説明

ステンレス鋼クラッド銅線の製造方法

【課題】高品質のステンレス鋼クラッド銅線を生産性よく製造する製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】(イ)芯材となる銅素線を準備する段階と、(ロ)該芯材が最終的に全容積の70〜95%の比率となるステンレス外装帯材で被包するとともに、その縁部の突合せ溶接によって前記芯材の表面露出を防止したクラッド線材を得る段階と、(ハ)該クラッド線材を最後には除去される第二外装材でダブル被覆して複合線材を形成する段階と、(ニ)該複合線材に減寸加工と熱処理加工とを必要に応じて繰り返して行い、かつその加工の間に前記ステンレス外装帯材の溶接部組織をオーステナイト組織に安定化する細径化段階と、(ホ)前記細径化段階又は細径化後のいずれか時点で、前記複合線材から前記第二外装材だけを分離除去する段階と、を含むことを特徴とするステンレス鋼クラッド銅線の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性と耐食性に優れ、かつ安定した導電性を有するステンレス鋼クラッド銅線の製造方法に関し、特に表面欠陥のない高品質なクラッド銅細線を安定的に製造する為の新規製造方法に関する。
【従来技術】
【0002】
燃料電池は、電気化学反応によって燃料の持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換することから、エネルギー損失が少なく高い発電効率が得られる次世代のエネルギーとして注目され、またその反応も数百度の高温であることから、この排熱を蒸気タービンやガスタービンなどを回す熱源としてコーゼネレーションシステムに利用できること、また有害な排ガスなどの発生のない低環境負荷型の発電方式であること等の利点が挙げられている。
【0003】
ところで、このような装置では電池本体と電源制御機器を結ぶ電線材料として種々のフレキシブルケーブルなどが用いられるが、特に前記高温環境下でも所定の導電率を備える特性が必要となることから、例えば特許文献1では、導電用の銅線の表面にステンレス鋼をクラッド加工したステンレスクラッドCu線を編組加工した編組線を用いることを開示している。またこの中で、該ステンレスクラッドCu線では、銅線の純度は99%以上の高純度を有すること、ステンレス鋼は炭素0.06重量%以下のSUS304Lが好ましいこと、導電率はCu素線を100とするとき85%以上であること、などの点を説明している。
【0004】
また特許文献2は、前記文献1と同様に、銅線の芯部と、これを被覆するステンレス鋼外皮で構成される、引張強さ600N/mm2以上で、絞り値が30%以上のステンレス鋼被覆銅線について、冷間伸線加工と中間熱処理を行い、最終回の冷間伸線加工をダイス減面率20%以上で行うこと(請求項6)、ステンレス鋼はSUS304L,316Lが好ましいこと(
【0027】
)、適用仕上げ線径は0.07〜1.5mmであること(
【0035】
)、伸線加工は湿式連続多段伸線機によること(
【0040】
)、使用ダイスはアプローチ角が8〜14度、ベアリング長さが空孔径の約0.3〜1.0倍程度であること(
【0031】
)などの点を開示している。
【0005】
【特許文献1】 特開2002−208314号公報
【特許文献2】 特開2000−176534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように前記各特許文献は、いずれも銅線を芯材としてその表面にステンレス鋼を被覆した複合線材を開示し、その容積比率を所定範囲になるように調整するものとしているが、前記ステンレス鋼の被覆形成をより確実に行ない、芯材の露出を防止することについては何ら開示されていない。
【0007】
すなわち前記文献は、フレキシブルケーブル等の用途に用いる場合の品質特性として、予め設計された所定導電率を備える必要があるものの、一般的に銅金属を前記高温環境下で使用するものでは容易に酸化してしまい、導電率が低下することから、前記ステンレス鋼の被覆によって内部の銅芯材の酸化を抑え導電率維持を図ろうとするものである。
【0008】
したがって該被覆銅線では、前記ステンレス鋼外装材は内部の銅線の全体を確実に包み、クラックや無被覆部等のない正常な被覆状態を備える必要がある。しかしながら、一般的にこれらに用いられる被覆銅線は例えば線径0.2mm程度の非常に細い長尺材でもあることから、仮に特許文献2が開示するような単にステンレス鋼板を外装材として巻き付けて被覆し伸線加工したものでは、その合わせ部に隙間が形成されたり、これを編組加工する際の曲げに伴って隙間が拡がる等の問題があり、結果的にその部分から酸化が進んで導電率低下の原因になることが懸念されており、その改善が求められている。 例えばF.L.Antisell:Trans.AIME,64(1921)432では、銅金属中の酸素量と電気伝導率の関係について、酸素量0%では102IACS%、0.1%の酸素量では98IACS%に比例的に減少することを示しており、酸素量は導電率に大きく影響することが伺える。
【0009】
なお文献2の場合、前記ステンレス鋼外装材の被覆段階で、その縁部同士を例えば電子ビーム溶接などの方法で結合してチューブ状にすることも考えられるが、ステンレス鋼を溶接すると、局部的加熱あるいは溶融した金属が凝固する際の析出状態によって、例えば図4に示すような局部的な樹枝状組織(デンドライド組織)や炭化物の発生、加熱部近傍での結晶粒の粗大化するなど異質組織状態り、こうした金属組織は母相のオーステナイト組織に比して比較的脆いことから、その後の減寸加工や編組加工等の影響から部分的なクラック発生を生じるなど、表面欠陥を招きやすく生産性を低下させる原因になっている。
【0010】
しかもこの場合、外装のステンレス鋼と芯材である銅金属とは非常に拡散しやすく、ステンレス鋼中に銅が侵入すると粒界腐食なども発生しやすく、この現象もまた前記表面欠陥の原因となることから、この熱影響を受けない溶接方法を採用する必要があるあるものの、こうした問題の改善について前記文献2は何ら具体的な解決策を提供していない。まして同公報の実施例では2〜3mm程度の細い線材を用いることとしていることから見ても、外装材被包後に溶接する技術手段は意識されておらず、したがって、この方法では高品質のステンレス鋼被覆銅線を生産性よく製造することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明は、このような従来技術における問題点の改善を図り、高品質のステンレス鋼被覆銅線を生産性よく製造する新規製造方法の提供を目的とし、次の構成を有するものである。
【0012】
まず請求項1に係わる発明は、銅線でなる芯材と、該芯材の外面をステンレス鋼外装材で覆ってなるステンレ鋼スクラッド銅線を製造する方法であって、
(イ)前記芯材となる銅素線を準備し、
(ロ)該芯材が最終的に全容積の70〜95%の比率となるステンレス外装帯材で被包するとともに、その縁部の突合せ溶接によって前記芯材の表面露出を防止したクラッド線材を得る段階と、
(ハ)該クラッド線材を最後には除去される第二外装材で更に被覆して複合線材を形成する段階と、
(ハ)該複合線材に減寸加工と熱処理加工を必要に応じて繰り返し行い、かつその加工の間に前記ステンレス外装帯材の溶接部組織をオーステナイト組織に安定化する安定細径化段階と、
(ニ)前記細径化段階又は細径化後のいずれか時点で、前記複合線材から前記第二外装材を分離除去する段階、
を含むことを特徴とするステンレス鋼クラッド銅線の製造方法である。
【0013】
さらに請求項2に係わる発明は、前記第二外装材が鉄又は軟鋼の冷延帯材によるものであり、請求項3に係わる発明は、前記溶接が電子ビーム溶接により、かつ溶接熱影響が前記芯材に及ぼさないよう、該芯材と距離を設けて行うものであり、請求項4に係わる発明は、前記細径加工の延べ加工率が、80%以上で行われるものであり、請求項5に係わる発明は、前記減寸加工は、アプローチ角度6〜10°のダイヤモンドダイスにより、溶融粘度10mm2/S以下の低粘性水溶液中で行う冷間伸線加工によるものであり、請求項6に係わる発明は、最終寸法が線径0.5mm以下に細径化される前記製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本件請求項1の発明は、前記構成を備えることから、前記ステンレス鋼外装材は芯材である銅線の表面を被包したクラッド線材の成形に当たり、長尺材の製造が可能となり、しかも外装材の縁部同士を溶接することで開口部のない完全チューブ状に結合することを基本とし、また該溶接に伴い発生するステンレス鋼外装材の溶接組織(樹枝状組織,炭化物,結晶粒の粗大化)は、その後の減寸加工や熱処理加工による細径化段階で母相であるオーステナイト組織に回復させ安定化させることができる。またこの
ステンレス鋼外装材の細径化加工は、その表面に設けた第二外装材によって常に強圧保護しながら加工できることから、例えば減寸加工時の伸線ダイス等の工具とは直接接触しない構造であり、前記クラック等の欠陥発生を大幅に改善できる。
【0015】
したがって、この方式によれば、細径で長尺のステンレス鋼クラッド銅線を効率よく、また高い製造歩留まりで得ることができ、割れやクラック等の表面欠陥が大幅に改善でき、しかも前記溶接段階で発生していた溶接組織を解消して安定したオーステナイト組織に回復することから、特性的にも良好なクラッド銅線を得ることができる。
【0016】
また該第二外装材は、細径化段階又は細径化後のいずれか時点に分離除去することで目的のステンレス鋼クラッド銅線を得ることができる。
【0017】
さらに請求項2〜6の構成による発明によれば、さらにステンレスクラッド銅線の品質及び生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明のステンレスクラッド銅線の製造方法(以下、単に製造方法ということがある)について、好ましい形態を図面とともに説明する。 本発明の製造方法は、図1のブロック図に示すごとく、
(イ)クラッド銅線1の芯材1aとなる銅素線1bを準備して、
(ロ)該芯材1aが最終的に全容積の70〜95%の比率になるステンレス鋼外装材2aで被覆し、
さらに外装材2aの縁部を溶接したクラッド線材3を形成し、
(ハ)このクラッド線材3を第二外装材4で更に被覆して複合線材5とし、
(ニ)該複合線材5を所定線径まで細径化して、外装材の組織をオーステナイト組織に安定化し、
(ホ)最後に、細径化された複合線材5aから前記第二外装材4を分離除去する段階、を含んでなる。
【0019】
図2は、この一連の加工状態を連続的な斜視図として示すものであって、実際の作業では各段階毎に各々分割した作業が行われる。本発明では、まず芯材1aとなる銅素線1bの準備に始まり、予め設定された組成の銅金属線材が準備され、この芯材1aの表面を所定のステンレス鋼外装材2aで包んでなるクラッド線材3が成形される。
【0020】
このクラッド線材3では、最終的に前記芯材1aとステンレス鋼外装材2aが予め設定された容積率になるように調整されてなるものであって、本発明では導電率の観点から芯材1aが70〜95%の容積を占めるように設定されている。すなわち、この比率が70%未満のものでは、純銅に対する導電率が例えば80%以上の特性を達成し得ず、また外装材2aの容積が増加すことからその後の例えば撚り合わせやコイル巻きする場合などでの加工性を低下させることとなり、一方容積率が95%を超えるのものでは外装材2a厚さが極端に薄くなって芯材1aの表面保護が十分になし得ない。なお、導電率は、単位大きさの試料について求めた電気抵抗の測定値から、試料の長さ、線径を調整した値と、純銅線の比抵抗であるとの関係の比率、すなわち次式で求めることができる。
【0021】
導電率(%)=純銅の比抵抗(≒1.7421μΩcm)/試料の比抵抗×100
試料の比抵抗=抵抗測定値(μΩ)×断面積(cm2)/測定長さ(cm)
【0022】
前記芯材1aの銅素線1bについては、本形態では例えば純度99.9%以上の無酸素銅によるものが好適するが、より好ましくは真空溶解した真空溶解銅による銅線材が用いられる。またステンレス鋼外装材2aについては、使用時の高温環境中での炭化物などの発生を抑制する観点から、例えばSUS316Lや304L等の低炭素系ステンレス鋼の帯材によるものであって、この段階での両者の複合比は、最終製品までの加工処理条件によっても異なることから、予め試作などを通じて確認しておくことが望まれる。
【0023】
一次複合材であるクラッド銅線3は、こうして選定された前記芯材1aとステンレス鋼外装材2aを各々連続的に供給しながら、例えば図4に示すような成形ロールR1及び/又は伸線ダイスD1によって前記芯線1aの外面を完全に被包するとともに、更にその縁部20同士を突き合わて溶接W1され、チユューブ状の外装材となる。この場合の溶接加工では、溶接トーチwでの加熱が内側に配置されている芯材1aに影響しないよう、若干広幅の前記帯材により少し持上げて芯材1aとの距離を持つように調整して行うのがよく、この溶接状態の一例を図4に見ることができる。この方法の採用によって、該溶接に伴う芯材1aとステンレス鋼外装材2aとの拡散を防止するとともに、生じた空洞部20は次段での伸線ダイスD1によって解消することができる。
【0024】
なお溶接方法としては、例えば電子ビーム溶接や被覆アーク溶接、ティグ溶接などの種々方法が採用できるが、特に前記電子ビーム溶接では溶接部が局部で行われ、また前記芯材1a等の送給に連動して連続的に処理できることから好適する。しかしながらこうした局部溶接法でも、微視的には前記樹枝状組織の発生やその近傍での結晶粒の粗大化は避けることはできないことから、これら溶接組織はその後に行う細径化段階での伸線加工や熱処理によって解消するものとする。
【0025】
次にこのクラッド線材は、第二次成形段階として、その外面を第二外装材4で更に被覆した複合線材5を形成することとなる。この第二外装材5は、最終的には分離除去される加工用の資材とするものであって、次段階での細径化処理する際の表面保護、すなわちこれを用いることで、前記ステンレス鋼外装材の溶接部W1を含めて強固に保持するとともに、これによって前記溶接部に発生する組織的な影響を抑制して前記欠陥の発生を防止するものとしている。
【0026】
こうした目的から、前記第二外装材4には細径化段階での伸線加工における加工性に優れた材料、例えば鉄や軟鋼、中炭素鋼等の金属帯材が用いられるが、中炭素鋼(S35C,S45C)は前記ステンレス鋼外装材2aとの加工硬化率が近似していることから安定作業ができるが、大きなトータル加工率を付与することができない。一方、鉄や炭素量が0.15%以下の軟鋼の冷間圧延鋼板(NBC−SB)による帯材では、軟質で熱処理間でのトータル加工率が大きくできるが、両者の機械的特性の違いから伸線加工時のダイス角度が大きいものでは表面の第二外装材だけが引き伸ばされて団子状に集合したものとなる。こうした問題を解消する為には、使用するダイスのアプローチ角度が6〜10°の低角度ダイスあるいはローラーダイスを用いるのがよく、また前記ステンレス鋼外装材2aの場合と同様に、その突き合せ縁部を溶接結合することで、1本の通常の線材となり比較的大きな加工率が付与できる。
【0027】
こうしたことから、前記第二外装材4は前記金属帯材により、クラッド線材の表面を平滑かつ十分に被包するクラッド法が採用され、その成形にあたって突き合せ縁部段差や隙間が生じないように調整された寸法のものが用いられる。またクラッド方法として、前記したような突き合せ縁部を溶接結合したもの、単に被覆したもののいずれでもよいが、後者の場合は外装材4の縁部同士が重なり合ったり隙間が生じないようにして、内部のクラッド線材3に表面凹凸が発生しないようにし、またこの第二外装材4によって前記ステンレス外装材2aの溶接部に生じた溶接組織を十分に挟持しながら表面保護することで、その後の伸線加工でも欠陥が発生しないものとしている。したがって、該第二外装材にはこうした現象に耐え、かつ十分な加工性を備える特性と容積を備えるものとし、例えば前記ステンレス鋼外装材2a厚さの少なくとも0.5倍以上(0.5〜3倍)の厚さを有するものが用いられる。こうした複合状態の横断面を図3に示している。
【0028】
次に前記細径加工については、減寸工程と熱処理工程とを必要に応じて繰り返し行い最終寸法にするものであって、それ以外の効果として、この一連の加工を通じて前記クラッド線材3の成形段階で発生していた、前記溶接による樹枝状組織や炭化物を解消して安定したオーステナイト組織に回復させるものである。こうした組織変化は、該伸線工程と熱処理工程の併用、あるいはその繰り返しによって徐々に回復させることができ、例えば溶接後に延べ加工率80%以上での細径化と熱処理を行ったものでは組織的にほぼオーステナイト組織に回復し、また95%以上の高加工率では完全に回復させることができ、その確認は、例えば400倍程度以上の金属顕微鏡や電子顕微鏡による観察など種々の計測装置によって行うことができる。
【0029】
なお減寸加工は、得ようとするクラッド銅線1の製品形態に応じて伸線加工や圧延加工が採用され、伸線加工の場合、1ヒート間での加工率は線径が0.5mmを超える太径のものでは乾式伸線による冷間加工として加工率50%以下とし、またそれより細いものでは溶融粘度が5mm2/S以下の低粘性水溶性潤滑オイル中で行う湿式伸線加工により例えば50〜80%程度の加工率で実施されるが、この場合の伸線ダイスも、前記したようにダイスアプローチ角度が5〜10°の低角度ダイスが好適する。
【0030】
また前記熱処理加工については、銅金属との前記拡散等の反応を抑える目的から、例えば銅の融点以下の温度、例えば900〜1050℃×5sec〜10min.程度の条件で実施するのが好ましく、必要に応じて前記減寸加工と熱処理加工は設定寸法になるまで繰り返し行うこともできる。
【0031】
本発明に係わるクラッド銅線1は、最終的には前記第二外装材4は前記細径化の任意段階又は細径化後に分離除去されることで得られ、最終的には熱処理仕上げされてなるものであって、製品形態としては例えば線径0.05〜3mm程度(前記フレキシブルケーブル用では例えば0.1〜0.5mm)の丸形細線や、平線や角線などの多角形、さらには楕円などの不定形形状に形成されてなる。したがって、製品形状に応じて、前記減寸加工は、伸線加工や圧延加工、その他種々の加工方法が採用されるとともに、さらにその仕上げ寸法に応じて例えば前記減寸加工と熱処理加工を繰り返し行うこともできる。
【0032】
このように細径化された複合線材5から前記第二外装材4を除去する方法については、例えばその被処理金属が前記鉄などの場合は、化学的方法(例えば硝酸溶液中での溶解除去)や種々電解処理、その他物理的方法で容易に分離除去することができ、また加速処理として加温した溶液を用いることも有効である。なお、このように処理したものは、その表面が粗雑で光輝表面が得られないことから、できれば脱外皮処理後に更に仕上げ加工を施すことが好ましい。
【0033】
本発明は、最終的には除去される第二外装材を用いたダブルクラッド方式の採用によって、特性の安定した高品質のステンレス鋼クラッド銅線を生産性よく製造できるとともに、被覆欠陥から生ずる問題もないことから長寿命で耐久性に優れたクラッド銅線の提供が可能となる。
【実施例】
【0034】
次に本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0035】
原材料の芯材1aとして、純度99.99%の真空溶解された無酸素銅線(線径10.3mm)をクラッド成形機の前輪(図示せず)にセットし、またステンレス鋼外装材2aとなるSUS304Lステンレス鋼帯材(厚さ0.5mm,幅35mm)を準備して、両者を連続的に図1の成形ロールR1に供給するとともに、第一次成形段階として、該ロールR1による前記芯材1aの外面を前記ステンレス鋼帯材2aで被包工程と、この帯材2aの縁部2b同士を突き合せて溶接工程と、更に該帯材2aを前記芯材1aに密着させる為の絞り成形工程を一連で行い、線径11.3mmのクラッド線材を得た。
【0036】
この溶接工程では、該溶接ビームが内側の銅線に直接影響しないように若干距離を設けて行うようにするとともに、溶接ビームが広範囲に拡大しないように電子ビーム溶接で行っており、得られた溶接部近傍の組織状態を50倍に拡大して図4に示している。この顕微鏡写真に見られるように、該ステンレス鋼自体は元々オーステナイト組織を有するものであるが、溶接部では溶接後の凝固に伴って樹枝状組織が見られ、またその近傍では熱影響によって結晶が粗大化した粗大結晶部などの溶接組織が見られていた。
【0037】
こうして得られたクラッド線材3を更に第二外装材で被覆する第二次成形段階として、第二外装材4に厚さ1.0mm,幅35mmの冷間圧延鉄フープ(NBC−SB)材を選定し、前記第一次成形段階と同様に成形ロールR2と絞り用伸線ダイスD2によって線径12.3mmの複合線材5を得た。
【0038】
その後、連続熱処理炉による中間熱処理(900〜1050℃)T1と中間伸線加工D3を適宜繰り返し行う、最終仕上げ線径1.0mmに細径化した複合細線を形成した。なおこの場合の伸線加工については、その素線の線径が例えば0.5mm以下の細線領域ではダイスアプローチ角度が10°の低角度ダイヤモンドダイスによる湿式伸線で、伸線オイルには溶融粘度が5.2mm2/Sの低粘性水溶液である商品名:メタルシン(共栄社)を用い、またそれより太い領域では同様のダイス角度を持つ合金ダイスによって乾式伸線で行っており、それぞれ1回当たりの伸線加工率は50〜70%の範囲で行った。
【0039】
こうした一連の成形加工の後、温度900℃での最終熱処理して十分に柔軟性を持たせるとともに前記第二外装材4を硝酸溶液で溶解することで最終製品である線径0.29mmのクラッド銅線を得た。
なお得られたクラッド銅線は、前記芯材の容積率が82%で、引張強さ303N/mm2、伸び18%、導電率83%の特性を有し、またその表面状態を目視検査した結果でも特にクラック等の表面欠陥の発生は見られず、前記溶接組織も完全に回復していたことから、93%の良好な製造歩留まりが得られた。
【実施例2】
【0040】
前記製造工程において、最終段階で行った硝酸による外装材の溶解除去P1を、中間加工段階での伸線ダイスD3前に行い、その後最終伸線加工と最終熱処理を行うことで良好な表面状態のクラッド銅線が得られ、この試料についても、第一次成形段階で行った溶接部の前記溶接組織は、その前の熱処理加工T1によって回復していたことから、ステンレス鋼外装材にはクラック発生は見られなかった。
【実施例3】
【0041】
前記第二次成形段階で、第一次成形段階で行ったのと同様の溶接方法で溶接処理した複合線材についてもその試作を試みたが、この場合は該複合線体5が通常の線材と同様のものであったことから、伸線加工で大きな加工率が設定でき、結果的に工程短縮を図ることができた。
【比較例】
【0042】
実施例1と同様に第一次成形したクラッド線材を出発材料とし、これをそのまま伸線加工と中間熱処理を繰り返しながら細径化し、線径1.5mmの中間製品に加工した。この段階で線の表面状態を目視検査したところ、図5に見られるようなクラック部がいくつか見られ、その原因を調査した結果、該クラック部は前記溶接部において発生していることが判明した。このことは、該欠陥が一直線上に発生していること、また溶接部は若干肉厚になっていることなどから確認されたものであって、溶接組織である樹枝状組織が直接ダイスで加工されることで発生したものと推測された。
したがって、この場合のクラッド銅線の製造歩留まりは48%に留まるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】 本発明の製造方法を示す工程のブロック図である。
【図2】 伸線加工の場合を例として、一連の連続図で例示する斜視図である。
【図3】 複合線材の断面図である。
【図4】 ステンレス鋼外装材の溶接部における金属組織の一例を示す顕微鏡写真である。
【図5】 実施例中の比較例で見られた表面欠陥の一例の拡大写真である。
【符号の説明】
【0044】
1 クラッド銅線
1a 芯材
1b 銅線
2a ステンレス鋼外装材
3 クラッド線材
4 第二外装材
5 複合線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅線でなる芯材と、該芯材の外面をステンレス鋼外装材で被包してなるステンレ鋼スクラッド銅線を製造する方法であって、
(イ)前記芯材となる銅素線を準備する段階と、
(ロ)該芯材が最終的に全容積の70〜95%の比率となるステンレス外装帯材で被包するとともに、その縁部の突合せ溶接によって前記芯材の表面露出を防止したクラッド線材を得る段階と、
(ハ)該クラッド線材を最後には除去される第二外装材で更に被覆して複合線材を形成する段階と、
(ニ)該複合線材に減寸加工と熱処理加工を必要に応じて繰り返し行い、かつその加工の間に前記ステンレス外装帯材の溶接部組織をオーステナイト組織に安定化する安定細径化段階と、
(ホ)前記細径化段階又は細径化後のいずれか時点で、前記複合線材から前記第二外装材を分離除去する段階と、
を含むことを特徴とするステンレス鋼クラッド銅線の製造方法。
【請求項2】
第二外装材は、鉄又は軟鋼の冷延帯材によるものである請求項1に記載のステンレス鋼クラッド銅線の製造方法。
【請求項3】
前記溶接は電子ビーム溶接により、かつ溶接熱影響が前記芯材に及ぼさないよう、該芯材と距離を設けて行うものである請求項1又は2に記載のステンレス鋼クラッド銅線の製造方法。
【請求項4】
前記細径加工の延べ加工率が、80%以上で行われるものである請求項2又は3に記載のステンレス鋼クラッド銅線の製造方法。
【請求項5】
前記減寸加工は、アプローチ角度6〜10°のダイヤモンドダイスにより、溶融粘度10mm2/S_以下の低粘性水溶液中で行う冷間伸線加工である請求項3に記載のステンレス鋼クラッド銅線の製造方法。
【請求項6】
最終寸法が線径0.5mm以下に細径化されるものである請求項1〜4のいずれかに記載のステンレス鋼クラッド銅線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−61897(P2007−61897A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291672(P2005−291672)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000231556)日本精線株式会社 (47)
【Fターム(参考)】