説明

ストラットマウント

【課題】インナ金具,リバウンドストッパ金具を含めた全体の必要な金具の数を少なくし得るとともに、リバウンドストッパ金具の固定のための切削加工,かしめ加工を省略できるストラットマウントを提供する。
【解決手段】ストラットマウント14において、リバウンドストッパ金具22を、筒状の内嵌部64と、底部66及び上端側に径方向外方に突出したリバウンドストッパ部68を有するカップ形状となして、内嵌部64をインナ金具18の筒状の上部44に圧入して固定する。そしてベアリング79を底部66下側に配置して底部66とベアリング79とをピストンロッド12にて締結固定し、また下部46には内面にゴム被覆層58を設けて、ベアリング79の外周部が組付状態でゴム被覆層58を弾性圧縮した状態で下部46に当接するようになしておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、サスペンションにおけるショックアブソーバのピストンロッドと車体とを弾性連結し、それらの間で防振作用するストラットマウントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両においてサスペンションの要素をなすショックアブソーバのピストンロッドと車体とをストラットマウントで弾性連結し、ストラットマウントの防振作用でショックアブソーバから車体側に振動が伝達されるのを防止ないし抑制することが行われている。
【0003】
従来、かかるストラットマウントとして様々な種類,形態のものが知られているがその1つとして、(a)アウタ金具と、(b)筒状をなす上部及び上部に続いて形成され、下方に向って径方向外方に拡がる形状をなし、バウンド時のストッパ作用をなす下部を備えたインナ金具と、(c)それらアウタ金具とインナ金具とを連結するゴム弾性体と、(d)インナ金具に固定されてインナ金具とともに上下移動し、リバウンド時にストッパ作用をなすリバウンドストッパ金具と、を有し、アウタ金具の側が車体に固定され、インナ金具の側がショックアブソーバのピストンロッドに固定されて、車体とショックアブソーバとの間でゴム弾性体の弾性変形により防振作用するストラットマウントが公知である。
【0004】
図5はその具体例を示している。
図において200はストラットマウントで、202はアウタ金具、204はインナ金具、206はそれらアウタ金具202とインナ金具204とを連結する状態にそれらに一体に加硫接着されたゴム弾性体、208はインナ金具204に固定されてインナ金具204とともに上下移動し、リバウンド時にストッパ作用をなすリバウンドストッパ金具である。
リバウンドストッパ金具208はインナ金具204とは別体をなしており、インナ金具204に固定されて保持されている。
【0005】
アウタ金具202は、径方向外方に張り出した板状の取付部210を有しており、その取付部210において取付ボルト212により車体パネル214に取付固定されるようになっている。
インナ金具204は、円筒状をなす筒状の上部216と、その下部位から延出し、下方に向って径方向外方に拡がった形状のスカート状の下部218とを有している。
ここで下部218はバウンド時にストッパ作用をなす。即ち下部218はバウンドストッパ部としての働きを有する。
【0006】
ここでインナ金具204は、外側の第1金具204-1と、内側の第2金具204-2との2つの金具から成っており、外側の第1金具204-1の上部が、内側の第2金具204-2に対し外嵌状態で溶接され、それら第1金具204-1と第2金具204-2とが接合されている。
【0007】
内側の第2金具204-2は、ベアリング220を固定し保持する機能を有しており、その下端部がベアリング220にかしめられてベアリング220を固定している。図中222はそのかしめ部を表している。
尚このように内側の第2金具204-2の下端部をかしめて、ベアリング220をインナ金具204に固定する点については下記特許文献1に開示されている。
【0008】
第2金具204-2の上部は、リバウンドストッパ金具208の保持部224を成している。
リバウンドストッパ金具208は、外周部がリバウンドストッパ部226とされ、また内周部が固定部228とされていて、その固定部228が、インナ金具204詳しくは第2金具204-2の保持部224にかしめによって固定されている。
図中230はその第2金具204-2のかしめ部を表している。
尚このようにインナ金具204に対して別体に構成されたリバウンドストッパ金具208を、かしめによってインナ金具204の第2金具204-2に固定し取り付ける点については特許文献1に開示されている。
【0009】
図5のストラットマウント200において、インナ金具204を、外側の第1金具204-1と内側の第2金具204-2とで構成しているのは、インナ金具204にバウンドストッパとしての機能と、ベアリング220を固定し保持する機能、更に別体に構成されたリバウンドストッパ金具208を固定し保持する機能とが求められることによる。
この場合第1金具204-1と第2金具204-2とを固定しておく必要があることから、この図5に示すストラットマウント200では、それらを溶接により接合するようにしている。
【0010】
しかしながらこの場合、インナ金具204として外側の第1金具204-1と、内側の第2金具204-2との2つの金具が必要であるのに加えて、それらを接合するための溶接を行うことが必要となって、ストラットマウント200の製造工程が複雑化し、そのことがストラットマウント200のコストを増大させる要因となる。
【0011】
更にこのストラットマウント200の場合、リバウンドストッパ金具208がインナ金具204と別体をなしていて、インナ金具204を加えた全体の金具の個数が3個と多数となり、しかもリバウンドストッパ金具208をインナ金具204に固定するために極めて多大の手間とコストを要してしまう。
【0012】
リバウンドストッパ金具208をインナ金具204に対し、上記のようにかしめによって固定するためには、図5の部分拡大図に示しているようにインナ金具204の第2金具204-2の上部を円筒状に形成しておいて、その上端部外周面を切削加工し、そこに段付部232を形成する必要がある。
【0013】
リバウンドストッパ金具208の固定は、このように先ずインナ金具204(詳しくは第2金具204-2)を切削加工して、そこに薄肉部230aを形成し、そして薄肉部230aに対し、リバウンドストッパ金具208を段付部232に当接する位置まで外嵌状態に嵌め合せ、しかる後薄肉部230aを径方向外向きに折り曲げてリバウンドストッパ金具208の固定部228にかしめ、これを第2金具204-2の保持部224に固定状態とする。
【0014】
この間に幾つもの工程を経なければならず、特に上記の薄肉部230a及び段付部232を形成するための切削加工には多大の時間と手間とを要し、その切削加工のためのコストが非常に高いものとなる。
そしてこれらのことが図5のストラットマウント200の製造コストを大きく押し上げてしまう。
【0015】
尚、本発明に対する先行技術として下記特許文献2,特許文献3,特許文献4,特許文献5,特許文献6に開示されたものがある。
このうち特許文献2,特許文献3には、リバウンドストッパ金具をインナ金具に圧入して固定するようになした点が開示されているが、これら特許文献2,特許文献3に開示されているものは他の構成において本発明とは異なった別異のものである。
【0016】
一方特許文献4,特許文献5,特許文献6には、インナ金具の下部の内面にゴム被覆層を設けた点が開示されているが、このゴム被覆層の目的は本発明とは異なっており、更にまたこれら特許文献に開示のものは他の構成においても本発明とは異なった別異のものである。
【0017】
【特許文献1】特許第3800888号公報
【特許文献2】特開2007−91130号公報
【特許文献3】特許第3987544号公報
【特許文献4】特開2004−232824号公報
【特許文献5】特開2007−107714号公報
【特許文献6】特開2008−128273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は以上のような事情を背景とし、インナ金具,リバウンドストッパ金具を含めた全体の必要な金具の数を少なくし得るとともに、リバウンドストッパ金具の固定のために所要コストの高い切削加工,かしめ加工を省略できるとともに、インナ金具を構成するための溶接工程も省略でき、全体として製造コストを安価となし得るストラットマウントを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
而して請求項1のものは、(a)アウタ金具と、(b)筒状をなす上部及び該上部に続いて形成され、下方に向って径方向外方に拡がる形状をなし、バウンド時のストッパ作用をなす下部を備えたインナ金具と、(c)それらアウタ金具とインナ金具とを連結するゴム弾性体と、(d)該インナ金具に固定されて該インナ金具とともに上下移動し、リバウンド時にストッパ作用をなすリバウンドストッパ金具と、を有し、前記アウタ金具の側が車体に固定され、前記インナ金具の側がショックアブソーバのピストンロッドに固定されて、該車体と該ショックアブソーバとの間で前記ゴム弾性体の弾性変形により防振作用するストラットマウントにおいて、前記リバウンドストッパ金具を、筒状の内嵌部と底部及び上端側に径方向外方に突出したリバウンドストッパ部を有するカップ形状となして、該内嵌部を前記インナ金具の前記筒状の上部に前記底部側から圧入して固定し、該インナ金具と前記ピストンロッドとの間に介装されるベアリングを、外周部が該インナ金具の前記下部に対して上向きに対向し且つ中央部が前記底部に対して重合する状態に、該底部の下側に配置して、該底部と該ベアリングの中央部とを前記ピストンロッドにて締結固定し、且つ前記下部には内面にゴム被覆層を設けて、該ベアリングの外周部が組付状態で該ゴム被覆層を弾性圧縮した状態で該ゴム被覆層を介し前記下部に上向きに当接するようになしてあることを特徴とする。
【0020】
請求項2のものは、請求項1において、前記底部の下面が平坦面となしてあるとともに、前記インナ金具の下部には、該下面に対して段上りの面をなして径方向外方に延びる平坦面が形成してあって、前記ベアリングの外周部が前記ゴム被覆層を弾性圧縮する状態に該ゴム被覆層を介して該下部の平坦面に当接するようになしてあることを特徴とする。
【0021】
請求項3のものは、請求項2において、前記インナ金具の前記下部には、該下部の前記平坦面に続いて下方への立下り面が形成してあり、前記底部の下面の前記平坦面と該下部における前記平坦面及び該立下り面にて、前記ベアリングの少なくとも一部を収容する収容凹部が形成してあることを特徴とする。
【0022】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記底部及び前記インナ金具の下部と前記ベアリングとの間に平板状金具を介在させ、該平板状金具を介し且つ前記ゴム被覆層を弾性圧縮する状態に、前記ベアリングと前記底部とを前記ピストンロッドにて締結固定するようになしてあることを特徴とする。
【0023】
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、前記インナ金具における筒状の上部と下部とが単一の同一金具にて形成されていることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0024】
以上のように本発明は、リバウンドストッパ金具を、上端側にリバウンドストッパ部を有するカップ形状となして、かかるリバウンドストッパ金具の筒状の内嵌部をインナ金具の筒状部に底部側から下向きに圧入して固定し、またインナ金具とピストンロッドとの間に介装されるベアリングを、外周部がインナ金具の下部に対して上向きに対向し且つ中央部がリバウンドストッパ金具の上記の底部に対して重合する状態に底部下側に配置し、底部とベアリングの中央部とをピストンロッドにて締結固定し、またインナ金具の下部には内面にゴム被覆層を設けて、ベアリングの外周部を組付状態でゴム被覆層を弾性圧縮した状態で上記下部に上向きに当接させるようになしたものである。
【0025】
かかる本発明では、リバウンドストッパ金具を圧入にてインナ金具に固定するため、リバウンドストッパ金具の固定のために上記のようなインナ金具に対する切削加工、更にはかしめ加工を行うことを省略することができ、これによりストラットマウント製造のための所要コストを大きく低減することができる。
【0026】
尚、リバウンドストッパ金具をインナ金具に対して単に下向きに圧入し固定しただけであると、ショックアブソーバのピストンロッドからリバウンドストッパ金具に対し上向きに大きな荷重が入力したときに、リバウンドストッパ金具がインナ金具から抜ける恐れがある。
【0027】
ここにおいて本発明では、カップ形状に構成したリバウンドストッパ金具の底部の下側に、その底部よりも大径をなすベアリングを重合して、その底部とベアリングとをピストンロッドにて上下に締結したもので、このようにすることで、リバウンドストッパ金具に対しピストンロッドから上向きに大きな荷重が入力しても、インナ金具の下部に対するベアリングの当接により、リバウンドストッパ金具がインナ金具から上向きに抜けるのを防止することができる。
即ち本発明は、かかるベアリングをリバウンドストッパ金具の抜けを防止するための部材として有効に利用している点を特徴としている。
【0028】
加えて本発明では、リバウンドストッパ金具が、その底部においてピストンロッドを介しベアリングを保持する機能を有しているため、即ちリバウンドストッパ金具自体にベアリングの保持機能を持たせているため、図5に示す従来のストラットマウントのようにインナ金具自体にベアリングの保持機能を持たせる必要がなく、インナ金具における所要の機能を少なくすることができる。
【0029】
従って本発明によれば、インナ金具においてリバウンドストッパ金具をかしめ固定し保持するための、またベアリングを保持するための金具を省略することが可能であり、従ってインナ金具における筒状の上部と、これに続いて下方に向い径方向外方に拡がった形状の下部とを請求項5に従って同一の金具にて構成することが可能となるのであり、インナ金具構成のための所要の金具の数を少なくすること、具体的には単一の金具にてインナ金具を構成することが可能となる。
従ってまた、インナ金具を構成する複数の金具を接合するための溶接工程も省略し得、その溶接に伴って加工工程が複雑化する問題を解消し、インナ金具の構成のためのコストを削減することが可能となる。
【0030】
本発明ではまた、インナ金具における上記下部の内面にゴム被覆層を設け、ベアリングの外周部を組付状態でそのゴム被覆層を弾性圧縮する状態にかかるゴム被覆層を介して下部に当てるようになしている。
このようにすることによって、ベアリングの外周部をゴム被覆層を介しインナ金具の下部に対し確実に密着状態に当接させておくことができる。
これにより、ベアリングを安定した姿勢で良好に保持することができ、ベアリングにその機能を安定して十全に発揮させることができる。
【0031】
次に請求項2は、上記底部の下面を平坦面となすとともに、インナ金具の下部には、底部下面の平坦面に対して段上りの面をなして径方向外方に延びる平坦面を形成し、上記ベアリングの外周部をゴム被覆層を弾性圧縮する状態にゴム被覆層を介し下部の平坦面に当接させるようになしたものである。
【0032】
リバウンドストッパ金具における底部の下面を平坦面とし、併せてインナ金具における下部に、その底部の平坦面と同一面を成す平坦面を形成して、それらに対しベアリングの対応する対向面(上面)を組付状態で当接させておくことは、各金具の製造誤差,組付誤差が避けられないことから、実際上これを実現することは技術的に困難である。
【0033】
もし設計上そのようにすると、上記の金具製造上の誤差や組付けの誤差ないしばらつきによって、インナ金具における下部の平坦面の方が、リバウンドストッパ金具の底部下面の平坦面によりも下向きに突出してしまうことが生じ得る。
このような状態になると、ベアリングがリバウンドストッパ金具の底部の平坦面から下向きに浮いた状態に取り付いてしまう。
この場合、ベアリングとその底部とをピストンロッドにて強く上下に締結するとベアリングが損傷してしまう恐れが生ずる。
【0034】
そこで請求項2では、インナ金具における下部の平坦面が、リバウンドストッパ金具の底部下面の平坦面よりも確実に段差をもって上向きに控えた位置に位置するようになし、そしてその位置の差、即ち底部下面の平坦面とインナ金具の下部の平坦面との段差を、その下部の内面に設けたゴム被覆層を弾性圧縮させることで吸収し、ベアリングの中央部を確実にリバウンドストッパ金具の底部下面の平坦面に密着させるとともに、ベアリングの外周部をゴム被覆層を介してインナ金具における下部の平坦面に密着状態に当接させるようになしたもので、この請求項2によれば、リバウンドストッパ金具やインナ金具の製造上のばらつき、組付けの際のばらつきにも拘らず、確実にベアリングの全体をリバウンドストッパ金具の底部及びインナ金具の下部に押し当てることが可能となる。
【0035】
この場合においてインナ金具の上記下部には、その下部の上記の平坦面に続いて下方への立下り面を形成し、底部下面の平坦面と下部における平坦面及び立下り面とで、ベアリングの少なくとも一部を収容する収容凹部を形成しておくことができる(請求項3)。
このようにすることで、ベアリングを安定して組付状態に保持することができる。
【0036】
本発明ではまた、上記底部及びインナ金具の下部とベアリングとの間に平板状金具を介在させ、かかる平板状金具を介し且つ平板状金具にてゴム被覆層を弾性圧縮する状態に、ベアリングと底部とをピストンロッドにて締結固定するようになしておくことができる(請求項4)。
【0037】
例えばベアリングとして樹脂製のベアリングを用いた場合、金属製のベアリングに比べて剛性が低く、ベアリングがピストンロッドによる締結で撓んでしまう可能性がある。
そのようになるとベアリングの機能が損なわれたり、ベアリングが損傷したりしてしまい、場合によってベアリングの破断を伴ってリバウンドストッパ金具がインナ金具から抜けてしまう恐れが生ずる。
しかるにこの請求項4によれば、平板状金具の補強効果によってそうした不都合を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1は、本実施形態のストラットマウントを車両への組付状態で示している(但し車体側は図示省略されている)。
図において、10,12はサスペンションの要素をなす金属製のコイルスプリング,ショックアブソーバのシリンダから上向きに突き出したピストンロッドである。
【0039】
14は、そのピストンロッド12と車体との間に介在せしめられて防振作用するストラットマウントである。
ここでストラットマウント14は、ピストンロッド12と車体とを後述のゴム弾性体20を介して弾性連結する働きと、車体からの荷重をゴム弾性体20を介してコイルスプリング10に伝え、車体の荷重をコイルスプリング10にて支持させる働きとを有している。
【0040】
この実施形態において、ストラットマウント14は、アウタ金具16と、インナ金具18と、アウタ金具16及びインナ金具18に一体に加硫接着され、それらを連結するゴム弾性体20と、インナ金具18とは別体に構成されたリバウンドストッパ金具22とを有している。
【0041】
アウタ金具16は、略テーパ状をなす筒状部24と、その下端部から径方向外方に張り出した、周方向に環状をなすフランジ部26とを有している。
このフランジ部26の外周端部は全周に亘り図中下向きに湾曲形状で曲げられており、また筒状部24の上端部は全周に亘り径方向内方に湾曲形状で曲げられている。
図中28はフランジ部26の湾曲形状の曲げを,また30は筒状部24の上端部の湾曲形状の曲げ部から成るリバウンド側のストッパ当り部をそれぞれ表している。
【0042】
アウタ金具16はまた、筒状部24の下端部からフランジ部26にかけての部分が、断面略U字状で全周に亘り下向きに突出せしめられており、この突出部が、後述するインナ金具18のバウンドストッパ部52に対するストッパ当り部32を成している。
【0043】
上記フランジ部26は、図2(A)に示しているように周方向の3個所が更に径方向外方へと突出せしめられており、その突出部分が板状の取付部34を成している。
取付部34には、取付ボルト36用の貫通の固定孔38が形成されており、そこに取付ボルト36が挿通状態で固定されている。
ここで取付ボルト36には、大径の頭部40側にセレーション部42が設けられており、そのセレーション部42を固定孔38の内面に食い込ませる状態に固定孔38に固定されている。
【0044】
インナ金具18は、円筒形状をなす筒状の上部44と、上部44の下端部に続いて形成され、図中下方に向けて径方向外方にスカート状に拡がった形態の下部46とを有している。
下部46には、上部44の下端から径方向外方に折れ曲って突出した、後述のベアリング79を上向きに当接させる当接部48と、当接部48の外周端部から下向きに斜めに立ち下ったテーパ状をなす立下り部50と、この立下り部50の図中下端から更に径方向外方に突出したバウンドストッパ部52とが形成されている。
ここで当接部48,立下り部50,バウンドストッパ部52はそれぞれ周方向に連続した円環状を成している。
【0045】
ゴム弾性体20は、アウタ金具16とインナ金具18との間に挟まれた、円環状且つ略逆テーパ状をなすゴム本体部54を有している。
ストラットマウント14は、このゴム本体部54の弾性変形に基づいてピストンロッド12、即ちショックアブソーバと車体との間で防振作用する。
また車体の荷重は、このゴム本体部54の圧縮弾性変形を伴ってストラットマウント14を介し上記のコイルスプリング10へと伝えられ、車体の荷重がこのコイルスプリング10にて支持される。
【0046】
ゴム弾性体20はまた、ゴム本体部54に連続して形成され、アウタ金具16における筒状部24の外周面を被覆するゴム被覆層56,インナ金具18の上記のバウンドストッパ部52を回り込んで下部50の内面を被覆するゴム被覆層58を一体に有している。
【0047】
ここでゴム被覆層56は、アウタ金具16における筒状部24の上端部を回り込んでゴム本体部54と連続しており、そして筒状部24の上端のストッパ当り部30の上側に位置する部分が、リバウンド側のゴムストッパ部60を成している。
また一方ゴム被覆層58は、バウンドストッパ部52の上側に位置する部分が、バウンド側のゴムストッパ部62を成している。
インナ金具18の内面に回り込んだゴム被覆層58は、下部46における当接部48の下面を被覆し、その先端がインナ金具18における円筒形状の上部44の内面直近位置まで到っている。
尚これらゴム被覆層56,58は全周に亘って連続して形成されている。
【0048】
上記リバウンドストッパ金具22は、カップ状をなしていて円筒形状をなす内嵌部64と、底部66と、内嵌部64の上端から径方向内方にフランジ状に突出したリバウンドストッパ部68とを備えている。
ここでリバウンドストッパ部68は、周方向に連続した円環状をなしている。
【0049】
図3に示しているように、このリバウンドストッパ金具22はインナ金具18とは別体をなしていて、内嵌部64がインナ金具18における円筒状の上部44に底部66側から図中下向きに圧入されることによって、インナ金具18に固定され、組み付けられている。
【0050】
尚、リバウンドストッパ金具22の上記のリバウンドストッパ部68は、付根側の部分が円弧形状の湾曲部70をなしていて、この湾曲部70が内嵌部64に連続している。
リバウンドストッパ金具22は、その付根の湾曲部70がインナ金具18における上記の上部44の上端に当る位置まで、インナ金具18に対して図中下向きに圧入され、その当接によって圧入量が規定される。
【0051】
リバウンドストッパ金具22における底部66の下面は、後述するベアリング79、詳しくはその中央部を図中上向きに当接させる軸直角方向の平坦面72とされている。
一方インナ金具18の上記下部46における当接部48の下面もまた、ベアリング79詳しくはその外周部を上向きに当接させる軸直角方向の平坦面74とされている。
【0052】
但し図2(B)に示しているように、リバウンドストッパ金具22をインナ金具18に圧入した状態で、底部66側の平坦面72は、インナ金具18の下部46における当接部48下面の平坦面74よりも僅かに図中下向きに突出せしめられており、それらの間に段差dが生ぜしめられている。
この段差dは例えば0.2mm程度の僅かなものである。
【0053】
図2(B)において、リバウンドストッパ金具22の底部66下面の平坦面72,インナ金具18における下部46の当接部48下面の平坦面74、及び立下り部50の内面の立下り面76は、全体として後述のベアリング79の上部を収容する収容凹部78を形成している。
【0054】
図1に示しているように、インナ金具18とピストンロッド12との間にはベアリング(ここではスラストベアリング)79が介装されている。
ここでベアリング79は、その全体がリバウンドストッパ金具22における内嵌部64よりも大径をなしている。
ベアリング79は、上ケース(上軌道輪)80と下ケース(下軌道輪)82と、それらの間に挟まれたボール84とを有しており、その下ケース82が金属製のスプリングシート86に対して下向きに当接させられている。
ここでスプリングシート86はばね受としてのもので浅い逆皿状をなしており、その下面にコイルスプリング10の上端を当接させる状態にコイルスプリング10を受けている。
【0055】
一方上ケース80は、その中央部がリバウンドストッパ金具22における底部66に直接重合する状態に、即ち底部66下面の平坦面72に直接当接する状態に底部66下側に配置され、その状態で底部66とともにピストンロッド12にて上下に締結されている。
【0056】
詳しくは、上ケース80と底部66とには、それぞれ同径をなす挿通孔88,90が上ケース80,底部66の中心部に互いに同心位置に形成されていて、そこにピストンロッド12の小径をなす軸部92が上向きに挿通されている。
軸部92の先端側には雄ねじ94が形成されていて、そこにナット96がねじ込まれ、そのナット96とピストンロッド12の段付部98とによって、上ケース80と底部66とが重合状態で上下に締結されている。
【0057】
このとき上ケース80の外周部は、底部66下面の平坦面72に対し段差をなす下部46側の当接部48下面の平坦面74に対し、上記のゴム被覆層58を介して当接した状態となる。
詳しくは、段差dよりも厚肉に形成されたゴム被覆層58の当接部48下側に位置する部分を上向きに弾性圧縮させた状態で、かかるゴム被覆層58を介し当接部48下面の平坦面74に当接した状態となる。
【0058】
即ち上ケース80が、径方向においてリバウンドストッパ金具22の底部66とインナ金具18における下部46の当接部48とにまたがって延在し、その上面が底部66と当接部48とのそれぞれに対して当接した状態となる。
尚、図1に示しているように上ケース80を含むベアリング79は、組付状態でゴム被覆層58の立下り部50の内側に位置する部分も径方向に弾性圧縮している。
【0059】
この実施形態では、ピストンロッド12の回転がベアリング79,リバウンドストッパ金具22を介してインナ金具18に伝えられ、このときゴム弾性体20がねじり方向に弾性変形することによってその回転が吸収される。
【0060】
この実施形態では、インナ金具18がピストンロッド12とともにアウタ金具16に対して相対的に下向きに大きく変位しようとしたとき、リバウンドストッパ金具22におけるリバウンドストッパ部68が、アウタ金具16における筒状部24の上端部のストッパ当り部30にゴムストッパ部60を介して当接し、ストッパ作用することでその際の過大な変位が規制される。
【0061】
また一方、インナ金具18がアウタ金具16に対しピストンロッド12とともに図中上向きに大きく変位しようとしたとき、インナ金具18におけるバウンドストッパ部52が、アウタ金具16のストッパ当り部32に対してゴムストッパ部62を介し当接することで、即ちその際のストッパ作用によってバウンド側の過大な変位が規制される。
【0062】
尚、バウンド時において圧入により固定されたリバウンドストッパ金具22に対し、ピストンロッド12から上向きに大きな荷重が作用したとき、ベアリング79がインナ金具18の当接部48に当接した状態にあることによって、リバウンドストッパ金具22が上向きに抜け防止される。
【0063】
以上のように本実施形態では、リバウンドストッパ金具22を圧入にてインナ金具18に固定するため、リバウンドストッパ金具22の固定のためにインナ金具18に対する切削加工、更にはかしめ加工を行うことを省略することができ、これによりストラットマウント製造のための所要コストを大きく低減することができる。
【0064】
但しリバウンドストッパ金具22をインナ金具18に対して単に下向きに圧入し固定しただけであると、ショックアブソーバのピストンロッド12からリバウンドストッパ金具22に対し上向きに大きな荷重が入力したときに、リバウンドストッパ金具22がインナ金具18から抜ける恐れがある。
【0065】
ここにおいて本実施形態では、カップ形状に構成したリバウンドストッパ金具22の底部66の下側に、その底部66よりも大径をなすベアリング79を重合して、その底部66とベアリング79とをピストンロッド12にて上下に締結していることから、リバウンドストッパ金具22に対しピストンロッド12から上向きに大きな荷重が入力しても、インナ金具18の下部46に対するベアリング79の当接により、リバウンドストッパ金具22がインナ金具18から上向きに抜けるのを防止することができる。
【0066】
加えて本実施形態ではリバウンドストッパ金具22が、その底部66においてピストンロッド12を介しベアリング79を保持する機能を有しているため、即ちリバウンドストッパ金具22自体にベアリング79の保持機能を持たせているため、図5に示した従来のストラットマウントのようにインナ金具自体にベアリングの保持機能を持たせる必要がなく、インナ金具における所要の機能を少なくすることができる。
【0067】
そのため本実施形態によれば、インナ金具18においてリバウンドストッパ金具22をかしめ固定し保持するための、またベアリング79を保持するための金具を省略でき、インナ金具18における筒状の上部44と、これに続いて下方に向い径方向外方に拡がった形状の下部46とを同一の金具にて構成することができる。
これによりインナ金具構成のための所要の金具の数を少なくすること、具体的には単一の金具にてインナ金具18を構成することが可能となる。
従ってまた、インナ金具18を複数の金具を溶接して構成する必要がなく、その溶接に伴って加工工程が複雑化する問題を解消し、インナ金具18の構成のためのコストを削減することができる。
【0068】
本実施形態ではまた、インナ金具18における下部46の内面にゴム被覆層58を設け、ベアリング79の外周部を、組付状態でそのゴム被覆層58を弾性圧縮する状態にゴム被覆層58を介し下部46の当接部48に当接させるようになしており、こうすることによってベアリング79の外周部を、ゴム被覆層58を介しインナ金具18の当接部48に確実に密着状態に当接させておくことができる。
これによりベアリング79を安定した姿勢で良好に保持することができ、ベアリング79にその機能を安定して十全に発揮させることができる。
【0069】
この実施形態ではまた、底部66下面を平坦面72となすとともに、インナ金具18の下部46に、底部66下面の平坦面72に対して段上りの面をなす平坦面74を形成し、ベアリング79の外周部を、ゴム被覆層58を弾性圧縮する状態にこのゴム被覆層58を介し平坦面74に当接させるようになしている。
【0070】
リバウンドストッパ金具22における底部66の下面を平坦面72とし、併せてインナ金具18における当接部48下面を底部66の平坦面72と同一面を成す平坦面74となし、それらに対しベアリング79の対応する上面を組付状態で同時に当接させることは、各金具の製造誤差,組付誤差が避けられないことから実際上これを実現することは技術的に困難であり、設計上そのようにすると、場合によってインナ金具における当接部48下面の平坦面74の方が、リバウンドストッパ金具22の底部66下面の平坦面72よりも下向きに突出してしまうことが生じ得る。
このような状態になると、ベアリング78がリバウンドストッパ金具22の底部66下面の平坦面72から下向きに浮いた状態に取り付いてしまう。
【0071】
そこで本実施形態では、平坦面74が、平坦面72よりも確実に段差をもって上向きに控えた位置に位置するようになし、そしてその位置の差即ち段差dを、下部46の内面に設けたゴム被覆層58を弾性圧縮させることで吸収し、ベアリング79の中央部を確実にリバウンドストッパ金具22の底部66下面の平坦面72に密着させ、またベアリング79の外周部を、ゴム被覆層58を介して平坦面74に密着状態に当接させるようになしている。
従ってこの実施形態によれば、リバウンドストッパ金具22やインナ金具18の製造上のばらつき、組付けの際のばらつきにも拘らず、確実にベアリング79の全体をリバウンドストッパ金具22の底部66及びインナ金具18の下部46の当接部48に押し当てることができる。
【0072】
また本実施形態では、収容凹部78を形成して、そこにベアリング79の上部を収容するようになしているため、ベアリング79を安定した組付状態に保持することができる。
【0073】
図4は本発明の他の実施形態を示している。
この例は、リバウンドストッパ金具22とベアリング79の上ケース80との間に、平板状金具100を介在させ、ベアリング79を、この平板状金具100を介してリバウンドストッパ金具22の底部66及びインナ金具18の下部46における当接部48に当接させるようになした例である。
【0074】
ベアリング79として樹脂製のものを用いた場合、その樹脂製のベアリング79は、金属製のベアリング79に比べて剛性,強度が低く、従って直接これを底部66,当接部48に当接させるようにすると、ベアリング79が撓みや損傷を生じたりし、場合によってベアリング79の破断を伴ってリバウンドストッパ金具22がインナ金具18から抜けてしまう恐れが生ずる。
しかるにこの実施形態によれば、平板状金具100の補強効果によってそうした不都合を回避することができる。
【0075】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば望ましい例として本発明の実施形態である図1,図4では組付状態で、インナ金具18の当接部48だけでなく立下り部50の内側にあるゴム被覆層58もベアリング79の外周部により弾性圧縮されているが、この立下り部50の内側にあるゴム被覆層58は径方向に弾性圧縮されていることは必須ではなく、ベアリング79の外周側の周面との間に隙間があっても良い。
その他本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態のストラットマウントを組付状態で示す断面図である。
【図2】(A)同実施形態のストラットマウントの斜視図である。(B)同実施形態のストラットマウントの断面図である。
【図3】同実施形態のストラットマウントをリバウンドストッパ金具圧入前の状態で示した図である。
【図4】本発明の他の実施形態のストラットマウントの図である。
【図5】従来公知のストラットマウントの図である。
【符号の説明】
【0077】
12 ピストンロッド
14 ストラットマウント
16 アウタ金具
18 インナ金具
20 ゴム弾性体
22 リバウンドストッパ金具
44 上部
46 下部
56,58 ゴム被覆層
64 内嵌部
66 底部
68 リバウンドストッパ部
72,74 平坦面
76 立下り面
78 収容凹部
79 ベアリング
100 平板状金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アウタ金具と、(b)筒状をなす上部及び該上部に続いて形成され、下方に向って径方向外方に拡がる形状をなし、バウンド時のストッパ作用をなす下部を備えたインナ金具と、(c)それらアウタ金具とインナ金具とを連結するゴム弾性体と、(d)該インナ金具に固定されて該インナ金具とともに上下移動し、リバウンド時にストッパ作用をなすリバウンドストッパ金具と、を有し、前記アウタ金具の側が車体に固定され、前記インナ金具の側がショックアブソーバのピストンロッドに固定されて、該車体と該ショックアブソーバとの間で前記ゴム弾性体の弾性変形により防振作用するストラットマウントにおいて、
前記リバウンドストッパ金具を、筒状の内嵌部と底部及び上端側に径方向外方に突出したリバウンドストッパ部を有するカップ形状となして、該内嵌部を前記インナ金具の前記筒状の上部に前記底部側から圧入して固定し、
該インナ金具と前記ピストンロッドとの間に介装されるベアリングを、外周部が該インナ金具の前記下部に対して上向きに対向し且つ中央部が前記底部に対して重合する状態に、該底部の下側に配置して、該底部と該ベアリングの中央部とを前記ピストンロッドにて締結固定し、且つ前記下部には内面にゴム被覆層を設けて、該ベアリングの外周部が組付状態で該ゴム被覆層を弾性圧縮した状態で該ゴム被覆層を介し前記下部に上向きに当接するようになしてあることを特徴とするストラットマウント。
【請求項2】
請求項1において、前記底部の下面が平坦面となしてあるとともに、前記インナ金具の下部には、該下面に対して段上りの面をなして径方向外方に延びる平坦面が形成してあって、前記ベアリングの外周部が前記ゴム被覆層を弾性圧縮する状態に該ゴム被覆層を介して該下部の平坦面に当接するようになしてあることを特徴とするストラットマウント。
【請求項3】
請求項2において、前記インナ金具の前記下部には、該下部の前記平坦面に続いて下方への立下り面が形成してあり、前記底部の下面の前記平坦面と該下部における前記平坦面及び該立下り面にて、前記ベアリングの少なくとも一部を収容する収容凹部が形成してあることを特徴とするストラットマウント。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記底部及び前記インナ金具の下部と前記ベアリングとの間に平板状金具を介在させ、該平板状金具を介し且つ前記ゴム被覆層を弾性圧縮する状態に、前記ベアリングと前記底部とを前記ピストンロッドにて締結固定するようになしてあることを特徴とするストラットマウント。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、前記インナ金具における筒状の上部と下部とが単一の同一金具にて形成されていることを特徴とするストラットマウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−48378(P2010−48378A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214601(P2008−214601)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】