説明

スパッタリング成膜装置及び太陽電池製造装置

【課題】特性の良好な薄膜を効率よく成膜可能なスパッタリング成膜装置及び太陽電池製造装置を提供する。
【解決手段】反応室21内に、成膜対象となる基板10と、基板10に対向して配置されたカソード電極となるターゲット23と、基板10とターゲット23との間に配置されたアノード電極24とを備えたスパッタリング成膜装置において、アノード電極24が、櫛歯状をなし、該櫛歯状の隙間部分が成膜面に対して投影されるように配置されているスパッタリング成膜装置を備えた太陽電池製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング成膜装置及び太陽電池製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜形成技術のひとつであるスパッタリング法は、金属薄膜、透明導電膜、半導体膜などの形成に広く利用されている。スパッタリング法は、真空引きされた反応室内にアルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、窒素ガスなどを導入し、基板とターゲット間に直流高電圧を印加してイオン化した原子(Ar原子など)をターゲットに衝突させ、弾き飛ばされたターゲット構成原子(スパッタ粒子)を基板に付着させて薄膜を成膜する方法である。また、スパッタリング法の一つとして、マグネトロンスパッタリング法がある。マグネトロンスパッタリング法は、ターゲットの表面に磁界を発生させてスパッタリングする方法である。磁界による電子の補足効果によりプラズマ密度が高まり、スパッタリング速度を大きくすることができる。
【0003】
図4は、従来より用いられているスパッタリング装置の概略構成図である。このスパッタリング装置は、反応室1内に、成膜対象となる基板2を設置する基板ホルダ3が配置されている。また、基板ホルダ3に設置される基板2に対向してカソード電極となるターゲット5が配置され、基板2とターゲット5との間にアノード電極4が配置されている。そして、ターゲット5の裏面に磁界発生手段6が配置されている。
【0004】
スパッタリング装置のアノード電極4には、図5に示すように、一対の棒状のアノードバー4aを、連結シャフト4bを介して連結してなるものが広く用いられている。
【0005】
また、特許文献1、2には、アノード電極を、メッシュ状にしたスパッタリング成膜装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−121653号公報
【特許文献2】特開平5−209265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スパッタリング成膜装置において、アノード電極を、ターゲットと基板との間に配置することで、アノード電極とターゲット間でのプラズマ放電が安定し、更には、成膜中に基板がプラズマに曝され難くなるので、特性の良好な薄膜を形成できる。しかしながら、ターゲットからのスパッタ粒子の一部がアノード電極によって遮られてしまうので、ターゲットのロスが増えたり、成膜時間が嵩み、成膜効率が劣る問題があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、特性の良好な薄膜を効率よく成膜可能なスパッタリング成膜装置及び太陽電池製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するに当たり、本発明のスパッタリング成膜装置は、反応室内に、成膜対象となる基板と、この基板に対向して配置されたカソード電極となるターゲットと、前記基板と前記ターゲットとの間に配置されたアノード電極とを備えたスパッタリング成膜装置において、前記アノード電極が、櫛歯状をなし、該櫛歯状の隙間部分が成膜面に対して投影されるように配置されていることを特徴とする。
【0010】
本発明のスパッタリング成膜装置は、マグネトロンスパッタリング成膜装置であることが好ましい。
【0011】
本発明のスパッタリング成膜装置は、前記ターゲットの前記アノード電極と反対側に磁場発生手段を有し、前記アノード電極と前記磁場発生手段とを、前記基板面と平行に往復移動させる移動台が設けられていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の太陽電池製造装置は、上記スパッタリング成膜装置を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、反応室内に、成膜対象となる基板と、該基板に対向して配置されたカソード電極となるターゲットと、該基板とターゲットとの間に配置されたアノード電極とを備えたスパッタリング成膜装置において、アノード電極が櫛歯状をなし、該櫛歯状の隙間部分が成膜面に対して投影されるように反応室に配置されているので、ターゲットからのスパッタ粒子が、アノード電極に遮られることなく、櫛歯状の間隙部分を通って成膜面まで到達できる。このため、ターゲットのロスが少なくなり、短時間で膜質の良好な薄膜を成膜できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のスパッタリング成膜装置を備えた太陽電池製造装置の概略図である。
【図2】本発明のスパッタリング成膜装置の概略図である。
【図3】本発明のスパッタリング成膜装置のアノード電極の概略図である。
【図4】従来のスパッタリング成膜装置の概略図である。
【図5】同スパッタリング成膜装置のアノード電極の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、「成膜対象となる基板」としては、特に限定は無く、従来公知のものを用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリサルフォン(PSF)等の材質から構成される可撓性基板、ガラス基板、ステンレス基板などが挙げられる。基板の種類としては、可撓性基板が好ましい。可撓性基板を用いることで、ロールトゥロール方式での成膜が可能となり、生産性よく成膜することができる。以下、基板材料として可撓性基板を用いた場合を例に挙げて説明する。
【0016】
図1は、本発明のスパッタリング成膜装置を備えた太陽電池製造装置の一実施形態を表わす概略図である。
【0017】
図1に示すように、この太陽電池製造装置は、基板10を巻取った巻出しロール11が収容される巻出し室12と、基板10を巻取る巻取りロール13が収容される巻取り室14と、巻出し室12と巻取り室14との間で基板10の搬送方向(図中の矢印方向)に沿って配置されるスパッタリング成膜装置20とで主に構成される。
【0018】
巻出し室12及び巻取り室14には、基板10をガイドしつつ、基板10にかかる張力を均一にするためのガイドローラ15,16が、それぞれ複数個(本実施形態では2個)設けられている。
【0019】
スパッタリング成膜装置20は、ガス導入口21aと排気口21bとが形成された反応室21内に、基板10を設置する基板ホルダ22が配置されている。また、基板ホルダ22に対向してカソード電極となるターゲット23が配置され、基板10とターゲット23との間にアノード電極24が配置されている。すなわち、基板ホルダ22から所定間隔をおいて、アノード電極24、ターゲット23の順にそれぞれ配置されている。
【0020】
図2,3を併せて参照すると、このアノード電極24は、櫛歯状に加工された一対のアノードバー24a、24aからなり、それぞれのアノードバー24aの端部どうしが連結シャフト24bを介して接合して一体化している。一対のアノードバー24a,24aからは、それぞれ対向して複数の櫛歯24cが所定間隔Lで突き合わせられるように突設されている。そして、図示しない可動手段によって、後述する磁場発生装置25と同期して、アノード電極24が、基板10と平行に往復移動可能とされている。
【0021】
アノードバー24aの櫛歯24cは、長さ10mm以上で、5〜10mm間隔で形成されていることが好ましい。櫛歯24cの長さは、20〜40mmがより好ましい。櫛歯24cの長さが10mm未満であると、アノード電極として不十分であり、またマグネットの磁界内に入らないように長さを設計することが必要である。また、櫛歯24cの間隔が5mm未満であると、スパッタ粒子がアノード電極24で遮られてしまうことがあり、10mmを超えると、アノード電極として不十分である。
【0022】
各アノードバー24aの櫛歯24cどうしの間隔Lは、櫛歯がマグネットの磁界内に入らないよう設計される。
【0023】
アノード電極24の平面方向から見た全体の面積に占める空隙部の面積の割合(以下、「空隙率」という)は、40%以上が好ましい。空隙率が40%未満であると、十分な効果が得られない。
【0024】
ターゲット23の基板10と反対側には、磁場発生装置25が配置されている。
【0025】
磁場発生装置25は、支持板26上に、所定間隔をおいて第1のマグネット27aと第2のマグネット27bとが交互に配置され、第1のマグネット27aと第2のマグネット27bとのターゲット23に面した側がそれぞれ逆極性となっている。この実施形態では、第1のマグネット27aのターゲット23側の磁極がN極をなし、第2のマグネット27bのターゲット23側の磁極がS極をなすように配置されている。そして、可動手段28によって、アノード電極24cと磁場発生装置25とが、同期してターゲット23と平行に往復移動可能とされている。
【0026】
次に、この太陽電池製造装置を用いて、基板10表面に成膜する際の作動について説明する。
【0027】
基板10を巻出しロール11から引き出してスパッタリング成膜装置20に導く。
スパッタリング成膜装置20では、反応室21内を真空引きした後、ガス導入口21aから、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、窒素ガス等のスパッタリングガスを導入し、反応室21内を一定のガス圧力に調整する。反応室21内のガス圧力は、0.01〜5Paが好ましい。反応室21内のガス圧力が安定した段階で、アノード電極24を接地した状態で、ターゲット23にマイナスの直流電圧又は高周波電圧を印加する。一方、第1のマグネット27aからターゲット23を介して第2のマグネット27bに至る磁界が発生しており、ターゲット23の表面側に円弧状の磁界が形成される。そして、アノード電極24とターゲット23との間でプラズマが発生する。これにより、スパッタリングガスがイオン化し、イオン化した原子がターゲット23に衝突し、弾き飛ばされたターゲット構成原子(スパッタ粒子)が、アノード電極24の櫛歯状の間隙部分を通って基板10に付着して薄膜が形成される。また、プラズマは、アノード電極24とターゲット23との間で発生しているので、基板10は直接プラズマに曝されないので、膜質の良好な薄膜を形成できる。
【0028】
スパッタリング中、可動手段28によって、アノード電極24及び磁場発生装置25を、連動して水平方向に往復移動させる。これにより、ターゲット23ができるだけ均一に侵食されると共に、基板10に均一な薄膜が形成される。
【0029】
こうして、基板10の表面に所定膜厚の薄膜を形成した後、成膜工程を終了して巻取りロール13で巻き取る。
【0030】
このスパッタリング成膜装置は、アノード電極24が複数の櫛歯24cを有し、該櫛歯24cの隙間部分が成膜面に対して投影される(アノード電極24を平面方向から見た時、間隙部分から成膜面が見える)ように反応室に配置されているので、ターゲット23からのスパッタ粒子がアノード電極24によって遮られ難く、櫛歯24cの間隙部分を通って成膜面まで到達する。このため、ターゲットのロスが少なくなり、短時間で膜質の良好な薄膜を成膜できる。また、アノード電極24のスパッタ粒子による汚染を抑制できるので、メンテナンスコストを低減できる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明の効果を説明する。なお、以下の実施例及び比較例では、スパッタリングガスとして、Arを、基板として可撓性プラスチックフィルムを、ターゲットとしてITOを用いた。
【0032】
(実施例1)
図1に示す太陽電池製造装置を用いて基板10に薄膜を形成した。なお、アノード電極24として、図3に示すように、長さ30mmの櫛歯24cが、5mm間隔で形成されているアノードバー24aを、アノードバー24aどうしの櫛歯24cの突き合わせの間隔Lが、150mmとなるように連結シャフト24bで連結してなるもの(空隙率50%)を用いた。
巻出しロール11及び巻き取りロール13を作動させ、基板10の成膜面を反応室21内に配置し、反応室21内を真空引きした後、スパッタリングガスを供給し、ガス圧力を0.7Paとした。そして、ターゲットに200Vの直流電圧を印加してプラズマを発生させ、基板の表面にターゲット構成原子を付着させて5分間スパッタリングを行った。基板表面には、厚さ100nmの均一な薄膜が形成されていた。
【0033】
(実施例2)
実施例1において、アノード電極24として、長さ30mmの櫛歯24cが、5mm間隔で形成されているアノードバー24aを、アノードバーどうしの櫛歯24cの突き合わせの間隔Lが、150mmとなるように連結シャフトで連結してなるもの(空隙率50%)を用いた以外は、実施例1と同様にして2分間スパッタリングを行った。基板表面には、厚さ60nmの均一な薄膜が形成されていた。
【0034】
(比較例1)
実施例1において、図5に示すように、アノード電極4として、長さ1500mm、幅10mm、厚み2mmの板状のアノードバー4aを、アノードバー4aどうしの間隔が、150mmとなるように連結シャフトで連結してなるものを用いた以外は、実施例1と同様にして5分間スパッタリングを行った。基板表面には、厚さ50nmの薄膜が形成されていた。
【符号の説明】
【0035】
10:基板
11:巻出しロール
12:巻出し室
13:巻取りロール
14:巻取り室
15,16:ガイドローラ
20:スパッタリング成膜装置
21:反応室
21a:ガス導入口
21b:排気口
22:基板ホルダ
23:ターゲット
24:アノード電極
24a:アノードバー
24b:連結シャフト
25:磁場発生装置
26:支持板
27a、27b:マグネット
28:可動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応室内に、成膜対象となる基板と、この基板に対向して配置されたカソード電極のターゲットと、前記基板と前記ターゲットとの間に配置されたアノード電極とを備えたスパッタリング成膜装置において、
前記アノード電極が、櫛歯状をなし、該櫛歯状の隙間部分が成膜面に対して投影されるように配置されていることを特徴とするスパッタリング成膜装置。
【請求項2】
前記スパッタリング成膜装置が、マグネトロンスパッタリング成膜装置である請求項1に記載のスパッタリング成膜装置。
【請求項3】
前記ターゲットの前記アノード電極と反対側に磁場発生手段を有し、前記アノード電極と前記磁場発生手段とを、前記基板面と平行に往復移動させる移動台が設けられている請求項1又は2に記載のスパッタリング成膜装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のスパッタリング成膜装置を備えた太陽電池製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−107303(P2012−107303A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258843(P2010−258843)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】