説明

サスペンション装置のトレーリングアーム取付構造

【課題】アーム取付け部にトレーリングアームを艤装性を向上させて取付けできるサスペンション装置のトレーリングアーム取付け構造を提供する。
【解決手段】前端部が車体フレーム1に連結され後方側が車輪を支持する車軸支持部に連結されるトレーリングアーム5を備え、同アームの前端部にブッシュ41が設けられる前側連結部と、車体フレームの下壁部に形成され、前側連結部が収容される収容域mと、収容域を挟んで一対で設けられ、螺子穴n1が形成された締結面fcとを有するアーム取付け部A1と、前側連結部のブッシュ41が枢支されるとともに締結面fcに締結される取付けブラケット42aと、を備え、取付けブラケットを締結面に締結することでアーム取付け部A1に前側連結部が連結され、取付けブラケットが収容域内に配置されて締結面間を連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション装置のトレーリングアーム取付構造に関するものであり、特に、車体フレームとトレーリングアームとが連結される部位におけるトレーリングアームの取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のサスペンション装置は、左右の車輪を支持するナックル等の車軸支持部が、車体側と連結された複数のアーム部材によって支持されており、特にリヤサスペンション装置では、アーム部材の1つとして車軸支持部から車両前方側に延設されてサイドフレーム等の車体フレームに連結されるトレーリングアームを備えたものが一般的に知られている。サスペンション装置のトレーリングアームの取付構造として、例えば、車体フレームの下壁部に溶接等で接合されたブラケットを設け、このブラケットにトレーリングアームの前端部に一体で設けた円筒状のブッシュを同ブッシュの中心軸(枢支軸)方向が略水平方向(車幅方向に近い方向)を向いた状態(円筒状のブッシュを寝かせた状態)で枢支(ボルト止め)させてトレーリングアームを車体フレームに連結させるタイプがある。
【0003】
しかしながら、このような取付構造では、トレーリングアームからの入力をブラケットのみで支持しているので、ブラケットの剛性が低いと、ブラケット自体が変形してしまい、車体振動等の影響を受け易い。
したがって、ブラケットの板厚を厚くしたり、ブラケット自体を大型化する必要があった。また、例えば、特許文献1(特開2000−313361号公報)に開示されている構造のようにブラケットを補強部材で補強することで、ブラケットの剛性を向上させているものもある。このような場合、コストや重量が増加するといった影響がある。
【0004】
また、ブラケットが、車体フレームの下部から突出した状態で設けられるため、大型化したり補強部材が設けられると、レイアウトの点で不利となる。
これに対し、特許文献2(特開2008−80874号公報)に開示された構成のように、ブッシュの中心軸(枢支軸)を上下方向に向けた状態とし、比較的剛性の高い車体フレームに直接ブッシュを締結(枢支)させたものがある。
【0005】
特許文献2には、図10に示すようにサイドフレーム100の低壁に設けた開口150を閉鎖する蓋160とその内側上方に嵌着したブラケット170との間の空間にトレーリングアーム120の前端のブッシュ130を配備し、そのブッシュの中心軸(枢支軸)を上下方向に向け、それらを上下方向に向いたボルト140により相互に締結したサスペンション装置が開示される。
このような構成とすることで、トレーリングアームからの入力が確実に車体フレーム(サイドフレーム100)へ伝達することができ、アーム取付け部の剛性が確保される。またトレーリングアームの前端のブッシュが車体フレーム(サイドフレーム)の内部に収容された状態となり、車体フレーム下方側のスペースが確保されるため、レイアウトの自由度が増す。
【0006】
なお、トレーリングアームに設けられる円筒状のブッシュは、基本的に、円筒状の径方向での変位は、すぐりの設定等により比較的自由に調整することができるが、中心軸方向の変位は、調整が難しく自由度が少ない。そのため、特許文献2のようにブッシュの中心軸を上下方向に設けた場合、トレーリングアームの横方向への変位(車輪のトーイン変化に影響する)に対してブッシュの変位特性を比較的自由に設定できるため、車輪のコンプライアンスステアをコントロールしやすい。従って、特許文献2のようにブッシュの中心軸を上下方向に向けた取付構造の場合の方が、アーム取付け部の剛性だけでなく、コンプライアンスステアの観点から見ても特許文献1の取付構造より有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−313361号公報
【特許文献2】特開2008−80874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2のサスペンション取付構造の場合、車体フレームへのトレーリングアーム前端の組み付け時において、前端のブッシュの組み付けの際に、車体フレーム側の上下の各ボルト締結穴とその間に配するブッシュの中心穴とに亘り連続して締結用のボルトを挿通させる際、トレーリングアームの後端側のスプリングの反力に抗してトレーリングアーム前端の中心穴を微調整する必要があり、位置あわせ作業に手間取りやすく、艤装性が低い。
【0009】
特に、サイドフレームの下壁に設けた貫通穴からトレーリングアームをサイドフレーム内部に挿入して上方のブラケットに取付けなければならず、上方のブラケットに設けた螺子穴の位置が確認し難く、取付け作業におけるボルトの位置あわせ作業が非常に難しい構成となっている。
【0010】
更に、ブラケットをサイドフレーム内部に溶接にて取付ける必要があるため、生産性の面で劣ると考えられる。
本発明は、車体フレームのアーム取付け部に対し、トレーリングアームを取付けるにあたり、重量やコストがかからず簡単な構成でトレーリングアームの艤装性とアーム取付け部の剛性を向上させることができるサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を達成するため、請求項1に係る発明は、車両の前後方向に延在されて、前端部が車体フレームに連結され、後方側が車輪を支持する車軸支持部に連結されるトレーリングアームを備えるサスペンション装置において、
前記トレーリングアームの前記前端部に形成され、円筒状のブッシュが一体に設けられる前側連結部と、前記車体フレームの下壁部に形成され、車両下方に開口して前記前側連結部が収容される収容域と、同収容域を挟んで一対で設けられるとともにそれぞれ螺子穴が形成された締結面とを有するアーム取付け部と、前記前側連結部を上下から囲むように配設されて前記ブッシュが枢支されるとともに前記アーム取付け部の前記締結面に締結される取付けブラケットとを備え、前記前側連結部は、前記取付けブラケットを前記締結面にボルトにより締結することで、前記アーム取付け部に連結され、前記取付けブラケットは、前記締結面に締結された状態で、前記収容域内に配置されて前記締結面間を連結することを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造において、前記ブッシュは、円筒状の中心軸方向に沿って軸ボルトが挿通可能な筒部材を備え、同筒部材に挿通される軸ボルトを介して前記取付けブラケットに枢支された状態で締結されることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2記載のサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造において、前記ブッシュは、前記筒部材が車両の上下方向に延びるよう設けられ、前記取付けブラケットは、前記前側連結部の上方側を囲い、前記筒部材の上端部に重合されて軸ボルトが挿通可能な上側中央部を有する上側部材と、前記前側連結部の下方側を囲い、前記筒部材の下端部に重合されて軸ボルトが挿通可能な下側中央部を有する下側部材とから構成されており、前記上側部材は、前記ブッシュの径方向に延設され、前記上側中央部の両端に一対のフランジ部を有するとともに上方に突出する略ハット型に形成されており、前記下側部材は、前記ブッシュの径方向に延設され、前記下側中央部の両端に一対の前記フランジ部を有するとともに下方に突出する略逆ハット型に形成されており、前記取付けブラケットは、前記上側部材の両端部の前記フランジ部と前記下側部材の両端部の前記フランジ部とを互いに重ね合わせた状態で、前記上側中央部と前記下側中央部とが前記軸ボルトにより前記ブッシュに締結されて前記前側連結部に組み付けられ、前記上側部材と前記下側部材の両端部で重ね合わせた前記フランジ部が、前記アーム取付け部の前記締結部に重ねられてボルトにより締結されることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項3および4記載のサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造において、前記アーム取付け部は、一対に設けた前記締結面の他に、螺子穴を有する第2の締結面を備え、前記取付けブラケットは、前記第2の締結面にボルトにより締結される第2のフランジ部を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造において、前記収容域は、前記車体フレームの下壁部に上方に凹設されて下向きに開口する凹部であり、前記前側連結部が前記凹部内に収容されることを特徴とする。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造において、前記収容域は、前記車体フレームの下壁部に開口されて前記車体フレーム内部と連通される穴部であり、前記前側連結部が前記車体フレーム内部に収容されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、トレーリングアームの前側連結部にブッシュを枢支した状態で取付けブラケットを組み付けてから、取付けブラケットを車体フレームのアーム取付け部の締結面にボルトにより締結するだけで良いので、取付けにおけるボルト穴等の位置合せが容易となり艤装性が良い。しかも、取付けブラケットがアーム取付け部の収容域内で一対の締結面間を連結した状態に締結されるので、締結面間すなわちアーム取付け部の剛性を取付けブラケットにより向上させることができる。またトレーリングアームの前側連結部が収容域内に収容された状態となるので、車体フレームの下方側に取付けブラケットが大きく突出するようなことがなく、スペースを確保することが可能となる。
【0018】
請求項2の発明によれば、前側連結部のブッシュが備える筒部材に対して挿通される軸ボルトを用いて介して該ブッシュを取付けブラケットに枢支された状態で締結できるので、両者の組み付け作業性が良い。
【0019】
請求項3の発明によれば、前側連結部のブッシュが備える筒部材が車両の上下方向に延びるよう設けられ、該筒部材に挿通される軸ボルトを用いて、取付けブラケットの略ハット型の上側部材と略逆ハット型の下側部材とか前記前側連結部の上方側と下方側を囲う状態で、該前側連結部に組み付けられ、次いで、上側部材と下側部材の両端部で重ね合わせたフランジ部が車体フレームに形成されアーム取付け部の締結部に重ねられてボルトにより締結されるので、取付けにおけるボルト穴等の位置合せが容易となり艤装性が良い。
【0020】
請求項4の発明によれば、アーム取付け部が備える一対に設けた締結面とその他に設けた第2の締結面とに対して、それぞれ対向するフランジ部を取付けブラケットが備えたので、前側連結部のブッシュを枢支した状態の取付けブラケットをより確実にアーム取付け部に締結できる。
【0021】
請求項5の発明によれば、収容域が下壁部に上方に凹設されて下向きに開口する凹部として形成され、トレーリングアームの前側連結部が凹部内に収容さた状態となるので、取付けブラケットがアーム取付け部の締結面より下方に過度に突き出ることが無く、この点で、取付けブラケットやアーム取付け部のレイアウト上の自由度が高くなる。しかも、下向きの凹部であるし、各締結面間を取付けブラケットが結合するのでアーム取付け部回りの剛性をより強化できる。更に、トレーリングアームの前側連結部からの荷重が締結面に加わる場合に、荷重入力点が締結面とほぼ同等の位置であるので、締結面に取付けブラケット側から加わるモーメントを排除あるいは極小さく出来、この点でアーム取付け部の耐久性が向上する。
【0022】
請求項6の発明によれば、収容域が下壁部に開口されて車体フレーム内部と連通される穴部として形成されるので、取付けブラケットをより収容域のより奥側に保持可能であるので、取付けブラケットがアーム取付け部の締結面より下方に過度に突き出ることが無く、この点で、取付けブラケットやアーム取付け部のレイアウト上の自由度が高くなる。しかも、各締結面間を取付けブラケットが結合するのでアーム取付け部の剛性を向上させることができ、更に、トレーリングアームの前側連結部からの荷重が締結面に加わる場合に、荷重入力点が締結面とほぼ同等の位置であるので、締結面に取付けブラケット側から加わるモーメントを排除あるいは極小さく出来、この点でアーム取付け部の耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態の車両のサスペンション取付構造が適用されたサスペンション装置の要部平面図である。
【図2】図1のサスペンション装置の左側面図である。
【図3】図1のサスペンション取付構造が適用されたアーム取付け部と前側連結部の結合部の図で、(a)は第1実施形態の拡大断面図、(b)は変形例である。
【図4】図1のサスペンション取付構造が用いるトレーリングアームの前側連結部のプレス加工時の部分斜視図である。
【図5】図1のサスペンション取付構造が用いるトレーリングアームの前側連結部の分解斜視図である。
【図6】図1のサスペンション取付構造が用いるトレーリングアームの前側連結部の分解斜視図である。
【図7】本発明の第1実施形態で利用可能なアーム取付け部と前側連結部の結合部の部分斜視図で(a)は変形例を、(b)は他の変形例を示す。
【図8】本発明の第1実施形態での変形例で用いるトレーリングアームの前側連結部の分解斜視図である。
【図9】本発明の第1、2実施形態及び従来例の対比試験を説明する図で、(a)は第1実施形態を、(b)は第2実施形態を、(c)は従来装置を示す図である。
【図10】従来装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1、図2にはこの発明の第1の実施形態としてのサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造を適用した車両の後部のサスペンション装置Sを示した。
このサスペンション装置Sは車体後部の不図示のフロアの下壁面側に配備された複数の車体フレームからなる枠組み体である剛性枠組体3に装着される。ここで、車体後部の剛性枠組体3は前後方向Xに延びると共に互いに平行に配置された閉断面構造の左右のサイドフレーム(車体フレーム)1、2と、左右のサイドフレーム1、2のそれぞれの後部近傍位置における前後2箇所に締結される平面視でコ字型の左右のサブフレーム7、8と、左右のサブフレーム7、8を一体に接合する車幅方向Yに延びる前後2つのクロスメンバ11、12とを有する。これらは相互に結合されて剛性強化した枠組み体として形成されている。
【0025】
ここで、剛性枠組体3の前後クロスメンバ11、12はその中央部近傍に不図示のディファレンシャルを装着し、このディファレンシャルからの回転駆動力を左右車軸4に分岐して伝達している。左右の各車軸4は、その端部がそれぞれ左右の車軸支持部9に回転可能に枢支されるハブユニット13に連結されており、ハブユニット13には、左右車輪Wが一体的に取付られている。
図1、2に示すように、剛性枠組体3に装着されるサスペンション装置Sは、上述の左右車軸4を枢支した左右車軸支持部9を、左右リンク系rkと、左右トレーリングアーム5とリアストラットRS(スプリング30およびショックアブソーバ6)とにより支持して、左右車輪Wが独立して変位可能とした独立懸架式のサスペンションである。なお、左右車軸支持部9間は、スタビライザST(図2参照)により互いに連結されて左右車輪Wの相対変位が抑制されている。
【0026】
なお、このサスペンション装置Sは左右のリンク系rk、左右トレーリングアーム、左右のリアストラットRS(スプリング30、ショックアブソーバ6)が、図1に示すように左右対称に配備されることより、ここではサスペンション装置Sの左側を主に説明する。
図1、2に示すように、サスペンション装置Sは、剛性枠組体3(車体側)に対して車軸4を枢支した車軸支持部9をリンク系rkを成す相互に略平行なロアアーム21とアッパアーム25とで連結する。更に、車体フレームであるサイドフレーム1の車輪Wより前側に形成したアーム取付け部A1に対し、前後方向Xに向けて配備されたトレーリングアーム5の前端部の前側連結部fjが連結され、そのトレーリングアーム5の後方側の後側連結部rj(図2参照)が車軸支持部9の下取付部17に連結される。
【0027】
図1に示すように、左側のサスペンション装置Sのリンク系rkは、車軸4と一体のハブユニット13を支持する車軸支持部9を剛性枠組体3に上下動可能に、所定の車輪整列剛性を確保した上で支持している。
図2に示すように、車軸支持部9は、その本体外周部に上取付部16、下取付部17、前取付部18及び後取付部19とがそれぞれ形成されている。
図1に示すように、上取付部16と左サブフレーム7との間には車幅方向Yに延設するアッパアーム21が設けられている。アッパアーム21の基端は二股に分れており、その前部が左サブフレーム7の直状中間部701の結合部22にブッシュを介して連結され、その後部が左サブフレーム7の後屈曲部702にボールジョイント23を介して連結されている。
【0028】
剛性枠組体3の後クロスメンバ12は車幅方向Yに長い逆U字型断面の直状部材で形成され、図2に示すように、その左右端には結合部24が形成されている。この後結合部24と車軸支持部9側の後取付部19との間を後ロアアーム25(図1参照)により相互に連結している。
アッパアーム21の後方近傍には上下に長いリアストラットRSが配備される。リアストラットRSはショックアブソーバ6とその上部外側に外嵌されるスプリング30とをユニット化した構造を採り、上部がバネ受601を介して車体構成基板28に取付けられ、下部は車軸支持部9側の後取付部19の前近傍に位置する結合部29に結合される。
【0029】
車幅方向Yに長い前クロスメンバ11はその左右端が下向き突部111(図2参照)として下方に湾曲形成される。下向き突部111には結合部31(図1参照)が設けられている。このような結合部31からは車軸支持部9側に前ロアアーム32が延出形成され、前ロアアーム32の車外側端部は車軸支持部9側の前取付部18にボールジョイント33を介して連結される。
図1、2に示すように、車軸支持部9の下周縁部から突出している下取付部17とその前方の左サイドメンバ1上のアーム取付け部A1(図1参照)との間がトレーリングアーム5により連結され、これにより車軸支持部9側の前後方向Xの位置規制を行っている。
【0030】
図1、図3(a)、図6に示すように、左サイドメンバ1の下向きの下壁部材101にはアーム取付け部A1が形成される。このアーム取付け部A1は、下壁部材101の長手方向の要部に収容域を形成する下向きの凹部mが開口するように形成され、その凹部mの開口を挟んで車幅方向Yに沿って所定間隔を保って一対の膨出部dが形成される。ここで各膨出部dには凹部mの開口を挟んで螺子穴n1が形成された締結面fcが一対で配設される。
【0031】
ここで、締結壁面fcには後述のアーム本体501の前側連結部fjが取付けブラケットKAを介して締結され、中央の凹部mは取付けブラケットKA及びそれに支持されたトレーリングアームの前側連結部fjが所定量変位時にも干渉することがないような大きさに形成される。ここでは収容域を形成する凹部mが低壁部bpを有する。このため、低壁部bpと凹部mの左右の一対の膨出部dとが共働し、下壁部材101のアーム取付け部A1の下向きの凹部回りの剛性を十分に強化できる。
【0032】
図1、図3に示すように、トレーリングアーム5は、前後方向Xに長いアーム本体501と、アーム本体501の前側連結部fj(図1で上側)と、アーム本体501の後端側で車軸側にある下取付部17にボールジョイントbjを介して連結される後側連結部rj(図1で下側)とを備え、全体は鋼板のプレス成形品として形成される。なお、これに代えて、アーム本体501のみを軽合金で鋳造することも可能である。
図5に示すように、鋼板のプレス成形品であるアーム本体501の前側連結部fjには同部の上下面を突き出るようにしてブッシュ41が一体的に取付けられる。
【0033】
ここでアーム本体501の前側連結部fjはブッシュ41を嵌着する貫通穴502(図4参照)がバーリング加工により形成される。この貫通穴502のバーリング加工では、アーム本体501の前側部に予め比較的小径の不図示の作業穴をプレス成形し、次いでその内径を拡大すると共に拡大する穴の回りに所定高さh1の立ち上がり部分503(図4参照)を形成している。このような貫通穴502の立ち上がり部分503にはブッシュ41の外周筒部材412(図5参照)が圧入され、一体化され、前側連結部fjが形成される。このような構成によりブッシュ41の外周筒部材412と立ち上がり部分503が十分な形状剛性を保持して一体化されるので、トレーリングアーム5の生産性を向上できる。
【0034】
図3に示すように、左サイドメンバ1のアーム取付け部A1の下向きの凹部mに取付けブラケットKAが収容され、その取付けブラケットKAが締結壁面fc(締結部)に締結されることで、トレーリングアームの前側連結部fjがアーム取付け部A1に連結される。
取付けブラケットKAは、前側連結部fjの上方側を囲い、ブッシュ41の中心筒部材411(筒部材)の上端部に重合されて軸ボルト43が挿通可能な上側中央部421aを有する上側部材42aと、前側連結部fjの下方側を囲い、ブッシュ41の中心筒部材411(筒部材)の下端部に重合されて軸ボルト43が挿通可能な下側中央部421bを有する下側部材42bとから構成されている。
【0035】
上側部材42aは、ブッシュ41の径方向に延設され、上側中央部421aの両端に一対のフランジ部422を有するとともに上方に突出する略ハット型に形成される。下側部材42bは、ブッシュ41の径方向に延設され、下側中央部421bの両端に一対のフランジ部422を有するとともに下方に突出する略逆ハット型に形成される。
ここで、上下の中央部421a,421bには貫通穴gが形成されている。そこで、取付けブラケットKAは、上側部材42aの両端部のフランジ部422と下側部材42bの両端部のフランジ部422とを互いに重ね合わせた状態で、上側中央部421aと下側中央部421bとに挿通されると共にその間の中心筒部材411に貫通された軸ボルト43により互いに一体的に締結される。
【0036】
このように、取付けブラケットKAが一対のボルトVでアーム取付け部A1の締結壁面fcに締結されることで、トレーリングアーム5の前側連結部fjはブッシュ41を上下に貫通する軸ボルト43回りに、即ち、上下方向を向く縦向き中心線Lh回りに(図3(a)参照)枢着され、しかも、前後左右にブッシュ41の弾性変位域の範囲内で変位可能に締結される。
図2に示すように、アーム本体501の後側連結部rjはその後端部に玉継手であるボールジョイントbjが取付け支持され、その器状継手(不図示)内の中心の枢支点crをなす玉部が車軸側の下取付部17に締結される。
図1に示すように、トレーリングアーム5は、アーム軸線である揺動中心線Lrが後車輪Wと干渉しやすい位置で上下変動するよう配備されている。このためアーム本体501はその中央部を車体中央よりに湾曲形成され、車輪Wとの干渉を防止している。
【0037】
上述のところでは左側のサスペンション装置Sにつき主に説明したが、右側のサスペンション装置Sも左右対称の構成を採り、これら左右のサスペンション装置Sにより左右後車輪Wを適正に上下変位させ、適正な整列状態に保持する。
このような構成を採る図1の第1の実施形態としてのサスペンション取付構造を備えたサスペンション装置Sの挙動を説明する。
車両走行時に、車両が後車輪Wより路面反力を受けると、後車輪Wの車軸4を支持する車軸支持部9がリンク系rkの変位を伴い上下変動する。この際、路面反力はストラットRS側のスプリング30を圧縮させて吸収され、さらにスプリング30の反力で車軸支持部9側が上下に振動を生じるが、これをショックアブソーバ6によって減衰でき、これらの衝撃減衰機能により乗員の居住性を確保できる。
【0038】
このような車輪W側の車軸支持部9の上下変動の際、リンク系rkの一部をなすトレーリングアーム5は、前側連結部fjのブッシュ41内の中央であって縦向き中心線Lhと交差する部位cf(図2、図3参照)を基点とし、後側連結部rj側のボールジョイントbjの枢支点cr(図2参照)を揺動端とし、両者を結ぶ中心線Lrを中心に車軸支持部9に連動して上下に揺動する。同時にトレーリングアーム5は、車輪Wの前後方向Xの位置を規制し、しかも、リンク系rkと連動して車輪Wの車幅方向Yの位置及び車外側への変異を規制し、左右車輪Wを適正な整列状態に保持する機能を備える。
【0039】
このような、車両の後部のサスペンション装置Sでは、取付けブラケットKaがアーム取付け部A1の凹部m(収容域)内に保持され、一対の締結面fc間を連結した状態に締結される。このため、締結面fc間すなわちアーム取付け部A1の剛性を取付けブラケットKaにより向上させることができる。
また、トレーリングアーム5の前側連結部fjが下向きの凹部m(収容域)内に収容された状態となるので、車体フレーム1の下方側に取付けブラケットKaが大きく突出するようなことがなく、スペースを確保が容易となる。
更に、収容域が下壁部材に凹設された低壁部bpを有する下向きの凹部mであるので、下向きの凹部m回りの剛性をより強化できる。
【0040】
更に、左右のアーム取付け部A1の下向きの凹部m(収容域)内でトレーリングアーム5の前側連結部fjのブッシュ41が変位する際、前側連結部fjのブッシュ41内の中央であって縦向き中心線Lhと交差する部位cf(図2,図3参照)に向けて前後左右より荷重が加わる。この際、縦向き中心線Lhとの交差部位cfは下向きの凹部m(収容域)の開口部の近傍に位置する。このため、トレーリングアーム5の前側連結部fjからの荷重が取付けブラケットKaを締結するアーム取付け部A1の締結面fcに加わる場合に、荷重入力点が締結面fcとほぼ同等の位置であるので、締結面fcに取付けブラケットKa側から加わるモーメントを排除あるいは極小さく出来、この点でアーム取付け部A1の耐久性が向上する。
【0041】
更に、収容域が左右のアーム取付け部A1の凹部mとして形成され、凹部mに対しトレーリングアーム5の前側連結部fjを取付けるにあたり、ブッシュ41を上下に貫通する軸ボルト43の上下端を上下一対の取付けブラケット42,42の中央部421に挿通してから締結しており、両者の組み付け作業性が良い。更に、ブッシュ41を取付けブラケットKAに締結してから、一対の取付けブラケット42a,42bの左右のフランジ部422,422をボルトV(図6参照)により締結壁面fcの螺子穴n1に締結するので、従来行なわれていたように、締結ボルトの締結時にブッシュの中心穴の位置を車体側の目視が難しい螺子穴に位置合わせするというような作業の必要がなく、比較的容易に取付けでき、大幅に艤装性が向上した。
【0042】
次に、図3(b)を用いて、第1の実施形態で用いたアーム取付け部A1に代えて代用できる変形例としてのアーム取付け部A2の説明をする。
この場合、下壁部材101の車幅方向Yに沿って所定間隔を保って一対の膨出部dが形成され、それらの間に収容域を形成する貫通穴qが形成され、その貫通穴qの開口の周縁に屈曲部Uを形成する。この変形例では、図3(a)に記載の低壁部bpが排除されており、貫通穴q(収容域)の大きさを容易に拡大できる。このため、取付けブラケットKa’をより貫通穴q(収容域)のより奥側(図中上側となる符号dp方向参照)に設定可能であるので、取付けブラケットKa’が下方に過度に突き出ることが無い。この点で、取付けブラケットKa’の形状の自由度が増加するし、アーム取付け部A2側のレイアウト上の自由度も高くなる。
【0043】
次に、図7(a)に、上述の第1の実施形態で用いた取付けブラケットKに代えて使用できる変形例としての取付けブラケットKBの説明をする。
【0044】
ここでの取付けブラケットKBは左右同様に形成され、ここでは左側を代表して説明する。
図8に示すように、取付けブラケットKBが締結されるアーム取付け部A3は、一対に設けた締結面fc、fcの他に、螺子穴を有する第2の締結面fcfを備える。ここで、取付けブラケットKBは、第2の締結面fcfにボルトVにより締結される第2のフランジ部422fを備える。
【0045】
図7(a)に示すように、この取付けブラケットKBは、前側連結部fjの上方側を囲い、ブッシュ41の中心筒部材411(筒部材)の上端部に重合されて軸ボルト43が挿通可能な上側中央部421aを有する上側部材42afと、前側連結部fjの下方側を囲い、ブッシュ41の中心筒部材411(筒部材)の下端部に重合されて軸ボルト43が挿通可能な下側中央部421bを有する下側部材42bfとから構成される。
上側部材42afは、ブッシュ41の径方向に延設され、上側中央部421afの両端に一対のフランジ部422と、この一対に設けたフランジ部422の他にこれより直行方向に延びる第3フランジ部422fとを分岐して三又状を成して一体形成される。
【0046】
下側部材42bfは、ブッシュ41の径方向に延設され、下側中央部421bfの両端に一対のフランジ部422と、この一対に設けたフランジ部422の他にこれより直行方向に延びる第3フランジ部422fとを分岐して三又状を成して一体形成される。
ここで、上下側部材42af、42bfのそれぞれの延出端の上下3つのフランジ部422、422、422fが互いに重ねられ、これらが下壁部材101に形成された下向きの凹部mの回りの三点の締結壁fc、fc、fcf(図8参照)に下方から重ねられ、それぞれが対向する締結壁面の中央に設けた螺子穴n1にボルトVにより締結される。
【0047】
このような変形例としての取付けブラケットKBを用いた場合、取付けブラケットKBを成す上下一対の上下側部材42af、42bfに支持されたトレーリングアーム5の前側連結部fjをより確実に支持でき、耐久性良く取付けできる。
なお、場合により上下一対の各上下側部材(不図示)を最中状体とし、その一部側壁に前側連結部fjを遊嵌する切欠部を設けた形状とし、上下側部材の周囲の多数箇所を螺子穴にボルト締結しても良く、その場合も、前側連結部fjをより確実に支持でき、耐久性良く取付けできる。
【0048】
なお、本発明者はトレーリングアーム5の前側連結部fjにおける強度および剛性比較を行った。ここでは、図9(a)〜(c)に示すように、サイドフレーム(車体フレーム)1の各構成を代えた場合におけるアーム取付け部A1に下向きに100(N)の負荷を加え、その場合の剛性値の解析を同一トレーリングアーム5を用い行なった。
ここでは、同一形状のサイドメンバ1の下向きの下壁部材101に対し、貫通穴qを形成した場合(図9(a)の場合)の剛性が5912(N/mm)となり、凹部mを形成した場合(図9(b)の場合)の剛性が7693(N/mm)となり、図9(c)に示すように、下壁部材101より屈曲ブラケットBKを延出し、軸ボルト43の下端を片持ちした場合の剛性が2754(N/mm)との結果が得られた。このような解析結果のデータより、図9(c)の従来構造に対して、本発明が適用された、図9(a)、(b)の各場合の剛性が十分に高く保持されたことが明らかとなった。
【0049】
上述のところで、車体フレームをサイドフレーム1,2として説明したが、サイドフレーム1,2の車外側側方に突出するサイドフレーム膨出部(不図示)としても良い。その場合、サイドフレーム膨出部(不図示)の下壁部にアーム取付け部が形成され、そのサイドフレーム膨出部にトレーリングアームの前側連結部を連結でき、この場合も、図1の第1実施形態の場合とほぼ同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0050】
1、2 サイドフレーム(車体フレーム)
3 剛性枠組体
4 車軸
5 トレーリングアーム
9 車軸支持部
101 下壁部材
41 ブッシュ
411 中心筒部材
42 取付けブラケット
422 重合端部
43 軸ボルト
bp 低壁部
fc 締結壁面
fj 前側連結部
m 凹部(収容域)
n1 螺子穴
q 穴(収容域)
rj 後側連結部
v ボルト
A1、A2 アーム取付け部
S サスペンション装置
W 車輪
X 前後方向
Y 車幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に延在されて、前端部が車体フレームに連結され、後方側が車輪を支持する車軸支持部に連結されるトレーリングアームを備えるサスペンション装置において、
前記トレーリングアームの前記前端部に形成され、円筒状のブッシュが一体に設けられる前側連結部と、
前記車体フレームの下壁部に形成され、車両下方に開口して前記前側連結部が収容される収容域と、同収容域を挟んで一対で設けられるとともにそれぞれ螺子穴が形成された締結面とを有するアーム取付け部と、
前記前側連結部を上下から囲むように配設されて前記ブッシュが枢支されるとともに前記アーム取付け部の前記締結面に締結される取付けブラケットとを備え、
前記前側連結部は、前記取付けブラケットを前記締結面にボルトにより締結することで、前記アーム取付け部に連結され、
前記取付けブラケットは、前記締結面に締結された状態で、前記収容域内に配置されて前記締結面間を連結する
ことを特徴とするサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造。
【請求項2】
前記ブッシュは、円筒状の中心軸方向に沿って軸ボルトが挿通可能な筒部材を備え、同筒部材に挿通される軸ボルトを介して前記取付けブラケットに枢支された状態で締結される
ことを特徴とする請求項1記載のサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造。
【請求項3】
前記ブッシュは、前記筒部材が車両の上下方向に延びるよう設けられ、
前記取付けブラケットは、前記前側連結部の上方側を囲い、前記筒部材の上端部に重合されて軸ボルトが挿通可能な上側中央部を有する上側部材と、前記前側連結部の下方側を囲い、前記筒部材の下端部に重合されて軸ボルトが挿通可能な下側中央部を有する下側部材とから構成されており、
前記上側部材は、前記ブッシュの径方向に延設され、前記上側中央部の両端に一対のフランジ部を有するとともに上方に突出する略ハット型に形成されており、
前記下側部材は、前記ブッシュの径方向に延設され、前記下側中央部の両端に一対の前記フランジ部を有するとともに下方に突出する略逆ハット型に形成されており、
前記取付けブラケットは、前記上側部材の両端部の前記フランジ部と前記下側部材の両端部の前記フランジ部とを互いに重ね合わせた状態で、前記上側中央部と前記下側中央部とが前記軸ボルトにより前記ブッシュに締結されて前記前側連結部に組み付けられ、前記上側部材と前記下側部材の両端部で重ね合わせた前記フランジ部が、前記アーム取付け部の前記締結部に重ねられてボルトにより締結される
ことを特徴とする請求項2記載のサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造。
【請求項4】
前記アーム取付け部は、一対に設けた前記締結面の他に、螺子穴を有する第2の締結面を備え、前記取付けブラケットは、前記第2の締結面にボルトにより締結される第2のフランジ部を備える
ことを特徴とする請求項3および4記載のサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造。
【請求項5】
前記収容域は、前記車体フレームの下壁部に上方に凹設されて下向きに開口する凹部であり、前記前側連結部が前記凹部内に収容されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造。
【請求項6】
前記収容域は、前記車体フレームの下壁部に開口されて前記車体フレーム内部と連通される穴部であり、前記前側連結部が前記車体フレーム内部に収容されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のサスペンション装置のトレーリングアーム取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−76703(P2012−76703A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225941(P2010−225941)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】