説明

スイッチング素子及びその製造方法

【課題】CNTとゲート絶縁膜との相互作用を高め、良好かつ安定したトランジスタ特性を示すスイッチング素子を提供する。
【解決手段】本発明のスイッチング素子は、ゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜に接して形成された活性層とを具備する。前記活性層は、カーボンナノチューブを含み、前記ゲート絶縁膜は、側鎖に芳香族環を有する非共役高分子を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年3月2日に出願された、日本特許出願(出願番号:特願2007−053512)に基づくものであり、且つ、当該日本特許出願からの優先権の利益を主張するものであり、当該日本特許出願の開示の全体は、参照することをもって本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明はカーボンナノチューブ(以下、CNTと記載することがある)を活性層に用いたスイッチング素子に関する。
【背景技術】
【0003】
薄膜トランジスタ(TFT)は、液晶ディスプレイやELディスプレイなどの表示装置用の画素スイッチング素子として、広く用いられている。また近年では、画素アレイのドライバ回路もTFTによって同一基板上に形成される例が増えている。従来、こうしたTFTはアモルファスや多結晶のシリコンを用いてガラス基板上に作成されていた。
【0004】
こうしたシリコンを用いたTFTの作成に用いられるCVD装置は非常に高額であり、TFTを用いた表示装置などの大面積化は製造コストの大幅な増加を伴う。またアモルファスや多結晶のシリコンを成膜するプロセスは極めて高い温度で行われるため、基板として使用可能なのは、ガラス基板などの耐熱性の高い材料に限られている。
【0005】
このような背景から、CNTを活性層として用いたTFTが提唱されている。CNTを用いたTFTの作製方法として、CNTを分散させたCNT分散液を基板上に塗布して乾燥させる塗布法等のウエットプロセスが知られている。このようなウェットプロセスは、CVD装置等の高価な装置を必要とせず、また、大面積化が安価に実現可能である。更には、そのプロセス温度が低いことから、基板として用いる材料を選択する際の制限が少な
いといった利点も有している。このようなCNT分散膜を用いたTFTについては、下記の先行文献(1)〜(6)に開示されている:
(1)E.S.
Snow, J. P. Novak, P. M. Campbell, D. Park, "Random networks of carbon
nanotubes as an electronic material, Applied Physics Letters, vol. 82, No. 13,
p.p. 2145-2147 (2003)
(2)E.
Artukovic, M. Kaempgen, D. S. Hecht, S. Roth, G. Gruener, "Transparent and
Flexible Carbon Nanotube Transistors", Nano Letters, vol. 5, No. 4, p.
757-760 (2005)
(3)S.-H.
Hur, O. O. Park, J. A. Rogers, "Extreme bendability of single-walled
carbon nanotube networks transferred from high-temperature growth substrates to
plastic and their use in thin-film transistors", Applied Physics Letters,
vol. 86, p. 243502 (2005)
(4)T.
Takenobu, T. Takahashi, T. Kanbara, K. Tsukagoshi, Y. Aoyagi, Y. Iwasa,
"High-performance transparent flexible transistors using carbon nanotube
films", Applied Physics Letters, vol. 88, p. 33511 (2006)
(5)特開2005−347378号 公報
(6)特開2006−73774号 公報
【0006】
ところで、活性層がゲート絶縁膜に接して設けられる構造のTFTの場合、活性層としてCNTを用いると、CNTはゲート絶縁膜と接する事になる。ゲート絶縁膜としては、例えば先行文献(2)に開示されているように、ポリエステル、ポリビニル、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアセテート、ポリイミド、あるいはそれらの誘電体から選択される高分子材料を用いることが知られている。
【0007】
しかしながら、従来のゲート絶縁膜を用いて、CNTを含む活性層をゲート絶縁膜に接するように形成しようとすると、ゲート絶縁膜とCNTとの相互作用が十分に得られない事があった。例えば、ゲート絶縁膜上に、CNTを含む分散液を塗布、乾燥させてTFTを作製しようとする場合、分散液中のCNTとゲート絶縁膜表面との相互作用が不十分となり、活性層として固定されるCNTの量が不足して、十分な密度、均一性が得られないことがあった。このような活性層におけるCNT付着量の不均一性は、素子のスイッチング特性のばらつきを引き起こし、アレイ化した際の歩留まりを大きく低下させる。これを解決する手段としてチャネル領域をメルカプトピリジン等による芳香族チオールで表面処理し、高い密度でCNTを定着させることも行われている。しかし、余分な表面処理工程が必要である、チャネル領域以外の場所への付着を抑えるためにパターニング工程の追加が必要となるなど、製造プロセスが複雑化し、コストの上昇要因となってしまう。
【0008】
また、予めCNTを含む活性層を設けておき、その上にゲート絶縁膜を形成した場合でも、CNTとゲート絶縁膜の相互作用が不足していれば、活性層―ゲート絶縁膜界面の不安定化の原因となり、素子特性の経時変化をもたらす要因の一つとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−347378号公報
【特許文献2】特開2006−73774号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】E.S. Snow, J. P. Novak, P. M. Campbell,D. Park, "Random networks of carbon nanotubes as an electronic material, AppliedPhysics Letters, vol. 82, No. 13, p.p. 2145-2147 (2003)
【非特許文献2】E. Artukovic, M. Kaempgen, D. S. Hecht, S. Roth, G. Gruener,"Transparent and Flexible Carbon Nanotube Transistors", Nano Letters,vol. 5, No. 4, p. 757-760 (2005)
【非特許文献3】S.-H. Hur, O. O. Park, J. A. Rogers, "Extreme bendability ofsingle-walled carbon nanotube networks transferred from high-temperature growthsubstrates to plastic and their use in thin-film transistors", AppliedPhysics Letters, vol. 86, p. 243502 (2005)
【非特許文献4】T. Takenobu, T. Takahashi, T. Kanbara, K. Tsukagoshi, Y. Aoyagi, Y.Iwasa, "High-performance transparent flexible transistors using carbonnanotube films", Applied Physics Letters, vol. 88, p. 33511 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、CNTとゲート絶縁膜との相互作用を高め、良好かつ安定したトランジスタ特性を示すスイッチング素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一の観点においては、スイッチング素子が、ゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜に接して形成された活性層と、を具備する。活性層は、カーボンナノチューブを含んでいる。ゲート絶縁膜は、側鎖に芳香族環を有する非共役高分子(non-conjugated polymer)を含んでいる。
【0013】
本願発明者らは、前述の課題解決のため鋭意検討を重ねた結果、上記のように、側鎖に芳香族環を含有する非共役高分子によりゲート絶縁膜を形成することにより、ゲート絶縁膜表面とCNTとの間の相互作用を増強できることを見出した。これにより、低温、簡便、安価なプロセスで良好かつ安定したトランジスタ特性を示すスイッチング素子を得る事ができる。
【0014】
上記のスイッチング素子において、ゲート絶縁膜の膜厚が、0.01〜1.00μmであることが好ましい。0.01μmより薄いと、リーク電流を効果的に抑制することが困難となり、1.0μmより厚いと、ゲートバイアス電圧による活性層のスイッチング現象を効果的に制御するのが難しくなる。
【0015】
上記のスイッチング素子において、一の観点から、ゲート絶縁膜は、単層膜により形成されていることが好ましい。他の一観点からは、ゲート絶縁膜が、活性層に接する第1ゲート絶縁膜層と、活性層に接しない第2ゲート絶縁膜層とを有し、その非共役高分子は、第1ゲート絶縁膜層に含まれていることが好ましい。このように、ゲート絶縁膜を2層構造としてもよい。2層構造の場合、活性層に接する層(第1ゲート絶縁層)中に、上記の非共役高分子が含まれていれば、CNTとゲート絶縁膜との相互作用を高めることができる。
【0016】
上記のスイッチング素子において、一観点からは、その非共役高分子は、側鎖に芳香族環を有する少なくとも1種類の繰り返し単位Aからなる重合体であることが好ましい。また、他の一観点からは、その非共役高分子が、側鎖に芳香族環を有する少なくとも1種類の繰り返し単位Aと、芳香族環を有する側鎖を有さない少なくとも1種類の繰り返し単位Bとからなる共重合体であり、その繰り返し単位Aは、その繰り返し単位Bに対して、モル比にして5倍以上の割合で含まれていることが好ましい。繰り返し単位Aのみからなる重合体とすれば、芳香族環の密度が高くなり、ゲート絶縁膜−活性層間の相互作用を高めることができる。一方、側鎖に芳香族環を有する繰り返し単位Aのみでなく、芳香族環を有する側鎖を持たない繰り返し単位Bをも導入すれば、芳香族環の存在により非共役高分子が剛直になってしまうことを防止することができる。尚、繰り返し単位Aの含有量が、繰り返し単位Bの含有量に対して、モル比で5倍より少なくなると、芳香族環の密度が不十分となり、ゲート絶縁膜−CNT間の相互作用も不十分となる傾向にある。
【0017】
上記のスイッチング素子において、その非共役高分子は、下記構造式:
【化1】

で表される置換ポリエチレン骨格を繰り返し単位として含むことが好ましい。但し、式中、Xは連結基又は単結合、Arは芳香族環を有する芳香族基、nは正の整数を示す。このような置換ポリエチレン骨格を有する非共役高分子は、樹脂加工が行いやすく、安価である。したがって、所望の構造を有する非共役高分子を、安価に得る事ができる。
【0018】
上記のスイッチング素子において、その芳香族環は、芳香族炭素環であることが好ましい。
【0019】
本発明の他の観点においては、スイッチング素子の製造方法が、ゲート絶縁膜を形成する工程と、ゲート絶縁膜と接する様に活性層を形成する工程とを具備する。ゲート絶縁膜は、側鎖に芳香族環を有する非共役高分子を含む。活性層は、カーボンナノチューブを含む。
【0020】
上記のスイッチング素子の製造方法において、一実施形態では、前記ゲート絶縁膜が基板の上に形成され、前記活性層の形成は、前記ゲート絶縁膜の形成の後に行われる。この場合、前記活性層を形成する工程は、ゲート絶縁膜上に、カーボンナノチューブの分散したカーボンナノチューブ分散液を塗布する工程と、塗布されたカーボンナノチューブ分散液を乾燥させる工程とを含むことが好ましい。また、前記ゲート絶縁膜を形成する工程は、非共役高分子を含む溶液を前記基板上に塗布する工程と、塗布された溶液を乾燥させる工程と、を含むことが好ましい。
【0021】
別の実施形態では、前記活性層が基板の上に形成され、前記ゲート絶縁膜の形成は、前記活性層の形成の後に行われる。この場合、前記活性層形成工程は、基板上に、カーボンナノチューブの分散したカーボンナノチューブ分散液を塗布する工程と、塗布された前記カーボンナノチューブ分散液を乾燥させる工程と、を含むことが好ましい。また、前記ゲート絶縁膜を形成する工程は、非共役高分子を含む溶液を前記基板上に塗布する工程と、塗布された溶液を乾燥させる工程と、を含むことが好ましい。
【0022】
上記のスイッチング素子の製造方法において、一観点からは、その非共役高分子が、側鎖に芳香族環を有する少なくとも1種類の繰り返し単位Aからなる重合体であることが好ましい。また、他の一観点からは、その非共役高分子が、側鎖に芳香族環を有する少なくとも1種類の繰り返し単位Aと、芳香族環を有する側鎖を有さない少なくとも1種類の繰り返し単位Bとからなる共重合体であり、その繰り返し単位Aは、その繰り返し単位Bに対して、モル比にして5倍以上の割合で含まれていることが好ましい。
【0023】
上記のスイッチング素子の製造方法において、その非共役高分子は、下記構造式:
【化2】

で表される置換ポリエチレン骨格を繰り返し単位として含むことが好ましい。但し、式中、Xは連結基又は単結合、Arは芳香族環を有する芳香族基、nは正の整数を示す。
【0024】
上記のスイッチング素子において、その芳香族環は、芳香族炭素環であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、CNTとゲート絶縁膜との相互作用を高め、良好かつ安定したトランジスタ特性を示すスイッチング素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1A】第1の実施形態のスイッチング素子の構造を示す概略断面図である。
【図1B】第1の実施形態のスイッチング素子の他の構造を示す概略断面図である。
【図2A】第2の実施形態のスイッチング素子の構造を示す概略断面図である。
【図2B】第2の実施形態のスイッチング素子の他の構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1の実施形態に係るスイッチング素子10の構成について説明する。
【0028】
図1Aは、本発明のスイッチング素子10の構成を示す概略断面図である。図1Aに示されるように、このスイッチング素子10は、支持基板1と、支持基板1上に形成されたゲート電極2と、ゲート電極2を被覆するようにして支持基板1上に設けられたゲート絶縁膜3と、ゲート絶縁膜3上に、チャネル長に応じた距離を隔てて設けられたソース電極4及びドレイン電極5と、ゲート絶縁膜3、ソース電極4、及びドレイン電極5の全てに接するよう設けられた活性層6と、を有している。このように、本実施形態にかかるスイッチング素子10は、いわゆるボトムコンタクト型の薄膜トランジスタである。
【0029】
支持基板1の材質は特に限定されない。例えば、ガラス、石英、シリコンウェハなどの無機材料や、ポリエチレンスルフィド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエチレン系樹脂の他、ポリアミド系、ポリカーボネート系などの高分子材料などを用いる事ができる。このように、支持基板1の材質が特に限定されないのは、後述するように、本発明にかかるスイッチング素子10を製造するにあたって高いプロセス温度を必要としないからである。
【0030】
ソース電極4、ドレイン電極5、及びゲート電極2の各電極の材料としては、十分な導電性を有するものであれば特に限定されない。但し、電荷注入電極として作用する電極はCNTへの電荷注入特性に優れたものがより望ましい。このようなものとしては、例えば、酸化インジウム錫合金(ITO)、酸化錫(NESA)、金、銀、白金、銅、インジウム、アルミニウム、マグネシウム、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−スカンジウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金等の金属や合金、あるいはこれらの酸化物の他、導電性ポリマーなどの有機材料を挙げることができる。
【0031】
活性層6には、カーボンナノチューブ(CNT)の分散した膜(以下、CNT分散膜と記載することがある)が含まれている。活性層6に用いられるCNTは、CNT分散膜として十分な半導体特性を示すものであれば、特に限定されるものではない。CNTを製造する方法としては、例えば、アーク放電法、レーザーアブレーション法、CVD法などの公知の方法を用いることができる。CNTには元来、単一の炭素層からなるシングルウォールナノチューブ(SWNT)と、複数の炭素層からなるマルチウォールナノチューブ(MWNT)の2種が知られている。SWNTは半導体特性を示すものと導電体的性質を有するものが存在し、MWNTはこれらがランダムに組み合わされて形成される。導電体的性質を示すCNTがCNT分散膜中に存在した場合、オフ電流を上昇させる要因となりうることから、低消費電力が求められる用途においては、CNT分散膜中における導電体的CNTの存在率はなるべく低い方が望ましい。
【0032】
ゲート絶縁膜3は、非共役高分子(non-conjugated polymer)を含んでいる。この非共役高分子は、主鎖と側鎖からなる構造を有している。側鎖には芳香族基が含まれ、主鎖は非共役構造となっている。
【0033】
ゲート絶縁膜3に、このような非共役高分子を用いると、側鎖に含まれる芳香族基が薄膜形成時に特定の確率で膜表面に露出あるいは膜面からぶら下がる形状になる。そして、この芳香族基の有するπ電子雲と、活性層6に含まれるCNT表面に露出するCNTのπ電子雲との間に、相互作用が働くことになる。この相互作用による引力により、CNTがゲート絶縁膜3の表面に強く定着する。従って、ゲート絶縁膜3とCNTを含む活性層6との相互作用を高めることができる。
【0034】
尚、ゲート絶縁膜3に、共役構造を有する主鎖の高分子を用いた場合、ゲート絶縁膜3全体の導電率の上昇を招いてしまい、ゲート電極と他の電極との間のリーク電流を抑制するというゲート絶縁膜3としての機能を十分に果たせなくなる。従って、主鎖は非共役構造を有している必要がある。
【0035】
また、ゲート絶縁膜3として、芳香族基を主鎖に導入した場合、上述したようなCNTとの相互作用を働かせることはできるかもしれないが、ゲート絶縁膜3の柔軟性が失われ、剛直になり易い。ゲート絶縁膜3が剛直になると、フレキシブルな基板材料の適用が困難となり、支持基板選択の自由度が大きく損なわれる。またこれを避けるために、柔軟性を有する置換基を側鎖に導入したとしても、ゲート絶縁膜3表面における芳香族基の露出数が減少してしまうので、当初の目的であるCNTと絶縁膜表面との相互作用の増強効果が得られなくなる。これに対して、本実施形態のように、側鎖に芳香族基を導入すれば、主鎖の柔軟性は損なわれ難いので、膜が剛直になることを抑制した上で芳香族基の露出数も保つ事ができる。
【0036】
この非共役高分子は、側鎖に芳香族基を有する置換基を持つ繰り返し単位(以下、A)によってのみ表される重合体であってもよいし、繰り返し単位Aと、芳香族基を有する置換基を側鎖に持たない繰り返し単位(以下、B)との共重合体であってもよい。繰り返し単位Aのみによって表される重合体を用いると、芳香族基の密度を高めることができ、CNT−ゲート絶縁膜3間の強い相互作用を期待できる。一方で、芳香族基の密度が高すぎると、ゲート絶縁膜3の柔軟性が失われる可能性もある。このような場合には、繰り返し単位Bとの共重合体とすることで、芳香族基の密度の調整でき、柔軟性を失うことなく、CNT−ゲート絶縁膜3間の相互作用を働かせることができる。但し、共重合体とする場合、繰り返し単位Aは、繰り返し単位Bに対して、モル比で5倍以上含有されていることが好ましい。繰り返し単位Aのモル含有比が5倍よりも少なくなると、芳香族基の密度が低くなり過ぎ、CNT−ゲート絶縁膜3間の相互作用が十分に得られ難い。
【0037】
尚、繰り返し単位Aの側鎖中には、複数の芳香族基が含まれていてもよい。さらには、側鎖が複数ある場合には、複数の側鎖の各々に芳香族基が含まれていてもよい。また、共重合体にする場合、複数種類の繰り返し単位Aを有していてもよいし、複数種類の繰り返し単位Bを有していてもよい。
【0038】
上記の繰り返し単位A、繰り返し単位Bについてより具体的に説明する。
【0039】
繰り返し単位Aとしては、下記構造式(1)で表される骨格を用いることが好ましい。
【化3】

式(1)中、R1は主鎖構造、Xは連結基又は単結合、Arは芳香族基、nは正の整数を示す。
上記構造式(1)で示されるように、側鎖(X−Ar)において、連結基Xの末端に芳香族基が位置することで、芳香族基が非共役高分子の表面に露出し易くなり、CNT−ゲート絶縁膜3間の相互作用を期待できる。
【0040】
上式3に示される繰り返し単位Aの具体例としては、(X−Ar)基が側鎖として導入された置換ポリエチレン骨格、(X−Ar)基が側鎖として導入された置換ポリエステル骨格、(X−Ar)基が側鎖として導入された置換ポリエーテル骨格、(X−Ar)基が側鎖として導入された置換ポリアミド骨格、(X−Ar)基が側鎖として導入された置換ポリエチレンスルフィド骨格、(X−Ar)基が側鎖として導入された置換シロキサンポリマー骨格などが挙げられる。また、上記の(X−Ar)基が側鎖として導入された置換ポリエステル骨格としては、(X−Ar)基が側鎖として導入された置換ポリエチレンテレフタレート骨格が挙げられる。これらの中でも、下記構造式(2)で示される、(X−Ar)基が側鎖として導入された置換ポリエチレン骨格は、樹脂加工(合成)の行いやすさ、価格、の観点から、より好ましく用いることができる。
【化4】

式中、Xは連結基、Arは芳香族環、nは正の整数を示す。
また、耐熱性及び耐電気耐性の観点からは、ポリアミド骨格を有するものがより好ましい。但し、主鎖が共役構造を持たないものであれば、上記の骨格に限定されるものではない。
【0041】
尚、非共役高分子が共重合体である場合の繰り返し単位Bとしては、下記構造式(3)で表される骨格を用いることが好ましい。
【化5】

式中、R2は主鎖構造、mは正の整数を示す。
R2の主鎖構造については、(X−Ar)基が側鎖として導入されていない他は、繰り返し単位Aの段で記載したのと同じ骨格を用いることができる。
【0042】
続いて、芳香族基Arについて説明する。上記構造式(1)及び(2)において、Arで表される芳香族基の例としては、芳香族炭素環を有する基、芳香族複素環を有する基のいずれも用いる事ができる。但し、入手のし易さなどの観点から、芳香族炭素環を有する基を用いる事が好ましい。その芳香族炭素環を有する基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、ペリレニル基等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素、これらの一部の原子が置換基により置換された置換体、を挙げる事ができる。これらの中でも、フェニル基は、非共役高分子を合成する際における合成反応の行い易さから、さらに好ましい。また、その芳香族複素環を有する基としては、例えば、ピロリル基、チオフェニル基、ピリジニル基、ピラジニル基、インドリル基、イソインドリル基、フリル基、ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリニル基、フェナンスリジニル基、フェノキサジニル基、オキサゾリル基、等の炭素数4〜20の芳香族複素環基、これらの一部の原子が置換基により置換された置換体を挙げる事ができる。
【0043】
続いて、連結基Xについて説明する。上記構造式(1)及び(2)において、Xで表される連結基としては単結合、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、スルフィド結合、スルホン酸エステル結合、炭素数1〜20のアルキレン基及び分岐アルキレン基、炭素数1〜20のアルケニレン基等の他、これらを複数組み合わせたもの等を挙げる事ができる。但し、主鎖骨格と芳香族環とを連結することができれば、特にこれらに限定されるものではない。
【0044】
上記の繰り返し単位A、繰り返し単位Bのそれぞれは、芳香族基を含む側鎖とは別の側鎖を有していてもよい。例えば、炭素数1〜12のアルキル基、アルキルオキシ基、アルキルカルボキシル基、アルキルカルボニルアミノ基、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。
【0045】
以上説明した非共役高分子として、より具体的には、ポリスチレン及びポリ桂皮酸ビニルが、入手のしやすさ等の観点から特に好ましい。
【0046】
ゲート絶縁膜3の説明を続ける。ゲート絶縁膜3の膜厚は特に制限されるものではないが、薄すぎるとゲート電極と他の電極間のリーク電流を効果的に抑制することが困難となり、厚すぎるとゲートバイアス電圧による活性層のスイッチング現象を効果的に制御できなくなることから、0.01〜1μmの範囲が好ましい。
【0047】
尚、ゲート絶縁膜3は、単層膜であっても、2層以上の層が積層した積層膜であってもよい。プロセス簡素化の観点からは、単層膜であることが望ましいが、スイッチング素子の低駆動電圧化等の観点からは、図1Bに示されているように、上述した非共役高分子を含む層(第1ゲート絶縁膜層31)と、高誘電率材料からなる絶縁層(第2ゲート絶縁膜層32)とが積層した積層膜の方が好ましい場合もある。ただし、積層膜とした場合、CNTとの相互作用を働かせる為には、非共役高分子を含む層が活性層6に接する位置に配置される必要がある。第2ゲート絶縁膜層32に用いられる材料の例としては、SiO、SiNx、アルミナ等の汎用的に用いられる無機絶縁体や、酸化チタン、酸化タングステン、及び酸化タンタルなどの高誘電率材料などが挙げられる。また、ポリエチレンナフタレートやポリエチレンテレフタレート等の絶縁性ポリマー等も使用が可能である。但し、第1ゲート絶縁膜層31の作成プロセスが湿式法である場合には、積層構造を形成するために、第1、第2の絶縁膜層材料はそれぞれ適切な耐溶媒性を有している事が必要となる。このため、これらの要請を満たす組み合わせが選択される。
【0048】
続いて、本実施形態に係るスイッチング素子10の製造方法について説明する。まず、支持基板1を準備し、支持基板1上にゲート電極2を形成する。ゲート電極2の形成方法は特に限定されず、従来公知の真空蒸着法、スピンコーティング法、スパッタリング法、CVD法の他、塗布法や塗布焼結法等、一般的な薄膜形成法を用いることが可能である。
【0049】
次に、ゲート電極2を被覆するように、ゲート絶縁膜3が形成される。ゲート絶縁膜3の形成方法は、特に限定されない。但し、予め非共役高分子を含む溶液を準備しておき、これを支持基板1上の所定の位置に塗布して乾燥させる方法を用いることが好ましい。尚、ゲート絶縁膜3を積層膜として形成する場合には、まず第2ゲート絶縁膜層32を形成した後、第2ゲート絶縁膜層32上に非共役高分子を含む第1ゲート絶縁膜層31を形成させる。
【0050】
次に、ソース電極4及びドレイン電極5を形成する。ゲート電極2の形成時と同様に、ソース電極4及びドレイン電極の形成方法も特に限定されない。従来公知の真空蒸着法、スピンコーティング法、スパッタリング法、CVD法の他、塗布法や塗布焼結法等、一般的な薄膜形成法を用いることが可能である。
【0051】
次に、CNTを含む活性層6を、ゲート絶縁膜3、ソース電極4、ドレイン電極5の全てに接するように形成する。この時、CNTのπ電子雲と、ゲート絶縁膜3に含まれる非共有高分子の側鎖の芳香族基のπ電子雲との間に相互作用が働くので、CNTを容易にゲート絶縁膜3に定着させる事ができる。
【0052】
尚、CNTを活性層6に分散させる手法としては、特に限定されない。例えば、溶媒中に分散させた後に分散液を塗布あるいは散布する湿式法や、凝集を解いたCNTを担体ガスの気流で運搬し配置面上に散布する乾式法等を用いる事ができる。これらの手法は、CVD法等を用いる場合と比較して、必ずしもプロセス温度を高くする必要がないので、支持基板1に求められる耐熱性の要求を低くする事ができる。従って、支持基板1の選定幅を広げる事ができる。また、これらの手法のうち、湿式法は乾式法に比べプロセスが容易なことや、用いるCNTのロスが少ないため、より好ましい。湿式法でCNTを分散させる液体分散媒の例としては、水の他、アルコール、エーテル、エステル、アルキルアミド、脂肪族炭化水素、芳香族化合物等の一般的な有機溶媒が挙げられるがこれに限定されるものではない。分散させる手法としては、攪拌、ミリング等の混練法の他、超音波照射など一般的な顔料等の分散工程に用いられる手法であればいかなる手法でも用いることができる。また、分散の促進、保持のために適切な界面活性剤あるいはバインダを添加してもよい。CNTの分散液を塗布、散布する手法としてはスピンコート、ブレードコートなどの成膜法のほかインクジェット法等の印刷法も用いることができる。
【0053】
以上説明した工程を経て、本発明にかかるスイッチング素子10が製造される。本実施形態によれば、ゲート絶縁膜3として、側鎖に芳香族基を有する非共役系高分子を用いているので、CNT−ゲート絶縁膜3の相互作用を高めることができる。これにより、活性層6形成時に、CNTが脱落するなどして不足することが防止できる。その結果、スイッチング素子のスイッチング特性のばらつき低下を抑制し、アレイ化した際の歩留まりを向上させることができる。
【0054】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態について説明する。図2Aは、本実施形態に係るスイッチング素子10の概略断面図である。図2Aに示されるように、本実施形態に係るスイッチング素子10は、支持基板1と、支持基板1上にチャネル長に応じた距離を隔てて配置されたソース電極4及びドレイン電極5と、これらに接するように形成された活性層6と、ソース電極4、ドレイン電極5、及び活性層6上に形成されたゲート絶縁膜3と、ゲート絶縁膜3上に形成されたゲート電極2と、を有している。すなわち、本実施形態に係るスイッチング素子10は、活性層6を挟んで支持基板1の反対側にゲート電極2が存在するトップコンタクト構造となっている。尚、支持基板1、ソース電極4、ドレイン電極5、活性層6、ゲート絶縁膜3、及びゲート電極2の材質自体は、第1の実施形態と同じものを使用することができるので、説明を省略する。
【0055】
本実施形態に係るスイッチング素子10を製造するにあたっては、まず、支持基板1を準備する。そして、支持基板1上に、チャネル長に応じた距離を隔ててソース電極4及びドレイン電極5を配置する。更に、ソース電極4及びドレイン電極5の双方に接するように、活性層6を形成する。更に、ソース電極4、ドレイン電極5、及び活性層6の上に、ゲート絶縁膜3を形成する。更に、ゲート絶縁膜3上にゲート電極2を形成し、スイッチング素子10が製造される。
【0056】
これらのソース電極4、ドレイン電極5、ゲート電極2、活性層6、及びゲート絶縁膜3の具体的な形成方法は、特に限定されず、第1の実施形態と同様の手法を用いる事ができる。尚、ゲート絶縁膜3として積層膜を用いる場合には、図2Bに示されているように、非共役高分子を含む層(第1ゲート絶縁膜層31)を活性層6側とする為に、まず第1ゲート絶縁膜層31を形成し、その後に第2ゲート絶縁膜層32を第1ゲート絶縁膜層31上に形成する。
【0057】
本実施形態のように、トップコンタクト構造のスイッチング素子10に対しても、ゲート絶縁膜3が側鎖に芳香族基を有する非共役高分子を含んでいることで、ゲート絶縁膜3−活性層6間に相互作用を働かせる事ができる。これにより、活性層6−ゲート絶縁膜3界面の不安定化を抑制し、素子特性の経時変化を防止する事ができる。
【0058】
以下、本発明の作用をより具体的に説明する為、本発明者らによって行われた実験及びその結果について説明する。
【0059】
(実施例1)
実施例1のスイッチング素子10の製造方法について説明する。この実施例1のスイッチング素子10の構造は、図1Aに示したものと同様である。まず、0.5mm厚のポリエチレンナフタレート基板を支持基板1とし、この基板上に、スパッタリング法によりシャドウマスクを通しアルミニウムをゲート電極2として100nm成膜した。次に、ゲート絶縁膜3として、ポリスチレン(側鎖に芳香族基を有する非共役高分子)のキシレン溶液をスピンコート法により塗布し、120℃で乾燥して100nmの膜厚に成膜した。その上にソース電極4、ドレイン電極5として金を真空蒸着法によりシャドウマスクを通して60nmの膜厚に形成した。ここで形成された電極構造のチャネル幅は200μm、チャネル長は50μmである。
【0060】
CNTとしてSWNTを準備し、このSWNTをドデシルスルホン酸ナトリウムの0.01%水溶液に加え30分間の超音波処理により分散させた分散液を用意した。用意した分散液を、スピンコート法で1000RPMにてソース、ドレイン電極の形成された基板上に塗布した。そして、120℃にて30分加熱して溶媒を除去した。これにより、CNT分散膜によって活性層6の形成されたスイッチング素子10を得た。
【0061】
上述のような方法により、スイッチング素子10を30個作成し、得られたスイッチング素子10のトランジスタ特性を測定した。その結果、オン/オフ比(オン時;ゲート電圧=−10V、オフ時;ゲート電圧=+10Vでのソースドレインバイアス−4Vの際のソース−ドレイン間電流の比とする。以下同様)はいずれもおよそ10、オン時の電流値は最頻値が50±5μAで、この値の50%以下のオン電流値を示したスイッチング素子10は1個であった。
【0062】
(実施例2)
実施例2のスイッチング素子10は、図2Aに示されるようなボトムコンタクト構造である。まず、0.5mm厚のポリエチレンナフタレート基板(支持基板1)上に、真空蒸着法によりシャドウマスクを通して金を60nmの膜厚に成膜し、ソース電極4、ドレイン電極5とした。ここで形成された電極構造のチャネル幅は100μm、チャネル長は50μmである。その上にSWNT(CNT)をジクロロエタン中1時間超音波処理して作成したCNT分散液をブレードコート法により塗布した。そして、100℃にて10分間加熱して溶媒を除去し、CNT分散膜による活性層6を形成した。さらにその上に、ポリスチレン(側鎖に芳香族基を有する非共役高分子)のキシレン溶液をスピンコート法により塗布した。その後、120℃で30分加熱し、溶媒を除去して120nmの膜厚に成膜しゲート絶縁膜3とした。この上にゲート電極2としてアルミニウムを真空蒸着法によりシャドウマスクを通して100nmの膜厚に成膜し、実施例2のスイッチング素子10を得た。
【0063】
こうして得られた実施例2のスイッチング素子10のトランジスタ特性を測定したところ、オン/オフ比はおよそ7.6×10、オン時の電流値は15μAであった。このスイッチング素子10を乾燥空気中に20日間放置した後、再度その特性を測定したところオン/オフ比は7.4×10、オン時の電流値は13μAであった。
【0064】
(実施例3)
実施例1と同様に、実施例3のスイッチング素子10を30個作製した。但し、ゲート絶縁膜3を形成するのに用いる材料として、ポリケイ皮酸ビニル(側鎖に芳香族基を有する非共役高分子)のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を用いた。
【0065】
実施例3のスイッチング素子10のトランジスタ特性を測定したところオン/オフ比はおよそ10、オン時の電流値は最頻値が80±8μAでこの値の50%以下のオン電流値を示した素子はなかった。
【0066】
(実施例4)
実施例2と同様に、実施例4のスイッチング素子10を作製した。但し、ゲート絶縁膜3を形成するのに用いる材料として、ポリケイ皮酸ビニル(側鎖に芳香族基を有する非共役高分子)のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を用いた。
【0067】
実施例4のスイッチング素子10のトランジスタ特性を測定したところ、オン/オフ比はおよそ7.4×10、オン時の電流値は16μAであった。このスイッチング素子10を乾燥空気中に20日間放置した後再度その特性を測定したところ、オン/オフ比は7.3×10、オン時の電流値は15μAであった。
【0068】
(実施例5)
実施例1と同様に、スイッチング素子10を作製した。但し、ゲート絶縁膜3を2層構造とした。すなわち、ゲート絶縁膜3を形成するに際し、ゲート電極2を形成した支持基板1上に、スパッタリング法により酸化タンタルを70nmの膜厚に形成して第2ゲート絶縁膜層32とした。その後、ポリスチレン(側鎖に芳香族基を有する非共役高分子)のキシレン溶液をスピンコート法により塗布、120℃で30分加熱して膜厚30nmの第1ゲート絶縁膜層31とした。
【0069】
実施例5のスイッチング素子を30個作成し、得られたスイッチング素子10のトランジスタ特性を測定した。その結果、オン/オフ比はおよそ7×10、オン時の電流値は最頻値が150±15μAでこの値の50%以下のオン電流値を示した素子は1個であった。
【0070】
(実施例6)
実施例2と同様に、スイッチング素子を作製した。但し、ゲート絶縁膜3を2層構造とした。すなわち、ゲート絶縁膜3を形成する際にポリスチレン(側鎖に芳香族基を有する非共役高分子)のキシレン溶液をスピンコート法により塗布、120℃で30分加熱して膜厚50nmの第1ゲート絶縁膜層31とした後、スパッタリング法により酸化タンタルを50nmの膜厚に形成して第2ゲート絶縁膜層32とした。
【0071】
実施例6のスイッチング素子10のトランジスタ特性を測定したところ、オン/オフ比はおよそ5.5×10、オン時の電流値は19μAであった。この素子を乾燥空気中に20日間放置した後再度その特性を測定したところ、オン/オフ比は5.3×10、オン時の電流値は17μAであった。
【0072】
(比較例1)
実施例1と同様に、比較例1のスイッチング素子を30個作製した。但し、ゲート絶縁膜3に用いる材料として、ポリプロピレン溶液を用いた。ポリプロピレンは、側鎖に芳香族基を有する非共役高分子ではない。
【0073】
比較例1のスイッチング素子のトランジスタ特性を測定したところ、オン/オフ比はおよそ10、オン時の電流値は最頻値が8±1μAでこの50%以下のオン電流値を示した素子は6個であった。
【0074】
(比較例2)
比較例1と同様に、比較例2のスイッチング素子を30個作製した。但し、活性層6の形成時に、CNT分散液のスピンコート法による塗布工程を5回繰り返した。
【0075】
比較例2のスイッチング素子のトランジスタ特性を測定したところオン/オフ比はおよそ10、オン時の電流値は最頻値が40±4μAでこの値の50%以下のオン電流値を示したスイッチング素子は2個であった。
【0076】
(比較例3)
実施例2と同様に、比較例3のスイッチング素子を作製した。但し、ゲート絶縁膜3に用いる材料として、側鎖に芳香族基を有する非共役高分子ではないポリプロピレンを用いた。
【0077】
比較例3のスイッチング素子のトランジスタ特性を測定したところ、オン/オフ比は7.5×10、オン時の電流値は14μAであった。この素子を乾燥空気中に20日間放置した後再度その特性を測定したところ、オン/オフ比は2.7×10、オン時の電流値は10μAであった。
【0078】
(結果の比較)
実施例1、3、5のスイッチング素子10は、比較例1のスイッチング素子に比較して、オン時の電流値の最頻値が高く、最頻値の50%以下のオン電流値を示す素子の数も少なかった。この事から、実施例1及び3のスイッチング素子は、側鎖に芳香族基を有する非共役高分子をゲート絶縁膜として用いる事により、側鎖に芳香族基を有する非共役高分子をゲート絶縁膜として用いない場合(比較例1)よりも、安定したスイッチング特性を与える事がわかった。
【0079】
また、実施例1、3、5のスイッチング素子10は、活性層6を形成する際に塗工回数を増やした比較例2と比較しても、オン時の電流値の最頻値が高く、最頻値の50%以下のオン電流値を示す素子の数も少なかった。比較例2では、塗工回数を増やしているので、活性層6として固定されるCNTの量は増えていると予想されるにも関わらず、実施例1、3、5の方が安定したスイッチング特性を与えている。従って、実施例1、3、5のように、側鎖に芳香族基を有する非共役高分子をゲート絶縁膜3に用いることが、比較例2のように塗工回数を増やすことよりも、スイッチング特性向上の観点からさらに好ましいことがわかった。
【0080】
また、実施例2、4、6のスイッチング素子は、同様にトップコンタクト構造である比較例3のスイッチング素子よりも、スイッチング特性の経時変化が少なかった。このことから、側鎖に芳香族基を有する非共役高分子をゲート絶縁膜3に用いる事で、ゲート絶縁膜−活性層6間の相互作用が増大し、界面における不安定化を防止できることがわかった。
【符号の説明】
【0081】
1 :支持基板
2 :ゲート電極
3 :ゲート絶縁膜
4 :ソース電極
5 :ドレイン電極
6 :活性層
10 :スイッチング素子
31 :第1ゲート絶縁膜層
32 :第2ゲート絶縁膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜に接して形成された活性層と、
を具備し、
前記活性層は、カーボンナノチューブを含み、
前記ゲート絶縁膜は、前記活性層に接する第1ゲート絶縁膜層と、前記活性層に接しない第2ゲート絶縁膜層とを有し、
前記第1ゲート絶縁膜層が、側鎖に芳香族環を有する非共役高分子を含んでおり、
前記第2ゲート絶縁膜層が、前記第1ゲート絶縁膜層よりも誘電率が高い
スイッチング素子。
【請求項2】
請求項1に記載されたスイッチング素子であって、
前記ゲート絶縁膜の膜厚が、0.01〜1.00μmである
スイッチング素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたスイッチング素子であって、
前記非共役高分子は、側鎖に芳香族環を有する少なくとも1種類の繰り返し単位Aからなる重合体である
スイッチング素子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載されたスイッチング素子であって、
前記非共役高分子は、側鎖に芳香族環を有する少なくとも1種類の繰り返し単位Aと、芳香族環を有する側鎖を有さない少なくとも1種類の繰り返し単位Bとを含む共重合体であり、
前記繰り返し単位Aは、前記繰り返し単位Bに対して、モル比にして5倍以上の割合で含まれている
スイッチング素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたスイッチング素子であって、
前記非共役高分子は、下記構造式:
【化1】

で表される置換ポリエチレン骨格を繰り返し単位として含む
スイッチング素子。
但し、式中、Xは連結基又は単結合、Arは芳香族環を有する芳香族基、nは正の整数を示す。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載されたスイッチング素子であって、
前記芳香族環は、芳香族炭素環である
スイッチング素子。
【請求項7】
ゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜と接する様に活性層を形成する工程と、
を具備し、
前記活性層は、カーボンナノチューブを含み、
前記ゲート絶縁膜は、前記活性層に接する第1ゲート絶縁膜層と、前記活性層に接しない第2ゲート絶縁膜層とを有し、
前記第1ゲート絶縁膜層が、側鎖に芳香族環を有する非共役高分子を含んでおり、
前記第2ゲート絶縁膜層が、前記第1ゲート絶縁膜層よりも誘電率が高い
スイッチング素子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載されたスイッチング素子の製造方法であって、
前記ゲート絶縁膜が基板の上に形成され、
前記活性層の形成は、前記ゲート絶縁膜の形成の後に行われる
スイッチング素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載されたスイッチング素子の製造方法であって、
前記活性層を形成する工程は、
前記ゲート絶縁膜上に、カーボンナノチューブの分散したカーボンナノチューブ分散液を塗布する工程と、
塗布された前記カーボンナノチューブ分散液を乾燥させる工程と、を含む
スイッチング素子の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載されたスイッチング素子の製造方法であって、
前記ゲート絶縁膜を形成する工程は、
前記非共役高分子を含む溶液を前記基板上に塗布する工程と、
塗布された溶液を乾燥させる工程と、を含む
スイッチング素子の製造方法。
【請求項11】
請求項7に記載されたスイッチング素子の製造方法であって、
前記活性層が基板の上に形成され、
前記ゲート絶縁膜の形成は、前記活性層の形成の後に行われる
スイッチング素子の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載されたスイッチング素子の製造方法であって、
前記活性層を形成する工程は、
前記基板上に、カーボンナノチューブの分散したカーボンナノチューブ分散液を塗布する工程と、
塗布された前記カーボンナノチューブ分散液を乾燥させる工程と、を含む
スイッチング素子の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載されたスイッチング素子の製造方法であって、
前記ゲート絶縁膜を形成する工程は、
前記非共役高分子を含む溶液を前記基板上に塗布する工程と、
塗布された溶液を乾燥させる工程と、を含む
スイッチング素子の製造方法。
【請求項14】
請求項7乃至13のいずれかに記載されたスイッチング素子の製造方法であって、
前記非共役高分子は、側鎖に芳香族環を有する少なくとも1種類の繰り返し単位Aからなる重合体である
スイッチング素子の製造方法。
【請求項15】
請求項7乃至13のいずれかに記載されたスイッチング素子の製造方法であって、
前記非共役高分子は、側鎖に芳香族環を有する少なくとも1種類の繰り返し単位Aと、芳香族環を有する側鎖を有さない少なくとも1種類の繰り返し単位Bとからなる共重合体であり、
前記繰り返し単位Aは、前記繰り返し単位Bに対して、モル比にして5倍以上の割合で含まれている
スイッチング素子の製造方法。
【請求項16】
請求項7乃至15のいずれかに記載されたスイッチング素子の製造方法であって、
前記非共役高分子は、下記構造式:
【化2】

で表される置換ポリエチレン骨格を繰り返し単位として含む
スイッチング素子の製造方法。
但し、式中、Xは連結基又は単結合、Arは芳香族環を有する芳香族基、nは正の整数を示す。
【請求項17】
請求項7乃至16のいずれかに記載されたスイッチング素子の製造方法であって、
前記芳香族環は、芳香族炭素環である
スイッチング素子の製造方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate


【公開番号】特開2013−70081(P2013−70081A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−257800(P2012−257800)
【出願日】平成24年11月26日(2012.11.26)
【分割の表示】特願2009−502486(P2009−502486)の分割
【原出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】