説明

スピントランジスタおよび磁気デバイス

【課題】磁化の相対角度で出力電流が制御可能で、かつ、ゲート層に電圧を印加することでも出力電流が制御可能なスピントランジスタを提供する。また、このスピントランジスタを集積化した磁気メモリや不揮発性論理回路などの磁気デバイスを提供する。
【解決手段】ソース層14、ゲート層13およびドレイン層15が、ハーフメタルホイスラー合金から成る。ソース層14とゲート層13との間に介在する第1の絶縁層16、および、ゲート層13とドレイン層15との間に介在する第2の絶縁層17が、酸化マグネシウム(MgO)から成る。ゲート層13を含み、ゲート層13に静電容量を介してゲート電圧を印加可能なゲート構造が、クロム/酸化マグネシウム/ハーフメタルホイスラー合金から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気メモリ、不揮発性論理回路等の磁気デバイスに使われる、出力電流を磁化状態およびゲート電圧により制御可能なスピントランジスタおよび磁気デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気ランダムアクセスメモリにおいて、1つの記録ビットは、1つのトンネル磁気抵抗素子と1つのトランジスタとによって構成されている。トンネル磁気抵抗素子が記憶機能を担い、トランジスタがスイッチ機能を担っている。
【0003】
しかしながら、トンネル磁気抵抗素子とトランジスタとを対にして使用する必要があるため、素子全体のサイズが大きくなり、大容量化を果たす上での障害となっている。従って、両方の機能を単一の素子で実現可能なスピントランジスタの実現が期待されている。
【0004】
さらに、スピントランジスタを従来のトランジスタと同様に集積化することで、不揮発性の再構成可能論理回路を実現することができる。不揮発性により、従来よりも圧倒的な低消費電力化が期待できる。また、スピントランジスタ素子の磁化状態を制御することで、1つの素子で、何種類もの演算をすることが可能になる。このことが実現すれば、従来の半導体市場の約半分をスピントランジスタで置きかえることが期待できる。
【0005】
しかし、従来提案されているいくつかのスピントランジスタでは、室温において、外部磁界によるスピントランジスタの電流変化率が小さく、ゲート電圧のオン/オフによる出力電流のオン/オフ比も小さい。その結果、スピントランジスタを流れる電流を良好に制御するのが困難となる(例えば、非特許文献1乃至5参照)。
【0006】
一方、ハーフメタルのバンドギャップを用いることで、外部磁界による大きな電流変化率と、ゲート電圧のオン/オフによる大きな電流比とを得るための構造が提案されている(例えば、特許文献1または2参照)。しかし、これまで、動作確認は、低温やシミュレーションのみで行われており、室温下の実験で動作実証がなされた例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−4891公報
【特許文献2】特開2010−166050公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S. Datta and B. Das, “Electronic analog of the electro-opticmodulator”, Appl. Phys. Lett., 1990年, 56, p.665
【非特許文献2】M. Johnson, “Bipolar Spin Switch”,Science, 1993年, 260, p.320
【非特許文献3】D. J. Monsma, J. C. Lodder, Th. J. A.Popma, and B. Dieny, “Perpendicular hot electron spin-valve effect in a newmagnetic field sensor:The spin-valve transistor”, Phys. Rev. Lett., 1995年, 74, p.5260
【非特許文献4】S. van Dijken, X. Jiang, and S. S. P.Parkin, “Room temperature operation of a high output current magnetic tunneltransistor”, Appl. Phys. Lett., 2002年, 80, p.3364
【非特許文献5】S. Sugahara and M. Tanaka, “A spin metal-oxide-semiconductorfield-effect transistor using half-metallic-ferromagnet contacts for the sourceand drain”, Appl. Phys. Lett., 2004年, 84, p.2307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、その目的は、磁化の相対角度を外部磁界で制御した際の電流変化率が大きく、かつ、ゲート電圧のオン/オフによる出力電流のオン/オフ比の高い、室温で出力電流が制御可能なスピントランジスタおよび磁気デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るスピントランジスタは、ハーフメタルによって構成されたソース層、ゲート層およびドレイン層と、前記ソース層と前記ゲート層との間に介在する第1の絶縁層と、前記ゲート層と前記ドレイン層との間に介在する第2の絶縁層と、前記ゲート層を含み、前記ゲート層に静電容量を介してゲート電圧を印加可能なゲート構造とを、備えることを特徴とする。
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、前記ハーフメタルにホイスラー合金を使用したスピントランジスタにおいて、室温にて、磁化状態の制御による電流変化率として50%、ゲート電圧によるオン/オフ比として1266を得た。
【0012】
本発明に係るスピントランジスタで、前記ホイスラー合金は、CoFeMn1−xSi、または、CoMnAlSi1−xのCo基のホイスラー合金組成から成ることが好ましい。この場合、Xは、0以上1以下の範囲である。また、前記第1の絶縁層および前記第2の絶縁層は酸化マグネシウム(MgO)から成ることが好ましい。前記ゲート構造はCr/MgO/CoMnSiから成ることが好ましい。また、ゲート電圧を効率的に印加するために、前記ゲート構造の前記MgOの膜厚が5〜20ナノメートルであることが好ましい。
【0013】
本発明に係るスピントランジスタは、前記ソース層、前記ゲート層および前記ドレイン層の磁化の相対角度により、室温にて電流が変化することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係るスピントランジスタは、前記ゲート層に電圧を印加することにより、室温にて電流が変化することが好ましい。この場合、前記ゲート層に印加する電圧がパルス形状であり、過渡的に電流が変化することが高速動作を実現する上で好ましい。また、前記ゲート層に印加するパルス電圧の立ち上がり時間がマイクロ秒以下であり、高速で出力電流が変化することが好ましい。
【0015】
本発明に係るスピントランジスタは、スピントロニクス分野において、例えば磁気メモリや不揮発性論理回路などの磁気デバイスに使用することができる。本発明に係る磁気デバイスは、本発明に係るスピントランジスタを有することを、特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、磁化の相対角度で出力電流が制御可能で、かつ、ゲート電極に電圧を印加することでも出力電流が制御可能なスピントランジスタを提供することができる。このため、磁化の相対角度を外部磁界で制御した際の電流変化率が大きく、かつ、ゲート電圧のオン/オフによる出力電流のオン/オフ比の高い、室温で出力電流が制御可能なスピントランジスタを提供することができる。また、ゲートに入力する電圧をパルス形状にすることで、高速動作のスピントランジスタを提供することができる。また、このスピントランジスタを集積化することで、磁気メモリや不揮発性論理回路などの磁気デバイスを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態のスピントランジスタを示す模式断面図である。
【図2】本発明の実施の形態のスピントランジスタを構成する、トンネル磁気抵抗素子の(a)磁気抵抗曲線、(b)ソース−ドレイン電圧(Source−Drain Voltage)に対するコンダクタンス特性(Conductance)を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態のスピントランジスタの、ゲート電圧(V)入力時のドレイン電流(Drain Current)の過渡応答特性を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態のスピントランジスタの、ゲート電圧(Gate Voltage)の大きさに対する出力電流のオン/オフ比(On/Off Ratio)を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態のスピントランジスタの、ハーフメタルの磁化の向きが平行(at P state)/反平行(at AP state)時の出力電流の変化率(MC ratio)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1に示すように、ゲート電極層11/ゲート絶縁層12の上に、二つの強磁性トンネル接合が並列にならんだ、スピントランジスタ構造をリソグラフィー法により作製した。図1に示す一例では、ゲート電極層11/ゲート絶縁層12はCr/MgOから成り、強磁性トンネル接合はCoMnSi/MgO/CoMnSiから成っている。ゲート絶縁層12に隣接するCoMnSiがゲート層13のハーフメタルであり、トンネル絶縁層であるMgO上部の二つのCoMnSiが、ソース層14およびドレイン層15のハーフメタルである。トンネル絶縁層は、ソース層14とゲート層13との間に介在する第1の絶縁層16と、ゲート層13とドレイン層15との間に介在する第2の絶縁層17とから成っている。また、ゲート構造は、ゲート電極層11、ゲート絶縁層12およびゲート層13から成っている。
【0020】
図2に、図1に示す二つの強磁性トンネル接合の6Kにおける(a)磁気抵抗曲線、および、(b)ソース-ドレイン電圧に対するコンダクタンス特性を示す。トンネル磁気抵抗比は、6Kにおいて235%、室温において64%と非常に大きい。この大きなトンネル磁気抵抗比と、コンダクタンス特性における、ゼロバイアス電圧近傍でのコンダクタンスの増大は、ソース層14、ゲート層13、ドレイン層15に用いたCoMnSiがハーフメタルであることを示している。
【0021】
図3に、ゲート電圧を1V印加した際の、磁化平行および反平行状態のドレイン電流の室温における過渡応答特性を示す。パルス印加後、約5μs後にドレイン電流がピークを示し、その後減少することが分かる。ピーク電流とゲート電圧印加前の電流との比(オン/オフ比)は非常に大きく、また、平行および反平行状態でピーク電流値に差があることが分かる。
【0022】
図4に、ゲート電圧(Gate Voltage)のオン/オフに対する、出力電流の室温におけるオン/オフ比(On/Off Ratio)のゲート電圧依存性を示す。
【0023】
図4から、ゲート電圧が0.1V以上で、急激に電流が増加していることが分かる。また、ソース−ドレイン電圧VSDが小さいほど、オン/オフ比が大きく、良好なスイッチ特性を得るのに好ましいことが分かる。また、ゲート層のハーフメタルの磁化の向きが、ソース層およびドレイン層のハーフメタルの磁化に対して、平行(at P state)および反平行(at AP state)に変化することにより、スイッチ特性が変化することが分かる。
【0024】
図5に、ゲート層の磁化の向きが、ソース層およびドレイン層の磁化に対して、平行および反平行に変化した時の、出力電流の室温における変化率(MC ratio)をゲート電圧に対してプロットした結果を示す。
【0025】
図5から、ゲート電圧が小さく、また、ソース−ドレイン電圧が小さい状態では、最大で約50%の電流変化率が得られていることが分かる。
【0026】
以上から、図1のスピントランジスタ構造は、磁化の向き、および、ゲート電圧を制御することで、出力電流を室温にて高速制御することが可能な最良の態様であることが分かる。
【0027】
以上、発明の実施の形態に則して本発明を説明してきたが、本発明の内容は上記に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
11 ゲート電極層
12 ゲート絶縁層
13 ゲート層
14 ソース層
15 ドレイン層
16 第1の絶縁層
17 第2の絶縁層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハーフメタルによって構成されたソース層、ゲート層およびドレイン層と、
前記ソース層と前記ゲート層との間に介在する第1の絶縁層と、
前記ゲート層と前記ドレイン層との間に介在する第2の絶縁層と、
前記ゲート層を含み、前記ゲート層に静電容量を介してゲート電圧を印加可能なゲート構造とを、
備えることを特徴とするスピントランジスタ。
【請求項2】
前記ハーフメタルがホイスラー合金から成ることを、特徴とする請求項1記載のスピントランジスタ。
【請求項3】
前記ホイスラー合金がCoFeMn1−xSi、または、CoMnAlSi1−xのCo基のホイスラー合金組成から成ることを、特徴とする請求項2記載のスピントランジスタ。
【請求項4】
前記第1の絶縁層および前記第2の絶縁層が酸化マグネシウム(MgO)から成ることを、特徴とする請求項1、2または3記載のスピントランジスタ。
【請求項5】
前記ゲート構造がCr/MgO/CoMnSiから成ることを、特徴とする請求項1、2、3または4記載のスピントランジスタ。
【請求項6】
前記ゲート構造の前記MgOの膜厚が5〜20ナノメートルであることを、特徴とする請求項5記載のスピントランジスタ。
【請求項7】
前記ソース層、前記ゲート層および前記ドレイン層の磁化の相対角度により、室温にて電流が変化することを、特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載のスピントランジスタ。
【請求項8】
前記ゲート層に電圧を印加することにより、室温にて電流が変化することを、特徴とする請求項1、2、3、4、5、6または7記載のスピントランジスタ。
【請求項9】
前記ゲート層に印加する電圧がパルス形状であり、過渡的に電流が変化することを特徴とする請求項8記載のスピントランジスタ。
【請求項10】
前記ゲート層に印加するパルス電圧の立ち上がり時間がマイクロ秒以下であり、高速で出力電流が変化することを特徴とする請求項9記載のスピントランジスタ。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9または10に記載のスピントランジスタを有することを、特徴とする磁気デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−169450(P2012−169450A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29048(P2011−29048)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「スピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】