説明

セメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムおよびハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法

【課題】 ハロゲン含有物を、これに含まれる塩素や臭素等のハロゲンに起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができるセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムおよびこれを用いたセメントの製造方法を提供する。
【解決手段】 熱を利用してハロゲン含有物からハロゲンを分離することにより当該ハロゲンを含む可燃性ガスと残留物とを生成させるハロゲン分離手段7と、このハロゲン分離手段7へセメント製造設備から取り出した熱媒体を供給する熱媒体供給ライン13と、ハロゲン分離手段7から排出された可燃性ガスからハロゲンを回収するハロゲン回収手段10と、このハロゲン回収手段10によってハロゲンが回収された後の可燃性ガスをセメント製造設備の燃料として供給するガス供給手段12とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素等のハロゲンを含むハロゲン含有物を燃料化して、セメント製造設備における燃料の一部として利用するセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムおよび当該システムを用いたセメントの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、各種飲料容器や記録用テープあるいは自動車のタイヤ等として、様々なプラスチック類が使用されている。これらプラスチック類は、使用後に多量の産業廃棄物として廃棄処分となるが、近年、埋立処理の限界から、当該廃棄物を焼却処理する方法が採用されている。
【0003】
ところで、上記プラスチック類のような可燃性廃棄物は、焼却によって所定の熱量を発生する。そこで、当該可燃性廃棄物をセメント製造設備におけるロータリーキルン内に投入して焼成するとともに、同時にその際の発熱量をセメント製造に係る燃料の一部として利用する処理方法が実施されている。
【0004】
この際に、上記可燃性廃棄物を、ロータリーキルンの窯尻部分や、その前段の設けられた立ち上がりダクトに直接投入すると、焼却時の熱量をセメント原料の予熱に利用することはできるものの、ロータリーキルン内におけるセメント原料の焼成には寄与しないことになる。また、上記可燃性廃棄物が水分を多く含む場合には、その気化熱によって投入箇所における排気ガス温度が低下し、却って安定操業に支障を来すおそれもある。
【0005】
このような問題点を解決するための先行技術として、例えば下記特許文献1に記載のセメント焼成用廃棄物処理装置が提案されている。
この廃棄物処理装置は、プラスチック等の可燃性廃棄物をロータリーキルン内に投入する前に高温ガスで乾留して乾留ガスを発生させる外熱式キルンと、上記ロータリーキルンで発生する高温の塩素バイパスガスと低温のクーラー排ガスとを混合した高温ガスを上記外熱式キルンに供給する高温ガス供給装置と、上記外熱式キルンで発生した乾留ガスをロータリーキルンのバーナーに供給する乾留ガス供給ラインとを備えたものである。
【0006】
上記構成からなる廃棄物処理装置によれば、外熱式キルンで生成した乾留ガスを、ロータリーキルンのバーナーに供給しているので、その発熱量分のキルンの主燃料を低減化することができるとともに、上記外熱式キルンで処理した乾留灰は、セメント焼成設備に供給しないために、塩素および水分による悪影響を回避することができるという利点がある。
【特許文献1】特開2002−195524公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の廃棄物処理装置にあっては、可燃性廃棄物がポリ塩化ビニル(PVC)等の塩素含有量の多いプラスチックである場合に、外熱式キルンにおける乾留により、その塩素分の大部分が乾留ガスに移行するために、これをロータリーキルンの燃料として使用すると、当該ロータリーキルンを含めたセメント焼成設備内において塩素が濃縮され、プレヒータにおいて閉塞するため、操業に悪影響を及ぼすという問題点がある。
【0008】
また、一般に、セメント製造設備には、上記塩素が設備内を循環することによって濃縮されることを回避すべく、排ガスの一部を抜き出して塩素分を除去する塩素バイパスシステムが設置されているが、上記乾留ガスから別途導入される塩素までを除去する能力は無く、このため上記廃棄物の処理量または廃棄物における塩素含有量が著しく制限されるという問題点も生じる。
【0009】
さらに、この種のセメント製造設備は、ロータリーキルンが100m程度の長さを有する巨大なプラントであるのに対して、上記廃棄物処理装置においては、外熱式キルンの熱源として、ロータリーキルンの窯前上部に設けられた塩素バイパスからの高温ガスと、ロータリーキルンの窯尻側に設けられたクーラーからの低温排ガスとを混合したものを用いているために、全体としての配管が極端に長いものになって装置が大形化、かつ複雑化するという問題点がある。
【0010】
加えて、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等の塩素含有量が少ないプラスチック廃棄物は、それ自体で高い発熱量を有するものの、上記廃棄物処理装置においては、乾留灰をセメント焼成設備内に導入しないために、廃棄物からの十分なエネルギーの再利用を図ることができず、かつ依然として処理が必要な乾留灰という2次廃棄物が生成されてしまうという問題点を有する。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、塩素を含む可燃性廃棄物等のハロゲン含有物を、当該ハロゲン含有物に含まれる塩素や臭素等のハロゲンに起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができるセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムおよび当該システムを用いたセメントの製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、熱を利用してハロゲン含有物からハロゲンを分離することにより当該ハロゲンを含む可燃性ガスと残留物とを生成させるハロゲン分離手段と、このハロゲン分離手段へセメント製造設備から取り出した熱媒体を供給する熱媒体供給ラインと、上記ハロゲン分離手段から排出された上記可燃性ガスから上記ハロゲンを回収するハロゲン回収手段と、このハロゲン回収手段によって上記ハロゲンが回収された後の上記可燃性ガスを上記セメント製造設備の燃料として供給するガス供給手段とを備えてなることを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記残留物を上記セメント製造設備の燃料として供給する残留物供給手段を有することを特徴とするものである。
【0014】
ここで、請求項3に記載の発明は、上記ハロゲン含有物が、塩素を含む可燃性廃棄物であり、かつハロゲン分離手段は、間接加熱により上記塩素を含む可燃性廃棄物を熱分解して、塩素分を含む上記可燃性ガスと、油分および/または固形物を含む残留物とを生成させる熱分解手段であることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記セメント製造設備が、セメント原料を焼成するセメントキルンと、このセメントキルンによって得られたクリンカを冷却するクリンカクーラとを有してなり、上記熱媒体供給ラインが、上記熱媒体として上記クリンカクーラにおいて昇温した空気を供給するとともに、上記ハロゲン分離手段から排気される上記空気を上記クリンカクーラに戻す戻りラインを備えてなることを特徴とするものである。
【0016】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、上記ハロゲン分離手段には、上記可燃性ガスの一部を燃焼させて当該ハロゲン分離手段の熱源の一部として供給する補助加熱手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
次いで、請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載のハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法であって、上記セメント製造設備のセメントキルンの窯前に設けられたバーナによって、上記セメント原料を焼成してクリンカを製造するに際して、上記ハロゲン回収手段によって上記ハロゲンが回収された後の上記可燃性ガスを、上記セメント製造設備に燃料として供給することを特徴とするものである。
【0018】
この際に、請求項7に記載の発明は、上記残留物を、上記セメント製造設備の燃料として使用することを特徴とするものである。
また、請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の発明において、可燃性ガスを燃料として使用する上記セメント製造設備が、上記セメントキルン内、上記セメントキルンの前段に設けられた仮焼炉または上記セメント製造設備の発電機であるとともに、上記残留物を燃料として使用する上記セメント製造設備が、上記セメントキルンまたは上記仮焼炉であることを特徴とするものである。
【0019】
さらに、請求項9に記載の発明は、請求項6〜8に記載の発明において、上記ハロゲン分離手段において熱媒体を利用して上記ハロゲン含有物からハロゲンを分離させるに際し、上記ハロゲン含有物に伝熱部材を混入することを特徴とするものであり、請求項10に記載の発明は、請求項6〜9に記載の発明において、上記ハロゲン分離手段に、上記ハロゲン含有物が当該ハロゲン分離手段に付着することを防止する付着防止材を供給することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
請求項1〜5のいずれかに記載のセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムおよびこれを用いた請求項6〜10のいずれかに記載のセメントの製造方法によれば、ハロゲン分離手段によって、熱を利用して塩素や臭素等のハロゲンを含むハロゲン含有物からハロゲンを分離することにより、当該ハロゲンを含む可燃性ガスと残留物とが生成する。
【0021】
そして、上記可燃性ガスについては、ハロゲン回収手段において上記塩素分や臭素分等のハロゲンが除去された可燃性ガスとされた後に、ガス供給手段によってセメント製造設備の燃料として供給される。
【0022】
さらに、請求項2または7に記載の発明においては、上記残留物についても、残留物供給手段によって上記セメント製造設備にその燃料の一部として供給される。
この結果、各種のハロゲンを含む含有物を、これに含まれる塩素や臭素等のハロゲンに起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができる。
【0023】
特に、請求項3に記載の発明によれば、ハロゲン含有物が塩素を含む可燃性廃棄物である場合に、当該可燃性廃棄物が熱分解手段によって熱分解され、塩化水素と主として炭化水素を含む可燃性ガスとから構成され熱分解ガスと、大部分の塩素が除去された炭化物を主成分とし、熱分解温度に応じた油分を含有する残留物とが生成する。
【0024】
そして、上記熱分解ガスについては、ハロゲン回収手段において上記塩素分が除去されて可燃性ガスとされた後に、ガス供給手段によってセメント製造設備の燃料として供給される。他方、上記残留物についても、残留物供給手段によって上記セメントキルン内に燃料として供給することができる。
【0025】
この結果、塩素を含む可燃性廃棄物を、セメント製造設備において円滑に焼却処理することができ、かつ上記廃棄物に含まれる塩素に起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができる。また、熱分解手段において間接加熱により廃棄物の熱分解を行っているために、廃棄物の脱塩に必要な最小限の熱媒体を供給することにより、上記作用効果を得ることができる。
【0026】
加えて、請求項4によれば、ハロゲン分離手段の熱媒体として、セメント製造設備において最も清浄なクリンカクーラにおいて昇温した空気を供給しているので、上記ハロゲン分離手段として、外熱式キルンやチューブ式加熱器等の熱分解手段を用いた場合においても、熱媒体流路の閉塞等の不具合の発生を極力抑制することができる。
【0027】
さらに、上記クリンカクーラから抜き出し、熱媒体供給ラインを介してハロゲン分離手段に供給した空気を、再び戻りラインを介して当該クリンカクーラに戻しているために、上記クリンカクーラからセメントキルン内に送る空気の流れに大きな変動を与えることがない。
【0028】
また、熱分解手段等のハロゲン分離手段に、熱源としてクリンカクーラからの空気を循環供給するとともに、熱分解残渣をセメントキルン内に燃料として供給しているので、他のハロゲン回収手段を含めた各種機器および配管類をセメントキルンの窯前側に集中配置することができ、よってシステム全体の小型簡易化を図ることができる。
【0029】
この際に、クリンカクーラ内の空気は、ロータリーキルンから排出されたクリンカを冷却することにより徐々に昇温されるために、クリンカクーラからハロゲン分離手段に供給する空気は、上記クリンカクーラからの排出箇所を選択して、当該クリンカクーラからの排ガスの一部やセメントキルン内へ送る2次空気の一部を送ることにより、上記熱分解等のハロゲンの分離に必要な約250℃〜900℃の範囲の空気を供給することが可能である。
【0030】
したがって、上記クリンカクーラから供給する空気のみでハロゲン分離手段における所望のハロゲンの分離を行うことが可能であるが、請求項5に記載の発明のように、ハロゲン分離手段に、上記可燃性ガスの一部を燃焼させてハロゲン分離手段の熱源の一部として供給する補助加熱手段を設ければ、クリンカクーラから上述した250℃以下の空気をハロゲン分離手段に供給する場合や、処理すべきハロゲン含有物の量が増大した場合においても、所望のハロゲンの分離を行うことが可能になる。
【0031】
また、請求項9に記載の発明によれば、ハロゲン分離手段においてハロゲン含有物にスチールボール等の伝熱部材を混入しているので、間接加熱によっても、熱分解効率等のハロゲン分離効率を向上させることが可能になる。
【0032】
さらに、請求項10に記載の発明によれば、上記ハロゲン分離手段として例えばロータリーキルン型外熱式熱分解炉等を用いた場合においても、付着防止材によって上記廃棄物等のハロゲン含有物が外熱式熱分解炉の内壁に付着することを防止して、円滑なハロゲンの分離操作を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係るセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムを、ハロゲン含有物が塩素を含む可燃性廃棄物である場合に適用したセメント製造設備における廃棄物燃料化システムの第1実施形態を示すもので、図中符号1がセメント原料を焼成するためのセメントキルンである。
【0034】
このセメントキルン1は、軸芯回りに回転自在に設けられたロータリーキルンであり、その図中左方の窯尻1a側に、セメント原料を予熱するためのプレヒータ2が設けられるとともに、図中右方の窯前1bには、内部を加熱するための主バーナ(図示を略す。)が設けられている。また、この窯前1bには、セメントキルン1によって得られたクリンカを冷却するクリンカクーラ3が設けられている。
【0035】
そして、これらセメントキルン1、プレヒータ2およびクリンカクーラ3を有するセメント製造設備には、塩素を含む可燃性プラスチック廃棄物を前処理してセメントキルン1に導入するための廃棄物燃料化システムが設けられている。
図中符号4は、この廃棄物燃料化システムの最上流側に設けられた選別装置である。この選別装置4は、処理すべき可燃性プラスチック廃棄物を、比重選別あるいは赤外線選別等によって、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン等の塩素含有量の多い廃棄物(以下、塩素含有プラスチックと略す。)と、ポリエチレンやポリプロピレン等の塩素含有量が少ない廃棄物(以下、低塩素濃度プラスチックと略す。)とに分離するものである。
【0036】
ここで、選別装置4における選別基準としては、塩素含有量が1000ppm、好ましくは500ppm以上のものと、それ以下のものとに選別するものであることが好適である。そして、この選別装置4によって分離された低塩素濃度プラスチックは、廃棄物燃料供給ライン5を介して、直接セメントキルン1の窯前1b側から内部に投入されるようになっている。他方、選別装置4によって分離された塩素含有プラスチックは、熱分解ライン6から後段の熱分解炉(ハロゲン分離手段、熱分解手段)7に導入されるようになっている。
【0037】
この熱分解炉7は、熱媒体が導入される外筒7aと、軸線回りに回転自在に設けられて内部に塩素含有プラスチックが供給される内筒7bとを有するロータリーキルン型の外熱式熱分解炉であり、内筒7bの一端側に上記熱分解ライン6が接続されている。また、この接続部分には、内部に付着防止材を供給するための投入口8が接続されている。
【0038】
ここで、上記付着防止材としては、粘土等の土質材、紙材、木材、プラスチックフィルム等が適用可能である。この際に、下水汚泥、建築廃木材あるいは廃プラスチックフィルム等の廃棄物を代替使用すれば、これらの廃棄物の処理も同時に行うことが可能になる。また、他の付着防止材として、セメント原料やオイルコークス灰等も使用することができる。この際に、粗粉状であれば、上記廃棄物への担持体として機能させることができ、微細粉であれば、上記廃棄物へのもち粉状の被覆体として機能させることができる。
【0039】
そして、熱分解炉7の内筒7bの他端側には、この熱分解炉7において生成した熱分解残渣をセメントキルン1内に燃料として供給する搬送ライン(残留物供給手段)9が設けられている。さらに、この内筒7bの上部には、この熱分解炉7において生成した熱分解ガスを、後段のガス洗浄装置(ハロゲン回収手段)10へと送る分解ガス抜き出しライン11が接続されている。
【0040】
このガス洗浄装置10は、熱分解炉7から排出された上記熱分解ガスに、供給管10aから添加される水酸化カルシウム等のアルカリ成分を接触させて、当該熱分解ガス中に含まれる塩素分を、塩化カルシウム等の塩として熱分解ガスから除去するためのもので、湿式あるいは乾式の各種ガス洗浄装置が適用可能である。ここで、図中符号10bは、上記塩化カルシウム水溶液等の排出管であり、符号10cは、未反応のアルカリ成分を含む熱分解ガスをガス洗浄装置10の入口に戻す戻り管である。
【0041】
そして、このガス洗浄装置10の排出側には、このガス洗浄装置10によって洗浄された可燃性ガスを、セメントキルン1の窯前側に設けられた補助バーナ1cから内部に供給するためのガス供給ライン(ガス供給手段)12が接続されている。なお、この可燃性ガスは、セメントキルン1の図示されない主バーナにおいて、燃料と混合して内部に供給してもよい。
【0042】
他方、熱分解炉7の外筒7aの一端側には、熱媒体としてクリンカクーラ3において昇温した(300℃)以上の空気を供給する熱媒体供給ライン13が接続されている。また、この熱分解炉7の外筒7aの他端側には、熱分解炉7から排気される上記空気を再びクリンカクーラ3に戻す戻りライン14が接続されている。
【0043】
次に、上記構成からなるセメント製造設備における廃棄物燃料化システムを用いた、本発明に係るセメントの製造方法の一実施形態について説明する。
先ず、プレヒータ2において予熱されるとともにその一部が仮焼成されたセメント原料を、図中点線矢印で示すように、窯尻1aからセメントキルン1内に導入する。すると、このセメントキルン1内において窯尻1a側から窯前1b側へと徐々に送られる過程において、主バーナからの燃焼排ガスによって加熱され、焼成されてクリンカとなる。
【0044】
次いで、窯前1bに到達したクリンカは、図中点線矢印で示すように、クリンカークーラ3内に落下して図中右方に送られる。この際に、クリンカクーラ3内に供給された空気によって所定温度まで冷却されて最終的に当該クリンカクーラ3から取り出される。
また、クリンカクーラ3においてクリンカを冷却することによって昇温した空気は、主バーナ等の燃焼用の2次空気としてセメントキルン1内に導入され、さらに排ガスとなってプレヒータ2の加熱源として利用される。
【0045】
以上のセメントクリンカの製造と並行して、塩素含有プラスチックを含む処理すべき可燃性廃棄物を選別装置4に投入し、塩素含有プラスチックと、他の低塩素濃度プラスチック等の廃棄物とに分離する。そして、低塩素濃度プラスチックについては、廃棄物燃料供給ライン5を介して直接セメントキルン1の窯前1b側から内部に投入することにより、セメントキルン1内で燃焼させて、その燃料の一部として利用する。
【0046】
他方、選別装置4によって分離された塩素含有プラスチックについては、熱分解ライン6から後段の熱分解炉7に導入することにより、熱媒体供給ライン13から供給されるクリンカクーラ3において昇温した空気によって熱分解される。この結果、熱分解炉7内には、塩化水素と主として炭化水素を含む可燃性ガスとから構成され熱分解ガスと、大部分の塩素が除去された炭化物を主成分とし、熱分解温度に応じて生じた油分を含有する熱分解残渣とが生成する。この際に、投入口8から供給された付着防止材によって、上記塩素含有プラスチックが熱分解炉7の内壁に付着することが防止される。
【0047】
なお、上記熱分解は、最高温度が250℃〜650℃の範囲において行うことが望ましい。この際に、当該熱分解を上記範囲内の比較的低い温度で行うと、熱分解ガスの発熱量は比較的小さいものの、熱分解残渣に炭素分が多くの残存し、その発熱量は大きくなる。また、逆に比較的高い温度で行うと、熱分解ガスの発熱量は大きくなるが、逆に熱分解残渣における可燃分が少なくなるとともに、油分の発生量が増加する。
【0048】
そして、上記熱分解残渣および油分については、搬送ライン9によってセメントキルン1内に供給し、同様に燃料の一部として利用する。また、上記熱分解ガスについては、ガス洗浄装置10において塩素分を除去した可燃性ガスとしたうえで、ガス供給ライン12を通して補助バーナ1cからセメントキルン1内に供給し、燃料の一部として利用する。
【0049】
このようにして、塩素を含む可燃性廃棄物を、セメント製造設備において円滑に焼却処理することができ、かつ上記廃棄物に含まれる塩素に起因する弊害を生じることなくその発熱量をセメント製造の燃料の一部として有効に活用することができる。
【0050】
また、熱分解手段の前段に設けた選別装置4によって、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデン等の塩素含有量の多い廃棄物と、ポリエチレンやポリプロピレン等の塩素含有量の少ない廃棄物とに分離し、塩素含有量の多い廃棄物のみを熱分解ライン6から熱分解炉7に送って熱分解処理しているので、熱分解炉に供給べき高温の空気量も含めて熱分解炉7およびガス洗浄装置10における操作負荷の低減化を図ることができ、さらには上記セメント製造設備において処理可能な廃棄物の量を増大させることができる。
【0051】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態を説明するためのもので、図1に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
この廃棄物燃料化システムにおいては、付着防止材とともに1mmφ以上の直径を有するスチールボール(伝熱部材)が投入口8から熱分解炉7内に供給されるようになっている。
【0052】
そして、この熱分解炉7の後段に、搬送ライン9から送られてきた熱分解残渣およびスチールボールを100℃以下まで冷却するとともに、これら熱分解残渣とスチールボールとを軸線回りに回転させることにより、上記熱分解残渣を粉砕するロータリーキルン型の冷却粉砕装置20が設置されている。
【0053】
また、この冷却粉砕装置20の底部には、1mmφ以下まで粉砕された熱分解残渣を分離する篩21が設けられ、この篩21を通過した熱分解残渣が、搬送ライン9からセメントキルン1に供給されるようになっている。さらに、冷却粉砕装置20の下部には、篩21によって分離されたスチールボールを排出する排出ライン22が設けられている。
【0054】
以上の構成からなる廃棄物燃料化システムおよびこれを用いたセメントの製造方法においては、第1の実施形態に示したものに加えて、さらに熱分解炉7において塩素含有プラスチックを熱分解するに際して、これにスチールボールを混入しているので、加熱されたスチールボールによって直接塩素含有プラスチックを加熱することができる。このため、間接加熱によっても、熱分解効率を向上させることができる。
【0055】
また、熱分解炉7の後段に、設けたロータリーキルン型の冷却粉砕装置20によって、搬送ライン9から送られてきた熱分解残渣が100℃以下まで冷却されるとともに、スチールボールによって粉砕される。そして、この冷却粉砕装置20の底部に設けた篩21によって、1mmφ以下まで粉砕された熱分解残渣が分離されて、搬送ライン9からセメントキルン1に供給される。
【0056】
したがって、先ず冷却粉砕装置20によって上記熱分解残渣を冷却することにより、その細分化処理が容易になるとともに、1mmφ以下まで細分化した熱分解残渣をセメントキルン1内に投入しているので、搬送等のハンドリングおよびセメントキルン1内における焼却処理が容易になる。
なお、排出ライン22から排出されたスチールボールは、再び投入口8から熱分解炉7に供給することにより、循環使用することができる。
【0057】
(第3の実施形態)
図3は、本発明の第3の実施形態を説明するためのもので、同様に図1および図2に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
本実施形態の廃棄物燃料化システムにおいては、第1および第2の実施形態において示した選別装置4が設けられておらず、この結果、塩素含有プラスチックおよび低塩素濃度プラスチック等が共に熱分解炉7に導入されるようになっている。
【0058】
そして、この熱分解炉7には、補助加熱器(補助加熱手段)30が設けられている。この補助加熱器30には、その燃料としてガス洗浄装置10からセメントキルン1に可燃性ガスを送るガス供給ライン12の枝配管31が接続されている。そして、この補助加熱器30において上記可燃性ガスの一部が燃焼されることによって生じた高温ガスが、補助加熱ライン32から、熱分解炉7の外筒7a内に供給されるようになっている。
【0059】
本実施形態の廃棄物燃料化システムおよびこれを用いたセメントの製造方法によれば、塩素含有プラスチックおよび低塩素濃度プラスチックを選別することなく、共に熱分解炉7に導入しているので、特に処理すべき廃棄物が塩素含有プラスチックを多量に含む場合にシステム全体の簡易化を図ることができて好適である。
【0060】
加えて、熱分解炉7に、可燃性ガスの一部を燃焼させて熱分解炉7の熱源の一部として供給する補助加熱器30を設けているので、クリンカクーラから熱分解炉7に供給する高温空気の量や温度が不足する場合には、この補助加熱器30によって熱量を補充することにより所望の熱分解を行うことができる。
【0061】
なお、上記第1〜第3の実施形態においては、いずれもハロゲン含有物が塩素を含む可燃性廃棄物である場合に適用した場合についてのみ説明したが、これに限定されるものではなく、臭素等の他のハロゲンの含有物についても、同様に適用することができる。
【0062】
また、熱分解ガスから塩素分が除去された可燃性ガスを、セメントキルン1内に燃料の一部として供給する場合についてのみ説明したが、これに限るものではなく、別途配管により、あるいはボンベ等に充填した上で、上記セメント製造設備の発電機に燃料として供給することも可能である。
【0063】
さらに、熱分解炉7から排出された熱分解残渣についても、セメントキルン1の前段に仮焼炉が設けられているセメント製造設備においては、その一部または全部を、上記セメントキルン1に代えて上記仮焼炉に供給して燃焼ることにより、当該仮焼炉の燃料の一部として活用してもよい。
【0064】
また、第2および第3の実施形態において示した熱分解炉7後段の冷却細分化手段についても、スチールボールを用いて上記熱分解残渣を粉砕するロータリーキルン型の冷却粉砕装置20に限らず、温度条件やプラスチックの性状等によっては、シュレッダー等のせん断式破砕機やクラッシャー等の臼型破砕機等の他の細分化手段を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係るセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システムの第1実施形態を示す概略構成図である。
【図2】同、第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図3】同、第3の実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0066】
1 セメントキルン
1a 窯尻
1b 窯前
2 プレヒータ
3 クリンカクーラ
4 選別装置
5 廃棄物燃料供給ライン
6 熱分解ライン
7 熱分解炉(ハロゲン分離手段、熱分解手段)
8 付着防止材の投入口
9 搬送ライン(残留物供給手段)
10 ガス洗浄装置(ハロゲン回収手段)
12 ガス供給ライン(ガス供給手段)
13 熱媒体供給ライン
14 戻りライン
30補助加熱器(補助加熱手段)
31 ガス供給ラインの枝配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱を利用してハロゲン含有物からハロゲンを分離することにより当該ハロゲンを含む可燃性ガスと残留物とを生成させるハロゲン分離手段と、
このハロゲン分離手段へセメント製造設備から取り出した熱媒体を供給する熱媒体供給ラインと、
上記ハロゲン分離手段から排出された上記可燃性ガスから上記ハロゲンを回収するハロゲン回収手段と、
このハロゲン回収手段によって上記ハロゲンが回収された後の上記可燃性ガスを上記セメント製造設備の燃料として供給するガス供給手段と、
を備えてなることを特徴とするセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システム。
【請求項2】
上記残留物を上記セメント製造設備の燃料として供給する残留物供給手段を有することを特徴とする請求項1に記載のセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システム。
【請求項3】
上記ハロゲン含有物は、塩素を含む可燃性廃棄物であり、
かつハロゲン分離手段は、間接加熱により上記塩素を含む可燃性廃棄物を熱分解して、塩素分を含む上記可燃性ガスと、油分および/または固形物を含む残留物とを生成させる熱分解手段であることを特徴とする請求項1または2に記載のセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システム。
【請求項4】
上記セメント製造設備は、セメント原料を焼成するセメントキルンと、このセメントキルンによって得られたクリンカを冷却するクリンカクーラとを有してなり、
上記熱媒体供給ラインは、上記熱媒体として上記クリンカクーラにおいて昇温した空気を供給するとともに、上記ハロゲン分離手段から排気される上記空気を上記クリンカクーラに戻す戻りラインを備えてなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システム。
【請求項5】
上記ハロゲン分離手段には、上記可燃性ガスの一部を燃焼させて当該ハロゲン分離手段の熱源の一部として供給する補助加熱手段が設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のセメント製造設備におけるハロゲン含有物燃料化システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法であって、
上記セメント製造設備のセメントキルンの窯前に設けられたバーナによって、上記セメント原料を焼成してクリンカを製造するに際して、上記ハロゲン回収手段によって上記ハロゲンが回収された後の上記可燃性ガスを、上記セメント製造設備に燃料として供給することを特徴とするハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法。
【請求項7】
上記残留物を、上記セメント製造設備の燃料として使用することを特徴とする請求項6に記載のハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法。
【請求項8】
上記可燃性ガスを燃料として使用する上記セメント製造設備は、上記セメントキルン内、上記セメントキルンの前段に設けられた仮焼炉または上記セメント製造設備の発電機であるとともに、上記残留物を燃料として使用する上記セメント製造設備は、上記セメントキルンまたは上記仮焼炉であることを特徴とする請求項6または7に記載のハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメント製造方法。
【請求項9】
上記ハロゲン分離手段において熱媒体を利用して上記ハロゲン含有物からハロゲンを分離させるに際して、上記ハロゲン含有物に伝熱部材を混入することを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載のハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法。
【請求項10】
上記ハロゲン分離手段に、上記ハロゲン含有物が当該ハロゲン分離手段に付着することを防止する付着防止材を供給することを特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載のハロゲン含有物燃料化システムを用いたセメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−188396(P2006−188396A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2175(P2005−2175)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】