説明

シラン系組成物およびその硬化膜、並びにそれを用いたネガ型レジストパターンの形成方法

【課題】縮合物の保存安定性と、該縮合物を加熱焼成し膜とした際、鉛筆硬度5H以上の硬質な膜を得、かつ膜厚3.0μm以上の膜にクラックを発生させない、シラン系組成物、およびその硬化膜を提供する。
【解決手段】一般式(1):(CH)Si(ORで表されるアルコキシシランAと、一般式(2):(Ph)Si(ORで表されるアルコキシシランBと、一般式(3):(CHSi(ORで表されるアルコキシシランCとをモル比で表して、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=30〜70:10〜50:20〜60の範囲で縮合させたアルコキシシラン縮合物、およびポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定のアルコキシシランを用いた縮合物、感光性組成物およびその製造方法、および当該感光性樹脂組成物からなるネガ型レジストパターンを、ガラス基板またはシリコン基板等の基体上に形成するネガ型レジストパターンの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、タッチパネル、有機EL等においては、様々な保護膜または絶縁膜が使われ、例えば、液晶カラーフィルターを保護する保護膜には、通常、湿式法により成膜されるエポキシ樹脂膜が用いられる。
【0003】
一方、絶縁膜には、TFT(Thin Film Transistor)液晶ディスプレイにおけるTFT用の絶縁膜があり、主にCVD(Chemical Vapor Deposition)法により成膜されたSiN膜が用いられる。
【0004】
保護膜や絶縁膜には、前記従来の材料に対し、近年のTFT液晶ディスプレイの応答速度の高速化、バックライト光源の高輝度化に対応するためのさらに高い耐熱性を有し、ディスプレイ画面の大面積化に対応するための成膜の容易さおよびコストの優位さを有する湿式成膜可能な材料が求められている。
【0005】
このような材料として、アルコキシシランの加水分解および縮合反応によって得られるシラン系縮合物(以後、単に縮合物と呼ぶことがある)が挙げられ、当該縮合物は、耐熱性、可視光域における透明性、およびガラス基板またはシリコン基板への密着性に優れる。また、原料として用いるアルコキシシランの種類や組成を特定し製造方法を工夫することで、縮合物は有機溶剤に対し高い溶解性を示す。当該縮合物は、半導体およびディスプレイにおける保護膜または絶縁膜として、湿式成膜可能である。
【0006】
また、シラン系縮合物は、縮合物中のシリコンの含有量が多くすることで、ハードマスクとしても使用可能である。詳しくは、集積回路の絶縁膜として有機系高分子は、レジスト膜と同じ有機物であるため、絶縁膜上にレジストパターンに重ねた場合、ドライエッチングの際に高いエッチングレートを発現させることが難しい。そこで、絶縁膜とレジスト膜の間に、絶縁膜およびレジスト膜とは反応性を異にするハードマスクと呼ばれる層を設けることが有効であり、一般的にハードマスクにはシリコン酸化物または窒素化シリコンが用いられてきた。
【0007】
ディスプレイや半導体の分野においては、基体上に薄膜を様々な形状に加工することが多く、その際にはフォトリソグラフィーが用いられる。フォトリソグラフィーは、ガラス基板またはシリコン基板等の基体上にレジスト膜を形成し、フォトマスクを介してレジスト膜を照射露光し、露光部と未露光部の現像液に対する溶解度差で、フォトマスクのパターンが転写されたレジストパターンを形成する技術である。保護膜または絶縁膜にパターン形成する際は、これら膜上に、フォトリソグラフィーにより、レジストパタ−ンを形成した後、ドライエッチングしてパターンを形成する。
【0008】
以上の背景より、絶縁膜または保護膜とレジスト膜を分けて成膜することなく、ハードマスクを必要としない、フォトリソグラフィーでパターン形成可能なシラン系縮合物を用いたレジスト材料が開発された(例えば、特許文献1〜4)。これらレジスト材料を用いると、保護膜または絶縁膜としての性能を有するレジスト膜ができ、製造時間の短縮と製造コスト低減が図れる。
【0009】
特許文献1には、シラノール基を有する樹脂と、高エネルギー線の照射により酸を発生する化合物とを含有していることを特徴とするネガ型レジスト材料が開示されている。
【0010】
また、特許文献2には、(1)シリコンに直結したメチル基、およびシラノール基を有し、かつシラノール含有率が0.1〜2.0であるアルカリ可溶性シロキサンポリマー(但し、シラノール含有率は、赤外分光分析による900cm−1のシラノール基と1271cm−1のシリコン−メチル基による吸収ピークの吸光度比すなわちAbs(900cm−1)/Abs(1271cm−1)をさす。)(2)放射線の作用によって反応促進剤を発生する化合物(3)溶剤を主成分とする感光性樹脂組成物が開示されている。
【0011】
また、特許文献3には、フェニルトリエトキシシランまたはフェニルトリメトキシシランからなる成分(X)と、メチルトリエトキシシランまたはメチルトリメトキシシランからなる成分(Y)と、トリエトキシシランまたはトリメトキシシランからなる成分(Z)とを、特定の比率で反応させて得られたアルコキシシランの縮合物(A)、及び光や熱などの外的刺激により酸を発生する酸発生剤(B)を含有する膜形成用組成物、これを用いたパターン膜の製造方法及び電子機器用絶縁膜が開示されている。
【0012】
また、特許文献4には、特定のシロキサン化合物、当該シロキサン化合物の多量体または部分縮合物を必須成分として加水分解縮合して得られる樹脂を含むシロキサン樹脂、光酸発生剤または光塩基発生剤、および前記シロキサン樹脂を溶解し、非プロトン性溶媒を含む溶媒を含有してなる放射線硬化性組成物であって、前記シロキサン化合物が、テトラアルコキシシランおよびトリアルコキシシランを含む放射線硬化性組成物が開示されている。尚、光酸発生剤は、紫外光、X線、電子線等の高エネルギー線の照射によって、酸を発生するものである。
【0013】
また、アルコキシシランの加水分解および縮合反応によって得られるシラン系縮合物を保護膜用材料、絶縁膜用材料またはレジスト膜用材料として用いるには、例えば、以下の3つの課題がある。
【0014】
1つ目の課題は、縮合物自体の保存安定性である。アルコキシシランを原料としたことで、縮合物中に残存するシラノール(Si−OH)基が保存中に徐々に縮合反応することにより分子量が大きくなり、塗布液とする際に有機溶剤へ溶解しにくくなり、塗布液の粘性が上昇し、一様の厚みで成膜することが困難となることである。
【0015】
2つ目の課題は、クラックのない硬質な膜を得難いことである。縮合物に用いるアルコキシシランの種類や組成比を調整することで、基板上に硬質なシリカ膜を成膜しようと試みても、特に厚膜とした際に焼成時に膜にクラックが発生しやすいことである。例えば、半導体集積回路における、保護膜または絶縁膜においては、膜厚3.0μm以上において、好ましくは、鉛筆硬度5H以上が必要とされる。シラン系縮合物を焼成してなるシリカ膜において、膜厚3.0μm以上且つ鉛筆硬度5H以上のクラックのない膜は得難い。前述のように、シラン化合物を、例えばシロキサン化合物をレジスト膜の組成物として用いた際は、半導体集積回路の絶縁膜、保護膜として作用し、有機系のレジスト膜と異なり、回路上に残るのでクラックのない硬質な膜が要求される。
【0016】
3つ目の課題は、塗布液として、シリコン基板またはガラス基板などの基体に塗布した際に、ハジキ、膜ムラが発生し易いことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平2−129642号公報
【特許文献2】特開平10−246960号公報
【特許文献3】国際公開WO2008/047654のパンフレット
【特許文献4】特開2006−91816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するための、シラン系組成物、およびその硬化膜等を提供するものである。さらに、紫外光、X線、電子線等の高エネルギー線の作用により酸を発生する光酸発生剤を添加したレジスト用組成物、および当該レジスト膜用組成物に溶媒を加え、基体上へ塗布しレジスト膜を形成した後、フォトリソグラフィーにより、高エネルギー線を用いてネガ型レジストパターンを形成するネガ型レジストパターンの形成方法を提供するものである。尚、シラン系組成物とは、シラン系縮合物を含む組成物の意である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の態様は、構造の異なる3種類のアルコキシシランを用い、その組成比を調整した縮合物にポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを加えて得られる組成物である。当該組成物は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの添加効果により、硬化膜とした際に、高い鉛筆硬度が得られ、引っかきに対する耐擦傷性が向上した。
【0020】
本発明の第2の態様は、前記シラン系縮合物にポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンおよび有機溶剤を加えて塗布液を調製し、ガラス基板またはシリコン基板等の基板に塗布、加熱焼成したところ、膜厚3.0μm以上且つ鉛筆硬度5H以上のクラックのない硬質なシリカ膜である。シリカ膜では、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの添加効果により、塗布時にハジキ、ムラ等見られなかった。
【0021】
本発明の第3の態様は、3種類のアルコキシシランに酸触媒、純水(以後、単に水と呼ぶ)および有機溶剤を加え、加水分解および縮合反応させた後、別途、水を加えて酸触媒を除去した後、さらに有機溶剤を除去する縮合物の製造方法である。当該縮合物は保存安定性に優れていた。
【0022】
本発明の第4の態様は、レジストパターンである。具体的には、前記シラン系縮合物にポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンおよび有機溶剤を加えて塗布液に、さらに光酸発生剤を加えたところ、塗布液はフォトリソグラフィー法によるレジスト液として使用可能であった。
【0023】
本発明は以下の発明1〜15を含む。
【0024】
尚、本明細書中、−CH基をMe、−CHCH基をEt、−C基をPhと略すことがある。
【0025】
[発明1]
一般式(1):(CH)Si(OR
(式中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランAと、
一般式(2):(Ph)Si(OR
(式中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランBと、
一般式(3):(CHSi(OR
(式中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランCとを
モル比で表して、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=30〜70:10〜50:20〜60の範囲で縮合させたアルコキシシラン縮合物、およびポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンと
を含む組成物。
【0026】
[発明2]
前記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが一般式(4):
【化1】

【0027】
(式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基である。Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基である。mは1〜30の整数、nは1〜30の整数である。Xは1〜50の整数である。Yは1〜50の整数である。)
で表される化合物であり、前記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの含有量が前記縮合物に対して、0.001質量%以上、5.000質量%以下である、発明1の組成物。
【0028】
[発明3]
さらに光酸発生剤を含む、発明1または発明2の組成物。
【0029】
[発明4]
前記光酸発生剤の含有量が、前記縮合物に対して、0.01質量%以上、5.00質量%以下である、発明3の組成物。
【0030】
[発明5]
発明1〜4の組成物が硬化した硬化物を含む、硬化膜。
【0031】
[発明6]
発明1〜4の組成物に有機溶剤を加え塗布液を作製し、当該塗布液を基体上に塗布成膜した後、加熱焼成する工程を有する硬化膜の製造方法であって、当該硬化膜の膜厚が3.0μm以上であり、鉛筆硬度5H以上である、硬化膜の製造方法。
【0032】
[発明7]
一般式(1):(CH)Si(OR
(式(1)中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランAと、
一般式(2):(Ph)Si(OR
(式(2)中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランBと、
一般式(3):(CHSi(OR
(式(3)中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランCとを、
モル比で表して、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=30〜70:10〜50:20〜60としたアルコキシシランの縮合前混合物Dに、水、水溶性の有機溶剤Eおよび酸触媒を加え縮合前混合物とする第1の工程と、
縮合前混合物を加水分解および縮合させ反応系に縮合物を得る工程と、
縮合物を非水溶性の有機溶剤Fで抽出、および水で酸触媒を抽出する工程と、
有機溶剤Fを除去する工程と
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを加える工程を含む、
発明1の組成物の製造方法。
【0033】
[発明8]
アルコキシシラン混合物Dの有するアルコキシ基に対して、モル比で表して、1.5倍以上、5倍以下の水を用いる、発明7の組成物製造方法。
【0034】
[発明9]
有機溶剤Eがアルコールである、発明7または発明8の、組成物製造方法。
【0035】
[発明10]
酸触媒が酢酸である、発明7〜9の、組成物製造方法。
【0036】
[発明11]
発明3または発明4の組成物を基体上に塗布成膜した膜に高エネルギー線を照射して、照射部に酸を発成させて照射部の縮合物の縮合をさらに促進させてアルカリ現像液に不溶とした後、未照射部の膜をアルカリ現像液で除去してネガ型パターンを形成する、ネガ型パターンの形成方法。
【0037】
尚、組成物は有機溶剤G、例えば極性溶剤に溶解させ塗布液とした後に基体上に塗布成膜し、塗布後は必要に応じてプリベークを行う。
【0038】
[発明12]
照射する高エネルギー線が波長400nm以下の電磁波または電子線である、発明11のネガ型パターンの形成方法。
【0039】
[発明13]
発明1または発明2の組成物が硬化した硬化物を含む、保護膜。例えば、保護膜は、発明1または発明2の組成物を含む硬化膜よりなる。
【0040】
[発明14]
請求項1または発明2の組成物が硬化した硬化物を含む、絶縁膜。例えば、絶縁膜は、発明1または発明2の組成物を含む硬化膜よりなる。
【0041】
[発明15]
発明3または発明4の組成物が硬化した硬化物を含む、レジスト。
【発明の効果】
【0042】
本発明のシラン系縮合物の製造方法による縮合物は保存安定性に優れる。
【0043】
シラン系縮合物およびポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを含む、本発明の組成物を有機溶剤に溶解してなる塗布液を、ガラス基板またはシリコン基板等の基体上へ湿式塗布し膜とした後に焼成したところ、膜厚3.0μm以上、鉛筆硬度5H以上のクラックのない膜が得られた。
【0044】
当該膜は高耐熱性であり、可視光において高い透明性を有し、ガラス基板またはシリコン基板への密着性に優れ、且つ低吸水性を示し、液晶ディスプレイまたは半導体集積回路用の保護膜絶縁膜として有用である。
【0045】
さらに、前記塗布液に、光酸発生剤を加えたところ、レジスト液として好ましく使用することができ、フォトリソグラフィーによりネガ型パターンが得られ、絶縁膜または保護膜としての機能を兼ね備え、前述のハードマスクを必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】アルコキシシランAである(CH)Si(OEt)、アルコキシシランBである(Ph)Si(OEt)、アルコキシシランCである(CHSi(OEt)をモル比で表して、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=40:20:40としたアルコキシラン混合物Dから得られた縮合物の29SiNMRスペクトルである。
【図2】一般式(1):(CH)Si(ORで表されるアルコキシシランAと、一般式(2):(Ph)Si(ORで表されるアルコキシシランBと、一般式(3):(CHSi(ORで表されるアルコキシシランCの好適なモル比を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明のシラン系組成物およびその硬化膜、シラン系縮合物の製造方法、並びにそれを用いたネガ型レジストパターンの形成方法について、以下、詳細に説明する。
【0048】
1. シラン系縮合物を用いた組成物
1.1 半導体集積回路の保護膜または絶縁膜用途の硬化膜に用いられる組成物
本発明のシラン系組成物は、3種類のアルコキシシランA〜Cを用い、それらを特定の割合で混合してなるアルコキシシラン縮合物に、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを加えたものである。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンは、成膜時のガラス基板、およびシリコン基板に対する濡れ性を向上させるとともに、焼成後に鉛筆硬度試験による硬度を向上させクラックのない鉛筆硬度5H以上の硬質な膜を与える。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを含まない組成物を用いた場合、ハジキがなく膜ムラのない良好な膜が得られにくくなるばかりか、鉛筆硬度が劣った軟質な膜を与える。
【0049】
即ち、本発明は、
一般式(1):(CH)Si(OR
(式(1)中、Rはそれぞれ独立にメチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランAと、
一般式(2):(Ph)Si(OR
(式(2)中、Rはそれぞれ独立にメチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランBと、
一般式(3):(CHSi(OR
(式中、Rはそれぞれ独立にメチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランCとを
モル比で表して、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=30〜70:10〜50:20〜60の範囲で縮合させたアルコキシシラン縮合物、および、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、を含む組成物である。
【0050】
本発明の組成物中に含まれる縮合物は、前記3種類のアルコキシシランA〜Cが加水分解および縮合反応したことで複雑に3次元ネットワーク構造を形成したものである。
【0051】
例えば、一般式(1)で表されるアルコキシシランA、一般式(2)で表されるアルコキシシランBおよび一般式(3)で表されるアルコキシシランCより得られた縮合物には、図1に示した29SiNMRスペクトルより、以下に示す構造が含まれているものと推定される。構造中に波線で図示した結合手は、その先においてもシロキサン結合のネットワークが続いていることを意味する。
【化2】

【0052】
本発明において、アルコキシシランA〜Cから得られる縮合物を保存安定性に優れたものとし、且つ成膜時にポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを加え焼成することで、膜厚、3.0μm以上、鉛筆硬度5H以上のクラックのない硬質な膜を得るには、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランCをモル比で表して、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=30〜70:10〜50:20〜60の範囲とすることが好ましい。
【0053】
加熱焼成を行い硬化膜とした際、アルコキシシランAの含有が70モル%より多いと、膜厚を3.0μm以上の膜とした際、クラックが入りやすく、30モル%より少ないと、鉛筆硬度5H以上の硬質な膜を得難い。アルコキシシランBの含有が10モル%より少ないと、膜厚を3.0μm以上の膜とした際、クラックが入りやすく、50モル%より多いと、鉛筆硬度5H以上の硬質な膜を得難い。アルコキシシランCが20モル%より少ないと、膜厚を3.0μm以上の膜とした際、クラックが入りやすく、60モル%より多いと、鉛筆硬度5H以上の硬質な膜を得難い。
【0054】
さらに、好ましいアルコキシシランA〜Cのモル比を図2に示した。本発明の組成物において、アルコキシシランA〜Cの比が図1中のa、bおよびcの3点で囲まれた網掛けの範囲内のモル百分率の比で混合して使用することが好ましい。
【0055】
図1中の各点におけるアルコキシシランA〜Cのそれぞれのモル比は、aがアルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=70:10:20、bがアルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=30:10:60、cがアルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=30:50:20である。
【0056】
原料のアルコキシシランを、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=30〜70:10〜50:20〜60のモル比から外れて得られた縮合物は、上述のようにクラックのない、膜厚3.0μm以上の膜を形成することが困難になる、また、加熱焼成後に鉛筆硬度5H以上の硬質な膜が得難く、ディスプレイおよび半導体用途の保護膜や絶縁膜しては実用し難い。さらに、好ましくは、図1に示したa、b、cの3点で囲まれた網掛け部の範囲内である。
【0057】
尚、前記組成物を溶剤に溶かし基体上に塗布被膜した後で鉛筆硬度5H以上に硬化させる際の加熱温度は、基板温度150℃以上、250℃以下、加熱時間15分以上、180分以下が好ましい。基体温度で150℃より低い、または加熱時間15分より短いと、鉛筆硬度5H以上の硬質な膜が得難い。基板温度が250℃より高くする、加熱時間を180分より長くする必要はなく、実用的な製造方法とはいえない。また、一般的な液晶ディスプレイにおけるオーバーコートの成膜工程において、加熱温度の上限は250°Cである。
【0058】
本発明において用いるポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンには、一般式(4)で表される液状化合物を用いることが好ましく、ドイツ・ビックケミー社より、商品名BYK300、BYK301、BYK302、BYK306、BYK307、BYK330,BYK331,BYK333,BYK337,BYK341、BYK342およびBYK378等が市販されている。
【化3】

【0059】
(式中、Rは水素原子またはメチル基である。Rは炭素数1〜20のアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基である。mは1〜30の整数、nは1〜30の整数である。Xは1〜50の整数である。Yは1〜50の整数である。)
本発明の組成物を有機溶剤G、好ましくは極性溶剤に溶解させ塗布液とした後、ガラス基板またはシリコン基板等の基体上に湿式成膜する。例えば、当該基体上に塗布した後、プリベーク、即ち加熱して有機溶剤Gを除去し膜とする。この膜を加熱焼成すれば、ディスプレイまたは半導体の保護膜または絶縁膜、あるいは半導体製造分野のハードマスクまたは絶縁膜として使用可能となる。
【0060】
有機溶剤Gに用いる極性溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以後、PGMEAと略する)、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN−メチルピロリドンが好適に使用され、これらを混合してもよい。
【0061】
1.2 レジスト用途の硬化膜に用いられる組成物
また、前記塗布液に、組成物として高エネルギー線の作用で酸を発生する、即ち、照射する高エネルギー線を吸収することで酸を発生させる光酸発生剤を添加することでレジスト用途の硬化膜に用いられる組成物(液)とすることもできる。このような光酸発生剤には、トリフェニルスルホニウムトルフルオロメタンスルホネートが挙げられる。市販品としては、米国BASF社製、商品名、Irgacure PAG121、Irgacure PAG103、Irgacure CGI1380、Irgacure CGI725、みどり化学株式会社製、商品名、PAI−101,PAI−106、NAI−105、NAI−106、TAZ−110、TAZ−204、サンアプロ株式会社製、商品名、CPI−200K、CPI−210S、CPI−101A、CPI−110A、CPI−100P、CPI−110P、CPI−100TF、HS−1、HS−1A、HS−1P、HS−1N、HS−1TF、HS−1NF、HS−1MS、HS−1CS、LW−S1、LW−S1NF、株式会社三和ケミカル製、商品名、TFE−トリアジン、TME−トリアジンまたはMP−トリアジンが挙げられる。
【0062】
2.組成物の製造方法
前記アルコキシシランA〜Cによる縮合物は、前記アルコキシシランA〜Cを室温にて反応容器に仕込んだ後、アルコキシシランA〜Cの混合物であるアルコキシシラン混合物Dに、アルコキシランを加水分解するための水、反応溶剤として有機溶剤E、好ましくは、アルコール、具体的にはエタノール、イソプロパノールを用い、縮合反応を進行させるための酸触媒、好ましくは、酢酸を反応器内へ採取し、次いで反応溶液を反応温度となるように加熱し、内容物を撹拌し、加水分解および縮合反応を進行させて製造できる。尚、反応系中の未反応原料、水、アルコール、酢酸が反応系外へと留去される事を防ぐため、反応容器にはコンデンサーを具備させることが好ましい。縮合反応に必要な時間は通常3時間〜24時間である。反応温度は70℃以上、100℃以下である。反応温度が70℃より低いと縮合反応が進行し難く、100℃より高いと縮合反応の重合度を制御し難い。
【0063】
尚、前記縮合物を得るための加水分解および縮合反応において使用する水は、原料のアルコキシシラン総量の有するアルコキシ基に対して、モル比で表して、1.5倍以上、5倍以下である。1.5倍を下回ると加水分解が効率よく行われず、縮合物の保存安定性に乏しい。5倍を上回る必要がない。
【0064】
前記縮合物を得るための加水分解および縮合反応において、有機溶剤Eはアルコールが好適であり、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノールまたはノルマルブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどが挙げられる。
【0065】
次いで、縮合反応後に反応溶液を室温(20℃)まで冷却した後、反応系中に存在する縮合物を、縮合物を溶解し水と混和しない有機溶剤Fを用いて、接触抽出し、次いでその有機溶剤F中に含まれる酢酸を水で洗浄して除去する。
【0066】
次いで、固体乾燥剤を用いて有機溶剤F中に溶解している微量の水を除去した後、固体乾燥剤をろ過によって除去する。続いて有機溶剤Fを減圧除去することで縮合物が得られる。得られた縮合物に、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを加えることで本発明の組成物が得られる。レジスト組成物とするためには、さらに光酸発生剤を加えることが好ましい。
【0067】
有機溶剤Fには、縮合物を溶解し水と混和しない非水溶性溶剤を用いることが好ましく、エーテル、具体的にはジエチルエーテル、イソプロピルエーテルまたはジブチルエーテルが挙げられる。固体乾燥剤としては、硫酸マグネシウムが挙げられる。
【0068】
3.ネガ型レジストパターンの形成方法
レジスト膜は、光酸発生剤を含む発明3または発明4の組成物を含むレジスト液を、ガラス基板またはシリコン基板等の基体上に湿式成膜して得ることができる。例えば、当該基体上に塗布した後、プリベーク、即ち加熱して有機溶剤Gを除去することでレジスト膜が得られる。このレジスト膜を、フォトリソグラフィーにより、ネガ型レジストパターンとした。具体的には、パターンが成形されたフォトマスクを介して高エネルギー線をレジスト膜に照射し、照射部の光酸発生剤より酸を発生させ照射部のレジスト膜の縮合反応をさらに進め、照射部のレジスト膜のみを現像液に対して不溶化させた後、現像液で現像すれば、未照射部は現像液に溶解し、照射部のみが基板上に残り、ネガ型レジストパターンが形成される。
【0069】
この後、ネガ型レジストパターンを加熱焼成し、パターン中に残存するシラノール基を縮合させる。熱焼成時の温度としては、高硬度な薄膜を得るためには高温であることが好ましいが、温度上限がディスプレイや半導体の製造プロセスに依存する。例えば、一般的な液晶ディスプレイにおけるオーバーコートの成膜工程において、加熱温度の上限は250°Cである。
【0070】
本発明の感光性組成物を用いてネガ型レジストパターンを形成する方法において用いられる現像液としては、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液等が挙げられる。
【0071】
本発明の組成物を用いてネガ型レジストパターンを形成する方法において用いられる高エネルギー線としては、波長が紫外領域以下、具体的には波長400nm以下の領域の高エネルギー線である、高圧水銀ランプによる紫外線光、i線(波長365nm)、KrFエキシマレーザ(波長248nm)、ArFエキシマレーザ(波長193nm)または極端紫外光(波長13.5nm)、あるいは電子線が挙げられる。
【0072】
4.用途
本発明の組成物は、たとえば、液晶ディスプレイ、タッチパネル、有機EL(Electro Luminescence)といったディスプレイ分野の保護膜および絶縁膜に使用することができる。
【0073】
また、本発明の組成物は、シリコン含有量が多いことから、半導体製造におけるハードマスクや各種絶縁膜に利用できる。
【0074】
また、本発明の高エネルギー線の作用により酸を発生する光酸発生剤を含む組成物を、有機溶剤Gに溶解させてレジスト液とし、当該レジスト液をシリコン基板またはガラス基板等の基体上に湿式塗布しレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィーにより、フォトマスクを用いて高エネルギー線を照射し照射部に酸を発生させ、照射部のレジスト膜の縮合をさらに促進させアルカリ不溶とした後、アルカリ水溶液で現像することで、フォトマスクのパターンが転写したネガ型レジストパターンとして用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0076】
縮合物の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography 以後、GPCと略する)を用い、溶媒にテトラヒドロフランを用い、ポリスチレン換算で測定した。シリコン基板上に成膜したレジスト膜の厚みは触針式表面形状測定機、シリコン基板上に形成した膜の鉛筆硬度は、引っかき硬度試験機を用いて測定した。本実施例で用いた測定機器を以下に示す。
【0077】
GPC:東ソー株式会社製、製品名、HLC−8320GPC、カラム、東ソー株式会社
製、製品名、TSKgelGMHXL触針式表面形状測定機:米国Veeco社製、製品名、Dektak8
電動鉛筆引っかき硬度試験機:株式会社安田精機製作所製、型番No.553−M
実施例1
[縮合物の合成]
フッ素樹脂製の撹拌羽、ジムロート型還流器を具備した容積1Lの三口フラスコに、アルコキシシランAとしての(CH)Si(OEt)、59.45g(0.333mol)、アルコキシシランBとしてのPhSi(OEt)、40.08g(0.167mol)、およびアルコキシシランCとしての(CH)Si(OEt)、49.43g(0.333mol)を採取した。モル比は、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=40:20:40であり、本発明の縮合物におけるアルコシラン混合物Dの組成比の範疇であった。
【0078】
次いで、イソプロパノール、104.83g、水、77.94g(4.330mol)、および酢酸、0.06gを、三口フラスコ内に加え、フラスコ内を90°Cに加温し、加水分解および縮合反応を行った。3時間後、反応液(反応系)を室温(20℃)に戻し、三口フラスコ内にイソプロピルエーテルを200ml、水を200ml入れ撹拌した。その後、2層分離した反応液の上層側(有機層)を回収し、水200mlで3回洗浄した。次いで、イソプロピルエーテル中に溶解した微量の水分を硫酸マグネシウムで除去した後、硫酸マグネシウムを濾別した。エバポレーターにてイソプロピルエーテルを減圧留去したところ、縮合物が無色の粘性液体として得られた。縮合物の収量は64.98g、Mw=980であった。
【0079】
29SiNMR(核磁気共鳴、Nuclear Magnetic Resonanc
e)のスペクトラムを図1に示す。尚、水の使用量は、アルコキシシラン混合物Dの有するアルコキシ基に対して、モル比で表して、2.0倍であった。
【0080】
次いで、当該縮合物20.33gに対してポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとしてBYK307(商品名、ドイツ・ビックケミー社製)を0.02g加え、本発明の範疇にある組成物を得た。尚、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの含有は、得られた縮合物の質量に対して、0.10質量%とした。
【0081】
[組成物を用いたネガ型レジストパターンの形成]
上記の組成物のうちの5.20gをPGMEA4.70gに溶解させ、光酸発生剤(商品名、CPI−100Tfサンアプロ株式会社製)を0.05g添加し、塗布液(レジスト液)とした。これを用いて、直径100mmのシリコン基板上に回転速度250rpm、保持時間10秒でスピンコーターにて上記レジスト液を塗布しレジスト膜を成膜した後、基板を90°Cにて1分間加熱しプリベークした。尚、光酸発生剤の含有は、前記縮合物の質量に対して、0.96質量%とした。
【0082】
次いで、マスクアライナ(マスクアライメント装置、ズースマイクロテック株式会社製、型番、MA6)に装着した、パターン形成されたフォトマスクを介して、シリコン基板上のレジスト膜に、波長365nmの紫外線を2分間照射し露光させた。シリコン基板をマスクアライナより取り出し、現像液としての濃度、2.38質量%のテトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液に20秒間接触させ、未露光部を溶解させてパターンを現像した。基板上には最小10μm幅のラインを含むネガ型レジストパターンが形成された。その後、シリコン基板を250°Cのオーブン内にて1時間入れて、ネガ型レジストパターンを加熱焼成したところ、膜厚、3.6μmのネガ型レジストパターン付きシリコン基板が得られた。シリコン基板上のレジスト膜にはクラックは認められず、良好なネガ型レジストパターンが得られた。尚、前記、厚さはパターンの段差をDektak8にて測定した。また、フォトマスクを介せず、前記露光を行い、上記条件の焼成を行い得られた膜の鉛筆硬度を前記器具により測定したところ、5Hを示し良好な結果であった。なお光酸発生剤として使用したCPI−100Tfの化学構造は以下のとおりである。
【化4】

【0083】
[保存安定性]
上記のレジスト液を冷蔵庫にて5°C下で3ヵ月間保管した。保管後の液に白濁および固形分の析出が見られず、良好な保存安定性を示した。次いで、上述の条件および手順で、ネガ型レジストパターンの形成を試みたところ、膜厚、3.7μmのネガ型レジストパターン付きシリコン基板が得られ、シリコン基板上のレジストパターンにクラックは認められず、良好なネガ型レジストパターンが得られた。前述の手順で鉛筆硬度を測定したところ、鉛筆硬度5Hを示し、満足のいく硬さであった。この様に、得られたレジスト膜に、レジスト液の保存による経時劣化は認められなかった。
【0084】
実施例2
[縮合物の合成]
実施例1で用いたのと同様の三口フラスコに、アルコキシシランAとしての(CH)Si(OEt)、44.6g(0.250mol)、アルコキシシランBとしてのPhSi(OEt)、12.0g(0.050mol)、およびアルコキシシランCとしての(CH)Si(OMe)、29.6g(0.200mol)を採取した。モル比は、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=50:10:40であり、本発明の縮合物におけるアルコシラン混合物Dの組成比の範疇である。
【0085】
次いで、イソプロパノール、62.4g、水、46.8g(2.600mol)、および酢酸、0.03gを、三口フラスコ内に加え、実施例1と同様の手順で縮合物を合成した。縮合物の収量は64.98g、Mw=1200であった。尚、水の使用量は、アルコキシシラン混合物Dの有するアルコキシ基に対して、モル比で表して、2.0倍である。
【0086】
次いで、当該縮合物にポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとして前記BYK307を0.06g加え、本発明の範疇にある組成物を得た。尚、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの含有は、前記縮合物の質量に対して、0.09質量%とした。
【0087】
[組成物を用いたネガ型レジストパターンの形成]
上記の組成物のうち5.12gをPGMEA5.77gに溶解させ、実施例1と同様に光酸発生剤として前記CPI−100Tfを0.05g加え、塗布液(レジスト液)とした。直径100mmのガラス基板上に回転速度250rpm、保持時間10秒でスピンコーターにて上記レジスト液を塗布しレジスト膜を成膜した後、基板を90℃にて1分間加熱しプリベークした。尚、光酸発生剤の含有は、前記縮合物の質量に対して、0.98質量%である。
【0088】
次いで、実施例1と同じ装置を用い、同様の手順で、レジスト膜に紫外光の照射を行ったところ、最小10μm幅のラインを含むネガ型レジストパターンが形成された。その後、基板を250°Cのオーブン内にて1時間いれて、ネガ型レジストパターンを加熱焼成したところ、膜厚、3.3μmのネガ型レジストパターン付きガラス基板が得られた。ガラス基板上のレジスト膜にはクラックは認められず、良好なネガ型レジストパターンが得られた。尚、前記、厚さはパターンの段差をDektak8にて測定した。また、フォトマスクを介せず、前記露光を行い、上記条件の焼成を行い得られた膜の鉛筆硬度を前記器具により測定したところ、5Hを示し良好な結果であった。
【0089】
[保存安定性]
上記のレジスト液を冷蔵庫にて5°C下で3ヵ月間保管した。保管後の液に白濁および固形分の析出が見られず、良好な保存安定性を示した。次いで、上述の条件および手順で、ネガ型レジストパターンの形成を試みたところ、厚さ、3.4μmのネガ型レジストパターン付きガラス基板が得られ、ガラス基板上のレジストパターンにクラックは認められず、良好なネガ型レジストパターンが得られた。前述の手順で鉛筆硬度を測定したところ、鉛筆硬度5Hを示し、満足のいく硬さであった。この様に、得られたレジスト膜に、レジスト液の保存による経時劣化は認められなかった。
【0090】
実施例3
実施例1、2とは異なる種類のポリエーテル変性ジメチルシロキサンを用いた以外は、実施例1で得られた縮合物およびその組成物を用いた。
【0091】
[縮合物の合成]
実施例1で得られた縮合物10.51gに対してポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとしてBYK333(商品名、ドイツ・ビックケミー社製)を0.01g加え、本発明の範疇にある組成物を得た。尚、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの含有は、上記縮合物の質量に対して、0.10質量%である。
【0092】
[組成物を用いたネガ型レジストパターンの形成]
上記の組成物のうちの4.70gをPGMEA4.66gに溶解させ、光酸発生剤として前記CPI−100Tfを0.05g添加し、塗布液(レジスト液)とした。直径100mmのシリコン基板上に回転速度250rpm、保持時間10秒でスピンコーターにて上記レジスト液を塗布しレジスト膜を成膜した後、基板を90°Cにて1分間加熱しプリベークした。尚、光酸発生剤の含有は、上記の組成物の質量の計に対して、1.06質量%であった。
【0093】
次いで、実施例1と同じ装置を用い、同様の手順で、レジスト膜に紫外光の照射を行ったところ、最小10μm幅のラインを含むネガ型レジストパターンが形成された。その後、基板を250°Cのオーブン内にて1時間いれて、ネガ型レジストパターンを加熱焼成したところ、膜厚、3.7μmのネガ型レジストパターン付きガラス基板が得られた。ガラス基板上のレジスト膜にはクラックは認められず、良好なネガ型レジストパターンが得られた。また、フォトマスクを介せず、上記露光を行い、上記条件の焼成を行い得られた膜の鉛筆硬度を上記器具により測定したところ、5Hを示し良好な結果であった。このように、使用するポリエーテル変性ジメチルシロキサンの種類を変えても、膜硬度、さらにはネガ型レジストパターンの形成において、良好な結果が得られた。
【0094】
[保存安定性]
上記のレジスト液を冷蔵庫にて5°C下で3ヵ月間保管した。保管後の液に白濁および固形分の析出が見られず、良好な保存安定性を示した。次いで、上述の条件および手順で、ネガ型レジストパターンの形成を試みたところ、厚さ、3.6μmのネガ型レジストパターン付きガラス基板が得られ、ガラス基板上のレジストパターンにクラックは認められず、良好なネガ型レジストパターンが得られた。前述の手順で鉛筆硬度を測定したところ、鉛筆硬度5Hを示し、満足のいく硬度であった。このように、使用するポリエーテル変性ジメチルシロキサンの種類を変えても、得られたレジスト膜に、レジスト液の長期保存による劣化は認められなかった。
【0095】
実施例4
実施例1〜3とは異なる種類の光酸発生剤を用いた以外は、実施例1で得られた縮合物、およびその組成物を用いた。
【0096】
[組成物を用いたネガ型レジストパターンの形成]
実施例1で得られた組成物のうちの5.01gをPGMEA5.06gに溶解させ、光酸発生剤(商品名、Irgacure 103、ドイツBASF社製)を0.05g添加し、塗布液(レジスト液)とした。直径100mmのシリコン基板上に回転速度250rpm、保持時間10秒でスピンコーターにて上記レジスト液を塗布しレジスト膜を成膜した後、基板を90°Cにて1分間加熱しプリベークした。尚、光酸発生剤の含有は、上記縮合物の質量に対して、1.00質量%であった。
【0097】
次いで、実施例1と同じ装置を用い、同様の手順で、レジスト膜に紫外光の照射を行ったところ、最小10μm幅のラインを含むネガ型レジストパターンが形成された。その後、基板を250°Cのオーブン内にて1時間いれて、ネガ型レジストパターンを加熱焼成したところ、膜厚、3.5μmのネガ型レジストパターン付きガラス基板が得られた。ガラス基板上のレジスト膜にはクラックは認められず、良好なネガ型レジストパターンが得られた。また、フォトマスクを介せず、上記露光を行い、上記条件の焼成を行い得られた膜の鉛筆硬度を上記器具により測定したところ、5Hを示し良好な結果であった。このように、用いる光酸発生剤の種類を変えても、膜硬度、さらにはネガ型レジストパターンの形成において、良好な結果を示すことがわかった。
【0098】
尚、光酸発生剤として使用したIrgacure 103の化学構造は以下のとおりである。
【化5】

【0099】
[保存安定性]
上記のレジスト液を冷蔵庫にて5°C下で3ヵ月間保管した。保管後の液に白濁および固形分の析出が見られず、良好な保存安定性を示した。次いで、上述の条件および手順で、ネガ型レジストパターンの形成を試みたところ、厚さ、3.5μmのネガ型レジストパターン付きガラス基板が得られ、ガラス基板上のレジストパターンにクラックは認められず、良好なネガ型レジストパターンが得られた。前述の手順で鉛筆硬度を測定したところ、鉛筆硬度5Hを示し、満足のいく硬さであった。この事は、使用する光酸発生剤の種類を変えても、得られたレジスト膜に、レジスト液の長期保存による劣化は認められなかった。
【0100】
比較例1
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを用いない以外は、実施例1と同様にネガ型レジストパターンの形成を行った。
【0101】
即ち、実施例1で得られた縮合物5.56gをPGMEA5.08gに溶かし縮合物を合成した後、実施例1と同様に光酸発生剤であるCPI−100Tfを0.05g添加し、レジスト液とした。当該レジスト液を用いて、直径100mmのガラス基板上に回転速度250rpm、保持時間10秒でスピンコーターにてレジスト液を塗布して、レジスト膜を成膜した後、ガラス基板を90℃に加温して1分間加熱しプリベークした。
【0102】
次いで、実施例1と同じ装置を用い、同様の手順で、レジスト膜に紫外光の照射を行ったところ、最小10μm幅のラインを含むネガ型レジストパターンが形成された。その後、基板を250°Cのオーブン内にて1時間、加熱焼成し、膜厚、3.3μmのネガ型レジストパターン付きガラス基板が得られた。ガラス基板上のレジストパターンにはクラックは認められず、良好なネガ型パターンが得られたものの、鉛筆硬度は3Hであり、実施例1および実施例2で得られた焼成後のレジスト膜の鉛筆硬度5Hは得られなかった。このことは、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを用いなかったことで、鉛筆硬度5Hを発現する膜が得られなかったことによると推察された。
【0103】
比較例2
[縮合物の合成]
実施例1で用いたのと同様の三口フラスコに、アルコキシシランAとしての(CH)Si(OEt)を70.3g(0.394mol)、アルコキシシランBとしてのPhSi(OEt)を11.8g(0.049mol)、アルコキシシランCとしての(CH)Si(OEt)を7.3g(0.049mol)仕込んだ。モル比は、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=80:10:10であり、本発明の縮合物におけるアルコシラン混合物Dの組成比の範疇にない。
【0104】
次いで、イソプロパノールを69.0g、水を51.2g(2.844mol)、酢酸を0.03g、三口フラスコ内に仕込み、実施例1と同様の手順で縮合物を合成した。縮合物の収量は51.1g、Mw=1080であった。
【0105】
縮合物にポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとしてBYK307を0.05g加え、本発明の範疇にない組成物を得た。尚、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの含有は、上記縮合物の質量に対して、0.10質量%である。
【0106】
[組成物を用いたネガ型レジストパターンの形成]
上記の組成物のうち5.02gをPGMEA5.09gに溶解させ、実施例1と同様の光酸発生剤であるCPI−100Tfを0.05g加え、塗布液(レジスト液)とした。直径100mmのガラス基板上に回転速度250rpm、保持時間10秒でスピンコーターにて上記レジスト液を塗布し、レジスト膜を成膜した後、基板を90℃にて1分間加熱しプリベークした。尚、光酸発生剤の含有は、上記縮合物の質量に対して、1.00質量%であった。
【0107】
次いで、実施例1と同じ装置を用い、同様の手順で、レジスト膜に紫外光の照射を行ったところ、最小10μm幅のラインを含むネガ型レジストパターンが形成された。その後、基板を250°Cのオーブン内にて1時間、加熱焼成したところ、レジストパターン付きの膜にクラックが生じた。スピンコーターの回転数と時間を変えることでクラックが無い膜の形成を試みたところ、膜厚が1.7μm以上になるとクラックが生じることがわかった。このことは、本発明の範疇よりケイ素の含有量が高い組成物にしたことで、加熱硬化時に膜内部で発生する応力が大きくなりすぎてしまい、3.0μmの硬い膜が得られなかった結果と考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):(CH)Si(OR
(式(1)中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランAと、
一般式(2):(Ph)Si(OR
(式(2)中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランBと、
一般式(3):(CHSi(OR
(式(3)中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランCとを
モル比で表して、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=30〜70:10〜50:20〜60の範囲で縮合させたアルコキシシラン縮合物、および、 ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンと、
を含む組成物。
【請求項2】
前記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが一般式(4):
【化1】

(式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基である。Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基である。mは1〜30の整数、nは1〜30の整数である。Xは1〜50の整数である。Yは1〜50の整数である。)
で表される化合物であり、前記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの含有量が前記縮合物に対して、0.001質量%以上、5%質量以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
さらに光酸発生剤を含む請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記光酸発生剤の含有量が、前記縮合物に対して、0.01質量%以上、5質量%以下である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の組成物が硬化した硬化物を含む硬化膜。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の組成物に有機溶剤を加えて塗布液を作製し、当該塗布液を基体上に塗布成膜した後に、加熱焼成する工程を有する硬化膜の製造方法であって、当該硬化膜の膜厚が3.0μm以上であり、鉛筆硬度5H以上である、硬化膜の製造方法。
【請求項7】
一般式(1):(CH)Si(OR
(式(1)中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランAと、
一般式(2):(Ph)Si(OR
(式(2)中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランBと、
一般式(3):(CHSi(OR
(式(3)中、Rは、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基である。)で表されるアルコキシシランCとを、
モル比で表して、アルコキシシランA:アルコキシシランB:アルコキシシランC=30〜70:10〜50:20〜60としたアルコキシシランの縮合前混合物Dに、水、水溶性の有機溶剤Eおよび酸触媒を加え縮合前混合物とする第1の工程と、
縮合前混合物を加水分解および縮合させ反応系に縮合物を得る工程と、
縮合物を非水溶性の有機溶剤Fで抽出、および水で酸触媒を抽出する工程と、
有機溶剤Fを除去する工程と
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを加える工程を含む、
発明1の、組成物製造方法。
【請求項8】
アルコキシシラン混合物Dの有するアルコキシ基に対して、モル比で表して、1.5倍以上、5倍以下の水を用いる、請求項7に記載の、組成物製造方法。
【請求項9】
有機溶剤Eがアルコールである、請求項7または請求項8に記載の、組成物製造方法。
【請求項10】
酸触媒が酢酸である、請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の、組成物製造方法。
【請求項11】
請求項3または請求項4に記載の組成物を基体上に塗布成膜した膜に高エネルギー線を照射して、照射部に酸を発成させて照射部の縮合物の縮合をさらに促進させてアルカリ現像液に不溶とした後、未照射部の膜をアルカリ現像液で除去してネガ型パターンを形成するネガ型パターンの形成方法。
【請求項12】
照射する高エネルギー線が波長400nm以下の電磁波または電子線である、請求項11に記載のネガ型パターンの形成方法。
【請求項13】
請求項1または請求項2に記載の組成物が硬化した硬化物を含む保護膜。
【請求項14】
請求項1または請求項2に記載の組成物が硬化した硬化物を含む絶縁膜。
【請求項15】
請求項3または請求項4に記載の組成物が硬化した硬化物を含むレジスト。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−100480(P2013−100480A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−222769(P2012−222769)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】