説明

ショックアブソーバの取付構造

【課題】ショックアブソーバを車両のボデーに対して取り付ける取付構造におけるシール性を向上する。
【解決手段】ショックアブソーバの取付構造100において、ピストンロッド18は、ボデー側部材30に設けられた孔部32に隙間を有して挿通されている。第1のクッションゴム34は、ピストンロッド18とボデー側部材30との間に介在してピストンロッド18とボデー側部材30との間で振動を吸収する。第1のクッションゴム34の当接部66は、ボデー側部材30と当接する。第1のクッションゴム34内部の周方向に連続的に形成された空間に粘性体70が封入される封入部は、当接部66の一部の領域66bの変形によって圧縮された封入部の一部の粘性体70が移動することで、当接部66の一部の領域66bとは異なる領域66cを膨張させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション機構におけるショックアブソーバを車両のボデーに対して取り付ける技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のサスペンション機構におけるショックアブソーバのピストンロッドと車両のボデーとを、弾性部材を介して取付金具により連結し、ピストンロッドとボデーとの間でその弾性部材により振動吸収することが行われている。例えば、特許文献1乃至3には、上向きのカップ状をなして弾性部材であるクッションゴムの下部を保持する嵌合保持部を備え、クッションゴムを介してピストンロッドをボデーに取付固定するアブソーバの弾性連結装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献4には、ボデーと連結されたアッパーサポートに中間マス付インシュレータを介して取り付けられた流体インシュレータを備える防振支持構造が開示されている。この構造における流体インシュレータは、弾性体内に形成した主流体室およびこの主流体室にオリフィスを介して連通する容積可変の副流体室に流体が封入されているため、所定の周波数における振動伝達を低減することができるとされている。
【特許文献1】特開2005−69302号公報
【特許文献2】特開2000−35078号公報
【特許文献3】特開2006−248401号公報
【特許文献4】特開平5−149367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ボデーに取り付けられているショックアブソーバは、車両がバウンドしたり、タイヤのグリップによる後方への力がかかったりした場合など、通常の位置からある程度傾くことが可能なように構成されている。そのため、特許文献1乃至3のようにクッションゴムを介してピストンロッドがボデーに取り付けられているような場合、ショックアブソーバの傾きが大きいと、クッションゴムとボデーとの間に隙間が生じることがある。このような場合、タイヤから跳ね上げられる水や泥がその隙間からボデー側へ侵入するおそれがある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ショックアブソーバを車両のボデーに対して取り付ける取付構造におけるシール性を向上する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のショックアブソーバの取付構造は、車両本体に固定されているボデー側部材と、前記ボデー側部材に設けられた孔部に隙間を有して挿通されているショックアブソーバのピストンロッドと、前記ピストンロッドと前記ボデー側部材との間に介在して該ピストンロッドと該ボデー側部材との間で振動を吸収する弾性部材であって、前記ピストンロッドの外周面に設けられた弾性部材と、を備える。前記弾性部材は、前記ボデー側部材と当接する当接部と、前記ピストンロッドが挿通される孔部と、弾性部材内部の周方向に連続的に形成された空間に粘性体が封入された封入部と、を有する。前記封入部は、前記当接部の一部の領域の変形によって圧縮された該封入部の一部の粘性体が移動することで、前記当接部の一部とは異なる領域を膨張させる。
【0007】
車両の挙動によりピストンロッドが通常の位置に対して傾いた場合、それまでボデー側部材に設けられた孔部の周囲に全周にわたって当接していた弾性部材の当接部は、一部がさらに圧縮されるとともに、それまで圧縮されていた箇所が復元することになる。そのため、ボデー側部材に対するピストンロッドの傾きが所定値より大きくなると、完全に復元した当接部の一部がボデー側部材と接触しない状態が想定される。
【0008】
そこで、上述の態様によると、例えば、車両の挙動によりピストンロッドが通常の位置に対して傾いた場合、ボデー側部材とピストンロッドとの間に設けられている弾性部材の当接部の一部の領域がボデー側部材により押し付けられ圧縮変形される。弾性部材は、内部の周方向に連続的に形成された空間に粘性体が封入されている封入部を有しており、当接部の一部の領域の変形によって圧縮された封入部の一部の粘性体が移動することで、当接部の一部の領域とは異なる領域を膨張させる。これにより、ピストンロッドの傾きによりボデー側部材との圧縮力が弱まる、当接部の一部とは異なる領域のボデー側部材に対する接触追従性を向上することができる。その結果、ボデー側部材に設けられた孔部とピストンロッドとの隙間からボデー側に水や泥などが侵入することを抑制することができ、ショックアブソーバの取付構造におけるシール性を向上することができる。
【0009】
前記弾性部材は、前記ショックアブソーバの外周に固定された環状のゴム材料で構成されていてもよい。前記封入部は、粘性体としてゲル状の材料が封入されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ショックアブソーバを車両のボデーに対して取り付ける取付構造におけるシール性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る取付構造を介してショックアブソーバをボデーへ取り付けた状態を示す断面図である。図2は、ショックアブソーバが傾いた状態における図1のX領域を拡大した取付構造近傍の断面図である。
【0013】
本実施の形態に係るショックアブソーバは、自動車に好適に採用可能である。ショックアブソーバ10は、筐体となる外筒12、内筒としてのシリンダ14、ピストン16、外筒12から突き出したピストンロッド18、ベースバルブ20等により構成されている。
【0014】
外筒12は円筒形状であり、その内部には所定の粘性を有する作動液(作動油)が充填された円筒形状のシリンダ14が配設されている。また、シリンダ14は、ピストン16が図1に示す上下方向に摺動自在に挿入されている。このピストン16には、シリンダ14の長手方向に延在するピストンロッド18が連結されている。
【0015】
シリンダ14は、ピストン16が挿入されることによりその内部が上部液室22と下部液室24とに仕切られている。また、シリンダ14の外径は外筒12の内径よりも小さく設定されており、したがって外筒12とシリンダ14との間には環状の空間部(以下、リザーバ室26という)が形成されている。なお、詳細は省略するが、ピストン16には減衰力を発生させる減衰力発生機構として機能するバルブ構造が設けられている。
【0016】
次に、本実施の形態に係る取付構造について説明する。本実施の形態に係るショックアブソーバの取付構造100は、車両本体に固定されているボデー側部材30と、ボデー側部材30に設けられた孔部32に隙間を有して挿通されているショックアブソーバ10のピストンロッド18と、ピストンロッド18とボデー側部材30との間に介在してピストンロッド18とボデー側部材30との間で振動を吸収する弾性部材としての第1のクッションゴム34とを備える。
【0017】
ピストンロッド18は、ボデー側部材30の下方に固定された取付金具36によりアッパーサポート38を介してボデー側部材30に対して弾性変位が可能な状態で取り付けられている。アッパーサポート38は、ボデー側部材30の下方でピストンロッド18の外周部に嵌め込まれている環状の第1のクッションゴム34と、ボデー側部材30の上方でピストンロッド18の外周部に嵌め込まれている環状の第2のクッションゴム40とを含んで構成されている。
【0018】
詳述すると、ショックアブソーバ10のピストンロッド18は、取付金具36において第1のクッションゴム34の底部を保持する取付板部42と、第2のクッションゴム40の上部の位置を規制する板状の締付金具44とにより、第1のクッションゴム34と第2のクッションゴム40とが挟み込まれ、第1のクッションゴム34および第2のクッションゴム40が弾性変形した状態でボデー側部材30に取り付けられている。
【0019】
また、ピストンロッド18は、径方向外向きに突出した環状の鍔部46と、先端部に形成された雄ネジ部48とを更に有している。そして、雄ネジ部48に締付ナット50を取り付けて締め付けることで、鍔部46と締付ナット50とが取付板部42と締付金具44とを挟み込む。
【0020】
本実施の形態に係る取付金具36は、下端に下底部を有し上端が開いた円筒状の第1金具52と、上端に上底部を有し下端が開いた円筒状の第2金具54とを、第1金具52の下底部および第2金具54の上低部を互いに接合することで一体化した部材である。そして、第1金具52の下低部と第2金具54の上底部とにより構成されている前述の取付板部42は、中心部にピストンロッド18が挿通される挿通孔56が設けられている。
【0021】
取付金具36は、取付板部42の外周部から立ち上がる筒状の周壁部58を有する第1金具52に第1のクッションゴム34の下部が嵌め込まれることで、第1のクッションゴム34を保持している。また、取付金具36は、取付板部42の外周部から立ち下がる筒状の周壁部60を有する第2金具54にバウンドストッパ62の上部が嵌め込まれることで、バウンドストッパ62を保持している。
【0022】
バウンドストッパ62は、車両のバウンド時にショックアブソーバ10の外筒12に当接してピストンロッド18の過度の収縮運動を規制する。また、取付金具36の外周部には樹脂製のダストカバー64が取り付けられている。
【0023】
次に、第1のクッションゴム34について図3〜図5を参照して詳述する。図3は、本実施の形態に係る第1のクッションゴムの斜視図である。図4は、図3に示す第1のクッションゴムをA方向から見た場合の上面図である。図5は、図4に示す第1のクッションゴムのB−B断面図である。
【0024】
第1のクッションゴム34は、図3〜図5に示すように、全体としては円筒形状をした部材である。第1のクッションゴム34は、前述のボデー側部材30と当接する当接部66と、ピストンロッド18が挿通される孔部68と、第1のクッションゴム34内部の周方向に連続的に形成された空間に粘性体70が封入された封入部72と、を有する。また、第1のクッションゴム34は、下部側に位置する小径の嵌合部74と、上部側に位置する大径のフランジ部76とを有しており、嵌合部74が取付金具36の第1金具52に下向きに嵌め込まれている。
【0025】
当接部66は、上向きに突状に形成されており、ボデー側部材30の下面に弾性変形しながら当接する。本実施の形態に係る当接部66は、その上面に複数の環状の凸部66aを有しており、これにより、つぶし代が大きくなり第1のクッションゴム34のボデー側部材30に対する接触追従性を向上させている。
【0026】
なお、ピストンロッド18は、図2に示すように、取付金具の取付板部42の直上位置に雄ネジ部78が形成されている。そして、雄ネジ部78に締結ナット80を取り付け、締め付けることで、取付板部42は、締結ナット80と鍔部46とにより上下両側から挟み込まれる。つまり、締結ナット80の締め込みによって、取付金具36はピストンロッド18に対して強固に一体的に締結される。また、第1のクッションゴム34は、嵌合部74の内周部に締結ナット80が収納される凹部82が形成されている。
【0027】
次に、車両の挙動によりピストンロッドが通常の位置に対して傾いた場合の取付構造100の作用について説明する。図6は、図1に示した状態からショックアブソーバが傾いた状態を示す断面図である。なお、本実施の形態に係るショックアブソーバ10の取付構造100は、リヤサスペンションに用いられるものとして説明するが、もちろんフロントサスペンションに対しても適用できる。
【0028】
図3や図6に示すように、車両がバウンドしたり、タイヤのグリップによる後方(図6に示す矢印R方向)への力がかかったりした場合、車両の挙動によりピストンロッド18が図1に示すような通常の位置に対して傾く。その場合、それまでボデー側部材30に設けられた孔部32の周囲に全周にわたって当接していた第1のクッションゴム34の当接部66は、一部の領域66bがよりボデー側部材30に押し付けられ圧縮(図2に示す矢印C)されるとともに、それまで圧縮されていた領域66cが復元することになる。
【0029】
粘性体70が封入された封入部72は、環状に連通した空間であり、当接部66の一部の領域66bの変形によって圧縮された封入部72の一部の領域72aの粘性体70は、押し出されるように封入部72の他の領域72bに向かって移動する。これにより、封入部72の他の領域72bが膨張し、それに伴い、当接部66の一部の領域66bとは異なる領域66cが膨張する。なお、封入部72に封入される粘性体70としては、加えられた力により変形した後に力を取り除いても元には戻らないような性質を持つものが好適である。例えば、第1のクッションゴム34は、封入部72に粘性体70としてゲル状の材料が封入されていてもよい。
【0030】
上述の態様によると、車両の挙動によりピストンロッド18が通常の位置に対して傾いた場合、ピストンロッド18の傾きによりボデー側部材30との圧縮力が弱まる当接部66の一部の領域66bとは異なる領域66cのボデー側部材30に対する接触追従性を向上することができる。その結果、ボデー側部材30に設けられた孔部32とピストンロッド18との隙間からボデー側に水や泥などが侵入することを抑制することができ、ショックアブソーバ10の取付構造100におけるシール性を向上することができる。
【0031】
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の各要素を適宜組み合わせたものも、本発明の実施の形態として有効である。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。以下、そうした例をあげる。
【0032】
例えば、上述の実施の形態に係る第1のクッションゴム34に設けた封入部72を、上第2のクッションゴム40に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施の形態に係る取付構造を介してショックアブソーバをボデーへ取り付けた状態を示す断面図である。
【図2】ショックアブソーバが傾いた状態における図1のX領域を拡大した取付構造近傍の断面図である。
【図3】本実施の形態に係る第1のクッションゴムの斜視図である。
【図4】図3に示す第1のクッションゴムをA方向から見た場合の上面図である。
【図5】図4に示す第1のクッションゴムのB−B断面図である。
【図6】図1に示した状態からショックアブソーバが傾いた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 ショックアブソーバ、 12 外筒、 14 シリンダ、 18 ピストンロッド、 30 ボデー側部材、 32 孔部、 34 第1のクッションゴム、 36 取付金具、 38 アッパーサポート、 40 第2のクッションゴム、 42 取付板部、 62 バウンドストッパ、 64 ダストカバー、 66 当接部、 68 孔部、 70 粘性体、 72 封入部、 74 嵌合部、 76 フランジ部、 100 取付構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体に固定されているボデー側部材と、
前記ボデー側部材に設けられた孔部に隙間を有して挿通されているショックアブソーバのピストンロッドと、
前記ピストンロッドと前記ボデー側部材との間に介在して該ピストンロッドと該ボデー側部材との間で振動を吸収する弾性部材であって、前記ピストンロッドの外周面に設けられた弾性部材と、を備え、
前記弾性部材は、
前記ボデー側部材と当接する当接部と、
前記ピストンロッドが挿通される孔部と、
弾性部材内部の周方向に連続的に形成された空間に粘性体が封入された封入部と、を有し、
前記封入部は、前記当接部の一部の領域の変形によって圧縮された該封入部の一部の粘性体が移動することで、前記当接部の一部の領域とは異なる領域を膨張させることを特徴とするショックアブソーバの取付構造。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記ショックアブソーバの外周に固定された環状のゴム材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のショックアブソーバの取付構造。
【請求項3】
前記封入部は、粘性体としてゲル状の材料が封入されていることを特徴とする請求項1または2に記載のショックアブソーバの取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−223839(P2008−223839A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60997(P2007−60997)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】