説明

シランヘッド基を有する分散剤及びそれを含む蛍光体ペースト組成物

【課題】硬化型バインダー樹脂に蛍光体を分散させる場合、分散性を向上できるシランヘッド基を有する分散剤を提供する。また、高輝度の白色発光ダイオードなどの製造時に使用できる蛍光体ペースト組成物を提供する。
【解決手段】式(1)、(4)、(5)で表わされるシランヘッド基を有する分散剤。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランヘッド基を有する分散剤及びそれを含む蛍光体ペースト組成物に関する。より詳しくは、シランヘッド基を含み、蛍光体と一層良好に結合することで、硬化型樹脂システムの分散効率を向上できるシランヘッド基を有する分散剤、及びそれを含む蛍光体ペースト組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーザーダイオードや発光ダイオード(LED)などの発光素子は、その放出波長が一定の領域帯に限定されており、多様な波長の光を放出するには限界がある。したがって、多様な波長の光源が必要な場合は、発光ダイオードチップ上に蛍光体を塗布することで所望の波長の光を得ている。例えば、白色発光素子を得るためには、青色光を放出する発光ダイオードチップに黄色励起発光特性を有する蛍光体を塗布することで、青色光と黄色光との混合光によって白色光を実現している。
【0003】
白色発光ダイオードは、薄型光源(paper―thin light source)、液晶ディスプレイのバックライト、ノートブックコンピュータのディスプレイ部、自動車のドームライト及び照明用光源を廉価なものとするための対策の一環として考慮されている。
【0004】
白色発光ダイオードの製造時、蛍光体は、発光ダイオードチップを封止するエポキシ樹脂、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリル樹脂などの硬化型バインダー樹脂と混合・塗布した後で硬化する。この場合、蛍光体とエポキシ樹脂との比重差によって蛍光体が沈む現象が発生しうるが、その結果、蛍光体が過剰に使用されるのみならず、過剰の蛍光体使用によって白色発光ダイオードの全体的な発光効率が低下してしまう。
【0005】
したがって、蛍光体の分散性を向上させるために、分散剤が添加されることもある。分散剤は、同じ分散剤であっても、バインダー樹脂によって互いに異なる挙動を示す傾向がある。例えば、一般的な分散剤は、ポリビニルアルコール、ポリビニルブロマイド、エチレンクロライドなどのように、焼成後に除去されるタイプ(burn―out type)のバインダーと一緒に用いられるときに優れた分散性向上効果を発揮できるが、白色光発光ダイオードの製造時に用いられる硬化型バインダー樹脂(curable binder resin)と一緒に用いられるときは、分散性向上効果がほとんど発揮されない。
【0006】
図2は、緑色蛍光体であるBaMgAl1017:Eu,Mnをエチルセルロース、テルピネオール及びブチルカルビトールアセテートの混合溶媒に分散させた分散液(黒四角)に、分散剤として既知のカルボキシルエステル系分散剤を添加した場合(黒丸)、前記蛍光体をポリジメチルシラン(PDMS)及びエポキシ樹脂に分散させた場合(黒三角)ならびに、前記蛍光体、PDMS、エポキシ樹脂及びカルボキシルエステル系分散剤を混合した場合(黒逆三角)の剪断速度増加による粘度変化を示したグラフである。図2に示すように、前記分散剤は、テルピネオールとブチルカルビトールアセテートとの混合溶媒を使用する分散液では粘度を減少させるが、ポリジメチルシラン及びエポキシ樹脂などの硬化型樹脂システムでは粘度を増加させる。
【0007】
したがって、白色発光ダイオードなどの製造時のように、蛍光体を硬化型樹脂に分散させるための、優れた分散剤の開発が切実に要求されている。
【特許文献1】米国特許出願公開番号2003/0099859号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の技術的な要求に応えるためのものであって、その目的は、硬化型バインダー樹脂に蛍光体を分散させる場合、分散性をより向上するシランヘッド基を有する分散剤を提供することである。
【0009】
また、本発明の他の目的は、高輝度の白色発光ダイオードなどを製造するために使用できる蛍光体ペースト組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明の一態様は、下記式(1)、式(4)または式(5)で表わされるシランヘッド基を有する分散剤に関する。
【0011】
【化1】

【0012】
前記式中、Aは、下記式(2)または式(3)で表され、
Rは、メトキシ基またはエトキシ基である。
【0013】
【化2】

【0014】
前記式中、mは、1〜20の整数である。
【0015】
【化3】

【0016】
前記式中、nは、1〜20の整数である。
【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
上記の目的を達成するための本発明の他の態様は、有機バインダーと、蛍光体と、前記化学式(1)、(4)または(5)の少なくとも1種の分散剤と、を含むことを特徴とする、蛍光体ペースト組成物に関する。
【0020】
本発明の蛍光体ペースト組成物で使用可能な好ましい有機バインダーとしては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリジメチルシロキサン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノ樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられるが、必ずしもこれらに制限されることはない。
【0021】
本発明の他の態様は、本発明の蛍光体ペースト組成物を用いて薄膜を含む発光素子に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る分散剤は、硬化型バインダー樹脂システムに使用する際、優れた分散性向上効果を有するので、本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物を用いて製造される発光素子は、優れたパッキング効果を有する。したがって、紫外線の漏れが減少し、輝度が増加し、均一な大面積薄膜を形成できる。換言すると、パッキングされた状態であると、蛍光体ペースト組成物中の蛍光体が励起光である紫外線を効率よく吸収できるので、UV吸収のロスを防げ、輝度が増加し、均一な大面積薄膜を形成できる。
【0023】
本発明に係る蛍光体ペースト組成物は、特に白色発光ダイオードの製造時に用いられ、蛍光体が沈降せずに良好に分散される。したがって、使用しなければならない蛍光体の使用量の増加を防止し、過剰な蛍光体による発光効率の低減を克服して、最大の発光効率が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の分散剤は、下記式(1)、式(4)または式(5)で表わされるシランヘッド基を有する分散剤である。
【0025】
【化6】

【0026】
前記式中、Aは、下記式(2)または式(3)で表され、
Rは、メトキシ基またはエトキシ基である。
【0027】
【化7】

【0028】
前記式中、mは、1〜20の整数である。
【0029】
【化8】

【0030】
前記式中、nは、1〜20の整数である。
【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
本明細書における、「シランヘッド基(Silane Head Group)」とは、高分子鎖の末端部分の少なくとも一つがSiを含む基をいう。またSiを含む基は、アルコキシシラン基などが挙げられる。
【0034】
前記式(1)の分散剤は、親水性ブロック及び疎水性ブロック形態または疎水性の尾構造(テール構造とも称する)を有するシラン系分散剤である。前記式(4)の分散剤は、フルオロアルキルブロック形態のテール構造を有するシラン系分散剤であり、前記式(5)の分散剤は、アルキル形態の尾構造を有するシラン系分散剤である。式(1)、(4)および(5)は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
上記のような本発明の分散剤は、シリコンタイプの頭部基を有するため、共有結合による酸塩基相互作用の影響をそれほど受けない。また、分散剤の頭部基の共有結合は、蛍光体樹脂層を形成するための材料として用いられる長鎖高分子の架橋に必要であるが、本発明の分散剤は、上記の構造を有するため、蛍光体と良好に結合されて蛍光体の分散性を向上できる。
【0036】
式(1)の分散剤の好ましい例として、下記式(6)または式(7)で表わされる構造を有する分散剤が挙げられる。
【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
式(1)で表わされる分散剤のうち、Aがエチレンオキサイドである分散剤は、下記のような反応スキームに従って合成される。
【0040】
【化13】

【0041】
前記式中、Rは、メトキシ基またはエトキシ基であり、
mは、1〜20の整数である。
【0042】
なお、上記反応式1中の「1」で表される化合物は、市場に流通しているものを購入可能である。例えば、Sigma−Aldrich社製 TritonX−100などを購入することができる。
【0043】
本発明の分散剤は、硬化型バインダー樹脂システムに使用したときに優れた効果を発揮できる。したがって、本発明の分散剤は、白色発光ダイオードなどの製造時に用いられる蛍光体ペースト組成物に、分散剤として添加されうる。本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物では、分散剤が蛍光体粒子の表面に吸着して各粒子間の凝集を防止するので、蛍光体ペースト内の蛍光体粒子の充填因子(packing factor)が増加する。よって、本発明の蛍光体ペースト組成物で製造される白色発光ダイオードなどの発光素子は、高輝度特性を呈しうる。
【0044】
本発明の他の態様は、蛍光体ペースト組成物に関する。本発明に係る蛍光体ペースト組成物は、有機バインダー及び蛍光体を含みうる。本発明の蛍光体ペースト組成物を構成する有機バインダー及び蛍光体は、当業者であれば従来公知の物を適宜選択し、用いることができる。本発明の蛍光体ペースト組成物は、有機バインダーに分散剤を添加した後、それに蛍光体を添加することで製造される。蛍光体の形態に特に制限はないが、分散性を考慮すると粉末が望ましい。
【0045】
本発明の有機バインダーは、溶媒に溶解された後、粘性を付与し、蛍光体ペースト組成物が焼成され、すなわち、熱処理された後で結合力を付与する。本発明で使用可能な有機バインダー樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリジメチルシロキサン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノ樹脂およびポリエステル樹脂などが挙げられるが、必ずしもこれらに制限されることはない。また、これらは単独で用いても、2種以上の混合物として用いてもよい。なお、硬化性である有機バインダ樹脂は、特に有用である。
【0046】
本発明の蛍光体ペースト組成物に用いられる蛍光体は、従来の蛍光体ペースト組成物に用いられる蛍光体であれば使用でき、用いられる蛍光体の種類や組成に特別な制限はない。本発明で用いられる蛍光体は、通常の青色蛍光体、緑色蛍光体及び赤色蛍光体である。
【0047】
本発明で使用可能な赤色蛍光体としては、(Y,Gd)BO:Eu、Y(V,P)O:Eu、(Y,Gd)O:Eu、LaS:Eu3+などが挙げられるが、優れた輝度特性を考慮すると、(Y,Gd)BO:Euが好ましい。
【0048】
本発明で使用可能な緑色蛍光体としては、BaMgAl1017:Eu,Mn、ZnSiO:Mn、(Zn,A)SiO:Mn(Aは、アルカリ土類金属)、MgAl:Mn(x=1〜10の整数、y=1〜30の整数)、LaMgAlxOy:Tb(x=1〜14の整数、y=8〜47の整数)、ReBO:Tb(Reは、Sc、Y、La、Ce及びGdからなる群から選択される少なくとも一種の希土類元素である)、及び(Y,Gd)BO:Tbからなる群から選択される1種が挙げられる。
【0049】
本発明で使用可能な青色蛍光体としては、Sr(POCl:Eu2+、ZnS:Ag,Cl、CaMgSi:Eu、CaWO:Pb、及びYSiO:Euからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0050】
本発明の蛍光体ペースト組成物には、組成物の物性を損なわない範囲内で、分散剤以外に可塑剤、レベリング剤、酸化防止剤、平滑剤、消泡剤などの添加剤が添加される。本発明の蛍光体ペースト組成物に使用可能な分散剤及び添加剤は、当業者が入手できるものを適宜使用することができる。
【0051】
本発明の蛍光体ペースト組成物は、前記蛍光体ペースト組成物に対して40〜70質量%の蛍光体と、前記蛍光体粉末に対して0.1〜3質量%の分散剤と、残部のバインダー溶液と、を含んで構成される。本発明の分散剤の使用量が0.1質量%未満である場合、蛍光体使用量の増加及び粘度維持などの効果を十分に得られない場合があり、その反対に、分散剤の添加量が3質量%を超える場合、他の成分の含量が減少することにより、ペースト物性が悪化するなどの問題が発生しうる。
【0052】
本発明によると、上記のようなシランヘッド基を有する分散剤の使用によって、硬化型バインダー樹脂システム内での蛍光体の分散性を向上できるとともに、この蛍光体ペーストの使用によって得られる発光ダイオードの輝度を増加できる。
【0053】
本発明の蛍光体ペースト組成物は、白色発光ダイオードなどの発光素子の製造時に用いられる。例えば、リードフレームに配置された発光ダイオードの周囲を、蛍光体を分散させた樹脂層で取り囲み、樹脂層、ワイヤー及びリードフレームを密封樹脂で密封して白色発光ダイオードが製造されうる。
【0054】
本発明の蛍光体ペースト組成物を用いて製造される発光素子は、薄型光源、液晶ディスプレイのバックライト、自動車のドームライト、および照明用光源としての用途展開が可能である。
【0055】
本発明の蛍光体ペースト組成物を用いて製造される発光素子は、優れたパッキング効果を有するので、紫外線光の漏洩がなく、高輝度特性を呈している。パッキングされた状態であると、蛍光体ペースト組成物中の蛍光体が励起光である紫外線を効率よく吸収できるので、UV吸収のロスを防げ、輝度が増加し、均一な大面積薄膜を形成できる。
【0056】
なお、当該製造方法は、従来公知の方法を適宜選択して使用することができ、特に制限はないが、例えば、パターンスクリーンプリンティング、電気泳動法、フォトリソグラフィおよび禁句ジェット法などが挙げられる。
【0057】
以下、本発明の好ましい実施例を詳しく説明するが、これら実施例は、単に、説明の目的のためのものに過ぎす、本発明の保護範囲を制限するものと解釈されてはならない。
【実施例】
【0058】
実施例
本発明の分散剤の合成例
下記反応式2で表された反応スキームにしたがって、前記式(6)の分散剤を合成した。
【0059】
【化14】

【0060】
前記反応式の化合物1とEtN(トリエチルアミン)(1.5当量)をTHF(500ml)に混合した後、前記化合物2(30.5mmol、13g)を滴下した。得られた反応混合物を約1時間攪拌した。溶媒を除去した後、固形分をセライトでろ過して、ろ液を減圧下で除去した。その後、得られた結果物を、カラムクロマトグラフィ(MC(塩化メチレン):MeOH(メタノール)=20:1)を通して精製することで、褐色オイル状の式(6)のシランヘッド基を有する分散剤を得た(収率96%)。得られた分散剤の500MHzH―NMRスペクトルを、図1に示した。
【0061】
(実施例1)
蛍光体ペースト組成物を製造するための蛍光体として、市販されているSr(POCl:Eu2+粉末(Nemoto Blue、日本)を用いた。蛍光体粉末は、使用前に130℃の温度で24時間、真空乾燥させた。ポリジメチルシロキサン(PDMS)(9.8g)に前記蛍光体粉末(14g)を加えた後、これに合成例で得た分散剤(0.14g)を加えて製粉(ミリング)することで、本発明の蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0062】
(実施例2)
分散剤として前記式(4)の化合物((Tridecafluoro―1,1,2,2―tetrahydro―octyl)triethoxysilane((トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン)、Gelest社、米国)を使用し、蛍光体としてBaMgAl1017:Eu2+を使用したことを除けば、実施例1と同様の方法で蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0063】
(実施例3)
分散剤として前記式(5)の化合物(Hexadecyltriethoxysilane(ヘキサデシルトリエトキシシラン)、Gelest社、米国)を使用したことを除けば、前記実施例2と同様の方法で蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0064】
(実施例4)
分散剤として前記式(4)の化合物を使用し、蛍光体としてLaS:Eu3+を使用したことを除けば、実施例1と同様の方法で蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0065】
(実施例5)
分散剤として前記式(5)の化合物を使用したことを除けば、前記実施例4と同様の方法で蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0066】
(比較例1)
分散剤を使用しないことを除けば、前記実施例1と同様の方法で蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0067】
(比較例2)
分散剤として、市販されるTritonX−100(登録商標)(TX―100、Sigma―Aldrich社製、米国)を使用することを除けば、前記実施例1と同様の方法で蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0068】
(比較例3)
分散剤として、市販されるBYK111(Disperbyk 111(登録商標)、BYK―Chemie社製、ドイツ国)を使用することを除けば、前記実施例1と同様の方法で蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0069】
実験例1:分散剤の剪断速度による粘度変化評価
実施例1及び比較例1〜3で得られた蛍光体ペースト組成物で剪断速度を増加させながら粘度の変化を観察し、その結果を図3のグラフに示した。
【0070】
この際、粘度は、粘度測定計(AR2000、Thermal Analysis社製、米国)を使用して測定し、測定条件は、スピンドルの14番を使用し、温度範囲を24.5〜25.5℃、測定時間を30秒にした上で、剪断速度による粘度変化を測定した。
【0071】
図3を通して確認されるように、分散剤を添加していない場合(比較例1)、既知の分散剤を使用する場合(比較例2及び3)は、剪断速度の増加にしたがって粘度が増加したが、本発明の分散剤を添加した場合(実施例1)は、剪断速度の増加にしたがって蛍光体ペースト組成物の粘度が著しく減少した。これによって、本発明の分散剤がPDMSなどの硬化型樹脂システムに用いられる場合、分散性を著しく上昇できることが分かる。
【0072】
実験例2:蛍光体使用量による粘度変化評価
実施例1で用いたものと同一の分散剤を含む樹脂に、実施例1で用いたものと同一の蛍光体粉末を添加して蛍光体ペースト組成物を調製した後、蛍光体の添加量を増加させながら蛍光体使用量によって得られる蛍光体ペースト組成物の粘度変化を測定し、その結果を図4に示した。このとき、粘度は、実験例1と同様の方法で測定した。
【0073】
比較のために、比較例1と同様に分散剤を添加しない蛍光体ペーストを製造しながら蛍光体使用量による粘度変化を測定し、その結果を図4に一緒に示した。
【0074】
図4に示すように、本発明に係るシランヘッド基を有する分散剤を使用した実施例1の場合、2Pa・sに到達するまでの蛍光体使用量が約18体積%程度になった反面、分散剤を使用しない比較例1の場合、36体積%程度であった。この結果によって、本発明の分散剤を使用して蛍光体ペースト組成物を製造する場合、蛍光体の使用量をより増加できることが分かる。
【0075】
実験例3:式(4)の分散剤の剪断速度による粘度変化評価
実施例2、実施例3及び比較例1で得られた蛍光体ペースト組成物で剪断速度を増加させながら粘度の変化を観察し、その結果を図5のグラフに示した。このとき、粘度は、実施例1と同様の方法で測定した。
【0076】
図5を通して確認されるように、比較例1に比べると、実施例2及び3の分散剤を使用した場合、剪断速度の増加にしたがって蛍光体ペースト組成物の粘度が著しく減少した。これによって、本発明の分散剤がPDMSなどの硬化型樹脂システムに用いられる場合、分散性を著しく上昇できることが分かる。
【0077】
実験例4:式(5)の分散剤の剪断速度による粘度変化評価
実施例4、実施例5及び比較例1で得られた蛍光体ペースト組成物で剪断速度を増加させながら粘度の変化を観察し、その結果を図6のグラフに示した。この際、粘度は、実施例1と同様の方法で測定した。
【0078】
図6から明らかな通り、比較例1に比して、実施例4及び5の分散剤を使用した場合、剪断速度の増加にしたがって蛍光体ペースト組成物の粘度が著しく減少した。これによって、本発明の分散剤がPDMSなどの硬化型樹脂システムに用いられる場合、分散性を著しく上昇できることが分かる。
【0079】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、当業者であれば、本発明の技術思想の範囲内で多様な変形及び修正が可能であり、これら変形及び修正も、特許請求の範囲に含まれるものとして理解されるべきである。例えば、本発明の分散剤は、硬化型バインダー樹脂システムで優れた効果を発揮するが、硬化型バインダー樹脂システム以外の蛍光体ペースト組成物に関連しても用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
白色発光ダイオードなどの製造時のように、蛍光体を硬化型樹脂に分散させる場合、好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の分散剤の500MHzのH―NMRスペクトルである。
【図2】従来の分散剤の硬化型樹脂に対する分散効果を示したグラフである。
【図3】剪断速度の増加に伴う、実施例1及び比較例1〜3による蛍光体ペースト組成物の粘度変化を示したグラフである。
【図4】蛍光体使用量の増加に伴う、実施例1及び比較例1による蛍光体ペースト組成物の粘度変化を示したグラフである。
【図5】剪断速度の増加に伴う、実施例2〜3及び比較例1による蛍光体ペースト組成物の粘度変化を示したグラフである。
【図6】剪断速度の増加に伴う、実施例4〜5及び比較例1による蛍光体ペースト組成物の粘度変化を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)、式(4)または式(5)で表わされるシランヘッド基を有する分散剤。
【化1】

(前記式中、Aは、下記式(2)または式(3)で表され、
Rは、メトキシ基またはエトキシ基であり、
【化2】

前記式中、mは、1〜20の整数であり、
【化3】

前記式中、nは、1〜20の整数である)
【化4】

【化5】

【請求項2】
前記分散剤は、下記式(6)または式(7)で表わされる構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のシランヘッド基を有する分散剤。
【化6】

【化7】

【請求項3】
有機バインダーと、
蛍光体と、
請求項1または2に記載の少なくとも1種の分散剤と、
を含むことを特徴とする、蛍光体ペースト組成物。
【請求項4】
前記蛍光体ペースト組成物は、
前記蛍光体ペースト組成物に対して、40〜70質量%の蛍光体と、
前記蛍光体に対して0.1〜3質量%の前記分散剤と、
残部の有機バインダーと、
を含むことを特徴とする、請求項3に記載の蛍光体ペースト組成物。
【請求項5】
前記有機バインダーは、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリジメチルシロキサン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノ樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項3または4に記載の蛍光体ペースト組成物。
【請求項6】
前記蛍光体は、(Y,Gd)BO:Eu、Y(V,P)O:Eu、(Y,Gd)O:Eu、LaS:Eu3+、BaMgAl1017:Eu,Mn、ZnSiO:Mn、(Zn,A)SiO:Mn(Aは、アルカリ土類金属)、MgAlxOy:Mn(x=1〜10の整数、y=1〜30の整数)、LaMgAl:Tb(x=1〜14の整数、y=8〜47の整数)、ReBO:Tb(Reは、Sc、Y、La、Ce及びGdからなる群から選択される一種以上の希土類元素である)、(Y,Gd)BO:Tb、Sr(POCl:Eu2+、ZnS:Ag,Cl、CaMgSi:Eu、CaWO:Pb、及びYSiO:Euからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載の蛍光体ペースト組成物。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載の蛍光体ペースト組成物を用いて製造される薄膜を含む発光素子。
【請求項8】
前記発光素子は、白色発光ダイオードであることを特徴とする、請求項7に記載の発光素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−111694(P2007−111694A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285494(P2006−285494)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】