説明

スパッタリングターゲット及び光記録媒体

Ge(α)−In(β)−Sb(γ)−Te(δ)合金からなるターゲットであって、各成分組成比α、β、γ、δ(原子%)の合計を100としたとき、0.1≦α≦10、0.1≦β≦10、60≦γ≦90、10≦δ<22の範囲にあることを特徴とする光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金からなる光記録媒体。スパッタリングの際にパーティクルの発生が少なく、安定して高品質の薄膜の作製が可能であり、記録ビットのエラー発生のない、そして高記録密度が達成できる光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金からなる光記録媒体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、スパッタリングターゲット及び同ターゲットの製造方法並びに光記録媒体に関し、特にスパッタリングの際にパーティクルの発生が少なく、安定して高品質の薄膜の作製が可能であり、記録ビットのエラー発生のない光記録媒体を得ることができるGe−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金からなる光記録媒体に関する。
【背景技術】
近年、磁気ヘッドを必要とせずに記録・再生ができる高密度記録光ディスク技術が開発され、急速に関心が高まっている。この光ディスクは再生専用型、追記型、書き換え型の3種類に分けられるが、特に追記型又は書き換え型で使用されている相変化方式が注目されている。
相変化光ディスクは、基板上の記録薄膜をレーザー光の照射によって加熱昇温させ、その記録薄膜の構造に結晶学的な相変化(アモルファス⇔結晶)を起こさせて情報の記録・再生を行うものであり、より具体的にはその相間の光学定数の変化に起因する反射率の変化を検出して情報の再生を行うものである。
上記の相変化は1〜数μm程度の径に絞ったレーザー光の照射によって行なわれる。この場合、例えば1μmのレーザービームが10m/sの線速度で通過するとき、光ディスクのある点に光が照射される時間は100nsであり、この時間内で上記相変化と反射率の検出を行う必要がある。
また、上記結晶学的な相変化すなわちアモルファスと結晶との相変化を実現する上で、これに適合する光記録媒体が求められている。一般に、DVD−RAM等の相変化光ディスクは、書き換え回数が10〜10回を保証している。
一方、基板への光記録媒体用薄膜を形成する場合、スパッタリングが使用されているが、ターゲットの材料によってパーティクルの発生が多くなり、品質を低下させる場合がある。特に高記録密度媒体ではパーティクルなどのよる記録ビットのエラー発生が深刻な問題となる。これが原因で、不良品となって歩留まりが低下するという問題が発生する。
従来、提案されている光記録媒体としては、Ge(α)−In(β)−Sb(γ)−Te(δ)合金からなるターゲットで、各成分組成比α+β+γ+δ(原子%)=100としたとき、0.1≦α≦7、1≦β≦9、61≦γ≦75、22≦δ≦30であり、CLV記録及びCAV記録が可能とする光記録媒体が提案されている(特開2002−264515号公報参照)。
また、GeSbTe(1−a−b−y)と表したとき、XがIn、Au、Cu、Al、Ga、Pb、Ti、Snから選択される少なくとも一種の元素であり、0.001≦a≦0.20,0.01≦b≦0.20,0.40≦y≦0.90の範囲であると共に、記録層に窒素を含む光記録媒体が提案されている(特開2002−264514号公報参照)。
また、Sb、Teを必須元素とし、このSbTeに対して少なくとも一種以上のX元素を添加した相変化光記録層であり、XがAg、Au、Cu、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、N、P、Bi、La、Ce、Cd、Tbから選ばれるとする光記録媒体が提案されている(特開2002−245663号公報参照)。
また、高純度Ge、もしくはAl、Si、Fe、Cr、Ta、Nb、Cu、Mn、Mo、W、Ni、Ti、Zr、Hf、Co、Ir、Pt、Ru、BおよびCから選ばれる少なくとも1種の元素を0.1〜50at原子%の範囲で含むGe合金であって、AgおよびAu含有量がそれぞれ5ppm以下である相変化光ディスク用スパッタリングターゲットが提案されている(特開2002−69624号公報参照)。
【発明の開示】
本発明は、スパッタリングの際にパーティクルの発生が少なく、安定して高品質の薄膜の作製が可能であり、記録ビットのエラー発生のない、そして高記録密度が達成できる光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金ターゲットの製造方法並びに同合金からなる光記録媒体を提供する。
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、適切な組成のGe−In−Sb−Te合金を選択して高記録密度が達成すると共に、酸素含有量を厳しく制限し、かつ結晶粒度を厳密に調整することにより、スパッタリングの際にパーティクルの発生を効果的に抑制することができるとのとの知見を得た。
本発明はこの知見に基づき、
1.Ge(α)−In(β)−Sb(γ)−Te(δ)合金からなるターゲットであって、各成分組成比α、β、γ、δ(原子%)の合計を100としたとき、0.1≦α≦10、0.1≦β≦10、60≦γ≦90、10≦δ<22の範囲にあることを特徴とする光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金からなる光記録媒体
2.酸素含有量が1500ppm以下であることを特徴とする上記1記載の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金からなる光記録媒体
3.酸素含有量が800ppm以下であることを特徴とする上記1記載の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金からなる光記録媒体
4.ターゲットの結晶平均粒度が100μm以下であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット
5.ターゲットの結晶平均粒度が50μm以下であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット
6.鉄の含有量が1〜100ppmであることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット
を提供する。
【発明の効果】
本発明の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金からなる光記録媒体は、スパッタリングの際にパーティクルの発生が少なく、安定して高品質の薄膜の作製が可能であり、記録ビットのエラー発生のない高記録密度が達成できるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金からなる光記録媒体は、Ge(α)−In(β)−Sb(γ)−Te(δ)合金からなり、各成分組成比α、β、γ、δ(原子%)の合計を100としたとき、0.1≦α≦10、0.1≦β≦10、60≦γ≦90、10≦δ<22の範囲にある。この合金組成は、高記録密度化が達成できる好適な組成であり、結晶学的な相変化すなわちアモルファスと結晶との相変化を実現し、書き換え回数の大幅な向上が可能となる。
さらに、本発明の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲットは、酸素含有量が1500ppm以下に、より好ましくは800ppm以下に厳しく制限される。これによって、スパッタリングの際のパーティクル発生が著しく減少し、安定した高品質の薄膜の作製が可能であり、記録ビットのエラー発生のない、そして高記録密度が達成できる光記録媒体の製造が可能となる。
また、光記録媒体中の酸素はGeと選択的に結合するため、アモルファス化と結晶化の相互変態の安定性を劣化させ、繰り返し記録回数の低下をもたらす。したがって、光記録媒体中の酸素量の制限(極力減少させること)は高品質の膜が得る上でも重要である。
また、スパッタリングの際のパーティクル発生防止には、ターゲットの結晶平均粒度を100μm以下とすることも極めて有効である。これによって、同様に記録ビットのエラー発生のない良好な薄膜の作製が可能となる。特に、ターゲットの結晶平均粒度が50μm以下であることが望ましい。
さらに、本発明の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット(記録媒体)中に鉄の含有量を1〜100ppmとすることが有効である。1ppm未満では添加の効果がなく、100ppmを超えるとCNRとDOWが悪くなるので、鉄を添加する場合には、Feの含有量を1〜100ppmとするのが望ましい。
本発明の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲットは、Ge粉、In粉、Sb粉、Te粉をアンプル内で合成し、得られたインゴットを所定の粒度まで粉砕した後、均一に分散混合させた後ホットプレスを使用して、焼結温度400〜600°C、面圧75〜250kg/cmの条件で焼結することによって製造することができる。
【実施例】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
[実施例1−7]
純度5N(99.999%)のGe粉、In粉、Sb粉、Te粉を準備し、これらの粉をGe(α)−In(β)−Sb(γ)−Te(δ)となるように調合した後アンプル内で合成し、得られたインゴットを所定の粒度まで粉砕した後、カーボン製ダイスに充填し、温度600°C、圧力150kg/cmの条件でホットプレスを行った。
この焼結体を仕上げ加工してターゲットとした。ターゲットの相対密度は99%(100%密度で5.54g/cm)であった。このターゲットの3箇所から任意に採取したサンプルの密度をアルキメデス法により測定した。
また、同組成におけるTe含有量δ(at%)、酸素量(wtppm)、粒径(μm)、Fe含有量、CNR(carrier to noise ratio)、DOW(direct over write)、スパッタリング時のパーティクル発生の結果を表1に示す。
なお、CNR(dB)は30m/sにおける測定値、DOWは100回上書き記録を実施した時点でのジッターによる評価結果を示す。ジッターとは最小ピット長信号(3T)の最大ピット長信号(11T)に対する再信号のずれの値で、今回は20%を下回るものをOK、20%以上をNGと判定した。
また、評価サンプルは、DVDブランクメディア上に、ZnS−SiO(45nm)、記録層(15nm)、ZnS−SiO(20nm)、Al−Ti(150nm)を連続成膜して作製した。
比較例
(比較例1−6)
純度5N(99.999%)のGe粉、In粉、Sb粉、Te粉を準備し、これらの粉をGe(α)−In(β)−Sb(γ)−Te(δ)となるように調合し、これを乾式混合した後アンプル内で合成し、得られたインゴットを所定の粒度まで粉砕した後、カーボン製ダイスに充填し、温度600°C、圧力150kg/cmの条件でホットプレスを行った。
この焼結体を仕上げ加工してターゲットとした。ターゲットの相対密度は99%(100%密度で5.54g/cm)であった。このターゲットの3箇所から任意に採取したサンプルの密度をアルキメデス法により測定した。
また、同組成におけるTe含有量δ(at%)、酸素量(wtppm)、粒径(μm)、Fe含有量、CNR(dB)、DOW、スパッタリング時のパーティクル発生の結果を、実施例と対比し表1に示す。なお、CNR(dB)測定値、DOW測定値、評価サンプルのスパッタリング条件は、実施例と同様に行った。

実施例1−6は、酸素含有量が700−1300ppmの範囲、粒径30−89μm、CNR(dB)が45−55の範囲にあり、DOW、パーティクル発生量は良好であった。
なお、実施例7については、Fe含有量が<1wtppmであるが、原料に含まれる酸素含有量が500ppm以下(450wtppm)と低いので、上記と同様にCNR(dB)、DOW、パーティクル発生量はいずれも良好であった。
これに対し、比較例1は酸素量が2000ppmと多いためDOW、パーティクル発生量は不良であった。比較例2は、粒径が200μmと大きいためパーティクル発生量は不良であった。比較例3は、Fe含有量が120ppmと多過ぎるため、DOWが悪化した。比較例4は、酸素含有量が2500ppmと多く、またFe<1ppmのため、DOW、パーティクル発生量は不良であった。Feがない場合には酸素が高くなる。比較例5は、δ22.0at%と組成ずれを生じている(過量の)ため、DOWが不良であった。比較例6はδ5.0at%と組成ずれを生じている(過少)のため、DOWが不良であった。
以上に示すように、Ge(α)−In(β)−Sb(γ)−Te(δ)合金からなるターゲットにおいて、Te(δ)組成のずれは、光記録媒体の特性に大きく影響を与えることが分かる。
また、ターゲットの酸素量、粒径は、本発明の範囲において、良好なCNR(dB)とDOW及びパーティクル発生の抑制効果を有する。また、Fe含有量は酸素量に影響を与え、適量のFeの存在はスパッタリング時のパーティクル発生の抑制効果を有する。また、酸素量が十分に低い場合には、Fe含有量に関係なく、同様の良好な結果を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
本発明は、スパッタリングの際にパーティクルの発生が少なく、安定して高品質の薄膜の作製が可能であり、記録ビットのエラー発生のない、そして高記録密度が達成できる光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金ターゲットの製造方法並びに同合金からなる光記録媒体に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ge(α)−In(β)−Sb(γ)−Te(δ)合金からなるターゲットであって、各成分組成比α、β、γ、δ(原子%)の合計を100としたとき、0.1≦α≦10、0.1≦β≦10、60≦γ≦90、10≦δ<22の範囲にあることを特徴とする光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金からなる光記録媒体。
【請求項2】
酸素含有量が1500ppm以下であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金からなる光記録媒体。
【請求項3】
酸素含有量が800ppm以下であることを特徴とする請求の範囲第1項記載の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット及び同合金からなる光記録媒体。
【請求項4】
ターゲットの結晶平均粒度が100μm以下であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット。
【請求項5】
ターゲットの結晶平均粒度が50μm以下であることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット。
【請求項6】
鉄の含有量が1〜100ppmであることを特徴とする請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の光記録媒体用Ge−In−Sb−Te合金スパッタリングターゲット。

【国際公開番号】WO2005/005683
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511456(P2005−511456)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005395
【国際出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】