説明

スクロール圧縮機

【課題】常に十分な量の潤滑油を確保し、性能及び信頼性を向上したスクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】内部が中空のハウジング11と、ハウジングに固定して内設される固定スクロール14と、固定スクロールの壁体に噛み合わせた状態で自転を阻止されつつ公転旋回可能にハウジング内に支持される旋回スクロール15と、流体を導入する吸入室39と、吸入室に導入された流体を圧縮する圧縮室40と、ハウジングに軸受部により回転可能に支持されると共に、端部に形成される偏心部が係合部を介して旋回スクロールに係合され、回転力を旋回スクロールに伝達する駆動軸16と、軸受部及び係合部が区画されるメカ室80と、圧縮室に残留する潤滑油をメカ室に導入する第1の給油通路83と、メカ室に導入される潤滑油の漏洩を抑制する漏洩抑制手段61とを備えることを特徴とするスクロール圧縮機である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関し、特に、車載用空調装置などに使用されて好適なスクロール圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なスクロール圧縮機において、ハウジング内に、端板の一側面に渦巻状の壁体を立設した固定スクロールと、端板の一側面に固定スクロールの壁体と実質的に同一形状の渦巻状の壁体を立設した旋回スクロールとが組み合わされて収容されている。そして、この状態で固定スクロールに対して旋回スクロールを公転旋回運動させることで、各壁体間に形成した圧縮室の容積を漸次減少させ、この圧縮室内の流体を圧縮するようにしている。
【0003】
また、このようなスクロール圧縮機では、吸入室にミスト状の潤滑油を含むガスが吸入され、圧縮機構によってこの流体ガスが圧縮されて吐出室に送られ、この吐出室で油分離筒により流体ガスから潤滑油が分離されて下部に溜まる。そして、吐出室に溜まった潤滑油は、圧力差を駆動力として吸入室を仕切る仕切部材に形成された潤滑油通路を通して吸入室に戻されるものがあった。しかしながら、このようなスクロール圧縮機では、流体ガスと潤滑油とを分離するために所定の容積を有する油分離筒を設ける必要があり、装置が大型化してしまう問題点がある。このような問題に対して、他の従来のスクロール圧縮機として、圧縮室から潤滑すべき部分に給油通路を介して直接潤滑油を給油するものがある。このような、スクロール圧縮機では、潤滑油を含むガスが圧縮室で圧縮される際に、この圧縮室に潤滑油が付着する。この潤滑油を旋回スクロールの端板に形成される給油通路を介して直接潤滑すべき部分に給油しているため、上述の油分離筒を設ける必要がない。これにより、スクロール圧縮機の小型化、軽量化を達成することができた(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−141256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されているスクロール圧縮機では、潤滑油を偏心部に供給しているものの、スクロール圧縮機の効率などを考慮すると、ハウジング内の他の摺動部分にも確実に潤滑油を供給することがより好ましく、スクロール圧縮機の信頼性を高めるためにさらなる潤滑性の向上が望まれている。
【0006】
そこで本発明は、常に十分な量の潤滑油を確保し、性能及び信頼性を向上したスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明によるスクロール圧縮機は、内部が中空のハウジングと、渦巻状の壁体が立設される端板を有し、前記ハウジングに固定して内設される固定スクロールと、渦巻状の壁体が立設される端板を有し、該壁体が前記固定スクロールの壁体に噛み合わせた状態で自転を阻止されつつ公転旋回可能に前記ハウジング内に支持される旋回スクロールと、潤滑油を含有する流体を導入する吸入室と、前記固定スクロールに対して前記旋回スクロールが公転旋回することで、前記吸入室に導入された流体を圧縮する圧縮室と、前記ハウジングに軸受部により回転可能に支持されると共に、一端部に形成される偏心部が係合部を介して前記旋回スクロールに係合され、回転力を前記旋回スクロールに伝達する駆動軸と、前記ハウジング内で前記軸受部及び前記係合部が区画されるメカ室と、前記圧縮室に残留する潤滑油を前記メカ室に導入する第1の給油通路と、前記メカ室に導入される潤滑油の漏洩を抑制する漏洩抑制手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明によるスクロール圧縮機では、前記漏洩抑制手段は、前記旋回スクロールの端板の背面を前記ハウジングの壁面により接触状態でスラスト支持するスラスト軸受を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明によるスクロール圧縮機では、前記メカ室の流体を前記吸入室側に排出する排出通路を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明によるスクロール圧縮機では、前記排出通路の断面積は、前記第1の給油通路の断面積と等しい又は該断面積よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明によるスクロール圧縮機では、前記メカ室内に前記駆動軸と一体回転可能に連結されるバランスウェイトを備え、前記排出通路は、前記メカ室側の開口が前記バランスウェイトの回転軌跡における最下端位置よりも上側に形成されることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明によるスクロール圧縮機では、前記軸受部は、前記駆動軸の一端部を支持する第1の軸受部と、他端を支持する第2の軸受部とを有し、前記メカ室には、前記第1の軸受部が区画され、前記第2の軸受部に隣接して、前記ハウジングと前記駆動軸との間を封止するリップシールが設けられ、さらに、前記ハウジング内で前記リップシールにより区画されるシール室と、前記メカ室と前記シール室とを連通して、該シール室に前記潤滑油を導入する第2の給油通路とを備えることを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明によるスクロール圧縮機では、前記第2の給油通路は、前記ハウジングの内周に形成される溝であることを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明によるスクロール圧縮機では、前記第2の給油通路は、前記駆動軸に形成され、前記シール室側の開口が前記駆動軸の回転軸線に対して前記メカ室側の開口よりも径方向外周側に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によるスクロール圧縮機によれば、内部が中空のハウジングと、渦巻状の壁体が立設される端板を有し、前記ハウジングに固定して内設される固定スクロールと、渦巻状の壁体が立設される端板を有し、該壁体が固定スクロールの壁体に噛み合わせた状態で自転を阻止されつつ公転旋回可能に前記ハウジング内に支持される旋回スクロールと、潤滑油を含有する流体を導入する吸入室と、固定スクロールに対して旋回スクロールが公転旋回することで、吸入室に導入された流体を圧縮する圧縮室と、ハウジングに軸受部により回転可能に支持されると共に、一端部に形成される偏心部が係合部を介して旋回スクロールに係合され、回転力を旋回スクロールに伝達する駆動軸と、ハウジング内で前記軸受部及び前記係合部が区画されるメカ室と、圧縮室に残留する潤滑油を前記メカ室に導入する第1の給油通路と、メカ室に導入される潤滑油の漏洩を抑制する漏洩抑制手段を設けている。
【0016】
したがって、駆動軸は、ハウジングに軸受部により回転可能に支持され、偏心部が係合部を介して前記旋回スクロールに係合され、回転力をこの旋回スクロールに伝達し、圧縮室は、固定スクロールに対して旋回スクロールが公転旋回することで、吸入室から導入される流体を圧縮する。このとき流体に含有されている潤滑油が流体から分離される。第1の給油通路は、この圧縮室に残留する潤滑油を上述のメカ室に導入し、漏洩抑制手段は、メカ室に貯留される潤滑油の漏洩を抑制する。そのため、メカ室は、導入される潤滑油を内部に貯留して十分に確保することができ、この貯留される潤滑油によって軸受部及び係合部を潤滑することができることとなり、常に十分な量の潤滑油を確保し、性能及び信頼性を向上したスクロール圧縮機を提供することができる。
【0017】
請求項2に係る発明によるスクロール圧縮機によれば、漏洩抑制手段は、旋回スクロールの端板の背面をハウジングの壁面により接触状態でスラスト支持するスラスト軸受を有する。したがって、スラスト軸受は、旋回スクロールの端板の背面とハウジングの壁面とを接触状態で維持することで、旋回スクロールを回転可能に支持し、且つ、スラスト面でメカ室に貯留される潤滑油の漏洩を抑制するので、部品点数を増やすことなく、常に十分な量の潤滑油を確保し、性能及び信頼性を向上したスクロール圧縮機を提供することができる。
【0018】
請求項3に係る発明によるスクロール圧縮機によれば、排出通路を備え、この排出通路は、メカ室の流体を吸入室側に排出する。したがって、メカ室内の圧力上昇が抑制されるため、第1の給油通路を介してメカ室内に潤滑油を長時間安定的に導入することができるので、このメカ室内に常に十分な潤滑油を確保することができる。
【0019】
請求項4に係る発明によるスクロール圧縮機によれば、排出通路の断面積は、第1の給油通路の断面積と等しい又は該断面積よりも大きい。そうすることで、メカ室内の圧力を吸入室内の圧力より僅かに高いものの、極力等しくすることができる。
【0020】
請求項5に係る発明によるスクロール圧縮機によれば、メカ室内に駆動軸と一体回転可能に連結されるバランスウェイトを備え、駆動軸は、水平方向に沿って設けられ、排出通路は、メカ室側の開口がバランスウェイトの回転軌跡における最下端位置よりも上側に形成される。したがって、バランスウェイトは、駆動軸が回転すると、この駆動軸と共にメカ室内の空間を回転し、このバランスウェイトの回転範囲にある潤滑油をかき上げ、メカ室内に満遍なくいきわたらせる。排出通路のメカ室側の開口は、バランスウェイトの回転軌跡における最下端位置よりも上側に形成されるので、常に、バランスウェイトの回転範囲にかかるように潤滑油が貯留される。したがって、メカ室内に常に十分な量の潤滑油を確保することができる。
【0021】
請求項6に係る発明によるスクロール圧縮機によれば、軸受部は、駆動軸の一端部を支持する第1の軸受部と、他端を支持する第2の軸受部とを有し、メカ室には、第1の軸受部が区画され、第2の軸受部に隣接して、ハウジングと駆動軸との間を封止するリップシールが設けられ、さらに、ハウジング内で前記リップシールにより区画されるシール室と、メカ室とシール室とを連通して、該シール室に潤滑油を導入する第2の給油通路を設けている。したがって、リップシールは、ハウジング外部への流体の漏洩を抑制し、駆動軸の回転と共に、この駆動軸により摺動される。第2の給油通路は、メカ室に貯留される潤滑油をシール室に導入し、シール室は、導入される潤滑油を内部に貯留し、この貯留される潤滑油によってリップシールの駆動軸との接触部分が潤滑されるので、リップシールの信頼性を向上させることができる。
【0022】
請求項7に係る発明によるスクロール圧縮機によれば、第2の給油通路は、ハウジング内周に形成される溝である。したがって、潤滑油をこのハウジングに沿ってシール室に導入するので、潤滑油を抵抗の少ない通路を介してシール室に導入することができることとなり、シール室への潤滑油の導入効率が向上するので、シール室内に十分な潤滑油を確保することができる。また、ハウジングに溝を形成するという比較的簡単な加工で第2の給油通路を形成することができ、製作効率を向上させることができる。
【0023】
請求項8に係る発明によるスクロール圧縮機によれば、第2の給油通路は、駆動軸に形成される。さらに、第2の給油通路は、シール室側の開口が駆動軸の回転軸線に対してメカ室側の開口よりも径方向外周側に形成される。したがって、第2の給油通路は、駆動軸に沿ってシール室に潤滑油を導入するので、潤滑油を抵抗の少ない通路を介してシール室に導入することができることとなり、シール室への潤滑油の導入効率が向上するので、シール室内に十分な潤滑油を確保することができる。また、第2の給油通路は、駆動軸の回転と共に回転する。したがって、メカ室側の開口から第2の給油通路に入った潤滑油は、遠心力によりシール室側の開口から導出されやすくなるので、シール室への潤滑油の導入効率がさらによくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明に係るスクロール圧縮機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の実施例1に係るスクロール圧縮機1の断面図である。本図に示すスクロール圧縮機1は、車載用空調装置などに使用されて好適なスクロール圧縮機であり、流体として冷媒ガスが用いられる。スクロール圧縮機1は、内部が中空のハウジング11と、ハウジング11に固定して内設される固定スクロール14と、自転を阻止されつつ公転旋回可能にハウジング11内に支持される旋回スクロール15とを備える。
【0026】
固定スクロール14は、渦巻状の壁体としての渦巻状ラップ45が立設される端板44を有する。旋回スクロール15は、渦巻状の壁体としての渦巻状ラップ51が立設される端板50を有し、渦巻状ラップ51が固定スクロール14の渦巻状ラップ45に噛み合わさった状態で公転旋回可能に支持される。固定スクロール14と旋回スクロール15とは後述する圧縮部12を構成する。
【0027】
スクロール圧縮機1は、この旋回スクロール15を駆動する駆動装置13を備える。旋回スクロール15と駆動装置13とは、回転力を旋回スクロール15に伝達する駆動軸16により連結され、駆動装置13により旋回スクロール15を駆動することができる。駆動軸16は、ハウジング11に軸受部により回転可能に支持されると共に、一端部に形成される偏心部60が係合部を介して旋回スクロール15に係合される。
【0028】
さらに、スクロール圧縮機1は、潤滑油を含有する冷媒ガスを導入する吸入室39と、吸入室39に導入された冷媒ガスを圧縮する圧縮室40とを備える。圧縮室40は、固定スクロール14に対して旋回スクロール15が公転旋回することで冷媒ガスを圧縮する。
【0029】
ハウジング11は横置きに配置されており、スクロール圧縮機各部を包む略円筒形状をなす密閉容器として構成される。このハウジング11は、センタハウジング21と、このセンタハウジング21に隣接して配置される蓋状ハウジング22とから構成される。センタハウジング21は略円筒状に形成されており、蓋状ハウジング22は一端が閉止された略円筒形状に形成される。この蓋状ハウジング22は、開口している側の端部がセンタハウジング21に嵌合した状態で、センタハウジング21に複数の締結ボルト23により固定される。ハウジング11は、センタハウジング21に吸入口26が形成され、蓋状ハウジング22に吐出口27が形成される。吸入口26及び吐出口27は、当該スクロール圧縮機1の外部の冷媒ガス経路(不図示)に接続される。
【0030】
センタハウジング21は、蓋状ハウジング22の反対側の端部に縮径したリング形状をなす支持部28が形成される。駆動軸16は、回転の中心となる中心軸線がセンタハウジング21の中心軸線とほぼ一致する方向、及び位置でハウジング11内に設けられる。また、センタハウジング21の内周部には、センタハウジング21と駆動軸16との隙間を封止し、ハウジング11外部へ冷媒ガスの漏洩を抑制するリップシール31が取り付けられる。さらに、このセンタハウジング21の内周部には、第1の軸受部としての転がり軸受30と第2の軸受部としての玉軸受29が装着される。この玉軸受29は、リップシール31に隣接するように設けられ、該リップシール31の外側の短部で回転軸としての駆動軸16を回転自在に支持する。転がり軸受30は、リップシール31の内側で、駆動軸16の大径部16a(偏心部60側の端部)を回転自在に支持する。このセンタハウジング21と駆動軸16との間に設けられる玉軸受29、転がり軸受30は、ハウジング11に駆動軸16を回転可能に支持する本発明の軸受部を構成する。
【0031】
駆動装置13は、駆動軸16の蓋状ハウジング22とは反対側の端部に設けられる。駆動軸16のこの端部には、回転板32が連結ボルト33により固定される。この回転板32の外周部には、リング形状をなす支持リング34が複数の連結ピン35により連結される。そして、この支持リング34に従動プーリ36の端面が固定され、軸受37を介してセンタハウジング21の支持部28に回転自在に支持される。この従動プーリ36内に電磁石38が装着されることでマグネットクラッチが構成される。なお、この従動プーリ36には、図示しない駆動ベルトを介して駆動源(例えば、エンジン)が連結される。
【0032】
駆動軸16は、駆動装置13側とは反対側の端部に偏心部60が形成される。偏心部60は、偏心駆動ピン54とドライブブッシュ55によって構成される。偏心駆動ピン54は、略円柱状に形成される。さらに、偏心駆動ピン54は、偏心駆動ピン54の中心軸線と駆動軸16の中心軸線とが平行となり、且つ、偏心駆動ピン54の中心軸線が駆動軸16の中心軸線から所定量だけ離れて位置するように設けられる。したがって、偏心駆動ピン54は、駆動軸16の回転の中心となる中心軸線に対して所定量だけ偏心している。ドライブブッシュ55は、偏心駆動ピン54の外周側を覆うように偏心駆動ピン54に嵌合される。また、駆動軸16には、公転旋回運動によって旋回スクロール15に与えられるアンバランス量を打ち消すためのバランスウェイト58が連結される。
【0033】
さらに、偏心部60の蓋状ハウジング22側には上述した圧縮部12が設けられる。圧縮部12は、センタハウジング21に内設される。この圧縮部12は、偏心部60側に旋回スクロール15が位置し、蓋状ハウジング22側に固定スクロール14が位置するように設けられる。
【0034】
旋回スクロール15は、略円盤状に形成される端板50が偏心部60と対向するように配設される。渦巻状ラップ51は、端板50の固定スクロール14側の面(偏心部60と対向する面の反対側の面)に立設される。旋回スクロール15は、スラスト軸受61により端板50を回転可能にスラスト支持される。さらに、旋回スクロール15は、端板50が偏心部60と対向する面のほぼ中心に、偏心部60が係合するためのボス部53が形成される。
【0035】
ボス部53は、偏心部60側に突出するように形成される。また、ボス部53は、内側が空洞の略円筒状の形状に形成される。ボス部53の内側には、転がり軸受56が設けられる。偏心部60は、この転がり軸受56を介して旋回スクロール15に係合される。このボス部53と偏心部60との間に設けられる転がり軸受56は、旋回スクロール15に偏心部60を係合部する本発明の係合部を構成する。偏心駆動ピン54は、ドライブブッシュ55及び転がり軸受56を介してボス部53に回動自在に支持される。これにより、旋回スクロール15は、駆動軸16の回転によって公転旋回運動することができる。また、センタハウジング21と旋回スクロール15との間には、自転阻止機構57が介装され、旋回スクロール15は、これらの構造により自転が阻止されつつ、駆動軸16の中心軸線を公転軸として公転旋回運動可能となっている。
【0036】
固定スクロール14は、渦巻状ラップ45が旋回スクロール15の渦巻状ラップ51と対向して噛み合う状態で蓋状ハウジング22の内周面に嵌合して設けられる。固定スクロール14は、上述した締結ボルト23により端板44が蓋状ハウジング22に固定される。
【0037】
固定スクロール14と旋回スクロール15とは、固定スクロール14の渦巻状ラップ45と旋回スクロール15の渦巻状ラップ51が噛み合うように組み合わされることで、各ラップ45、51の間に圧縮室40を形成する。固定スクロール14、旋回スクロール15、圧縮室40によって構成される圧縮部12とセンタハウジング21との間には、吸入室39が形成される。さらに、固定スクロール14の渦巻状ラップ45とは反対側には、端板44と蓋状ハウジング22の内周面とによって吐出室41が画成される。
【0038】
上述した吸入口26は低圧部としての吸入室39に開口しており、吐出口27は高圧部としての吐出室41に開口している。吸入室39は、潤滑油を含有する冷媒ガスを圧縮室40に導入する。圧縮室40は、固定スクロール14に対して旋回スクロール15が公転旋回することで、冷媒ガスを内部で圧縮する。吐出室41には、圧縮室40で圧縮された高圧の冷媒ガスが吐出される。また、固定スクロール14の端板44の中央には、圧縮室40と吐出室41とを連通する吐出ポート46が設けられ、この吐出ポート46は吐出弁47により開閉可能となっている。
【0039】
なお、吸入口26を圧縮部12とほぼ対向するように開口させたのは、吸入口26からハウジング11内に取り込んだ冷媒ガスを直接圧縮室に導入することで、圧縮効率の低下や圧力損失の増大を抑制するためである。また、圧縮室40で圧縮される冷媒ガスには、スクロール圧縮機1のハウジング11内の各部を潤滑する潤滑油がミスト状の状態で含有されており、この潤滑油によって、スクロール圧縮機1内の各摺動部は潤滑される。
【0040】
スクロール圧縮機1は、さらに、ハウジング11内で第1の軸受部としての転がり軸受30及び係合部としての転がり軸受56が区画されるメカ室80と、ハウジング11内でリップシール31により区画されるシール室81とを備える。メカ室80は、センタハウジング21の内周面、旋回スクロール15の端板50、駆動軸16の大径部16aの端面によって画成される空間である。シール室81は、センタハウジング21の内周面、駆動軸16の大径部16aの端面(メカ室80とは反対側の端面)、リップシール31の大径部16a側の面によって画成される空間であり、転がり軸受30、駆動軸16の大径部16aによってメカ室80と隔てられて隣接している。
【0041】
スクロール圧縮機1は、さらに、冷媒ガスが圧縮される際に圧縮室40内で冷媒ガスから分離されて内面に付着して残留する潤滑油をメカ室80に導入する第1の給油通路83と、第1の給油通路83を介してメカ室80に導入される潤滑油の漏洩を抑制する漏洩抑制手段とを備える。第1の給油通路83は、圧縮室40とメカ室80とを連通するように旋回スクロール15の端板50に設けられる。ここで漏洩抑制手段は、旋回スクロール15の端板50の背面(渦巻状ラップ51が立設されている面とは反対側の面)をハウジングの壁面により接触状態でスラスト支持する上述したスラスト軸受61を有する。このスラスト軸受61は、センタハウジング21の径方向に対して略平行な壁面部分をなす。旋回スクロール15は、端板50この壁面部分に接触するようにして設けられる。スラスト軸受61のスラスト面は、低い摩擦係数を有し、耐摩耗性に優れるフッ素樹脂によりコーティングされる。漏洩抑制手段としてのスラスト軸受61は、スラスト面がこれに対向する端板50の背面を隙間なく接触状態で支持することによって低圧部である吸入室39とメカ室80とをシールし、メカ室80に導入された潤滑油が吸入室39側に漏洩することを抑制する。メカ室80に導入され、貯留される潤滑油は、転がり軸受30と駆動軸16との隙間を介してシール室にも導入されて貯留される。
【0042】
次に、図1を参照して、本発明の実施例1に係るスクロール圧縮機1の作用について説明する。駆動源を駆動すると、駆動力が駆動装置13の従動プーリ36に伝達され、駆動軸16が回転し、この回転力が偏心部60等を介して旋回スクロール15に伝達され、この旋回スクロール15が自転阻止機構57によって自転が阻止されながら公転軌道上を旋回する。すると、潤滑油のミストを含む冷媒ガスが吸入口26からハウジング11内の吸入室39に吸い込まれ、圧縮室40内に導入される。
【0043】
そして、旋回スクロール15が旋回し続けると、これに伴って圧縮室40が次第に狭められ、内部の冷媒ガスが圧縮されつつ中央部に至り、吐出ポート46を通って吐出室41へ吐き出される。吐出弁47は、圧縮室40と吐出室41との差圧により開閉する。即ち、圧縮室40の冷媒ガスの圧力が吐出室41の圧力よりも高くなると、吐出弁47を押し開いて高圧の冷媒ガスが吐出室41に流出する。その後、高圧の冷媒ガスは、吐出室41から吐出口27を経て外部に吐き出される。
【0044】
このとき、ミスト状の潤滑油を含んだ冷媒ガスは圧縮室40に導入され、旋回スクロール15が旋回して圧縮室40の容積が漸次減少することで圧縮されるが、この圧縮室40では、冷媒ガスからミスト状の潤滑油が分離される。そして、この分離した潤滑油は、固定スクロール14に対して旋回スクロール15が回転することで、その噛み合い部によりかき集められ、圧縮室40の圧力により第1の給油通路83を通してメカ室80に導入される。導入された潤滑油は、メカ室80内部に貯留され、さらに、転がり軸受30と駆動軸16との隙間を介してシール室81にも導入されて貯留される。
【0045】
メカ室80内部に貯留される潤滑油は、スラスト軸受61のスラスト面と端板50とによって吸入室39とメカ室80とがシールされているので、低圧部である吸入室39に漏洩することが抑制される。したがって、メカ室80、シール室81には十分な量の潤滑油が確保される。そして、この十分な量の潤滑油は、メカ室80内に区画される軸受部としての転がり軸受30や駆動軸16の大径部16a及び係合部としての転がり軸受56や偏心駆動ピン54、ドライブブッシュ55、シール室81内を区画するリップシール31を確実に潤滑する。
【0046】
以上で説明した本発明の実施例1に係るスクロール圧縮機1によれば、内部が中空のハウジング11と、ハウジング11に固定して内設される固定スクロール14と、自転を阻止されつつ公転旋回可能にハウジング11内に支持される旋回スクロール15と、潤滑油を含有する冷媒ガスを導入する吸入室39と、吸入室39に導入された冷媒ガスを圧縮する圧縮室40と、ハウジング11に軸受部としての転がり軸受30により回転可能に支持されると共に、一端部に形成される偏心部60が係合部としての転がり軸受56を介して旋回スクロール15に係合され、回転力を旋回スクロールに伝達する駆動軸16と、ハウジング11内で軸受部としての転がり軸受30及び係合部としての転がり軸受56が区画されるメカ室80と、圧縮室40に残留する潤滑油をメカ室80に導入する第1の給油通路83と、メカ室80に導入される潤滑油の漏洩を抑制する漏洩抑制手段としてのスラスト軸受61を設けている。
【0047】
したがって、駆動軸16は、ハウジング11に軸受部としての転がり軸受30により回転可能に支持され、偏心部60が係合部としての転がり軸受56を介して旋回スクロール15に係合され、回転力をこの旋回スクロール15に伝達し、圧縮室40は、固定スクロール14に対して旋回スクロール15が公転旋回することで、吸入室39から導入される冷媒ガスを圧縮する。このとき冷媒ガスに含有されている潤滑油が冷媒ガスから分離される。第1の給油通路83は、この圧縮室40に残留する潤滑油を上述のメカ室80に導入し、漏洩抑制手段としてのスラスト軸受61は、メカ室80に貯留される潤滑油の漏洩を抑制する。そのため、メカ室80は、導入される潤滑油を内部に貯留して十分に確保することができ、この貯留される潤滑油によって軸受部としての転がり軸受30及び係合部としての転がり軸受56を潤滑することができることとなり、軸受部、係合部の信頼性が向上するので、常に十分な量の潤滑油を確保し、性能及び信頼性を向上したスクロール圧縮機を提供することができる。
【0048】
さらに、以上で説明した本発明の実施例1に係るスクロール圧縮機1によれば、ハウジング11と駆動軸16との間を封止するリップシール31と、転がり軸受30、駆動軸16の大径部16aよってメカ室80と隔てられて隣接しているシール室81と備える。リップシール31は、ハウジング11外部への冷媒ガスの漏洩を抑制する。シール室81は、ハウジング11内でこのリップシール31により区画される。また、リップシール11は、駆動軸16の回転と共に、この駆動軸16により摺動される。上述したメカ室80に導入され、貯留される潤滑油は、転がり軸受30と駆動軸16との隙間を介してシール室81にも導入され、そこで貯留される。この貯留される潤滑油によってリップシール31の駆動軸16との接触部分が潤滑される。したがって、リップシール31の信頼性を向上させることができる。
【0049】
さらに、以上で説明した本発明の実施例1に係るスクロール圧縮機1によれば、漏洩抑制手段は、旋回スクロール15の端板50の背面をハウジング11の壁面により接触状態でスラスト支持するスラスト軸受61を有する。したがって、スラスト軸受61は、旋回スクロール15の端板50の背面とハウジング11の壁面とを接触状態で維持することで、旋回スクロール15を回転可能に支持し、且つ、スラスト面でメカ室81に貯留される潤滑油の漏洩を抑制するので、部品点数を増やすことなく、常に十分な量の潤滑油を確保し、性能及び信頼性を向上したスクロール圧縮機を提供することができる。
【0050】
なお、上述した本発明の実施例1に係るスクロール圧縮機1は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。以上の説明では、漏洩抑制手段としてのスラスト軸受61のスラスト面は、フッ素樹脂コーティングするものとして説明したがこれに限らない。また、漏洩抑制手段は、スラスト軸受61であるものとして説明したが、メカ室80に導入される潤滑油の漏洩を抑制する手段であれば単純にプレートであってもよい。
【実施例2】
【0051】
図2は、本発明の実施例2に係るスクロール圧縮機201の断面図である。実施例2に係るスクロール圧縮機201は、実施例1に係るスクロール圧縮機1と略同様の構成であるが、排出通路284を備えている点で実施例1に係るスクロール圧縮機1とは異なる。その他、実施例1と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
【0052】
スクロール圧縮機201は、さらに、メカ室80の冷媒ガスを吸入室39側に排出する排出通路284を備える。排出通路284は、センタハウジング21に溝状に形成される。排出通路284は、センタハウジング21の一部をなすスラスト軸受61のスラスト面に設けられ、このスラスト面に端板50が当接することで通路として画成される。排出通路284は、メカ室80と吸入室39とを連通するように設けられる。また、排出通路284の径方向の断面積は、第1の給油通路83の径方向の断面積よりも大きく形成される。
【0053】
図3は、本発明の実施例2に係るスクロール圧縮機201のセンタハウジング21の断面図である。本図は、スラスト軸受61のスラスト面を見る断面図である。ここで、図1でも上述したバランスウェイト58は、メカ室80内に駆動軸16と連結されて設けられる。バランスウェイト58は、駆動軸16とともに回転可能に配設され、旋回スクロール15の旋回運動に伴い生じる遠心力を相殺する。バランスウェイト58は、駆動軸16が回転すると、メカ室80内をこの駆動軸16とともに回転する。
【0054】
上述した排出通路284は、スクロール圧縮機201全体を駆動軸16の中心軸線がほぼ水平となるように設置した場合で、メカ室80側の開口がバランスウェイト58の回転軌跡における最下端位置よりも上側に形成される。つまり、図中一点差線で示したラインよりも鉛直方向上側にメカ室80側の開口が形成される。
【0055】
排出通路284は、メカ室80内に潤滑油を導入する際に流入する冷媒ガスを低圧部である吸入室39側に排出する。これにより、メカ室80内の圧力上昇が抑制される。したがって、メカ室80内を圧縮室40に対して低圧に維持することができ、第1の給油通路83を介してメカ室80内に潤滑油を長時間安定的に導入することができる。また、排出通路284の径方向の断面積は、第1の給油通路83の径方向の断面積よりも大きく形成されるので、メカ室80内の圧力を吸入室39内の圧力とほぼ等しくすることができる。また、バランスウェイト58は、駆動軸16が回転すると、この駆動軸16と共にメカ室80内の空間で回転し、このバランスウェイト58の回転範囲にある潤滑油をかき上げ、メカ室80内に満遍なくいきわたらせる。さらに、排出通路284のメカ室80側の開口は、バランスウェイト58の回転軌跡における最下端位置よりも上側に形成されるので、スクロール圧縮機201が停止している際でも、常に、バランスウェイト58の回転範囲にかかるように潤滑油を貯留することができる。
【0056】
以上で説明した本発明の実施例2に係るスクロール圧縮機201によれば、排出通路284を備え、この排出通路284は、メカ室80内の冷媒ガスを低圧部である吸入室39側に排出する。これにより、メカ室内の圧力上昇が抑制され、メカ室80内を圧縮室40に対して低い圧力に維持することができる。したがって、第1の給油通路83を介してメカ室80内に潤滑油を長時間安定的に導入することができ、このメカ室80内に常に十分な潤滑油を確保することができる。また、排出通路284の径方向の断面積は、第1の給油通路83の径方向の断面積よりも大きく形成されるので、メカ室80内の圧力を低圧部である吸入室39内の圧力より、僅かに高いものの極力等しくすることができる。
【0057】
さらに、以上で説明した本発明の実施例2に係るスクロール圧縮機201によれば、メカ室80内に駆動軸16と一体回転可能に連結されるバランスウェイト58を備える。排出通路284は、メカ室80側の開口がバランスウェイト58の回転軌跡における最下端位置よりも上側に形成される。バランスウェイト58は、駆動軸16が回転すると、メカ室80内の空間で回転し、このバランスウェイト58の回転範囲にある潤滑油をかき上げ、メカ室80内に満遍なくいきわたらせる。排出通路284のメカ室80側の開口は、上述したような位置に形成されるので、スクロール圧縮機201が停止している際でも、常に、バランスウェイト58の回転範囲にかかるように潤滑油が貯留される。したがって、メカ室80内に常に十分な量の潤滑油を確保することができる。
【0058】
なお、上述した本発明の実施例2に係るスクロール圧縮機201は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。以上の説明では、排出通路284は、メカ室80と吸入室39を連通するものとして説明したが、メカ室80と吸入口26に接続される冷媒ガス経路(不図示)を連通するように構成してもよい。また、バランスウェイト58は、ドライブブッシュ55と一体で図示しているが、各々別体に形成してもよい。また、排出通路284の径方向の断面積は、第1の給油通路83の径方向の断面積よりも大きく形成されるものとして説明したが、第1の給油通路83の径方向の断面積と等しい大きさに形成してもよい。
【実施例3】
【0059】
図4は、本発明の実施例3に係るスクロール圧縮機301の断面図である。実施例3に係るスクロール圧縮機301は、実施例2に係るスクロール圧縮機201と略同様の構成であるが、ハウジング11に形成される第2の給油通路385を備えている点で実施例2に係るスクロール圧縮機201とは異なる。その他、実施例2と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
【0060】
第2の給油通路385は、メカ室80とシール室81とを連通するように形成される。この第2の給油通路385は、センタハウジング21の内周面に溝状に形成される。第2の給油通路385は、メカ室80に貯留される潤滑油をリップシール31が区画されているシール室81に導入する。メカ室80からシール室81への潤滑油の導入は、転がり軸受30と駆動軸16との隙間を介してもなされるが、第2の給油通路385を介して潤滑油を導入することで、潤滑油が導入される際の抵抗が低減されるので、より安定して潤滑油をシール室81に導入することができる。シール室81は、導入される潤滑油を内部に貯留し、この貯留される潤滑油によってリップシール31の摺動部分が潤滑される。
【0061】
以上で説明した本発明の実施例3に係るスクロール圧縮機301によれば、メカ室80とシール室81とを連通する第2の給油通路385を備える。したがって、第2の給油通路385は、メカ室80に貯留される潤滑油をシール室81に導入し、シール室81は、導入される潤滑油を内部に貯留し、この貯留される潤滑油によってリップシール31の駆動軸16との接触部分が潤滑されるので、リップシール31の信頼性を向上することができる。さらに、第2の給油通路385は、センタハウジング21の内周面に溝状に形成され、この内周面に沿ってシール室81に潤滑油を導入するので、潤滑油を抵抗の少ない通路を介してシール室81に導入することができ、シール室81への潤滑油の導入効率を向上することができる。また、センタハウジング21の内周面に溝を形成するという比較的簡単な加工で第2の給油通路385を形成することができ、製作効率を向上させることができる。また、排出通路284によりメカ室内の圧力上昇が抑制されるので、メカ室80内に長時間安定的に潤滑油を導入することができ、この結果、シール室81にも長時間安定的に潤滑油を導入することができる。
【実施例4】
【0062】
図5は、本発明の実施例4に係るスクロール圧縮機401の断面図である。実施例4に係るスクロール圧縮機401は、実施例2に係るスクロール圧縮機201と略同様の構成であるが、駆動軸16に形成される第2の給油通路485を備えている点で実施例2に係るスクロール圧縮機201とは異なる。その他、実施例2と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。
【0063】
第2の給油通路485は、メカ室80とシール室81とを連通するように形成される。この第2の給油通路485は、駆動軸16の大径部16aの内部に形成される。また、この第2の給油通路485は、シール室81側の開口が駆動軸16の回転軸線に対してメカ室80側の開口よりも径方向外周側に形成される。本実施例では、第2の給油通路485は、略L字型に形成される。
【0064】
第2の給油通路485は、メカ室80に貯留される潤滑油をリップシール31が区画されているシール室81に導入する。メカ室80からシール室81への潤滑油の導入は、転がり軸受30と駆動軸16との隙間を介してもなされるが、第2の給油通路485を介して潤滑油を導入することで、潤滑油が導入される際の抵抗が低減されるので、より安定して潤滑油をシール室81に導入することができる。
【0065】
また、第2の給油通路485は、駆動軸16の回転と共に回転する。したがって、メカ室80側の開口から第2の給油通路485に入った潤滑油は、遠心力によりシール室81側の開口から導出されやすくなる(遠心ポンプ作用)。シール室81は、導入される潤滑油を内部に貯留し、この貯留される潤滑油によってリップシールの摺動部分が潤滑される。
【0066】
以上で説明した本発明の実施例4に係るスクロール圧縮機401によれば、メカ室80とシール室81とを連通する第2の給油通路485を備える。したがって、第2の給油通路485は、メカ室80に貯留される潤滑油をシール室81に導入し、シール室81は、導入される潤滑油を内部に貯留し、この貯留される潤滑油によってリップシール31の駆動軸16との接触部分が潤滑されるので、リップシール31の信頼性を向上することができる。さらに、第2の給油通路485は、駆動軸16の大径部16aの内部に形成され、この駆動軸16の内部に沿ってシール室81に潤滑油を導入するので、潤滑油を抵抗の少ない通路を介してシール室81に導入することができ、シール室81への潤滑油の導入効率を向上することができる。また、第2の給油通路485は、シール室81側の開口が駆動軸16の回転軸線に対してメカ室80側の開口よりも径方向外周側に形成され、駆動軸16の回転と共に回転するので、メカ室80側の開口から第2の給油通路485に入った潤滑油は、遠心力によりシール室81側の開口から導出されやすくなり、シール室81への潤滑油の導入効率をさらによくすることができる。また、排出通路284によりメカ室内の圧力上昇が抑制されるので、メカ室80内に長時間安定的に潤滑油を導入することができ、この結果、シール室81にも長時間安定的に潤滑油を導入することができる。
【0067】
なお、上述した本発明の実施例4に係るスクロール圧縮機401は、上述した実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。以上の説明では、第2の給油通路485は、略L字型に形成するものとして説明したが、例えば、シール室81側の開口が駆動軸16の回転軸線に対してメカ室80側の開口よりも径方向外周側となるような曲線状に形成されていてもよいし、単に直線に形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るスクロール圧縮機は、内部に吸入した流体に含まれるミスト状の油を潤滑油として常に十分な量で確保することで、性能及び信頼性の向上を図ったものであり、内部に一対のスクロールを有する圧縮機に適用して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施例1に係るスクロール圧縮機の断面図である。
【図2】本発明の実施例2に係るスクロール圧縮機の断面図である。
【図3】本発明の実施例2に係るスクロール圧縮機のセンタハウジングの断面図である。
【図4】本発明の実施例3に係るスクロール圧縮機の断面図である。
【図5】本発明の実施例4に係るスクロール圧縮機の断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1、201、301、401 スクロール圧縮機
11 ハウジング
12 圧縮部
13 駆動装置
14 固定スクロール
15 旋回スクロール
16 駆動軸
21 センタハウジング
22 蓋状ハウジング
26 吸入口
27 吐出口
30、56 転がり軸受
31 リップシール
39 吸入室
40 圧縮室
41 吐出室
46 吐出ポート
47 吐出弁
58 バランスウェイト
60 偏心部
61 スラスト軸受
80 メカ室
81 シール室
83 第1の給油通路
284 排出通路
385、485 第2の給油通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が中空のハウジングと、
渦巻状の壁体が立設される端板を有し、前記ハウジングに固定して内設される固定スクロールと、
渦巻状の壁体が立設される端板を有し、該壁体が前記固定スクロールの壁体に噛み合わせた状態で自転を阻止されつつ公転旋回可能に前記ハウジング内に支持される旋回スクロールと、
潤滑油を含有する流体を導入する吸入室と、
前記固定スクロールに対して前記旋回スクロールが公転旋回することで、前記吸入室に導入された流体を圧縮する圧縮室と、
前記ハウジングに軸受部により回転可能に支持されると共に、一端部に形成される偏心部が係合部を介して前記旋回スクロールに係合され、回転力を前記旋回スクロールに伝達する駆動軸と、
前記ハウジング内で前記軸受部及び前記係合部が区画されるメカ室と、
前記圧縮室に残留する潤滑油を前記メカ室に導入する第1の給油通路と、
前記メカ室に導入される潤滑油の漏洩を抑制する漏洩抑制手段とを備えることを特徴とする、
スクロール圧縮機。
【請求項2】
前記漏洩抑制手段は、前記旋回スクロールの端板の背面を前記ハウジングの壁面により接触状態でスラスト支持するスラスト軸受を有することを特徴とする、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記メカ室の流体を前記吸入室側に排出する排出通路を備えることを特徴とする、
請求項1又は請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記排出通路の断面積は、前記第1の給油通路の断面積と等しい又は該断面積よりも大きいことを特徴とする、
請求項3に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記メカ室内に前記駆動軸と一体回転可能に連結されるバランスウェイトを備え、
前記駆動軸は、水平方向に沿って設けられ、
前記排出通路は、前記メカ室側の開口が前記バランスウェイトの回転軌跡における最下端位置よりも上側に形成されることを特徴とする、
請求項3又は請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記軸受部は、前記駆動軸の一端部を支持する第1の軸受部と、他端を支持する第2の軸受部とを有し、
前記メカ室には、前記第1の軸受部が区画され、
前記第2の軸受部に隣接して、前記ハウジングと前記駆動軸との間を封止するリップシールが設けられ、
さらに、前記ハウジング内で前記リップシールにより区画されるシール室と、
前記メカ室と前記シール室とを連通して、該シール室に前記潤滑油を導入する第2の給油通路とを備えることを特徴とする、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記第2の給油通路は、前記ハウジングの内周に形成される溝であることを特徴とする、
請求項6に記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】
前記第2の給油通路は、前記駆動軸に形成され、前記シール室側の開口が前記駆動軸の回転軸線に対して前記メカ室側の開口よりも径方向外周側に形成されることを特徴とする、
請求項6に記載のスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−285187(P2007−285187A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112598(P2006−112598)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】