説明

シリコンインゴットの製造方法、シリコンインゴットの製造装置及びシリコン結晶成長方法

【課題】シリコン廃材等の不純物を含むシリコン原料から高純度のシリコンインゴットを、簡単に、かつ、確実に製造することが可能なシリコンインゴットの製造方法、シリコンインゴットの製造装置及びシリコン結晶成長方法を提供する。
【解決手段】不純物を含むシリコン原料から高純度のシリコンインゴットを製出するシリコンインゴットの製造方法であって、前記シリコン原料に、Si元素と共晶反応する合金元素を添加して溶解し、共晶組成よりもSi濃度が高くされたシリコン合金溶湯を生成するシリコン合金生成工程S1と、前記シリコン合金溶湯を一方向凝固させるとともに、凝固して得られたインゴットを連続的に引き出す凝固工程S2と、前記凝固工程によって消費されたSi元素を補うように、前記シリコン合金溶湯にシリコン原料を追加供給するシリコン追加工程S3と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、シリコン材を加工した際に発生するシリコン廃材や金属シリコン等の不純物を含むシリコン原料から、高純度のシリコンインゴットを製造する方法、シリコンインゴットの製造装置及び多結晶又は単結晶のシリコンインゴットを成長させるシリコン結晶成長方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の少ない発電方式として太陽電池モジュールを利用した発電が注目され、様々な分野で広く使用されている。このような太陽電池モジュールは、pn接合されたシリコンの半導体の板材からなるセルを複数備え、これらのセルが太陽電池用インターコネクタおよびバスバーによって電気的に接続された構成とされている。
このような太陽電池モジュールの普及に伴い、半導体の素材となるシリコン材の需要が高まっており、シリコン原料が不足する状況にある。
【0003】
ところで、シリコン材から半導体デバイスを製造する際には、シリコンインゴットの切断やシリコンウエハの研磨等の加工を行うことになるが、これらの加工時に切断屑や研磨粉、端材、坩堝残材等のシリコン廃材が大量に発生することになる。そこで、このシリコン廃材をシリコン原料として再利用することが検討されている。
鉄(Fe)、銅(Cu)、金(Au)、コバルト(Co)等のいわゆる重金属類のシリコンに対する平衡偏析係数は、10−4から10−6レベルであり、CZ法、FZ法、一方向凝固法などの結晶化する方法によって偏析が生じるため、成長後の結晶内に取り込まれる重金属の濃度を低く抑えることが可能であるが、ボロン(B)のシリコンに対する平衡偏析係数は0.8、リン(P)のシリコンに対する平衡偏析係数は0.35であり、これらの元素は、偏析がしにくいため、結晶化による精製は困難である。
しかしながら、シリコンウエハ等のシリコン製品においては、半導体として必要な特性を得るために、シリコン以外の不純物、例えばP(リン)、B(ボロン)、As(砒素)などのいわゆるドーパントが含まれている。よって、必要な濃度を超えるこれらのドーパントを含んだシリコン廃材をそのままシリコン原料として使用することはできない。
【0004】
そこで、シリコン廃材から、前述の不純物を除去する様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1、2には、真空雰囲気において電子ビームを照射してシリコン廃材を溶融し、不純物元素を蒸発させて除去する方法が提案されている。また、特許文献3には、水蒸気を添加したプラズマガスを溶融シリコン中に吹き込むことによって、B(ボロン)を効率良く除去する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−245216号公報
【特許文献2】特開2005−343779号公報
【特許文献3】特開平07−048114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に開示された方法においては、B(ボロン)を効率的に蒸発させて除去することができず、高純度のシリコンインゴットを得ることができないといった問題があった。また、大量の電力、大型の真空システム及び大量の冷却水を要するため、コストが大幅に上昇してしまうといった問題があった。
また、特許文献1−3に開示された方法では、大量のシリコン廃材を処理することができないため、シリコン廃材を再利用するためのコストが高くなり、シリコン廃材の利用が促進されないといった問題があった。
さらに、シリコン廃材を再利用するために、電子ビーム銃やプラズマ発生装置等の特別な設備を準備する必要があった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、従来法によって純化が困難であったシリコン廃材等の不純物を含むシリコン原料から高純度のシリコンインゴットを、簡単に、かつ、確実に製造することが可能なシリコンインゴットの製造方法、シリコンインゴットの製造装置及びシリコン結晶成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明に係るシリコンインゴットの製造方法は、不純物を含むシリコン原料から高純度のシリコンインゴットを製出するシリコンインゴットの製造方法であって、前記シリコン原料に、Si元素と共晶反応する合金元素を添加して溶解し、共晶組成よりもSi濃度が高くされたシリコン合金溶湯を生成するシリコン合金生成工程と、前記シリコン合金溶湯を一方向凝固させるとともに、凝固して得られたインゴットを連続的に引き出す凝固工程と、前記凝固工程によって消費されたSi元素を補うように、前記シリコン合金溶湯にシリコン原料を追加供給するシリコン追加工程と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
シリコン合金溶湯を冷却して凝固する際には、純度の高いシリコンの初晶が発生することになり、シリコン合金溶湯中の不純物は液相側へと排出されることになる。よって、一方向凝固によって得られるシリコンインゴットに不純物元素が混入することが抑制され、高純度のシリコンインゴットを効率的に得ることが可能となる。
このようにシリコンの一方向凝固が進むと、液相(シリコン合金溶湯)側のSi濃度が低くなり、シリコンの初晶が得られない組成(共晶組成)に近づくことになるが、本発明のシリコンインゴットの製造方法では、凝固工程によって消費されたシリコン成分を補うように、前記シリコン合金溶湯にシリコン原料を追加供給するシリコン追加工程を備えているので、シリコン合金溶湯の組成を、常に共晶組成よりもSi濃度が高くされた状態に保つことができ、高純度のシリコンインゴットを安定して製出することが可能となる。
【0010】
なお、Si元素と共晶反応する合金元素としては、例えば、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、As(砒素)、Au(金)、Be(ベリリウム)、Ca(カルシウム)、Co(コバルト)、Cr(クロム)、Cu(銅)、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ti(チタン)、Zr(ジルコン)等が挙げられる。
【0011】
ここで、前記合金元素がアルミニウムであることが好ましい。
この場合、合金元素として、一般的な材料であるアルミニウムを用いることにより、前述のシリコンインゴットの製造方法に掛かるコストを大幅に低減することができる。また、アルミニウムとシリコンの共晶組成はSi濃度で12.6wt%程度であり、Si濃度を共晶組成よりも高く維持することが比較的容易であり、シリコン合金溶湯からシリコンの初晶を安定して発生させることができる。さらに、アルミニウムによって、シリコン合金溶湯の融点(液相線温度)がシリコン単体に比べて大幅に低下することになり、シリコン合金溶湯を保持する温度を低くすることができる。
【0012】
また、合金元素としてアルミニウムを添加した場合には、前記シリコン合金溶湯のSi濃度を15wt%以上80wt%以下に調整することが好ましい。
シリコン合金溶湯のSi濃度を15wt%以上とすることによって、共晶組成よりもSi濃度が確実に高く保持されることになり、シリコン合金溶湯からシリコンの初晶を安定して発生させることができる。さらに、シリコン合金溶湯のSi濃度を80wt%以下とすることにより、シリコン合金溶湯の融点が1300℃以下となり、シリコン合金溶湯を収容する容器や加熱設備等の設備コストの低減を図ることができる。また、電力コストも大幅に削減することができる。
【0013】
なお、シリコン合金溶湯のSi濃度は、20wt%以上55wt%以下に調整することがさらに好ましい。Si濃度を20wt%以下とすることにより、シリコンインゴットの製出を効率良く行うことができる。Si濃度を55wt%以下とすることにより、シリコン合金溶湯の融点が1100℃以下となり、シリコン合金溶湯の取扱い性が向上することになる。
このように、Si濃度を高くすることによってシリコンインゴットの製出効率が向上することになる。また、Si濃度を低くすることによってシリコン合金溶湯の融点が低下することになる。
【0014】
さらに、前記凝固工程におけるインゴットの引き出し速度が、0.2mm/min以上6.0mm/min以下に設定されていることが好ましい。
この場合、インゴットの引き出し速度が0.2mm/min以上とされているので、高純度のシリコンインゴットを効率的に製出することができる。また、インゴットの引き出し速度が6.0mm/min以下とされているので、不純物元素を液相側に確実に排出でき、高純度なシリコンインゴットを得ることができる。
さらに、前述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、前記凝固工程におけるインゴットの引き出し速度を、0.5mm/min以上2.0mm/min以下に設定することが好ましい。
なお、シリコン合金溶湯の容量を大型化し、結晶成長領域の過冷却度を大きくすれば、インゴットの引き出し速度をさらに上昇させることも可能である。
【0015】
また、前記凝固工程においては、上方から前記シリコン合金溶湯を冷却して凝固させ、得られたシリコンインゴットを上方に向けて引き抜くことが好ましい。
この場合、シリコンインゴットを上方に引き上げて製出することになることから、一般的に使用されている、シリコン結晶の引上装置を利用することが可能となる。すなわち、シリコン単結晶の引上装置は、温度制御、雰囲気制御、直径制御といった結晶成長制御の機能を有するものであり、利用し易い。
【0016】
さらに、前記シリコン原料が、シリコン材を加工した際に発生するシリコン廃材であることが効果的であり、好ましい。
この場合、シリコンインゴットの切断やシリコンウエハの研磨等の加工に伴って発生する切断屑や研磨粉、非製品部の端材等のシリコン廃材をシリコン原料として再利用し、シリコン廃材に含まれる不純物を除去して高純度のシリコンインゴットを得ることが可能となる。特に、ボロン(B)やリン(P)や砒素(As)など、いわゆるドーパントと呼ばれるシリコン結晶の導電率を調整する不純物は、シリコンに対する平衡偏析係数が重金属に比べて大きく偏析がしにくい。そこで、この発明によれば、他の方法では除去しにくい元素を含むシリコン廃材の精製に効果がある。よって、従来法では、再利用が難しかったシリコン廃材の再利用が促進され、シリコン原料の利用効率が大幅に上昇することになる。また、シリコン廃材を廃棄することがなくなり、大量に産業廃棄物として処理されてきた廃材の再利用が可能となり、環境負荷の大幅な低減を図ることができるとともに、原材料費のコストダウンと太陽電池性能を左右する導電率の制御に著しい効果がある。
【0017】
また、本発明に係るシリコンインゴットの製造装置は、不純物を含むシリコン原料から高純度のシリコンインゴットを製出するシリコンインゴットの製造装置であって、前記シリコン原料にSi元素と共晶反応する合金元素を添加して共晶組成よりもSi濃度が高くされたシリコン合金溶湯が収容されるルツボと、このルツボ内に配設され、前記ルツボ内を第1領域と第2領域とに区画するとともに、前記シリコン合金溶湯が通過可能な連通孔を有する隔壁部と、前記第1領域において、前記シリコン合金溶湯を一方向凝固させて得られたインゴットを連続的に引き出す引き出し手段と、前記第2領域において前記シリコン合金溶湯にシリコン原料を追加供給する原料投入機と、前記ルツボ内に収容されたシリコン合金溶湯のSi濃度を算出し、算出されたSi濃度を元に前記原料投入機からのシリコン原料の投入量を調整する投入量制御部と、を備えていることを特徴している。
【0018】
この構成のシリコンインゴットの製造装置によれば、前記第2領域において前記シリコン合金溶湯にシリコン原料を追加供給する原料投入機と、前記ルツボ内に収容されたシリコン合金溶湯のSi濃度を算出し、算出されたSi濃度を元に前記原料投入機からのシリコン原料の投入量を調整する投入量制御部と、を備えているので、シリコン合金溶湯中のSi濃度を一定範囲(例えば、15wt%以上80wt%以下)となるように、制御することが可能となる。よって、高純度のシリコンインゴットを安定して連続的に製出することができる。また、シリコン原料が、隔壁部によって区画された第2領域に投入され、第1領域においてシリコンインゴットが引き出されていく構成とされているので、シリコン原料を投入しても、シリコンインゴットの製出を安定して行うことができる。
【0019】
前記原料投入機は、前記シリコン原料を溶融状態にして前記ルツボの第2領域に投入する構成とされていることが好ましい。
この場合、シリコン原料を溶融状態で投入することから、ルツボ内に収容されたシリコン合金溶湯の温度低下を抑制することができ、シリコンインゴットを安定して製出することができる。
【0020】
また、本発明に係るシリコン結晶成長方法は、不純物を含むシリコン原料から高純度の多結晶又は単結晶のシリコンインゴットを成長させるシリコン結晶成長方法であって、 前記シリコン原料に、Si元素と共晶反応する合金元素を添加して溶解し、共晶組成よりもSi濃度が高くされたシリコン合金溶湯を生成するシリコン合金生成工程と、前記シリコン合金溶湯からCZ法によって結晶を成長させる結晶成長工程と、前記結晶成長工程によって消費されたSi元素を補うように、前記シリコン合金溶湯にシリコン原料を追加供給するシリコン追加工程と、を備えていることを特徴としている。
この構成のシリコン結晶成長方法によれば、不純物を有するシリコン原料から、高純度の多結晶又は単結晶シリコンを製出することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シリコン廃材等の不純物を含むシリコン原料から高純度のシリコンインゴットを、簡単に、かつ、確実に製造することが可能なシリコンインゴットの製造方法、シリコンインゴットの製造装置及びシリコン結晶成長方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態であるシリコンインゴットの製造装置を示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態であるシリコンインゴットの製造方法を示すフロー図である。
【図3】凝固界面近傍の状態を示す説明図である。
【図4】Al−Si2元状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、本実施形態であるシリコンインゴットの製造装置について図1を参照して説明する。
このシリコンインゴットの製造装置10は、炉本体11と、回転軸12の上端に固定された黒鉛サセプタ13と、黒鉛サセプタ13に嵌め込まれたルツボ14と、黒鉛サセプタ13及び回転軸12の外周側を囲むように配設された断熱材15と、ルツボ14を加熱する加熱ヒータ16と、下端にシードSが固定された引上軸17と、を備えている。回転軸12の回転により、ルツボ14内部の溶湯の温度分布を一定に保ち、結晶成長の安定化を図っている。加熱ヒータ16は、電力制御装置から電力の供給を受け、炉内の温度制御を行い、炉内温度を適正に保っている。
【0024】
ルツボ14内には、円筒状の隔壁部18が配設されており、この隔壁部18によってルツボ14内が内周側領域14Aと外周側領域14Bとに区画されている。なお、この隔壁部18おいては、ルツボ14の底部近傍において厚さ方向に貫通した複数の連通孔19が設けられており、この連通孔19によって内周側領域14Aと外周側領域14Bとが連通されている。ここで、ルツボ14の内周側領域14Aの上方に、シードSが固定された引上軸17が配設されている。
【0025】
また、ルツボ14の外周側領域14Bには、ルツボ14内に原料を投入する原料投入機20の投入管21が配設されている。
原料投入機20は、シリコン原料を溶解する加熱ヒータ(図示なし)を備えており、シリコン原料を溶融状態でルツボ14の外周側領域14Bへと投入可能な構成とされている。
そして、本実施形態であるシリコンインゴットの製造装置10においては、ルツボ14内に収容されるシリコン合金溶湯のSi濃度を算出し、算出されたSi濃度を元に原料投入機20からのシリコン原料の投入量を調整する投入量制御部22が設けられている。
【0026】
次に、このシリコンインゴットの製造装置10を用いた本実施形態であるシリコンインゴットの製造方法について、図2に示すフロー図を参照して説明する。
本実施形態であるシリコンインゴットの製造方法おいては、まず、シリコン原料としてのシリコン廃材とアルミニウム原料とを、混合する(原料混合工程S11)。この原料混合工程S11では、シリコン原料が重量比で全体の15%以上80%以下となるようにシリコン原料とアルミニウム原料を混合しておく。なお、本実施形態では、シリコン原料が重量比で全体の40%となるようにシリコン原料とアルミニウム原料を混合した。このように混合された原料をルツボ14内に装入する。
次に、加熱ヒータ16によってルツボ14内に装入された混合原料を加熱して溶融する(溶融工程S12)。これにより、Si濃度が15wt%以上80wt%以下、本実施形態では40wt%とされたシリコン合金溶湯が生成されることになる(シリコン合金生成工程S1)。
【0027】
ここで、原料として使用されるシリコン廃材としては、シリコンインゴットを切断した際に生じる切断粉、シリコンウエハを研磨した際に生じる研磨粉や、シリコンインゴットやシリコンウエハにおいて除去される非製品部(端材)等が挙げられる。なお、塊状のシリコン廃材は、破砕して粒状(直径が10mm以下)または剥片状としておくことが好ましい。
これらのシリコン廃材は、半導体としての特性を得るために添加されたB、P等の不純物(ドーパント)を含んでいる。よって、シリコン合金生成工程S1によって得られたシリコン合金溶湯も前述の不純物が含まれることになる。特に、シリコン結晶を引き上げた後のルツボ残留物はP、Bの含有量が高い。
【0028】
次に、ルツボ14内に貯留されたシリコン合金溶湯を、ルツボ14の下方側から加熱するとともにルツボ14の上方側から冷却し、上方から下方へ向けて一方向凝固させる。そして、凝固して得られたインゴットをルツボの上方へと引き上げていく(凝固工程S2)。なお、この凝固工程S2におけるインゴットの引き上げ速度は、0.2mm/min以上6mm/min以下、より好ましくは、0.5mm/min以上2.0mm/min以下に設定されている。 このように一方向凝固させることにより、ルツボ内では、図3に示すように、下方側に液相32が位置し、上方側に固相31が位置することになる。
なお、本実施形態においては、隔壁部18によって画成されたルツボ14の内周側領域14Aに、引上軸17の下端に固定されたシードSを接触させ、このシードSから結晶成長させ、多結晶または単結晶のシリコンインゴットを成長させる構成とされている。
【0029】
ここで、図4に示すAl−Si2元状態図を参照すると、Si濃度が40wt%のシリコン合金溶湯が冷却されると、液相線温度(約940℃)よりも低くなった時点からシリコンの初晶が発生して固相が形成されることになる。このシリコンの初晶は、極めて純度が高く、シリコン合金溶湯中の不純物35は、図3に示すように、固相31からルツボ14の下方側に位置する液相32へと排出されていくことになる。
【0030】
さらに凝固が進行すると、ルツボ14の内周側領域14Aの底部及び外周側領域14Bに位置する液相(シリコン合金溶湯)中のSi濃度が低下していき、共晶組成(Si濃度12.6wt%/12.2at%)に近づくことになる。Si濃度が共晶組成以下となると、シリコンの初晶が発生しなくなってしまう。また、不純物元素の濃度が高くなって、不純物元素の排出が促進されなくなり、シリコンインゴット中に不純物元素が混入するおそれがある。
【0031】
そこで、凝固工程S2によって消費されたSi元素を補うように、原料投入機20を用いて、ルツボ14内のシリコン合金溶湯にシリコン原料を追加供給する(シリコン追加工程S3)。このとき、シリコン原料は、溶融状態でルツボ14の外周側領域14Bへと投入されることになる。なお、本実施形態では、この追加供給するシリコン原料としては、前述ように破砕して粒状または剥片状としたシリコン廃材を使用する。
【0032】
このシリコン追加工程S3によって、ルツボ14中のシリコン合金溶湯のSi濃度が15wt%以上80wt%以下、本実施形態では、40wt%になるように調整されることになる。すなわち、前述のシリコンインゴットの製造装置10においては、ルツボ14内に収容されるシリコン合金溶湯のSi濃度を算出し、算出されたSi濃度を元に原料投入機20からのシリコン原料の投入量を調整する投入量制御部22が設けられているので、ルツボ14中のシリコン合金溶湯のSi濃度が一定範囲に制御されるのである。
【0033】
このように、ルツボ14中のシリコン合金溶湯のSi濃度が15wt%以上80wt%以下、本実施形態では、40wt%に調整されることから、純度の高いシリコンの初晶を安定して発生させることが可能となり、凝固したインゴットを上方に引き上げることによって、高純度のシリコンインゴットが連続的に製出されることになる。
【0034】
以上のような構成とされた本実施形態であるシリコンインゴットの製造装置10及びシリコンインゴットの製造方法によれば、シリコン原料に、Si元素と共晶反応するアルミニウムを添加して溶解し、共晶組成(Si濃度12.6wt%)よりもSi濃度が高くされたシリコン合金溶湯を生成するシリコン合金生成工程S1と、このシリコン合金溶湯を一方向凝固させるとともに凝固して得られたインゴットを連続的に引き出す凝固工程S2と、を備えているので、凝固工程S2において、純度の高いシリコンの初晶が発生することになり、シリコン合金溶湯中の不純物が液相側へと排出されることになる。これにより、一方向凝固によって得られるシリコンインゴットに不純物元素が混入することが抑制され、高純度のシリコンインゴットを効率的に得ることが可能となる。
【0035】
さらに、本実施形態では、凝固工程S2によって消費されたSi元素を補うように、シリコン合金溶湯にシリコン原料を追加供給するシリコン追加工程S3を備えているので、液相(シリコン合金溶湯)側のSi濃度が低くなって共晶組成以下になることを防止し、シリコン合金溶湯の組成を常に共晶組成よりもSi濃度が高くされた状態に保つことができ、高純度のシリコンインゴットを連続して製出することが可能となる。よって、工業的に有用な大型のシリコンインゴットを製出することができる。
【0036】
特に、本実施形態においては、ルツボ14内に収容されたシリコン合金溶湯のSi濃度を算出し、算出されたSi濃度を元に原料投入機20からのシリコン原料の投入量を調整する投入量制御部22が設けられているので、ルツボ14中のシリコン合金溶湯のSi濃度を一定範囲に制御することが可能となる。なお、Si濃度を算出する手段としては、例えば、シリコンインゴットの製出量(引上量)からSi元素の消費量を算出する方法等を採用することができる。
【0037】
また、本実施形態では、シリコン廃材に合金元素としてアルミニウムを混合していることから、図4のAl−Si2元状態図に示すように、共晶組成はSi濃度で12.6wt%程度となる。つまり、シリコンの初晶が発生するSi濃度範囲が、12.6wt%以上となって幅広くなる。このため、シリコン合金溶湯のSi濃度を共晶組成よりも高く維持することが比較的容易となり、シリコン合金溶湯からシリコンの初晶を安定して発生させることができる。
【0038】
さらに、アルミニウムによって、シリコン合金溶湯の融点(液相線温度)がシリコン単体に比べて大幅に低下することになり、シリコン合金溶湯を保持する温度を低くすることができる。すなわち、アルミニウムとの合金溶湯とすることにより、単にシリコン原料(Si濃度100%)を溶解して保持するよりも、低温で溶湯状態を保持することができるのである。また、アルミニウムは、一般的に使用されている材料であり、比較的安価である。さらに、ルツボ内に残存する溶湯は、シルミン(アルミ鋳物合金)として再利用することも可能である。
したがって、シリコンインゴットの製造方法に掛かるコストを大幅に低減することができる。
【0039】
さらに、シリコン合金溶湯中のSi濃度が15wt%以上80wt%以下、本実施形態では40wt%とされているので、共晶組成よりもSi濃度が確実に高く保持されることになり、シリコン合金溶湯からシリコンの初晶を安定して発生させることができる。また、シリコン合金溶湯の融点が低くなり、シリコン合金溶湯を収容するルツボ14や加熱ヒータ16等の設備コストの低減を図ることができる。また、電力コストも大幅に削減することができる。なお、シリコン合金溶湯中のSi濃度を40wt%とした場合には、融点(液相線温度)は、1000℃以下まで低下することになる。よって、他の手法と比較して省エネルギー化が可能である。
【0040】
また、本実施形態では、凝固工程S2におけるインゴットの引き出し速度が、0.2mm/min以上6mm/min以下、より好ましくは、0.5mm/min以上2.0mm/min以下に設定されているので、シリコンインゴットを効率的に製出することができるとともに、不純物元素を液相側に確実に排出でき、高純度なシリコンインゴットを得ることができる。
さらに、凝固工程S2においては、上方からシリコン合金溶湯を冷却して凝固させ、得られたシリコンインゴットを上方に向けて引き抜く構成としているので、一般的に使用されているシリコンの引上装置を利用することが可能となる。
【0041】
そして、シリコン原料として、シリコン材を加工した際に発生するシリコン廃材を利用しているので、シリコン廃材に含まれる不純物を除去して高純度のシリコンインゴットを得ることができ、シリコン廃材の再利用が促進され、シリコン原料の利用効率が大幅に上昇することになる。さらに、シリコン廃材を廃棄することがなくなり、環境負荷の大幅な低減を図ることができる。
【0042】
また、従来、冶金法によってシリコン中のP、Bなどの偏析した不純物を除去することは困難であったが、本実施形態によれば、P、Bを容易に除去することが可能となる。特に、シリコン結晶を引き上げた後のルツボ残留物はP、Bの含有量が高く、従来はシリコン原料として再利用することが困難であったが、本実施形態によれば、P、Bの含有量が高いシリコン廃材からも高純度のシリコンインゴットを得ることが可能となる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態であるシリコンインゴットの製造装置及びシリコンインゴットの製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、シリコン原料としてシリコン材の加工時に発生する切断屑や研磨粉、端材等のシリコン廃材を利用するものとして説明したが、これに限定されることはなく、2N(純度99%レベル)の金属シリコン等の他のシリコン原料を用いてもよい。
【0044】
また、シリコン原料にアルミニウム原料を混合して、アルミニウムとシリコンを主成分とするシリコン合金溶湯を生成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウムの他に、Si元素と共晶反応をする合金元素を混合してシリコン合金溶湯を生成してもよい。なお、Si元素と共晶反応する合金元素としては、例えば、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、As(砒素)、Au(金)、Be(ベリリウム)、Ca(カルシウム)、Co(コバルト)、Cr(クロム)、Cu(銅)、Fe(鉄)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ti(チタン)、Zr(ジルコン)等が挙げられる。これらの合金元素の中から、経済性、取扱い性、共晶組成、融点等を考慮して適宜選択することが好ましい。
【0045】
また、原料投入機においては、シリコン原料を溶融状態でシリコン合金溶湯に投入する構成として説明したが、これに限定されることはなく、粒状または剥片状のシリコン原料を投入する構成としてもよい。但し、粒状または剥片状のシリコン原料を投入する場合には、シリコン合金溶湯中で速やかに溶解するように、直径10mm以下とすることが好ましい。粒状または剥片状のシリコン原料は、振動フィーダなどにより、定量の補給を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0046】
S1 シリコン合金生成工程
S2 凝固工程
S3 シリコン追加工程
10 シリコンインゴットの製造装置
14 ルツボ
14A 内周側領域(第1領域)
14B 外周側領域(第2領域)
18 隔壁部
19 連通孔
20 原料投入機
22 投入量制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物を含むシリコン原料から高純度のシリコンインゴットを製出するシリコンインゴットの製造方法であって、
前記シリコン原料に、Si元素と共晶反応する合金元素を添加して溶解し、共晶組成よりもSi濃度が高くされたシリコン合金溶湯を生成するシリコン合金生成工程と、
前記シリコン合金溶湯を一方向凝固させるとともに、凝固して得られたインゴットを連続的に引き出す凝固工程と、
前記凝固工程によって消費されたSi元素を補うように、前記シリコン合金溶湯にシリコン原料を追加供給するシリコン追加工程と、
を備えていることを特徴とするシリコンインゴットの製造方法。
【請求項2】
前記合金元素がアルミニウムであることを特徴とする請求項1に記載のシリコンインゴットの製造方法。
【請求項3】
前記シリコン合金溶湯のSi濃度が、15wt%以上80wt%以下に調整されることを特徴とする請求項2に記載のシリコンインゴットの製造方法。
【請求項4】
前記凝固工程におけるインゴットの引き出し速度が、0.2mm/min以上6mm/min以下に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコンインゴットの製造方法。
【請求項5】
前記凝固工程においては、上方から前記シリコン合金溶湯を冷却して凝固させ、得られたシリコンインゴットを上方に向けて引き抜くことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコンインゴットの製造方法。
【請求項6】
前記シリコン原料が、シリコン材を加工した際に発生するシリコン廃材であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコンインゴットの製造方法。
【請求項7】
不純物を含むシリコン原料から高純度のシリコンインゴットを製出するシリコンインゴットの製造装置であって、
前記シリコン原料にSi元素と共晶反応する合金元素を添加して共晶組成よりもSi濃度が高くされたシリコン合金溶湯が収容されるルツボと、
このルツボ内に配設され、前記ルツボ内を第1領域と第2領域とに区画するとともに、前記シリコン合金溶湯が通過可能な連通孔を有する隔壁部と、
前記第1領域において、前記シリコン合金溶湯を一方向凝固させて得られたインゴットを連続的に引き出す引き出し手段と、
前記第2領域において、前記シリコン合金溶湯にシリコン原料を追加供給する原料投入機と、
前記ルツボ内に収容されたシリコン合金溶湯のSi濃度を算出し、算出されたSi濃度を元に前記原料投入機からのシリコン原料の投入量を調整する投入量制御部と、
を備えていることを特徴とするシリコンインゴットの製造装置。
【請求項8】
前記原料投入機は、前記シリコン原料を溶融状態にして前記ルツボの第2領域に投入する構成とされていることを特徴とする請求項7に記載のシリコンインゴットの製造装置。
【請求項9】
不純物を含むシリコン原料から高純度の多結晶又は単結晶のシリコンインゴットを成長させるシリコン結晶成長方法であって、
前記シリコン原料に、Si元素と共晶反応する合金元素を添加して溶解し、共晶組成よりもSi濃度が高くされたシリコン合金溶湯を生成するシリコン合金生成工程と、
前記シリコン合金溶湯からCZ法によって結晶を成長させる結晶成長工程と、
前記結晶成長工程によって消費されたSi元素を補うように、前記シリコン合金溶湯にシリコン原料を追加供給するシリコン追加工程と、
を備えていることを特徴とするシリコン結晶成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−241650(P2010−241650A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93879(P2009−93879)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(390004879)三菱マテリアルテクノ株式会社 (201)
【Fターム(参考)】