説明

シリカ被覆ナノ粒子、ナノ粒子堆積基板、およびそれらの製造方法

【課題】溶媒分散性の高い、基板等への固定化が容易なシリカ被覆ナノ粒子を提供する。
【解決手段】シリカ被覆ナノ粒子は、ナノ粒子からなるコアと、前記コアの周囲に前記コアを被覆するように設けられた珪素化合物からなるシェルと、前記シェルの周囲に付着した炭素数7以上の第1のシランカップリング剤と、を有し、前記第1のシランカップリング剤は、一端は前記シェル中のSi元素と結合し、他端は反応性官能基を具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカで被覆されたナノ粒子の表面を有機化合物で修飾したシリカ被覆ナノ粒子、その製造方法、および、シリカ被覆ナノ粒子の分散液に関するものである。本発明のシリカ被覆ナノ粒子は、基板上に配列させることで、高密度磁気記録媒体、磁気抵抗効果素子、非線形光学デバイス、燃料電池電極などに応用可能である。
【背景技術】
【0002】
近年、化学合成法にて作製された1nmから数百nmの大きさのナノ粒子について数多くの研究がなされ、その製造法が数多く報告されている。
【0003】
中でも酸化鉄、Co、FePtといった磁性体ナノ粒子は、高密度磁気記録媒体や磁気抵抗効果素子だけでなく、MRI用造影剤や磁気温熱療法の発熱体といった医療関連技術への応用も注目を集めている。
【0004】
磁性体ナノ粒子をこれらの技術に応用するためには、耐候性の向上や生体毒性を抑えるために、化学的に安定なシリカ等の酸化物シェルによってナノ粒子の表面を被覆することが好ましい。
【0005】
また、ナノ粒子表面を有機配位子で修飾する場合、通常、ナノ粒子表面の金属原子と有機配位子の配位原子(N、O、Sなど)が配位結合を作ることを利用して、有機配位子がナノ粒子表面に固定化されている。ここで、ナノ粒子表面をシリカで被覆した上で有機配位子を固定化する方が、有機配位子とナノ粒子表面のシリカが、シランカップリング剤を介してより強固な共有結合で固定化されるので、有機配位子の脱離による溶媒分散性の低下を防ぐことができる。
【0006】
特許文献1では、金属酸化物コアをシリカで被覆した後にアルコール洗浄を行って、表面に水酸基を導入した後、大過剰にシランカップリング剤を加えて130℃、20時間反応させることによって、表面修飾を行っている。
【0007】
特許文献2では、シクロヘキサンにポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(IGEPAL(商標登録)CO−520として市販)を添加し、AgNO水溶液を加えて室温で撹拌することで、油中水型の逆ミセルを形成し、これにヒドラジンを加えてAgNOを還元することで、逆ミセル中にAgナノ粒子を取り込んだナノ粒子逆ミセルコンポジットを含む分散液を作製し、そこにオルト珪酸テトラエチル(TEOS)とアンモニア水を加えて室温で24時間撹拌することでAgナノ粒子表面にシリカシェルを形成し、シリカ被覆Agナノ粒子を含む逆ミセルコンポジット分散液を作製している。次にシランカップリング剤のエタノール溶液を前記逆ミセルコンポジット分散液に加えて反応させることでシリカシェル表面をシランカップリング剤で修飾している。
【0008】
以上のように、ナノ粒子表面を有機配位子で修飾する目的として、ナノ粒子の溶媒分散性を向上させることが挙げられるが、その他の目的として、微粒子を基板上に配列させる際の結合手としての役割を有機配位子に持たせることも知られている。特許文献3では、基板表面に分子末端に官能基を有する単分子膜を形成し、一方でナノ粒子表面に分子末端に官能基を有する単分子膜を形成し、それぞれの官能基同士により形成される化学結合を利用して、基板上にナノ粒子を配列させる方法が記載されている。この方法によれば、基板とナノ粒子との結合が、基板上の末端官能基を利用してなされるため、基板上にナノ粒子の単層膜が形成可能であり、現在、自己組織化膜の形成方法として注目されている。特許文献3では、ナノ粒子の溶媒分散性については触れられていないが、ナノ粒子表面を修飾している有機配位子として、末端に反応性官能基を有することが必須となっている。
【0009】
【特許文献1】特開2007-269770号公報
【特許文献2】特表2008-501509号公報
【特許文献3】特許第3597507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の方法では、シランカップリング剤を均一系で反応させているため、反応系中の至るところでシランカップリング剤の脱水縮合反応が起こってしまい、シランカップリング剤が重合したポリマーが副生成物として大量に発生してしまうという欠点がある。
【0011】
また、特許文献1の方法において、末端に反応性官能基を有するシランカップリング剤を用いた場合、シリカ被覆ナノ粒子の表面をシランカップリング剤で修飾する際に130℃という高温を要するので、シランカップリング剤末端の反応性官能基が分解または酸化してしまう恐れがあり、採用できない。
【0012】
特許文献2の方法では、逆ミセル内でのみシランカップリング剤の加水分解と脱水縮合が起こるため、シリカシェル表面にのみシランカップリング剤が結合しやすい。しかしながら、特許文献2の方法において、本発明者が末端に反応性官能基を有するシランカップリング剤を用いて実験した結果、溶媒分散性が著しく低下することが判明した。得られた分散液をTEM観察したところ、複数の粒子が凝集してコンポジットを形成していることが判明した。
【0013】
高密度磁気記録媒体や磁気抵抗効果素子または非線形光学デバイスを作製する際には、基板上に独立した粒子1つ1つを規則的に並べる必要があるため、複数の粒子を含むコンポジットを形成してしまうと使用できない。
【0014】
本発明は、コンポジットを形成しにくい、溶媒分散性が高いシリカ被覆ナノ粒子およびその分散液を提供することを目的とする。また、本発明は、末端に反応性官能基を有することで、基板等と化学結合を形成可能なシリカ被覆ナノ粒子およびその分散液を提供することを目的とする。また、本発明は、容易にこれらを製造可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、基板等に固定化するためのナノ粒子を提供することが目的である。ナノ粒子を被覆するシリカシェル表面に付着するシランカップリング剤の末端に、反応性官能基を導入する最大の目的は、基板や他の分子との結合を形成することである。その目的を達成するためには、反応性官能基は粒子の外側に揃って向いていなければならない。このように反応性官能基の向きを揃えるためには、シランカップリング剤のアルコキシド部位(すなわち、反応性官能基とは他端)が加水分解してシラノールとなったときに、それらの部位のみが優先してアンモニア水逆ミセル内に入り、シリカシェル表面と脱水縮合する必要がある。
【0016】
先述のように、特許文献2の方法において、本発明者が末端に反応性官能基を有するシランカップリング剤を用いて実験した結果、溶媒分散性が著しく低下することが判明した。得られた分散液をTEM観察したところ、複数の粒子が凝集してコンポジットを形成していることが判明した。これについて本発明者らは次のように考察した。すなわち、特許文献2にて使用しているアミノプロピルトリメトキシシラン(APS)は、炭素数3個のアミノプロピル基を1個持つが、炭素数3個では分子内で疎水性部位の占める割合が小さく、APS分子全体では極性が強くなるため、アンモニア水逆ミセル中に分子が容易に進入できる。このような場合、APSの分子の向きはランダムになるので、アミノ基を揃って外側に向けることは困難である。またアンモニア水逆ミセル内でのAPS分子の向きがランダムになると、APSが加水分解した際に生じるシラノール基が外側を向くことが可能になるので、隣接粒子のシリカシェルまたは隣接粒子表面に結合したAPSと脱水縮合して粒子同士が繋がって、複数の粒子を含むコンポジットを形成してしまう、と推測した。
【0017】
高密度磁気記録媒体や磁気抵抗効果素子または非線形光学デバイスを作製する際には、基板上に独立した粒子1つ1つを規則的に並べる必要があるため、複数の粒子を含むコンポジットを形成してしまうと使用できない。
【0018】
また、機能性官能基(または反応性官能基)は、多くの場合極性を持つため、機能性官能基が外側に向いて揃った場合シリカ被覆ナノ粒子の無極性溶媒に対する分散性が低下し、機能性官能基同士が水素結合等を形成し粒子が凝集しやすくなる。
【0019】
本発明者らは、シランカップリング剤分子全体の極性を小さくすることにより、このような問題を解消できることができると考えた。具体的には、シランカップリング剤分子中の疎水性部位の割合を大きくすることを検討した。
【0020】
そこで、これらの状況を踏まえて本発明者らが鋭意検討したところ、シリカ被覆されたナノ粒子表面を末端にアミノ基、メルカプト基、水酸基、エポキシ基、シアノ基、イソシアネート基またはビニル基といった反応性官能基を有する炭素数7以上のアルキル鎖を持つシランカップリング剤(本発明における第1のシランカップリング剤)を使用することにより目的を達成しうることを見いだした。このようなシランカップリング剤であれば、シランカップリング剤分子自体が大きいこと、また、シランカップリング剤分子全体として極性が分散している(疎水性部位が長い)ため、アルカリ性逆ミセル水中に分子が進入する際、シラノール基側が優先的に進入することが可能であり、その結果、反応性官能基が外側を向いたシリカ被覆ナノ粒子を得ることが可能となる、と考えられる。
【0021】
さらに、第1のシランカップリング剤に加えて、反応性官能基を有さないシランカップリング剤(本発明における第2のシランカップリング剤)をさらに混合して使用することが、溶媒分散性や基板への固定化の観点から好ましいことを見いだした。第1のシランカップリング剤のみの場合は、長期保管した場合など、コンポジットの形成が確認されることがあったが、第2のシランカップリング剤を併用した場合は、そのような現象は確認されず、溶媒分散性が高いことがわかった。また、第1のシランカップリング剤のみの場合は、基板へ固定化させた際、ナノ粒子の密度があまり向上しない場合があったが、第2のシランカップリング剤を併用した場合には、そのような現象は確認されず、基板へ高密度にナノ粒子を固定化できることがわかった。この理由について、本発明者らは、すべてのシランカップリング剤の末端に反応性官能基があると、反応性官能基同士の相互作用で、溶媒中や基板上で凝集が起こるためであると考えている。そのため、溶媒分散性を向上させるために、反応性官能基を有さないシランカップリング剤を混合することが好ましいと考えた。このような目的で第2のシランカップリング剤を併用するため、なるべく溶媒側に表出しつつ、かつ、第1のシランカップリング剤末端の反応性官能基の結合の妨げにならないような分子長を有するように、第2のシランカップリング剤を選定する必要がある。そのため、第1および第2のシランカップリング剤の炭素数は同等であることが好ましい。
【0022】
また、第1のシランカップリング剤の炭素数(NC1)と、前記第2のシランカップリング剤の炭素数(NC2)との差(NC1−NC2)は、−1、0、1、2、3のいずれかであることが好ましい。差が−1の場合、「シリカシェル〜第1のシランカップリング剤の反応性官能基末端」と「シリカシェル〜第2のシランカップリング剤の末端」の長さが略同等ということになり、上述のように、「溶媒分散性の向上」および「基板への固定度向上」の両立という観点から好ましい。差が0〜3においては、差が小さい方が「溶媒分散性の向上」および「基板への固定度向上」の両立という観点から好ましいが、この範囲であれば、両立可能であることを確認している。
【0023】
また、本発明の第1および第2のシランカップリング剤中の炭化水素基は、基板上へ固定化させる際に、自己組織化により六方最密充填構造を形成しやすいという観点からは、直鎖炭化水素であることが好ましいことがわかった。
【0024】
また、本発明の第1および第2のシランカップリング剤中の炭化水素基は、溶媒への分散性という観点からは、分岐構造の炭化水素の方がより好ましいことがわかった。但し、本発明の目的を考慮すると、第1のシランカップリング剤が分岐構造の場合、ナノ粒子から離れている方の側鎖の末端に反応性官能基が具備されている必要があることはもちろんである。
【0025】
本発明におけるコア材料(ナノ粒子材料)としては、金属(単成分系、多成分系を含む)または酸化物材料が挙げられる。例えば、FePt、CoPt、InP、CdSe、ZnSe、ZnS、Co、Au、Ag、鉄酸化物、チタン酸化物、ジルコニア酸化物などが挙げられる。
【0026】
本発明は、基板等に固定化するためのナノ粒子を提供することが目的である。基板等とナノ粒子との固定化は化学結合による行うため、化学結合するための結合手として、シリカ被覆ナノ粒子に付着したシランカップリング剤の末端に、反応性官能基を導入している。化学結合させるための基板等と反応性官能基との組み合わせとしては、例えば次のような組み合わせが挙げられる。Auとメルカプト基(配位結合)、Ptとメルカプト基(配位結合)、Ptとアミノ基(配位結合)、アルミナ(表面に水酸基あり)と水酸基(脱水縮合による共有結合)、チタニア(表面に水酸基あり)と水酸基(脱水縮合による共有結合)、アルミナ(表面に水酸基あり)とイソシアネート基(共有結合)、Ptとシアノ基(共有結合)、Ruとシアノ基(共有結合)、Si(表面に水素あり)とビニル基(共有結合)などが挙げられる。なお、上記記載中の結合種はあくまで相当する可能性が高い結合種であり、これに限られるものではない。上述のように、本発明のナノ粒子を基板等へ固定化する際には、基板表面に予め反応性官能基を形成する必要がないため、簡単な方法で基板等への固定化が可能となる。
【0027】
本発明のシリカ被覆ナノ粒子の製造方法は、(I)有機配位子で表面を保護された金属または酸化物ナノ粒子を、無極性有機溶媒に均一分散させた後、非イオン性界面活性剤を添加し、塩基を添加した水を加えて(例えば室温で)撹拌することにより、ナノ粒子を取り込んだナノ粒子逆ミセルコンポジットを含む分散液を作製するステップと、(II)(I)の溶液にオルトケイ酸化合物(例えば、オルト珪酸テトラエチル(TEOS))を加えて(例えば室温で)撹拌することにより、ナノ粒子表面にシリカシェルを形成するステップと、(III)反応性官能基を有するアルキル鎖を持つ第1のシランカップリング剤と、反応性官能基を有さないアルキル鎖を有する第2のシランカップリング剤とを混合して加えることにより、シリカシェルの外周にシランカップリング剤を導入するステップと、を有することを特徴とする。
【0028】
本発明は、以下の構成を有する。
(構成1)ナノ粒子からなるコアと、
前記コアの周囲に前記コアを被覆するように設けられた珪素化合物からなるシェルと、
前記シェルの周囲に付着した炭素数7以上の炭化水素基を有する第1のシランカップリング剤と、
を有し、
前記第1のシランカップリング剤は、
一端は前記シェル中のSi元素と結合し、他端は反応性官能基を具備するシリカ被覆ナノ粒子。
(構成2)前記シェルの周囲に、
前記第1のシランカップリング剤の炭化水素基の炭素数と同等の炭素数の炭化水素基を有し、かつ、反応性官能基を具備しない第2のシランカップリング剤が付着してなる構成1のシリカ被覆ナノ粒子。
(構成3)前記反応性官能基が、アミノ基、メルカプト基、水酸基、エポキシ基、シアノ基、イソシアネート基、ビニル基から選ばれる官能基である構成1又は2のシリカ被覆ナノ粒子。
(構成4)前記コアが、FePt、CoPt、InP、CdSe、ZnSe、ZnS、Co、Au、Ag、鉄酸化物、チタン酸化物、ジルコニア酸化物のいずれかである構成1〜3のいずれかのシリカ被覆ナノ粒子。
(構成5)前記第1のシランカップリング剤の炭化水素基の炭素数(NC1)と、前記第2のシランカップリング剤の炭化水素基の炭素数(NC2)との差(NC1−NC2)が、−1〜3である構成1〜4のいずれかのシリカ被覆ナノ粒子。
(構成6)構成1〜5のいずれかに記載のシリカ被覆ナノ粒子が、基板上に、前記反応性官能基を介して化学結合により単層で固定化されているシリカ被覆ナノ粒子堆積基板。
(構成7)(A)有機溶媒中に、非イオン性界面活性剤、ナノ粒子、およびアルカリ性水溶液を添加して、ナノ粒子を内包したアルカリ性逆ミセル水を形成させる工程、
(B)前記(A)工程の反応液にオルトケイ酸化合物を添加し、前記ナノ粒子の周囲に、珪素化合物を形成する工程、
(C)前記(B)工程で得られた反応液に、先端に反応性官能基を具備した炭素数7以上の炭化水素基を有する第1のシランカップリング剤と、炭素数が前記シランカップリング剤の炭素数と同等であり、かつ先端に反応性官能基を具備しない第2のシランカップリング剤と、を添加して、前記珪素化合物表面をシランカップリング剤で修飾する工程、
を有する構成1〜6のいずれかのシリカ被覆ナノ粒子の製造方法。
(構成8)前記工程(C)において、前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤との添加比(モル比)を、0.5:9.5〜5:5とする構成7のシリカ被覆ナノ粒子の製造方法。
(構成9)前記工程(C)において、前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤との添加比(モル比)を、2:8〜4:6とする構成7のシリカ被覆ナノ粒子の製造方法。
(構成10)前記反応性官能基と基板との間で化学結合を形成させることにより、構成1〜6のいずれかのシリカ被覆金属ナノ粒子を単層のみ固定化させるナノ粒子堆積基板の製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、溶媒分散性の高い、基板等への固定化が容易なシリカ被覆ナノ粒子、シリカ被覆ナノ粒子分散液、およびその効率的な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の代表的な実施例は、以下の通りであるが、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0031】
有機配位子で表面を保護された金属または酸化物ナノ粒子をシクロヘキサンなどの無極性有機溶媒に均一分散させた後、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(IGEPAL(商標登録)CO−520として市販)などの非イオン性界面活性剤を添加し、アンモニア等の塩基を添加した水を加えて室温で10〜30分撹拌することで、油中水型の逆ミセルを形成し、その中にナノ粒子を取り込んだナノ粒子逆ミセルコンポジットを含む分散液を作製した。
【0032】
前記ナノ粒子逆ミセルコンポジットを含む分散液に、オルト珪酸テトラエチル(TEOS)を加えて室温で2〜5日撹拌することでナノ粒子表面にシリカシェルを形成し、シリカ被覆ナノ粒子を含む逆ミセルコンポジット分散液を作製した。
【0033】
前記シリカ被覆ナノ粒子を含む逆ミセルコンポジット分散液に、長鎖アルキル基の先端に反応性官能基を持つ第1のシランカップリング剤と、長鎖アルキル基を持つ第2のシランカップリング剤を混合して加え、室温で2〜5日撹拌することでシリカシェル表面をシランカップリング剤で修飾し、無極性有機溶媒をエバポレーターで除去した後にメタノールにて粒子を洗浄し、遠心分離を行うことで表面修飾されたシリカ被覆ナノ粒子を回収した。
【0034】
前記長鎖アルキル基の先端に反応性官能基を持つ第1のシランカップリング剤として、メルカプト基、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、シアノ基、イソシアネートおよび二重結合などを末端に持ち、かつ炭素数が7〜17のアルキル鎖を1個から3個持つシランカップリング剤が挙げられる。これらの長鎖アルキル基の先端に反応性官能基を持つシランカップリング剤は単独で使用することもできるし、また2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0035】
前記長鎖アルキル基を持つ第2のシランカップリング剤として、炭素数が8から18のアルキル鎖を1個から3個持つシランカップリング剤が挙げられる。これらの長鎖アルキル基を持つシランカップリング剤はアルキル鎖内に不飽和結合を1個以上含むこともできる。これらの長鎖アルキル基を持つシランカップリング剤は単独で使用することもできるし、また2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0036】
以下、本発明の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0037】
実施例1
(1)FePtナノ粒子のSiOシェルによる被覆工程
シクロヘキサン20mlにIGEPAL(商標登録)CO−520を0.94mlと平均粒径6nmのFePtナノ粒子0.8mgを加え均一分散させた。その後、25%アンモニア水80μlを加えて室温で30分間撹拌を行い、TEOSを80μl加えて室温で3日間撹拌を行った。
【0038】
(2)SiO被覆FePtナノ粒子よる被覆工程
上記(1)にて得られた反応溶液に、ドデシルトリメトキシシラン24μl(38μmol)と11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン10μl(16μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、塩化メチレンに均一分散させた。得られた粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)観察の結果を図1に示す。平均粒径6nmのFePtコア部の周りに約10nmの厚みでSiOシェルが被覆されていることが確認できた。
【0039】
(3)表面修飾SiO被覆FePtナノ粒子のAu基板上への固定化
Auで表面をコートしたガラス基板を、得られたナノ粒子の塩化メチレン分散液に1日浸漬させた。分散液から取り出した後、基板を塩化メチレン中で5分間超音波洗浄を行った。超音波洗浄後のAuコートガラス基板表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察の結果を図2に示す。粒子が基板表面に密に付着している様子が伺え、Auコートガラス基板上にナノ粒子を固定化できたことが確認された。
【0040】
比較例1
実施例1(1)にて得られた反応溶液に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)13μl(54μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、トルエンに均一分散させた。TEM観察の結果、図3に示すように、ナノ粒子同士の凝集が観察された。
【0041】
実施例2
実施例1(1)にて得られた反応溶液に、ドデシルトリメトキシシラン31μl(49μmol)と11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン3μl(5μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、トルエンに均一分散させた。TEM観察の結果、実施例1同様に平均粒径6nmのFePtコア部の周りに約10nmの厚みでSiOシェルが被覆されていることが確認できた。また、実施例1(3)と同様にAuコートガラス基板上へのナノ粒子固定化を試みた。SEM観察の結果、粒子が基板表面に密に付着している様子が伺え、Auコートガラス基板上にナノ粒子を固定化できたことが確認された。
【0042】
実施例3
実施例1(1)にて得られた反応溶液にドデシルトリメトキシシラン17μl(27μmol)と11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン17μl(27μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、塩化メチレンに均一分散させた。TEM観察の結果、実施例1同様に平均粒径6nmのFePtコア部の周りに10nmの厚みでSiOシェルが被覆されていることが確認できた。また、実施例1(3)と同様にAuコートガラス基板上へのナノ粒子固定化を試みた。SEM観察の結果、粒子が基板表面に密に付着している様子が伺え、Auコートガラス基板上にナノ粒子を固定化できたことがわかった。
【0043】
実施例4
実施例1(1)にて得られた反応溶液にオクチルトリメトキシシラン24μl(38μmol)と7−メルカプトヘプチルトリメトキシシラン10μl(16μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、塩化メチレンに均一分散させた。TEM観察の結果、実施例1同様に平均粒径6nmのFePtコア部の周りに10nmの厚みでSiOシェルが被覆されていることが確認できた。また、実施例1(3)と同様にAuコートガラス基板上へのナノ粒子固定化を試みた。SEM観察の結果、粒子が基板表面に密に付着している様子が伺え、Auコートガラス基板上にナノ粒子を固定化できたことがわかった。
【0044】
実施例5
実施例1(1)にて得られた反応溶液にオクチルトリメトキシシラン24μl(38μmol)と11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン10μl(16μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、塩化メチレンに均一分散させた。TEM観察の結果、実施例1同様に平均粒径6nmのFePtコア部の周りに約10nmの厚みでSiOシェルが被覆されていることが確認できた。また、実施例1(3)と同様にAuコートガラス基板上へのナノ粒子固定化を試みた。SEM観察の結果、粒子が基板表面に密に付着している様子が伺え、Auコートガラス基板上にナノ粒子を固定化できたことがわかった。
【0045】
実施例6
実施例1(1)にて得られた反応溶液にドデシルトリメトキシシラン24μl(38μmol)と11−アミノウンデシルトリメトキシシラン10μl(16μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、塩化メチレンに均一分散させた。TEM観察の結果、実施例1同様に平均粒径6nmのFePtコア部の周りに約10nmの厚みでSiOシェルが被覆されていることが確認できた。また、実施例1(3)と同様の方法にてPtコートガラス基板上へのナノ粒子固定化を試みた。SEM観察の結果、粒子が基板表面に密に付着している様子が伺え、Ptコートガラス基板上にナノ粒子を固定化できたことがわかった。
【0046】
実施例7
実施例1(1)にて得られた反応溶液にドデシルトリメトキシシラン24μl(38μmol)と11−ヒドロキシウンデシルトリメトキシシラン10μl(16μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、塩化メチレンに均一分散させた。TEM観察の結果、実施例1同様に平均粒径6nmのFePtコア部の周りに約10nmの厚みでSiOシェルが被覆されていることが確認できた。また、実施例1(3)と同様の方法にてAlコートガラス基板上へのナノ粒子固定化を試みた。SEM観察の結果、粒子が基板表面に密に付着している様子が伺え、Alコートガラス基板上にナノ粒子を固定化できたことがわかった。
【0047】
実施例8
(1)CoPtナノ粒子のSiOシェルによる被覆工程
シクロヘキサン20mlにIGEPAL(商標登録)CO−520を0.94mlと平均粒径4nmのCoPtナノ粒子0.9mgを加え均一分散させた。その後、25%アンモニア水80μlを加えて室温で30分間撹拌を行い、TEOSを80μl加えて室温で3日間撹拌を行った。
【0048】
(2)SiO被覆CoPtナノ粒子よる被覆工程
上記(1)にて得られた反応溶液に、ドデシルトリメトキシシラン24μl(38μmol)と11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン10μl(16μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、塩化メチレンに均一分散させた。得られた粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)観察の結果は、図1と同等であった。平均粒径4nmのCoPtコア部の周りに約10nmの厚みでSiOシェルが被覆されていることが確認できた。 また、実施例1(3)と同様にAuコートガラス基板上へのナノ粒子固定化を試みた。SEM観察の結果、粒子が基板表面に密に付着している様子が伺え、Auコートガラス基板上にナノ粒子を固定化できたことがわかった。
【0049】
実施例9
(1)Feナノ粒子のSiOシェルによる被覆工程
シクロヘキサン20mlにIGEPAL(商標登録)CO−520を0.94mlと平均粒径10nmのFeナノ粒子1.0mgを加え均一分散させた。その後、25%アンモニア水80μlを加えて室温で30分間撹拌を行い、TEOSを60μl加えて室温で3日間撹拌を行った。
【0050】
(2)SiO被覆Feナノ粒子よる被覆工程
上記(1)にて得られた反応溶液に、ドデシルトリメトキシシラン24μl(38μmol)と11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン10μl(16μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、塩化メチレンに均一分散させた。得られた粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)観察の結果は、図1と同等であった。平均粒径10nmのFeコア部の周りに約8nmの厚みでSiOシェルが被覆されていることが確認できた。 また、実施例1(3)と同様にAuコートガラス基板上へのナノ粒子固定化を試みた。SEM観察の結果、粒子が基板表面に密に付着している様子が伺え、Auコートガラス基板上にナノ粒子を固定化できたことがわかった。
【0051】
実施例10
(1)Auナノ粒子のSiOシェルによる被覆工程
シクロヘキサン20mlにIGEPAL(商標登録)CO−520を0.94mlと平均粒径4nmのAuナノ粒子1.0mgを加え均一分散させた。その後、25%アンモニア水80μlを加えて室温で30分間撹拌を行い、TEOSを80μl加えて室温で3日間撹拌を行った。
【0052】
(2)SiO被覆Auナノ粒子よる被覆工程
上記(1)にて得られた反応溶液に、ドデシルトリメトキシシラン24μl(38μmol)と11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン10μl(16μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、塩化メチレンに均一分散させた。得られた粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)観察の結果は、図1と同等であった。平均粒径4nmのAuコア部の周りに約10nmの厚みでSiOシェルが被覆されていることが確認できた。 また、実施例1(3)と同様にAuコートガラス基板上へのナノ粒子固定化を試みた。SEM観察の結果、粒子が基板表面に密に付着している様子が伺え、Auコートガラス基板上にナノ粒子を固定化できたことがわかった。
【0053】
実施例11
実施例1(1)にて得られた反応溶液に、11−メルカプトウンデシルトリメトキシシラン17μl(54μmol)を加えた後、室温で3日間撹拌を行った。得られた反応溶液にメタノールを加え遠心分離を行うことで生成物を単離し、トルエンに均一分散させた。得られた粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)観察の結果を図4に示す。平均粒径6nmのFePtコア部の周りに約10nmの厚みでSiOシェルが被覆されていることが確認できたが、実施例1よりは分散性が劣ることがわかった。また、実施例1(3)と同様にAuコートガラス基板上へのナノ粒子固定化を試みた。超音波洗浄後のAuコートガラス基板表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察の結果を図5に示す。粒子が基板表面に密に付着している様子が伺え、Auコートガラス基板上にナノ粒子を固定化できたことが確認されたが、実施例1よりは固定化密度が劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のシリカ被覆ナノ粒子は、溶媒分散性の高い、基板等への固定化が容易なシリカ被覆ナノ粒子、シリカ被覆ナノ粒子分散液、およびその効率的な製造方法を提供することができる。本発明により、取扱が簡便なシリカ被覆ナノ粒子を提供することができる。本発明のシリカ被覆ナノ粒子を基板等の上に配列させることで、高密度磁気記録媒体、磁気抵抗効果素子、非線形光学デバイス、燃料電池電極などに応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例1で得られたシリカ被覆ナノ粒子を示すTEM写真である。
【図2】本発明の実施例1で得られた、Auコートガラス基板上に固定されたシリカ被覆ナノ粒子を示すSEM写真である。
【図3】比較例1で得られた凝集ナノ粒子を示すTEM写真である。
【図4】本発明の実施例11で得られたシリカ被覆ナノ粒子を示すTEM写真である。
【図5】本発明の実施例11で得られた、Auコートガラス基板上に固定されたシリカ被覆ナノ粒子を示すSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子からなるコアと、
前記コアの周囲に前記コアを被覆するように設けられた珪素化合物からなるシェルと、
前記シェルの周囲に付着した炭素数7以上の炭化水素基を有する第1のシランカップリング剤と、
を有し、
前記第1のシランカップリング剤は、
一端は前記シェル中のSi元素と結合し、他端は反応性官能基を具備することを特徴とするシリカ被覆ナノ粒子。
【請求項2】
前記シェルの周囲に、
前記第1のシランカップリング剤の炭化水素基の炭素数と同等の炭素数の炭化水素基を有し、かつ、反応性官能基を具備しない第2のシランカップリング剤が付着してなることを特徴とする請求項1に記載のシリカ被覆ナノ粒子。
【請求項3】
前記反応性官能基が、アミノ基、メルカプト基、水酸基、エポキシ基、シアノ基、イソシアネート基、ビニル基から選ばれる官能基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリカ被覆ナノ粒子。
【請求項4】
前記コアが、FePt、CoPt、InP、CdSe、ZnSe、ZnS、Co、Au、Ag、鉄酸化物、チタン酸化物、ジルコニア酸化物のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリカ被覆ナノ粒子。
【請求項5】
前記第1のシランカップリング剤の炭化水素基の炭素数(NC1)と、前記第2のシランカップリング剤の炭化水素基の炭素数(NC2)との差(NC1−NC2)が、−1〜3であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシリカ被覆ナノ粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシリカ被覆ナノ粒子が、基板上に、前記反応性官能基を介して化学結合により単層で固定化されていることを特徴とするナノ粒子堆積基板。
【請求項7】
(A)有機溶媒中に、非イオン性界面活性剤、ナノ粒子、およびアルカリ性水溶液を添加して、ナノ粒子を内包したアルカリ性逆ミセル水を形成させる工程、
(B)前記(A)工程の反応液にオルトケイ酸化合物を添加し、前記ナノ粒子の周囲に、珪素化合物を形成する工程、
(C)前記(B)工程で得られた反応液に、先端に反応性官能基を具備した炭素数7以上の炭化水素基を有する第1のシランカップリング剤と、炭素数が前記シランカップリング剤の炭素数と同等であり、かつ先端に反応性官能基を具備しない第2のシランカップリング剤と、を添加して、前記珪素化合物表面をシランカップリング剤で修飾する工程、
を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のシリカ被覆ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記工程(C)において、前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤との添加比(モル比)を、0.5:9.5〜5:5とすることを特徴とする請求項7に記載のシリカ被覆ナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記工程(C)において、前記第1のシランカップリング剤と前記第2のシランカップリング剤との添加比(モル比)を、2:8〜4:6とすることを特徴とする請求項7に記載のシリカ被覆ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記反応性官能基と基板との間で化学結合を形成させることにより、請求項1〜6のいずれかに記載のシリカ被覆金属ナノ粒子を単層のみ固定化させることを特徴とするナノ粒子堆積基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−1555(P2010−1555A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163708(P2008−163708)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】