説明

スピンドルユニット

【課題】稼働停止や煩雑な分解作業を必要とすることなく、接触式シールの的確な保守管理を実現して、長時間故障無しで使用可能なスピンドルユニットを提供する。
【解決手段】スピンドルハウジング7にベアリング6を介して回転自在に支持されたスピンドル1およびベアリング6を保護するオイルシール2を備えたスピンドル組立体14と、スピンドル1を回転駆動するモータ11と、モータ11を制御する駆動制御装置12を備えたスピンドルユニットS1において、モータ11の負荷を示す電流値iを表示する表示器13を駆動制御装置12に設け、本来一定であるはずの通常回転時の電流値iの変化によってオイルシール2の磨耗を認識可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ベアリング等の軸受構造を備えたスピンドルやハブにおいては、当該軸受構造を、外部から侵入する異物等から保護するためにシール装置を設けることが知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、ハブユニットを構成する固定側の内輪と、回転するハブフランジを備えた外輪との間に設けられた転がり軸受の配置空間の両端部に、外周部が外輪内周に固定され、内周部が内輪外周に接するシールリップからなるシール装置を配置して転がり軸受を封止する技術が開示されている。
【0004】
そして、内輪の、シールリップと摺動する部位に所定の動粘度のグリスを封入することで摺動部の気密性を高めるとともに、長寿命と低トルクを実現しようとしている。
【0005】
そして、研磨液を用いる研磨装置における研磨工具の支持軸等に、上述の特許文献1の技術を適用した場合、シール装置は、研磨液が転がり軸受に侵入することを防止して保護する働きをする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−353710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、使用時間の経過に伴ってシール装置のグリスが溶けて減少し、最終的には消失し、内輪と摺動するシールリップの磨耗が始まる。
また、磨耗したシールリップのグリスアップや交換が遅れると研磨液が転がり軸受の中に侵入して破損させ、回転不能となる懸念がある。
【0008】
このため、上述の特許文献1の構造のハブユニットの保守作業においては、装置の稼働を停止し、内部のシールリップが目視可能な状態になるようにハブユニットを分解して確認する必要があるが、通常、ハブユニットには、様々な治具や工具が組つけられているため、この分解作業は非常に手間や時間がかかる煩雑な作業となる。
【0009】
さらに、シールリップの磨耗状況を目視確認で判断するため、シールリップのグリスアップの要否等や交換時期の判断にばらつきを生じ、的確な保守が困難であった。
【0010】
本発明の目的は、稼働停止や煩雑な分解作業を必要とすることなく、接触式シールの的確な保守管理を実現して、長時間故障無しで使用可能なスピンドルユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、接触式シールにて保護される軸受構造を備えたスピンドルと、
前記スピンドルを回転させるモータと、
前記モータの負荷を検出する負荷検出手段と、
前記負荷検出手段により検出された前記負荷の状態を外部に出力する出力手段と、
を具備したスピンドルユニットを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、稼働停止や煩雑な分解作業を必要とすることなく、接触式シールの的確な保守管理を実現して、長時間故障無しで使用可能なスピンドルユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】本発明の一実施の形態であるスピンドルユニットの構成の一例を、一部を破断して例示した側面図である。
【図1B】図1Aにおける破断部分の拡大断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態であるスピンドルユニットにおける電気回路系の構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施の形態であるスピンドルユニットの作用を説明する線図である。
【図4】本発明の他の実施の形態であるスピンドルユニットにおける回路系の構成例を示すブロック図である。
【図5】本発明の他の実施の形態であるスピンドルユニットの作用を説明する線図である。
【図6】本発明のさらに他の実施の形態であるスピンドルユニットにおける回路系の構成例を示すブロック図である。
【図7】本発明のさらに他の実施の形態であるスピンドルユニットにおける駆動制御装置の部分を示す説明図である。
【図8】本発明のさらに他の実施の形態であるスピンドルユニットの作用を説明するフローチャートである。
【図9】本発明のさらに他の実施の形態であるスピンドルユニットにおける回路系の構成例を示すブロック図である。
【図10】本発明のさらに他の実施の形態であるスピンドルユニットの作用を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態の第1態様では、スピンドルを駆動するモータの負荷の検出を行うことにより、たとえば、接触式シールの状態の変化を反映した通常回転時の当該負荷の変化を監視することで、オイルシール等の接触式シールの交換時期およびグリスアップの時期を、スピンドルユニットの分解によって内部を目視すること無く、正確に判断することができる。
【0015】
また、第2態様では、モータの負荷として電流値を用いる。すなちわ、モータの負荷が変化するとモータに流れる電流が変化するが、その電流値を検出して表示することによって、モータの負荷の検出を行う。
【0016】
また、第3態様では、モータの負荷として回転数を用いる。モータの負荷が変化するとモータの回転数が変化するが、その回転数を検出して表示することによって、モータの負荷の検出を行う。
【0017】
また、第4態様では、モータの負荷の変化の大きさに基づいて、たとえば、オイルシールの交換時期およびグリスアップの時期等を、判定装置によって自動的に判定してアラーム表示として出力することで、スピンドルユニットを分解しての内部を目視すること無く、正確に保守作業のタイミングを判断することを可能にする。
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
(実施の形態1)
図1Aは、本発明の一実施の形態であるスピンドルユニットの構成の一例を、一部を破断して例示した側面図である。
図1Bは、図1Aにおける破断部分の拡大断面図である。
図2は、本発明の一実施の形態であるスピンドルユニットにおける電気回路系の構成例を示すブロック図である。
【0020】
図3は、本発明の一実施の形態であるスピンドルユニットの作用を説明する線図である。
なお、図1Aおよび図1Bにおいて、X、Y、Zの各方向は図示の通りとし、左右方向をX方向、上下方向をZ方向、紙面に垂直な方向をY方向として説明する。また、一例として、Z方向は鉛直方向、X−Y平面は水平面とする。
【0021】
図1Aおよび図1Bに例示されるように、本実施の形態のスピンドルユニットS1は、水平に設けられた共通のモータベース16に、水平方向(X方向)に所定の間隔で、鉛直方向(Z方向)に平行に支持されたスピンドル組立体14(スピンドル)およびモータ11と、モータ11を制御する駆動制御装置12を備えている。
【0022】
スピンドル組立体14は、筒状のスピンドルハウジング7の内部に同軸に支持されたスピンドル1を備え、スピンドル1の上端部にはスピンドルフランジ1aが設けられ、モータベース16を貫通して突出する下端部にはスピンドルプーリ8が固定されている。
【0023】
スピンドル1のスピンドルフランジ1aには、たとえば、図示しない研磨工具や、ワーク保持治具等が固定される。
また、スピンドル1の上部には、スピンドルフランジ1aに支持されて回転する研磨工具やワーク保持治具等に研磨剤31を供給するノズル30が配置されている。
【0024】
図1Bに例示されるように、スピンドル組立体14では、スピンドル1を回転自在に保持するためのベアリング6(軸受構造)がベアリングオサエ4にてスピンドルハウジング7に固定されている。
【0025】
ベアリングオサエ4の上部におけるスピンドル1の外周には、下端部に薄肉のリップ15を有するリング状のオイルシール2(接触式シール)が取り付けられている。
【0026】
このオイルシール2は、たとえば、下端部のリップ15が略円錐台形に変形するようにベアリングオサエ4に押圧されることにより、当該ベアリングオサエ4の上面に軽く接触するように装着されている。
オイルシール2のリップ15の内側の略円錐台形の空間には、ベアリングオサエ4との摺動抵抗を減らすためにグリス5が塗布されている。
【0027】
スピンドル1の上端側には、ベアリングオサエ4およびオイルシール2を隠蔽するように、下向きのカップ形状のスピンドルカバー3が同軸に装着されており、研磨剤31がオイルシール2とベアリングオサエ4の摺動部に付着することを防止する構造となっている。
【0028】
モータ11は、回転軸11aが、モータベース16から下向きに突出する姿勢で当該モータベース16に固定され、回転軸11aにはモータプーリ10が固定されている。
【0029】
モータベース16の下側に位置するスピンドル1のスピンドルプーリ8と、モータ11のモータプーリ10との間には、Vベルト9が架け渡され、モータ11の回転力がスピンドル1に伝達される構成となっている。
【0030】
モータ11には、電線17を介して駆動制御装置12が接続されている。本実施の形態の場合、この駆動制御装置12には、モータ11を動作させるために供給される電流の検出機能を備えた電流検出器18(負荷検出手段)が備えられている。
【0031】
さらに、駆動制御装置12には、電流検出器18によって検出された電流値iを目視可能に表示する表示器13(出力手段)が一体に配置されている。
【0032】
すなわち、図2に例示されるように、本実施の形態のスピンドルユニットS1では、モータ11を制御する駆動制御装置12に電流検出器18が接続され、さらに、電流検出器18に表示器13が接続されている。
【0033】
そして、本実施の形態のスピンドルユニットS1の電気回路においては、駆動制御装置12によりモータ11が回転するとモータ11に流れる電流値iを電流検出器18が検出して表示器13に電流値iを表示する。
【0034】
なお、本実施形態では、駆動制御装置12と表示器13が一体となった構成が例示されているが、これに限らず、駆動制御装置12と表示器13が別体な構成としてもかまわない。
【0035】
以下、本実施の形態のスピンドルユニットS1の作用について説明する。
上述の構成のスピンドルユニットS1において、モータ11に通電して回転させるとVベルト9により駆動力がスピンドル1に伝達されてスピンドル1が回転する。
【0036】
スピンドル1の回転が続き回転積算時間が長くなるに伴ってオイルシール2のグリス5が溶けて減少して最終的には無くなり、オイルシール2の磨耗が始まる。
オイルシール2とベアリングオサエ4との間で発生する摩擦抵抗によりモータ11の負荷が増加するとモータ11に流れる電流値iが増加する。
【0037】
さらにオイルシール2の磨耗が進行すると電流値iは最大となり、さらに磨耗が進行するとリップ15が磨り減って摩擦抵抗は減少し電流値iも減少する。
この電流値iの変化をサンプリングしてグラフにすると図3のようなグラフとなる。
【0038】
なお、以下の本実施の形態の説明で通常回転時とは、たとえば、スピンドル1に一定の加工負荷等の外部負荷が継続的に作用する状態、あるいはモータ11によって回転駆動されるスピンドル1に外部負荷が作用しない状態で、オイルシール2およびベアリング6等の回転支持機構部等の摩擦抵抗の負荷のみを受けて空転している状態、のいずれかである。
【0039】
図3のグラフにおいて通常回転時のモータの電流値iを通常回転時電流値C(A:アンペア)とすると、スピンドル1の回転時間の経過に伴って摩擦抵抗が変化し、電流値iが通常回転時電流値C(A)からシール交換時期電流値D(A)に変化するが、表示器13に表示される電流値iがシール交換時期電流値D(A)になった時(すなわち、シール交換時期B)にオイルシール2を交換すれば、シール破断時期Bfの前に(すなわち、オイルシール2の破断によってシール効果が失われる前に)シール機能を再生することが可能である。
【0040】
また、表示器13に表示される電流値iが通常回転時電流値C(A)よりも上昇し始めた時(すなわち、磨耗開始時期A)に、オイルシール2のリップ15にグリス5を補充するグリスアップを実行すれば、グリス5の消失によるリップ15の損耗を防止して、オイルシール2の寿命を延ばすことが可能である。
【0041】
本実施の形態のスピンドルユニットS1によれば、表示器13によってスピンドル1を駆動するモータ11の電流値iの変化を監視することにより、オイルシール2の交換時期およびグリスアップの時期を、スピンドル組立体14を分解して内部のオイルシール2を目視観察する等の煩雑な作業を行うこと無く、しかも客観的な基準で的確に判断でき、長時間故障無しで使用可能なスピンドルユニットS1を提供することが可能となる。
【0042】
なお、特に図示しないが、変形例として、表示器13における電流値iの表示値が、任意の通常回転時電流値Cにおいて零となるようなプリセットボタンを表示器13に設けることもできる。
【0043】
そして、任意の通常回転時電流値Cの表示状態においてプリセットボタンを押して零表示とすることで、通常回転時電流値Cを零基準とする電流値iの表示値を表示器13に表示させる。
【0044】
これにより、たとえば、電流値iが通常回転時電流値Cから僅かに増加する磨耗開始時期Aのタイミングを、表示器13における読み取り値では零からの変化として判断でき、判断しやすくなる利点がある。
【0045】
(実施の形態2)
図4は、本発明の他の実施の形態であるスピンドルユニットにおける回路系の構成例を示すブロック図である。
図5は、本発明の他の実施の形態であるスピンドルユニットの作用を説明する線図である。
【0046】
この実施の形態2のスピンドルユニットS2の機械的な構成は、上述の実施の形態1と同様であるが、表示器13には、電流検出器18の代わりに回転検出器19(負荷検出手段)が設けられている点が異なっている。
【0047】
すなわち、本実施の形態2では、モータ11の電流値iの検出の代わりに回転検出器19により、モータ11の回転数Rを検出し、表示器13に回転数Rを表示する例を示す。
【0048】
この実施の形態2のスピンドルユニットS2の構成において、モータ11を回転するとVベルト9により駆動力がスピンドル1に伝達されてスピンドル1が回転する。
【0049】
モータ11の回転が続き回転積算時間が長くなるに伴ってグリス5が溶けて減少して最終的には無くなり、オイルシール2の磨耗が始まる。オイルシール2とベアリングオサエ4との間で発生する摩擦抵抗によりモータ11の負荷が増加すると回転数Rが減少する。
【0050】
さらにオイルシール2の磨耗が進行するとモータ11の回転数Rは最小となり、さらにオイルシール2の磨耗が進行するとオイルシール2のリップ15が磨り減って摩擦抵抗は逆に減少し回転数Rは増加する。
このモータ11の回転数Rの変化をサンプリングしてグラフにすると図5のようなグラフとなる。
【0051】
図5のグラフにおいて通常回転時のモータ11の回転数Rを通常回転時回転数H(rpm)とすると、回転時間の経過に伴って、オイルシール2の摩擦抵抗が変化し、回転数Rが通常回転時回転数H(rpm)からシール交換時期回転数G(rpm)に変化するが、回転数Rがシール交換時期回転数G(rpm)にまで低下した時(シール交換時期F)にオイルシール2を交換すれば、シール機能が完全に失われるシール破断時期Ffの前にオイルシール2のシール機能を再生することが可能である。
【0052】
また、モータ11の回転数Rが通常回転時回転数H(rpm)より下降し始めた時(磨耗開始時期E)に、オイルシール2のリップ15にグリスアップをすればオイルシール2の寿命を延ばすことが可能である。
【0053】
スピンドル1を駆動するモータ11の、表示器13に表示される回転数Rの変化を監視することにより、オイルシール2の交換時期およびグリスアップの時期を、スピンドル組立体14を分解して内部を目視すること無く判断でき、長時間故障無しで使用可能なスピンドルユニットを提供することが可能となる。
【0054】
(実施の形態3)
図6は、本発明のさらに他の実施の形態であるスピンドルユニットにおける回路系の構成例を示すブロック図である。
図7は、本発明のさらに他の実施の形態であるスピンドルユニットにおける駆動制御装置の部分を示す説明図である。
【0055】
図8は、本発明のさらに他の実施の形態であるスピンドルユニットの作用を説明するフローチャートである。
本実施の形態3のスピンドルユニットS3の機械的な構成は上述の実施の形態1のスピンドルユニットS1と同様であるが、駆動制御装置12に判定装置20(判断手段)を備えた点が異なっている。
【0056】
すなわち、本実施の形態3のスピンドルユニットS3では、電流検出器18より出力された電流値iを駆動制御装置12に設けられた判定装置20が判断して、判断結果を表示器13A(出力手段)に出力する構成となっている。
【0057】
なお、本実施の形態3のスピンドルユニットS3において、表示器13Aから出力されるアラーム表示51は、文字や図形等のメッセージに限らず、音声等による出力も含むものとする。
【0058】
この実施の形態3の構成のスピンドルユニットS3において、モータ11を回転させるとVベルト9により駆動力がスピンドル1に伝達されてスピンドル1が回転する。
スピンドル1の回転が続き回転積算時間が長くなるに伴ってグリス5が溶けて減少して最終的には無くなり、オイルシール2の磨耗が始まる。
【0059】
オイルシール2とベアリングオサエ4との間で発生する摩擦抵抗によりモータ11の負荷が増加するとモータ11に流れる電流値iが増加する。
さらにオイルシール2の磨耗が進行すると電流値iは最大となりさらに磨耗が進行するとリップ15が磨り減って摩擦抵抗は減少し電流値iも減少する。
【0060】
このモータ11の電流値iの変化をサンプリングしてグラフにすると上述の図3のようなグラフとなる。
【0061】
図3のグラフにおいて通常回転時のモータ11の電流値iを通常回転時電流値C(A)とすると、スピンドル1の回転時間の経過に伴ってオイルシール2の摩擦抵抗が変化し、電流値iが通常回転時電流値C(A)からシール交換時期電流値D(A)に変化するが、電流値iがシール交換時期電流値D(A)になった時(シール交換時期B)を判定装置20が判別し、表示器13Aにオイルシール2の交換を促すアラーム表示51を出力すれば、作業者等が電流値iの監視を意識すること無く、オイルシール2の交換時期を的確に外部に警告することが可能である。
【0062】
このアラーム表示51に呼応して、作業者がオイルシール2を交換すればシール破断時期Bfの前にシール機能を再生することが可能である。
【0063】
また、電流値iが通常回転時電流値C(A)より上昇し始めた時(磨耗開始時期A)を判定装置20が判別して表示器13Aにグリスアップを促すアラーム表示51を出力すれば、作業者等が電流値iの監視を意識すること無く、グリスアップの時期を認知することが可能である。
【0064】
このアラーム表示51に呼応して、作業者がオイルシール2のグリスアップを実行すればオイルシール2の寿命を延ばすことが可能である。
なお、判定装置20による上述のアラーム表示51の出力に関しては、以下の3つのタイミングが考えられる。
【0065】
条件(1)一定の電流値より、電流値iが高くなった場合に、つまり磨耗開始時期Aのときにアラーム表示51を出力する。
条件(2)電流値iの変化を示すグラフの任意時刻での接線の傾きが所定値以上に達したとき、つまりシール交換時期Bでアラーム表示51を出力する。
【0066】
条件(3)実験で予め取得しておいたグラフデータのグラフ頂点P1に対して所定値Δa以下の電流値(すなわちシール交換時期電流値D)に達したとき、つまりシール交換時期Bでアラーム表示51を出力する。
【0067】
そして、オイルシール2のグリスアップのみのメンテナンスを行いたい場合は条件(1)のタイミングでアラーム表示51を出力させ、オイルシール2の交換を伴うメンテナンスを行う場合は、条件(2)または条件(3)のタイミングでアラーム表示51を出力させる。
【0068】
上述のような、本実施の形態3の判定装置20の動作の一例を図8のフローチャートを参照して説明する。
【0069】
まず、判定装置20は、スピンドルユニットS3が通常回転時か否かを判別する(ステップ81)。この判別は、たとえば、本実施の形態のスピンドルユニットS3が装着された研磨装置等の加工装置における加工制御信号に基づいて判別するか、あるいは、電流値iや、駆動制御装置12から得られるスピンドル1における負荷状況を示す信号を判別する等の方法が考えられる。
【0070】
そして、判定装置20は、スピンドルユニットS3が通常回転時であると判別したら、電流検出器18を介してモータ11の電流値iを検出する(ステップ82)。
【0071】
そして、判定装置20は、まず、検出された電流値iがシール交換時期電流値Dを超過したか否か(i>D)を判別し(ステップ83)、(i>D)の場合には、シール交換のアラーム表示51を表示器13Aに出力し(ステップ85)、ステップ81に戻る。
【0072】
また、判定装置20は、ステップ83で電流値iがシール交換時期電流値D以下(i≦D)と判別したら、さらに、電流値iが通常回転時電流値Cを超過したか否か(i>C)を判別し(ステップ84)、(i>C)の場合には、オイルシール2のグリスアップのアラーム表示51を表示器13Aに出力し(ステップ86)、ステップ81に戻る。
【0073】
また、判定装置20は、ステップ84で電流値iが通常回転時電流値C以下(i≦C)と判別したら、ステップ81に戻る。
【0074】
このように、本実施の形態3のスピンドルユニットS3では、駆動制御装置12に備えられた判定装置20によって、通常回転時の電流値iの変化を判別して、オイルシール2の交換時期およびグリスアップの時期をアラーム表示51にて表示器13Aに自動的に表示して作業者等に認知させることが可能である。
【0075】
この結果、スピンドル組立体14を分解して内部のオイルシール2を目視する等の煩雑な作業を行うこと無く、オイルシール2の交換時期およびグリスアップの時期を的確に判断でき、長時間故障無しで使用可能なスピンドルユニットS3を提供することが可能となる。
【0076】
(実施の形態4)
図9は、本発明のさらに他の実施の形態であるスピンドルユニットにおける回路系の構成例を示すブロック図である。
図10は、本発明のさらに他の実施の形態であるスピンドルユニットの作用を説明するフローチャートである。
【0077】
本実施の形態4のスピンドルユニットS4では、上述のスピンドルユニットS1およびスピンドルユニットS3と同様であるが、電流値iの代わりに、回転検出器19から出力されるスピンドル1の回転数Rの変化を、判定装置20が判断して、アラーム表示51を表示器13に出力する点が異なっている。
【0078】
この実施の形態4のスピンドルユニットS4の構成においては、モータ11を回転するとVベルト9により駆動力がスピンドル1に伝達されてスピンドル1が回転する。
スピンドル1の回転が続き回転積算時間が長くなるに伴ってグリス5が溶けて減少して最終的には無くなり、オイルシール2の磨耗が始まる。
【0079】
オイルシール2とベアリングオサエ4との間で発生する摩擦抵抗によりモータ11の負荷が増加すると回転数Rが減少する。
さらにオイルシール2の磨耗が進行すると回転数Rは最小となりさらに磨耗が進行するとリップ15が磨り減って摩擦抵抗は減少しモータ11の回転数Rは増加する。
【0080】
このモータ11の回転数Rの変化をサンプリングしてグラフにすると上述の図5のようなグラフとなる。
【0081】
図5のグラフにおいて通常回転時の回転数Rを通常回転時回転数H(rpm)とすると、回転時間の経過に伴ってオイルシール2の摩擦抵抗が変化し、回転数Rが通常回転時回転数H(rpm)からシール交換時期回転数G(rpm)に変化するが、回転数Rがシール交換時期回転数G(rpm)になった時(シール交換時期F)を判定装置20が判別して表示器13Aにシール交換を促すアラーム表示51を出力すれば、作業者が目視で回転数Rの監視をすること無く、正確にシール交換時期Fを認知することが可能である。
【0082】
そして、作業者は、このシール交換を促すアラーム表示51に従ってオイルシール2を交換すれば、シール機能が失われるシール破断時期Ffの前にシール機能を再生することが可能である。
【0083】
また、回転数Rが通常回転時回転数H(rpm)より下降し始めた時(磨耗開始時期E)を判定装置20が判別して表示器13Aにグリスアップを促すアラーム表示51を出力すれば、作業者が回転数Rの監視をすること無く、オイルシール2のグリスアップの時期を的確に認知することが可能である。
【0084】
そして、作業者は、このグリスアップを促すアラーム表示51に従ってグリスアップを実行すればオイルシール2の寿命を延ばすことが可能である。
なお、このアラーム表示51に関しては、以下の3つのタイミングが考えられる。
【0085】
条件(4)一定の回転数より、回転数Rが高くなった場合に、つまり磨耗開始時期Eのときにアラーム表示51を出力する。
条件(5)回転数Rの変化を示すグラフの任意時刻での接線の傾きが所定値以上に達したとき、つまりシール交換時期Fでアラーム表示51を出力する。
【0086】
条件(6)回転数Rが、実験で予め取得しておいたグラフデータのグラフ頂点P2に対して所定値Δr以下の回転数に達したとき、つまりシール交換時期Fでアラーム表示する。
【0087】
そして、オイルシール2のグリスアップのみのメンテナンスを行いたい場合は条件(4)のタイミングでアラーム表示51を出力させ、オイルシール2の交換を伴うメンテナンスを行う場合は条件(5)または条件(6)のタイミングでアラーム表示51を出力させる。
【0088】
上述のような、本実施の形態4における判定装置20の動作の一例を図10のフローチャートを参照して説明する。
【0089】
まず、判定装置20は、スピンドルユニットS4が通常回転時か否かを判別する(ステップ91)。この判別は、たとえば、本実施の形態のスピンドルユニットS4が装着された研磨装置等の加工装置における加工制御信号に基づいて判別するか、あるいは、回転数Rや、駆動制御装置12から得られるスピンドル1における負荷状況を示す信号を判別する等の方法が考えられる。
【0090】
そして、判定装置20は、スピンドルユニットS4が通常回転時であると判別したら、回転検出器19を介してモータ11の回転数Rを検出する(ステップ92)。
【0091】
そして、判定装置20は、まず、検出された回転数Rがシール交換時期回転数G未満か否か(R<G)を判別し(ステップ93)、(R<G)の場合には、シール交換のアラーム表示51を表示器13Aに出力し(ステップ95)、ステップ91に戻る。
【0092】
また、判定装置20は、ステップ93で回転数Rがシール交換時期回転数G以上(R≧G)と判別したら、さらに、回転数Rが通常回転時回転数H未満か否か(R<H)を判別し(ステップ94)、(R<H)の場合には、オイルシール2のグリスアップのアラーム表示51を表示器13Aに出力し(ステップ96)、ステップ91に戻る。
【0093】
また、判定装置20は、ステップ94で回転数Rが通常回転時回転数H以上(R≧H)と判別したら、ステップ91に戻る。
【0094】
この実施の形態4のスピンドルユニットS4によれば、判定装置20がオイルシール2の交換時期およびグリスアップの時期を自動的に判断してアラーム表示51にて告知することが可能であり、スピンドル組立体14を分解して内部を目視する等の煩雑な作業を必要とすること無く保守作業の要否やタイミングを的確に判断でき、長時間故障無しで使用可能なスピンドルユニットS4を提供することが可能となる。
【0095】
以上説明したように、本発明の上述の各実施の形態によれば、モータ11の負荷を検出することにより、当該負荷の変化に基づいてオイルシール2の交換時期およびグリスアップ等の保守作業の時期を、スピンドル組立体14を分解して内部を目視する等の煩雑な作業を行うこと無く客観的な基準で的確に判断でき、長時間故障無しで使用可能なスピンドルユニットS1〜S4を提供することが可能となる。
【0096】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0097】
たとえば、スピンドルユニットに限らず、回転機構の外輪であるハブ側を回転させるハブユニット、さらには接触式シールを具備した一般の回転支持構造にも適用可能である。また、接触式シールに限らず、軸受構造全般の保守管理に適用してもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 スピンドル
1a スピンドルフランジ
2 オイルシール
3 スピンドルカバー
4 ベアリングオサエ
5 グリス
6 ベアリング
7 スピンドルハウジング
8 スピンドルプーリ
9 Vベルト
10 モータプーリ
11 モータ
11a 回転軸
12 駆動制御装置
13 表示器
13A 表示器
14 スピンドル組立体
15 リップ
16 モータベース
17 電線
18 電流検出器
19 回転検出器
20 判定装置
30 ノズル
31 研磨剤
51 アラーム表示
A 磨耗開始時期
B シール交換時期
Bf シール破断時期
C 通常回転時電流値
D シール交換時期電流値
E 磨耗開始時期
F シール交換時期
Ff シール破断時期
G シール交換時期回転数
H 通常回転時回転数
P1 グラフ頂点
P2 グラフ頂点
R 回転数
i 電流値
Δa 所定値
Δr 所定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触式シールにて保護される軸受構造を備えたスピンドルと、
前記スピンドルを回転させるモータと、
前記モータの負荷を検出する負荷検出手段と、
前記負荷検出手段により検出された前記負荷の状態を外部に出力する出力手段と、
を具備したことを特徴とするスピンドルユニット。
【請求項2】
前記負荷検出手段は、前記モータに供給される電流値により前記負荷を検出することを特徴とする請求項1に記載のスピンドルユニット。
【請求項3】
前記負荷検出手段は、前記モータの回転数により前記負荷を検出することを特徴とする請求項1に記載のスピンドルユニット。
【請求項4】
前記モータの前記負荷が所定値に達したか否かを判断する判断手段を備え、
前記出力手段は、前記判断手段により、前記モータの前記負荷が前記所定値に達したと判断された場合に前記負荷の状態を外部に出力することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のスピンドルユニット。
【請求項5】
前記所定値は、前記接触式シールの磨耗開始時期を判別するための第1閾値、および前記接触式シールの交換時期を判別するための第2閾値からなり、
前記判断手段は、
前記負荷が前記第1閾値を超過した場合に前記接触式シールの保守開始を促すアラーム表示を前記出力手段に出力し、
前記負荷が前記第2閾値を超過した場合に前記接触式シールの交換を促すアラーム表示を前記出力手段に出力する、ことを特徴とする請求項4に記載のスピンドルユニット。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1A】
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【図1B】
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【公開番号】特開2011−78265(P2011−78265A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229549(P2009−229549)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】