説明

センサ付き転がり軸受装置

【課題】外乱による誤検出を排除するとともに、瞬時に荷重及び車輪回転速度の両方を検出することができるセンサ付き転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】固定軌道輪1の一端部側に被覆された有底円筒状のカバー21と、前記回転軌道輪2、3の一端部であって前記カバー21が設けられた側に設けられ、周方向に沿って複数のスリット又は開口27が等間隔で形成された円筒体からなるセンサロータ22と、前記カバー21の底面において前記センサロータ22のスリット又は開口27と対向するように配設された、2相出力形の磁気センサ41とを備えている。前記磁気センサ41は、前記軸受装置Hの軸心回りに等間隔で4箇所に配置されており、前記磁気センサ41の出力から前記回転軌道輪2、3の回転速度を検出するとともに、当該出力の内、振幅及び位相差から前記軸受装置Hに作用する荷重を検出し得るように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセンサ付き転がり軸受装置に関する。さらに詳しくは、軸受装置を構成する固定軌道輪(外輪)に配設されたセンサにより車輪に作用する荷重などの情報を検出するセンサ付き転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車において、走行の際の運転制御を行うために車輪に作用する荷重や車輪の回転速度などといった種々の情報が必要とされている。そして、このような情報を得るために、自動車の車輪が取り付けられる車輪用転がり軸受装置にセンサを付設することが提案されている。
かかるセンサ付き軸受装置は、従来、車輪の回転速度だけを計測するものが多く、当該軸受装置に作用する荷重を得ようとすれば、別途、荷重センサを設ける必要があり、構成が複雑になっていた。
【0003】
そこで、1つ(1種類)のセンサを用いて、軸受装置に作用する荷重及び車輪回転速度の両方を検出することができるセンサ付き転がり軸受装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1記載の軸受装置は、固定側軌道部材に設けられて回転側軌道部材との間にあるギャップを検出する磁歪センサと、この磁歪センサの出力を処理する処理手段とからなるセンサ装置を有している。そして、前記処理手段は、磁歪センサの出力の変化の繰り返し数から回転側軌道部材の回転速度を求める回転検出部と、磁歪センサの出力を平均化するアベレージング部と、アベレージング部において平均化された出力から転がり軸受にかかる荷重を求める荷重演算部とを備えている。そして、予め求めておいた平均化された磁歪センサの出力(電圧)と接地荷重との関係に基づいて、当該接地荷重を求めることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−264050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の軸受装置によれば、固定側軌道部材に取り付けた磁歪センサを用いて当該軸受装置に作用する荷重と車輪回転速度とを求めることができるが、例えば、軸受装置に作用する垂直荷重という1つの物理量を、前記固定側軌道部材と回転側軌道部材とのギャップの変動という1つのパラメータに基づいて検出している、換言すれば、1つの手法(方法)により検出していることから、センサに異常が生じたり、周囲温度の急変により固定側起動部材に歪が生じたりするなどの外乱があった場合に、荷重によるギャップの変動と、外乱によるギャップの変動とを判別することができない。
また、特許文献1記載の軸受装置で用いられている磁歪センサは、1相出力タイプのセンサであることから、アベレージング処理する必要があり、前記荷重などを瞬時に検出することができない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、外乱による誤検出を排除するとともに、瞬時に荷重及び車輪回転速度の両方を検出することができるセンサ付き転がり軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係るセンサ付き転がり軸受装置は、車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体と、前記固定軌道輪側に配設されるセンサとを有するセンサ付き転がり軸受装置であって、
前記固定軌道輪の一端部側に被覆された有底円筒状のカバーと、前記回転軌道輪の一端部であって前記カバーが設けられた側に設けられ、周方向に沿って複数のスリット又は開口が等間隔で形成された円筒体からなるセンサロータと、前記カバーの底面において前記センサロータのスリット又は開口と対向するように配設された、2相出力型の磁気センサと、を備えており、
前記磁気センサは、前記軸受装置の軸心回りに等間隔で4箇所に配置されており、
前記磁気センサの出力から前記回転軌道輪の回転速度を検出するとともに、当該出力の内、振幅及び位相差から前記軸受装置に作用する荷重を検出し得るように構成されていることを特徴としている。
【0008】
本発明の第2の観点に係るセンサ付き転がり軸受装置は、車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体と、前記固定軌道輪側に配設されるセンサとを有するセンサ付き転がり軸受装置であって、
前記固定軌道輪の一端部側に被覆された有底円筒状のカバーと、前記回転軌道輪の一端部であって前記カバーが設けられた側に設けられ、その内周面に環状の着磁部が形成された円筒体からなるセンサロータと、前記カバーの底面において前記センサロータの着磁部と対向するように配設された、2相出力型の磁気センサと、を備えており、
前記磁気センサは、前記軸受装置の軸心回りに等間隔で4箇所に配置されており、
前記磁気センサの出力から前記回転軌道輪の回転速度を検出するとともに、当該出力の内、振幅及び位相差から前記軸受装置に作用する荷重を検出し得るように構成されていることを特徴としている。
【0009】
本発明の第3の観点に係るセンサ付き転がり軸受装置は、車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体と、前記固定軌道輪側に配設されるセンサとを有するセンサ付き転がり軸受装置であって、
前記固定軌道輪の一端部側に被覆された有底円筒状のカバーと、前記回転軌道輪の一端部であって前記カバーが設けられた側に設けられ、その内周面において周方向に沿って凸部が等間隔で形成された円筒体からなるセンサロータと、前記カバーの底面において前記センサロータの凸部と対向するように配設された、2相出力型の磁気センサと、を備えており、
前記磁気センサは、前記軸受装置の軸心回りに等間隔で4箇所に配置されており、
前記磁気センサの出力から前記回転軌道輪の回転速度を検出するとともに、当該出力の内、振幅及び位相差から前記軸受装置に作用する荷重を検出し得るように構成されていることを特徴としている。
【0010】
本発明の第4の観点に係るセンサ付き転がり軸受装置は、車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体と、前記固定軌道輪側に配設されるセンサとを有するセンサ付き転がり軸受装置であって、
前記固定軌道輪の一端部側内周面に配設された2相出力型の磁気センサと、前記回転軌道輪の一端部であって前記磁気センサが設けられた側に設けられ、周方向に沿って複数の歯部が等間隔で形成された歯車体からなるセンサロータと、を備えており、
前記磁気センサは、前記軸受装置の軸心回りに等間隔で4箇所に配置されており、
前記磁気センサの出力から前記回転軌道輪の回転速度を検出するとともに、当該出力の内、振幅及び位相差から前記軸受装置に作用する荷重を検出し得るように構成されていることを特徴としている。
【0011】
本発明の第1〜4に係るセンサ付き転がり軸受装置は、固定軌道輪に設けられた2相出力型の磁気センサと、回転軌道輪に設けられたセンサロータとを備えており、前記磁気センサは、軸受装置の軸心回りに等間隔で4箇所に配置されている。そして、サイン及びコサイン状の出力信号を発する前記磁気センサによって、1つのタイヤ分力(例えば、垂直荷重)について2つの部位で検出することにより、相互に監視して温度変化などの外乱による誤検出を排除することができる。具体的には、軸受装置の上下左右の4箇所に磁気センサが配置されており、当該軸受装置に垂直荷重が作用する場合、上下の両センサではセンサとセンサロータとの間のギャップが異なることから振幅差(比)を検出することができ、一方、左右の両センサでは位相が異なることから位相差を検出することができる。そして、予め荷重と振幅差(比)との関係、及び荷重と位相差との関係を求めておくことで、振幅差(比)及び位相差のそれぞれから荷重を算出することができる。これら2つの手法により算出された荷重を比較し、その差が閾値を超える場合に温度変化などの外乱が生じたものとして、得られた荷重値をリジェクト(不採用)することができる。
【0012】
また、サイン及びコサイン状の出力信号を発する2相出力型の磁気センサを用いているので、回転軌道輪の位置に関係なく前記振幅差(比)や位相差を検出することができ、その結果、限りなくゼロに近い車輪回転速度を検出するとともに、回転が停止していても軸受装置に作用する荷重を検出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のセンサ付き転がり軸受装置によれば、外乱による誤検出を排除するとともに、瞬時に荷重及び車輪回転速度の両方を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明のセンサ付き転がり軸受装置(以下、単に「軸受装置」ともいう)の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る軸受装置Hの軸方向断面説明図であり、図2は、図1に示される軸受装置HのA―A線断面図である。なお、図1において、右側が車両アウタ側(車両の外側)であり、左側が車両インナ側(車両の内側)である。
【0015】
図1に示されるように、本実施の形態の軸受装置Hは、筒状の外輪1と、この外輪1の内部に回転自在に挿通されている内軸2と、この内軸2の車両インナ側端部に外嵌された内輪部材3と、前記外輪1の一端部側(車両インナ側)に被覆された有底円筒状のカバー21と、前記内輪部材3の車両インナ側端部に設けられたセンサロータ22と、前記カバー21に設けられたセンサ装置4と、周方向に並ぶ複数の玉からなる複列の転動体5、5とを備えたものであり、これらにより複列アンギュラ玉軸受部が構成されている。転動体5、5としての各列の玉は保持器6によって周方向に所定間隔で保持されている。
【0016】
なお、本明細書において、軸受装置Hの中心線Cに沿った方向をY軸方向とし、これに直交する紙面貫通方向の水平方向をX軸方向とし、Y軸方向及びX軸方向に直交する鉛直方向をZ軸方向と定義している。従って、X軸方向は車輪の前後水平方向となり、Y軸方向は車輪の左右水平方向(軸方向)となり、Z軸方向は上下方向となる。
【0017】
本実施の形態の軸受装置Hにおいて、前記外輪1は車体側に固定される固定軌道輪とされている。他方、前記内軸2と内輪部材3とが車輪側の回転軌道輪とされており、この固定軌道輪と回転軌道輪との間において前記複列の転動体5、5が転動自在に介在されている。これにより、固定軌道輪と回転軌道輪とは互いに同軸状に配置され、固定軌道輪に対して回転軌道輪が車輪(図示せず)とともに回転自在となっている。
【0018】
回転軌道輪を構成する内軸2は、径方向外方へ延びるフランジ部7を車両アウタ側に有しており、このフランジ部7が車輪のタイヤホイールやブレーキディスクの取付部分となっている。このタイヤホイールなどは取付ボルト14によって当該フランジ部7に取り付けられる。内輪部材3は内軸2の車両インナ側に形成された段差部分に外嵌され、内軸2の車両インナ側端部に螺合したナット8によって内軸2に固定されている。そして、内軸2の外周面と内輪部材3の外周面とに、転動体5、5の内側軌道面9、9がそれぞれ形成されている。
【0019】
固定軌道輪を構成する外輪1は、転動体5、5の外側軌道面10、10が内周面に形成された円筒状の本体筒部11と、この本体筒部11の外周面から径方向外方へ伸びるフランジ部12とを有している。このフランジ部12は、車体側部材である懸架装置が有するナックル(図示せず)に固定され、これによって当該軸受装置Hが車体側に固定されるようになっている。外輪1の車両アウタ側端部内周面と、これと対向する内軸2の外周面との間にはシール装置20が設けられている。
【0020】
前記カバー21は、円盤状の底部23と、この底部23の周縁より立設された筒状の胴部24と、前記底部23の底面23aの中央において前記胴部24と同方向に立設された短円柱状の基部25と、この基部25の端部に形成された円盤状のセンサ支持部26とで構成されている。また、前記胴部24の端部には、当該胴部24の端縁を内方に折り曲げ、ついで胴部24の立設方向に折り曲げることで形成された肩部24aが設けられている。そして、この肩部24aを外輪1の車両インナ側端部内周に圧入することにより、前記カバー21が当該外輪1に固定されている。なお、前記肩部24aは、カバー21を外輪1に固定した際に、胴部24の外周面と外輪1の外周面とが面一になるように設定されている。このカバー21の外輪1への固定は、前記圧入以外に、溶接、接着、ボルト止めなどにより行なうこともできる。
【0021】
前記センサ支持部26には、周方向に沿って4つの2相出力型の磁気センサ41が等間隔(90°間隔)で配置されている。磁気センサ41は、軸受装置Hの上下及び前後の4箇所に配置されており、各磁気センサ41は、前記センサ支持部26にその一部が埋設されて固定されている。また、各磁気センサ41の底面からは配線41aが引き出されており、この配線41aは図示しない処理手段に接続されている。この処理手段は、磁気センサ41からの出力に基づいて、車輪回転速度を算出したり、また、後述する位相差や振幅差(比)を算出し、さらにこの位相差や振幅差(比)を用いて軸受装置Hに作用する荷重を算出したりする機能を有している。処理手段は、予め求めておいた位相差と荷重との関係式又はマップ、振幅差(比)と荷重との関係式又はマップなどが記憶される記憶手段、及び各種の演算処理を行なう制御部を備えている。前記磁気センサ41及び処理手段によりセンサ装置4が構成されている。
【0022】
センサロータ22は、周方向に沿って複数の開口27が等間隔で形成された円筒体からなっており、この円筒体は、当該円筒体の一端において軸方向に延設された係止片22aによって前記内輪部材3の車両インナ側端部外周面に固定されている。したがって、センサロータ22は、回転軌道輪を構成する内軸2の回転とともに回転をする。
【0023】
前記センサロータ22の開口27は、前記円筒体の軸方向に沿って延びる細長い矩形状を呈しており、前記磁気センサ41と対向するように配設されている。なお、開口27に代えて、一端が開放されたスリットを円筒体の外周面に形成することもできる。この場合、前記円筒体を平面に展開すると櫛歯状の平面となる。
【0024】
図3は本発明における磁気センサ41の動作原理を示しており、(a)は軸受装置Hに荷重が作用していない状態、(b)は軸受装置Hに上下方向(Z軸方向)の荷重(F荷重)が作用している状態をそれぞれ模式的に示している。なお、図3において、A、B、C、Dは、それぞれ軸受装置Hの前、後、上、下に配設された磁気センサを示している。
軸受装置Hに荷重が作用していない通常時においては、各磁気センサ41のセンサ面とセンサロータ22の内周面との間の距離(ギャップ)は等しく、したがって図4に示されるように、磁気センサA、B、C、Dは、いずれもサイン状の出力信号及びコサイン状の出力信号からなる同様の出力を発する。
【0025】
一方、軸受装置HにF荷重が作用すると、当該軸受装置Hの前後に配設された磁気センサA、Bの場合、各磁気センサ41のセンサ面とセンサロータ22の内周面との間のギャップは変化しないが、前記センサ面とセンサロータ22の内周面との間には相対的な平行移動が発生する。この平行移動は前記センサロータ22の内周面の回転移動と等価であるとみなすことができ、したがって、磁気センサA、Bのうち一方の出力から対向側の出力を引算することにより、基準位置(軸受装置Hに荷重が作用していない通常時におけるセンサ面とセンサロータ22の内周面の位置)からの2倍の平行移動量(回転角位相差)が得られる。
【0026】
図5は、軸受装置HにF荷重が作用したときの各磁気センサの出力を示しており、(a)〜(d)は、それぞれ磁気センサA〜Dに対応している。また、図5において、破線は非荷重時の出力を示しており、実線はF荷重が作用したときの出力を示している。図5の(a)及び(b)から分かるように、F荷重が作用すると、磁気センサAの出力の位相は非荷重時よりも進み、磁気センサBの位相は非荷重時よりも遅れる。そして、両磁気センサA、Bの出力には位相差Fが発生する。
【0027】
また、磁気センサC、Dの場合、前記磁気センサA、Bとは逆に、各磁気センサ41のセンサ面とセンサロータ22の内周面との間に相対的な平行移動が発生しないが、センサ面とセンサロータ22の内周面との間のギャップは変化する。具体的には、磁気センサCのセンサ面とセンサロータ22の内周面との間のギャップは小さくなり、磁気センサDのセンサ面とセンサロータ22の内周面との間のギャップは大きくなる。磁気センサの場合、当該磁気センサのセンサ面と被検出面との間のギャップが小さくなると、磁気センサの出力信号の振幅が大きくなるので、図5の(c)及び(d)に示されるように、F荷重の入力によりギャップが小さくなる磁気センサCの出力信号の振幅は大きくなり、逆に、ギャップが大きくなる磁気センサDの出力信号の振幅は小さくなる。
【0028】
図3〜5は、軸受装置Hに上下方向(Z軸方向)の荷重(F荷重)が作用している場合における磁気センサの動作原理及びセンサの出力を示しているが、軸受装置Hに前後方向(X軸方向)の荷重(F荷重)が作用する場合は、図3〜5の場合とは逆に、磁気センサA、Bにおいてギャップが変化し、その結果、磁気センサA、Bの各振幅が変化する。そして、磁気センサC、Dにおいてセンサとセンサロータの内周面との間で相対的な平行移動が生じ、その結果、磁気センサC、Dの位相に差が生じる。
【0029】
軸受装置Hに作用する荷重、例えば、F荷重(N)は、F=kz・Z(ただし、kz:比例定数(N/m)、Z:変位(m))で示されるように、当該軸受装置Hの変位(前記ギャップに対応する)に比例する。また、この変位Zは、次の式(1)に示されるように位相差θ(電気角)に比例する。
θ=360・Z・N/2πr ・・・・・・(1)
ただし、N:センサロータの開口数
r:センサロータの半径
である。
【0030】
さらに、前記変位Zは、図6に示されるように振幅比に比例する。このように、磁気センサの出力から算出される位相差及び振幅差(比)は、軸受装置Hに作用する荷重と比例関係にあり、予め当該位相差と荷重との関係を示す式又はマップ、及び振幅差(比)と荷重との関係を示す式又はマップを前記処理手段の記憶手段に記憶させておくことにより、磁気センサの出力から得られる位相差又は振幅差(比)より、軸受装置Hに作用する荷重を検出することができる。
【0031】
前記位相差及び振幅差(比)のうち、位相差は、2相出力型のセンサから得られる角度情報の引算により算出することができるので、瞬時に求めることができる。これに対し、振幅差(比)の方は、出力信号の波形の振幅をみていることから、当該波形のピーク通過後でなければ算出することができない。したがって、位相差からの荷重は瞬時に求めることができるが、振幅差(比)からの荷重は瞬時には求めることができない。
【0032】
図7は磁気センサを用いた荷重検出のブロック図である。図7において、「メイン」とは、前述したように、荷重の瞬時判定(検出)が可能なことを示しており、「サブ」とは荷重の瞬時判定(検出)が不可能なことを示している。磁気センサA、B、C、Dからはそれぞれサイン及びコサイン状の出力信号が処理手段に送信される。そして、まず前記処理手段の制御部において、前記出力信号に基づいて位相θ〜θ及び振幅A〜Aが算出され、ついで前後の磁気センサ(磁気センサA、B)の位相差及び振幅差(比)、並びに上下の磁気センサ(磁気センサC、D)の位相差及び振幅差(比)が算出される。
【0033】
次に、予め記憶手段に記憶されている位相差と荷重との関係を示す式又はマップを用いて、算出された位相θと位相θの差に基づいて、荷重(Fメイン)が算出される。同様にして、算出された振幅Aと振幅Bの比又は差に基づいて、荷重(Fサブ)が算出される。さらに、荷重(Fメイン)及び荷重(Fサブ)も算出される。
【0034】
ついで、1種類の荷重について2つの手法により得られる値の比較を行なう。記憶手段には、外気温を除々に変化させて検出した、温度とFメインとFサブの差とのマップ、及び、温度とFメインとFサブの差とのマップがそれぞれ予め記憶されており、前記のようにして算出されたFメインとFサブの差、及び、FメインとFサブの差が対応するマップと比較される。そして、前記差が所定の閾値を超える場合、前記変位が軸受装置に作用する荷重に起因するものではなく、急激な温度変化による外輪の歪に起因するものと判定し、算出された荷重値をリジェクトする。一方、前記差が閾値内である場合、メインとサブの平均値を荷重として検出する。
【0035】
本発明では、このようにして、サイン及びコサイン状の出力信号を発する磁気センサによって、1つのタイヤ分力(例えば、垂直荷重)について2つの部位で検出していることから、相互に監視して温度変化などの外乱による誤検出を排除することができる。また、サイン及びコサイン状の出力信号を発する2相出力型の磁気センサを用いているので、回転軌道輪の位置に関係なく前記振幅差(比)や位相差を検出することができ、その結果、限りなくゼロに近い車輪回転速度を検出するとともに、回転が停止していても軸受装置に作用する荷重を検出することができる。
【0036】
なお、本発明において、磁気センサやセンサロータの構成は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、種々の構成を採用することができる。
例えば、開口やスリットが形成された円筒体からなるセンサロータに代えて、その内周面に環状の着磁部が形成された円筒体からなるセンサロータを用いることもできる。この場合、磁気センサに磁石を内蔵させる必要はない。前記環状の着磁部は、N極とS極とが交互にかつ等間隔で配列するように磁性体からなる円筒体を着磁したものであってもよく、また、表面に磁気インク列が印刷されたフィルムを円筒体内周面に接着したものであってもよい。
【0037】
また、開口やスリットが形成された円筒体からなるセンサロータに代えて、その内周面において周方向に沿って凸部が等間隔で形成された円筒体からなるセンサロータを用いることもできる。この場合、磁気センサは、前記円筒体の凸部と対向するように配設される。
さらに、前述した円筒体に代えて、周方向に沿って複数の歯部が等間隔で形成された歯車体をセンサロータとして用いることもできる。この場合、磁気センサは、固定軌道輪の一端部側内周面において前記歯車体の歯部と対向するように配設される。
【0038】
これら態様のいずれにおいても、サイン及びコサイン状の出力信号を発する磁気センサによって、1つのタイヤ分力(例えば、垂直荷重)について2つの部位で検出していることから、温度変化などの外乱による誤検出を排除することができ、また、サイン及びコサイン状の出力信号を発する2相出力型の磁気センサを用いているので、回転軌道輪の位置に関係なく前記振幅差(比)や位相差を検出することができ、その結果、限りなくゼロに近い車輪回転速度を検出するとともに、回転が停止していても軸受装置に作用する荷重を検出することができる。
さらに、前述した4つの磁気センサを1組として、2組の磁気センサを軸受装置の軸方向において所定間隔をあけて配列することにより、当該軸受装置に作用するモーメント荷重を検出することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の軸受装置の一実施の形態の軸方向断面説明図である。
【図2】図1に示される軸受装置のA―A線断面図である。
【図3】本発明における磁気センサの動作原理を示す図である。
【図4】通常時(非荷重時)における各センサの出力を示す図である。
【図5】F荷重入力時における各センサの出力を示す図である。
【図6】変位と振幅比との関係を示す図である。
【図7】磁気センサによる荷重検出のブロック図である。
【符号の説明】
【0040】
1 外輪
2 内軸
3 内輪部材
4 センサ装置
5 転動体
6 保持器
7 フランジ部
9 内側軌道面
10 外側軌道面
12 フランジ部
20 シール装置
21 カバー
22 センサロータ
27 開口
41 磁気センサ
H 軸受装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体と、前記固定軌道輪側に配設されるセンサとを有するセンサ付き転がり軸受装置であって、
前記固定軌道輪の一端部側に被覆された有底円筒状のカバーと、前記回転軌道輪の一端部であって前記カバーが設けられた側に設けられ、周方向に沿って複数のスリット又は開口が等間隔で形成された円筒体からなるセンサロータと、前記カバーの底面において前記センサロータのスリット又は開口と対向するように配設された、2相出力型の磁気センサと、を備えており、
前記磁気センサは、前記軸受装置の軸心回りに等間隔で4箇所に配置されており、
前記磁気センサの出力から前記回転軌道輪の回転速度を検出するとともに、当該出力の内、振幅及び位相差から前記軸受装置に作用する荷重を検出し得るように構成されていることを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項2】
車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体と、前記固定軌道輪側に配設されるセンサとを有するセンサ付き転がり軸受装置であって、
前記固定軌道輪の一端部側に被覆された有底円筒状のカバーと、前記回転軌道輪の一端部であって前記カバーが設けられた側に設けられ、その内周面に環状の着磁部が形成された円筒体からなるセンサロータと、前記カバーの底面において前記センサロータの着磁部と対向するように配設された、2相出力型の磁気センサと、を備えており、
前記磁気センサは、前記軸受装置の軸心回りに等間隔で4箇所に配置されており、
前記磁気センサの出力から前記回転軌道輪の回転速度を検出するとともに、当該出力の内、振幅及び位相差から前記軸受装置に作用する荷重を検出し得るように構成されていることを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項3】
車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体と、前記固定軌道輪側に配設されるセンサとを有するセンサ付き転がり軸受装置であって、
前記固定軌道輪の一端部側に被覆された有底円筒状のカバーと、前記回転軌道輪の一端部であって前記カバーが設けられた側に設けられ、その内周面において周方向に沿って凸部が等間隔で形成された円筒体からなるセンサロータと、前記カバーの底面において前記センサロータの凸部と対向するように配設された、2相出力型の磁気センサと、を備えており、
前記磁気センサは、前記軸受装置の軸心回りに等間隔で4箇所に配置されており、
前記磁気センサの出力から前記回転軌道輪の回転速度を検出するとともに、当該出力の内、振幅及び位相差から前記軸受装置に作用する荷重を検出し得るように構成されていることを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項4】
車体側に固定される筒状の固定軌道輪と、この固定軌道輪の内部に回転自在に挿通される回転軌道輪と、これらの軌道輪の間に転動自在に配設される複列の転動体と、前記固定軌道輪側に配設されるセンサとを有するセンサ付き転がり軸受装置であって、
前記固定軌道輪の一端部側内周面に配設された2相出力型の磁気センサと、前記回転軌道輪の一端部であって前記磁気センサが設けられた側に設けられ、周方向に沿って複数の歯部が等間隔で形成された歯車体からなるセンサロータと、を備えており、
前記磁気センサは、前記軸受装置の軸心回りに等間隔で4箇所に配置されており、
前記磁気センサの出力から前記回転軌道輪の回転速度を検出するとともに、当該出力の内、振幅及び位相差から前記軸受装置に作用する荷重を検出し得るように構成されていることを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−128812(P2008−128812A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314077(P2006−314077)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】