説明

センサ装置の製造方法

【課題】被覆体の縁部が基板の一面から剥がれることを防止することができるセンサ装置の製造方法を提供する
【解決手段】基板101の一面上の複数の触覚センサ200を取り囲むように、基板101の一面上にエラストマからなる枠部材111を接着剤により接着する。複数の触覚センサ200を被覆するように、基板101上の枠部材111の内側の空間に流動性のエラストマを充填し、硬化させる。それにより、枠部材111の内側に複数の触覚センサ200を被覆するエラストマからなる被覆層112が形成される。枠部材111と被覆層112とは被覆体110として一体化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量を検出するセンサ装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ロボットの手足等には触覚センサが用いられている。例えば、特許文献1に記載されている触覚センサは、シリコン基板上にナノ薄膜生成技術により形成される微小な4本のカンチレバー(片持ち梁)を有する。4本のカンチレバーは互いに90度異なる向きに配置されている。また、シリコン基板上には、4本のカンチレバーを被覆するエラストマ層が形成されている。
【0003】
エラストマ層に圧力または剪断力が加えられると、エラストマ層の内部応力が変化することにより4本のカンチレバーのいずれかまたは全てが変形する。4本のカンチレバーの変形量を検出することにより、圧力または剪断力の大きさおよび方向を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−008854号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の触覚センサでは、エラストマ層に圧力または剪断力が繰り返し加えられると、エラストマ層の4隅がシリコン基板から剥がれやすくなる。それにより、触覚センサの信頼性が低下する。
【0006】
本発明の目的は、被覆体の縁部が基板の一面から剥がれることを防止することができるセンサ装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明に係るセンサ装置の製造方法は、基板の一面に物理量を検出するための検出部を形成する工程と、検出部を取り囲むように高分子材料からなる枠部材を基板の一面に接着剤により接着する工程と、検出部を被覆するように基板上の枠部材の内側の空間に流動性の高分子材料を充填する工程と、流動性の高分子材料を硬化させることにより枠部材の内側に検出部を被覆する被覆層を形成するとともに枠部材と被覆層とを被覆体として一体化させる工程とを備えるものである。
【0008】
本発明に係るセンサ装置の製造方法においては、基板の一面に形成された検出部を取り囲むように高分子材料からなる枠部材が接着剤により接着され、基板上の枠部材の内側の空間に流動性の高分子材料が充填される。さらに、流動性の高分子材料を硬化させることにより枠部材の内側に検出部を被覆する被覆層が形成されるとともに枠部材と被覆層とが被覆体として一体化される。
【0009】
この場合、一体化された被覆体の枠部材が基板の一面に接着剤により接着されるので、被覆体の縁部が基板の一面から剥がれることが防止される。したがって、センサ装置の信頼性が向上する。
【0010】
(2) 検出部は可動部を有するセンサ素子を含み、流動性の高分子材料からなる枠部材として弾性高分子材料からなる枠部材を用い、センサ素子を被覆するように枠部材の内側の空間に流動性の高分子材料として流動性の弾性高分子材料を充填してもよい。
【0011】
この場合、弾性高分子材料からなる枠部材と弾性高分子材料からなる被覆層とが一体化し、基板の一面にセンサ素子を被覆する被覆体が形成される。弾性高分子材料からなる被覆体に圧力または剪断力が加えられると、被覆体の内部応力が変化することにより、センサ素子の可動部が変形する。したがって、可動部の変形量を検出することにより物理量として圧力および剪断力を検出することができる。このような構成によれば、被覆体に圧力または剪断力が繰り返し加えられても、被覆体の縁部が基板の一面から剥がれることが防止される。したがって、圧力および剪断力を検出するセンサ装置の信頼性が向上する。
【0012】
(3) 検出部を形成する工程は、基板の一面に異なる向きに3つ以上の複数のセンサ素子を形成する工程を含み、複数のセンサ素子の各々は、基板の一面から斜め上方に湾曲する可動部を有するカンチレバーと、カンチレバーの変形により変化する抵抗値を有する抵抗部とを含んでもよい。
【0013】
この場合、弾性高分子材料からなる被覆体に圧力または剪断力が加えられると、被覆体の内部応力が変化することによりカンチレバーが変形する。それにより、抵抗部の抵抗値が変化する。したがって、3つ以上のセンサ素子の抵抗部の抵抗値の変化を検出することにより、被覆体に加えられる圧力および剪断力の大きさおよび方向を検出することができる。
【0014】
(4) 複数のセンサ素子を形成する工程は、基板上に第1および第2の膜を順に形成する工程と、第2の膜上の可動部に相当する領域に第2の膜と異なる熱膨張係数を有する制御層を形成する工程と、第2の膜膜および制御層によりカンチレバーを形成する工程とを含み、カンチレバーを形成する工程は、可動部下の第1の膜の部分を除去することにより制御層の内部応力に起因して可動部を基板の一面から斜め上方に湾曲させる工程を含んでもよい。
【0015】
この場合、制御層が第2の膜と異なる熱膨張係数を有することにより、制御層に内部応力が発生する。そのため、可動部下の第1の膜の部分を除去することにより制御層の内部応力に起因して制御層が可動部とともに自律的に基板の一面から斜め上方に湾曲する。それにより、基板の一面から斜め上方に湾曲するカンチレバーを容易にかつ小型に形成することができるとともに、センサ素子の構造を簡素化することができる。したがって、圧力および剪断力を検出するセンサ装置の小型化、低コスト化および高信頼性化が可能となる。
【0016】
(5) 第2の膜を半導体材料により形成し、可動部の一部領域に不純物を添加することにより抵抗部を形成してもよい。
【0017】
この場合、カンチレバーの可動部に抵抗部を容易に形成することができるとともに、カンチレバーの構造を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、一体化された被覆体の枠部材が基板の一面に接着剤により接着されるので、被覆体の縁部が基板の一面から剥がれることが防止される。したがって、センサ装置の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】触覚センサ装置の斜視図である。
【図2】触覚センサ装置の平面図である。
【図3】触覚センサ装置の縦断面である。
【図4】触覚センサ装置の製造方法を示す工程図である。
【図5】触覚センサ装置の製造方法を示す工程図である。
【図6】触覚センサ装置の製造方法を示す工程図である。
【図7】触覚センサ装置の製造方法を示す工程図である。
【図8】触覚センサ装置の製造方法を示す工程図である。
【図9】触覚センサ装置の製造方法を説明するための図である。
【図10】触覚センサ装置の1つの触覚センサの斜視図である。
【図11】触覚センサの平面図である。
【図12】触覚センサ装置の縦断面図である。
【図13】触覚センサの製造方法の一例を示す工程図である。
【図14】触覚センサの製造方法の一例を示す工程図である。
【図15】触覚センサの製造方法の一例を示す工程図である。
【図16】触覚センサの製造方法の一例を示す工程図である。
【図17】触覚センサの製造方法の一例を示す工程図である。
【図18】触覚センサの製造方法の一例を示す工程図である。
【図19】カンチレバーに接続される出力回路の部分を示す回路図である。
【図20】触覚センサ装置における1つの触覚センサの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に係る触覚センサ装置およびその製造方法について図面を参照しながら説明する。
【0021】
(1)触覚センサ装置の構成
図1は本発明の一実施の形態に係る触覚センサ装置の斜視図、図2は図1の触覚センサ装置の平面図、図3は図1の触覚センサ装置の縦断面図である。
【0022】
図1〜図3に示すように、例えば結晶シリコンからなる共通の基板101の一面上の一部の領域に複数の触覚センサ200(図2および図3参照)が形成され、例えばエラストマからなる共通の被覆体110により被覆されている。被覆体110は、枠部材111および被覆層112により構成される。枠部材111および被覆層112は一体化している。
【0023】
本実施の形態では、基板101上に6個の触覚センサ200が形成されている。各触覚センサ200の詳細な構成については後述する。基板101の一面上の残りの領域115には、後述する出力回路の一部または全てが形成されている。
【0024】
例えば、触覚センサ装置100の被覆体110の表面を指で押すと、複数の触覚センサ200に圧力および剪断力が加わる。複数の触覚センサ200の各々により圧力および剪断力が検出される。詳細については後述する。
【0025】
(2)触覚センサ装置100の製造方法
図4〜図8は触覚センサ装置の製造方法を示す工程図である。図4、図5、図6、図7(a)および図8(a)は斜視図であり、図7(b)および図8(b)は平面図であり、図7(c)および図8(c)は縦断面図である。
【0026】
まず、図4に示すように、例えば金属製の型枠500を用意する。型枠500は、矩形の溝部501を有する。
【0027】
次に、図5に示すように、型枠500の溝部501に流動性のエラストマ111Aを充填する。エラストマ111Aとしては、熱硬化性エラストマ、熱可塑性エラストマ、または常温硬化性エラストマ等を用いることができる。熱硬化性エラストマには、熱硬化性樹脂系エラストマ、加硫ゴム等がある。本実施の形態では、常温硬化性シリコンゴムが用いられる。常温硬化性シリコンゴムとして、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製のシルポット(登録商標)184W/Cを用いることができる。
【0028】
型枠500の溝部501内の流動性のエラストマ111Aを硬化させることにより、図6に示すように、エラストマからなる枠部材111が形成される。本実施の形態では、エラストマ111Aとして常温硬化性シリコンゴムを用いることにより、流動性のエラストマ111Aを常温での自然乾燥により硬化させることができる。枠部材111は全体として矩形形状を有する。この枠部材111は矩形断面を有する。
【0029】
次に、図7に示すように、後述する方法で一面の一部領域に複数の触覚センサ200が予め形成された基板101を用意する。基板101の一面上の他の領域115には、後述する出力回路の一部または全てが予め形成されている。基板101の一面上の複数の触覚センサ200を取り囲むように、基板101の一面上に枠部材111を接着剤113により接着する。接着剤113としては、熱可塑性樹脂系接着剤、熱硬化性樹脂系接着剤、紫外線硬化性樹脂系接着剤等を用いることができる。
【0030】
その後、図8に示すように、複数の触覚センサ200を被覆するように、基板101上の枠部材111の内側の空間に流動性のエラストマを充填し、硬化させる。それにより、枠部材111の内側に複数の触覚センサ200を被覆するエラストマからなる被覆層112が形成される。被覆層112のエラストマの種類は、枠部材111のエラストマと同じであってもよく、あるいは異なっていてもよい。本実施の形態では、枠部材111のエラストマとして、常温硬化性シリコンゴムが用いられる。常温硬化性シリコンゴムとして、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製のシルポット(登録商標)184W/Cを用いることができる。
【0031】
本実施の形態では、被覆層112のエラストマとして常温硬化性シリコンゴムを用いることにより、流動性のエラストマを常温での自然乾燥により硬化させることができる。枠部材111と被覆層112とは被覆体110として一体化される。
【0032】
被覆層112の厚みが枠部材111の厚みと同じであるか、または被覆層112の厚みが枠部材111の厚みよりも大きいことが好ましい。
【0033】
ここで、本実施の形態に係る触覚センサ装置100の製造方法の効果を説明するために比較例に係る触覚センサ装置の製造方法を説明する。
【0034】
図9は比較例に係る触覚センサ装置の製造方法を説明するための図である。図9(a)は斜視図、図9(b)は平面図、図9(c)は縦断面図である。
【0035】
比較例に係る製造方法では、開口部を有する型枠(図示せず)を用いる。この型枠の開口部は、基板101上の複数の触覚センサ200を含む矩形領域に対応する矩形形状を有する。開口部が複数の触覚センサ200を含む領域に位置するように基板101上に型枠を設置し、開口部内に流動性のエラストマを充填する。エラストマを硬化させた後、型枠を取り除くことにより、図9に示される被覆層120が形成される。
【0036】
比較例に係る製造方法により製造された触覚センサ装置では、被覆層120に圧力および剪断力が繰り返し加えられると、被覆層120の縁部が基板101から剥がれやすくなる。
【0037】
これに対して、本実施の形態に係る製造方法により製造された触覚センサ装置100では、一体化した被覆体110に圧力および剪断力が繰り返し加えられた場合でも、被覆体110の縁部が基板101から剥がれることが防止される。
【0038】
(3)触覚センサ200の構成
次に、図1〜図3の触覚センサ装置100に含まれる触覚センサ200の構成について説明する。
【0039】
図10は図1〜図3の触覚センサ装置の1つの触覚センサの斜視図、図11は図10の触覚センサの平面図、図12は図10の触覚センサの縦断面図である。
【0040】
以下、基板101の表面に平行で互いに直交する2つの方向にX軸およびY軸を定義し、基板101の表面に垂直な方向にZ軸を定義する。
【0041】
図10〜図12に示される触覚センサ200は、3つ以上の複数のセンサ素子201,202,203,204により構成される。本実施の形態では、触覚センサ200は、4つのセンサ素子201,202,203,204により構成される。
【0042】
センサ素子201,202,203,204は、それぞれカンチレバーCL1,CL2,CL3,CL4を含む。センサ素子201,202,203,204は、共通の基板101上に形成される。触覚センサ200の大きさは、例えば1mm程度と小さい。
【0043】
センサ素子201のカンチレバーCL1とセンサ素子203のカンチレバーCL3とが互いに対向し、センサ素子202のカンチレバーCL2とセンサ素子204のカンチレバーCL4とが互いに対向する。また、センサ素子201,203とセンサ素子202,204とは互いに直交する向きに配置されている。
【0044】
本実施の形態においては、カンチレバーCL1,CL3がX軸方向に沿うようにセンサ素子201,203が配置され、カンチレバーCL3,CL4がY軸方向に沿うようにセンサ素子202,204が配置されている。
【0045】
(4)触覚センサ200の製造方法の一例
図13〜図18は触覚センサ200の製造方法の一例を示す工程図であり、(a)は模式的断面図、(b)は模式的平面図である。図13〜図18には、触覚センサ200に含まれる1つのセンサ素子201の部分のみが示されるが、他のセンサ素子202,203,204も同時に同様の方法で形成される。
【0046】
まず、図13に示すように、SOI(Silicon On Insulator:絶縁体上シリコン)基板1000を用意する。SOI基板1000は、例えば、結晶シリコンからなる基板101、埋め込み酸化膜102および結晶シリコン膜103を有する。結晶シリコン膜103の厚さは、例えば200nmである。埋め込み酸化膜102は、例えば酸化シリコン(SiO)からなる。
【0047】
次に、図14に示すように、熱拡散またはイオン注入により結晶シリコン膜103の略U字状領域にホウ素(B)を添加する。これにより、結晶シリコン膜103に、略U字状のp型ドープ層103aが形成される。略U字状のp型ドープ層103aは、互いに平行に延びる一対の脚部とこれらの脚部を連結する連結部とからなる。p型ドープ層103aの厚さは、例えば100nmである。また、p型ドープ層103aにおけるホウ素の濃度は、例えば0.2原子%(1020/cm)である。
【0048】
次に、図15に示すように、略U字状のp型ドープ層103aの一対の脚部を覆うように結晶シリコン膜103上に、フォトリソグラフィおよび低圧CVD(化学的気相堆積法)により、一対の開口部105を有するSiN(窒化シリコン)からなる絶縁層104を形成する。絶縁層104の一対の開口部105はp型ドープ層103aの一対の脚部に重なるように設けられる。それにより、一対の開口部105内でp型ドープ層103aの一部が露出する。
【0049】
さらに、図16に示すように、フォトリソグラフィおよび真空蒸着法により、一対の開口部105を含む絶縁層104の領域上にCr(クロム)/Au(金)からなる一対の矩形の電極106を形成するとともに、結晶シリコン膜103上に、p型ドープ層103aに並ぶようにCrからなる略矩形状のたわみ制御層107を形成する。
【0050】
Crの蒸着の際に、温度上昇によりたわみ制御層107および結晶シリコン膜103が熱膨張する。その後、たわみ制御層107および結晶シリコン膜103が収縮する。この場合、Crと結晶シリコンとの熱膨張係数の違いにより冷却後には、たわみ制御層107内に残留応力が発生する。
【0051】
次に、図17に示すように、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、絶縁層104下の領域を除いて、略U字状のp型ドープ層103aおよび略矩形状のたわみ制御層107の周囲における結晶シリコン膜103の領域を除去する。たわみ制御層107、p型ドープ層103aの連結部、およびそれらの下の結晶シリコン膜103の部分が後述するカンチレバーCL1となる。なお、エッチングとしては、例えばウェットエッチング法を用いることができる。エッチング液としては、例えば2,6−ヒドロキシナフトエ酸(HNA)を用いることができる。
【0052】
次に、図18に示すように、エッチングによりカンチレバーCL1の下の埋め込み酸化膜102の領域を除去する。エッチング液としては、例えば、フッ化水素(HF)を用いることができる。
【0053】
ここで、上述したように、たわみ制御層107内に残留応力が発生している。そのため、埋め込み酸化膜102の上記の領域を除去した場合、たわみ制御層107内の残留応力に起因して、図18に示すように、たわみ制御層107がその下の結晶シリコン膜103の部分とともに上方に向かって湾曲する。これにより、XY平面において略矩形状でかつ基板101の一面から斜め上方に湾曲するようにカンチレバーCL1が形成される。カンチレバーCL1は支持部Sおよび可動部Rからなる。支持部Sが埋め込み酸化膜102上に支持され、可動部R下の埋め込み酸化膜102が除去されている。
【0054】
このようにして、カンチレバーCL1を有するセンサ素子201が作製される。センサ素子201においては、略U字形状を有するp型ドープ層103aの一対の脚部に電極106がそれぞれ形成されている。これにより、p型ドープ層103aをピエゾ抵抗素子として機能させることができる。
【0055】
次に、図18の状態で、水洗浄、IPA(イソプロピルアルコール)置換、およびt−ブチルアルコール置換を行う。その後、フリーズドライ(真空凍結乾燥)を行う。
【0056】
なお、触覚センサ200の形成前または形成と並行して基板101上に後述する出力回路の一部または全てを形する。
【0057】
その後、図7および図8に示したように、複数の触覚センサ200を被覆するように枠部材111および被覆層112からなる被覆体110を形成する。
【0058】
このようにして作製されたセンサ素子201においては、略U字形状を有するp型のドープ層103bの一端に電極104aが形成され、他端に電極104bが形成されている。これにより、p型ドープ層103aを、ピエゾ抵抗素子として機能させることができる。
【0059】
被覆体110の表面に圧力または剪断力が加えられると、被覆体110の内部応力が変化し、カンチレバーCL1が変形する。それにより、p型ドープ層103aのピエゾ抵抗が変化する。
【0060】
上記の製造方法によれば、たわみ制御層107内に残留応力が存在するので、可動部R下の埋め込み酸化膜102の部分を除去することにより残留応力に起因してたわみ制御層107が可動部Rとともに自律的に基板101の一面から斜め上方に湾曲する。それにより、基板101の一面から斜め上方に湾曲するカンチレバーCL1,CL2,CL3,CL4を容易にかつ小型に形成することができるとともにセンサ素子201〜204の構造を簡素化することができる。したがって、触覚センサ装置100の小型化および低コスト化が可能となる。
【0061】
(5)触覚センサ装置200の出力回路
図19はカンチレバーCL1に接続される出力回路の部分を示す回路図である。図19に示すように、カンチレバーCL1の一対の電極106には、外部抵抗R1,R2,R3が接続され、カンチレバーCL1、外部抵抗R1,R2,R3および直流電源Eによりブリッジ回路211が構成されている。ブリッジ回路211の出力電圧は増幅器221に与えられ、増幅器221の出力電圧がA/D変換器231に入力される。
【0062】
他のカンチレバーCL2,CL3,CL4にも、図19の出力回路と同様の出力回路が接続される。
【0063】
ブリッジ回路211、増幅器221およびA/D変換器231のうち一部または全てが図1〜図3の基板101の領域115に形成される。本実施の形態では、ブリッジ回路211のみが基板101の領域115に形成され、増幅器221およびA/D変換器231が外部装置に設けられる。また、ブリッジ回路211、増幅器221およびA/D変換器231が基板101の領域105に形成されてもよい。
【0064】
本実施の形態では、6個の触覚センサ200に対応する6組のブリッジ回路211が基板101の領域115に形成される。
【0065】
ここで、カンチレバーCL1のヒンジ部の変形によりp型ドープ層103aのピエゾ抵抗が変化する。このピエゾ抵抗の変化量がブリッジ回路211および増幅器221により電圧の変化として検出される。さらに、増幅器221の出力電圧がA/D変換器231によりデジタル信号の出力値S1に変換される。出力値S1に基づいて圧力および剪断力の大きさを検出することができる。
【0066】
図12に示したように、カンチレバーCL1,CL3は、一端側が斜め上方に向かって湾曲している。カンチレバーCL1,CL3は、一端側が対向するように配置されている。このため、図12の被覆体110に矢印Aの方向に剪断力が印加された場合、カンチレバーCL1は曲率半径が大きくなるように変形し、カンチレバーCL3は曲率半径が小さくなるように変形する。一方、被覆体110に矢印Bの方向に剪断力が印加された場合、カンチレバーCL1は曲率半径が小さくなるように変形し、カンチレバーCL3は曲率半径が大きくなるように変形する。さらに、被覆体110に矢印Cの方向に圧力が印加された場合、カンチレバーCL1,CL3は曲率半径が大きくなるように変形する。
【0067】
そのため、矢印Aの方向に剪断力が印加された場合と矢印Bの方向に剪断力が印加された場合とでは、カンチレバーCL1,CL3のp型ドープ層103aのピエゾ抵抗の変化の方向(増加する方向または減少する方向)が逆になる。また、矢印Cの方向に圧力が印加された場合は、カンチレバーCL1,CL2,CL3,CL4のp型ドープ層103aのピエゾ抵抗の変化の方向が同じになる。
【0068】
他のカンチレバーCL2,CL4の動作は、カンチレバーCL1,CL3の動作と同様である。
【0069】
図10〜図12の触覚センサ200においては、センサ素子201,202,203,204にそれぞれ対応する出力値が得られる。X軸方向の剪断力と出力値との関係、Y軸方向の剪断力と出力値との関係およびZ軸方向の圧力と出力値との関係を予め測定により求める。それにより、圧力および剪断力の大きさおよび方向を検出することができる。
【0070】
(6)実施の形態の効果
本実施の形態に係る触覚センサ装置100の製造方法によれば、一体化された被覆体110の枠部材111が基板101の一面に接着剤113により接着されるので、被覆体110に圧力および剪断力が繰り返し加えられた場合でも、被覆体110の縁部が基板101の一面から剥がれることが防止される。したがって、触覚センサ装置100の信頼性が向上する。
【0071】
(7)他の実施の形態
(a)上記実施の形態では、枠部材111が全体として矩形形状を有するが、これに限らず、枠部材111が触覚センサ200を取り囲むことが可能であれば、枠部材111が他の形状を有してもよい。例えば、枠部材111の全体の形状が円形または楕円形であってもよく、あるいは三角形、五角形、六角形等の他の多角形であってもよい。また、枠部材111の全体の形状が曲線で形成された他の形状であってもよい。
【0072】
(b)上記実施の形態では、枠部材111が矩形の断面形状を有するが、これに限らず、枠部材111の下面が基板101の一面に接触する形状を有していれば、枠部材111の断面が他の形状を有してもよい。基板101の一面が平面である場合には、枠部材111の下面が平面であれば、枠部材111の側面および上面は任意の形状を有してもよい。例えば、枠部材111の断面形状が三角形または台形等であってもよい。基板101の一面が曲面であれば、その基板101の曲面に一致する下面を有する枠部材111を用いる。
【0073】
(c)上記実施の形態では、基板101の材料として結晶シリコン基板が用いられるが、これに限らず、基板101の材料として他の材料を用いてもよい。例えば、基板101の材料として炭化シリコン等の他の半導体材料、ガラス、セラミックス、樹脂等の絶縁材料、アルミニウム等の金属材料を用いてもよい。
【0074】
(d)上記実施の形態では、枠部材111および被覆層112の材料としてエラストマが用いられるが、これに限らず、弾性を有する樹脂等の他の高分子材料を用いてもよい。また、検出部を被覆する被覆体に弾性が必要でない場合には、弾性を有しない樹脂等の他の高分子材料を用いてもよい。
【0075】
(e)上記実施の形態では、基板101上に複数の触覚センサ200を有する触覚センサ装置100について説明したが、触覚センサ装置100が基板101上に1つの触覚センサ200を有してもよい。
【0076】
(f)上記実施の形態では、触覚センサ装置100について説明したが、本発明は被覆体を必要とする他のセンサ装置にも適用することができる。例えば、検出部がカンチレバーを用いない1または複数の荷重センサであってもよい。
【0077】
(g)上記実施の形態では、基板101上に複数の触覚センサ200とともに出力回路の一部または全てが形成されているが、基板101上に触覚センサ200のみが形成されてもよい。
【0078】
(h)上記実施の形態では、触覚センサ200が4つのセンサ素子201〜204により構成されるが、触覚センサ200が3つ以上の他の数のセンサ素子により構成されてもよい。
【0079】
図20は本発明の他の実施の形態に係る触覚センサ装置における1つの触覚センサの平面図である。
【0080】
図20の触覚センサ200が図10〜図12の触覚センサ200と異なるのは、触覚センサ200が3つのセンサ素子201,202,203により構成される点である。3つのセンサ素子201,202,203は、互いに120度異なる向きに配置されている。
【0081】
図20の触覚センサ200においては、センサ素子201,202,203にそれぞれ対応する出力値が得られる。X軸方向の剪断力と出力値との関係、Y軸方向の剪断力と出力値との関係およびZ軸方向の圧力と出力値との関係を予め測定により求める。それにより、圧力および剪断力の大きさおよび方向を検出することができる。
【0082】
(i)上記実施の形態では、ピエゾ抵抗素子として働くp型ドープ層103aがU字形状に形成されているが、p型ドープ層103aの形状はU字形状に限らず、V字形状、W字形状、または他の任意の形状であってもよい。
【0083】
(8)請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0084】
上記実施の形態では、基板101が基板の一例であり、触覚センサ200が検出部の例であり、枠部材111が枠部材の例であり、被覆層112が被覆層の例であり、被覆体110が被覆体の例であり、エラストマが高分子材料の例である。
【0085】
また、センサ素子201〜204がセンサ素子の例であり、カンチレバーCL1〜CL4がカンチレバーの例であり、p型ドープ層103aが抵抗部の例であり、埋め込み酸化膜102が第1の膜の例であり、結晶シリコン膜103が第2の膜の例であり、たわみ制御層107が制御層の例であり、p型ドープ層103aが抵抗部の例であり、可動部Rが可動部の例であり、ホウ素が不純物の例であるあり、結晶シリコンが半導体材料の例である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、種々の物理量を検出するセンサ装置を製造するために利用することができる。
【符号の説明】
【0087】
100 触覚センサ装置
101 基板
102 埋め込み酸化膜
103 結晶シリコン膜
103a p型ドープ層
104 絶縁層
105 開口部
106 電極
107 たわみ制御層
110 被覆体
111 枠部材
111A エラストマ
112 被覆層
113 接着剤
115 領域
200 触覚センサ
201,202,203,204 センサ素子
210 ブリッジ回路部
211 ブリッジ回路
221 増幅器
231 A/D変換器
500 金属製の型枠
501 溝部
1000 SOI基板
CL1,CL2,CL3,CL4 カンチレバー
E 直流電源
R 可動部
R1,R2,R3 外部抵抗
S 支持部
S1 出力値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一面に物理量を検出するための検出部を形成する工程と、
前記検出部を取り囲むように高分子材料からなる枠部材を前記基板の前記一面に接着剤により接着する工程と、
前記検出部を被覆するように前記基板上の前記枠部材の内側の空間に流動性の高分子材料を充填する工程と、
前記流動性の高分子材料を硬化させることにより前記枠部材の内側に前記検出部を被覆する被覆層を形成するとともに前記枠部材と前記被覆層とを被覆体として一体化させる工程とを備えることを特徴とするセンサ装置の製造装置。
【請求項2】
前記検出部は可動部を有するセンサ素子を含み、
前記高分子材料からなる枠部材として弾性高分子材料からなる枠部材を用い、前記センサ素子を被覆するように前記枠部材の内側の空間に前記流動性の高分子材料として流動性の弾性高分子材料を充填することを特徴とする請求項1記載のセンサ装置の製造方法。
【請求項3】
前記検出部を形成する工程は、前記基板の前記一面に異なる向きに3つ以上の複数のセンサ素子を形成する工程を含み、
前記複数のセンサ素子の各々は、前記基板の一面から斜め上方に湾曲する前記可動部を有するカンチレバーと、前記カンチレバーの変形により変化する抵抗値を有する抵抗部とを含むことを特徴とする請求項2記載のセンサ装置の製造方法。
【請求項4】
前記複数のセンサ素子を形成する工程は、
前記基板上に第1および第2の膜を順に形成する工程と、
前記第2の膜上の前記可動部に相当する領域に前記第2の膜と異なる熱膨張係数を有する制御層を形成する工程と、
前記第2の膜および前記制御層により前記カンチレバーを形成する工程とを含み、
前記カンチレバーを形成する工程は、
前記可動部下の前記第1の膜の部分を除去することにより前記制御層の内部応力に起因して前記可動部を前記基板の前記一面から斜め上方に湾曲させる工程を含むことを特徴とする請求項3記載のセンサ装置の製造方法。
【請求項5】
前記第2の膜を半導体材料により形成し、前記可動部の一部領域に不純物を添加することにより前記抵抗部を形成することを特徴とする請求項4記載のセンサ装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−204069(P2010−204069A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53110(P2009−53110)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、株式会社国際電気通信基礎技術研究所、地域イノベーション創出研究開発事業「器用な次世代産業用ロボット用の集積多軸触覚センサの研究開発」に係る再委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】