説明

セルロースアシレートフィルム、その製造方法、偏光板および液晶表示装置

【課題】 微細異物やゲルが少ないセルロースアシレートフィルムを溶融製膜法によって提供すること。
【解決手段】 セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液をろ過した後に乾燥することによってセルロースアシレート原料を調製し、さらに該セルロースアシレート原料を含有する樹脂原料を加熱溶融して製膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細異物やゲルが少ないことを特徴とする溶融製膜法によって形成されたセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関するものである。また、本発明は、該セルロースアシレートフィルムを用いた信頼性の高い偏光板および液晶表示装置を提供するものでもある。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムは、ハロゲン化写真感光材料の支持体、位相差板、位相差板の支持体、偏光板の保護フィルムおよび液晶表示装置に使用されている。
セルロースアシレートフィルムのうち、画像表示装置等の光学用途として最も一般的に用いられているセルロースアセテートフィルムの製膜には、主として溶液流延法が採用されており、平面性の高い良好なフィルムが製造されている。この際に使用されている溶媒として最も一般的なものは、ジクロロメタンのような塩素系溶媒である。しかしながら、近年になって、環境保全の観点から有害な塩素系溶媒の大気中への排出量削減が進められるようになり、塩素系溶媒の使用や排出をできるだけ控えることが求められるようになってきた。そこで、塩素系溶媒以外の溶媒の探索が進められ、セルロースアセテートを非塩素系有機溶媒に膨潤させた後、極低温まで冷却する工程を経ることによって良好なフィルムを製造する方法が提案されている(非特許文献1など)。しかし、この場合でも、製膜における消費エネルギー量が高いために、環境対策は完全ではなかった。
【0003】
そこで、これらの問題に対処するために、有機溶剤を用いない製膜法として、セルロースアシレートを溶融製膜する方法が開発された(特許文献1など)。この方法では、セルロースアシレートのエステル基の炭素鎖を長くすることによって融点を下げ、溶融製膜しやすくしている。具体的には、セルロースアセテートの代わりに、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースプロピオネート等を用いることによって溶融製膜を可能にしており、低コストでセルロースアシレートフィルムを得ることができる点で有用である。しかし、特許文献1に記載される方法で溶融製膜したフィルムは表面の平滑性に劣り、微細異物を含むものであった。このため、これを用いて偏光板を作成し液晶表示装置に組み込むと、黒表示にしたときに表示故障が発生するという問題があった。即ち、セルロースアシレートフィルム中の輝点異物やゲルの周辺部からの光漏れが問題となっており、改良が望まれていた。
【非特許文献1】発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)
【特許文献1】特開2000−352620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶融製膜法で得られるセルロースアシレートフィルムの微細異物を減らすためには、溶融状態のセルロースアシレートを製膜前にろ過しておくことが考えられる。しかしながら、溶融状態のセルロースアシレートをろ過しようとすると、圧力損失の問題に直面するうえに、樹脂の着色やゲルの発生という問題も生じてしまう。また、その後の製膜によって得られるフィルムも、微小領域における膜厚変動が大きくて表面の平滑性に劣るという問題があった。このため、このようなセルロースアシレートフィルムを用いて偏光板や液晶表示装置を製造しても、光漏れや表示ムラが発生してしまうため、結局、信頼性の高い製品は得ることができない。
このため、依然として有機溶媒を用いた溶液製膜法によって多くのセルロースアシレートフィルムが製造されているが、上記のような環境問題を解決するための有効な手段はいまだに開発されていない。また、溶液製膜法では、トリミングされたフィルム屑などをはじめとして、製膜過程で多量の屑が発生する。このようなフィルム屑については特に効果的な利用法は提案されるに至っていないが、フィルム屑を有効利用することができれば産業上の利点が大きい。
【0005】
上記のような技術の現状や課題を考慮して、本発明者は、微細異物やゲルが少ないセルロースアシレートフィルムを溶融製膜法によって提供することを目的として検討を進めた。また、本発明者は、信頼性の高い偏光板および液晶表示装置を提供することも目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その結果、以下の構成を有する本発明によれば上記の目的を達成しうることが見いだされた。
(1) セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液をろ過した後に乾燥することによってセルロースアシレート原料を調製し、さらに該セルロースアシレート原料を含有する樹脂原料を加熱溶融して製膜する工程を有することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
(2) セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液をろ過した後に製膜することにより溶液製膜セルロースアシレートフィルムを製造する工程と、該フィルムおよび/または該フィルムの製膜過程で得られるセルロースアシレート屑を含有する樹脂原料を加熱溶融して製膜することにより溶融製膜セルロースアシレートフィルムを製造する工程とを有することを特徴とする、セルロースアシレートフィルムの製造方法。
(3) 前記セルロースアシレート屑が、溶液製膜セルロースアシレートフィルムのトリミングにより生じたものであることを特徴とする(2)に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【0007】
(4) セルロースアシレートを加熱溶融して製膜することにより形成され、微小領域における膜厚変動が0〜2μmであることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
(5) 微細異物の数が0〜10個/mm2であり、ゲルの数が0〜3個/m2であることを特徴とする(4)に記載のセルロースアシレートフィルム。
(6) (1)に記載の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルム、(2)または(3)に記載される製造方法により製造される溶融製膜セルロースアシレートフィルム、もしくは(4)または(5)に記載されるセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板。
(7) (1)に記載の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルム、(2)または(3)に記載される製造方法により製造される溶融製膜セルロースアシレートフィルム、もしくは(4)または(5)に記載されるセルロースアシレートフィルムを用いた液晶表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微細異物やゲルが少なくて、表面の平滑性に優れたセルロースアシレートフィルムを提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、従来から用いられている溶液製膜法で生じたセルロースアシレート屑を有効利用して優れた性質を有する溶融製膜セルロースアシレートフィルムを製造することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板や液晶表示装置は、光漏れや表示ムラが生じにくくて信頼性が高いという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムとその製造方法、および該フィルムを用いた偏光板や液晶表示装置について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
[セルロースアシレート原料]
(セルロースアシレート)
本発明で用いるセルロースアシレート原料は、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液をろ過した後に乾燥することによって調製したものを含む。
本発明で用いるセルロースアシレートは、セルロースの水酸基の一部または全部がアシレート基に置換された化合物である。本発明で用いるセルロースアシレートのアシレート基は、単一種であってもよいし、複数種であってもよい。アシレート基を構成するアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。脂肪族アシル基である場合、炭素数は2〜18であることが好ましく、炭素数は2〜12であることがさらに好ましく、炭素数は2〜7であることが特に好ましい。これらの脂肪族アシル基の例としては、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、あるいはアルキニルカルボニル基などを挙げることができる。アシル基が芳香族アシル基である場合、炭素数は6〜22であることが好ましく、炭素数は6〜18であることがさらに好ましく、炭素数は6〜12であることが特に好ましい。これらのアシル基は、それぞれさらに置換基を有していてもよい。好ましいアシル基の具体例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブチリル基、ピバロイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフタレンカルボニル基、フタロイル基、シンナモイル基などを挙げることができ、より好ましいアシル基の例としてはアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基を挙げることができる。
【0011】
本発明で用いるセルロースアシレートは、好ましくはセルロースの水酸基の一部もしくは全部が炭素数3以上のアシレート基で置換されたセルロースアシレートであり、より好ましくはセルロースの水酸基の一部もしくは全部が炭素数3〜7のアシレート基で置換されたセルロースアシレートであり、特に好ましくはセルロースの水酸基の水素原子がアセチル基ならびにプロピオニル基および/またはブチリル基で置換された化合物である。
【0012】
本発明で用いるセルロースアシレートは下記式(I−1)および/または(II−1)を満たすことが好ましい。
(I−1) 0.5≦SP≦3.0
(II−1) 0.5≦SB≦3.0
本発明で用いるセルロースアシレートは下記式(I−2)および/または(II−2)を満たすことがより好ましい。
(I−2) 1.5≦SP≦3.0
(II−2) 1.0≦SB≦3.0
本発明で用いるセルロースアシレートは下記式(I−3)および/または(II−3)を満たすことがより好ましい。
(I−3) 2.0≦SP≦3.0
(II−3) 1.2≦SB≦2.0
【0013】
上式において、SPはセルロースの水酸基に対するプロピオニル基の置換度を表し、SBはセルロースの水酸基に対するブチリル基の置換度を表す。セルロースを構成する、ベータ(β)−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。本明細書でいう置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて、水酸基がアシル化している割合(100%のアシル化は置換度1)の合計を意味する。
【0014】
本発明で用いるセルロースアシレートとして特に好ましいものは、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレートである。
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、平均重合度50〜500、好ましくは100〜450、更に好ましくは120〜400であり、特に好ましくは平均重合度150〜350である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。更に特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。
【0015】
本発明のセルロースアシレートの原料綿や合成方法の詳細については、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の7〜12頁に記載がある。
【0016】
(有機溶媒)
本発明では、セルロースアシレート原料を調製するために、まずセルロースアシレートを有機溶媒に溶解する。ここで用いる有機溶媒としては、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、アルコール、炭化水素などから選ばれる溶媒であって、カルボン酸は含まない。エステル、ケトンおよびエーテルは、環状構造を有していてもよく、エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有していてもよい。好ましい有機溶媒の具体例として、塩素系炭化水素であるジクロロメタン、クロロホルム、エステルであるエチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテート、ケトンであるアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノン、エーテルであるジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトール、アルコールであるメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノール、フッ素系アルコールである2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、炭化水素であるシクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレン、二種類以上の官能基を有する有機溶媒である2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールを挙げることができる。本発明で用いる有機溶媒は、複数種の溶媒の混合物であってもよい。
【0017】
セルロースアシレートを有機溶媒に溶解する方法は特に制限されず、適宜、加熱や攪拌を行うことができる。例えば、特開平5−163301号公報、特開昭61−106628号公報、特開昭58−127737号公報、特開平9−95544号公報、特開平10−95854号公報、特開平10−45950号公報、特開2000−53784号公報、特開平11−322946号公報、さらに特開平11−322947号公報、特開平2−276830号公報、特開2000−273239号公報、特開平11−71463号公報、特開平04−259511号公報、特開2000−273184号公報、特開平11−323017号公報、特開平11−302388号公報に記載される操作により、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解させた溶液を得ることができる。
【0018】
(ろ過)
本発明では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解させた溶液をろ過する。ろ過は、絶対濾過精度10μm以下のろ材を用いて行うことが好ましく、5μm以下のろ材を用いて行うことがより好ましく、1μm以下のろ材を用いて行うことがさらに好ましい。ろ過に際して、必要に応じて吸引などを行ってもよい。
【0019】
(乾燥)
ろ過したセルロースアシレート溶液は、乾燥することにより固化する。このとき、有機溶媒残留量は通常200質量%以下にし、好ましくは100質量%以下にし、さらに好ましくは60質量%以下にする。乾燥の態様は特に制限されないが、溶液製膜工程と組み合わせて乾燥を行うことが好ましい。すなわち、セルロースアシレート溶液を流延するなどして製膜するとき、その製膜前、製膜中、製膜後のいずれか1以上の段階において乾燥を実施することが好ましい。
【0020】
(セルロースアシレート原料の調製)
本発明では、このような乾燥を経て作製されたセルロースアシレートをセルロースアシレート原料として使用する。このとき、セルロースアシレートフィルムとして使用ないし出荷されるものを使用することも可能ではあるが、一般に廃棄ないしリサイクル扱いとなるセルロースアシレート(本明細書ではこれを総称してセルロースアシレート屑という)を使用することが好ましい。例えば、乾燥を経て作製されたセルロースアシレートフィルムをトリミングすることにより得られるセルロースアシレートフィルム片や、規格外や不良品として使用や出荷が見送られたセルロースアシレートフィルムなどの、溶液製膜工程で出る不要品や中間生産物を用いることが好ましい。また、使用済みのセルロースアシレートフィルム廃材を回収してセルロースアシレート原料として使用してもよい。例えば、液晶表示装置や偏光板に使われているセルロースアシレートフィルムを剥離フィルムを剥がすことによって分離して使用することができる。セルロースアシレートの回収方法については、特開2002−172618号公報にも記載があり、本発明においてもこれらを適宜使用することができる。
【0021】
本発明においてセルロースアシレート原料に用いられるセルロースアシレートは、通常は破砕してから使用する。破砕後のサイズは、1〜10cm角が好ましく、1〜10mm角がより好ましい。
本発明で用いるセルロースアシレート原料には、上記のセルロースアシレートフィルムやセルロースアシレート屑を好ましくは20〜100質量%、より好ましくは30〜100質量%、さらに好ましくは40〜100質量%、特に好ましくは60〜100質量%含有させる。混合は、後述する溶融製膜工程においてホッパー内で行ってもよいし、あらかじめホッパーに供給する前に混合しておいてもよい。セルロースアシレート原料は、含水率を好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下にしておく。セルロースアシレート原料の含水率が好ましい範囲内になるように、上記の溶液製膜における乾燥工程の条件を制御しておくこと等が好ましい。
このようにして調製したセルロースアシレート原料を溶融して製膜すれば、膜厚ムラや微細異物、ゲルなどのない良質なフィルムを得ることができ、フィルムの着色も抑えることができる。
【0022】
[本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法]
(添加剤)
上記のセルロースアシレート原料を用いて溶融製膜する際に、本発明では、適宜、添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤(例えば、カルボン酸トラップ剤(アミン等))、光学異方性コントロール剤、微粒子、赤外吸収剤、界面活性剤などを加えることができる。セルロースアシレート原料に既に含まれている場合には、UV吸収スペクトル等の手段を用いて定量を行い、不足分を混合して溶融製膜すればよい。
【0023】
可塑剤としては、ポリマーの溶融時にかかる熱や圧力によって著しい分解や変色、揮発、昇華が起こらない化合物が好ましく、例えば、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、リン酸エステルやカルボン酸エステル等が挙げられる。
【0024】
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。さらに特表平6−501040号公報の請求項3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を用いることが好ましい。
【0025】
カルボン酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートおよびジエチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル類、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類並びにジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコールアジペート)等のアジピン酸エステルを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を単独あるいは併用するのが好ましい。
【0026】
これらの可塑剤の含有量は、セルロースアシレートフィルムに対し0〜15質量%が好ましく、より好ましくは0〜10質量%、さらに好ましくは2〜5質量%である。これらの可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0027】
赤外吸収染料としては、例えば特開平2001−194522号公報に記載されるものが使用できる。紫外線吸収剤としては、例えば特開平2001−151901号公報に記載されるものが使用できる。それぞれセルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有させることが好ましい。微粒子としては、平均粒径が5〜3000nmのものを使用することが好ましく、金属酸化物や架橋ポリマーからなるものを使用でき、セルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有させることが好ましい。劣化防止剤はセルロースアシレートに対して0.0001〜2質量%含有させることが好ましい。光学異方性コントロール剤は、例えば特開2003−66230号公報、特開2002−49128号公報に記載のものを必要に応じて使用することができ、セルロースアシレートに対して0〜10質量%含有させることが好ましい。
【0028】
(ホッパーへの供給)
上記のセルロースアシレート原料は、必要に応じて添加剤とともに溶融押出し機のホッパーに投入する。このとき、セルロースアシレート原料を構成するセルロースアシレートは、ホッパー内で初めて混合してもよいし、ホッパーに供給する前に混合しておいてもよい。また、ホッパーに供給するセルロースアシレートは、粉末状、フレーク状など、いずれの形態であってもよい。また、これらの原料は、場合により、2軸混練押し出し機を用い、150℃〜220℃、より好ましくは160℃〜210℃、さらに好ましくは170℃〜200℃で、スクリュー回転数100rpm〜800rpm、より好ましくは150rpm〜600rpm、さらに好ましくは200rpm〜400rpmで、滞留時間5秒〜3分、より好ましくは10秒〜2分、さらに好ましくは20秒〜90秒でペレット化してから溶融押出し機のホッパーに投入してもよい。
【0029】
ホッパーの温度は、好ましくは(Tg−50)℃〜(Tg+30)℃、より好ましくは(Tg−40)℃〜(Tg+10)℃、さらに好ましくは(Tg−30)℃〜Tgにする(Tgはセルロースアシレート原料のガラス転移温度)。上記のように、溶融製膜に先立ち、セルロースアシレート原料の含水率は好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下に調整されているが、ホッパーの温度を上記範囲に制御することによりホッパー内での水分の再吸着を抑制することができる。
【0030】
(混練押出し)
ホッパー内に供給されたセルロースアシレート原料は、好ましくは150℃〜300℃、より好ましくは160℃〜250℃、さらに好ましくは160℃〜220℃で混練溶融する。この時、溶融温度を一定にして混練を行ってもよいし、いくつかに分割して温度制御して混練を行ってもよい。好ましい混練時間は2分〜60分であり、より好ましくは3分〜40分であり、さらに好ましくは4分〜30分である。さらに、溶融押出し機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのも好ましい。
【0031】
(製膜)
溶融した樹脂は、通常は、ギアポンプに通し、押し出し機の脈動を除去した後、金属メッシュフィルター等でろ過を行い、この後ろに取り付けたT型のダイから冷却ドラム上にシート状に押し出す。本発明において、溶融製膜におけるろ過工程では、樹脂劣化防止の観点から、絶対濾過精度3〜100μm、より好ましくは5〜80μm、さらに好ましくは10〜50μm、最も好ましくは20〜50μmの金属焼結フィルターで実施することが好ましい。
押出しは単層で行ってもよく、マルチマニホールドダイやフィードブロックダイを用いて複数層押出してもよい。この時、ダイのリップの間隔を調整することで幅方向の厚みむらを調整することができる。
【0032】
この後キャスティングドラム上に押出す。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部に実施してもよい。
キャスティングドラムは60℃〜160℃が好ましく、より好ましくは70℃〜150℃、さらに好ましくは80℃〜150℃である。この後、キャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後巻き取る。巻き取り速度は10m/分〜100m/分が好ましく、より好ましくは15m/分〜80m/分、さらに好ましくは20m/分〜70m/分である。
製膜幅は好ましくは1m〜5m、より好ましくは1.2m〜4m、さらに好ましくは1.3m〜3mとする。
【0033】
このようにして得たシートは両端をトリミングし、巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理した後、セルロースアシレート原料として再利用してもよい。
【0034】
(延伸)
製膜されたセルロースアシレートフィルムは延伸してもよい。延伸はTg〜(Tg+50)℃で実施するのが好ましく、より好ましくは(Tg+1)℃〜(Tg+30)℃、さらに好ましくは(Tg+2)℃〜(Tg+20)℃である。好ましい延伸倍率は10%〜300%以下、より好ましくは20%〜250%以下、さらに好ましくは30%〜200%以下である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施しても良い。ここでいう延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0035】
このような延伸は縦延伸、横延伸、およびこれらの組み合わせによって実施される。縦延伸には、ロール延伸(出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸)や、固定端延伸(フィルムの両端を把持し、これを長手方向に次第に早く搬送し長手方向に延伸)等を用いることができる。さらに横延伸は、テンター延伸(フィルムの両端をチャックで把持しこれを横方向(長手方向と直角方向)に広げて延伸)等を使用することができる。これらの縦延伸、横延伸は、いずれか一方のみを行ってもよいし(1軸延伸)、組み合わせて行ってもよい(2軸延伸)。2軸延伸の場合、縦、横逐次で実施してもよく(逐次延伸)、同時に実施してもよい(同時延伸)。
縦延伸、横延伸の延伸速度は10%/分〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20%/分〜1000%/分、さらに好ましくは30%/分〜800%/分である。多段延伸の場合、各段の延伸速度の平均値を指す。
【0036】
このような延伸に引き続き、縦あるいは横方向に0%〜10%緩和することも好ましい。さらに、延伸に引き続き、150℃〜250℃で1秒〜3分熱固定することも好ましい。
このような延伸によりフィルムの面内方向のレターデーション(Re)とフィルムの膜厚方向のレターデーション(Rth)との比を、延伸倍率の縦横比および面積倍率を変更することにより、適宜調整することができる。このようにしてRe、Rthを適宜調整することにより、液晶表示パネルのコントラストを向上させることが可能となる。
【0037】
製膜されたフィルムの透過率は、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上である。
製膜されたフィルムの膜厚ムラは、延伸の前後でともに、膜厚方向と幅方向のいずれも0〜2%が好ましく、より好ましくは0〜1.5%、さらに好ましくは0〜1%である。ここでいう「膜厚ムラ」は、フィルムの搬送方向または幅方向に5cm間隔で20点の測定点を直線上に並ぶようにとって、それら各点における膜厚を測定して変動幅を計算したものである。
製膜されたフィルムの微小領域における膜厚変動は、0〜2μmが好ましく、0〜1μmがより好ましく、0〜0.5μmがさらに好ましく、0〜0.2μmが最も好ましい。ここでいう「微小領域における膜厚変動」とは、0.5mm間隔で20点の測定点を直線上に並ぶようにとって、それら各点における膜厚を測定したときの最大値と最小値との差である。
【0038】
製膜されたフィルムの微細異物の数は、10個/mm2以下であることが好ましく、5個/mm2以下であることがより好ましく、3個/mm2以下であることがさらに好ましく、1個/mm2以下であることが特に好ましい。ここでいう「微細異物」とは、セルロースアシレートフィルムを、クロスニコル下の偏光顕微鏡を用いて倍率100倍で観察したときに観測される1〜10μmの輝点である。「微細異物の数」は、フィルムの搬送方向に10cm間隔で10点の測定点を直線上に並ぶようにとって、それら各点における1mm2あたりの微細異物の数を目視で計測し、測定値を平均したものである。
製膜されたフィルムのゲルの数は、3個/m2以下であることが好ましく、1個/m2以下であることがより好ましく、0個/m2以下であることがさらに好ましい。ここでいう「ゲル」とは、セルロースアシレートフィルムを目視で観測したときに観測される0.1〜5mmのフィッシュアイである。本明細書でいう「ゲルの数」は、フィルムの搬送方向に10cm間隔で10点の測定点を直線上に並ぶようにとって、それら各点における1m2あたりのフィッシュアイの数を目視で計測し、測定値を平均したものである。
【0039】
製膜されたフィルムの製膜方向(長手方向)とフィルムのReの遅相軸とのなす角度θは、0±3°、+90±3°もしくは−90±3°であることが好ましく、0±2°、+90±2°もしくは−90±2°であることがより好ましく、0±1°、+90±1°もしくは−90±1°であることがさらに好ましい。
製膜されたフィルムの好ましい巻長は300〜30000mであり、より好ましくは500〜10000m、さらに好ましくは1000〜7000mである。
【0040】
[本発明のセルロースアシレートフィルムの表面処理]
本発明の未延伸および延伸後のセルロースアシレートフィルムには、適宜、表面処理を行うことにより、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗り層やバック層)との接着性等を改善することが可能となる。表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、ケン化処理(酸ケン化処理、アルカリケン化処理)が含まれ、特にグロー放電処理およびアルカリケン化処理が好ましい。
グロー放電処理は、10-3〜20Torrの低圧ガス下で実施する低温プラズマ処理を含む。また、大気圧下でのプラズマ処理も、好ましいグロー放電処理である。プラズマ励起性気体としては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、フロン(例、テトラフルオロメタン)およびそれらの混合物が用いられる。大気圧でのプラズマ処理は、好ましくは10〜1000keV、さらに好ましくは30〜500keVで実施する。照射エネルギーは、20〜500kGyが好ましく、20〜300kGyがさらに好ましい。グロー放電処理については、公開技報2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)30頁〜32頁に記載がある。
【0041】
(アルカリけん化処理)
本発明のフィルムには、アルカリけん化処理を行うことができる。アルカリけん化処理は、フィルムを前記アルカリ溶液でけん化処理する工程、アルカリ溶液をフィルムから洗い落とす工程により実施することができる。その後、アルカリ溶液を中和する工程、および中和液をフィルムから洗い落とす工程を含んでもよい。これらの工程は、フィルムを搬送しながら実施することが好ましく、特開2001−188130号公報記載のようなアルカリ溶液に浸漬する方法を用いてもよく、特開2004−203965号公報記載のようなアルカリ溶液を塗布する方法を用いてもよい。
けん化時間は0.1〜10分であることが好ましく、0.5〜8分であることが好ましく、2〜6分であることがさらに好ましい。
また、液中に溶け出したセルロースアシレートフィルムの添加剤がセルロースアシレートフィルム上に付着して輝点故障(異物欠陥)の発生原因となるため、活性炭を用い、溶出成分を吸着、除去する方法が利用できる。活性炭は、鹸化溶液中の着色成分を除去する機能を有すれば良く、その形態、材質等に制限はない。活性炭を直接アルカリ鹸化溶液槽に入れる方法であったり、鹸化溶液槽と活性炭を充填した浄化装置間に鹸化溶液を循環させる方法であっても構わない。
【0042】
[偏光板]
偏光板は、偏光膜とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルムからなる。本発明のフィルムは、少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして好ましく用いることができ、前記けん化処理したセルロースアシレートフィルムを特に好ましく用いることができる。例えば特開平2001−141926号公報に記載されるように、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸することによって作製した偏光子と、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例、ポリブチルアクリレート)のラテックスなどの接着剤を用いて貼合することにより、偏光板を作製することができる。この際、セルロースアシレートフィルムの水の接触角が55°未満の面を接着面として用いることが好ましく、より水の接触角が低い面を接着面として用いることがより好ましい。
アルカリケン化処理以外の表面処理(特開平6−94915号、同6−118232号の各公報に記載)を併用して実施してもよい。
【0043】
[液晶表示装置]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、前記偏光板用途で好ましく用いることができ、これらのフィルムや偏光板は、下記のような液晶表示装置に好ましく用いることができる。
(一般的な液晶表示装置の構成)
本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合は、偏光素子の透過軸と、セルロースアシレートフィルムからなる光学補償フィルムの遅相軸とをどのような角度で配置しても構わない。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償フィルムを配置した構成を有している。
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層(下塗り層)を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、一般に50μm〜2mmの厚さを有する。
【0044】
(液晶表示装置の種類)
本発明のセルロースアシレートフィルム、およびそれを用いた位相差板、光学補償シートおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。表示モードには、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti-ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Super Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)、およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)が含まれる。また、上記表示モードを配向分割した表示モードも含まれる。液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0045】
(TN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置については、古くから良く知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号、特開平9−26572号の各公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0046】
(STN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムを、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0047】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートのReレターデーション値を0〜150nmとし、Rthレターデーション値を70〜400nmとすることが好ましい。Reレターデーション値は、20〜70nmであることが更に好ましい。VA型液晶表示装置に二枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRthレターデーション値は70〜250nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置に一枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRthレターデーション値は150〜400nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。
【0048】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の光学補償シートの支持体、または偏光板の保護膜としても特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板は色味の改善、視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。この態様においては、液晶セルの上下の前記偏光板の保護膜のうち、液晶セルと偏光板との間に配置された保護膜(セル側の保護膜)に本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板を少なくとも片側一方に用いることが好ましい。更に好ましくは、偏光板の保護膜と液晶セルの間に光学異方性層を配置し、配置された光学異方性層のリターデーションの値を、液晶層のΔn・dの値の2倍以下に設定するのが好ましい。
【0049】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償シートの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。OCB型液晶表示装置あるいはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)p.2837)に記載がある。
【0050】
(反射型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest-Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償シートとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くから良く知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号公報、国際公開WO98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、国際公開WO00/65384号パンフレットに記載がある。
【0051】
(その他の液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)他の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。
【0052】
[その他の用途]
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、またハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへの適用が好ましく実施できる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースアシレートフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースアシレートフィルムを好ましく用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0054】
《実施例1》 セルロースアシレートフィルム11〜17の製造
(1)セルロースアシレートの用意
セルロースアシレートとして、表1に記載される組成を有するものを使用した。表1に記載される組成のうち、アセチル置換度1.00、ブチリル置換度1.66のセルロースアシレートとしては、イーストマンケミカルジャパン(株)製のCAB381−20を購入して使用した。また、表1に記載される組成のうち、アセチル置換度0.18、プロピオニル置換度2.49のセルロースアシレートとしては、イーストマンケミカルジャパン(株)製のCAP482−20を購入して使用した。これらの原料は120℃に加熱して乾燥し、含水率を0.5質量%以下としてから、以下の(2)および(3)において使用した。
【0055】
(2)溶液製膜
攪拌羽根を有し外周を冷却水が循環する400リットルのステンレス製溶解タンクに、含水率が0.2質量以下であるジクロロメタン68質量部、メタノール13質量部、ブタノール3質量部、および添加剤A〜Cのいずれか1種を投入して撹拌、分散させながら、120℃に加熱して乾燥して含水率を0.5質量%以下としたセルロースアシレート30質量部を徐々に添加し室温にて1時間撹拌し、1時間膨潤させた後に再度撹拌を実施してセルロースアシレート溶液を得た。得られたセルロースアシレート溶液を、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(#63、東洋濾紙(株)製)で濾過し、さらに絶対濾過精度2.5μmの濾紙(FH025、ポール社製)にて濾過してセルロースアシレート溶液を得た。上記セルロースアシレート溶液を25℃に加温し、20℃に設定した流延ギーサー(特開平11−314233号公報に記載)を通して15℃に設定したバンド長60mの鏡面ステンレス支持体上に流延した。流延スピードは15m/分、塗布幅は200cmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたポリマーフィルムをバンドから剥ぎ取り、100℃で10分、さらに105℃で20分乾燥した後、10秒でフィルムを室温まで冷却し、100μmの厚みのセルロースアシレートフィルムを得た。得られたフィルムは両端を3cm裁断し、さらに端から2〜10mmの部分に高さ125μmのナーリングを付与し、1000mロール状に巻き取ることにより、セルロースアシレートフィルムを溶液製膜法で製造した。このとき、100℃10分間の乾燥後のライン上にカッター刃を設置することによりセルロースアシレートフィルムをトリミングし、そこで得られたセルロースアシレート屑を(3)で用いた。
なお、溶液製膜工程で用いた溶液には、表1に記載される添加剤A〜Cのいずれか1種を添加した。添加剤A〜Cの詳細は以下のとおりである。
【0056】
・添加剤A(下記構造のレターデーション上昇剤)
【化1】

・添加剤B(下記構造のレターデーション上昇剤)
【化2】

・添加剤C
ジオクチルアジペート
【0057】
(3)セルロースアシレート原料の調製
溶液製膜工程で得られた表1記載の添加剤を含有した品種のセルロースアシレート屑を裁断して、0.5〜3cm角のチップ状に破砕し、120℃で3時間乾燥して含水率0.1質量%の回収チップを得た。また、乾燥後に得られた回収チップの有機溶媒含有量をガスクロマトグラフィーを用いて定量することにより測定した結果、有機溶媒含有量は0.1〜3質量%であった。さらに、回収チップに含まれる添加剤量を、チップを塩化メチレンに溶解した後、UV吸収スペクトルを測定することにより定量した。
このようにして得られた回収チップと(1)で用意したセルロースアシレートとを、回収チップの割合が表1に記載される割合になるように混合してセルロースアシレート原料を調製した。またこのとき、セルロースアシレートに対して表1に記載される添加剤A〜Cが4質量%になり、二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)が0.05質量%になるように不足分を添加した。
得られたセルロースアシレート原料のTgを以下の方法により測定した。すなわち、DSCの測定パンにセルロースアシレート原料を20mg入れ、窒素気流中にて10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却した。この後、再度30℃から250℃まで昇温して、ベースラインが低温側から偏奇し始める温度をTgとした。
【0058】
(4)溶融製膜
(3)で調製したセルロースアシレート原料を(Tg−10)℃になるように調整したホッパーに投入し、210℃で5分間かけ溶融した後、絶対濾過精度0.04mmのフィルター(FH400、ポール社製)で濾過してセルロースアシレートメルトを得た。これをT/D比(リップ間隔/製膜フィルムの厚み)を1.0、キャスティングドラム(CD)とダイの間隔(CD−ダイ間の間隔を製膜幅で割り百分率で示したもの)を10%として製膜した。このとき、キャスティングドラムの速度を押出し速度のT/D倍にすることで所望の厚み(D)のフィルムを得た。この時、ダイの両端の温度を中央部より10℃だけ高くした。
キャスティングドラムは(Tg−10)℃とし、この上で固化しフィルムとした。この時、各水準静電印加法(10kVのワイヤーをメルトのキャスティングドラムへの着地点から10cmのところに設置)を用いた。固化したメルトを剥ぎ取り、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、30m/分で3000m巻き取った。このようにして得たフィルムの幅は各水準とも1.5mであり、厚みは100μmであった。
【0059】
《実施例2》 セルロースアシレートフィルム21と22の製造
以下の手順によりセルロースアシレート原料をペレット化した点を変更して実施例1と同じ方法を実施することにより、表1に記載されるフィルム21とフィルム22を製造した。
【0060】
(セルロースアシレート原料のペレット化)
セルロースアシレート原料を2軸混練押出し機のホッパーに入れて混練した。なお、この2軸混練押出し機には真空ベントを設け、真空排気(0.3気圧に設定)を実施した。このようにして融解した後、水浴中に直径3mmのストランド状に押出し1分間浸漬した後(ストランド固化)、10℃の水中を30秒通過させ温度を下げた後、長さ5mmに裁断した。調製したペレットは100℃で10分間乾燥した。
【0061】
《比較例》 セルロースアシレートフィルム31の製造
特開2000−352620号公報の実施例の試料No.11に準じてフィルム31を製造した。
【0062】
《評価》
製造した各セルロースアシレートフィルムについて、微小領域における膜厚変動、微細異物の数、ゲルの数を、前述の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
《実施例3》 偏光板および液晶表示装置の製造
(1)フィルムの延伸
上で得られた未延伸セルロースアシレートフィルムを搬送方向および幅方向に同時二軸延伸して、ReおよびRthをそれぞれ60nmおよび200nmに調整した。このとき、延伸はセルロースアシレートフィルムのTgより15℃高い温度で実施した。
【0065】
(2)偏光板の製造
延伸セルロースアシレートフィルムを55℃に調温した3mol/LのNaOH水溶液(けん化液)に4分間浸漬した後、水洗浴を通し、さらに0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒間浸漬した後、水洗浴を通してけん化した。
特開平2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸して作製した厚み20μmの偏光層に対し、上でけん化したセルロースアシレートフィルムをポリビニルアルコール((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として貼り合わせて偏光板を作製した。
【0066】
(3)液晶表示装置の製造
製造した偏光板を、富士通(株)製15インチディスプレーVL−1530S(VA方式)の偏光板に代えて使用した。
このようにして得た液晶表示装置を全面黒表示として真っ暗な部屋の中に置いて明るさを光度計で測定し、測定した光量の値を、全面白表示にしたときの値で割った光漏れ量で評価したところ、実施例のセルロースアシレートフィルムを用いた液晶表示装置では、光漏れが3%以下と少なく、良好な性能を示した。これに対し、比較例のセルロースアシレートフィルムを用いた液晶表示装置では、光漏れ量が8%以上と大きいためにコントラストが悪く、フィッシュアイゲル周辺部の表示ムラや膜厚変動に伴う表示ムラが観測されたため、表示性能に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、微細異物やゲルが少なくて、表面の平滑性に優れたセルロースアシレートフィルムを溶融製膜法で提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、従来から用いられている溶液製膜法で生じたセルロースアシレート屑を有効利用して優れた性質を有する溶融製膜セルロースアシレートフィルムを製造することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板や液晶表示装置は、光漏れや表示ムラが生じにくくて信頼性が高いという利点を有する。本発明によれば環境問題に対応しながら優れた製品を提供しうることから、本発明は産業上の利用可能性が高い発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液をろ過した後に乾燥することによってセルロースアシレート原料を調製し、さらに該セルロースアシレート原料を含有する樹脂原料を加熱溶融して製膜する工程を有することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液をろ過した後に製膜することにより溶液製膜セルロースアシレートフィルムを製造する工程と、該フィルムおよび/または該フィルムの製膜過程で得られるセルロースアシレート屑を含有する樹脂原料を加熱溶融して製膜することにより溶融製膜セルロースアシレートフィルムを製造する工程とを有することを特徴とする、セルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記セルロースアシレート屑が、溶液製膜セルロースアシレートフィルムのトリミングにより生じたものであることを特徴とする請求項2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
セルロースアシレートを加熱溶融して製膜することにより形成され、微小領域における膜厚変動が0〜2μmであることを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
微細異物の数が0〜10個/mm2であり、ゲルの数が0〜3個/m2であることを特徴とする請求項4に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルム、請求項2または3に記載される製造方法により製造される溶融製膜セルロースアシレートフィルム、もしくは請求項4または5に記載されるセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板。
【請求項7】
請求項1に記載の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルム、請求項2または3に記載される製造方法により製造される溶融製膜セルロースアシレートフィルム、もしくは請求項4または5に記載されるセルロースアシレートフィルムを用いた液晶表示装置。

【公開番号】特開2006−263992(P2006−263992A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−82640(P2005−82640)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】