説明

セラミック回路基板およびその製造方法

【課題】 絶縁性、接合強度、信頼性および熱伝導性を向上し、長期間にわたって優れた耐久性と放熱性を実現するセラミック回路基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 セラミック回路基板1は、非酸化物セラミックスで構成される基板2の厚み方向一方側表面に、RE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物の少なくとも一方を含む結晶質相で構成される中間層3が設けられ、この中間層3の厚み方向一方側表面に、所定のパターン形状を有する金属層4が接合されている。半導体素子11は、金属層4に電気的に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック基板に金属パターンを接合するセラミック回路基板に関し、特に高信頼性、高放熱性および高接合強度を要するパワーモジュールに好適なセラミック回路基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高出力のパワーFET(Field Effect Transistor)などの半導体素子を収容するパワーモジュール用のセラミック回路基板は、作動時に発熱する半導体素子の放熱性を向上させるため、熱伝導率の高い金属回路板およびセラミック基板などを含んで構成される。セラミック基板の厚み方向一方側の表面には金属回路板が接合され、厚み方向他方側の表面には金属放熱板が接合される。半導体素子は、金属回路板に実装され、制御回路などの外部の回路と電気的に接続されている。
【0003】
このようなパワーモジュールに用いられる半導体素子には、たとえばシリコン(Si)単結晶の原子の一部を、窒素(N)およびリン(P)などの15族元素またはガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)などの13族元素で置き換えた、いわゆる不純物半導体が用いられ、自由電子および正孔の二つのキャリヤ数により区別されるn型、p型半導体の組み合わせにより構成される。その役割は、IC(Integrated Circuit)などの電子回路のベース電圧信号に基づいてパワー回路の電流のスイッチングを行い、電力の制御を行うことにあるが、スイッチング速度の高速化に伴い、動作時に発生する多量の熱を如何に効率的に放出するかが課題となっている。
【0004】
半導体素子が実装される金属回路板は、パワー回路におけるエミッタ電極を構成しており、大電流を通電するとともに、半導体素子で発生した熱を外部に伝達し、放出する役目を担っている。したがって、金属回路板には、熱を広範囲に拡散し、熱放散性を高めるための高い熱伝導性が求められている。たとえば、金属回路板に熱伝導率が高い銅を用いると、半導体素子の動作により発生する熱は、銅回路板を伝わって良好に外部に放出され、半導体素子の温度上昇を有効に防ぐことが可能となる。
【0005】
また、セラミック基板は、絶縁性を有しており、金属回路板と金属放熱板との間の電気的絶縁性を確保するために設けられるとともに、金属回路板と同様に熱を外部に伝導する役目を担っている。
【0006】
このようなセラミック回路基板において、セラミック基板としては、アルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)および窒化珪素(Si)などのセラミック焼結体が用いられ、金属回路板としては、銅およびアルミニウムなどの高熱伝導性金属が用いられる。
【0007】
しかし、パワーモジュールやスイッチング電源用モジュールなどの高電力化、高速化に加え、半導体素子の高密度化、高集積化に伴って、半導体素子からの発生熱量は年々増加する傾向にあるため、アルミナ(Al)に比べ熱伝導率が数倍から10倍程度高い窒化アルミニウム(AlN)および窒化珪素(Si)などの非酸化物セラミック焼結体をセラミック基板として用いることが好ましい。
【0008】
非酸化物セラミック基板をセラミック回路基板に適用するためには、アルミナなどの酸化物セラミック基板と同様に、その表面に金属回路板を接合することが不可欠である。非酸化物セラミック基板と金属回路板とを接合する方法としては、銅直接接合法(DBC法:Direct Bonding Cupper法)、アルミニウム直接接合法(DBA法:Direct Bonding
Aluminum)および活性金属法などが挙げられる(特許文献1〜3参照。)。
【0009】
【特許文献1】特開平03−290378号公報
【特許文献2】特開平04−12554号公報
【特許文献3】特開2001−48670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
窒化アルミニウム(AlN)および窒化珪素(Si)などの非酸化物セラミック基板に、銅およびアルミニウムなどの金属回路板を接合する場合にDBC法を用いると、Cu−O系の共晶化合物を利用した接合法であるため、非酸化物セラミック基板の表面に少なくとも3〜5μmの厚さの酸化物層を熱酸化法などにより形成する必要がある。
【0011】
窒化珪素(Si)焼結体の酸化のメカニズムは、900〜1000℃程度の低温で発生する粒界層の酸化と、1100℃以上の高温で発生する窒化珪素粒子自体の酸化に大別することができ、それぞれ異なる温度域で酸化が促進される。このため、窒化珪素(Si)基板表面に均質な酸化物層を形成することは困難であり、ひいては窒化珪素(Si)基板と金属回路板とを均質に接合することができないという問題がある。
【0012】
また、粒界層が酸化される場合には必然的に体積変化を生じるため、この体積変化により粒界層と窒化珪素粒子との間に微細なクラックが生じる。酸化時間とともにこのクラックが進展しながら繋がることにより大きなクラックに成長し、安定な酸化物層を得ることができない。このようにして生じたクラックは、窒化珪素(Si)基板と金属回路板とを接合した際に、絶縁性の劣化、接合強度の低下、動作時の熱応力に対する信頼性の低下、熱伝導性の低下などによりパワーモジュール全体の放熱性を悪化させてしまうことになる。
【0013】
本発明の目的は、絶縁性、接合強度、信頼性および熱伝導性を向上し、長期間にわたって優れた耐久性と放熱性を実現するセラミック回路基板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、非酸化物セラミックで構成される基板と、
所定のパターン形状を有する金属層と、
前記基板と前記金属層とに接合される中間層とを含み、
前記中間層は、RE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物(REは希土類元素を示す)の少なくとも一方を含む結晶質相で構成されることを特徴とするセラミック回路基板である。
【0015】
また、本発明は、前記中間層の厚みが、10μm以上50μm以下であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記結晶質相は、RESi、RESiOおよびRE14Si39から選ばれる結晶質相であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、前記結晶質相に含まれる希土類元素が、Sm、Tb、Dy、La、Ce、Nd、Y、ErおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前記中間層の熱膨張係数が、3.0ppm/℃以上16.0ppm/℃以下であり、前記基板の熱膨張係数より大きく、前記金属層の熱膨張係数よりも小さいことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、前記結晶質相に含まれる希土類元素が、前記非酸化物セラミック粒子の粒界層に存在する結晶質相に含まれる希土類元素と同じであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、前記非酸化物セラミックスが、窒化ケイ素焼結体であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、前記金属層が、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデンおよびそれらの合金の少なくとも1種の金属からなることを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、非酸化物セラミックスで構成される基板の表面に、RE粉末(REは希土類元素)とSiO粉末との混合粉末、有機溶媒および有機バインダーを含む溶液を塗布し、窒素雰囲気中で加熱溶融して融液を形成する工程と、
前記融液を結晶化してRE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物の少なくとも一方から成る結晶を主体とする中間層を前記基板の表面に形成する工程と、
前記中間層を介して、前記基板上に所定のパターン形状を有する金属層を接触配置し、熱処理を施して前記金属層を接合する工程と備えることを特徴とするセラミック回路基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、非酸化物セラミックスで構成される基板と、所定のパターン形状を有する金属層とに接合される中間層を含んでおり、この中間層は、RE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物(REは希土類元素を示す)の少なくとも一方を含む結晶質相で構成されることを特徴としている。
【0024】
このような中間層を形成することで、熱酸化法による酸化と異なり、非酸化物セラミックスで構成される基板の表面にクラックなどのダメージを与えることなく均質に酸化皮膜で覆うことが可能となる。
【0025】
また、中間層は酸化物であるため、中間層と金属層との界面には均質なCu−Oなどの共晶化合物が形成され、金属層を均質かつ強固に接合することができ、さらに、絶縁性を向上することができる。
【0026】
また、基板表面にクラックを発生することがないので、熱伝導性の劣化を防止することができ、放熱性の高いセラミック回路基板を実現することができる。
【0027】
以上より、絶縁性、接合強度、信頼性および熱伝導性を向上し、長期間にわたって優れた耐久性と放熱性を実現するセラミック回路基板を得ることができる。
【0028】
また、本発明によれば、前記中間層の厚みを、10μm以上50μm以下とすることで、十分な絶縁性と熱伝導性とを実現することができる。
【0029】
また、本発明によれば、前記結晶質相は、RESi、RESiOおよびRE14Si39から選ばれる結晶質相であるので、非常に安定であり、金属層を接合する際の高温雰囲気から基板表面を守ることができる。その結果、基板の抗折強度の劣化を防止することができる。
【0030】
また、本発明によれば、前記結晶質相に含まれる希土類元素が、Sm、Tb、Dy、La、Ce、Nd、Y、ErおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素であるので、高温雰囲気から基板表面を守ることができる。
【0031】
また、本発明によれば、前記中間層の熱膨張係数が、3.0ppm/℃以上16.0ppm/℃以下であり、前記基板の熱膨張係数より大きく、前記金属層の熱膨張係数よりも小さくしているので、接合界面に発生する熱応力を効果的に緩和することができる。これにより、接合強度および信頼性を向上させることができる。
【0032】
また、本発明によれば、前記結晶質相に含まれる希土類元素が、前記非酸化物セラミック粒子の粒界層に存在する結晶質相に含まれる希土類元素と同じである。
【0033】
これにより、基板と中間層との濡れ性、連続性を向上し、中間層の接合強度を向上させることができ、信頼性および放熱性を向上させることができる。
【0034】
また、本発明によれば、非酸化物セラミックスが、窒化珪素焼結体であるので、基板が高強度かつ高熱伝導率を有し、信頼性および放熱性を向上させることができる。
【0035】
また、本発明によれば、前記金属層が、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデンおよびそれらの合金の少なくとも1種の金属からなるので、熱伝導性、導電性および原料コストの点から、安価で放熱性の高いセラミック回路基板を得ることができる。
【0036】
また、本発明によれば、非酸化物セラミックスで構成される基板の表面に、RE粉末(REは希土類元素)とSiO粉末との混合粉末、有機溶媒および有機バインダーを含む溶液を塗布し、窒素雰囲気中で加熱溶融して融液を形成し、前記融液を結晶化してRE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物の少なくとも一方から成る結晶を主体とする中間層を前記基板の表面に形成する。次に前記中間層を介して、前記基板上に所定のパターン形状を有する金属層を接触配置し、熱処理を施して前記金属層を接合することで、絶縁性、接合強度、信頼性および熱伝導性を向上し、長期間にわたって優れた耐久性と放熱性とを実現するセラミック回路基板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、非酸化物セラミックスで構成される基板と、所定のパターン形状を有する金属層と、前記基板と前記金属層とに接合される中間層とを含んで構成されるセラミック回路基板であり、前記中間層は、RE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物(REは希土類元素を示す)の少なくとも一方を含む結晶質相で構成されることを特徴としている。
【0038】
このようなセラミック回路基板は、高信頼性、高放熱性および高接合強度を要するパワーモジュールに特に好適である。
【0039】
図1は、本発明の第1の実施形態であるセラミック回路基板1を用いた半導体装置10の構成を示す断面図である。
【0040】
半導体装置10は、セラミック回路基板1に、半導体素子11が実装されたものであって、たとえば、パワーモジュールなどで実現される。
【0041】
セラミック回路基板1は、非酸化物セラミックスで構成される基板2の厚み方向一方側表面に、RE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物の少なくとも一方を含む結晶質相で構成される中間層3が設けられ、この中間層3の厚み方向一方側表面に、所定のパターン形状を有する金属層4が接合されている。半導体素子11は、金属層4に電気的に接続されている。
【0042】
半導体素子11は、たとえば、発熱性素子、IGBT(In sulated Gate Bipolar
Transistor)およびパワーMOS(Metal Oxide Semiconductor)FETなどのように大きな電流を制御する機能を有しており、半導体素子11には電流制御のための信号が入力される配線(図示せず)が接続されている。
【0043】
基板2は、窒化アルミおよび窒化珪素などの非酸化物セラミックスで構成される基板である。窒化アルミおよび窒化珪素などの非酸化物セラミック基板は、アルミナおよびジルコニアなどの酸化物セラミックスで構成された基板と比較して、特に、高強度で、かつ高い熱伝導率を有するため、放熱性および高い実装信頼性を必要とするパワー素子などの発熱性素子を実装する回路基板として好適である。
【0044】
基板2を構成する非酸化物セラミックスとしては、特に限定されるものではないが、窒化珪素が高強度、高靭性のセラミック焼結体としてよく知られており、これに加えて比較的高い熱伝導率も有していることより、高強度で、かつ高い熱伝導率を両立できる点で、特に好ましい。
【0045】
中間層3は、RE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物の少なくとも一方を含む結晶質相で構成される。RE−Si−O−N系酸化物としては、RESi(ダイシリケート)およびRESiO(モノシリケート)などの希土類酸化物が好ましく、RE−Si−O−N系酸化物としては、RESi(YAM)、RESiON(ワラステナイト)およびRE10SiON(アパタイト)などのSi−RE−SiO系希土類酸化物が好ましい。
【0046】
結晶質相としては、これらの中でもRE−Si−O系酸化物が好ましく、特にRESi(ダイシリケート)、RESiO(モノシリケート)が好ましい。これは、従来のSiO皮膜やZrO、Al、ムライト、コージェライトおよびYAGなどの酸化物被覆層に比べ、絶縁性を向上できることに加えて、高温酸化性雰囲気においても非常に安定であるので、金属層4を接合する際の高温雰囲気から基板2の表面を守ることができ、基板2自体の抗折強度の劣化を防止することが可能となる。なお、中間層3がRESi(YAM)、RESiON(ワラステナイト)およびRE10SiON(アパタイト)などのSi−RE−SiO系結晶質相で構成される場合、中間層3に含まれる酸素量は多くできるものの、非酸化物となるため絶縁性および接合強度がRESi(ダイシリケート)、RESiO(モノシリケート)に劣るため、本発明としては、総合的な特性向上の観点からRESi(ダイシリケート)、RESiO(モノシリケート)が好ましい。
【0047】
結晶質相に含まれる希土類元素(RE)としては、Sm、Tb、Dy、La、Ce、Nd、Y、ErおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素であることが好ましい。これらの元素は、希土類の中でもイオン半径が小さいため分子間の結合力が大きく、金属層4を接合する際の高温雰囲気中においても結合力が高く、耐エロージョン性にも優れ基板2へのダメージを防止することができる。
【0048】
さらに、これらの希土類元素に加えて他に添加物を用いることもできるが、これらの希土類元素を用いることで添加物を多量に加えることなく、中間層3の熱膨張係数を3.0ppm/℃以上16.0ppm/℃以下の範囲に調整することができる。
【0049】
中間層3の熱膨張係数は、たとえば窒化珪素で構成される基板2の熱膨張係数3.0ppm/℃より大きく、たとえば銅からなる金属層4の熱膨張係数16.0ppm/℃より小さいことが好ましく、基板2と金属層4との間に発生する熱応力を効果的に緩和するために、7.0ppm/℃以上13.0ppm/℃以下であることが好ましい。特に好ましくは、10.0ppm/℃であり、この熱膨張係数は、希土類元素としてSm、TbおよびDyから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を用いることで容易に実現することができる。
【0050】
中間層3の厚みは、10μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは、15μm以上30μm以下である。厚みが50μmを超えると、中間層3の剥離が生じやすくなったり、熱伝導の妨げになる。また、5μm程度では絶縁性の向上が十分ではないため、中間層3の厚みは、10μm以上が好ましい。なお、非酸化物セラミック基板の表面を酸化することにより酸化物層を形成する方法では、酸化物層の厚みが3〜5μmの場合は酸化物層が薄いのに加えて厚みが不均一であるため十分な絶縁性が得られず、酸化物層の厚みを厚くしたとしても、酸化物層形成時に体積膨張によるクラックが生じるため十分な絶縁性が得られない。
【0051】
また、基板2の粒子の粒界層に存在する結晶質相には、セラミックスの焼結助剤に由来する希土類元素が含まれ、緻密で高強度、高熱伝導性を有するセラミック焼結体を得るために、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuなどの元素を好適に用いることができる。これらの希土類元素は、酸化物換算で基板2全体の0.5mol%以上10mol%以下の範囲で含有することが好ましい。希土類元素の含有量が、0.5mol%よりも少ないと焼結性が低下し、緻密で高強度な基板2が得られない。逆に、10mol%よりも多いと熱伝導性が劣化する。
【0052】
基板2として窒化珪素で構成された基板を例とした場合、たとえば、窒化珪素を70mol%以上99mol%以下含み、上記の希土類元素のうち少なくとも1種を酸化(RE)物換算で0.5mol%以上10mol%以下含み、さらに残部としてSiOを含む窒化珪素焼結体を例示できる。また、このような窒化珪素中にAlやOが固溶した、サイアロン(SIALON)を形成していても良い。
【0053】
このように基板2および中間層3には、それぞれ希土類元素が含まれ、基板2と中間層3との濡れ性、連続性を考慮すると、これらの希土類元素は、同じであることが好ましい。中間層3に含まれる希土類元素は前述の元素であるので、基板2に含まれる希土類元素としてもSm、Tb、Dy、La、Ce、Nd、Y、ErおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素であることが好ましい。
【0054】
金属層4は、所定のパターン形状を有しており、所定のパターン形状としては、半導体素子11における信号の入出力および半導体素子11に対する電力の供給に必要な回路パターン、矩形および円形などの単純な幾何学パターンなど使用目的に応じたパターン形状が選ばれる。
【0055】
また、金属層4は、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデンおよびそれらの合金の少なくとも1種の金属からなることが好ましい。特に熱伝導性、原料コスト、および導電性の点から、銅やアルミニウムを主成分とすることが好ましい。
【0056】
図2は、本発明の第2の実施形態であるセラミック回路基板5を用いた半導体装置20の構成を示す断面図である。半導体装置20は、セラミック回路基板5に、半導体素子11が実装されたものである。
【0057】
セラミック回路基板5は、第1の実施形態であるセラミック回路基板1にさらに中間層6と金属層7とを設けたものであり、セラミック回路基板1と同じ構成については同じ参照番号を付して、説明は省略する。
【0058】
中間層6は、中間層3と同様にRE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物の少なくとも一方を含む結晶質相で構成され、中間層3の反対側、すなわち基板2の厚み方向他方側表面に設けられる。
【0059】
金属層7は、所定のパターン形状を有し、金属層4の反対側、すなわち中間層6の厚み方向他方側表面に接合されている。
【0060】
金属層4と金属層7とが同じ金属、同じパターン形状であったり、金属やパターン形状などが異なっていても高温条件下で発生する熱応力がほぼ等しいような場合は、中間層3と中間層6とは、同じ結晶質相で構成することが好ましい。逆に、金属層4と金属層7とが異なるパターン形状であったり、異なる金属であったり、厚みが異なるなどして高温条件下で発生する熱応力が異なるような場合は、その熱応力の差異を吸収すべく、中間層3と中間層6とで、熱膨張係数が異なるように構成することが好ましい。中間層3と中間層6とで、熱膨張係数を異ならせるには、結晶質相の種類を異ならせる、希土類元素の種類を異ならせるなどがある。
【0061】
このようにすることで、セラミック回路基板の反り、および金属層の剥がれを防止することができる。
【0062】
たとえば、金属層4の厚みが金属層7より厚い場合、金属層4の面積が金属層7より広い場合などは、高温条件下において金属層4が接合されている側に発生する熱応力が大きくなるため、金属層7が接合している中間層6の熱膨張係数を金属層4が接合している中間層3より大きくし、金属層7が接合している側にも熱応力を発生させることにより、セラミック回路基板全体としては厚み方向両側での熱応力のバランスを均一に保ち、セラミック回路基板の反り、および金属層の剥がれを防止することができる。
【0063】
さらには、意図的にセラミック回路基板の厚み方向両側での熱応力のバランスを崩すことにより、所定の反りを生じさせることも可能となる。半導体素子の熱膨張率は、3ppm/℃程度であり、これをセラミック回路基板に実装した場合や、銅またはアルミからなる放熱板やヒートシンクベースにセラミック回路基板を接合固定した場合、全体の熱膨張のバランスが崩れて基板が反る可能性がある。このようなことを考慮して、予めセラミック回路基板を、半導体素子を実装した場合や放熱板に固定した場合に生じるであろう反りとは逆方向に所定の反りを生じさせることが可能となる。また、セラミック回路基板を固定する部分が曲面であるような場合、その曲面に沿った所定の反りを生じさせることも可能となる。
【0064】
第2の実施形態では、半導体装置20がさらにヒートシンク21を備えていてもよい。このとき、金属層7は、放熱板として機能する。ヒートシンク21は、半導体素子11の反対側、すなわち金属層7に固着される。ヒートシンク21は、放熱性が最重要視されるので、銅およびアルミニウムなど熱伝導性が高い金属で構成される。
【0065】
熱設計の観点から見ると、中間層3の厚みを中間層6の厚みよりも薄くすることが好ましい。これは、半導体素子11駆動時に発生した熱が、基板2、中間層3および中間層6よりも熱伝導率の高い金属層4を通じてセラミック回路基板5の主面と平行な方向に広がった後、セラミック回路基板5の厚み方向に伝導したり、金属層4から空気中に放射されたりするためである。
【0066】
なお、ヒートシンク21に吸収された熱は、空気中へ放射してもよいし、熱媒体を介してさらに移動させるようにしてもよい。
【0067】
図3は、本発明の第3の実施形態であるセラミック回路基板8を用いた半導体装置30の構成を示す断面図である。半導体装置30は、セラミック回路基板8に、半導体素子11が実装されたものである。
【0068】
セラミック回路基板8は、第1の実施形態であるセラミック回路基板1にさらに中間層9を設けたものであり、セラミック回路基板1と同じ構成については同じ参照番号を付して、説明は省略する。
【0069】
中間層9は、中間層3と同様にRE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物の少なくとも一方を含む結晶質相で構成され、中間層3と金属層4との間、すなわち中間層3の厚み方向一方側表面に設けられる。
【0070】
基板2と金属層4との間に中間層を2層設ける場合、中間層9の熱膨脹係数が、中間層3の熱膨張係数よりも大きくなるように各中間層を構成することが好ましい。第1の実施形態のように中間層3のみの場合、その熱膨張係数は、基板2の熱膨張係数と金属層4の熱膨張係数との平均値あたりとなるように構成することが好ましいが、基板2の熱膨張係数と金属層4の熱膨張係数との差が大きいと、基板2の熱膨張係数と中間層3の熱膨張係数との差、および金属層4の熱膨張係数と中間層3の熱膨張係数との差も大きくなり、熱応力を十分に緩和することができない可能性がある。
【0071】
そこで、本実施形態のように、中間層を2層設け、中間層3の熱膨張係数と中間層9の熱膨張係数との差を、基板2の熱膨張係数と中間層3の熱膨張係数との差、および金属層4の熱膨張係数と中間層9の熱膨張係数との差とほぼ同じとすること、すなわち、それぞれの差を基板2の熱膨張係数と金属層4の熱膨張係数との差の1/3程度とすることで、それぞれの差を第1実施形態における基板2の熱膨張係数と中間層3の熱膨張係数との差、および金属層4の熱膨張係数と中間層3の熱膨張係数との差よりも小さくすることができるので、より効果的に熱応力を緩和することができる。
【0072】
このような第3の実施形態の作用効果を考えると、中間層は2層に限らず3層以上であってもよいことは明らかである。中間層が3層以上の場合は、基板2に設けられた中間層から、金属層4と接合した中間層にかけて熱膨張係数が順次大きくなるように構成すればよい。
【0073】
以下では、セラミック回路基板の製造方法について説明する。
セラミック回路基板の製造方法は、非酸化物セラミックスで構成される基板の表面に、RE粉末(REは希土類元素)とSiO粉末との混合粉末、有機溶媒および有機バインダーを含む溶液を塗布する工程と、窒素雰囲気中で加熱溶融して融液を形成し、前記融液を結晶化してRE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物の少なくとも一方から成る結晶を主体とする中間層を前記基板の表面に形成する工程と、前記中間層を介して、前記基板上に所定のパターン形状を有する金属層を接触配置し、熱処理を施して前記金属層を接合する工程とを有する。
【0074】
たとえば、非酸化物セラミックスが窒化珪素である場合は、まず、基板の出発原料として、窒化珪素粉末と、希土類元素(周期律表第3族元素)の酸化物(RE)粉末と、必要により粒界結晶相を析出させるためのSiO粉末を混合する。
【0075】
窒化珪素粉末は、α型、β型のいずれでも使用できるが、粒径は0.4μm以上1.2μm以下であり、陽イオン不純物量は1質量%以下、特には0.5質量%以下であり、不純物酸素量は0.5重量%以上2.0重量%以下が適量である。粉末の製法は、直接窒化法およびイミド分解法などいずれの製法によるものであってもかまわない。また、サイアロン粉末を用いることもできる。
【0076】
また、RE粉末、SiO粉末の代わりに、REとSiOとの複合酸化物の粉末を使用することもできるし、窒化珪素とREとSiOとの化合物粉末を用いることもできる。
【0077】
これらの粉末を調合するに当っては、上述の基板組成を満足するように、各粉末の混合比率が調整される。たとえば、過剰酸素量が所定のSiO/REモル比を満足するためには、窒化珪素中に不可避に含まれる酸素、あるいは製造過程で吸着される酸素分などをSiO分として考慮して、希土類酸化物量およびSiO粉末の添加量を調整する。
【0078】
所定の割合で各粉末を秤量し、振動ミル、回転ミルおよびバレルミルなどで十分に混合した後、得られた混合粉末を所望の成形手段、たとえば金型プレス、鋳込み成形、排泥成形、押し出し成形、射出成形、冷間静水圧プレスおよびドクターブレードなどにより任意の形状に成形し、この成形体を焼成することにより、窒化珪素基板を得ることができる。
【0079】
焼成は、通常、窒素ガス雰囲気下で行われ、焼成温度は1700℃以上2000℃以下の範囲が適当である。このような条件下での焼成によって、相対密度が98%を超えるように緻密化した焼結体を得ることができる。焼成温度が2000℃を超えると窒化珪素結晶が粒成長し、抗折強度の劣化を引き起こす恐れがあり、逆に1700℃よりも低いと、緻密化が困難になる。
【0080】
また、この焼成後に、熱間静水圧焼成(HIP)法により、さらに緻密化することもできる。さらに、焼成後の冷却過程において徐冷を行うか、または焼結体を1000℃以上1700℃以下の温度で再度、熱処理を行うことにより、粒界の結晶化を図り、抗折強度や熱伝導などの特性の更なる改善を行うこともできる。
【0081】
また、窒化珪素基板に高い寸法精度が要求される場合には、窒化珪素粉末の一部をSi粉末に置き換えて成形体を作製し、これを窒素含有雰囲気中、800℃以上1500℃以下で熱処理し、窒化珪素を反応生成して成形体密度を高めた上で、前述の焼成条件で焼成することにより、焼成時の収縮を小さくすることができる。
【0082】
次に、このようにして得られた窒化珪素基板の表面に、中間層を形成する。中間層の形成は、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、EB(Electron Beam)−PVD(Physical Vapor Deposition)法およびスパッタ法などの薄膜形成法、溶射法、スラリー塗布法、印刷法を用いて行うことができるが、中間層に含まれる過剰のSiO量を厳密に制御できる点において、溶射法、またはスラリー塗布法、印刷法が好ましく、簡便に形成できる点においてスラリー塗布法、印刷法が好ましい。
【0083】
たとえば、SiO粉末とRE粉末と酸化物粉末との複合混合粉末、あるいはSiO粉末とRE粉末と酸化物粉末との混合粉末を用い、これらの粉末中の過剰SiO量を所定の範囲に調整し、その粉末のスラリーを調整する。
【0084】
このスラリーは、有機溶媒、有機バインダーと混合粉末とを所定の割合で混合し、所定の粘度に調整して作成する。
【0085】
次いで、調製したスラリーを、窒化珪素基板の表面にスプレーにより塗布するか、あるいはディッピング法により均一に塗布するか、あるいは印刷法により基板の全面、あるいは所定の位置のみに印刷することにより、基材を準備する。次いで、この基材を熱処理することにより、窒素雰囲気中でスラリーを加熱溶融して融液を形成し、この融液を結晶化して目的とする結晶質相で構成される中間層を形成することができる。
【0086】
熱処理温度は、用いるREの種類にもよるが、1400℃以上1700℃以下の温度とするのが良い。熱処理温度が1400℃より低いと、所望の結晶質相を析出させることが困難となり、あるいは得られる中間層が緻密化不足となり、気孔が多数残存するポーラスな層となってしまう。また、熱処理温度が1700℃より高いと、SiOが揮発してしまい、所望の結晶質相を析出することができない。
【0087】
なお、原料として用いるSiO粉末およびRE粉末等は、いずれも純度95%以上であることが好ましい。
【0088】
また、上述のスラリーを、焼成前の窒化珪素基板の生成形体の表面に、上記と同様の方法で均一に塗布、あるいは印刷し、これを焼成することにより、窒化珪素基板と中間層とを同時に形成することも可能である。
【0089】
次に、上記のようにして得られた中間層に、金属層を接合する。
金属層の接合は、通常のDBC法に従って、たとえば銅で構成され、所定の回路パターン形状を有する金属層を中間層に接合して、セラミック回路基板を得る。
【0090】
具体的には、まず中間層上に、所定のパターン形状に加工された銅板を接触配置する。次いで、窒素雰囲気などの不活性雰囲気中または真空中で、銅の融点(1083℃)以下Cu−O系共晶化合物の融点(1065℃)以上の温度で熱処理を施し、Cu−O系共晶化合物液相で中間層表面を濡らし、この液相を冷却固化することによって、中間層と金属層とを接合する。
【0091】
このような工程で製造することにより、高い熱伝導率、高い電気絶縁性を有し、高強度で、信頼性の高い、セラミック回路基板を製造することができる。
【実施例】
【0092】
窒化珪素基板の原料粉末として、下記の窒化珪素粉末、希土類元素酸化粉末、酸化珪素粉末を用いた。
【0093】
平均粒子径が1.2μm、酸素量が1質量%、α率が90%の直接窒化法により製造された窒化珪素粉末と、純度が99.9%、平均粒子径が1.2μmの各種希土類酸化物粉末と、純度が99.9%、平均粒子径が1.6μmのSiO粉末を準備した。
【0094】
次いで、上記の窒化珪素粉末89.5mol%とRE粉末3mol%と、SiO粉末7.5mol%とからなる混合粉末を調合し、アクリル樹脂バインダーおよび溶媒のトルエンを添加し、窒化珪素製ボールを用いて、48時間回転ミルで混合粉砕し、スラリーを調整した。
【0095】
得られたスラリーを、ドクターブレード法を用いて成形し、厚み0.3mmのグリーンシート成形体を作製した。このようにして得られたグリーンシート成形体を適宜積層、切断し、絶縁性評価用の試料として焼成後にたて60mm×よこ60mm×厚さ2mmのサイズとなるシート状焼結体を得た。また、グリーンシート成形体を適宜積層、切断し、金属回路剥離強度測定用試料として焼成後にたて20mm×よこ40m×厚さ2mmのサイズとなるシート状成形体を得た。さらに、熱サイクル試験評価用試料として、絶縁性評価用の試料と同様に、焼成後にたて60mm×よこ60×厚さ2mmのサイズとなるシート状成形体を得た。また、中間層形成後の窒化珪素基板の高温雰囲気中での抗折強度測定用試料として、焼成後にたて10mm×よこ40×厚さ2mmのサイズとなるシート状成形体を得た。
【0096】
これらの成形体を、600℃で脱脂後、ガス圧焼成により窒素雰囲気中、1900℃の焼成温度で10時間焼成し、窒化珪素基板を得た。
【0097】
また、同様にして平均粒子径が1.0μmの窒化アルミ粉末にY粉末、CaO粉末を調合し、アクリル樹脂バインダーおよび溶媒のトルエンを添加し、混合、粉砕してスラリーを調整した。得られたスラリーを、ドクターブレード法を用いて成形し、シート成形体を得た。また、得られたシート成形体を、脱脂後、ガス圧焼成により窒素雰囲気中、1900℃の焼成温度で10時間焼成し、窒化アルミ基板を得た。
【0098】
次に、表1に示すRE粉末とSiO粉末の混合粉末をアクリル樹脂バインダー、溶媒のテルピネオール、可塑剤DBP(フタル酸ジブチル)と混合し、ペーストを作製した。得られたペーストをスクリーン印刷法で、所定の厚みになるように窒化珪素基板および窒化アルミ基板の両面に塗布した。この際、ペーストの塗布は、絶縁性評価用、熱サイクル試験評価用の試料については、基板の主面よりひと回り小さくたて56mm×よこ56mmの範囲に塗布を行った。また、金属回路剥離強度測定用試料についてもたて16mm×よこ36mmの範囲で、それぞれ塗布範囲が基板の中心位置に来るように塗布を行った。
【0099】
次いで、ペーストの溶剤分を乾燥した後、この基板を窒素ガス雰囲気中で、表1に示す熱処理温度で処理し、表面に中間層が形成された基板を得た。
【0100】
さらに、中間層上に、それぞれ厚さ0.3mmの銅板を接触配置した。この際、銅板の形状は、絶縁性評価用の試料については、JIS−C2141電気絶縁用セラミック材料の試験方法に記載の方法に基づき、電極が形成できる形状とした。また、金属回路剥離強度測定用試料については、たて14mm×よこ50mmの銅板を配置し、長手方向の端部に未接合部ができるように配置を行った。この未接合部は、後に金属回路剥離強度を測定する際に、この未接合部分を掴んで窒化珪素基板と垂直方向に銅板を引っ張るために設けている。熱サイクル試験評価用の試料については、中間層より一回り小さいたて54mm×よこ54mmの銅板を窒化珪素基板の厚み方向両側に配置し、中間層からはみ出すことのないように、中心に位置するように配置した。
【0101】
次いで、中間層を形成した基板と銅板とを重ねたものに約50Paの荷重をかけながら、1170℃で熱処理を施し、銅板を窒化珪素基板および窒化アルミ基板に接合し、セラミック回路基板を得た。
【0102】
なお、基板の粒界層に存在する結晶質相に含まれる希土類元素、中間層に含まれる希土類元素、中間層の熱処理温度は、表1に記載した通りである。
【0103】
また、比較例1として、中間層を設けず、熱酸化法を用いて窒化珪素基板の表面を1200℃で酸化処理した基板に銅板を接合した窒化珪素回路基板、比較例2として実施例の中間層の代わりにSiO粉末、ZrO粉末、Al粉末を使用して実施例の中間層と同様に形成した希土類元素を含まない中間層に銅板を接合した窒化珪素回路基板を得た。
【0104】
このようにして得られた実施例および比較例の各特性を以下の方法で測定し、その結果を表1に示す。
【0105】
結晶の同定:基板の粒界相の結晶、および中間層の結晶を、X線回折測定により同定した。
【0106】
中間層の厚み測定:中間層を形成した基板を切断し、その断面を電子顕微鏡で観察し、任意断面の中間層の厚み10点の平均を中間層の厚みとした。
【0107】
高温雰囲気中での抗折強度の測定:上記の抗折強度測定用試料を用いて、金属層の接合温度と同等の1000℃での高温雰囲気中での抗折強度を測定した。抗折強度の測定は、下スパン30mmの支点間に抗折強度測定用試料を置き、下スパン間の中央を上スパン10mmの2点で荷重を加える4点曲げ試験法にて行い、下支点、および荷重点全体を断熱材で覆ったものの内部をヒータで加熱しながら測定を行った。測定は、抗折強度測定用試料が破断した際の荷重を測定し、この荷重と抗折強度測定用試料の寸法から強度を算出した。
【0108】
金属回路剥離強度の測定:上記の金属回路剥離強度測定用試料を土台に固定し、この試料に接合された銅板端部の未接合部を、窒化珪素基板に対して垂直方向上方に引っ張り、銅板が剥離に至った時の荷重を測定した。また、剥離強度はこの荷重を接合幅(14mm)で割った値を剥離強度として算出した。
【0109】
絶縁性の測定:JIS−C2141電気絶縁用セラミック材料の試験方法に準拠した記載測定法に基づき、体積抵抗率を測定した。
【0110】
熱抵抗の測定:銅板上に発熱素子を実装し、発熱素子に通電して発熱させ、発熱素子の抵抗値の温度依存変化から動作時の発熱素子の温度を算出して、熱抵抗を算出した。発熱素子としては、窒化アルミ基板中にタングステン電極が埋め込まれ、通電時にタングステン電極の抵抗により発熱する素子を用いた。発熱素子の実装は、Pb系半田と比較し、約80W/mKと比較的熱伝導率の高いSn−Ag−Cu系のPbフリー半田を用いて、水素還元雰囲気中で300℃以上、保持時間が5分間に設定されたリフロー炉を用いた。直径0.3mmのアルミニウムワイヤーを用いて発熱素子にワイヤーボンディングを施し、外部配線を施した。また、発熱素子の抵抗値の温度依存性は、実装前に予め0〜150℃までの温度に素子を保持し、その時の温度に対する抵抗値の変化を測定して求めておいた。このように発熱素子を実装した窒化珪素基板の反対側の面に、25℃の冷却水を流すことのできる銅製のヒートシンクをグリースを介して当接し、冷却水の温度を熱電対により測定できるようにした。このような発熱モジュールに対し、10〜200Wの電力を与え、発熱素子が発熱した際の素子の抵抗値を測定し、予め測定しておいた発熱素子の抵抗値の温度依存性から素子温度を算出した。さらに、この素子温度と冷却水の温度の差を、発熱量で割った値を熱抵抗値(℃/W)として求めた。
【0111】
熱サイクル試験:上記の熱サイクル試験評価用試料を、気相中、−40〜150℃、各30分間保持の熱サイクル試験を実施した。100サイクルまでは50サイクル毎に、100サイクルを超えたものは100サイクル毎に試料を取り出し、1000サイクルまで継続試験を行い、各サイクル毎に超音波探傷法を用いて、銅板の剥離の有無を観察した。試験結果としては、剥離が認められたサイクル数を示した。
【0112】
【表1】

【0113】
実施例1〜23は、絶縁性が1012Ω以上と高く、金属回路の剥離強度が60N/cm以上であり、熱抵抗も0.4℃/W以下と低く、熱サイクル試験による金属回路の剥離も500回以上でないと発生しなかった。
【0114】
また、中間層の厚みは、10μm以上50μm以下であった。実施例13は、中間層厚みが5μmと薄く、絶縁性が1010Ωと若干低くなった。逆に、実施例16は、中間層厚みが80μmと厚く、絶縁性は1014Ωと高いが、セラミック回路基板としての熱抵抗値が0.40℃/Wと若干高めになってしまい放熱性が比較的悪くなる傾向があったが、特に性能に悪影響を及ぼすものではない。
【0115】
また、中間層の結晶質相に含まれる希土類元素と、基板の粒界層に存在する結晶質相に含まれる希土類元素とが同じである実施例8および実施例18は、絶縁性が高いことに加えて、金属回路の剥離強度も高く、特に絶縁性および信頼性の高いセラミック回路基板が得られた。
【0116】
さらに、基板に窒化アルミを用いた実施例24および実施例25では、高い絶縁性および信頼性に加えて、窒化アルミの熱伝導率の高さから熱抵抗の低い放熱性に優れたセラミック回路基板が得られた。
【0117】
一方、比較例1および比較例2は、絶縁性が10Ωと低く、金属回路の剥離強度も24N/cm以下と低く、熱抵抗も0.4℃/Wより高く、熱サイクル試験による金属層剥離も50回以内で発生し、著しく特性の劣る回路基板であった。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の第1の実施形態であるセラミック回路基板1を用いた半導体装置10の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態であるセラミック回路基板5を用いた半導体装置20の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態であるセラミック回路基板8を用いた半導体装置30の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0119】
1,5,8 セラミック回路基板
2 基板
3,6,9 中間層
4,7 金属層
10,20,30 半導体装置
11 半導体素子
21 ヒートシンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非酸化物セラミックスで構成される基板と、
所定のパターン形状を有する金属層と、
前記基板と前記金属層とに接合される中間層とを含み、
前記中間層は、RE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物(REは希土類元素を示す)の少なくとも一方を含む結晶質相で構成されることを特徴とするセラミック回路基板。
【請求項2】
前記中間層の厚みが、10μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック回路基板。
【請求項3】
前記結晶質相は、RESi、RESiOおよびRE14Si39から選ばれる結晶質相であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック回路基板。
【請求項4】
前記結晶質相に含まれる希土類元素が、Sm、Tb、Dy、La、Ce、Nd、Y、ErおよびYbから選ばれる少なくとも1種の希土類元素であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック回路基板。
【請求項5】
前記中間層の熱膨張係数が、3.0ppm/℃以上16.0ppm/℃以下であり、前記基板の熱膨張係数より大きく、前記金属層の熱膨張係数よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のセラミック回路基板。
【請求項6】
前記結晶質相に含まれる希土類元素が、前記非酸化物セラミック粒子の粒界層に存在する結晶質相に含まれる希土類元素と同じであることを特徴とする請求項1に記載のセラミック回路基板。
【請求項7】
前記非酸化物セラミックスが、窒化ケイ素焼結体であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック回路基板。
【請求項8】
前記金属層が、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデンおよびそれらの合金の少なくとも1種の金属からなることを特徴とする請求項1に記載のセラミック回路基板。
【請求項9】
非酸化物セラミックスで構成される基板の表面に、RE粉末(REは希土類元素)とSiO粉末との混合粉末、有機溶媒および有機バインダーを含む溶液を塗布する工程と、
窒素雰囲気中で加熱溶融して融液を形成し、前記融液を結晶化してRE−Si−O系酸化物およびRE−Si−O−N系酸化物の少なくとも一方から成る結晶を主体とする中間層を前記基板の表面に形成する工程と、
前記中間層を介して、前記基板上に所定のパターン形状を有する金属層を接触配置し、熱処理を施して前記金属層を接合する工程と備えることを特徴とするセラミック回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−230791(P2007−230791A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51260(P2006−51260)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】