説明

スパッタリング装置

【課題】本発明のスパッタリング装置によれば、プレスパッタ時に比べてメインスパッタ時のエロージョン領域を縮小することができ、プレスパッタ時に非エロージョン領域に堆積したターゲット粒子をメインスパッタ時に剥離し難くし、当該粒子の基板への堆積を抑制することができる。
【解決手段】本発明は、複数の磁性体が、ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、第1の磁性体に対してターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、第2の磁性体が、ターゲット支持体の基板支持体とは反対側の面内で第1の位置から第2の位置まで移動自在であり、上記第1の位置は基板への成膜を行わない場合の位置であり、上記第2の位置は前記第1の位置に対して上記ターゲット支持体の中心側であって、基板への成膜を行う場合の位置であるスパッタリング装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置に関する。より詳しくは、本発明のスパッタリング装置は、透明導電性膜の形成を好適に行うことができるスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置に適用される発光素子の一例として、有機化合物を主体とする薄膜積層構造の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と称する場合がある。)が知られている。
【0003】
非特許文献1には、酸化インジウム錫(ITO)で構成された透明電極からホール注入層に注入されたホールと低仕事関数電極から電子注入層に注入された電子とが、発光層で再結合することによって発光が生ずることを原理とする、有機積層型の高輝度発光素子が開示されている。
【0004】
上記の高輝度発光素子が発表されて以来、有機EL素子の実用化に向けた様々な検討がなされている。
【0005】
例えば、有機ELディスプレイの分野では、近年、アクティブマトリックス駆動方式の有機EL素子の開発が盛んに行われている。アクティブマトリックス駆動方式では、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(TFT)を設けた基板上に、複数個の有機EL素子を形成し、これらの有機EL素子を光源としてディスプレイを構成している。現状におけるアクティブマトリックス駆動方式のディスプレイでは、TFTおよび有機EL素子の特性のばらつきが大きく、当該ばらつきを補正するために様々な駆動回路が必要となる。また、駆動回路が複雑な場合には、1画素を駆動させるために要するTFTの数が膨大となる。
【0006】
ところで、ディスプレイに適用される有機EL素子は、一般に、光をガラス基板面から取り出す、ボトムエミッション方式の素子(以下、「Bottom−Em型素子」と称する場合がある。)として構成することが多い。
【0007】
図5は、Bottom−Em型素子の模式的断面図である。同図に示すBottom−Em型素子100は、ガラス基板102に、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)からなる下部電極104、有機EL層106、およびLiF/Alからなる上部電極108を順次備える。このようなBottom−Em型素子100をアクティブマトリックス駆動方式のディスプレイに適用した場合には、TFTの数の増加に伴い、下部電極102での光Lの取り出し面積が小さくなる。
【0008】
そこで、アクティブマトリックス駆動方式のディスプレイに適用することを想定し、図5に示すBottom−Em型素子に代わって、光Lを上部電極側から取り出すトップエミッション方式の素子(以下「Top−Em型素子」と称する場合がある。)の開発が進められている。
【0009】
図6は、Top−Em型有機EL素子の模式的断面図である。同図に示すTop−Em型有機EL素子200は、ガラス基板202上に、反射膜204、IZOからなる下部電極206、有機EL層208、およびIZOで構成された上部電極210を順次備える。
【0010】
ここで、図6に示すTop−Em型有機EL素子200においては、上部電極210が十分な光透過性を発揮することが肝要である。このため、上部電極210としては、一般に、可視光の透過率が高く、かつ電気伝導性が高い物質からなる透明導電性膜を用いる。
【0011】
このような透明導電性膜としては、Au、Ag、Cu、Ptなどの金属薄膜(例えば、膜厚5nm以下)、および、SnO2、TiO2、CdO、In23、およびZnOなどの酸化物半導体薄膜、ならびにこれらの複合材料であるITOおよびIZOなどの酸化物半導体薄膜が挙げられる。ITO、IZOなどからなる透明導電性膜は、スパッタリングにより形成され、テレビ、透明ヒータ、および液晶表示素子などの広範な用途で電極として使用される。
【0012】
従来の製膜用のスパッタリング装置は、ターゲットの裏面にマグネットを配置した、一般的な平板マグネトロン方式の装置である。このタイプの装置においては、電界と磁界とが直交する方向に、電子がサイクロイド曲線を描きながらドリフト運動する。このため、マグネットを配設しない場合に比べて、電子の飛程が長い。よって、優れた電離衝突確率、ひいては優れたスパッタガスのイオン密度が達成され、スパッタ速度を大きくすることができる。
【0013】
また、このスパッタリング装置においては、対向する面をそれぞれ有する対極に、それぞれ、磁化されたマグネットを用いている。このため、マグネットの形状に依拠して、ターゲットのイオン化密度の高い領域がリング状となる。この結果、ターゲットのイオン化密度の高い領域が、スパッタに多量に用いられるため、他の領域と比べて高度に侵食される領域、即ち、エロージョン領域が形成される。
【0014】
一方、このようなエロージョン領域が形成されるスパッタリング装置においては、電子のドリフト運動が上記のリング状領域に閉じ込められる。このため、当該領域から外れた領域では優れたイオン化密度が得られない。よって、このリング状領域から外れた領域では、ターゲットがスパッタにあまり用いられず、侵食程度の低い領域、即ち、非エロージョン領域が形成される。
【0015】
また、この非エロージョン領域には、さらに、近隣のリング状領域からスパッタされた粒子が堆積する。このようにして堆積した粒子は、非常に剥離し易く、剥離した粒子は基板に堆積するおそれがある。当該粒子が基板に堆積した場合には、有機EL素子がリークまたはショートなどを起こすおそれがあり、当該素子の優れた良品率が達成できない。
【0016】
スパッタリング装置内で生じるこのような粒子に対する改善策としては、以下の技術が開示されている。
【0017】
特許文献1には、磁界を用いたスパッタリングによりターゲットの成分を被処理体に成膜するにあたり、所定枚数の上記被処理体に成膜を行った後、成膜時よりも磁界をターゲット面方向に沿って広げ、上記ターゲット表面をクリーニングするスパッタ成膜方法が開示されている。
【0018】
特許文献2には、処理基板の成膜する側の面とターゲットプレートとを、平行に対向させ、マグネトロンスパッタ方式でITO膜を成膜し、ターゲットプレートの処理基板面側でない裏面側にマグネットを1以上配し、該1以上のマグネットを揺動させ、ターゲットプレートの上記処理基板面側全体をエロージョン領域とする、もしくは、該ターゲットプレートの処理基板面側を、その天地方向または水平方向のいずれか1方向の対向する周辺部を非エロージョン領域として残してそれ以外をエロージョン領域とするもので、上記ターゲットプレートの処理基板面側の周辺部がエロージョン領域となる外周に、近接して、外側に、処理基板面側をターゲットプレート面に沿う平面にして、少なくとも上記処理基板面側の表面部を焼結したITOとする補助部材を配設しているスパッタリング装置が開示されている。
【0019】
特許文献3には、ターゲットの背後に、平面形状が長方形の磁石ユニットをその各々の長辺が平行になるように複数個配置してなる磁石装置を備え、上記磁石ユニットは上記ターゲット上にトンネル状磁力線を形成し、上記磁石装置は往復運動するように構成され、上記複数の磁石ユニットのうち両端の磁石ユニットの各々に隣接する磁石ユニットのT/M距離を他の磁石ユニットのT/M距離よりも大きくし、かつ上記隣接する磁石ユニットの長辺方向の長さを上記他の磁石ユニットの長さよりも長くしたマグネトロンスパッタ用カソード電極が開示されている。
【0020】
特許文献4には、少なくとも1つの電磁石を備えたブレーナマグネトロンスパッタ電極において、ターゲット上に磁場を発生させることなく、ターゲットのスパッタクリーニングを行うクリーニング方法が開示されている。
【0021】
特許文献5には、スパッタリング装置のターゲット(1)の裏面に設けた、少なくとも1個以上の磁界発生用マグネット(2)を装着したマグネット回転板(3)の中心軸(4)を、該ターゲット(1)の中心(5)に対して、その周囲を絶えず揺動または旋回させながら回転させて、該ターゲット(1)をスパッタするターゲットのスパッタ方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2002−38264号公報
【特許文献2】特開2007−238978号公報
【特許文献3】特開平09−125242号公報
【特許文献4】特開平04−193949号公報
【特許文献5】特開平07−226398号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】C. W. Tang, S. A. VanSlyke, Appl. Phys. Lett., 51913(1987), Vol.51, No.12, P.913
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、上記特許文献1〜5においては、以下の問題が内在する。
【0025】
特許文献1に開示された技術においては、スパッタリング中に粒子が随時発生しているため、所定枚数の被処理体に成膜を行った後にクリーニングを行うことによっては、非エロージョン領域の粒子レベルを十分に低減することができない。
【0026】
特許文献2に開示された技術においては、例えば、エロージョン領域をターゲットプレートの上記処理基板面側全体に広げても、その外周部分には必ず付着力の弱い粒子が堆積する。このため、プレスパッタからメインスパッタに至る過程で、エロージョン領域を縮小しなければ、メインスパッタ時に、基板に非エロージョン領域から剥離した粒子が堆積するおそれがある。
【0027】
特許文献3に開示された技術においては、磁石装置を往復運動させ、局所的に非エロージョン部をなくしてターゲットのエロージョン面積を大きくするため、特許文献2と同様に、エロージョン領域の外側に堆積している粒子が基板に堆積するおそれがある。
【0028】
特許文献4には、実施例2において、中央のヨーク2を中心として同心円状に2つのコイル5´,5´´が巻回され、また、外周ヨーク3´´と中央ヨーク2との間にさらに内周ヨーク3´が配置されたスパッタ電極が開示されている。このスパッタ電極において、ターゲットのスパッタクリーニングの際に、外側のコイル5´のみに通電すると、ターゲット全面にプラズマが発生するとされている。しかしながら、ターゲットの外周部の磁力の強い部分ではクリーニング効果はあるが、ターゲット中央部の磁力は弱いため、成膜時にスパッタされる領域のクリーニングが十分行われない可能性がある。また、特許文献4には、ターゲット1の裏面に永久磁石15を配置し、該永久磁石はボールねじ16と歯車17によってターゲット1との距離を可変にできるスパッタ電極が開示されている。このスパッタ電極において、ターゲットのスパッタクリーニング時には、永久磁石15をターゲットから遠ざけて、マグネトロン方式ではないスパッタを行っている。しかしながら、当該マグネトロン方式の特徴である電離効果を増すようなターゲット近くの電子の捕捉ができなくなるため、効率が大幅に低下し、実用的なスパッタリングを実現できないおそれがある。
【0029】
特許文献5に開示された技術においては、実施例において、数枚の回転板を前後左右に移動させ、絶えず揺動しながら偏芯して回転、遊星運動させ、均一なエロージョン領域を得ている。しかしながら、この方法では、回転板の交換が随時必要であり、メンテナンスに相当の時間を要する。また、1枚の回転板を使用する期間が長いほど、スパッタされたエロージョン領域とスパッタされない非エロージョン領域間で、ターゲットの削れ具合が均一でなくなり、その結果、粒子が発生し易くなると考えられる。
【0030】
以上に示す特許文献1〜5に開示された技術においては、上述した種々の事情から、非エロージョン領域から剥離する粒子の数を抑制して、良好な有機EL素子を製造するには、さらなる改善が望まれる。
【0031】
従って、本発明の目的は、上記問題点に鑑み、特に、非エロージョン領域から剥離した粒子が基板に堆積することを高いレベルで抑制可能な、透明導電性膜を形成するために用いるスパッタリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、基板支持体と、上記基板支持体と離間して平行に配置されたターゲット支持体と、上記ターゲット支持体の上記基板支持体とは反対側に配置された複数の磁性体とを備えるとともに、以下の2つの磁界変位手段1)または2)のいずれかを包含するスパッタリング装置に関する。
【0033】
1)上記複数の磁性体が、上記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、上記第1の磁性体に対して上記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、上記第2の磁性体が、上記ターゲット支持体の上記基板支持体とは反対側の面内で第1の位置から第2の位置まで移動自在であり、上記第1の位置が基板への成膜を行わない場合の位置であり、上記第2の位置が上記第1の位置に対して上記ターゲット支持体の中心側であって、基板への成膜を行う場合の位置である磁界変位手段。
【0034】
2)上記複数の磁性体が、上記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、上記第1の磁性体に対して上記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、上記第2の磁性体が、第1の磁性体群と、上記第1の磁性体群に対して上記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体群とを含み、上記第1および第2の磁性体群が、上記ターゲット支持体の上記基板支持体とは反対側の面の法線方向で第1の位置から第2の位置まで移動自在であり、上記第1の磁性体群および上記第2の磁性体群のいずれかが上記第1の位置に配置され、上記第2の磁性体群および上記第1の磁性体群のいずれかが上記第2の位置に配置され、上記第1の位置が基板への成膜を行わない場合の位置であり、上記第2の位置が上記第1の位置に対して上記ターゲット支持体に近い位置であって、基板への成膜を行う場合の位置である磁界変位手段。
【0035】
また、本発明は、基板支持体と、上記基板支持体と離間して垂直に配置された一対のターゲット支持体と、上記ターゲット支持体の各々において他のターゲット支持体とは反対側に配置された複数の磁性体とを備えるとともに、以下の2つの磁界変変位手段3)または4)のいずれかを包含するスパッタリング装置に関する。
【0036】
3)上記複数の磁性体が、上記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、上記第1の磁性体に対して上記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、上記第2の磁性体が、上記ターゲット支持体の上記基板支持体とは反対側の面内で第1の位置から第2の位置まで移動自在であり、上記第1の位置が基板への成膜を行わない場合の位置であり、上記第2の位置が上記第1の位置に対して上記ターゲット支持体の中心側であって、基板への成膜を行う場合の位置である磁界変位手段。
【0037】
4)上記複数の磁性体が、上記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、上記第1の磁性体に対して上記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、上記第2の磁性体が、第1の磁性体群と、上記第1の磁性体群に対して上記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体群とを含み、上記第1および第2の磁性体群が、上記ターゲット支持体の上記基板支持体とは反対側の面の法線方向で第1の位置から第2の位置まで移動自在であり、上記第1の磁性体群および上記第2の磁性体群のいずれかが上記第1の位置に配置され、上記第2の磁性体群および上記第1の磁性体群のいずれかが上記第2の位置に配置され、上記第1の位置が基板への成膜を行わない場合の位置であり、上記第2の位置が上記第1の位置に対して上記ターゲット支持体に近い位置であって、基板への成膜を行う場合の位置である磁界変位手段。
【発明の効果】
【0038】
これらのスパッタリング装置においては、いずれも、上記所定の磁界変位手段1)〜4)により、プレスパッタ時に比べてメインスパッタ時のエロージョン領域を縮小することができる。
【0039】
このため、本発明のスパッタリング装置によれば、プレスパッタ時に非エロージョン領域に堆積したターゲット粒子を、メインスパッタ時に上記エロージョン領域の縮小によって剥離し難くし、当該粒子の基板への堆積を抑制することができる。
【0040】
従って、本発明のスパッタリング装置を用いた場合には、基板上に透明導電性膜の形成を好適に行うことができ、ひいては高品質の有機EL素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】1枚のバッキングプレートを用いた本発明のスパッタリング装置(平板型)の一例を示す模式的側面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。
【図2】図1に示す磁性体16の構成要素である中央マグネット16aおよび外周マグネット16bの配置関係を示す模式的底面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。
【図3】1枚のバッキングプレートを用いた本発明のスパッタリング装置(平板型)の一例を示す模式的側面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。
【図4】一対のバッキングプレートを用いた本発明のスパッタリング装置(対向型)の一例を示す模式的側面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。
【図5】Bottom−Em型素子の模式的断面図である。
【図6】Top−Em型有機EL素子の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に、本発明のスパッタリング装置を、図面に従い詳細に説明する。なお、一般に、有機EL素子の形成においては、スパッタリング工程は、プレスパッタ工程(基板への成膜を行わない場合)とメインスパッタ工程(基板への成膜を行う場合)との2工程においてなされる。このため、以下では、これら2つの工程時における当該装置の状態を図示し、これらの各状態を順次説明するものとする。
【0043】
<実施形態1:バッキングプレートを1枚用いた場合(平板型)>
[実施形態1−1:マグネットの水平面内での移動による磁界変位手段を含む例]
図1は、本発明のスパッタリング装置(実施形態1−1)を示す模式的側面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。
【0044】
図1(a)に示すところによれば、スパッタリング装置10は、基板支持体12と、基板支持体12と離間して平行に配置されたターゲット支持体としてのバッキングプレート14と、バッキングプレート14の基板支持体12とは反対側に配置された磁性体16と、バッキングプレート14を同図の主に左右から覆うように配置されたアースシールド18とを備える。本例においては、磁性体16は、2つの同心円状に配置された円柱状の内側マグネット16aと、円筒状の外側マグネット16bとから構成されている。
【0045】
(基板支持体12)
基板支持体12は、被製膜体としての基板(図示せず)をその下側で支持する治具としての構成要素である。
【0046】
基板支持体12には、ステンレスおよび銅などの材料を用いることができる。基板支持体12は、スパッタリング装置の図示しないハウジングにねじ止め等の方法によって固定するなどして形成することができる。
【0047】
(バッキングプレート14)
バッキングプレート14は、その一方の面で図1(a)のターゲットTを支持するとともに、他方の面においては磁性体16を支持するための構成要素である。
【0048】
バッキングプレート14には、銅を用いることができる。
【0049】
(磁性体16)
磁性体16は、磁界変位手段の構成要素であり、上述のとおり、円柱状の中央マグネット16aと、円筒状の外周マグネット16bとから構成されている。
【0050】
図2(a),(b)は、図1に示す磁性体16(マグネット16a、16b)の模式的底面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。なお、図2(a)の破線部は外周マグネット16bのメインスパッタ時の位置を示し、図2(b)の破線部は外周マグネット16bのプレスパッタ時の位置を示す。
【0051】
中央マグネット16aには、SmCoなどからなる硬磁性マグネットを用いることができ、その形状は、ターゲットの直径の寸法が6インチの場合、直径30mm、高さ20mmの円柱状とすることができる。これに対し、外周マグネット16bには、SmCoなどからなる硬磁性マグネットを用いることができ、その形状は、ターゲットの直径の寸法が6インチの場合、縦15mm、横15mm、高さ20mmの四角柱qを同心円状に配列し、全体として円筒状とすることができる。
【0052】
(アースシールド18)
アースシールド18は、高周波電力が印加される部位の近傍に設置し、基板支持体12およびバッキングプレート14と、接地電位のアースシールド18との間のそれぞれの距離を放電し難い距離とすることで、放電を抑制するための構成要素である。
【0053】
アースシールド18には、一般にステンレスなどを用いることができる。
【0054】
(構成要素12〜18を用いたスパッタリング装置10の形成)
図1(a)に示すように、基板支持体12に対してバッキングプレート14を所定の距離、例えば400mmで配置する。
【0055】
次いで、同図に示すように、バッキングプレート14の基板支持体12とは反対側に磁性体16(中央マグネット16a、外周マグネット16b)を配置する。磁性体16の基本的な配置態様は、上述のとおりである。また、磁性体16を、図2(a)に示すプレスパッタ時の形状に設定する場合には、中央マグネット16aと外周マグネット16bとを同心円状に配置し、かつ、中央マグネット16aの外周端から外周マグネット16bの内周端までの距離を例えば45mmとする。さらに、図1に示すように、中央マグネット16aと外周マグネット16bとのS極、N極は逆向きとする。
【0056】
さらに、同図に示すように、一対のアースシールド18を、基板支持体12からの鉛直方向距離を300mmとするとともに、バッキングプレート14からの水平方向距離を10mmとして配置する。
【0057】
(スパッタリング装置10の動作)
このようにして形成されたスパッタリング装置10は、以下のように動作する。なお、以下の例は、ターゲットTの中心が中央マグネット16aの中心と一致するように配置された例である。
【0058】
図1に示すスパッタリング装置は、外周マグネット16bの水平面内での移動(図1)に基づく磁界変位手段、具体的には外周マグネット16bの全体形状の縮小、拡大(図2)に基づく磁界変位手段により、プレスパッタ時とメインスパッタ時とのそれぞれの状態を実現するものである。
【0059】
即ち、プレスパッタ時においては、図2(a)に示すように、両マグネット16a,16bが同心円状に、かつ、中央マグネット16aの外周端から外周マグネット16bの内周端までの距離が45mmとなるように配置される。この状態では、図1(a)に示すように、磁束ΦがターゲットTの広い範囲に存在するため、ターゲットTの侵食領域(エロージョン領域)が広い範囲にわたって存在する。なお、図1(a)における符号Pは高密度プラズマの発生領域である。また、図2(a)における両マグネット16a,16bの中央領域での磁束Φを、図1(a)におけるターゲットTの表面と平行にすることが、フレミングの左手の法則に従い、磁界の向きと直交する方向に電流を流すことができ、これによりターゲットTの表面でプラズマが発生し易くなる点で好ましい。
【0060】
この状態から、本例では、図示しないステッピングモータを用いて、外側マグネット16bの全体形状を縮小させて、メインスパッタ時を実現する。例えば、左右ねじを形成したシャフトにロータとしてのマグネットを配設したステッピングモータを用いて、当該ロータの回転より、外側マグネット16bを拡大・縮小させることができる。
【0061】
このようなステッピングモータの使用に起因する外周マグネット16bの全体形状の縮小により、図2(b)に示すように、両マグネット16a,16bは同心円状に、かつ、中央マグネット16aの外周端から外周マグネット16bの内周端までの距離が30mmとなる。この状態では、図1(b)に示すように、磁束Φ´がターゲットTの狭い範囲に存在するため、ターゲットTの侵食領域(エロージョン領域)が狭い範囲にわたって存在する。なお、図1(b)における符号Pは高密度プラズマの発生領域である。また、図2(b)における両マグネット16a,16bの中央領域での磁束Φ´を、図1(b)におけるターゲットT´の表面と平行とすることが、フレミングの左手の法則に従い、磁界の向きと直交する方向に電流を流すことができ、これによりターゲットTの表面でプラズマが発生し易くなる点で好ましい。
【0062】
図1に示すスパッタリング装置においては、プレスパッタ時に対するメインスパッタ時のエロージョン領域の縮小に基づき、プレスパッタ時に非エロージョン領域に堆積したターゲット粒子をメインスパッタ時に剥離し難くし、当該粒子の基板への堆積を抑制することができる。
【0063】
なお、本例においては、図示しないステッピングモータをさらに連続的に稼動させることで、上述したプレスパッタ時(図1(a),図2(a))とメインスパッタ時(図1(b),図2(b))とを交互に繰り返すことができ、例えば、有機EL素子の所定の構成要素の製膜を連続的に何度も行うことができる。
【0064】
[実施形態1−2:マグネットの鉛直方向の移動による磁界変位手段を含む例]
図3は、本発明のスパッタリング装置(実施形態1−2)を示す模式的側面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。なお、実施形態1−2は実施形態1−1の設計変更例であるため、以下では、実施形態1−1との差異のみについて述べる。
【0065】
図3(a)に示すところによれば、スパッタリング装置20は、バッキングプレート14の基板支持体12とは逆側に磁性体22を備える。磁性体22は、円柱状の中央マグネット22aと、中央マグネット22aの外周に位置する円筒状の第1の外周マグネット22bと、第1の外周マグネット22bのさらに外周に位置する円筒状の第2の外周マグネット22cとから構成されている。
【0066】
中央マグネット22aには、SmCoなどからなる硬磁性マグネットを用いることができ、その形状は、直径30mm、高さ20mmの円柱状とすることができる。また、第1の外周マグネット22bには、SmCoなどからなる硬磁性マグネットを用いることができ、その形状は、内径45mm、外径60mm、高さ20mmの円筒状とすることができる。さらに、第2の外周マグネット22cには、SmCoなどからなる硬磁性マグネットを用いることができ、その形状は、内径60mm、外径75mm、高さ20mmの円筒状とすることができる。なお、図3(a)に示すところによれば、磁性体22の構成要素22a,22b,22cは同心円状に配置されている。
【0067】
(スパッタリング装置20の動作)
スパッタリング装置20は、以下のように動作する。なお、以下の例は、ターゲットTの中心が中央マグネット22aの中心と一致するように配置された例である。
【0068】
図3に示すスパッタリング装置20は、第1の外周マグネット22bおよび第2の外周マグネット22cの鉛直方向の移動に基づく磁界変位手段により、プレスパッタ時とメインスパッタ時とのそれぞれの状態を実現するものである。
【0069】
即ち、プレスパッタ時においては、図3(a)に示すように、3つのマグネット22a,22b,22cが同心円状に、かつ、中央マグネット22aと第2の外周マグネット22cとに対して第1の外周マグネット22bが下方に位置する。この状態では、図3(a)に示すように、磁束ΦがターゲットTの広い範囲に存在するため、ターゲットTの侵食領域(エロージョン領域)が広い範囲にわたって存在する。なお、図3(a)における符号Pは高密度プラズマの発生領域である。また、図3(a)において磁界発生に寄与するマグネット22a,22cの間の中央領域での磁束Φを、ターゲットTの表面と平行にすることが、フレミングの左手の法則に従い、磁界の向きと直交する方向に電流を流すことができ、これによりターゲットTの表面でプラズマが発生し易くなる点で好ましい。
【0070】
この状態から、本例では、図示しないシリンダを用いて、第1の外側マグネット22bと第2の外周マグネット22cとの鉛直方向位置を入れ替えて、メインスパッタ時を実現する。具体的には、当該シリンダにマグネット22b、22cを連結し、シリンダの直線運動によりマグネット22b、22cを上下させる。
【0071】
このようなシリンダの使用に起因する第1の外側マグネット22bと第2の外周マグネット22cとの鉛直方向位置の入れ替えにより、図3(b)に示すように、3つのマグネット22a,22b,22cは同心円状に、かつ、中央マグネット22aと第1の外周マグネット22bとに対して第2の外周マグネット22cが下方に位置する。この状態では、図3(b)に示すように、磁束Φ´がターゲットTの狭い範囲に存在するため、ターゲットTの侵食領域(エロージョン領域)が狭い範囲にわたって存在する。なお、図3(b)における符号Pは高密度プラズマの発生領域である。また、図3(b)において磁界発生に寄与するマグネット22a,22bの間の中央領域での磁束Φ´を、ターゲットTの表面と平行にすることが、フレミングの左手の法則に従い、磁界の向きと直交する方向に電流を流すことができ、これによりターゲットTの表面でプラズマが発生し易くなる点で好ましい。
【0072】
図3に示すスパッタリング装置においても、プレスパッタ時に対するメインスパッタ時のエロージョン領域の縮小に基づき、プレスパッタ時に非エロージョン領域に堆積したターゲット粒子をメインスパッタ時に剥離し難くし、当該粒子の基板への堆積を抑制することができる。
【0073】
なお、本例においても、図示しないシリンダをさらに連続的に稼動させることで、上述したプレスパッタ時(図3(a))とメインスパッタ時(図3(b))とを繰り返すことができ、例えば、有機EL素子の所定の構成要素の製膜を連続的に何度も行うことができる。
【0074】
<実施形態2:バッキングプレートを2枚用いた場合(対向型)>
図4は、本発明のスパッタリング装置(実施形態2)を示す模式的側面図であり、(a)はプレスパッタ時を示し、(b)はメインスパッタ時を示す。なお、実施形態2は、実施形態1−1または1−2の設計変更例であるため、以下には、実施形態1との差異のみについて述べる。
【0075】
図4(a)に示すところによれば、スパッタリング装置40は、基板支持体12と、基板支持体12と離間して垂直に配置された一対のターゲット支持体としてのバッキングプレート14,14´と、バッキングプレート14,14´の各々において、他のバッキングプレート14´,14とは反対側に配置された複数の磁性体16,16´と、バッキングプレート14,14´を同図の主に上下からから覆うように配置されたアースシールド18,18´とを備える。
【0076】
ここで、本例においては、磁性体16,16´の構成を、図1,3にそれぞれ示す実施形態1−1、1−2のいずれの態様とすることもできる。図4(a),(b)に示す例は、これらのうち、実施形態1−1と同じ態様の磁性体16(16a,16b)を用いた例である。なお、図4(a),(b)における符号P,P´は高密度プラズマの発生領域である。また、図4(a),(b)における両マグネット16a(16a´),16b(16b´)の間の中央領域での磁束Φ,Φ´を、ターゲットT(T´)の表面と平行とすることが、フレミングの左手の法則に従い、磁界の向きと直交する方向に電流を流すことができ、これによりターゲットTの表面でプラズマが発生し易くなる点で好ましい。
【0077】
図4に示すスパッタリング装置40は、図1,3に示すスパッタリング装置10,20(実施形態1−1,1−2)と同様に、プレスパッタ時に対するメインスパッタ時のエロージョン領域の縮小に基づき、プレスパッタ時に非エロージョン領域に堆積したターゲット粒子をメインスパッタ時に剥離し難くし、当該粒子の基板への堆積を抑制することができる。
【0078】
なお、図4に示す例は、スパッタリング装置10,20と比べて、特に、バッキングプレート、磁性体、およびアースシールドの数を2倍とし、しかも、ターゲットT,T´同士を対向させている。このため、対向するターゲットT,T´から飛散したスパッタ粒子の大部分が非エロージョン領域ではなく反対側のターゲットT´、Tに堆積する。このため、本例は、実施形態1−1、1−2のいずれの形態よりも、メインスパッタ時の基板への不所望な粒子の堆積が抑制される。その結果、実施形態1−1、1−2のいずれの形態よりも、プレスパッタ時からメインスパッタ時におけるエロージョン領域の縮小による効果が増大され、ひいては当該粒子の基板への堆積を極めて高いレベルで抑制することができる。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明の実施例を説明し、本発明の効果を実証する。
【0080】
<有機EL素子の形成>
(実施例1)
図1に示すスパッタリング装置10を用いて、有機EL素子を形成した。
【0081】
まず、ガラス基板上に反射電極としてCrBを形成した。反射電極は、スパッタリングガスとしてArを用いるDCスパッタリングを室温にて行うことで形成した。具体的には、300Wのスパッタパワーでプレスパッタを30分間行い、300Wのスパッタパワーでメインスパッタを5分間行った。反射電極材料のCrBは、反応性の高い化合物でなく、しかも透明導電膜のような酸化物でもない。このため、メインスパッタ時のエロージョン領域は、プレスパッタ時のエロージョン領域に比べて縮小しなかった。最後に、パターニング、150℃での乾燥処理、ならびに室温および150℃でのUV処理を順次施すことにより、CrBからなる膜厚100nmの反射電極を得た。
【0082】
次に、ガラス基板に反射電極が形成された積層体を蒸着装置に移動し、真空槽内圧を1×10-5Paとして有機EL層を形成した。
【0083】
有機EL層として、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、および正孔注入層を順次形成した。電子注入層には、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(III)(Alq3)と50mol%Liとの混合物を、膜厚10nmで形成した。電子輸送層には、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(III)(Alq3)を、膜厚10nmで形成した。発光層には、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を、膜厚35nmで形成した。正孔輸送層には、tブチルパーオキシベンゾエート(TBPB)を、膜厚10nmで形成した。正孔注入層には、銅フタロシアニン(CuPc)を、膜厚75nmで形成した。
【0084】
さらに、図1に示すスパッタリング装置10、およびメタルマスクを用いて、有機EL層上にインジウム・亜鉛酸化物(IZO)からなる上部電極を形成した。
【0085】
まず、図1(a)に示すように、外周マグネット16bをターゲットTの外周付近に設定し、スパッタリングガスとしてArを用い、DC200Wのスパッタパワーで30分間、プレスパッタを行った。
【0086】
その後、図1には図示しないスピンドルモータを用いて、外周マグネット16bの位置を2cm内周側に移動させるとともに、スパッタリングガスとして1%O2を含むArガスを用い、DC200Wのスパッタパワーで10分間メインスパッタを行って、膜厚200nmのIZOを得た。
【0087】
以上のようにして得られた有機EL素子に対してUV封止を行った。当該UV封止は、有機EL素子を大気に暴露せず、グローブボックス(酸素濃度、水分濃度がともに数ppm以下)に移動し、封止内部にゲッター材を塗布して行った。
【0088】
(比較例1)
図1に示すスパッタリング装置10を用いたが、上部電極の形成に際し、プレスパッタ時とメインスパッタ時において外周マグネット16bの位置を変化させずに、即ち、エロージョン領域を縮小せずに有機EL素子を形成した。その他の諸条件については、実施例1と同様に有機EL素子を形成した。
【0089】
(実施例2)
図3に示すスパッタリング装置20を用いて、有機EL素子を形成した。
最初に、ガラス基板上に反射電極および有機EL層を実施例1と同様に形成した。
【0090】
次いで、図3に示すスパッタリング装置20、およびメタルマスクを用いて、有機EL層の上にIZOからなる上部電極を形成した。
【0091】
まず、図3(a)に示すように、3つのマグネット22a,22b,22cを同心円状に、かつ、中央マグネット22aと第2の外周マグネット22cとをバッキングプレート14に密着させ、第1の外周マグネット22bをバッキングプレート14から下方に10cm離間させて配置した(プレスパッタ時)。
【0092】
次に、シリンダを用いて、図3(b)に示すように、3つのマグネット22a,22b,22cを同心円状に、かつ、中央マグネット22aと第1の外周マグネット22bとをバッキングプレート14に密着させ、第2の外周マグネット22cをバッキングプレート14から下方に10cm離間させて配置した(メインスパッタ時)。なお、プレスパッタおよびメインスパッタのその他の諸条件は、実施例1と同様とした。
【0093】
最後に、形成した有機EL素子に対して、実施例1と同様にUV封止を行った。
【0094】
(実施例3)
図4に示すスパッタリング装置40を用いて、有機EL素子を形成した。
【0095】
最初に、ガラス基板上に反射電極および有機EL層を実施例1と同様に形成した。
【0096】
次いで、図4に示すスパッタリング装置40、およびメタルマスクを用いて、有機EL層の上にIZOからなる上部電極を形成した。
【0097】
まず、図4(a)に示すように、一対のバッキングプレートのそれぞれにおいて、外周マグネット16b,16b´をターゲットT,T´の外周付近に設定し、スパッタリングガスとしてArを用い、DC200Wのスパッタパワーで30分間プレスパッタを行った。
【0098】
その後、図4(b)には図示しないステッピングモータを用いて、一対のバッキングプレートのそれぞれにおいて、外周マグネット16b,16b´の位置を2cm内周側に移動させるとともに、スパッタリングガスとして1%O2を含むArガスを用い、DC200Wのスパッタパワーで20分間メインスパッタを行い、膜厚200nmのIZOからなる上部電極を得た。
【0099】
最後に、形成した有機EL素子に対して、実施例1と同様にUV封止を行った。
【0100】
(比較例2)
図4に示すスパッタリング装置40を用いたが、上部電極の形成に際し、プレスパッタ時とメインスパッタ時とにおいて一対のバッキングプレート14,14´において、外周マグネット16b,16b´の位置を変化させずに、即ち、エロージョン領域を縮小せずに、有機EL素子を形成した。その他の事項については、実施例3と同様に有機EL素子を形成した。
【0101】
<有機EL素子の評価>
以上のようにして得られた実施例1〜3ならびに比較例1および2の有機EL素子のそれぞれを、以下のように駆動することによって、リーク・ショートに基づく良品率を調査した。ここで、有機EL素子の駆動は定電流により行った。次に、点灯しないサブピクセル、および劣化により暗くなったサブピクセルを、それぞれ、高精度カメラにより撮影し、これらのサブピクセルの総数(欠陥サブピクセル数)を算出した。最後に、良品率を、有機EL素子をディスプレイに適用した際の、赤色、緑色、および青色の各サブピクセルの全数(サブピクセル全数)に対する、サブピクセル全数と欠陥サブピクセル数との差の割合として算出した。その結果を表1に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
表1に示すように、本発明に範囲内である実施例1〜3はいずれも、プレスパッタ時に比べてメインスパッタ時のエロージョン領域を縮小しているため、優れた良品率を実現することが判る。また、特に、平板型の実施例1〜2に対して、対向型の実施例3は、特に、対向するターゲットT,T´から飛散したスパッタ粒子の大部分が反対側のターゲットT´、Tに堆積するため、メインスパッタ時の基板への不所望な粒子の堆積を抑制できる。よって、実施例3においては、プレスパッタ時とメインスパッタ時とのエロージョン領域を変更する効果が大きく、結果的に、極めて優れた良品率が得られていることが判る。
【0104】
これに対し、本発明に範囲外である比較例1,2はいずれも、プレスパッタ時に比べてメインスパッタ時のエロージョン領域を縮小していないため、優れた良品率を実現していないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のスパッタリング装置は、所定の磁界変位手段を有するため、プレスパッタ時に比べてメインスパッタ時のエロージョン領域を縮小することができる。このため、当該スパッタリング装置によれば、プレスパッタ時に非エロージョン領域に堆積したターゲット粒子をメインスパッタ時に剥離し難くし、当該粒子の基板への堆積を抑制することができ、ひいては基板上に透明導電性膜の形成を好適に行うことができる。従って、本発明は、今後益々高品質の有機EL素子の製造が望まれる、有機ELディスプレイの分野において適用できる点で有望である。
【符号の説明】
【0106】
10 スパッタリング装置
12 基板支持体
14 バッキングプレート
16 磁性体
16a 中央マグネット
16b 外周マグネット
18 アースシールド
P 高密度プラズマ発生領域
T ターゲット
Φ,Φ´ 磁束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板支持体と、前記基板支持体と離間して平行に配置されたターゲット支持体と、前記ターゲット支持体の前記基板支持体とは反対側に配置された複数の磁性体とを備えるスパッタリング装置において、前記複数の磁性体は、前記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、前記第1の磁性体に対して前記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、前記第2の磁性体は、前記ターゲット支持体の前記基板支持体とは反対側の面内で第1の位置から第2の位置まで移動自在であり、前記第1の位置は基板への成膜を行わない場合の位置であり、前記第2の位置は前記第1の位置に対して前記ターゲット支持体の中心側であって、基板への成膜を行う場合の位置であることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
基板支持体と、前記基板支持体と離間して平行に配置されたターゲット支持体と、前記ターゲット支持体の前記基板支持体とは反対側に配置された複数の磁性体とを備えるスパッタリング装置において、前記複数の磁性体は、前記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、前記第1の磁性体に対して前記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、前記第2の磁性体は、第1の磁性体群と、前記第1の磁性体群に対して前記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体群とを含み、前記第1および第2の磁性体群は、前記ターゲット支持体の前記基板支持体とは反対側の面の法線方向で第1の位置から第2の位置まで移動自在であり、前記第1の磁性体群および前記第2の磁性体群のいずれかが前記第1の位置に配置され、前記第2の磁性体群および前記第1の磁性体群のいずれかが前記第2の位置に配置され、前記第1の位置は基板への成膜を行わない場合の位置であり、前記第2の位置は前記第1の位置に対して前記ターゲット支持体に近い位置であって、基板への成膜を行う場合の位置であることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項3】
基板支持体と、前記基板支持体と離間して垂直に配置された一対のターゲット支持体と、前記ターゲット支持体の各々において他のターゲット支持体とは反対側に配置された複数の磁性体とを備えるスパッタリング装置において、前記複数の磁性体は、前記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、前記第1の磁性体に対して前記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、前記第2の磁性体は、前記ターゲット支持体の前記基板支持体とは反対側の面内で第1の位置から第2の位置まで移動自在であり、前記第1の位置は基板への成膜を行わない場合の位置であり、前記第2の位置は前記第1の位置に対して前記ターゲット支持体の中心側であって、基板への成膜を行う場合の位置であることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項4】
基板支持体と、前記基板支持体と離間して垂直に配置された一対のターゲット支持体と、前記ターゲット支持体の各々において他のターゲット支持体とは反対側に配置された複数の磁性体とを備えるスパッタリング装置において、前記複数の磁性体は、前記ターゲット支持体の中心部に位置する第1の磁性体と、前記第1の磁性体に対して前記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体とを含み、前記第2の磁性体は、第1の磁性体群と、前記第1の磁性体群に対して前記ターゲット支持体の外周側に位置する第2の磁性体群とを含み、前記第1および第2の磁性体群は、前記ターゲット支持体の前記基板支持体とは反対側の面の法線方向で第1の位置から第2の位置まで移動自在であり、前記第1の磁性体群および前記第2の磁性体群のいずれかが前記第1の位置に配置され、前記第2の磁性体群および前記第1の磁性体群のいずれかが前記第2の位置に配置され、前記第1の位置は基板への成膜を行わない場合の位置であり、前記第2の位置は前記第1の位置に対して前記ターゲット支持体に近い位置であって、基板への成膜を行う場合の位置であることを特徴とするスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−37656(P2010−37656A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162129(P2009−162129)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】