説明

スフィンゴ糖脂質の油溶解物及びその製造方法

【課題】 スフィンゴ糖脂質の油溶解物を簡便に提供する。
【解決手段】 スフィンゴ糖脂質とテルペンオイルを必須成分とするスフィンゴ糖脂質の油溶解物であって、好ましくは、テルペンオイルが、リモネン、スクワレン、スクワランから選ばれる少なくとも一種以上を含有するオイルである。また、スフィンゴ糖脂質は、動物、植物及び/又は菌体の組織の一部及び/又は全体から選ばれる少なくとも一種以上のものを原料とし、有機溶剤及び/又は超臨界ガスから選ばれる少なくとも一種以上の溶剤を用い、抽出することにより得られたものである前記のスフィンゴ糖脂質の油溶解物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スフィンゴ糖脂質の油溶解物に関するもので、より詳しくは、リモネンをはじめとするテルペン構造を基本骨格とする油状成分を主体としたオイルにより溶解されたスフィンゴ糖脂質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ糖脂質は、植物や動物、又は菌体の組織中に広範囲に存在し、これらの組織の一部もしくは全体より、有機溶剤等を用いた抽出によって、スフィンゴ糖脂質を含有する組成物を得ることは公知の技術である(例えば、特許文献1、2参照)。近年、このようなスフィンゴ糖脂質を含む抽出物は、この化合物の特長でもある、ヒトを含む哺乳動物の皮膚角質層の水和改善効果ゆえに、肌の保湿効果のある食品素材、もしくは化粧品素材として利用されつつある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
既に、植物や動物乃至菌体由来のスフィンゴ糖脂質を添加した食品、乃至化粧品が市場に散見される。現状の製品形態としては、特に、清涼飲料水やヨーグルト、化粧水などの水を基剤とした製品形態が主流となっていることから、スフィンゴ糖脂質含有物の供給形態としては、多価アルコールや精製水を基剤とし、乳化剤等を用いて基剤全体に希釈された乳化液タイプ(例えば、特許文献3、4、5参照)及び、無機塩類ないし、水不溶性あるいは難溶性の多糖類等を担体として粉末化された粉末タイプ(例えば、特許文献6参照)が主流となっていた。
【特許文献1】特開2002−038183号公報
【特許文献2】特開2002−030093号公報
【非特許文献1】向井克之「こんにゃく芋由来セラミドの食品素材としての機能性」、バイオインダストリー(シーエムシー出版)、第19巻、8号、p.16〜26、2002年
【特許文献3】特開平8−217666号公報
【特許文献4】特開2003−113393号公報
【特許文献5】特開2001−206834号公報
【特許文献6】特開2004−231749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の乳化液タイプや粉末タイプの形態では、美容食品素材ないし化粧品としてスフィンゴ糖脂質の特性を発揮するため、より高濃度での配合が容易となる、ドレッシングやバター等の油性成分を基剤とする食品、あるいは乳液、クリーム、ファンデーション、口紅等の化粧品への配合は行い難かった。また、高濃度の液状のままソフトカプセル化することも難しかった。そこで、このような用途展開のためには、スフィンゴ糖脂質含有物を油状にすることが簡便な解決法と考えられたが、スフィンゴ糖脂質含有物を、なたね油、大豆油等のトリアシルグリセロールを主体とする一般的な天然の油に溶解させることは困難であるという事実があった。その原因としては、スフィンゴ糖脂質含有物が、上記の中性脂質を主成分とする油には溶解しにくい極性脂質を多く含むという点がある。実際に、このような油に撹拌等の溶解操作を行った後、放置することにより、析出物が生じやすいと言う問題点があった。さらに、この時生じる析出物にはスフィンゴ糖脂質そのものが含まれることもあり、ろ過や遠心分離等の操作によって析出物を除去すると、スフィンゴ糖脂質を収率良く回収し難いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、スフィンゴ糖脂質の溶解の際にテルペンオイルを用いると、上記の問題点が解決できるという事実を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明の第一は、スフィンゴ糖脂質がテルペンオイルに溶解していることを特徴とするスフィンゴ糖脂質の油溶解物を要旨とするものであり、好ましくは、テルペンオイルが、リモネン、スクワレン及びスクワランからなる群から選ばれる一種又は二種以上のテルペンオイルであり、また好ましくは、テルペンオイルが、リモネンを20質量%以上100質量%以下含有するオイルであり、また好ましくは、テルペンオイルとして、柑橘精油、オリーブオイル及び魚類の肝油からなる群から選ばれる一種又は二種以上のテルペンオイルを用いるものである。また前記のスフィンゴ糖脂質の油溶解物において、好ましくは、スフィンゴ糖脂質が、植物、動物及び/又は菌類の組織の一部及び/又は全体を原料とし、溶剤抽出により得られたものであり、また好ましくは、スフィンゴ糖脂質の原料が、米、小麦、大豆、トウモロコシ、こんにゃく芋、馬鈴薯、哺乳動物の乳、菌類及びキノコ類からなる群から選ばれる一種又は二種以上のものである。
【0007】
本発明の第二は、スフィンゴ糖脂質に、テルペンオイルを添加した後、混合してスフィンゴ糖脂質を溶解させることを特徴とするスフィンゴ糖脂質の油溶解物の製造方法を要旨とするものである。
【0008】
本発明の第三は、スフィンゴ糖脂質を予め揮発性溶媒に溶解させ、この溶液にテルペンオイルを添加した後、混合してスフィンゴ糖脂質を溶解させ、次いで揮発性溶媒を留去することを特徴とするスフィンゴ糖脂質の油溶解物の製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスフィンゴ糖脂質の油溶解物によれば、様々な形態の食品乃至化粧品に添加することができるが、流動性のある油に溶解しているために、特に、従来添加が困難であった油性成分を基剤とする食品や化粧品への添加が容易である。中でも、ソフトカプセル状の健康食品や、ドレッシングやバター等の油性成分を基剤とする食品乃至、乳液、クリーム、ファンデーション、口紅等の化粧品への使用が容易となる。
【0010】
また、本発明の製造方法によれば、簡便な方法によりスフィンゴ糖脂質の油溶解物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のスフィンゴ糖脂質の油溶解物は、スフィンゴ糖脂質とそれを溶解するためのテルペンオイルを必須成分とするものである。ここで用いられるスフィンゴ糖脂質は、動物や植物、菌体の組織の全体や一部、あるいはその加工物から選ばれる少なくとも一種以上のものを原料とし、有機溶剤あるいは、超臨界や亜臨界などの状態にあるガスのうち少なくとも一種以上を含む溶剤により抽出で得られたものである。
【0012】
上記抽出の原料となるものとしては、植物では例えば、アーモンド、アオサ、アオノリ、アカザ、アカシア、アカネ、アカブドウ、アカマツ(松ヤニ、琥珀、コーパルを含む。以下マツ類については同じ)、アガリクス、アキノノゲシ、アケビ、アサガオ、アザレア、アジサイ、アシタバ、アズキ、アスパラガス、アセロラ、アセンヤク、アニス、アボガド、アマチャ、アマチャヅル、アマリリス、アルテア、アルニカ、アロエ、アンジェリカ、アンズ、アンソッコウ、イグサ、イザヨイバラ、イチイ、イチジク、イチョウ、イランイラン、ウイキョウ、ウーロン茶、ウコン、ウスベニアオイ、ウツボグサ、ウド、ウメ、ウラジロガシ、温州ミカン、エイジツ、エシャロット、エゾウコギ、エニシダ、エルダーフラワー、エンドウ、オーキッド、オオバコ、オオヒレアザミ、オオムギ、オケラ、オスマンサス、オトギリソウ、オドリコソウ、オニドコロ、オリーブ、オレガノ、オレンジ(オレンジピールも含む)、カーネーション、カカオ、カキ、カキドオシ、カッコン、カシワ、カタクリ、カボチャ、カミツレ、カムカム、カモミール、カラスウリ、カラマツ、カリン、ガルシニア、カルダモン、キイチゴ、キウイ、キキョウ、キャベツ(ケールを含む)、キャラウェイ、キュウリ、キンカン、ギンナン、グァバ、クコ、クズ、クチナシ、クミン、クランベリー、クルミ、グレープフルーツ、クローブ、クロマツ、クロマメ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、コケモモ、コショウ、コスモス、ゴボウ、コムギ(小麦胚芽も含む)、ゴマ、コマツナ、コメ(米糠も含む)、コリアンダー、コンニャク芋(コンニャクトビ粉も含む)、コンブ、サーモンベリー、サイプレス、ザクロ、サツマ芋、サト芋、サトウキビ、サトウダイコン、サフラン、ザボン、サンザシ、サンショウ、シクラメン、シソ、シメジ、ジャガ芋、シャクヤク、ジャスミン、ジュズダマ、シュンギク、ショウガ、ショウブ、シラカシ、ジンチョウゲ、シンナモン、スイカ、スイトピー、スギナ、スターアニス、スターアップル、スダチ、ステビア、スモモ、セージ(サルビア)、ゼニアオイ、セロリ、センキュウ、センブリ、ソバ、ソラマメ、ダイコン、ダイズ(おからを含む)、ダイダイ、タイム、タケノコ、タマネギ、タラゴン、タロイモ、タンジン、タンポポ、チコリ、ツキミソウ、ツクシ、ツバキ、ツボクサ、ツメクサ、ツルクサ、ツルナ、ツワブキ、ディル、テンジクアオイ(ゼラニウム)、トウガ、トウガラシ、トウキ、トウモロコシ、ドクダミ、トコン、トチュウ、トネリコ、ナガイモ、ナズナ、ナツメグ、ナンテン、ニガウリ、ニガヨモギ、ニラ、ニンジン、ニンニク、ネギ、ノコギリソウ、ノコギリヤシ、ノビル、バーベナ、パーム、パイナップル、ハイビスカス、ハコベ、バジル、パセリ、ハダカムギ、ハッカ、ハトムギ、バナナ、バナバ、バニラ、パプリカ、ハマメリス、ビート、ピーマン、ヒガンバナ、ヒシ、ピスタチオ、ヒソップ(ヤナギハッカ)、ヒナギク、ヒナゲシ、ヒノキ、ヒバ、ヒマシ、ヒマワリ、ビワ、ファレノプシス、フェネグリーク、フキノトウ、ブラックベリー、プラム、ブルーベリー(ビルベリーを含む)、プルーン、ヘチマ、ベニバナ、ベラドンナ、ベルガモット、ホウセンカ、ホウレンソウ、ホオズキ、ボダイジュ、ボタン、ホップ、ホホバ、マオウ、マカ、マカデミアンナッツ、マタタビ、マリーゴールド、マンゴー、ミツバ、ミモザ、ミョウガ、ミルラ、ムラサキ、メース、メリッサ、メリロート、メロン、メン(綿実油粕も含む)、モヤシ、ヤグルマソウ、ヤマ芋、ヤマユリ、ヤマヨモギ、ユーカリ、ユキノシタ、ユズ、ユリ、ヨクイニン、ヨメナ(アスター)、ヨモギ、ライム、ライムギ、ライラック、ラズベリー、ラッカセイ、ラッキョウ、リンゴ、リンドウ、レタス、レモン、レンゲソウ、レンコン、ローズヒップ、ローズマリー、ローリエ、ワケギ、ワサビ(セイヨウワサビも含む)などが挙げられ、これらの中でもサツマ芋、ジャガ芋、サト芋、ヤマ芋、コンニャク芋、ナガ芋等の芋類が好ましく、コンニャク芋がさらに好ましい。コンニャク芋は安価に入手できることからコンニャクトビ粉を使用することが好ましい。
【0013】
また、菌類およびキノコ類の例としては、エノキダケ、エリンギ、カバアナタケ、キクラゲ、シイタケ、トウチュウカソウ、ナメコ、ハタケシメジ、ハナビラタケ、ヒメマツタケ(アガリクス)、ヒラタケ、フクロタケ、ブナシメジ、ブナハリタケ、ホンシメジ、マイタケ、マッシュルーム、マツタケ、マンネンタケ、メシマコブ、ヤマブシダケ、レイシ、スフィンゴモナス属菌類などが挙げられる。
【0014】
動物由来の原料としては、ウニやヒトデ、タコ、イカなどの棘皮動物、軟体動物の組織のすべてまたは一部、ウマ、ウシなど哺乳動物の脳組織および皮膚組織、さらにはヒト、ウシ、ヤギなど哺乳動物の乳およびその発酵物などの加工品などが挙げられる。これらの動植物等原料はそのまま用いても良いし、乾燥、すりつぶし、加熱などの操作によって加工されていてもよい。これらの原料の中で、スフィンゴ糖脂質含有量や入手容易性から、コムギ(小麦胚芽も含む)、コメ(米糠も含む)、コンニャク芋(コンニャクトビ粉も含む)、ダイズ(おからを含む)が望ましく、さらに、コンニャク芋(コンニャクトビ粉も含む)が最も好ましい。
【0015】
また、抽出溶媒として使用する有機溶剤としては、抽出中に抽出原料の成分などと反応するなどして、本発明の効果を損なうものでなければいかなるものでも使用できる。また、一種類の溶剤を単独で用いても複数の溶剤を混合して用いてもよい。
【0016】
かかる有機溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノールなどのアルコール類、ヘキサン、ペンタン、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、その他亜臨界〜超臨界状態にある二酸化炭素、フルオロフォルム、エタンなどが挙げられる。これらの中で好ましい例としては、メタノール、エタノール、ヘキサン、アセトンが挙げられ、特に好ましい例としてはエタノールが挙げられる。
【0017】
本発明においてスフィンゴ糖脂質を得るには、まず抽出原料に上記した溶剤を添加する。この際、抽出効率をあげるために、例えば水、界面活性剤などの添加物を本発明の効果を損なわない範囲で加えることができる。
【0018】
抽出に使用する溶剤の量としては、原料に対して好ましくは質量として1〜30倍量程度、さらに好ましくは1〜10倍量程度がよい。溶剤の使用量がこの範囲以下であれば、原料全体に溶剤が行き渡らず、抽出が不十分になるおそれがあり、この範囲を超える量の溶剤を添加してももはや抽出量に影響はなく、後の濃縮工程での溶剤除去作業の負担が増えるのみである。
【0019】
抽出温度は使用する溶剤が有機溶剤の場合、その沸点にもよるし、使用する溶剤が亜臨界〜超臨界の状態にあるガスの場合、その臨界温度にもよるが、好ましくは、0℃から80℃、さらに好ましくは室温程度から60℃の範囲がよい。抽出温度がこの範囲以下であれば、抽出効率が低下し、この範囲以上の温度をかけても抽出効率に大きな影響はなく、いたずらにエネルギー使用量が増えるのみである。
【0020】
抽出時間は、30分〜48時間、好ましくは1〜20時間である。抽出時間がこの範囲より短いと、十分に抽出が行われず、この範囲を超えて長く時間をかけて抽出を行っても、もはや抽出量の増大は見込めない。
【0021】
なお、抽出操作は1回のみの回分操作に限定されるものではない。抽出後の残渣に再度新鮮な溶剤を添加し、抽出操作を施すこともできるし、抽出溶剤を複数回抽出原料に接触させることも可能である。すなわち、抽出操作としては、回分操作、半連続操作、向流多段接触操作のいずれの方式も使用可能である。また、ソックスレー抽出など公知の抽出方法を使用してもよい。
【0022】
このような抽出操作を行った後、抽出残渣を分離除去し抽出液を得る。残渣を分離除去するための方法は特に限定されず、例えば吸引ろ過、フィルタープレス、シリンダープレス、デカンター、遠心分離器、ろ過遠心機などの公知の方法を用いることができる。
【0023】
亜臨界〜超臨界状態にあるガスのみを溶剤として抽出を行った場合、溶媒除去工程は不要となるが、それ以外の場合、得られた抽出液は、次いで濃縮工程に送られる。濃縮方法は特に限定されず、例えばエバポレーターのような減圧濃縮装置やエバポール(大川原製作所)のような遠心式薄膜真空蒸発装置を用いたり、加熱による溶剤除去により、濃縮することができる。
【0024】
以上のようにしてスフィンゴ糖脂質を含有する抽出物を得ることができる。本発明のスフィンゴ糖脂質の油溶解物を製造する際には、このようなスフィンゴ糖脂質含有抽出物をそのまま用いても良いし、目的成分の純度向上、におい成分の除去、着色成分の除去など必要に応じてさらに公知の精製工程を加え、精製したスフィンゴ糖脂質を用いてもよい。そのような精製方法には、水洗による方法、水洗の後、塩析を行いその後、沸騰処理などを行い、臭気を除去する方法、活性炭や、シリカゲル、活性白土、カオリンなどを加え、攪拌することにより不要物を吸着除去する方法、少量の、抽出で用いた溶剤と同じ、あるいは異なる溶剤を加え、デカンテーションや、ろ過を行い、不要物を分別除去する方法、有機溶剤による溶媒分画や晶析、フラッシュカラムクロマトグラフィーなどが挙げられる。これらの方法は、複数、組み合わせて行うことが可能であり、その順序は、任意で行うことができる。
【0025】
本発明においては、スフィンゴ糖脂質を溶解する溶媒としてテルペンオイルを用いる。ここで、テルペンオイルとは、テルペン構造を基本骨格とする油状成分を主体とするオイルを指し、モノテルペンオイル、セスキテルペンオイル、ジテルペンオイル、トリテルペンオイル、テトラテルペンオイルなどを用いることができる。具体的には、モノテルペンオイルとしてはリモネン、ピネン、ショウノウ、シトロネロール、メントール等、セスキテルペンオイルとしてはβ−セリネン、カジネン、ファルネソール等、ジテルペンオイルとしてはビタミンA、アビエチン酸等、トリテルペンオイルとしてはスクワレン、スクワラン、ラノステロール、β‐アミリン等、テトラテルペンオイルとしてはβ‐カロテン等がそれぞれ挙げられる。これらの中で、入手容易性や当該スフィンゴ糖脂質の溶解性等を考慮すると、リモネン、スクワレン、スクワレンに水素添加したスクワラン等が適当であり、その中でも特にリモネンが好適である。
【0026】
上記のテルペンオイルは、動物や植物由来の油から精製して得られるが、本発明に用いられるテルペンオイルとしては、精製前のテルペンオイルを豊富に含む油をそのまま用いてもよい。そのようなものとしては、柑橘精油、オリーブオイル、魚類の肝油などが挙げられ、柑橘精油の原料としては、オレンジ、レモン、温州みかん、グレープフルーツなどが挙げられる。例えばリモネンは、レモンオイルやオレンジオイル等の柑橘油に含まれるため、これらの柑橘油を用いることが好ましい。このように精製前の油を使用する場合、その油中のテルペンオイルの含有量は40質量%以上、100質量%未満であることが望ましい。
【0027】
また、本発明においては、混合オイルを用いることもできる。例えば、リモネン、スクワレン、スクワランなどの精製されたテルペンオイルや、柑橘精油、オリーブオイル、魚類の肝油などの精製前の油は単独で用いることもできるし、これらのオイルを複数混合して用いてもよい。複数のテルペンオイルを混合して用いる場合には、その中にリモネン、スクワレン、スクワランの少なくとも一種、中でもリモネンが含まれていることが好ましく、これらの3種類のテルペンオイルの合計が、混合油中の20質量%以上、100質量%未満であることが望ましい。さらには、トリアシルグリセロールやジアシルグリセロールを主体とする油を併用しても良い。かかる場合、混合オイル中のテルペンオイルの含有量は40質量%以上、100質量%未満であることが好ましく、テルペンオイル中にリモネンが含まれる場合には全体の油中に占めるリモネンの含有量が20質量%以上、100質量%未満であることが好ましい。
【0028】
本発明において、スフィンゴ糖脂質をテルペンオイルに溶解する方法としては、以下の方法が挙げられる。まず、スフィンゴ糖脂質に直接テルペンオイルを添加し、撹拌等の溶解操作によって完全に溶解させる方法がある。ここでスフィンゴ糖脂質とは、原料から抽出後精製を加えていないものである場合には、スフィンゴ糖脂質含有抽出物が相当するものである。したがって、かかる場合にはスフィンゴ糖脂質含有抽出物にテルペンオイルを添加すればよい。撹拌操作としては従来公知の方法を用いることができ、例えば、メカニカルスターラーやホモジナイザー等を用いた混合等が考えられる。その際の温度に関しては特に制限はないが、有効成分がスフィンゴ糖脂質であることを勘案すると、その分解を防ぐ目的から、室温程度から100℃以下であることが望ましい。
【0029】
また、スフィンゴ糖脂質をあらかじめ揮発性溶媒に溶解させ、この溶液にテルペンオイルを添加した後、エバポレーター等を用いた濃縮操作によりテルペンオイル以外の溶媒を留去して、テルペンオイルに溶解したスフィンゴ糖脂質を得ることもできる。ここでもスフィンゴ糖脂質とは、原料から抽出後精製を加えていないものである場合には、スフィンゴ糖脂質含有抽出物が相当するものである。したがって、かかる場合にはスフィンゴ糖脂質含有抽出物を揮発性溶媒に溶解させればよい。揮発性溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノールなどのアルコール類、ヘキサン、ペンタン、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等が挙げられるが、揮発性や安全性を考慮するとエタノールが特に好ましい。また、溶媒の添加量としては、スフィンゴ糖脂質、あるいは精製されていない場合にはスフィンゴ糖脂質含有抽出物1gに対して0.5mLから100mLであることが望ましく、好ましくは1mLから50mL、さらに好ましくは2mLから20mLであることが望ましい。
【0030】
本発明のスフィンゴ糖脂質の油溶解物に含まれるテルペンオイルの含有量としては、油溶解されるべきスフィンゴ糖脂質の純度やその性状にも依るため一概には言えないが、一般に、スフィンゴ糖脂質あるいは精製されていない場合にはスフィンゴ糖脂質含有抽出物(すなわち油溶解物から油分を除いた部分)1質量部に対し、前記テルペンオイルが1/10質量部以上、100質量部以下、より好ましくは、1/5質量部以上、50質量部以下、さらに好ましくは、1/2質量部以上、20質量部以下の割合であることが望ましい。使用量がこの範囲に満たない場合には溶解性は充分期待できず、逆にこの範囲を超えて添加した場合には、風味や使用感に悪影響を及ぼす等の好ましくない影響が出るおそれがある。
【0031】
本発明のスフィンゴ糖脂質の油溶解物を食品乃至化粧品等の用途に使用する場合には、そのまま用いても良いし、本発明の主旨を損なわない範囲で、さらにテルペンオイルを加えても良く、さらには、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグルセロール等を主体とする油や、エタノールやイソプロパノール等の有機溶剤で希釈してから用いてもよい。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明について実施例を用いてより詳細に説明する。なお、本発明の実施の形態としては、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0033】
まず以下の製造例において使用した測定装置について説明する。スフィンゴ糖脂質の定量には高速液体クロマトグラフィー(HPLC、Waters製LC Module 1)を用い、カラムはGLサイエンス社製Inertsil SIL 100Aを用いた。溶媒はクロロホルム:メタノール=9:1(容量比)を用い、流速1.0mL/分で37℃で測定した。検出には光散乱検出器(Alltech社製 500ELSD)を用いた。
【0034】
次に、以下の実施例及び比較例において行った溶解性評価について説明する。
(1)溶解性評価試験実施条件
評価試験は、スフィンゴ糖脂質の油溶解物5gをガラスシャーレ(φ90mm)上に広げて放置し、ライトボックス上で析出物の有無をルーペ(倍率20倍)で観察することによって行った。
【0035】
(2)評価方法
スフィンゴ糖脂質の油溶解物5gを、ガラスシャーレ(φ90mm)に展開し、フタをして周囲をパラフィルムで覆って密封した。調整直後に1回目の試験を、(1)の方法に従って行った。その後、サンプルを室温で保存し、3日後と1ヶ月後に、2回目、3回目の試験を行った。評価方法は、全く析出物がない場合を○、濁っている場合を△、析出物が生じている場合を×で表した。
【0036】
〔製造例1〕
こんにゃくトビ粉(全国蒟蒻原料協同組合より入手)100kgをエタノール200Lを用いて2時間、常温抽出を行い、抽出液を濃縮乾固して、1.08kgの抽出物を得た。この抽出物を、3.5Lのエタノールに再溶解し、水8Lを加え、攪拌槽にて攪拌し、水抽出を2時間行い、水可溶性不要分を水相に移行せしめた後、塩化ナトリウム1.2kgを加えて、攪拌槽を加温し、全体を1時間沸騰させた。その後、槽下部より水相を抜き出し、残った油相に、2.5Lのエタノールを加え、エタノール可溶分をろ過により回収したのち、濃縮乾固し、712gのオイル状のこんにゃく芋抽出物を得た。HPLC測定によると、こんにゃく芋抽出物中のスフィンゴ糖脂質純度は8.5重量%であった。
【0037】
〔製造例2〕
小麦粉10kgをエタノール20Lを用いて2時間、常温抽出を行い、抽出液を濃縮乾固して、茶褐色の蝋状濃縮物68.2gを得た。この小麦抽出物68.2gに対して、アセトン400mLを加え、40℃で抽出した後、抽出液を−20℃で冷アセトン沈殿させて沈殿した画分を、乾燥させたところ、10.2gの抽出物が得られた。HPLC測定によると、得られた小麦抽出物中のスフィンゴ糖脂質純度は4.0重量%であった。
【0038】
実施例1
製造例1で得られたこんにゃく芋抽出物5gに対し、d-リモネン(試薬特級、購入先:ナカライテスク(株))50gを加え、ホモジナイザー(商品名:ポリトロン、KINEMATICA社製)を用いて均一になるまで約5分間室温で撹拌し、本発明のスフィンゴ糖脂質の油溶解物を得た。これの一部を溶解性評価試験に供した。評価試験の結果を表1に示す。
【0039】
実施例2
製造例1で得られたこんにゃく芋抽出物5gにエタノール50mLを加え、メカニカルスターラーを用いて約30分間室温で撹拌して完全に溶解させた。このエタノール溶液に、d-リモネン(試薬特級、購入先:ナカライテスク(株))50gを加え、メカニカルスターラーを用いて均一になるまで撹拌した。この溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し、エタノールのみを留去した。留去される液体がなくなったところで濃縮を止め、本発明のスフィンゴ糖脂質の油溶解物を得た。これの一部を溶解性評価試験に供した。結果を表1に示す。
【0040】
実施例3
製造例1で得られたこんにゃく芋抽出物5gに対し、レモンオイル(Lemon Oil CP FMC Winter Grade; Aripe Citrus Products)50gを加え、ホモジナイザー(商品名:ポリトロン、KINEMATICA社製)を用いて均一になるまで室温で約5分間撹拌し、本発明のスフィンゴ糖脂質の油溶解物を得た。これの一部を溶解性評価試験に供した。結果を表1に示す。
【0041】
実施例4
製造例2で得られた小麦抽出物5gに対し、スクワラン(試薬特級、購入先:ナカライテスク(株))50gを加え、ホモジナイザー(商品名:ポリトロン、KINEMATICA社製)を用いて均一になるまで撹拌し、本発明のスフィンゴ糖脂質の油溶解物を得た。これの一部を溶解性評価試験に供した。評価試験の結果を表1に示す。
【0042】
比較例1
製造例1で得られたこんにゃく芋抽出物5gに対し、なたね油(トリアシルグリセロール)(日清オイリオ(株)製、商品名:日清キャノーラ油)50gを加え、ホモジナイザー(商品名:ポリトロン、KINEMATICA社製)を用いて約5分間室温で撹拌した。完全には溶解しなかったが、得られたペースト状物質の一部を溶解性評価試験に供した。結果を表1に示す。
【0043】
比較例2
製造例1で得られたこんにゃく芋抽出物5gに対し、中鎖脂肪酸トリグリセリド(商品名:ココナードMT、花王(株)製)50gを加え、ホモジナイザー(商品名:ポリトロン、KINEMATICA社製)を用いて均一になるまで約5分間室温で撹拌し、スフィンゴ糖脂質の油溶解物を得た。これの一部を溶解性評価試験に供した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

表1に示した結果より、比較例1では調製直後から不溶成分が生じており、比較例2でも調製直後は濁りなく溶解するものの、時間の経過とともに多くの析出物を生じてきた。それに対して、テルペンオイルを使用した実施例1、2、4では、テルペンオイルの添加方法によらず、析出物を生じなかった。また、精製されたテルペンオイルではないが、テルペンオイル(リモネン)を豊富に含むレモンオイルでも、良好な結果が得られた。このように、テルペンオイルを用いると、スフィンゴ糖脂質を安定に溶解することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴ糖脂質がテルペンオイルに溶解していることを特徴とするスフィンゴ糖脂質の油溶解物。
【請求項2】
テルペンオイルが、リモネン、スクワレン及びスクワランからなる群から選ばれる一種又は二種以上である請求項1記載のスフィンゴ糖脂質の油溶解物。
【請求項3】
テルペンオイルが、リモネンを20質量%以上100質量%以下含有するオイルであることを特徴とする、請求項1記載のスフィンゴ糖脂質の油溶解物。
【請求項4】
テルペンオイルとして、柑橘精油、オリーブオイル及び魚類の肝油からなる群から選ばれる一種又は二種以上を用いるものである請求項1記載のスフィンゴ糖脂質の油溶解物。
【請求項5】
スフィンゴ糖脂質が、植物、動物及び/又は菌類の組織の一部及び/又は全体を原料とし、溶剤抽出により得られたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスフィンゴ糖脂質の油溶解物。
【請求項6】
スフィンゴ糖脂質の原料が、米、小麦、大豆、トウモロコシ、こんにゃく芋、馬鈴薯、哺乳動物の乳、菌類及びキノコ類からなる群から選ばれる一種又は二種以上のものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスフィンゴ糖脂質の油溶解物。
【請求項7】
スフィンゴ糖脂質に、テルペンオイルを添加した後、混合してスフィンゴ糖脂質を溶解させることを特徴とするスフィンゴ糖脂質の油溶解物の製造方法。
【請求項8】
スフィンゴ糖脂質を予め揮発性溶媒に溶解させ、この溶液にテルペンオイルを添加した後、混合してスフィンゴ糖脂質を溶解させ、次いで揮発性溶媒を留去することを特徴とするスフィンゴ糖脂質の油溶解物の製造方法。

【公開番号】特開2006−160948(P2006−160948A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356850(P2004−356850)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】