説明

ダイシングフレーム用金型

【課題】バリの発生に伴うダイシングテープの切断を抑制し、冷却エキスパンド法により冷却してエキスパンドする場合にも、ダイシングテープの損傷を防ぐことのできるダイシングフレーム用金型を提供する。
【解決手段】相対向する第一、第二の型1・2を型締めし、この型締めした第一、第二の型1・2に成形材料を充填することにより、半導体ウェーハをダイシングテープを介して収容するフレーム11を中空板形に射出成形する金型で、第一、第二の型1・2のパーティングライン3を、フレーム11のダイシングテープが粘着される下面12から上面方向に0.3〜0.6mm移動させる。また、フレーム11の内周面下部と下面12とが形成するコーナ部30を半径0.2〜0.5mmの形状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ収容用のフレームを成形するダイシングフレーム用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のダイシングフレームは、図示しないが、例えばφ300mm(12インチ)の半導体ウェーハを収容するフレームを備え、このフレームの下面に、半導体ウェーハを粘着保持するダイシングテープが着脱自在に粘着されることにより構成されている。フレームは、金型の第一、第二の型に成形材料が射出充填されることにより、中空の板形、換言すれば、リング形に成形される。
【0003】
このようなダイシングフレームは、ダイシングテープ上に粘着された半導体ウェーハがダイヤモンドブレードにより複数のダイ(チップ)にダイシングされ、ダイシングテープを含む全体がUV照射され、エキスパンド装置上に上方から圧下されてダイシングテープが半径外方向に延伸されるとともに、複数のダイが相互に接触しないようその間隔が拡大された後、ダイが個々にピックアップして移送される(特許文献1、2参照)。
【0004】
ところで、従来のダイシングフレームは、エキスパンド装置上に圧下されてダイシングテープが半径外方向に延伸されるが、この際、ダイシングテープの材質に起因してフレームからダイシングテープが位置ずれしたり、剥離するという問題がある。係る問題を解消する手段として、フレームの内周面と下面とが形成するコーナ部を半径0.2mm以下のシャープな形状に形成する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2007‐048884号公報
【特許文献1】特開2007‐048885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、係る方法を採用する場合には、フレームからダイシングテープがずれたり、剥離するのを抑制することができるものの、フレームの成形時に第一、第二の型の分割面やフレームの内周面下部に薄皮バリが発生しやすいので、この薄皮バリにより、エキスパンドの際、ダイシングテープの切断を招くという問題が考えられる。特に、ダイが小さく多い場合には、ダイシングテープのエキスパンド量を増大させる必要があり、このときには、薄皮バリにより、ダイシングテープの周縁部が切断してしまうおそれが考えられる。
【0006】
また、フレームの下面にダイアタッチフィルム(DAF)付きダイシングテープを粘着してダイシングする場合、半導体ウェーハとダイアタッチフィルムとの物性が著しく異なるため、半導体ウェーハをカットすることができるものの、ダイアタッチフィルムを適切にカットすることができず、結果として多数のバリの発生を招くという問題がある。この問題を解消する手段として、ダイアタッチフィルムに溝入れした後やステルスレーザダイシング後、半導体ウェーハ全体を冷却してエキスパンドする方法(冷却エキスパンド法)が提示されている。
【0007】
しかし、係る方法では、フレームのコーナ部がシャープな形なので、例え薄皮バリが発生していなくても、冷却してエキスパンドする際、孔が開いてダイシングテープの損傷を招くおそれがある。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、バリの発生に伴うダイシングテープの切断を抑制し、冷却エキスパンド法により冷却してエキスパンドする場合にも、ダイシングテープの損傷を防ぐことのできるダイシングフレーム用金型を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、第一、第二の型を型締めして成形材料を充填することにより、半導体ウェーハをダイシングテープを介して収容するフレームを中空板形に成形するものであって、
第一、第二の型の分割面を、フレームのダイシングテープが粘着される下面から上面方向に0.3〜0.6mm移動させ、フレームの内周面と下面とが形成するコーナ部を半径0.2〜0.5mmの形状に形成したことを特徴としている。
【0010】
なお、フレームのコーナ部は、フレームの内周面上方から下方向に向かうに従い徐々にフレームの半径内方向に傾斜する第一の傾斜面と、この第一の傾斜面からフレームの下面方向に向かうに従い徐々にフレームの半径外方向に傾斜する第二の傾斜面とを含み、第一の傾斜面とフレームの下面とが形成する角度を90°未満とし、第二の傾斜面とフレームの下面とが形成する角度を90°以上95°以下とすることができる。
【0011】
本発明によれば、第一、第二の型の分割面がフレームの下面から上方向にずれて形成され、しかも、フレームのコーナ部が従来のようなシャープな形ではないので、例え第一、第二の型の分割面から成形材料が漏れてバリを生じさせても、フレームの内周面下部にバリが発生するのを抑制することができる。また、例え冷却エキスパンド法が採用される場合にも、ダイシングテープの剥離を招いたり、ダイシングテープが損傷するのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バリの発生に伴うダイシングテープの切断を抑制し、例え冷却エキスパンド法により冷却してエキスパンドする場合にも、ダイシングテープの損傷を防ぐことのできるという効果がある。
【0013】
また、第一の傾斜面とフレームの下面とが形成する角度を90°未満とし、第二の傾斜面とフレームの下面とが形成する角度を90°〜95°とすれば、金型からフレームを容易に取り出すことができ、しかも、ダイシング時の水圧の影響でフレームからダイシングテープが剥がれるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明に係るダイシングフレーム用金型の好ましい実施形態を説明すると、本実施形態におけるダイシングフレーム用金型は、図1ないし図5に示すように、相対向する第一、第二の型1・2を型締めし、この型締めした第一、第二の型1・2に溶融した成形材料を充填することにより、半導体ウェーハWを収容するダイシングフレーム10のフレーム11を射出成形する金型である。
【0015】
金型を構成する第一、第二の型1・2は、図4に示すように、一方が固定側とされ、他方が固定側に対して接離可能な可動側とされており、これら固定側と可動側とが図示しないガイドピンやガイドピンブシュの嵌合により一体化される。この第一、第二の型1・2の分割面、すなわちパーティングライン3には、フレーム11用のキャビティが加工される。
【0016】
半導体ウェーハWは、図1に示すように、例えばφ300mmの薄いシリコンウェーハからなり、表面にパターン描画が施されるとともに、裏面がバックグラインドされ、バックグラインド工程からダイシング工程に供された後、切削水を供給されながらダイヤモンドブレード4により複数のダイdにダイシングされる。この半導体ウェーハWは、φ300mmのサイズでも良いが、特に限定されるものではなく、φ200mmや450mm等のサイズでも良い。
【0017】
ダイシングフレーム10のフレーム11は、図1ないし図3に示すように、第一、第二の型1・2に樹脂を含む所定の成形材料が射出されることにより、樹脂製の中空板形に成形され、平坦な下面12に、中空13を覆う別体のダイシングテープ22が着脱自在に後から粘着されており、このダイシングテープ22を介して半導体ウェーハWを嵌合収容するよう機能する。
【0018】
フレーム11の成形材料としては、例えば流動性、寸法安定性、低磨耗性、精密成形に優れるポリフェニレンスルフィド(PPS)、強度や剛性を確保するカーボンファイバー、及び炭酸カルシウムが混合混練された材料があげられる。また、ポリフェニレンスルフィドとポリアミドから選択された少なくとも1種の樹脂、及び強度や耐薬品性等に優れるホウ酸アルミニウムウィスカーが混合された材料があげられる。
【0019】
フレーム11は、図1ないし図3に示すように、半導体ウェーハWよりも大きい厚さ2〜3mmのリング形に形成され、内周面14が傾斜して形成されており、外周面の前後左右がそれぞれ直線的に切り欠かれるとともに、外周面の前部には、位置決め用の一対のノッチ15が左右に並べて切り欠かれる。フレーム11の表面後部には、左右横方向に伸びる収納穴16が一体的に凹み成形され、この収納穴16内に、RFIDシステム17のRFタグ18が装着される。
【0020】
RFIDシステム17は、図2に示すように、電波により内部メモリがアクセスされ、フレーム11と共に移動するRFタグ18と、このRFタグ18との間で電波や電力を送受信するアンテナユニット19と、RFタグ18との交信を制御するリーダ/ライタ20と、このリーダ/ライタ20を制御するコンピュータ21とを備えて構成される。アンテナユニット19とリーダ/ライタ20とは、別々に構成されるが、必要に応じて一体化される。また、リーダ/ライタ20の制御に特に支障を来たさなければ、コンピュータ21の代わりに各種のコントローラが使用される。
【0021】
このようなフレーム11は、工業規格ASTM D790における曲げ弾性率が25〜50GPa、好ましくは25〜40GPaの範囲内とされ、かつASTM D790における曲げ強度が150〜600MPa、好ましくは150〜400MPaの範囲内とされる。これは、フレーム11の曲げ弾性率や曲げ強度が上記範囲から外れた場合には、フレーム11の強度が低下したり、フレーム11が容易に破損してしまうからである。
【0022】
ダイシングテープ22は、例えば粘着剤がダイdに付着するのを抑制するエチレン酢酸ビニル(EVA)等からなるポリオレフィン系フィルムと、このポリオレフィン系フィルムの表面に塗布されて半導体ウェーハWを粘着するアクリル系の粘着剤とを備えた薄い平面円板形に形成され、フレーム下面12の被接着領域に接着されてその中空13を閉塞する。フレーム11の裏面12は、そのままでも良いが、略スパイク状の凸凹に粗くしてダイシングテープ22との接着強度を向上させることもできる。
【0023】
さて、本実施形態における第一、第二の型1・2のパーティングライン3は、図5に示すように、フレーム11の内周面下部に薄皮バリが発生しないよう、フレーム11のダイシングテープ22が粘着される下面12から上面方向に0.3〜0.6mm移動して位置付けられ、フレーム11の内周面下部と下面12とが形成するコーナ部30は、半径0.2〜0.5mmのアール形状に形成される。
【0024】
第一、第二の型1・2のパーティングライン3がフレーム11の下面12から0.3〜0.6mm上方に偏移して形成されるのは、0.3mm未満の場合には、パーティングライン3に薄皮バリが発生したときに、エキスパンド作業に支障を来たすからである。逆に、0.6mmを超える場合には、ダイシング時の水圧の影響を受け易いので、フレーム11とダイシングテープ22との間に切削水が浸入してダイシングテープ22の剥離を招くからである。
【0025】
コーナ部30が半径0.2〜0.5mmのアール形状に形成されるのは、この範囲内の場合には、冷却エキスパンド法が用いられる際にもダイシングテープ22が切れたり、ダイシングテープ22がフレーム11から剥がれるおそれがないからである。逆に、係る範囲から外れる場合には、高エキスパンド時に、ダイシングテープ22の種類により、ダイシングテープ22がフレーム11から剥がれるおそれがあるからである。
【0026】
コーナ部30は、同図に示すように、フレーム11の内周面14上方から下方向に向かうに従い徐々にフレーム11の半径内方向に傾斜する第一の傾斜面31と、この第一の傾斜面31の下端からフレーム11の下面12方向に向かうに従い徐々にフレーム11の半径外方向に傾斜する第二の傾斜面32とから形成され、第一の傾斜面31とフレーム11の下面(ダイシングテープ22でも良い)12との形成する角度θ1が90°未満に調整され、第二の傾斜面32とフレーム11の下面12との形成する角度θ2が90°以上95°以下とされる。
【0027】
第一の傾斜面31とフレーム11の下面12とが形成する角度θ1が90°未満なのは、90°以上の場合には、ダイシング時の水圧の影響でダイシングテープ22が剥離するおそれがあるという理由に基づく。また、第二の傾斜面32とフレーム11の下面12との形成する角度θ2が90°以上95°以下なのは、90°未満の場合には、金型からのフレーム11の脱型に支障を来たし、95°を超える場合には、ダイシング時の水圧の影響でダイシングテープ22が剥離するおそれがあるという理由に基づく。
【0028】
上記構成によれば、フレーム11の成形時にフレーム11の内周面下部に薄皮バリが発生するのを抑制防止することができるので、薄皮バリにより、エキスパンド時にダイシングテープ22の切断を招くことがない。これは、ダイdが小さく多く、ダイシングテープ22のエキスパンド量を増大させる必要がある場合にも同様である。さらに、冷却エキスパンド法が採用される場合にも、ダイシングテープ22の剥離を招いたり、孔が開いてダイシングテープ22が損傷するのを有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るダイシングフレーム用金型の実施形態におけるダイシング状態を模式的に示す斜視説明図である。
【図2】本発明に係るダイシングフレーム用金型の実施形態におけるRFIDシステムを模式的に示す斜視説明図である。
【図3】本発明に係るダイシングフレーム用金型の実施形態におけるダイシングフレームを模式的に示す断面説明図である。
【図4】本発明に係るダイシングフレーム用金型の実施形態を模式的に示す部分断面説明図である。
【図5】図4のV部を模式的に示す拡大説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 第一の型
2 第二の型
3 パーティングライン(分割面)
11 フレーム
12 下面
13 中空
14 内周面
22 ダイシングテープ
30 コーナ部
31 第一の傾斜面
32 第二の傾斜面
d ダイ
W 半導体ウェーハ
θ1 第一の傾斜面とフレームの下面とが形成する角度
θ2 第二の傾斜面とフレームの下面とが形成する角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一、第二の型を型締めして成形材料を充填することにより、半導体ウェーハをダイシングテープを介して収容するフレームを中空板形に成形するダイシングフレーム用金型であって、
第一、第二の型の分割面を、フレームのダイシングテープが粘着される下面から上面方向に0.3〜0.6mm移動させ、フレームの内周面と下面とが形成するコーナ部を半径0.2〜0.5mmの形状に形成したことを特徴とするダイシングフレーム用金型。
【請求項2】
フレームのコーナ部は、フレームの内周面上方から下方向に向かうに従い徐々にフレームの半径内方向に傾斜する第一の傾斜面と、この第一の傾斜面からフレームの下面方向に向かうに従い徐々にフレームの半径外方向に傾斜する第二の傾斜面とを含み、
第一の傾斜面とフレームの下面とが形成する角度を90°未満とし、第二の傾斜面とフレームの下面とが形成する角度を90°以上95°以下とした請求項1記載のダイシングフレーム用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−89274(P2010−89274A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258609(P2008−258609)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】