説明

タンク用ゴムクッション

【課題】上下方向での充分に大きな支持ばね剛性と水平方向での低ばね特性の付与とを、構造の複雑化や部品点数の増加を伴うことなく達成し得る、新規な構造のタンク用ゴムクッションを提供すること。
【解決手段】支持部18の装着孔20に挿通されたインナ軸部材12には2つの分割筒状ゴム14が外挿されており、各分割筒状ゴム14には、フランジ部38,28と支持部18の軸方向対向面間に配される軸方向防振ゴム部40と、インナ軸部材12と支持部18との軸直角方向対向面間に配される筒状の軸直方向防振ゴム部42とが、設けられている。各分割筒状ゴム14の軸直方向防振ゴム部42には周上で部分的に径寸法が異ならされて周方向に凹凸状部分48,50が設けられており、凹凸状部分48,50においてインナ軸部材12の外周面と支持部18の内周面との間に隙間52,54が存在する状態で組み付けられるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンクを車両ボデーに対して防振支持させるタンク用ゴムクッションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料タンクを車両ボデーに対して支持させるために、タンク用ゴムクッションが用いられている。例えば、特開2009−67108号公報(特許文献1)に示されているのが、それである。
【0003】
ところで、タンク用ゴムクッションには、タンク内の燃料の安定供給を実現したり、燃料タンク自体の変位による振動の車両ボデーへの伝達を低減するために、防振支持性能が求められると共に、燃料タンク内の燃料の流動音を低減することが要求される。そして、これらの要求を満たすためには、タンク用ゴムクッションにおいて、上下方向での支持ばね剛性を充分に確保しつつ、水平方向での低ばね特性を付与することが有効であると考えられる。
【0004】
ところが、特許文献1に記載されている従来構造のタンク用ゴムクッションでは、弾性突起を設けることでばね特性を調節しているものの、上下方向と水平方向の何れにおいてもゴム弾性体の圧縮変形に伴うばね特性を利用している。それ故、特許文献1のタンク用ゴムクッションでは、上下方向と水平方向のそれぞれで目的とするばね特性を満足することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−67108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、上下方向での充分に大きな支持ばね剛性と水平方向での低ばね特性の付与とを、構造の複雑化や部品点数の増加を伴うことなく達成し得る、新規な構造のタンク用ゴムクッションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第一の態様は、燃料タンクを複数箇所において車両ボデーに対して防振支持せしめるタンク用ゴムクッションにおいて、前記燃料タンクと前記車両ボデーの一方に固定されるインナ軸部材には軸方向両端部にフランジ部が設けられていると共に、該燃料タンクと該車両ボデーの他方に設けられた支持部には装着孔が形成されており、該装着孔に該インナ軸部材が挿通配置されて該支持部の軸方向両側に該フランジ部がそれぞれ対向配置されるようになっている一方、該インナ軸部材には2つの分割筒状ゴムが軸方向に向かい合わせて外挿されており、各該分割筒状ゴムの軸方向外側部分には該インナ軸部材の該フランジ部と該支持部との軸方向対向面間に配される環状の軸方向防振ゴム部が設けられていると共に、各該分割筒状ゴムの軸方向内側部分には該支持部の該装着孔に対して軸方向両側から入り込んで該インナ軸部材と該支持部との軸直角方向対向面間に配される筒状の軸直方向防振ゴム部が設けられており、更に、各該分割筒状ゴムの該軸直方向防振ゴム部には周上で部分的に径寸法が異ならされて周方向に凹凸状部分が設けられて、該凹凸状部分において該インナ軸部材の外周面と該支持部の内周面との間にそれぞれ隙間が存在する状態で組み付けられるようになっていることを特徴とする。
【0008】
本発明の第一の態様に従う構造とされたタンク用ゴムクッションによれば、分割筒状ゴムの軸方向防振ゴム部がフランジ部の間で挟み込まれていることから、軸方向では分割筒状ゴムにおいて圧縮ばね成分が支配的に作用する。それ故、本態様のタンク用ゴムクッションを軸方向が上下方向となるように装着することで、上下方向で硬いばねが容易に設定されて、燃料タンクと車両ボデーの間に入力される上下方向での振動に対して、優れた減衰効果が発揮される。しかも、燃料タンクの変位に伴う燃料の燃料タンク内での移動が抑えられて、燃料がエンジンに対して安定して供給される。加えて、軸方向では、分割筒状ゴムにおいて圧縮変形が支配的となることから、分割筒状ゴムの耐荷重性も有利に確保されて、耐久性の向上が図られる。
【0009】
一方、分割筒状ゴムの軸直方向防振ゴムに凹凸状部分が設けられており、インナ軸部材との間に軸直角方向で隙間が形成されるようになっていると共に、車両への装着状態において支持部との間に軸直角方向で隙間が形成されるようになっている。これにより、軸直角方向の振動入力時には、軸直方向防振ゴムの凹凸状部分の凹凸が延びる(平坦化する)ように変形することで、剪断ばね成分が有効に作用して、比較的に軟らかいばねを容易に実現することが出来る。その結果、燃料タンク内に収容された燃料の流動音が、車両ボデー側に伝達されるのを抑えて、車室空間における静粛性の向上が図られる。
【0010】
また、本態様のタンク用ゴムクッションは、一対のフランジ部を備えたインナ軸部材に2つの分割筒状ゴムを取り付けた簡単な構造とされており、部品点数も少なくされている。それ故、製造が容易であると共に、車両の軽量化やコンパクト化にも資することとなる。
【0011】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載されたタンク用ゴムクッションにおいて、前記2つの分割筒状ゴムにおける各前記軸直方向防振ゴム部が、軸方向の先端面において互いに当接状態で突き合わせられているものである。
【0012】
第二の態様によれば、軸方向において、軸方向防振ゴム部の軸方向での圧縮ばねに加えて、軸直方向防振ゴム部の軸方向での圧縮ばねが利用されて、軸方向でのばねをより硬く設定することが出来る。加えて、軸方向の荷重が分散支持されることから、耐久性の向上も実現され得る。
【0013】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載されたタンク用ゴムクッションにおいて、前記分割筒状ゴムにおける前記軸直方向防振ゴム部が、全周に亘って一定の厚さ寸法とされているものである。
【0014】
第三の態様によれば、軸直方向防振ゴム部の周上において局所的な応力の集中を防ぐことが出来る。それ故、軸直方向防振ゴム部に亀裂が生じる等の不具合を防いで、耐久性の向上が図られる。
【0015】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか1つの態様に記載されたタンク用ゴムクッションにおいて、前記軸直方向防振ゴム部が、周方向で連続的に径寸法が変化する波形状とされているものである。
【0016】
第四の態様によれば、周方向で連続して径寸法が変化するように凹凸状部分が設けられていることから、凹凸状部分の形成部位における応力の集中が回避されて、応力が周上で分散して及ぼされる。それ故、軸直方向防振ゴム部において亀裂の発生等が回避されて、耐久性の向上が実現される。
【0017】
より具体的には、本発明の第五の態様として、第四の態様に記載されたタンク用ゴムクッションにおいて、前記軸直方向防振ゴム部の前記凹凸状部分が、それぞれ周方向で連続的に径寸法の変化する外方に凸の第一の波状湾曲部と内方に凸の第二の波状湾曲部とを含んで構成されており、該第一の波状湾曲部の頂点部分がその外周面において前記支持部の内周面に当接し且つその内周面において前記インナ軸部材の外周面との間に隙間が存在すると共に、該第二の波状湾曲部の頂点部分がその内周面において該インナ軸部材の外周面に当接し且つその外周面において該支持部の内周面との間に隙間が存在する状態で組み付けられるようになっている構造が採用され得る。
【0018】
第五の態様によれば、タンク用ゴムクッションの装着状態において、第一の波状湾曲部の頂点部分でインナ軸部材との間に内周側の隙間が形成されると共に、第二の波状湾曲部の頂点部分で支持部との間に外周側の隙間が形成される。これにより、軸直角方向の振動入力時に、軸直方向防振ゴム部の剪断ばね成分を利用した軟らかいばね特性が実現されて、燃料の流動音の伝達低減作用等が効果的に発揮される。
【0019】
本発明の第六の態様は、第一〜第五の何れか1つの態様に記載されたタンク用ゴムクッションにおいて、前記軸方向防振ゴム部には、その軸方向内側端面に開口して前記軸直方向防振ゴム部の基端部分に沿った外周側を周方向に延びる凹溝が形成されているものである。
【0020】
第六の態様によれば、軸直方向防振ゴム部の基端部分において、ゴム表面の自由長が大きく確保されて、歪みや応力の集中が防止される。それ故、軸直方向防振ゴム部において優れた耐久性を実現することが可能となる。
【0021】
本発明の第七の態様は、第一〜第六の何れか1つの態様に記載されたタンク用ゴムクッションにおいて、前記2つの分割筒状ゴムは、少なくとも前記軸直方向防振ゴム部において互いに同一形状とされているものである。
【0022】
第七の態様によれば、何れか一方の分割筒状ゴムの軸直方向防振ゴム部に応力が偏って作用するのを防いで、何れの分割筒状ゴムにおいても優れた耐久性が実現される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フランジ部の対向面間に配設された軸方向防振ゴム部の圧縮ばね成分によって、軸方向での高いばね定数が実現されて、耐荷重性能や燃料タンクの変位制限作用等が有効に得られる。一方、軸直角方向では、インナ軸部材と支持部の間に介在する軸直方向防振ゴム部に凹凸状部分が設けられていることによって、軸直角方向防振ゴム部の剪断ばね成分による低いばね定数が実現されて、流動音の伝達低減作用等が有効に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態としてのタンク用ゴムクッションを車両装着状態で示す縦断面図。
【図2】図1に示されたタンク用ゴムクッションを構成する分割筒状ゴムの平面図。
【図3】図2のIII−III線断面図。
【図4】図2に示された分割筒状ゴムの本体金具への装着状態を示す平面図。
【図5】図4のV−V線断面図。
【図6】図2とは別の分割筒状ゴムのフランジ金具への装着状態を示す底面図。
【図7】図6のVII−VII線断面図。
【図8】図1に示されたタンク用ゴムクッションの車両装着状態において、要部を拡大して示す横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1には、本発明に従う構造とされたタンク用ゴムクッションの一実施形態として、自動車の燃料タンクの支持に用いられるタンク用ゴムクッション10が示されている。タンク用ゴムクッション10は、インナ軸部材12に2つの分割筒状ゴム14a,14bが取り付けられた構造を有している。そして、インナ軸部材12が、車両ボデー側の取付片16に対して直接的に固定されると共に、燃料タンク側に設けられた支持部18の装着孔20に挿通されて、2つの分割筒状ゴム14a,14bを介して燃料タンクに対して間接的に取り付けられることにより、図示しない燃料タンクが車両ボデーによって防振支持されるようになっている。また、燃料タンクは、複数のタンク用ゴムクッション10によって車両ボデーに対して複数箇所で支持されている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、車両装着状態において略鉛直上下方向となる図1中の上下方向を言う。更に、左右方向とは、原則として、車両装着状態において略水平方向となる図1中の左右方向を言う。
【0027】
より詳細には、インナ軸部材12は、互いに別体の本体金具22とフランジ金具24を組み合わせて形成されている。本体金具22は、鉄やアルミニウム合金等の金属材料や硬質の合成樹脂材料等で形成された高剛性の部材であって、略円筒形状を有する筒状部26の下端から軸直角方向外方に向かって下フランジ部28が突出した構造とされている。また、筒状部26の軸方向中間部分の外周面に段差30が形成されており、筒状部26において段差30を挟んだ上側が小径筒部32とされていると共に、段差30を挟んだ下側が大径筒部34とされている。更に、筒状部26の中心孔は、軸方向中間部分が部分的に大径とされている。なお、筒状部26が下フランジ部28よりも厚肉とされており、後述する車両装着状態において、車両ボデー側の取付片16への取付強度が充分に確保されていると共に、下フランジ部28が薄肉とされることで軽量化が図られている。また、筒状部26の上端部分は、上方に向かって次第に外径寸法が小さくされており、後述するフランジ金具24の取付けを容易に行うことが出来るようになっている。
【0028】
一方、フランジ金具24は、環状の部材であって、略円筒形状を有する連結筒部36の上端から軸直角方向外方に向かって上フランジ部38が突出した構造とされている。なお、フランジ金具24は、特に限定されるものではないが、例えば、薄肉の略円環板形状を有する金属板にプレス加工を施して、内周部分に連結筒部36を形成することで、得ることができる。
【0029】
そして、本体金具22の小径筒部32が、フランジ金具24の連結筒部36に対して、下方から圧入されることにより、それら本体金具22とフランジ金具24が連結固定されて、インナ軸部材12が構成されている。かかるインナ軸部材12においては、下フランジ部28と上フランジ部38が軸方向の両端に設けられて、軸方向に所定距離を隔てて対向配置されている。なお、本体金具22の段差30とフランジ金具24の連結筒部36の下端面は、軸方向で離隔しており、本体金具22およびフランジ金具24の寸法誤差が許容されて、組付け不良の発生が防止されている。
【0030】
このインナ軸部材12は、支持部18に設けられた装着孔20に挿通されており、下フランジ部28が支持部18に対して軸方向下方に対向配置されていると共に、上フランジ部38が支持部18に対して軸方向上方に対向配置されている。また、インナ軸部材12における筒状部26および連結筒部36は、支持部18の装着孔20の直径よりも小さな外径寸法で形成されており、それらインナ軸部材12と支持部18が径方向で所定距離を隔てている。
【0031】
また、支持部18と下フランジ部28の間に分割筒状ゴム14aが配設されていると共に、支持部18と上フランジ部38の間に分割筒状ゴム14bが配設されている。これら分割筒状ゴム14aと分割筒状ゴム14bは、互いに略同一且つ上下逆転した形状とされており、分割筒状ゴム14aが本体金具22に外挿されると共に、分割筒状ゴム14bがフランジ金具24に外挿されて、軸方向で向かい合わせに配置されている。
【0032】
すなわち、分割筒状ゴム14は、図2,図3に示されているように、全体として略円環形状を有するゴム弾性体で形成されている。より詳細には、分割筒状ゴム14は、軸方向外側部分を構成する略円環形状の軸方向防振ゴム部40と、軸方向内側部分を構成する筒状の軸直方向防振ゴム部42とを、一体的に備えている。なお、以下では、分割筒状ゴム14aの具体的な構造について、図2,図3を参照しつつ説明する。分割筒状ゴム14bについては、上述のように分割筒状ゴム14aと略同一且つ上下逆転した形状であることから、軸方向防振ゴム部40bや軸直方向防振ゴム部42bに関する詳細な説明を省略する。
【0033】
分割筒状ゴム14aの軸方向防振ゴム部40aは、周方向環状に延びるゴム弾性体であって、軸方向で充分な厚さを有していると共に、径方向でも比較的に厚肉とされている。また、軸方向防振ゴム部40aの内周面には、軸直角方向で内方に向かって凸となるリップ44が一体形成されて突出している。更に、軸方向防振ゴム部40aには、上面に開口する凹溝46が形成されて、周方向に連続して延びている。そして、分割筒状ゴム14aの軸方向防振ゴム部40aが、下フランジ部28と支持部18の間に配設されると共に、分割筒状ゴム14bの軸方向防振ゴム部40bが、上フランジ部38と支持部18の間に配設されるようになっている。
【0034】
分割筒状ゴム14aの軸直方向防振ゴム部42aは、軸方向防振ゴム部40aの内周部分から軸方向内側(分割筒状ゴム14aにおける上方)に向かって突出する筒状のゴム弾性体であって、軸方向防振ゴム部40aと一体形成されている。また、軸直方向防振ゴム部42aは、軸方向防振ゴム部40aに比して径方向で薄肉とされており、本実施形態では、軸方向防振ゴム部40aの半分以下の厚さ寸法で形成されている。そして、軸直方向防振ゴム部42aは、後述するように、インナ軸部材12と支持部18の径方向間に挿入されて配設されるようになっている。なお、軸方向防振ゴム部40aの凹溝46は、軸直方向防振ゴム部42aの基端部分に沿って外周側を周方向に延びるように形成されており、軸直方向防振ゴム部42aの外周面と凹溝46の内壁面が、段差部や屈曲部等を持つことなく滑らかに連続している。
【0035】
また、軸直方向防振ゴム部42aは、その内径および外径が周方向で連続的に変化しており、図4に示された平面視において波打ち形状とされている。より詳細には、軸直方向防振ゴム部42aは、径方向外方に向かって凸となり且つ径方向内方に向かって凹となる第一の波状湾曲部48と、径方向外方に向かって凹となり且つ径方向内方に向かって凸となる第二の波状湾曲部50が、周方向で交互に連続して形成された構造を有している。本実施形態では、10個の第一の波状湾曲部48と10個の第二の波状湾曲部50が、周方向で1つずつ交互に且つ滑らかに連続した状態で一体形成されており、それら第一,第二の波状湾曲部48,50によって凹凸状部分が形成されている。
【0036】
さらに、軸直方向防振ゴム部42aの径方向寸法は、内径と外径の両方が周方向で連続的に変化しており、軸直方向防振ゴム部42aの厚さ寸法:tが全周に亘って一定とされている。なお、軸直方向防振ゴム部42aの厚さ寸法:tが一定であるとは、厚さ寸法が厳密に変化しない場合だけを示しているのではなく、歪みや応力の過度の集中が回避される範囲で、厚さ寸法の揺らぎ(変化)がある場合を含む。具体的には、軸直方向防振ゴム部42aの厚さ寸法:tは、周上で10%程度の増減(変化)に抑えられていることが望ましく、この場合には、軸直方向防振ゴム部42aの厚さ寸法:tが実質的に一定であると見なされる。
【0037】
かくの如き構造とされた分割筒状ゴム14aは、インナ軸部材12の本体金具22に取り付けられている。即ち、全体として略円環形状とされた分割筒状ゴム14aの中心孔に対して、本体金具22の筒状部26が下方から挿入されて、分割筒状ゴム14aが筒状部26の大径筒部34に外挿される。これにより、分割筒状ゴム14aは、それ自体の弾性によって、本体金具22の大径筒部34に対して非接着で位置決めされて装着されている(図4,図5参照)。
【0038】
一方、分割筒状ゴム14bは、フランジ金具24の連結筒部36に取り付けられている。即ち、分割筒状ゴム14aと同様の略円環形状とされた分割筒状ゴム14bの中心孔に対して、フランジ金具24の連結筒部36が上方から挿入される。これにより、分割筒状ゴム14bは、それ自体の弾性によって、フランジ金具24の連結筒部36に対して非接着で位置決めされて装着されている(図6,図7参照)。
【0039】
そして、分割筒状ゴム14a,14bが装着された状態で、本体金具22とフランジ金具24が相互に組み付けられることにより、タンク用ゴムクッション10が形成されている。また、分割筒状ゴム14aの軸方向防振ゴム部40aと、分割筒状ゴム14bの軸方向防振ゴム部40bとの軸方向間には、燃料タンク側の支持部18が挟み込まれており、それら分割筒状ゴム14a,14bの軸直方向防振ゴム部42a,42bが、それぞれ支持部18の装着孔20に挿入されている。これにより、インナ軸部材12が支持部18に対して分割筒状ゴム14a,14bを介して弾性的に取り付けられている。更に、インナ軸部材12がボルトによって車両ボデー側の取付片16に固定されることにより、燃料タンクが車両ボデーに対して弾性的に支持されている。
【0040】
また、分割筒状ゴム14a,14bの軸方向防振ゴム部40a,40bが、軸方向両側から支持部18に押し当てられており、それら軸方向防振ゴム部40a,40bが軸方向で予圧縮されている。そして、軸方向防振ゴム部40a,40bの変形によって、分割筒状ゴム14a,14bに形成された凹溝46が殆ど消失している。このように、軸方向防振ゴム部40a,40bの軸方向での圧縮変形に際して、内周側への膨出が凹溝46によって許容されていることにより、組付け時に分割筒状ゴム14a,14bに対して及ぼされる歪みや応力が低減されている。
【0041】
さらに、分割筒状ゴム14aの軸直方向防振ゴム部42aの上端面と、分割筒状ゴム14bの軸直方向防振ゴム部42bの下端面が、軸方向で突き当てられており、それら軸直方向防振ゴム部42a,42bが軸方向で何れも予圧縮されている。
【0042】
なお、軸直方向防振ゴム部42aと軸直方向防振ゴム部42bの突出先端面における当接面積は、軸直方向防振ゴム部42a,42bが周方向に波打ち形状とされていることから、分割筒状ゴム14a,14bの周方向での相対的な向きによって変化する。そこにおいて、軸直方向防振ゴム部42a,42bの突出先端面における当接面積の最小値:Smin は、軸直方向防振ゴム部42a又は軸直方向防振ゴム部42bの突出先端面の全面積:Smax に対する百分率が、40%以上且つ60%以下に設定されることが望ましい。蓋し、Smin がSmax に対して小さ過ぎると、軸直方向防振ゴム部42a,42bにおいて応力の集中による損傷や変形による当接状態の意図しない解除等が生ずるおそれがある。一方、Smin がSmax に対して大き過ぎると、後述する隙間52,54の大きさが不充分となって、軸直角方向での低ばね作用が充分には発揮され難くなるからである。本実施形態では、2つの分割筒状ゴム14a,14bが周方向に9°だけ相対回転した場合の当接面積:Smin が、Smax に対して百分率で略50%に設定されている。換言すれば、本実施形態において、軸直方向防振ゴム部42a,42bの当接面積は、2つの分割筒状ゴム14a,14bの周方向での相対的な位置に拘らず、最大当接面積の50%以上が確保されるようになっている。なお、図8には、分割筒状ゴム14aに対して周方向に9°だけ相対回転した分割筒状ゴム14bが、2点鎖線で示されている。
【0043】
さらに、軸直方向防振ゴム部42a又は軸直方向防振ゴム部42bの突出先端面の全面積:Smax は、インナ軸部材12の外周面と支持部18の内周面との間の隙間の軸方向投影面積:Sμに対して、百分率で50%以上且つ80%以下に設定されることが望ましい。より望ましくは、Smax がSμに対して60%以上且つ70%以下に設定される。蓋し、Smax がSμの50%よりも小さいと、軸直方向防振ゴム部42a,42bの厚さ寸法が小さくなり過ぎて、それら軸直方向防振ゴム部42a,42bの突き当て時に、一方の軸直方向防振ゴム部42a(42b)が他方の軸直方向防振ゴム部42b(42a)に入り込んで、それら軸直方向防振ゴム部42a,42bに入力される歪みが著しく大きくなるおそれがある。一方、Smax がSμの80%よりも大きいと、隙間52,54が充分に確保されず、軸直角方向での低ばね作用が充分には発揮され難くなるからである。本実施形態では、Smax がSμに対して百分率で66.5%に設定されている。
【0044】
また、図8に示されているように、軸直方向防振ゴム部42の第一の波状湾曲部48は、その頂点部分において、内周面がインナ軸部材12の外周面から所定の距離:dだけ離隔していると共に、外周面が支持部18の装着孔20の内周面に当接状態で重ね合わされるようになっている。これにより、図1,図8に示されているように、軸直方向防振ゴム部42は、第一の波状湾曲部48の内周面とインナ軸部材12の外周面との間に、内周側の隙間52が設けられた状態で、インナ軸部材12および支持部18に組み付けられるようになっている。
【0045】
一方、軸直方向防振ゴム部42の第二の波状湾曲部50は、その頂点部分において、内周面がインナ軸部材12の外周面に当接状態で重ね合わされていると共に、外周面が支持部18の装着孔20の内周面から所定の距離:dだけ離隔するようになっている。これにより、軸直方向防振ゴム部42は、第二の波状湾曲部50の外周面と支持部18の内周面との間に、外周側の隙間54が設けられた状態で、インナ軸部材12および支持部18に組み付けられるようになっている。なお、図1では、分かり易さのために、隙間52,54が大きめに示されている。また、本実施形態では、内周側の隙間52の径方向での最大寸法と、外周側の隙間54の径方向での最大寸法が、互いに同じ大きさ(d)とされているが、互いに異なる大きさで形成されていても良い。
【0046】
なお、軸直方向防振ゴム部42aと軸直方向防振ゴム部42bの当接面積を確保するためには、インナ軸部材12と支持部18の径方向間の離隔距離:Dに対して、軸直方向防振ゴム部42a,42bの厚さ寸法:tと、隙間52,54の径方向での最大寸法:dの比率が、適当に(例えば、d<t<4d。より好適には、1.5d<t<3d)設定される必要がある。蓋し、軸直方向防振ゴム部42a,42bの厚さ寸法:tが大き過ぎると、後述する剪断ばね成分を利用した低ばね作用が発揮され難くなる。一方、隙間52,54の径方向での最大寸法:dが大き過ぎると、2つの分割筒状ゴム14a,14bの周方向での相対的な位置関係によっては、軸直方向防振ゴム部42a,42bの先端面の当接面積が小さくなり過ぎて、当接部分に応力が集中するおそれがあるからである。
【0047】
このような本実施形態に従う構造とされたタンク用ゴムクッション10によれば、上下のフランジ部38,28と支持部18との軸方向間に分割筒状ゴム14a,14bの軸方向防振ゴム部40a,40bが挟み込まれている。それ故、軸方向では、それら軸方向防振ゴム部40a,40bの圧縮ばね成分によって、充分に硬いばね特性が実現されて、優れた耐荷重性能や振動減衰性能が実現される。
【0048】
さらに、軸方向防振ゴム部40a,40bは、上下のフランジ部38,28と支持部18との対向面間において、軸方向で予圧縮されている。これにより、軸方向防振ゴム部40a,40bの圧縮方向でのばねがより高く設定される。
【0049】
更にまた、軸直方向防振ゴム部42a,42bの各突出先端面同士が、軸方向で突き当てられており、軸直方向防振ゴム部42a,42bが軸方向に予圧縮されている。これにより、分割筒状ゴム14a,14bのばねの軸方向成分として、軸直方向防振ゴム部42a,42bの軸方向での圧縮ばね成分が利用されて、荷重支持性能や高減衰性能の更なる向上が図られる。
【0050】
しかも、軸直方向防振ゴム部42a,42bの基端部の外周側には、全周に亘って延びる凹溝46がそれぞれ形成されており、軸直方向防振ゴム部42a,42bの軸方向での圧縮変形に伴う軸直角方向への膨出が、各凹溝46を消失せしめるように分割筒状ゴム14a,14bが変形することによって、許容されている。それ故、分割筒状ゴム14a,14bに組付けによる歪みや応力が及ぼされるのを防いで、耐久性の低下が防止される。
【0051】
一方、軸直方向防振ゴム部42が薄肉の筒状とされていると共に、第一,第二の波状湾曲部48,50を備えた周方向に波打ち形状とされて、車両装着状態において、インナ軸部材12との間に内周側の隙間52が設けられていると共に、支持部18との間に外周側の隙間54が設けられている。そして、軸直角方向での振動入力時には、軸直方向防振ゴム部42において、第一,第二の波状湾曲部48,50の曲率が小さくなるように変形することで、剪断ばね成分が支配的に作用して、軸直角方向でのばね定数が抑えられる。
【0052】
また、軸直角方向で入力された振動が著しく大きな振幅を有する場合には、軸直方向防振ゴム部42が、振動入力方向一方の側に位置する部分でインナ軸部材12の外周面に沿う形状まで変形させられると共に、他方の側に位置する部分で支持部18の内周面に沿う形状まで変形させられる。その結果、軸直方向防振ゴム部42がインナ軸部材12と支持部18の間で圧縮されて、軸直方向防振ゴム部42の圧縮ばね成分に基づいて、優れた耐荷重性やストッパ作用、高減衰効果等が発揮される。
【0053】
しかも、第一の波状湾曲部48の頂点部分が支持部18の内周面に当接していると共に、第二の波状湾曲部50の頂点部分がインナ軸部材12の外周面に当接している。それ故、隙間52,54を最大限に利用して、軸直方向防振ゴム部42a,42bの剪断ばね成分を効率的に発揮させることができて、軸直角方向での低ばね化が図られる。
【0054】
さらに、軸直方向防振ゴム部42a,42bは、何れも第一の波状湾曲部48と第二の波状湾曲部50が全周に亘って連続的に設けられた構造とされていることから、周方向での高精度な位置決めは不要であって、組付け作業が容易である。特に、軸直方向防振ゴム部42a,42bの厚さ寸法:tと隙間52,54の最大径寸法:dが、それぞれ適当に設定されることにより、軸直方向防振ゴム部42a,42bの周方向での相対的な向きに拘らず、先端面の当接面積が充分に確保されている。それ故、周方向での位置決めをすることなく、軸直方向防振ゴム部42a,42bが軸方向で突き当てられて、目的とする状態で安定して組み付けられる。
【0055】
また、第一の波状湾曲部48と第二の波状湾曲部50は、何れも周方向で滑らかに且つ連続的に径寸法の変化する形状とされている。それ故、軸直方向防振ゴム部42a,42bにおいて局所的な歪みや応力の集中が防止されて、耐久性の向上が実現される。加えて、軸直方向防振ゴム部42a,42bが全周に亘って一定の厚さ寸法で形成されていることによって、厚さの違いによる応力集中も防止されて、耐久性の向上が図られている。
【0056】
また、タンク用ゴムクッション10においては、2つの分割筒状ゴム14a,14bの全体が互いに同一形状で、且つそれら2つの分割筒状ゴム14a,14bは互いに上下逆転して軸方向で向かい合わせに配置されている。それ故、単一形状のゴム弾性体によって分割筒状ゴム14aと分割筒状ゴム14bを得ることができて、金型の削減や製造の容易化を実現することができる。更に、分割筒状ゴム14aと分割筒状ゴム14bに形状の区別がないことから、組み付ける向きだけに注意を払うことで、分割筒状ゴム14a,14bの誤組付けを容易に防ぐことができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、2つの分割筒状ゴム14a,14bは、互いに同一形状ではなくても良く、軸方向防振ゴム部と軸直方向防振ゴム部の何れか或いは両方が互いに異なる形状とされていても良い。なお、2つの分割筒状ゴム14a,14bにおいて、軸直方向防振ゴム部の形状が互いに同一であることが望ましく、それによって、一方の軸直方向防振ゴム部に歪みや応力が集中的に作用するのを防いで、薄肉とされた軸直方向防振ゴム部の耐久性を充分に確保することができる。
【0058】
また、前記実施形態では、軸直方向防振ゴム部42が、凹凸状部分を構成する第一の波状湾曲部48と第二の波状湾曲部50の複数が、周方向に連続して、全周に亘って形成された構造を有している。しかしながら、凹凸状部分は、周上に部分的に設けられていても良く、例えば、径方向一方向の両側に凹凸状部分がそれぞれ形成されて、それら凹凸状部分の設けられた径方向が軸直角方向での主たる振動入力方向と一致させられることによっても、本発明の効果が発揮され得る。更に、例えば、凹凸状部分として、第一,第二の波状湾曲部48,50が連続する滑らかな湾曲形状に代えて、角張った凹状部分と凸状部分を有する凹凸状部分を採用することもできる。
【0059】
また、本発明は、自動車の燃料タンクの支持構造に用いられるゴムクッションだけでなく、例えば、自動二輪車やディーゼル機関車等の鉄道用車両等において燃料タンクを車両ボデーに支持させるタンク用ゴムクッションにも適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
10:タンク用ゴムクッション、12:インナ軸部材、14:分割筒状ゴム、18:支持部、20:装着孔、28:下フランジ部、38:上フランジ部、40:軸方向防振ゴム部、42:軸直方向防振ゴム部、46:凹溝、48:第一の波状湾曲部(凹凸状部分)、50:第二の波状湾曲部(凹凸状部分)、52:隙間、54:隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクを複数箇所において車両ボデーに対して防振支持せしめるタンク用ゴムクッションにおいて、
前記燃料タンクと前記車両ボデーの一方に固定されるインナ軸部材には軸方向両端部にフランジ部が設けられていると共に、該燃料タンクと該車両ボデーの他方に設けられた支持部には装着孔が形成されており、該装着孔に該インナ軸部材が挿通配置されて該支持部の軸方向両側に該フランジ部がそれぞれ対向配置されるようになっている一方、
該インナ軸部材には2つの分割筒状ゴムが軸方向に向かい合わせて外挿されており、各該分割筒状ゴムの軸方向外側部分には該インナ軸部材の該フランジ部と該支持部との軸方向対向面間に配される環状の軸方向防振ゴム部が設けられていると共に、各該分割筒状ゴムの軸方向内側部分には該支持部の該装着孔に対して軸方向両側から入り込んで該インナ軸部材と該支持部との軸直角方向対向面間に配される筒状の軸直方向防振ゴム部が設けられており、
更に、各該分割筒状ゴムの該軸直方向防振ゴム部には周上で部分的に径寸法が異ならされて周方向に凹凸状部分が設けられて、該凹凸状部分において該インナ軸部材の外周面と該支持部の内周面との間にそれぞれ隙間が存在する状態で組み付けられるようになっていることを特徴とするタンク用ゴムクッション。
【請求項2】
前記2つの分割筒状ゴムにおける各前記軸直方向防振ゴム部が、軸方向の先端面において互いに当接状態で突き合わせられている請求項1に記載のタンク用ゴムクッション。
【請求項3】
前記分割筒状ゴムにおける前記軸直方向防振ゴム部が、全周に亘って一定の厚さ寸法とされている請求項1又は2に記載のタンク用ゴムクッション。
【請求項4】
前記軸直方向防振ゴム部が、周方向で連続的に径寸法が変化する波形状とされている請求項1〜3の何れか1項に記載のタンク用ゴムクッション。
【請求項5】
前記軸直方向防振ゴム部の前記凹凸状部分が、それぞれ周方向で連続的に径寸法の変化する外方に凸の第一の波状湾曲部と内方に凸の第二の波状湾曲部とを含んで構成されており、該第一の波状湾曲部の頂点部分がその外周面において前記支持部の内周面に当接し且つその内周面において前記インナ軸部材の外周面との間に隙間が存在すると共に、該第二の波状湾曲部の頂点部分がその内周面において該インナ軸部材の外周面に当接し且つその外周面において該支持部の内周面との間に隙間が存在する状態で組み付けられるようになっている請求項4に記載のタンク用ゴムクッション。
【請求項6】
前記軸方向防振ゴム部には、その軸方向内側端面に開口して前記軸直方向防振ゴム部の基端部分に沿った外周側を周方向に延びる凹溝が形成されている請求項1〜5の何れか1項に記載のタンク用ゴムクッション。
【請求項7】
前記2つの分割筒状ゴムは、少なくとも前記軸直方向防振ゴム部において互いに同一形状とされている請求項1〜6の何れか1項に記載のタンク用ゴムクッション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−97770(P2012−97770A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243546(P2010−243546)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】