説明

ストロンチウムチタン酸化物及びそれから製造された被削性コーティング

被削性コーティングが提供される。係るコーティングは、イットリア安定化ジルコニアなどのセラミックと組み合わされたSrTiO、又はNiCoCrAlYなどのMCrAlXと組み合わされたSrTiOを含む。被削性コーティングは、ガスタービンエンジンに見られる高温環境下での使用に好適である。また、係るコーティングで被覆された金属物品、及び被削性アセンブリを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はストロンチウムチタン酸化物及びコーティングでのそれらの使用に関する。特に、ストロンチウムチタン酸化物はセラミック又は金属コーティングにおいて使用することができ、ガスタービンエンジン、排気タービン過給機、圧縮機、蒸気タービン等のための被削性コーティングを提供する。
【0002】
背景情報
制御された状態で容易に被削される材料は、被削性シールなどを含む多くの用途に使用される。回転部分と固定された被削性シールとの接触は、接触領域で可動部に密に接し且つ適合する構造において、被削性材料を浸食させる。言い換えると、可動部は、該シールが可動部に正確に嵌め合う、即ち、クリアランス間隙をふさぐ形状となるように、被削性シールの部分を摩滅させる。これは極めて緊密な許容誤差を有するシールを効率的に形成する。
【0003】
ある特定の被削性シールの用途は、軸流ガスタービンでのそれらの使用である。軸流式ガスタービンの回転式圧縮機又はローターは、シュラウド中に装着されたシャフトに取り付けられた複数のブレードから成る。操作中、シャフト及びブレードはシュラウドの内部で回転する。エンジンの圧縮機部分及び「高温」燃焼器部の両方において、タービンシュラウドの内部表面は、最も有利には被削性材料で被覆される。シュラウド中のシャフト及びブレードアセンブリの最初の配置は、ブレード先端ができる限り被削性コーティングに近接するような配置である。
【0004】
当業者に理解されるように、タービン効率を最大限にするために軸流式ガスタービンにおける逆流を低減することが重要である。これはブレード先端とシュラウドの内壁との間の隙間を最小にすることによって達成される。しかしながら、タービンブレードが回転するので、それらは遠心力のためにいくらか拡大する。次に、回転ブレードの先端は被削性材料と接触し、シュラウド自体と接触せずにコーティングにおいて規定の溝を正確に刻む。これらの溝は、昇温でブレードを回転させるのに必要な精密な隙間をもたらし、従ってタービンにとって本質的に特注適合したシールをもたらす。
【0005】
タービンブレードが被削性コーティングにおいて溝を切削するために、コーティングを形成する材料は、ブレード先端を摩耗せずに比較的容易にすり減らされなければならない。これはコーティングにおいて材料を注意深くバランスさせる必要がある。この環境では、被削性コーティングはまた、昇温での粒子浸食及び他の分解に対して良好な耐性を示さなければならない。
【0006】
エンジンの寿命を通して均一な間隙を維持するためには耐浸食性が必要である。さもなければエンジン性能特性が悪影響を受ける。従来の市販のタービンエンジンは、約3000飛行後のシール浸食の結果としてブレード先端周りの空気流の2パーセント増加を示した。これの大部分は被削性シール及びブレードエーロフォイル先端の浸食に起因し、またブレード先端とシールとの間の摩擦相互作用にも起因し得る。軍用エンジン用途では、ガス流路速度が比較的高い場合、耐浸食性が最も重要である。
【0007】
ガス又は航空機エンジンの圧縮機部分に使用されるエアシールがいくつか存在する。歴史的に最も古いものはフェルト金属(feltmetal)であり、これは複数の金属繊維を含む。このシールの欠点として、これが基体材料に鑞付けされなければならない事実とこれが高多孔質である事実が挙げられる。気泡質の又は多孔質の金属構造;ZrO及びMgOなどの硬質セラミックス;ポリマー粒子が組み込まれたアルミニウム−シリコンの金属マトリックス;又は六方晶系窒化ほう素粉末粒子などの他の多くの被削性コーティングが提案されてきた。これらのコーティングの欠点は、ポリマーコーティングについては315℃での限られた温度特性であり、六方晶系窒化ほう素コーティングについては480℃での限られた温度特性である。
【0008】
タービンエンジンの圧縮機部分において高温で使用される被削性材料として、NiCrAl/ベントナイトコーティング及び米国特許第5,434,210号に記載された材料のような被削性材料も挙げられる。該文献は3つの成分、金属又はセラミックマトリックス材料のうちの1つ、固形潤滑剤、及びポリマーを含む溶射のための複合粉を開示している。典型的な溶射されたままのコーティングは、六方晶系窒化ほう素及びポリマーの粒子が分散したCo合金マトリックスを含む。係るポリマーはその後燃え尽きて、最終的な非常に多孔質の構造は、Coベースマトリックスの全体にわたって分散した六方晶系窒化ほう素粒子のみを含有する。この材料から製造されたコーティングは許容される被削性を有するが、耐浸食性が低い。
【0009】
タービンの圧縮機部分での使用に適した材料を探すと、ステージがエンジンの燃焼室に近づくほどより高い熱レベルの問題が生じる。より高い温度では、より高い使用温度の材料が必要とされる。高温酸化に感受性の材料、例えばプラスチック、グラファイト又は六方晶系窒化ほう素は、それらの使用温度を超えた不安定な材料になると、高度の浸食又は完全な分解及び破砕を受けやすい弱くなった骨格のみを残す。ベントナイト含有材料などの他の材料は、昇温において硬く変化し研摩材となる。
【0010】
タービンの高温燃焼器部において使用される被削性材料は、断熱コーティング(TBC)を多孔質にすることによって開発されてきた。これは、高温ポリマーなどの温度分解性材料を組み込むこと及び/又は熱溶射された六方晶系窒化ほう素の使用によって達成されており、この両方により多孔質のコーティングがもたらされる。得られたコーティングは、熱処理されて分解性材料を分解するか又はタービンの運転中に燃え尽きるかのいずれかである。これらの材料に伴う問題は、得られた多孔質のコーティングが機械的強度に欠くことである。そのため熱サイクルの期間後にコーティングが構造的に機能しなくなる。このためコーティングは寸法管理の役に立たなくなり且つTBCの破壊によりタービン部分の構造的完全性を脅かす。所望の水準の耐浸食性、被削性及び熱安定性を与える、高温環境下での使用のための耐熱性の被削性コーティングが今なお必要とされている。
【0011】
発明の要約
一態様において、本発明はストロンチウムチタン酸化物及びセラミックを含む粉末コーティング組成物を提供する。追加の態様において、本発明はストロンチウムチタン酸化物及び1種又は複数種の金属及び/又は金属合金を含む粉末コーティング組成物を提供する。追加の態様において、これらのコーティングを有する金属物品が提供される。別の態様において、被削性シールアセンブリであって、基体と溶射によって基体に堆積された被削性シールコーティングとを含むアセンブリが提供される。係る被削性シールコーティングは、i)ストロンチウムチタン酸化物及びセラミック又はii)ストロンチウムチタン酸化物及び金属及び/又は金属合金を含む。
【0012】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下の図面、詳細な説明及び添付の特許請求の範囲から更に容易に明らかになる。
【0013】
図面の簡単な説明
本発明は以下の図面によって更に例示される:
図1はSrO−TiOの状態図であり;
図2は、溶射されたままのSrTiOとイットリア安定化ジルコニアの顕微鏡写真であり;
図3は、溶射されたままのSrTiOとNiCrAlYの顕微鏡写真であり;
図4は、溶射されたままのSrTiOとNiCrの顕微鏡写真である。
【0014】
有利な実施態様の詳細な説明
例示されるか又は特に明示的に規定されない限りは、たとえ「約」という語が明示的に記載されていない場合でも、本発明で使用される全ての数に「約」という語が前置されていると理解してよい。また、本発明に記載された任意の数値範囲は、そこに包含された全ての下位範囲を含むことを意図するものである。本発明で使用される「ポリマー」という用語は、オリゴマー及びホモポリマーとコポリマーの両方を指す。
【0015】
一態様において、本発明はストロンチウムチタン酸化物及びセラミックを含むコーティング組成物を提供する。セラミックスは、ガスタービンエンジン環境での断熱コーティングとしてのそれらの使用で公知である。本発明で使用される「被削性セラミック」という用語は、セラミックと組み合わされたSrTiOを指す。
【0016】
ストロンチウムチタン酸化物は、25〜60質量%のSrTiO及び75〜40質量%のSrTiを含み且つニュージャージー州、カムデン(Camden)のExotherm Corporationより市販されている。本発明において使用される「ストロンチウムチタン酸化物」及び「ストロンチウムチタン酸塩」という用語は、区別なく使用され、この酸化物の混合物を指し、そして規定の式SrTiO/SrTi又は更に一般式SrTiOによって表される。一実施態様において、SrTiOは2つの酸化物を含む混晶である。また有利な実施態様において、ストロンチウムチタン酸化物は40〜50質量%のSrTiO及び60〜50質量%のSrTiを含む。本発明のコーティングに使用されるSrTiO/SrTiは、広範囲の温度にわたり著しく安定であり、これは図1に示された状態図に見ることができる。従って、本発明の被削性セラミックコーティング及び被削性金属コーティング(本発明において更に以下に規定及び記載されている)は、圧縮機とタービンの両方の被削用途に使用できる。係るコーティングは、異なる材料が各々の異なる温度条件に適応するように圧縮機及びタービン用途に使用されている先行技術のコーティングと対照的である。
【0017】
本発明で使用される「セラミック」という用語は、無機の、非金属材料を指す。セラミックスは典型的には事実上結晶質であり且つ金属元素と非金属元素、例えばアルミニウムと酸素(アルミナ−Al)、カルシウムと酸素(カルシア−CaO)、及びケイ素と窒素(窒化ケイ素−Si)の間で形成された化合物である。好適なセラミックスの例として、アルミニウムとマグネシウムの酸化物、例えばAl及びMgO、ムライト(AlSi13)、二酸化ケイ素(SiO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)、カーバイド、例えばTiSiC、シリコンカーバイド及びタングステンカーバイド、並びに窒化物、例えば窒化ホウ素(BN)及び窒化ケイ素(Si)が挙げられる。他の好適なセラミックスとして、チタン酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩、スピネル、灰チタン石、被削性セラミックス(例えば、Corning Macor(登録商標))及びそれらの組合せなどのチタニア、完全に又は部分的に安定化されたジルコニア、多成分酸化物が挙げられる。
【0018】
一実施態様において、セラミックは安定化ジルコニアであり得る。安定化ZrO粉末の形成方法は当業者に公知である。好適な方法として、従来の方法、例えば噴霧乾燥、噴霧乾燥及び圧縮、焼結技術及び融解/圧潰技術を用いた噴霧乾燥が挙げられる。ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムなどのアルカリ土類金属の酸化物;セリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、イッテルビウム、及びこの系列の他の元素を含むが、これらに限定されない周期表のランタン系列の希土類元素の酸化物;並びにチタン、イットリウム、タンタル、レニウム、インジウム、ニオビウム、及びその類似物などの周期表の第3〜12族の遷移金属によりジルコニア(ZrO)を完全に又は部分的に安定化できる。これらの酸化物の任意の組合せも使用できる。一実施態様において、ジルコニアは酸化イットリウムにより安定化される。ジルコニアは有利には、約4〜25質量%、更に有利には約6〜10質量%そして最も有利には約7〜8質量%の範囲の酸化イットリウムにより安定化される。
【0019】
典型的には、被削性セラミックコーティング組成物は、コーティング組成物の質量を基準として、5〜75質量%のストロンチウムチタン酸塩及び25〜95質量%のセラミック、更に典型的には40〜60質量%のSrTiO及び40〜60質量%のセラミックを含む。
【0020】
一実施態様において、本発明のコーティング組成物は粉末として製造される。この実施態様において、ストロンチウムチタン酸塩は1〜120マイクロメートルの粒径、更に典型的には20〜75マイクロメートルの粒径を有する。またこの実施態様において、セラミックは典型的には10〜120マイクロメートルの粒径、更に典型的には45〜80マイクロメートルの粒径を有する。所望のブレンド相容性、融点及び熱伝導率を提供するために、セラミック母体の粒径がSrTiOの粒径と大差ないように注意を払わなければならない。
【0021】
追加の態様において、本発明のコーティング組成物はSrTiO及び1種又は複数種の金属及び/又は金属合金を含む。本発明で使用される「被削性金属」又は「被削性金属コーティング」という用語は、金属又は金属合金と組み合わされたSrTiOを指す。被削性金属コーティングは、使用条件の間に直面する酸化条件に対する耐性を付与するために、又は断熱コーティングの接着性を高めるために使用してよい。SrTiOについては被削性セラミックコーティングの説明の下で上述されている。
【0022】
本発明の被削性金属コーティングに使用される好適な金属合金の例はMCrAlX金属合金であり、その際Mはニッケル、コバルト、又は鉄(単独又は組合せのいずれか)であり、Crはクロム、Alはアルミニウム、そしてXはランタン、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、タンタル、レニウム又はケイ素である。Xがイットリウムである場合、ボンドコートはMCrAlYボンドコートと呼ばれる。MCrAlXコーティングは当該技術分野で公知であり、MCrAlX金属合金はいずれも本発明のボンドコートに使用できる。米国特許第3,528,861号及び第3,542,530号に記載されたFeCrAlYなどの特定のMCrAlXコーティングの例;MCrAlYコーティングの沈着前にクロムの層が基体に塗布された複合めっき;米国特許第3,676,085号に記載されたCoCrAlYオーバーレイコーティング;及び米国特許第3,754,903号に開示された特に高い延性を有するNiCoCrAlYオーバーレイコーティング。一実施態様において、組成物はNiCoCrAlYと組み合わされたSrTiOを含む。
【0023】
好適な金属合金の他の例として、NiCr、ニッケルアルミナイド又は他のニッケルベースの合金、及びスピノダル銅などの銅ベースの材料が挙げられる。一実施態様において、組成物はNiCrと組み合わされたSrTiOを含む。
【0024】
被削性金属組成物は、コーティング組成物の質量を基準として、40〜90質量%のストロンチウムチタン及び10〜60質量%の金属及び/又は金属合金を含む。更に有利には、被削性金属組成物は70〜80質量%のストロンチウムチタン及び25〜30質量%の金属又は金属合金を含む。金属及び/又は金属合金の粒径は、典型的には1〜125マイクロメートル、更に典型的には45〜110マイクロメートルである。被削性金属コーティングは約10ミル(0.254mm)と約500ミル(12.7mm)の間の厚さで基体に塗布してよい。有利には、この厚さは約25ミル(0.635mm)と約50ミル(1.27mm)の間である。
【0025】
本発明のコーティングの密度は理論密度に迫り、有利には約90%の理論密度を超え、100%の理論密度に迫る。重要なことは、被削動作の間に被削されたドロスを外に逃れさせて材料がシール−ブレード接合面に蓄積するのを防ぐために、3〜10%の多孔度がコーティングに組み込まれることを許容すると、その後材料をブレード先端へ溶接する時に被削性コーティングの「すき起し」を引き起こし得るか、又は被削性コーティングの「チャンキング化」を引き起こし得ることである。多孔質材料の理論密度は、水銀圧入多孔度測定などの、当該技術分野で公知の方法により測定される。理論密度はまた、既知の密度のコーティング又は材料の標準顕微鏡写真を用いて比較の視覚的分析を行うことにより正確に近似され得る。コーティングの多孔度はコーティング断面の顕微鏡的評価によって容易に測定できる。コーティング用途における所望の多孔度水準は、溶射プロセスの溶射パラメーターを調節することによって調整できる。また該多孔度水準を調整してブレード先端材料(Ti、又はニッケルベース超合金、硬化された先端又は硬化されていない先端、及びこの類似物)などの特定の用途に適合する所望の被削性を達成することができる。
【0026】
本発明のコーティング組成物は、被削性金属コーティングの場合、基体に直接塗布してよい。あるいは又、被削性セラミックの場合、ボンドコート上に塗布してよい。当業者に理解されるように、本発明のコーティング組成物は、単独で又は互いに組み合わせて又は他の好適なボンドコート及び/又は断熱コーティングと組み合わせて、所望通りに使用できる。
【0027】
本発明のコーティング組成物は、SrTiO粉末と金属又はセラミック粉末との機械的混合により製造され、個々の粉末は上述の粒径を有する。
【0028】
本発明に従って被削性シールアセンブリを形成するために、上述の粉末材料を圧縮機ケーシング又はステーター又はタービンシュラウドなどの基体上に溶射して被削性シールコーティングを形成する。
【0029】
溶射は、熱により熱融合性金属成分材料を軟化又は融解すること及び軟化又は融解した材料を被覆されるべき表面に対して微粒子の形態で推進させることを含む。加熱された粒子は表面にぶつかり、そこで該粒子が冷却されて該表面に結合する。従来の溶射ガンは、粒子の加熱及び推進の両方の目的のために使用してよい。
【0030】
溶射ガンは通常、粉末粒子の融解熱を生成するために燃焼又はプラズマ又は電気アークを利用する。粉末式の燃焼溶射ガンの場合、粉末を浮遊させて運ぶキャリアガスは、典型的にはアルゴンなどの不活性ガスである。プラズマ溶射ガンの場合、最初のプラズマガスは一般にアルゴン又は窒素である。水素又はヘリウムは通常、最初のプラズマガスに添加され、キャリアガスは一般に最初のプラズマガスと同じである。他の溶射法も使用され得る。溶射についての優れた概要が米国特許第5,049,450号に規定されている。
【0031】
好適な溶射技術として、自然大気中でのプラズマ火炎溶射(APS);雰囲気制御プラズマ溶射(CAPS)として公知の不活性ガスなどの雰囲気制御下でのプラズマ溶射、真空プラズマ溶射(VPS)として公知の部分又は完全な真空中でのプラズマ溶射が挙げられるが、これらに限定されない。燃焼溶射法として、従来の燃焼火炎溶射、高速度の酸素燃料(HVOF)溶射;及び高速度の酸素空気(HVAF)溶射が挙げられる。他の溶射法として電気アーク溶射法が挙げられる。有利な方法は、アルゴン又は窒素ガスなどの不活性雰囲気を用いるプラズマ溶射であり、水素又はヘリウムなどの二次ガスを用いてプラズマガスエンタルピーを増加させる。
【0032】
溶射は、炭素鋼、ステンレス鋼、アルニミウム及びアルミニウムの合金、銅及び銅の合金、ニッケル及びニッケルの合金、コバルト合金、チタン及びチタンの合金などの任意の表面又は基体に行ってよい。通常、基体材料は金属を含むが、例えばプラスチック、酸化物セラミックス及び繊維強化複合材料などの他の材料を使用してよい。この表面は通常、コーティングの結合を達成するために洗浄且つ粗面化される。金属基体の場合、表面の粗面化はグリットブラスト仕上により達成され得る。表面の湿気、油等を全て取り除くために、また後の溶射による熱入力をより良好に適合させるために、約250°〜350°の基体表面の予熱が推奨される。しかしながら、基体の過熱は、コーティング及び基体の熱伝導率の係数による不適合を引き起こし得る。その結果、熱応力が生じて、その後コーティングが剥離する。
【0033】
当業者に理解されるように、被削性コーティングの密度を調節するために変えることができるプラズマ溶射パラメーターとして、粉体流量とプラズマ電流が挙げられる。低い粉体流量と高いプラズマ電流によって、粉末粒子はより高い温度へと加熱されるので、高密度のシールが得られる。
【0034】
本発明のコーティング組成物は、ガスタービンエンジン環境下で使用される基体上に堆積された時に、非常に高温の環境下、例えば温度が950℃までの範囲にわたる圧縮機の中、又は温度が1200℃〜1300℃までの範囲にわたり得るタービンの中でも耐える被削性コーティングを提供する。典型的には、SrTiOとセラミックのコーティングは、1300℃までの温度で耐浸食性及び低い熱伝導率などの優れた特性を提供する。その一方、SrTiOと金属及び/又は金属合金のコーティングは、950℃までの温度で優れた特性を提供する。本発明のコーティングは、それらの低い熱伝導率、耐浸食性及び構造安定性のためにタービンの金属部分の保護に役立つ。
【0035】
追加の態様において、本発明のコーティング組成物は、静電引力及び/又はバインダーの使用によって凝塊形成して粒子を互いに凝着させることができる。凝塊形成した粒子は、場合によっては、沈降及び望ましくない分離を防ぐために、混合材料の、溶射を含む、輸送、保存及び加工に望ましいこともある。更に、所望の粒径は、サブミクロンからミクロン大の粉末が凝塊形成することによって、アグロメレーションを通じて達成できる。
【0036】
本発明で使用される「バインダー」という用語は、セラミック及び金属粉末を凝塊形成する任意の物質を意味する。標準のバインダーは当該技術分野において公知であり、例えば、塗料、水性バインダー及び溶液型バインダーが挙げられる。特定の有機バインダーの例として、ポリビニル及びビニルコポリマーなどのビニルポリマー、例えばポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリ弗化ビニル、ポリ塩化ビニリデン及びポリ弗化ビニリデンが挙げられるが、これらに限定されない。また、ポリパラメチルスチレン、ブタジエン−スチレン、スチレン−アクリロ窒化物(acrylonitride)及びスチレン−無水マレイン酸樹脂などのポリスチレンが挙げられる。ポリ酢酸ビニル及びポリビニルアルコールが有利である。
【0037】
本発明に使用されるバインダーは、溶射の間にそれらが焼去される時に、溶射されたコーティング中に進入しない。従って、本発明で使用されるバインダーは、当該技術分野において公知である「不安定な」材料ではなく、多孔質を作り出すために使用される。
【0038】
本発明の組成物は、標準的な噴霧乾燥技術を用いて凝塊形成できる。典型的には、バインダーは溶媒中の粒子の混合物に添加される。セラミック+セラミックの混合物又はセラミック+金属の混合物の場合、有利なバインダーはPVA(ポリビニルアセテート)又はPVOH(ポリビニルアルコール、PVAとも呼ばれる)であり、溶媒は水である。この混合液を噴霧乾燥するか又は機械的混合しながら水を蒸発させる。これにより溶媒、水が除去されて、パラメーターを調節することにより、異なる大きさのアグロメレートを作ることができる。
【0039】
あるいは、アグロメレーションは以下のように達成できる。SrTiOを所望の比率でセラミック又は金属粉末とブレンドし、これをミキサー、例えばミキシングボウル及びバキュームソースの周りに加熱されたジャケットを備えたホバートミキサーに置く。秤量された有機バインダー、通常は総計2〜7%に達するブレンドされた粉末を、バインダーに応じて、好適な液体溶媒、通常は水、アルコール、ナフサ、又は他の好適な溶媒に溶かし、約10〜40%の溶存有機物の溶液を作る。これを標準的な方法によりSrTiO/セラミック又は金属の混合物に添加して湿潤した混合物を得る。湿潤した混合物を加熱し、攪拌を継続しながら混合物上に真空を引く。150℃〜350℃の温度での加熱を、溶媒を除去するのに十分な時間、通常130分〜1時間半にわたり継続する。この材料を次いで攪拌を継続しながら冷却させる。熱源、スチーム又は熱した油は、冷却を補助するために冷溶液に交換できる。約1〜2時間後の、温度が40℃〜80℃の時に、この材料を乾燥/硬化パンに移し、オーブンに置いてバインダーを硬化させることができる。硬化プロセスは通常100℃〜150℃で4〜8時間にわたる。得られた組成物はグラニュレーターを通して解凝集され、溶射要求条件、通常20〜150ミクロンに合う適切な大きさにふるい分けられる。
【0040】
追加の態様において、本発明のコーティングは有芯ワイアの使用によって施すことができる。有芯ワイアは通常、金属又はセラミック粉末で充填された薄い金属管である。この技術によって金属、セラミックス又は他の粉末を、溶射用途又は溶接用途のワイア内に組み込むことができる。プラスチックは、金属又はセラミック粉末を含有するバインダーとしても使用できる。次に、当該技術分野で公知のように、粉末を含有するプラスチックをワイアとして押し出し、燃焼式ガンの溶射により加工し、アーク溶射により加工し、又は従来のアーク−プラズマガンの原料として加工する。一実施態様において、SrTiOとセラミック及び/又は金属の粉末は、プラスチックバインダーとともに燃焼されて押し出される。SrTiOはプラスチックバインダーとともに単独でも使用できる。
【0041】
一実施態様において、SrTiOとセラミック又は金属/金属合金のペレットは、アルミニウムパイプを充填するために使用できる。このパイプは所望のサイズに熱変形され、得られたワイアは溶射法における原料として使用される。
【0042】
別の実施態様において、SrTiOの粉末は、NiCr、MCrAlY又は他のニッケル又はコバルト合金の金属管に密閉され;あるいは、SrTiOの粉末はセラミック又は金属の粉末と混合され、金属管に密閉される。
【0043】
有利な実施態様において、SrTiO+金属の粉末はニッケル−合金のストリップ上に置かれ、該ストリップは従来のロール成形技術により管の中に形成される。粉末はこのワイアの核である。多数の会社が商業的にこの製造を行っている。次いで、このワイアを燃焼式ガンの溶射により加工し、アーク溶射により加工し、あるいは従来のアーク−プラズマガンの原料として加工する。有芯ワイアの利点は、被削性コーティングを施すために広範にわたる溶射装置が使用できること及び粉末の代わりにワイアが使用されることである。本発明で使用される「有芯ワイア」という用語は、本発明の粉末組成物を含有するために使用される金属、金属合金及びプラスチックの有芯ワイアを指す。
【0044】
実施例
以下の実施例は、本発明を例示することを意図するものであって、決して本発明を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0045】
実施例1
SrTiOとイットリア−安定化ジルコニアの組成物を、SrTiOが7%〜75%、残りが部分的に安定化されたイットリアジルコニアとなる範囲の比でブレンドした。この粉末をボールミル機上の容器内で又はV−ブレンダー(多数の供給元から入手可能な機械)内で20分間混合し、次いでプラズマ溶射技術を用いて(1018合金鋼又は316ステンレス鋼の)基体上に堆積させた。パラメーターを以下の表1に記載した。試料を被削性リグで試験した。いくつかのブレード相互作用パラメーターを使用した。このブレードは、4000、6000及び8000RPMで回転する8インチ輪の0.125インチ幅の高速鋼であった。相互作用率は各RPM設定に対して1ミル/秒(0.001インチ/秒)及び10ミル/秒(0.010インチ/秒)であった。各ブレンドの硬度、結合強度及び他の特性を以下の表2に示す。図2、3及び4は、溶射されたままの組成物の顕微鏡写真である。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
熱伝導率試験
熱伝導率を測定するためにASTM C1113「熱線試験」を使用した。この結果はいくつかの試料でASTM C117「保護熱板」を使用して検定された。
【0049】
熱膨張係数(CTE)
熱膨張係数を、ASTM E−228、室温から使用温度又は1000℃までの熱膨張分析(TDA)に従って測定した。
【0050】
硬度試験
ダイヤモンド圧子を備えた表面硬さ試験機を使用して硬度を測定した。これらの硬度を、製造者、ロックウェルにより供給された表を使用してバルク硬度に変換した。この表は、インターネットを含むいくつかの情報源から入手可能であり、「等価硬度換算表」と呼ばれる。
【0051】
この試験は、15kgfの全荷重に対して3kgfの基準荷重及び12kgfの試験荷重を有するHR15N尺度の「N」ダイヤモンド円錐圧子を使用した。
【0052】
実施例2
SrTiOとMCrAlY又はNiCrの組成物は、MCrAlY又はNiCrを5〜50%の範囲の比率で、SrTiOを残りの比率でブレンドした。粉末をボールミル機上の容器内で又はV−ブレンダー内で20分にわたり混合した。組成物を次いでプラズマ溶射技術を使用して軟鋼(1018合金鋼又は316ステンレス鋼)の基体上に堆積させた。パラメーターを以下の表2に記載した。試料を被削性リグで試験した。いくつかのブレード相互作用パラメーターを使用した。このブレードは、4000、6000及び8000RPMで回転する8インチ輪の高速鋼(0.125インチ幅)であった。相互作用率は各RPM設定に対して1ミル/秒(0.001インチ/秒)及び10ミル/秒(0.010インチ/秒)であった。各ブレンドの硬度、結合強度及び他の特性を上記の表2に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
本発明の特定の実施態様が例示のために上述されてきたが、多数のバリエーションの本発明の詳細が、添付の特許請求の範囲に規定された本発明から逸脱することなく成され得ることは当業者に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1はSrO−TiOの状態図である。
【図2】図2は、溶射されたままのSrTiOとイットリア安定化ジルコニアの顕微鏡写真である。
【図3】図3は、溶射されたままのSrTiOとNiCrAlYの顕微鏡写真である。
【図4】図4は、溶射されたままのSrTiOとNiCrの顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末コーティング組成物であって、ストロンチウムチタン酸化物及びセラミックを含むことを特徴とする、粉末コーティング組成物。
【請求項2】
前記ストロンチウムチタン酸化物が25〜60質量%のSrTiO及び75〜40質量%のSrTiを含むことを特徴とする、請求項1記載の粉末コーティング。
【請求項3】
前記ストロンチウムチタン酸化物が結晶であることを特徴とする、請求項1記載の粉末コーティング。
【請求項4】
前記ストロンチウムチタン酸化物が1〜120マイクロメートルの粒径を有することを特徴とする、請求項1記載の粉末コーティング。
【請求項5】
前記セラミックが10〜120マイクロメートルの粒径を有することを特徴とする、請求項1記載の粉末コーティング。
【請求項6】
前記ストロンチウムチタン酸化物及び/又はセラミック粒子がサブミクロンからミクロン大の粉末のアグロメレーションであることを特徴とする、請求項1記載の粉末コーティング。
【請求項7】
前記組成物がコーティング組成物の質量を基準として5〜75質量%のストロンチウムチタン酸化物及び25〜95質量%のセラミックを含むことを特徴とする、請求項1記載の粉末コーティング。
【請求項8】
前記セラミックが安定化ジルコニアであることを特徴とする、請求項1記載の粉末コーティング。
【請求項9】
前記ジルコニアが、イットリア、セリア、カルシア、マグネシア及びそれらの混合物からなる群から選択される化合物で安定化されることを特徴とする、請求項8記載の粉末コーティング。
【請求項10】
粉末コーティング組成物であって、ストロンチウムチタン酸化物及び1種又は複数種の金属及び/又は金属合金を含むことを特徴とする、粉末コーティング組成物。
【請求項11】
前記ストロンチウムチタン酸化物が25〜60質量%のSrTiO及び75〜40質量%のSrTiを含むことを特徴とする、請求項10記載の粉末コーティング。
【請求項12】
前記ストロンチウムチタン酸化物が15〜120マイクロメートルの粒径を有することを特徴とする、請求項10記載の粉末コーティング。
【請求項13】
前記金属及び/又は金属合金の粒径が1〜125マイクロメートルであることを特徴とする、請求項10記載の粉末コーティング。
【請求項14】
前記ストロンチウムチタン酸化物及び/又は金属/金属合金粒子がサブミクロンからミクロン大の粉末のアグロメレーションであることを特徴とする、請求項10記載の粉末コーティング。
【請求項15】
前記組成物がコーティング組成物の質量を基準として40〜90質量%のストロンチウムチタン酸化物及び10〜60質量%の金属及び/又は金属合金を含むことを特徴とする、請求項10記載の粉末コーティング。
【請求項16】
前記組成物が金属合金を含み前記金属合金はNiCrであることを特徴とする、請求項10記載の粉末コーティング。
【請求項17】
前記組成物が金属合金を含み前記金属合金はMCrAlXであることを特徴とする、請求項10記載の粉末コーティング。
【請求項18】
前記MCrAlXがNiCoCrAlYであることを特徴とする、請求項17記載の粉末コーティング。
【請求項19】
請求項1記載のコーティングを有することを特徴とする、金属物品。
【請求項20】
請求項10記載のコーティングを有することを特徴とする、金属物品。
【請求項21】
被削性シールアセンブリであって、
基体;及び
溶射によって前記基体に堆積された被削性シールコーティングを含み、前記被削性シールコーティングはi)ストロンチウムチタン酸化物及びセラミック又はii)ストロンチウムチタン酸化物及び金属及び/又は金属合金を含むことを特徴とする、被削性シールアセンブリ。
【請求項22】
前記アセンブリが圧縮機部分及び/又はガスタービンエンジンのタービン部分に配置されていることを特徴とする、請求項21記載の被削性シールアセンブリ。
【請求項23】
請求項1記載の粉末コーティング組成物を含有することを特徴とする、有芯ワイア。
【請求項24】
請求項10記載の粉末コーティング組成物を含有することを特徴とする、有芯ワイア。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2009−515043(P2009−515043A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538964(P2008−538964)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/042400
【国際公開番号】WO2007/120194
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(503153986)ハー ツェー シュタルク インコーポレイテッド (27)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck, Inc.
【住所又は居所原語表記】45 Industrial Place, Newton, MA 02461, USA
【出願人】(507239651)ハー.ツェー.スタルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (59)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】