説明

セルロース繊維、セルロース繊維含有重合体、樹脂組成物及び成形体。

【課題】透明性に優れ、かつ機械的強度にも優れる成形体を提供し得るセルロース繊維、セルロース繊維含有重合体および樹脂組成物の提供。
【解決手段】下記式(1)で示される繰り返し単位を含むことを特徴とするセルロース繊維。


(前記式(1)中、Xはラジカル重合可能な有機基であり、nは1以上の整数。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維、セルロース繊維含有重合体、樹脂組成物及び成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂の熱線膨張係数の低減、または弾性率、曲げ強度等の機械的強度を上げるために球状フィラーや繊維状フィラーを充填材として配合することが広く行われている。近年では、シリカ微粒子等の球状の微粒子状充填剤や棒状のウィスカー状充填剤等のナノサイズの充填剤を用いる研究が盛んになっている。
【0003】
このようなナノサイズの充填剤を用いる一手段として、セルロースを利用したプラスチック代替品が多く報告されている。例えば、セルロースを高圧ホモジナイザーと呼ばれる装置で極めて高い圧力でフィブリル状物質を高度に微細化して得られたセルロースミクロフィブリルを充填材として用いる方法が挙げられる。その他セルロースをミクロフィブリル化して充填材として用いるために、セルロースをダウンサイジングする方法として、マイクロフリュイダイザー法、グラインダー法、凍結乾燥法、強せん断力混練法およびボールミル粉砕法が挙げられる。これらの方法により得られたセルロースのミクロフィブリルを充填材に用いると、比較的強度の高い成形体が得られるという報告がされている。(例えば特許文献1参照)。
【0004】
セルロースをミクロフィブリル化する方法として、セルロースのC6位のメチロールをN−オキシル化合物を使用して酸化処理し、アルデヒド基やカルボキシル基を導入することで、セルロースミクロフィブリルを水中に分散させる技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。これにより、平均繊維径が15nm以上であるセルロースミクロフィブリルから平均繊維径が数nm程度のセルロースシングルナノファイバーまでを比較的容易に解繊することができることが報告されている。
【0005】
しかし、前記技術により得られたセルロースシングルナノファイバーは、フェノール樹脂やエポキシ樹脂と配合すると凝集体を形成し、ナノスケールで均一に分散させることが困難である。それゆえ、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等に配合した場合に、得られる成形体の透明性が低い、機械的強度が不十分であるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−201695号公報
【特許文献2】特開2008−1728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、透明性に優れ、かつ機械的強度にも優れる成形体を提供し得るセルロース繊維、セルロース繊維含有重合体および樹脂組成物を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、透明性に優れ、かつ機械的強度にも優れる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(12)の本発明により達成される。
(1) 下記式(1)で示される繰り返し単位を含むことを特徴とするセルロース繊維。
【化1】

(前記式(1)中、Xはラジカル重合可能な官能基を含む有機基である。nは1以上の整数である。)
(2)前記式(1)で示される繰り返し単位の含有量が、セルロース繊維の重量に対して0.2mmol/g以上、2.2mmol/g以下である上記(1)に記載のセルロース繊維。
(3)前記ラジカル重合可能な官能基が、アゾ基及びペルオキシ基の少なくともいずれか一方を含む有機基である上記(1)または(2)に記載のセルロース繊維。
(4)前記セルロース繊維が、下記式(2)の繰り返し単位を含む化合物に下記式(3)で表わされるアゾ化合物を反応させることで得られる上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のセルロース繊維。
【化2】

(前記式(2)中、Rは水酸基もしくはハロゲン原子であり、mは1以上の整数である。)
【化3】

(前記式(3)中、Xはカルボキシル基と反応性のある官能基を少なくとも1つ含む有機基であり、 Xはカルボキシル基と反応性のある官能基を少なくとも1つ含む有機基、水素原子、水酸基または1以上の炭素原子を含む有機基である。)
(5)前記セルロース繊維が、下記式(2)の繰り返し単位を含む化合物に下記式(4)で表わされる過酸化物を反応させることで得られる前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のセルロース繊維。
【化4】

(前記式(2)中、Rは水酸基もしくはハロゲン原子であり、mは1以上の整数である。)
【化5】

(前記式(4)中、Xはカルボキシル基と反応性のある官能基を少なくとも1つ含む有機基である場合、Xは水素原子または1以上の炭素原子を含む有機基であり、
またXが水素原子である場合、Xはカルボキシル基と反応性のある官能基を少なくとも1つ含む有機基または1以上の炭素原子を含む有機基である。)
(6)前記カルボキシル基と反応性のある官能基が、アミノ基、エポキシ基、水酸基、チオール基、およびイソシアネート基の中から選ばれる1つ以上の官能基である上記(4)または(5)に記載のセルロース繊維。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載のセルロース繊維と、ラジカル重合性モノマーとを重合してなるセルロース繊維含有重合体。
(8)前記セルロース繊維含有重合体と、樹脂とを含む樹脂組成物。
(9)前記樹脂が、熱硬化性樹脂である上記(8)に記載の樹脂組成物。
(10)前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である上記(9)に記載の樹脂組成物。
(11)前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である上記(9)に記載の樹脂組成物。
(12)前記セルロース繊維含有重合体の含有量が、前記樹脂100重量部に対して5重量部以上、100重量部以下である上記(8)〜(11)のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
(13)上記(7)〜(12)のいずれか1つに記載の樹脂組成物を用いて得られる成形体。
(14)厚み30μmにおける全光線透過率が70%以上である(13)に記載の成形体。
(15)曲げ強度が50N以上である(13)または(14)に記載の成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明性に優れ、かつ機械的強度にも優れる成形体を提供し得るセルロース繊維、セルロース繊維含有重合体および樹脂組成物を提供することが可能である。また、透明性に優れ、かつ機械的強度にも優れる成形体を提供することも可能である。
前記セルロース繊維と、ラジカル重合性モノマーとを重合してなるセルロース繊維含有重合体は、様々な樹脂との分散性に優れるため、特に透明性に優れ、かつ機械的強度にも優れる成形体を提供することができる。

【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のセルロース繊維、セルロース繊維含有重合体、樹脂組成物及び成形体について詳細に説明する。
【0011】
本発明のセルロース繊維は、式(1)で示される繰り返し単位を含むことを特徴とするセルロース繊維である。
【化6】

(前記式(1)中、Xはラジカル重合可能な官能基を含む有機基である。nは1以上の整数である。)
【0012】
本発明のセルロース繊維含有重合体は、前記セルロース繊維と、ラジカル重合性モノマーとを重合してなるセルロース繊維含有重合体である。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、前記セルロース繊維含有重合体と、樹脂とを含む樹脂組成物である。
【0014】
本発明の成形体は、樹脂組成物を用いて得られる成形体である。
【0015】
[セルロース繊維]
まず、本発明のセルロース繊維について説明する。
【0016】
本発明のセルロース繊維は、式(1)で示される繰り返し単位を含むことを特徴とするセルロース繊維である。
【化7】

(前記式(1)中、Xはラジカル重合可能な官能基を含む有機基である。nは1以上の整数である。)
【0017】
式(1)中のXはラジカル重合可能な官能基を含む有機基であれば特に限定されるものではなく、例えばアゾ基やペルオキシ基、ペルオキシエステル基、ペルオキシカーボナート基、トリクロロアセチル基等を含む有機基があげられる。これらの中でも、アゾ基及びペルオキシ基の少なくともいずれか一方を含む有機基であることが好ましい。これにより、特殊な試薬を用いる必要がなく、比較的温和な反応条件で後述のセルロース繊維含有重合体を得ることができる。
【0018】
本発明のセルロース繊維の繰り返し単位の数について、nは1以上であれば特に限定されないが、nは100以上であることが好ましく、200以上、100000以下であることがより好ましい。前記のセルロース繊維の繰り返し単位の数nが範囲内であると、成形体における補強効果が得られやすく、曲げ強度などの機械的強度の向上及び熱線膨張係数の低減化が図れる。
【0019】
前記セルロース繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、4nm以上、1000nm以下であることが好ましく、8nm以上、200nm以下であることがより好ましい。前記の平均繊維径の範囲内だと、セルロース繊維特有の優れた特性が現れやすくなり、樹脂組成物を用いて得られる成形体における透明性および曲げ強度などの機械的強度の向上につながる。
【0020】
また本発明のセルロース繊維の長さについては特に限定されないが、繊維の平均長さが0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上、50μm以下であることがより好ましい。前記の繊維の平均長さが範囲内だと、成形体における補強効果が得られやすく、曲げ強度などの機械的強度の向上及び熱線膨張係数の低減化が図れる。
【0021】
前記セルロース繊維は、式(1)で示される繰り返し単位が少なくとも1つを含むものであればよいが、式(1)で示される繰り返し単位の含有量が、セルロース繊維の重量に対して0.2mmol/g以上、2.2mmol/g以下であることが好ましく、0.5mmol/g以上、2.0mmol/g以下がより好ましい。前記繰り返し単位の含有量が前記下限値以上であると、樹脂と混合したときの分散性がより優れ、前記上限値以下であると、特に透明性に優れたものとなる。
【0022】
本発明の式(1)で示される繰り返し単位を含むことを特徴とするセルロース繊維の合成方法は特に限定されないが、例えば式(2)の繰り返し単位を含む化合物に式(3)で表わされるアゾ化合物または式(4)で表わされる過酸化物を反応させることで得ることができる。
【0023】
式(2)の繰り返し単位を含む化合物に式(3)で表されるアゾ化合物を反応させる方法は特に限定されないが、例えば式(2)の繰り返し単位を含む化合物におけるRが水酸基である場合、水酸基は塩化チオニル、塩化オキサリル、三臭化リンなどのハロゲン化剤を用いた公知の方法によりハロゲン化することができ、式(3)で示されるアゾ化合物は、X及びXの少なくともどちらか一方が、カルボキシル基と反応性のある官能基を含む有機基であることから、式(2)の繰り返し単位を含む化合物と反応し、式(1)で示される繰り返し単位を含むことを特徴とするセルロース繊維が得られる。尚、本発明におけるカルボキシル基は、ハロゲン化されたカルボキシル基も含まれるものとする。
また、Rが水酸基の場合でも、強酸などの適切な触媒存在下、前記アゾ化合物と式(2)の繰り返し単位を含む化合物とを反応させるなどの方法を用いてもよい。
【0024】
式(2)の繰り返し単位を含む化合物に式(4)で表される過酸化物を反応させる方法は特に限定されないが、例えば式(2)の繰り返し単位を含む化合物におけるRが水酸基である場合、水酸基は塩化チオニル、塩化オキサリル、三臭化リンなどのハロゲン化剤を用いた公知の方法によりハロゲン化することができ、式(4)で示される過酸化物は、Xはカルボキシル基と反応性のある官能基を少なくとも1つ含む有機基である場合、Xは水素原子または1以上の炭素原子を含む有機基であり、またXが水素原子である場合、Xはカルボキシル基と反応性のある官能基を少なくとも1つ含む有機基または1以上の炭素原子を含む有機基であることから、式(2)の繰り返し単位を含む化合物と反応し、式(1)で示される繰り返し単位を含むことを特徴とするセルロース繊維が得られる。1以上の炭素原子を含む有機基とは、特に限定されないが、直鎖または分枝アルキル基、アルケニル基、アリル基等の炭化水素基、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基等が含まれる。
また、Rが水酸基の場合でも、強酸などの適切な触媒存在下、前記過酸化物と式(2)の繰り返し単位を含む化合物とを反応させるなどの方法を用いてもよい。
【0025】
また、カルボキシル基と反応性のある官能基を少なくとも一つ含む有機基として、アミノ基、エポキシ基、水酸基、チオール基、イソシアネート基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、アジリジン基等を少なくとも一つ含む有機基が挙げられる。このなかでもカルボキシル基と反応性のある官能基として、アミノ基、エポキシ基、水酸基、チオール基、およびイソシアネート基の中から選ばれる1つ以上の官能基を含む有機基が好ましい。これにより、比較的温和な条件で反応を実施することが可能となる。
【0026】
本発明の分子中に式(1)および(2)で表される繰り返し単位を含むセルロース繊維に用いる原料のセルロース繊維について説明する。原料のセルロース繊維は、分子中にβグルコースがグリコシド結合により重合した構造が含まれていれば何ら限定されないが、針葉樹や広葉樹から得られる精製パルプ、コットンリンターやコットンリントより得られるセルロース、バロニアやシオグサなどの海草より得られるセルロース、ホヤより得られるセルロース、バクテリアの生産するセルロースなどの天然セルロース、前記天然セルロースを微細化した再生セルロースを使用することが出来る。しかしながら特に力学強度の観点からは高結晶性のものが好ましく、その点で再生セルロースよりも天然セルロースより得られる繊維を用いることが好ましい。
また前記の原料セルロースは、必要に応じて、機械的に解繊処理を施した、機械処理されたセルロース繊維を用いることが好ましい。解繊することで、前記の変性に必要な種々の工程において、反応試剤との接触面積を高め、反応率を向上させることができる。原料のセルロース繊維を解繊する方法としては特に限定されず公知の方法を使用することが出来、例えば媒体撹拌ミル処理装置、振動ミル処理装置、高圧ホモジナイザー処理装置、超高圧ホモジナイザー処置装置などの繊維を解繊する機能を有する装置を用いて繰り返し処理する方法などがある。また、エレクトロスピニング法、スチームジェット法、APEX(登録商標)技術(Polymer Group.Inc)法などを採用することが出来る。
【0027】
本発明の分子中に式(2)で表される繰り返し単位を含むセルロース繊維の合成方法としては、前記原料のセルロース繊維とN−オキシル化合物とを反応させることにより誘導することができるが、好ましくは、天然セルロース、より好ましくは前記機械処理された天然セルロース繊維を用いて、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより該天然セルロースを酸化して得られた酸化処理されたセルロース繊維であることが好ましい。
【0028】
ここで、セルロース繊維の重量に対するセルロースのカルボキシル基の量及び酸化処理での副生成物であるアルデヒド基(mmol/g)は、以下の手法により評価する。
乾燥重量を精秤したセルロース試料から0.5〜1重量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式を用いて官能基量1を決定する。該官能基量1がカルボキシル基の量を示す。
官能基量1(mmol/g)=V(ml)×0.05/セルロースの質量(g)
次に、セルロース試料を、酢酸でpHを4〜5に調製した2%亜塩素酸ナトリウム水溶液中でさらに48時間常温で酸化し、上記手法によって再び官能基量2を測定する。この酸化によって追加された官能基量(=官能基量2−官能基量1)を算出し、アルデヒド基量とする。
【0029】
[セルロース繊維含有重合体]
次に、本発明のセルロース繊維含有重合体について説明する。
【0030】
本発明のセルロース繊維含有重合体は、前記セルロース繊維と、ラジカル重合性モノマーとを重合してなるセルロース繊維含有重合体である。
【0031】
前記セルロース繊維含有重合体に用いるラジカル重合性モノマーとしては、特に限定されないが、メタクリル酸、アクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート系モノマー、メチルアクリレート、エチルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリレート系モノマー、スチレン、α−メチルスチレン、m−スチレンスルホン酸等のスチレン系モノマー、エチレン、プロピレン、イソブテン等のα−オレフィン系モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル系モノマー、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン系モノマー、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、4−ビニルピリジン等のビニル置換複素芳香族系モノマー、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等のアクリルアミド系モノマー、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド系モノマー、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、マレイン酸、無水マレイン酸、ブタジエン、イソプレン等のジエン系モノマー、ジアリルフタレートなどのアリル基を2つ有するジアリル系モノマーなどが挙げられるが、特にメチルメタクリレート、スチレンは、本発明で用いるフェノール樹脂及びエポキシ樹脂と親和性が優れるため好ましい。
【0032】
前記セルロース繊維含有重合体は、ラジカル重合性モノマーにより前記式(1)で表されるセルロース繊維がグラフト重合されたものである。ここで前記セルロース繊維に対するラジカル重合性モノマーの量は、前記セルロース繊維100%に対する、グラフト重合体部の割合としてグラフト率と定義すると、前記セルロース繊維含有重合体のグラフト率は、5%以上、500%以下が好ましく、10%以上、200%以下がより好ましい。グラフト率が前記範囲内であることにより、透明性及び曲げ強度などの機械的強度が特に優れる。
【0033】
前記セルロース繊維と前記ラジカル重合性モノマーとの重合方法は、特に限定されないが、これらを溶剤に溶解させた溶液を脱気または不活性ガス雰囲気下で、加熱撹拌しながら重合させる方法や、加熱以外に光や放射線の照射により重合させる方法等も挙げられるが、設備コスト等の観点から、加熱撹拌しながら重合させる方法が好ましい。
【0034】
[樹脂組成物]
次に、本発明における樹脂組成物について説明する。
【0035】
本発明における樹脂組成物は、前記セルロース繊維含有重合体と、樹脂とを含む樹脂組成物である。
【0036】
前記樹脂組成物に用いる樹脂としては、特に限定されないが、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリグリシジルメタクリレート等のポリメタクリレート系樹脂、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリグリシジルアクリレート等のポリアクリレート系樹脂、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(m−スチレンスルホン酸)等のポリスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリプロピオン酸ビニル、ポリ安息香酸ビニル等のポリビニルエステル系樹脂、ポリビニルメチルケトン、ポリビニルヘキシルケトン、ポリメチルイソプロペニルケトン等のポリビニルケトン系樹脂、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルピロール)、ポリ(4−ビニルピリジン)等のポリビニル置換複素芳香族系樹脂、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)等のポリアクリルアミド系、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルメタクリルアミド)等のポリメタクリルアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル等のポリハロゲン化ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリマレイン酸、ポリブタジエン、ポリイソプレン等のポリジエン系樹脂、ポリジアリルフタレートなどのアリル基を2つ有するポリジアリル系樹脂等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド、ベンゾオキサジン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。この中でも熱硬化性樹脂が好ましく、特にフェノール樹脂やエポキシ樹脂が好ましい。これにより、特に透明性に優れ、かつ曲げ強度などの機械的強度も向上することができる。
【0037】
前記樹脂組成物に用いるフェノール樹脂としては、分子内にフェノール性水酸基を1つ以上有する化合物が含まれ、ノボラック型フェノール、ノボラック型クレゾール、ノボラック型ナフトールなどのノボラック樹脂やビスフェノールF、ビスフェノールAなどのビスフェノール樹脂、パラキシリレン変性フェノール樹脂などのフェノールアラルキル樹脂、ジメチレンエーテル型レゾール、メチロール型フェノール等のレゾール型フェノール樹脂、前記樹脂等をさらにメチロール化させた化合物、フェノール性水酸基を1つ以上含むリグニンやリグニン誘導体、リグニン分解物、さらにリグニンやリグニン誘導体、リグニン分解物を変性したもの、あるいはこれらを石油資源から製造されたフェノール樹脂と混合した物を含むものであるが、ノボラック型フェノール樹脂および/またはレゾール型フェノール樹脂が、成形物における透明性および強度の向上させることができるため好ましい。
【0038】
前記樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂としては、分子内にエポキシ基を1つ以上有する化合物が含まれ、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などのビスフェノール型のエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型のエポキシ樹脂、フェニレン骨格、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型のエポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するビフェニル型のエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、カルド骨格を有するエポキシ樹脂、ポリシロキサン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式多官能のエポキシ樹脂、水添ビフェニル骨格を有する脂環式のエポキシ樹脂、水添ビスフェノールA骨格を有する脂環式のエポキシ樹脂などが挙げられ、これらを単独または2種類以上を混合した物を含むものであるが、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、および/または、ビフェニル型エポキシ樹脂が、樹脂組成物を用いて得られる成形体における透明性および強度を向上させることができるため好ましい。
【0039】
前記樹脂組成物には、必要に応じて、従来の熱硬化性樹脂に使用される各種添加剤、例えば硬化剤、若しくは硬化触媒、ステアリン酸亜鉛、若しくはステアリン酸カルシウムなどの離型剤、前記セルロース繊維とフェノール樹脂との界面強化のために、カップリング剤、特性を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、他の無機フィラー等の充填剤等を配合することもできる。これらを配合することで、樹脂組成物を用いて得られる成形体の耐腐食性等が改善される。
【0040】
前記樹脂組成物におけるセルロース繊維含有重合体の含有量は、前記樹脂100重量部に対して5重量部以上、100重量部以下であるであることが好ましく、10重量部以上、90重量部以下がより好ましい。前記セルロース繊維含有重合体の含有量が前記下限値以上であると、樹脂と混合したときの分散性がより優れ、前記上限値以下であると、樹脂組成物を用いて得られる成形体における透明性及び曲げ強度などの機械的強度が特に良好となり、熱線膨張係数の低減化も図れる。
【0041】
前記樹脂組成物を得る方法としては、任意の方法により得ることができる。本発明のセルロース繊維含有重合体は、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの有機溶剤中に分散することができ、この状態で該セルロース繊維含有重合体と前記熱硬化性樹脂とを混合させて、熱硬化性樹脂にセルロース繊維含有重合体が均一に分散した透明性の高い樹脂組成物を得ることが可能となる。セルロース繊維含有重合体を有機溶剤中に分散させる際は、必要に応じてホモジナイザーなどの分散装置を用いてセルロース繊維含有重合体の解繊処理を施すことが好ましく、熱硬化性樹脂にセルロース繊維含有重合体を均一に分散させる際においても、必要に応じてホモジナイザーなどの分散装置を用いてセルロース繊維含有重合体の解繊処理することがより好ましい。前記のセルロース繊維含有重合体と熱硬化性樹脂とを混合させて樹脂組成物を得る方法は一例であり、例えば、熱硬化性樹脂と本発明のセルロース繊維含有重合体を溶媒を用いないで、二軸混練機やロール、ニーダーなどで混合・分散するなど、必要に応じて適切な方法を採用することは何ら差し支えない。
【0042】
[成形体]
次に、本発明における成形体について説明する。
【0043】
本発明における成形体とは、前記樹脂組成物を用いて得られる成形体である。
【0044】
成形体とは、太陽電池用基板、有機EL用基板、電子ペーパー用基板、液晶表示素子用プラスチック基板、光学シート、光学フィルムなどの光学特性が重要な特性である成形体、またはダッシュボードやインスツルメントパネルなどの自動車用内装部品などの機械的強度が重要な特性である成形体等が挙げられる。
【0045】
前記成形体の製造方法としては、従来からの溶融注型による成形方法を用いることができ、前記用途の成形体の場合、トランスファー成形、コンプレッション成形、インジェクション成形などの成形方法を用いることが好ましい。
【0046】
また、本発明で得られる成形体は、太陽電池用基板、有機EL用基板、電子ペーパー用基板、液晶表示素子用プラスチック基板、光学シート、光学フィルムなどの光学特性が重要な特性である成形体、として用いる場合、厚み30μmにおける全光線透過率が70%以上であることが好ましく、特に好ましくは80%以上である。
【0047】
また、本発明で得られる成形体は、ダッシュボードやインスツルメントパネルなどの自動車用内装部品などの機械的強度が重要な特性である成形体として用いる場合、JIS K 7171の評価方法に従い、厚み1mm、幅10mmの試験片を用いた場合の曲げ強度が50N以上であることが好ましく、特に70N以上であることが好ましい。
【実施例】
【0048】
本発明を実施例に基づいて説明するが、構造の解析および特性評価方法は、以下の通りとした。
【0049】
(a)FT−IR
フーリエ変換赤外分光光度計IRPrestige−21(株式会社島津製作所製)でFT−IRスペクトルを測定した。
【0050】
(b)NMR
FT−NMR装置ECA−400(日本電子株式会社製)で固体NMR法による13C−NMRを測定した。
【0051】
(c)全光線透過率
ヘイズメーターNDH−2000(日本電色社製)で全光線透過率を測定した。
【0052】
(d)曲げ強度
JIS K 7171に準拠し、伸展間距離36mm、クロスヘッド速度1mm/分、23℃、相対湿度60%下で株式会社オリエンテック社製UCT−30T型テンシロンで測定した。
【0053】
(作製例1)
乾燥重量で2重量部相当分の未乾燥のパルプ(主に1000nmを超える繊維径の繊維から成る)、0.025重量部のTEMPO(2,2,6,6‐テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)および0.25重量部の臭化ナトリウムを水150重量部に分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなるように次亜塩素酸ナトリウムを加えて反応を開始した。反応中は自動滴定装置を用い、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、0.5Mの塩酸水溶液でpH7に中和し反応物をろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を6回繰り返し、固形分量2重量%の水を含浸させた酸化処理されたセルロース繊維を得た。
【0054】
次に、酸化処理されたセルロース繊維に水を加え0.2重量%混合液とした。
この混合液を高圧ホモジナイザー(ノロ・ソビア社製、15−8TA)型)を用いて圧力20MPaで10回処理し、酸化処理されたセルロース繊維の水分散液を得た。
また、乾燥させて得られた膜状のセルロースの広角X線回折像から、セルロースI型結晶構造を有するセルロースから成ることが示され、また同じ膜状セルロースのATRスペクトルのパターンからカルボニル基の存在が確認され、上述した方法により評価したセルロース中のアルデヒド基の量およびカルボキシル基の量はそれぞれ0.31mmol/g、および1.67mmol/gであった。
【0055】
さらに、前記セルロース繊維の水分散液を、1Mの塩酸を用いてpH1に調整し24時間攪拌することで、酸化処理されたセルロース繊維の凝集物を得た。次に該凝集物をアセトンで洗浄し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)で洗浄した。酸化処理されたセルロース繊維の凝集物にNMPを加え前記酸化処理されたセルロース濃度0.2重量%とし、超音波ホモジナイザー(ヒールッシャー社製、UP400S)を用いて30分間処理し、酸化処理されたセルロース繊維のNMP分散液を得た。
酸化処理されたセルロース繊維のNMP分散液を3つ口セパラブルフラスコに移し、窒素気流化において氷水浴中で10℃以下に冷却しながら、塩化チオニルを前記NMP分散液中の酸化処理されたセルロース繊維のC6位のメチロール由来の炭素数と当モル滴下した。さらに3つ口セパラブルフラスコをオイルバスに移し、窒素気流化70℃で4時間反応させた後、後処理を行い、式(2)の繰り返し単位を含む化合物(ただし、この場合式(2)のRが塩素原子と考えられる)を得た後、超音波ホモジナイザーを使用して0.2重量%のNMP溶液を作製した。
【0056】
また、セルロース繊維を酸化処理する過程で、TEMPOや臭化ナトリウム等の仕込み量を変えることで、表1に示す前記セルロース繊維のNMP溶液を調製した。
【0057】
【表1】

【0058】
(作製例2)
原料のセルロース繊維「セリッシュ(ダイセル化学工業製)KY100G(セルロース分濃度10重量%)」に水を加え、0.2重量%の混合液とした。この混合液を高圧ホモジナイザー(ノロ・ソビア社製、15−8TA)型)を用いて圧力20Mpaで10回処理し、機械処理されたセルロース繊維の水分散液を得た。このセルロース繊維を原料4とした。
【0059】
(実施例1)
乾燥管をつけた3つ口セパラブルフラスコに作製例1で得られた原料1のセルロース繊維のNMP溶液と水酸化ナトリウムを入れた後、前記式(4)の化合物として、t−ブチルヒドロペルオキシド溶液(デカン溶液、シグマ アルドリッチ製)(前記式(2)の繰り返し単位を含む化合物におけるC6位のメチロール由来の炭素数と当モル以上)をNMPに5質量%となるように加えた混合液を撹拌しながら窒素雰囲気下で滴下し、その後、室温で10時間撹拌した。反応終了後、減圧ろ過して不溶分を除去し、ろ液を大過剰のヘキサンに再沈殿させ、析出物をろ過した後、該析出物をNMPにホモジナイザーを使用して溶解・分散させ、大過剰の水に3回再沈殿させることで粗生成物の精製を行い、本発明の分子中に式(1)で表される繰り返し単位を含むペルオキシ基含有セルロース繊維を得た。得られたセルロース繊維をFT−IRにより測定した結果、セルロースに由来するスペクトル、t−ブチルヒドロペルオキシドのペルオキシ基に由来するスペクトルがそれぞれ観察された。また、セルロース繊維を固体NMR法による13C−NMR測定を行った結果、C6位の原料メチロール由来の炭素と結合を形成したt−ブチルヒドロペルオキシドが観測された。
前記セルロース繊維100重量部にNMPを加え該セルロース濃度0.2重量%の混合液とし、ラジカル重合性モノマーとして、スチレン(東京化成工業製)を200重量部加え、室温で30分間窒素をバブリングした後、80℃で8時間撹拌しながら重合させた。反応終了後、不溶分を除去し、ろ液を大過剰のメタノールに再沈殿させ、析出物をろ過した後、該析出物をNMPにホモジナイザーを使用して溶解・分散させ、大過剰の水に3回再沈殿させることで粗生成物の精製を行い、本発明のセルロース繊維含有重合体を得た。得られたセルロース繊維含有重合体をFT−IRにより測定した結果、セルロースに由来するスペクトル、ポリスチレンの芳香環に由来するスペクトルがそれぞれ観察された。また、セルロース繊維を固体NMR法による13C−NMR測定を行った結果、C6位の原料メチロール由来の炭素と結合を形成したポリスチレンが観測された。さらに、重合体部のグラフト率は、98%であった。
次に、前記セルロース繊維含有重合体にNMPを加え該重合体濃度0.2質量%の混合液とし、超音波ホモジナイザーを用いて30分間処理し、セルロース繊維含有重合体のNMP分散液を得た。
その後、前記分散液中のセルロース繊維含有重合体50重量部に対してノボラック型フェノール樹脂A1087(住友ベークライト製)を100重量部配合、撹拌し、セルロース繊維含有重合体が均一に分散した混合物を得た。得られた前記混合物を離型処理したシャーレに注ぎ、温度140℃の熱板上で8時間脱溶媒処理をして、樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を表面が平滑なステンレス板に挟み、プレス機により90℃で成形し、30μmのフィルムを得た。光線透過率を測定したところ、全光線透過率は82%であった。
前記と同様の手法により得られた樹脂組成物を粉砕し、樹脂組成物中のノボラック型フェノール樹脂10重量部に対して、ヘキサメチレンテトラミン(三菱ガス化学製)1.5重量部を配合し、ミキサーで3分間混合した後、2本ロールにより100℃で溶融混練して、成形材料に用いる樹脂組成物を得た。得られた成形材料に用いる樹脂組成物を圧縮成形で125℃で2時間、150℃で2時間硬化させ、厚み1mm、幅10mmのテストピースを得た。曲げ強度を測定した結果、79Nであった。
【0060】
(実施例2)
作製例1のカルボキシル基の量が異なるセルロース繊維のNMP溶液(原料2)を用いた以外、実施例1と同様の操作を実施し、セルロース繊維含有重合体を得た。得られたセルロース繊維含有重合体をFT−IRにより測定した結果、セルロースに由来するスペクトル、ポリスチレンの芳香環に由来するスペクトルがそれぞれ観察された。また、セルロース繊維を固体NMR法による13C−NMR測定を行った結果、C6位の原料メチロール由来の炭素と結合を形成したポリスチレンが観測された。さらに、重合体部のグラフト率は、95%であった。
次に、カルボキシル基の量が異なるセルロース繊維を用いた以外は、実施例1と同様に
セルロース繊維含有重合体のNMP分散液を得た後、ノボラック型フェノール樹脂A1087を用いる樹脂組成物の作製、30μmのフィルムの作製、さらに、厚み1mm、幅10mmのテストピースの作製も実施例1と同様の操作で実施した。
前記30μmのフィルムの光線透過率を測定したところ、全光線透過率は71%、厚み1mm、幅10mmのテストピースでの曲げ強度は、60Nであった。
【0061】
(実施例3)
作製例1のカルボキシル基の量が異なるセルロース繊維のNMP溶液(原料3)を用いた以外、実施例1と同様の操作を実施し、セルロース繊維含有重合体を得た。得られたセルロース繊維含有重合体をFT−IRにより測定した結果、セルロースに由来するスペクトル、ポリスチレンの芳香環に由来するスペクトルがそれぞれ観察された。また、セルロース繊維を固体NMR法による13C−NMR測定を行った結果、C6位の原料メチロール由来の炭素と結合を形成したポリスチレンが観測された。さらに、重合体部のグラフト率は、97%であった。
次に、カルボキシル基の量が異なるセルロース繊維を用いた以外は、実施例1と同様に
セルロース繊維含有重合体のNMP分散液を得た後、ノボラック型フェノール樹脂A1087を用いる樹脂組成物の作製、30μmのフィルムの作製、さらに、厚み1mm、幅10mmのテストピースの作製も実施例1と同様の操作で実施した。
前記30μmのフィルムの光線透過率を測定したところ、全光線透過率は75%、厚み1mm、幅10mmのテストピースでの曲げ強度は、64Nであった。
【0062】
(実施例4)
乾燥管をつけた3つ口セパラブルフラスコに作製例1で得られた原料1のセルロース繊維のNMP溶液と水酸化ナトリウムを入れた後、前記式(3)の化合物として、2,2‘−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(和光純薬工業製)(前記式(2)の繰り返し単位を含む化合物におけるC6位のメチロール由来の炭素数と当モル以上)をNMPに5質量%となるように加えた混合液を撹拌しながら窒素雰囲気下で滴下し、その後、室温で6時間撹拌した。反応終了後、減圧ろ過して不溶分を除去し、ろ液を大過剰のヘキサンに再沈殿させ、析出物をろ過した後、該析出物をNMPにホモジナイザーを使用して溶解・分散させ、大過剰の水に3回再沈殿させることで粗生成物の精製を行い、本発明の分子中に式(1)で表される繰り返し単位を含むアゾ基含有セルロース繊維を得た。得られたセルロース繊維をFT−IRにより測定した結果、セルロースに由来するスペクトル、2,2‘−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩のアゾ基に由来するスペクトルがそれぞれ観察された。また、セルロース繊維を固体NMR法による13C−NMR測定を行った結果、C6位の原料メチロール由来の炭素と結合を形成した2,2‘−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩が観測された。
前記セルロース繊維100重量部にNMPを加え該セルロース濃度0.2重量%の混合液とし、ラジカル重合性モノマーとして、スチレンを200重量部加え、室温で30分間窒素をバブリングした後、60℃で10時間撹拌しながら重合させた。反応終了後、不溶分を除去し、ろ液を大過剰のメタノールに再沈殿させ、析出物をろ過した後、該析出物をNMPにホモジナイザーを使用して溶解・分散させ、大過剰の水に3回再沈殿させることで粗生成物の精製を行い、本発明のセルロース繊維含有重合体を得た。得られたセルロース繊維含有重合体をFT−IRにより測定した結果、セルロースに由来するスペクトル、ポリスチレンの芳香環に由来するスペクトルがそれぞれ観察された。また、セルロース繊維を固体NMR法による13C−NMR測定を行った結果、C6位の原料メチロール由来の炭素と結合を形成したポリスチレンが観測された。さらに、重合体部のグラフト率は、99%であった。
次に、異なる重合開始基から重合させた以外は、実施例1と同様にセルロース繊維含有重合体のNMP分散液を得た後、ノボラック型フェノール樹脂A1087を用いる樹脂組成物の作製、30μmのフィルムの作製、さらに、厚み1mm、幅10mmのテストピースの作製も実施例1と同様の操作で実施した。
前記30μmのフィルムの光線透過率を測定したところ、全光線透過率は81%、厚み1mm、幅10mmのテストピースでの曲げ強度は、75Nであった。
【0063】
(実施例5)
実施例1と同様にセルロース繊維含有重合体のNMP分散液を得た後、前記分散液中のセルロース繊維含有重合体50重量部に対してレゾール型フェノール樹脂PR−961A(住友ベークライト製)を100重量部配合して撹拌し、セルロース繊維含有重合体が均一に分散した混合物を得た。得られた前記混合物を離型処理したシャーレに注ぎ、減圧下において、温度80℃の熱板上で8時間脱溶媒処理をし、さらに150℃で2時間プレス成形し、30μmのフィルム、および厚み1mm、幅10mmのテストピースを得た。
30μmのフィルムの光線透過率を測定したところ、全光線透過率は80%であった。厚み1mm、幅10mmのテストピースの曲げ強度を測定した結果、78Nであった。
【0064】
(実施例6)
実施例1と同様にペルオキシ基含有セルロース繊維を得た後、前記セルロース繊維100重量部にNMPを加え該セルロース濃度0.2重量%の混合液とし、ラジカル重合性モノマーとして、メチルメタクリレート(東京化成工業製)を200重量部加え、室温で30分間窒素をバブリングした後、80℃で8時間撹拌しながら重合させた。反応終了後、不溶分を除去し、ろ液を大過剰のメタノールに再沈殿させ、析出物をろ過した後、該析出物をNMPにホモジナイザーを使用して溶解・分散させ、大過剰の水に3回再沈殿させることで粗生成物の精製を行い、本発明のセルロース繊維含有重合体を得た。得られたセルロース繊維含有重合体をFT−IRにより測定した結果、セルロースに由来するスペクトル、ポリメチルメタクリレートに由来するスペクトルがそれぞれ観察された。また、セルロース繊維を固体NMR法による13C−NMR測定を行った結果、C6位の原料メチロール由来の炭素と結合を形成したポリメチルメタクリレートが観測された。さらに、重合体部のグラフト率は、96%であった。
次に、前記セルロース繊維含有重合体にNMPを加え該重合体濃度0.2質量%の混合液とし、超音波ホモジナイザーを用いて30分間処理し、セルロース繊維含有重合体のNMP分散液を得た。
その後、前記分散液中のセルロース繊維含有重合体50重量部に対してビスフェノールA型エポキシ樹脂JER828(ジャパンエポキシレジン製)と芳香族アミン系硬化剤ジアミノフェニルメタン(スリーボンド製)の当量配合物を100重量部配合、撹拌し、セルロース繊維含有重合体が均一に分散した混合物を得た。得られた前記混合物を離型処理したシャーレに注ぎ、減圧下において、温度80℃の熱板上で8時間脱溶媒処理をし、さらに150℃で2時間プレス成形し、30μmの樹脂組成物のフィルム、および厚み1mm、幅10mmのテストピースを得た。
30μmのフィルムの光線透過率を測定したところ、全光線透過率は84%であった。厚み1mm、幅10mmのテストピースの曲げ強度を測定した結果、73Nであった。
【0065】
(実施例7)
実施例1と同様にセルロース繊維含有重合体のNMP分散液を得た後、前記分散液中のセルロース繊維含有重合体100重量部に対してノボラック型フェノール樹脂A1087を100重量部配合して撹拌し、セルロース繊維含有重合体が均一に分散した混合物を得た。得られた前記混合物を樹脂組成物の作製、30μmのフィルムの作製、さらに、厚み1mm、幅10mmのテストピースの作製も実施例1と同様の操作で実施した。
前記30μmのフィルムの光線透過率を測定したところ、全光線透過率は79%、厚み1mm、幅10mmのテストピースでの曲げ強度は、75Nであった。
【0066】
(比較例)
作製例2で得られた原料4の機械処理されたセルロース繊維の水分散液を1Mの塩酸を用いてpH1に調整し24時間攪拌することで、機械処理されたセルロース繊維の凝集物を得た。該凝集物をアセトンで洗浄し、NMPで洗浄した。セルロース繊維の凝集物にNMPを加え固形分濃度0.2質量%とし、超音波ホモジナイザーを用いて30分間処理し、機械処理されたセルロース繊維のNMP分散液を得た。
次に前記機械処理されたセルロース繊維のNMP分散液を用いる以外は、実施例1と同様にノボラック型フェノール樹脂A1087を用いる樹脂組成物の作製、30μmのフィルムの作製、さらに厚み1mm、幅10mmのテストピースを作製も実施例1と同様の操作で実施した。前記30μmのフィルムの光線透過率を測定したところ、全光線透過率は29%、厚み1mm、幅10mmのテストピースでの曲げ強度は44Nであった。
【0067】
上記の評価の結果を表2に示した。
【0068】
【表2】

【0069】
表から明らかなように、実施例1〜7は本研究のセルロース繊維含有重合体を用いた樹脂組成物を用いて得られる成形体であり、高い光線透過率と曲げ強度を示す結果となった。
比較例は、本発明のセルロース繊維含有重合体を用いず、機械処理されたセルロース繊維とノボラック型フェノール樹脂による樹脂組成物を用いて得られる成形体であるが、光線透過率と曲げ強度が本発明のセルロース繊維含有重合体を用いた樹脂組成物と比較して大幅に低い結果であった。
以上のことから、本発明は、透明性に優れ、かつ機械的強度にも優れる成形体を提供し得るセルロース繊維、セルロース繊維含有重合体および樹脂組成物を提供できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のセルロース繊維、セルロース繊維含有重合体、および樹脂組成物のいずれかを用いて得られる成形体は透明性に優れ、かつ機械的強度にも優れていることから、光学特性が重要な特性である太陽電池用基板、有機EL用基板、電子ペーパー用基板、液晶表示素子用プラスチック基板、光学シート、光学フィルムなどの光学部品に有用に使用することができ、また、機械的強度が重要な特性であるダッシュボードやインスツルメントパネルなどの自動車部品、絶縁性の高い樹脂であることから、半導体封止材などの半導体材料にも有用に使用することが出来る。
また、機械的強度に優れていることに加え、セルロースの軽量性や生物由来の材料による環境負荷低減効果から、鉄道、航空機、船等の輸送用機器の部品、住宅やオフィスにおけるサッシ、壁板及び床板などの建材、柱あるいは鉄筋コンクリートにおける鉄筋のような構造部材、電子回路、パソコン及び携帯電話等の家電製品の筐体(ハウジング)、文具等の事務用機器、家具、使い捨て容器等の生活用品、スポーツ用品、玩具など家庭内で使用される小物、看板、標識などの野外設置物、防弾盾、防弾チョッキなどの衝撃吸収部材、ヘルメットなどの護身用具、人工骨、医療用品、研磨剤、防音壁、防護壁、振動吸収部材、工具、板ばねなどの機械部品、楽器、梱包材などにも使用することが出来、本発明の有用性は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される繰り返し単位を含むことを特徴とするセルロース繊維。
【化1】

(前記式(1)中、Xはラジカル重合可能な官能基を含む有機基である。nは1以上の整数である。)
【請求項2】
前記式(1)で示される繰り返し単位の含有量が、セルロース繊維の重量に対して0.2mmol/g以上2.2mmol/g以下である請求項1に記載のセルロース繊維。
【請求項3】
前記ラジカル重合可能な官能基が、アゾ基及びペルオキシ基の少なくともいずれか一方を含む有機基である請求項1または2に記載のセルロース繊維。
【請求項4】
前記セルロース繊維が、下記式(2)の繰り返し単位を含む化合物に下記式(3)で表わされるアゾ化合物を反応させることで得られる請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロース繊維。
【化2】

(前記式(2)中、Rは水酸基もしくはハロゲン原子であり、mは1以上の整数である。)
【化3】

(前記式(3)中、Xはカルボキシル基と反応性のある官能基を少なくとも1つ含む有機基であり、 Xはカルボキシル基と反応性のある官能基を少なくとも1つ含む有機基、水素原子、水酸基または1以上の炭素原子を含む有機基である。)
【請求項5】
前記セルロース繊維が、下記式(2)の繰り返し単位を含む化合物に下記式(4)で表わされる過酸化物を反応させることで得られる請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロース繊維。
【化4】

(前記式(2)中、Rは水酸基もしくはハロゲン原子であり、mは1以上の整数である。)
【化5】

(前記式(4)中、Xはカルボキシル基と反応性のある官能基を少なくとも1つ含む有機基である場合、Xは水素原子または1以上の炭素原子を含む有機基であり、
またXが水素原子である場合、Xはカルボキシル基と反応性のある官能基を少なくとも1つ含む有機基または1以上の炭素原子を含む有機基である。)
【請求項6】
前記カルボキシル基と反応性のある官能基が、アミノ基、エポキシ基、水酸基、チオール基、およびイソシアネート基の中から選ばれる1つ以上の官能基である請求項4または5に記載のセルロース繊維。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロース繊維と、ラジカル重合性モノマーとを重合してなるセルロース繊維含有重合体。
【請求項8】
前記セルロース繊維含有重合体と、樹脂とを含む樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂が、熱硬化性樹脂である請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である請求項9に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記セルロース繊維含有重合体の含有量が、前記樹脂100重量部に対して5重量部以上100重量部以下である請求項8〜11のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれか1項に記載の樹脂組成物を用いて得られる成形体。
【請求項14】
厚み30μmにおける全光線透過率が70%以上である請求項13に記載の成形体。
【請求項15】
曲げ強度が50N以上である請求項13または14に記載の成形体。


【公開番号】特開2013−18851(P2013−18851A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152597(P2011−152597)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】