説明

ターゲット構造とターゲット保持装置

【課題】投入電力を増大させて成膜速度を高めても、溶融状態のガリウムあるいはガリウムを含む材料のスパッタリングを可能にするターゲット構造とこれを備えたスパッタリング装置。
【解決手段】金属材料からなる保持部の上にガリウムあるいはガリウムを含む材料が配置されてなるターゲット構造であって、前記ガリウムあるいはガリウムを含む材料との界面にあたる前記保持部の表面上に、溶融状態のガリウムあるいはガリウムを含む材料との接触角が30°以下である薄膜が形成されていることを特徴とするターゲット構造。当該ターゲット構造を有するスパッタリング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、融点の低い材料を用いてスパッタリング成膜するためのターゲット構造、ターゲット保持構造、及び、これらを用いたスパッタリング装置、ガリウム堆積物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)などのIII族(現在は、XIII族)窒化物系化合物半導体は、例えば、発光素子とした場合、発光スペクトルが紫外から赤色の広範囲にわたる直接遷移型の半導体であり、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード(LD)等の発光素子に応用されている。
また、そのバンドギャップが広いため、他の半導体を用いた素子よりも高温において安定した動作を期待できることから、FET等トランジスタへの応用も盛んに開発されている。
現在、III族(現在は、XIII族)窒化物系化合物半導体については、ガリウムなどのターゲット材料と窒素ガスとの化学反応により窒化物を形成するに際し、膜組成の再現性や膜厚制御の容易さに優れている等の理由からリアクティブスパッタ法等の物理的蒸着法を用いて量産する方法が試みられている。
しかし、リアクティブスパッタ法の場合、一般に、ターゲット材料のガリウムは、融点が29.8℃であるため、固体状態を維持できるように、例えば、チラーなどを用いてターゲットを保持するバッキングプレートをマイナス20度以下まで冷却する必要がある。
そこで、ガリウムがターゲットとして固体状態を維持できるように、絶縁材料または導電性材料で熱伝導性の良いシャーレをインジュームなどの固定材料で銅やステンレス(SUS304)製のバッキングプレートに固定し、シャーレ内にガリウムを収容するようにしたガリウムターゲットが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−172424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
スパッタリング法で成膜を行う場合には、産業上、成膜速度を高めて生産効率を少しでも良くするため、投入電力の向上(例えば、φ6インチサイズのターゲットに対する投入電力の場合では1kW以上)が求められている。
しかし、これまでに提案されているガリウムターゲット(φ6インチサイズ)ではチラー等を用いてその裏板を−20℃に冷却しても、スパッタリング時に、例えば、高周波電力を200W以上投入すると部分的にガリウムターゲットが溶融し始め、500W投入すると完全に溶融してしまっていた。そのため、ガリウムの表面からの溶融を防ぐため、投入電力を抑える必要があり、産業上要請される高い成膜速度が得られない問題があった。
つまり、ガリウムターゲットの固体状態を維持するため、成膜速度を落として生産性を犠牲にせざるを得ない現実があった。
LEDやLD等ではGaNの他に、窒化インジウムガリウム(InGaN)や窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)を積層して素子が作製されるが、これらをスパッタリングにより作製する際、ターゲットにはインジウムガリウムやアルミニウムガリウムを用いることになる。しかしこれらの材料も融点が低く、ガリウム同様の問題があった。
【0004】
この発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、投入電力を増大させて成膜速度を高めても、溶融状態のガリウムあるいはガリウムを含む材料のスパッタリングを可能にするターゲット構造と、かかるターゲット構造を備えたスパッタリング装置を提供することを目的としている。
特に、成膜速度を高めるために投入電力を増大させた結果、ガリウムやガリウムを含むターゲット材料が溶融した場合でも、これら材料を保持している装置の表面が溶融したターゲット材料を弾くことで露出され、露出された保持装置の表面がスパッタされることで成膜中に異物の混入されることのない良質のガリウムスパッタ膜を高い生産性のもとに成膜できるスパッタリング装置と、これに使用されるターゲットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を解決するためこの発明が提案するものは、金属材料からなる保持部の上にガリウムあるいはガリウムを含む材料が配置されてなるターゲット構造であって、前記ガリウムあるいはガリウムを含む材料との界面にあたる前記保持部の表面上に、溶融状態のガリウムあるいはガリウムを含む材料との接触角が30°以下である薄膜が形成されていることを特徴とするターゲット構造である。
【0006】
接触角(angle of contact)とは、静止液体の自由表面が固体壁に接する場所で、液面と固体面とのなす角であって、液の内部にある角である。液体が固体をぬらす(付着力が大きい)場合には鋭角、ぬらさないときは鈍角である(岩波理化学辞典、1983年版、727頁、左欄を参照)。ここでは、ターゲット材料の圧力1atm下での溶隔温度(融点、melting point)での接触角を云う。
薄膜は炭素を含むものが好ましくは選ばれる。
本発明の実施例では、前記炭素を含む薄膜はダイヤモンドライクカーボンである。
以上の本発明のターゲットにおいて、前記保持部は銅製にすることができる。
また、前記目的を解決するためこの発明が提案するものは、以上の本発明のターゲット構造を有するスパッタリング装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のターゲットによれば、金属材料からなる支持部の上にガリウムあるいはガリウムを含む材料が配置されてなるターゲット構造において、前記ガリウムあるいはガリウムを含む材料との界面にあたる支持部の表面上に、溶融状態のガリウムとの接触角が30°以下である薄膜が形成されているので、スパッタリング時に支持部の金属材料が露出することを抑制できる。
溶融状態のガリウムあるいはガリウムを含む材料との接触角が30°以下である薄膜としてダイヤモンドライクカーボン薄膜を採用できる。ダイヤモンドライクカーボンは、保持部を構成している金属材料との密着性に優れ、高い熱伝導性があり、そして硬質で緻密性があるためにスパッタされにくい性質を有し、しかもガリウムあるいはガリウムを含む材料との濡れ性も良い材料である。
【0008】
この結果、本発明のターゲット構造によれば、φ6インチサイズのターゲット材料に対する投入電力として、1kW以上の高投入電力の条件でガリウムあるいはガリウムを含む材料をスパッタリングすることが可能となり、成膜速度を高め、生産効率を向上できる。
また、ガリウムあるいはガリウムを含む材料が表面から溶融し始めても、ガリウムあるいはガリウムを含む材料との界面にあたる支持部の表面上に形成されている薄膜は溶融状態のガリウムあるいはガリウムを含む材料との接触角が30°以下のものであるので、金属材料製の保持部の表面が露出してしまうのを防ぎ、異物の混入のない良質のスパッタ膜を成膜できる。
そして、本発明のパッタリング装置によれば、かかる本発明のターゲットを使用していることにより、成膜速度を高め、生産効率を向上できると共に、異物の混入のない良質なスパッタ膜を成膜できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の好ましい実施形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、図2に示したスパッタリング装置20のチャンバー21内に設置されるガリウムターゲット(ターゲット構造)1を拡大して示したものである。図1(A)は拡大断面図、図1(B)は図1(A)の一部を拡大して示した部分断面図である。
本発明のガリウムターゲット構造1は、金属材料製の保持部3の上にガリウム2が配置されているものであり、図示の実施形態では、この薄膜として保持部3の内表面上にダイヤモンドライクカーボン5がコーティングされている。
【0010】
図1図示の実施形態では、保持部3は銅製で、平面視ほぼ円盤状であり、図1中、上側に環状突条部を有し、この内側に凹部4が形成されている。この凹部4内にガリウム2が収容されて本発明のガリウムターゲット構造1となっている。
そこで、ガリウム2と接触する保持部3の界面、すなわち、図示の例では、凹部4の内面である環状突条部の内壁面3aと、凹部4の内底面4aとがダイヤモンドライクカーボン5で被覆されている。
【0011】
ガリウム2との界面にあたる保持部3の表面上に形成され、溶融状態のガリウムとの接触角が30°以下である薄膜(図示の実施形態ではダイヤモンドライクカーボン5)は、ガリウム2と保持部3の界面に形成されるものとして、剥離や保持部3の露出を引き起こさず、かつ、ガリウム2の冷却効果を妨げるものでないような膜厚に形成する。例えば、0.5〜5μmの膜厚に形成することができる。このようなダイヤモンドライクカーボン薄膜は、例えば、ホロカソード放電イオン(HCD)等を利用した成膜方法により形成することができる。
なお、この実施形態では保持部3を銅製としているが、ステンレス(SUS304)など、他の金属材料で構成しても良い。ただし、本発明の目的から、本実施形態に示した銅のように熱伝導率の高い材料であることが望ましい。
このようなガリウムターゲット構造1を用いて、図2に示したスパッタリング装置20を構成する。
【0012】
図2に図示のスパッタリング装置20は、マグネトロンスパッタリング装置で、真空排気系21とガス導入系22が接続されたチャンバー23内に、図1に示したガリウムターゲット1を下部に、基板ホルダ24を上部にして、互いに対向するように設置している。ガス導入系22から、放電用の不活性ガスを導入することで、スパッタリングが可能である。さらに、ガス導入系22から、窒素ガス、窒素ガスと不活性ガスの混合ガスなどを導入することで、反応性スパッタリングが可能である。
ガリウムターゲット構造1は、その中で冷媒が流動する配管を有する外部の冷却装置25によって効率良く冷却できるようにされている。
また、ガリウムターゲット構造1には高周波電源(13.56MHz)27が接続されている。また、ガリウムターゲット構造1の裏面側には、ガリウムターゲット構造1上に所定の磁場を形成可能な磁石機構が設けられ、マグネトロンスパッタリングが可能になっている。一方、基板ホルダ24には、ガリウムターゲット構造1と対向する面に被成膜物である基板28を取り付けてある。
以上の如くのスパッタリング装置20によれば、ガリウムターゲット構造1を構成しているガリウム2と、これを保持する金属材料製の保持部3とが接触する界面に高い熱伝導性を有するダイヤモンドライクカーボン5の膜が形成されているため、スパッタリング中のガリウム2の熱を、熱伝導性の良い金属材料からなる保持部3へ効率良く伝達し、十分に冷却することができる。
【0013】
この為、スパッタリングのための電力を増大させることが可能で、成膜速度を向上させ、生産性良くガリウム化合物の薄膜を成膜することができた。
すなわち、ガリウム2に対するダイヤモンドライクカーボン5の良好な濡れ性によって、ガリウム2が溶融をし始めても、銅製の保持部3を露出させないようにできる。この為、ガリウム化合物薄膜への異物の混入を避け、良質の膜を成膜することができる。
特に、ガリウム2との界面にあたる保持部3の表面上に、溶融状態のガリウムとの接触角が30°以下である薄膜が形成されていることにより、スパッタリング時に保持部の金属材料が露出するおそれを抑えることができる。ガリウム2との界面にあたる保持部3の表面上に形成される薄膜の、溶融状態のガリウムとの接触角が30°を越えると、スパッタリング時に保持部の金属材料が露出してしまい、本発明のガリウムターゲットを有するスパッタリング装置によって成膜された薄膜に保持部の金属材料が混入する可能性が高くなるので好ましくない。
【0014】
なお、ターゲット材料として、例えば、ガリウムアルミニウム、ガリウムインジウム、ガリウムリン、ガリウム砒素などのガリウム含有材料を用いる場合にも、本発明のターゲット保持構造を適用できる。また、ガリウム含有材料以外にも、溶融状態において、ダイヤモンドライクカーボンなどの薄膜材料との接触角が低いものであれば、本発明のターゲット保持構造を用いることで、保持構造の材料が混入するのを防止できる。
【0015】
(比較例)
溶融状態のガリウムとの接触角が30°を越える材料としてTiNと、AlNを採用した。図1図示の形態の銅製の保持部3の表面上にTiN、AlNをそれぞれスパッタリング法でコーティングし、図1図示のようにガリウムを充填して比較例のガリウムターゲット構造2個を準備した。
この比較例のガリウムターゲット構造を用い、図2に図示し、前記で説明したマグネトロンスパッタリング装置でガリウムスパッタの実験を行った。
その結果、TiNがコーティングされていたターゲット構造では、成膜の途中で溶融したガリウムが弾けて保持部3が露出してしまった。
また、AlNがコーティングされていたターゲット構造でも、TiNがコーティングされていたターゲット構造の場合と同じく、成膜の途中で溶融したガリウムが弾けた。また、保持部3が緑色に変色してしまった。これは、AlNのAlが化学反応を起こしたためと思われる。
以上、本発明のスパッタリング装置が基本的なマグネトロンスパッタリング装置である場合の例を説明した。本発明のスパッタリング装置はこのようなマグネトロンスパッタリング装置に限られるものではなく、他の方式のスパッタリング装置に前記ガリウムターゲット構造1を設置するようにしても良い。前記と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】この発明のガリウムターゲット構造の一例を説明する断面図である。
【図1B】この発明のガリウムターゲット構造の一例を説明する部分拡大断面図である。
【図2】この発明のスパッタリング装置の一例の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
1 ガリウムターゲット構造
2 ガリウム
3 保持部
3a 内壁面
4 凹部
4a 内底面
5 ダイヤモンドライクカーボン
20 スパッタリング装置
21 真空排気系
22 ガス導入系
23 チャンバー
24 基板ホルダ
25 冷却装置
27 高周波電源
28 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなるターゲット保持部の上にガリウムあるいはガリウムを含むターゲット材料が配置されてなるターゲット構造であって、前記ターゲット材料との界面にあたる前記保持部の表面上に、溶融状態のガリウムを含むターゲット材料との接触角が30°以下である薄膜が形成されていることを特徴とするターゲット構造。
【請求項2】
前記薄膜が炭素を含むことを特徴とする請求項1記載のターゲット構造。
【請求項3】
前記炭素を含む薄膜がダイヤモンドライクカーボンであることを特徴とする請求項2記載のターゲット構造。
【請求項4】
前記保持部が銅製であることを特徴とする請求項1に記載のターゲット構造。
【請求項5】
請求項1に記載のターゲット構造を有するスパッタリング装置。
【請求項6】
ガリウムあるいはガリウムを含むターゲット材料を保持するための保持部と、前記保持部の表面に形成された被覆膜とからなるターゲット保持構造において、
前記被覆膜は、溶融状態のガリウムあるいはガリウムを含むターゲット材料との接触角が30°以下である材料で形成されていることを特徴とするターゲット保持構造。
【請求項7】
ターゲット材料を保持するための保持部と、前記保持部の表面に形成されたダイヤモンドライクカーボンからなる被膜とからなるターゲット保持構造。
【請求項8】
請求項1に記載のターゲット構造を用い、スパッタリング法によりガリウムあるいはガリウムを含む膜を形成する工程を含むことを特徴とするガリウム堆積物の製造方法。
【請求項9】
請求項6のターゲット保持構造を用い、スパッタリング法によりガリウムあるいはガリウムを含む膜を形成する工程を含むことを特徴とするガリウム堆積物の製造方法。
【請求項10】
請求項7のターゲット保持構造を用い、スパッタリング法によりガリウムあるいはガリウムを含む膜を形成する工程を含むことを特徴とするガリウム堆積物の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−97078(P2009−97078A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211662(P2008−211662)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】