説明

シンセサイザと、これを用いた受信装置及び電子機器

【課題】シンセサイザにおけるデジタル的な周波数制御に起因した位相雑音性能の悪化。
【解決手段】本発明のシンセサイザは、基準発振器から出力された基準発振信号が入力される比較器と、比較器の出力側に接続されたフィルタと、フィルタの出力側に接続されて発振信号を出力する発振器と、発振器の出力信号を制御部からの制御信号に基づいて分周する分周器とを備え、比較器は、分周器からの出力信号と基準発振器からの出力信号とを比較してこの比較結果を示す信号をフィルタに出力すると共に、制御部は、温度を検出する検出器の検出結果に基づいて分周器の分周比を時間間隔Tで制御し、時間間隔Tとフィルタのカットオフ周波数fcとの関係は、1/T≧fcを満たす構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数の温度特性を有し、温度に対する周波数補正を周波数が離散的(デジタル的)に変化するように行うシンセサイザと、これを用いた受信装置、及び電子機器に関するものである。特に、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動子などの周波数温度特性の悪い振動子を用いて、シンセサイザを構成した場合に、大きな効果を発揮するものである。
【背景技術】
【0002】
以下、基準発振信号を出力する基準発振器の温度補償を行う従来のシンセサイザについて、図9を用いて説明する。
【0003】
図9は、従来のシンセサイザ200のブロック図を示している。図9において、従来のシンセサイザ200は、基準発振器201から出力された基準発振信号を分周する第1の分周器202と、この第1の分周器からの出力信号が入力される比較器203と、比較器203からの出力信号が入力されて直流近傍の周波数を持つ信号電圧値を出力するローパスフィルタ204とを備える。さらに、シンセサイザ200は、ローパスフィルタ204から出力された信号電圧値に基づいて、発振信号をローカル信号として出力し、その他方を第2の分周器206へ入力する発振器205を備える。なお、発振器205としては、電圧制御発振器VCO(Voltage Controlled Oscillator)が良く用いられる。また、シンセサイザ200は、チャンネル指定に従って、制御回路207から指定される分周数で、発振器205からの出力信号を分周する第2の分周器206を備える。そして、比較器203は、第2の分周器206からの出力信号と第1の分周器202からの出力信号とを比較する。以上が、一般的なシンセサイザの構成であるが、図9で示したシンセサイザ200は、更に、周囲温度を検知する温度センサ208と、この温度センサ208が検知した温度に基づいて、第2の分周器206の分周数を制御する制御回路207とを備える。このように、シンセサイザ200は、温度センサ208を用いて、周囲温度変化に起因した発振周波数のずれの補正を行う。
【0004】
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開平03−209917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、従来のシンセサイザ200において、一定期間毎に温度センサ208により周囲温度を検知し、それに基づいて第2の分周器206を制御した場合、一定期間毎にシンセサイザ200の発振周波数が切り替えられることに起因して、シンセサイザ出力の位相雑音レベルが上がってしまうという課題が、新たに分かってきた。この雑音レベルの上昇は、等価的なC/N(Carrier Noise Ratio)を悪化させ、受信装置、及び、電子機器の性能を劣化させることになる。
【0006】
また、シンセサイザ200の出力信号の位相雑音を低減する為に、第2の分周器206の制御がランダムに行われる構成にした場合、制御回路207等にランダム性を実現するための新たなシステムを付加する必要が生じるため、回路構成が複雑になるという新たな課題が生じていた。
【0007】
そこで、本発明は、このようなデジタル的な周波数制御に起因した位相雑音性能の悪化を抑え、受信特性の良好な受信装置を実現可能なシンセサイザと、これを用いた受信装置、及び電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明のシンセサイザは、基準発振器から出力された基準発振信号が入力される比較器と、比較器の出力側に接続されたフィルタと、フィルタの出力側に接続されて発振信号を出力する発振器と、発振器の出力信号を制御部からの制御信号に基づいて分周する分周器とを備え、比較器は、分周器からの出力信号と基準発振器からの出力信号とを比較してこの比較結果を示す信号をフィルタに出力すると共に、制御部は、温度を検出する検出器の検出結果に基づいて分周器の分周比を時間間隔Tで制御し、
時間間隔Tとフィルタのカットオフ周波数fcとの関係は、1/T≧fcを満たす構成である。
【0009】
また、上記目的を達成するために本発明の受信装置は、受信信号を周波数変換する周波数変換器と、基準発振器と、基準発振器から出力された基準発振信号が入力される比較器と、比較器の出力側に接続されたフィルタと、フィルタの出力側に接続されて発振信号を周波数変換器に供給する発振器と、発振器の出力信号を制御部からの制御信号に基づいて分周する分周器と、発振器からの出力信号、若しくは受信信号の周波数変動を検出する検出器を備え、比較器は、分周器からの出力信号と基準発振器からの出力信号とを比較してこの比較結果を示す信号を前記フィルタに出力すると共に、制御部は、検出器の検出結果に基づいて分周器の分周比を時間間隔Tで制御し、時間間隔Tとフィルタのカットオフ周波数fcとの関係は、1/T≧fcを満たす受信装置の構成である。
【発明の効果】
【0010】
前記構成により、本発明のシンセサイザ、及び、受信装置は、温度変化に対応して、分周器の分周数を変更するような周波数調整を行う際、分周比を制御する時間間隔Tとフィルタのカットオフ周波数fcとの関係を、1/T≧fcを満たすようにすることにより、位相雑音の増加を抑え、受信品質の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施の形態1)
以下、実施の形態1のシンセサイザについて説明する。図1は、本発明の実施の形態1のシンセサイザを搭載した受信装置のブロック図である。
【0012】
図1において、シンセサイザ100は、基準発振器ブロック101と、PLL(Phase Locked Loop)ブロック102と、制御ブロック103から構成される。
【0013】
基準発振器ブロック101は、振動子104と、振動子104を駆動するドライバー回路105と、負荷容量106からなる。本実施の形態では、振動子104として、シリコンからなるMEMS振動子を用いている。本実施の形態を含む本発明は、MEMS振動子等の周波数温度特性の悪い振動子を使った場合に特に、有効である(詳細後述)。
【0014】
PLLブロック102は、基準発振器ブロック101からの出力周波数frefをR分周し、fref/Rとする第1の分周器107と、その出力と、第2の分周器112からの出力周波数fVCO/Nの位相、及び、周波数を比較し、その差分を出力する位相周波数比較器108と、位相周波数比較器108からの出力を電流成分に変換するチャージポンプ109と、そのチャージポンプ109の出力のうち、直流近傍の成分のみ取り出すローパスフィルタ110と、ローパスフィルタ110からの出力に基づいて、発振信号を周波数変換器116に入力する発振器111と、発振器111からの出力周波数fVCOをN分周し、fVCO/Nを出力する第2の分周器112とを備える。
【0015】
なお、発振器111としては、例えば、電圧制御発振器VCO(Voltage Controlled Oscilator)などが用いられ、直流電圧に対応して、周波数が変化する発振器である。
【0016】
また、ローパスフィルタ110は、ループフィルタとも呼ばれ、例えば、入力される電流(電荷)を充電するコンデンサ部分と、低周波を通過させる低域通過フィルタ等で構成される。なお、第2の分周器112は、従来技術で述べた整数分周の分周器であっても良いし、より細かい制御が可能な分数分周の分周器であっても良い。本実施の形態では、後者の分数分周器を用いている。
【0017】
制御ブロック103は、温度を検出する温度検出部113と、温度検出部113の出力信号に基づいて、第2の分周器112に制御信号を送り、第2の分周器112の分周数を変化させる制御部114と、温度に応じた分周数などが記憶されているメモリー115から構成されている。なお、制御部114は、このメモリー115から読み出した分周数で第2の分周器112を制御する。また、当然のことながら、制御部114は、チャネル切替え要求信号に基づいても、第2の分周器112の分周数を変化させている。
【0018】
なお、温度検出部は、例えば、半導体温度センサーや、サーミスタ等の温度センサーと、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ等から構成されている。
【0019】
次に、従来技術で説明したシンセサイザを本発明の構成とせずに、動作させた場合の不具合について図2を用いて説明する。符号は図1の符号を用いる。図2は、第2の分周器112を切り換えた瞬間のシンセサイザ100の出力信号の周波数スペクトルを示している(縦軸はスペクトル強度、横軸は周波数)。
【0020】
図2において、中心部分のAで示しているピークが本来の所望出力信号のピークで、その他のサブピーク、例えば、Bの部分等はスプリアスと呼ばれる不要な電力であり、ノイズ成分となる。このスプリアス部分が多いと、周波数変換器116により、シンセサイザ100の出力信号と受信信号とを乗算した後の出力信号の品質が劣化し、結果として、受信性能を劣化させる原因となる。つまり、このシンセサイザ100の出力信号のスプリアスレベルやその数を小さく抑えることが重要となる。
【0021】
このスプリアスなどのノイズ成分と、本来の所望信号(図4では、Aの部分)の単位周波数あたりの電力比を位相雑音と呼ぶ。この位相雑音が高いと、周波数変換器116である周波数ミキサーからの出力信号において、希望信号(キャリア)と、ノイズ成分の比であるC/N(Carrier Noise Ratio)も悪化してしまい、更には、復調部などの後段部でのエラーも増えてしまう。例えば、デジタル通信であれば、受信信号のエラーの比率であるBER(Bit Error Rate)を悪化させる結果となる。テレビの場合、このようなBERの悪化は、受信映像に乱れを生じさせる。また、最悪の場合は、受信できないという事態に陥ることもある。なお、このような、C/NやBERなどは、受信信号の品質を知る上での尺度となる。
【0022】
図3に、国内のデジタルテレビ規格ISDB−T(Integrated Services Digital Broadcasting− Terrestrial)で使われている変調方式であるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)の受信信号の周波数スペクトルを示す。OFDMはマルチキャリアシステムであり、情報ののった複数のキャリアから構成されている。
【0023】
図3では、5本のみ示しているが、実際は、1000本以上のキャリアの集合から信号が構成されることが多い。図3(a)において、キャリアA2に着目すると、シンセサイザの位相雑音の小さい状態では、図のようなスペクトルの広がりであり、隣接キャリアA1、A3への影響は少ない。しかしながら、局部発振信号の位相雑音が悪くなると、図3(b)に示すように、キャリアA2の位相雑音が、隣接キャリアA1、A3へ影響してしまう。このことが、受信信号のC/N劣化を引き起こすことになる。
【0024】
シンセサイザ100の発振信号の位相雑音が大きい、つまり、図2のような状態であるということは、周波数変換器116によって、受信信号と乗算される受信信号にも影響し、結果として、図3のような状況を引き起こすと言うことになる。なお、図3において、位相雑音を便宜上わかりやすく示すために、実際の信号、及び、スプリアスの先頭値部分を線でつないだ図を示している。
【0025】
このように、シンセサイザや発振器の位相雑音性能は、受信装置や電子機器のシステム全体に大きな影響を与える。図2に示したように、切替え時の瞬間的な位相雑音の劣化であっても、信号の品質を落とし、一時的な受信劣化、受信不能状態を引き起こし、画像の途切れや乱れを生じさせてしまう。
【0026】
次に、本発明の着眼点とその特徴について説明する。図4は、図2の横軸(周波数)を拡大した図である。図4のように、前記のスプリアスの周期は、第2の分周器112の制御間隔Tcの逆数である1/Tcの間隔で並んでいる。この結果に着眼して、Tcを小さくすると、1/Tcは大きくなり、所望のキャリア周波数(図中A)と隣接するスプリアス周波数は離れて、その影響が軽減される(図5)。
【0027】
また、同一帯域では、図4の場合と比較して図5はそのスプリアスの数も減り、結果として、位相雑音性能は向上することになる。
【0028】
更に、PLLの動作に起因して、中心のキャリア周波数f0から、ローパスフィルタ110のカットオフ周波数fc以上離れると、雑音レベルはローパスフィルタ110の効果で抑圧されるので、1/Tcをfcよりも大きくすることで、スプリアスも抑圧され、シンセサイザ100の位相雑音性能は、大きく向上する。
【0029】
なお、この制御間隔Tcを小さくし過ぎると、回路の消費電流が上がったり、シンセサイザ100の出力周波数が安定しなかったりといった問題が生じることがある。消費電流の上昇の理由は、例えば、温度検出部113を構成するA/Dコンバータの高速化や、PLLブロック102の応答を高めるために、電流が上昇することなどが上げられる。また、出力周波数の不安定化の理由としては、PLLブロック102の応答性を高めた結果、出力周波数のぶれ(オーバーシュート)が大きくなったり、収束しにくくなったりするといったことが挙げられる。
【0030】
従って、常に、制御間隔をTc≦1/fc(あるいは、1/Tc≧fc)の条件を満たす間隔Tcで動かさずに、位相雑音レベルを勘案しながら、前記条件のTc以上で動かす時間を設けても良い。
【0031】
また、図2で示したスプリアスの大きさは、制御の際に動かす周波数が大きいほど、大きくなる傾向にあり、本発明は、特に、周波数温度特性の悪い振動子、例えば、本実施の形態で用いたようなシリコンを使ったMEMS振動子において、更に、いっそうの効果を発揮する。以下、これに関して、更に、詳細に説明する。
【0032】
一般に、基準温度をTm0、現在の温度をTm、基準温度での共振周波数をfr0、温度がTm0からTmに変化した際の共振周波数変化量をδTmとすると、Tm0からTmまで温度が変化した際の周波数の変動率δfr/fr0は、(数1)で表される。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、α、β、γをそれぞれ1次、2次、3次の周波数温度係数と呼ぶ。これらの温度係数が小さい振動子が、周波数温度特性が良い振動子ということになる。なお、ここで、「^」は、べき乗を表す記号である。「^2」は2乗を意味する。
【0035】
ここで、例えば、水晶振動子は、その周波数温度係数が、1次が0で、2次、3次の温度係数も小さい振動子である。一般に、温度係数は、1次、2次、3次となるに従って小さくなり、かつ、電子機器の使用温度範囲における周波数温度特性に占める影響も小さくなるため、1次の温度係数が0であるということは、その振動子の周波数温度特性が非常に良好であると言う事を示している。水晶の各温度係数は、水晶インゴット(水晶の引き上げ後の固まり)から、水晶板を切り出す際のカット角度によって変わる。その良好な周波数温度特性から、最も広く使用されている水晶振動子に、ATカット水晶振動子がある。これは、例えば、使用温度範囲(−30〜85℃)において、周波数の変動率が、±20〜±100ppm程度となる。この周波数の変動率の幅は、カット角度の微小な違いによって生じる。
【0036】
MEMS振動子の一つであるシリコン振動子は、水晶とは違い、周波数温度特性が良くない。1次の温度係数が大きく、−30ppm/℃である。使用する温度範囲において、この1次の温度係数が支配的であるため、以下では、2次、3次の温度係数を無視して、周波数の変動率を考える。
【0037】
シリコン振動子の周波数の変動率は、使用する全温度範囲で考えると、±1725ppmと水晶振動子よりも10倍以上大きな値となってしまう。本実施の形態で使用しているシンセサイザ100では、温度変化などによって、基準発振器ブロック101からの出力周波数がずれた場合に、その周波数をシンセサイザ100の第2の分周器112の分周数を変えることにより、シンセサイザ100の出力としては、ほぼ一定値にする、或いは、後段において、影響の少ないレベルの出力値にすると言うものである。ここで、基準発振器ブロック101の温度に対する周波数変動が大きいと、周波数の補正幅を大きく取らなければならず、前記のスプリアスレベルも大きくなってしまう。
【0038】
また、本発明の第2の分周器112は分数分周器であることが、より好ましい。分数分周器は、整数分周器に比べ、1回あたりの周波数制御量を小さくできる。これも前記したように、スプリアスレベルを小さくすることが可能となる。一回の周波数制御量が小さくなった分、制御間隔Tcを小さくして、何回かに分けて周波数を補正してやれば良い。
【0039】
また、本発明のシンセサイザでは、1回の周波数制御量をPLLブロック102のロックレンジ以内にした方が、より好ましい。ロックレンジとは、一般に、位相周波数比較器108で比較する周波数fVCO/Nとfref/Rの差が小さい、つまり、周波数比較は行う必要がなく、位相比較のみ行えば良い状態にある範囲のことを言う。
【0040】
このレンジ内に比較する周波数差が収まっていると、PLLは、すぐに、安定したロック状態に収束することになる。もし、ロックレンジの外からPLLのロック動作が始まると、PLLがロックするまで、例えば、テレビチューナー用のPLLなどでは、1msec〜100msec程度の時間を要することになる。そうなると制御間隔Tcは少なくとも、その時間以上取る必要があり、本発明の条件である1/Tc≧fcの条件を満たせなくなる場合がある。
【0041】
仮に、ロックレンジの範囲外から制御を行う場合がある時には、1回の制御により変化するシンセサイザ100の出力信号の周波数が、シンセサイザ100のロックレンジの範囲外である場合とロックレンジの範囲内である場合とで、制御時間間隔Tcを異ならせると共に、1回の制御により変化するシンセサイザ100の出力信号の周波数が、シンセサイザ100のロックレンジの範囲内である場合の方が制御時間間隔Tcを短くする方が好ましい。これにより、早期に周波数をロックさせる事が可能であると共に、位相雑音レベルの低いシンセサイザを実現する事ができる。
【0042】
また、チャンネル切替などで、ロックレンジの範囲外から、高速にロック状態に収束する必要がある場合には、ローパスフィルタのカットオフ周波数を高い値に、切り換えるとより好ましい。これは、ローパスフィルタのカットオフ周波数が高い方が、ロックレンジ外からの収束時間を短くできるためである。温度補償用のカットオフ周波数と、高速ロック対応用のカットオフ周波数の切り換えの実現は、例えば、ローパスフィルタを二つ持って、PINダイオードなどのスイッチで切り換えたり、一つのローパスフィルタの定数を可変にして、切り換えたりすることで達成される。後者は、例えば、容量部分をバリキャップで構成したり、スイッチで容量を切り換えたりして、カットオフ周波数を可変にすることで実現できる。
【0043】
より具体的に説明すると、温度補償の制御周期が1msecの場合、本発明を用いると、カットオフ周波数fcを1kHz以下にしなければならない。しかしながら、例えば、デジタルテレビ用のチューナーの場合、数〜数十msecのロックレンジ外からの収束時間を実現するために、フィルタのカットオフ周波数は、数kHz以上としていることが多い。ローパスフィルタのカットオフ周波数を切り換えることにより、これらを両立させることが可能となる。なお、携帯電話システムでは、テレビよりも一桁以上の高速の収束時間が要求されるため、このカットオフ周波数の切り換えの効果は更に、大きくなる。
【0044】
また、本発明のシンセサイザをOFDMなどのマルチキャリアシステムに使う場合、制御間隔Tcの逆数である1/Tcと、OFDMのキャリア間隔Δfcarの関係を、1/Tc≠n×Δfcar、或いは、m×(1/Tc)≠Δfcarとした方が、より好ましい。これは、他のキャリアと、スプリアスが一致しないように制御間隔Tcを決定した方が、受信性能への影響が少ないということを意味する。
【0045】
(実施の形態2)
本実施の形態で用いた受信装置の一例を図6に示す。本実施の形態で用いた受信装置120は、国内のデジタルテレビ放送の受信システムに、本実施の形態のシンセサイザ100を搭載したものである。なお、シンセサイザ100の多くは、RF−IC117に内蔵されているが、振動子104のように、外付けのものもある。
【0046】
また、メモリー115や温度検出部113などの一部の回路は、BB−IC119に内蔵されている。本実施の形態では、シンセサイザ100の基本動作は、実施の形態1と同様であるが、温度検出部113の構成が異なる。温度検出部113は、直接温度を検出する温度センサなどではなく、発振器111からの出力信号、つまり、シンセサイザ100の出力信号の周波数変動を検出する検出器である。
【0047】
振動子104として、実施の形態1で説明したような周波数温度特性の悪いMEMS振動子などを用いた場合では、この周波数変動は、振動子104に起因する変動と考えられ、振動子104の周波数温度特性から、温度を逆算することができる。実際には、この周波数変動に対応した第2の分周器112の分周数をメモリー115に書き込んでおいて制御することになる。
【0048】
次に、図6を用いて、受信機の構成と動作を説明する。アンテナ121で受信されたテレビ信号は、妨害波を除去する第1の周波数フィルタ122を通過する。例えば、携帯電話に搭載されたテレビ受信装置なら、携帯電話自身が発する信号が、テレビ受信装置に対して、最も強力な妨害波となり、これを除去するための周波数フィルタが配置される。
【0049】
次に、第1の周波数フィルタ122からの出力信号は、信号を増幅するための低雑音アンプ123を通過し、更に、妨害波を除去するための第2の周波数フィルタ124を通過する。第2の周波数フィルタ124では、第1の周波数フィルタ122で完全に除去できなかった妨害波や、強度が、比較的、弱いような別の妨害波を除去する。次に、第2の周波数フィルタ124からの出力信号は、アンバランス信号をバランス信号に変換するバラン125を通過し、RF−IC117のフロントエンド部118に入力される。
【0050】
フロントエンド部118では、更に、低雑音アンプで増幅されたり、そのまま、周波数変換器(周波数ミキサー)118に入力され、シンセサイザ100の出力である局部発振信号と合成され、中間周波数(IF:Intermidiate Frequency)に変換される。
【0051】
尚、振動子104を駆動するドライバー回路105や、負荷容量106は図示していないが、ドライバー回路105はRF−IC117内部に、負荷容量106は、外付けで付加されている。中間周波数IFに変換された信号は、BB−IC(Base Band IC)119、つまり、復調ICへ入力される。復調側では、デインターリーブや、誤り訂正符号のデコードなどの信号処理を行い、データ復調される。ここで、デインターリーブとは、バースト誤りを軽減するため、変調時に、データの並び替えを行うインターリーブを解除することである。また、日本国内向けのISDB−Tや、海外のDVB−Hなどのシステムでは、誤り訂正符号として、ビタビ符号と、リードソロモン符号が採用されている。
【0052】
復調部に入ってきた信号は、まず、ビタビ符号のデコードが行われる。この後、リードソロモン符号のデコードが行われるが、その際、エラーのほとんどない、いわゆる、エラーフリーの状態を得るためには、ビタビ符号のデコード後のBERがある値以下の状態(例えば、BER=2×10^−4以下)となっていることが必要となる。なお、BER(Bit Error Rate)はビット誤り率を意味し、周波数変換器118からの出力信号、つまり、受信信号の品質を知る上での尺度となる。
【0053】
以上の処理で、受信からデータ復調までの処理が完了する。なお、本実施の形態では、BB−IC119を主たる構成回路とする復調部を、受信装置120に内包して説明したが、これに限るものではなく、復調部を含まない部分を受信装置120としても良い。この場合、電子機器側で、復調部を有することになる。
【0054】
実際に、家庭用のテレビ受信装置や、携帯電話用のテレビ受信装置でも、復調部を含まない部分を受信装置としている場合もある。なお、この場合は、制御ブロック103をBB−IC119に含ませない構成とする。また、図示していないが、画像を見るためには、更に、少なくとも表示するディスプレイ、つまり、表示部、及び、受信装置120の出力側に、MPEGデコーダ(図示なし)を必要とする。復調部で、リードソロモン符号のデコードまで終了したデータはMPEG−TS信号として、このMPEGデコーダへ入力され、画像信号が再生され、画像として表示される。
【0055】
本実施の形態の受信装置を用いることで、内蔵するシンセサイザとして、実施の形態1と同様の効果があるが、更に、MEMS振動子などの小型の振動子を使うことが可能となり、受信装置の小型化が図れる。また、温度検出部113として、周波数変動を検出する検出器を用いるため、実施の形態1で説明したような温度センサーを用いる場合と比べ、温度センサーと振動子104の場所の相違による温度誤差を低く抑えることができる。
【0056】
この温度検出部113の例を図7を使って説明する。図7では、温度検出部113が、受信信号の周波数fcaとPLLブロック102からの周波数floとの誤差を検出し、その周波数誤差から、温度変動情報を得て、この温度変動情報を制御部114に送っている。つまり、振動子104の周波数温度特性が分かっていれば、前記周波数差異から、現在の温度を割り出し、制御部114を介して、第2の分周器112の分周数を制御することが可能となる。例えば、予め周波数差異から割り出される温度情報と分周数の数値情報をメモリー115に記憶させておいて、制御部114からの呼び出しに応じて、読み出し、第2の分周器112の分周数を設定する。
【0057】
なお、温度検出部113が出力する周波数誤差を温度情報に変換せず、直接的に分周数を算出してもよい。この場合、温度検出部113が出力する周波数誤差をΔF、分周数の最小設定単位をΔdivとすると、制御部114は第2の分周器112の分周数をΔF/Δdivだけ加算すればよい。また、この制御を実現するために、制御部114はメモリー115に格納されたΔFとΔF/Δdivの対応表に基づいて分周数を制御してもよいし、内部のCPU又は論理回路(図示せず)を用いてΔFからΔF/Δdivを算出し、分周数を制御してもよい。
【0058】
次に、周波数誤差の検出について説明する。図7では、受信信号(周波数fca)は、PLLブロック102の出力(周波数flo)と周波数変換器118で、乗算され、周波数|flo−fca|と、|fla+fca|の信号に変換される。次に、ローパスフィルタ(図示なし)で、|flo+fca|を除去すると、周波数|flo−fca|の信号のみが残ることになる。ここで、fcaは、放送局の局部発振信号と、第1シンセサイザ部101の出力信号との周波数差異分Δfca1だけ、本来、受信したい信号のキャリア周波数fca0よりもずれていることになる。つまり、fca=fca0+Δfca1となる。ここで、Δfca1はプラス側の差異分である場合、プラスに、マイナス側の差異分である場合は、マイナスの値を取る。また、floは、本来の受信したい信号のキャリア周波数fc0に、振動子104の周波数温度特性に起因する周波数変動分であるΔftを加えた値、つまり、flo=fca0+Δftとなる。
【0059】
従って、正確には、|flo−fca|=Δft−Δfca1となる。ここで、Δfca1はΔftに比べ、非常に小さい値、つまり、Δft≫Δfca1であるため、|flo−fca|=Δftとすることができる。つまり、この|flo−fca|は、振動子104の温度による周波数変動情報を検出していることに相当し、温度検出部113は温度センサとして機能することになる。
【0060】
次に、周波数誤差の具体的な検出方法について説明する。基本的には、受信信号の中に含まれる所定の既知信号を信号処理することにより、周波数の誤差を検出する。図8に示すように、ワンセグ放送の場合、あらかじめ、受信信号の中にガードインターバル信号(図中のGI)という信号が、放送局からの送信時に、入れられている。ガードインターバル信号は、画像データを含む有効信号(有効シンボル)のある部分をコピーすることにより、生成されている。
【0061】
つまり、1シンボルは、有効シンボルとガードインターバル信号で構成されている。このようなガードインターバル信号が挿入されていることにより、受信信号と、その一定期間(例えば、有効シンボル分の期間)遅延させた信号との相関を取る(どれだけ、その信号が似ているのかを調べる)と、ガードインターバル信号が検出された期間ごとに、相関ピーク出力が出力されることになる(コピーなので、信号が似ていると判断される)。
【0062】
なお、相関処理は、信号の畳み込み積分を行うことで実現され、デジタル信号処理では、各ビットの排他的論理和(XOR)の否定をとり(XORのBar)、それらを加算することによって得られる。このように検出された相関出力を使って、受信信号と、PLLブロック102からの局部発振出力の誤差を検出し、周波数変動とすることができる。
【0063】
なお、前記した相関出力から、周波数の誤差を検出する方法としては、直交変調されている信号においては、以下の方法が挙げられる。前記した受信信号をI信号とした場合、前記の相関出力(以下、相関出力1とする)の他に、そのI信号と直交する信号であるQ信号に対しても、I信号と相関を取り、相関出力(相関出力2)を得て、その比から、周波数の差異を検出する方法である。ここで、2つの信号が直交すると言うのは、2つの信号の畳み込み積分値が0になると言う意味である。
【0064】
なお、PLLブロック102からの局部発振出力と比較する信号としては、別のシステムで使われている信号やクロックが挙げられ、例えば、GPS(Global Positioning System)信号などを用いても良い。
【0065】
なお、温度検出の方法としては、他に、入力された周波数の変化を振幅の変化として出力する周波数弁別器や、周波数を直接カウントする周波数カウンタなどを用いるという方法が挙げられる。この方法では、周波数が低い周波数に変換されているため、キャリア周波数に関係なく(例えば、前記770MHzに関係なく)、周波数差異情報を高精度に、かつ、簡易な回路構成にて検出できる。
【0066】
以上説明した実施の形態1、及び、実施の形態2では、振動子104として、半導体材料を基材としたシリコン振動子を用いて、説明したが、MEMS振動子の他の例としては、ポリシリコン振動子や、AlN、ZnO、PZTと言った薄膜圧電材料をベースとしたFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)と呼ばれるものや、SiOなどのその他の薄膜材料をベースとした振動子が挙げられる。また、弾性表面波を用いたSAW(Surface Acoustic Wave)振動子や、異なる物質の境界を伝播する境界波などを用いた振動子もその一例である。これらの振動子のうちで、ATカット水晶振動子と同程度の周波数温度特性を持つものは、ほとんどなく、また、そのほとんどが、1次の温度係数を有する(無視できない)ものである。例えば、AlNを用いたFBARでは、厚み縦振動(印加電界と同一方向に振動)を用いた振動子で、−25ppm/℃、ZnOでは、−60ppm/℃程度となる。また、SAWを用いた振動子でも、基材に36°yカットのタンタル酸リチウムを用いたものでは、−35ppm/℃程度、基材に64°yカットのニオブ酸リチウムを用いたものでは、−72ppm/℃程度となる。これらの振動子は、水晶振動子より小型にできるものが多く、本発明の構成とすることで、その利用が可能となる。また、半導体ICとの一体化などの効果が得られる。特に、シリコン振動子は、半導体の多くがシリコン基板上に形成されることから、IC形成と一括して、作りこめるなどの多くのメリットを有する。また、AlN、ZnOなどの圧電薄膜材料(FBARの材料)も半導体基板上に、配向させ、成膜できるため、一体化の効果は大きい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本願発明のシンセサイザは、小型化に有利なMEMS振動子を基準発振器に用いたとしても良好な位相雑音特性を備えているため、通信端末やテレビ受信機等に用いる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明のシンセサイザのブロック図
【図2】位相雑音の増加(スプリアスの発生)を示す図
【図3】位相雑音の増加の影響(OFDMの例)を示す図
【図4】スプリアスと制御間隔の関係の説明図
【図5】制御間隔が小さい場合のスプリアスの説明図
【図6】本発明の受信装置のブロック図
【図7】本発明のシンセサイザとその他一部の回路ブロック図
【図8】ガードインターバル信号の説明図
【図9】従来技術の説明図
【符号の説明】
【0069】
100 シンセサイザ
101 基準発振器ブロック
102 PLLブロック
103 制御ブロック
104 振動子
105 ドライバー回路
106 負荷容量
107 第1の分周器
108 位相周波数比較器
109 チャージポンプ
110 ローパスフィルタ
111 発振器
112 第2の分周器
113 温度検出部
114 制御部
115 メモリー
116 周波数変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準発振器から出力された基準発振信号が入力される比較器と、
前記比較器の出力側に接続されたフィルタと、
前記フィルタの出力側に接続されて発振信号を出力する発振器と、
前記発振器の出力信号を制御部からの制御信号に基づいて分周する分周器とを備え、
前記比較器は、前記分周器からの出力信号と前記基準発振器からの出力信号とを比較してこの比較結果を示す信号を前記フィルタに出力すると共に、
前記制御部は、温度を検出する検出器の検出結果に基づいて前記分周器の分周比を時間間隔Tで制御し、
前記時間間隔Tと前記フィルタのカットオフ周波数fcとの関係は、1/T≧fcを満たすシンセサイザ。
【請求項2】
前記制御部が前記分周器を制御する前記時間間隔Tは複数存在し、
前記複数存在する時間間隔Tのうち最小の時間間隔Tminと前記フィルタのカットオフ周波数fcとの関係は、1/Tmin≧fcを満たす請求項1に記載のシンセサイザ。
【請求項3】
前記基準発振器はMEMS振動子である請求項1に記載のシンセサイザ。
【請求項4】
前記分周器は分数分周器である請求項1に記載のシンセサイザ。
【請求項5】
1回の制御により変化する前記発振器の出力信号の周波数は、前記シンセサイザのロックレンジの範囲内である請求項1に記載のシンセサイザ。
【請求項6】
1回の制御により変化する前記発振器の出力信号の周波数が、前記シンセサイザのロックレンジの範囲外である場合とロックレンジの範囲内である場合とで前記時間間隔Tが異なり、ロックレンジの範囲内である場合の方が短い請求項2に記載のシンセサイザ。
【請求項7】
1回の制御により変化する前記発振器の出力信号の周波数が、前記シンセサイザのロックレンジの範囲外である場合とロックレンジの範囲内である場合とで、前記フィルタのカットオフ周波数を切り換える請求項1に記載のシンセサイザ。
【請求項8】
マルチキャリアシステムにおいて使用するシンセサイザであって、前記マルチキャリアシステムのキャリア間隔Δfcarと、前記時間間隔Tcの関係が、(1/Tc)≠n×Δfcar、或いは、m×(1/Tc)≠Δfcar(但し、m、nは整数)である請求項1に記載のシンセサイザ。
【請求項9】
受信信号を周波数変換する周波数変換器と、
基準発振器と、
前記基準発振器から出力された基準発振信号が入力される比較器と、
前記比較器の出力側に接続されたフィルタと、
前記フィルタの出力側に接続されて発振信号を前記周波数変換器に供給する発振器と、
前記発振器の出力信号を制御部からの制御信号に基づいて分周する分周器とを備え、
前記比較器は、前記分周器からの出力信号と前記基準発振器からの出力信号とを比較してこの比較結果を示す信号を前記フィルタに出力すると共に、
前記制御部は、温度を検出する検出器の検出結果に基づいて前記分周器の分周比を時間間隔Tで制御し、
前記時間間隔Tと前記フィルタのカットオフ周波数fcとの関係は、1/T≧fcを満たす受信装置。
【請求項10】
受信信号を周波数変換する周波数変換器と、
基準発振器と、
前記基準発振器から出力された基準発振信号が入力される比較器と、
前記比較器の出力側に接続されたフィルタと、
前記フィルタの出力側に接続されて発振信号を前記周波数変換器に供給する発振器と、
前記発振器の出力信号を制御部からの制御信号に基づいて分周する分周器と、
前記発振器からの出力信号、若しくは受信信号の周波数変動を検出する検出器を備え、
前記比較器は、前記分周器からの出力信号と前記基準発振器からの出力信号とを比較してこの比較結果を示す信号を前記フィルタに出力すると共に、
前記制御部は、前記検出器の検出結果に基づいて前記分周器の分周比を時間間隔Tで制御し、
前記時間間隔Tと前記フィルタのカットオフ周波数fcとの関係は、1/T≧fcを満たす受信装置。
【請求項11】
前記検出器は、受信信号に含まれる基準シンボルに基づいて前記基準発振信号の周波数変動を検出する請求項10に記載の受信装置。
【請求項12】
前記検出器は、受信信号に含まれるガードインターバル信号に基づいて前記基準発振信号の周波数変動を検出する請求項10に記載の受信装置。
【請求項13】
前記基準発振器はMEMS振動子である請求項9又は請求項10に記載の受信装置。
【請求項14】
請求項9又は請求項10に記載の受信装置と、
前記周波数変換器の出力側に接続された信号処理部と、
前記信号処理部の出力側に接続された表示部とを備えた電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−193240(P2010−193240A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36172(P2009−36172)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】