説明

シールド層付き携帯電話用ケーブル

【課題】シールド層付き携帯電話用ケーブルにおいて、誘電特性を改善し、断線を防止する。
【解決手段】シールド層付き携帯電話用ケーブル1は、誘電体層3を構成する液晶ポリエステルが、式(1)〜(3)で示される構造単位からなる。式(1)〜(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれている。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機の筐体内に配線される電気ケーブルであって被覆電線の外周がシールド層で包囲されたもの、つまりシールド層付き携帯電話用ケーブルに関するものである。このシールド層付き携帯電話用ケーブルには、同軸ケーブルが含まれる。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機の高機能化が進んでいることに対応して、携帯電話機の筐体内に配線される電気ケーブルの材料としては、誘電正接が低くて誘電特性に優れるものが強く望まれている。
【0003】
一方、携帯電話機としては、2つの筐体が接合されたものに限っても、各種の構造(折り畳み型、スライド型、回転型など)の携帯電話機が普及しており、その構造に適した電気ケーブルが使用されている。すなわち、折り畳み型やスライド型の携帯電話機には、2つの筐体間の折り畳み動作やスライド動作に追従できるように、フレキシブルプリント回路基板(FPC)が広く用いられている。また、回転型の携帯電話機では、2つの筐体が点接合されているため、フィルム状のフレキシブルプリント回路基板に代えて円形断面状の同軸ケーブルが用いられている。
【0004】
この同軸ケーブルは、内部導体(心線)の外周に順に誘電体層、シールド層(外部導体)および保護被覆層が同心状に設けられた構造を有している。そして、この同軸ケーブルにおいては、その細線化に伴って断線しやすくなる不都合を解消すべく、ポリアミドとABS樹脂とのポリマーアロイを用いて誘電体層を形成することにより、同軸ケーブルの耐屈曲性を高めようとする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−265856号公報(段落〔0005〕〔0007〕〔0010〕の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で提案された技術では、ポリアミドとABS樹脂とのポリマーアロイから誘電体層が形成されているため、誘電正接が高くて誘電特性に優れないという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、同軸ケーブルを含むシールド層付き携帯電話用ケーブルにおいて、誘電特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明者が鋭意検討したところ、特定の構造を有する液晶ポリエステルが、低い誘電正接を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、液晶ポリエステル基材からなる誘電体層を有するシールド層付き携帯電話用ケーブルであって、前記誘電体層を構成する液晶ポリエステルが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、これらの式(1)、(2)および(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれているシールド層付き携帯電話用ケーブルとしたことを特徴とする。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。なお、Ar1 、Ar2 、Ar3 は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していてもよい。)
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記誘電体層の液晶ポリエステル基材が、液晶ポリエステルを溶融押出成形して得られる液晶ポリエステルフィルムであることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記誘電体層の液晶ポリエステル基材が、液晶ポリエステルを溶媒に溶解した液晶ポリエステル溶液から前記溶媒を除去して得られる液晶ポリエステルフィルムであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルフィルムに金属箔が内部導体として積層されていることを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の構成に加え、液晶ポリエステル基材からなる保護被覆層が前記誘電体層の外周に設けられ、前記保護被覆層を構成する液晶ポリエステルが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、これらの式(1)、(2)および(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれていることを特徴とする。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。なお、Ar1 、Ar2 、Ar3 は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していてもよい。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シールド層付き携帯電話用ケーブルの誘電体層を構成する液晶ポリエステルの構造を特定したので、誘電体層の誘電正接が低くなり、誘電特性を改善することが可能となる。
【0015】
また、シールド層付き携帯電話用ケーブルの保護被覆層を構成する液晶ポリエステルの構造を特定すると、保護被覆層の動摩擦係数が小さくなる。したがって、シールド層付き携帯電話用ケーブルを携帯電話機の狭い筐体内に配線した場合でも、この筐体と保護被覆層との摩擦に起因してシールド層付き携帯電話用ケーブルの耐屈曲性が低下する事態の発生を抑制し、シールド層付き携帯電話用ケーブルの断線や破損を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係るシールド層付き携帯電話用ケーブルの断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係るシールド層付き携帯電話用ケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0018】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。
【0019】
この実施の形態1に係るシールド層付き携帯電話用ケーブル1は、図1に示すように、より線または単線の内部導体(心線)2を有しており、内部導体2の外周には、この内部導体2を被覆する形で円筒状の誘電体層3が同心状に形成されている。また、誘電体層3の外周には、この誘電体層3を被覆する形で、編組線からなる円筒状のシールド層(外部導体)5が同心状に設けられている。さらに、シールド層5の外周には、このシールド層5を被覆する形で円筒状の保護被覆層6が同心状に形成されている。
【0020】
ここで、誘電体層3および保護被覆層6はいずれも、主に液晶ポリエステル基材から構成されている。この液晶ポリエステル基材を構成する液晶ポリエステルは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、これらの式(1)、(2)および(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれている。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。なお、Ar1 、Ar2 、Ar3 は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していてもよい。)
【0021】
ここで、液晶ポリエステルとは、450℃以下の温度で、溶融時に光学的異方性を示すポリエステルを意味する。このような液晶ポリエステルは、その製造段階で、2,6−ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを、得られる液晶ポリエステル中において、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位が40モル%以上になるように、原料モノマーを選択して重合させることで得ることができる。
【0022】
本発明に用いられる液晶ポリエステルにおいては、Ar1 、Ar2 およびAr3 で示される2価の芳香族基の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が、50モル%以上である液晶ポリエステルが好ましく、2,6−ナフタレンジイル基が65モル%以上の液晶ポリエステルがさらに好ましく、2,6−ナフタレンジイル基が70モル%以上の液晶ポリエステルが特に好ましい。
【0023】
また、本発明の液晶ポリエステルを構成する構造単位である(1)、(2)および(3)の合計(以下、「全構造単位合計」と呼ぶことがある。)を100モル%とするとき、(1)で示される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位の合計が30〜80モル%、(2)で示される芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の合計が10〜35モル%、(3)で示される芳香族ジオールに由来する構造単位の合計が10〜35モル%であることが好ましい。
【0024】
また、本発明に用いられる液晶ポリエステルは、全芳香族液晶ポリエステルであると好ましい。ここで、全芳香族液晶ポリエステルとは、前記のAr1 、Ar2 およびAr3 で示される2価の芳香族基同士がエステル結合(−C(O)O−)で連結されている樹脂であり、全構造単位合計に対する式(2)で示される構造単位の含有比率と式(3)で示される構造単位の含有比率とは実質的に等しくなる。全芳香族液晶ポリエステルは、耐熱性および吸湿バリア性(ガスバリア性)に優れるため、シールド層付き携帯電話用ケーブル1の誘電体層3や保護被覆層6の材料として好適に用いることができる。
【0025】
ここで、全構造単位合計に対する前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位、前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位および前記芳香族ジオールに由来する構造単位の含有比率が前記の範囲であると、液晶ポリエステルが高度の液晶性を発現することに加えて、溶融加工性に優れるものとなるため好ましい。
【0026】
なお、全構造単位合計に対する前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位は、40〜70モル%であると、より好ましく、45〜65モル%であると、とりわけ好ましい。一方、全構造単位合計に対する前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位および前記芳香族ジオールに由来する構造単位はそれぞれ、15〜30モル%であると、より好ましく、17.5〜27.5モル%であると、とりわけ好ましい。
【0027】
式(1)で示される構造単位を形成するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、p−ヒドロキシ安息香酸または4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸であり、さらに2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸のナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0028】
式(2)で示される構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸またはビフェニル−4,4’−ジカルボン酸が挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジカルボン酸であり、さらに2,6−ナフタレンジカルボン酸のナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0029】
式(3)で示される構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフトール、ハイドロキノン、レゾルシンまたは4,4’−ジヒドロキシビフェニルが挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフトールであり、さらに2,6−ナフトールのナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0030】
前述したように、式(1)、(2)または(3)で示される構造単位はいずれも、芳香環(ベンゼン環またはナフタレン環)に前記の置換基(ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基)を有していてもよい。これらの置換基を例示すると、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。また、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などに代表されるアルキル基であり、これらは直鎖であっても分岐していてもよく、脂環基でもよい。さらに、アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などに代表される炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。
【0031】
前記の式(1)、(2)または(3)で示される構造単位を形成するモノマーは、液晶ポリエステルを製造する過程で重合を容易にするため、エステル形成性誘導体を用いることが好ましい。このエステル形成性誘導体とは、エステル生成反応を促進するような基を有するモノマーを示し、具体的に例示すると、モノマー分子内のカルボキシル基をハロホルミル基やアシルオキシカルボニル基に転換したエステル形成性誘導体や、モノマー分子内のヒドロキシル基(水酸基)を低級カルボン酸エステル基にしたエステル形成性誘導体などの高反応性誘導体が挙げられる。
【0032】
本発明に用いられる液晶ポリエステルの好ましいモノマーの組み合わせとしては、特開2005−272810号公報に記載された液晶ポリエステルが、耐熱性の向上という観点から好ましい。具体的には、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸の繰り返し構造単位(I)が40〜74.8モル%、ハイドロキノンの繰り返し構造単位(II)が12.5〜30モル%、2,6−ナフタレンジカルボン酸の繰り返し構造単位(III)が12.5〜30モル%およびテレフタル酸の繰り返し構造単位(IV)が0.2〜15モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.5の関係を満たすものである。
【0033】
より好ましくは、前記の(I)〜(IV)の繰り返し構造単位の合計に対して、(I)の繰り返し構造単位が40〜64.5モル%、(II)の繰り返し構造単位が17.5〜30モル%、(III)の繰り返し構造単位が17.5〜30モル%および(IV)の繰り返し構造単位が0.5〜12モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが挙げられる。
【0034】
さらに好ましくは、前記の式(I)〜(IV)の繰り返し構造単位の合計に対して、(I)の繰り返し構造単位が50〜58モル%、(II)の繰り返し構造単位が20〜25モル%、(III)の繰り返し構造単位が20〜25モル%および(IV)の繰り返し構造単位が2〜10モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される繰り返し構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが挙げられる。
【0035】
また、液晶ポリエステルの製造方法としては、公知の方法を採用することができるが、特に好ましくは、前記のエステル形成性誘導体として、モノマー分子内のヒドロキシル基を低級カルボン酸を用いてエステル基に転換した誘導体を用いて製造することが好ましく、ヒドロキシル基をアシル基に転換するアシル化を採用することが特に好ましい。このアシル化は、通常、ヒドロキシル基を有するモノマーを無水酢酸と反応させることで達成できる。こうしたアシル化によるエステル形成性誘導体は、脱酢酸重縮合により重合することができ、容易にポリエステルを製造することができる。
【0036】
例えば、特開2002−146003号公報に開示された方法を適用して、液晶ポリエステルを製造することもできる。すなわち、前記の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位に対応するモノマーを、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位に対応するモノマーが、全モノマーの合計に対して、40モル%以上になるように選択し、必要に応じてエステル形成性誘導体に転換した後、溶融重縮合させて、比較的低分子量の液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記する。)を得、次いで、このプレポリマーを粉末とし、加熱することにより、固相重合させる方法が挙げられる。このような固相重合を用いると、重合がより進行しやすく、高分子量化を図ることができる。
【0037】
溶融重縮合により得られたプレポリマーを粉末とするには、例えば、プレポリマーを冷却固化した後に粉砕すればよい。粉末の粒子径は、平均で0.05mm以上3mm程度以下が好ましく、特に0.05mm以上1.5mm程度以下が、液晶ポリエステルの高重合度化が促進されることからより好ましく、0.1mm以上1.0mm程度以下であれば、粉末の粒子間のシンタリングを生じることなく液晶ポリエステルの高重合度化が促進されるため、さらに好ましい。
【0038】
固相重合における加熱は、通常、昇温しながら行われ、例えば、室温からプレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度まで昇温させる。このときの昇温時間は、特に限定されるものではないが、反応時間の短縮という観点から、1時間以内で行うことが好ましい。
【0039】
液晶ポリエステルの製造において、固相重合における加熱は、プレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度から250℃以上の温度まで昇温することが好ましい。昇温は、0.3℃/分以下の昇温速度で行うことが好ましい。この昇温速度は、好ましくは0.1〜0.15℃/分である。この昇温速度が0.3℃/分以下であれば、粉末の粒子間のシンタリングが生じにくいため、高重合度の液晶ポリエステルの製造が容易となる点で好ましい。
【0040】
また、固相重合における加熱は、液晶ポリエステルの重合度を高めるため、得られる液晶性樹脂の芳香族ジオールまたは芳香族ジカルボン酸成分のモノマー種に応じて、250℃以上の温度で、好ましくは250℃〜400℃の範囲で、30分以上反応させることが好ましい。とりわけ、液晶性樹脂の熱安定性の点から、反応温度280〜350℃で30分〜30時間反応させることが好ましく、反応温度285〜340℃で30分〜20時間反応させることがさらに好ましい。
【0041】
本発明に係る液晶ポリエステルの流動開始温度とは、上記製造方法で得られた液晶ポリエステル(パウダーまたはペレット)について、押出機で溶融混錬して得られたペレットについて測定した値である。このペレットの流動開始温度が280℃以上であることが、耐熱性の向上という観点からは重要であり、特に290℃以上380℃以下であれば、耐熱性が高く、かつ成形時のポリマーの分解劣化が抑えられるため好ましく、295℃以上350℃以下であれば、さらに好ましい。
【0042】
ここで、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度である(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0043】
次に、上記製造方法で得られた液晶ポリエステル(パウダーまたはペレット)について、押出機を使用して溶融混錬する具体的方法を説明する。
【0044】
例えば、単軸または多軸押出機、好ましくは二軸押出機、バンハリー式混錬機、ロール式混練機などを用いて、上記液晶ポリエステルの製造方法により得られた樹脂単体(パウダーまたはペレット)の流動開始温度マイナス10℃から流動開始温度プラス100℃の範囲で溶融混練して、ペレットを得る。液晶ポリエステルの熱劣化を防止するという観点から、好ましくは流動開始温度マイナス10℃から流動開始温度プラス70℃の範囲、さらに好ましくは流動開始温度マイナス10℃から流動開始温度プラス50℃の範囲である。
【0045】
また、本発明に用いる液晶ポリエステルは、これに充填剤などを含有させることにより液晶ポリエステル樹脂組成物とすることもできる。
【0046】
ここで、充填剤としては、例えば、ミルドガラスファイバー、チョップドガラスファイバー等のガラス繊維、ガラスビーズ、中空ガラス球、ガラス粉末、マイカ、タルク、クレー、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、炭酸カルシウム(重質、軽質、膠質など)、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸ソーダ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、けい酸カルシウム、けい砂、けい石、石英、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄グラファイト、モリブデン、アスベスト、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、石膏繊維、炭素繊維、カーボンブラック、ホワイトカーボン、けいそう土、ベントナイト、セリサイト、シラス、黒鉛等の無機充填剤;チタン酸カリウムウイスカ、アルミナウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、炭化けい素ウイスカ、窒化けい素ウイスカ等の金属または非金属系ウイスカ類、これら2種以上の混合物などが挙げられる。中でもガラス繊維、ガラス粉末、マイカ、タルク、炭素繊維などが好適である。
【0047】
また、充填剤は、表面処理剤で表面処理されたものであってもよい。この表面処理剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤などの反応性カップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの潤滑剤その他が挙げられる。
【0048】
これら充填剤の使用量は、液晶ポリエステル100質量部に対し、通常0.1〜400質量部の範囲であり、好ましくは、10〜400質量部、より好ましくは、10〜250質量部の範囲である。
【0049】
また、液晶ポリエステル樹脂組成物は、前記の充填剤の他に、液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂や添加剤などを含有してもよい。
【0050】
ここで、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などが挙げられる。
【0051】
また、添加剤としては、例えば、フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤、核剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、着色防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、潤滑剤および難燃剤などが挙げられる。
【0052】
液晶ポリエステル樹脂組成物は、例えば、前記のようして得られた液晶ポリエステルと上記のような充填剤、必要に応じて使用される熱可塑性樹脂や添加剤などを混合することにより、製造することができる。このときの混合は、乳鉢、ヘンシェルミキサー、ボールミル、リボンブレンダー等を用いてもよく、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、ニーダー等の溶融混練機を用いてもよく、上記溶融混錬条件にて実施することが好ましい。
【0053】
本発明で用いる液晶ポリエステル基材の厚さには、特に制限はないが、好ましくは3〜1000μm、より好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは12〜150μmである。こうした方法により得られる液晶ポリエステルは、電気絶縁性、耐熱性に優れ、軽量で薄肉化が可能であり、機械的強度が良好であり、柔軟性があり、しかも安価なものである。
【0054】
本発明においては、液晶ポリエステル基材の表面に予め表面処理を施すことができる。このような表面処理法としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、スパッタリング処理、溶剤処理、紫外線処理、研磨処理、赤外線処理、オゾン処理などが挙げられる。
【0055】
液晶ポリエステル基材は無色であってもよいし、顔料または染料などの着色成分が含有されていてもよい。着色成分を含有させる方法としては、例えば、フィルムの製膜時に予め着色成分を練り込んでおく方法や、基材上に着色成分を印刷する方法などがある。また、着色フィルムと無色フィルムとを貼り合わせて使用しても構わない。
【0056】
以上のように、この実施の形態1に係るシールド層付き携帯電話用ケーブル1では、誘電体層3を構成する液晶ポリエステルが特定の構造を有しているので、誘電体層3の誘電正接が低くなる。したがって、シールド層付き携帯電話用ケーブル1の誘電特性を改善することが可能となる。
【0057】
また、保護被覆層6を構成する液晶ポリエステルが特定の構造を有しているので、保護被覆層6の動摩擦係数が小さくなる。したがって、シールド層付き携帯電話用ケーブル1を携帯電話機の狭い筐体内に配線した場合でも、この筐体と保護被覆層6との摩擦に起因してシールド層付き携帯電話用ケーブル1の耐屈曲性が低下する事態の発生を抑制し、シールド層付き携帯電話用ケーブル1の断線や破損を防止することが可能となる。
[発明の実施の形態2]
【0058】
図2には、本発明の実施の形態2を示す。
【0059】
この実施の形態2に係るシールド層付き携帯電話用ケーブル1は、図2に示すように、パターン回路が形成された所定の厚さ(例えば、18μm)の銅箔などの金属箔からなる内部導体2を有している。また、内部導体2の表裏両面には、それぞれ所定の厚さ(例えば、150μm)を有する一対のフィルム状の誘電体層3(3A、3B)が内部導体2を挟み込む形で貼着されている。さらに、内部導体2および誘電体層3A、3Bの外周には、これら内部導体2、誘電体層3A、3Bを被覆する形でシールド層(外部導体)5が設けられており、このシールド層5は、所定の厚さ(例えば、18μm)の銅箔などの金属箔から構成されている。また、シールド層5の外周には、このシールド層5を被覆する形で所定の厚さ(例えば、25μm)の保護被覆層6が設けられている。
【0060】
ここで、各誘電体層3A、3Bおよび保護被覆層6はいずれも、主に液晶ポリエステルフィルムから構成されており、この液晶ポリエステルフィルムを構成する液晶ポリエステルは、上述した実施の形態1における液晶ポリエステルと同じものである。
【0061】
この誘電体層3および保護被覆層6の液晶ポリエステルフィルムを製造する際には、溶融押出成形法が採用される。その具体的方法としては、例えば、液晶ポリエステルを押出機で溶融混練し、Tダイを通して押し出した溶融樹脂を巻き取り機の方向(長手方向)に延伸しながら巻き取って一軸配向フィルムを得る方法や、後述の二軸延伸フィルムを得る方法、円筒形のダイから押し出した溶融体シートをインフレーション法で成膜してインフレーションフィルムを得る方法などが挙げられる。
【0062】
ここで、一軸配向フィルムの製造時の押出機の設定温度は、液晶ポリエステルのモノマー組成に応じて異なるが、通常280〜400℃程度、好ましくは320〜380℃程度である。シリンダーの設定温度が280〜400℃程度であると、液晶ポリエステルの熱分解を抑制することができ、成膜が容易になる。
【0063】
また、Tダイのスリット間隔は、通常0.1〜2mm程度であり、また一軸配向フィルムのドラフト比は、通常1.1〜45程度の範囲である。ここでいうドラフト比とは、Tダイスリットの断面積を長手方向のフィルム断面積で除した値をいう。ドラフト比が1.1以上であると、フィルム強度が向上する傾向があり、ドラフト比が45以下であると、フィルムの表面平滑性に優れる傾向がある。ドラフト比は、押出機の設定条件、巻き取り速度などにより調整することができる。
【0064】
また、二軸延伸フィルムは、一軸配向フィルムと同様の押出機の設定条件、すなわち、シリンダーの設定温度が、通常280〜400℃程度、好ましくは320〜380℃程度であり、Tダイのスリット間隔は、通常0.1〜2mmの範囲で溶融押出を行う。
【0065】
二軸延伸方法としては、Tダイから押し出した溶融体シートを長手方向および横手方向(長手方向と垂直な方向)に同時に延伸する方法や、Tダイから押し出した溶融体シートをまず長手方向に延伸し、次いで、この延伸シートを同一工程内で100〜400℃の高温下でテンターより横手方向に延伸する逐次延伸の方法などが挙げられる。
【0066】
二軸延伸フィルムの延伸比は、長手方向に1.1〜20倍、横手方向に1.1〜20倍の範囲であることが好ましい。延伸比が上記の範囲内であると、得られるフィルムの強度に優れ、均一な厚さのフィルムを得ることが容易になる。
【0067】
また、インフレーションフィルムは、液晶ポリエステルを環状スリットのダイを備えた溶融混練押出機に供給し、シリンダー設定温度を通常280〜400℃程度、好ましくは320〜380℃程度に保持して溶融混練を行って、押出機の環状スリットから筒状の溶融樹脂フィルムを上方または下方へ押し出す。環状スリットの間隔は、通常0.1〜5mm、好ましくは0.2〜2mm、環状スリットの直径は、通常20〜1000mm、好ましくは25〜600mmである。
【0068】
こうして押し出された筒状の溶融樹脂フィルムに、長手方向(MD)にドラフトをかけるとともに、この筒状溶融樹脂フィルムの内側から空気または不活性ガス、例えば窒素ガスなどを吹き込むにより、長手方向と直角な横手方向(TD)にフィルムを膨張延伸させる。
【0069】
ここで、ブローアップ比(最終チューブ径と初期径の比)は、通常1.5〜10である。MD延伸倍率は、通常1.5〜40であり、この範囲内であると厚さが均一でしわのない高強度の液晶ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0070】
膨張延伸させたフィルムは、空冷または水冷させた後、ニップロールを通過させて引き取る。
【0071】
また、インフレーション成膜に際しては、液晶ポリエステルの組成に応じて、筒状の溶融体フィルムが均一な厚さで表面平滑な状態に膨張するような条件を選択することが好ましい。
【0072】
以上のようにして得られた本発明の液晶ポリエステルフィルムの厚さは、成膜性や機械特性の観点から、通常0.5〜500μmであり、取り扱い性の観点から1〜300μmであることが好ましい。
【0073】
また、本発明の液晶ポリエステルフィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、フィラー、添加剤などを含有することもできる。
【0074】
ここで、フィラーとしては、例えば、エポキシ樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、ポリエステル樹脂粉末、スチレン樹脂などの有機系フィラー、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、カオリン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウムなどの無機フィラーなどが挙げられる。
【0075】
また、添加剤としては、例えば、カップリング剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。
【0076】
さらに、本発明の液晶ポリエステルフィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテルおよびその変性物、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂、グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体などのエラストマーなどを一種または二種以上含有することもできる。
【0077】
また、本発明の液晶ポリエステルフィルムには、金属箔を内部導体2として積層することもできる。この金属箔を積層するに際して、液晶ポリエステルフィルムの金属箔を積層する面には、接着力を高めるため、コロナ放電処理、紫外線照射処理またはプラズマ処理を実施してもよい。
【0078】
ここで、本発明の液晶ポリエステルフィルムに金属箔を積層する方法としては、例えば、
(a)液晶ポリエステルフィルムを加熱圧着により金属箔に貼付する方法、
(b)液晶ポリエステルフィルムと金属箔とを接着剤により貼付する方法、
(c)液晶ポリエステルフィルムに金属箔を蒸着により形成する方法
を挙げることができる。
【0079】
これらの中でも、積層方法(a)は、プレス機または加熱ロールを用いて液晶ポリエステルフィルムの流動開始温度付近で金属箔と圧着する方法であり、容易に実施できることから推奨される。
【0080】
また、積層方法(b)において使用される接着剤としては、例えば、ホットメルト接着剤、ポリウレタン接着剤などが挙げられる。中でもエポキシ基含有エチレン共重合体などが接着剤として好ましく使用される。
【0081】
さらに、積層方法(c)としては、例えば、イオンビームスパッタリング法、高周波スパッタリング法、直流マグネトロンスパッタリング法、グロー放電法などが挙げられる。中でも高周波スパッタリング法が好ましく使用される。
【0082】
また、誘電体層3および保護被覆層6の液晶ポリエステルフィルムを製造する際には、上述した溶融押出成形法に代えて、溶媒キャスト法を採用することもできる。すなわち、液晶ポリエステルを溶媒(有機溶媒であると無機溶媒であるとを問わない。)に溶解して液晶ポリエステル溶液を調製し、この液晶ポリエステル溶液から溶媒を除去することにより、液晶ポリエステルフィルムを得るようにしても構わない。
【0083】
ここで用いる溶媒は、非プロトン性溶媒であってもよく、プロトン性溶媒であってもよく、両者の混合溶媒であっても構わない。
【0084】
非プロトン性溶媒としては、例えば、塩化メチレン、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、γ−ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系溶媒、アセトニトリル、サクシノニトリルなどのニトリル系溶媒、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルフィド系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸などのリン酸系溶媒が挙げられる。
【0085】
このような非プロトン性溶媒の中でも、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒が、液晶ポリエステルを溶解しやすいため、好ましい。より好ましくは、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンである。
【0086】
また、プロトン性溶媒としては、例えば、フェノール性ヒドロキシル基を有する溶媒が挙げられ、中でも、以下の式(L1 )で示されるハロゲン置換フェノール化合物が、液晶ポリエステルを溶解しやすい点で好ましい。

(式中、Aはハロゲン原子またはトリハロゲン化メチル基を表す。iは1以上5以下の整数値を表し、iが2以上の場合、複数存在するAは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0087】
ここで、Aで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、液晶ポリエステルを溶解しやすいことから、フッ素原子、塩素原子が好ましい。この場合、式(L1 )で示されるハロゲン置換フェノール化合物としては、例えば、ペンタフルオロフェノール、テトラフルオロフェノール、o−クロロフェノール、p−クロロフェノールが挙げられ、好ましくはo−クロロフェノール、p−クロロフェノールであり、より好ましくはp−クロロフェノールである。
【0088】
なお、溶媒の使用量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常100〜10000質量部であり、好ましくは200〜5000質量部、より好ましくは300〜2000質量部である。
【0089】
以上のように、この実施の形態2に係るシールド層付き携帯電話用ケーブル1では、一対の誘電体層3(3A、3B)を構成する液晶ポリエステルが特定の構造を有しているので、各誘電体層3の誘電正接が低くなる。したがって、シールド層付き携帯電話用ケーブル1の誘電特性を改善することが可能となる。
【0090】
また、保護被覆層6を構成する液晶ポリエステルが特定の構造を有しているので、保護被覆層6の動摩擦係数が小さくなる。したがって、シールド層付き携帯電話用ケーブル1を携帯電話機の狭い筐体内に配線した場合でも、この筐体と保護被覆層6との摩擦に起因してシールド層付き携帯電話用ケーブル1の耐屈曲性が低下する事態の発生を抑制し、シールド層付き携帯電話用ケーブル1の断線や破損を防止することが可能となる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0092】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸376.4g(2.00モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル186.12g(1.00モル)、イソフタル酸166.18g(1.00モル)および無水酢酸449.2(4.40モル)、を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分間かけて150℃まで昇温し、同温度(150℃)を保持して3時間還流させた。
【0093】
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら170分間かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなして液晶ポリエステルを得た。こうして得られた液晶ポリエステルを室温まで冷却した後、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの粉末状の液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。
【0094】
こうして得られたプレポリマーを窒素雰囲気下250℃で10時間保持し、固相重合させた。
【0095】
この液晶ポリエステルにおいて、実質的な共重合モル分率は、前記の式(1)で示される構造単位:前記の式(2)で示される構造単位:前記の式(3)で示される構造単位で表して、50.0モル%:25.0モル%:25.0モル%である。また、この液晶ポリエステルにおいて、これらの構造単位に含まれる芳香族基の合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の共重合モル分率は50モル%である。
【0096】
こうして得られた液晶ポリエステル粉末1gをp−クロロフェノール9gに加え、120℃に加熱した結果、完全に溶解して透明な溶液が得られることを確認した。この溶液を攪拌および脱泡し、液晶ポリエステル溶液を得た。こうして得られた液晶ポリエステル溶液をガラス板上にバーコートした後、100℃で1時間、250℃で1時間の熱処理を行った。そして、ガラス板から剥離させることにより、厚さ50μmの液晶ポリエステルフィルムを得た。
<実施例2>
【0097】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間にわたって攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度(145℃)を保持したまま1時間にわたって攪拌した。
【0098】
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分間かけて昇温した。同温度(310℃)で3時間保温して液晶ポリエステルを得た。こうして得られた液晶ポリエステルを室温まで冷却した後、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの粉末状の液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。
【0099】
こうして得られたプレポリマーを25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から293℃まで5時間かけて昇温し、次いで、同温度(293℃)で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルにおいて、実質的な共重合モル分率は、前記の式(1)で示される構造単位:前記の式(2)で示される構造単位:前記の式(3)で示される構造単位で表して、55.0モル%:22.5モル%:22.5モル%である。また、この液晶ポリエステルにおいて、これらの構造単位に含まれる芳香族基の合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の共重合モル分率は72.5モル%である。
【0100】
この液晶ポリエステルを用いて、厚さ50μmの液晶ポリエステルフィルムを作製した。すなわち、この液晶ポリエステルの粉末を一軸押出機(スクリュー径50mm)内で溶融し、その一軸押出機の先端のTダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)よりフィルム状に押し出して冷却し、厚さ50μmの液晶ポリエステルフィルムを作製した。
<比較例1>
【0101】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸941g(5.0モル)、p−アミノフェノール273g(2.5モル)、イソフタル酸415.3g(2.5モル)および無水酢酸1123g(11モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分間かけて150℃まで昇温し、同温度(150℃)を保持して3時間還流させた。その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら150分間かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、液晶ポリエステルアミドを取り出した。取り出した内容物を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下200℃まで1時間で上昇し、その後、250℃で3時間保持して固相重合を進めた。こうして得られた固形分を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下180℃まで1時間で上昇し、その後、250℃で3時間保持して固相重合を進め、液晶ポリエステルアミド粉末を得た。
【0102】
また、この液晶ポリエステルアミドにおいて、これらの構造単位に含まれる芳香族基の合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の共重合モル分率は50モル%であるが、前記の式(3)で示される構造単位を含まない。
【0103】
液晶ポリエステルアミド粉末8gをN−メチルピロリドン92gに加え、160℃に加熱して液晶ポリエステル溶液を得た。こうして得られた液晶ポリエステル溶液をガラス板上にバーコートした後、100℃で1時間、300℃で3時間の熱処理を行った。そして、ガラス板から剥離させることにより、厚さ50μmの液晶ポリエステルフィルムを得た。
<比較例2>
【0104】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸1109g(8.03モル)、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸558g(2.97モル)および無水酢酸1235g(12.1モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分間かけて150℃まで昇温し、同温度(150℃)を保持して3時間還流させた。その後、N−メチルイミダゾール0.75gを添加し、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分間かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。こうして得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から275℃まで5時間かけて昇温し、275℃で3時間保持して固相重合させた。
【0105】
また、この液晶ポリエステルにおいて、これらの構造単位に含まれる芳香族基の合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の共重合モル分率は27モル%であり、前記の式(1)で示される構造単位のみからなる。
この液晶ポリエステルを用いて、厚さ50μmの液晶ポリエステルフィルムを作製した。すなわち、この液晶ポリエステルの粉末を一軸押出機(スクリュー径50mm)内で溶融し、その一軸押出機の先端のTダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度290℃)よりフィルム状に押し出して冷却し、厚さ50μmの液晶ポリエステルフィルムを作製した。
<樹脂の誘電正接の測定>
【0106】
これらの実施例1、2および比較例1、2についてそれぞれ、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気において、樹脂(液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド)の粉末を0.98N(100gf)の荷重下、300℃で10分間プレスして厚さ2mmの試験片を得た後、日本ヒューレット・パッカード(株)製のインピーダンスアナライザーにより、この試験片の誘電正接を測定した。その結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【0107】
表1から明らかなように、比較例1、2ではそれぞれ誘電正接が0.003、0.002であったのに対して、実施例1、2ではいずれも誘電正接が0.001と低い値を示した。このことから、比較例1、2に比べて実施例1、2は、誘電正接が低くて誘電特性に優れていることが実証された。
<樹脂フィルムの動摩擦係数の測定>
【0108】
これらの実施例1、2および比較例1、2についてそれぞれ、JIS K7125「プラスチック−フィルム及びシート−摩擦係数試験方法」に準拠して、次の条件で樹脂フィルム(液晶ポリエステルフィルム、液晶ポリエステルアミドフィルム)の動摩擦係数(運動摩擦係数)を測定した。その結果をまとめて表1に示す。
【0109】
滑り速度:100mm/分
【0110】
荷重:1.96N(200gf)
【0111】
試験雰囲気:温度23℃、相対湿度50%
【0112】
形状:62mm×170mm、接触面積:40cm2
【0113】
測定数:n=5
【0114】
相手材:SUS304、♯1000研磨紙調整
【0115】
試験機:インストロン・ジャパン・カンパニイ・リミテッド製の万能材料試験機5582型 ロードセルFS100N
【0116】
表1から明らかなように、比較例1、2ではそれぞれ動摩擦係数が0.30、0.31であったのに対して、実施例1、2ではそれぞれ動摩擦係数が0.24、0.21と小さい値を示した。このことから、比較例1、2に比べて実施例1、2では、携帯電話機の狭い筐体内に配線されたシールド層付き携帯電話用ケーブルの保護被覆層の材料として用いられた場合でも、筐体と保護被覆層との摩擦に起因する耐屈曲性の低下を抑制し、シールド層付き携帯電話用ケーブルの断線や破損を防止する効果が高いことが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、折り畳み型、スライド型、回転型など各種の携帯電話機に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0118】
1……シールド層付き携帯電話用ケーブル
2……内部導体
3、3A、3B……誘電体層
5……シールド層
6……保護被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル基材からなる誘電体層を有するシールド層付き携帯電話用ケーブルであって、
前記液晶ポリエステル基材を構成する液晶ポリエステルが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、
これらの式(1)、(2)および(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれていることを特徴とするシールド層付き携帯電話用ケーブル。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。なお、Ar1 、Ar2 、Ar3 は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していてもよい。)
【請求項2】
前記誘電体層の液晶ポリエステル基材が、液晶ポリエステルを溶融押出成形して得られる液晶ポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1に記載のシールド層付き携帯電話用ケーブル。
【請求項3】
前記誘電体層の液晶ポリエステル基材が、液晶ポリエステルを溶媒に溶解した液晶ポリエステル溶液から前記溶媒を除去して得られる液晶ポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1に記載のシールド層付き携帯電話用ケーブル。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルフィルムに金属箔が内部導体として積層されていることを特徴とする請求項2または3に記載のシールド層付き携帯電話用ケーブル。
【請求項5】
液晶ポリエステル基材からなる保護被覆層が前記誘電体層の外周に設けられ、
前記保護被覆層を構成する液晶ポリエステルが、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位からなり、
これらの式(1)、(2)および(3)に含まれる2価の芳香族基Ar1 、Ar2 およびAr3 の合計を100モル%とするとき、これらの芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基が40モル%以上含まれていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のシールド層付き携帯電話用ケーブル。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の基を表す。なお、Ar1 、Ar2 、Ar3 は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基を置換基として有していてもよい。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−96471(P2011−96471A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248436(P2009−248436)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】