説明

シリコンインゴットスライス用水溶性切削液

【課題】 シリコンインゴットの切削工程において、従来品より潤滑性に優れ、切削加工効率を向上させることができ、また切削液の循環使用における泡立ちなどの問題を起こさない水溶性切削液を提供する。
【解決手段】 下記化学式(1)で表され数平均分子量が500以下であるポリオキシアルキレン付加物(A)と、炭素数(カルボニル基の炭素を含める)が4〜10の1価もしくは2価の脂肪族カルボン酸(B)を必須成分として含有することを特徴とするシリコンインゴットスライス用水溶性切削液。
O−(AO)−R (1)
[式中、RとRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基;AOは炭素数が2〜4のオキシアルキレン基を表す。(AO)は1種のアルキレンオキサイドまたは2種以上のアルキレンオキサイドの付加形式を表し、異種の場合の付加形式はブロック状でもランダム状でもよい。nはAOの平均付加モル数を表し、1〜10の数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンインゴットを切削するときに使用する水溶性切削液に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤーソーを用いて、シリコンインゴットの切削加工を行なう際に、従来からの切削液を使用した場合、シリコンインゴットが硬質であることや切削液の潤滑性が不足するため、ウエハの表面精度が不十分である。また、シリコンインゴットの切削加工では切削液を循環使用することから、泡立つなどの欠点が挙げられている。
【0003】
水溶性切削液としては、例えば、プロピレングリコール等の多価アルコールと芳香族多価カルボン酸塩(イソフタル酸トリエタノールアミン塩等)とポリエチレングリコールなどのアルキレングリコールのアルキレンオキサイド付加物と水からなる組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、切削加工においては、一般に、ワイヤーと被加工物のシリコンインゴットの冷却、潤滑、および被加工面の清浄化等を目的として切削液を加工部位に供給しながら加工を行っているが、この切削液を循環使用している際に泡立ち、切削液やその泡が溢れ出して周囲を汚染してしまう。その対策として、消泡剤を貯留タンクに添加する方法や、泡が溢れ出した箇所に消泡剤を塗付する方法等が挙げられるが、十分な効果が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−96951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明はシリコンインゴットの切削工程において、従来品より潤滑性に優れ、切削加工効率を向上させることができ、また切削液の循環使用における泡立ちなどの問題を起こさない水溶性切削液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表され数平均分子量が500以下であるポリオキシアルキレン付加物(A)と、炭素数(カルボニル基の炭素を含める)が4〜10の1価もしくは2価の脂肪族カルボン酸(B)を必須成分として含有することを特徴とするシリコンインゴットスライス用水溶性切削液;このシリコンインゴットスライス用水溶性切削液を用いて固定砥粒ワイヤーによりシリコンインゴットを切断する工程を含むシリコンインゴットをスライスする製造方法:シリコンインゴットスライス用水溶性切削液を用いてシリコンインゴットを切断して製造されたシリコンウエハ;並びにこのシリコンウエハを用いて製造された電子材料である。
【0008】
O−(AO)−R (1)
【0009】
[式(1)中、RとRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基;AOは炭素数が2〜4のオキシアルキレン基を表す。(AO)は1種のアルキレンオキサイドまたは2種以上のアルキレンオキサイドの付加形式を表し、異種の場合の付加形式はブロック状でもランダム状でもよい。nはAOの平均付加モル数を表し、1〜10の数である。]
【発明の効果】
【0010】
本発明の水溶性切削液はシリコンインゴットの切削工程において、従来品と比較して潤滑性が優れているため、切削加工効率を向上させることができる。また低泡性であるため、循環使用における泡立ちなどの問題を起こさない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のシリコンインゴットスライス用水溶性切削液は、特定の化学構造を有し比較的低分子量のポリオキシアルキレン付加物(A)と、特定の炭素数を有する脂肪族カルボン酸(B)を必須成分として含有することを特徴とする。
【0012】
本発明のシリコンインゴットスライス用水溶性切削液の必須成分であるポリオキシアルキレン付加物(A)は、下記一般式(1)で表される。
O−(AO)−R (1)
[式(1)中、RとRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基;AOは炭素数が2〜4のオキシアルキレン基を表す。(AO)は1種のアルキレンオキサイドまたは2種以上のアルキレンオキサイドの付加形式を表し、異種の場合の付加形式はブロック状でもランダム状でもよい。nはAOの平均付加モル数を表し、1〜10の数である。]
【0013】
式(1)中、RとRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表す。
アルキル基としては炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。
とRとして好ましいのは、水素原子、メチル基、エチル基である。
【0014】
式(1)中のAOは炭素数が2〜4のオキシアルキレン基を表し、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチル基などが挙げられる。水溶性の点でオキシエチレン基、オキシプロピレン基が好ましい。
【0015】
nはAOの平均付加モル数を表し、通常1〜10の数である。好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3である。10を超えると粘度が高くなり過ぎ、泡立ちが問題となる。
(AO)は1種のアルキレンオキサイドまたは2種以上のアルキレンオキサイドの付加形式を表し、2種以上の場合の付加形式はブロック状でもランダム状でもよい。
【0016】
本発明におけるポリオキシアルキレン付加物(A)の数平均分子量は、通常500以下、好ましくは300以下、さらに好ましくは200以下である。
500を超えると粘度が高くなり過ぎ、泡立ちが問題となる。
【0017】
ポリオキシアルキレン付加物(A)の具体例として、アルキレングリコール(A1)およびポリアルキレングリコール(A2)などの水溶性グリコール、またアルキレングリコール(A1)のアルキルエーテル(A3)およびポリアルキレングリコール(A2)のアルキルエーテル(A4)などの水溶性エーテルなどが挙げられる。
【0018】
アルキレングリコール(A1)としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコールなどが挙げられる。
【0019】
ポリアルキレングリコール(A2)としては、ポリエチレングリコール(ジエチレングリコールおよびトリエチレングリコールなど)、ポリ1,2−プロピレングリコール(ジ1,2−プロピレングリコールなど)、ポリ1,3−プロピレングリコール、ポリ1,2−ブチレングリコール、ポリ1,3−ブチレングリコール、ポリ1,4−ブチレングリコールなどが挙げられる。
【0020】
アルキレングリコールのモノもしくはジアルキルエーテル(A3)としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、1,2−プロピレングリコールモノメチルエーテルおよび1,2−プロピレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。

【0021】
ポリアルキレングリコールのモノもしくはジアルキルエーテル(A4)としては、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル[ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびトリエチレングリコールモノメチルエーテルなど]、ポリエチレングリコールジメチルエーテル[ジエチレングリコールジメチルエーテルおよびトリエチレングリコールジメチルエーテルなど]およびポリ1,2−プロピレングリコールモノメチルエーテル[ジ1,2−プロピレングリコールモノメチルエーテルなど]などが挙げられる。
【0022】
ポリオキシアルキレン付加物(A)のうち好ましいのは、作業性の観点から、オキシアルキレン基の炭素数が2〜4であるアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールおよびこれらのモノメチルエーテル、モノエチルエーテルである。
さらに好ましくは、1,2−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2−プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルである。
【0023】
本発明のポリオキシアルキレン付加物(A)は水分相溶性の観点からHLBは8〜45が好ましく、より好ましくは10〜45であり、この範囲であれば水分相溶性の観点で優れている。
ここでのHLBは、親水性と親油性のバランスを示す指標であって、例えば「乳化・可溶化の技術」〔昭和51年、工学図書(株)〕や「新界面活性剤入門」〔1996年、藤本武彦著〕132頁と197〜199頁に記載されている小田法による計算値として知られているものであり、グリフィン法による計算値ではない。
そして、HLBを導き出すための有機性値及び無機性値については「有機概念図―基礎と応用―」〔昭和59年、三共出版(株)〕や「新界面活性剤入門」〔1996年、藤本武彦著〕198頁に記載の表の値を用いて算出できる。
【0024】
本発明の切削液中のポリオキシアルキレン付加物(A)の含有量は、使用時の切削液に対して、通常60〜90重量%、好ましくは65〜80重量%である。
【0025】
本発明のシリコンインゴットスライス用水溶性切削液のもう1つの必須成分である脂肪族カルボン酸(B)のカルボニル基の炭素を含めた炭素数は、通常4〜10、好ましくは6〜10である。3以下では潤滑性が不十分であり、11以上では水への溶解性が低下し、また潤滑性が大きすぎるためにシリコンインゴットが切削できない。
【0026】
脂肪族カルボン酸(B)の価数は1価または2価であるが、好ましくは2価である。
また、脂肪族カルボン酸(B)は脂肪族飽和カルボン酸または脂肪族不飽和カルボン酸であるが、好ましくは脂肪族飽和カルボン酸である。
【0027】
脂肪族カルボン酸(B)の具体例として、脂肪族モノカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0028】
脂肪族モノカルボン酸として、ブチル酸、バレリアン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ソルビン酸、オブツシル酸、カプロレイン酸などが挙げられる。
【0029】
脂肪族ジカルボン酸として、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シトラコン酸、メサコン酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4−ヘキサンジエン二酸などが挙げられる。
【0030】
脂肪族カルボン酸(B)のうち、潤滑性と抑泡性の観点から、好ましくは脂肪族ジカルボン酸、さらに好ましくはアゼライン酸、セバシン酸である。
【0031】
本発明の切削液には、特定の炭素数を有する脂肪族カルボン酸(B)の代わりに、この脂肪族カルボン酸(B)の塩(BS)を使用してもよい。これは、その脂肪族カルボン酸(B)が特定の炭素数を有していればその塩(BS)も使用できるということであって、本発明では脂肪族カルボン酸塩(BS)自体の炭素数と規定しているのではない。
【0032】
脂肪族カルボン酸(B)の塩(BS)としては、脂肪族カルボン酸(B)のアンモニウム塩(BS1)、脂肪族カルボン酸(B)の脂肪族アミン塩(BS2)、脂肪族カルボン酸(B)の含窒素複素環式化合物の塩(BS3)、脂肪族カルボン酸(B)の無機アルカリ塩(BS4)、脂肪族カルボン酸(B)のアルカノールアミン塩(BS5)、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
脂肪族カルボン酸(B)の脂肪族アミン塩(BS2)としては、脂肪族カルボン酸(B)のメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、ブチルメチルアミン、ジエチルアミン、プロピルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジヘキシルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの塩が挙げられる。
【0034】
脂肪族カルボン酸(B)の含窒素複素環式化合物の塩(BS3)としては、ピペリジン、ピペラジン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)および1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5(DBN)などの塩が挙げられる。
【0035】
脂肪族カルボン酸(B)の無機アルカリ塩(BS4)としては、脂肪族カルボン酸(B)のリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムおよびマグネシウムなどの塩が挙げられる。
【0036】
脂肪族カルボン酸(B)のアルカノールアミン塩(BS5)としては、脂肪族カルボン酸(B)のモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−(アミノエチル)エタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、エチレンジアミンのエチレンオキサイド付加物(付加モル数10)及びヒドロキシルアミンなどの塩が挙げられる。
【0037】
脂肪族カルボン酸(B)の代わりに、その塩(BS)を使用してもいいし、脂肪族カルボン酸(B)とその塩(BS)を併用してもよい。また、含有させた脂肪族カルボン酸(B)の一部または全部が別途配合した塩基性化合物と系内で塩を形成してもよい。
【0038】
本発明の脂肪族カルボン酸(B)またはその塩(BS)は潤滑性を向上させる目的で含有させる。
本発明の切削液は使用前に水や水混和性有機溶媒でさらに希釈される場合もあるが、使用時の切削中のポリオキシアルキレン付加物(A)に対する脂肪族カルボン酸(B)の含有量は、通常0.001〜1.0重量%、好ましくは0.001〜0.5重量%、さらに好ましくは0.001〜0.1重量%である。
0.001重量%未満では潤滑性が不十分であり、1.0重量%を超えると抑泡性が不十分である。
【0039】
本発明の水溶性切削液中の水の量は、切削液に対して、通常0.1〜90、好ましくは0.1〜60重量%、さらに好ましくは5〜40重量%である。
【0040】
本発明の水溶性切削液は、さらに、pH調整剤(C)、クエン酸(D)、分散剤(E)および水からなる群から選ばれる1種以上を含有してもよい。
【0041】
pH調整剤(C)としては、塩酸などの無機酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などが挙げられる。
pH調製剤は、本発明の水溶性切削液を用いてスライシングされた被加工物を洗浄する際に、洗浄液が強酸または強アルカリ性を示さないように、通常1重量%の水溶液とした際のpHが5〜9、好ましくは5〜8になるように添加される。
pH調整剤の含有量は、切削液に対して、5重量%以下である。
【0042】
クエン酸(D)は、シリコンインゴット切削時に発生するシリコン微粉と切削液が反応した際に発生する水素の発生を抑制することができるので含有させることが好ましい。クエン酸の含有量は、切削液に対して、通常5重量%以下、好ましくは1重量%以下である。
【0043】
分散剤(E)としては、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物およびその塩、ポリカルボン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリビニルスルホン酸塩、ポリアルキレングリコール硫酸エステル塩、ポリビニルアルコールリン酸エステル塩、メラミンスルホン酸塩及びリグニンスルホン酸塩などが挙げられる。分散剤の含有量は、切削液に対して、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜1重量%である。0.01重量%以上であれば分散効果がさらに発揮されやすく、5重量%以下であれば切粉が凝集しにくい傾向にある。
【0044】
本発明の水溶性切削液は、ワイヤによりシリコンインゴットをスライジング加工する際に好適に使用できる。
【0045】
シリコンインゴットを加工する方法として、遊離砥粒及び固定砥粒ワイヤを用いる方法が挙げられる。本発明の水溶性切削液は固定砥粒ワイヤを用いたシリコンインゴットのスライジング加工に特に適している。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0047】
実施例1〜7および比較例1〜6
表1記載の配合比(重量部)で水酸化カリウム水溶液以外の各成分を配合した後に、水酸化カリウム水溶液でpHが5.8前後になるように調整し、実施例1〜7および比較例1〜6の水溶性切削液を調製した。
【0048】
【表1】

【0049】
なお、表1中の「アゼライン酸塩(B−2)」はアゼライン酸/トリエタノールアミン(1:2モル)を用いた。
「イソフタル酸塩(B’−3)」はイソフタル酸/トリエタノールアミン(1:2モル)を用いた。
【0050】
得られた水溶性切削液について、潤滑性と抑泡性の評価試験を行った。
結果を表1に示す。
【0051】
(a)潤滑性試験(摩擦係数)
摩擦係数はピン(ボール)・オン・ディスクタイプの摩擦磨耗試験器(レスカ製、FRP−2000)を使用し、水溶性切削液20gに浸したシリコンウエハと鋼球間の摩擦係数を測定して潤滑性を評価した。
潤滑性試験は次の条件で行なった。
シリコンウエハ:試験片40mm×40mm
荷重:100g
線速度:5.23cm/s
測定温度:25℃
【0052】
通常、摩擦係数は0.10〜0.40が要望され、摩擦係数がこの範囲より小さいとワイヤが滑ってシリコンインゴットが切削できない。一方で、摩擦係数がこの範囲より大きいと潤滑性が不足するため、ウエハの表面精度が不十分になる。
【0053】
(b)抑泡性試験(泡立ち)
抑泡性試験は高温高圧液流試験機(辻井染機工業製、LJ-2000)を用いて、次の
条件で行なった。
水溶性切削液量:1300g
流量:2.9L/分
循環時間:20分
試験スタート時の温度:25℃
【0054】
抑泡性の評価は切削液を循環させて20分後の泡の高さを測り、以下の判定基準に従って行った。
○:15mm未満
△:15〜25mm
×:25mm超
【0055】
表1で明らかなように、実施例1〜7の本発明の水溶性切削液はいずれも、摩擦係数が低いので潤滑性が優れており、抑泡性にも優れている。
ポリオキシアルキレン付加物として高分子量のポリエチレングリコールを用いた比較例1は抑泡性が劣り、ポリオキシアルキレン付加物(A)と併用した比較例6も抑泡性が不十分である。
必須成分である脂肪族カルボン酸を使用しない比較例2、および脂肪族カルボン酸として炭素数の少ないシュウ酸を用いた比較例3は摩擦係数が高く潤滑性が劣る。
脂肪族カルボン酸ではなく芳香族多価カルボン酸を用いた比較例4、およびその塩を用いた比較例5と比較例6は摩擦係数が高く潤滑性が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の水溶性切削液は、潤滑性及び抑泡性が優れているため、シリコンインゴットを切削するときに使用する水溶性切削液として有用である。
本発明の水溶性切削液を用いてシリコンインゴットを切削加工して製造されたシリコンウエハは、例えばメモリ素子、発振素子、増幅素子、トランジスタ、ダイオード、太陽電池、LSIの電子材料として利用でき、これらの電子材料は、例えば太陽光発電装置、パソコン、携帯電話、ディスプレー、オーディオなどに使用することができる。
また、本発明の水溶性切削液は、水晶、炭化ケイ素、サファイヤ、ガーネットなどの硬質な被加工物を切削する際に使用する切削液としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表され数平均分子量が500以下であるポリオキシアルキレン付加物(A)と、炭素数(カルボニル基の炭素を含める)が4〜10の1価もしくは2価の脂肪族カルボン酸(B)またはその塩(BS)を必須成分として含有することを特徴とするシリコンインゴットスライス用水溶性切削液。
O−(AO)−R (1)
[式(1)中、RとRはそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基;AOは炭素数が2〜4のオキシアルキレン基を表す。(AO)は1種のアルキレンオキサイドまたは2種以上のアルキレンオキサイドの付加形式を表し、異種の場合の付加形式はブロック状でもランダム状でもよい。nはAOの平均付加モル数を表し、1〜10の数である。]
【請求項2】
該ポリオキシアルキレン付加物(A)のHLBが8〜45である請求項1記載のシリコンインゴットスライス用水溶性切削液。
【請求項3】
該ポリオキシアルキレン付加物(A)に対する該脂肪族カルボン酸(B)の含有量が0.001〜1.0重量%である請求項1または2記載のシリコンインゴットスライス用水溶性切削液。
【請求項4】
該ポリオキシアルキレン付加物(A)が、アルキレングリコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールおよびポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルからなる群より選ばれる1種以上のポリオキシアルキレン付加物である請求項1〜3いずれか記載のシリコンインゴットスライス用水溶性切削液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載のシリコンインゴットスライス用水溶性切削液を用いて固定砥粒ワイヤーによりシリコンインゴットを切断する工程を含むシリコンインゴットの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか記載のシリコンインゴットスライス用水溶性切削液を用いてシリコンインゴットを切断して製造されたシリコンウエハ。
【請求項7】
請求項6記載のシリコンウエハを用いて製造された電子材料。

【公開番号】特開2011−68884(P2011−68884A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191754(P2010−191754)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】