説明

サスペンション部材およびサスペンション装置

【課題】重心位置に偏りがある車両における制動時の安定性をより簡単な構成で向上させることができる技術を提供する。
【解決手段】サスペンション部材としてのサブフレーム30は、右車輪102Rおよび左車輪102Lが連結されるとともに、車体に連結される。また、サブフレーム30は、車両の重心位置に基づいて車体に対して車幅方向に位置を調節可能である。また、サスペンション装置1は、上述の構成を有するサブフレーム30と、サブフレーム30を車幅方向に変位させるための変位部と、変位部によるサブフレーム30の変位を制御する制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンション装置を構成するサスペンション部材と、当該サスペンション部材を備えたサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には制動時の安定性が求められる。これに対し、例えば特許文献1には、車両重心の左右方向のずれに起因して制動時に生じる車両の偏向を、左右輪に付与する制動力の差、あるいは前後輪の操舵により発生させるヨーモーメントによって低減する方法が開示されている。この方法では、車両の直進制動時の減速度を取得し、取得した減速度に応じて車両重心のずれによるヨーモーメントの低減に必要なヨーモーメントを求め、得られたヨーモーメントが発生するように左右輪に制動力差を付与し、あるいは前後輪を操舵していた。
【0003】
また、特許文献2には、左側の前後輪の制動力の和と右側の前後輪の制動力の和とが均等になるように各車輪に制動力を配分することで、直進制動時のヨーモーメントの発生を回避する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−037259号公報
【特許文献2】特開平05−262213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に開示された方法では、左右輪の制動力を異ならせる構成、前後輪を運転者の操舵とは独立に転舵可能とする構成、車両の減速度に応じて発生させる左右輪の制動力差あるいは舵角を制御する構成等が必要であった。また、特許文献2に開示された方法では、各車輪にそれぞれ独自の比率で制動力を配分する構成が必要であった。したがって、従来の方法では、その方法を実現するための構成が複雑であるという課題があった。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、重心位置に偏りがある車両における制動時の安定性をより簡単な構成で向上させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のサスペンション部材は、車輪が連結されるとともに、車体に連結されるサスペンション部材であって、車両の重心位置に基づいて車体に対して車幅方向に位置を調節可能であることを特徴とする。
【0008】
この態様によれば、重心位置に偏りがある車両における制動時の安定性をより簡単な構成で向上させることができる。
【0009】
本発明の他の態様はサスペンション装置である。このサスペンション装置は、上述した態様のサスペンション部材と、前記サスペンション部材を車幅方向に変位させるための変位部と、前記変位部による前記サスペンション部材の変位を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。この態様によっても重心位置に偏りがある車両における制動時の安定性をより簡単な構成で向上させることができる。
【0010】
上記態様において、左右輪に対応して前記サスペンション部材と車体との間に設けられた一対のサスペンションばねを備え、前記変位部は、車両の重心位置の車幅方向における偏りによって生じる前記一対のサスペンションばね間の荷重差を用いて、前記サスペンション部材を車幅方向に変位させてもよい。この態様によれば、重心位置の変化に追従したサスペンション部材の車幅方向の位置調節を、製造コストの上昇を抑えながら実現することができる。
【0011】
また、上記態様において、前記変位部は、前記一対のサスペンションばね間の荷重差に応じた前記サスペンション部材の車幅方向の変位を許容する状態と抑制する状態とを切り替え可能な変位許容部を有し、前記制御部は、前記変位許容部の状態を切り替えて前記サスペンション部材の変位を制御してもよい。この態様によれば、車両の操舵安定性の低下を防ぎながら車両の制動時の安定性を向上させることができる。
【0012】
また、上記態様において、前記制御部は、車速が所定のしきい値を超えた場合に前記変位許容部を前記抑制する状態に切り替えてもよい。この態様によれば、車両の操舵安定性の低下を防ぎながら車両の制動時の安定性を向上させることができる。
【0013】
また、上記態様において、前記変位部は、前記サスペンション部材を車幅方向に変位させるためのアクチュエータを有し、前記制御部は、前記アクチュエータの駆動を制御して前記サスペンション部材の変位を制御してもよい。この態様によれば、重心位置が変化した場合であっても変化した重心位置に合わせてサスペンション部材の位置を変位させることができる。
【0014】
また、上記態様において、前記制御部は、左右輪それぞれの接地荷重を検知する接地荷重センサで検知された左右輪の接地荷重と、車両にかかる横加速度を検知する横加速度センサで検知された横加速度とを用いて車両の重心位置の車幅方向における偏りを取得し、取得した偏りに応じて前記アクチュエータの駆動を制御してもよい。この態様によれば、サスペンション部材の車幅方向の中心と重心位置とのずれを高精度に補正することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、重心位置に偏りがある車両における制動時の安定性をより簡単な構成で向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(A)、および図1(B)は、実施形態1に係るサスペンション部材を備えたサスペンション装置の概略平面図である。
【図2】図2(A)、および図2(B)は、サブフレームの位置を車体に対して車幅方向に調節可能としたことによる作用効果を説明するための模式図である。
【図3】図3(A)、および図3(B)は、変形例1に係るサスペンション部材を備えたサスペンション装置の概略平面図である。
【図4】図4(A)、および図4(B)は、実施形態2に係るサスペンション装置の構成を説明するための模式図である。
【図5】変位許容部の主要部分の構成を示す概略図である。
【図6】図6(A)は、実施形態3に係るサスペンション装置の構成を説明するための模式図であり、図6(B)は、横加速度と接地荷重左右差との関係を示す図である。
【図7】実施形態3に係るサスペンション装置の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0018】
(実施形態1)
図1(A)、および図1(B)は、実施形態1に係るサスペンション部材を備えたサスペンション装置の概略平面図である。図1(A)は、サスペンション装置が右ハンドル車の車体に連結された状態を示し、図1(B)は、サスペンション装置が左ハンドル車の車体に連結された状態を示している。なお、図1(A)、および図1(B)に示すサスペンション装置は、サブフレーム方式のサスペンション装置であって、前輪側に設けられた状態を示している。また、図1(B)では、サスペンションアーム、ナックルおよび車輪の図示を省略している。以下では、主に図1(A)を参照して本実施形態に係るサスペンション装置について説明する。
【0019】
図1(A)に示すように、本実施形態に係るサスペンション装置1は、車体に対して車輪を懸架するためのものであり、主な構成としてナックル10、サスペンションアーム20、およびサスペンション部材としてのサブフレーム30を備える。
【0020】
ナックル10は、右車輪102R、および左車輪102L(以下適宜、右車輪102Rおよび左車輪102Lを総称して車輪102と称する)を回転自在に支持する部材である。ナックル10は、右車輪102R、および左車輪102Lのそれぞれに対応して1つずつ設けられている。ナックル10の中央部には車輪102を支持するアクスルハブ(図示せず)が連結され、ナックル10によりアクスルハブが回転可能に支持されている。
【0021】
サスペンションアーム20は、車幅方向外側に延びる端部がボールジョイント等を介してナックル10に連結され、車幅方向内側、すなわち車体側に延びる端部がサブフレーム30に連結されている。
【0022】
サブフレーム30は、車輪102が連結されるとともに、車体に連結される部材である。具体的には、サブフレーム30の車幅方向両端部にサスペンションアーム20が連結されており、このサスペンションアーム20とサスペンションアーム20に連結されたナックル10とを介して車輪102がサブフレーム30に連結されている。また、サブフレーム30には、例えば車幅方向両端部に、サブフレーム30の車体への連結に用いられる連結孔32が設けられている。本実施形態では、サブフレーム30の車幅方向両端部に連結孔32がそれぞれ2つずつ設けられており、各端部において2つの連結孔32の一方が車両前方側に設けられ、他方が車両後方側に設けられている。また、車体側の部材であるサイドメンバ104には、サブフレーム30の連結孔32に対応する位置に、連結孔106が設けられている。サブフレーム30は、連結孔32がサイドメンバ104に設けられた連結孔106と重なるように配置され、連結孔32および連結孔106にボルト等の締結部材(図示せず)が挿通されることによって、車体のサイドメンバ104に連結される。
【0023】
ここで、サブフレーム30に設けられた複数の連結孔32は、それぞれ長孔であり、長孔の長手方向が車幅方向に平行になるように設けられている。したがって、本実施形態に係るサブフレーム30は、車体に対して車幅方向に位置を調節可能である。図1(A)に示す状態では、サブフレーム30が車体に対して車幅方向右寄りに位置している。そのため、車両前後方向に延びる幾何的な車体の中心線Mに対して、車両前後方向に延びるサブフレーム30の中心線Nが車幅方向右側に位置している。なお、サブフレームの中心線Nは、右車輪102Rと左車輪102Lの中心間距離であるトレッドの中心線に相当する。車体に対するサブフレーム30の位置の車幅方向変位量は、例えば中心線Mと中心線Nとの距離が10mm〜20mmとなる量である。
【0024】
このように、サブフレーム30の位置を車体に対して車幅方向に調節可能とすることで、次のような作用効果を奏することができる。図2(A)、および図2(B)は、サブフレームの位置を車体に対して車幅方向に調節可能としたことによる作用効果を説明するための模式図である。図2(A)は、重心位置が車幅方向右側に偏った車両において車体の中心線Mとサブフレーム30の中心線Nとが一致した従来の構成を示している。図2(B)は、重心位置が車幅方向右側に偏った車両においてサブフレーム30の中心線Nが車体の中心線Mよりも車両の重心位置寄りに配置された本実施形態の構成を示している。
【0025】
車両は、その構造上あるいは乗車する人員や積載する荷物の配置等に起因して、重心位置が幾何的な車体中心から車幅方向にずれる場合がある。例えば、一般に右ハンドル車では重心位置は右寄りとなり、左ハンドル車では重心位置は左寄りとなる。図2(A)に示す従来の構成では、車両100の重心位置Gが車幅方向右側に偏っている。また、右車輪102Rおよび左車輪102Lが車体の中心線Mに対して均等に配置されており、車体の中心線Mとトレッドの中心線Nとが一致している。このように、重心位置Gが車体の中心線Mから右側にずれ、かつトレッドの中心線Nが車体の中心線Mと一致した状態では、右車輪102Rから重心位置Gまでの車幅方向距離aが、左車輪102Lから重心位置Gまでの車幅方向距離bよりも小さくなる。したがって、右車輪102Rの制動力によって重心周りに発生するヨーモーメントYMRのアーム長が左車輪102Lの制動力によって重心周りに発生するヨーモーメントYMLのアーム長よりも短くなるため、右車輪102Rおよび左車輪102Lに同じ大きさの制動力が発生した際にヨーモーメントYMRがヨーモーメントYMLよりも小さくなる。その結果、車両100を左方向に偏向させるヨーモーメントが発生し、車両100が左方向(図2(A)中の矢印c方向)に偏向してしまう。
【0026】
これに対し、本実施形態では、サブフレーム30の位置を車体に対して車幅方向に調節して、図2(B)に示すように、トレッドの中心線Nを車体の中心線Mよりも重心位置Gに近づけている。これにより、右車輪102Rから重心位置Gまでの車幅方向距離aと、左車輪102Lから重心位置Gまでの車幅方向距離bとの差を小さくすることができ、したがって、右車輪102Rの制動力によるヨーモーメントYMRのアーム長と左車輪102Lの制動力によるヨーモーメントYMLのアーム長との差を小さくすることができる。その結果、ヨーモーメントYMRとヨーモーメントYMLとの差が小さくなるため、車両100が左方向に偏向してしまうことを抑制することができる。
【0027】
図1(A)に示すように、サブフレーム30の車幅方向右側の端部には位置決め孔34aが、車幅方向左側の端部には位置決め孔34bがそれぞれ配置されている。また、車幅方向右側のサイドメンバ104には位置決めピン108aが、車幅方向左側のサイドメンバ104には位置決めピン108bがそれぞれ配置されている。位置決め孔34a,34bおよび位置決めピン108a,108bは、位置決め孔34aと位置決め孔34bの車幅方向の間隔が位置決めピン108aと位置決めピン108bの車幅方向の間隔よりも大きくなるように配置されている。このような構成において、図1(A)に示すように、サブフレーム30の中心線Nが車体の中心線Mよりも右側に位置するようにサブフレーム30をサイドメンバ104に取り付ける場合には、位置決め孔34aに位置決めピン108aが挿入されて、サブフレーム30とサイドメンバ104の位置決めがなされる。一方、図1(B)に示すように、サブフレーム30の中心線Nが車体の中心線Mよりも左側に位置するようにサブフレーム30をサイドメンバ104に取り付ける場合には、位置決め孔34bに位置決めピン108bが挿入されて、サブフレーム30とサイドメンバ104の位置決めがなされる。
【0028】
また、サブフレーム30には、ステアリング装置50のステアリングラック52を連結するための連結孔36が設けられており、ステアリングラック52が連結されている。ステアリングラック52には、ステアリングホイール(図示せず)から延びるステアリングシャフト54が連結されている。ステアリングラック52のラックエンドには、タイロッド56(ステアリングロッド)の一端が連結されている。タイロッド56の他端はナックル10に接続されている。ステアリングホイールから入力される操舵トルクは、ステアリングシャフト54を介してステアリングラック52に伝達され、ステアリングラック52においてステアリングホイールの回転運動が車幅方向の直線運動に変換されて、タイロッド56に伝達される。そして、タイロッド56の運動によってナックル10が揺動し、キングピン軸を中心に車輪102が転舵される。
【0029】
また、サスペンション装置1は、下端部がナックル10に連結され、上端部が車体に連結されたショックアブソーバと、ショックアブソーバの周囲に設けられたコイルスプリング(サスペンションばね)とを備える(ともに図示せず)。
【0030】
車体に対するサブフレーム30の車幅方向の調節は、例えば次のように実施することができる。すなわち、上述のように一般に右ハンドル車では重心位置は右寄りとなり、左ハンドル車では重心位置は左寄りとなる。そこで、サスペンション装置1の組み付け工程において、ハンドル位置に合わせてサブフレーム30を右寄りあるいは左寄りに組み付けることができる。図1(A)では、右ハンドル車においてサブフレーム30が右寄りに連結されている。図1(B)では、左ハンドル車においてサブフレーム30が左寄りに連結されている。なお、図1(B)に示すサスペンション装置1は、サブフレーム30が左寄りに連結され、位置決め孔34bに位置決めピン108bが連結され、ステアリングシャフト54がステアリングラック52に左寄りに連結されている点以外は、図1(A)に示すサスペンション装置1と同様の構造を有するため、詳細な説明は省略する。
【0031】
以上説明したように、本実施形態に係るサブフレーム30は、車両の重心位置Gに基づいて車体に対して車幅方向にその位置が調節されている。これにより、トレッドの中心線Nを車体の中心線Mよりも重心位置Gに近づけることができるため、右車輪102Rの制動力によって重心周りに発生するヨーモーメントYMRと左車輪102Lの制動力によって重心周りに発生するヨーモーメントYMLとの差を小さくすることができる。その結果、制動時に車両100が重心位置Gの偏りによって偏向してしまうことを防ぐことができる。すなわち、本実施形態では、サブフレーム30の車幅方向の位置を調節可能とし、ヨーモーメントのアーム長の左右差を小さくすることで車両の直進制動時の偏向を抑制している。したがって、従来に比べてより簡単な構成で、重心位置に偏りがある車両における制動時の安定性を向上させることができる。
【0032】
(変形例1)
実施形態1に係るサスペンション部材を備えたサスペンション装置1には、次のような変形例を挙げることができる。図3(A)、および図3(B)は、変形例1に係るサスペンション部材を備えたサスペンション装置の概略平面図である。図3(A)は、サスペンション装置が右ハンドル車の車体に連結された状態を示し、図3(B)は、サスペンション装置が左ハンドル車の車体に連結された状態を示している。なお、図3(B)では、サスペンションアーム、ナックルおよび車輪の図示を省略している。また、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明は適宜省略する。
【0033】
図3(A)、および図3(B)に示すように、変形例1に係るサスペンション部材としてのサブフレーム30では、自身の中心軸からずれた位置に貫通孔を有する偏心マウントブッシュ38が、平面視略真円状の連結孔32に圧入されている。図3(A)に示すように、サブフレーム30の位置を車幅方向右寄りとする場合には、偏心マウントブッシュ38は、貫通孔が連結孔32の中心軸よりも左寄りに位置するようにして連結孔32に圧入される。そして、偏心マウントブッシュ38の貫通孔とサイドメンバ104の連結孔106とが位置合わせされて、偏心マウントブッシュ38の貫通孔およびサイドメンバ104の連結孔106にボルト等の締結部材が挿通されることによって、サイドメンバ104にサブフレーム30が連結される。一方、図3(B)に示すように、サブフレーム30の位置を車幅方向左寄りとする場合には、偏心マウントブッシュ38は、貫通孔が連結孔32の中心軸よりも右寄りに位置するようにして連結孔32に圧入される。そして、偏心マウントブッシュ38の貫通孔とサイドメンバ104の連結孔106とが位置合わせされ、締結部材が挿通されることによって、サイドメンバ104にサブフレーム30が連結される。
【0034】
以上説明した変形例1の構成によっても実施形態1と同様の効果を奏することができる。また、本変形例では偏心マウントブッシュ38によってサブフレーム30とサイドメンバ104の位置決めが可能である。そのため、位置決め孔34a,34bと位置決めピン108a,108bを省略することができる。
【0035】
(実施形態2)
実施形態2に係るサスペンション装置1は、サスペンション部材を車幅方向に変位させるための変位部と、変位部による変位を制御する制御部と、を備える。以下、本実施形態について説明する。なお、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明および図示は適宜省略する。
【0036】
図4(A)、および図4(B)は、実施形態2に係るサスペンション装置の構成を説明するための模式図である。図4(A)に示すサスペンション装置1は、サスペンション部材としての車軸40を有するリジッドサスペンション装置であり、図4(B)に示すサスペンション装置1は、サスペンション部材としてのサブフレーム30を有するサブフレーム方式のサスペンション装置である。以下、主に図4(A)を参照しながら本実施形態に係るサスペンション装置1について説明する。
【0037】
図4(A)に示すように、本実施形態に係るサスペンション装置1は、主な構成として両端部に車輪102が連結された車軸40と、車軸40を車体101に対して車幅方向に変位可能に連結する変位部42と、変位部42を制御するECU200(制御部)とを備える。また、サスペンション装置1は、一対のサスペンションばね43R,43Lを備える。
【0038】
一対のサスペンションばね43R,43Lは、右車輪102Rおよび左車輪102Lに対応して車軸40と車体101との間に設けられている。本実施形態では、サスペンションばね43Rが右車輪102Rに対応して設けられ、その上端部が車体101に連結され、その下端部が車軸40の右側の端部に連結されている。また、サスペンションばね43Lが左車輪102Lに対応して設けられ、その上端部が車体101に連結され、その下端部が車軸40の左側の端部に連結されている。サスペンションばね43Rおよびサスペンションばね43Lは、それぞれの上端部の車幅方向の間隔がそれぞれの下端部の車幅方向の間隔よりも狭くなるように配置されている。したがって、サスペンションばね43Rおよびサスペンションばね43Lは、車両前後方向から見てハの字状に配置されている。
【0039】
変位部42は、サスペンション部材を車幅方向に変位させるためのものである。本実施形態では、変位部42は変位許容部44を有する。変位許容部44は、車体101に対する車軸40の車幅方向の変位を許容、抑制することができる部材であり、一端が車体101に連結され、他端が車軸40に連結されている。図5は、変位許容部の主要部分の構成を示す概略図である。図5に示すように、変位許容部44は、連結部45a,45bと、シリンダ46と、ピストンロッド47と、作動液迂回路48と、バルブ49とを有する。連結部45aは車体101に連結され、連結部45bは車軸40に連結されている。また、連結部45aにはシリンダ46が連結され、連結部45bにはピストンロッド47が連結されている。ピストンロッド47は、シリンダ46に進退可能に挿入されており、ピストンロッド47の先端に設けられたピストン47aによってシリンダ46の内部が第1室46aと第2室46bとに区画されている。また、シリンダ46には、作動液迂回路48を介して空気室46c(アキュムレータ)が連結されている。第1室46aおよび第2室46bには、作動液が充填されている。空気室46cには、空気室46cの内圧に応じた量の作動液を収容することができる。空気室46cは、内圧の調節によって作動液の収容容積を変更可能であり、空気ばね室(ばね要素)として機能させることができる。空気室46cの内圧調節は、例えば後述するECU200によって実施される。また、第2室46bには、コイルスプリング47bが収容されている。コイルスプリング47bは、ピストンロッド47の外周においてピストンロッド47と同軸的に配置されており、一端がピストン47aに当接し、他端が第2室46bの内壁面に当接している。また、シリンダ46には、第1室46aと第2室46bとを、ピストン47aを迂回して連通する作動液迂回路48が設けられている。作動液迂回路48の途中には、バルブ49が設けられている。バルブ49は、例えば非通電状態にある場合に閉弁状態とされ、規定の制御電流の供給を受けて開弁状態とされる常閉型電磁制御弁である。
【0040】
このような構成において、バルブ49が開状態で、車体101と車軸40の変位によって車体101に連結された連結部45aと車軸40に連結された連結部45bとが近づく方向に変位した場合、ピストンロッド47がシリンダ46内に進入する。ピストンロッド47がシリンダ46内に進入すると、ピストン47aの変位によって第1室46aの容積が小さくなり、第2室46bの容積が大きくなる。第1室46a内の作動液は、容積の変化にともなって作動液迂回路48を経由して第2室46bに移動する。一方、バルブ49が開状態で、車体101と車軸40の変位によって連結部45aと連結部45bとが離れる方向に変位した場合、ピストンロッド47がシリンダ46内から退出し、第1室46aの容積が大きくなり、第2室46bの容積が小さくなる。第2室46b内の作動液は、容積の変化にともなって作動液迂回路48を経由して第1室46aに移動する。ピストンロッド47の進入にともなうシリンダ46内の容積減少は、作動液の一部がシリンダ46から空気室46cへ流入することにより補償され、ピストンロッド47の退出にともなうシリンダ46内の容積増加は、作動液の一部が空気室46cからシリンダ46へ流入することにより補償される。バルブ49が閉状態である場合は、作動液迂回路48を経由した作動液の移動が抑制されるため、ピストンロッド47とシリンダ46の相対変位が抑制される。そのため、車体101と車軸40の車幅方向の相対変位が抑制される。
【0041】
したがって、本実施形態に係るサスペンション装置1では、変位許容部44を介して車軸40が車体101に取り付けられることで、サスペンション部材である車軸40の位置を車体101に対して車幅方向に調節可能となっている。そして、変位許容部44は、バルブ49の開閉状態を切り替えることで、車体101に対する車軸40の車幅方向の変位を許容する状態と抑制する状態とを切り替え可能である。
【0042】
ECU200は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータを主体として構成される電子制御ユニットであり、変位部42による車軸40の変位を制御する。ECU200のROMには、各種のプログラムやデータ等が記憶されている。なお、ECU200は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。ECU200は、変位許容部44のバルブ49の開閉状態、および空気室46cの内圧を制御し、これにより変位許容部44の状態を切り替えて車軸40の変位を制御する。
【0043】
このような構成のサスペンション装置1を備えた車両において、図4(A)に示すように、例えば重心位置Gが幾何的な車体101の中心線Mよりも左側にある場合、サスペンションばね43Rによって生じるばね荷重rよりもサスペンションばね43Lによって生じるばね荷重lの方が大きくなる。そのため、サスペンションばね43Rとサスペンションばね43Lとによって、重力gとつり合う上方向の分力Fzと、右方向の分力Fyとが生じる。したがって、車体101には車体101を右方向に変位させようとする分力Fyがかかる。
【0044】
そこで、本実施形態では、この右方向の分力Fyを利用して車体101を右方向に移動させることで、トレッドの中心と重心位置Gとを近づけることとした。ここで、右方向の分力Fyは、車体101の中心線Mからの重心位置Gのずれ量、すなわち重心オフセット量をeとし、車体101の横変位量をyとすると、以下の式(1)で表すことができる。
【0045】
【数1】

【0046】
なお、式(1)における重心オフセットに対する分力の感度と、車体の横変位に対する分力の感度は、サスペンション装置1の構成や車両諸元から決定することができる。
【0047】
ここで、変位許容部44のシリンダとピストンとで1つのばねが構成されているとみなした場合、変位許容部44の空気室46cの容積とコイルスプリング47bのばね定数とにより、このばねのばね定数kを変更することで、分力Fyによる車体101の変位量を調節することができる。すなわち、分力Fyとその反力とは、力の釣り合いから以下の式(2)で表すことができる。
Fy=k・y ・・・(2)
【0048】
これを式(1)に組み込むと、ばね定数kが以下の式(3)で表される値となったときに、y=eとなることが分かる。
【0049】
【数2】

【0050】
すなわち、変位許容部44のばね定数kを式(3)に示す値となるように調節することで、車体101の横変位量yと重心オフセット量eとが一致する位置で分力Fyとその反力k・yとを釣り合せることができる。言い換えれば、変位許容部44のばね定数kを調節することで、重心位置Gの偏りによってサスペンションばね43R,43L間に生じる接地荷重差を利用して重心位置Gをトレッドの中心に近づくように変位させることができる。
【0051】
このように、変位部42は、車両の重心位置Gの車幅方向における偏りによって生じる、一対のサスペンションばね43R,43L間の荷重差を用いて、車軸40を車幅方向に変位させている。すなわち、車体101を持ち上げ支持する荷重の左右分力の差によって車体101が車幅方向に変位すること許容することで、左右輪の中心に重心位置Gが近づく方向に車体101を変位させている。これにより、重心位置Gと左右輪の幅方向の距離差が自己補正されて縮小し、制動中の進路偏向の原因となるヨーモーメントの発生を抑えることができる。そして、その結果、車両の制動時における安定性を向上させることができる。
【0052】
また、ECU200は、車速が所定のしきい値を超えた場合に変位許容部44を、車軸40の車幅方向の変位を抑制する状態に切り替える。変位許容部44が車軸40の変位を許容する状態となっている場合、車体101が車輪102およびサスペンション装置1に対して車幅方向に変位しやすくなる。そのため、例えば車両の旋回時に重心位置Gに作用する遠心力によって車体101が左右方向に変位してしまう。特に、車速が速いほど操舵等によって車体101が左右方向に移動する可能性が高くなる。そこで、ECU200は、車速が所定のしきい値を越えた場合に変位許容部44を抑制状態に切り替えることとした。これにより、重心位置Gのずれが低減された状態を維持できるとともに、車両の操舵安定性の低下を防ぐことができる。
【0053】
なお、前記「しきい値」は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することができる。また、変位許容部44の許容状態と抑制状態とを切り替える基準は、車速に限定されず、例えばシフトレンジがドライブレンジである場合に抑制状態とし、他のレンジである場合に許容状態としてもよい。あるいは、車両に搭載されたナビゲーションシステムなどから車両の走行道路情報を取得して、直線道路などの車両に横加速度がかかる可能性が低い道路を車両が走行中である場合に許容状態とし、曲線道路などの車両に横加速度がかかる可能性が高い道路を車両が走行中である場合に抑制状態としてもよい。
【0054】
本実施形態に係るサスペンション装置1は、図4(B)に示すようなサブフレーム方式のサスペンション装置であってもよい。このサスペンション装置1は、サスペンション部材としてのサブフレーム30と、右車輪102Rおよび左車輪102Lを回転自在に支持するナックル(図示せず)と、ナックルおよびサブフレーム30に連結されるサスペンションアーム20とを備える。また、サスペンション装置1は、サブフレーム30を車体101に対して車幅方向に変位可能に連結する変位部42と、変位部42を制御するECU200とを備える。変位部42は、変位許容部44を有する。さらに、サスペンション装置1は、車体101に対するサブフレーム30の車幅方向変位を許容しながらサブフレーム30を車体101に連結する連結部材39を有する。
【0055】
また、サスペンション装置1は、右車輪102Rおよび左車輪102Lに対応してサブフレーム30と車体101との間に設けられた一対のサスペンションばね43R,43Lを備える。本実施形態では、サスペンションばね43Rが右車輪102Rに対応して設けられ、その上端部が車体101に連結され、その下端部が右車輪102R側のナックルに連結されている。また、サスペンションばね43Lが左車輪102Lに対応して設けられ、その上端部が車体101に連結され、その下端部が左車輪102L側のナックルに連結されている。
【0056】
図4(B)に示すサスペンション装置1では、変位許容部44の一方の連結部がサブフレーム30に連結されている。それ以外の変位許容部44の構成と、サスペンションばね43R,43L間の荷重差を用いたサブフレーム30の車幅方向調節とは、図4(A)に示すサスペンション装置1と同様であるため、その説明は省略する。
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係るサスペンション装置1は、サスペンション部材としての車軸40あるいはサブフレーム30を車幅方向に変位させるための変位部42と、変位部42によるサスペンション部材の変位を制御するECU200とを備える。そのため、例えば乗員や積載した荷物の配置によって重心位置Gが変化した場合であっても、サスペンション部材の位置を車幅方向に調節してトレッドの中心を重心位置Gに近づけることができる。したがって、重心位置Gに偏りがある車両における制動時の安定性をより向上させることができる。また、サスペンション部材を車幅方向に変位させることで、重心位置Gの偏りに起因して車両の制動時に発生する偏向ヨーモーメントを低減しているため、従来の構成に比べてより簡単な構成で車両の制動時における安定性を高めることができる。
【0058】
また、本実施形態に係るサスペンション装置1において、変位部42は、重心位置Gの偏りによって生じるサスペンションばね43R,43L間の荷重差を利用してサスペンション部材を車幅方向に変位させている。そのため、サスペンション部材の位置を車幅方向に変位させるための駆動機構を設けることなくサスペンション部材を車幅方向に変位させることができる。したがって、重心位置Gの変化に追従したサスペンション部材の車幅方向の位置調節を、製造コストの上昇を抑えながら実現することができる。
【0059】
また、変位部42は、一対のサスペンションばね43R,43L間の荷重差に応じたサスペンション部材の変位を許容する状態と抑制する状態とを切り替え可能な変位許容部44を有する。そして、ECU200が変位許容部44の状態を切り替えている。そのため、例えば車両に横加速度がかかる可能性が高い状況では、変位許容部44を抑制状態として車体101の車幅方向の変位を防ぎ、車両に横加速度がかかる可能性が低い状況では、変位許容部44を許容状態として重心位置Gの変化に柔軟に対応することができる。例えば、ECU200は、車速が所定のしきい値を超えた場合に変位許容部44を抑制状態に切り替える。これにより、車両の操舵安定性の低下を防ぎながら車両の制動時の安定性を向上させることができる。
【0060】
なお、上述した変位許容部44では、主にシリンダ46、ピストンロッド47、作動液迂回路48、およびバルブ49が車体101と車軸40の変位ロック機構として機能し、主にコイルスプリング47b、および空気室46cがばね定数を変更可能なばね要素として機能しているが、変位許容部44の構成は特にこれに限定されず、変位ロック機構とばね要素とを備えた従来公知の他の構成を採用することができる。
【0061】
(実施形態3)
実施形態3に係るサスペンション装置1は、変位部42がサスペンション部材を車幅方向に変位させるためのアクチュエータを備えている。以下、本実施形態について説明する。なお、実施形態1または2と同様の構成については同一の符号を付し、その説明および図示は適宜省略する。
【0062】
図6(A)は、実施形態3に係るサスペンション装置の構成を説明するための模式図であり、図6(B)は、横加速度と接地荷重左右差との関係を示す図である。図7は、実施形態3に係るサスペンション装置の制御を示すフローチャートである。図6(A)に示すように、本実施形態に係るサスペンション装置1は、サスペンション部材としてのサブフレーム30と、右車輪102Rおよび左車輪102Lを回転自在に支持するナックル(図示せず)と、ナックルおよびサブフレーム30に連結されるサスペンションアーム20とを備える。また、サスペンション装置1は、サブフレーム30を車体101に対して車幅方向に変位可能に連結する変位部42と、変位部42を制御するECU200とを備える。
【0063】
変位部42は、サブフレーム30を車幅方向に変位させるためのものであり、本実施形態では、変位部42はサブフレーム30を車幅方向に変位させるためのアクチュエータ60を有する。アクチュエータ60は、サブフレーム30に連結された本体部62と、車体101に連結されるとともに本体部62に挿通されたロッド64とを備える。アクチュエータ60は、電磁モータなどにより本体部62に対してロッド64を車幅方向に変位させることができる。したがって、本実施形態に係るサスペンション装置1では、アクチュエータ60を介してサブフレーム30が車体101に取り付けられることで、サスペンション部材であるサブフレーム30が車体101に対して車幅方向に位置を調節可能となっている。
【0064】
ECU200は、変位部42によるサブフレーム30の変位を制御する。本実施形態では、ECU200は、アクチュエータ60の駆動を制御することで、車両の重心位置Gに基づいてサブフレーム30の変位を制御する。
【0065】
また、本実施形態では、ECU200が車両の重心位置Gの車幅方向における偏りを次のようにして算出する。すなわち、ECU200は、右車輪102Rの接地荷重を検知する接地荷重センサ70Rで検知された右車輪102Rの接地荷重Wrと、左車輪102Lの接地荷重を検知する接地荷重センサ70Lで検知された左車輪102Lの接地荷重Wlとを取得する。ここで、左右輪の接地荷重には、車両の重心位置Gが左右輪の中心線Nからずれることで差が生じ得る。また、左右輪の接地荷重には、路面の傾斜や旋回にともなう荷重移動によっても差が生じ得る。
【0066】
そこで、ECU200は、車体101にかかる横加速度を検知する横加速度センサ72で検知された横加速度αを取得する。そして、ECU200は、左右輪の接地荷重差Wr−Wlから、横加速度αにより推定される路面傾斜や旋回に基づく接地荷重差を差し引いて、重心位置Gのずれに基づく接地荷重差を抽出する。そして、重心位置Gのずれに基づく接地荷重差から重心位置Gのずれ量を取得し、このずれ量をアクチュエータ60の変位目標値としてアクチュエータ60を駆動して、重心位置Gがトレッドの中心に近づくように車体101とサブフレーム30の相対位置を調節する。
【0067】
以下、図7のフローチャートを参照しながらECU200によるサブフレーム30の変位制御について説明する。この制御フローは、例えばイグニッションがオンされると所定の時間間隔で継続的に実行される。まず、ECU200は、ROMに記憶されている右車輪102Rの接地荷重Wr、左車輪102Lの接地荷重Wl、および横加速度αを削除する(ステップ101:以下S101と略記する。他のステップも同様)。
【0068】
続いて、ECU200は、右車輪102Rの接地荷重Wr、左車輪102Lの接地荷重Wl、および横加速度αを所定の間隔で繰り返しサンプリングしてROMに記憶する(S102)。接地荷重Wr,Wlおよび横加速度αは、路面アンジュレーション(路面の起伏)などの影響で変動するため、時間平均をとったりローパスフィルタで変動成分をある程度除去してサンプリングする。所定時間が経過した後、図6(B)に示すように、ECU200は記憶された情報から左右輪の接地荷重差Wr−Wlと横加速度αの回帰直線RLを最小二乗法などで計算して、その切片を求める(S103)。
【0069】
回帰直線RLは、傾きをC、y切片をΔWとすると、以下の式(4)で表すことができる。なお、y軸が接地荷重左右差(Wr−Wl)であり、x軸が横加速度αである。
y=C・α+ΔW ・・・(4)
【0070】
回帰直線RLのy切片ΔWは、横加速度αが0のときの接地荷重差であるから、重心位置Gのずれに基づく左右輪の接地荷重差に相当する。したがって、右車輪102Rおよび左車輪102LのトレッドをTとすると、重心位置Gのずれ量Gd(重心位置の車幅方向における偏り)は、以下の式(5)で表すことができる。
Gd=ΔW/(Wr+Wl)・T/2 ・・・(5)
【0071】
ECU200は、上記式(5)に基づいて重心位置Gのずれ量Gdを算出し、算出されたずれ量Gdをアクチュエータ60の変位目標値として用い、アクチュエータ60を駆動して車体101とサブフレーム30とを車幅方向に相対変位させて(S104)、本フローを終了する。ECU200は、以上のプロセスを繰り返すことで、トレッドの中心が重心位置Gに近づけられた状態を保つことができる。なお、ECU200は、例えばROMに予め記憶されている、左右輪の接地荷重差ΔWと重心位置Gのずれ量Gdとが対応付けられたマップを用いることで、接地荷重差ΔWからずれ量Gdを取得してもよい。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係るサスペンション装置1では、変位部42がアクチュエータ60を有し、アクチュエータ60によってサスペンション部材を車幅方向に変位させている。そして、サスペンション部材を車幅方向に変位させることで、重心位置Gの偏りに起因して車両の制動時に発生する偏向ヨーモーメントを低減している。そのため、従来に比べてより簡単な構成で車両の制動時における安定性を高めることができる。また、アクチュエータ60によってサスペンション部材を車幅方向に変位させているため、重心位置Gが変化した場合であっても変化した重心位置Gに合わせてサスペンション部材の位置を変位させることができる。そのため、車両の制動時における安定性をより高めることができる。
【0073】
また、ECU200は、接地荷重センサ70R,70Lで検知された左右輪の接地荷重と、横加速度センサ72で検知された横加速度とを用いて車両の重心位置Gの車幅方向における偏りを取得し、取得した偏りに応じてアクチュエータ60を駆動している。具体的には、ECU200は、接地荷重センサ70R,70Lで検知された左右輪の接地荷重差から横加速度αに基づいて推定される左右輪の接地荷重差を差し引くことで、重心位置Gのずれに基づく接地荷重差を抽出して、重心位置Gのずれ量を算出している。そのため、サブフレーム30の車幅方向の中心線N、すなわち車輪102のトレッドの中心線と重心位置Gとのずれを高精度に補正することができる。
【0074】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、各実施形態および変形例を組み合わせたり、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような組み合わせられ、もしくは変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれる。上述の各実施形態および変形例同士の組合せによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0075】
1 サスペンション装置、 30 サブフレーム、 40 車軸、 42 変位部、 43R,43L サスペンションばね、 44 変位許容部、 60 アクチュエータ、 70R,70L 接地荷重センサ、 72 横加速度センサ、 100 車両、 101 車体、 102R 右車輪、 102L 左車輪、 200 ECU、 G 重心位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪が連結されるとともに、車体に連結されるサスペンション部材であって、
車両の重心位置に基づいて車体に対して車幅方向に位置を調節可能であることを特徴とするサスペンション部材。
【請求項2】
請求項1に記載のサスペンション部材と、
前記サスペンション部材を車幅方向に変位させるための変位部と、
前記変位部による前記サスペンション部材の変位を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項3】
左右輪に対応して前記サスペンション部材と車体との間に設けられた一対のサスペンションばねを備え、
前記変位部は、車両の重心位置の車幅方向における偏りによって生じる前記一対のサスペンションばね間の荷重差を用いて、前記サスペンション部材を車幅方向に変位させる請求項2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
前記変位部は、前記一対のサスペンションばね間の荷重差に応じた前記サスペンション部材の車幅方向の変位を許容する状態と抑制する状態とを切り替え可能な変位許容部を有し、
前記制御部は、前記変位許容部の状態を切り替えて前記サスペンション部材の変位を制御する請求項3に記載のサスペンション装置。
【請求項5】
前記制御部は、車速が所定のしきい値を超えた場合に前記変位許容部を前記抑制する状態に切り替える請求項4に記載のサスペンション装置。
【請求項6】
前記変位部は、前記サスペンション部材を車幅方向に変位させるためのアクチュエータを有し、
前記制御部は、前記アクチュエータの駆動を制御して前記サスペンション部材の変位を制御する請求項2に記載のサスペンション装置。
【請求項7】
前記制御部は、左右輪それぞれの接地荷重を検知する接地荷重センサで検知された左右輪の接地荷重と、車両にかかる横加速度を検知する横加速度センサで検知された横加速度とを用いて車両の重心位置の車幅方向における偏りを取得し、取得した偏りに応じて前記アクチュエータの駆動を制御する請求項6に記載のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−66652(P2012−66652A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211891(P2010−211891)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】