説明

シリコンエピタキシャルウェーハおよびシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法

【課題】ゲッタリング能力が高く、かつシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度が極めて低いシリコンエピタキシャルウェーハを提供する。
【解決手段】酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上のシリコン単結晶基板の主表面上にエピタキシャル層が形成されたシリコンエピタキシャルウェーハであって、該シリコンエピタキシャルウェーハは2層以上の炭素イオン注入層を有し、かつ前記シリコンエピタキシャル層の最表面部は酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下であることを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンエピタキシャルウェーハおよびシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子の製造では、素子特性を向上させるため、シリコンエピタキシャルウェーハを用いるとともに、ゲッタリング技術を適用するのが一般的である。
このゲッタリング技術とは、ウェーハ表層部にある金属不純物をウェーハ深層部にあるゲッタリングサイトで捕獲することにより、ウェーハ表層部の金属不純物濃度を低減させる技術である。
ゲッタリングサイトを形成する方法として、BSD(Back Side Damage)法やIG(Intrinsic Gettering)法が知られている。
【0003】
BSD法は、ウェーハ裏面に機械的損傷を付与することによりゲッタリングサイトを形成する方法である。機械的損傷の付与は、酸化シリコン微粒子の吹きつけ(サンドブラスト)や、液体中でのキャビティ流の吹きつけ(例えば、特許文献1等参照)により施される。
IG法は、ウェーハ内にBMD(Bulk Micro Defect)を形成させることによりゲッタリングサイトを形成する方法である。BMDは、ウェーハ表面での酸素析出核を消滅させ、無欠陥層を形成するための高温熱処理、ウェーハ内部に酸素析出核を生成させるための低温熱処理及び酸素析出核を成長させるための高温熱処理の三段階の熱処理をウェーハに与えることにより形成される。
【0004】
このような方法により予めシリコンエピタキシャルウェーハにゲッタリングサイトを形成しておけば、固体撮像素子の製造過程でシリコンエピタキシャルウェーハの表層部に金属不純物(Fe、Ni、Cu等)が導入されたとしても、ゲッタリングサイトまで金属不純物を熱拡散させることにより、表層部の金属不純物濃度を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−252287号公報
【特許文献2】特開平10−50714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特に、近年、固体撮像素子の分野では画素の微細化が進み、画素信号の大きさが益々低下する傾向にある。そのため従来よりも強く金属不純物をゲッタリングし、画素信号のノイズ成分をさらに低減させたいという要請が強まっている。
【0007】
ここで、ごく最近、デバイスメーカーから拡散酸素を制御した、すなわちエピタキシャル層、特にその最表面部の酸素濃度を低減させた低酸素濃度シリコンエピタキシャル層を有するシリコンエピタキシャルウェーハの要求がなされるようになってきた。
【0008】
これは例えば、撮像素子(CCD、CIS)のデバイス動作に影響する要因の一つにVth(しきい値電圧:Threshold Voltage)の変化があるが、シリコンエピタキシャルウェーハのバルク(シリコン単結晶基板)中の酸素がシリコンエピタキシャル層に拡散すると、酸素ドナーが発生してしまい、これによりVthを変化させてしまうという問題が生じることが明らかになってきたためである。
【0009】
またCCD素子の白キズ発生要因としてフォトダイオード中の結晶欠陥があるが、これは結晶欠陥から電荷が発生し、画像に明るい固定点(白キズ)が生じるために発生するものである。そして、シリコン単結晶基板中の炭素がエピタキシャル層(デバイス層)に拡散すると、欠陥の元になり、デバイス特性に影響する。更に、炭素ドナーが発生すると、Vthに影響することになる。
このため、シリコンエピタキシャル層中の酸素や炭素の濃度を制御する必要性が強まってきた。
【0010】
この様な問題を解決するために、例えば特許文献2では、強いゲッタリング層を造るために、ドーパント濃度が大きく異なる層を多層積層するシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法を開示している。そして、ドーパント濃度が大きく異なることとなるため、層の界面に不整合転位や応力場が形成され、この歪みの界面がゲッタリング効果を奏し、ゲッタリングの課題を解決できる、とある。
しかし、このようなドーパント濃度の差異により界面に発生した応力の強度は弱い(単結晶と単結晶の界面であるためミスフィット欠陥が発生する程度)と考えられるため、酸素や炭素の拡散を抑止できるか不明である、という問題がある。
【0011】
また、他には、超低酸素(例えばO(格子間酸素濃度)が5ppma(JEIDA)程度)のCZシリコン単結晶基板や、FZシリコン単結晶基板を使用してシリコンエピタキシャルウェーハを作製する方法もあることはある。しかしこの方法ではシリコン単結晶基板の低酸素化により、熱処理工程中にBMDが形成せず、ゲッタリング能力が大幅に劣ることになる。このため、金属不純物低減の要求を満足することができない、という問題がある。
【0012】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、ゲッタリング能力が高く、かつシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度が極めて低いシリコンエピタキシャルウェーハとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明では、酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上のシリコン単結晶基板の主表面上にエピタキシャル層が形成されたシリコンエピタキシャルウェーハであって、該シリコンエピタキシャルウェーハは2層以上の炭素イオン注入層を有し、かつ前記シリコンエピタキシャル層の最表面部は酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下であることを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハを提供する。
【0014】
このように酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上と酸素を多く含むシリコン単結晶基板が用いられ、かつ2層以上の炭素イオン注入層を有することによって、シリコン単結晶基板から拡散する酸素や炭素が多層の炭素イオン注入層によって吸収される。このため、シリコンエピタキシャル層の最表面部は酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下となり、例えば撮像素子等のデバイスを形成した際にも、Vthが変化する等のデバイス特性の予期せぬズレが抑制されたものとすることができる。またシリコン単結晶基板の酸素濃度は7ppma(JEIDA)以上と高いため、BMDが十分に形成されたものとなり、ゲッタリング能力も十分に高いシリコンエピタキシャルウェーハとすることができる。
なお、シリコン単結晶基板中の酸素濃度が7ppma(JEIDA)未満では、BMDの形成が不十分で、ゲッタリング能力に問題があるため、シリコン単結晶基板の酸素濃度は7ppma(JEIDA)以上とする。また、最表面部とは、シリコンエピタキシャル層の最表面から深さ方向5μm以内の領域を意味するものである。
【0015】
ここで、前記シリコン単結晶基板の酸素濃度が14ppma(JEIDA)以上であり、かつ前記炭素イオン注入層が3層以上であるものとすることが好ましい。
このようにシリコン単結晶基板の酸素濃度が14ppma(JEIDA)以上と高濃度の場合に、炭素イオン注入層が3層以上であるものとすることによって、より確実にバルク中からの酸素の拡散を抑制でき、最表面部が5ppma(JEIDA)以下と低酸素濃度のシリコンエピタキシャル層が形成されたものとできるとともに、バルク部のBMD密度をより高くしてゲッタリング能力を十分に高いシリコンエピタキシャルウェーハとすることができる。
【0016】
また、本発明では、シリコンエピタキシャルウェーハの製造方法であって、酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上のシリコン単結晶基板を用い、該シリコン単結晶基板に対して、炭素イオン注入・結晶性回復熱処理・シリコンエピタキシャル層のエピタキシャル成長、のセットを2回以上行って2層以上の炭素イオン注入層を形成し、前記シリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度を5ppma(JEIDA)以下とすることを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法を提供する。
【0017】
このように酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上と酸素を多く含むシリコン単結晶基板を用い、そしてそのようなシリコン単結晶基板に対して、炭素イオン注入・結晶性回復熱処理・シリコンエピタキシャル層のエピタキシャル成長、のセットを2回以上行って得られるシリコンエピタキシャルウェーハは、2層以上の炭素イオン注入層を有しており、この多層の炭素イオン注入層によってシリコン単結晶基板から拡散した酸素や炭素を吸収させることができる。よって酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上と高いシリコン単結晶基板を用いても、最表面部の酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下と低酸素濃度のシリコンエピタキシャル層を有するものとすることができる。
更に、シリコン単結晶基板自体は7ppma(JEIDA)以上と高酸素濃度のものを用いているため、BMDが高密度に形成され、ゲッタリング能力が十分に期待でき、低金属不純物濃度のデバイス製造に好適なシリコンエピタキシャルウェーハを製造することができる。なお、酸素濃度が7ppma(JEIDA)未満のシリコン単結晶基板では、ゲッタリング能力を十分に高くできないため、用いるシリコン単結晶基板の酸素濃度は7ppma(JEIDA)以上とする。
【0018】
ここで、前記シリコン単結晶基板の酸素濃度を14ppma(JEIDA)以上とし、かつ前記炭素イオン注入層を3層以上形成することが好ましい。
このように酸素濃度が14ppma(JEIDA)以上のシリコン単結晶基板を用いるときには炭素イオン注入層を3層以上形成することによって、より確実にバルク中からの酸素の拡散を抑制することができ、低酸素濃度(5ppma(JEIDA)以下)の最表面部を有したシリコンエピタキシャル層を有するとともに、バルク部に高密度のBMDを有するシリコンエピタキシャルウェーハを製造することができる。
【0019】
また、前記炭素イオン注入のドーズ量を、1×1014atoms/cm以上とすることが好ましい。
このように炭素イオン注入のドーズ量を、1×1014atoms/cm以上とすることによって、より強力に酸素や炭素等を吸収する炭素イオン注入層を2層以上形成することができ、より確実に最表面部が低酸素濃度のシリコンエピタキシャル層を有したシリコンエピタキシャルウェーハを製造することができる。
【0020】
そして、前記炭素イオン注入では、前記シリコンエピタキシャル層の最表面部に近いほど前記炭素イオン注入層の炭素イオンドーズ量を少なくすることが好ましい。
このようにシリコンエピタキシャル層の最表面部に近いほど炭素イオン注入層の炭素イオンドーズ量を少なくすることによって、最表面部のシリコンエピタキシャル層の結晶性をより良好なものとすることができ、より高品質なシリコンエピタキシャルウェーハを製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、ゲッタリング能力が高く、かつシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度が極めて低いシリコンエピタキシャルウェーハとその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のシリコンエピタキシャルウェーハの概略の一例を示した図である。
【図2】本発明のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法の一例を示した工程フローである。
【図3】本発明の実験例1,2における、炭素イオン注入層の数とエピタキシャル層最表面部の酸素濃度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1は本発明のシリコンエピタキシャルウェーハの概略の一例を示した図である。
【0024】
図1(a)に示すように、本発明のシリコンエピタキシャルウェーハ10は、酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上のシリコン単結晶基板11の主表面上にシリコンエピタキシャル層13が形成されたものであり、シリコンエピタキシャルウェーハ10中に2層以上の炭素イオン注入層12(図1(a)ではシリコン単結晶基板11中に第1炭素イオン注入層12a、シリコンエピタキシャル層13中に第2炭素イオン注入層12bと第3炭素イオン注入層12c、の計3層)を有している。また、シリコンエピタキシャル層13の最表面部は酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下となっているものである。
【0025】
また、別の好適な態様として、図1(b)に示すように、シリコンエピタキシャルウェーハ10’は、酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上のシリコン単結晶基板11の主表面上にシリコンエピタキシャル層13’が形成されたものであり、シリコンエピタキシャル層13’の最表面部は酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下となっているものである。ここまでは上述の図1(a)のシリコンエピタキシャルウェーハ10と略同じである。そして、炭素イオン注入層12(シリコン単結晶基板11中に第1炭素イオン注入層12a’を有し、シリコンエピタキシャル層13’中に第2炭素イオン注入層12b’)を有しているものである。
【0026】
このようにシリコン単結晶基板の酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上と高いため、析出熱処理を行うことによってBMDが十分に形成され、ゲッタリング能力が高いシリコンエピタキシャルウェーハとなる。
また2層以上の炭素イオン注入層を有することによって、シリコン単結晶基板からエピタキシャル層へ拡散する酸素や炭素が多層の炭素イオン注入層によって吸収されるものとなっている。
【0027】
具体的には、シリコン単結晶基板中に注入された炭素は、格子間状態で存在している。そして、後に行うシリコンエピタキシャル層形成のための熱処理やその前の結晶性回復熱処理の際に、C+Si→C+Si(C:格子間炭素、C:格子置換炭素、Si:格子置換シリコン、Si:格子間シリコン)との反応が生じる。ここで、炭素の原子半径は0.77Åで、シリコン(1.17Å)より小さいため、圧縮状態で存在することになる。また、炭素イオン注入の場合は、結晶が完全に非結晶になるため、非結晶から単結晶に回復する場合に、大きな応力が発生する。従って、このような圧縮を緩和するため、酸素だけではなくサイズが大きい原子を初め、炭素、シリコン、水素、窒素等を吸収するようになり、酸素等の拡散を抑制することができるようになる。なお、この吸収工程は吸収量>放出量となっているため、再放出等による拡散によってシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素の濃度が上昇することは抑制される。
【0028】
そしてこのような炭素イオン注入層が2層以上あれば、ウェーハバルク部からの拡散を抑制して十分にシリコンエピタキシャル層の酸素濃度を低減させたものとすることができ、シリコンエピタキシャル層の最表面部は酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下となったシリコンエピタキシャルウェーハとすることができる。このようなシリコンエピタキシャルウェーハは、撮像素子等のデバイスの作製に用いる場合、表層に存在する酸素や炭素によって酸素ドナー・炭素ドナーが発生してVthが変化することや、炭素起因の欠陥の発生による白キズ発生が従来に比べて抑制されるため、高性能で高品質な撮像素子の製造に適したシリコンエピタキシャルウェーハとすることができる。
【0029】
理想的にはシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度は「0」ppmaが望ましいが、デバイス熱処理工程中に酸素がシリコンエピタキシャル層に拡散することを完全に抑制することは困難である。
例えば、シリコンエピタキシャル層の酸素濃度が0ppma(JEIDA)でも、酸化工程中に1000℃(酸素の固溶度約5ppma)とした場合、酸素が基板に拡散することになり、最終的にデバイスが形成される最表面部にはどうしても5ppma(JEIDA)程度の酸素が存在することになってしまう。以上の理由からエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度は5ppma(JEIDA)以下に制御できればよく、5ppma(JEIDA)以下の酸素濃度であれば通常抵抗(例えば12Ωcm程度)基板の抵抗率に影響しないため、問題はない。
【0030】
なお、炭素イオン注入層が1層の構造では、酸素等に対しての吸収効果が足りないことがあるため、完全に制御するためには2層以上が必要である。また、炭素イオン注入層は5層もあれば十分にシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度を低くすることができるが、層数はシリコン単結晶基板中の酸素濃度や、シリコンエピタキシャル層の抵抗率、デバイスのVth変動幅に依存しており、2層以上であれば特に限定されない。
【0031】
ここで、図1(a)に示すように、炭素イオン注入層12が3層以上(12a、12b、12c)である場合は、シリコン単結晶基板11の酸素濃度が14ppma(JEIDA)以上であるものとすることができる。
このようにシリコン単結晶基板の酸素濃度が14ppma(JEIDA)以上と高濃度では、炭素イオン注入層が3層以上であると、バルク中からの酸素の拡散がより確実に抑制されたものとなり、より確実にシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下と低いシリコンエピタキシャルウェーハとなる。
【0032】
上記のような、本発明のシリコンエピタキシャルウェーハは、以下に示すようなシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法によって製造することができるが、もちろん本発明はこれらに限定されるものではない。図2は、本発明のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法の一例を示した工程フローである。
【0033】
(工程1)
まず、図2の工程1に示すように、酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上のシリコン単結晶基板を準備する。ここで準備するシリコン単結晶基板は、酸素濃度7ppma(JEIDA)以上であれば良く、その導電型や結晶方位や結晶径等は、適宜選択することができるが、導電型はN型のほうが望ましい。例えばCZ法で育成したシリコン単結晶棒からスライスして作製したものを用いればよい。
【0034】
(工程2)
次に、図2の工程2に示すように、先に準備したシリコン単結晶基板を洗浄することができる。この洗浄はSC2溶液によって仕上げることが望ましく、これによって基板表面に薄い酸化膜を形成することができる。この酸化膜は不純物付着防止に効果的であり、また後の炭素イオン注入工程でのチャネリング防止に好適である。
【0035】
(工程3)〜(工程6)
その後、図2の工程3に示すように、シリコン単結晶基板に対して、炭素イオン注入を行って、炭素イオン注入層を形成する。
【0036】
その後、図2の工程4に示すように、シリコンエピタキシャル層を形成するために、表面を清浄にするべく、洗浄(例えばHF洗浄の後に、SC1+SC2による洗浄)を行うことができる。
【0037】
その後に、図2の工程5に示すように、先の炭素イオン注入によって乱れた結晶性を回復させるために、結晶性回復熱処理を行うことができる。
この結晶性回復熱処理の実施形態は特に限定されず、枚葉式エピタキシャル成長装置での熱処理(例えば水素雰囲気で、昇温速度30〜60℃/sec、温度1130℃)とすることができ、また独立した熱処理装置で実施することもできる。
【0038】
その後、図2の工程6に示すように、シリコンエピタキシャル層をエピタキシャル成長させる。
このエピタキシャル成長の条件は特に限定されず一般的なものでよく、例えば、HをキャリアガスとしてSiHCl等のソースガスをチャンバー内に導入し、サセプタ上に配置した基板の主表面上に、1050〜1250℃程度でCVD法により、エピタキシャル成長させることができる。
【0039】
この工程2〜工程6は、シリコンエピタキシャルウェーハを完成させるまでに2回以上行って、2層以上の炭素イオン注入層を形成する。
この時の炭素イオン注入条件は、加速エネルギーは50〜100keV(注入深さは0.1〜0.5μm)程度が望ましい。また、イオン注入回数や炭素イオンドーズ量は、準備したシリコン単結晶基板の酸素濃度に応じて、適宜変更することができる。
【0040】
ここで、この工程3における炭素イオン注入のドーズ量を、1×1014atoms/cm以上とすることができる。
炭素イオン注入のドーズ量を1×1014atoms/cm以上とすることによって、酸素等を捕らえる能力が高い炭素イオン注入層となり、この炭素イオン注入層を2層以上形成すれば、酸素濃度が低い(5ppma(JEIDA)以下)最表面部を有したシリコンエピタキシャル層をより確実に形成することができる。
【0041】
また、この炭素イオン注入は、シリコンエピタキシャル層の最表面部に近いほど炭素イオン注入層の炭素イオンドーズ量を少なくすることができる。
このようにシリコンエピタキシャル層の最表面部に近いほど炭素イオン注入層の炭素イオンドーズ量を少なくすることで、最表面部に近いシリコンエピタキシャル層の結晶性を良好なものとすることができる。よって結晶性に優れ、酸素濃度の低い(5ppma(JEIDA)以下)シリコンエピタキシャル層を有したシリコンエピタキシャルウェーハが得られるようになる。
【0042】
更に、上述の工程1において準備するシリコン単結晶基板の酸素濃度を14ppma(JEIDA)以上とした時には、この工程2〜工程6を3回以上行って形成する炭素イオン注入層を3層以上とすることができる。
シリコン単結晶基板として酸素濃度が14ppma(JEIDA)以上と高酸素濃度のものを用いるときは、3回以上炭素イオン注入を行って3層以上の炭素イオン注入層を形成することが良く、これによってバルク部からの酸素の拡散が確実に抑制されるとともに、BMDが高密度に形成されるため強力なゲッタリング能力を有した最表面部が低酸素濃度のシリコンエピタキシャル層のシリコンエピタキシャルウェーハを効率よく製造することができる。
【0043】
以上の工程2〜工程6の炭素イオン注入工程を2回以上行うことによって、シリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度を5ppma(JEIDA)以下となったシリコンエピタキシャルウェーハを製造することができる。
【0044】
このようなシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法によって、2層以上の炭素イオン注入層によってシリコン単結晶基板からの酸素等の拡散が抑制され、シリコンエピタキシャル層の酸素濃度を低くすることができ、最表面部の酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下のシリコンエピタキシャル層を形成することができる。よって、撮像素子等のデバイスを作製する際にデバイス作製領域の酸素ドナー・炭素ドナーの発生を低減することができるためVthの変化を低減することができ、またフォトダイオード中の結晶欠陥の少ない高品質なデバイスの製造に好適なシリコンエピタキシャルウェーハが得られる。
更に、用いるシリコン単結晶基板は7ppma(JEIDA)以上と酸素が十分に存在しているので、BMDを高密度に形成することができ、ゲッタリング能力の高いシリコンエピタキシャルウェーハを製造することができる。
【0045】
ここで、シリコン単結晶基板の主表面に、工程3の炭素イオン注入・工程5の結晶性回復熱処理・工程6のシリコンエピタキシャル層のエピタキシャル成長、のセットを2回以上行うことができる。この時、工程2の洗浄及び工程4の洗浄も同時に行うことが望ましい。そしてこの様な方法で作製されたのが図1(a)に示すようなシリコンエピタキシャルウェーハ10である。
このような処理を行ってシリコンエピタキシャルウェーハを製造することによって、結晶性の良好なシリコンエピタキシャル層を有したシリコンエピタキシャルウェーハが得られる。
【0046】
以下、実験例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実験例1)
酸素濃度18ppma(JEIDA)のシリコン単結晶基板6枚を準備し、そのうち5枚に対して、加速電圧80keV、5×1015atoms/cmの条件で炭素イオン注入を行って、炭素イオン注入層を形成した。その後、1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。
次にエピタキシャル層を形成した5枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後、更に、残りの4枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで1×1015atoms/cmの条件で炭素イオンを注入し、1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。
次にエピタキシャル層を形成した4枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後、更に、残りの3枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで5×1014atoms/cmの条件で炭素イオンを注入し、1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。
次にエピタキシャル層を形成した3枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後、更に、残りの2枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで5×1014atoms/cmの条件で炭素イオンを注入し、1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。
次にエピタキシャル層を形成した2枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後、更に、残りの1枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで5×1014atoms/cmの条件で炭素イオンを注入し、1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成して、計5種類のシリコンエピタキシャルウェーハを製造した。
また、1枚のシリコン単結晶基板に対しては、炭素イオン注入を行わずに、同条件でシリコンエピタキシャル層を形成し、シリコンエピタキシャルウェーハを製造した。
そして計6枚(炭素イオン注入層が0〜5層)のシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度を計測した。その結果を図3に示す。
【0047】
その結果、図3に示すように、炭素イオン注入層が0〜1層ではシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度は5ppma(JEIDA)より多くなったが、炭素イオン注入層を2層以上形成した場合ではシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度は5ppma(JEIDA)以下となった。
【0048】
(実験例2)
酸素濃度13ppma(JEIDA)のシリコン単結晶基板6枚を準備し、そのうち5枚に対して、加速電圧80keV、5×1015atoms/cmの条件で炭素イオン注入を行って、炭素イオン注入層を形成した。その後、1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。
次にエピタキシャル層を形成した5枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後、更に、残りの4枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで1×1015atoms/cmの条件で炭素イオンを注入し、1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。
次にエピタキシャル層を形成した4枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後、更に、残りの3枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで5×1014atoms/cmの条件で炭素イオンを注入し、1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。
次にエピタキシャル層を形成した3枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後、更に、残りの2枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで5×1014atoms/cmの条件で炭素イオンを注入し、1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。
次にエピタキシャル層を形成した2枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後、更に、残りの1枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで5×1014atoms/cmの条件で炭素イオンを注入し、1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成して、計5種類のシリコンエピタキシャルウェーハを製造した。
また、1枚のシリコン単結晶基板に対しては、炭素イオン注入を行わずに、同条件でシリコンエピタキシャル層を形成し、シリコンエピタキシャルウェーハを製造した。
そして計6枚(炭素イオン注入層が0〜5層)のシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度を計測した。その結果を図3に示す。
【0049】
その結果、図3に示すように、実験例1と同様に、炭素イオン注入層が0〜1層ではシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度は5ppma(JEIDA)より多くなったが、炭素イオン注入層を2層以上形成した場合ではシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度は5ppma(JEIDA)以下となった。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0051】
10,10’…シリコンエピタキシャルウェーハ、
11…シリコン単結晶基板、 12,12’…炭素イオン注入層、 12a,12a’…第1炭素イオン注入層、 12b,12b’…第2炭素イオン注入層、 12c…第3炭素イオン注入層、 13,13’…シリコンエピタキシャル層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上のシリコン単結晶基板の主表面上にエピタキシャル層が形成されたシリコンエピタキシャルウェーハであって、
該シリコンエピタキシャルウェーハは2層以上の炭素イオン注入層を有し、かつ前記シリコンエピタキシャル層の最表面部は酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下であることを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハ。
【請求項2】
前記シリコン単結晶基板の酸素濃度が14ppma(JEIDA)以上であり、かつ前記炭素イオン注入層が3層以上であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンエピタキシャルウェーハ。
【請求項3】
シリコンエピタキシャルウェーハの製造方法であって、
酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上のシリコン単結晶基板を用い、該シリコン単結晶基板に対して、炭素イオン注入・結晶性回復熱処理・シリコンエピタキシャル層のエピタキシャル成長、のセットを2回以上行って2層以上の炭素イオン注入層を形成し、前記シリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度を5ppma(JEIDA)以下とすることを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記シリコン単結晶基板の酸素濃度を14ppma(JEIDA)以上とし、かつ前記炭素イオン注入層を3層以上形成することを特徴とする請求項3に記載のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記炭素イオン注入のドーズ量を、1×1014atoms/cm以上とすることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記炭素イオン注入では、前記シリコンエピタキシャル層の最表面部に近いほど前記炭素イオン注入層の炭素イオンドーズ量を少なくすることを特徴とする請求項3ないし請求項5のいずれか1項に記載のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−59849(P2012−59849A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200453(P2010−200453)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】