サスペンションアーム及びサスペンションアームの製造方法
【課題】耐久性を向上させることができるサスペンションアーム及びサスペンションアームの製造方法を提供する。
【解決手段】閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造されるサスペンションアームであって、屈曲部90の内周壁22に貫通部32K,77が形成されている。また、軸芯Oが車両前後方向に沿うマウントブッシュを介して両端部がサスペンションフレームとナックルに各別に取り付けられ、スプリングシート取り付け部21を長手方向中間部の上面に有し、貫通部32K,77は、少なくともスプリングシート取り付け部21の片側に形成されている。
【解決手段】閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造されるサスペンションアームであって、屈曲部90の内周壁22に貫通部32K,77が形成されている。また、軸芯Oが車両前後方向に沿うマウントブッシュを介して両端部がサスペンションフレームとナックルに各別に取り付けられ、スプリングシート取り付け部21を長手方向中間部の上面に有し、貫通部32K,77は、少なくともスプリングシート取り付け部21の片側に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造されるサスペンションアーム、及び、サスペンションアームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化を図る目的でサスペンション装置のサスペンションアームをアルミニウム合金で形成する手段が採用されている。その一例として、サスペンションアームをアルミニウム鋳物材で形成する手段があるが、この手段では、複雑な形状に形成可能である反面、湯流れや鋳巣の対策を施す必要があるために、最大の狙いである軽量化の効果が小さくなってしまう。
そこで、閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とした冒頭に記載のサスペンションアームが提案されている。
押し出し加工によって所定の形状に製造された押出材を用いると、軽量化を図ることができるばかりでなく、板材を溶接する構造に対して製造が容易になるが、機能を満足するための曲げ等の加工が必要となる。
従来、押し出し工程と曲げ工程の間に別の加工工程はなく、押し出し工程の後に直ぐに押出材を曲げ加工していた。そして、製品となった後も屈曲部の内周壁は押し出し成形直後の形態のままであった(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−192965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
閉じ断面の押出材を使用した場合、曲げ加工によって圧縮応力を受ける内周側(曲げ中心側)に位置する内周壁では皺(しわ)状の変形が生じる。
サスペンションアームの両端部にはブッシュを取り付けるためのスリット等の切り欠きを形成する必要があるが、上記従来の技術によれば、押し出し工程の後に直ぐに押出材を曲げ加工していたために、屈曲部の内周壁に皺が生じ、この皺が前記切り欠きに接続した状態になっていると、長期の過酷な使用によって切り欠きの皺部分から微細な亀裂が発生するとともに成長し、サスペンションアームの耐久性が低下してしまう虞があった。
本発明は上記実状に鑑みて成されたもので、その目的は、耐久性を向上させることができるサスペンションアーム及びサスペンションアームの製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本第1発明の特徴は、
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造されるサスペンションアームであって、
屈曲部の内周壁に貫通部が形成されている点にある。(請求項1)
【0006】
この構成によれば、貫通部が形成される内周壁部分に捨て孔を形成することができるようになり、捨て孔を形成してから押出材を屈曲させることで、屈曲部の内周壁に皺が生じることを抑制することができる。つまり、曲げ加工により屈曲部の内周壁は圧縮変形するが、圧縮変形によって生じた材料の余剰分が捨て孔側に移動し、捨て孔が縮小変形して皺の発生を抑制することができる。
従って、屈曲時に作用する内周壁への応力を小さくして、皺を小さくすることができる。さらに、サスペンションアームの両端部にブッシュを取り付けるためのスリット等の切り欠きを形成して皺が切り欠きに達していたとしても、皺が切り欠き部分に及ぼす悪影響や不具合を防止することができ、長期の過酷な使用によって皺から微細な亀裂が発生・成長する不具合を回避できて、サスペンションアームの耐久性を向上させることができる。(請求項1)
【0007】
本第1発明において、
軸芯が車両前後方向に沿うマウントブッシュを介して両端部がサスペンションフレームとナックルに各別に取り付けられ、
スプリングシート取り付け部を長手方向中間部の上面に有し、
前記貫通部は、少なくとも前記スプリングシート取り付け部の片側に形成されていると、次の作用を奏することができる。(請求項2)
【0008】
スプリングシート取り付け部を長手方向中間部の上面に有していることから、サスペンションアームはコイルスプリングからの力をその長手方向中間部に受けることになり、そして、コイルスプリングからの力を確実に受け止めることができるように、サスペンションアームを下方に凸の弓形に屈曲させる必要があるが、前記貫通部は、少なくともスプリングシート取り付け部の片側に形成されており、下方に凸の弓形に屈曲させた際に上面(前記内周壁に相当)に皺が生じることを抑制することができるから、サスペンションアームを比較的大きく屈曲させることができる。
これにより、コイルスプリングからの力を確実に受け止めることができ、しかも、上面にスプリングシート取り付け部を有するサスペンションアームの耐久性を向上させることができる。(請求項2)
【0009】
本第2発明の特徴は、
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造するサスペンションアームの製造方法であって、
閉じ断面を形成する前記押出材の周壁のうち、屈曲後に屈曲部の内周壁となる周壁に捨て孔を形成し、その後に前記押出材を屈曲させて製造する点にある。(請求項3)
【0010】
屈曲部の内周壁となる周壁に捨て孔を形成し、その後に前記押出材を屈曲させて製造することで、屈曲部の内周壁に皺が生じることを抑制することができる。つまり、曲げ加工により屈曲部の内周壁は圧縮変形するが、圧縮変形によって生じた材料の余剰分が捨て孔側に移動し、捨て孔が縮小変形して皺発生を抑制することができる。
従って、屈曲時に作用する内周壁への応力を小さくして、皺を小さくすることができる。さらに、サスペンションアームの両端部にブッシュを取り付けるためのスリット等の切り欠きを形成して皺が切り欠きに達していたとしても、皺が切り欠き部分に及ぼす悪影響や不具合を防止することができ、長期の過酷な使用によって皺から微細な亀裂が発生・成長する不具合を回避できて、サスペンションアームの耐久性を向上させることができる。(請求項3)
【0011】
本発明において、
屈曲後に前記捨て孔の内周縁(前記捨て孔およびその周縁)を除去すると、皺の比較的大きな部分を確実に除去することができるとともに、捨て孔の内周縁に耐久性に影響を与える皺や微細な亀裂が生じていても、これらを確実に除去することができる。(請求項4)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、
耐久性を向上させることができるサスペンションアーム及びサスペンションアームの製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】サスペンション装置を車両後方側から見た図(後面図)
【図2】サスペンション装置を下方から見た図(下面図)
【図3】サスペンションアームの平面図
【図4】左側サスペンションアームを車両後方側から見た図(後面図)
【図5】サスペンションアームを下方から見た要部図(下面図)
【図6】スプリングシートを取り付けた状態のサスペンションアームの平面図
【図7】スプリングシートを取り付けた状態の左側サスペンションアームを車両後方側から見た図
【図8】車幅方向内側から見たサスペンションアームを示す図
【図9】図6のD−D断面図
【図10】図4のA−A断面図
【図11】ロアアーム(サスペンションアーム)の製造方法を示す図であり、(a)は押し出し成形した押出材を示す平面図(b)は捨て孔を加工した押出材を示す平面図(c)は弓形に屈曲した押出材を示す側面図
【図12】(a)は切り欠き・角孔等を形成した押出材を示す図(b)は第1前側縦壁部と第1後側縦壁部をそれぞれクランク状に屈曲して互いに車両前後方向で接近配置し溶接接合して形成したロアアームを示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1,図2に、サスペンションフレーム1とトレーリングアーム30とショックアブソーバ31等を備えた自動車の後部のサスペンション装置100を示してある。前記サスペンションフレーム1は、車幅方向に長い井げた状に形成されており、サスペンションフレーム1の前側フレーム2と後側フレーム3が左右一対の車体フレームのサイドメンバ(図示せず)に架設されている。
【0015】
前側フレーム2と後側フレーム3はいずれも金属製の円筒状のパイプ材で形成されている。また、前側フレーム2と後側フレーム3を連結する左右一対の連結フレーム4は車幅方向に幅広に形成され、車両前後方向の両端部が車両前後方向中央部よりも幅広に設定されている。
【0016】
前側フレーム2の左右両端部と後側フレーム3の左右両端部には縦筒5の外周面をそれぞれ溶接固着してある。そして、縦筒5にゴムブッシュを圧入し、取り付けボルトBをゴムブッシュの内筒とサイドメンバに挿通させ、取り付けボルトBの端部をサイドメンバに溶接固定したナットに螺合して縦筒5をサイドメンバに連結してある。
【0017】
図2にも示すように、前記サスペンションフレーム1は、平面視で車両の左右方向(車幅方向)に沿うそれぞれ複数のアッパーアーム9・前側ロアアーム80・後側ロアアーム10(本発明が実施されるサスペンションアームに相当)を介してナックル7を車両前後方向に沿う軸芯O周りに上下揺動自在に支持している。
【0018】
後側ロアアーム10(以下、ロアアーム10と称する)の一端部10Aはサスペンションフレーム1の後側フレーム3に連結され、他端部10Bはナックル7の後端部に連結されている。
【0019】
ロアアーム10とサイドメンバの下面との間にはコイルスプリング8が介在している。また、ロアアーム10の長手方向中間部の上壁22に、サスペンション装置100のコイルスプリング8の下端部を受け止めるスプリングシート11を取り付けてある。
【0020】
[スプリングシート11の構造]
図6,図7,図9に示すように、コイルスプリング8の下端部に対する受け止め部13を備えた円盤状のスプリングシート本体12と、スプリングシート本体12から受け止め部13とは反対側(下方)に突出する左右一対の係止突起14とをゴム状弾性体で一体に形成し、スプリングシート本体12と左右一対の係止突起14にゴム状弾性体よりも硬い金属板状の芯材(図示せず)を内蔵させてスプリングシート11を構成してある。左右一対の係止突起14はロアアーム10の後述の左右一対の係止孔15(図3参照)に各別に挿通係止する。
【0021】
前記スプリングシート本体12の径方向中央部に、上方に膨出する円錐台状の膨出部16を形成し、膨出部16の付け根の周りに縦断面円弧状のコイルスプリング受け入れ凹部を形成して前記受け止め部13を構成してある。前記膨出部16はコイルスプリング8の下端部の素線で囲まれた空間に下側から入り込み、コイルスプリング受け入れ凹部はコイルスプリング8の下端部を下側から受け止める。
【0022】
[ロアアーム10の構造]
図1,図2に示すように、前記ロアアーム10は、閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、軸芯Oが車両前後方向に沿うゴムブッシュ40(マウントブッシュに相当)を介して両端部がサスペンションフレーム1とナックル7に各別に取り付けられ、図3〜図7に示すように、スプリングシート取り付け部21を長手方向中間部の上面に有している。
【0023】
ロアアーム10の一端部10A(車幅方向内側W1の端部)とサスペンションフレーム1の後側フレーム3の間に介在するゴムブッシュ40と、ロアアーム10の他端部10B(車幅方向外側W2の端部)とナックル7の間に介在するゴムブッシュ40とは同一形状であり、図6,図7に示すように、内筒41と、外筒42と、内外筒41,42を連結するゴム状弾性体43とから成る。
【0024】
内筒41と外筒42は金属製の円筒から成り、内筒41の軸芯方向の端部が外筒42の軸芯方向の端部よりも内外筒41,42の軸芯方向外方側に突出している。ゴム状弾性体43には、ゴムブッシュ40の軸直角方向の一方向におけるばね特性を柔らかく(ばね定数を小さく)するためにすぐり部(窪んだすぐり穴と、ゴムブッシュ40の軸芯方向に貫通したすぐり孔とのいずれであってもよい)が設けられている。
【0025】
そして、図7に示すように、前記両端部のゴムブッシュ40の軸芯Oを結ぶ仮想線Lとほぼ同じ位置または仮想線Lよりも下方にスプリングシート取り付け部21が位置するように下方に弓形に湾曲している。これにより、両端が多部品に連結・拘束されたロアアーム10の中間部にてコイルスプリング8の力を確実に受け止めることができる。
【0026】
図10に示すように、前記閉じ断面は上壁22と車両の前側に配置される前側縦壁23と車両の後側に配置される後側縦壁24と下壁25で概略四角形の中空断面に構成され、上壁22は、前側縦壁23よりも車両前方側Frに突出する前側フランジ22F1と、後側縦壁24よりも車両後方側Rrに突出する後側フランジ22F2とを有し、上壁22の前側フランジ22F1側から後側フランジ22F2側にわたる扁平な上面に前記スプリングシート取り付け部21が形成されている(図6参照)。前記閉じ断面が概略四角形の中空断面に構成されていることで軽量化と剛性の向上を両立させることができる。
【0027】
スプリングシート取り付け部21は、前記扁平な上面(上壁22の上面)に左右一対の互いに径が異なる係止孔15を貫通形成して構成されている。前記スプリングシート取り付け部21の取り付け面21Mは曲がりのない扁平面に形成されている。つまり、ロアアーム10は前記取り付け面21Mの両側(ロアアーム10の長手方向の両側)で屈曲して上記のように湾曲している。
【0028】
上壁22は前記前側フランジ22F1と後側フランジ22F2を有しているので、上壁22の上面を車両前後方向で拡大することができて、スプリングシート取り付け部21の取り付け面21Mを十分確保することができる。
【0029】
前記取り付け面21Mを上壁22の上面に形成したことで、例えば、ロアアーム10内(ロアアーム10の上下方向中間部)にスプリングシート取り付け部21を形成した構造のように、コイルスプリング8を受け入れる手段としてロアアーム10を拡幅する必要がなく、生産性を向上させることができる。そして、比較的細い基本断面形状のロアアーム10を使用することが可能になり軽量化が可能となる。
【0030】
本実施形態では、スプリングシート11の直径と上壁22の幅とが同一に設定されている(図6参照)。
【0031】
図10に示すように、下壁25の前端部25Aと後端部25Bは、ロアアーム10の全長に渡って下壁25の車両前後方向中間部25Cに対して下方に膨出してロアアーム10の長手方向に沿った膨出部となっている。膨出部は、前側縦壁23、後側縦壁24に連続するように形成されている。そして、下壁25の前端部25Aの下面25A1と後端部25Bの下面25B1は断面円弧状に形成され、下壁25の車両前後方向中間部25Cの下面25C1と滑らかに連なっている。
【0032】
下壁25の前端部25Aの下面25A1は前側縦壁部23の下端に接続し、下壁25の後端部25Bの下面25B1は後側縦壁24の下端に接続している。(下面25A1,25B1は前側縦壁23の下端と後側縦壁24の下端を連結している。)
【0033】
また、図3〜図8に示すように、サスペンションフレーム1の後側フレーム3側に位置する第1上壁部32と第1下壁部35に、長手方向外方側に開放する(ロアアーム10の長手方向の端縁に開口する)切り欠き32K,35Kが形成されるとともに、前記後側フレーム3側に位置する第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34がそれぞれクランク状に屈曲されて互いに車両前後方向で接近配置されている。第1上壁部32・第1下壁部35・第1前側縦壁部33・第1後側縦壁部34は前記スプリングシート取り付け部21よりも後側フレーム3側に位置する。
【0034】
そして、第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとが車両前後方向で重ね合わされて(微小隙間が空くように対向されていてもよい)、第1上壁部32の後側フレーム3側の端部同士(切り欠きの両側に位置する端部同士)、及び、第1下壁部35の後側フレーム3側の端部同士(切り欠きの両側に位置する端部同士)が互いに溶接接合されている。図5の符号WEは溶接部である。ゴムブッシュ40は第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとに同芯状に形成された取り付け孔Hに圧入されている。
【0035】
ロアアーム10の一端部10A(車幅方向内側W1の端部)とサスペンションフレーム1の後側フレーム3との連結構造について説明すると、前記取り付け孔Hにゴムブッシュ40を軽圧入し、ゴムブッシュ40の外筒42を軸方向に圧縮変形させることでかしめ固定してある。そして図2に示すように、後側フレーム3に取り付けられたブラケットの一対の挟持壁85でゴムブッシュ40の内筒41を挟み込み、前記一対の挟持壁85に形成されたボルト挿通孔とゴムブッシュ40の内筒41とに車両前後方向に沿った取り付けボルトを挿通させ、取り付けボルトにナットを螺合締結してロアアーム10の一端部10Aとサスペンションフレーム1の後側フレーム3を連結してある。
【0036】
この構造において、後側フレーム3に対する前記取り付けボルトの位置を調整・変更可能に構成され、ロアアーム10の軸支位置を変更してサスペンション装置100のジオメトリを調整するようになっている。この調整を行う場合、取り付けボルト(軸)を移動させる方が調整構造が容易になることから、ゴムブッシュ40(内筒41)をロアアーム10側に取り付けてある。
【0037】
上記のように、前記第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34がそれぞれクランク状に屈曲されているので(図3,図6参照)、サスペンション装置100が衝撃荷重を受けたときにクランクの屈曲部Kが易変形部として働き、ロアアーム10の重大損傷(破断)が起こり難くなっている。つまり、側面衝突等でロアアーム10に衝撃荷重が作用した時、押し出し形状のままでは、ロアアーム10の変形の起点となる個所がないが、本発明の上記構成によれば、クランクの屈曲部Kがあるために、この部分が易変形部として働き、ロアアーム10の変形を容易にして衝撃荷重を吸収し、ロアアーム10の破断を防止している。
【0038】
第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34を屈曲加工する前の状態で、前記第1上壁部32の切り欠き32Kは平面視略U字状に形成され、第1下壁部35の切り欠き35Kは平面視略V字状に形成されている。つまり、第1上壁部32に形成される切り欠き32Kと第1下壁部35に形成される切り欠き35Kとの形状が異なっている。詳述すると、切り欠き32Kは、第1上壁部32の長手方向の端縁から上壁22の長手方向中央部側に向かって前記長手方向に沿った一定幅の溝(スリット)が形成され、前記長手方向中央部側の溝の端部が半円形状に形成されている。
【0039】
また、切り欠き35Kは、第1下壁部35の長手方向の端縁から下壁25の長手方向中央部側に向かって前記長手方向に沿った一定幅の溝(スリット)が形成されている。ゴムブッシュ40を圧入する取り付け孔Hの下方を含む範囲の第1下壁部35の溝幅は、上側の第1上壁部32の溝幅と同一の一定幅に形成されている。そして、長手方向中央部側の溝の端部が第1上壁部32側の半円形状よりも小さい半円形状に形成され、この半円形に滑らかに接続するように、前記第1下壁部35の溝が長手方向中央部側ほど幅狭に形成されて前記したように平面視略V字状に形成されている。
【0040】
図3,図6に示すように、上壁22の長手方向中央部側(ロアアーム10の長手方向中央部側)に位置する第1上壁部32の溝の端縁32Tと、下壁25の長手方向中央部側(ロアアーム10の長手方向中央部側)に位置する第1下壁部35の溝の端縁35Tとは同一位置に位置している。そして、上記のように、上壁22の長手方向中央部側に位置する第1上壁部32の切り欠き部分(32K)の溝幅が、下壁25の長手方向中央部側に位置する第1下壁部35の切り欠き部分(35K)の溝幅よりも幅広になっている。これは、ロアアーム10を屈曲させる際や、第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34をそれぞれクランク状に屈曲させる際に、耐久性に影響する亀裂等を溝周縁に発生しないようにするためである。
【0041】
前記切り欠き32K,35K(前記溝及び半円形状の部分)はプレス機により打抜き加工されている。これにより加工費を軽減している。このように切り欠き32K,35Kが打抜き加工されているために、切り欠き32K,35Kの端面(内周面)は破断面となり、その表面は比較的荒れた面になっている。
【0042】
図3〜図8に示すように、前記ナックル7側に位置する第2上壁部52と第2下壁部55に、長手方向外方側に開放する(ロアアーム10の長手方向の端縁に開口する)互いに同一形状の切り欠き52K,55Kが形成されるとともに、ナックル7側に位置する第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54の間隔がゴムブッシュ40の内筒41の長さと略同一に設定されている。第2上壁部52・第2下壁部55・第2前側縦壁部53・第2後側縦壁部54は前記スプリングシート取り付け部21よりもナックル7側に位置する。
【0043】
後述のように、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54は組み付け状態で前記内筒41を挟み込んでいる。本発明の構造では、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54の間隔がゴムブッシュ40の内筒41の長さと略同一に設定されているから、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54が前記内筒41を挟み込みできるように、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54を屈曲加工する必要がなく、加工工数の削減、加工費の低減が可能になる。
【0044】
図3に示すように、上記の切り欠き52K,55Kは、ロアアーム10の長手方向でナックル7側の第1切り欠き部52K1,55K1(ナックル7に近い側の切り欠き部分)の内周面同士が互いに平行に形成され、ナックル7とは反対側の第2切り欠き部52K2,55K2(ロアアーム10の長手方向中心に近い側の切り欠き部分)の内周面がロアアーム10の長手方向中心側ほど幅狭の台形状に形成されている。第1切り欠き部52K1,55K1と第2切り欠き部52K2,55K2の内周面同士は滑らかに連なっている。前記切り欠き52K,55Kは、走行時のサスペンション装置100の働き(ロアアーム10とナックル7の相対変位)でナックル7の動きを許容して、ナックル7とロアアーム10との干渉を回避する役割を果たしている。
【0045】
前記第2下壁部55の第1切り欠き部55K1の幅は、ゴムブッシュ40の外筒42の長さよりも長く、かつ、内筒41の長さよりも短く設定されて、ナックル7への組み付け工程において、ナックル7への組み付け状態のゴムブッシュ40の内筒41の端部を第1切り欠き部55K1の周縁に載置することで仮り置き可能に構成されている。
【0046】
すなわち、少なくともゴムブッシュ40が取り付けられる範囲で第1切り欠き部55K1の両側に第2下壁部55の一部分を残して上記のように内筒41を仮り置き可能(内筒41の両端部を第1切り欠き部55K1の両周縁に各別に一時的に載置すること)を可能に構成してある。これにより、比較的重量物であるナックル7のロアアーム10への組み付けが容易となる。
つまり、仮置きすると、片手でナックル7を支えることができて、他方の手で取り付けボルトを準備することができる。(ただし、仮り置き状態では内筒41の位置決め(芯合わせ)はできない)また、ナックル7側のロアアーム10の他端部10Bが開放した中空形状になっているから、ロアアーム10に対するナックル7の組み付け性を向上させることができる。
また、切り欠き52K,55Kの両側となる第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54に、第2上壁部52の一部分と第2下壁部55の一部分とを残すことで剛性の低下を少なくしている。
【0047】
ロアアーム10の他端部10B(車幅方向外側W2の端部)とナックル7の連結構造について説明すると、図2に示すように、前記第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54でゴムブッシュ40を挟み込み、第2前側縦壁部53に形成されたボルト挿通孔Sと、ゴムブッシュ40の内筒41と、第2後側縦壁部54に形成されたボルト挿通孔Sとに車両前後方向に沿った取り付けボルトを挿通させ、取り付けボルトにナットを螺合締結してロアアーム10の他端部10Bとナックル7を連結してある。
【0048】
[ロアアーム10の製造方法]
ロアアーム10の製造方法は次の通りである。
【0049】
(1) 図11(a)に示すように、閉じ断面を形成する周壁(上壁22・下壁25・前側縦壁23・後側縦壁24(図10参照)を備えたアルミニウム合金の押出材95を押し出し成形する。
押出材95の断面形状は図10に示すロアアーム10の完成品の断面形状と同一であり、上壁22は前側フランジ22F1と後側フランジ22F2を備えている。そして、下壁25の前端部25Aと後端部25Bは、下壁25の車両前後方向中間部25Cに対して下方に膨出して長手方向に沿った断面円弧状の膨出部となっている。
【0050】
(2) 図11(b)に示すように、前記周壁のうち、屈曲後に屈曲部90(図11(c)参照)の内周壁となる上壁22(周壁に相当)に円形の捨て孔71,70を形成する。捨て孔とは、製品の最終形状とならない孔や製品の機能に関与しない孔を意味する。
車幅方向内側W1(サスペンションフレーム1の後側フレーム3側)の捨て孔70は、後に第1上壁部32のU字状の切り欠き32K(貫通部に相当)を形成する為に削除される部位、詳しくは、ロアアーム10の長手方向中央側の切り欠き32Kの半円形部分が形成される部位に、前記半円形部分よりも小径の同芯状の円形になるように形成する(図12(a)参照)。
車幅方向外側W2(ナックル7側)の捨て孔71は、スプリングシート取り付け部21の左側(ナックル7側)に位置する角孔77(貫通部に相当)を形成する為に削除される部位に車幅方向内側W1の捨て孔70と同一形状に形成する(図12(a)参照)。
上記の構造に換えて、前記左右一対の捨て孔71,70を互いに異なる大きさや形状に形成することもできる。また、捨て孔を3個以上形成することや、上記の例とは異なる位置に形成することもできる。
【0051】
(3) 図11(c)に示すように押出材95を弓形に屈曲する。
この場合、スプリングシート取り付け部21は屈曲のない扁平面に形成し、屈曲部90をスプリングシート取り付け部21の両側にそれぞれ形成する(図12(a)参照)。ロアアーム10の屈曲に伴って、左右一対の捨て孔71,70に屈曲部90の上壁22の材料の余剰分が移動して両孔71,70が真円から楕円形に歪む。この時屈曲の程度によって、上壁22に皺が発生しない場合と多少の皺が発生する場合がある。
左側(車幅方向外側W2)の捨て孔71は左側(車幅方向外側W2)の屈曲部90の中心(曲面に形成された上壁22の上面部分の長手方向の中心)付近に位置する。右側(車幅方向内側W1)の捨て孔70は右側(車幅方向内側W1)の屈曲部90の中心よりもロアアーム10の長手方向外方側(サスペンションフレーム1側、車幅方向内側W1)に位置する。
【0052】
(4) 図12(a)に示すように、各切り欠き32K,35K,52K,55Kを加工し、角孔77・排水口78、左右一対の係止孔15をそれぞれ形成する。
上壁22の長手方向中央部側(ロアアーム10の長手方向中央部側)に位置する第1上壁部32の切り欠き32Kの溝の端縁32Tは、車幅方向内側W1の屈曲部90の中心よりも上壁22の長手方向外方側に位置する。前記端縁32Tは、車幅方向内側W1の屈曲部90の中心の近傍にまで達している。屈曲部90では屈曲加工によって起伏が屈曲部90を中心にその両側に発生する。近傍の範囲としては、上壁22の上面に屈曲加工による起伏(うねり、皺)が発生している範囲のことをいう。
ナックル7側に位置する第2上壁部52に形成された切り欠き52Kは、車幅方向外側W2の屈曲部90の近傍には達していない。
右側の捨て孔70が形成された箇所は第1上壁部32のU字状の切り欠き32Kとなり、左側の捨て孔71が形成された箇所は角孔77となる。つまり、捨て孔70,71の内周縁は、製品を最終形状に加工する過程で除去される。その結果、皺を確実に除去することができるとともに、捨て孔70,71の内周縁に皺や亀裂が生じていたとしても、これらを除去することができる。
これにより、ロアアーム10の耐久性を向上させることができる。左右一対の係止孔15以外の孔はプレス加工により形成し、左右一対の係止孔15はプレス加工後に切削加工する。
【0053】
(5) 図12(b)に示すように、第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34をそれぞれクランク状に屈曲して互いに車両前後方向で接近配置し、第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとを車両前後方向で重ね合わせる(微小隙間が空くように対向していてもよい)。
そして、第1上壁部32のサスペンションフレーム1側の端部同士(切り欠きの両側に位置する端部同士)、及び、第1下壁部35のサスペンションフレーム1側の端部同士(切り欠きの両側に位置する端部同士)を互いに溶接接合する。
【0054】
本発明者は、本発明による方法と、以下の比較例1,比較例2による方法とでロアアーム10を製造してこれらを比較した。
[比較例1]
比較例1は、
(1) 押出材95に各切り欠き32K,35K,52K,55Kを加工し、角孔77・排水口78、左右一対の係止孔15をそれぞれ形成し、
(2) その後に押出材95を弓形に屈曲し、
(3) その後に、第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34をそれぞれクランク状に屈曲して互いに車両前後方向で接近配置し、第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとを車両前後方向で重ね合わせる手段である。
この手段では、屈曲加工前の直線状の素材に各切り欠き32K,35K,52K,55Kを加工し、角孔77・排水口78、左右一対の係止孔15をそれぞれ形成するので、加工が容易であったが、各切り欠き32K,35K,52K,55K等に屈曲加工によって皺・変形が生じ、耐久試験で亀裂が発生して耐久性が満足できなかった。
【0055】
[比較例2]
比較例2は、
(1) 押出材95を弓形に屈曲し、
(2) その後に押出材95に各切り欠き32K,35K,52K,55Kを加工し、角孔77・排水口78、左右一対の係止孔15をそれぞれ形成し、
(3) その後に、第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34をそれぞれクランク状に屈曲して互いに車両前後方向で接近配置し、第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとを車両前後方向で重ね合わせる手段である。
この手段では、上壁22の上面に大きな起伏(皺)が発生しており、又、大きな起伏(皺)が発生している所に各切り欠きを加工するので、各切り欠き32K,35K,52K,55Kに残留応力に起因する考えられる微細な亀裂が発生しており、耐久試験で亀裂が発生して耐久性が満足できなかった。
【0056】
これに対して、本発明では、前述のように、上壁22の上面から有害な大きな皺の発生を抑制することができるとともに、捨て孔70,71の内周縁に有害な皺や亀裂が生じていたとしても、その後の製造工程の加工によってこれらを除去することができて、ロアアーム10の耐久性を向上させることができることを耐久試験で確認することができた。
【0057】
[別実施形態]
(1) 上記の実施形態では、前記角孔77は他部品が取り付けられる孔ではないが、角孔77をショックアブソーバやスタビライザ等の他部品の取り付け孔に形成してあってもよい。
(2) 上記の実施形態では、前記貫通部32K,77を、スプリングシート取り付け部21の両側(ロアアーム10の長手方向でスプリングシート取り付け部21の両側)にそれぞれ形成したが、前記貫通部が、スプリングシート取り付け部21のいずれか一方の片側(ロアアーム10の長手方向でスプリングシート取り付け部21の片側)に形成されている構造であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 サスペンションフレーム
7 ナックル
10A.10B 両端部
21 スプリングシート取り付け部
22 屈曲後に屈曲部の内周壁となる周壁(上壁)
22,23,24,25 押出材の周壁
32K 貫通部(切り欠き)
40 マウントブッシュ(ゴムブッシュ)
70,71 捨て孔
77 貫通部(角孔)
90 屈曲部
95 押出材
0 軸芯
【技術分野】
【0001】
本発明は、
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造されるサスペンションアーム、及び、サスペンションアームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化を図る目的でサスペンション装置のサスペンションアームをアルミニウム合金で形成する手段が採用されている。その一例として、サスペンションアームをアルミニウム鋳物材で形成する手段があるが、この手段では、複雑な形状に形成可能である反面、湯流れや鋳巣の対策を施す必要があるために、最大の狙いである軽量化の効果が小さくなってしまう。
そこで、閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とした冒頭に記載のサスペンションアームが提案されている。
押し出し加工によって所定の形状に製造された押出材を用いると、軽量化を図ることができるばかりでなく、板材を溶接する構造に対して製造が容易になるが、機能を満足するための曲げ等の加工が必要となる。
従来、押し出し工程と曲げ工程の間に別の加工工程はなく、押し出し工程の後に直ぐに押出材を曲げ加工していた。そして、製品となった後も屈曲部の内周壁は押し出し成形直後の形態のままであった(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−192965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
閉じ断面の押出材を使用した場合、曲げ加工によって圧縮応力を受ける内周側(曲げ中心側)に位置する内周壁では皺(しわ)状の変形が生じる。
サスペンションアームの両端部にはブッシュを取り付けるためのスリット等の切り欠きを形成する必要があるが、上記従来の技術によれば、押し出し工程の後に直ぐに押出材を曲げ加工していたために、屈曲部の内周壁に皺が生じ、この皺が前記切り欠きに接続した状態になっていると、長期の過酷な使用によって切り欠きの皺部分から微細な亀裂が発生するとともに成長し、サスペンションアームの耐久性が低下してしまう虞があった。
本発明は上記実状に鑑みて成されたもので、その目的は、耐久性を向上させることができるサスペンションアーム及びサスペンションアームの製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本第1発明の特徴は、
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造されるサスペンションアームであって、
屈曲部の内周壁に貫通部が形成されている点にある。(請求項1)
【0006】
この構成によれば、貫通部が形成される内周壁部分に捨て孔を形成することができるようになり、捨て孔を形成してから押出材を屈曲させることで、屈曲部の内周壁に皺が生じることを抑制することができる。つまり、曲げ加工により屈曲部の内周壁は圧縮変形するが、圧縮変形によって生じた材料の余剰分が捨て孔側に移動し、捨て孔が縮小変形して皺の発生を抑制することができる。
従って、屈曲時に作用する内周壁への応力を小さくして、皺を小さくすることができる。さらに、サスペンションアームの両端部にブッシュを取り付けるためのスリット等の切り欠きを形成して皺が切り欠きに達していたとしても、皺が切り欠き部分に及ぼす悪影響や不具合を防止することができ、長期の過酷な使用によって皺から微細な亀裂が発生・成長する不具合を回避できて、サスペンションアームの耐久性を向上させることができる。(請求項1)
【0007】
本第1発明において、
軸芯が車両前後方向に沿うマウントブッシュを介して両端部がサスペンションフレームとナックルに各別に取り付けられ、
スプリングシート取り付け部を長手方向中間部の上面に有し、
前記貫通部は、少なくとも前記スプリングシート取り付け部の片側に形成されていると、次の作用を奏することができる。(請求項2)
【0008】
スプリングシート取り付け部を長手方向中間部の上面に有していることから、サスペンションアームはコイルスプリングからの力をその長手方向中間部に受けることになり、そして、コイルスプリングからの力を確実に受け止めることができるように、サスペンションアームを下方に凸の弓形に屈曲させる必要があるが、前記貫通部は、少なくともスプリングシート取り付け部の片側に形成されており、下方に凸の弓形に屈曲させた際に上面(前記内周壁に相当)に皺が生じることを抑制することができるから、サスペンションアームを比較的大きく屈曲させることができる。
これにより、コイルスプリングからの力を確実に受け止めることができ、しかも、上面にスプリングシート取り付け部を有するサスペンションアームの耐久性を向上させることができる。(請求項2)
【0009】
本第2発明の特徴は、
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造するサスペンションアームの製造方法であって、
閉じ断面を形成する前記押出材の周壁のうち、屈曲後に屈曲部の内周壁となる周壁に捨て孔を形成し、その後に前記押出材を屈曲させて製造する点にある。(請求項3)
【0010】
屈曲部の内周壁となる周壁に捨て孔を形成し、その後に前記押出材を屈曲させて製造することで、屈曲部の内周壁に皺が生じることを抑制することができる。つまり、曲げ加工により屈曲部の内周壁は圧縮変形するが、圧縮変形によって生じた材料の余剰分が捨て孔側に移動し、捨て孔が縮小変形して皺発生を抑制することができる。
従って、屈曲時に作用する内周壁への応力を小さくして、皺を小さくすることができる。さらに、サスペンションアームの両端部にブッシュを取り付けるためのスリット等の切り欠きを形成して皺が切り欠きに達していたとしても、皺が切り欠き部分に及ぼす悪影響や不具合を防止することができ、長期の過酷な使用によって皺から微細な亀裂が発生・成長する不具合を回避できて、サスペンションアームの耐久性を向上させることができる。(請求項3)
【0011】
本発明において、
屈曲後に前記捨て孔の内周縁(前記捨て孔およびその周縁)を除去すると、皺の比較的大きな部分を確実に除去することができるとともに、捨て孔の内周縁に耐久性に影響を与える皺や微細な亀裂が生じていても、これらを確実に除去することができる。(請求項4)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、
耐久性を向上させることができるサスペンションアーム及びサスペンションアームの製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】サスペンション装置を車両後方側から見た図(後面図)
【図2】サスペンション装置を下方から見た図(下面図)
【図3】サスペンションアームの平面図
【図4】左側サスペンションアームを車両後方側から見た図(後面図)
【図5】サスペンションアームを下方から見た要部図(下面図)
【図6】スプリングシートを取り付けた状態のサスペンションアームの平面図
【図7】スプリングシートを取り付けた状態の左側サスペンションアームを車両後方側から見た図
【図8】車幅方向内側から見たサスペンションアームを示す図
【図9】図6のD−D断面図
【図10】図4のA−A断面図
【図11】ロアアーム(サスペンションアーム)の製造方法を示す図であり、(a)は押し出し成形した押出材を示す平面図(b)は捨て孔を加工した押出材を示す平面図(c)は弓形に屈曲した押出材を示す側面図
【図12】(a)は切り欠き・角孔等を形成した押出材を示す図(b)は第1前側縦壁部と第1後側縦壁部をそれぞれクランク状に屈曲して互いに車両前後方向で接近配置し溶接接合して形成したロアアームを示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1,図2に、サスペンションフレーム1とトレーリングアーム30とショックアブソーバ31等を備えた自動車の後部のサスペンション装置100を示してある。前記サスペンションフレーム1は、車幅方向に長い井げた状に形成されており、サスペンションフレーム1の前側フレーム2と後側フレーム3が左右一対の車体フレームのサイドメンバ(図示せず)に架設されている。
【0015】
前側フレーム2と後側フレーム3はいずれも金属製の円筒状のパイプ材で形成されている。また、前側フレーム2と後側フレーム3を連結する左右一対の連結フレーム4は車幅方向に幅広に形成され、車両前後方向の両端部が車両前後方向中央部よりも幅広に設定されている。
【0016】
前側フレーム2の左右両端部と後側フレーム3の左右両端部には縦筒5の外周面をそれぞれ溶接固着してある。そして、縦筒5にゴムブッシュを圧入し、取り付けボルトBをゴムブッシュの内筒とサイドメンバに挿通させ、取り付けボルトBの端部をサイドメンバに溶接固定したナットに螺合して縦筒5をサイドメンバに連結してある。
【0017】
図2にも示すように、前記サスペンションフレーム1は、平面視で車両の左右方向(車幅方向)に沿うそれぞれ複数のアッパーアーム9・前側ロアアーム80・後側ロアアーム10(本発明が実施されるサスペンションアームに相当)を介してナックル7を車両前後方向に沿う軸芯O周りに上下揺動自在に支持している。
【0018】
後側ロアアーム10(以下、ロアアーム10と称する)の一端部10Aはサスペンションフレーム1の後側フレーム3に連結され、他端部10Bはナックル7の後端部に連結されている。
【0019】
ロアアーム10とサイドメンバの下面との間にはコイルスプリング8が介在している。また、ロアアーム10の長手方向中間部の上壁22に、サスペンション装置100のコイルスプリング8の下端部を受け止めるスプリングシート11を取り付けてある。
【0020】
[スプリングシート11の構造]
図6,図7,図9に示すように、コイルスプリング8の下端部に対する受け止め部13を備えた円盤状のスプリングシート本体12と、スプリングシート本体12から受け止め部13とは反対側(下方)に突出する左右一対の係止突起14とをゴム状弾性体で一体に形成し、スプリングシート本体12と左右一対の係止突起14にゴム状弾性体よりも硬い金属板状の芯材(図示せず)を内蔵させてスプリングシート11を構成してある。左右一対の係止突起14はロアアーム10の後述の左右一対の係止孔15(図3参照)に各別に挿通係止する。
【0021】
前記スプリングシート本体12の径方向中央部に、上方に膨出する円錐台状の膨出部16を形成し、膨出部16の付け根の周りに縦断面円弧状のコイルスプリング受け入れ凹部を形成して前記受け止め部13を構成してある。前記膨出部16はコイルスプリング8の下端部の素線で囲まれた空間に下側から入り込み、コイルスプリング受け入れ凹部はコイルスプリング8の下端部を下側から受け止める。
【0022】
[ロアアーム10の構造]
図1,図2に示すように、前記ロアアーム10は、閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、軸芯Oが車両前後方向に沿うゴムブッシュ40(マウントブッシュに相当)を介して両端部がサスペンションフレーム1とナックル7に各別に取り付けられ、図3〜図7に示すように、スプリングシート取り付け部21を長手方向中間部の上面に有している。
【0023】
ロアアーム10の一端部10A(車幅方向内側W1の端部)とサスペンションフレーム1の後側フレーム3の間に介在するゴムブッシュ40と、ロアアーム10の他端部10B(車幅方向外側W2の端部)とナックル7の間に介在するゴムブッシュ40とは同一形状であり、図6,図7に示すように、内筒41と、外筒42と、内外筒41,42を連結するゴム状弾性体43とから成る。
【0024】
内筒41と外筒42は金属製の円筒から成り、内筒41の軸芯方向の端部が外筒42の軸芯方向の端部よりも内外筒41,42の軸芯方向外方側に突出している。ゴム状弾性体43には、ゴムブッシュ40の軸直角方向の一方向におけるばね特性を柔らかく(ばね定数を小さく)するためにすぐり部(窪んだすぐり穴と、ゴムブッシュ40の軸芯方向に貫通したすぐり孔とのいずれであってもよい)が設けられている。
【0025】
そして、図7に示すように、前記両端部のゴムブッシュ40の軸芯Oを結ぶ仮想線Lとほぼ同じ位置または仮想線Lよりも下方にスプリングシート取り付け部21が位置するように下方に弓形に湾曲している。これにより、両端が多部品に連結・拘束されたロアアーム10の中間部にてコイルスプリング8の力を確実に受け止めることができる。
【0026】
図10に示すように、前記閉じ断面は上壁22と車両の前側に配置される前側縦壁23と車両の後側に配置される後側縦壁24と下壁25で概略四角形の中空断面に構成され、上壁22は、前側縦壁23よりも車両前方側Frに突出する前側フランジ22F1と、後側縦壁24よりも車両後方側Rrに突出する後側フランジ22F2とを有し、上壁22の前側フランジ22F1側から後側フランジ22F2側にわたる扁平な上面に前記スプリングシート取り付け部21が形成されている(図6参照)。前記閉じ断面が概略四角形の中空断面に構成されていることで軽量化と剛性の向上を両立させることができる。
【0027】
スプリングシート取り付け部21は、前記扁平な上面(上壁22の上面)に左右一対の互いに径が異なる係止孔15を貫通形成して構成されている。前記スプリングシート取り付け部21の取り付け面21Mは曲がりのない扁平面に形成されている。つまり、ロアアーム10は前記取り付け面21Mの両側(ロアアーム10の長手方向の両側)で屈曲して上記のように湾曲している。
【0028】
上壁22は前記前側フランジ22F1と後側フランジ22F2を有しているので、上壁22の上面を車両前後方向で拡大することができて、スプリングシート取り付け部21の取り付け面21Mを十分確保することができる。
【0029】
前記取り付け面21Mを上壁22の上面に形成したことで、例えば、ロアアーム10内(ロアアーム10の上下方向中間部)にスプリングシート取り付け部21を形成した構造のように、コイルスプリング8を受け入れる手段としてロアアーム10を拡幅する必要がなく、生産性を向上させることができる。そして、比較的細い基本断面形状のロアアーム10を使用することが可能になり軽量化が可能となる。
【0030】
本実施形態では、スプリングシート11の直径と上壁22の幅とが同一に設定されている(図6参照)。
【0031】
図10に示すように、下壁25の前端部25Aと後端部25Bは、ロアアーム10の全長に渡って下壁25の車両前後方向中間部25Cに対して下方に膨出してロアアーム10の長手方向に沿った膨出部となっている。膨出部は、前側縦壁23、後側縦壁24に連続するように形成されている。そして、下壁25の前端部25Aの下面25A1と後端部25Bの下面25B1は断面円弧状に形成され、下壁25の車両前後方向中間部25Cの下面25C1と滑らかに連なっている。
【0032】
下壁25の前端部25Aの下面25A1は前側縦壁部23の下端に接続し、下壁25の後端部25Bの下面25B1は後側縦壁24の下端に接続している。(下面25A1,25B1は前側縦壁23の下端と後側縦壁24の下端を連結している。)
【0033】
また、図3〜図8に示すように、サスペンションフレーム1の後側フレーム3側に位置する第1上壁部32と第1下壁部35に、長手方向外方側に開放する(ロアアーム10の長手方向の端縁に開口する)切り欠き32K,35Kが形成されるとともに、前記後側フレーム3側に位置する第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34がそれぞれクランク状に屈曲されて互いに車両前後方向で接近配置されている。第1上壁部32・第1下壁部35・第1前側縦壁部33・第1後側縦壁部34は前記スプリングシート取り付け部21よりも後側フレーム3側に位置する。
【0034】
そして、第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとが車両前後方向で重ね合わされて(微小隙間が空くように対向されていてもよい)、第1上壁部32の後側フレーム3側の端部同士(切り欠きの両側に位置する端部同士)、及び、第1下壁部35の後側フレーム3側の端部同士(切り欠きの両側に位置する端部同士)が互いに溶接接合されている。図5の符号WEは溶接部である。ゴムブッシュ40は第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとに同芯状に形成された取り付け孔Hに圧入されている。
【0035】
ロアアーム10の一端部10A(車幅方向内側W1の端部)とサスペンションフレーム1の後側フレーム3との連結構造について説明すると、前記取り付け孔Hにゴムブッシュ40を軽圧入し、ゴムブッシュ40の外筒42を軸方向に圧縮変形させることでかしめ固定してある。そして図2に示すように、後側フレーム3に取り付けられたブラケットの一対の挟持壁85でゴムブッシュ40の内筒41を挟み込み、前記一対の挟持壁85に形成されたボルト挿通孔とゴムブッシュ40の内筒41とに車両前後方向に沿った取り付けボルトを挿通させ、取り付けボルトにナットを螺合締結してロアアーム10の一端部10Aとサスペンションフレーム1の後側フレーム3を連結してある。
【0036】
この構造において、後側フレーム3に対する前記取り付けボルトの位置を調整・変更可能に構成され、ロアアーム10の軸支位置を変更してサスペンション装置100のジオメトリを調整するようになっている。この調整を行う場合、取り付けボルト(軸)を移動させる方が調整構造が容易になることから、ゴムブッシュ40(内筒41)をロアアーム10側に取り付けてある。
【0037】
上記のように、前記第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34がそれぞれクランク状に屈曲されているので(図3,図6参照)、サスペンション装置100が衝撃荷重を受けたときにクランクの屈曲部Kが易変形部として働き、ロアアーム10の重大損傷(破断)が起こり難くなっている。つまり、側面衝突等でロアアーム10に衝撃荷重が作用した時、押し出し形状のままでは、ロアアーム10の変形の起点となる個所がないが、本発明の上記構成によれば、クランクの屈曲部Kがあるために、この部分が易変形部として働き、ロアアーム10の変形を容易にして衝撃荷重を吸収し、ロアアーム10の破断を防止している。
【0038】
第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34を屈曲加工する前の状態で、前記第1上壁部32の切り欠き32Kは平面視略U字状に形成され、第1下壁部35の切り欠き35Kは平面視略V字状に形成されている。つまり、第1上壁部32に形成される切り欠き32Kと第1下壁部35に形成される切り欠き35Kとの形状が異なっている。詳述すると、切り欠き32Kは、第1上壁部32の長手方向の端縁から上壁22の長手方向中央部側に向かって前記長手方向に沿った一定幅の溝(スリット)が形成され、前記長手方向中央部側の溝の端部が半円形状に形成されている。
【0039】
また、切り欠き35Kは、第1下壁部35の長手方向の端縁から下壁25の長手方向中央部側に向かって前記長手方向に沿った一定幅の溝(スリット)が形成されている。ゴムブッシュ40を圧入する取り付け孔Hの下方を含む範囲の第1下壁部35の溝幅は、上側の第1上壁部32の溝幅と同一の一定幅に形成されている。そして、長手方向中央部側の溝の端部が第1上壁部32側の半円形状よりも小さい半円形状に形成され、この半円形に滑らかに接続するように、前記第1下壁部35の溝が長手方向中央部側ほど幅狭に形成されて前記したように平面視略V字状に形成されている。
【0040】
図3,図6に示すように、上壁22の長手方向中央部側(ロアアーム10の長手方向中央部側)に位置する第1上壁部32の溝の端縁32Tと、下壁25の長手方向中央部側(ロアアーム10の長手方向中央部側)に位置する第1下壁部35の溝の端縁35Tとは同一位置に位置している。そして、上記のように、上壁22の長手方向中央部側に位置する第1上壁部32の切り欠き部分(32K)の溝幅が、下壁25の長手方向中央部側に位置する第1下壁部35の切り欠き部分(35K)の溝幅よりも幅広になっている。これは、ロアアーム10を屈曲させる際や、第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34をそれぞれクランク状に屈曲させる際に、耐久性に影響する亀裂等を溝周縁に発生しないようにするためである。
【0041】
前記切り欠き32K,35K(前記溝及び半円形状の部分)はプレス機により打抜き加工されている。これにより加工費を軽減している。このように切り欠き32K,35Kが打抜き加工されているために、切り欠き32K,35Kの端面(内周面)は破断面となり、その表面は比較的荒れた面になっている。
【0042】
図3〜図8に示すように、前記ナックル7側に位置する第2上壁部52と第2下壁部55に、長手方向外方側に開放する(ロアアーム10の長手方向の端縁に開口する)互いに同一形状の切り欠き52K,55Kが形成されるとともに、ナックル7側に位置する第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54の間隔がゴムブッシュ40の内筒41の長さと略同一に設定されている。第2上壁部52・第2下壁部55・第2前側縦壁部53・第2後側縦壁部54は前記スプリングシート取り付け部21よりもナックル7側に位置する。
【0043】
後述のように、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54は組み付け状態で前記内筒41を挟み込んでいる。本発明の構造では、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54の間隔がゴムブッシュ40の内筒41の長さと略同一に設定されているから、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54が前記内筒41を挟み込みできるように、第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54を屈曲加工する必要がなく、加工工数の削減、加工費の低減が可能になる。
【0044】
図3に示すように、上記の切り欠き52K,55Kは、ロアアーム10の長手方向でナックル7側の第1切り欠き部52K1,55K1(ナックル7に近い側の切り欠き部分)の内周面同士が互いに平行に形成され、ナックル7とは反対側の第2切り欠き部52K2,55K2(ロアアーム10の長手方向中心に近い側の切り欠き部分)の内周面がロアアーム10の長手方向中心側ほど幅狭の台形状に形成されている。第1切り欠き部52K1,55K1と第2切り欠き部52K2,55K2の内周面同士は滑らかに連なっている。前記切り欠き52K,55Kは、走行時のサスペンション装置100の働き(ロアアーム10とナックル7の相対変位)でナックル7の動きを許容して、ナックル7とロアアーム10との干渉を回避する役割を果たしている。
【0045】
前記第2下壁部55の第1切り欠き部55K1の幅は、ゴムブッシュ40の外筒42の長さよりも長く、かつ、内筒41の長さよりも短く設定されて、ナックル7への組み付け工程において、ナックル7への組み付け状態のゴムブッシュ40の内筒41の端部を第1切り欠き部55K1の周縁に載置することで仮り置き可能に構成されている。
【0046】
すなわち、少なくともゴムブッシュ40が取り付けられる範囲で第1切り欠き部55K1の両側に第2下壁部55の一部分を残して上記のように内筒41を仮り置き可能(内筒41の両端部を第1切り欠き部55K1の両周縁に各別に一時的に載置すること)を可能に構成してある。これにより、比較的重量物であるナックル7のロアアーム10への組み付けが容易となる。
つまり、仮置きすると、片手でナックル7を支えることができて、他方の手で取り付けボルトを準備することができる。(ただし、仮り置き状態では内筒41の位置決め(芯合わせ)はできない)また、ナックル7側のロアアーム10の他端部10Bが開放した中空形状になっているから、ロアアーム10に対するナックル7の組み付け性を向上させることができる。
また、切り欠き52K,55Kの両側となる第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54に、第2上壁部52の一部分と第2下壁部55の一部分とを残すことで剛性の低下を少なくしている。
【0047】
ロアアーム10の他端部10B(車幅方向外側W2の端部)とナックル7の連結構造について説明すると、図2に示すように、前記第2前側縦壁部53と第2後側縦壁部54でゴムブッシュ40を挟み込み、第2前側縦壁部53に形成されたボルト挿通孔Sと、ゴムブッシュ40の内筒41と、第2後側縦壁部54に形成されたボルト挿通孔Sとに車両前後方向に沿った取り付けボルトを挿通させ、取り付けボルトにナットを螺合締結してロアアーム10の他端部10Bとナックル7を連結してある。
【0048】
[ロアアーム10の製造方法]
ロアアーム10の製造方法は次の通りである。
【0049】
(1) 図11(a)に示すように、閉じ断面を形成する周壁(上壁22・下壁25・前側縦壁23・後側縦壁24(図10参照)を備えたアルミニウム合金の押出材95を押し出し成形する。
押出材95の断面形状は図10に示すロアアーム10の完成品の断面形状と同一であり、上壁22は前側フランジ22F1と後側フランジ22F2を備えている。そして、下壁25の前端部25Aと後端部25Bは、下壁25の車両前後方向中間部25Cに対して下方に膨出して長手方向に沿った断面円弧状の膨出部となっている。
【0050】
(2) 図11(b)に示すように、前記周壁のうち、屈曲後に屈曲部90(図11(c)参照)の内周壁となる上壁22(周壁に相当)に円形の捨て孔71,70を形成する。捨て孔とは、製品の最終形状とならない孔や製品の機能に関与しない孔を意味する。
車幅方向内側W1(サスペンションフレーム1の後側フレーム3側)の捨て孔70は、後に第1上壁部32のU字状の切り欠き32K(貫通部に相当)を形成する為に削除される部位、詳しくは、ロアアーム10の長手方向中央側の切り欠き32Kの半円形部分が形成される部位に、前記半円形部分よりも小径の同芯状の円形になるように形成する(図12(a)参照)。
車幅方向外側W2(ナックル7側)の捨て孔71は、スプリングシート取り付け部21の左側(ナックル7側)に位置する角孔77(貫通部に相当)を形成する為に削除される部位に車幅方向内側W1の捨て孔70と同一形状に形成する(図12(a)参照)。
上記の構造に換えて、前記左右一対の捨て孔71,70を互いに異なる大きさや形状に形成することもできる。また、捨て孔を3個以上形成することや、上記の例とは異なる位置に形成することもできる。
【0051】
(3) 図11(c)に示すように押出材95を弓形に屈曲する。
この場合、スプリングシート取り付け部21は屈曲のない扁平面に形成し、屈曲部90をスプリングシート取り付け部21の両側にそれぞれ形成する(図12(a)参照)。ロアアーム10の屈曲に伴って、左右一対の捨て孔71,70に屈曲部90の上壁22の材料の余剰分が移動して両孔71,70が真円から楕円形に歪む。この時屈曲の程度によって、上壁22に皺が発生しない場合と多少の皺が発生する場合がある。
左側(車幅方向外側W2)の捨て孔71は左側(車幅方向外側W2)の屈曲部90の中心(曲面に形成された上壁22の上面部分の長手方向の中心)付近に位置する。右側(車幅方向内側W1)の捨て孔70は右側(車幅方向内側W1)の屈曲部90の中心よりもロアアーム10の長手方向外方側(サスペンションフレーム1側、車幅方向内側W1)に位置する。
【0052】
(4) 図12(a)に示すように、各切り欠き32K,35K,52K,55Kを加工し、角孔77・排水口78、左右一対の係止孔15をそれぞれ形成する。
上壁22の長手方向中央部側(ロアアーム10の長手方向中央部側)に位置する第1上壁部32の切り欠き32Kの溝の端縁32Tは、車幅方向内側W1の屈曲部90の中心よりも上壁22の長手方向外方側に位置する。前記端縁32Tは、車幅方向内側W1の屈曲部90の中心の近傍にまで達している。屈曲部90では屈曲加工によって起伏が屈曲部90を中心にその両側に発生する。近傍の範囲としては、上壁22の上面に屈曲加工による起伏(うねり、皺)が発生している範囲のことをいう。
ナックル7側に位置する第2上壁部52に形成された切り欠き52Kは、車幅方向外側W2の屈曲部90の近傍には達していない。
右側の捨て孔70が形成された箇所は第1上壁部32のU字状の切り欠き32Kとなり、左側の捨て孔71が形成された箇所は角孔77となる。つまり、捨て孔70,71の内周縁は、製品を最終形状に加工する過程で除去される。その結果、皺を確実に除去することができるとともに、捨て孔70,71の内周縁に皺や亀裂が生じていたとしても、これらを除去することができる。
これにより、ロアアーム10の耐久性を向上させることができる。左右一対の係止孔15以外の孔はプレス加工により形成し、左右一対の係止孔15はプレス加工後に切削加工する。
【0053】
(5) 図12(b)に示すように、第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34をそれぞれクランク状に屈曲して互いに車両前後方向で接近配置し、第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとを車両前後方向で重ね合わせる(微小隙間が空くように対向していてもよい)。
そして、第1上壁部32のサスペンションフレーム1側の端部同士(切り欠きの両側に位置する端部同士)、及び、第1下壁部35のサスペンションフレーム1側の端部同士(切り欠きの両側に位置する端部同士)を互いに溶接接合する。
【0054】
本発明者は、本発明による方法と、以下の比較例1,比較例2による方法とでロアアーム10を製造してこれらを比較した。
[比較例1]
比較例1は、
(1) 押出材95に各切り欠き32K,35K,52K,55Kを加工し、角孔77・排水口78、左右一対の係止孔15をそれぞれ形成し、
(2) その後に押出材95を弓形に屈曲し、
(3) その後に、第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34をそれぞれクランク状に屈曲して互いに車両前後方向で接近配置し、第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとを車両前後方向で重ね合わせる手段である。
この手段では、屈曲加工前の直線状の素材に各切り欠き32K,35K,52K,55Kを加工し、角孔77・排水口78、左右一対の係止孔15をそれぞれ形成するので、加工が容易であったが、各切り欠き32K,35K,52K,55K等に屈曲加工によって皺・変形が生じ、耐久試験で亀裂が発生して耐久性が満足できなかった。
【0055】
[比較例2]
比較例2は、
(1) 押出材95を弓形に屈曲し、
(2) その後に押出材95に各切り欠き32K,35K,52K,55Kを加工し、角孔77・排水口78、左右一対の係止孔15をそれぞれ形成し、
(3) その後に、第1前側縦壁部33と第1後側縦壁部34をそれぞれクランク状に屈曲して互いに車両前後方向で接近配置し、第1前側縦壁部33の後側フレーム3側の端部33Aと第1後側縦壁部34の後側フレーム3側の端部34Aとを車両前後方向で重ね合わせる手段である。
この手段では、上壁22の上面に大きな起伏(皺)が発生しており、又、大きな起伏(皺)が発生している所に各切り欠きを加工するので、各切り欠き32K,35K,52K,55Kに残留応力に起因する考えられる微細な亀裂が発生しており、耐久試験で亀裂が発生して耐久性が満足できなかった。
【0056】
これに対して、本発明では、前述のように、上壁22の上面から有害な大きな皺の発生を抑制することができるとともに、捨て孔70,71の内周縁に有害な皺や亀裂が生じていたとしても、その後の製造工程の加工によってこれらを除去することができて、ロアアーム10の耐久性を向上させることができることを耐久試験で確認することができた。
【0057】
[別実施形態]
(1) 上記の実施形態では、前記角孔77は他部品が取り付けられる孔ではないが、角孔77をショックアブソーバやスタビライザ等の他部品の取り付け孔に形成してあってもよい。
(2) 上記の実施形態では、前記貫通部32K,77を、スプリングシート取り付け部21の両側(ロアアーム10の長手方向でスプリングシート取り付け部21の両側)にそれぞれ形成したが、前記貫通部が、スプリングシート取り付け部21のいずれか一方の片側(ロアアーム10の長手方向でスプリングシート取り付け部21の片側)に形成されている構造であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 サスペンションフレーム
7 ナックル
10A.10B 両端部
21 スプリングシート取り付け部
22 屈曲後に屈曲部の内周壁となる周壁(上壁)
22,23,24,25 押出材の周壁
32K 貫通部(切り欠き)
40 マウントブッシュ(ゴムブッシュ)
70,71 捨て孔
77 貫通部(角孔)
90 屈曲部
95 押出材
0 軸芯
【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造されるサスペンションアームであって、
屈曲部の内周壁に貫通部が形成されているサスペンションアーム。
【請求項2】
軸芯が車両前後方向に沿うマウントブッシュを介して両端部がサスペンションフレームとナックルに各別に取り付けられ、
スプリングシート取り付け部を長手方向中間部の上面に有し、
前記貫通部は、少なくとも前記スプリングシート取り付け部の片側に形成されている請求項1記載のサスペンションアーム。
【請求項3】
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造するサスペンションアームの製造方法であって、
閉じ断面を形成する前記押出材の周壁のうち、屈曲後に屈曲部の内周壁となる周壁に捨て孔を形成し、その後に前記押出材を屈曲させて製造するサスペンションアームの製造方法。
【請求項4】
屈曲後に前記捨て孔の内周縁を除去する請求項3記載のサスペンションアームの製造方法。
【請求項1】
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造されるサスペンションアームであって、
屈曲部の内周壁に貫通部が形成されているサスペンションアーム。
【請求項2】
軸芯が車両前後方向に沿うマウントブッシュを介して両端部がサスペンションフレームとナックルに各別に取り付けられ、
スプリングシート取り付け部を長手方向中間部の上面に有し、
前記貫通部は、少なくとも前記スプリングシート取り付け部の片側に形成されている請求項1記載のサスペンションアーム。
【請求項3】
閉じ断面のアルミニウム合金の押出材を素材とし、この押出材を屈曲させて製造するサスペンションアームの製造方法であって、
閉じ断面を形成する前記押出材の周壁のうち、屈曲後に屈曲部の内周壁となる周壁に捨て孔を形成し、その後に前記押出材を屈曲させて製造するサスペンションアームの製造方法。
【請求項4】
屈曲後に前記捨て孔の内周縁を除去する請求項3記載のサスペンションアームの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−254255(P2010−254255A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110071(P2009−110071)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【出願人】(596134057)株式会社神津製作所 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【出願人】(596134057)株式会社神津製作所 (4)
【Fターム(参考)】
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