説明

スイッチング回路、分布定数型のスイッチング回路、及び包絡線信号増幅器

【課題】単一のスイッチング素子でインンダクタンス素子をスイッチングすることにより、半導体材料がシリコン又はガリウム砒素からなるスイッチング素子を用いたプッシュプルの増幅器よりも高周波且つ大電力の増幅が可能なスイッチング回路、及び該スイッチング回路を備える包絡線信号増幅器を提供する。
【解決手段】スイッチング回路33aは、炭化珪素(SiC)を半導体材料とするn個のトランジスタ(FET)M1,M2,・・MnのゲートをコイルL1を介して縦続接続する入力側伝送線路と、各トランジスタM1,M2,・・MnのドレインをコイルL2を介して縦続接続する出力側伝送線路とを備える。入力端331から与えられて入力側伝送線路を伝播するPWM信号によってトランジスタMm(mは1からnまでの整数)を順次オンさせ、トランジスタMmのドレインに流入する電流と、出力側伝送線路を出力端332の方向に伝播する電流とを加算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタンス素子に接続されたスイッチング素子をPWM信号でスイッチングさせるスイッチング回路、分布定数型のスイッチング回路、及びスイッチング回路を備える包絡線信号増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話の基地局等で高周波の変調信号を電力増幅するのに用いられる増幅方式の一つにEER(Envelope Elimination and Restoration)方式がある。EER方式では、増幅すべき変調信号から振幅成分(包絡線)と位相成分とを抽出し、位相成分に相当する信号を振幅成分に応じた信号で振幅変調することにより、変調された信号の振幅が、元の変調信号の振幅に比例するように増幅する。
【0003】
より具体的には、抽出された包絡線に追従する電圧を飽和型の増幅器の電源電圧とし、この増幅器で位相成分に相当する信号を増幅することにより、増幅された信号の振幅を抽出された包絡線に追従させる。上記の包絡線に追従する電圧は、例えば、増幅すべき変調信号を包絡線検波した検波信号(以下、包絡線信号という)を電力増幅することによって得られる。
【0004】
包絡線信号の電力増幅には、効率を高めるために飽和型の増幅器が用いられる。例えば、包絡線信号をパルス幅変調して生成したPWM信号でスイッチング素子をスイッチングさせ、スイッチングによって増幅されたPWM信号を積分することにより、包絡線信号が復調された信号を得ることができる。
【0005】
ところで、PWM信号を増幅する場合、スイッチング素子がプッシュプル接続された、いわゆるD級増幅器を用いることが多い(例えば、特許文献1参照)。D級増幅器では、プッシュプル接続されるスイッチング素子を互いに相補的なもの(FETであれば、Nチャネル型とPチャネル型)とすることにより、スイッチングを制御する制御信号の駆動回路にトランス等が不要となって回路が簡素化される。半導体材料がシリコン(Si)では対応できない高周波且つ大電力を扱うD級増幅器の場合、相補的なスイッチング素子の半導体材料にガリウム砒素(GaAs)が用いられることもある。
【0006】
PWM信号を増幅するには、また、インダクタンス素子を1つのスイッチング素子でスイッチングする増幅器を用いてもよい。この種の増幅器の一つに、印加される電圧がゼロの時にスイッチング素子をオンさせるE級増幅器がある。E級増幅器を含めて、インダクタンス素子をスイッチングする増幅器では、設計条件及び動作条件によりスイッチング素子がオフするときにインダクタンス素子からスイッチング素子に印加されるサージ電圧が電源電圧を大きく超えることがある。これに対し、特許文献2には、上記のサージ電圧を低減するE級増幅器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−20264号公報
【特許文献2】特開2006−270562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、PWM信号を大振幅に増幅するには増幅器に高い電源電圧を印加する必要があるのに対し、高周波且つ大電力の領域においてD級増幅器の相補的なスイッチング素子の耐圧をバランスよく高めることは技術的に困難である。また、特許文献2に開示された技術を用いたとしても、インダクタンス素子をスイッチング素子でスイッチングする増幅器では、スイッチング素子のオフ時に電源電圧と同等以上の電圧が印加される。このような理由から、半導体材料がシリコン又はガリウム砒素からなるスイッチング素子を高周波且つ大電力の増幅器に適用するには自ずと限界があった。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、単一のスイッチング素子でインンダクタンス素子をスイッチングすることにより、半導体材料がシリコン又はガリウム砒素からなるスイッチング素子を用いたプッシュプルの増幅器よりも高周波且つ大電力の増幅が可能なスイッチング回路、及び該スイッチング回路を備える包絡線信号増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るスイッチング回路は、直流電源に直列に接続されたインダクタンス素子及びスイッチング素子を備え、該スイッチング素子をPWM信号でスイッチングさせるスイッチング回路において、前記スイッチング素子は、半導体材料が炭化珪素からなるFETであることを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、直流電源に接続されたインダクタンス素子をPWM信号でスイッチングするスイッチング素子が、炭化珪素(SiC)を半導体材料とするFETからなる。
このため、半導体材料がシリコン又はガリウム砒素からなるスイッチング素子を用いた場合より高周波且つ大電力のスイッチングが行える。また、スイッチング素子がオフした時に直流電源の電圧を大きく超えるサージ電圧がインダクタンス素子から印加されたとしても、スイッチング素子はサージ電圧に耐え得る。
【0012】
本発明に係る分布定数型のスイッチング回路は、複数のスイッチング素子のスイッチングを制御するための各制御端子を第1インダクタンス素子を介して縦続接続する入力側伝送線路と、前記複数のスイッチング素子の各一端子を第2インダクタンス素子を介して縦続接続する出力側伝送線路と、該出力側伝送線路の信号出力端子及び直流電源間に接続された第3インダクタンス素子とを備える分布定数型のスイッチング回路において、前記複数のスイッチング素子は、半導体材料が炭化珪素からなるFETであり、前記入力側伝送線路の入力端子に入力されるPWM信号で、前記複数のスイッチング素子を順次スイッチングさせるようにしてあることを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、複数のスイッチング素子の各一端子を、第2インダクタンス素子を介して縦続接続してあり、複数のスイッチング素子が、炭化珪素を半導体材料とするFETからなる。
このため、半導体材料がシリコン又はガリウム砒素からなるスイッチング素子を用いた場合より高周波且つ大電力のスイッチングが行える。また、各スイッチング素子がスイッチングして発生させた電力が出力側伝送線路上で合成されるため、夫々のスイッチング素子のチップサイズを小さくして浮遊容量を分散させることができる。これにより、スイッチング素子が1個の場合よりも高周波且つ大電力の増幅が行える。
【0014】
本発明に係る包絡線信号増幅器は、アナログの信号をパルス幅変調する変調回路と、前述のスイッチング回路と、該スイッチング回路がスイッチングした信号を積分する積分回路とを備え、前記変調回路が変調信号の包絡線信号をパルス幅変調して得られたPWM信号で前記スイッチング回路をスイッチングさせるようにしてあり、前記スイッチング回路がスイッチングしたPWM信号を前記積分回路で積分して包絡線信号に復調するようにしてあることを特徴とする。
【0015】
本発明にあっては、入力された変調信号の包絡線信号を変調回路がパルス幅変調し、パルス幅変調して得られたPWM信号でスイッチング回路をスイッチングさせ、スイッチングさせて得られた信号を積分回路が積分して包絡線信号に復調する。
これにより、半導体材料がシリコン又はガリウム砒素からなるスイッチング素子を用いた場合より高周波且つ大電力のスイッチングが行えるスイッチング回路が、包絡線信号増幅器に適用される。
【0016】
本発明に係る包絡線信号増幅器は、前記変調信号は、携帯電話の基地局の送信機で増幅して送信されるべき信号であることを特徴とする。
【0017】
本発明にあっては、包絡線信号増幅器が、携帯電話の基地局における変調信号の振幅成分に相当する信号を増幅する。
これにより、包絡線信号増幅器の出力電圧を電源電圧とする飽和型増幅器で前記変調信号の位相成分に相当する信号を増幅することとした場合は、従来に勝る高周波且つ大電力の領域にEER方式を適用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、炭化珪素を半導体材料とするFETからなるスイッチング素子がインダクタンス素子をスイッチングするため、半導体材料がシリコン又はガリウム砒素からなるスイッチング素子を用いた場合より高周波且つ大電力のスイッチングが行える。また、スイッチング素子がオフした時に直流電源の電圧を大きく超えるサージ電圧がインダクタンス素子から印加されたとしても、スイッチング素子はサージ電圧に耐え得る。
従って、単一のスイッチング素子でインンダクタンス素子をスイッチングすることにより、半導体材料がシリコン又はガリウム砒素からなるスイッチング素子を用いたプッシュプルの増幅器よりも高周波且つ大電力の増幅が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】EER増幅器の要部構成を示すブロック図である。
【図2】EER増幅器の各部の信号波形を模式的に示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るスイッチング回路及びローパスフィルタの構成を示す回路図である。
【図4】スイッチング素子の耐圧及びオン抵抗の関係を示すグラフである。
【図5】半導体材料の各特性から推定される高周波電力素子の適用範囲を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態2に係る分布定数型のスイッチング回路及びローパスフィルタの構成を示す回路図である。
【図7】nチャネルMOSFETの飽和領域における大信号モデルの等価回路を示す回路図である。
【図8】分布定数型のスイッチング回路における出力側伝送線路を集中定数でモデル化した等価回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るスイッチング回路を有する包絡線信号増幅器を、携帯電話の基地局で用いられるEER方式による増幅器(以下、EER増幅器という)に適用した実施の形態について詳述する。
(実施の形態1)
図1は、EER増幅器の要部構成を示すブロック図である。EER増幅器は、入力端子1から入力された携帯電話の変調信号を包絡線検波する検波器2と、検波信号(包絡線信号)を増幅する包絡線信号増幅器3と、入力された変調信号の振幅を制限して位相成分を抽出するリミッタ4と、抽出した位相成分を増幅するスイッチング回路5とを備える。
【0021】
包絡線信号増幅器3は、一定周波数の三角波を発生させる三角波発生器31と、該三角波発生器31から与えられた三角波との比較により、検波器2から与えられた検波信号をパルス幅変調したPWM信号をスイッチング回路33に与える比較器32とを備える。スイッチング回路33でスイッチングされて振幅が増大したPWM信号は、ローパスフィルタ34でパルス幅変調の変調周波数成分及び高調波成分が除去されて包絡線信号に復調され、スイッチング回路5に与えられる。スイッチング回路5は、包絡線信号増幅器3のローパスフィルタ34から与えられた包絡線信号を電源電圧としており、リミッタ4から与えられた位相成分に基づいて図示しないスイッチング素子をスイッチングさせることにより、増幅された位相成分の振幅を包絡線信号に追従させる。
【0022】
図2は、EER増幅器の各部の信号波形を模式的に示す説明図である。図2(a)から(g)において、横軸は時間を表し、縦軸は各部の信号の振幅を表す。但し、各縦軸の縮尺は不均等である。
図2(a)は、入力端子1に与えられる変調信号の波形を示している。入力された変調信号は、搬送波が位相変調及び振幅変調されたものである。図2(b)は、入力された変調信号からリミッタ4が抽出した位相成分の波形を示し、図2(c)は、入力された変調信号を検波器2が包絡線検波した検波信号(包絡線信号)の波形を示している。図2(b)の位相信号は振幅が一定であり、図2(c)の包絡線信号は変調信号から搬送波の成分が除去されている。
【0023】
図2(d)は、比較器32に入力される三角波の波形を示し、図2(e)は、図2(c)に示す包絡線信号が比較器32で三角波と比較されてパルス幅変調されたPWM信号の波形を示している。ここでは、包絡線信号の波高値が低い(又は高い)場合、PWM信号のパルス幅が広く(又は狭く)なるようにパルス幅変調される。このPWM信号をスイッチング回路33で極性反転して増幅し、ローパスフィルタ34で積分することにより、パルス幅変調の変調周波数成分及びそれより高い周波数成分を除去した信号の波形を図2(f)に示す。つまり、図2(f)の信号は、図2(c)の包絡線信号が増幅されたものとなる。
【0024】
図2(g)は、図2(f)に示す包絡線信号そのものを電源とするスイッチング回路5により、図2(b)に示す位相成分を増幅したときの出力信号の波形を示す。この場合、スイッチング回路5が出力する信号の振幅は電源電圧に追従するため、包絡線信号に追従する振幅を有する位相信号がスイッチング回路5から出力される。このようにして、図2(a)に示す変調信号の位相成分が保たれた状態で振幅成分が増幅され、図2(g)に示す信号としてEER増幅器から出力される。
【0025】
尚、本実施の形態1では、パルス幅変調の変調周波数、即ち三角波発生器31が発生させる三角波の周波数は100MHzであるが、これに限定されるものではなく、包絡線信号の帯域幅の10倍程度に相当する周波数となるようにすればよい。
【0026】
図3は、本発明の実施の形態1に係るスイッチング回路33及びローパスフィルタ34の構成を示す回路図である。スイッチング回路33は、一端が電源Vddに接続されたコイルL3と、半導体材料が炭化珪素からなり、前記コイルL3の他端にドレインが接続されたソース接地の電界効果トランジスタ(FET:以下、単にトランジスタという)M1とを備える。コイルL3の一端及び他端には、該コイルL3によるサージ電圧を電源VddにクランプするためのダイオードD3のカソード及びアノードを夫々接続してある。トランジスタM1のゲート及びドレインは、夫々入力端331及び出力端332に接続されている。ここでは、トランジスタM1のゲート−ソース間及びドレイン−ソース間の浮遊容量を、夫々キャパシタCgs及びCdsとして示す。
【0027】
ローパスフィルタ34は、スイッチング回路33の入力端341と接地電位との間に直列に接続されたコイルLf及びキャパシタCfを備える。コイルLf及びキャパシタCfの接続点は、出力端342に接続されている。ローパスフィルタ34は、入力端341から与えられたPWM信号のうち、パルス幅変調の変調周波数成分及びその高調波を遮断し、上述した包絡線信号の帯域内成分を通過させて出力端342に与えるように、カットオフ周波数を設定してある。
【0028】
スイッチング回路33のトランジスタM1は、比較器32から入力端331を介してゲートに与えられたPWM信号に基づいて、コイルL3の他端と接地電位との間をスイッチングし、極性反転して増幅したPWM信号をドレインから出力端332へ与える。この場合、PWM信号の信号源インピーダンス、即ち比較器32の出力インピーダンスを低くすることにより、キャパシタCgsの影響が軽減される。
【0029】
トランジスタM1のドレインは、ダイオードD3によって電源Vddにクランプされているため、ドレインに印加される電圧は、電源Vddの電源電圧以下に抑えられる。但し、ダイオードD3がオンからオフに遷移する際、リカバリ電流が電源VddからトランジスタM1のドレイン−ソース間に流入し、これがトランジスタM1の損失となるため、ダイオードD3のリカバリ時間は短いことが好ましい。また、キャパシタCdsは、トランジスタM1のオン/オフに伴って充放電され、この電流がトランジスタM1の損失となるため、キャパシタCdsの容量値は小さいことが好ましい。
【0030】
以上のことから、トランジスタM1の耐圧(Vdss)は、電源Vddの電源電圧に余裕を持って耐えられる値にする必要がある。
以下、トランジスタM1が、このような要請に応えるものであることを説明する。尚、本実施の形態1では、電源Vddの電圧は100Vであり、包絡線信号増幅器3は100W程度の電力をスイッチングする。
【0031】
図4は、スイッチング素子の耐圧及びオン抵抗の関係を示すグラフである。横軸は耐圧(V)を表し、縦軸はオン抵抗(mΩ・cm2 )を表す。図中実線は4H−SiC(Ramsdellの表記法で示される炭化珪素の結晶多形の1つ)の理論的限界値を示し、破線はシリコン(Si)の理論的限界値を示す。スイッチング素子では、耐圧を高めるとオン抵抗が増大するが、同じオン抵抗の場合、炭化珪素はシリコンと比較して1桁以上大きい耐圧を有する。逆に同じ耐圧の場合、炭化珪素はシリコンと比較して3桁程度小さいオン抵抗を有する。半導体材料がガリウム砒素の場合、図4に示されるべき理論的限界値は、シリコンより若干ガリウム砒素側に寄った直線となる。
【0032】
図5は、半導体材料の各特性から推定される高周波電力素子の適用範囲を示すグラフである。横軸は周波数(GHz)を表し、縦軸は出力電力(W)を表す。図中実線、一点鎖線及び破線は、半導体材料が、夫々炭化珪素、シリコン及びガリウム砒素からなる高周波電力素子(FETを含む)の場合を示す。本実施の形態1に係るEER増幅器の包絡線信号増幅器3がスイッチングする周波数は100MHzであるため、トランジスタM1は1GHz程度の高周波にまで適用できるものであればよい。図5より、炭化珪素を半導体材料とする高周波電力素子であれば、1GHz以下の周波数で100Wにも及ぶ電力を扱うことが可能であることが示される。
【0033】
以上のように本実施の形態1によれば、スイッチング回路の電源に接続されたコイルをPWM信号でスイッチングするトランジスタが、炭化珪素を半導体材料とするFETからなるため、半導体材料がシリコン又はガリウム砒素からなるスイッチング素子を用いた場合よりも高周波且つ大電力のスイッチングが可能となる。
【0034】
また、EER増幅器に入力された変調信号の包絡線信号を比較器がパルス幅変調し、パルス幅変調して得られたPWM信号でトランジスタをスイッチングさせ、スイッチングさせて得られた信号をローパスフィルタが積分して包絡線信号に復調する。
従って、半導体材料がシリコン又はガリウム砒素からなるスイッチング素子を用いた場合より高周波且つ大電力のスイッチングが行えるスイッチング回路を、包絡線信号増幅器に適用することが可能となる。
【0035】
更にまた、包絡線信号増幅器が携帯電話の基地局における変調信号の振幅成分に相当する信号を増幅し、包絡線信号増幅器の出力電圧を電源電圧とするスイッチング回路で、変調信号の位相成分に相当する信号を増幅するため、従来に勝る高周波且つ大電力の領域にEER方式を適用することが可能となる。
【0036】
尚、本実施の形態1にあっては、スイッチング回路33のトランジスタM1でPWM信号を増幅し、コイルL3によるサージ電圧をダイオードD3で電源Vddにクランプしているが、トランジスタM1の用途はこのような回路に限定されるものではない。例えば、トランジスタM1のドレインと出力端332との間に直列共振回路を挿入し、ダイオードD3を除去して、トランジスタM1をE級増幅器に適用するようにしてもよい。
この場合は、従来シリコン又はガリウム砒素を半導体材料とするスイッチング素子では対応できなかった高い電源電圧が与えられて、トランジスタM1がオフした時に電源電圧を大きく超えるサージ電圧がコイルL3から印加されたとしても、トランジスタM1がサージ電圧に耐えるようにすることが可能となる。
【0037】
(実施の形態2)
実施の形態1は、スイッチング回路33が1個のトランジスタM1からなる形態であるのに対し、実施の形態2は、スイッチング回路が、縦続接続された複数のトランジスタからなる形態である。
【0038】
図6は、本発明の実施の形態2に係る分布定数型のスイッチング回路33a及びローパスフィルタ34の構成を示す回路図である。スイッチング回路33aは、半導体材料が炭化珪素からなるn個(nは2以上の整数)のトランジスタM1,M2,・・Mnと、トランジスタMk,Mk+1(kは1からn−1までの整数)のゲート間に接続されたn−1個のコイルL1と、トランジスタMk,Mk+1のドレイン間に接続されたn−1個のコイルL2とを備える。各トランジスタM1,M2,・・Mnのドレイン及び電源Vdd間には、ドレインに印加されるサージ電圧を電源Vddにクランプするためのn−1個のダイオードD2が夫々接続されている。
【0039】
n−1個のコイルL1と、各トランジスタM1,M2,・・Mn夫々のゲートの図示しない浮遊容量Cgsとが入力側伝送線路を構成しており、該入力側伝送線路の一端及び他端は、夫々コイルL1aと終端抵抗Rsとの直列回路を介して入力端331及び接地電位に接続されている。また、n−1個のコイルL2と、各トランジスタM1,M2,・・Mn夫々のドレインの図示しない浮遊容量Cdsとが出力側伝送線路を構成しており、該出力側伝送線路の一端はコイルL2a、キャパシタC1及び終端抵抗Rlの直列回路を介して接地電位に、他端はコイルL2a及びL3の直列回路を介して電源Vddに接続されている。コイルL2a及びL3の接続点(信号出力端子)は、出力端332に接続されている。
【0040】
尚、終端抵抗Rs,Rlのインピーダンスは、夫々入力側伝送線路及び出力側伝送線路の特性インピーダンスと一致させてあり、更に、入力側伝送線路と出力側伝送線路とで、電圧及び電流が伝播する速度が一致するようにしてある。
【0041】
上述したスイッチング回路33aにおいて、比較器32から入力端331を介して終端抵抗Rsに与えられたPWM信号が、入力側伝送線路を伝播してトランジスタMm(mは1からnまでの整数)のゲートに達したときに、トランジスタMmが、ダイオードD2及びコイルL2の接続点と接地電位との間をスイッチングする。この場合、トランジスタMmは、必ずしもドレインの電圧が接地電位に達するほど深くオンさせる必要はない。トランジスタMmのドレインは、ダイオードD2によって電源Vddにクランプされているため、トランジスタMmのスイッチングがオフする時にドレインに印加される電圧は、電源Vddの電源電圧以下に抑えられる。
【0042】
以下、分布定数型のスイッチング回路33aの各トランジスタMmが含まれる単位回路の動作について説明する。
図7は、nチャネルMOSFETの飽和領域における大信号モデルの等価回路を示す回路図である。図7において、入力抵抗Rg及び入力キャパシタCgの直列回路が存在するゲート−ソース間に印加する電圧をVg+Vthとする。ここで、VthはMOSFETがオンする時の閾値であり、Vgは閾値Vthを基準とするゲート電圧である。MOSFETの飽和領域では、ドレイン電流が閾値Vthを基準とするゲート電圧の2乗関数になることが知られており、ドレイン−ソース間はK・Vg2 (Kは比例定数)の電流源で表される。
【0043】
図8は、分布定数型のスイッチング回路33aにおける出力側伝送線路を集中定数でモデル化した等価回路の回路図である。図において、出力側伝送線路上で出力端332に向かう方向をx方向とし、1つのトランジスタMmのドレインと出力側伝送線路との接続点が含まれるx方向の微少区間の距離を微少距離Δxとする。微少距離Δxあたりのインダクタンス、抵抗、キャパシタンス及びコンダクタンスを夫々コイルL、抵抗R、キャパシタC及びコンダクタGで表し、出力側伝送線路上の位置x、時間tでの電圧及び電流を、夫々v(x,t)及びi(x,t)で表す。尚、コイルLは、図6のコイルL2に対応し、キャパシタCは、トランジスタM1のドレインにおける浮遊容量のキャパシタCds(図6では図示せず)に対応するものである。
【0044】
ここで、トランジスタMmのゲートが接続されている入力側伝送線路をx方向に向けて出力側伝送線路と並行に置き、時刻tにおいて入力側伝送線路上の位置xからトランジスタMmのゲートに与えられる電圧をVg(x,t)+Vthとする。これにより、トランジスタMmは、キャパシタC及びコンダクタGと並列に置かれた電流源として表され、その電流値は、図7を参照して、K・{Vg(x,t)}2 となる。
【0045】
次に、図8の等価回路に対し、入出力の電流差についてキルヒホッフの法則を適用して回路方程式を立てる。ここでは、簡単のために抵抗R及びコンダクタGの値をゼロとする。電流の回路方程式は、以下の式(1)で表される。
【0046】
【数1】

【0047】
式(1)の左辺の第2項をテイラー展開によって1次近似した場合、i(x+Δx,t)は、式(2)の右辺のように表される。
【0048】
【数2】

【0049】
そして、式(2)を式(1)の左辺の第2項に代入することにより、式(1)の左辺は、式(3)のように置き換えられる。
【0050】
【数3】

【0051】
同様に、式(1)の右辺の∂v(x+Δx,t)/∂tをテイラー展開によって1次近似し、Δxの1次以上の項を無視することにより、式(1)の右辺の第2項は、式(4)のように置き換えられる。
【0052】
【数4】

【0053】
更に、式(1)の右辺のVg(x+Δx,t)をテイラー展開によって1次近似し、Δxの1次以上の項を無視することにより、式(1)の右辺の第1項は、式(5)のように置き換えられる。
【0054】
【数5】

【0055】
最後に、式(1)の左辺に式(3)を、右辺に式(4),(5)を代入し、両辺をΔxで除算して、各変数の(x,t)の表記を省略することにより、以下の式(6)が得られる。
【0056】
【数6】

【0057】
上記式(6)が出力側伝送線路の電流分布を与える式であり、右辺の第1項を除いた式は、損失のない分布定数回路の基礎方程式そのものである。つまり、右辺の第1項を除いた式は、出力側伝送線路上を減衰することなく伝播する電圧と電流の関係を示す式である。一方、トランジスタMmのゲートに与えられる電圧が入力側伝送線路を伝播する速度は、出力側伝送線路を電流が伝播する速度と等しくしてあるため、出力側伝送線路上でトランジスタMmが含まれる微少区間を伝播する電流の位相と、トランジスタMmのドレインに流入する電流の位相とが一致する。従って、式(6)は、出力側伝送線路上においてx方向と逆向きの電流(−i)がx方向に微少距離Δxだけ伝播する都度、前記電流にK・Vg2 のドレイン電流が加算されることを示している。
【0058】
その他、実施の形態1に対応する箇所には同様の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0059】
以上のように本実施の形態2によれば、コイルを介して夫々のドレインが縦続接続されたn個のトランジスタが、炭化珪素を半導体材料とするFETからなるため、半導体材料がシリコン又はガリウム砒素からなるスイッチング素子を用いた場合よりも高周波且つ大電力のスイッチングが可能となる。
また、各トランジスタのドレインに流入する電流が出力側伝送線路上で加算されるため、夫々のトランジスタのチップサイズを小さくして浮遊容量を分散させることができ、トランジスタが1個の場合よりも高周波且つ大電力の増幅が可能となる。
【符号の説明】
【0060】
2 検波器
3 包絡線信号増幅器
31 三角波発生器
32 比較器(変調回路)
33、33a スイッチング回路
34 ローパスフィルタ(積分回路)
4 リミッタ
5 スイッチング回路
Cgs、Cds、Cf キャパシタ
D2、D3 ダイオード
L1、L2、L2a、L3、Lf コイル
M1、M2、・・・Mn トランジスタ(FET)
Vdd 電源(直流電源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源に直列に接続されたインダクタンス素子及びスイッチング素子を備え、該スイッチング素子をPWM信号でスイッチングさせるスイッチング回路において、
前記スイッチング素子は、半導体材料が炭化珪素からなるFETであることを特徴とするスイッチング回路。
【請求項2】
複数のスイッチング素子のスイッチングを制御するための各制御端子を第1インダクタンス素子を介して縦続接続する入力側伝送線路と、前記複数のスイッチング素子の各一端子を第2インダクタンス素子を介して縦続接続する出力側伝送線路と、該出力側伝送線路の信号出力端子及び直流電源間に接続された第3インダクタンス素子とを備える分布定数型のスイッチング回路において、
前記複数のスイッチング素子は、半導体材料が炭化珪素からなるFETであり、
前記入力側伝送線路の入力端子に入力されるPWM信号で、前記複数のスイッチング素子を順次スイッチングさせるようにしてあること
を特徴とする分布定数型のスイッチング回路。
【請求項3】
アナログの信号をパルス幅変調する変調回路と、
請求項1又は2に記載のスイッチング回路と、
該スイッチング回路がスイッチングした信号を積分する積分回路とを備え、
前記変調回路が変調信号の包絡線信号をパルス幅変調して得られたPWM信号で前記スイッチング回路をスイッチングさせるようにしてあり、
前記スイッチング回路がスイッチングしたPWM信号を前記積分回路で積分して包絡線信号に復調するようにしてあること
を特徴とする包絡線信号増幅器。
【請求項4】
前記変調信号は、携帯電話の基地局の送信機で増幅して送信されるべき信号であることを特徴とする請求項3に記載の包絡線信号増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−135357(P2011−135357A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293257(P2009−293257)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】