説明

タイヤ製造方法

【課題】直進安定性及び排水性に優れるタイヤ20が得られうる、製造方法の提供。
【解決手段】この製造方法は、(1)予備成形によってローカバーが得られる工程、(2)上型及び下型54を備えており、この上型及び下型54の組み合わせにより、このローカバーと当接してタイヤ20の外面を形作るキャビティ面56が構成されるモールド50が開かれ、このローカバーがこのモールド50に投入される工程、(3)このローカバーの内側に位置するブラダー52に、加圧媒体が充填される工程、(4)このモールド50が閉じられ、このローカバーがこのモールド50内で加圧及び加熱される工程、(5)このブラダー52から、この加圧媒体が排出される工程及び(6)このモールド50が開かれるとともに、このブラダー52に他の加圧媒体が充填される工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ製造方法に関する。詳細には、本発明は、ツーピースモールドを用いたタイヤ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、タイヤ用加硫装置2の一部が示された概略図である。符号Tで示されているのは、この加硫装置2で製造されたタイヤである。この図6には、このタイヤTが加硫装置2から取り出されている状況が示されている。
【0003】
加硫装置2は、モールド4と、ブラダー6と、上側クランプ8と、下側クランプ10とを備えている。このモールド4は、下型12を備えている。図示されていないが、このモールド4は上型も備えている。このモールド4は、ツーピースモールドである。このモールド4では、この上型及び下型12が組み合わされることにより、タイヤTの外面を形作るキャビティ面14が構成される。
【0004】
ブラダー6は、架橋ゴムからなる。ブラダー6は、略円筒状を呈している。図示されていないが、ブラダー6の上側端縁部は上側クランプ8に保持されている。このブラダー6の下側端縁部は、下側クランプ10に保持されている。このブラダー6の内部には、ガスが充填される。この充填により、ブラダー6は膨張する。このブラダー6は、その内部からガスが排出されると、収縮する。図6に示されたブラダー6は、収縮状態にある。
【0005】
この加硫装置2では、タイヤTは次のようにして製造される。開かれたモールド4に、予備成形で得られたローカバー(未架橋タイヤとも称される。)が投入される。ガスの充填により、ブラダー6が膨張する。モールド4が閉じられ、モールド4とブラダー6とに囲まれたキャビティにおいてローカバーが加圧されつつ加熱される。加圧と加熱とにより、ローカバーのゴム組成物がキャビティ内を流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤTが得られる。図6に示されているように、ガスの排出によりブラダー6が収縮するとともにモールド4が開かれ、タイヤTが取り出される。
【0006】
走行性能の観点から、タイヤTのトレッド面16に溝が刻まれることがある。このようなタイヤTを製造する場合、そのキャビティ面14にこの溝に対応する凸条が設けられたモールド4が使用される。このモールド4では、凸条がタイヤTのトレッドに食い込むため、タイヤTをこのモールド4から取り出すとき、このタイヤTの表面に欠け等の欠陥が生じることがある。
【0007】
このように、ツーピースモールド4においては、タイヤTをこのモールド4から取り出す際に、欠陥が生じやすいという問題がある。この問題を解決すべく、ツーピースモールド4で製造されたタイヤTの取り出し方法について様々な検討がなされている。この検討例が、特開平8−25364号公報及び特開2007−185855公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−25364号公報
【特許文献2】特開2007−185855公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
タイヤTの直進安定性及び排水性の観点から、トレッド面16のセンター領域に、略周方向に延在する溝が設けられることがある。
【0010】
ツーピースモールド4は、上型と下型12との境界としてのパーティングラインを備えている。上記溝に対応する凸条がこのパーティングラインを横切る場合、上型及び下型12それぞれの分割面18にはこの凸条の端面が含まれる。この端面の縁は、鋭利である。このモールド4では、タイヤTを取り出す際、この鋭利な縁によって、このタイヤTの表面が傷つけられることがある。
【0011】
上記凸条の赤道面に対する傾斜角度が小さくなるほど、この凸条の端面の縁は、より鋭利となる。タイヤTを取り出す際、鋭利な縁はタイヤTの表面を容易に傷つける。ツーピースモールド4では、そのトレッド面16のセンター領域に略周方向に延在する溝を備えるタイヤTを、その表面を傷つけることなく製造することは困難である。
【0012】
本発明の目的は、直進安定性及び排水性に優れるタイヤが、その表面を傷つけることなく得られうる、ツーピースモールドを用いたタイヤ製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るタイヤの製造方法は、
(1)予備成形によってローカバーが得られる工程、
(2)上型及び下型を備えており、この上型及び下型の組み合わせにより、このローカバーと当接してタイヤの外面を形作るキャビティ面が構成されるモールドが開かれ、このローカバーがこのモールドに投入される工程、
(3)このローカバーの内側に位置するブラダーに、加圧媒体が充填される工程、
(4)このモールドが閉じられ、このローカバーがこのモールド内で加圧及び加熱される工程、
(5)このブラダーから、この加圧媒体が排出される工程
及び
(6)このモールドが開かれるとともに、このブラダーに他の加圧媒体が充填される工程
を含む、タイヤ製造方法。
【0014】
好ましくは、このタイヤの製造方法では、上記他の加圧媒体の温度は上記加圧媒体の温度よりも低い。この他の加圧媒体の圧力は、この加圧媒体の圧力よりも低い。
【0015】
好ましくは、この製造方法で製造される上記タイヤは、その外面がトレッド面をなすトレッドを備えている。このトレッド面に、赤道面に対して傾斜して延在する溝が刻まれている。この溝の傾斜角度は、5°以上45°以下である。
【0016】
好ましくは、このタイヤの製造方法では、上記溝は上記トレッド面のセンター領域に位置している。
【0017】
好ましくは、このタイヤの製造方法では、上記下型は上記上型と当接しうる分割面を備えている。この分割面は、赤道よりも上方に位置している。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、モールドから取り出すときにその表面を傷をつけることなく、直進安定性及び排水性に優れるタイヤが安定に製造されうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法により製造された空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
【図2】図2は、図1のタイヤのトレッド面が示された展開図である。
【図3】図3は、図1のタイヤの製造のための加硫装置の一部が示された概略図である。
【図4】図4は、図1のタイヤの製造方法が示されたフロー図である。
【図5】図5は、加硫装置からタイヤが取り出されている状況が示された概略図である。
【図6】図6は、タイヤ用加硫装置の一部が示された概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0021】
図1に示されているのは、本発明の一実施形態に係る製造方法により製造された空気入りタイヤ20の断面図である。この図1において、上下方向が半径方向であり、左右方向が軸方向であり、紙面との垂直方向が周方向である。このタイヤ20は、図1中の一点鎖線CLを中心としたほぼ左右対称の形状を呈する。この一点鎖線CLは、タイヤ20の赤道面を表す。このタイヤ20は、トレッド22、サイドウォール24、ビード26、カーカス28、ベルト30及びインナーライナー32を備えている。このタイヤ20は、チューブレスタイプである。このタイヤ20は、二輪自動車に装着される。
【0022】
トレッド22は、耐摩耗性に優れた架橋ゴムからなる。トレッド22は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド22は、トレッド面34を備えている。このトレッド面34は、路面と接地する。符号TEで示されているのは、トレッド22の端である。
【0023】
サイドウォール24は、トレッド22の端TEから半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール24は、架橋ゴムからなる。
【0024】
ビード26は、サイドウォール24よりも半径方向略内側に位置している。ビード26は、コア36と、このコア36から半径方向外向きに延びるエイペックス38とを備えている。コア36は、リング状である。コア36は、非伸縮性ワイヤーが巻かれてなる。エイペックス38は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス38は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0025】
カーカス28は、カーカスプライ40からなる。カーカスプライ40は、両側のビード26の間に架け渡されており、トレッド22及びサイドウォール24の内側に沿っている。カーカスプライ40は、コア36の周りを、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。
【0026】
図示されていないが、カーカスプライ40は、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。各コードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、通常は70°から90°である。換言すれば、このカーカス28はラジアル構造を有する。コードは、通常は有機繊維からなる。好ましい有機繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0027】
ベルト30は、カーカス28の半径方向外側に位置している。ベルト30は、カーカス28と積層されている。ベルト30は、カーカス28を補強する。ベルト30は、内側層42及び外側層44からなる。図示されていないが、内側層42及び外側層44のそれぞれは、並列された多数のコードとトッピングゴムとからなる。各コードは、赤道面に対して傾斜している。傾斜角度の絶対値は、10°以上35°以下である。内側層42のコードの傾斜方向は、外側層44のコードの傾斜方向とは逆である。コードの好ましい材質は、スチールである。コードに、有機繊維が用いられてもよい。好ましい有機繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0028】
図2は、図1のタイヤ20のトレッド面34の一部が示された展開図である。この図2において、上下方向が周方向であり、左右方向が軸方向である。一点鎖線CLは、このタイヤ20の赤道面である。両矢印WTで示されているのは、両トレッド22の端TE間の距離である。この距離WTは、このトレッド面34の周長である。符号RCで示されているのは、このトレッド面34のセンター領域である。このセンター領域RCは、赤道上に位置している。このタイヤ20では、領域RCの軸方向における中心が赤道面に一致している。両矢印WCが、領域RCの幅を表している。この領域RCの幅WCは、距離WTの40%に設定されている。なお、符号RSで示されているのは、このトレッド面34のサイド領域である。
【0029】
図示されているように、トレッド面34には複数の溝46が刻まれている。これら溝46により、トレッドパターンが形成されている。各溝46は、赤道面に対して傾斜して延在している。このタイヤ20では、センター領域RCに位置する溝46の傾斜角度は、サイド領域RSに位置する溝46の傾斜角度よりも小さい。換言すれば、このタイヤ20は、そのトレッド面34のセンター領域RCに略周方向に延在する溝46を備えている。このタイヤ20は、そのトレッド22が適度な剛性を有しているので、直進安定性に優れる。この溝46が排水を促すので、このタイヤ20は排水性にも優れる。
【0030】
図2において、角度αは、赤道を横切る一の溝46aの縁が赤道面に対してなす角度を表している。本明細書では、センター領域RCに位置する各溝46について、角度αが計測され、その最小値が傾斜角度として表される。直進安定性及び排水性の観点から、センター領域RCに位置する溝46の傾斜角度αは、5°以上が好ましく、45°以下が好ましい。
【0031】
このタイヤ20は、図3に示された加硫装置48を用いてローカバー(未架橋タイヤとも称される)を加圧及び加熱することにより得られる。この図3において、符号Rで示されているのがローカバーである。図3中、一点鎖線CLはこの加硫装置48で製造されるタイヤ20の赤道面である。
【0032】
加硫装置48は、モールド50と、ブラダー52とを備えている。このモールド50は、下型54を備えている。図示されていないが、このモールド50は上型も備えている。このモールド50は、ツーピースモールドである。このモールド50では、上型及び下型54が組み合わされることにより、タイヤ20の外面を形作るキャビティ面56が構成される。このモールド50では、上型及び下型54が組み合わされたときのズレが小さい上に、キャビティ面56の真円度が高い。
【0033】
前述したように、このタイヤ20はそのトレッド面34のセンター領域RCに略周方向に延在する溝46を備えている。図示されていないが、このモールド50のキャビティ面56にはこの溝46に対応する凸条が設けられている。
【0034】
このモールド50では、下型54は上型と当接しうる分割面58を備えている。上型及び下型54が組み合わされるとき、上型はこの分割面58に載せられる。この分割面58は、この上型と下型54との境界としてのパーティングラインを構成する。図示されているように、下型54の分割面58は、赤道面よりも上方に位置している。換言すれば、このモールド50のパーティングラインは、赤道面よりも上方に位置している。
【0035】
ブラダー52は、架橋ゴムからなる。ブラダー52は、略円筒状を呈している。このブラダー52の内部には、加圧媒体が充填される。この充填により、ブラダー52は膨張する。このブラダー52は、その内部から加圧媒体が排出されると、収縮する。
【0036】
このタイヤ20は、加硫装置48を用いて次のようにして製造される。図4に示されているのは、このタイヤ20の製造方法のフロー図である。
【0037】
この製造方法では、予備成形によって、ローカバーRが得られる(STEP1)。ローカバーRは、モールド50が開いておりブラダー52が収縮している状態で、モールド50に投入される(STEP2)。ブラダー52の内部に、第一加圧媒体として、その温度が180℃から200℃に調整されたスチームが充填される(STEP3)。この充填により、ブラダー52の内圧が1.5MPaに調整される。この製造方法では、この第一加圧媒体に、その温度が180℃に調整された窒素ガスが用いられてもよい。後述するローカバーRの加熱が容易という観点から、この第一加圧媒体としてはスチームが好ましい。
【0038】
第一加圧媒体の充填により、ブラダー52は膨張する。ブラダー52は、ローカバーRの内周面60に当接する。このブラダー52により、ローカバーRの形状が整えられる。この状態のローカバーRが、図3に示されている。この工程(STEP3)は、シェーピング工程とも称される。
【0039】
モールド50が閉じられ、荷重の付与により締め付けられる(STEP4)。その温度が180℃から200℃に調整された加熱媒体としてのスチームを用いて、モールド50が加熱される。この加熱されたモールド50により、ローカバーRが加熱される(STEP5)。この加熱工程(STEP5)では、モールド50が締め付けられつつ、ローカバーRが加熱される。
【0040】
ブラダー52の内部に、第二加圧媒体がさらに供給される(STEP6)。この第二加圧媒体の供給により、ブラダー52の内圧が高められる。ブラダー52の内圧は、2.1MPaから2.4MPaに調整される。ローカバーRはブラダー52によってモールド50のキャビティ面56に押しつけられ、加圧される。同時にローカバーRは、加熱される。この加圧工程(STEP6)では、加圧と加熱とによりゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤ20が形成される。断熱圧縮による温度上昇を防止し適切に加硫されたタイヤが得られるという観点から、この第二加圧媒体は第一加圧媒体の温度よりも低い温度を有するのが好ましい。この製造方法では、特に好ましい第二加圧媒体は、常温の窒素ガスである。窒素ガスは、ブラダー52の長寿命化に寄与しうる。
【0041】
前述したように、このモールド50のキャビティ面56には、タイヤ20のトレッド面34のセンター領域RCに相当する部分に略周方向に延在する凸条が設けられている。図示されていないが、この凸条はこのタイヤ20のトレッド22に食い込んでいる。この食い込みにより、トレッド22に溝46が形成される。
【0042】
加圧工程の後、ブラダー52の内部から第一加圧媒体及び第二加圧媒体が排出されるとともに、モールド50に付与されていた荷重が除去される。このモールド50の上型が外されるとともに、ブラダー52の内部に、第三加圧媒体として、圧縮空気が充填される。このようにしてモールド50が開かれ、タイヤ20が取り出される(STEP7)。
【0043】
図5には、モールド50から上型が取り外されてタイヤ20が取り出される状況が示されている。前述したように、上型が外されるとともに、ブラダー52の内部に第三加圧媒体が充填される。この充填により、ブラダー52は膨張する。膨張したブラダー52は、タイヤ20のビード26の部分を軸方向外向きに押し拡げる。このタイヤ20は、そのトレッド22の赤道の部分が半径方向内向きに窪むように変形する。図示されていないが、この変形により、モールド50の凸条がトレッド22の溝46から引き抜かれる。この製造方法では、凸条が溝46から引き抜かれた状態でタイヤ20がモールド50から取り出される。なお、図5中、符号Cで示されているのはブラダー52の膨張に伴い上方に移動したクランプである。このクランプCは、ブラダー52の上側端縁部を保持しうる。
【0044】
タイヤ20が凸条に接触することなくモールド50から取り出されるので、このタイヤ20の表面がこの凸条によって傷つくことが効果的に防止される。この製造方法は、これまでツーピースモールド50で製造することが困難であった、トレッド面34のセンター領域RCに略周方向に延在する溝46を有するタイヤ20を安定に製造しうる。この製造方法は、直進安定性及び排水性に優れるタイヤ20の製造に寄与しうる。しかも、この製造方法は、モールド50が多数の部材から構成される割モールド50に比して安価であるので、生産コストを低減しうる。
【0045】
前述したように、このモールド50のパーティングラインは赤道面よりも上方に位置している。しかし、トレッド22の赤道部分が窪むので、このモールド50からのタイヤ20の取り出しは容易である。この製造方法では、モールド50のパーティングラインが赤道面よりも上方に位置しているにもかかわらず、凸条によってタイヤ20が傷つけられることなく、タイヤ20が容易に取り出されうる。この製造方法によれば、外観、直進安定性及び排水性に優れるタイヤ20が安定に製造されうる。この製造方法で製造されたタイヤ20は、高品質である。
【0046】
この製造方法では、第三加圧媒体の充填によるブラダー52の内圧は、第二加圧媒体の充填によるブラダー52の内圧よりも低い。この第三加圧媒体の充填によるブラダー52の内圧は、第一加圧媒体の充填によるブラダー52の内圧よりも低い。このため、第三加圧媒体が充填されたブラダー52によるタイヤ20の変形が適切に制御されている。この製造方法では、第三加圧媒体の充填による、タイヤ20の急な変形及び特異な変形が抑制されているので、モールド50からタイヤ20が引き剥がされる際の、タイヤ20の損傷が効果的に防止されている。この観点から、この第三加圧媒体の充填によるブラダー52の内圧は0.02MPa以上が好ましく、0.10MPa以下が好ましい。特に好ましくは、この内圧は、0.04MPaである。
【0047】
この製造方法では、第三加圧媒体の温度は第一加圧媒体のそれよりも低い。低い温度の第三加圧媒体は、タイヤ20の過加硫を防止しうる。この製造方法では、適切に加硫されたタイヤ20が得られうる。この製造方法は、高品質なタイヤ20を製造しうる。この観点から、この第三加圧媒体としては、常温の圧縮空気が好ましい。なお、この第三加圧媒体として常温の窒素ガスが用いられてもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0049】
[実施例1]
予備成形によって得られたローカバーが、図3に示された構成を備えたモールドに投入された。シェーピング工程の時、ブラダーの内部には、その温度が200℃に調整されたスチームが充填された。この充填により、ブラダーの内圧は、1.5MPaに調整された。モールドが閉められた後、ブラダーの内部には、常温の窒素ガスがさらに充填された。この充填により、ブラダーの内圧は2.1MPaに調整された。ローカバーは、このモールド内で加圧及び加熱された。加圧工程の後、ブラダーの内部から、スチーム及び窒素ガスが排出された。排出後、このモールドの上型が外されるとともに、ブラダーの内部に、常温の圧縮空気が充填され、ブラダーが膨張された。ブラダーの内圧は、0.04MPaに調整された。このモールドから、図1に示された構成を備えたタイヤが取り出された。このタイヤのサイズは、120/70ZR17である。このタイヤのトレッド面のセンター領域RCには、略周方向に延在する溝が刻まれている。この溝の傾斜角度αは、5°とされた。このタイヤのカーカスは、1枚のカーカスプライから構成されている。このカーカスプライは、ナイロン繊維からなるコードを含んでいる。このコードが赤道面に対してなす角度は、90°とされた。ベルトの内側層及び外側層のそれぞれは、アラミド繊維からなるコードを含んでいる。このコードが赤道面に対してなす角度は、19°とされた。
【0050】
[実施例2及び3並びに参考例1]
タイヤのトレッドパターンを変更し、センター領域RCに刻まれた溝の傾斜角度αを下記表1の通りとした他は、実施例1と同様にして、タイヤを製造した。
【0051】
[比較例1]
予備成形によって得られたローカバーが、図3に示された構成を備えたモールドに投入された。シェーピング工程の時、ブラダーの内部には、その温度が200℃に調整されたスチームが充填された。この充填により、ブラダーの内圧は、1.5MPaに調整された。モールドが閉められた後、ブラダーの内部には、常温の窒素ガスがさらに充填された。この充填により、ブラダーの内圧は2.1MPaに調整された。ローカバーは、このモールド内で加圧及び加熱された。加圧工程の後、ブラダーの内部から、スチーム及び窒素ガスが排出された。モールドが開かれ、タイヤが取り出された。このタイヤのトレッド面のセンター領域RCには、略周方向に延在する溝が刻まれている。この溝の傾斜角度αは、45°とされた。この比較例1は、従来のタイヤ製造方法である。
【0052】
[比較例2]
タイヤのトレッドパターンを変更し、センター領域RCに刻まれた溝の傾斜角度αを下記表1の通りとした他は、比較例1と同様にして、タイヤを製造した。
【0053】
[外観観察]
製造されたタイヤ(100本)の外観を目視で観察した。その結果が、下記の表1に示されている。表1中、タイヤの表面に傷が確認されなかった場合が「G」で、傷が確認された場合が「NG」で示されている。
【0054】
[直進安定性]
タイヤを正規リムに組み込み、このタイヤに空気を充填して内圧を290kPaとした。このタイヤをドラム式走行試験機に装着し、1.3kNの荷重をタイヤに負荷した。このタイヤを、30km/hの速度で、ドラムの上を走行させた。10×10mmの突起を乗り越したときの反力を計測した。この結果が、比較例1を100とした指数値で下記表1に示されている。数値が大きいほど、好ましい。
【0055】
[排水性]
タイヤを正規リムに組み込み、このタイヤに空気を充填して内圧を290kPaとした。このタイヤをドラム式走行試験機に装着し、1.3kNの荷重をタイヤに負荷した。このタイヤを、スリップアングルが1°とされて1.0mmの水膜が形成されたドラムの上を走行させて、限界速度が測定された。この結果が、比較例1を100とした指数値で下記表1に示されている。数値が大きいほど、好ましい。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示されるように、実施例の製造方法では、比較例の製造方法に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明された方法は、種々のタイヤの製造にも適用されうる。
【符号の説明】
【0059】
2、48・・・加硫装置
4、50・・・モールド
6、52・・・ブラダー
12、54・・・下型
14、56・・・キャビティ面
16、34・・・トレッド面
18、58・・・分割面
20・・・タイヤ
22・・・トレッド
46・・・溝
60・・・内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備成形によってローカバーが得られる工程、
上型及び下型を備えており、この上型及び下型の組み合わせにより、このローカバーと当接してタイヤの外面を形作るキャビティ面が構成されるモールドが開かれ、このローカバーがこのモールドに投入される工程、
このローカバーの内側に位置するブラダーに、加圧媒体が充填される工程、
このモールドが閉じられ、このローカバーがこのモールド内で加圧及び加熱される工程、
このブラダーから、この加圧媒体が排出される工程
及び
このモールドが開かれるとともに、このブラダーに他の加圧媒体が充填される工程
を含む、タイヤ製造方法。
【請求項2】
上記他の加圧媒体の温度が、上記加圧媒体の温度よりも低く、
この他の加圧媒体の圧力が、この加圧媒体の圧力よりも低い請求項1に記載のタイヤ製造方法。
【請求項3】
上記タイヤが、その外面がトレッド面をなすトレッドを備えており、
このトレッド面に、赤道面に対して傾斜して延在する溝が刻まれており、
この溝の傾斜角度が、5°以上45°以下である請求項1又は2に記載のタイヤ製造方法。
【請求項4】
上記溝が、上記トレッド面のセンター領域に位置している請求項3に記載のタイヤ製造方法。
【請求項5】
上記下型が、上記上型と当接しうる分割面を備えており、
この分割面が、赤道よりも上方に位置している請求項1から4のいずれかに記載のタイヤ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−6319(P2012−6319A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145746(P2010−145746)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】