曲げられた内折り部56は、一般部57の内側に入り込んでいることになる。
【0040】
エアバッグ30内(本実施形態では胸保護部39内)の後端部であって、インフレータ挿通口55の下側にはインナチューブ60が配置されている。インナチューブ60は、インフレータ21から噴出される膨張用ガスGを整流するためのものであって、略上下方向に延びる筒状をなしている。インナチューブ60は、上記エアバッグ30のパネル布31と同様に、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えば織布等からなる1枚の基布を縫製することによって形成されている。インナチューブ60の基布としては、上記エアバッグ30のパネル布31と同じ種類のものが用いられてもよいし、異なる種類のものが用いられてもよい。例えば、シリコーン樹脂がコーティングされた織布がインナチューブ60の基布として用いられてもよい。
【0041】
そして、インフレータアセンブリ20の大部分が、インフレータ挿通口55の上方から同インフレータ挿通口55を通り、一般部57及びインナチューブ60内に収容されている。インフレータアセンブリ20の上部は、一般部57の外部に露出している。リテーナ22のボルト23がインナチューブ60及び一般部57(車内側の布部33)を貫通し、同一般部57の外部に露出している(図4参照)。こうした貫通により、インフレータアセンブリ20がエアバッグ30に対し位置決めされた状態で係止されている。
【0042】
上記のように、エアバッグ30内(専ら胸保護部39)でインフレータアセンブリ20の一部を覆うインナチューブ60は、インフレータ21から噴出された膨張用ガスGのエアバッグ30内への供給口(以下「ガス供給口」という)を、同インナチューブ60の長さ方向(上下方向)についての中間部と下端部との2箇所に有している。中間部のガス供給口61は、インナチューブ60内の膨張用ガスGを、胸保護部39内の斜め前上方へ導出する。また、下端部のガス供給口62は、インナチューブ60内の膨張用ガスGを、腰保護部38内の下方へ導出する。
【0043】
上記エアバッグモジュールAMは、平面展開状態のエアバッグ30が、折り畳まれることによりコンパクトな形態(以下「収納用形態」という)にされている(図1、図8(D)参照)。これは、エアバッグモジュールAMをシートバック14における限られた大きさの収納部15に確実に収納するためである。
【0044】
こうした収納用形態は、図5に示す平面展開状態のエアバッグ30を、図6(A)〜(D)、図7(A)〜(D)、及び図8(A)〜(D)に示すように折り畳むことにより得られる。なお、これらの図では、各部が簡略化されて図示されている。
【0045】
まず、図6(A),(B)に示すように、平面展開状態のエアバッグ30は、その前部が端末折りされる。この端末折りに際しては、エアバッグ30の前部に対し、上下方向に延びる折り線63が設定される。そして、折り線63よりも前側の部分64が、その折り線63に沿って後方へ折り返される。
【0046】
続いて、図6(A),(B),(D)に示すようにエアバッグ30の後部であって、インフレータアセンブリ20の前側部分が蛇腹折りされる。この蛇腹折りに際しては、エアバッグ30の後部に対し、上下方向に延びる複数の折り線65が設定される。隣合う折り線65の間隔は、蛇腹折りにおける折り幅となる。そして、エアバッグ30が、これらの折り線65に沿って、前方から後方に向けて、インフレータアセンブリ20の前側近傍まで、折り幅ずつ順次蛇腹状に折り畳まれる。
【0047】
次に、エアバッグ30において蛇腹折りされた箇所よりも前側部分(端末折りされた部分64を含む)がロール折りされる。このロール折りに際しては、図6(C)に示すように、エアバッグ30の前記前側部分に対し、上下方向に延びる複数の折り線66が設定される。そして、図7(A),(B)に示すように、上記前側部分が前方から後方に向けて、折り線66に沿って順に渦巻き状に折り畳まれる。そして、ロール折りされた部分67が、図7(C),(D)に示すように、前後方向に対し直交するように回転させられる。さらに、エアバッグ30において、インフレータアセンブリ20よりも下側の部分68が内折り等の折り態様によって折り畳まれる。内折りは、エアバッグ30の端の部分を、他の部分の内側に位置するように折り返すというエアバッグ30の折り態様の1つである。
【0048】
上記ロール折り等により、エアバッグ30は、上下方向に寸法が大きく、かつ前後方向に寸法の小さな中間の形態(以下「長尺体69」という)にされる。
さらに、上記長尺体69の上部及び下部にそれぞれ重ね合わせ部71,81(図8(D)参照)が設けられることにより、同長尺体69の上下方向についての寸法が小さくされる。
【0049】
上側の重ね合わせ部71の形成に際しては、図7(C)の長尺体69の上部に対し、それぞれ車両用シート12の幅方向(車幅方向)に延びる複数本(2本)の折り線73,74が設定される。これらの折り線73,74のうち下側に位置する折り線74は、次の条件を満たしている。
【0050】
(条件i)上述したインナチューブ60の中間部のガス供給口61よりも上方に位置すること(図5参照)。
(条件ii)平面展開状態のエアバッグ30の胸保護部39において、略前後方向に延びて腕押し抑制結合部50を通ること(図5参照)。
【0051】
そして、長尺体69の上部は、図7(C)において矢印で示すように折り線74に沿って前下方へ折り返される。この折り返しにより、胸保護部39は、図5及び図8(A)に示すように、インフレータアセンブリ20及びインナチューブ60が収容され、かつガス供給口61から膨張用ガスGが供給される主保護部75と、その主保護部75を経た後に膨張用ガスGが供給される副保護部76とに仕切られる。この副保護部76には、上述した腕押し抑制結合部50における円弧部53の後端53Rが位置している。
【0052】
さらに、副保護部76において折り線73よりも下側の部分77が、図8(A)において矢印で示すように前上方向へ折り返される。この折り返しにより、図8(B)に示すように、上側の重ね合わせ部71が形成される。
【0053】
下側の重ね合わせ部81の形成に際しては、図8(A),(B)に示すように、長尺体69のインフレータアセンブリ20よりも下側の部分82(腰保護部38がこれに該当する)において、上下方向についての中間部に、車幅方向に延びる折り線83が設定される。この折り線83よりも下側の部分84が、同図8(B)において矢印で示すように、その折り線83に沿って後上方へ折り返される。さらに、図8(C)に示すように、上記折り返しにより短くなった部分82Aの中間部に折り線85が設定される。この折り線85よりも下側部分が、同図8(C)において矢印で示すように、折り線85に沿って前上方へ折り返される。この2回にわたる折り返しにより、図8(D)に示すように下側の重ね合わせ部81が形成され、エアバッグ30の上下方向の寸法がさらに小さくなる。
【0054】
ただし、インフレータアセンブリ20の前側に重ね合わせ部71,81が位置するため、エアバッグ30の前後方向の寸法は、図7(C)に示す長尺体69よりも若干大きくなる。
【0055】
このように、エアバッグ30を折り畳んで、図8(D)に示す収納用形態にされたエアバッグモジュールAMは、前後方向にも上下方向にも寸法が小さくなっており、狭い収納部15に対しても収納に適したものとなる。
【0056】
その後、上記エアバッグモジュールAMでは、重ね合わせ部71,81が、結束テープ(図示略)等の保持手段によって折り重ねられた状態に保持される。
上記収納用形態にされたエアバッグモジュールAMは、図4に示すように、上記リテーナ22のボルト23においてシートバック14内のサイドフレーム部16に挿通され、ナット17によって締め付け固定される。
【0057】
図1に示すように、サイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールAMのほかに衝撃センサ91及び制御装置92を備えている。衝撃センサ91は加速度センサ等からなり、車両のボディサイド部11(図2参照)等に取付けられている。衝撃センサ91は、ボディサイド部11に外側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置92は、衝撃センサ91からの検出信号に基づきインフレータ21の作動を制御する。
【0058】
次に、上記のように構成された本実施形態のサイドエアバッグ装置の作用について説明する。
図5に示すように、エアバッグ30の胸保護部39では、主保護部75内に、インナチューブ60のガス供給口61が位置するとともに、腕押し抑制結合部50において、円弧部53の後端53Rよりも低い部分の少なくとも一部が位置する。円弧部53の後端53Rは、主保護部75内には位置せず、副保護部76内に位置する。
【0059】
車両のボディサイド部11に所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ91によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置92からインフレータ21に対し、これを作動させるための指令信号が出力される。この指令信号に応じて、インフレータ21では、ガス発生剤が高温高圧の膨張用ガスGを発生し、これをガス噴出部21Aから噴出する。噴出された膨張用ガスGの一部は、インナチューブ60のガス供給口62から腰保護部38内の下方へ向けて導出される。また、噴出された膨張用ガスGの一部は、インナチューブ60のガス供給口61から胸保護部39内の斜め前上方へ向けて導出される。
【0060】
エアバッグ30では、膨張用ガスGの供給された腰保護部38及び胸保護部39の各部が膨張し、折り状態をそれぞれ解消(展開)する。
ただし、胸保護部39では、一対の布部33,34を互いに接触させた状態で結合してなる腕押し抑制結合部50が、これに当たる膨張用ガスGの流れ方向を変える。
【0061】
そのため、上記胸保護部39の展開膨張の初期には、ガス供給口61からの膨張用ガスGは、まず、同ガス供給口61のある主保護部75を流れる。
この際、仮に図9に示すように、主保護部75に、上記腕押し抑制結合部50における円弧部53の後端53Rが位置していると、ガス供給口61からの膨張用ガスGのうち腕押し抑制結合部50に当たるものは、円弧部53の後端53Rを境として、それよりも下側と上側とに分けられる。下側へ分けられた膨張用ガスGは、腕押し抑制結合部50の下直線部52によって胸保護部39の主保護部75内を前下方へ導かれ、同主保護部75を展開膨張させる。これに対し、上側へ分けられた膨張用ガスGは、折り線74を跨いで胸保護部39の副保護部76へ流入して、同副保護部76を展開膨張させる。この副保護部76へ流入する分、胸保護部39では、主保護部75に流入する膨張用ガスGが少なくなり、同主保護部75の前方への展開膨張が遅くなる。
【0062】
これに対し、本実施形態では、図5に示すように円弧部53の後端53Rが副保護部76に位置するように、腕押し抑制結合部50が胸保護部39に配置されていて、後端53Rよりも上側部分が主保護部75に位置していない。このため、ガス供給口61から胸保護部39に供給された膨張用ガスGのうち腕押し抑制結合部50に当たるものは、専ら円弧部53の後端53Rよりも下側を、下直線部52によって前下方へ導かれ、同主保護部75を展開膨張させる。腕押し抑制結合部50によって上側へ流れ方向を変えられ、折り線74を跨いで副保護部76へ流入する膨張用ガスGは僅かである。そのため、上述した円弧部53の後端53Rが主保護部75に位置するもの(図9)に比べ、主保護部75に多くの膨張用ガスGが供給されることとなり、同主保護部75が前方へ早く展開膨張する。
【0063】
特に、本実施形態では、腕押し抑制結合部50において円弧部53に繋がる下直線部52が前側ほど低くなるように、水平に対し一定の角度で傾斜している。そのため、ガス供給口61からの膨張用ガスGのうち腕押し抑制結合部50に当たるものは、専ら円弧部53の後端53Rよりも下側を、同腕押し抑制結合部50の下直線部52に沿って、前下方へ向けてスムーズに流れる。この膨張用ガスGにより、胸保護部39の主保護部75が前方へ早く、しかもスムーズに展開膨張する。
【0064】
その結果、側方からの衝撃に対するエアバッグ30の胸保護部39による乗員Pの胸部PTの保護が、早い時期から開始される。ガス供給口61から胸保護部39に供給された膨張用ガスGは主保護部75を経由した後に副保護部76に流入する。この膨張用ガスGにより、副保護部76が上記主保護部75に遅れて展開膨張する。
【0065】
そして、上記のように乗員Pの胸部PTの側方で展開膨張するエアバッグ30の胸保護部39により、同胸部PTに伝わる側方からの衝撃が緩和される。
なお、詳しい説明は割愛するが、ガス供給口62から供給される膨張用ガスGにより、エアバッグ30の腰保護部38が乗員Pの腰部PPの側方で展開膨張する。この腰保護部38により、腰部PPに伝わる側方からの衝撃が緩和される。
【0066】
ところで、上記エアバッグ30の胸保護部39において、乗員Pの胸部PTの側方であって腕部PAに対応する箇所では、上記腕押し抑制結合部50が展開する。この腕押し抑制結合部50では、エアバッグ30のほかの箇所よりも、車両用シート12の幅方向(車幅方向)についての厚みが小さくなっている。そのため、胸保護部39に腕押し抑制結合部50が設けられていない場合に比べ、腕部PAが胸部PT側へ押圧されにくく、耐衝撃性のあまり高くない胸部PTが腕部PAによって圧迫される現象が起こりにくくなる。
【0067】
特に、一対の布部33,34を互いに接触させた状態で結合してなる腕押し抑制結合部50では、胸保護部39の厚みが採り得る最小となる。そのため、胸保護部39が腕部PAを胸部PT側へ押圧する程度、ひいては腕部PAが胸部PTを圧迫する程度が最も少なくなる。
【0068】
さらに、本実施形態では、胸保護部39が展開膨張したときには、腕押し抑制結合部50の下直線部52が乗員Pの腕部PAの側方に位置する。また、胸保護部39において下直線部52よりも下側部分が膨張し、車両用シート12の幅方向(車幅方向)についての厚みが増す。乗員Pの腕部PAは、この厚みの増した胸保護部39の上記下側部分によって持ち上げられる。この持ち上げにより、上下方向について腕部PA及び胸部PT間の距離が増大し、胸部PTが腕部PAによってさらに圧迫されにくくなり、胸保護部39による胸部PTの拘束性能が一層向上する。
【0069】
上記持ち上げにより、乗員Pの腕部PAは、腕押し抑制結合部50において厚みを規制された箇所(腕押し抑制結合部50と周縁結合部36とによって囲まれて膨張しない領域Z1)に案内される。このとき、胸保護部39において、腕押し抑制結合部50の上直線部51よりも上側部分もまた膨張していて、車両用シート12の幅方向(車幅方向)についての厚みが増している。この厚みの増している部分が腕部PAの上方への動きを規制する。そのため、腕部PAは、腕押し抑制結合部50によって厚みを規制された箇所(領域Z1)に保持される。
【0070】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)胸保護部39が、ガス供給口61よりも上方において、腕押し抑制結合部50を通る折り線74に沿って折り返されることにより、ガス供給口61から膨張用ガスGが供給される主保護部75と、主保護部75を経た後に膨張用ガスGが供給される副保護部76とに仕切られたサイドエアバッグ装置を対象とする。そして、円弧部53の後端53Rが副保護部76に位置するように、腕押し抑制結合部50を胸保護部39に配置している(図5)。
【0071】
そのため、ガス供給口61から胸保護部39に供給された膨張用ガスGを主保護部75へ多く導いて、同主保護部75を早く前方へ展開膨張させ、乗員Pの胸部PTを早期から保護することができるようになる。
【0072】
(2)腕押し抑制結合部50において円弧部53に繋がる下端部を、前側ほど低くなるように傾斜する下直線部52によって構成している(図5)。
そのため、ガス供給口61から胸保護部39に供給される膨張用ガスGのうち腕押し抑制結合部50に当たるものを、同腕押し抑制結合部50の下直線部52によって主保護部75内の前方へスムーズに流れさせ、胸保護部39を早期にスムーズに展開膨張させることができるようになる。
【0073】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<腕押し抑制結合部50について>
・上記実施形態では、腕押し抑制結合部50における上直線部51及び下直線部52の各前端部が周縁結合部36に交差され、同腕押し抑制結合部50と周縁結合部36の一部とによって囲まれた箇所が、厚みを規制される領域Z1とされた。そのほかにも、腕押し抑制結合部50が環状に形成され、腕押し抑制結合部50のみによって囲まれた領域が、厚みを規制される領域Z1とされてもよい。
【0074】
・上記実施形態において、腕押し抑制結合部50及び周縁結合部36の一部によって囲まれた領域Z1では、布部33,34が膨張せず、特に機能しない。そのため、両布部33,34において、腕押し抑制結合部50及び周縁結合部36の一部によって囲まれた領域Z1は、切除されてもよい。この場合、切除は、布部33,34の一方のみについて行われてもよいし、両方について行われてもよい。
【0075】
なお、この変更は、上述したように腕押し抑制結合部50が環状に形成されて、同腕押し抑制結合部50のみによって囲まれた領域が、厚みを規制される領域Z1とされる場合に適用されてもよい。
【0076】
・腕押し抑制結合部50及び周縁結合部36の一部によって囲まれる領域Z1、又は腕押し抑制結合部50のみによって囲まれる領域Z1は、膨張用ガスGによって僅かに膨張するものであってもよい。
【0077】
要は、腕押し抑制結合部50は、車両用シート12の幅方向における胸保護部39の厚みを規制し、腕部PAが胸部PT側へ押圧されるのを抑制できるものであればよく、領域Z1の膨張の有無は問わない。
【0078】
・腕押し抑制結合部50は、前記実施形態とは異なる側面形状を有するものであってもよい。例えば、腕押し抑制結合部50の下端部は、上方へ凸となる、又は下方へ凸となるよう湾曲する等して、非直線状をなすものであってもよい。
【0079】
・腕押し抑制結合部50は、一対の布部33,34を互いに接近させた状態で結合し、車両用シート12の幅方向における胸保護部39の厚みを規制するものであってもよい。この場合、互いに接近させられた一対の布部33,34間に布片が架け渡され、この布片の端部に各布部33,34が結合されてもよい。
【0080】
<エアバッグ30の折りについて>
・平面展開状態のエアバッグ30は、前記実施形態とは異なる折り態様で折り畳まれてもよい。
【0081】
例えば、前方から後方に向けて折り畳む折り態様としては、ロール折り、蛇腹折り、内折り(カクタス折り)のそれぞれ、又は組合わせが挙げられる。
・平面展開状態のエアバッグ30は、上記実施形態とは異なる順に折り畳まれてもよい。
【0082】
<ガス供給口61について>
・本発明は、エアバッグ30内にインナチューブ60が配置されないサイドエアバッグ装置にも適用可能である。この場合には、ガス供給口が上記実施形態とは異なる箇所に位置することとなる。
【0083】
<インフレータアセンブリ20について>
・サイドエアバッグ装置は、インフレータアセンブリ20の全体がエアバッグ30内に収容されたものであってもよいし、その逆に、インフレータアセンブリ20の全体がエアバッグ30の外部に配置されたものであってもよい。後者の場合には、インフレータ21とエアバッグ30とがパイプ等によって繋がれ、インフレータ21から噴出された膨張用ガスGが、パイプ等を通じてエアバッグ30に供給されてもよい。
【0084】
<エアバッグモジュールAMの収納部15について>
・エアバッグモジュールAMの収納部15は、車両用シート12のシートバック14に代えて、ボディサイド部11において、車両用シート12に着座した乗員Pの外側方近傍となる箇所に設けられてもよい。
【0085】
<サイドエアバッグ装置の保護対象について>
・本発明のサイドエアバッグ装置は、乗員Pの少なくとも胸部PTを保護対象とするものであればよい。従って、本発明のサイドエアバッグ装置は、胸部PTのみを保護対象とするものであってもよく、その胸部PTに加え、腰部PP、肩部、頭部の少なくとも1つを保護対象とするものであってもよい。
【0086】
<その他>
・本発明は、車両用シート12が車幅方向とは異なる方向、例えば前後方向に配列された車両において、その車両用シート12に対し側方(車両の前後方向)から衝撃が加わった場合に、同衝撃から乗員Pを保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0087】
その他、前記各実施形態から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに記載する。
(A)請求項1又は2に記載のサイドエアバッグ装置において、前記腕押し抑制結合部の下端部は、前記胸保護部が膨張したときに前記乗員の腕部の側方に位置する。
【0088】
上記の構成によれば、胸保護部が膨張したとき、腕押し抑制結合部の下端部が乗員の腕部の側方に位置する。また、このときには、胸保護部において腕押し抑制結合部の下端部よりも下側部分が膨張し、車両用シートの幅方向についての厚みが増す。乗員の腕部は、この厚みの増した上記下側部分によって持ち上げられる。この持ち上げにより、上下方向について腕部及び胸部間の距離が増大し、胸部が腕部によってさらに圧迫されにくくなり、胸保護部による乗員の胸部の拘束性能が一層向上する。
【符号の説明】
【0089】
12…車両用シート、21…インフレータ(ガス供給源)、30…エアバッグ、32,32U,63,65,66,73,74,83,85…折り線、33,34…布部、39…胸保護部、50…腕押し抑制結合部、53…円弧部、53R…後端、61,62…ガス供給口、75…主保護部、76…副保護部、G…膨張用ガス、P…乗員、PA…腕部、PT…胸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートに着座した乗員の胸部を保護する胸保護部を少なくとも有し、前記車両用シートの幅方向に互いに重ね合わされた一対の布部により袋状に形成されるとともに、折り畳まれた状態の収納用形態で収納され、ガス供給源のガス供給口から供給される膨張用ガスにより、前記乗員の側方で折りを解消しながら前記車両用シートの前方へ向けて膨張するエアバッグを備え、
前記胸保護部には、前記ガス供給口よりも前方であって、前記乗員の腕部と対応する箇所で、前記一対の布部を互いに接近又は接触させた状態で結合し、前記車両用シートの幅方向における前記胸保護部の厚みを規制し、前記腕部が前記胸部側へ押圧されるのを抑制する腕押し抑制結合部が設けられ、
前記胸保護部は、前記エアバッグが前記収納用形態にされる前に、少なくとも前記ガス供給口よりも上方において、前記腕押し抑制結合部を通る折り線に沿って折り返されることにより、前記ガス供給口から前記膨張用ガスが供給される主保護部と、前記主保護部を経た後に前記膨張用ガスが供給される副保護部とに仕切られるものであり、
前記腕押し抑制結合部は、自身の後端部に、後方へ向けて膨らむ円弧部を有しており、その円弧部の後端が前記副保護部に位置するように前記胸保護部に配置されていることを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
前記腕押し抑制結合部において、前記円弧部に繋がる下端部は前側ほど低くなるように傾斜している請求項1に記載のサイドエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−197048(P2012−197048A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63197(P2011−63197)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】