説明

ストロークシミュレータ、このストロークシミュレータを有するマスタシリンダ、およびこのマスタシリンダを用いたブレーキシステム

【課題】反力シミュレータ部材の付勢力による跳ね返り抵抗感を抑制してより一層良好な操作フィーリングを得る。
【解決手段】入力軸4の入力によりシミュレータ作動ピストン14が作動してシミュレータ作動液圧室15内に発生した液圧で、第1および第2反力シミュレータピストン18,
20が下動する。このとき、第1および第2反力シミュレータスプリング19,21の付
勢力で液圧室15内の液圧が入力に基づいた液圧となり、この液圧がピストン14を介して入力軸4に反力として伝達される。ピストン20の下動でその摺動抵抗力付与部材変形作動部20aが反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29を押圧変形する。これにより、ピストン20の作動に応じて変化する摺動抵抗力がピストン20に付与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシステム等に用いられる入力軸のストロークに応じた反力を発生させるストロークシミュレータの技術分野、このストロークシミュレータを有するマスタシリンダの技術分野、およびこのマスタシリンダを用いたブレーキシステムの技術分野に関するものである。なお、本発明の明細書の記載において、前後方向の関係は、ブレーキペダルの踏み込み時に入力軸が移動する方向を「前」、ブレーキペダルの踏み込み解除時に入力軸が戻る方向を「後」とする。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の自動車においては、ハイブリッド車や電気自動車の開発が進んでいる。これに伴い、自動車のブレーキシステムにおいては、回生ブレーキと摩擦ブレーキとを協調して用いられる回生協調ブレーキシステムが種々開発されている。この回生協調ブレーキシステムは、ブレーキペダルの踏み込みストロークを検出し、検出されたストロークに基づいて、制御部(Electric control unit: ECU)が回生ブレーキによるブレーキ力と摩擦ブレーキによるブレーキ力とを演算し、演算されたブレーキ力で自動車にブレーキがかけられる。
【0003】
このような回生協調ブレーキシステムにおいては、制御部がブレーキペダルの踏み込みストロークに基づいてブレーキ力を決定するため、ブレーキペダルの踏み込みストロークに応じた反力が運転者に伝達されない。そこで、運転者がブレーキペダルの踏み込みストロークに応じた反力を認識可能にするため、ペダル感覚シミュレータ部を有するマスタシリンダが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図6は、この特許文献1に記載されているペダル感覚シミュレータ部を有するマスタシリンダを模式的に示す図である。図中、1はマスタシリンダ、2は摩擦ブレーキのブレーキ液圧を発生するタンデムマスタシリンダ部、3はタンデムマスタシリンダ部2に一体的に設けられたペダル感覚シミュレータ部(ストロークシミュレータ)、4はブレーキペダル(図6には不図示)の踏み込みに応じてストロークする入力軸、5は入力軸4のストロークを検出するストロークセンサ、6はブレーキ液を貯留するリザーバタンクである。
【0005】
タンデムマスタシリンダ部2は、従来周知のタンデムマスタシリンダと同様に、プライマリピストン7、セカンダリピストン8、プライマリピストン7とセカンダリピストン8で区画されるプライマリ液圧室9、セカンダリピストン8で区画されるセカンダリ液圧室10、プライマリピストン7を常時非作動位置の方へ付勢するプライマリスプリング11、セカンダリピストン8を常時非作動位置の方へ付勢するセカンダリスプリング12を有する。プライマリ液圧室9は一方のブレーキ系統のブレーキシリンダ(図6には不図示)
に常時連通するとともに、図示のプライマリピストン7の非作動位置でリザーバタンク6に連通し、かつプライマリピストン7が前進するとリザーバタンク6から遮断されて、プライマリ液圧室9にブレーキ液圧が発生される。セカンダリ液圧室10は他方のブレーキ系統のブレーキシリンダ(図6には不図示)に常時連通するとともに、図示のセカンダリ
ピストン8の非作動位置でリザーバタンク6に連通し、かつセカンダリピストン8が前進するとリザーバタンク6から遮断されて、セカンダリ液圧室10にブレーキ液圧が発生される。
【0006】
更に、タンデムマスタシリンダ部2は、プライマリピストン7とシリンダ壁との間に動力室13を有する。この動力室13には、ブレーキ作動時に図示しない動力源から作動液
が供給される。その場合、作動液は、動力室13の液圧が制御部で演算された摩擦ブレーキによるブレーキ力に応じた液圧となるように供給される。
【0007】
ペダル感覚シミュレータ部3は、入力軸4により作動されるシミュレータ作動ピストン14(本発明のシミュレータ作動部材に相当)、シミュレータ作動ピストン14の作動によってシミュレータ作動液圧が発生するシミュレータ作動液圧室15、シミュレータ作動ピストン14を常時非作動位置の方へ付勢するコイルばねからなるシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16、およびペダル感覚シミュレータカートリッジ17を有する。また、ペダル感覚シミュレータカートリッジ17は、シミュレータ作動液圧室15のシミュレータ作動液圧が作用される第1反力シミュレータピストン18(本発明の反力シミュレータ部材に相当)、第1反力シミュレータピストン18を常時非作動位置の方へ付勢する第1反力シミュレータスプリング19(本発明の反力シミュレータ部材に相当)、第1反力シミュレータスプリング19を支持する第2反力シミュレータピストン20(本発明の反力シミュレータ部材に相当)、第2反力シミュレータピストン20を常時非作動位置の方へ付勢する第2反力シミュレータスプリング21(本発明の反力シミュレータ部材に相当)を有する。
【0008】
このペダル感覚シミュレータ部3においては、ブレーキペダルが踏み込まれない非作動時には、シミュレータ作動ピストン14は図6に示す非作動位置にある。この状態では、シミュレータ作動液圧室15はリザーバタンク6に連通し、シミュレータ作動液圧室15内はシミュレータ作動液圧が発生しなく大気圧となっている。したがって、第1反力シミュレータピストン18および第2反力シミュレータピストン20は図6に示す非作動位置にある。
【0009】
そして、ブレーキペダルが踏み込まれると、入力軸4が前進(図6において左動)するので、シミュレータ作動ピストン14がシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16を弾性的に撓ませながら前進(作動)する。シミュレータ作動ピストン14の作動でシミュレータ作動液圧室15がリザーバタンク6から遮断されると、シミュレータ作動液圧室15内にシミュレータ作動液圧が発生する。このシミュレータ作動液圧は第1反力シミュレータピストン18に作用する。シミュレータ作動液圧が所定の液圧に増大すると、このシミュレータ作動液圧により第1反力シミュレータピストン18は第1反力シミュレータスプリング19を押圧して弾性的に撓ませながら図6において下方へ移動(作動)するとともに、第1反力シミュレータピストン18の押圧力で第2反力シミュレータピストン20が第2反力シミュレータスプリング21を撓ませながら図6において下方へ移動(作動)する。これにより、第1および第2反力シミュレータスプリング19,21はそれら
の撓み量に応じた力を第1反力シミュレータピストン18に反力として作用する。
【0010】
そして、第1反力シミュレータピストン18は第1反力シミュレータスプリング19からの反力に基づいてシミュレータ作動液圧室15内の作動液を押圧する。これにより、第1反力シミュレータピストン18に作用する反力は、シミュレータ作動液圧室15内においてブレーキペダルの踏み込みストロークに応じたシミュレータ作動液圧に変換される。更に、シミュレータ作動液圧に変換された反力はミュレータ作動ピストン14を介して入力軸4に伝達される。更に、反力は入力軸4からブレーキペダルに伝達される。これにより、運転者はブレーキペダルからブレーキペダルの踏み込みストロークに応じた反力を認識する。
【0011】
このように構成されたペダル感覚シミュレータ部3におけるペダル感覚特性線図(つまり、入力軸4のストロークSに対する出力(反力)Fの特性線図)は、図7に示す特性線図となる。すなわち、ペダル感覚特性線図は、ペダル感覚シミュレータ部3の作動初期では入力軸4のストロークの増大に対して出力(反力)が比較的小さく、入力軸4のストロ
ークが所定量大きくなると、ストロークの増大に対して出力(反力)が比較的大きくなるように湾曲した特性曲線を描く。
【0012】
また、特許文献1には、ペダル感覚シミュレータカートリッジ17の他の例としてコイルスプリングとこのコイルスプリングに同軸上に配設されるとともに弾性線材を螺旋状に巻いて形成された弾性変形可能なスペーサ部材とを有し、これらのコイルスプリングとスペーサ部材とを調整部材で弾性変形させてそれらの変形力を変更することにより、種々の特性曲線を得ることが記載されている。螺旋状のスペーサ部材の線材の断面積(太さ)は、連続して変化されている。
【0013】
一方、このマスタシリンダ1においては、ブレーキペダルが踏み込まれない非作動時には、タンデムマスタシリンダ部2およびペダル感覚シミュレータ部3はともに図6に示す非作動状態にある。すなわち、動力室13に動力源から作動液が供給されなく、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8はともに図6に示す非作動位置にある。したがってプライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10はともにリザーバタンク6に連通し、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10内にはブレーキ液圧は発生していない。また、シミュレータ作動液圧室15はリザーバタンク6に連通し、シミュレータ作動液圧室15内にはシミュレータ作動液圧は発生しない。
【0014】
ブレーキペダルが踏み込まれると、入力軸4が前方へストロークする。この入力軸4のストロークがストロークセンサ5により検出される。図示しない制御部は、ストロークセンサ5からの入力軸4のストローク(つまり、ブレーキペダルの踏み込みストローク)に基づいて動力源を駆動制御する。これにより、動力源から作動液が動力室13に供給され、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8が前進する。すると、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10がともにリザーバタンク6から遮断されて、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10内にブレーキ液圧が発生する。これらのブレーキ液圧がそれぞれ2系統の対応するブレーキシリンダに供給され、自動車の対応する車輪にブレーキがかけられる。
【0015】
動力室13内の作動液圧がブレーキペダルの踏み込みストロークに対応した液圧となると、制御部は動力源からの作動液の供給を停止する。すると、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8がともに停止し、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10内のブレーキ液圧はともにブレーキペダルの踏み込みストロークに対応した液圧となる。すなわち、ブレーキペダルの踏み込みストロークに対応したブレーキ力でブレーキが車輪にかけられる。
【0016】
このとき、前述のようにペダル感覚シミュレータ部3はブレーキペダルの踏み込みストロークに対応した反力をブレーキペダルに伝達する。したがって、運転者はこの反力を認識して、ブレーキペダルの踏み込みストロークに対応したブレーキ力でブレーキが車輪にかけられることを感知する。
【0017】
ブレーキペダルが解放されると、入力軸4が後方(非作動位置の方)へストロークし、この入力軸4のストロークがストロークセンサ5により検出される。制御部は、ストロークセンサ5で検出されたストロークに基づいて図示しない制御弁を制御し、動力室13内の作動液をリザーバタンク6に排出する。これにより、動力室13内の液圧が低下し、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8がそれぞれプライマリスプリング11およびセカンダリスプリング12の付勢力で後退する。動力室13内の液圧が大気圧となると、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8がともに図6に示す非作動位置となり、車輪のブレーキが解除する。
【0018】
一方、入力軸4が後方へストロークすることで、シミュレータ作動ピストンリターンスプリング16の付勢力でシミュレータ作動ピストン14が後退する。そして、シミュレータ作動ピストン14が非作動位置近傍になると、シミュレータ作動液圧室15がリザーバタンク6に連通し、シミュレータ作動液圧室15内のシミュレータ作動液圧が低下する。シミュレータ作動ピストン14が図6に示す非作動位置になった状態では、シミュレータ作動液圧室15の液圧は大気圧となる。これにより、第1反力シミュレータピストン18および第2反力シミュレータピストン20もともに図6に示す非作動位置となる。なお、各構成要素に用られている用語および符号は、いずれも特許文献1に記載された用語および符号と同じ用語および符号ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許第4510388号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、前述のペダル感覚シミュレータ部3では、入力軸4の前進ストロークにより、シミュレータ作動ピストン14がシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16を弾性的に撓ませながら前進ストロークするとともに、第1および第2反力シミュレータピストン18,20がそれぞれ第1および第2反力シミュレータスプリング19,21を弾性的に撓ませながらストロークする。このため、各スプリングのばね力による跳ね返り抵抗感が比較的高く、良好な操作フィーリングを得ることは難しい。したがって、スプリングのばね力による跳ね返り抵抗感を抑制して操作フィーリングを更に良好にする余地がある。
【0021】
更に、ペダル感覚シミュレータ部3のペダル感覚シミュレータカートリッジ17に配設されるコイルスプリングと螺旋状のスペーサ部材は互いに同軸上に配設されているため、構造が複雑であるとともに組立性が良好でないとともに、螺旋状のスペーサ部材みは特殊な形状の線材が用いられている。このため、コストが高いという問題がある。
【0022】
また、前述のペダル感覚シミュレータ部3を有するマスタシリンダ1およびこのマスタシリンダ1を用いたブレーキシステムでは、ペダル感覚シミュレータ部3の反力シミュレータピストンがどの位置にあってもマスタシリンダ1の入力−出力(反力)特性のヒステリシス(不図示)が一定または略一定である。このため、マスタシリンダ1の操作状況(つまり、ブレーキの操作状況)に応じた出力(つまり、ブレーキ力)を安定して得ることが難しく、良好な出力(つまり、ブレーキ力)のコントロール性が得られない。したがって、特許文献1に記載のマスタシリンダ1およびブレーキシステムでは、出力(つまり、ブレーキ力)のコントロール性の更なる改善を行う余地がある。
【0023】
更に、前述のようにペダル感覚シミュレータ部3がスプリングのばね力による跳ね返り抵抗感により良好な操作フィーリングを得ることが難しいことから、特許文献1に記載のマスタシリンダ1およびブレーキシステムでは、良好な操作フィーリング(つまり、ブレーキペダルフィーリング)を得ることは難しい。このため、マスタシリンダ1の操作フィーリング(つまり、ブレーキシステムのブレーキペダルフィーリング)を更に良好にする余地がある。
【0024】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、反力シミュレータ部材の付勢力による跳ね返り抵抗感を抑制してより一層良好な操作フィーリングを得ることのできる安価なストロークシミュレータを提供することである。
また、本発明の他の目的は、出力のより一層の良好なコントロール性を得ることができ
るとともにより一層の良好な操作フィーリングを得ることができるマスタシリンダを提供することである。
更に、本発明の更に他の目的は、より一層の良好なブレーキのコントロール性を得ることができるとともにより一層の良好なブレーキペダルフィーリングを得ることができるブレーキシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
前述の課題を解決するために、本発明に係るストロークシミュレータは、入力が加えられて作動する入力軸と、前記入力軸により作動されるシミュレータ作動部材と、前記シミュレータ作動部材の作動により作動されて、前記入力軸の入力に基づいた反力を前記シミュレータ作動部材に出力する反力シミュレータ部材と、前記反力シミュレータ部材の作動時に、前記反力シミュレータ部材の作動に応じて変化する摺動抵抗力を前記反力シミュレータ部材に付与する摺動抵抗力付与部材とを有することを特徴としている。
【0026】
また、本発明に係るストロークシミュレータは、前記摺動抵抗力付与部材がラバー体で形成されており、前記反力シミュレータ部材が、その作動時に前記ラバー体を押圧変形させる摺動抵抗力付与部材変形作動部を有することを特徴としている。
【0027】
更に、本発明に係るストロークシミュレータは、前記ラバー体が円筒状に形成されており、前記摺動抵抗力付与部材変形作動部が、前記反力シミュレータ部材の作動時に前記ラバー体の内周面に当接して前記ラバー体を押圧変形することを特徴としている。
【0028】
更に、本発明に係るストロークシミュレータは、前記ラバー体が前記円筒状の内周面に設けられた所定数の突条を有し、前記摺動抵抗力付与部材変形作動部が前記突条に当接して前記突条を押圧変形することを特徴としている。
【0029】
更に、本発明に係るストロークシミュレータは、前記摺動抵抗力付与部材変形作動部が、前記反力シミュレータ部材が作動方向に移動するにしたがって前記ラバー体の内周面の押圧変形量が大きくなるように前記ラバー体の内周面を押圧変形する傾斜面を有することを特徴としている。
【0030】
更に、本発明に係るストロークシミュレータは、前記所定数の突条が、前記反力シミュレータ部材が作動方向に移動するにしたがって前記所定数の突条の押圧変形量が大きくなるように前記摺動抵抗力付与部材変形作動部によって押圧変形される傾斜を有することを特徴としている。
【0031】
更に、本発明に係るマスタシリンダは、入力軸の入力に基づいた反力を出力するストロークシミュレータと前記入力軸の入力に基づいた液圧を発生するマスタシリンダピストンとを有するマスタシリンダにおいて、前記ストロークシミュレータが、前述の本発明のストロークシミュレータのいずれか1つであることを特徴としている。
【0032】
更に、本発明に係るブレーキシステムは、ブレーキペダルと、前記ブレーキペダルの踏み込みで作動して前記ブレーキペダルの踏み込みに基づいたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダで発生された前記ブレーキ液圧でブレーキ力を発生するブレーキシリンダとを備えるブレーキシステムにおいて、前記マスタシリンダが、前述の本発明のマスタシリンダであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0033】
このように構成された本発明に係るストロークシミュレータによれば、入力軸のストローク時に、摺動抵抗力付与部材により摺動抵抗力を反力シミュレータ部材に付与している
。これにより、反力シミュレータ部材の付勢力による跳ね返り抵抗感を抑制することが可能となる。したがって、より一層良好な操作フィーリングを得ることができる。
【0034】
また、摺動抵抗力付与部材を、反力シミュレータ部材の作動方向に対向して配設することで、ストロークシミュレータの構造が簡単にできるとともに、ストロークシミュレータの組立性を向上することが可能となる。しかも、摺動抵抗力付与部材を安価なラバー体で比較的簡単な形状に形成することで、摺動抵抗力付与部材を用いても、コストの増大を抑制することができる。
【0035】
また、本発明に係るストロークシミュレータを有するマスタシリンダによれば、前述のようにストロークシミュレータにおいて摺動抵抗力付与部材により摺動抵抗力を反力シミュレータ部材に付与しているので、マスタシリンダにおける入力軸の入力に対する出力(反力)の特性にヒステリシスを持たせることが可能となる。これにより、マスタシリンダの出力の良好なコントロール性を得ることができるとともに良好な操作フィーリングを得ることができる。特に、このヒステリシスを、入力の増大側に向かって連続的に大きくなるように変化させることで、出力のコントロール性をより一層の良好にできるとともに、操作フィーリングをより一層の良好にできる。
【0036】
更に、本発明に係るブレーキシステムによれば、本発明のマスタシリンダを用いているので、ブレーキペダルのブレーキペダル踏力に対するマスタシリンダ液圧の特性に、ヒステリシスを持たせることが可能となる。これにより、ブレーキ力の良好なコントロール性を得ることができるとともに良好なブレーキペダルフィーリングを得ることができる。特に、このヒステリシスを、ブレーキペダル踏力の増大側に向かって連続的に大きくなるように変化させることで、ブレーキの操作状況に応じたブレーキ力を容易に得ることが可能となり、ブレーキのより一層良好なコントロール性を得ることができる。特に、ブレーキペダル踏力が比較的小さい領域ではヒステリシスを比較的小さく設定することができ、また、ブレーキペダル踏力が比較的大きい領域では、ヒステリシスを比較的大きく設定することができるので、ブレーキのコントロール性を更に一層良好にすることができる。
【0037】
しかも、反力シミュレータ部材の摺動抵抗力付与部材変形作動部と摺動抵抗力付与部材とを含む簡単なメカニカルな構造でヒステリシスを得ることができる。したがって、ヒステリシスの最適設計を容易に行うことができ、ブレーキシステムの異なる車種の車両への、例えばソフトウェアのチューニング等の適合が容易になる。
また、反力シミュレータ部材の付勢力による抵抗感を抑制することが可能となることにより、ブレーキペダルのブレーキペダルフィーリングを更に一層良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るストロークシミュレータの実施の形態の一例を有するマスタシリンダ、およびこのマスタシリンダを用いたブレーキシステムを模式的に示す図である。
【図2】図1におけるII部の部分拡大図である。
【図3】(a)は図1に示すストロークシミュレータの作動の一部を説明する図、(b)は図1に示すストロークシミュレータの作動の他の一部を説明する図である。
【図4】(a)はペダル感覚シミュレータ部のストローク−出力(反力)特性を示す図、(b)はブレーキシステムのブレーキペダル踏力−マスタシリンダ液圧特性(または、マスタシリンダの入力−マスタシリンダ液圧特性)を示す図である。
【図5】(a)は本発明に係るストロークシミュレータの実施の形態の他の例を示す、図2(a)と同様の部分拡大図、図5(b)は図5(a)におけるVB−VB線に沿う断面で見た反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材を示す図である。
【図6】特許文献1に記載されている従来のペダル感覚シミュレータ部を有するマスタシリンダを模式的に示す図である。
【図7】図6に示す従来のペダル感覚シミュレータ部のストローク−出力(反力)特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は本発明に係るストロークシミュレータの実施の形態の一例を有するマスタシリンダ、およびこのマスタシリンダを用いたブレーキシステムを模式的に示す図である。また、図2は図1におけるII部の部分拡大図である。なお、前述の図6に示すストロークシミュレータを有するマスタシリンダの構成要素と同じ本発明の構成要素には、同じ符号を付すことでそれらの詳細な説明は省略する。
【0040】
図1および図2に示すように、この例のブレーキシステム22にはマスタシリンダ1が用いられる。このマスタシリンダ1のタンデムマスタシリンダ部2では、プライマリ液圧室9が一方の系統のブレーキシリンダ23,24に連通しているとともに、セカンダリ液
圧室10が他方の系統のブレーキシリンダ25,26に連通している。
また、入力軸4にはブレーキペダル27が連結されている。運転者がブレーキペダル27を踏み込むことで、入力軸4が前進するようになっている。
【0041】
更に、マスタシリンダ1のストロークシミュレータであるペダル感覚シミュレータ部3は前述の図6に示す従来例と同様にペダル感覚シミュレータカートリッジ17を有する。このペダル感覚シミュレータカートリッジ17には、反力シミュレータピストン摺動抵抗部28が配設されている。図2(a)に示すように、この反力シミュレータピストン摺動抵抗部28は、反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29(本発明の摺動抵抗力付与部材に相当)と、第2反力シミュレータピストン20に設けられるとともに反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29を弾性変形(具体的には、粘弾性変形)させる摺動抵抗力付与部材変形作動部20aとを有する。
【0042】
反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29は粘弾性材であるラバー体から有底円筒状にかつ粘弾性変形可能に形成されるとともに、第2反力シミュレータピストン20の摺動抵抗力付与部材変形作動部20aに対向するようにして配設される。反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29は、第2反力シミュレータスプリング21の一端を支持する金属等の剛体からなる第2スプリング支持部材30の円筒状部30a内に密着されて固定される。
【0043】
反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の円筒状部29aの内周面には、円筒状部29aの長手方向(第2反力シミュレータピストン20の移動方向;図2(a)において上下方向)に延設された所定数(図示例では、5個)の突条29bが円周方向に等間隔に設けられている。これらの突条29bの延設方向と直交する方向の突条29bの横断面形状は、すべて同じ略三角形状に形成されているとともに、同じサイズに形成されている。また、反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の底部29cの中心には、円錐形状でかつ頂部が略球形に形成された突部からなるストッパ29dが設けられている。このストッパ29dの中心は摺動抵抗力付与部材変形作動部20aの中心と一致または略一致するようにされている。
【0044】
また、第2反力シミュレータピストン20の先端部20b(反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29側の端部;図2(a)において下端部)は有底円筒状に形成されているとともに、この先端部20bの第1反力シミュレータピストン18側に摺動抵抗力付与部材変形作動部20aが先端部20bと一体に連続して設けられる。この摺動抵抗力付与部材変形作動部20aは、截頭円錐台形の筒状に形成されている。その場合、摺動抵
抗力付与部材変形作動部20aの外周面は、先端部20b側の外周面が先端部20bの外径と同径または略同径でかつ第1反力シミュレータピストン18側の外周面が先端部20bの外径より大きい径の截頭円錐台形の外周面とされている。したがって、摺動抵抗力付与部材変形作動部20aの外周面は、その外径が第1反力シミュレータピストン18側から反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29側の方向(第2反力シミュレータピストン20の作動方向;図2(a)において下方)に連続して小さくなるように第2反力シミュレータピストン20の長手方向に沿う中心軸に対して傾斜する傾斜面(テーパ面)とされている。
【0045】
マスタシリンダ1の非作動時(つまり、ペダル感覚シミュレータ部3の非作動時)は、図1および図2(a)に示すように第2反力シミュレータピストン20の先端部20bの一部が反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の円筒状部29a内に進入するようにされている。もちろんこれに限定されることはなく、ペダル感覚シミュレータ部3の非作動時に、先端部20bが反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の円筒状部29aから脱出した状態にすることもできる。そして、ペダル感覚シミュレータ部3の作動時に、第2反力シミュレータピストン20がその作動方向(図2(a)において下方)に移動すると、図3(a)に示すように摺動抵抗力付与部材変形作動部20aの外周面が反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の突条29bの図3(a)において上端の頂部29e(内周側縁)に当接する。これ以後、第2反力シミュレータピストン20が作動方向に移動する際、摺動抵抗力付与部材変形作動部20aの外周面が前述のように傾斜面となっているので、図3(b)に示すように第2反力シミュレータピストン20は摺動抵抗力付与部材変形作動部20aの外周面が反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の各突条29bを押圧変形させながら移動する。このとき、摺動抵抗力付与部材変形作動部20aの外周面が前述のように傾斜面とされているので、第2反力シミュレータピストン20が作動方向に移動するにしたがって各突条29bの内周側縁である頂部29eの押圧変形量が大きくなる。また、反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の円筒状部29aは剛体からなるスプリング支持部材30の円筒状部30aに密着して支持されているので、側方に曲げ変形するのを抑制される。これにより、各突条29bは安定して弾性変形するようになる。その結果、第2反力シミュレータピストン20は反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29から摩擦による摺動抵抗力を安定して加えられる。その場合、各突条29bの弾性変形量が第2反力シミュレータピストン20の作動方向への移動とともに増大するので、反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の摺動抵抗力も増大する。しかも、この摺動抵抗力は、第2反力シミュレータピストン20が作動方向に移動するにしたがって連続して大きくなるように変化する。
【0046】
一方、各突条29bが弾性変形されて摺動抵抗力が第2反力シミュレータピストン20に加えられた状態から、第2反力シミュレータピストン20が逆に反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29から脱出する方向に移動すると、各突条29bの弾性変形量が減少し、摺動抵抗力付与部材変形作動部20aから第2反力シミュレータピストン20に加えられる摺動抵抗力は低減する。このとき、摺動抵抗力付与部材変形作動部20aの外周面が前述のように傾斜面となっていることから、第2反力シミュレータピストン20が反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29内に進入する際に加えられる摺動抵抗力と第2反力シミュレータピストン20が反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29から脱出する際に加えられる摺動抵抗力とが異なる。すなわち、第2反力シミュレータピストン20が作動方向へ移動するときの前述の摺動抵抗力が第2反力シミュレータピストン20が非作動方向へ移動するときの摺動抵抗力より大きく、摺動抵抗力にヒステリシスが生じる。
【0047】
このように構成されたこの例のペダル感覚シミュレータ部3においては、ペダル感覚シミュレータ部3はその非作動時には図2(a)に示す非作動状態にある。このとき、シミ
ュレータ作動液圧室15はリザーバタンク6に連通し、シミュレータ作動液圧室15内は液圧が発生しなく、大気圧となっている。また、第1および第2反力シミュレータピストン18,20も、それぞれ図2(a)において最上の非作動位置となっている。
【0048】
入力軸4が前進ストロークすると、前述の図6に示す従来例と同様に入力軸4およびシミュレータ作動ピストン14がシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16を収縮させながら前方(図2(a)において左方)へ前進ストロークする。シミュレータ作動ピストン14のシール部材14aがリザーバタンク6への連通孔15aを通過すると、シミュレータ作動液圧室15はリザーバタンク6から遮断される。シミュレータ作動ピストン14が更に前進ストロークしてペダル感覚シミュレータ部3の各構成部材のがたが消滅すると、シミュレータ作動液圧室15内に液圧が発生する。このシミュレータ作動液圧室15内も液圧がシミュレータ作動ピストン14に作用し、シミュレータ作動ピストン14はそのときのストロークに対応する出力を反力として入力軸4に伝達する。こうして、図4(a)に示すようにペダル感覚シミュレータ部3は、入力軸4のそのときのストロークS1に対する出力(反力)F1を発生する。
【0049】
以後、シミュレータ作動液圧室15内に発生した液圧は、入力軸4の更なる前進ストロークとともに上昇する。そして、シミュレータ作動液圧室15内の液圧は第1反力シミュレータピストン18に加えられるので、第1反力シミュレータピストン18が第1反力シミュレータスプリング19を収縮させながら作動方向(図2(a)において下方)へ移動する。更に、第1反力シミュレータスプリング19の付勢力が第2反力シミュレータピストン20に加えられるので、第2反力シミュレータピストン20が第2反力シミュレータスプリング21を収縮させながら作動方向(図2(a)において下方)へ移動する。このとき、図4(a)に示すようにペダル感覚シミュレータ部3の出力(反力)Fは、入力軸4のストロークSの増大に対してほぼ直線的に微増する。
【0050】
入力軸4が更に前進ストロークして入力軸4のストロークSがストロークS2になると
、前述のように第2反力シミュレータピストン20の摺動抵抗力付与部材変形作動部20aが反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の突条29bに当接する。これ以後、第2反力シミュレータピストン20が作動方向に移動すると、第2反力シミュレータピストン20は反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29により摺動抵抗力を加えられる。この摺動抵抗力は第2反力シミュレータピストン20の作動方向への移動とともに増大する。そして、この反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の摺動抵抗力により、シミュレータ作動液圧室15内の液圧が入力軸4の前進ストロークに対して略二次曲線的に上昇する。したがって、図4(a)に示すようにペダル感覚シミュレータ部3の出力Fも入力軸4のストロークSの増大に対して略二次曲線的に増大する。
【0051】
なお、ペダル感覚シミュレータ部3は、図4(a)に示すようにそのストローク−出力(反力)特性において、実線で示すストローク増大側と点線で示すストローク減少側とでヒステリシスを有する。
【0052】
図1に示すように、更にこの例のブレーキシステム22は、動力源32、電磁切換弁33、および制御部(ECU)34を備えている。動力源32は作動液を動力室13に供給する。電磁切換弁33は動力室13をリザーバ6および動力源32のいずれか一方に選択的に切り換え連通させる。その場合、ブレーキペダル27が踏み込まれないブレーキシステム22の非作動時は、電磁切換弁33は作動しなく、動力室13を動力源32から遮断しリザーバ6に連通する。また、ブレーキペダル27が踏み込まれたブレーキシステム22の作動時は、電磁切換弁33は作動し、動力室13をリザーバ6から遮断して動力源32に連通する。
【0053】
ECU34は、ブレーキペダル27の踏み込み時、ストロークセンサ5からの入力軸4のストロークの検出信号により、動力源32を駆動するとともに電磁切換弁33を切換作動する。これにより、動力室13がリザーバ6から遮断され、動力源32から作動液が動力室13に供給される。その場合、ECU34は、入力軸4のストローク(つまり、ブレーキペダル27の踏み込みストローク)に基づいて、前述と同様に摩擦ブレーキによるブレーキ力に応じた液圧を演算するとともに、動力室13の液圧が演算された液圧に制御される。動力室13の液圧により、プライマリピストン7が作動してプライマリ液圧室9にブレーキペダル27の踏み込み量に基づいたマスタシリンダ液圧(つまり、ブレーキ液圧)が発生されるとともに、セカンダリピストン8が作動してセカンダリ液圧室10にブレーキペダル27の踏み込み量に基づいたマスタシリンダ液圧(つまり、ブレーキ液圧)が発生される。
【0054】
また、ECU34は、ブレーキペダル27の解放時、ストロークセンサ5からの入力軸4のストロークの検出信号により、動力源32を停止するとともに電磁切換弁33を切換作動する。これにより、動力室13が動力源32から遮断され、かつリザーバ6に連通され、動力室13内の作動液がリザーバ6に排出される。すると、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8がいずれも図1に示す非作動位置となり、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10がともにリザーバ6に連通し、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10内の液圧が大気圧となる。
【0055】
このように構成されたこの例のブレーキシステム22においては、ブレーキペダル27が踏み込まれない非作動時にはマスタシリンダ1は図1および図2(a)に示す非作動状態にある。このとき、シミュレータ作動液圧室15は前述のように大気圧となっているとともに、第1および第2反力シミュレータピストン18,20は、それぞれ図2(a)に
おいて最上の非作動位置となっている。また、タンデムマスタシリンダ2のプライマリ液圧室9、セカンダリ液圧室10,および動力室13はいずれもリザーバタンク6に連通し、これらのプライマリ液圧室9、セカンダリ液圧室10、および動力室13内は液圧が発生していなく、大気圧となっている。
【0056】
この非作動状態からブレーキペダル27が踏み込まれると、そのブレーキペダル踏力に対応する入力が入力軸4に加えられる。これにより、入力軸4が前進ストロークして、前述のようにシミュレータ作動ピストン14が前進ストロークする。また、入力軸4のストロークがストロークセンサ5により検出される。ECU34は、前述のようにストロークセンサ5からの入力軸4のストローク(つまり、ブレーキペダルの踏み込みストローク)に基づいて動力源32を駆動するとともに、電磁切換弁33を切り換えて動力室13をリザーバタンク6から遮断しかつ動力源32に接続する。これにより、動力源32から作動液が動力室13に供給され、プライマリピストン7およびセカンダリピストン8が前進する。すると、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10がともにリザーバタンク6から遮断されて、プライマリ液圧室9およびセカンダリ液圧室10内の作動液がそれぞれ2系統の対応するブレーキシリンダ23,24,25,26に供給される。このとき、ブレ
ーキシステム22にはブレーキシリンダ23,24,25,26の無効ストローク等のロス
が存在するので、タンデムマスタシリンダ部2はまだマスタシリンダ液圧を発生しない。
【0057】
ブレーキペダル踏力が力Fi1になるとブレーキシステム22のロスが消滅し、図4(
b)に示すようにタンデムマスタシリンダ部2はマスタシリンダ液圧P1を発生する。以
後、図4(b)に実線で示すようにマスタシリンダ液圧Pはブレーキペダル踏力Fiの増大にしたがって直線的に増大する。その場合、ECU34がストロークセンサ5からのストローク検出信号に対応した液圧が動力室13に送給されるので、マスタシリンダ液圧Pは、ブレーキペダル27の踏み込みストロークに応じた液圧を発生する。これらのブレーキ液圧がそれぞれ対応するブレーキシリンダ23,24,25,26に供給され、車輪35,
36,37,38にブレーキがかけられる。
【0058】
ブレーキペダル踏力が力Fi2になると、第1反力シミュレータピストン18のロッド
18aが第1反力シミュレータスプリング19の一端を支持する第1スプリング支持部材31に当接し、また第2反力シミュレータスプリング21が反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29のストッパ29dに当接した後、第1および第2反力シミュレータピストン18,20は実質的に移動しなくなる。したがって、ペダル感覚シミュレータカ
ートリッジ17はペダル感覚シミュレータ機能を実質的に発揮しなく、図4(b)に示すようにペダル感覚シミュレータ部3の出力(反力)Foは前述の第1割合で増大しなく、入力軸4の入力Fiの増大分に対応する分だけ略直線的に増大開始する。
【0059】
このようにペダル感覚シミュレータカートリッジ17がペダル感覚シミュレータ機能を実質的に発揮しない状態から、ブレーキペダル踏力Fiが低減されると、入力軸4およびシミュレータ作動ピストン14がシミュレータ作動ピストンリターンスプリング16の付勢力で後退ストロークする。ペダル感覚シミュレータカートリッジ17がペダル感覚シミュレータ機能を発揮しない間、つまり前述の反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29から第2反力シミュレータピストン20に加えられる摺動抵抗力のヒステリシスにより第1および第2反力シミュレータピストン18,20が移動しない間は、図4(b)
に示すようにマスタシリンダ液圧Pはブレーキペダル踏力の低減分に対応する分だけ略直線的に低減する。
【0060】
ブレーキペダル踏力Fiが前述の力Fi2に低減しても、前述の反力シミュレータピス
トン摺動抵抗力付与部材29から第2反力シミュレータピストン20に加えられる摺動抵抗力のヒステリシスにより、第1および第2反力シミュレータピストン18,20はなお
も移動しなく、ペダル感覚シミュレータカートリッジ17がペダル感覚シミュレータ機能を発揮しない。したがって、マスタシリンダ液圧Pはブレーキペダル踏力Fiの低減に対して前述の第1割合で低減しなく、図4(b)に点線で示すようにペダル感覚シミュレータ機能を実質的に発揮しない状態におけるブレーキペダル踏力Fiの低減分に対応する分だけ略直線的に低減し続ける。
【0061】
そして、ブレーキペダル踏力Fiが力Fi2より小さい力Fi3に低減すると、これ以降、反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29による摺動抵抗力のヒステリシスで第2反力シミュレータピストン20が非作動方向(図2(a)において上方)に移動する。すなわち、ペダル感覚シミュレータカートリッジ17がペダル感覚シミュレータ機能を発揮し、図4(b)に点線で示すようにマスタシリンダ液圧Pはブレーキペダル踏力Fiの低減に対して所定の第2割合で大きく低減する。このとき、反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29による摺動抵抗力のヒステリシスにより所定の第2割合は、前述の第1割合より大きい。したがって、ペダル感覚シミュレータ部3の入力・出力特性はヒステリシスを有するとともに、このヒステリシスは、ペダル感覚シミュレータ部3の入力Fiが比較的大きいときは大きく、またペダル感覚シミュレータ部3の入力Fiが比較的小さいときは小さくなるように連続的に変化する。
【0062】
ブレーキペダル踏力Fiが力Fi2より小さくかつ力Fi1より大きい力Fi4に低減す
ると、これ以降、第2反力シミュレータピストン20の摺動抵抗力付与部材変形作動部20aが反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の各突条29bから離間する。これにより、第2反力シミュレータピストン20は反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29から摺動抵抗力を加えられない。したがって、図4(b)に点線で示すようにマスタシリンダ液圧Pはブレーキペダル踏力Fiの低減に対して前述の第1割合で低減する。そして、ブレーキペダル踏力Fiが力Fi4より小さい力Fi5に低減すると、マスタシリンダ液圧Pは液圧P1となる。これ以降、ブレーキペダル踏力Fiが力Fi5より低
減すると、マスタシリンダ液圧Pは0となる。したがって、車輪35,36,37,38の
ブレーキが解除される。
【0063】
このようにして、この例のマスタシリンダ1は、図4(b)に実線で示す示すブレーキペダル踏力増大側と図4(b)に点線で示す示すブレーキペダル踏力減少側とでヒステリシスを有するブレーキペダル踏力−マスタシリンダ液圧特性を有する。その場合、力Fi3と力Fi4との間の領域で、このヒステリシスは入力に応じて連続的に変化する。
【0064】
この例のマスタシリンダ1およびペダル感覚シミュレータ部3の他の構成および他の作用は、前述の図6に示すマスタシリンダ1およびペダル感覚シミュレータ部3(つまり、特許文献1に記載のペダル感覚シミュレータを有するマスタシリンダ)と同じである。また、タンデムマスタシリンダ部2よりブレーキシリンダ23,24,25,26までのブレ
ーキシステムの他の構成および他の作用は、従来周知の一般的なタンデムマスタシリンダよりブレーキシリンダまでのブレーキシステムと同じである。
【0065】
この例のペダル感覚シミュレータ部3によれば、入力軸4のストロークによる第2反力シミュレータピストン20の作動方向および非作動方向への移動時に、入力軸4のストロークが所定量を超えると、反力シミュレータピストン摺動抵抗部28の反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29により摺動抵抗力を第2反力シミュレータピストン20に付与している。これにより、第1および第2反力シミュレータスプリング19,21の
ばね力による跳ね返り抵抗感を抑制することが可能となる。したがって、入力軸4の良好な操作フィーリングを得ることができる。
【0066】
また、反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29を、第2反力シミュレータピストン20の作動方向に対向して、第2反力シミュレータスプリング21の一端を支持する第2スプリング支持部材30の円筒状部30a内に配設しているので、ペダル感覚シミュレータカートリッジ17の構造が簡単にできるとともに、反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の組付け性を向上することが可能となる。しかも、反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29を安価なラバー体で比較的簡単な形状に形成しているので、反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29を用いても、コストの増大を抑制することができる。
【0067】
一方、この例のペダル感覚シミュレータ部3を有するマスタシリンダ1によれば、前述のようにペダル感覚シミュレータ部3において反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29により摺動抵抗力を第2反力シミュレータピストン20に付与しているので、マスタシリンダ1における入力軸4の入力に対するマスタシリンダ液圧の特性にヒステリシスを持たせることが可能となる。これにより、マスタシリンダ1の出力の良好なコントロール性を得ることができるとともに良好な操作フィーリングを得ることができる。特に、このヒステリシスを、入力の増大側に向かって連続的に大きくなるように変化させることで、出力のコントロール性をより一層の良好にできるとともに、操作フィーリングをより一層の良好にできる。
【0068】
また、この例のブレーキシステム22によれば、この例のマスタシリンダ1を用いているので、ブレーキペダル27のブレーキペダル踏力Fiに対するマスタシリンダ液圧の特性に、ヒステリシスを持たせることが可能となる。これにより、ブレーキ力の良好なコントロール性を得ることができるとともに良好なブレーキペダルフィーリングを得ることができる。特に、このヒステリシスを、ブレーキペダル踏力Fiの増大側に向かって連続的に大きくなるように変化させることで、ブレーキの操作状況に応じたブレーキ力を容易に得ることが可能となり、ブレーキのより一層良好なコントロール性を得ることができる。その場合、ブレーキペダル27のブレーキペダル踏力が比較的小さい領域では、ヒステリ
シスが比較的小さく設定することで、ブレーキのコントロール性を更に一層良好にすることができる。
【0069】
しかも、反力シミュレータピストン摺動抵抗部28というメカニカルな構造でヒステリシスを得ることができる。したがって、ヒステリシスの最適設計を容易に行うことができ、ブレーキシステム22の異なる車種の車両への、例えばソフトウェアのチューニング等の適合が容易になる。
【0070】
また、第1および第2反力シミュレータスプリング19,21のばね力による抵抗感を
抑制することが可能となることにより、ブレーキペダル27のブレーキペダルフィーリングを更に一層良好にすることができる。
【0071】
この例のマスタシリンダ1およびペダル感覚シミュレータ部3の他の効果は、前述の図6に示すマスタシリンダ1およびペダル感覚シミュレータ部3(つまり、特許文献1に記載のペダル感覚シミュレータを有するマスタシリンダ)と同じである。また、この例のブレーキシステム22の他の効果は、従来周知の一般的なタンデムマスタシリンダを用いたブレーキシステムと同じである。
【0072】
図5(a)は本発明に係るストロークシミュレータの実施の形態の他の例を示す、図2(a)と同様の部分拡大図、図5(b)は図5(a)におけるVB−VB線に沿う断面で見た反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材を示す図である。
【0073】
前述の例では、第2反力シミュレータピストン20の摺動抵抗力付与部材変形作動部20aの外周面が傾斜面とされているが、図5(a)に示すようにこの例のペダル感覚シミュレータ部3では、反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の各突条29bにおける、円筒状部29aの長手方向と直交する方向の横断面の略三角形状の頂部29eが、第2反力シミュレータピストン20の作動方向への移動にしたがって円筒状部29aの中心軸線に接近するように傾斜されている。つまり、これらの突条29bの傾斜は、円筒状部29aの中心軸線と直交する方向の面で各突条29bの頂部29eに接する仮想円の直径が第2反力シミュレータピストン20の作動方向への移動にしたがって小さくなるような傾斜となっている。一方、第2反力シミュレータピストン20の摺動抵抗力付与部材変形作動部20aは、その外周面が円端部20bの外周面の外径と同一でかつ一定の外径の円筒状に形成されている。
【0074】
このように構成されたこの例のペダル感覚シミュレータ部3においては、第2反力シミュレータピストン20が作動方向へ移動すると、先端部20bが各突条部29bに当接する。これ以降、第2反力シミュレータピストン20の作動方向への移動にしたがって、先端部20bおよび摺動抵抗力付与部材変形作動部20aが各突条部20bを粘弾性変形する。これにより、第2反力シミュレータピストン20は反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の各突条29bから摺動抵抗力が付与される。この摺動抵抗力は、前述の例と同様に、第2反力シミュレータピストン20の作動方向への移動にしたがって大きくなるとともに、第2反力シミュレータピストン20の非作動方向への移動にしたがって小さくなる。
【0075】
この例のペダル感覚シミュレータ部3の他の構成および他の作用効果は前述の例と同じである。また、この例のマスタシリンダ1およびブレーキシステム22の構成および作用効果も前述の例と同じである。
【0076】
なお、本発明は前述の各例に限定されることはなく、種々の設計変更が可能である。例えば、前述の各例では、突条29bを反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29
に設けているが、所定数の突条を第2反力シミュレータピストン20の摺動抵抗力付与部材変形作動部20aに設け、これらの突条で反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の円筒状部29aを粘弾性変形させることもできる。また、突条は必ずしも設ける必要はなく、省略することもできる。その場合には、第2反力シミュレータピストン20の摺動抵抗力付与部材変形作動部20aの外周面を前述と同様の傾斜面とするか、あるいは反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材29の円筒状部29aの内周面を前述と同様の傾斜面とすればよい。しかし、摺動抵抗力が過大になることを防止するとともに、第2反力シミュレータピストン20との突条の摺接部の大きさを適宜設定することで適切な摺動抵抗力を得るうえで、突条を設けることが好ましい。
【0077】
その他、第2反力シミュレータピストン20に摺動抵抗を付与することができるものであれば、本発明はどのようなストロークシミュレータにも適用することができる。要は、本発明は特許請求の範囲に記載されて事項の範囲内で種々設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係るストロークシミュレータ、マスタシリンダ、およびブレーキシステムは、それぞれ、ペダルの踏み込みに応じてシミュレートした反力を発生させるストロークシミュレータ、このストロークシミュレータを有するマスタシリンダ、およびこのマスタシリンダを用いたブレーキシステムに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1…マスタシリンダ、2…タンデムマスタシリンダ部、3…ペダル感覚シミュレータ部(ストロークシミュレータ)、4…入力軸、5…ストロークセンサ、6…リザーバタンク、7…プライマリピストン、8…セカンダリピストン、13…動力室、14…シミュレータ作動ピストン、15…シミュレータ作動液圧室、16…シミュレータ作動ピストンリターンスプリング、17…ペダル感覚シミュレータカートリッジ、18…第1反力シミュレータピストン、19…第1反力シミュレータスプリング、20…第2反力シミュレータピストン、20a…摺動抵抗力付与部材変形作動部、20b…先端部、21…第2反力シミュレータスプリング、22…ブレーキシステム、23,24,25,26…ブレーキシリンダ
、27…ブレーキペダル、28…反力シミュレータピストン摺動抵抗部、29…反力シミュレータピストン摺動抵抗力付与部材、29a…円筒状部、29b…突条、29d…ストッパ、29e…頂部、30…第2スプリング支持部材、31…第1スプリング支持部材、32…動力源、33…電磁切換弁、34…制御部(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力が加えられて作動する入力軸と、
前記入力軸により作動されるシミュレータ作動部材と、
前記シミュレータ作動部材の作動により作動されて、前記入力軸の入力に基づいた反力を前記シミュレータ作動部材に出力する反力シミュレータ部材と、
前記反力シミュレータ部材の作動時に、前記反力シミュレータ部材の作動に応じて変化する摺動抵抗力を前記反力シミュレータ部材に付与する摺動抵抗力付与部材と
を有することを特徴とするストロークシミュレータ。
【請求項2】
前記摺動抵抗力付与部材はラバー体で形成されており、
前記反力シミュレータ部材は、その作動時に前記ラバー体を押圧変形させる摺動抵抗力付与部材変形作動部を有することを特徴とする請求項1に記載のストロークシミュレータ。
【請求項3】
前記ラバー体は円筒状に形成されており、
前記摺動抵抗力付与部材変形作動部は、前記反力シミュレータ部材の作動時に前記ラバー体の内周面に当接して前記ラバー体を押圧変形することを特徴とする請求項2に記載のストロークシミュレータ。
【請求項4】
前記ラバー体は前記円筒状の内周面に設けられた所定数の突条を有し、
前記摺動抵抗力付与部材変形作動部は前記突条に当接して前記突条を押圧変形することを特徴とする請求項3に記載のストロークシミュレータ。
【請求項5】
前記摺動抵抗力付与部材変形作動部は、前記反力シミュレータ部材が作動方向に移動するにしたがって前記ラバー体の内周面の押圧変形量が大きくなるように前記ラバー体の内周面を押圧変形する傾斜面を有することを特徴とする請求項3または4に記載のストロークシミュレータ。
【請求項6】
前記所定数の突条は、前記反力シミュレータ部材が作動方向に移動するにしたがって前記所定数の突条の押圧変形量が大きくなるように前記摺動抵抗力付与部材変形作動部によって押圧変形される傾斜を有することを特徴とする請求項4に記載のストロークシミュレータ。
【請求項7】
入力軸の入力に基づいた反力を出力するストロークシミュレータと前記入力軸の入力に基づいた液圧を発生するマスタシリンダピストンとを有するマスタシリンダにおいて、
前記ストロークシミュレータは、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のストロークシミュレータであることを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項8】
ブレーキペダルと、前記ブレーキペダルの踏み込みで作動して前記ブレーキペダルの踏み込みに基づいたブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダで発生された前記ブレーキ液圧でブレーキ力を発生するブレーキシリンダとを備えるブレーキシステムにおいて、
前記マスタシリンダは、請求項7に記載のマスタシリンダであることを特徴とするブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−23006(P2013−23006A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157776(P2011−157776)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】