センサ付車輪用軸受
【課題】ヒステリシスの影響を受けることなく車輪にかかる荷重を精度良く検出できるセンサ付車輪用軸受を提供する。
【解決手段】複列の転走面3が内周に形成された外方部材1と、上記転走面3と対向する転走面4が外周に形成された内方部材2と、転走面3,4間に介在した複列の転動体5とを備え、上記外方部材1および内方部材2のうちの固定側部材の外径面に、歪み発生部材20、およびこの歪み発生部材20に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサ21からなる1つ以上のセンサユニット19を互いに前記固定側部材の円周方向における同位相の位置に配置する。
【解決手段】複列の転走面3が内周に形成された外方部材1と、上記転走面3と対向する転走面4が外周に形成された内方部材2と、転走面3,4間に介在した複列の転動体5とを備え、上記外方部材1および内方部材2のうちの固定側部材の外径面に、歪み発生部材20、およびこの歪み発生部材20に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサ21からなる1つ以上のセンサユニット19を互いに前記固定側部材の円周方向における同位相の位置に配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の各車輪にかかる荷重を検出する技術として、車輪用軸受の外輪フランジの外径面の歪みを検出することにより荷重を検出するセンサ付車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。また、固定輪のフランジ部と外径部にわたってL字型部材からなる歪み拡大機構を取付け、その歪み拡大機構の一部に歪みゲージを貼り付けた車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−098138号公報
【特許文献2】特開2006−077807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示の技術では、固定輪のフランジ部の変形により発生する歪みを検出している。しかし、固定輪のフランジ部の変形には、フランジ面とナックル面の間の摩擦(滑り)が伴うため、繰返し荷重を印加すると、出力信号にヒステリシスが発生するといった問題がある。
例えば、車輪用軸受に対してある方向の荷重が大きくなる場合、固定輪フランジ面とナックル面の間は、最初は荷重よりも静止摩擦力の方が大きいため滑らないが、ある大きさを超えると静止摩擦力に打ち勝って滑るようになる。その状態で荷重を小さくしていくと、やはり最初は静止摩擦力により滑らないが、ある大きさになると滑るようになる。その結果、この変形が生じる部分で荷重を推定しようとすると、出力信号に図13のようなヒステリシスが生じる。
また、特許文献2に開示の技術においても、L字型部材からなる歪み拡大機構のフランジ面に固定されている部位が、フランジ面とナックル面の摩擦(滑り)の影響を受けるため、同様の問題が生じる。
また、車輪用軸受に作用する上下方向の荷重Fz を検出する場合、荷重Fz に対する固定輪変形量が小さいため歪み量も小さく、上記した技術では検出感度が低く、荷重Fz を精度良く検出できない。
【0004】
この発明の目的は、ヒステリシスの影響を受けることなく車輪にかかる荷重を精度良く検出できるセンサ付車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、上記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外径面に、この外径面に接触して固定される2つの接触固定部とこれら2つの接触固定部の間に位置する切欠き部とを有する歪み発生部材およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサを有する1つ以上のセンサユニットを設け、このセンサユニットの前記2つの接触固定部は互いに前記固定側部材の円周方向における同位相の位置に配置し、前記2つのうちの一つの接触固定部は前記複列の転走面のうちのアウトボード側の転走面の周辺となる軸方向位置に、他の一つの接触固定部は、前記一つの接触固定部よりもさらにアウトボード側に配置し、前記センサユニットの切欠き部は前記2つの接触固定部間の中央位置よりもアウトボード側に配置したことを特徴とする。
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材(例えば外方部材)にも荷重が印加されて変形が生じる。ここでは、センサユニットにおける歪み発生部材の1つの接触固定部が、外方部材の外径面におけるアウトボード側列の転走面の周辺となる軸方向位置に固定されており、この軸方向位置はタイヤの接地面に加わった荷重が内方部材から転動体を介して伝達される部位であるため、比較的に変形量の大きい部位となる。一方、歪み発生部材の他の1つの接触固定部は、前記1つの接触固定部よりもさらにアウトボード側の軸方向位置に固定されており、この軸方向位置は先の軸方向位置に比べて変形量の小さい部位となる。その結果、外方部材の外径面の歪みが歪み発生部材に拡大して伝達され、その拡大された歪みがセンサで検出される。また、荷重の印加に伴い外方部材に生じる変形量は軸方向の各位置で異なるが、ここでは、センサユニットにおける歪み発生部材の2つの接触固定部を、外方部材の外径面に対して円周方向に同位相として固定しているので、歪み発生部材に歪みが集中しやすくなり、それだけ検出感度が向上する。また、センサユニットの歪み発生部材に切欠き部が設けられ、その切欠き部の周辺にセンサが設けられているので、外方部材の外径面から歪み発生部材に拡大されて伝達される歪みが切欠き部に集中しやすくなり、センサによる検出感度がさらに向上する。しかも、切欠き部は、歪み発生部材における2つの接触固定部の間の中央位置よりもアウトボード側に配置されているので、変形量の大きい軸方向位置に固定される接触固定部と切欠き部との距離が長くなり、モーメントが作用して切欠き部の周辺が変形し、切欠き部の周辺に歪みが集中することになり、さらに検出感度が向上する。上記したように、センサユニットは、ヒステリシスの主な原因となる外方部材フランジの突片に固定していないので、センサの出力信号に生じるヒステリシスが小さくなり、荷重を正確に検出することができる。これにより、ヒステリシスの影響を受けることなく車輪にかかる荷重を精度良く検出できる。
【0006】
この発明において、前記センサユニットの切欠き部は、前記歪み発生部材の外面側から内面側に向けて切り欠いても良い。この構成の場合、一つの接触固定部が外方部材の外径面における比較的変形量の大きいアウトボード側の転走面の周辺となる軸方向位置に固定され、他の一つの接触固定部が比較的変形量の小さいさらにアウトボード側の軸方向位置に固定されていることから、外方部材の外径面の変形により切欠き部の周辺が引っ張られて、切欠き部の周辺の歪みが大きくなり、さらに感度良く荷重を推定することができる。
【0007】
この発明において、前記センサユニットの切欠き部は、前記歪み発生部材の2つの接触固定部の並び方向に対して直交する幅方向の両側面から幅方向に向けて更に欠いても良い。この構成の場合、歪みが分散せず、一部に集中しやすくなるため、さらに感度よく荷重を推定することができる。
【0008】
この発明において、前記センサユニットの切欠き部の幅寸法を2mm以下としても良い。切欠き部の幅が広いと歪みが分散してしまうが、切欠き部の幅寸法を2mm以下にすると、さらに歪みが分散せず、一部に集中しやすくなるため、さらに感度良く荷重を推定することができる。
【0009】
この発明において、前記センサユニットの歪み発生部材は、前記固定側部材に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとしても良い。想定される最大の力が印加された状態になるまでに塑性変形が生じると、外方部材の変形がセンサユニットに正確に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすので、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとするのが望ましい。
【0010】
この発明において、前記センサユニットは、その歪み発生部材の切欠き部の周辺に前記センサを設け、前記歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部の全面を平坦面としても良い。この構成の場合、センサユニットの加工やセンサの設置が容易となる。
【0011】
この発明において、歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部の全面を平坦面とし、前記センサは、前記歪み発生部材におけるセンサ設置面に絶縁層を印刷および焼成により形成し、前記絶縁層の上に電極および歪み測定用抵抗体を印刷および焼成により形成しても良い。この構成の場合、歪み発生部材にセンサを容易に形成できる。このようにしてセンサを形成すると、歪み発生部材のセンサ設置面に接着剤で固定する場合のような径年変化による接着強度の低下がなく、センサユニットの信頼性を向上させることができる。また、加工も容易であるため、コストダウンを図れる。
【0012】
この発明において、センサユニットの歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部の全面を平坦面とし、歪み発生部材は、スペーサを介して前記固定側部材の外径面に固定しても良い。歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部が、前記固定側部材の外径面に対向する内側面である場合、歪み発生部材の内側面におけるスペーサの介在箇所以外の箇所では、固定側部材の外径面との間に隙間が生じることとなり、センサも固定側部材の外径面と干渉することなく切欠き部の付近に容易に設置できる。
【0013】
この発明において、歪み発生部材の切欠き部の周辺にセンサを設け、歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部の全面を平坦面とし、かつ前記固定側部材の外径面における前記センサユニットの2つの接触固定部の固定位置の間に溝を設けても良い。このように、固定側部材の外径面に溝を設けると、歪み発生部材の前記平坦面が固定側部材の外径面に対向する内側面である場合に、2つの接触固定部を固定側部材の外径面に直接固定しても、固定側部材の外径面と歪み発生部材の平坦面とした内側面との間に隙間が生じるので、センサも固定側部材の外径面と干渉することなく切欠き部の付近に容易に設置できる。
【0014】
この発明において、前記固定側部材の外周に、ナックルに取付ける車体取付用のフランジが設けられ、このフランジの円周方向複数箇所にボルト孔が設けられ、前記フランジは各ボルト孔が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側に突出した突片とされ、前記センサユニットは、隣合う前記突片の間の中央に配置しても良い。この構成の場合、ヒステリシスの原因となる突片から離れた位置にセンサユニットを設けることとなり、センサの出力信号のヒステリシスがさらに小さくなり、荷重をさらに精度良く検出することができる。
【0015】
この発明において、前記センサユニットの1つは、タイヤ接地面に対して外方部材の外径面の上面部に設けても良い。この構成の場合、外方部材の外径面において、上下方向の荷重Fz や前後方向の荷重Fy が印加された場合でも常に転動体の荷重が印加される位置、つまりタイヤ接地面に対して上面部となる位置に1つのセンサユニットを設けると、どのような場合でも荷重を精度良く検出することができる。
【0016】
この発明において、前記センサの出力信号により、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を推定する推定手段を設けても良い。
センサの出力信号により、タイヤと路面間の作用力を推定手段で推定すると、静止時や低速時を問わず車輪のタイヤと路面間の作用力を感度良く検出することができるタイヤと路面間の作用力だけでなく、車輪用軸受に作用する力(例えば予圧量)を推定手段で推定することもできる
【0017】
この発明において、前記推定手段は、前記センサ信号の絶対値、および前記出力信号の平均値、および前記出力信号の振幅のうちの、少なくともいずれか一つにより、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を推定するものとしても良い。
車輪用軸受の回転中には、転走面におけるセンサユニットの近傍部位を通過する転動体の有無によって、センサユニットのセンサの出力信号の振幅に周期的な変化が生じる場合がある。そこで、検出信号における振幅の周期を推定手段で測定することにより、転動体の通過速度つまり車輪の回転数を検出することができる。このように、出力信号に変動が見られる場合は、出力信号の平均値や振幅により作用力を算出することができる。変動が見られない場合は、絶対値より作用力を算出することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、上記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外径面に、この外径面に接触して固定される2つの接触固定部とこれら2つの接触固定部の間に位置する切欠き部とを有する歪み発生部材およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサを有する1つ以上のセンサユニットを設け、このセンサユニットの前記2つの接触固定部は互いに前記固定側部材の円周方向における同位相の位置に配置し、前記2つのうちの一つの接触固定部は前記複列の転走面のうちのアウトボード側の転走面の周辺となる軸方向位置に、他の一つの接触固定部は、前記一つの接触固定部よりもさらにアウトボード側に配置し、前記センサユニットの切欠き部は前記2つの接触固定部間の中央位置よりもアウトボード側に配置したため、ヒステリシスの影響を受けることなく車輪にかかる荷重を精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の一実施形態を図1ないし図6と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0020】
このセンサ付車輪用軸受における軸受は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、ボール接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、一対のシール7,8によってそれぞれ密封されている。
【0021】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル16に取付ける車体取付用フランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには円周方向の複数箇所に車体取付用のボルト孔14が設けられ、インボード側よりナックル16のボルト挿通孔17に挿通したナックルボルト18を前記ボルト孔14に螺合することにより、車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0022】
図2は、この車輪用軸受の外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示す。なお、図1は、図2におけるI−I矢視断面図を示す。前記車体取付用フランジ1aは、図2のように、各ボルト孔14が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片1aaとされている。
【0023】
固定側部材である外方部材1の外径面にはセンサユニット19が設けられている。ここでは、2つのセンサユニット19を、タイヤ接地面に対して上位置となる外方部材1の外径面における上面部および下面部の2箇所に設けることで、車輪用軸受に作用する上下方向の荷重Fz を検出するようにしている。具体的には、図2のように、外方部材1の外径面における上面部の、隣り合う2つの突片1aaの間の中央部に1つのセンサユニット19が配置され、外方部材1の外径面における下面部の、隣り合う2つの突片1aaの間の中央部に他の1つのセンサユニット19が配置されている。
【0024】
これらのセンサユニット19は、図3に拡大断面図で示すように、歪み発生部材20と、この歪み発生部材20に取付けられて歪み発生部材20の歪みを検出するセンサ21とでなる。歪み発生部材20は、鋼材等の弾性変形可能な金属材からなる。歪み発生部材20は、外方部材1の外径面に対向する内面側に張り出した2つの接触固定部20aを両端部に有し、これら接触固定部20aで外方部材1の外径面に直接に固定される。2つの接触固定部20aのうち、1つの接触固定部20aは、外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置に配置され、この位置よりもアウトボード側の位置にもう1つの接触固定部20aが配置され、かつこれら両接触固定部20aは互いに外方部材1の円周方向における同位相の位置に配置される。ここでいうアウトボード側列の転走面3の周辺とは、インボード側列およびアウトボード側列の転走面3の中間位置からアウトボード側列の転走面3の形成部までの範囲である。なお、外方部材1の外径面へセンサユニット19を安定良く固定する上で、外方部材1の外径面における前記歪み発生部材20の接触固定部20aが接触固定される箇所に平坦部を形成するのが望ましい。
【0025】
また、歪み発生部材20の前記2つの接触固定部20aの間の中央位置よりもアウトボード側には切欠き部20bが形成されている。図4(A),(B)にセンサユニット19の一構成例の正面図および底面図(外方部材1の外径面に対向する内面側から見た図)を示すように、この例では、前記切欠き部20bは、歪み発生部材20の外面側から内面側に向けて切り欠いた形状とされている。切欠き部20bの幅寸法は2mm以下とされている。センサ21は、歪み発生部材20における各方向の荷重に対して歪みが大きくなる箇所に貼り付けられる。ここでは、その箇所として、前記切欠き部20bの周辺、具体的には歪み発生部材20の内面側で切欠き部20bの背面側となる位置が選ばれており、センサ21は切欠き部20b周辺の歪みを検出する。なお、歪み発生部材20は、固定側部材である外方部材1に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとするのが望ましい。塑性変形が生じると、外方部材1の変形がセンサユニット19に正確に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすからである。上記の想定される最大の力は、例えば、この車輪用軸受が軸受としての正常な運転が阻害される損傷を生じない最大の力である。
【0026】
図5(A),(B)は、センサユニット19の他の構成例の正面図および底面図を示す。この構成例では、図4(A),(B)の実施例に対して、更に歪み発生部材20の2つの接触固定部20aの並び方向に対して直交する幅方向の両側面から、幅方向に向けてセンサ21の配置部に至る途中までそれぞれ切り欠いて、切欠き部20b’ を形成している。その他の構成は図4の構成例の場合と同様である。
【0027】
歪み発生部材20の接触固定部20aの外方部材1の外径面への固定は、接触固定部20aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔22に挿通したボルト23を、外方部材1の外周部に設けられたボルト孔24に螺合させて締結することで行なわれるが、接着剤などにより固定しても良い。歪み発生部材20の接触固定部20a以外の箇所では、外方部材1の外径面との間に隙間が生じている。
【0028】
センサユニット19のセンサ21は推定手段25に接続される。推定手段25は、ここではセンサ21の出力信号により、車輪のタイヤと路面間の作用力を推定する手段であり、信号処理回路や補正回路などが含まれる。推定手段25は、車輪のタイヤと路面間の作用力とセンサ21の出力信号との関係を演算式またはテーブル等により設定した関係設定手段(図示せず)を有し、入力された出力信号から前記関係設定手段を用いて作用力を出力する。前記関係設定手段の設定内容は、予め試験やシミュレーションで求めておいて設定する。
【0029】
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材である外方部材1にも荷重が印加されて変形が生じる。前記センサユニット19を例えば外方部材フランジ1aの突片1aaに設置して、フランジ1aの変形から荷重を推定しようとすると、従来例の説明におけるように出力信号にヒステリシスが生じる。
ここでは、センサユニット19における歪み発生部材20の1つの接触固定部20aが、外方部材1の外径面におけるアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置に固定されており、この軸方向位置はタイヤの接地面に加わった荷重が内方部材2から転動体5を介して伝達される部位であるため、比較的に変形量の大きい部位となる。一方、歪み発生部材20の他の1つの接触固定部20aは、前記1つの接触固定部20aよりもさらにアウトボード側の軸方向位置に固定されており、この軸方向位置は先の軸方向位置に比べて変形量の小さい部位となる。その結果、外方部材1の外径面の歪みが歪み発生部材20に拡大して伝達され、その拡大された歪みがセンサ21で検出される。また、荷重の印加に伴い外方部材1に生じる変形量は軸方向の各位置で異なるが、ここでは、センサユニット19における歪み発生部材20の2つの接触固定部20aを、外方部材1の外径面に対して円周方向に同位相として固定しているので、歪み発生部材20に歪みが集中しやすくなり、それだけ検出感度が向上する。
【0030】
また、センサユニット19の歪み発生部材20に切欠き部20bが設けられ、その切欠き部20bの周辺にセンサ21が設けられているので、外方部材1の外径面から歪み発生部材20に拡大されて伝達される歪みが切欠き部20bに集中しやすくなり、センサ21による検出感度がさらに向上する。しかも、切欠き部20bは、歪み発生部材20における2つの接触固定部20aの間の中央位置よりもアウトボード側に配置されているので、変形量の大きい軸方向位置に固定される接触固定部20aと切欠き部20bとの距離が長くなり、モーメントが作用して切欠き部20bの周辺が変形し、切欠き部20bの周辺に歪みが集中することになり、さらに検出感度が向上する。
【0031】
推定手段25は、前記センサ21の出力信号から車輪用軸受に作用する荷重を推定する。これにより、静止時や低速時を問わず車輪のタイヤと路面間の作用力を感度良く検出することができる。上記したように、センサユニット19は、ヒステリシスの主な原因となる外方部材フランジ1aの突片1aaに固定していないので、センサ21の出力信号に生じるヒステリシスが小さくなり、荷重を正確に推定することができる。
【0032】
この実施形態において、センサユニット19の切欠き部20bを、図4に示した構成例のように、歪み発生部材20の外面側から内面側に向けて切り欠いた形状とした場合、一つの接触固定部20aが外方部材1の外径面における比較的変形量の大きいアウトボード側の転走面3の周辺となる軸方向位置に固定され、他の一つの接触固定部20aが比較的変形量の小さいさらにアウトボード側の軸方向位置に固定されていることから、外方部材1の外径面の変形により切欠き部20bの周辺が引っ張られて、切欠き部20bの周辺の歪みが大きくなり、さらに感度良く荷重を推定することができる。
【0033】
また、この実施形態において、センサユニット19の切欠き部20bを、図5に示した構成例のように、歪み発生部材20の2つの接触固定部20aの並び方向に対して直交する幅方向の両側面から幅方向に向けて切り欠いた形状とした場合、歪みが分散せず、一部に集中しやすくなるため、さらに感度よく荷重を推定することができる。
【0034】
また、切欠き部20bの幅が広いと歪みが分散してしまうが、この実施形態では、切欠き部20bの幅寸法を2mm以下にしているので、さらに歪みが分散せず、一部に集中しやすくなるため、さらに感度良く荷重を推定することができる。
【0035】
上記説明では車輪のタイヤと路面間の作用力を検出する場合を示したが、車輪のタイヤと路面間の作用力だけでなく、車輪用軸受に作用する力(例えば軸受の予圧量)を検出するものとしても良い。
このセンサ付車輪用軸受から得られた検出荷重を自動車の車両制御に使用することにより、自動車の安定走行に寄与できる。また、このセンサ付車輪用軸受を用いると、車両にコンパクトに荷重センサを設置でき、量産性に優れたものとでき、コスト低減を図ることができる。
【0036】
また、車輪用軸受の回転中には、転走面3におけるセンサユニット19の近傍部位を通過する転動体5の有無によって、センサユニット19のセンサ21の出力信号の振幅に、図6に示す波形図のように周期的な変化が生じる場合がある。その理由は、転動体5の通過時とそうでない場合とで変形量が異なり、転動体5の通過周期ごとにセンサ21の出力信号の振幅がピーク値を持つためである。そこで、検出信号におけるこのピーク値の周期を、例えば推定手段25で測定することにより、転動体5の通過速度つまり車輪の回転数を検出することも可能となる。このように、出力信号に変動が見られる場合は、出力信号の平均値や振幅により荷重を算出することができる。変動が見られない場合は、絶対値より荷重を算出することができる。
【0037】
また、この実施形態では、センサユニット19を、外方部材1の外径面において、外方部材フランジ1aの隣り合う2つの突片1aaの間の中央部相当位置に配置しているので、ヒステリシスの原因となる突片1aaから離れた位置にセンサユニット19を設けることとなり、センサ21の出力信号のヒステリシスがさらに小さくなり、荷重をさらに正確に推定できる。
【0038】
また、この実施形態では、外方部材1の外径面において、上下方向の荷重Fz や前後方向の荷重Fy が印加された場合でも常に転動体5の荷重が印加される位置、つまりタイヤ接地面に対して上面部となる位置に1つのセンサユニット19が設けられているので、どのような場合でも荷重を正確に推定することができる。また、センサユニット19は、微小な歪みでも拡大して検出するものであるため、外方部材1の変形量が小さい上下方向の荷重Fz でも感度良く検出することができる。
【0039】
なお、この実施形態において、以下の構成については特に限定しない。
・ センサユニット19の設置個数、設置場所や、接触固定部20a,センサ21,切 欠き部20bの数
・ センサユニット19の形状、固定方法(接着、溶接など)
【0040】
図7ないし図10は、この発明の他の実施形態を示す。なお、図8は、この車輪用軸受の外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示し、図7は、図8におけるVII − VII矢視断面図を示す。この実施形態は、図1〜図3に示す実施形態のセンサ付車輪用軸受において、図7の一部を拡大して示す図9のように、センサユニット19の歪み発生部材20をスペーサ26を介して外方部材1の外径面に固定したものである。このため、センサユニット19の正面図および底面図を示す図10(A),(B)のように、センサ21の設置面を含む歪み発生部材20の内側面は、先の実施形態の場合のように接触固定部20aが内面側に張り出しておらず、全面が平坦面とされている。その他の構成は先の実施形態の場合と同様である。
【0041】
これにより、スペーサ26を介して歪み発生部材20を外方部材1の外径面にボルト23で締結した固定状態で、歪み発生部材20の内側面におけるスペース26の介在箇所以外の箇所では、外方部材1の外径面との間に隙間が生じることとなり、センサ21も外方部材1の外径面と干渉することなく切欠き部20bの付近に容易に設置できる。また、歪み発生部材20の内側面を全面に渡って平坦面とするので、センサユニット19の加工やセンサ21の設置が容易となる。なお、ボルト23は、歪み発生部材20の接触固定部20aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔22からスペーサ26のボルト挿通孔27に挿通されて、外方部材1の外周部に設けられたボルト孔24に螺合する。
【0042】
また、歪み発生部材20の内側面を平坦面とすると、その内側面におけるセンサ設置面に、絶縁層を印刷および焼成により形成し、その絶縁層の上に電極および歪み測定用抵抗体を印刷および焼成により形成することで、歪み発生部材20の内側面にセンサ21を容易に形成できる。このようにしてセンサ21を形成すると、歪み発生部材20のセンサ設置面に接着剤で固定する場合のような径年変化による接着強度の低下がなく、センサユニット19の信頼性を向上させることができる。また、加工も容易であるため、コストダウンを図れる。
【0043】
図11および図12は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態は、図7〜図10に示す実施形態のセンサ付車輪用軸受において、センサユニット19の歪み発生部材20と外方部材1の外径面の間にスペーサ26を介在させるのに代えて、外方部材1の外径面における歪み発生部材20の2つの接触固定部20aの固定位置の間に溝27を設けたものである。その他の構成は図7〜図10の実施形態の場合と同様である。
【0044】
このように、外方部材1の外径面に溝27を設けると、歪み発生部材20の内側面の全面を平坦面として2つの接触固定部20aを外方部材1の外径面に直接固定しても、外方部材1の外径面と歪み発生部材20の内側面との間に隙間が生じるので、センサ21も外方部材1の外径面と干渉することなく切欠き部20bの付近に容易に設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の一実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図2】同センサ付車輪用軸受における外方部材の正面図である。
【図3】図1におけるセンサユニット設置部の拡大断面図である。
【図4】(A)は同センサ付車輪用軸受におけるセンサユニットの一構成例の正面図、(B)は同センサユニットの底面図である。
【図5】(A)は同センサ付車輪用軸受におけるセンサユニットの他の構成例の正面図、(B)は同センサユニットの底面図である。
【図6】同センサ付車輪用軸受におけるセンサの出力信号の波形図である。
【図7】この発明の他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図8】同センサ付車輪用軸受における外方部材の正面図である。
【図9】図7におけるセンサユニット設置部の拡大断面図である。
【図10】(A)は同センサ付車輪用軸受におけるセンサユニットの一構成例の正面図、(B)は同センサユニットの底面図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図12】図11におけるセンサユニット設置部の拡大断面図である。
【図13】従来例での出力信号におけるヒステリシスの説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1…外方部材
1a…車体取付用フランジ
1aa…突片
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
14…車体取付用のボルト孔
16…ナックル
19…センサユニット
20…歪み発生部材
20a…接触固定部
20b…切欠き部
21…センサ
25…推定手段
26…スペーサ
27…溝
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪の軸受部にかかる荷重を検出する荷重センサを内蔵したセンサ付車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の各車輪にかかる荷重を検出する技術として、車輪用軸受の外輪フランジの外径面の歪みを検出することにより荷重を検出するセンサ付車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献1)。また、固定輪のフランジ部と外径部にわたってL字型部材からなる歪み拡大機構を取付け、その歪み拡大機構の一部に歪みゲージを貼り付けた車輪用軸受が提案されている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−098138号公報
【特許文献2】特開2006−077807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示の技術では、固定輪のフランジ部の変形により発生する歪みを検出している。しかし、固定輪のフランジ部の変形には、フランジ面とナックル面の間の摩擦(滑り)が伴うため、繰返し荷重を印加すると、出力信号にヒステリシスが発生するといった問題がある。
例えば、車輪用軸受に対してある方向の荷重が大きくなる場合、固定輪フランジ面とナックル面の間は、最初は荷重よりも静止摩擦力の方が大きいため滑らないが、ある大きさを超えると静止摩擦力に打ち勝って滑るようになる。その状態で荷重を小さくしていくと、やはり最初は静止摩擦力により滑らないが、ある大きさになると滑るようになる。その結果、この変形が生じる部分で荷重を推定しようとすると、出力信号に図13のようなヒステリシスが生じる。
また、特許文献2に開示の技術においても、L字型部材からなる歪み拡大機構のフランジ面に固定されている部位が、フランジ面とナックル面の摩擦(滑り)の影響を受けるため、同様の問題が生じる。
また、車輪用軸受に作用する上下方向の荷重Fz を検出する場合、荷重Fz に対する固定輪変形量が小さいため歪み量も小さく、上記した技術では検出感度が低く、荷重Fz を精度良く検出できない。
【0004】
この発明の目的は、ヒステリシスの影響を受けることなく車輪にかかる荷重を精度良く検出できるセンサ付車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、上記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外径面に、この外径面に接触して固定される2つの接触固定部とこれら2つの接触固定部の間に位置する切欠き部とを有する歪み発生部材およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサを有する1つ以上のセンサユニットを設け、このセンサユニットの前記2つの接触固定部は互いに前記固定側部材の円周方向における同位相の位置に配置し、前記2つのうちの一つの接触固定部は前記複列の転走面のうちのアウトボード側の転走面の周辺となる軸方向位置に、他の一つの接触固定部は、前記一つの接触固定部よりもさらにアウトボード側に配置し、前記センサユニットの切欠き部は前記2つの接触固定部間の中央位置よりもアウトボード側に配置したことを特徴とする。
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材(例えば外方部材)にも荷重が印加されて変形が生じる。ここでは、センサユニットにおける歪み発生部材の1つの接触固定部が、外方部材の外径面におけるアウトボード側列の転走面の周辺となる軸方向位置に固定されており、この軸方向位置はタイヤの接地面に加わった荷重が内方部材から転動体を介して伝達される部位であるため、比較的に変形量の大きい部位となる。一方、歪み発生部材の他の1つの接触固定部は、前記1つの接触固定部よりもさらにアウトボード側の軸方向位置に固定されており、この軸方向位置は先の軸方向位置に比べて変形量の小さい部位となる。その結果、外方部材の外径面の歪みが歪み発生部材に拡大して伝達され、その拡大された歪みがセンサで検出される。また、荷重の印加に伴い外方部材に生じる変形量は軸方向の各位置で異なるが、ここでは、センサユニットにおける歪み発生部材の2つの接触固定部を、外方部材の外径面に対して円周方向に同位相として固定しているので、歪み発生部材に歪みが集中しやすくなり、それだけ検出感度が向上する。また、センサユニットの歪み発生部材に切欠き部が設けられ、その切欠き部の周辺にセンサが設けられているので、外方部材の外径面から歪み発生部材に拡大されて伝達される歪みが切欠き部に集中しやすくなり、センサによる検出感度がさらに向上する。しかも、切欠き部は、歪み発生部材における2つの接触固定部の間の中央位置よりもアウトボード側に配置されているので、変形量の大きい軸方向位置に固定される接触固定部と切欠き部との距離が長くなり、モーメントが作用して切欠き部の周辺が変形し、切欠き部の周辺に歪みが集中することになり、さらに検出感度が向上する。上記したように、センサユニットは、ヒステリシスの主な原因となる外方部材フランジの突片に固定していないので、センサの出力信号に生じるヒステリシスが小さくなり、荷重を正確に検出することができる。これにより、ヒステリシスの影響を受けることなく車輪にかかる荷重を精度良く検出できる。
【0006】
この発明において、前記センサユニットの切欠き部は、前記歪み発生部材の外面側から内面側に向けて切り欠いても良い。この構成の場合、一つの接触固定部が外方部材の外径面における比較的変形量の大きいアウトボード側の転走面の周辺となる軸方向位置に固定され、他の一つの接触固定部が比較的変形量の小さいさらにアウトボード側の軸方向位置に固定されていることから、外方部材の外径面の変形により切欠き部の周辺が引っ張られて、切欠き部の周辺の歪みが大きくなり、さらに感度良く荷重を推定することができる。
【0007】
この発明において、前記センサユニットの切欠き部は、前記歪み発生部材の2つの接触固定部の並び方向に対して直交する幅方向の両側面から幅方向に向けて更に欠いても良い。この構成の場合、歪みが分散せず、一部に集中しやすくなるため、さらに感度よく荷重を推定することができる。
【0008】
この発明において、前記センサユニットの切欠き部の幅寸法を2mm以下としても良い。切欠き部の幅が広いと歪みが分散してしまうが、切欠き部の幅寸法を2mm以下にすると、さらに歪みが分散せず、一部に集中しやすくなるため、さらに感度良く荷重を推定することができる。
【0009】
この発明において、前記センサユニットの歪み発生部材は、前記固定側部材に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとしても良い。想定される最大の力が印加された状態になるまでに塑性変形が生じると、外方部材の変形がセンサユニットに正確に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすので、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとするのが望ましい。
【0010】
この発明において、前記センサユニットは、その歪み発生部材の切欠き部の周辺に前記センサを設け、前記歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部の全面を平坦面としても良い。この構成の場合、センサユニットの加工やセンサの設置が容易となる。
【0011】
この発明において、歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部の全面を平坦面とし、前記センサは、前記歪み発生部材におけるセンサ設置面に絶縁層を印刷および焼成により形成し、前記絶縁層の上に電極および歪み測定用抵抗体を印刷および焼成により形成しても良い。この構成の場合、歪み発生部材にセンサを容易に形成できる。このようにしてセンサを形成すると、歪み発生部材のセンサ設置面に接着剤で固定する場合のような径年変化による接着強度の低下がなく、センサユニットの信頼性を向上させることができる。また、加工も容易であるため、コストダウンを図れる。
【0012】
この発明において、センサユニットの歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部の全面を平坦面とし、歪み発生部材は、スペーサを介して前記固定側部材の外径面に固定しても良い。歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部が、前記固定側部材の外径面に対向する内側面である場合、歪み発生部材の内側面におけるスペーサの介在箇所以外の箇所では、固定側部材の外径面との間に隙間が生じることとなり、センサも固定側部材の外径面と干渉することなく切欠き部の付近に容易に設置できる。
【0013】
この発明において、歪み発生部材の切欠き部の周辺にセンサを設け、歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部の全面を平坦面とし、かつ前記固定側部材の外径面における前記センサユニットの2つの接触固定部の固定位置の間に溝を設けても良い。このように、固定側部材の外径面に溝を設けると、歪み発生部材の前記平坦面が固定側部材の外径面に対向する内側面である場合に、2つの接触固定部を固定側部材の外径面に直接固定しても、固定側部材の外径面と歪み発生部材の平坦面とした内側面との間に隙間が生じるので、センサも固定側部材の外径面と干渉することなく切欠き部の付近に容易に設置できる。
【0014】
この発明において、前記固定側部材の外周に、ナックルに取付ける車体取付用のフランジが設けられ、このフランジの円周方向複数箇所にボルト孔が設けられ、前記フランジは各ボルト孔が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側に突出した突片とされ、前記センサユニットは、隣合う前記突片の間の中央に配置しても良い。この構成の場合、ヒステリシスの原因となる突片から離れた位置にセンサユニットを設けることとなり、センサの出力信号のヒステリシスがさらに小さくなり、荷重をさらに精度良く検出することができる。
【0015】
この発明において、前記センサユニットの1つは、タイヤ接地面に対して外方部材の外径面の上面部に設けても良い。この構成の場合、外方部材の外径面において、上下方向の荷重Fz や前後方向の荷重Fy が印加された場合でも常に転動体の荷重が印加される位置、つまりタイヤ接地面に対して上面部となる位置に1つのセンサユニットを設けると、どのような場合でも荷重を精度良く検出することができる。
【0016】
この発明において、前記センサの出力信号により、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を推定する推定手段を設けても良い。
センサの出力信号により、タイヤと路面間の作用力を推定手段で推定すると、静止時や低速時を問わず車輪のタイヤと路面間の作用力を感度良く検出することができるタイヤと路面間の作用力だけでなく、車輪用軸受に作用する力(例えば予圧量)を推定手段で推定することもできる
【0017】
この発明において、前記推定手段は、前記センサ信号の絶対値、および前記出力信号の平均値、および前記出力信号の振幅のうちの、少なくともいずれか一つにより、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を推定するものとしても良い。
車輪用軸受の回転中には、転走面におけるセンサユニットの近傍部位を通過する転動体の有無によって、センサユニットのセンサの出力信号の振幅に周期的な変化が生じる場合がある。そこで、検出信号における振幅の周期を推定手段で測定することにより、転動体の通過速度つまり車輪の回転数を検出することができる。このように、出力信号に変動が見られる場合は、出力信号の平均値や振幅により作用力を算出することができる。変動が見られない場合は、絶対値より作用力を算出することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明のセンサ付車輪用軸受は、複列の転走面が内周に形成された外方部材と、上記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外径面に、この外径面に接触して固定される2つの接触固定部とこれら2つの接触固定部の間に位置する切欠き部とを有する歪み発生部材およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサを有する1つ以上のセンサユニットを設け、このセンサユニットの前記2つの接触固定部は互いに前記固定側部材の円周方向における同位相の位置に配置し、前記2つのうちの一つの接触固定部は前記複列の転走面のうちのアウトボード側の転走面の周辺となる軸方向位置に、他の一つの接触固定部は、前記一つの接触固定部よりもさらにアウトボード側に配置し、前記センサユニットの切欠き部は前記2つの接触固定部間の中央位置よりもアウトボード側に配置したため、ヒステリシスの影響を受けることなく車輪にかかる荷重を精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の一実施形態を図1ないし図6と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0020】
このセンサ付車輪用軸受における軸受は、図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、ボール接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、一対のシール7,8によってそれぞれ密封されている。
【0021】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル16に取付ける車体取付用フランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには円周方向の複数箇所に車体取付用のボルト孔14が設けられ、インボード側よりナックル16のボルト挿通孔17に挿通したナックルボルト18を前記ボルト孔14に螺合することにより、車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0022】
図2は、この車輪用軸受の外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示す。なお、図1は、図2におけるI−I矢視断面図を示す。前記車体取付用フランジ1aは、図2のように、各ボルト孔14が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片1aaとされている。
【0023】
固定側部材である外方部材1の外径面にはセンサユニット19が設けられている。ここでは、2つのセンサユニット19を、タイヤ接地面に対して上位置となる外方部材1の外径面における上面部および下面部の2箇所に設けることで、車輪用軸受に作用する上下方向の荷重Fz を検出するようにしている。具体的には、図2のように、外方部材1の外径面における上面部の、隣り合う2つの突片1aaの間の中央部に1つのセンサユニット19が配置され、外方部材1の外径面における下面部の、隣り合う2つの突片1aaの間の中央部に他の1つのセンサユニット19が配置されている。
【0024】
これらのセンサユニット19は、図3に拡大断面図で示すように、歪み発生部材20と、この歪み発生部材20に取付けられて歪み発生部材20の歪みを検出するセンサ21とでなる。歪み発生部材20は、鋼材等の弾性変形可能な金属材からなる。歪み発生部材20は、外方部材1の外径面に対向する内面側に張り出した2つの接触固定部20aを両端部に有し、これら接触固定部20aで外方部材1の外径面に直接に固定される。2つの接触固定部20aのうち、1つの接触固定部20aは、外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置に配置され、この位置よりもアウトボード側の位置にもう1つの接触固定部20aが配置され、かつこれら両接触固定部20aは互いに外方部材1の円周方向における同位相の位置に配置される。ここでいうアウトボード側列の転走面3の周辺とは、インボード側列およびアウトボード側列の転走面3の中間位置からアウトボード側列の転走面3の形成部までの範囲である。なお、外方部材1の外径面へセンサユニット19を安定良く固定する上で、外方部材1の外径面における前記歪み発生部材20の接触固定部20aが接触固定される箇所に平坦部を形成するのが望ましい。
【0025】
また、歪み発生部材20の前記2つの接触固定部20aの間の中央位置よりもアウトボード側には切欠き部20bが形成されている。図4(A),(B)にセンサユニット19の一構成例の正面図および底面図(外方部材1の外径面に対向する内面側から見た図)を示すように、この例では、前記切欠き部20bは、歪み発生部材20の外面側から内面側に向けて切り欠いた形状とされている。切欠き部20bの幅寸法は2mm以下とされている。センサ21は、歪み発生部材20における各方向の荷重に対して歪みが大きくなる箇所に貼り付けられる。ここでは、その箇所として、前記切欠き部20bの周辺、具体的には歪み発生部材20の内面側で切欠き部20bの背面側となる位置が選ばれており、センサ21は切欠き部20b周辺の歪みを検出する。なお、歪み発生部材20は、固定側部材である外方部材1に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとするのが望ましい。塑性変形が生じると、外方部材1の変形がセンサユニット19に正確に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすからである。上記の想定される最大の力は、例えば、この車輪用軸受が軸受としての正常な運転が阻害される損傷を生じない最大の力である。
【0026】
図5(A),(B)は、センサユニット19の他の構成例の正面図および底面図を示す。この構成例では、図4(A),(B)の実施例に対して、更に歪み発生部材20の2つの接触固定部20aの並び方向に対して直交する幅方向の両側面から、幅方向に向けてセンサ21の配置部に至る途中までそれぞれ切り欠いて、切欠き部20b’ を形成している。その他の構成は図4の構成例の場合と同様である。
【0027】
歪み発生部材20の接触固定部20aの外方部材1の外径面への固定は、接触固定部20aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔22に挿通したボルト23を、外方部材1の外周部に設けられたボルト孔24に螺合させて締結することで行なわれるが、接着剤などにより固定しても良い。歪み発生部材20の接触固定部20a以外の箇所では、外方部材1の外径面との間に隙間が生じている。
【0028】
センサユニット19のセンサ21は推定手段25に接続される。推定手段25は、ここではセンサ21の出力信号により、車輪のタイヤと路面間の作用力を推定する手段であり、信号処理回路や補正回路などが含まれる。推定手段25は、車輪のタイヤと路面間の作用力とセンサ21の出力信号との関係を演算式またはテーブル等により設定した関係設定手段(図示せず)を有し、入力された出力信号から前記関係設定手段を用いて作用力を出力する。前記関係設定手段の設定内容は、予め試験やシミュレーションで求めておいて設定する。
【0029】
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受の固定側部材である外方部材1にも荷重が印加されて変形が生じる。前記センサユニット19を例えば外方部材フランジ1aの突片1aaに設置して、フランジ1aの変形から荷重を推定しようとすると、従来例の説明におけるように出力信号にヒステリシスが生じる。
ここでは、センサユニット19における歪み発生部材20の1つの接触固定部20aが、外方部材1の外径面におけるアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置に固定されており、この軸方向位置はタイヤの接地面に加わった荷重が内方部材2から転動体5を介して伝達される部位であるため、比較的に変形量の大きい部位となる。一方、歪み発生部材20の他の1つの接触固定部20aは、前記1つの接触固定部20aよりもさらにアウトボード側の軸方向位置に固定されており、この軸方向位置は先の軸方向位置に比べて変形量の小さい部位となる。その結果、外方部材1の外径面の歪みが歪み発生部材20に拡大して伝達され、その拡大された歪みがセンサ21で検出される。また、荷重の印加に伴い外方部材1に生じる変形量は軸方向の各位置で異なるが、ここでは、センサユニット19における歪み発生部材20の2つの接触固定部20aを、外方部材1の外径面に対して円周方向に同位相として固定しているので、歪み発生部材20に歪みが集中しやすくなり、それだけ検出感度が向上する。
【0030】
また、センサユニット19の歪み発生部材20に切欠き部20bが設けられ、その切欠き部20bの周辺にセンサ21が設けられているので、外方部材1の外径面から歪み発生部材20に拡大されて伝達される歪みが切欠き部20bに集中しやすくなり、センサ21による検出感度がさらに向上する。しかも、切欠き部20bは、歪み発生部材20における2つの接触固定部20aの間の中央位置よりもアウトボード側に配置されているので、変形量の大きい軸方向位置に固定される接触固定部20aと切欠き部20bとの距離が長くなり、モーメントが作用して切欠き部20bの周辺が変形し、切欠き部20bの周辺に歪みが集中することになり、さらに検出感度が向上する。
【0031】
推定手段25は、前記センサ21の出力信号から車輪用軸受に作用する荷重を推定する。これにより、静止時や低速時を問わず車輪のタイヤと路面間の作用力を感度良く検出することができる。上記したように、センサユニット19は、ヒステリシスの主な原因となる外方部材フランジ1aの突片1aaに固定していないので、センサ21の出力信号に生じるヒステリシスが小さくなり、荷重を正確に推定することができる。
【0032】
この実施形態において、センサユニット19の切欠き部20bを、図4に示した構成例のように、歪み発生部材20の外面側から内面側に向けて切り欠いた形状とした場合、一つの接触固定部20aが外方部材1の外径面における比較的変形量の大きいアウトボード側の転走面3の周辺となる軸方向位置に固定され、他の一つの接触固定部20aが比較的変形量の小さいさらにアウトボード側の軸方向位置に固定されていることから、外方部材1の外径面の変形により切欠き部20bの周辺が引っ張られて、切欠き部20bの周辺の歪みが大きくなり、さらに感度良く荷重を推定することができる。
【0033】
また、この実施形態において、センサユニット19の切欠き部20bを、図5に示した構成例のように、歪み発生部材20の2つの接触固定部20aの並び方向に対して直交する幅方向の両側面から幅方向に向けて切り欠いた形状とした場合、歪みが分散せず、一部に集中しやすくなるため、さらに感度よく荷重を推定することができる。
【0034】
また、切欠き部20bの幅が広いと歪みが分散してしまうが、この実施形態では、切欠き部20bの幅寸法を2mm以下にしているので、さらに歪みが分散せず、一部に集中しやすくなるため、さらに感度良く荷重を推定することができる。
【0035】
上記説明では車輪のタイヤと路面間の作用力を検出する場合を示したが、車輪のタイヤと路面間の作用力だけでなく、車輪用軸受に作用する力(例えば軸受の予圧量)を検出するものとしても良い。
このセンサ付車輪用軸受から得られた検出荷重を自動車の車両制御に使用することにより、自動車の安定走行に寄与できる。また、このセンサ付車輪用軸受を用いると、車両にコンパクトに荷重センサを設置でき、量産性に優れたものとでき、コスト低減を図ることができる。
【0036】
また、車輪用軸受の回転中には、転走面3におけるセンサユニット19の近傍部位を通過する転動体5の有無によって、センサユニット19のセンサ21の出力信号の振幅に、図6に示す波形図のように周期的な変化が生じる場合がある。その理由は、転動体5の通過時とそうでない場合とで変形量が異なり、転動体5の通過周期ごとにセンサ21の出力信号の振幅がピーク値を持つためである。そこで、検出信号におけるこのピーク値の周期を、例えば推定手段25で測定することにより、転動体5の通過速度つまり車輪の回転数を検出することも可能となる。このように、出力信号に変動が見られる場合は、出力信号の平均値や振幅により荷重を算出することができる。変動が見られない場合は、絶対値より荷重を算出することができる。
【0037】
また、この実施形態では、センサユニット19を、外方部材1の外径面において、外方部材フランジ1aの隣り合う2つの突片1aaの間の中央部相当位置に配置しているので、ヒステリシスの原因となる突片1aaから離れた位置にセンサユニット19を設けることとなり、センサ21の出力信号のヒステリシスがさらに小さくなり、荷重をさらに正確に推定できる。
【0038】
また、この実施形態では、外方部材1の外径面において、上下方向の荷重Fz や前後方向の荷重Fy が印加された場合でも常に転動体5の荷重が印加される位置、つまりタイヤ接地面に対して上面部となる位置に1つのセンサユニット19が設けられているので、どのような場合でも荷重を正確に推定することができる。また、センサユニット19は、微小な歪みでも拡大して検出するものであるため、外方部材1の変形量が小さい上下方向の荷重Fz でも感度良く検出することができる。
【0039】
なお、この実施形態において、以下の構成については特に限定しない。
・ センサユニット19の設置個数、設置場所や、接触固定部20a,センサ21,切 欠き部20bの数
・ センサユニット19の形状、固定方法(接着、溶接など)
【0040】
図7ないし図10は、この発明の他の実施形態を示す。なお、図8は、この車輪用軸受の外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示し、図7は、図8におけるVII − VII矢視断面図を示す。この実施形態は、図1〜図3に示す実施形態のセンサ付車輪用軸受において、図7の一部を拡大して示す図9のように、センサユニット19の歪み発生部材20をスペーサ26を介して外方部材1の外径面に固定したものである。このため、センサユニット19の正面図および底面図を示す図10(A),(B)のように、センサ21の設置面を含む歪み発生部材20の内側面は、先の実施形態の場合のように接触固定部20aが内面側に張り出しておらず、全面が平坦面とされている。その他の構成は先の実施形態の場合と同様である。
【0041】
これにより、スペーサ26を介して歪み発生部材20を外方部材1の外径面にボルト23で締結した固定状態で、歪み発生部材20の内側面におけるスペース26の介在箇所以外の箇所では、外方部材1の外径面との間に隙間が生じることとなり、センサ21も外方部材1の外径面と干渉することなく切欠き部20bの付近に容易に設置できる。また、歪み発生部材20の内側面を全面に渡って平坦面とするので、センサユニット19の加工やセンサ21の設置が容易となる。なお、ボルト23は、歪み発生部材20の接触固定部20aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔22からスペーサ26のボルト挿通孔27に挿通されて、外方部材1の外周部に設けられたボルト孔24に螺合する。
【0042】
また、歪み発生部材20の内側面を平坦面とすると、その内側面におけるセンサ設置面に、絶縁層を印刷および焼成により形成し、その絶縁層の上に電極および歪み測定用抵抗体を印刷および焼成により形成することで、歪み発生部材20の内側面にセンサ21を容易に形成できる。このようにしてセンサ21を形成すると、歪み発生部材20のセンサ設置面に接着剤で固定する場合のような径年変化による接着強度の低下がなく、センサユニット19の信頼性を向上させることができる。また、加工も容易であるため、コストダウンを図れる。
【0043】
図11および図12は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この実施形態は、図7〜図10に示す実施形態のセンサ付車輪用軸受において、センサユニット19の歪み発生部材20と外方部材1の外径面の間にスペーサ26を介在させるのに代えて、外方部材1の外径面における歪み発生部材20の2つの接触固定部20aの固定位置の間に溝27を設けたものである。その他の構成は図7〜図10の実施形態の場合と同様である。
【0044】
このように、外方部材1の外径面に溝27を設けると、歪み発生部材20の内側面の全面を平坦面として2つの接触固定部20aを外方部材1の外径面に直接固定しても、外方部材1の外径面と歪み発生部材20の内側面との間に隙間が生じるので、センサ21も外方部材1の外径面と干渉することなく切欠き部20bの付近に容易に設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の一実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図2】同センサ付車輪用軸受における外方部材の正面図である。
【図3】図1におけるセンサユニット設置部の拡大断面図である。
【図4】(A)は同センサ付車輪用軸受におけるセンサユニットの一構成例の正面図、(B)は同センサユニットの底面図である。
【図5】(A)は同センサ付車輪用軸受におけるセンサユニットの他の構成例の正面図、(B)は同センサユニットの底面図である。
【図6】同センサ付車輪用軸受におけるセンサの出力信号の波形図である。
【図7】この発明の他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図8】同センサ付車輪用軸受における外方部材の正面図である。
【図9】図7におけるセンサユニット設置部の拡大断面図である。
【図10】(A)は同センサ付車輪用軸受におけるセンサユニットの一構成例の正面図、(B)は同センサユニットの底面図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態にかかるセンサ付車輪用軸受の断面図である。
【図12】図11におけるセンサユニット設置部の拡大断面図である。
【図13】従来例での出力信号におけるヒステリシスの説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1…外方部材
1a…車体取付用フランジ
1aa…突片
2…内方部材
3,4…転走面
5…転動体
14…車体取付用のボルト孔
16…ナックル
19…センサユニット
20…歪み発生部材
20a…接触固定部
20b…切欠き部
21…センサ
25…推定手段
26…スペーサ
27…溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、上記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、
上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外径面に、この外径面に接触して固定される2つの接触固定部とこれら2つの接触固定部の間に位置する切欠き部とを有する歪み発生部材およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサを有する1つ以上のセンサユニットを設け、このセンサユニットの前記2つの接触固定部は互いに前記固定側部材の円周方向における同位相の位置に配置し、前記2つのうちの一つの接触固定部は前記複列の転走面のうちのアウトボード側の転走面の周辺となる軸方向位置に、他の一つの接触固定部は、前記一つの接触固定部よりもさらにアウトボード側に配置し、前記センサユニットの切欠き部は前記2つの接触固定部間の中央位置よりもアウトボード側に配置したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記センサユニットの切欠き部は、前記歪み発生部材の外面側から内面側に向けて更に切り欠いたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項3】
請求項2において、前記センサユニットの切欠き部は、前記歪み発生部材の2つの接触固定部の並び方向に対して直交する幅方向の両側面から幅方向に向けて切り欠いたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記センサユニットの切欠き部の幅寸法を2mm以下としたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記センサユニットの歪み発生部材は、前記固定側部材に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとしたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記センサユニットは、その歪み発生部材の切欠き部の周辺に前記センサを設け、前記歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部の全面を平坦面としたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項7】
請求項6において、前記センサは、前記歪み発生部材におけるセンサ設置面に絶縁層を印刷および焼成により形成し、前記絶縁層の上に電極および歪み測定用抵抗体を印刷および焼成により形成したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、前記センサユニットの歪み発生部材は、スペーサを介して前記固定側部材の外径面に固定したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項9】
請求項6または請求項7において、前記固定側部材の外径面における前記センサユニットの2つの接触固定部の固定位置の間に溝を設けたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記固定側部材の外周に、ナックルに取付ける車体取付用のフランジが設けられ、このフランジの円周方向複数箇所にボルト孔が設けられ、前記フランジは各ボルト孔が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側にへ突出した突片とされ、前記センサユニットは、隣合う前記突片の間の中央に配置したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記センサユニット1の1つは、タイヤ接地面に対して外方部材の外径面の上面部に設けたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記センサの出力信号により、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を推定する推定手段を設けたことを特徴とするセイサ付車輪用軸受。
【請求項13】
請求項12において、前記推定手段は、前記センサ信号の絶対値、および前記出力信号の平均値、および前記出力信号の振幅のうちの、少なくともいずれか一つにより、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を推定するものとしたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項1】
複列の転走面が内周に形成された外方部材と、上記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材と、両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体とを備え、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受において、
上記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外径面に、この外径面に接触して固定される2つの接触固定部とこれら2つの接触固定部の間に位置する切欠き部とを有する歪み発生部材およびこの歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出するセンサを有する1つ以上のセンサユニットを設け、このセンサユニットの前記2つの接触固定部は互いに前記固定側部材の円周方向における同位相の位置に配置し、前記2つのうちの一つの接触固定部は前記複列の転走面のうちのアウトボード側の転走面の周辺となる軸方向位置に、他の一つの接触固定部は、前記一つの接触固定部よりもさらにアウトボード側に配置し、前記センサユニットの切欠き部は前記2つの接触固定部間の中央位置よりもアウトボード側に配置したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項2】
請求項1において、前記センサユニットの切欠き部は、前記歪み発生部材の外面側から内面側に向けて更に切り欠いたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項3】
請求項2において、前記センサユニットの切欠き部は、前記歪み発生部材の2つの接触固定部の並び方向に対して直交する幅方向の両側面から幅方向に向けて切り欠いたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記センサユニットの切欠き部の幅寸法を2mm以下としたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記センサユニットの歪み発生部材は、前記固定側部材に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとしたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記センサユニットは、その歪み発生部材の切欠き部の周辺に前記センサを設け、前記歪み発生部材におけるセンサ設置面を含む所定面部の全面を平坦面としたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項7】
請求項6において、前記センサは、前記歪み発生部材におけるセンサ設置面に絶縁層を印刷および焼成により形成し、前記絶縁層の上に電極および歪み測定用抵抗体を印刷および焼成により形成したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、前記センサユニットの歪み発生部材は、スペーサを介して前記固定側部材の外径面に固定したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項9】
請求項6または請求項7において、前記固定側部材の外径面における前記センサユニットの2つの接触固定部の固定位置の間に溝を設けたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記固定側部材の外周に、ナックルに取付ける車体取付用のフランジが設けられ、このフランジの円周方向複数箇所にボルト孔が設けられ、前記フランジは各ボルト孔が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側にへ突出した突片とされ、前記センサユニットは、隣合う前記突片の間の中央に配置したことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記センサユニット1の1つは、タイヤ接地面に対して外方部材の外径面の上面部に設けたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記センサの出力信号により、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を推定する推定手段を設けたことを特徴とするセイサ付車輪用軸受。
【請求項13】
請求項12において、前記推定手段は、前記センサ信号の絶対値、および前記出力信号の平均値、および前記出力信号の振幅のうちの、少なくともいずれか一つにより、車輪用軸受に作用する外力、またはタイヤと路面間の作用力を推定するものとしたことを特徴とするセンサ付車輪用軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−36556(P2009−36556A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199220(P2007−199220)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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