説明

タングステンモリブデン合金製ルツボとその製造方法、およびサファイア単結晶の製造方法

【課題】高温強度、特に底部と側壁部とを連結する角部の高温強度に優れるタングステンモリブデン合金製ルツボ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】タングステンを1〜60質量%、残部モリブデンからなるタングステンモリブデン合金からなる底部2と側壁部3とが角部4を介して連結された上部開放部を有する有底筒状のタングステンモリブデン合金製ルツボ1であって、平均結晶粒径が100μm以下であり、当該ルツボ1の製造方法は、タングステン粉末とモリブデン粉末を混合する混合工程と、圧力1ton/cm以上のCIP成形にてルツボ形状に成形する成形工程と、水素雰囲気中1400℃以上の温度で焼結する第一の焼結工程と、還元雰囲気中または不活性雰囲気中2000℃以上の温度で焼結する第二の焼結工程からなる粉末焼結法により製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステンモリブデン合金製ルツボとその製造方法、およびサファイア単結晶の製造方法に係り、特に底部と側壁部とを繋ぐ角部の高温強度に優れるタングステンモリブデン合金製ルツボとその製造方法、およびこのようなタングステンモリブデン合金製ルツボを用いたサファイア単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属蒸発容器、金属酸化物溶解容器、結晶製作用容器等の高温で用いられる製造装置の一構成部品として、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放の有底筒状のモリブデン製ルツボが用いられている。
【0003】
このようなモリブデン製ルツボは、モリブデン鍛造体を切削加工することにより、あるいはモリブデンからなる板材を絞り加工することにより製造されている。例えば、特開平11−169993号公報(特許文献1)には、モリブデン鍛造体を用いたルツボが開示されているが、鍛造加工は鍛造加工に伴う押圧や引き延ばしにより粒径の大きなモリブデン結晶粒が発生しやすく、特に加工量の大きい角部においてこのような現象が顕著となるために高温強度が低下しやすい。
【0004】
また、モリブデンからなる板材を絞り加工する方法については、側壁部の肉厚減少が避けられず、また底部と側壁部とを繋ぐ角部の繊維組織がみだれやすくなるために高温強度に大きなバラツキが発生する。
また、特許第3917208号公報(特許文献2)には、タングステンを1〜5質量%含有したタングステンモリブデン合金からなるルツボが開示されている。しかしながら、モリブデンの結晶粒径が1mm以上と大きいことから寿命に関しては十分とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−169993号公報
【特許文献2】特許第3917208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように従来のモリブデン製ルツボは加工歪みが生じやすく、特に加工量の大きい角部には残留歪みが発生しやすく、これにより高温で使用した場合にモリブデン結晶粒の再結晶化が加速されて高温強度が低下しやすくなる。さらに、角部を厚くすることで高温強度を確保することも考えられるが、通常は板材を用いるために必ずしも角部についてのみ厚くすることは容易でない。
また、タングステンモリブデン合金製ルツボに関しても長寿命のルツボは得られていない。
【0007】
このようにタングステンモリブデン合金製ルツボの高温強度を向上させるために様々な検討が行われているものの、未だ十分な高温強度、特に底部と側壁部とを連結する角部の高温強度に優れるモリブデン製ルツボは得られていない。本発明は上記した課題を解決するためになされたものであって、高温強度、特に底部と側壁部とを連結する角部の高温強度に優れるタングステンモリブデン合金製ルツボを提供することを目的としている。また、本発明は、このような高温強度に優れるタングステンモリブデン合金製ルツボを容易に製造するための製造方法を提供することを目的としている。さらに、本発明は、このような高温強度に優れるタングステンモリブデン合金製ルツボを用いたサファイア単結晶の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボは、タングステンを1〜60質量%、残部モリブデンからなるタングステンモリブデン合金からなる底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放部を有する有底筒状のタングステンモリブデン合金製ルツボであって、平均結晶粒径が100μm以下であることを特徴とする。
また、前記ルツボは開放部の内径が100mm以上であることが好ましい。また、前記ルツボは密度が95%以上であることが好ましい。また、前記タングステンが10〜50質量%、残部モリブデンからなるタングステンモリブデン合金からなることが好ましい。
【0009】
また、単位面積500μm×500μmにおける酸素分布が、モリブデン結晶領域よりもタングステン結晶領域に多く分布していることが好ましい。また、前記側壁部と前記角部との厚さが異なることが好ましい。また、前記ルツボはサファイア単結晶を製造するための原料の融液を入れるものとして用いられることが好ましい。
【0010】
本発明の第一のタングステンモリブデン合金製ルツボの製造方法は、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放部を有する有底筒状のタングステンモリブデン合金製ルツボを製造するための製造方法であって、タングステン粉末とモリブデン粉末を混合する混合工程と、圧力1ton/cm以上のCIP成形にてルツボ形状の成形体を作製する成形工程と、成形体を水素雰囲気中1400℃以上の温度で焼結する第一の焼結工程と、還元雰囲気中2000℃以上の温度で焼結する第二の焼結工程、とを具備することを特徴とするものである。
また、混合工程が、タングステン粉末が1〜60質量%、残部がモリブデン粉末を混合することが好ましい。
【0011】
また、第二のタングステンモリブデン合金製ルツボの製造方法は、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放部を有する有底筒状のタングステンモリブデン合金製ルツボを製造するための製造方法であって、タングステン粉末とモリブデン粉末を混合する混合工程と、混合した粉末をルツボ形状に成形する成形工程と、不活性雰囲気中、圧力100MPa以上、1300℃以上でHIP処理するHIP工程、とを具備することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のサファイア単結晶の製造方法は、原料の融液から結晶成長によりサファイア単結晶を製造するサファイア単結晶の製造方法であって、前記原料の融液を入れるルツボとして本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放の有底筒状のタングステンモリブデン製ルツボにおいて、平均結晶粒径を100μm以下とすることで、高温強度、特に底部と側壁部とを連結する角部の高温強度に優れるタングステンモリブデン合金製ルツボとすることができる。
【0014】
また、本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボの製造方法によれば、本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボを得ることができる。
【0015】
さらに、本発明によれば、原料の融液から結晶成長によりサファイア単結晶を製造するサファイア単結晶の製造方法において、この原料の融液を入れるルツボとして本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボを用いることで、サファイア単結晶の製造に用いられる製造装置の稼働時間を長くすることができ、これによりサファイア単結晶の生産性を向上し、その生産コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボの一例を示す断面図。
【図2】本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボの変形例を示す断面図。
【図3】本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボの他の変形例を示す断面図。
【図4】本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボのさらに他の変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について図面を参照して具体的に説明する。
図1は、本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボの一例を示す断面図である。本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボ1はタングステンを1〜60質量%、残部モリブデンからなるタングステンモリブデン合金からなるものであって、略板状の底部2と、この底部2の外周部を囲むように所定の高さに設けられる側壁部3と、これら底部2と側壁部3とを連結する角部4とを有し、これらが上部の開放された有底筒状となるように一体に形成されたものである。角部4は、例えば底部2や側壁部3と略同様な厚さとされると共に、弧状に湾曲するものとされており、側壁部3は、角部4から略垂直に立ち上がるものとされている。また、タングステンおよびモリブデン以外の不純物成分は0.1質量%以下、さらには0.05質量%以下と少ないほどよい。代表的な不純物成分は、鉄が0.01wt%(100wtppm)以下、それ以外の金属成分は合計で0.04wt%(400wtppm)以下、酸素は0.01wt%(100wtppm)以下、窒素は0.01wt%(100wtppm)以下が好ましい。不純物成分は少ないほど良いことは言うまでもない。
【0018】
なお、本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボ1としては、少なくともルツボとしての機能を有するものであれば特にその形状は制限されるものではなく、例えば図2に示すように角部4が底部2や側壁部3よりも厚くされていてもよいし、また例えば図3に示すように角部4が略直角に折れ曲がるものとされていてもよいし、さらに例えば図4に示すように側壁部3が底部2から開口部側に向かって徐々に拡径するものとされていてもよい。
【0019】
タングステンモリブデン合金はタングステンを1〜60質量%、残部モリブデンからなるものである。タングステンが1質量%未満ではタングステンを添加する効果がなく、60質量%を超えるとタングステンがリッチになりすぎ価格が高くなる。タングステンの好ましい範囲は10〜50質量%、さらには15〜35質量%である。
タングステンを添加することにより、モリブデンの粒成長を抑制できるためタングステンモリブデン合金の平均結晶粒径を100μm以下、さらには50μm以下と小さくすることができる。粒成長を抑制できるのでルツボの高温強度を高めることができ、長寿命化を図ることができる。また、タングステンの融点は3400℃、モリブデンの融点は2620℃とタングステンの融点が高いことから、モリブデン単体よりも融点を上げることができるので高温強度を高めることができる。
【0020】
平均結晶粒径の測定は、線インターセプト法により求められるものである。すなわち、まずタングステンモリブデン製ルツボ1の個々の測定箇所となる断面について500μm×500μmの大きさの拡大写真を撮り、この写真上において任意に直線を引き、この直線が横切るタングステン結晶またはモリブデン結晶粒の粒子数を測定すると共に、この直線が横切る個々のタングステン結晶またはモリブデン結晶粒の粒径(直線が横切る部分における粒径、すなわちタングステン結晶またはモリブデン結晶粒を横切る直線の長さ)を測定する。
500μm/結晶粒の個数により平均値を求める。この作業を任意の3か所の単位面積について行いその平均値を平均結晶粒径とする。
【0021】
また、結晶粒径が10μm以上100μm以下のタングステンまたはモリブデン結晶粒の割合が粒子数の割合で50%以上、さらには90%以上であることが好ましい。すなわち、結晶粒の全粒径の粒子数に対する粒径が10μm以上100μm以下の粒子数の割合((粒径が10μm以上100μm以下の粒子数)/(全粒径の粒子数)×100[%])が50%以上となるものである。
【0022】
このように粒径が10μm以上100μm以下の結晶粒の割合を50%以上とすることで、言い換えれば粒径が10μm未満といった微小な結晶粒や、粒径が100μmを超えるような過大な結晶粒を少なくし、全体としての粒径の大幅なバラツキを抑えることで、高温強度、特に底部2と側壁部3とを連結する角部の高温強度に優れるものとすることができる。
なお、50%以上含まれる粒径が10μm以上100μm以下の結晶粒は、必ずしも粒径が10μm以上100μm以下の中から選ばれる単一の粒径から構成されている必要はなく、粒径が10μm以上100μm以下の範囲内であれば異なる粒径の結晶粒から構成されることができる。
また、粒径が10μm以上100μm以下のモリブデン結晶粒の割合は、具体的には従来例である鍛造加工により製造した場合に粒径の大きなモリブデン結晶粒が発生しやすい角部4における任意の2箇所と、そうでない側壁部3における任意の2箇所との計4箇所の測定箇所について求められる粒径が10μm以上100μm以下のモリブデン結晶粒の割合を平均して求められるものである。
【0023】
それぞれの測定箇所における粒径が10μm以上100μm以下の結晶粒の割合は、具体的には線インターセプト法により求められるものである。すなわち、まずモリブデン製ルツボ1の個々の測定箇所となる断面について500μm×500μmの大きさの拡大写真を撮り、この写真上において任意に直線を引き、この直線が横切るモリブデン結晶粒の粒子数を測定すると共に、この直線が横切る個々のモリブデン結晶粒の粒径(直線が横切る部分における粒径、すなわちモリブデン結晶粒を横切る直線の長さ)を測定する。
【0024】
そして、このようにして測定されたモリブデン結晶粒の粒子数と、粒径が10μm以上100μm以下となるモリブデン結晶粒の粒子数とから、上記式により個々の測定箇所における粒径が10μm以上100μm以下の結晶粒の割合を求めることができる。また、このようにして求められた個々の測定箇所(2箇所(角部4)+2箇所(側壁部3)、計4箇所)における粒径が10μm以上100μm以下の結晶粒の割合をさらに平均することで、最終的な平均値としての粒径が10μm以上100μm以下のタングステン結晶およびモリブデン結晶粒の割合を求めることができる。
【0025】
このようなタングステンモリブデン合金製ルツボ1は、高温強度、特に底部2と側壁部3とを連結する角部の高温強度に優れていることから、大型のもの、特に開口部の内径が100mm以上、さらには300mm以上となるようなものに好適に用いることができる。
【0026】
タングステン結晶およびモリブデン結晶粒の平均粒径は30μm以上70μm以下であることが好ましい。このような平均粒径であれば、高温強度、特に底部2と側壁部3とを連結する角部の高温強度に優れるものとなりやすい。
【0027】
側壁部3と角部4との厚さは同じであってもよいし異なっていてもよいが、角部4の高温強度を確保する観点から側壁部3に対して角部4が厚くなっていることが好ましく、例えば側壁部3に対する角部4の厚さの比(角部4の厚さ/側壁部3の厚さ)が1.2以上となっていることが好ましい。厚さの比が上記した範囲よりも小さいと角部4の高温強度を向上させる効果が必ずしも十分でなく、また上記した範囲内であれば角部4の高温強度を十分なものとすることができ、これを超えて大きくなるとかえってタングステンモリブデン合金製ルツボ1の重量が不必要に増加するおそれがあるために好ましくない。
【0028】
側壁部3、角部4における厚さを測定する部位は必ずしも限定されるものではないが、通常、側壁部3については、例えば図1の波線5で示すような側壁部3の高さ方向の略中間部であることが好ましく、また角部4については、例えば図1の波線6で示すように、角部4の湾曲部分における内面および外面のそれぞれの径方向の略中間部を結ぶ部分であることが好ましい。
【0029】
また、側壁部3に対する角部4の結晶粒の平均粒径の比(角部4の結晶粒の平均粒径/側壁部3の結晶粒の平均粒径)は0.8以上1.2以下であることが好ましい。平均粒径の比が上記した範囲外となる場合、いずれの場合についても側壁部3と角部4との間に平均粒径の大きなバラツキがあることとなり、高温強度に優れないものとなるおそれがある。
【0030】
なお、側壁部3、角部4の結晶粒の平均粒径は、具体的にはそれぞれ任意の2箇所の測定箇所について求められるモリブデン結晶粒の平均粒径をさらに平均して求められるものである。個々の測定箇所における結晶粒の平均粒径は、上記したような線インターセプト法により求められるものである。
【0031】
側壁部3、角部4におけるモリブデン結晶粒の平均粒径の測定箇所は必ずしも限定されるものではないが、例えば側壁部3については、例えば図1の波線5で示すような側壁部3の高さ方向の略中間部であることが好ましい。また、角部4については、例えば図1に示すように角部4が弧状に湾曲するものについては、この弧状に湾曲する部分の範囲内であることが好ましく、また例えば図3に示すように角部4が角状であるものについては、同図に示す底部2の内面の延長面2aと側壁部3の内面の延長面3aとで囲まれる範囲内であることが好ましい。
【0032】
また、タングステンモリブデン合金製ルツボ1の密度は95%以上、さらには97%以上100%以下であることが好ましい。密度の求め方は、タングステンの比重19.3g/cm、モリブデンの比重10.2g/cm、タングステンモリブデン合金の重量比から理論密度を求める。次に、アルキメデス法で実測値を求め、(実測値/理論密度)×100%により密度を求める。
【0033】
また、単位面積500μm×500μmにおける酸素分布が、モリブデン結晶領域よりもタングステン結晶領域に多く分布していることが好ましい。ルツボの寿命が低下する理由の一つに、酸素がモリブデン結晶表面に進出してきておきる「ふくれ」現象がある。ふくれが発生すると側壁部や底部がふくれ上がりルツボ形状が維持できなくなる。また、場合によっては穴があくこともある。
一方でタングステン結晶は酸素を結晶内に取り込む量がモリブデン結晶よりも多い。そのため、タングステンが存在することにより、結晶表面に進出する酸素量を減らすことができるのでふくれの発生を抑えることができる。
酸素の分布は、EPMAにより、タングステン、モリブデン、酸素のカラーマッピングを行えば測定できる。単位面積500μm×500μmを一度に測定できれば、それで測定し、分かりにくい場合は単位面積を小さくして、合計で500μm×500μmとなるように測定してもよい。
カラーマッピングの結果、タングステン結晶領域とモリブデン結晶領域の酸素濃度の平均値を求める。なお、タングステンとモリブデンが共晶した共晶合金結晶がある場合は、タングステン結晶領域としてカウントするものとする。
タングステンやモリブデンは、タングステン粉末やモリブデン粉末を製造する原料としてタングステン酸化物やモリブデン酸化物を使っている。そのため、出来上がったタングステン粉末やモリブデン粉末には不純物として酸素が混入し易い。
本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボではタングステンを所定量含有しているので、酸素をタングステン結晶内に取り込むことができ、ルツボ使用時にふくれの発生を抑制できる。
【0034】
このようなタングステンモリブデン合金製ルツボ1は、タングステンおよびモリブデン粉末を焼結するものであることが好ましく、焼結後に鍛造加工されていないことが好ましい。なお、本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボ1については、鍛造加工されていないことが好ましいが、例えば焼結後に形状を整えるための切削加工等が行われていても構わない。
また、焼結法によれば、厚さに関して従来の鍛造加工のような製造上の制限が少なく、側壁部3と角部4とで厚さが異なるものを容易に製造することができ、例えば側壁部3に対して角部4を厚くするようにすることで、角部4の高温強度に優れるものとすることができる。
【0035】
さらに、鍛造加工を行う場合、加工時の押圧による引き延ばしなどにより粒径が100μmを超えるような過大な結晶粒が発生しやすく、特に角部4のような加工量の大きい部分に過大な結晶粒が発生して高温強度が低下しやすくなるが、焼結後に鍛造加工を行わないものとすることで、このような過大な結晶粒の発生を抑制し、高温強度、特に角部4の高温強度に優れたものとすることができる。特に過大なモリブデン結晶粒が形成されるとふくれの原因になり易い。また、鍛造加工を行う場合、角部4に残留歪みが発生しやすく、これにより高温での使用時に再結晶化が加速されて高温強度が低下しやすくなるが、HIP処理後に鍛造加工を行わないものとすることで角部4における残留歪みの発生を抑制し、これにより再結晶化を抑制して高温強度に優れたものとすることができる。
【0036】
次に製造方法について説明する。本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボの製造方法は特に限定されるものではないが、歩留まり良く得るための方法として次のものが挙げられる。
本発明の第一のタングステンモリブデン合金製ルツボの製造方法は、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放部を有する有底筒状のタングステンモリブデン合金製ルツボを製造するための製造方法であって、タングステン粉末とモリブデン粉末を混合する混合工程と、圧力1ton/cm以上のCIP成形にてルツボ形状の成形体を作製する成形工程と、成形体を水素雰囲気中1400℃以上の温度で焼結する第一の焼結工程と、還元雰囲気中2000℃以上の温度で焼結する第二の焼結工程、とを具備することを特徴とするものである。
【0037】
まず、タングステン粉末とモリブデン粉末を混合する混合工程を行う。タングステン粉末は平均粒径5μm以下、酸素含有量0.1wt%以下のものが好ましい。また、モリブデン粉末は平均粒径8μm以下、酸素含有量0.1wt%以下のものが好ましい。タングステン粉末とモリブデン粉末を均一に混ざるように混合する。また、タングステン粉末およびモリブデン粉末の純度は99.9%以上と高純度の粉末が好ましい。
次に、圧力1ton/cm以上(98MPa以上)のCIP成形にてルツボ形状の成形体を作製する成形工程を行う。CIP成形(静水圧プレス)は、混合粉末をゴム袋などの柔軟な袋に詰めて、水や油などで圧力をかけて成形する方法である。成形圧力は1ton/cm以上である。成形圧力が1ton/cm未満であると成形体の密度が不十分となり、焼結体として密度95%以上のものが得難い。成形圧力の上限は特に限定されるものではないが200MPa以下が好ましい。
【0038】
次に、成形体を水素雰囲気中1400℃以上の温度で焼結する第一の焼結工程を行う。焼結温度の上限は後述する第二の焼結工程の温度より低いことが好ましい。また、焼結時間は8時間以上が好ましい。内径が300mm以上と大型のものは焼結時間を1600℃以上×10時間以上が好ましい。
次に、還元雰囲気中または不活性雰囲気中2000℃以上の温度で焼結する第二の焼結工程を行う。還元雰囲気は、水素雰囲気、一酸化炭素雰囲気などが挙げられる。また、不活性雰囲気はアルゴンが好ましい。また、焼結時間は5時間以上が好ましい。
第一の焼結工程および、必要に応じ第二の焼結工程を水素雰囲気(または還元性雰囲気)で行うことにより、ふくれの原因となる焼結体中の酸素を除去できる。
焼結後は、必要に応じ形状を整えるための切削加工等を行うことも可能である。
【0039】
次に、本発明の第二のモリブデン製ルツボ1の製造方法について説明する。
第二のタングステンモリブデン合金製ルツボの製造方法は、底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放部を有する有底筒状のタングステンモリブデン合金製ルツボを製造するための製造方法であって、タングステン粉末とモリブデン粉末を混合する混合工程と、混合した粉末をルツボ形状に成形する成形工程と、不活性雰囲気中、圧力100MPa以上、1300℃以上でHIP処理するHIP工程、とを具備することを特徴とするものである。
【0040】
原料となるタングステン粉末やモリブデン粉末は第一の製造方法と同じである。タングステン粉末とモリブデン粉末を均一に混ざるように混合する。
次に混合した粉末をルツボ形状に成形する成形工程を行う。成形方法は必ずしも限定されるものではなく、例えば一軸金型プレスを用いて行ってもよいし、また例えば一軸金型プレスを用いて予備成形した後、ゴム型を用いてCIP(冷間静水圧プレス)を行ってもよい。また、成形圧力は、例えば50MPa以上200MPa以下とすることが好ましい。成形圧力が上記した範囲よりも小さい場合、例えばHIP処理したとしても十分に緻密化させることができず、高温強度が十分でなく、また密度も十分なものとならないおそれがある。また、成形圧力が上記した範囲よりも大きい場合、例えば成形金型の耐久性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0041】
HIP処理は、タングステン粉末とモリブデン粉末の混合粉末、またはその成形体を高温においても被覆可能な金属製あるいはガラス製容器等に封入脱気し、不活性雰囲気媒体を通じて等方的に加圧しながら加熱焼結する方法で、例えばホットプレスが一軸方向の加圧であるのに対し等方加圧であるためにより均質高密度の焼結体を低温焼結で得ることができる。
HIP工程は、不活性雰囲気中、圧力100MPa以上、1300℃以上行うものとする。不活性雰囲気は、アルゴン雰囲気が好ましい。また、圧力は100MPa以上である。圧力が100MPa未満では密度が低下する恐れがある。圧力の上限は特に限定されるものではないが、500MPa以下が好ましい。
【0042】
また、HIP温度は1300℃以上である。1300℃未満では密度が低下するおそれがある。HIP温度の上限は特に限定されるものではないが2000℃以下が好ましい。また、HIP時間は3時間以上10時間以下が好ましい。
【0043】
また、HIP処理は、例えば成形体を予め理論密度よりも僅かに低い密度となるように予備焼結した後、この予備焼結体をHIP処理することによりタングステンモリブデン合金製ルツボ1としてもよい。このように予め予備焼結を行った後、HIP処理することで、より均質高密度なタングステンモリブデン合金製ルツボ1を得ることができる。
また、HIP処理後、必要に応じ形状を整えるための切削加工等を行うことも可能である。
【0044】
このようにして得られるタングステンモリブデン合金製ルツボ1は、金属蒸発容器、金属酸化物溶解容器、結晶製作用容器等の高温下で用いられる製造装置の一構成部品として好適に用いることができ、特に青色などのLED用のGaN成膜基板等の基板材料として好適に使用されるサファイア単結晶の製造に用いることができる。
【0045】
サファイア単結晶の製造は、例えばルツボ内に原料を入れて溶融し、この融液にサファイア単結晶からなる種結晶を接触させ、これを回転させながら引き上げることで単結晶を成長させるものである。本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボ1は、このような原料の融液を入れるためのルツボとして好適に用いられる。
【0046】
具体的には、引き上げ装置として、例えば上部が開口する有底筒状の加熱炉と、この加熱炉の上方から挿入されるようにして配置される引き上げ棒とを有するものを用いる。引き上げ棒の下部先端側には種結晶が固定されている。また、タングステンモリブデン合金製ルツボ1は、このような引き上げ装置における加熱炉の内側底部に配置される。
このような引き上げ装置においては、まずタングステンモリブデン合金製ルツボ1内にサファイア単結晶の原料となる酸化アルミニウムを投入し、溶融させて融液を得る。その後、融液が入ったタングステンモリブデン合金製ルツボ1に種結晶を固定した引き上げ棒を入れて種付けを行う。その後、引き上げ棒を回転させながら引き上げて、サファイア単結晶である略円柱状の単結晶インゴットを得る。本発明のタングステンモリブデン合金製ルツボは、高温強度を向上させているため、溶解温度を2000℃以上、さらには2200℃以上にしたとしても長寿命が得られる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について実施例を参照して具体的に説明する。
(実施例1〜3)
純度99.95%以上のタングステン粉末(平均粒径3μm、不純物酸素0.1wt%)と純度99.95%以上のモリブデン粉末(平均粒径5μm、不純物酸素0.1wt%)を混合して混合粉末を調製した。成形圧力として実施例1(100MPa)、実施例2(120MPa)、実施例3(150MPa)の圧力にてCIP成形を行った。
次に、水素雰囲気中で、実施例1(1430℃×8時間)、実施例2(1650℃×10時間)、実施例3(1550℃×11時間)の第一の焼結工程を行った。第二の焼結工程は、アルゴン雰囲気中2000℃×6時間(実施例1)、水素雰囲気中2050℃×5時間(実施例2)、水素雰囲気中2100℃×7時間(実施例3)で行った。
できあがったルツボを切削加工して実施例1〜3に係るルツボとした。
【0048】
なお、各実施例で製造したタングステンモリブデン合金製ルツボの全体形状、角部形状、厚さ(角部、側壁部)は表1に示す通りとした。すなわち、実施例1、3のモリブデン製ルツボは、図1に示すように角部が側壁部とほぼ同様な厚さであって弧状に湾曲し、側壁部3が角部4から略垂直に立ち上がるものとした。また、実施例2のモリブデン製ルツボは、図2に示すように角部が側壁部に比べて極端に厚いものとした。また、ルツボはタングステンおよびモリブデン以外の不純物成分は0.02wt%以下であった。
【0049】
(比較例1)
純度99.95%以上のモリブデン粉末(平均粒径5μm、不純物酸素0.1wt%)のみで製造した以外は実施例1と同様のものを用意した。
(比較例2)
焼結条件を変えて、平均結晶粒径を1000μmとした以外は実施例1と同様のものを用意した。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1〜3および比較例1〜2に係るルツボに関して、平均結晶粒径、10〜90μmの結晶粒の割合、密度、タングステン結晶領域とモリブデン結晶領域の酸素分布について調べた。
平均結晶粒および10〜90μmの結晶粒の割合は前述のインターセプト法を利用した方法により求めた。また、密度は、前述のアルキメデス法と理論密度の比により求めた。また、タングステン結晶領域とモリブデン結晶領域の酸素分布についてはEPMAを用いて調べた。その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
また、実施例1〜3、比較例1、2のモリブデン製ルツボについて耐久性の評価を行った。耐久性の評価は、まずルツボにサファイア融液を入れて2000℃で120時間と200時間の熱処理を行い、ルツボのふくれの有無を目視により確認した。その結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表から分かる通り、本実施例に係るルツボは優れた耐久性を示した。それに対し、モリブデンのみで製造した比較例1は120時間でふくれが発生した。また、平均粒径の大きな比較例2は120時間では小さなふくれが確認され、200時間では使用できないほどの大きなふくれが生じた。
【0056】
(実施例4〜6)
純度99.97%以上のタングステン粉末(平均粒径5μm、不純物酸素0.1wt%)と純度99.97%以上のモリブデン粉末(平均粒径7μm、不純物酸素0.1wt%)を混合して混合粉末を調製した。次に、成形工程として、圧力150MPaでCIP成形した。
HIP処理は、実施例4は120MPa×1340℃×4時間、実施例5は140MPa×1580℃×6時間、実施例6は180MPa×1800℃×5時間、で行った。できあがったルツボを切削加工して実施例4〜6に係るルツボとした。
【0057】
【表4】

【0058】
次に、このようにして製造された実施例4〜6のタングステンモリブデン合金製ルツボについて、実施例1と同様の測定を行った。結果を表5に併せて示す。
【0059】
【表5】

【0060】
実施例4はタングステ量が少ないため耐久性が低下した。実施例5〜6はすぐれた耐久性を示した。このため、タングステンの量は10質量%以上が好ましいと言える。
(実施例7〜8)
ルツボのサイズを表6に示すように大型化したものを作製した。
タングステン粉末(純度99.95%以上、平均粒径5μm、不純物酸素0.03wt%)とモリブデン粉末(純度99.95%以上、平均粒径3μm、不純物酸素0.03wt%)のものを用意した。
実施例7では、CIP圧力170MPa、水素雰囲気中1700℃×8時間の第一焼結後、アルゴン雰囲気中2070℃×8時間の第二焼結工程を行って製造した。また、実施例8はCIP圧力170MPa、水素雰囲気中1800℃×7時間の第一焼結後、アルゴン雰囲気中2050℃×9時間の第二焼結工程を行って製造した。
【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
ルツボサイズを内径300mm以上、さらには400mm以上と大型化してもすぐれた耐久性を示すルツボが得られた。このため、サイファイア単結晶を製造するにあたり、ルツボの取り換え時期が長くとれるので製造効率が上がる。
【符号の説明】
【0064】
1…タングステンモリブデン合金製ルツボ
2…底部
3…側壁部
4…角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンを1〜60質量%、残部モリブデンからなるタングステンモリブデン合金からなる底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放部を有する有底筒状のタングステンモリブデン合金製ルツボであって、
平均結晶粒径が100μm以下であることを特徴とするタングステンモリブデン合金製ルツボ。
【請求項2】
前記ルツボは開放部の内径が100mm以上であることを特徴とする請求項1記載のタングステンモリブデン合金製ルツボ。
【請求項3】
前記ルツボは密度が95%以上であることを特徴とする請求項1または2記載のタングステンモリブデン合金製ルツボ。
【請求項4】
前記タングステンが10〜50質量%、残部モリブデンからなるタングステンモリブデン合金からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のタングステンモリブデン合金製ルツボ。
【請求項5】
単位面積500μm×500μmにおける酸素分布が、モリブデン結晶領域よりもタングステン結晶領域に多く分布していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のタングステンモリブデン合金製ルツボ。
【請求項6】
前記側壁部と前記角部との厚さが異なることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のモリブデン製ルツボ。
【請求項7】
前記ルツボはサファイア単結晶を製造するための原料の融液を入れるものとして用いられることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のタングステンモリブデン合金製ルツボ。
【請求項8】
底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放部を有する有底筒状のタングステンモリブデン合金製ルツボを製造するための製造方法であって、
タングステン粉末とモリブデン粉末を混合する混合工程と、圧力1ton/cm以上のCIP成形にてルツボ形状の成形体を作製する成形工程と、成形体を水素雰囲気中1400℃以上の温度で焼結する第一の焼結工程と、還元雰囲気中または不活性雰囲気中2000℃以上の温度で焼結する第二の焼結工程、とを具備することを特徴とするタングステンモリブデン合金製ルツボの製造方法。
【請求項9】
混合工程が、タングステン粉末が1〜60質量%、残部がモリブデン粉末を混合することを特徴とする請求項8記載のタングステンモリブデン合金製ルツボの製造方法。
【請求項10】
底部と側壁部とが角部を介して連結された上部開放部を有する有底筒状のタングステンモリブデン合金製ルツボを製造するための製造方法であって、
タングステン粉末とモリブデン粉末を混合する混合工程と、混合した粉末をルツボ形状に成形する成形工程と、不活性雰囲気中、圧力100MPa以上、1300℃以上でHIP処理するHIP工程、とを具備することを特徴とするタングステンモリブデン合金製ルツボの製造方法。
【請求項11】
原料の融液から結晶成長によりサファイア単結晶を製造するサファイア単結晶の製造方法であって、
前記原料の融液を入れるルツボとして請求項1乃至7のいずれか1項記載のタングステンモリブデン合金製ルツボを用いることを特徴とするサファイア単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−127150(P2011−127150A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284557(P2009−284557)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】