説明

スタビライザ装置

【課題】 電気系統のフェイル時にも最低限必要な捩り剛性を確保できるようにする。
【解決手段】 ボールアンドランプ機構12のランププレート14をランププレート13に向けて押付ける付勢機構17を、一端側がランププレート14に当接し他端側がプランジャ21のばね受部21Aに当接する主ばね18と、ばね受部21Aと蓋体8との間に設けられプランジャ21を主ばね18とは反対方向に付勢する対向ばね19とから構成する。主ばね18のばね特性が劣化したときにもスタビライザ装置1に最低限必要な捩り剛性を確保するため、制御装置によりプランジャ21の制御基準位置を予め求めておき、電気系統等のフェイル時にはプランジャ21を前記制御基準位置に保持することができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載され、車体のロール運動を抑制するのに好適なスタビライザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、コーナリングなどの走行状態で、車体の姿勢を安定させるためにスタビライザ装置を備えているものがある。昨今では従前から開発されている油圧のスタビライザ装置の他に、搭載性に優れた電動スタビライザ装置の開発が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−120175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スタビライザ装置は、車両に搭載され、車両の走行性を向上するために使用される。このようなスタビライザ装置は、搭載のために必要となる車両のスペースを少なくすることが望ましく、小型化が望まれている。また、電気系統の失陥等によるフェイル時にも最低限必要な捩り剛性を確保できるようにすることが要求される。
【0005】
本発明の目的は、最低限必要な捩り剛性を確保できるようにした小型のスタビライザ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、第1のスタビライザバーと、第2のスタビライザバーと、該各スタビライザバーを連結して捩り剛性を調整する可変剛性部とからなり、該可変剛性部は、前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転に応じて直線運動する直動機構と、前記直線運動を抑制する方向に該直動機構を付勢し複数の異なるばね定数をもった付勢機構と、該付勢機構の付勢する力を調整する付勢力調整機構とを有する構成とし、該付勢力調整機構は、軸方向に移動して前記付勢機構の付勢する力を変える移動手段と、該移動手段を駆動する駆動手段と、該駆動手段を制御する制御手段とを有し、該制御手段は、前記付勢機構の付勢する力を小さくするように前記駆動手段により前記移動手段を軸方向に移動させ、前記駆動手段のトルクが所定の値となる前記移動手段の位置を制御基準位置として記憶する記憶部を有してなる構成としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スタビライザ装置を小型にすることができ、最低限必要な捩り剛性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるスタビライザ装置が適用された車両の全体構成図である。
【図2】第1の実施の形態によるスタビライザ装置の構造を示す縦断面図である。
【図3】第1,第2のランププレート間にボールを挟んだ状態を拡大して示す部分断面図である。
【図4】第1,第2のスタビライザバー間の捩れ角と捩りトルクとの関係を示す特性線図である。
【図5】スタビライザ装置に用いる制御装置の回路構成を示すブロック図である。
【図6】第1の実施の形態によるスタビライザ装置の制御基準位置を求める処理を示す流れ図である。
【図7】第1の実施の形態によるプランジャ位置とモータトルクとの関係を示す特性線図である。
【図8】第2の実施の形態に係るスタビライザ装置を示す縦断面図である。
【図9】第2の実施の形態によるスタビライザ装置の制御基準位置を求める処理を示す流れ図である。
【図10】第2の実施の形態によるプランジャ位置とモータトルクとの関係を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態によるスタビライザ装置を、添付図面に従って詳細に説明する。
【0010】
ここで、図1ないし図7は本発明の第1の実施の形態を示している。図1はスタビライザ装置1を車両の前輪側と後輪側とに使用した場合の全体構成を示し、このスタビライザ装置1は、下記の構成を有することにより車両の横転防止、操縦安定性の向上、さらには乗り心地の向上を図るものである。
【0011】
即ち、車両が道路のコーナ部分等をステアリング走行するような状態で、車両にロール方向の慣性力が作用した場合に、車両の前,後に設けられたスタビライザ装置1は、後述する制御装置25からの制御信号に基づいてそれぞれ車両のロール運動を抑制するように動作し、これにより、車両の横転防止を図り、車両の操縦安定性や乗り心地を向上する。
【0012】
スタビライザ装置1は、長さ方向の中央部分が車両を構成する車体側にブッシュを介して回転可能に取付けられ、図1に示すように、両端側が左,右の車輪側にそれぞれ接続(連結)されている。そして、スタビライザ装置1は、図2に示すように、軸方向の一側に配置される第1のスタビライザバー2と、軸方向の他側に配置される第2のスタビライザバー3と、第1,第2のスタビライザバー2,3の間を連結し、スタビライザバー2,3間の捩り剛性を調整する可変剛性部4とを備えている。
【0013】
車体の左側に配設された第1のスタビライザバー2は、柔軟性をもったばね鋼からなり、車体のレイアウト等に応じて図1に示す如く所望の形状に曲げられている。第1のスタビライザバー2の基端側は、可変剛性部4を介して第2のスタビライザバー3に連結され、先端側が左車輪側に接続されている。また、第1のスタビライザバー2の基端側は後述のボールアンドランプ機構12に接続され、このボールアンドランプ機構12は、スタビライザバー2,3間の相対回転(捩り運動)を捩り剛性をもって互いに伝達する直動機構を構成するものである。
【0014】
車体の右側に配設された第2のスタビライザバー3は、第1のスタビライザバー2とほぼ同様に、柔軟性をもったばね鋼からなり、図1に示す如く第1のスタビライザバー2とほぼ対称形状をなすように曲げられている。第2のスタビライザバー3は、その基端側が可変剛性部4を介して第1のスタビライザバー2に連結され、先端側が右車輪側に接続されている。また、第2のスタビライザバー3の基端部は、後述するケーシング5のモータケース11と機械的に接続(連結)されている。
【0015】
第1,第2のスタビライザバー2,3は、図2に示す如く軸線O−O上に配置され、車体側に対し軸線O−Oを中心にして捩られる方向に回動自在となるように支持されている。可変剛性部4は、第1,第2のスタビライザバー2,3の間を連結して設けられ、スタビライザバー2,3の間の捩り剛性を調整するものである。このため、可変剛性部4は、後述のケーシング5、ボールアンドランプ機構12、付勢機構17および付勢力調整機構20等により構成されている。
【0016】
可変剛性部4の外形をなすケーシング5は、第1,第2のスタビライザバー2,3間を軸方向に延びる円筒状の容器として形成されている。そして、ケーシング5は、高い剛性をもった金属材料等により形成され軸線O−Oに沿って軸方向に延びた円筒状の筒体6と、該筒体6の両端側を閉塞した左,右の蓋体7,8と、後述のモータケース11とを含んで構成されている。
【0017】
ここで、筒体6の内周面には、軸方向に直線状に延びる複数本の廻止め突起6A(図2中に1本のみ図示)が周方向に間隔をもって設けられている。これらの廻止め突起6Aは、後述のランププレート14、プランジャ21の外周側に係合し、ランププレート14とプランジャ21とがケーシング5に対して回転するのを規制しつつ、筒体6の軸方向に変位するのを許すものである。
【0018】
また、筒体6の軸方向一側(図2中の左側)に位置する蓋体7は、高い剛性を有する金属材料等により段付円筒状に形成され、筒体6の左側端部を閉塞している。そして、蓋体7内には、例えば一対のアンギュラ玉軸受からなる2個の軸受9が設けられている。該各軸受9は、蓋体7内で後述のランププレート13と共に第1のスタビライザバー2を回転可能に支持し、ランププレート13に作用する軸方向のスラスト荷重を蓋体7と共に受承するものである。
【0019】
一方、筒体6の軸方向他側(図2中の右側)に位置する蓋体8は、高い剛性を有する金属材料等により段付の環状板として形成され、筒体6の右側端部を閉塞している。そして、蓋体8の内周側には、例えば玉軸受からなるスラスト軸受10が設けられている。該スラスト軸受10は、後述のねじ部材22を蓋体8内で回転可能に支持し、ねじ部材22に作用する軸方向のスラスト荷重を蓋体8と共に受承するものである。
【0020】
この場合、可変剛性部4のケーシング5は、直動機構としてのボールアンドランプ機構12や付勢機構17等を内部に収納するだけでなく、ケーシング5自身が捩り力、即ち捩りトルクを伝えるための伝達部材としても機能する。これにより、スタビライザ装置1をシンプルな構造にすることができ、可変剛性部4のケーシング5は、構造の簡素化を図る上でも有効な構成を備えたものである。
【0021】
ケーシング5の一部を構成するモータケース11は、図2に示すように筒体6の右側に蓋体8を介して設けられ、蓋体8に一体化するように固定されている。モータケース11は、軸方向に延びる筒部11Aと、該筒部11Aの端部を閉塞した底部11Bとにより有底筒状に形成され、後述の電動モータ23が内部に収容されている。
【0022】
ここで、モータケース11の筒部11Aは、その開口側が蓋体8の外周側に一体的に固着されている。そして、モータケース11は、底部11Bの中心側が第2のスタビライザバー3の基端部に一体的に接続され、これによりケーシング5は、第1のスタビライザバー2に対して相対回転するように、第2のスタビライザバー3と一体的に回動するものである。
【0023】
直動機構としてのボールアンドランプ機構12は、筒体6の軸方向一側となる左側寄りに位置してケーシング5内に収容されている。ボールアンドランプ機構12は、第1のスタビライザバー2と一体に回転する第1のランププレート13と、該第1のランププレート13に軸方向で対向して筒体6内に設けられた第2のランププレート14と、第1,第2のランププレート13,14間で相対的に転動するように移動可能に設けられた剛体からなるボール15とにより大略構成されている。なお、ボール15として球状体のものを図示しているが、転動するものであれば、円錐ころなど他のものでもよい。
【0024】
ここで、ボールアンドランプ機構12は、第2のスタビライザバー3と機械的に接続(連結)されたケーシング5と第1のスタビライザバー2との相対回転運動に応じて軸線O−Oに沿った軸方向(図2中の矢示A,B方向)に直線運動するものである。そして、ボールアンドランプ機構12は、後述するランプ溝13B,14Bの形状に従ってトルクの伝達係数が調整され、これによりスタビライザ装置1は、その捩り剛性が調整されるものである。
【0025】
即ち、ボールアンドランプ機構12は、第1のスタビライザバー2とケーシング5との相対回転角度によって、第2のランププレート14の軸方向のストロークを変化させることができる。その際、ランプ溝13B、14Bの形状により相対回転角度に対するストローク量を調整することができる。また、第2のランププレート14のストローク量により主ばね18の反力が決まり、それが可変剛性部4のトルクとなる。その際、ランプ溝のリード角の設定によりトルクを調整することができる。
【0026】
第1のランププレート13は、その内周側から軸方向に延びる小径筒部13Aを有し、該小径筒部13A内には、第1のスタビライザバー2の基端側がスプライン等の廻止め手段を用いて連結されている。そして、第1のランププレート13は、ボルト16等を用いて第1のスタビライザバー2に抜止め状態で固定されている。これにより、第1のスタビライザバー2は、ボールアンドランプ機構12の一方端に機械的に接続されている。
【0027】
第2のランププレート14は、その外周側から軸方向に延びる大径筒部14Aを有している。そして、該大径筒部14Aは、後述する主ばね18の軸方向一側部分を径方向外側から取囲み、主ばね18を外側から保護すると共に、主ばね18からの付勢力(推力)が第2のランププレート14に安定して作用するように主ばね18を案内するものである。
【0028】
また、大径筒部14Aの外周面には、筒体6の内周面に複数の廻止め突起6Aを介して係合する複数の係合溝14A1 (図2中に1個のみ図示)が周方向に間隔をもって設けられている。そして、廻止め突起6Aと係合溝14A1 とは、第2のランププレート14がケーシング5に対して相対回転するのを規制し、筒体6の軸方向に相対変位するのを許すものである。これにより第2のスタビライザバー3は、ボールアンドランプ機構12の他方端に機械的に接続されている。
【0029】
第1のランププレート13と第2のランププレート14には、後述の主ばね18による推力が作用しており、この推力によってボール15は、第1のランププレート13と第2のランププレート14にそれぞれ形成されたランプ溝13B,14Bに押付けられる。そして、ボールアンドランプ機構12は、前記推力とランプ溝13B,14Bの形状とに基づきトルクの伝達係数が調整される。
【0030】
第1のランププレート13の右端面(表面)には、第1の傾斜部としての第1のランプ溝13Bが円周方向に延びて複数個(例えば3個)設けられている。ここで、各ランプ溝13Bは、例えば図3に示すように円弧状に湾曲して形成されている。そして、各ランプ溝13Bは、長さ方向の中央部が最深部となり、最深部から両端側に向けて所望の曲率で浅くなる傾斜部としての円弧状溝として形成されている。
【0031】
また、第1のランププレート13に対面する第2のランププレート14の左端面(表面)には、第2の傾斜部としての第2のランプ溝14Bが3個設けられている。この3個のランプ溝14Bは、第1のランプ溝13Bとほぼ同様に、円弧状に湾曲して形成され、長さ方向の中央部が最深部となり、この最深部から両端側に向けて浅くなる傾斜部としての円弧状溝として形成されている。
【0032】
第1,第2のランプ溝13B,14Bは、その溝形状(湾曲形状)に従って車両の乗り心地を調整することができる。即ち、第1のランププレート13と第2のランププレート14との間の捩れ角が小さい範囲では、後述する主ばね18の付勢力を小さくし、車両の乗り心地に影響を与えないことが望まれ、捩れ角が大きい範囲では主ばね18の付勢力を大きくし旋回時のロールを抑えることが望まれている。
【0033】
このような要求を実現するため、第1のランププレート13と第2のランププレート14との間の捩れ角が小さい範囲では、捩りトルクがほとんど発生しないよう曲率半径が大きい円弧状とし、捩れ角が大きい範囲に入ったら急激にトルクが立ち上がるように曲率半径を小さくするといった非線形な特性を溝の形状により調整することができる。また、曲線と直線を組みあわせる等、所望の特性に合わせてランプ溝13B,14Bの溝形状、プロフィールを決めればよい。
【0034】
第1のランププレート13と第2のランププレート14とに挟まれた3個のボール15は、第1のランプ溝13Bと第2のランプ溝14Bとの間に収められている。また、各ボール15は、ランプ溝13B,14Bの間に収められた状態で第1,第2のランププレート13,14が互いに当接したり、干渉したりしないような外径寸法をもった金属球等により形成されている。
【0035】
そして、このように構成されたボールアンドランプ機構12は、後述する付勢機構17の主ばね18を用いて第1のランププレート13と第2のランププレート14とを互いに接近する方向に押付けることにより、通常はボール15が両者のランプ溝13B,14Bの最深部に配置される。これによって、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とは、付勢機構17の付勢力で常に初期角度(車両が左,右方向で傾斜してない角度)になるように付勢される。
【0036】
一方、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3(ケーシング5)とが軸線O−Oを中心にして相対回転した場合には、第1のランプ溝13Bと第2のランプ溝14Bとが周方向で相対的に位置ずれするから、ボール15は、各ランプ溝13B,14Bの中央部から端部側に移動する。これにより、各ランププレート13,14は、各ランプ溝13B,14Bの傾斜に従って互いに軸方向に離間する方向に変位する。このため、第2のランプ溝14Bを第1のランプ溝13Bに向け押付けている付勢機構17の付勢力は大きくなり、このときの捩り剛性を大きくすることができる。
【0037】
また、第2のランププレート14の内周側には、後述のプランジャ21を挿入可能な軸方向の貫通穴14Cが設けられている。そして、プランジャ21が図2中の矢示A方向へと軸方向に相対移動するときには、ランププレート14の貫通穴14C内にプランジャ21の先端側が進入し、逆に矢示B方向へと軸方向に相対移動するときには、プランジャ21の先端側がランププレート14の貫通穴14C内から抜出すように後退する。このように構成したので、主ばね18として用いている皿ばねの中心孔を常にプランジャ21の外径で拘束することができるので、皿ばねが径方向に移動して不安定になることを防止することができる。
【0038】
第2のランププレート14の右側に位置して筒体6内に設けられた付勢機構17は、第2のランププレート14の直線運動を抑制する方向に該ランププレート14を付勢するもので、第1のランププレート13に向けて第2のランププレート14を押付ける押付力を発生する弾性部材により構成されている。即ち、付勢機構17を構成する弾性部材は、図2に示すように一端側が第2のランププレート14に当接し他端側が後述のプランジャ21に当接する第1の付勢手段としての主ばね18と、プランジャ21を該主ばね18とは反対方向に付勢する第2の付勢手段としての対向ばね19とから構成されている。
【0039】
主ばね18は、複数枚(例えば7枚)の皿ばねを互い違いに重合わせて配置することにより構成され、対向ばね19はコイルばねにより構成されている。そして、主ばね18と対向ばね19からなる付勢機構17は、非線形のばね定数を有する構成であり、対向ばね19は、主ばね18よりも小さいばね定数に設定されている。
【0040】
そして、対向ばね19は、後述するプランジャ21のばね受部21Aと蓋体8との間に配設され、プランジャ21を蓋体8から離れる方向(図2中の矢示A方向)に向けて付勢している。但し、プランジャ21は後述のねじ部材22に螺合しているため、対向ばね19の付勢力でプランジャ21が軸方向(図2中の矢示A方向)に動くことはない。また、主ばね18の付勢力でもプランジャ21が軸方向に動くことはない。
【0041】
ここで、付勢機構17の主ばね18は、ボールアンドランプ機構12の第2のランププレート14に対し矢示A方向の付勢力(推力)を与えるものである。しかし、主ばね18が経年劣化等により付勢力の特性(例えば、ばね定数)が変化したときには、第2のランププレート14に対する矢示A方向の付勢力(推力)が低下することもある。そこで、プランジャ21のばね受部21Aと蓋体8との間には、第2の付勢手段としての対向ばね19を設け、主ばね18のばね特性が劣化した場合の対策として、後述のようにプランジャ21の制御基準位置S1 ,S2 (図7参照)を対向ばね19を用いて求めるものである。
【0042】
付勢機構17の付勢力を調整するためにケーシング5内に設けられた付勢力調整機構20は、例えば主ばね18の伸縮方向に任意の大きさのセット荷重を付与する荷重付与部として構成されている。ここで、付勢力調整機構20は、筒体6内に設けられた移動手段としてのプランジャ21、ねじ部材22と、モータケース11内に設けられた駆動手段としての電動モータ23と、後述の制御装置25とにより大略構成されている。
【0043】
この場合、電動モータ23は、モータケース11内に収め、ボールアンドランプ機構12やプランジャ21、ねじ部材22と軸方向に並べて配置する構成としている。しかし、本発明はこれに限らず、例えばケーシング5の軸方向長さに制約がある場合等には、ねじ部材22と並列に駆動手段としての電動モータを配置し、例えば複数の歯車等からなる動力伝達機構を介してねじ部材22を回転駆動する構成としてもよい。
【0044】
移動手段としてのプランジャ21は、図2に示すように段付筒状に形成され、径方向外向きに突出する環状鍔部としての大径なばね受部21Aを有している。そして、プランジャ21は、ばね受部21Aが第2のランププレート14との間で主ばね18をプリセット状態(セット荷重を付与した状態)で挟むように、第2のランププレート14に軸方向で対向して設けられている。
【0045】
また、プランジャ21のばね受部21Aには、その外周側に周方向に互いに離間して複数個の係合溝21A1 (図2中に1個のみ図示)が形成され、該各係合溝21A1 は、筒体6の各廻止め突起6Aに係合している。これにより、プランジャ21は、ケーシング5に対し回転が規制された状態で軸方向に移動可能に連結されている。また、プランジャ21の内周側には、例えば台形ねじからなる雌ねじ21Bが形成されている。そして、プランジャ21の雌ねじ21Bは、後述するねじ部材22の雄ねじ22Bと共に、後述の電動モータ23による回転運動をプランジャ21の直線運動に変換するねじ機構を構成している。
【0046】
プランジャ21の内周側を軸方向に延びるねじ部材22は、基端側の軸取付部22Aが後述する電動モータ23の回転軸23Bに着脱可能に連結され、回転軸23Bと一体に回転する。また、ねじ部材22の外周側には、プランジャ21の雌ねじ21Bに螺合する台形ねじからなる雄ねじ22Bが形成され、該雄ねじ22Bは、雌ねじ21Bと一緒にプランジャ21を軸方向に変位させるねじ機構を構成している。また、ねじ部材22には、軸取付部22Aと雄ねじ22Bとの間に位置して環状のフランジ部22Cが設けられている。
【0047】
ここで、ねじ部材22は、軸取付部22Aとフランジ部22Cとがケーシング5の蓋体8内にスラスト軸受10を介して回転可能に支持されている。そして、ねじ部材22に作用する軸方向のスラスト荷重は、フランジ部22Cからスラスト軸受10を介して蓋体8により受承され、電動モータ23にスラスト荷重が作用するのを抑える構成となっている。
【0048】
また、プランジャ21は、台形ねじからなる雌ねじ21Bと雄ねじ22Bを介してねじ部材22に螺合しているため、電動モータ23でねじ部材22を回転駆動しない限りは、図2中の矢示A,B方向のいずれにも変位することはなく、主ばね18と対向ばね19との付勢力によってプランジャ21が軸方向(図2中の矢示A,B方向)に動くことはない。
【0049】
駆動手段としての電動モータ23は、モータケース11内に収容して設けられている。この電動モータ23は、固定子、回転子等(いずれも図示せず)を内蔵した本体部23Aと、該本体部23A内で前記回転子に連結された回転軸23Bとにより大略構成されている。そして、回転軸23Bは、ねじ部材22の軸取付部22Aと一体回転するように連結されている。
【0050】
また、電動モータ23には、回転軸23Bの回転を検出する回転センサ24が設けられている。この回転センサ24は、例えばレゾルバと呼ばれる検出器(即ち、電動モータ23の回転子の位置である磁極位置を検出する検出器)等により構成される。ここで、回転センサ24は、回転軸23B、ねじ部材22の回転を検出し、その検出信号を制御装置25に出力する。そして、制御装置25は、回転センサ24からの検出信号に従って、ねじ部材22の回転によるプランジャ21の軸方向変位をプランジャ21の移動位置としてモニタ(監視)することができる。
【0051】
このように構成された付勢力調整機構20は、電動モータ23によってねじ部材22を正,逆方向に回転駆動し、プランジャ21のばね受部21Aを第2のランププレート14に接近させる図2中の矢示A方向と、該プレート14から離間させる矢示B方向とに直線的に変位させる。これにより、付勢機構17の主ばね18は、第2のランププレート14とプランジャ21のばね受部21Aとの間で軸方向に撓み変形し、両者の間隔(離間寸法)に応じてボールアンドランプ機構12に対する付勢力、即ちばね荷重が可変に調整される。
【0052】
この結果、付勢力調整機構20は、電動モータ23によりねじ部材22を回転駆動してプランジャ21を軸方向に変位させ、ボールアンドランプ機構12に対する主ばね18の付勢力を調整する。これによりスタビライザ装置1は、例えば図4中にハッチングを付して示すように、各スタビライザバー2,3間の捩れ角に対する捩り剛性としての捩りトルクを、車両の直進走行時またはコーナリング走行時等の走行状態に応じてハッチングの範囲内で可変に調整するものである。
【0053】
制御装置25は、付勢力調整機構20の制御手段を構成している。そして、制御装置25の入力側には、図5に示すように、エンジンスイッチ26、回転センサ24、ヨーレートセンサ27、操舵角センサ28および路面センサ29等が接続され、出力側には電動モータ23等が接続されている。制御装置25は、例えば車両走行時の横加速度を計測するヨーレートセンサ27の検出信号を受け、走行路のカーブの度合い、すなわち走行中の道路の曲り具合(曲率)等を求めることができる。また、操舵角センサ28からの検出信号に基づき、運転者がどれくらいの角度でハンドルを操作したかを検知でき、同様に走行中の道路の曲率等を求めることができる。さらに、路面センサ29からの検出信号に基づき、路面の平坦度を検知することができる。
【0054】
また、制御装置25は、図5に示すように記憶部25Aを有し、該記憶部25Aには、後述の目標剛性、プランジャ21の目標位置等を演算するための処理プログラム、前記目標位置に従ってプランジャ21の軸方向位置をフィードバック制御するための車両走行時の制御処理プログラム等が格納されている。さらに、制御装置25の記憶部25Aには、例えば図6に示すプランジャ21の制御基準位置を求める制御基準位置設定処理用プログラムが格納されると共に、前記制御基準位置が更新可能に記憶されるものである。
【0055】
ここで、図6に示すプランジャ21の制御基準位置を求める制御基準位置設定処理は、通常、車両のエンジンを始動(起動)する度毎に行われ、車両走行時の制御処理に先立ってプランジャ21の制御基準位置S1 (図7参照)を予め求めておくものである。なお、プランジャ21の制御基準位置を求める制御基準位置設定処理は、必ずしもエンジンを始動する度毎に行う必要はなく、例えば予め決められた間隔で定期的に行う構成としてもよい。
【0056】
そして、プランジャ21の制御基準位置を求めた後に行う車両走行時の制御処理では、プランジャ21が制御基準位置(例えば、図7に示す制御基準位置S1 )を起点にして軸方向に変位されるものである。即ち、制御装置25による車両走行時の制御処理では、ヨーレートセンサ27、操舵角センサ28および路面センサ29等の検出信号に基づき、第1,第2のスタビライザバー2,3間の目標とする捩り剛性を演算すると共に、この目標剛性を得るためのプランジャ21の目標位置を演算する。
【0057】
そして、制御装置25は、電動モータ23の回転位置を回転センサ24からの信号でフィードバック制御しつつ、プランジャ21の軸方向位置(例えば、制御基準位置S1 を起点にした軸方向の位置)が前記目標位置となるように、電動モータ23、ねじ部材22の回転によりプランジャ21を図2中の矢示A,Bに変位させ、第1,第2のスタビライザバー2,3間の捩り剛性を可変に調整するものである。
【0058】
第1の実施の形態によるスタビライザ装置1は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0059】
まず、車両が直進している場合には、車体が左,右方向でロールすることはほとんどない。このために、スタビライザ装置1に要求される捩り剛性は小さく、第1、第2のスタビライザバー2,3は比較的容易に独立して捩られるように回動することができる。これにより、例えば直進走行時に左,右の車輪のうち一方の車輪が凹部に落ちることがあっても、この一方の車輪だけをストロークさせることができ、安定した走行姿勢を得ることができる。
【0060】
即ち、付勢力調整機構20の制御装置25は、操舵角、アクセル開度、ブレーキの操作状況、横加速度等の情報を基にして車両の走行状況を判断し、直進走行を行っていると判断した場合には、例えば図7に示す制御基準位置S1 までプランジャ21を戻す制御を行う。なお、車両のエンジンを始動して最初に発進させるような場合には、プランジャ21が起点となる制御基準位置S1 に通常は配置されているので、電動モータ23を回転駆動してプランジャ21を軸方向に変位させる必要はない。
【0061】
しかし、車両の走行に伴ってプランジャ21を制御基準位置S1 から軸方向(図2中の矢示A方向)に移動させた後に、車両が直進走行に戻ったような場合には、電動モータ23によってねじ部材22を回転駆動して、例えば図2に示す矢示B方向にプランジャ21を変位させる。そして、制御基準位置S1 までプランジャ21を戻したときには、プランジャ21のばね受部21Aと第2のランププレート14との間隔を相対的に大きくすることができる。
【0062】
これにより、付勢機構17の主ばね18に付加されるセット荷重は、ボールアンドランプ機構12に推力(付勢力)を与える上で最低限必要とされる荷重まで小さくなる。このため、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを相対回転させるのに必要な捩り剛性(捩りトルク)を小さく抑えることができる。従って、スタビライザ装置1の捩り剛性を柔らかくするように小さくできるから、左,右の車輪は、路面の凹凸に合わせて独立してストロークすることができ、良好な乗り心地を得ることができる。
【0063】
この場合、プランジャ21は後述の制御基準位置S1 ,S2 を起点にして軸方向に変位されるものであり、この基準位置よりも後退させる方向(図2中の矢示B方向)にプランジャ21を移動させると、スタビライザ装置1として最低限に必要とされる捩り剛性を確保できなくなる。このため、車両の直進走行時にはプランジャ21が制御基準位置S1 (図7参照)に配置される。なお、後述の如く主ばね18が経年劣化したときには、プランジャ21が劣化時の制御基準位置S2 を起点にして軸方向に変位されることにより、付勢機構17の付勢力は可変に調整されるものである。
【0064】
次に、道路のコーナ部分等をステアリング操作して車両が走行する場合には、外側へのロールを抑える必要がある。そこで、スタビライザ装置1は、電動モータ23によってねじ部材22を前述の場合とは逆方向に回転駆動し、例えば図7に示す制御基準位置S1 を起点として、プランジャ21を図2中の矢示A方向に変位させ、プランジャ21のばね受部21Aと第2のランププレート14との間隔を相対的に小さくする。
【0065】
これにより、付勢機構17の主ばね18に付加されるセット荷重は大きくなるから、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを捩るように相対回転させる上で必要とされる捩りトルクを、相対的に大きなトルクに設定することができる。従って、スタビライザ装置1は、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を高めることで、車体が外側にロールするのを抑えることができ、コーナリング時の走行姿勢を安定させることができる。
【0066】
このコーナリング時の制御では、左コーナを走行する場合、右コーナを走行する場合のいずれでも、付勢力調整機構20によって主ばね18のセット荷重を大きくする制御を行っている。これにより、山道を走行する場合、スラローム走行を行う場合のように、左コーナと右コーナとが交互に続く場合でも、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を一度高めた後には、速度やコーナの大きさに応じて微調整するだけでよく、電動モータ23の頻繁な駆動制御を省略または抑制することができる。
【0067】
また、直動機構としてのボールアンドランプ機構12は、第1,第2のランププレート13,14と、これらの間に転動可能に設けた剛体のボール15とにより構成され、第1,第2のスタビライザバー2,3間の相対回転を直線運動に変換している。そして、各ランププレート13,14に設けたランプ溝13B,14Bは、図3に示す如く長さ方向の中央部が溝の最深部となり、両端側に向けて浅くなる円弧状溝として形成している。
【0068】
このように、第1,第2のランププレート13,14のプロフィール、即ちランプ溝13B,14Bの溝形状を円弧状とすることにより、例えば図4中にハッチングを付して示した特性線のように、非線形特性を得ることができ、乗り心地の向上化を図ることができる。即ち、図4中にハッチングを付して示した特性線のように、各スタビライザバー2,3間の捩れ角が小さい範囲では、捩り剛性(トルク)に影響する主ばね18のばね荷重を低くして乗り心地を良好にすることができる。また、各スタビライザバー2,3間の捩れ角が大きい範囲では、主ばね18によるばね荷重を高くして捩り剛性を高めることができ、コーナを走行するときのロールを抑制して車両の走行姿勢を安定させることができる。
【0069】
ところで、付勢機構17を構成する主ばね18は、ボールアンドランプ機構12の第2のランププレート14に対して矢示A方向の付勢力を与え、これにより第1,第2のスタビライザバー2,3間の捩り剛性を確保しているものである。しかし、主ばね18が経年劣化等により付勢力の特性(例えば、ばね定数)が変化したときには、第2のランププレート14に対する矢示A方向の付勢力(推力)が低下してしまう。
【0070】
そして、主ばね18が劣化した状態を放置すると、例えば電気系統の失陥等によるフェイル時に、電動モータ23を回転駆動できなくなった場合に、第1,第2のスタビライザバー2,3間の捩り剛性を確保できなくなり、スタビライザ装置として最低限必要な捩り剛性を維持することが難しくなる。
【0071】
そこで、第1の実施の形態では、プランジャ21のばね受部21Aと蓋体8との間に、プランジャ21を主ばね18とは逆向きに付勢する対向ばね19を設け、主ばね18のばね特性が劣化したときにも、制御装置25によるプランジャ21の制御基準位置設定処理を図6に示す手順に沿って行うことにより、電気系統等のフェイル時にもプランジャ21を制御基準位置に保持して、スタビライザ装置1に最低限必要な捩り剛性を確保できる構成としている。
【0072】
即ち、図6に示す制御基準位置設定処理がスタートすると、ステップ1でエンジンスイッチ26からの信号により、車両のエンジンが始動したか否かを判定する。そして、ステップ1で「YES」と判定したときは、車両のエンジンが始動されることにより路上走行を開始する前の段階であるから、次のステップ2に移って電動モータ23を駆動する。
【0073】
この場合、電動モータ23は制御装置25から駆動電流が供給されると、回転軸23Bによりねじ部材22を回転駆動するので、ステップ3ではプランジャ21がねじ部材22の回転に従って軸方向に移動する。これにより、プランジャ21を図2中の矢示A方向に変位させると、プランジャ21のばね受部21Aが第2のランププレート14側に近付くように移動するので、付勢機構17の主ばね18が圧縮されるように弾性変形する。
【0074】
そして、このように主ばね18が圧縮変形されるときには、プランジャ21の位置と電動モータ23のモータトルクとの関係を、図7中に示す特性線30によって表すことができる。この場合、制御装置25から電動モータ23に供給する駆動電流Iは、モータトルクに比例して増減するものである。従って、図7中に示す特性線30,31の縦軸は、モータトルク(駆動電流I)として表されるものである。
【0075】
一方、プランジャ21を図2中の矢示B方向に変位させるときには、プランジャ21のばね受部21Aが第2のランププレート14から離れる方向に移動するので、この場合には付勢機構17の対向ばね19が蓋体8とばね受部21Aとの間で圧縮されるように弾性変形する。そして、このように対向ばね19が圧縮変形されるときには、プランジャ21の位置と電動モータ23のモータトルク(駆動電流I)との関係を、図7に示す特性線31によって表すことができる。
【0076】
そこで、図6に示す制御処理では、ステップ3でプランジャ21が軸方向に移動する度毎に、ステップ4で駆動電流Iの値を読込む。そして、次のステップ5では駆動電流Iが最小値まで低下しているか否かを判定する。ステップ5で「NO」と判定するときには、駆動電流Iが最小値まで下がっていないので、ステップ2に戻って電動モータ23を駆動し続け、所望の駆動電流Iを供給してステップ3以降の処理を続行する。
【0077】
一方、ステップ5の処理で「YES」と判定したときには、駆動電流Iが最小値となっているので、次のステップ6で電動モータ23を停止する。そして、次のステップ7では駆動電流Iが最小値となったときのプランジャ21の位置を、例えば図7に示す制御基準位置S1 として記憶部25Aに記憶する。この場合、プランジャ21の位置は、回転センサ24により電動モータ23の回転位置として検出された検出信号により求められるものである。
【0078】
ところで、付勢機構17を構成する主ばね18が経年劣化等によりばね特性(ばね定数)が変化してくると、主ばね18が圧縮変形されるときのプランジャ21の位置と電動モータ23のモータトルクとの関係は、図7中に点線で示す特性線32のように劣化した特性となる。このため、駆動電流Iが最小値となるプランジャ21の位置は、例えば図7中に示す制御基準位置S1 から劣化時の制御基準位置S2 へと移動してしまう。
【0079】
そこで、主ばね18が経年劣化したような場合には、劣化時の制御基準位置S2 を記憶部25Aに記憶させる。そして、この制御基準位置S2 を用いて電動モータ23の駆動制御を行い、プランジャ21を制御基準位置S2 を起点として軸方向変位させることにより、スタビライザ装置1として必要とされる捩り剛性を常に確保しつつ、車両の走行条件に応じた捩り剛性の可変制御を実現することができる。
【0080】
従って、第1の実施の形態によれば、例えば電気系統のフェイル時に電動モータ23を回転駆動できなくなったとしても、プランジャ21を図7に示す制御基準位置S1 (主ばね18の劣化時には制御基準位置S2 )に配置して、プランジャ21を制御基準位置(例えば、S1 またはS2 )に保持することができ、第1,第2のスタビライザバー2,3間の捩り剛性を必要最低限の剛性として確保することができる。
【0081】
そして、このように必要最低限の捩り剛性を確保した状態で車両を路上走行させることにより、例えば修理工場等まで車両を安全に運転することができる。また、電気系統の故障を修理した後には、仮に劣化した主ばね18を使用し続ける場合でも、劣化時の制御基準位置S2 を記憶部25Aに記憶させることにより、この制御基準位置S2 を用いて電動モータ23の駆動制御を行い、プランジャ21を制御基準位置S2 を起点として軸方向変位させることができ、スタビライザ装置1として必要とされる捩り剛性を常に確保しつつ、車両の走行条件に応じた捩り剛性の可変制御を続行することができる。
【0082】
また、第1の実施の形態によれば、第1のスタビライザバー2と第2のスタビライザバー3とを連結して捩り剛性を調整する可変剛性部4を、前記各スタビライザバー2,3間の相対回転運動を直線運動に変換するボールアンドランプ機構12と、前記直線運動を抑制するためにボールアンドランプ機構12の第2のランププレート14を付勢する付勢機構17と、該付勢機構17の付勢力を調整する付勢力調整機構20とにより構成している。
【0083】
そして、可変剛性部4は、第1,第2のスタビライザバー2,3間の捩り剛性を調整する場合に、付勢力調整機構20によって付勢機構17の主ばね18の付勢力を小さくするか、大きくするかの調整を行うだけで、左コーナと右コーナとで同様の制御とすることができる。即ち、左コーナと右コーナとが交互に続く場合でも、プランジャ21の雌ねじ21Bとねじ部材22の雄ねじ22Bとに台形ネジを用いているため、各スタビライザバー2,3間の捩り剛性を一度高めるだけでよく、電動モータ23の頻繁な駆動を防止することができる。
【0084】
これにより、調整動作の回数削減による省電力化、構成を簡略化したことによる小型化等を図ることができる。特に、プランジャ21の雌ねじ21Bとねじ部材22の雄ねじ22Bとに逆作動性を抑える台形ネジを採用することにより、例えば左コーナと右コーナが交互に連続する場合に、台形ネジは制御された螺合位置を保持し、電動モータ23への供給電力を停止あるいは減少させることができるので、電力の消費を低減できる。
【0085】
即ち、電動モータ23の回転をねじ部材22に螺合するプランジャ21の直線運動に変えて、付勢機構17の主ばね18のばね長さを制御し、弾性力を変えることにより、第1,第2のスタビライザバー2,3間の捩り剛性を調整する構成としている。そして、上記の捩り剛性を保持する場合には、雌ねじ21Bと雄ねじ22Bとの間の機械的な摩擦力を利用して主ばね18のばね長さを保持する構造としている。
【0086】
このため、電動モータ23の駆動トルク(回転トルク)をほとんど、あるいは全く用いることなく、プランジャ21の螺合位置に応じて調整された捩り剛性を保持できる。即ち、捩り剛性を可変に調整しなければならないときには電動モータ23に大電力を供給する。しかし、捩り剛性を調整することなく保持するときには、大電力の供給を不要にできるので、消費電力を低減できる効果が有る。
【0087】
また、図7に細線で示す特性線30′、32′は、対向ばね19をもたない構成の特性線である。対向ばね19がないと、経年劣化等により最低ばね力が図7中に示す寸法d2 分だけ大きくずれることになる。これに対し、対向ばね19を用いることにより、経年劣化等による最低ばね力のずれを図7中に示す寸法d1 まで小さく抑えることができる。さらに対向ばね19を有し、本発明の制御を行うことにより、モータトルクの変化を小さくすることができる。
【0088】
しかも、ボールアンドランプ機構12は、第1のスタビライザバー2に連結され第1のランプ溝13Bを有する第1のランププレート13と、第2のスタビライザバー3に連結され第2のランプ溝14Bを有する第2のランププレート14と、第1,第2のランプ溝13B,14Bを介して第1,第2のランププレート13,14間に挟まれたボール15とにより構成している。従って、ボールアンドランプ機構12は、各スタビライザバー2,3間の捩れとなる相対回転運動を、簡単な構成で直線運動に変換することができ、構成を簡略化することができる。これにより、スタビライザ装置1を小型化することができ、車体に対する取付けの自由度を高めることができる。
【0089】
また、付勢機構17の付勢力を調整する付勢力調整機構20を、付勢機構17の主ばね18に当接するプランジャ21と、回転運動を該プランジャ21の直線運動に変換するため該プランジャ21に螺合したねじ部材22と、該ねじ部材22に連結された電動モータ23等とにより構成しているから、制御が容易な電動モータ23を用いて付勢機構17のセット荷重を調整することができ、構成の簡略化による小型化、製造コストの低減等を図ることができる。
【0090】
また、第1の実施の形態では、ボールアンドランプ機構12に推力を与える主ばね18の径方向内側となる部位に、付勢力を可変に制御するための付勢力調整機構20(即ち、プランジャ21とねじ部材22)を配置しているので、スタビライザ装置1のケーシング5内で空間を有効に活用することができ、装置の小型化を図ることができる。
【0091】
また、第1の実施の形態では、第1,第2のランププレート13,14間でボール15を挟持し、傾斜部としてのランプ溝13B,14Bを有するボールアンドランプ機構12と、この機構12に推力としての付勢力を与える付勢機構17(主ばね18)とからなるシンプルな構成を採用している。この構成により製造コストを低減することができ、生産性を向上できる。また、装置の構造が簡易化され、長寿命とすることができる。
【0092】
また、ボールアンドランプ機構12に推力を与える付勢機構17を収納している可変剛性部4のケーシング5を、第1,第2のスタビライザバー2,3間で捩り力の伝達部材として使用しているので、これによってもスタビライザ装置1の構造をシンプルにすることができる。
【0093】
次に、図8ないし図10は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、付勢機構を、一端側が直動機構に当接する第1の付勢手段と、移動手段に対して軸方向に移動可能に連結され該第1の付勢手段の他端側が当接するストッパ部材と、該ストッパ部材と前記移動手段との間に配置され該移動手段を第1の付勢手段と同方向に付勢する第2の付勢手段とにより構成したことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0094】
ここで、第2の実施の形態による可変剛性部4のケーシング41は、第1の実施の形態で述べたケーシング5とほぼ同様に、筒体6、蓋体7,42およびモータケース11を含んで構成されている。しかし、この場合のケーシング41は、筒体6の軸方向他側(図8中の右側部位)を閉塞した蓋体42が、第1の実施の形態で述べた蓋体8とは異なる形状に形成されている。これは、後述の付勢機構43が異なる構成となっているためであり、蓋体42の内周側に設けたスラスト軸受10は、第1の実施の形態と同様にねじ部材22を回転可能に支持し、ねじ部材22に作用する軸方向のスラスト荷重を受承している。
【0095】
第2の実施の形態で採用した付勢機構43は、第1の実施の形態で述べた付勢機構17とほぼ同様に構成され、第2のランププレート14の直線運動を抑制する方向に該ランププレート14を付勢するため当該ランププレート14の右側に位置して筒体6内に設けられている。しかし、この場合の付勢機構43は、下記の点で第1の実施の形態で述べた付勢機構17とは異なる構成となっている。
【0096】
即ち、付勢機構43は、一端側がボールアンドランプ機構12の第2のランププレート14に当接する第1の付勢手段としての主ばね44と、後述のプランジャ48に対して軸方向に移動可能に連結され主ばね44の他端側が当接するストッパ部材45と、該ストッパ部材45とプランジャ48との間に配置され主ばね45とは異なるばね定数をもってプランジャ48を主ばね45と同方向に付勢する第2の付勢手段としての補助ばね46とにより構成されている。
【0097】
ここで、第1の付勢手段である主ばね44は、複数枚(例えば5枚)の皿ばねを互い違いに互いに重合わせることにより構成され、第2の付勢手段である補助ばね46は、主ばね44よりも小さいばね定数をもった複数枚(例えば4枚)の皿ばねを互い違いに互いに重合わせることにより構成されている。また、ストッパ部材45は、断面L字状をなす環状体として形成され、その内周側は、プランジャ48の外周側に隙間をもって挿通されている。
【0098】
また、ストッパ部材45は、プランジャ48の外周側で主ばね44と補助ばね46とに挟まれて配置され、後述するプランジャ48のばね受部48Aとストッパ部材45の先端との間には、図8に示すように隙間δが補助ばね46の付勢力により形成される。そして、プランジャ48が後述の如く図8中の矢示A方向に移動されて隙間δが零となり、ストッパ部材45の先端がプランジャ48のばね受部48Aに当接したときには、補助ばね46が最大圧縮状態となり、ストッパ部材45は、補助ばね46のこれ以上の撓みを規制するものである。
【0099】
従って、プランジャ48が図8中の矢示A方向にさらに移動されるときには、ストッパ部材45の先端がプランジャ48のばね受部48Aに当接した状態で、主ばね44のみが圧縮方向に撓み変形される。そして、このときに主ばね44は、圧縮変形に対応したばね荷重(付勢力)を発生し、ボールアンドランプ機構12の第2のランププレート14に対し矢示A方向の付勢力(推力)を与えるものである。
【0100】
しかし、主ばね44が経年劣化等により付勢力の特性(例えば、ばね定数)が変化したときには、第2のランププレート14に対する矢示A方向の付勢力(推力)が低下することもある。そこで、プランジャ21のばね受部21Aとストッパ部材45との間には、第2の付勢手段としての補助ばね46を設け、主ばね18のばね特性が劣化した場合の対策として、後述のようにプランジャ48の制御基準位置Sa (図10参照)をストッパ部材45と補助ばね46を用いて求めるものである。
【0101】
第2の実施の形態で採用した付勢力調整機構47は、第1の実施の形態で述べた付勢力調整機構20とほぼ同様に構成され、付勢機構43の付勢力を調整するためにケーシング41の筒体6内に設けられている。そして、付勢力調整機構47は、第1の実施の形態とほぼ同様に、筒体6内に設けられた移動手段としてのプランジャ48、ねじ部材22と、モータケース11内に設けられた駆動手段としての電動モータ23と、制御装置25とにより大略構成されている。
【0102】
しかし、移動手段としてのプランジャ48は、前述の如く付勢機構43の構成が第1の実施の形態とは異なるために異なる形状(よりシンプルな形状)に形成され、大径なばね受部48Aと、雌ねじ48Bとを有している。そして、プランジャ48のばね受部48Aには、その外周側に周方向に互いに離間して複数個の係合溝48A1 (図8中に1個のみ図示)が形成され、該各係合溝48A1 は、筒体6の各廻止め突起6Aに係合している。これにより、プランジャ48は、ケーシング41に対し回転が規制された状態で軸方向に移動可能に連結されている。
【0103】
かくして、このように構成された第2の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、第2の実施の形態によれば、付勢機構43を、主ばね44、ストッパ部材45および補助ばね46により構成し、主ばね44のばね特性が劣化したときにも、制御装置25によるプランジャ48の制御基準位置設定処理を図9に示す手順に沿って行うことにより、電気系統等のフェイル時にもプランジャ48を制御基準位置に保持して、スタビライザ装置1に最低限必要な捩り剛性を確保できる構成としている。
【0104】
即ち、図9に示す制御基準位置設定処理がスタートすると、ステップ11からステップ14にわたる処理を、第1の実施の形態で述べた図6に示すステップ1からステップ4と同様に行う。この場合、電動モータ23は制御装置25から駆動電流が供給されると、回転軸23Bによりねじ部材22を回転駆動するので、ステップ13ではプランジャ48がねじ部材22の回転に従って軸方向に移動する。
【0105】
これにより、例えば図8に示す位置からプランジャ48を矢示A方向に変位させると、プランジャ48のばね受部48Aが第2のランププレート14側に近付くように移動するので、付勢機構43の補助ばね46が先に圧縮されるように弾性変形する。そして、このように補助ばね46が圧縮変形されるときには、プランジャ48の位置と電動モータ23のモータトルクとの関係を、図10中に示す特性線49によって表すことができる。
【0106】
この状態で、電動モータ23を同方向に回転駆動してプランジャ48をさらに矢示A方向に変位させると、ストッパ部材45の先端がプランジャ48のばね受部48Aに当接して図8中に示す隙間δが零となり、ストッパ部材45は補助ばね46のこれ以上の撓み変形を規制する。そして、ストッパ部材45の先端がプランジャ48のばね受部48Aに当接した状態で、さらに電動モータ23を同方向に回転駆動してプランジャ48を矢示A方向に変位させるときには、主ばね44が圧縮されるように弾性変形する。
【0107】
そして、このように主ばね44が圧縮変形されるときには、プランジャ48の位置と電動モータ23のモータトルクとの関係を、図10中に示す特性線50によって表すことができる。この場合、制御装置25から電動モータ23に供給する駆動電流Iは、モータトルクに比例して増減するものである。従って、図10中に示す特性線49,50の縦軸は、モータトルク(駆動電流I)として表されるものである。
【0108】
一方、プランジャ48を図8中の矢示B方向に変位させるときには、プランジャ48のばね受部48Aが第2のランププレート14から離れる方向に移動するので、ストッパ部材45がプランジャ48のばね受部48Aに当接している間は図10中に示す特性線50に沿ってモータトルク(駆動電流I)が減少し、ストッパ部材45がばね受部48Aから離間したときには特性線49に沿ってモータトルク(駆動電流I)が減少する。
【0109】
そこで、図9に示す制御処理では、ステップ13の処理でプランジャ48が軸方向に移動する度毎に、ステップ14で駆動電流Iの値を読込む。そして、次のステップ15では駆動電流Iが、予め決められた所定のトルク(モータトルク)に対応する電流値Io に達したか否かを判定する。そして、ステップ15で「NO」と判定するときには、駆動電流Iが電流値Io に達していないので、ステップ12に戻って電動モータ23を駆動し続け、所望の駆動電流Iを供給してステップ13以降の処理を続行する。
【0110】
一方、ステップ15の処理で「YES」と判定したときには、駆動電流Iが電流値Io に達した場合であるから、次のステップ16で電動モータ23を停止する。そして、次のステップ17では駆動電流Iが電流値Io に達したときのプランジャ48の位置を、例えば図10に示す制御基準位置Sa として記憶部25Aに記憶する。この場合、プランジャ48の位置は、回転センサ24により電動モータ23の回転位置として検出された検出信号により求められるものである。
【0111】
ところで、付勢機構43を構成する主ばね44が経年劣化等によりばね特性(ばね定数)が変化してくると、主ばね44が圧縮変形されるときのプランジャ48の位置と電動モータ23のモータトルクとの関係は、図10中に点線で示す特性線51のように劣化した特性となる。
【0112】
然るに、第2の実施の形態では、付勢機構43を、主ばね44、ストッパ部材45および補助ばね46により構成し、補助ばね46が弾性変形する範囲(図10中に特性線49で示す範囲)で駆動電流Iが電流値Io となるプランジャ48の位置を、例えば図10中に示す制御基準位置Sa として設定し、制御装置25の記憶部25Aに記憶させる構成としている。
【0113】
このため、主ばね44が経年劣化したような場合でも、前述したステップ17により記憶部25Aに記憶した制御基準位置Sa を用いて電動モータ23の駆動制御を行うことができ、プランジャ48を制御基準位置Sa を起点として軸方向変位させることにより、スタビライザ装置1として必要とされる捩り剛性を常に確保しつつ、車両の走行条件に応じた捩り剛性の可変制御を実現することができる。
【0114】
従って、第2の実施の形態によれば、例えば電気系統のフェイル時に電動モータ23を回転駆動できなくなったとしても、プランジャ48は、図10に示す制御基準位置Sa にあるので、第1,第2のスタビライザバー2,3間の捩り剛性を必要最小限の剛性として確保することができる。また、制御装置25は、駆動手段(電動モータ23)によりトルクが発生する制御基準位置を、第2の付勢手段(補助ばね46)が弾性変形する範囲、即ち図10中の特性線49の範囲内として求めることができる。
【0115】
一方、電動モータ23を回転駆動して捩り剛性の可変制御を行っている場合でも、例えばモータの回転角制御の不感帯、部品寸法のバラツキ等の影響でプランジャ48の戻り位置にバラツキが生じることも考えられる。そして、プランジャ48の戻り位置が図10に示す寸法βの範囲でバラツキが生じたとしても、モータトルク、装置の捩り剛性が大きく変動するのを抑えることができる。
【0116】
即ち、第2の実施の形態では、仮にプランジャ48の戻り位置に寸法βの範囲でバラツキが生じても、この範囲は補助ばね46が図10中の特性線49に沿って弾性変形する範囲となるので、モータトルクの変動幅を寸法e1の範囲に収めることができ、捩り剛性の変動を抑えることができる。特に、捩れ角が小さい範囲での捩り剛性が過大になったり、過小になったりするのを補助ばね46により抑えることができ、安定した捩り剛性を発生させることができる。
【0117】
これに対し、補助ばね46を廃止して主ばね44のみで付勢機構を構成した場合には、プランジャ48の位置と電動モータ23のモータトルクとの関係は、図10中に二点鎖線で示す特性線52によって表すことができる。しかし、この場合には、プランジャ48の戻り位置に寸法βの範囲でバラツキが生じたときに、モータトルクの変動幅が寸法e2の範囲まで大きくなり、モータトルクに対応する装置の捩り剛性が零になることも考えられ、フェイル時の操縦安定性が低下する。
【0118】
従って、第2の実施の形態では、付勢機構43を、主ばね44、ストッパ部材45および補助ばね46を用いて構成することにより、電気系統のフェイル時にも装置の捩り剛性を必要最小限の剛性として確保できる上に、捩れ角が小さい範囲での捩り剛性が過大になったり、過小になったりするのを補助ばね46により抑えることができ、安定した捩り剛性を発生することができる。
【0119】
なお、前述した第1の実施の形態では、第1,第2のランププレート13,14に設けるランプ溝13B,14Bを、その長さ方向の中央部が最深部となり、両端側に向けて浅くなる円弧状溝として形成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばランプ溝の形状を変更して、長さ方向の中央部が最深部となり、両端側に向けて直線状に浅くなるV字状の傾斜溝として形成してもよい。また、ランプ溝の中央部に位置する最深部を平坦な形状に形成してもよい。この場合、ランプ溝の最深部の位置でボールが転動しているときには、トルクを発生しないから、小さな凹凸が車体に伝わらないようにすることができ、乗り心地を良好にすることができる。
【0120】
また、第1の実施の形態では、各ランププレート13,14に夫々3本のランプ溝13B,14Bを設け、該各ランプ溝13B,14Bに3個のボール15を収容した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばランプ溝13B,14Bを2本または4本以上設け、ボール15を2個または4個以上設ける構成としてもよい。
【0121】
一方、第1の実施の形態では、直線運動を抑制する方向に第2のランププレート14を付勢する付勢機構17の主ばね18を、複数枚の皿ばねにより構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば対向ばね19より大なるばね定数をもったコイルばねを、複数枚の皿ばねに代えて用いる構成としてもよい。このような変更は、第2の実施の形態にも同様に適用することができる。そして、複数枚の皿ばねに代えてコイルばね(対向ばね19よりもばね定数が大きなコイルばね)を用いると一部材で済み、例えば皿ばねを用いる場合と比して組立て性に優れるという利点がある。
【0122】
また、第1の実施の形態では、プランジャ21の雌ねじ21Bとねじ部材22の雄ねじ22Bとからなるねじ機構を、台形ねじによって構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばボールねじ等の他のねじ機構を用いる構成としてもよい。この構成は、第2の実施の形態にも同様に適用することができる。
【0123】
ここで、台形ねじを用いた場合とボールねじを用いた場合とを比較する。台形ねじは、逆作動性が低いため、一度剛性を高くする側に移動すると電力を消費することなく特性を保持することができるが、フェイル時にプランジャの位置が決まってしまい、所定の捩り剛性に戻すことが難しい。一方、ボールねじは機械効率が高く、逆作動性が良いのでフェイル時には捩り剛性がソフトな特性に落ち着き、前後のロール配分を狙い通りにできる反面、制御時にはプランジャ位置を保持するためモータに電流を流し続けなければならない。それぞれにメリットとデメリットがあるので、要求に応じて適宜選択するとよい。
【0124】
また、上記各実施の形態では、第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーを柔軟性を持つ材料で形成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明おいては、実質的に柔軟性を持たない剛性の極めて高い材料で、第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーに剛性の高い材料を用いることもできる。
【0125】
次に、上記の実施の形態に含まれる発明について述べる。付勢機構は、一端側が直動機構に当接し他端側が移動手段に当接する第1の付勢手段と、前記移動手段を該第1の付勢手段とは反対方向に異なるばね定数をもって付勢する第2の付勢手段とを有し、制御手段は、駆動手段のトルクが最小値となる前記移動手段の位置を制御基準位置として記憶部により記憶する構成としている。
【0126】
これにより、駆動手段で移動手段を軸方向の一方側へと変位させると、移動手段が直動機構側に近付くように移動し、付勢機構の第1の付勢手段が圧縮されるように弾性変形する。そして、このように第1の付勢手段が圧縮変形されるときには、移動手段の位置と駆動手段のトルクとの関係を、一定の傾きをもった直線状の特性線により表すことができる。一方、駆動手段で移動手段を軸方向の他方側へと変位させるときには、移動手段が直動機構側から離れる方向に移動するので、この場合には付勢機構の第2の付勢手段が圧縮されるように弾性変形する。そして、このように第2の付勢手段が圧縮変形されるときには、移動手段の位置と駆動手段のトルクとの関係を、前述の場合とは逆向きで異なる角度の傾きをもった直線状の特性線によって表すことができる。
【0127】
そこで、上述の二つの特性線の交点となる位置で駆動手段のトルクが最小値となる制御基準位置を求めることができ、これを制御基準位置として制御手段の記憶部に記憶する。これにより、移動手段を制御基準位置を起点として軸方向変位させることによって、スタビライザ装置として必要とされる捩り剛性を常に確保しつつ、車両の走行条件に応じた捩り剛性の可変制御を実現することができる。また、例えば電気系統のフェイル時に駆動手段を駆動できなくなったとしても、移動手段を制御基準位置に配置して当該位置に保持することができ、この状態でスタビライザ装置の捩り剛性を必要最低限の剛性として確保することができる。
【0128】
また、付勢機構は、一端側が直動機構に当接する第1の付勢手段と、移動手段に対して軸方向に移動可能に連結され該第1の付勢手段の他端側が当接するストッパ部材と、該ストッパ部材と前記移動手段との間に配置され前記第1の付勢手段とは異なるばね定数をもって前記移動手段を第1の付勢手段と同方向に付勢する第2の付勢手段とにより構成し、制御手段は、駆動手段により前記移動手段を軸方向に移動させ、前記ストッパ部材が移動手段に対して相対移動する範囲内で前記駆動手段のトルクが所定の値となる前記移動手段の位置を制御基準位置として記憶部により記憶する構成としている。
【0129】
この場合には、例えば第2の付勢手段を第1の付勢手段に比較して小さいばね定数に設定することにより、前記ストッパ部材が移動手段に対して相対移動する範囲内で駆動手段のトルクが所定の値となる前記移動手段の位置を制御基準位置として記憶部に記憶することができ、移動手段を制御基準位置を起点として軸方向変位させることによって、スタビライザ装置として必要とされる捩り剛性を常に確保しつつ、車両の走行条件に応じた捩り剛性の可変制御を実現することができる。また、例えば電気系統のフェイル時に駆動手段を駆動できなくなったとしても、移動手段を制御基準位置に配置して当該位置に保持することができ、この状態でスタビライザ装置の捩り剛性を必要最低限の剛性として確保することができる。
【符号の説明】
【0130】
1 スタビライザ装置
2 第1のスタビライザバー
3 第2のスタビライザバー
4 可変剛性部
5,41 ケーシング
12 ボールアンドランプ機構(直動機構)
13 第1のランププレート
13B 第1のランプ溝(第1の傾斜部)
14 第2のランププレート
14B 第2のランプ溝(第2の傾斜部)
15 ボール
17,43 付勢機構
18,44 主ばね(第1の付勢手段)
19 対向ばね(第1の付勢手段)
20,47 付勢力調整機構
21,48 プランジャ(移動手段)
21B,48B 雌ねじ
22 ねじ部材
22B 雄ねじ
23 電動モータ(駆動手段)
24 回転センサ
25 制御装置(制御手段)
25A 記憶部
45 ストッパ部材
46 補助ばね(第1の付勢手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスタビライザバーと、第2のスタビライザバーと、該各スタビライザバーを連結してねじり剛性を調整する可変剛性部とからなり、
該可変剛性部は、
前記第1のスタビライザバーと第2のスタビライザバーとの相対回転に応じて直線運動する直動機構と、
前記直線運動を抑制する方向に該直動機構を付勢し複数の異なるばね定数をもった付勢機構と、
該付勢機構の付勢する力を調整する付勢力調整機構とを有する構成とし、
該付勢力調整機構は、軸方向に移動して前記付勢機構の付勢する力を変える移動手段と、該移動手段を駆動する駆動手段と、該駆動手段を制御する制御手段とを有し、
該制御手段は、前記付勢機構の付勢する力を小さくするように前記駆動手段により前記移動手段を軸方向に移動させ、前記駆動手段のトルクが所定の値となる前記移動手段の位置を制御基準位置として記憶する記憶部を有してなるスタビライザ装置。
【請求項2】
前記付勢機構は、一端側が前記直動機構に当接し他端側が前記移動手段に当接する第1の付勢手段と、前記移動手段を該第1の付勢手段とは反対方向に異なるばね定数をもって付勢する第2の付勢手段とを有し、
前記制御手段は、前記駆動手段のトルクが最小値となる前記移動手段の位置を前記制御基準位置として前記記憶部により記憶する構成としてなる請求項1に記載のスタビライザ装置。
【請求項3】
前記付勢機構は、一端側が前記直動機構に当接する第1の付勢手段と、前記移動手段に対して軸方向に移動可能に連結され該第1の付勢手段の他端側が当接するストッパ部材と、該ストッパ部材と前記移動手段との間に配置され前記第1の付勢手段とは異なるばね定数をもって前記移動手段を第1の付勢手段と同方向に付勢する第2の付勢手段とにより構成し、
前記制御手段は、前記駆動手段により前記移動手段を軸方向に移動させ、前記ストッパ部材が移動手段に対して相対移動する範囲内で前記駆動手段のトルクが所定の値となる前記移動手段の位置を前記制御基準位置として前記記憶部により記憶する構成としてなる請求項1に記載のスタビライザ装置。
【請求項4】
前記第2の付勢手段は、前記第1の付勢手段に比較して小さいばね定数に設定してなる請求項2または3に記載のスタビライザ装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記駆動手段のトルクの発生が前記第2の付勢手段による範囲で前記制御基準位置を求めることを特徴とする請求項2,3または4に記載のスタビライザ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−93418(P2011−93418A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248920(P2009−248920)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】