説明

スピンコート装置およびスピンコート方法

【課題】被塗布面上の異物に起因する膜厚ムラを十分に低減させることができるスピンコート装置およびスピンコート方法を提供する。
【解決手段】被塗布物9が載置され、前記被塗布物9と一体化された状態で回転されるテーブル2と、前記被塗布物9に塗布液を供給する塗布液供給手段4と、前記テーブルを回転させる回転手段5と、前記被塗布物9を冷却する被塗布物冷却手段8とを備えているスピンコート装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンコート装置およびスピンコート方法に関し、特に、被塗布面上の異物に起因する膜厚ムラを低減させることができるスピンコート装置および、このスピンコート装置を用いてスピンコートする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、薄膜を形成する方法の一つとして、スピンコート装置を用いるスピンコート方法が用いられている。スピンコート方法では、基板などの被塗布面に塗布液を供給し、被塗布面を回転させて遠心力により被塗布面に塗布液を塗布することにより、塗布膜を形成する。スピンコート方法では、一般に、回転数及び回転保持時間、塗布液の濃度や粘度などによって膜厚を制御している。
このようなスピンコート方法は、例えば、有機EL素子を構成する各種薄膜、半導体製造工程等に用いられるフォトレジスト膜、SOG(スピンオングラス)等の層間絶縁膜、液晶装置製造工程等におけるオーバーコート膜(平坦化膜)や配向膜、さらには光ディスク等の製造工程における保護膜などの形成に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、従来のスピンコート方法では、被塗布面上に存在している環境異物や塗布液の乾燥によって塊状となったものなどの異物が、遠心力による塗布液の流動や飛散を妨げることによって、膜厚ムラが生じてしまうという問題があった。
この問題を解決するために、塗布液の滴下開始時および滴下終了時、塗布工程のそれぞれにおいて所定の速度で基板を回転させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、スピンコート開始前に既に基板上に存在する異物や塗布液中に存在する異物に起因する膜厚ムラを低減することができる。
【特許文献1】特開2001−300408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、被塗布面上の異物に起因する膜厚ムラを十分に低減させることができなかった。特に、溶解性の低い溶質を含む塗布液をスピンコートする際には、被塗布面上の異物に起因する膜厚ムラが顕著となるため問題となっていた。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、被塗布面上の異物に起因する膜厚ムラを十分に低減させることができるスピンコート装置を提供することを目的とする。
また、上記スピンコート装置を用いてスピンコートする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明者は鋭意研究を重ね、被塗布面上の異物に起因する膜厚ムラを効果的に低減させるには、スピンコート中に塗布液から析出する析出物を低減すればよいことを見出した。
スピンコート中に塗布液から析出する析出物を低減するには、塗布液中に溶解された溶質の濃度を低減する方法が有効であるが、溶質の濃度を低減すると塗布厚が薄くなってしまい、所定の塗布厚で被塗布面上にスピンコートできない場合がある。また、スピンコート中に被塗布面を回転させる回転数を遅くすることで、塗布厚を厚くすることができるが、回転数を遅くすると、膜厚ムラが顕著となってしまう。
そこで、本発明者は、溶質の濃度や回転数を変更することなく、スピンコート中に塗布液から析出する析出物を低減し、膜厚ムラを低減できる本発明のスピンコート装置およびスピンコート方法を見出した。
【0006】
すなわち、本発明のスピンコート装置は、被塗布物が載置され、前記被塗布物と一体化された状態で回転されるテーブルと、前記被塗布物に塗布液を供給する塗布液供給手段と、前記テーブルを回転させる回転手段と、前記被塗布物を冷却する被塗布物冷却手段とを備えていることを特徴とする。
【0007】
このようなスピンコート装置は、被塗布物を冷却する被塗布物冷却手段を備えているので、スピンコート中に被塗布物を冷却することができ、被塗布物上に供給された塗布液中の溶媒が揮発して塗布液中の溶質濃度が高くなることを防ぐことができる。したがって、塗布液中における溶質の溶解性が低下することを防ぐことが可能となり、溶質の濃度や回転数を変更することなく、被塗布物上において溶解された溶質が析出することを防ぐことができる。よって、スピンコート中に塗布液から溶質などの析出物が析出しにくくなり、被塗布面上の異物に起因する膜厚ムラを十分に低減させることができる。また、本発明のスピンコート装置は、特に、溶解性の低い溶質を含む塗布液をスピンコートする際に好適に使用できる。
【0008】
また、本発明のスピンコート装置においては、前記テーブルがチャンバー内に設置されたものであり、前記チャンバー内の雰囲気中における前記塗布液を構成する溶媒の濃度を制御する雰囲気制御手段を備えるものとすることができる。
このようなスピンコート装置とすることで、チャンバー内の雰囲気中における溶媒の濃度を制御することが可能となり、チャンバー内の雰囲気中の溶媒の濃度を高くして、被塗布物上に供給された塗布液中の溶媒が揮発することをより一層効果的に防ぐことができるとともに、チャンバー内の雰囲気中の溶媒の濃度を低くして、雰囲気中の溶媒が冷却された被塗布物の表面で結露して、塗布液中の溶質濃度を低下させることを防ぐことができる。
【0009】
また、上記の目的を達成するために、本発明のスピンコート方法は、被塗布物を、前記被塗布物と一体化された状態で回転されるようにテーブル上に載置する載置工程と、前記被塗布物に前記塗布液を供給する塗布液供給工程と、前記テーブルを回転させる回転工程とを備え、前記塗布液供給工程および前記回転工程を、前記被塗布物を冷却しながら行なうことを特徴とする。
【0010】
このようなスピンコート方法では、前記塗布液供給工程および前記回転工程を、前記被塗布物を冷却しながら行なうので、前記塗布液供給工程および前記回転工程において、被塗布物上に供給された塗布液中の溶媒が揮発して塗布液中の溶質濃度が高くなることを防ぐことができ、溶解された溶質が析出することを防ぐことができる。よって、被塗布物上に塗布液を均一な膜厚で塗布することができる。
【0011】
また、本発明のスピンコート方法においては、前記塗布液供給工程および前記回転工程を、密閉可能なチャンバー内に前記テーブルを設置した状態で、前記チャンバー内の雰囲気中における前記塗布液を構成する溶媒の濃度を制御しながら行なう方法とすることができる。
このようなスピンコート方法とすることで、被塗布物上に供給された塗布液中の溶媒が揮発することをより一層効果的に防ぐことができ、しかも、雰囲気中の溶媒が冷却された被塗布物の表面で結露して、塗布液中の溶質濃度を低下させることを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明に用いた各図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を異ならせてある。
【0013】
(スピンコート装置)
図1は、本発明のスピンコート装置の一例を模式的に示した図であり、図2は、図1に示すスピンコート装置の一部を拡大して示した拡大図である。
図1に示すスピンコート装置1は、テーブル2と、チャンバー3と、塗布液供給手段4と、回転手段5と、雰囲気制御手段7と、被塗布物冷却手段8とを備えたものである。
【0014】
テーブル2は、図1に示すように、密閉可能なチャンバー3内に設置されたものであり、基板などの被塗布物9が載置されるものである。テーブル2は、載置された被塗布物9を吸着手段などで吸着させることによって、被塗布物9をテーブル2上に着脱自在に固定可能とされているものである。また、テーブル2は、テーブル2上に被塗布物9を固定して被塗布物9と一体化された状態で、回転手段5によって回転されるようになっている。また、テーブル2は、回転制御装置(図示略)に回転手段5の回転速度および回転時間を制御させることによって、所定の回転速度および回転時間で回転するようにされている。
【0015】
塗布液供給手段4は、被塗布物9に塗布液を供給するものであり、図1に示すように、チャンバー3内に設けられ、塗布液を吐出するシリンジ61と、チャンバー3外に設けられ、塗布液を貯留する塗布液タンク63と、チャンバー3を貫通して設けられ、塗布液タンク63からシリンジ61に塗布液を供給する塗布液供給管62とを備えている。
【0016】
また、被塗布物冷却手段8は、図2に示すように、テーブル2上に載置された被塗布物9を下側から冷却するものであり、テーブル2内に埋め込まれている。被塗布物冷却手段8は、塗布液供給手段4から供給される塗布液の温度未満であり、かつ、当該濃度の溶液から溶質が析出する温度を超える温度範囲で被塗布物9を冷却するものである。なお、被塗布物冷却手段8は、被塗布物温度制御装置(図示略)に制御されることによって、被塗布物9が所定の温度となるように冷却するように制御されている。また、被塗布物温度制御装置としては、被塗布物9の温度を測定する温度センサ(図示略)から送られた被塗布物9の温度測定結果に応じて、被塗布物冷却手段8に被塗布物9を冷却させるフィードバック制御可能なものとされることが望ましい。また、被塗布物9の温度を測定する温度センサは、被塗布物9に接触することなく被塗布物9の温度を測定できる赤外線センサなど非接触温度計を被塗布物9の上方に設置したものであってもよいし、接触型温度計をテーブル2上に設置したものやテーブル2内に埋め込んだものであってもよい。
【0017】
被塗布物冷却手段8による被塗布物9の冷却温度が、チャンバー3内の雰囲気中における溶媒の濃度での露点以下であった場合、雰囲気中の溶媒が冷却された被塗布物9の表面で結露しやすくなり、結露した溶媒が被塗布物9の表面上の塗布液中の溶質濃度を低下させてしまう恐れがある。
また、被塗布物冷却手段8による被塗布物9の冷却温度が、塗布液供給手段4から供給される塗布液の温度以上であると、被塗布物9を冷却することによる効果が得られず、被塗布物9上で溶解された溶質が析出することを十分に防ぐことができない場合がある。
【0018】
被塗布物冷却手段8は、テーブル2上に載置された被塗布物9を冷却することが可能なものであれば、いかなるものであってもよく、具体的には例えば、図2に示すように、テーブル2の下部および回転手段5の周囲に配置され、冷却ガスや冷却水などの冷媒を配管内などに循環させてなる冷却機構8aと、テーブル2の下面と冷却機構8aとの間に設けられたベアリング10とを備えたものとすることができる。図2に示す被塗布物冷却手段8では、冷却機構8aからテーブル2へのベアリング10を介する熱伝導により、冷却機構8aをテーブル2と共に回転させることなく、テーブル2および被塗布物9を冷却機構8aによって冷却できるようにされている。
また、被塗布物冷却手段8は、図3に示すように、テーブル2内および回転手段5内に埋め込まれたものであって、冷却ガスや冷却水などの冷媒を配管内などに循環させてなる冷却機構8bと、テーブル2内に埋め込まれた冷却機構8bの上面および下面に設けられたベアリング10とを備えたものであってもよい。図3に示す被塗布物冷却手段8では、冷却機構8bからテーブル2へのベアリング10を介する熱伝導により、冷却機構8bをテーブル2と共に回転させることなく、テーブル2および被塗布物9を冷却機構8bによって冷却できるようにされている。
また、被塗布物冷却手段8は、被塗布物9をテーブル2上に吸着させるための真空機構と同様にしてテーブル内部に冷媒の循環経路を設置したものとすることができる。また、被塗布物冷却手段8は、ぺルチェ素子を用いたものとすることができる。
【0019】
雰囲気制御手段7は、図1に示すように、チャンバー3内に設けられ、塗布液を構成する溶媒を吐出するシリンジ71と、チャンバー3外に設けられ、溶媒を貯留する溶媒タンク73と、チャンバー3を貫通して設けられ、溶媒タンク73からシリンジ71に溶媒を供給する溶媒供給管72とを備えている。さらに、雰囲気制御手段7は、シリンジ71から吐出された溶媒を気化させる溶媒気化装置74と、チャンバー3内に設けられ、チャンバー3内の溶媒濃度を測定する溶媒濃度センサ75とを備えている。そして、雰囲気制御手段7は、溶媒濃度センサ75から送られたチャンバー3内の溶媒濃度の測定結果に応じて、シリンジ71から溶媒を供給させ、シリンジ71から吐出された溶媒を溶媒気化装置74に気化させることによって、チャンバー3内の雰囲気中における溶媒の濃度をフィードバック制御可能なものとされている。
【0020】
チャンバー3内の雰囲気中における塗布液を構成する溶媒の濃度が低いと、雰囲気中の溶媒の濃度を制御することによる溶媒の揮発を防ぐ効果が十分に得られない場合がある。また、チャンバー3内の雰囲気中における塗布液を構成する溶媒の濃度が高いと、雰囲気中の溶媒が冷却された被塗布物9の表面で結露しやすくなり、結露した溶媒が塗布液中の溶質濃度を低下させてしまう恐れがある。
【0021】
溶媒気化装置74としては、ホットプレートなど吐出された溶媒を加熱して積極的に気化させるものを用いてもよいし、溶媒を加熱する機能がないプレートであってもよい。溶媒気化装置74が溶媒を加熱する機能を有する場合、溶媒を加熱する機能がない場合と比較して、雰囲気中における溶媒の濃度をすばやく上昇させることができ、好ましい。また、溶媒気化装置74として溶媒を加熱する機能がないものを用いた場合、溶媒気化装置74に供給された溶媒を加熱する熱によって、被塗布物9上に供給された塗布液中の溶媒の揮発が促進される恐れがなく、好ましい。
【0022】
図1に示すスピンコート装置を用いてスピンコートするには、まず、被塗布物9を、被塗布物9と一体化された状態で回転されるように、テーブル2上に載置する(載置工程)。次いで、チャンバー3内を密閉した状態で、塗布液供給手段4によって被塗布物9に塗布液を供給する(塗布液供給工程)とともに、回転手段5によってテーブル2を回転させる(回転工程)。
本実施形態においては、塗布液供給工程および回転工程を、チャンバー3内の雰囲気中における塗布液を構成する溶媒の濃度を雰囲気制御手段7によって制御しつつ、被塗布物9を被塗布物冷却手段8によって冷却しながら行なう。
【0023】
本実施形態のスピンコート装置1は、被塗布物冷却手段8を備えているので、被塗布物9を冷却することができる。したがって、塗布液供給工程および回転工程を、被塗布物9を冷却しながら行なうことができ、塗布液供給工程および回転工程において、塗布液中における溶質の溶解性が低下することを防ぐことができ、被塗布物9上において、溶解された溶質が析出することを防ぐことができる。よって、被塗布物9上に塗布液を均一な膜厚で塗布することができる。
【0024】
なお、上述した実施形態のスピンコート装置においては、雰囲気制御手段7を備えたものを例に挙げて説明したが、雰囲気制御手段7はなくてもよい。また、上述した実施形態のスピンコート装置においては、雰囲気制御手段7として、チャンバー3内で溶媒を気化させるものを例に挙げて説明したが、例えば、チャンバー外で溶媒を気化させて得られた溶媒濃度の高い気体や溶媒濃度の低い気体をチャンバー内に供給することによって、チャンバー内の雰囲気中における溶媒の濃度を制御する装置であってもよい。この場合、溶媒を気化させる熱によって、被塗布物9上に供給された塗布液中の溶媒の揮発が促進される恐れがなく、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明のスピンコート装置の一例を模式的に示した図である。
【図2】図2は、図1に示すスピンコート装置の一部を拡大して示した拡大図である。
【図3】図3は、被塗布物冷却手段の他の例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0026】
1 スピンコート装置、2 テーブル、3 チャンバー、4 塗布液供給手段、5 回転手段、7 雰囲気制御手段、8 被塗布物冷却手段、8a 配管、9 被塗布物、61、71 シリンジ、62 塗布液供給管、63 塗布液タンク、72 溶媒供給管、73 溶媒タンク、74 溶媒気化装置、75 溶媒濃度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗布物が載置され、前記被塗布物と一体化された状態で回転されるテーブルと、
前記被塗布物に塗布液を供給する塗布液供給手段と、
前記テーブルを回転させる回転手段と、
前記被塗布物を冷却する被塗布物冷却手段とを備えていることを特徴とするスピンコート装置。
【請求項2】
前記テーブルがチャンバー内に設置されたものであり、前記チャンバー内の雰囲気中における前記塗布液を構成する溶媒の濃度を制御する雰囲気制御手段を備えることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のスピンコート装置。
【請求項3】
被塗布物を、前記被塗布物と一体化された状態で回転されるようにテーブル上に載置する載置工程と、
前記被塗布物に前記塗布液を供給する塗布液供給工程と、
前記テーブルを回転させる回転工程とを備え、
前記塗布液供給工程および前記回転工程を、前記被塗布物を冷却しながら行なうことを特徴とするスピンコート方法。
【請求項4】
前記塗布液供給工程および前記回転工程を、密閉可能なチャンバー内に前記テーブルを設置した状態で、前記チャンバー内の雰囲気中における前記塗布液を構成する溶媒の濃度を制御しながら行なうことを特徴とする請求項3に記載のスピンコート方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−275719(P2007−275719A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102918(P2006−102918)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】