説明

ズームレンズ及びそれを用いたプロジェクタ装置

【課題】 DMD等の光の反射方向を変えて画像を形成するライトバルブからの画像をスクリーンその他に拡大投射する高性能でレンズ口径が小さくコンパクトなズームレンズを提供する。
【解決手段】 拡大側から順に、全体で正の屈折力を有する第1レンズ群、全体で負の屈折力を有する第2レンズ群、全体で正の屈折力を有する第3レンズ群から構成され、前記第3レンズ群の縮小側には、大きな空気間隔を設けた後DMD等のライトバルブを配して構成される変倍可能なズームレンズであって、前記第1レンズ群は変倍動作中固定されており、主に変倍を担う前記第2レンズ群は広角端から望遠端への変倍動作により拡大側から縮小側方向へと光軸上を移動し、同時に前記第3レンズ群も連動して光軸上を移動することによってレンズ全系の変倍を成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にDMDなどの光の反射方向を変えて画像を形成するライトバルブからの画像をスクリーンその他に拡大投射するレンズ口径が小さくコンパクトなズームレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プロジェクタ装置のライトバルブとしてDMD(デジタルマイクロミラーデバイス)を用いた製品が急速に普及してきている。プロジェクタ装置においてライトバルブとしてこのDMDを用いる場合、使用する投射用レンズに関して、幾つかのDMD特有の制約が発生する。第1の制約は小型のプロジェクタ装置を開発する上で最大の制約とも考えられる投射用レンズのF値に関するものである。現在、DMDにおいて、画像を生成する際にマイクロミラーのON及びOFFを表現するために旋回する角度は±12°であり、これにより有効な反射光(有効光)と無効な反射光(無効光)とを切り替えている。従って、DMDをライトバルブとしたプロジェクタ装置においては有効光をとらえる必要があると共に無効光を捉えないことが条件となり、この条件から投射用レンズのF値を導くことが出来、すなわちF=2.4となる。実際にはさらに少しでも光量を取り込みたいという要望があるため、実害のない範囲でのコントラストの低下などに配慮した上で更なる小さなF値を要求されることも多い。また、この様な条件は投射用レンズのライトバルブ側の瞳の位置が一定という条件のもとで成立しているため、ズームレンズなどの瞳位置が移動する場合は、移動した分、光量のロスなどが生ずるため、一般的には明るさが問題となりやすい広角端で瞳位置を最適化するなどの配慮も必要となる。第2の制約は光源系との配置に関するものである。小型化の為には投射用レンズのイメージサークルはなるべく小さくしたい為に、DMDに投射用の光束を入力する光源系の配置は限られてしまう。
【0003】
前述のDMDからの有効光を投射用レンズに入力するには、光源系を投射用レンズとほぼ同じ方向(隣り合わせ)に設置することとなる。また投射用レンズの最もライトバルブ側レンズとライトバルブとの間(すなわち一般的にはバックフォーカス)を投射系と光源系との両光学系で使用することになり、投射用レンズには大きなバックフォーカスを設けなければならないと同時に、光源からの導光スペースを確保するために、ライトバルブ側のレンズ系を小さく設計する必要が生ずる。このことは投射用レンズの光学設計の立場から考えると、投射用レンズの後方付近にライトバルブ側の瞳位置が来るように設計するという制約となる。その一方で、投射用レンズの性能を向上するためには、多数のレンズを組み合わせる必要があり、多数枚のレンズを配置すると投射用レンズの全長は有る程度の長さが必要となり、投射用レンズの全長が長くなれば、入射瞳位置が後方にあるレンズでは当然のことながら前方のレンズ径が大きくなってしまうという小型化とは相反する問題となる。
【0004】
この様に、開発を行う上の大きな制約はあるものの、ライトバルブとしてDMDを採用するプロジェクタ装置は、小型化の上で他の方式よりも有利とされており、現在ではプレゼンテーションを行う際に便利なデータプロジェクタを中心として、携帯可能なコンパクトなものが広く普及してきている。また装置自体をコンパクトに構成するためには、当然のことながら使用される投射用レンズに関しても、コンパクト化の要望は非常に強く、もう一方では、多機能化という要望もあり、諸収差の補正の結果としての画質に関する性能が使用するDMDの仕様を充分満足することはもちろんのこと、利便性の点ではズーム構成による変倍が可能というだけではなく、DMDの中心と投射レンズの光軸をずらした、いわゆるシフト構成を採用するためにイメージサークルが大きいものを要求するようになりレンズのその広角端の画角の大きい物が要求されるようになってきた。このような仕様で開発された投射用レンズは、コスト面や生産面では不利となる非球面レンズの採用も考慮しなければならず、そうしたとしても前群レンズの口径が要望よりどうしても大きくなりがちで、プロジェクタ装置の厚さ寸法に大きな影響を及ぼすことになる。しかしながら、携帯可能であることを前提としたプロジェクタ装置において厚さ寸法を小さくすることはノート型パーソナルコンピュータなどと共に持ち歩くことの多い使われ方をするプロジェクタ装置では、最も重要な要素であるとも言える。この問題を解決する手段として、例えば特開2007−140474号公報(特許文献1)に開示されているような投射用レンズのコンパクト化設計方法の一例があり、プロジェクタ装置の小型化に効果的であることが既に知られているが、この発明の実施例によれば非球面レンズを2枚使用しており、コスト面や生産性を考慮に入れると、製品を提供する上で全てに有効な設計手段であるとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−140474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑み、DMDなどの光の反射方向を変えて画像を形成するライトバルブの特性に適しており、ライトバルブからの画像をスクリーン上或いはその他の壁面等に拡大投射する用途において結像性能が高く、さらにレンズ口径が小さくコンパクトなズームレンズを実現し、コンパクトで明るく、小さな会議室等の限られたスペースでも大きな画面を投射可能な高画質で非球面レンズを使用せず、コストや生産性をも考慮した薄型のプロジェクタ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のズームレンズは、拡大側から順に、全体で正の屈折力を有する第1レンズ群、全体で負の屈折力を有する第2レンズ群、全体で正の屈折力を有する第3レンズ群から構成され、前記第1レンズ群は変倍動作中固定されており、前記第2レンズ群は広角端から望遠端への変倍動作により拡大側から縮小側方向へと光軸上を移動し、同時に前記第3レンズ群も連動して光軸上を移動することによってレンズ全系の変倍を成しており、前記第1レンズ群に設定されるパワーに関して下記条件式(1)を満足しており、前記第2レンズ群の変倍に関する倍率の変化に関して下記条件式(2)を満足しており、前記第3レンズ群に設定されるパワーに関して下記条件式(3)を満足しており、前記第1レンズ群の光軸上の長さに関して下記条件式(4)を満足していることを特徴とする。(請求項1)
(1) 0.25 <fw/fI < 0.4
(2) 0.8 < √(mIIw*mIIt )< 1.2
(3) 0.35 < fw/fIII < 0.6
(4) 1.8 < DI/fw < 2.8
ただし、
w :広角端におけるレンズ全系の合成焦点距離
(第1レンズ群の最も拡大側面からの拡大側物体距離1700mmに合焦状態)
I :第1レンズ群の合成焦点距離
III :第3レンズ群の合成焦点距離
IIw :広角端配置における第2レンズ群の合成倍率
IIt :望遠端配置における第2レンズ群の合成倍率
I :第1レンズ群の最も拡大側の面と最も縮小側の面の光軸上における距離
【0008】
本提案のズームレンズは、基本的には前述のように第1レンズ群、第2レンズ群及び第3レンズ群の3つのレンズ群から構成され、それらレンズ群の有するパワーは、拡大側から順に正、負、正の順で配分し構成されている。この適切なパワー配置によりプロジェクタ用ズームレンズとしては比較的高いズーム比と光学性能を獲得した上で全長及び外形の小型化を達成している。条件式(1)は、このうち第1レンズ群の正のパワーを規定して小型化と高性能のバランスをとるものであり上限を超えると第1レンズ群のパワーは過大となり、小型化には有利である一方諸収差が劣化し、下限を超えるとレンズ系が大型化して目的の仕様に達することが出来ない。条件式(2)は、主に変倍を司っている第2レンズ群の作動倍率に関してのものであり、少ない移動量で大きなズーム比を得るための条件である。すなわち、第2レンズ群を、その倍率が−1倍前後で働かせることで、収差変動と移動量を共に小さくすること達成している。したがって上限を超えると第2レンズ群縮小側(第2レンズ群と第3レンズ群の間隔)の移動スペースが大きくなると共に収差が増幅され、下限を超えると第2レンズ群拡大側(第1レンズ群と第2レンズ群の間隔)のスペースが大きくなり小型化が困難となる。条件式(3)は、正の第3レンズ群のパワーを規定するもので、全体で収束光学系であるレンズ系の基本的な収束を担うレンズ群であるために、最終的に良好な性能を得るために重要となる条件を示すこととなる。上限を超えるとパワーが過大となり第3レンズ群内の各レンズエレメントに過度の負担がかかり性能が低下する。下限を超えると、第3レンズ群のパワーは小さく性能的には有利ではあっても、全長が大きくなってしまう。条件式(4)は第1レンズ群の全長に関するもので、相反する課題を解決するための、すなわち広角端で大きな画角を維持しつつ外径を小さくするための条件式である。レンズ系をコンパクト化するために、条件式(1)では第1レンズ群に適切な正のパワーを与えることを要求しているが、かつそれを適切なレンズエレメントの枚数、厚さで分担することで第1レンズ群の有口径の増大を防がなければならず、そのために第1レンズ群はある程度の軸上寸法を与える必要があることを考慮しなければならない。条件式(4)で表現される範囲の上限を超えると第1レンズ群自体の長さが増大してレンズ系全長が大きくなり、下限を超えると第1レンズ群の各レンズエレメントに対するパワーが過大となり性能が低下する。
【0009】
また、前記第1レンズ群は、拡大側から順に、拡大側に凸のメニスカス形状で負の屈折力を有するレンズ(以下負レンズ)、負レンズ、正の屈折力を有するレンズ(以下正レンズ)または負レンズと正レンズの接合系、負レンズ、正レンズ及び正レンズを配して構成され、前記第1レンズ群に配置される拡大側の二枚の負レンズに設定されるパワーに関して下記条件式(5)を満足し、最も拡大側に配置される負レンズの縮小側面、拡大側から三番目に配置される正レンズまたは負レンズと正レンズの接合系の最も縮小側の面及び最も縮小側に配置される正レンズの縮小側面の形状に関して、それぞれ下記条件式(6)、下記条件式(7)及び下記条件式(8)を満足し、また前記第1レンズ群を構成する各レンズに使用される硝材の屈折率の特性に関して下記条件式(9)を満足していることが好ましい。(請求項2)
(5) −3.5 < fI/fI1-2 < −2.0
(6) 3.0 < fI/rI2 < 4.5
(7) −2.5 < fI/rI6 < −1.3
(8) −2.9 < fI/rI12 < −1.8
(9) 1.65 < NI
ただし、
I1-2:第1レンズ群を構成する最も拡大側とその次に配置される二枚の負レンズの合成焦点距離
I2 :第1レンズ群で最も拡大側に配置されるレンズの縮小側面の曲率半径
I6 :第1レンズ群で拡大側より三番目に配置される正レンズまたは負レンズと正レンズの接合系の最も縮小側の面の曲率半径
I12 :第1レンズ群で最も縮小側に配置されるレンズの縮小側面の曲率半径
I :第1レンズ群を構成する各レンズのd線に対する屈折率の平均値
【0010】
条件式(5)は、第1レンズ群の拡大側に配置される第1負レンズ及び第2負レンズに関するものである。この位置では広角化を達成するために入射光束に同心的な負レンズを適切なパワーで配置することが重要でありその条件を示している。上限を超えるとこの部分に配分できる負パワーが小さく性能的には有利であるが広角化には不利となり、下限を超えると逆に負パワーが過大となり収差補正が困難になってしまう。条件式(6)は第1レンズ群を構成する最も拡大側に配置される第1レンズの形状に関するものである。前述のように第1レンズは単体でも強い負のパワーをもつのみならず、条件式(6)で示される条件の範囲で入射光束に対し同心的なメニスカス形状をとり出来るだけ収差発生を抑えた円滑な伝達をすることが重要である。上限を超えるとメニスカス形状が強くなりすぎ、下限を超えると同心性が不十分でどちらも共に諸収差補正で不利となる。条件式(7)は、第1レンズ群を構成する拡大側から三番目に配置される正レンズエレメントまたは負レンズと正レンズの接合より構成される部分系におけるその最も縮小側の面の形状の特徴に関する条件である。前述の拡大側にある第1レンズ及び第2レンズからなる負レンズ群からの発散光束を適切に受けて諸収差を良好に補正する一方で光束の発散度合を押さえて外径の小型化を果たしている。上限を超えると当該面での集光効果が少なくなり以降の縮小側に配置される面の有効径が大きくなり、下限を超えると有効径を小さく維持するには有利であるが過度の収差が発生して性能が低下してしまう。条件式(8)は、第1レンズ群の最終面すなわち最も縮小側の面の形状に関しての条件で、条件式(7)と同様に当該面は縮小側レンズエレメントの有効径の小型化を達成しつつ系全体における諸収差の補正作用に大きな影響を持つ。上限を超えると特に球面収差、コマ収差の補正が不十分になり、下限を超えると周辺光束のコマフレアーが過大となる。条件式(9)は、第1レンズ群を構成している各レンズエレメントに採用している硝材の屈折率に関するもので、収差補正に効果的な硝材選定の範囲を表現している。前述の如く第1レンズ群は正のパワーを有していながら広角化と有効径の小型化と高性能維持をすべて実現させるため基本的に各レンズは強いパワーを有することになるが、これに対し条件式(9)のように高屈折率材料を多く用いることで収差の劣化を軽減している。したがって条件式(9)で下限を超えると各レンズ面の曲率が増大し、諸収差の特に高次のコマフレアーなどが増大して良好な性能を得ることが出来なくなる。
【0011】
また、前記第2レンズ群は、拡大側から順に負レンズと正レンズの接合系にて構成され、前記第2レンズ群に設定されるパワーに関して下記条件式(10)を満足し、拡大側負レンズの拡大側面の形状に関して下記条件式(11)を満足し、前記第2レンズ群を構成する各レンズのアッベ数に関して下記条件式(12)を満足しており、前記第1レンズ群と前記第2レンズ群の間に設定される空気間隔に関して下記条件式(13)を満足していることが好ましい。(請求項3)
(10) −0.5 < fw/fII < −0.3
(11) 0.5 < fII/rII1 < 1.0
(12) 8.0 < VII1−VII2
(13) 0.6 < dI-II/fw < 1.4
ただし、
II :第2レンズ群の合成焦点距離
II1 :第2レンズ群で最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面の曲率半径
II1 :第2レンズ群の拡大側に配置される負レンズのアッべ数
II2 :第2レンズ群の縮小側に配置される正レンズのアッべ数
I-II:第1レンズ群と第2レンズ群の空気間隔の変倍における最大変化量
【0012】
本発明のズームレンズにおける第2レンズ群は変倍を掌るバリエータにあたり、この群のパワーはその移動量と密接に関連し小型化と諸収差補正の為に重要である。条件式(10)において、上限を超えると第2レンズ群の負のパワーが小さくなり変倍のための移動量が増大してしまい、下限を超えて負のパワーが大きくなると小型化には有利だが各レンズエレメントの過度のパワーの負担のため諸収差を劣化、または変倍による諸収差の変動が大きくなる。条件式(11)は収差補正の条件で、第1レンズ群からの集束光束を発散光束に変えて尚且つ過度の収差を発生させないための条件である。上限を超えると第2レンズ群で最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面の当該曲率半径の値が過小となり球面収差が補正過剰となり、下限を超えると逆に球面収差補正不足に陥ってしまう。条件式(12)は、第2レンズ群の色収差補正条件である。下限を超えると補正が不十分となり、変倍時の色収差変動が過大となる。また条件式(13)は、条件式(10)と共に、小型化の条件となる。上限を超えると、第1レンズ群と第2レンズ群との間隔が大きくなり、よってズームレンズ系全体の小型化にとっても大きな弊害となり、また下限を超えることは第2レンズ群の持つパワーが過大となるか、または変倍比を小さくせざるを得なくなりどちらも本発明の目的を達成することが出来なくなる。
【0013】
また、前記第3レンズ群は、拡大側から順に、全体で負の屈折力を有する第3aレンズ群及び全体で正の屈折力を有する第3bレンズ群を配して構成され、前記第3aレンズ群は、拡大側から順に一枚乃至二枚の正レンズ及び負レンズを配して構成され、続く前記第3bレンズ群は、拡大側から順に正レンズ、正レンズ及び負レンズと正レンズの接合系を配して構成され、前記第3aレンズ群において、配分されるパワーに関して下記条件式(14)を満足しており、最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面の形状に関して下記条件式(15)を満足しており、構成する各レンズの分散に関して下記条件式(16)を満足しており、前記第3bレンズ群において、配分されるパワーに関して下記条件式(17)を満足しており、最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面の形状に関して下記条件式(18)を満足しており、構成する各レンズの分散に関して下記条件式(19)を満足していることが好ましい。(請求項4)
(14) −0.4 < fw/fIIIa < −0.1
(15) 0.33 < fw/rIIIa1 < 0.9
(16) 12 < VIIIaN−VIIIaP
(17) 0.5 < fw/fIIIb < 0.9
(18) −0.7 < fw/rIIIb1 < 0.1
(19) 20 < VIIIbP−VIIIbN
ただし、
IIIa :第3レンズ群を構成する第3aレンズ群の合成焦点距離
IIIa1:第3aレンズ群で最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面の曲率半径
IIIaN:第3aレンズ群を構成する各負レンズのアッベ数の平均値
IIIaP:第3aレンズ群を構成する各正レンズのアッベ数の平均値
IIIb :第3レンズ群を構成する第3bレンズ群の合成焦点距離
IIIb1:第3bレンズ群で最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面の曲率半径
IIIbP:第3bレンズ群を構成する各正レンズのアッベ数の平均値
IIIbN:第3bレンズ群を構成する各負レンズのアッベ数の平均値
【0014】
本発明のズームレンズにおける第3レンズ群は前述のように、拡大側から順に負のパワーを持つ第3aレンズ群及び正のパワーを持つ第3bレンズ群から成る構成であり、このことは第3レンズ群と第4レンズ群の間に大きなスペース(いわゆるバックフォーカスにあたる)を確保する上で非常に有効である。すなわち条件式(14)で、上限を超えると第3aレンズ群の負のパワーが小さくなり、したがってバックフォーカスは短くなってしまう。下限を超えると第3aレンズ群の負のパワーは過大となり像面湾曲などが劣化し、設計性能が低下する。条件式(15)は、収差補正の条件で、第2レンズ群からの強い発散光束を補正しつつ、以降のレンズ群に伝えるものである。上限を超えると、第3aレンズ群で最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面である当該面での球面収差補正作用が不十分となり、下限を超えると逆に過度のアンダーな球面収差が発生すると共に、軸外光束に対しては大きなコマ収差を生じてどちらも性能的に問題を生ずる。条件式(16)は、第3aレンズ群内の色補正条件である。第3aレンズ群は全体として負のパワーをもつので、負レンズにアッベ数の大きな硝材を使用して効果的な色収差の補正が可能となる。したがって条件式(16)の下限を超えて負レンズ及び正レンズのアッベ数差が小さくなると色収差は劣化する。また、条件式(17)からは正パワーの第3bレンズ群に関するもので、条件式(17)は大きさと収差補正のための条件を表しており、上限を超えると第3bレンズ群のパワーが過大となり性能が低下しバックフォーカスが不足する。下限を超えると当該第3bレンズ群のパワーは小さくなるため性能的には有利であるがバックフォーカスが過大となり大型化してしまう。条件式(18)は、収差補正条件で第3aレンズ群からの強い発散光束を受けて第3bレンズ群全体として良好に補正、収束させる条件である。上限を超えると第3bレンズ群で最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面である当該面で大きな負の球面収差及びコマ収差が発生し、下限を超えると正の球面収差の補正が不十分となる。条件式(19)は、第3bレンズ群での倍率色収差補正の条件を表しており、軸外周辺光束が第3bレンズ群では各レンズエレメントの周辺部を通過するので重要な用件となる。下限を超えて負、正レンズのアッベ数が接近すると倍率色収差の補正が困難となる。
【0015】
このように本発明によるズームレンズをプロジェクタ装置に搭載することにより装置全体を小型化することが可能となり(請求項5)、携帯にも便利な薄型で、さらに生産者に対してもコスト面や生産面でも効果的なプロジェクタ装置を提供することが出来る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、DMDなどのライトバルブの特性に適した結像性能が高くコンパクトでコスト面や生産面でも効果的なズームレンズを実現し、コンパクトで明るく、高画質のプロジェクタを安価に提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明によるズームレンズの第1実施例のレンズ構成図
【図2】第1実施例のレンズの諸収差図
【図3】本発明によるズームレンズの第2実施例のレンズ構成図
【図4】第2実施例のレンズの諸収差図
【図5】本発明によるズームレンズの第3実施例のレンズ構成図
【図6】第3実施例のレンズの諸収差図
【図7】本発明によるズームレンズの第4実施例のレンズ構成図
【図8】第4実施例のレンズの諸収差図
【図9】本発明によるズームレンズの第5実施例のレンズ構成図
【図10】第5実施例のレンズの諸収差図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、具体的な数値実施例について、本発明を説明する。以下の第1実施例から第5実施例のズームレンズでは拡大側から順に、全体で正の屈折力を有する第1レンズ群(レンズ群名称LG1)、全体で負の屈折力を有する第2レンズ群(レンズ群名称LG2)、全体で正の屈折力を有する第3レンズ群(レンズ群名称LG3)から構成され、前記第1レンズ群LG1は、拡大側から順に、拡大側に凸のメニスカス形状の負レンズ(レンズ名称をL11、拡大側面の名称を101、縮小側面の名称を102とする)、負レンズ(レンズ名称L12、拡大側面103、縮小側面104)、正レンズ(レンズ名称L13a、拡大側面105、縮小側面106)または負レンズ(レンズ名称L13a、拡大側面105、縮小側の接合面105s)と正レンズ(レンズ名称L13b、拡大側の接合面105s、縮小側面106)の接合系、負レンズ(レンズ名称L14、拡大側面107、縮小側面108)、正レンズ(レンズ名称L15、拡大側面109、縮小側面110)及び正レンズ(レンズ名称L16、拡大側面111、縮小側面112)を配して構成され、前記第2レンズ群LG2は、拡大側から順に負レンズ(レンズ名称L21、拡大側面201、縮小側の接合面202)と正レンズ(レンズ名称L22、拡大側の接合面202、縮小側面203)の接合系にて構成され、前記第3レンズ群LG3は、拡大側から順に、全体で負の屈折力を有する第3aレンズ群(レンズ群名称LG3a)及び全体で正の屈折力を有する第3bレンズ群(レンズ群名称LG3b)を配して構成され、前記第3aレンズ群LG3aは、拡大側から順に一枚乃至二枚の正レンズ(一枚の場合レンズ名称L31a、拡大側面301、縮小側面302とし、二枚の場合拡大側レンズ名称をL31a、拡大側面301、縮小側面302、続く二枚目のレンズ名称をL31b、拡大側面303、縮小側面304)及び負レンズ(レンズ名称L32、拡大側面305、縮小側面306)を配して構成され、続く前記第3bレンズ群LG3bは、拡大側から順に正レンズ(レンズ名称L33、拡大側面321、縮小側面322)、正レンズ(レンズ名称L34、拡大側面323、縮小側面324)及び負レンズ(レンズ名称L35、拡大側面325、縮小側の接合面326)と正レンズ(レンズ名称L36、拡大側の接合面326、縮小側面327)の接合系を配して構成され、前記第3レンズ群LG3の縮小側には、大きな空気間隔を設けた後に照明光学系との関連において第4レンズ群(レンズ群名称LG4)を、正レンズ一枚(レンズ名称をL41、拡大側面の名称を401、縮小側面の名称を402とする)にて構成しても良く、続いて図では前記第4レンズ群LG4の縮小側とライトバルブ面との間には僅かな空気間隔をおいて配置されるDMD等のライトバルブの構成部品であるカバーガラスCG(拡大側面をC01、縮小側面をC02)が描かれている。前記第3レンズ群LG3を構成する前記第3aレンズ群LG3a及び前記第3bレンズ群LG3bは前記第3レンズ群LG3に固定されており、前記第1レンズ群LG1及び前記第4レンズ群LG4は変倍動作中固定されており、主に変倍を担う前記第2レンズ群LG2は広角端から望遠端への変倍動作により拡大側から縮小側方向へと光軸上を移動し、同時に前記第3レンズ群LG3も連動して光軸上を移動することによってレンズ全系の変倍を成している。
【0019】
各実施例において使用している非球面については、周知のごとく、光軸方向にZ軸、光軸と直交する方向にY軸をとるとき、非球面式:
Z=(Y2 /r)/〔1+√{1−(1+K)(Y/r)2 }〕
+A・Y4 +B・Y6 +C・Y8 +D・Y10+‥‥
で与えられる曲線を光軸の回りに回転して得られる曲面で、近軸曲率半径:r、円錐定数:K、高次の非球面係数:A、B、C、D‥‥を与えて形状を定義する。尚表中の円錐定数及び高次の非球面係数の表記において「Eとそれに続く数字」は「10の累乗」を表している。例えば、「E−4」は10-4を意味し、この数値を直前の数値に掛ければ良い。
【0020】
[実施例1]
本発明のズームレンズの第1実施例について数値例を表1に示す。また図1は、そのレンズ構成図、図2はその諸収差図である。表及び図面中、fはズームレンズ全系の焦点距離、FnoはFナンバー、2ωはズームレンズの全画角を表す。また、rは曲率半径、dはレンズ厚またはレンズ間隔、nd はd線に対する屈折率、νd はd線のアッベ数を示す(ただし、表中の合焦動作により変化する数値は101面からの物体距離を1700mmとした合焦状態での数値)。諸収差図中の球面収差図におけるCA1、CA2、CA3はそれぞれCA1=550.0nm、CA2=435.8nm、CA3=640.0nmの波長における収差曲線である。非点収差図におけるSはサジタル、Mはメリディオナルを示している。また、全般に亘り特別に記載のない限り、諸値の計算に使用している波長はCA1=550.0nmである。
【0021】
【表1】

【0022】
[実施例2]
本発明のズームレンズの第2実施例について数値例を表2に示す。また図3は、そのレンズ構成図、図4はその諸収差図である。
【0023】
【表2】

【0024】
[実施例3]
本発明のズームレンズの第3実施例について数値例を表3に示す。また図5は、そのレンズ構成図、図6はその諸収差図である。
【0025】
【表3】

【0026】
[実施例4]
本発明のズームレンズの第4実施例について数値例を表4に示す。また図7は、そのレンズ構成図、図8はその諸収差図である。
【0027】
【表4】

【0028】
[実施例5]
本発明のズームレンズの第5実施例について数値例を表5に示す。また図9は、そのレンズ構成図、図10はその諸収差図である。
【0029】
【表5】

【0030】
次に第1実施例から第5実施例に関して条件式(1)から条件式(19)に対応する値を、まとめて表6に示す。
【0031】
【表6】

【0032】
表6から明らかなように、第1実施例から第5実施例の各実施例に関する数値は条件式(1)から(19)を満足しているとともに、各実施例における収差図からも明らかなように、各収差とも良好に補正されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡大側から順に、全体で正の屈折力を有する第1レンズ群、全体で負の屈折力を有する第2レンズ群、全体で正の屈折力を有する第3レンズ群から構成され、前記第1レンズ群は変倍動作中固定されており、前記第2レンズ群は広角端から望遠端への変倍動作により拡大側から縮小側方向へと光軸上を移動し、同時に前記第3レンズ群も連動して光軸上を移動することによってレンズ全系の変倍を成しており、前記第1レンズ群に設定されるパワーに関して下記条件式(1)を満足しており、前記第2レンズ群の変倍に関する倍率の変化に関して下記条件式(2)を満足しており、前記第3レンズ群に設定されるパワーに関して下記条件式(3)を満足しており、前記第1レンズ群の光軸上の長さに関して下記条件式(4)を満足していることを特徴とするズームレンズ。
(1) 0.25 <fw/fI < 0.4
(2) 0.8 < √(mIIw*mIIt )< 1.2
(3) 0.35 < fw/fIII < 0.6
(4) 1.8 < DI/fw < 2.8
ただし、
w :広角端におけるレンズ全系の合成焦点距離
(第1レンズ群の最も拡大側面からの拡大側物体距離1700mmに合焦状態)
I :第1レンズ群の合成焦点距離
III :第3レンズ群の合成焦点距離
IIw :広角端配置における第2レンズ群の合成倍率
IIt :望遠端配置における第2レンズ群の合成倍率
I :第1レンズ群の最も拡大側の面と最も縮小側の面の光軸上における距離
【請求項2】
前記第1レンズ群は、拡大側から順に、拡大側に凸のメニスカス形状で負の屈折力を有するレンズ(以下負レンズ)、負レンズ、正の屈折力を有するレンズ(以下正レンズ)または負レンズと正レンズの接合系、負レンズ、正レンズ及び正レンズを配して構成され、前記第1レンズ群に配置される拡大側の二枚の負レンズに設定されるパワーに関して下記条件式(5)を満足し、最も拡大側に配置される負レンズの縮小側面、拡大側から三番目に配置される正レンズまたは負レンズと正レンズの接合系の最も縮小側の面及び最も縮小側に配置される正レンズの縮小側面の形状に関して、それぞれ下記条件式(6)、下記条件式(7)及び下記条件式(8)を満足し、また前記第1レンズ群を構成する各レンズに使用される硝材の屈折率の特性に関して下記条件式(9)を満足していることを特徴とする請求項1記載のズームレンズ。
(5) −3.5 < fI/fI1-2 < −2.0
(6) 3.0 < fI/rI2 < 4.5
(7) −2.5 < fI/rI6 < −1.3
(8) −2.9 < fI/rI12 < −1.8
(9) 1.65 < NI
ただし、
I1-2:第1レンズ群を構成する最も拡大側とその次に配置される二枚の負レンズの合成焦点距離
I2 :第1レンズ群で最も拡大側に配置されるレンズの縮小側面の曲率半径
I6 :第1レンズ群で拡大側より三番目に配置される正レンズまたは負レンズと正レンズの接合系の最も縮小側の面の曲率半径
I12 :第1レンズ群で最も縮小側に配置されるレンズの縮小側面の曲率半径
I :第1レンズ群を構成する各レンズのd線に対する屈折率の平均値
【請求項3】
前記第2レンズ群は、拡大側から順に負レンズと正レンズの接合系にて構成され、前記第2レンズ群に設定されるパワーに関して下記条件式(10)を満足し、拡大側負レンズの拡大側面の形状に関して下記条件式(11)を満足し、前記第2レンズ群を構成する各レンズのアッベ数に関して下記条件式(12)を満足しており、前記第1レンズ群と前記第2レンズ群の間に設定される空気間隔に関して下記条件式(13)を満足していることを特徴とする請求項1記載のズームレンズ。
(10) −0.5 < fw/fII < −0.3
(11) 0.5 < fII/rII1 < 1.0
(12) 8.0 < VII1−VII2
(13) 0.6 < dI-II/fw < 1.4
ただし、
II :第2レンズ群の合成焦点距離
II1 :第2レンズ群で最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面の曲率半径
II1 :第2レンズ群の拡大側に配置される負レンズのアッべ数
II2 :第2レンズ群の縮小側に配置される正レンズのアッべ数
I-II:第1レンズ群と第2レンズ群の空気間隔の変倍における最大変化量
【請求項4】
前記第3レンズ群は、拡大側から順に、全体で負の屈折力を有する第3aレンズ群及び全体で正の屈折力を有する第3bレンズ群を配して構成され、前記第3aレンズ群は、拡大側から順に一枚乃至二枚の正レンズ及び負レンズを配して構成され、続く前記第3bレンズ群は、拡大側から順に正レンズ、正レンズ及び負レンズと正レンズの接合系を配して構成され、前記第3aレンズ群において、配分されるパワーに関して下記条件式(14)を満足しており、最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面の形状に関して下記条件式(15)を満足しており、構成する各レンズの分散に関して下記条件式(16)を満足しており、前記第3bレンズ群において、配分されるパワーに関して下記条件式(17)を満足しており、最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面の形状に関して下記条件式(18)を満足しており、構成する各レンズの分散に関して下記条件式(19)を満足していることを特徴とする請求項1記載のズームレンズ。
(14) −0.4 < fw/fIIIa < −0.1
(15) 0.33 < fw/rIIIa1 < 0.9
(16) 12 < VIIIaN−VIIIaP
(17) 0.5 < fw/fIIIb < 0.9
(18) −0.7 < fw/rIIIb1 < 0.1
(19) 20 < VIIIbP−VIIIbN
ただし、
IIIa :第3レンズ群を構成する第3aレンズ群の合成焦点距離
IIIa1:第3aレンズ群で最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面の曲率半径
IIIaN:第3aレンズ群を構成する各負レンズのアッベ数の平均値
IIIaP:第3aレンズ群を構成する各正レンズのアッベ数の平均値
IIIb :第3レンズ群を構成する第3bレンズ群の合成焦点距離
IIIb1:第3bレンズ群で最も拡大側に配置されるレンズの拡大側面の曲率半径
IIIbP:第3bレンズ群を構成する各正レンズのアッベ数の平均値
IIIbN:第3bレンズ群を構成する各負レンズのアッベ数の平均値
【請求項5】
前記請求項1から前記請求項4の少なくともいずれかの1項に記載されるズームレンズを搭載していることを特徴としたプロジェクタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−15867(P2013−15867A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−225698(P2012−225698)
【出願日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【分割の表示】特願2007−275842(P2007−275842)の分割
【原出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】