説明

スラグの冷却処理方法

【課題】スラグ品質を確保するのに十分なスラグ冷却速度が得られるとともに、冷媒由来の廃水が生じない若しくは廃水量をきわめて少なくすることができるスラグの冷却処理方法を提供する。
【解決手段】冷媒噴射手段により、加圧気体と液体とからなる2流体混合冷媒を噴射し、噴射された液体粒子を高温スラグに衝突させることにより、スラグを冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製造プロセスなどで発生するスラグを冷却処理するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造プロセスで発生した溶融スラグ(例えば、高炉スラグ、製鋼スラグなど)の冷却方法としては、一般に、(1)散水冷却法、(2)水砕法、(3)風砕法、(4)徐冷法がある。これらのうち(1)の方法は、溶融スラグを冷却ヤードで放冷した後、散水して冷却するのが一般的であるが、パンと呼ばれる鉄製の容器に流し込んで散水冷却する方法(パン冷却方式)が採られることもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記(1)、(2)の方法では大量の廃水が発生し、その廃水処理に手間とコストがかかる。また、スラグの急速冷却はできるが、水の蒸発で水蒸気が発生してもその温度は100℃以下であるため、熱回収しても産業界(一般的な工業生産システム)での利用先はほとんどない。
また、上記(3)の方法では、溶融スラグを冷却しつつ微粒化することで、真球状の風砕スラグが得られるが、風砕スラグは安息角がきわめて小さいため、ヤードでの保存やトラック等での搬送に支障があり、このため利用が大幅に制限される。
また、上記(4)の方法では、品質的にスラグが結晶化しやすいため、粉化したり、膨張性が大きくなったりするという問題がある。また、高塩基度スラグを徐冷すると、ダイカルシウムシリケート相による粉化や、スラグ中溶解ガスの析出による気泡の生成などがあり、スラグを利用する上で問題となる。
【0004】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、スラグ品質を確保するのに十分なスラグ冷却速度が得られるとともに、冷媒(通常、冷却水)由来の廃水が生じない若しくは廃水量をきわめて少なくすることができるスラグの冷却処理方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、さらにスラグ顕熱を効率的に回収することができるスラグの冷却処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]冷媒噴射手段により、加圧気体と液体とからなる2流体混合冷媒を噴射し、噴射された液体粒子を高温スラグに衝突させることにより、スラグを冷却することを特徴とするスラグの冷却処理方法。
[2]上記[1]の冷却処理方法において、冷媒由来の廃液が生じないように、2流体混合冷媒によりスラグを冷却することを特徴とするスラグの冷却処理方法。
[3]上記[1]または[2]の冷却処理方法において、高温スラグとの接触により昇温した冷媒を回収することにより、スラグの顕熱回収を行うことを特徴とするスラグの冷却処理方法。
【0006】
[4]溶融スラグを回転する冷却ドラムに接触させて冷却し、板状、柱状、細片状または粒状の高温スラグとして排出するスラグ冷却処理装置を用い、溶融スラグを冷却処理し、該冷却処理後の高温スラグに対して、さらに、上記[1]〜[3]のいずれかの冷却処理を行うことを特徴とするスラグの冷却処理方法。
[5]溶融スラグを回転する1対の冷却ドラムで圧延しつつ冷却し、板状、柱状、細片状または粒状の高温スラグとして排出するスラグ冷却処理装置を用い、溶融スラグを冷却処理し、該冷却処理後の高温スラグに対して、さらに、上記[1]〜[3]のいずれかの冷却処理を行うことを特徴とするスラグの冷却処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスラグの冷却処理方法によれば、スラグ品質を確保するのに十分なスラグ冷却速度が得られる一方で、冷媒由来の廃液が生じない若しくは廃液量を極めて少なくした冷却処理が可能となるので、廃液処理の負担を解消または大幅に軽減することができる。
また、高温スラグとの接触により昇温した冷媒を熱源として回収することができるため、スラグ顕熱を効率的に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のスラグの冷却処理方法は、冷媒噴射手段により、加圧気体と液体とからなる2流体混合冷媒を高温スラグに噴射し、冷媒を構成する液体を微粒子状態でスラグに衝突させることにより、スラグを冷却するものである。
処理の対象となる高温スラグとしては、鉄鋼製造プロセス等をはじめとする種々のプロセスの溶解工程や精錬工程で生じた際の顕熱を保有した高温状態のスラグであって、溶融スラグ、部分凝固スラグ、凝固スラグのいずれかである。ここで部分凝固スラグとは、表層のみが凝固し、内部が溶融状態にあるようなスラグである。また、スラグの種類に制限はなく、例えば、高炉スラグ、製鋼スラグ(例えば、転炉脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱珪スラグ、脱硫スラグ、電気炉スラグ、鋳造スラグなど)、溶融還元スラグ(例えば、鉄鉱石、Cr鉱石、Ni鉱石、Mn鉱石などの溶融還元により生じるスラグ)、その他の製錬炉や精錬炉から発生するスラグ、ごみ焼却灰溶融スラグ、廃棄物ガス化溶融スラグなど、種々のスラグを対象とすることができる。
【0009】
冷媒噴射手段に使用される加圧気体や液体の種類は特に限定されず、例えば、加圧気体としては、空気、窒素、酸素富化空気、酸素、炭酸ガス、水蒸気、製鉄所プロセスガス、都市ガス、天然ガス、プロパンガスなどの1種以上を、また、液体としては、水、アルコール、水溶液などの1種以上を、それぞれ用いることができるが、通常は、経済性や取り扱いの容易性などの観点から、加圧気体として空気が、液体としては水(冷却水)がそれぞれ用いられる。以下、説明の便宜上、加圧気体として空気を、液体として水(冷却水)を用いる場合について説明する。
【0010】
本発明で行う加圧空気+水の2流体混合冷媒による冷却は、所謂ミスト冷却であり、水だけを高圧で噴射するスプレー冷却や、水を低圧で散布する散水冷却とは区別される。加圧空気+水の2流体混合冷媒(ミスト)を噴射する原理を図1に示す。
一般にミスト冷却におけるミストの気水比(=標準状態での加圧空気体積(Nm)/冷却水体積(L))は100〜1000程度である。また、散水冷却、スプレー冷却、ミスト冷却での各標準的な水滴サイズ(液浸法により測定される水滴のマスメジアン粒径)を較べると、散水冷却が500μm以上、スプレー冷却が通常の工場内で使用可能な水の供給圧力として1MPa(10気圧)程度を想定すると60〜200μm程度であるのに対して、ミスト冷却は20〜50μm程度であり、ミスト冷却の水滴サイズはスプレー冷却に較べてもかなり小さい。本発明では、このような微小水滴を用いるミスト冷却をスラグの冷却に適用することにより、以下に述べるような効果が得られることを見出した。
【0011】
本発明は、(i)十分なスラグ冷却速度が得られること、(ii)冷媒(冷却水)由来の廃水が生じないこと、という相反するような2つの要求を同時に満足させることを課題とするものであるが、ミスト冷却を適用することにより、次のような効果が得られ、その結果、上記2つの要求を同時に満足させることがきる。
(a)スラグを水と接触させて冷却する場合、スラグの冷却能力は冷却水量によって決まる。したがって、スラグを十分に冷却し、且つ冷却水由来の廃水が生じないようにするには、対象スラグの量や温度に応じてスラグと接触させる冷却水量を適切に制御する必要がある。この点に関して、スプレー冷却は冷却水量の制御範囲が狭く、このため冷却水のかけ過ぎで多量の廃水を生じたり、逆に冷却水が不足して冷却不足になったりしやすい。これに対してミスト冷却は、スプレー冷却に較べて冷却水量の制御範囲が格段に広く、スラグの量や温度に応じて、スラグを適切に冷却でき且つ廃水を生じない量の冷却水を正確に供給することができる。ちなみに、冷却水の流量制御比(冷却水量の制御範囲)はスプレー冷却が1:3程度であって、水を数MPa(数十気圧)以上の高い圧力で供給しているのでなければ水滴径が変化するので、適正条件はさらに狭い範囲となるのに対して、ミスト冷却は常に圧縮気体によって吐出流速を一定にできるので流量制御比は1:10程度であり、格段の違いがある。
(b)スラグは金属などに較べて熱伝導率が非常に小さいので、スラグを冷却水と接触させて冷却する場合、水滴が十分に小さくないと冷却されにくい。上述したように、ミスト冷却はスプレー冷却に較べて水滴サイズがかなり小さくできるので、同じ冷却水量であってもスラグを短時間で効率的に冷却することができる。
(c)ミスト冷却は、微小水滴が加圧空気により加速されて大きな衝突速度でスラグに衝突するため、その分、高い冷却効果が得られる。
以上の(a)〜(c)の効果により、上述した2つの要求を同時に満足させることが可能となる。また、ミスト冷却で生じる蒸気は蒸気分圧が低いので、白煙状になりにくいという利点もある。
【0012】
冷媒噴射手段にはミストノズルが用いられ、通常、スラグに対して上方から冷媒の噴射がなされる。ミストノズルとしては、空円錐ミストノズル、充円錐ミストノズル、充角錐ミストノズルなど任意のミストノズルを使用できる。
ミスト冷却の水滴サイズは小さいほど好ましく、液浸法により測定される水滴のマスメジアン粒径で100μm以下、特に50μm以下が好ましい。
ミストノズルに供給する冷媒は、加圧空気のノズル手前圧を300kPa(3bar)以上とし、冷却水量を調整することで、ミストノズルの冷却能力を調整することが好ましい。ノズル手前圧を300kPa(3bar)以上とすることにより、ノズルからの冷媒(ミスト)の吐出流速はほぼ音速となるので、冷媒中の冷却水を好ましい微小サイズに水滴化することができる。
【0013】
上記のようにミストノスルのノズル先では、冷媒(ミスト)は音速近傍であるが、その速度はノズルからの距離が離れるに従って減衰するので、気水比が100〜300程度で操業する場合には、スラグ表面から50〜300mm程度の距離からミストを噴射して、ミスト冷却するのが望ましい。気水比を500〜1000まで大きくした場合には、圧縮空気による流れが広い領域にわたって安定に供給できるので、スラグ表面からの距離を500〜2000mm程度まで離しても、好的な条件を満足できる。これは、スラグ表面に衝突した水滴の衝突速度が大きいほど熱伝達が促進されるため、速やかに水滴が蒸発して蒸発潜熱を奪い、冷却機能を果たすからである。また、水滴の速やかな蒸発によって、排ガス中の未蒸発水滴を大幅に低減できるので、排ガス温度を高く維持でき、スラグの顕熱回収にも役立つ。さらに、排ガス温度が高いと蒸気は過熱蒸気状態となるので、スラグのエージングにも効果的である。
本発明を実施するに当たっては、排ガス温度を測定し、排ガス温度とスラグ表面温度との相関関係を把握した上で、排ガス温度から適正な冷却水量を算出し、冷却水量を調整することでスラグ表面温度を制御することができる。
図2に、移動中の高温スラグ(ミスト冷却開始時のスラグ表面温度:1050℃)を任意長さの冷却ゾーンでミスト冷却した場合において、冷却ゾーン長さと供給した冷却水量および冷却後のスラグ表面温度との関係を示す。ここで、冷却水量は、スラグ単位面積(m)当たりで単位時間(h)当たりにミストとして供給した冷却水量(L)である。
【0014】
また、なるべく廃水を出さないようにするには、なるべく高温のスラグを冷却対象とすることが好ましく、そのことは、スラグ顕熱の回収という観点から、熱源として有用な高温排ガス(または高温水蒸気)を得る上でも好ましいことである。具体的には、冷却対象となるスラグは表面温度が200℃以上、望ましくは300℃以上、さらに望ましくは400℃以上、特に望ましくは800℃以上であることが好ましい。また、スラグ表面温度が300℃以上であれば高温排ガス(または高温水蒸気)を得るのに有利であり、さらに、400℃以上であればスラグのエージングにも有利となる。また、特に800℃以上であれば、水蒸気と圧縮空気中の酸素でスラグ表面を酸化改質する等の化学反応を進行させ、スラグ表面性状を安定化できるので特に好ましい。なお、スラグ表面温度は、熱電対のスラグ表面への直接接触や放射温度計により測定することができる。
【0015】
本発明の冷却処理は、任意の場所や設備で行うことができ、例えば、溶解工程や精錬工程で発生した溶融スラグをスラグ鍋で搬送してスラグ処理ヤード放流し、この放流した溶融状態にあるスラグまたは放冷により一部または全部が凝固したスラグに対して、冷媒噴射手段からミストを噴射してもよい。或いは、後述するように特定の冷却処理装置で冷却された後の高温スラグに対して、冷媒噴射手段からミストを噴射してもよい。
本発明によるスラグの冷却処理方法によれば、冷媒噴射手段から噴射されたミストが高温スラグに高速衝突することにより、スラグが冷却水の蒸発潜熱による吸熱で急冷されるとともに、冷媒中の冷却水量を調整することにより、スラグ表面に高速で衝突した冷却水のほとんどを蒸発させることができ、廃水を発生させることなくスラグの冷却処理を行うことができる。
【0016】
本発明の冷却処理方法では、高温スラグとの接触により昇温した冷媒を熱源として回収することが好ましく、これによりスラグ顕熱を効率的に回収でき、製鉄所などのエネルギー効率を高め且つCOガス発生量を削減することができる。回収された冷媒は、水などと熱交換させて蒸気を発生させる熱源として利用できる他に、例えば、原料・燃料・副原料・廃棄物等の乾燥・予熱用熱源、給湯機用熱源、蓄熱材への供給熱源、吸着式冷凍機の再生用熱源、炭酸ガスその他の吸着装置の吸着材再生熱源などとして利用することができる。
冷媒を回収するには、本発明の冷却処理自体を気密性のある処理容器内で行うことが好ましく、この処理容器から排ガスとして冷媒を取り出す。
【0017】
本発明の冷却処理は、スラグの比表面積を大きくした状態で実施した方が、冷媒による急冷・熱交換を促進できるので、より効率的な処理を行うことができる。スラグの比表面積を大きくするには、事前に溶融スラグに下記(イ)または(ロ)の冷却処理を施すことが好ましく、また、このような冷却処理を経ることにより、溶融スラグをハンドリングが容易な板状、柱状または細片状などの高温スラグにすることができるので、特に好ましい。また、下記(イ)または(ロ)の冷却処理が施されたスラグは未だ高温状態であるので、本発明の冷却処理を組み合わせることにより、スラグを十分に冷却することができる。したがって、溶融スラグに下記(イ)または(ロ)の冷却処理を施し、この冷却処理後の高温スラグに本発明の冷却処理を施すことが好ましい。
【0018】
(イ)溶融スラグを回転する冷却ドラムに接触させて冷却し、板状、柱状、細片状または粒状の高温スラグとして排出するスラグ冷却処理装置を用い、溶融スラグを冷却処理する。
(ロ)溶融スラグを回転する1対の冷却ドラムで圧延しつつ冷却し、板状、柱状、細片状または粒状の高温スラグとして排出するスラグ冷却処理装置を用い、溶融スラグを冷却処理する。
上記(イ)のスラグ冷却処理装置としては、例えば、(a)単一の横型冷却ドラムと、この横型冷却ドラムに溶融スラグを供給する樋を備える冷却処理装置(単ドラム型冷却処理装置)、(b)対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する、並列した1対の横型冷却ドラムを備え、この1対の横型冷却ドラムの上部外周面間に上方から溶融スラグが供給される冷却処理装置(双ドラム型冷却処理装置)、などがある。
また、上記(ロ)のスラグ冷却処理装置としては、例えば、間隙を有して並列し、対向する外周部分が下向きに回転する回転方向を有する1対の横型冷却ドラムを備え、この1対の冷却ドラムの上部外周面間に上方から溶融スラグが供給される冷却処理装置などがある。
【0019】
図3は、上記(イ)のタイプのうちの単ドラム型冷却処理装置Xを用いて溶融スラグを冷却することで、板状、柱状または細片状(塊状)などの高温スラグとし、この高温スラグに対して本発明の冷却処理を施す場合の一実施形態を示す説明図である。この冷却処理装置Xは、外周のドラム面100に溶融スラグを付着させて冷却する、回転可能な単一の横型冷却ドラム1(以下、単に「冷却ドラム」という。他の実施形態についても同様)と、この冷却ドラム1に溶融スラグを供給する樋2を備えている。通常、前記冷却ドラム1は、内部の冷媒流路に冷却水を流す水冷式である。
【0020】
前記樋2は、冷却ドラム径方向の一方の側に配置され、その先端部が冷却ドラム1のドラム面100に接するか若しくは近接するように設けられるとともに、樋2の先端部分とドラム面100とによりスラグ液溜まり部Aを形成し、冷却ドラム1の回転に伴い、スラグ液溜まり部A内の溶融スラグSがドラム面100に付着して持ち出されるようにしてある。
樋2の先端部(樋側壁の先端部を含む)は、ドラム面100に接してもよいし、小さい間隙を形成してドラム面100に近接させてもよい。後者の場合には、熱膨張を考慮して溶融スラグSが漏れない程度の隙間をもって近接させることが好ましいが、溶融スラグSの漏れを確実に防止するため、その間隙部分に対して樋2の下方に設けられたガス噴射手段12からパージガスを噴射することが好ましい。
前記冷却ドラム1は、駆動装置(図示せず)により、その上部ドラム面が反樋方向に回転するように回転駆動する。
【0021】
また、本実施形態では、冷却ドラム1のドラム面100に付着した溶融スラグを圧延してドラム幅方向に展伸させるための展伸ロール3を有している。このような展伸ロール3を備えた冷却処理装置は、特に粘度が高いスラグ塩基度[質量比:%CaO/%SiO](以下、単に「塩基度」という)が2以上の溶融スラグの冷却処理に好適なものである。すなわち、転炉脱炭精錬スラグなどのように塩基度が比較的高い溶融スラグは粘性が高く、このような粘性の高い溶融スラグを冷却ドラム式のスラグ冷却処理装置で冷却処理する場合、高粘性のために溶融スラグが冷却ドラム面に均一に付着しにくく、ドラム面全体を有効に使用した冷却処理を行うことができない。このため溶融スラグの冷却効率が低く、高い生産性が得られない。また、塩基度が高いスラグ(特に、塩基度≧3)は粉化しやすく、このようなスラグは溶融状態から急冷することにより、粉化しにくくすることができるが、従来のスラグ冷却処理装置で冷却処理した場合、高粘性のために厚みを薄くすることができず、十分な冷却速度が得られないため、冷却後の粉化を適切に抑制できない。このような課題に対して、本実施形態では、冷却ドラム1のドラム面100に付着した溶融スラグを圧延してドラム幅方向に展伸させるための展伸ロール3を設けたものである。
前記展伸ロール3は、冷却ドラム1の上部に冷却ドラム1と平行に且つ冷却ドラム1のドラム面100との間で所定の間隔を形成するようにして配置され、回転可能に支持されている。
【0022】
以上のような冷却処理装置Xを用いた溶融スラグの冷却処理では、樋2に供給された溶融スラグSはスラグ液溜まり部Aに流入し、ここで適当な時間滞留することで冷却された後、冷却ドラム1のドラム面100に付着して持ち出され、ドラム面100に付着した状態で適度な凝固状態(例えば、半凝固状態または片面若しくは両面の表層のみが凝固した状態)まで冷却される。その際、ドラム面100に付着した溶融スラグSは、展伸ロール3で圧延されることでドラム幅方向に展伸される。冷却されたスラグSxは、所定のドラム回転位置において自重により冷却ドラム面から自然に剥離する。
【0023】
本発明法により、このような冷却処理装置Xで冷却されて排出されたスラグSx(例えば、搬送コンベア5で搬送中のスラグSx)、さらにはドラム面100上で冷却中のスラグや展伸ロール3のロール面に対して、冷媒噴射手段16(ミストノズル)からミストm(水+加圧空気)を噴射し、それらを冷却するものである。また、この実施形態では、冷却ドラム1の下面にも、冷媒噴射手段16a(ミストノズル)からミストm(水+加圧空気)を噴射し、ドラム面100を冷却する。
冷却処理装置Xと冷媒噴射手段16,16aなどの装置出側の設備はカバー7で覆われ、このカバー7に排気管8が接続されている。この排気管8には熱交換器9が設けられている。
【0024】
カバー7内で冷媒(ミスト)とスラグとの接触により発生した蒸気および加熱された空気(以下、「排ガス」という)は、排気管8を通じて回収され、熱交換器9で熱媒と熱交換されることにより、スラグ顕熱が回収される。例えば、熱媒として水を用いれば、排ガスとの熱交換により蒸気が得られる。排気管8にはガス温度計10が設けられ、排気ガス温度が測定される。例えば、制御装置11では、このガス温度計10による排気ガス温度の測定に基づき、所望の排気ガス温度となるように冷媒噴射手段6,6aから供給されるミストの量や気水比などを制御する。なお、排気管8に熱交換器9を設けず、排ガスをそのまま何らかの熱源として利用してもよい。
本実施形態のように冷却ドラム1や展伸ロール3の表面をミスト冷却する場合には、それらの表面温度が100℃以上、望ましくは150〜300℃となるように冷却することが好ましい。冷却ドラムなどの表面温度が300℃を超えると鋼材の強度が低下し、一方、表面温度を100℃以上、望ましくは150℃以上とすることにより、廃水の発生を抑制できる。スラグに較べて金属は熱伝導率が高いので、設定温度が低くても廃水の発生を抑制できる。
【0025】
図4は、上述した(イ)のタイプのうちの双ドラム型冷却処理装置を用いた冷却処理の一実施形態を示す説明図である。このような冷却処理装置を用いて溶融スラグを冷却することで、板状、柱状または細片状(塊状)などの高温スラグとし、この高温スラグに対して本発明の冷却処理を施してもよい。
この冷却処理装置は、対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する、並列した1対の冷却ドラム1a,1bを備え、この1対の冷却ドラム1a,1bの上部外周面間に上方から溶融スラグSが供給される。
前記冷却ドラム1a,1bは、通常、内部の冷媒流路に冷却水を流す水冷式であり、駆動装置(図示せず)により上記の回転方向に回転駆動する。また、冷却ドラム1a,1bの上部には、図1の実施形態と同様の展伸ロール3a,3bが冷却ドラムと平行に設けられている。
【0026】
本実施形態の冷却処理装置では、対向する外周部分が上向きに回転する冷却ドラム1a,1bの上部外周面間(断面V溝状の凹部)に、スラグ樋4から溶融スラグSが供給され、スラグ液溜まりSaが形成される。溶融スラグSは、スラグ液溜まりSaで適当な時間滞留することで冷却された後、回転する冷却ドラム1a,1bの表面に付着することでスラグ液溜まりSaから持ち出される。この溶融スラグSは展伸ロール3a,3bで圧延されつつ、冷却ドラム面に付着した状態で適度な凝固状態(例えば、半凝固状態または表層のみ凝固した状態)まで冷却された後、所定のドラム回転位置において自重により冷却ドラム面から自然に剥離し、冷却処理済みのスラグSxが得られる。このような実施形態でも、本発明法により図3と同様の冷媒噴射手段6,6a(ミストノズル)からスラグSxなどに対してミストを噴射すればよい。
【0027】
図5は、上記(ロ)のタイプの冷却処理装置の一実施形態を示す説明図である。このような冷却処理装置を用いて溶融スラグを冷却することで、板状、柱状または細片状(塊状)などの高温スラグとし、この高温スラグに対して本発明の冷却処理を施してもよい。
この冷却処理装置は、間隙を有して並列し、対向する外周部分が下向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ドラム1x,1yを備え、この1対の冷却ドラム1x,1yの上部外周面間に上方から溶融スラグSが供給される。前記冷却ドラム1x,1yは、通常、内部の冷媒流路に冷却水を流す水冷式であり、駆動装置(図示せず)により上記の回転方向に回転駆動する。
【0028】
本実施形態の冷却処理装置では、対向する外周部分が下向きに回転する冷却ドラム1x,1yの上部外周面間(断面V溝状の凹部)に、スラグ樋4から溶融スラグSが供給され、スラグ液溜まりSaが形成される。溶融スラグSは、スラグ液溜まりSaで適当な時間滞留することで冷却された後、間隙g内に流入して1対の冷却ドラム1x,1yで冷却されつつ圧延された後、冷却ドラム面から剥離して下方に排出され、冷却処理済みのスラグSxが得られる。このような実施形態でも、本発明法により図3と同様の冷媒噴射手段6(ミストノズル)からスラグSxなどに対してミストを噴射すればよい。なお、本タイプの冷却処理方法において、1対の冷却ドラム1x,1yでスラグを圧延するとは、冷却ドラム1x,1yの間隙gから少なくとも表面が凝固した状態でスラグを下方に抜き出すことを指す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明で用いるミストノズルの原理を示す説明図
【図2】移動中の高温スラグを任意長さの冷却ゾーンでミスト冷却した場合において、冷却ゾーン長さと供給した冷却水量および冷却後のスラグ表面平均温度との関係を示すグラフ
【図3】本発明の一実施形態を示す説明図
【図4】本発明を適用可能な冷却処理装置の他の実施形態を示す説明図
【図5】本発明を適用可能な冷却処理装置の他の実施形態を示す説明図
【符号の説明】
【0030】
1,1a,1b,1x,1y 横型冷却ドラム
2 樋
3,3a,3b 展伸ロール
4 スラグ樋
5 搬送コンベア
6,6a 冷媒噴射手段
7 カバー
8 排気管
9 熱交換器
10 ガス温度計
11 制御装置
12 ガス噴射手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒噴射手段により、加圧気体と液体とからなる2流体混合冷媒を噴射し、噴射された液体粒子を高温スラグに衝突させることにより、スラグを冷却することを特徴とするスラグの冷却処理方法。
【請求項2】
冷媒由来の廃液が生じないように、2流体混合冷媒によりスラグを冷却することを特徴とする請求項1に記載のスラグの冷却処理方法。
【請求項3】
高温スラグとの接触により昇温した冷媒を回収することにより、スラグの顕熱回収を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のスラグの冷却処理方法。
【請求項4】
溶融スラグを回転する冷却ドラムに接触させて冷却し、板状、柱状、細片状または粒状の高温スラグとして排出するスラグ冷却処理装置を用い、溶融スラグを冷却処理し、該冷却処理後の高温スラグに対して、さらに、請求項1〜3のいずれかに記載の冷却処理を行うことを特徴とするスラグの冷却処理方法。
【請求項5】
溶融スラグを回転する1対の冷却ドラムで圧延しつつ冷却し、板状、柱状、細片状または粒状の高温スラグとして排出するスラグ冷却処理装置を用い、溶融スラグを冷却処理し、該冷却処理後の高温スラグに対して、さらに、請求項1〜3のいずれかに記載の冷却処理を行うことを特徴とするスラグの冷却処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−227498(P2009−227498A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72694(P2008−72694)
【出願日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】