説明

セラミックス基板又は無機耐熱性基板の洗浄方法及びこれを用いた素子の製造方法並びに素子

【課題】基板表面の研磨残渣を除去し、清浄な基板表面を得る基板洗浄方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素(SiC)研磨材などで研磨されたアルミナ基板を、500〜800℃に加熱された炭酸ナトリウムと炭酸リチウムとを混合した溶融塩中へ含浸することにより、アルミナ基板表面に存在する無機研磨材の残渣を除去する。その後、無機研磨材の残渣が除去されたアルミナ基板表面に、白金又は白金合金による薄膜電極及び白金又は白金合金によるヒータを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極やヒータ等の構造物が形成される表面を有する基板の洗浄方法及びこの洗浄方法を用いた素子の製造方法並びに素子に関するものである。また本発明は機能性素子やセンシングデバイスに関するものであり、各種化合物の検出や定量に用いることができる素子の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、還元性ガスの計測は、固体吸着/溶媒抽出法、固体吸着/加熱脱着法、又は、容器採取法とガスクロマトグラフ/質量分析法の組み合わせによって分析されるのが一般的である。また、還元性ガスの計測に際してはサンプルの採取方法が信頼性を確保する上で重要であり、専用の吸着剤に一定時間サンプルを吸収させる必要がある。このため、室内の還元性ガスの濃度レベルの計測は、費用と時間を要し、問題が顕在化した現場でしか計測されていないのが現状である。
【0003】
一方、気体中に含まれる微量のガス成分を検出するための小型で機能的なセンサとして、半導体の電気抵抗、トランジスタ作用や整流作用を利用した半導体ガスセンサが知られている。このうち、電気抵抗タイプは、多孔質の金属酸化物半導体の電気抵抗素子が、ガス雰囲気によって変化することを、ガスの検出に利用している。
【0004】
下記特許文献1には、エタノールやエーテル等の有機溶媒蒸気への感度が鈍く、イソブタンやメタン、COの相対感度を高めたガスセンサとして、基板上にヒータと一対の電極を設けるとともに、これらの電極の上にガス検出用の金属酸化物半導体膜を設けたガスセンサが提案されている。この金属酸化物半導体は、例えば、真空蒸着、スパッタリング、CVD等で形成されたSiO膜であり、膜厚5μm〜100μm、薄膜でも膜厚0.1μm〜1μmの厚膜となったものである。
【0005】
下記特許文献2には、雰囲気中に存在する水分量の変化に対して電気伝導度が変化するSnO微粒子膜を用いた感湿素子が提案されている。このSnO微粒子膜は、蒸着法により形成され、その平均粒子径が10〜200nm、平均細孔半径が5〜250nmの多孔質となっている。また、実施例における膜厚は300nmである。
【0006】
下記特許文献3は、内部電極剥離によるクラックのない積層セラミックを提供することを目的とするものである。SiC研磨材中に含まれるSiOをアルカリ水溶液と反応させてSiOに変化させる。このように処理したSiC研磨材を用いて焼結体を研磨することにより、内部電極の剥離によるクラックの発生を抑えること。
【0007】
下記特許文献4は、マイクロエレクトロニクス基板洗浄のためのアンモニア不含洗浄組成物、特に高感度多孔性誘電体、低κまたは高κの誘電体並びに銅金属被覆を特徴とするマイクロエレクトロニクス基板に有用であり、それらとの適合性が改善されたような洗浄組成物や、フォトレジストのストリッピング、プラズマ生成有機、有機金属および無機化合物由来の残渣の洗浄、および平坦化工程由来の残渣の洗浄のための洗浄組成物に関するものである。洗浄組成物は、非求核性、正荷電対イオンを含有する1種またはそれ以上の非アンモニウム産生強塩基および1種またはそれ以上の腐食阻害溶媒化合物を含有し、該腐食阻害溶媒化合物は、金属と錯体形成できる少なくとも2つの部位を有する。
【特許文献1】特開平5−149907号公報
【特許文献2】特開平7−197237号公報
【特許文献3】特開平7−297081号公報
【特許文献4】特表2004−536910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1や特許文献2のセンサは、基板表面に存在する研磨残渣の影響を解決して居らず、電子素子の性能を担保出来ない。
【0009】
前記特許文献3は内部電極剥離によるクラックのない積層セラミックを提供することを目的とするものでありSiC研磨材を用いて焼結体を研磨することとしておりSiC不純物の除去が行われていないので基板の温度を400℃〜700℃に保って電極やヒータの剥離を皆無とし、電子素子の高感度安定性能を担保することは期待出来ない。
【0010】
前記特許文献4はマイクロエレクトロニクス基板洗浄のためのアンモニア不含洗浄組成物を提供するものであるが、基板上の研磨残渣を除去に関しては十分でなく、基板上に形成された構造物の剥離を皆無とし、電子素子が安定した性能を発揮することは期待出来ない。
【0011】
ここで、センサ等の機能性素子が安定に動作する為には、構造物と基板の接着強度を大幅に改善することが不可避である。基板と構造物の接着強度が脆弱である原因は、基板表面の平面度を向上させる為に、基板表面は無機研磨材を用いて研磨が施されるが、その基板表面に微量の研磨残渣が存在しており、これが構造物と共に剥離することによって基板と構造物の接着強度を大幅に損ねる為である。
【0012】
詳細には、セラミックス基板及び無機耐熱性基板の代表例としてアルミナ基板が一般的に使われており、無機研磨材の代表例として炭化珪素(SiC)研磨材が一般的に使われている。炭化珪素研磨材をバフ研磨デイスクに冷却水と混ぜて供給しながらアルミナ基板表面を高速回転で研磨する工程でアルミナ基板とバフの接触面で局部的に大きな摩擦熱が生じ炭化珪素(SiC)研磨材は局部的に高温にさらされその一部が酸化珪素(SiO)に変質する。この酸化珪素(SiO)が糊状のバインダーとなり強い接着力でアルミナ基板表面に炭化珪素(SiC)研磨材と酸化珪素(SiO)が薄膜状に固着してしまい通常の洗浄方法では取り切れない状態となってしまう。
【0013】
本発明は上記問題を鑑み成されたものであり、基板表面の研磨残渣を除去し、清浄な基板表面を得る基板洗浄方法及びこれを用いた素子の製造方法並びに素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、無機研磨材で研磨されたセラミックス基板又は無機耐熱性基板をアルカリ炭酸溶融塩中へ含浸することにより、前記基板表面に存在する無機研磨材の残渣を除去することを特徴とする基板洗浄方法である。これによると、基板表面に存在する研磨残渣を除去可能である。従って、基板表面に各種形状及び機能を有する金属又はセラミックスの構造物を形成する場合に、基板表面と構造物とを強固に接着させることができる。
【0015】
本発明の基板洗浄方法において、前記アルカリ炭酸溶融塩は500〜800℃に加熱された炭酸ナトリウム及び/又は炭酸リチウムを単独又は混合した溶融塩でもよい。なお、炭酸ナトリウムと炭酸リチウムとの混合溶融塩を用いる場合は、炭酸ナトリウムと炭酸リチウムとを7対3のモル比で混合し使うことが炭化珪素又は窒化珪素を主成分とする研磨残渣を除去する方法として最も好ましい。
【0016】
本発明の基板洗浄方法において、前記無機研磨材は炭化珪素研磨材でもよい。
【0017】
本発明の基板洗浄方法において、前記基板はアルミナ基板でもよい。
【0018】
本発明は、上述のいずれかの基板洗浄方法で洗浄されたセラミックス基板又は無機耐熱性基板の表面に金属又はセラミックスの構造物を形成する工程を備えた素子の製造方法である。これによると、基板表面に各種形状及び機能を有する金属又はセラミックスの構造物とを強固に接着させることができる。従って、基板の清浄表面を露出させ、その上に構造物を形成することによって安定した性能を有した素子の製造方法を提供し得る。本発明の素子の製造方法は例えば還元性ガスセンサチップの製法に用いられる。
【0019】
本発明の素子の製造方法において、前記構造物は液相析出法、フォトレジストを用いたパターニングとドライエッチ、スクリーン印刷法または塗布法により形成されてもよい。
【0020】
本発明の素子の製造方法において、前記構造物はヒータ又は電極でもよい。
【0021】
本発明の素子の製造方法において、前記基板の一方の面に電極を配置しさらにその上に重ねて液相析出法によりセラミックス薄膜を析出被覆させる工程と、前記基板の他方の面にヒータを配置する工程とを備えていてもよい。
【0022】
本発明の素子の製造方法において、前記セラミックス薄膜はSnO、WO、In、ZnOのいずれかであってよい。
【0023】
本発明の素子は、上述のいずれかの製造方法で製造されたものである。
【発明の効果】
【0024】
無機研磨材を用いて表面研磨を施されたセラミックス基板または無機耐熱性基板をアルカリ炭酸溶融塩中に含浸することにより、基板表面の研磨残渣を除去し、清浄な基板表面を露出させ、基板と構造物とを強固に接着させる。これにより、基板と構造物とで構築された素子の高い性能及び品質を保証し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る素子を備えた還元性ガスセンサの実施形態例を、図面を用いて説明する。図1において、還元性ガスセンサ1は本発明に係る素子2(センサエレメント)を備えている。図2において、還元性ガスセンサ1に含まれる素子2は、基板11と、基板11の一方の面11aに設けられる一対の電極12,13と、基板11の一方の面11aと電極12,13の双方の上に被覆される液相析出法によるセラミック被膜14と、基板11の他方の面11bに設けられるヒータ15とを備えている。基板11には、電気的絶縁性・熱伝導性・耐熱性に優れた例えば高密度焼結されたアルミナ基板が用いられ、電極12,13及びヒータ15には、耐熱性・耐蝕性に優れた例えば白金又は白金合金が用いられる。
【0026】
図3において、基板11の一方の面11aに設けられた薄膜電極12,13の各々は、基部12a,13aから櫛状に長片12b,13bを突出させ、基部12a,13aの一端に端子接続部12c,13cを形成したものである。櫛状の長片12b,13bは、互い違いに平行に配設されており、長片12b,13bの間にセラミック被覆14を介しての対向部16が形成される。この細長い対向部16の通電度が電極12,13を介して測定される。櫛状の長片12b,13bを5本とすることにより、対向部16を形成する区間は9か所設けられ、電極が検出する通電エリアが大きくなる。セラミック被覆14は、端子接続部12c,13cを除く電極12,13の全体と、その周囲の基板11の上を覆うように被覆している。端子接続部12c,13cは、リード線を介して図1の入出力ピン4a,4bに接続される。
【0027】
図4において、基板11の他方の面11bに設けられたヒータ15は、両端の端子接続部15a,15bの間を平行配置された一本のジグザグ通電路15cを有している。端子接続部15a,15bは、リード線を介して図1の入出力ピン4c,4dに接続される。このヒータ15は、基板全体を450〜500℃に加熱して、セラミック被膜14による還元性ガス検出を可能とするために設けられる。
【0028】
次に、上述した還元性ガスセンサ1に含まれる素子2の製造方法を説明する。
【0029】
素子2の製造方法は以下の工程を備えている。なお、第3工程と第4工程の順は逆になってもよい。
(1)基板の研磨工程(第1工程)
(2)基板の洗浄工程(第2工程)
(3)基板の一方の面に対する電極付設工程(第3工程)
(4)基板の他方の面に対するヒータ付設工程(第4工程)
(5)電極及び基板上に対するLPD法によるセラミック薄膜の被覆工程(第5工程)
【0030】
まず、第1工程を説明する。図2のアルミナ基板11は、薄膜析出の際の成長方向と速度を一定にするために表面を予め研磨しておく。研磨材には、無機研磨材の代表例である炭化珪素(SiC)研磨材などが用いられる。
【0031】
第2工程では、第1工程で研磨されたアルミナ基板11をアルカリ炭酸溶融塩中へ含浸する。アルカリ炭酸溶融塩には、500〜800℃に加熱された炭酸ナトリウムと炭酸リチウムとを混合した溶融塩が用いられる。ここでは、炭酸ナトリウムと炭酸リチウムとを7対3のモル比で混合した溶融塩が用いられる。図5は混合LiCO―NaCOの系相図を示し、LiCOとNaCOの混合比率が48対52の時に500℃の最低の溶融温度となりLiCO単独では730℃の溶融温度となり、NaCO単独では858℃の溶融温度となる。
【0032】
第3工程では、図2のアルミナ基板11の一方の面11aにフォトレジストによるパターニングとドライエツチ、スクリーン印刷法または塗布法のいずれかにより、白金又は白金合金による薄膜電極12,13を形成する。最終的な基板11の大きさは、例えば1mm×1.5mmと小さいため、アルミナ基板11の上の薄膜電極12、13は、上記工法のうち、微細加工に適したものが選択される。なお、電極のパターニング形状が対向する電極が5本以上の櫛型の形でお互いが組み合う配置として電極間対向面積を実質的に9倍以上として小型化を可能としたものが好ましい。
【0033】
第4工程では、図2のアルミナ基板11の他方の面11bに、フォトレジストによるパターニングとドライエツチ、スクリーン印刷法または塗布法により、白金又は白金合金のヒータ15を形成する。最終的な基板11の大きさは上記のように小さいため、上記工法のうち、微細加工に適したものが選択される。
【0034】
第5工程では、図2のように、アルミナ基板11と薄膜電極12、13の双方にまたがるように、液相析出法(LPD(Liquid Phase Deposition)法)によるセラミック薄膜14が形成される。なお、セラミック被覆は、マスキング等により基板11の片面だけに形成するものに限らず、ヒータ15を含めてセラミック被覆を施すものであってもよい。また、基板11を例えば1mm×1.5mmの所定サイズに切断するのは、第5工程の後に行われる。液相析出法によるセラミック薄膜は、超微細結晶の超薄膜構造となり、理論密度に対する相対密度が90%以上の緻密なものとなる。この液相析出法によるセラミック薄膜は、加熱された状態では、特に還元性ガスに対して選択的に反応する触媒的機能を果たす。
【0035】
LPD法は、セラミック析出反応液として、酸性フッ化アンモニウム水溶液にて溶解した酸化物若しくは各種金属の水酸化物を溶解した水溶液を用い、その加水分解平衡反応において配位子であるフッ化イオンと、より安定な錯体を形成するホウ酸等のフッ化物イオンイーターとして添加することで、反応液内の平衡を酸化物析出側へシフトさせ、基板をこの反応液中に浸漬することによって、基板上へ酸化物若しくは水酸化物を析出させる方法である。このLPD法によって形成される酸化物は、焼成によりセラミックスとなる。このセラミックとしてはSnO、WO、In、ZnOのいずれかが使用される。
【0036】
ここで、セラミック薄膜14としてSnO薄膜が形成される場合は、セラミック反応液として、「(NHSnF+HBO」又は「(NHSnF+HBO+HSbF」を用いる。このセラミック反応液中で、10℃〜80℃の温度範囲、好ましくは20℃〜40℃の温度範囲で、セラミックスを析出、積層させる。この温度範囲であっても、析出するセラミックスは理論密度に対する相対密度90%以上のアナターゼ結晶となる。このSnO薄膜が形成された基板11を800℃前後(750〜850℃)の高温熱処理で焼成する。高温熱処理で生じたクラックを埋めるために、前記析出・積層と高温熱処理を2回繰り返す。更に、更に1,000℃前後(950〜1050℃)で追加熱処理することにより、8nm以下の超微細結晶SnOの析出積層膜で80〜300nmの超薄膜構造を有し芳香族炭化水素ガスを選択的に検出可能なものが好ましい。
【0037】
また、セラミック被膜14としてWO薄膜が形成される場合は、WO若しくはWO・xHOをNHF・HF若しくはHFを含む水溶液を溶解し、得られたフッ化物錯体水溶液にHBOを加えて反応液とする。また、セラミック被膜14としてIn薄膜が形成される場合は、NHF・HF水溶液にInを加えて溶解、飽和させ、溶け残った酸化インジウムを濾過し、濾液を母液とする。この母液にHBO水溶液を入れて反応液とする。なお、析出した薄膜はセラミック前駆体であるInOFであるため、焼成することでInとする。また、セラミック被膜14としてZnO薄膜が形成される場合は、NHF・HFを水溶液に溶解し、HBO水溶液及びNH水溶液を加えて反応溶液とする。
【0038】
なお、これらの反応液に対して、ドーピングもしくは析出状態、析出速度等の改善のための添加物、例えば、界面活性剤なども必要に応じて添加することも可能である。通常、これら反応液では、10℃〜80℃の温度範囲、好ましくは20℃〜40℃の温度範囲で、セラミックス又はセラミックス前駆体を析出、積層させる。また、この温度範囲であっても、析出するセラミックス又はセラミックス前駆体は理論密度に対する相対密度90%以上のアナターゼ結晶が形成される。さらに、高温で熱処理することで、結晶化度を高めることができる。LPD法によるセラミックス又はセラミックス前駆体は、析出、積層した段階で、相対密度が90%以上とできるため、高温で焼成熱処理した場合であっても、ほとんど収縮することがない。
【0039】
また、析出・高温焼成熱処理を2回以上繰り返すことにより、焼成後のクラックを埋めた緻密な組織とすることができる。更に、前記高温焼成熱処理よりも高温で追加熱処理することにより、よりクラックの影響が少なく、特に低濃度のVOCガスに対する感度を上げた膜に仕上げることができる。例えばSnO膜の場合、析出と800℃前後(750〜850℃)の高温焼成熱処理とを少なくとも2回繰り返して、更に1,000℃前後(950〜1050℃)で追加熱処理することにより、特に芳香族炭化水素に対して選択性のある、8nm以下の超微細結晶SnOの析出積層膜で80〜300nmの超薄膜構造とすることができる。
【0040】
次に、本発明の基板洗浄方法と比較例の基板洗浄方法とよるアルミナ基板表面の肌荒れの違いを説明する。
図6は、本発明の基板洗浄方法に関し、研磨後のアルミナ基板を680℃の炭酸ナトリウム溶融塩と炭酸リチウム溶融塩をモル比7対3で混合したアルカリ炭酸溶融塩に10秒間含浸させてアルミナ基板表面の洗浄を行った場合のアルミナ基板表面の洗浄前後の表面拡大顕微鏡写真(5000倍)を示す。
図7は、比較例の基板洗浄方法に関し、研磨後のアルミナ基板を380℃の水酸化カリウム溶融液に5秒間含浸させてアルミナ基板表面の洗浄を行った場合のアルミナ基板表面の洗浄前後の表面拡大顕微鏡写真(5000倍)を示す。
本発明のアルミナ基板表面の洗浄方法によれば、図6から分かるように、研磨材の炭化珪素や炭化窒素不純物を洗浄してもアルミナ基板表面は全く肌荒れしないのに対し、比較例の洗浄方法によれば、図7から分かるように、洗浄後の基板表面は激しく肌荒れを起こし電極及びヒータの形成は不可能となる。
【0041】
なお、上述の実施形態では、比較例の基板洗浄方法として、研磨後のアルミナ基板を水酸化カリウム溶融液に含浸する場合が記載されているが、研磨後のアルミナ基板をHF、FeCl、NaOHの溶融液のいずれかに含浸する場合も、図7と同様に、洗浄後の基板表面は激しく肌荒れを起こし電極及びヒータの形成は不可能となることを確認した。
【0042】
次に、本発明のアルミナ基板表面の洗浄方法により研磨材の炭化珪素や炭化窒素不純物を洗浄した洗浄効果について説明する。
図8(a)は、洗浄前のアルミナ基板表面不純物分析XPSスペクトルを示し、アルミナ基板表面に研磨材の炭化珪素及び酸化珪素の不純物の残留が確認できる。これらの不純物がアルミナ基板表面に残留している理由は以下の理由によると考えられている。炭化珪素研磨材をバフ研磨デイスクに冷却水と混ぜて供給しながらアルミナ基板表面を高速回転で研磨する工程でアルミナ基板とバフの接触面で局部的に大きな摩擦熱が生じ炭化珪素(SiC)研磨材は局部的に高温にさらされその一部が酸化珪素(SiO)に変質する。この酸化珪素(SiO)が糊状のバインダーとなり強い接着力でアルミナ基板表面に炭化珪素(SiC)研磨材と酸化珪素(SiO)が薄膜状に固着してしまい通常の洗浄方法では取り切れない状態となってしまう。
図8(b)は、650℃に加熱したNaCOとLiCOの混合炭酸塩中に10秒間アルミナ基板を含浸して基板表面を洗浄後のアルミナ基板表面不純物分析XPSスペクトルを示し、アルミナ基板表面の炭化珪素(SiC)研磨材と酸化珪素(SiO)バインダーの不純物残留が完全に除去されたことが確認できる。
【0043】
次に、アルミナ基板表面に白金電極を形成させた素子に関し、400〜700℃での動作状態を繰り返した後の白金電極と基板との接着状態について説明する。
図9は、アルミナ基板表面を洗浄せずに白金電極を形成した場合の基板表面拡大顕微鏡写真(5000倍、1000倍)を示す。
図10は、アルミナ基板表面を炭酸塩溶融液で洗浄した後で白金電極を形成した場合の基板表面拡大顕微鏡写真(5000倍)を示す。
を示す。
アルミナ基板表面を洗浄せずに白金電極を形成した場合は、図9から分かるように、白金電極がアルミナ基板表面から剥離している。一方、アルミナ基板表面を炭酸塩溶融液で洗浄した後で白金電極を形成した場合は、図10から分かるように、白金電極はアルミナ基板表面に強固に接着されて剥離を起こさない。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の素子2では、炭化珪素(SiC)研磨材などで研磨されたアルミナ基板11をアルカリ炭酸溶融塩中へ含浸することにより、アルミナ基板表面に存在する無機研磨材の残渣を除去した後で、そのアルミナ基板表面に各種形状及び機能を有する金属又はセラミックスの構造物が形成される。従って、アルミナ基板表面と構造物とを強固に接着させることができるので、安定した性能を有した素子を提供し得る。
【実施例】
【0045】
以下、実施例と比較例とを対比して説明する。
[実施例]
炭化珪素研磨材で研磨されたアルミナ基板の表面に存在する研磨残渣をアルカリ炭酸溶融塩で完全に除去したアルミナ基板の一方面に白金電極が設けられ、他方面に白金ヒータが設けられたアルミナ基板を、(NHSnF+HBOの反応液において、30℃で24時間の析出処理を施した。このアルミナ基板を800℃で焼成した。焼成後に前記反応液において短時間の析出処理を施し、800°で焼成することによりクラック内部へのSnOを浸透させた。つぎに、1000℃で追加熱処理を施し、クラックを減少させた。これらの処理により、結晶粒が約5nmで、厚みが100nmであって、理論密度に対して約96%のSnO膜を形成した。
【0046】
[比較例]
実施例と同じように、一方面に白金電極が設けられ、他方面に白金ヒータが設けられたアルミナ基板の一方面に、SnOの粉末焼結により、結晶粒が約100nm、厚みが30μmであって、理論密度に対して90%のSnO膜を形成した。
【0047】
以上に本発明の好適な実施形態を示したが、上記は一例であって、例えば以下のように変更することができる。
【0048】
上述の実施形態では、セラミックス基板又は無機耐熱性基板としてはアルミナ基板が用いられているが、アルミナ基板以外のセラミックス基板又は無機耐熱性基板を用いた場合も同様の効果が得られる。従って、炭化珪素(SiC)研磨材などで研磨されたサファイア基板をアルカリ炭酸溶融塩中へ含浸することにより、サファイア基板表面に存在する無機研磨材の残渣を除去することができる。また、無機研磨材としては炭化珪素研磨材が用いられているが、炭化珪素研磨材以外の無機研磨剤でもよい。また、アルカリ炭酸溶融塩としては500〜800℃に加熱された炭酸ナトリウムと炭酸リチウムとを混合した溶融塩が用いられているが、他のアルカリ炭酸溶融塩でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る素子を備えた還元性ガスセンサの全体外観図である。
【図2】図1の素子のアルミナ基板、電極、ヒータ及びセラミック被膜の配置概念図である。
【図3】素子のアルミナ基板上に形成されたヒータ回路の概念図である。
【図4】素子のアルミナ基板上に形成された電極回路の概念図である。
【図5】混合炭酸塩溶融液(LiCO―NaCO)系相図である。
【図6】本発明の基板洗浄方法により洗浄されたアルミナ基板表面の洗浄前後の表面拡大顕微鏡写真である。
【図7】比較例の基板洗浄方法により洗浄されたアルミナ基板表面の洗浄前後の表面拡大顕微鏡写真である。
【図8】図8(a)は、洗浄前のアルミナ基板表面不純物分析結果である。 図8(b)は、洗浄後のアルミナ基板表面不純物分析結果である。
【図9】アルミナ基板表面を洗浄せずに白金電極を形成した場合の基板表面拡大顕微鏡写真である。
【図10】アルミナ基板表面を炭酸塩溶融液で洗浄下後で白金電極を形成した場合の基板表面拡大顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0050】
1 還元性センサ
2 素子
11 アルミナ基板
11a アルミナ基板の電極側表面
11b アルミナ基板のヒータ側表面
12 電極
13 電極
14 セラミック被覆
15 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機研磨材で研磨されたセラミックス基板又は無機耐熱性基板をアルカリ炭酸溶融塩中へ含浸することにより、前記基板表面に存在する無機研磨材の残渣を除去することを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項2】
請求項1の基板洗浄方法において、
前記アルカリ炭酸溶融塩は500〜800℃に加熱された炭酸ナトリウム及び/又は炭酸リチウムを単独又は混合した溶融塩である基板洗浄方法。
【請求項3】
請求項1又は2の基板洗浄方法において、
前記無機研磨材は炭化珪素研磨材である基板洗浄方法。
【請求項4】
請求項1〜3の基板洗浄方法のいずれかにおいて、
前記基板はアルミナ基板である基板洗浄方法。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれかの基板洗浄方法で洗浄されたセラミックス基板又は無機耐熱性基板の表面に金属又はセラミックスの構造物を形成する工程を備えた素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5の素子の製造方法において、
前記構造物は液相析出法、フォトレジストを用いたパターニングとドライエッチ、スクリーン印刷法または塗布法により形成される素子の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6の素子の製造方法において、
前記構造物はヒータ又は電極である素子の製造方法。
【請求項8】
請求項5の素子の製造方法において、
前記基板の一方の面に電極を配置しさらにその上に重ねて液相析出法によりセラミックス薄膜を析出被覆させる工程と、
前記基板の他方の面にヒータを配置する工程とを備えた素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8の素子の製造方法において、
前記セラミックス薄膜はSnO、WO、In、ZnOのいずれかである素子の製造方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれかの製造方法で製造された素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−224498(P2008−224498A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64926(P2007−64926)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【Fターム(参考)】