チタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法
【課題】表面処理温度が低い場合であっても、基材との密着性の高い被覆層を形成することができる、チタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法を提供する。
【解決手段】チタンまたはチタン合金からなる基材の表面を活性化する活性化処理工程と、活性化された前記基材の表面に被覆層を形成する基材被覆工程と、からなり、前記基材の活性化および前記被覆層の形成を該基材の温度が300℃を超えない条件下で行う。
前記基材は、少なくともVa族元素を含む合金元素群と主な残部であるチタン(Ti)とからなるVa族元素含有チタン合金からなるのが好ましく、特に、前記合金元素群が、ジルコニウム(Zr)とタンタル(Ta)とニオブ(Nb)とからなるチタン合金に効果的である。
【解決手段】チタンまたはチタン合金からなる基材の表面を活性化する活性化処理工程と、活性化された前記基材の表面に被覆層を形成する基材被覆工程と、からなり、前記基材の活性化および前記被覆層の形成を該基材の温度が300℃を超えない条件下で行う。
前記基材は、少なくともVa族元素を含む合金元素群と主な残部であるチタン(Ti)とからなるVa族元素含有チタン合金からなるのが好ましく、特に、前記合金元素群が、ジルコニウム(Zr)とタンタル(Ta)とニオブ(Nb)とからなるチタン合金に効果的である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、耐食性などを付与するための密着性に優れた被覆層を形成することができる、基材の被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は比強度に優れるため、航空、軍事、宇宙、深海探査、レーシングカー等の分野で従来から使用されてきた。また、チタン合金は表面に酸化被膜を形成するため耐食性にも優れ、腐食環境下にある化学プラントや海洋建築物などにも使用されてきた。さらに、その優れた耐アレルギー性から、医療用具や装身具にもチタン合金が使用されている。チタン合金の具体例としては、たとえば、Ti−5Al−2.5Sn(α合金)、Ti−6Al−4V(α−β合金)、Ti−13V−11Cr−3Al(β合金)等がある。また、最近では、Va族元素やジルコニウム(Zr)等を合金元素とし、比強度や耐食性だけでなく、弾性にも優れる新たなチタン合金が開発されている。
【0003】
しかしながら、チタン合金や純チタン(以下「チタン材料」と記載)は、硬度が比較的低く(Hv200〜300程度)、摩擦係数が大きい(0.5〜0.6程度)ため、特に摺動部材に使用した場合、焼付きが発生しやすく、摩耗しやすいという問題がある。一方では、チタン材料は軽量であるため、たとえば自動車部品におけるエンジン用バルブに用いることが検討されており、高温耐酸化性や耐摩耗性が付与されたチタン材料が求められている。
【0004】
そこで、チタン材料の表面には、浸炭や窒化処理、各種蒸着法により硬質なTiC層やTiN層などが形成されている。ところが、浸炭や窒化の際の加熱昇温過程でチタン材料の表面にチタン酸化物が形成されて炭素や窒素の侵入が妨害されて、良好なTiC層やTiN層が形成されない。そのため、特許文献1では、800℃〜1100℃での浸炭処理の後、600℃以上で熱拡散処理を施すことにより、酸化物を消失させている。また、TiN層などの被覆層は、各種蒸着法により低温で成膜すると密着性がよくないため、基材の温度を500℃付近まで昇温させて成膜しているのが現状である。
【0005】
つまり、チタン材料の表面処理は、高温の条件下で行われている。なお、最近では、800℃未満の条件下であっても浸炭処理が可能であるが、それでも機材の温度を400℃以上に昇温する必要がある(特許文献2)。
【特許文献1】特開平05−140725号公報
【特許文献2】特開2002−88463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、高温に曝されたチタン材料は、そのチタン材料が有する特性が変化することがある。たとえば、チタン合金のひとつであるTi−36Nb−2Ta−3Zrは、高強度で低弾性な材料であるが、このようなチタン合金は、熱処理温度が高くなると、特有の性質が消失することがわかった。そのため、従来と同様の表面処理では、所望の特性が得られなくなるという問題がある。
【0007】
したがって、チタン材料の特性を損なうことなく被覆層を形成するためには、表面処理温度を低くすることが重要である。すなわち、本発明は、表面処理温度が低い場合であっても、基材との密着性の高い被覆層を形成することができる、チタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法は、チタンまたはチタン合金からなる基材の表面を活性化する活性化処理工程と、活性化された前記基材の表面に被覆層を形成する基材被覆工程と、からなり、前記基材の活性化および前記被覆層の形成を該基材の温度が300℃を超えない条件下で行う。
【0009】
前記基材は、少なくともVa族元素を含む合金元素群と主な残部であるチタン(Ti)とからなるVa族元素含有チタン合金からなるのが好ましく、この際、前記合金元素群は、ジルコニウム(Zr)とタンタル(Ta)とニオブ(Nb)とからなるのが好ましい。
【0010】
前記活性化処理工程は、前記基材の表層部を除去して該基材の表面を活性化する研磨処理またはドライエッチング処理を施す工程、あるいは、前記基材を酸性溶液またはアルカリ性溶液に浸漬して該基材の表面に化成被膜を形成する化成処理工程、であるのが望ましい。
【0011】
前記基材被覆工程は、少なくとも樹脂と該樹脂を溶解する溶媒とを含む塗料組成物を前記基材の表面に塗布した後300℃以下に加熱して乾燥および/または焼成して前記被覆層を形成する工程、あるいは、化学蒸着法または物理蒸着法により前記被覆層を300℃以下で成膜する工程、であるのが望ましい。なお、これらの工程は、複数回行ってもよいし、それぞれ別の工程を組み合わせて行ってもよい。
【0012】
前記被覆層は、少なくとも前記基材の摺動面側に形成され相手材と摺接する摺動層であるのが好ましい。すなわち、本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法は、摺動部材の製造方法と捉えることもできる。
【発明の効果】
【0013】
チタンやチタン合金(チタン材料)は、電位的に卑な金属であり化学的に活性であるため不動態傾向が強く、その表面が酸化膜に覆われている。また、既に述べたように、基材が高温となる処理は、基材の特性を変化させるため望ましくない。そのため、チタン材料からなる基材の特性を保ったまま、その基材の表面に良好に密着する被覆層を形成することは非常に困難である。
【0014】
そこで、本発明者等は、特定の工程を組み合わせることにより、300℃以下での処理であっても、密着性に優れた被覆層を形成できることに想到した。すなわち、チタン材料からなる基材に、その表面を活性化させる活性化処理を施した後、被覆層を形成することにより、300℃を超えない条件であっても密着性に優れた被覆層を形成することができる。その結果、チタン材料の特性を損なうことなく、耐食性などを有する被覆層を形成することができる。
【0015】
特に、基材が、ZrとTaとNbとを含むチタン合金からなる場合には、300℃を超えない条件で処理することで、その高強度で低弾性である優れた性質を損なうことなく、基材との密着性に優れた被覆層を形成することができる。
【0016】
また、本発明によれば、上記活性化処理工程と上記基材被覆工程とを組み合わせて行うことにより、通常であれば基材と被覆層との密着性が得られない300℃を超えない条件で被覆層を形成しても、たとえば、摺動面に高い負荷を受ける摺動部材として適用できる程度に高い密着性を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法を実施するための最良の形態を説明する。
【0018】
本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法は、主として、基材の表面を活性化する活性化処理工程と、活性化された基材の表面に被覆層を形成する基材被覆工程と、からなる。
【0019】
本発明において、基材を構成するチタンまたはチタン合金とは、合金を形成していない純チタン、または、合金元素を含むチタン合金である。チタン合金は、全体に占めるTi量が限定されるものではなく、合金元素群以外の主残部がTiであればよい。敢えていうならば、Tiが50原子%以上であるのが好ましい。
【0020】
チタン合金は、少なくともVa族元素を含む合金元素群と、主な残部であるTiと、からなるのが好ましい。少なくともVa族元素を含むチタン合金は、低ヤング率で高弾性変形能かつ高強度のチタン合金である。
【0021】
本発明におけるVa族元素は、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)のうちの1種あるいは複数種であればよい。Va族元素は、チタン合金全体を100質量%としたときに、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上さらには30質量%以上、含むのが好ましい。
【0022】
また、合金元素群には、Va族元素以外にIVa族元素(ジルコニウム(Zr)やハフニウム(Hf))やスカンジウム(Sc)のうちの1種あるいは複数種を含んでもよい。これらの合金元素は、チタン合金の弾性や強度、靱性などの向上に有効である。IVa族元素やScは、チタン合金全体を100質量%としたときに、それらの合計が20質量%以下、さらには2〜15質量%であるのがよい。これらの元素の含有量が過少では、その効果が少ない。また、含有量が過多になると、凝固偏析が生じやすくなるため、望ましくない。なお、Zr、HfまたはScは、Va族元素の作用と共通する部分が多いため、所定の範囲内でVa族元素と置換してもよい。
【0023】
また、合金元素群として、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)またはニッケル(Ni)の1種以上を含んでもよい。これらの元素は、チタン合金の強度や熱間鍛造性の向上に有効な元素である。CrやMoは、チタン合金全体を100質量%としたときに、合計で1〜20質量%さらには3〜15質量%含まれるのが好ましい。これらの元素の含有量が過少では、その効果が少ない。特に、CrやMoの含有量が過多になると、凝固偏析が生じやすくなるため、好ましくない。Mn、Fe、CoやNiは、チタン合金全体を100質量%としたときに、10質量%以下、さらには2〜7質量%含まれるのが好ましい。これらの元素の含有量が過少では効果が少なく、含有量が過多になると、Tiと金属間化合物を形成して得られるチタン合金の延性が低下するためである。
【0024】
また、原料粉末は、酸素(O)、炭素(C)または窒素(N)を含んでもよい。これらの元素は、いずれも侵入型の固溶強化元素であり、チタン合金のα相を安定にし、強度向上に有効な元素である。これらの元素は、チタン合金全体を100質量%としたときに、Oであれば0.08〜0.6質量%さらには0.15〜0.45質量%、Cであれば0.05〜1.0質量%さらには0.1〜0.8質量%、Nであれば0.05〜0.8質量%さらには0.1〜0.6質量%、含まれるのが好ましい。含有量が過少では、効果が少なく、過多となるとチタン合金の脆化を招くので好ましくない。
【0025】
その他、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、などを含んでもよい。すなわち、チタン合金は、所望の特性に応じて、TiやVa族元素の他、チタン合金の合金元素として通常用いられるZr、Hf、Sc、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Sn、Al、O、C、N、B、等を適宜含めばよい。
【0026】
チタン合金は、一般的な溶製法により得られる鋳造合金の他、各原料粉末を混合して焼結して得られる焼結体であってもよく、基材の形状に合わせて製造されればよい。また、基材の形状にも特に限定はなく、平板状や円筒形状の他、棒状や線状の基材であってもよい。
【0027】
ところが、上記のチタン合金からなる基材では、基材の温度が300℃を超える条件下で表面処理されると、低ヤング率で高弾性変形能かつ高強度である特性が損なわれる。特に、ZrとTaとNbとを含むチタン合金では、脆化が顕著であることがわかった。たとえば、図14は、Ti−36Nb−2Ta−3Zrからなる基材を300℃と250℃とで熱処理した場合の、それぞれの時効時間と基材のビッカース硬さを示すグラフである。図14によれば、熱処理温度が高い程、熱処理前よりも硬さが増大して脆化する傾向にある。熱処理温度が300℃を超えると、その傾向はさらに顕著になる。
【0028】
また、上記チタン合金に限らず、チタンまたはチタン合金からなる基材は、基材の温度が300℃を超える条件で表面処理が施されると、表面の被毒が進んだり、基材の形状によっては歪を生じたり、などするため、所望の特性や形状を有する製品が得られないという問題がある。
【0029】
そこで、本発明の被覆方法では、基材の表面を活性化(活性化処理工程)した後、その表面に被覆層の形成(基材被覆工程)を行い、各処理工程を基材の温度が300℃を超えない条件下で行うこととした。以下に、活性化処理工程および基材被覆工程について説明する。
【0030】
[活性化処理工程]
活性化処理工程は、基材の表面を活性化する工程である。この工程により、基材の表面の化学反応性が高まり、次の基材被覆工程で形成される被覆層の密着性が向上する。基材の表面を活性化する方法は、基材の温度が300℃を超えない限り、JISに規定されている方法であっても、その他の方法であってもよく、チタン材料の表面の活性化に用いられる通常の方法で行えばよい。具体的には、基材の表層部を除去して基材の表面を活性化する研磨処理またはドライエッチング処理、あるいは、基材の表面に化成被膜を形成する化成処理、であるのが望ましい。以下に、それぞれの処理方法について詳しく説明する。
【0031】
研磨処理は、研磨により基材の表層部を除去して基材の表面を活性化する。研磨処理には、機械研磨、化学研磨、電解研磨、化学機械研磨、等があるが、基材の温度が300℃を超えない条件下で行うことができるのであれば、基材の形状や用途、また、基材を構成するチタン材料の種類に合わせて適宜選択すればよい。具体的には、ラッピング、ポリシング、砥石研磨、バフ研磨、ベルト研磨、バレル研磨、電解研磨、噴射加工、流動研磨、磁気研磨、等があるが、特に好ましい処理方法は、電解研磨処理またはホーニング処理である。
【0032】
ホーニング処理では、主に、数個の砥石を円筒外周上に保持したホーニング工具によって工作物の穴内面を研削する。ホーニング工具には、回転と往復運動を与えつつ放射状に拡張・収縮させて、円筒形状の基材の内面を精密に研削する。そのため、ホーニング処理は、エンジン等のシリンダやコンロッドなどに使用される円筒形状の基材の内周面に適用されるのが主であるが、円筒形状の基材の外周面や、バンパー、ガスケット、スロットルボディーなどに使用される平板状の基材がもつ平面であってもホーニングは可能である。
【0033】
電解研磨処理は、被研磨物(基材)を直流電源の陽極に接続し、電解液中で陰極と対峙させて所定の電流を流すことにより、電気化学的反応に基づき基材表面を溶解させて、基材の表層部をミクロンオーダーで除去する処理である。電解研磨は、基材に応力を与えないため、金属的に非常にクリーンな表面が得られる。また、電解液中で研磨が行われ、大気との接触が妨げられるため、酸素などによる被毒を防止することができる。
【0034】
電解研磨処理に用いられる電解液としては、通常酸性溶液が用いられるが、過マンガン酸カリウム溶液などが望ましく、特に、少なくともVa族元素を含むチタン合金からなる基材を使用した場合には、有効である。
【0035】
ドライエッチング処理は、プラズマを用いたエッチング処理方法であって、気体中で基材の表面で衝突や化学反応を起こして、その際に基材表面から飛散した物質を除去することによりエッチングを行う。ドライエッチング処理では、真空容器内にガスを導入し、そのガスを高周波、マイクロ波などにより励起してプラズマを発生させ、ラジカルやイオンを生成する。プラズマにより生成されたラジカルやイオンが化学反応を起こして基材の表面を浸食することで生じる化学的なエッチング効果や、物理的な衝突によるスパッタリング効果により、基材の表面がエッチングされる。
【0036】
ドライエッチング処理としては、物理的なスパッタリング効果により基材の表面をエッチングするスパッタリング処理、化学的な浸食により基材の表面をエッチングするイオンエッチング処理、のどちらを用いてもよい。また、物理的・化学的なエッチングの相乗効果により、エッチングを行う反応性イオンエッチング(RIE)による処理であってもよい。
【0037】
化成処理は、基材を酸性溶液またはアルカリ性溶液(反応性液体)に浸漬して、基材の表面に化成被膜を形成する処理方法である。化成処理では、基材の表面に対して反応性液体を適用することにより、基材の表面が化学反応により変化を受け、反応生成物として化合物被膜(化成被膜)が形成される。
【0038】
化成処理に用いられる反応性溶液としては、リン酸亜鉛、クロム酸、フッ酸、トリエチルアミン、珪酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、重クロム酸ナトリウム、エチレングリコール、リン酸、水酸化ナトリウム、蓚酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、水酸化カリウム(苛性カリ)、等を含む溶液や水または有機溶媒にや溶解させた溶液などを用いることができる。本発明においては、特に、反応溶液としてアルカリ性溶液を用いるのが望ましく、具体的には、水酸化ナトリウム等である。アルカリ性溶液を用いることにより、基材表面の酸化被膜が良好に除去され、チタンやチタン合金からなる基材の表面が活性化されるからである。
【0039】
形成される化成被膜としては、たとえば、リン酸塩被膜、クロム酸塩被膜、蓚酸塩被膜、などが挙げられ、使用する反応溶液に応じた化成被膜が形成される。
【0040】
以上、説明した、ホーニング処理、電解研磨処理、スパッタリング処理、イオンエッチング処理、化成処理、は、低温で処理することが可能であり、熱歪や組織変化などが防止されるため、チタン材料のなかでも特に、少なくともVa族元素を含むチタン合金からなる基材に有効である。
【0041】
なお、本発明において、上記の各処理方法は、基材の表面を活性化させることで、被覆層との密着性を向上させている。つまり、基材の表面粗さにより密着性を高めている(いわゆるアンカー効果)わけではない。そのため、活性化処理工程後の基材の表面粗さに特に限定はない。ただし、表面粗さが粗すぎると、被覆層を形成された基材を摺動部材として用いる場合に、摺動面となる摺動層の表面粗さに影響を及ぼすことがある。ホーニング処理やスパッタリング処理を長時間行うと表面粗さが粗悪になることがあるため、活性化処理工程後の基材の表面粗さは、Ra=0.05μm以下に留めるのが好ましい。
【0042】
[基材被覆工程]
基材被覆工程は、活性化処理工程で活性化された基材の表面に被覆層を形成する工程である。被覆層を形成する方法としては、基材の温度が300℃を超えない限り、その方法に特に限定はなく、被覆層の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
たとえば、少なくとも樹脂と、樹脂を溶解する溶媒と、を含む塗料組成物を基材の表面に塗布した後、300℃以下に加熱して乾燥および/または焼成して被覆層を形成してもよい。
【0044】
樹脂としては、一般的な溶媒に可溶であれば特に限定はなく、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂の何れかであるとよい。特に、被覆層が摺動層(後に詳説)である場合には、樹脂自体がもつ摺動特性の観点から、ポリアミド樹脂やポリイミド樹脂が最適である。また、溶媒としては、上記の各樹脂を溶解できれば特に限定はなく、アルコール、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等の有機溶媒を用いることができる。これらの有機溶媒であれば、比較的低温(100〜300℃程度)の加熱で揮発するため、低温での乾燥による被覆層の形成が可能となる。また、市販の樹脂ワニスを用いてもよい。
【0045】
被覆層を形成した基材を摺動部材として用いる(後に詳説)場合には、塗料組成物は、固体潤滑剤を含むのが好ましい。固体潤滑剤としては、グラファイトやタルクなどの層状構造物の粉末、Pb、Ag、Cu等の軟質金属粒子やその化合物粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等などのフッ素樹脂粉末、BN粉末、など、固体潤滑剤として通常用いられているものであればよく、特に、二硫化モリブデン粉末を少なくとも含む固体潤滑剤が好ましい。
【0046】
上記の各種粉末の他、、さらに、クロム(Cr)、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)チタン(Ti)、等の酸化物粉末(CrO3 、Cr2 O3 、SiO2 、SbO2 、TiO2 など)、チタンテトライソプロポキシド(Ti[OCH(CH3 )2 ]4 )さらには、WO3 、Fe2 O3 、CoO3 、NiO2 、MoO3 、MnO2 、また、ジルコニウムブトキシド(Zr(n−OBu)4 )や、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ボロン(B)などの酸化物粉末のうちの1種以上を複合して用いることもできる。用いられる粉末が硬質粒子であれば、被覆層の耐摩耗性が向上するため、好ましい。
【0047】
固体潤滑剤などは、粉末状で樹脂組成物中に分散するのがよく、二硫化モリブデン粉末であれば、平均一次粒径が45〜150μmであるのが好ましく、さらに好ましくは70〜120μmであるのがよい。また、上記の他の粉末も、二硫化モリブデン粉末と同程度の粒径をもつのが好ましい。固体潤滑剤を構成する粉末が大きすぎる場合には、基材との密着性が低下し、また、表面粗さの良好な被覆層が形成されないため好ましくない。ごく微細な粒子は、入手困難で高コストであり、塗料組成物へ添加する際に凝集して二次粒子を形成することもあるため好ましくない。
【0048】
固体潤滑剤の混合割合としては、塗料組成物(樹脂、溶媒および添加する固体潤滑剤などの合計)を100体積%としたときに、固体潤滑剤を1〜60体積%さらには5〜50体積%含むのが好ましい。結果として、全体を100体積%としたときに、固体潤滑剤を10〜30体積%含む被覆層が得られればよいが、塗料組成物において固体潤滑剤の占める割合が過少であると、一回の基材被覆工程で得られる被覆層の厚さが極薄くなり、基材被覆工程を繰り返し行わないと所望の厚さを有する被覆層が得られないため、実用的ではない。
【0049】
塗料組成物は、少なくとも活性化処理工程にて活性化された基材の表面に塗布される。たとえば、基材を塗料組成物中に浸漬した後、引き上げる方法(ディップコート法)の他、塗布法、フローコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ロールコート法などの通常の塗工法により対象部分に塗料組成物を塗布すればよい。
【0050】
基材被覆工程では、上記の方法により塗料組成物を基材の表面に塗布した後、300℃以下さらに望ましくは150℃〜300℃に加熱して乾燥および/または焼成することにより、被覆層が形成される。加熱は、大気中で行ってもよいが、アルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気下で行えば、基材の酸化が防止される。300℃以下の加熱により、塗料組成物中の溶剤を除去して乾燥させるだけでも被覆層は得られるが、用いる樹脂の軟化点や融点が低い(300℃以下)場合には、乾燥させるとともに焼成して被覆層を形成してもよい。
【0051】
この際、固体潤滑剤を含む塗料組成物を用いれば、樹脂と、樹脂に保持された固体潤滑剤と、からなる摺動層が得られる。すなわち、少なくとも基材の摺動面側に形成され相手材と摺接する摺動層をもつ摺動部材が得られる。具体的には、バルブ、シリンダー、コンロッドなどの摺動部材が挙げられる。
【0052】
被覆層は、その厚さに特に限定はなく、求められる効果に応じて選択すればよい。耐食性を付与する場合には、層の厚さが厚い方が、耐食性が高くなるが、たとえば、被覆層が摺動層であれば、1〜20μmであるのが好ましい。
【0053】
また、化学蒸着法または物理蒸着法により、被覆層を300℃以下で成膜してもよい。
【0054】
化学蒸着法( Chemical Vapor Deposition:CVD)としては、熱CVD、光CVD、プラズマCVD法、等が挙げられる。また、物理蒸着法( Physical Vapor Deposition:PVD)としては、真空蒸着、各種スパッタリング、イオンプレーティング、等が挙げられる。なかでも、成膜中の温度上昇が少なく、基材の温度を300℃以下に保った低温の状態で成膜し易いのは、プラズマCVD法、アークイオンプレーティング、N、F、B等の元素を使用する常温でのイオン注入法である。
【0055】
被覆層の種類に特に限定はないが、チタン(Ti)またはクロム(Cr)を含む窒化物層であるのが好ましい。具体的には、TiN、Cr2 Nの他、Ti2 N、TiAlN、CrN等の組成の窒化物やそれらの複合した窒化物層であってもよい。これらの窒化物層は、PVD法やプラズマCVD法により、基材の温度を300℃以下の条件で、良好に成膜することができる。
【0056】
窒化物層は、少なくとも基材の摺動面側に形成され相手材と摺接する摺動層であるのが好ましい。TiやCrを含む窒化物層は、硬質であり、低い摩擦係数を示し、耐摩耗性に優れる。
【0057】
また、特に、CVD法やPVD法により被覆膜を成膜する場合には、前述の活性化処理工程をドライエッチング処理とし、ドライエッチングを行った装置内で基材被覆工程を行うのが望ましい。活性化処理工程後に基材を装置より取り出す手順を省くことができるし、また、活性化された表面を大気(酸素)に曝すことなく基材被覆工程を行うことができる。
【0058】
以上、本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法の実施形態を説明したが、本発明の被覆方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0059】
なお、本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法により得られた被覆層をもつ基材は、低ヤング率、高弾性変形能、高強度であるチタン材料の特性を良好に保持する。そのため、得られるチタン材料は、その特性に適合する製品に幅広く利用される。たとえば、前述の各種摺動部材の他、産業機械、自動車、バイク、自転車、家電品、航空宇宙機器、船舶、装身具、スポーツ・レジャー用品、生体関連品、医療器材、玩具などに利用される。
【0060】
具体的には、自動車の(コイル)スプリング、装身具では眼鏡フレーム、スポーツ・レジャー用品ではゴルフクラブ、医療器械の機能部材(カテーテル、鉗子、弁など)等に利用できる。
【0061】
その他、各種素材(線材、棒材、角材、板材、箔材、繊維、織物など)、携帯品(時計(腕時計)、バレッタ(髪飾り)、ネックレス、ブレスレット、イヤリング、ピアス、指輪、ネクタイピン、ブローチ、カフスボタン、バックル付きベルト、ライター、万年筆のペン先、万年筆用クリップ、キーホルダー、鍵、ボールペン、シャープペンシル等)、携帯情報端末(携帯電話、携帯レコーダ、モバイルパソコン等のケース等)、エンジンバルブ用のスプリング、サスペンションスプリング、バンパー、ガスケット、ダイアフラム、ベローズ、ホース、ホースバンド、ピンセット、釣り竿、釣り針、縫い針、ミシン針、注射針、スパイク、金属ブラシ、椅子、ソファー、ベッド、クラッチ、バット、各種ワイヤ類、各種バインダ類、クリップ類、クッション材、各種メタルシール、エキスパンダー、トランポリン、各種健康運動機器、車椅子、介護機器、リハビリ機器、カメラボディー、シャッター部品、暗幕、カーテン、ブラインド、気球、飛行船、テント、各種メンブラン、ヘルメット、魚網、茶濾し、傘、消防服、防弾チョッキ、燃料タンク等の各種容器類、タイヤの内張り、タイヤの補強材、自転車のシャシー、ボルト、定規、各種トーションバー、ゼンマイ、動力伝動ベルト(CVTのフープ等)等の各種分野の各種製品に利用することができる。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法の実施例を比較例とともに、表1〜表4および図1〜図13を用いて説明する。
【0063】
[基材]
表1に示す合金組成を有する溶製チタン合金からなる基材A(2mm×20mm×40mm)、基材B(2.5mm×10mm×50mm)、基材C(2mm×15mm×50mm)、基材D(1.5mm×20mm×40mm)、および、基材E(3mm×10mm×30mm)、工業用純チタンからなる基材F(1mm×10mm×25mm)を準備した。各基材の表面は、アセトンで脱脂した。
【0064】
【表1】
【0065】
以下に、上記基材の被覆方法を示すが、実施例1〜6の被覆方法に用いられた基材の種類と施された処理を、表2にまとめて示す。
【0066】
【表2】
【0067】
[実施例1]
実施例1では、基材Aに対して、活性化処理工程としてホーニング処理を行った後、基材被覆工程として塗料組成物を塗布することにより、被覆層を形成した(表2)。
【0068】
ホーニング処理は、80#のアルミナ粒子を含む研磨剤を使用して行った。塗料組成物は、ポリアミド系樹脂ワニス(溶媒:アルコール、ポリアミド樹脂:50部)に、固体潤滑剤として二硫化モリブデン粉末(平均一次粒径70〜110μm):30部、アンチモン酸化物粉末(平均一次粒径50〜80μm):10部、グラファイト粉末(平均一次粒径30〜80μm):50部、PTFE粉末(平均一次粒径80〜120μm):5部、を添加し攪拌して得た。この塗料組成物に、60℃に加熱された基材A(ホーニング処理済み)を1分間浸漬した後、引き上げ、基材Aに塗料組成物を塗布した。塗料組成物が塗布された基材Aを、箱形熱処理炉(大気中)にて300℃で60分の条件で加熱処理(乾燥・焼成)した。この塗布と加熱処理とを5回繰り返し行って、8μmの被覆層をもつ試料1を得た。
【0069】
得られた試料1は、被覆層の表面が滑らかな黒色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで5.2μmRzであった。
【0070】
また、試料1の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察した(図1)。基材Aには、被覆層が基材から剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザにより被覆層を厚さ方向に分析した結果を表3に示す。被覆層には、約13質量%のMo、約10質量%のS、約6質量%のSb、酸素および多量の炭素が検出された。被覆層を構成する主要元素は炭素であって、被覆層にMo、S、Sb、Oがほぼ均一に存在していると推測された。
【0071】
すなわち、試料1の被覆層は、二硫化モリブデン粉末、アンチモン酸化物粉末、グラファイト粉末およびPTFE粉末が均一に分散された状態でポリアミド樹脂に保持された所望の被覆層であった。
【0072】
[実施例2]
実施例2では、基材Bに対して、活性化処理工程として化成処理を行った後、基材被覆工程として塗料組成物を塗布することにより、被覆層を形成した(表2)。
【0073】
化成処理は、反応性溶液としてリン酸亜鉛溶液を使用し、この反応性溶液に基材Bを室温で10分間浸漬して行い、基材Bの表面にリン酸塩被膜を形成した。塗料組成物は、ポリアミド系樹脂ワニス(溶媒:アセトン、ポリアミド樹脂:60部)に、固体潤滑剤として二硫化モリブデン粉末(平均一次粒径70〜110μm):20部、アンチモン酸化物粉末(平均一次粒径50〜80μm):13部、グラファイト粉末(平均一次粒径30〜80μm):5部、PTFE粉末(平均一次粒径80〜120μm):2部、を添加し攪拌して得た。この塗料組成物に、60℃に加熱された基材B(化成処理済み)を1分間浸漬した後、引き上げ、基材Bに塗料組成物を塗布した。塗料組成物が塗布された基材Bを、箱形熱処理炉(大気中)にて250℃で60分の条件で加熱処理(乾燥・焼成)した。この塗布と加熱処理とを6回繰り返し行って、10μmの被覆層をもつ試料2を得た。
【0074】
得られた試料2は、被覆層の表面が滑らかな黒色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで5.0μmRzであった。
【0075】
また、試料2の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察したところ、試料1と同様に、被覆層が基材Bから剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザ分析によれば、試料2の被覆層には、約9質量%のMo、約8質量%のS、約6質量%のSb、酸素および多量の炭素が検出された。被覆層を構成する主要元素は炭素であって、被覆層にMo、S、Sb、Oがほぼ均一に存在していると推測された。
【0076】
すなわち、試料2の被覆層は、二硫化モリブデン粉末、アンチモン酸化物粉末、グラファイト粉末およびPTFE粉末が均一に分散された状態でポリアミド樹脂に保持された所望の被覆層であった。
【0077】
[実施例3]
実施例3では、基材Cを用い、基材被覆工程として塗料組成物を3回塗布した他は、実施例1と同様にして、8μmの被覆層をもつ試料3を得た。
【0078】
得られた試料3は、被覆層の表面が滑らかな黒色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで5.8μmRzであった。
【0079】
また、試料3の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察した(図2)。基材Cには、被覆層が基材から剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザにより被覆層の表面を分析した結果を表3に示す。被覆層には、約15質量%のMo、約12質量%のS、約4質量%のSb、酸素および多量の炭素が検出された。被覆層を構成する主要元素は炭素であって、被覆層にMo、S、Sb、Oがほぼ均一に存在していると推測された。なお、試料3の被覆層および基材Cの表面に対してX線回折測定を行った。結果を図3に示す。得られた回折ピークは、二硫化モリブデンの回折ピーク(主な回折ピーク:2θ=44.24°および60.16°等)と一致した。
【0080】
また、被覆層を形成する前の基材Cは、ビッカース硬さがHv250程度であったが、被覆層を形成後の試料3では、Hv280程度であり、各表面処理工程において、基材の脆化を効果的に抑制することができた。
【0081】
すなわち、試料3の被覆層は、二硫化モリブデン粉末、アンチモン酸化物粉末、グラファイト粉末およびPTFE粉末が均一に分散された状態でポリアミド樹脂に保持された所望の被覆層であった。
【0082】
[実施例4]
実施例4では、基材Fに対して、活性化処理工程としてスパッタリング処理を行った後、基材被覆工程としてアークイオンプレーティング法により、被覆層を形成した(表2)。
【0083】
アークイオンプレーティング法に用いられる市販のPVD装置に基材Fを装入し、ヒーターにより基材Fを250℃に加熱した。その後、PVD装置のチャンバー内にアルゴンガスを導入し、スパッタリング処理を30秒間行った。次に、Tiターゲット(蒸発源)と窒素ガスを用い、TiイオンとNイオンとを反応させて、被覆層を形成した。45分間の成膜により、2μmの被覆層をもつ試料4が得られた。なお、基材の温度は、成膜終了まで250℃程度に保たれた。
【0084】
得られた試料4は、被覆層の表面が滑らかな黄色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで0.2μmRzで平滑であった。
【0085】
また、試料4の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察した(図4)。基材Fには、被覆層が基材から剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザにより被覆層を厚さ方向に分析した結果を表3に示す。被覆層には、約74質量%のTiと約20質量%のNが主として検出された。
【0086】
すなわち、試料4の被覆層は、TiNからなる所望の被覆層であった。
【0087】
[実施例5]
実施例5では、基材Dに対して、活性化処理工程としてスパッタリング処理を行った後、基材被覆工程としてアークイオンプレーティング法により、被覆層を形成した(表2)。
【0088】
アークイオンプレーティング法に用いられる市販のPVD装置に基材Fを装入し、ヒーターにより基材Dを300℃に加熱した。その後、PVD装置のチャンバー内にアルゴンガスを導入し、スパッタリング処理を30秒間行った。次に、Crターゲット(蒸発源)と窒素ガスを用い、CrイオンとNイオンとを反応させて、被覆層を形成した。60分間の成膜により、8μmの被覆層をもつ試料5が得られた。なお、基材の温度は、成膜終了まで300℃を超えないように保たれた。
【0089】
得られた試料5は、被覆層の表面が滑らかな銀色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで0.2μmRzで平滑であった。
【0090】
また、試料4の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察した(図5)。基材Dには、被覆層が基材から剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザにより被覆層を厚さ方向に分析した結果を表3に示す。被覆層には、約88質量%のCrと約3質量%のNが主として検出された。なお、試料5の被覆層および基材Dの表面に対してX線回折測定を行った。結果を図6に示す。得られた回折ピークは、CrNの回折ピーク(主な回折ピーク:2θ=58.32°および64.92°等)と一致し、非晶質構造を含むことがわかった。
【0091】
すなわち、試料5の被覆層は、CrNからなる所望の被覆層であった。
【0092】
[実施例6]
実施例6では、基材Eを用い、スパッタリング処理の基材の加熱温度を150℃、スパッタリング時間を2分間、成膜時間を2時間とした他は、基材被覆工程として塗料組成物を3回塗布した他は、実施例5と同様にして、9μmの被覆層をもつ試料6を得た。
【0093】
得られた試料6は、被覆層の表面が滑らかな銀色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで0.2μmRzで平滑であった。
【0094】
また、試料4の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察した(図7)。基材Dには、被覆層が基材から剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザにより被覆層を厚さ方向に分析した結果を表3に示す。被覆層には、約90質量%のCrと約3質量%のNが主として検出された。なお、試料5の被覆層および基材Dの表面に対してX線回折測定を行った。結果を図8に示す。得られた回折ピークは、CrNの回折ピーク(主な回折ピーク:2θ=58.32°および64.92°等)と一致し、非晶質構造を含むことがわかった。
【0095】
すなわち、試料6の被覆層は、CrNからなる所望の被覆層であった。
【0096】
【表3】
【0097】
[実施例7]
基材Aを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状とした。この基材Aに実施例1と同様の手順で被覆層(摺動層)を形成して、摺動部材A1(摺動層(摺動面)の表面粗さ:0.3μmRz)を得た。
【0098】
[実施例8]
基材Aを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状とした。この基材Aに実施例5と同様の手順で被覆層(摺動層)を形成して、摺動部材A5(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)を得た。
【0099】
[実施例9]
基材Cを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状とした。この基材Cに実施例4と同様の手順で被覆層(摺動層)を形成して、摺動部材C4(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)を得た。
【0100】
[実施例10]
基材Cを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状とした。この基材Cに実施例3と同様の手順で被覆層(摺動層)を形成して、摺動部材C3(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)を得た。
【0101】
[実施例11]
基材Cを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状とした。この基材Cに実施例6と同様の手順で被覆層(摺動層)を形成して、摺動部材C6(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)を得た。
【0102】
[比較例1、比較例2]
基材Aを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状としたものを、摺動部材A0(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)とした。基材Cを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状としたものを、摺動部材C0(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)とした。すなわち、比較例1および2では、活性化処理工程および基材被覆工程を行わなかった。
【0103】
[評価]
摺動部材A0,A1,A5および摺動部材C0,C4,C3,C6について、リングオンディスク試験を行った。リングオンディスク試験に用いた装置の断面図を図13に示す。油槽32の底部に試料台33を載置し、試料31(摺動部材)を試料台33の凹面上に固定した。また、試料31の摺動相手材として、直径(外径)25.6mm、厚さ20mmのリング34(軸受け鋼(SUJ2):Hv270、0.3μmRz)を用い、試料31の摺動面(被覆層の表面)上に載置した。試料31とリング34との摺動面積は、200.5mm2 であった。そして、油槽32には、試料31とリング34との接触面が液面下に位置するように、潤滑油O(ベース油)を入れた。
【0104】
そして、軸Xを中心としてリング34を回転させて、試料31の摺動面とリング34とを摺動させた。この際、滑り速度を2.38m/sとし、荷重5.0kgfから100kgfまでを10kgf毎にステップアップさせて1時間(各荷重での保持時間は2分間)試験を行った。表4に、焼付きの発生の有無、および、100kgfでの摩擦係数を示す。
【0105】
【表4】
【0106】
摺動部材A1、A5および摺動部材C4、C3、C6は、100kgfの荷重であっても焼付きは生じることはなく、1時間の摺動が可能であった。また、摩擦係数も低く抑えられ、特に、スパッタリング処理を施した表面にCrN膜が成膜された摺動部材A5および摺動部材C6の摩擦係数は、非常に小さかった。試験後の摺動部材A5および摺動部材C6の摺動面の観察結果を図10および図12に示す。図10および図12からわかるように、被覆層の表面に摩耗は見られなかった。また、被覆層の剥離も確認されなかったため、基材と被覆層との密着性が高いと推測される。なお、摺動部材A1、C4、C3についても、同様の表面性状が観察された。
【0107】
一方、摺動部材A0および摺動部材C0では、試験開始から2〜3秒後(荷重:5.0kgf)に焼付きが生じた。摺動部材A0および摺動部材C0の摺動面の観察結果を図9および図11に示す。図9および図11からわかるように、被覆層の表面に摩耗(矢印で示す部分)が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】試料1の厚さ方向の断面を観察した顕微鏡写真である。
【図2】試料3の摺動部材の厚さ方向の断面を観察した顕微鏡写真である。
【図3】試料3および基材CのXRD回折測定結果を示す。
【図4】試料4の厚さ方向の断面を観察した顕微鏡写真である。
【図5】試料5の厚さ方向の断面を観察した顕微鏡写真である。
【図6】試料5および基材DのXRD回折測定結果を示す。
【図7】試料6の厚さ方向の断面を観察した顕微鏡写真である。
【図8】試料6および基材EのXRD回折測定結果を示す。
【図9】摺動部材A0の摺動面を観察した写真である。
【図10】摺動部材A5の摺動面を観察した写真である。
【図11】摺動部材C0の摺動面を観察した写真である。
【図12】摺動部材C6の摺動面を観察した写真である。
【図13】リングオンディスク試験に用いた装置を模式的に示す断面図である。
【図14】Ti−36Nb−2Ta−3Zrの組成をもつチタン合金からなる基材を250℃または300℃で熱処理した際の、熱処理時間と基材の硬度の関係を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンまたはチタン合金からなる基材の表面に、耐食性などを付与するための密着性に優れた被覆層を形成することができる、基材の被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は比強度に優れるため、航空、軍事、宇宙、深海探査、レーシングカー等の分野で従来から使用されてきた。また、チタン合金は表面に酸化被膜を形成するため耐食性にも優れ、腐食環境下にある化学プラントや海洋建築物などにも使用されてきた。さらに、その優れた耐アレルギー性から、医療用具や装身具にもチタン合金が使用されている。チタン合金の具体例としては、たとえば、Ti−5Al−2.5Sn(α合金)、Ti−6Al−4V(α−β合金)、Ti−13V−11Cr−3Al(β合金)等がある。また、最近では、Va族元素やジルコニウム(Zr)等を合金元素とし、比強度や耐食性だけでなく、弾性にも優れる新たなチタン合金が開発されている。
【0003】
しかしながら、チタン合金や純チタン(以下「チタン材料」と記載)は、硬度が比較的低く(Hv200〜300程度)、摩擦係数が大きい(0.5〜0.6程度)ため、特に摺動部材に使用した場合、焼付きが発生しやすく、摩耗しやすいという問題がある。一方では、チタン材料は軽量であるため、たとえば自動車部品におけるエンジン用バルブに用いることが検討されており、高温耐酸化性や耐摩耗性が付与されたチタン材料が求められている。
【0004】
そこで、チタン材料の表面には、浸炭や窒化処理、各種蒸着法により硬質なTiC層やTiN層などが形成されている。ところが、浸炭や窒化の際の加熱昇温過程でチタン材料の表面にチタン酸化物が形成されて炭素や窒素の侵入が妨害されて、良好なTiC層やTiN層が形成されない。そのため、特許文献1では、800℃〜1100℃での浸炭処理の後、600℃以上で熱拡散処理を施すことにより、酸化物を消失させている。また、TiN層などの被覆層は、各種蒸着法により低温で成膜すると密着性がよくないため、基材の温度を500℃付近まで昇温させて成膜しているのが現状である。
【0005】
つまり、チタン材料の表面処理は、高温の条件下で行われている。なお、最近では、800℃未満の条件下であっても浸炭処理が可能であるが、それでも機材の温度を400℃以上に昇温する必要がある(特許文献2)。
【特許文献1】特開平05−140725号公報
【特許文献2】特開2002−88463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、高温に曝されたチタン材料は、そのチタン材料が有する特性が変化することがある。たとえば、チタン合金のひとつであるTi−36Nb−2Ta−3Zrは、高強度で低弾性な材料であるが、このようなチタン合金は、熱処理温度が高くなると、特有の性質が消失することがわかった。そのため、従来と同様の表面処理では、所望の特性が得られなくなるという問題がある。
【0007】
したがって、チタン材料の特性を損なうことなく被覆層を形成するためには、表面処理温度を低くすることが重要である。すなわち、本発明は、表面処理温度が低い場合であっても、基材との密着性の高い被覆層を形成することができる、チタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法は、チタンまたはチタン合金からなる基材の表面を活性化する活性化処理工程と、活性化された前記基材の表面に被覆層を形成する基材被覆工程と、からなり、前記基材の活性化および前記被覆層の形成を該基材の温度が300℃を超えない条件下で行う。
【0009】
前記基材は、少なくともVa族元素を含む合金元素群と主な残部であるチタン(Ti)とからなるVa族元素含有チタン合金からなるのが好ましく、この際、前記合金元素群は、ジルコニウム(Zr)とタンタル(Ta)とニオブ(Nb)とからなるのが好ましい。
【0010】
前記活性化処理工程は、前記基材の表層部を除去して該基材の表面を活性化する研磨処理またはドライエッチング処理を施す工程、あるいは、前記基材を酸性溶液またはアルカリ性溶液に浸漬して該基材の表面に化成被膜を形成する化成処理工程、であるのが望ましい。
【0011】
前記基材被覆工程は、少なくとも樹脂と該樹脂を溶解する溶媒とを含む塗料組成物を前記基材の表面に塗布した後300℃以下に加熱して乾燥および/または焼成して前記被覆層を形成する工程、あるいは、化学蒸着法または物理蒸着法により前記被覆層を300℃以下で成膜する工程、であるのが望ましい。なお、これらの工程は、複数回行ってもよいし、それぞれ別の工程を組み合わせて行ってもよい。
【0012】
前記被覆層は、少なくとも前記基材の摺動面側に形成され相手材と摺接する摺動層であるのが好ましい。すなわち、本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法は、摺動部材の製造方法と捉えることもできる。
【発明の効果】
【0013】
チタンやチタン合金(チタン材料)は、電位的に卑な金属であり化学的に活性であるため不動態傾向が強く、その表面が酸化膜に覆われている。また、既に述べたように、基材が高温となる処理は、基材の特性を変化させるため望ましくない。そのため、チタン材料からなる基材の特性を保ったまま、その基材の表面に良好に密着する被覆層を形成することは非常に困難である。
【0014】
そこで、本発明者等は、特定の工程を組み合わせることにより、300℃以下での処理であっても、密着性に優れた被覆層を形成できることに想到した。すなわち、チタン材料からなる基材に、その表面を活性化させる活性化処理を施した後、被覆層を形成することにより、300℃を超えない条件であっても密着性に優れた被覆層を形成することができる。その結果、チタン材料の特性を損なうことなく、耐食性などを有する被覆層を形成することができる。
【0015】
特に、基材が、ZrとTaとNbとを含むチタン合金からなる場合には、300℃を超えない条件で処理することで、その高強度で低弾性である優れた性質を損なうことなく、基材との密着性に優れた被覆層を形成することができる。
【0016】
また、本発明によれば、上記活性化処理工程と上記基材被覆工程とを組み合わせて行うことにより、通常であれば基材と被覆層との密着性が得られない300℃を超えない条件で被覆層を形成しても、たとえば、摺動面に高い負荷を受ける摺動部材として適用できる程度に高い密着性を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法を実施するための最良の形態を説明する。
【0018】
本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法は、主として、基材の表面を活性化する活性化処理工程と、活性化された基材の表面に被覆層を形成する基材被覆工程と、からなる。
【0019】
本発明において、基材を構成するチタンまたはチタン合金とは、合金を形成していない純チタン、または、合金元素を含むチタン合金である。チタン合金は、全体に占めるTi量が限定されるものではなく、合金元素群以外の主残部がTiであればよい。敢えていうならば、Tiが50原子%以上であるのが好ましい。
【0020】
チタン合金は、少なくともVa族元素を含む合金元素群と、主な残部であるTiと、からなるのが好ましい。少なくともVa族元素を含むチタン合金は、低ヤング率で高弾性変形能かつ高強度のチタン合金である。
【0021】
本発明におけるVa族元素は、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)のうちの1種あるいは複数種であればよい。Va族元素は、チタン合金全体を100質量%としたときに、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上さらには30質量%以上、含むのが好ましい。
【0022】
また、合金元素群には、Va族元素以外にIVa族元素(ジルコニウム(Zr)やハフニウム(Hf))やスカンジウム(Sc)のうちの1種あるいは複数種を含んでもよい。これらの合金元素は、チタン合金の弾性や強度、靱性などの向上に有効である。IVa族元素やScは、チタン合金全体を100質量%としたときに、それらの合計が20質量%以下、さらには2〜15質量%であるのがよい。これらの元素の含有量が過少では、その効果が少ない。また、含有量が過多になると、凝固偏析が生じやすくなるため、望ましくない。なお、Zr、HfまたはScは、Va族元素の作用と共通する部分が多いため、所定の範囲内でVa族元素と置換してもよい。
【0023】
また、合金元素群として、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)またはニッケル(Ni)の1種以上を含んでもよい。これらの元素は、チタン合金の強度や熱間鍛造性の向上に有効な元素である。CrやMoは、チタン合金全体を100質量%としたときに、合計で1〜20質量%さらには3〜15質量%含まれるのが好ましい。これらの元素の含有量が過少では、その効果が少ない。特に、CrやMoの含有量が過多になると、凝固偏析が生じやすくなるため、好ましくない。Mn、Fe、CoやNiは、チタン合金全体を100質量%としたときに、10質量%以下、さらには2〜7質量%含まれるのが好ましい。これらの元素の含有量が過少では効果が少なく、含有量が過多になると、Tiと金属間化合物を形成して得られるチタン合金の延性が低下するためである。
【0024】
また、原料粉末は、酸素(O)、炭素(C)または窒素(N)を含んでもよい。これらの元素は、いずれも侵入型の固溶強化元素であり、チタン合金のα相を安定にし、強度向上に有効な元素である。これらの元素は、チタン合金全体を100質量%としたときに、Oであれば0.08〜0.6質量%さらには0.15〜0.45質量%、Cであれば0.05〜1.0質量%さらには0.1〜0.8質量%、Nであれば0.05〜0.8質量%さらには0.1〜0.6質量%、含まれるのが好ましい。含有量が過少では、効果が少なく、過多となるとチタン合金の脆化を招くので好ましくない。
【0025】
その他、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、などを含んでもよい。すなわち、チタン合金は、所望の特性に応じて、TiやVa族元素の他、チタン合金の合金元素として通常用いられるZr、Hf、Sc、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Sn、Al、O、C、N、B、等を適宜含めばよい。
【0026】
チタン合金は、一般的な溶製法により得られる鋳造合金の他、各原料粉末を混合して焼結して得られる焼結体であってもよく、基材の形状に合わせて製造されればよい。また、基材の形状にも特に限定はなく、平板状や円筒形状の他、棒状や線状の基材であってもよい。
【0027】
ところが、上記のチタン合金からなる基材では、基材の温度が300℃を超える条件下で表面処理されると、低ヤング率で高弾性変形能かつ高強度である特性が損なわれる。特に、ZrとTaとNbとを含むチタン合金では、脆化が顕著であることがわかった。たとえば、図14は、Ti−36Nb−2Ta−3Zrからなる基材を300℃と250℃とで熱処理した場合の、それぞれの時効時間と基材のビッカース硬さを示すグラフである。図14によれば、熱処理温度が高い程、熱処理前よりも硬さが増大して脆化する傾向にある。熱処理温度が300℃を超えると、その傾向はさらに顕著になる。
【0028】
また、上記チタン合金に限らず、チタンまたはチタン合金からなる基材は、基材の温度が300℃を超える条件で表面処理が施されると、表面の被毒が進んだり、基材の形状によっては歪を生じたり、などするため、所望の特性や形状を有する製品が得られないという問題がある。
【0029】
そこで、本発明の被覆方法では、基材の表面を活性化(活性化処理工程)した後、その表面に被覆層の形成(基材被覆工程)を行い、各処理工程を基材の温度が300℃を超えない条件下で行うこととした。以下に、活性化処理工程および基材被覆工程について説明する。
【0030】
[活性化処理工程]
活性化処理工程は、基材の表面を活性化する工程である。この工程により、基材の表面の化学反応性が高まり、次の基材被覆工程で形成される被覆層の密着性が向上する。基材の表面を活性化する方法は、基材の温度が300℃を超えない限り、JISに規定されている方法であっても、その他の方法であってもよく、チタン材料の表面の活性化に用いられる通常の方法で行えばよい。具体的には、基材の表層部を除去して基材の表面を活性化する研磨処理またはドライエッチング処理、あるいは、基材の表面に化成被膜を形成する化成処理、であるのが望ましい。以下に、それぞれの処理方法について詳しく説明する。
【0031】
研磨処理は、研磨により基材の表層部を除去して基材の表面を活性化する。研磨処理には、機械研磨、化学研磨、電解研磨、化学機械研磨、等があるが、基材の温度が300℃を超えない条件下で行うことができるのであれば、基材の形状や用途、また、基材を構成するチタン材料の種類に合わせて適宜選択すればよい。具体的には、ラッピング、ポリシング、砥石研磨、バフ研磨、ベルト研磨、バレル研磨、電解研磨、噴射加工、流動研磨、磁気研磨、等があるが、特に好ましい処理方法は、電解研磨処理またはホーニング処理である。
【0032】
ホーニング処理では、主に、数個の砥石を円筒外周上に保持したホーニング工具によって工作物の穴内面を研削する。ホーニング工具には、回転と往復運動を与えつつ放射状に拡張・収縮させて、円筒形状の基材の内面を精密に研削する。そのため、ホーニング処理は、エンジン等のシリンダやコンロッドなどに使用される円筒形状の基材の内周面に適用されるのが主であるが、円筒形状の基材の外周面や、バンパー、ガスケット、スロットルボディーなどに使用される平板状の基材がもつ平面であってもホーニングは可能である。
【0033】
電解研磨処理は、被研磨物(基材)を直流電源の陽極に接続し、電解液中で陰極と対峙させて所定の電流を流すことにより、電気化学的反応に基づき基材表面を溶解させて、基材の表層部をミクロンオーダーで除去する処理である。電解研磨は、基材に応力を与えないため、金属的に非常にクリーンな表面が得られる。また、電解液中で研磨が行われ、大気との接触が妨げられるため、酸素などによる被毒を防止することができる。
【0034】
電解研磨処理に用いられる電解液としては、通常酸性溶液が用いられるが、過マンガン酸カリウム溶液などが望ましく、特に、少なくともVa族元素を含むチタン合金からなる基材を使用した場合には、有効である。
【0035】
ドライエッチング処理は、プラズマを用いたエッチング処理方法であって、気体中で基材の表面で衝突や化学反応を起こして、その際に基材表面から飛散した物質を除去することによりエッチングを行う。ドライエッチング処理では、真空容器内にガスを導入し、そのガスを高周波、マイクロ波などにより励起してプラズマを発生させ、ラジカルやイオンを生成する。プラズマにより生成されたラジカルやイオンが化学反応を起こして基材の表面を浸食することで生じる化学的なエッチング効果や、物理的な衝突によるスパッタリング効果により、基材の表面がエッチングされる。
【0036】
ドライエッチング処理としては、物理的なスパッタリング効果により基材の表面をエッチングするスパッタリング処理、化学的な浸食により基材の表面をエッチングするイオンエッチング処理、のどちらを用いてもよい。また、物理的・化学的なエッチングの相乗効果により、エッチングを行う反応性イオンエッチング(RIE)による処理であってもよい。
【0037】
化成処理は、基材を酸性溶液またはアルカリ性溶液(反応性液体)に浸漬して、基材の表面に化成被膜を形成する処理方法である。化成処理では、基材の表面に対して反応性液体を適用することにより、基材の表面が化学反応により変化を受け、反応生成物として化合物被膜(化成被膜)が形成される。
【0038】
化成処理に用いられる反応性溶液としては、リン酸亜鉛、クロム酸、フッ酸、トリエチルアミン、珪酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、重クロム酸ナトリウム、エチレングリコール、リン酸、水酸化ナトリウム、蓚酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、水酸化カリウム(苛性カリ)、等を含む溶液や水または有機溶媒にや溶解させた溶液などを用いることができる。本発明においては、特に、反応溶液としてアルカリ性溶液を用いるのが望ましく、具体的には、水酸化ナトリウム等である。アルカリ性溶液を用いることにより、基材表面の酸化被膜が良好に除去され、チタンやチタン合金からなる基材の表面が活性化されるからである。
【0039】
形成される化成被膜としては、たとえば、リン酸塩被膜、クロム酸塩被膜、蓚酸塩被膜、などが挙げられ、使用する反応溶液に応じた化成被膜が形成される。
【0040】
以上、説明した、ホーニング処理、電解研磨処理、スパッタリング処理、イオンエッチング処理、化成処理、は、低温で処理することが可能であり、熱歪や組織変化などが防止されるため、チタン材料のなかでも特に、少なくともVa族元素を含むチタン合金からなる基材に有効である。
【0041】
なお、本発明において、上記の各処理方法は、基材の表面を活性化させることで、被覆層との密着性を向上させている。つまり、基材の表面粗さにより密着性を高めている(いわゆるアンカー効果)わけではない。そのため、活性化処理工程後の基材の表面粗さに特に限定はない。ただし、表面粗さが粗すぎると、被覆層を形成された基材を摺動部材として用いる場合に、摺動面となる摺動層の表面粗さに影響を及ぼすことがある。ホーニング処理やスパッタリング処理を長時間行うと表面粗さが粗悪になることがあるため、活性化処理工程後の基材の表面粗さは、Ra=0.05μm以下に留めるのが好ましい。
【0042】
[基材被覆工程]
基材被覆工程は、活性化処理工程で活性化された基材の表面に被覆層を形成する工程である。被覆層を形成する方法としては、基材の温度が300℃を超えない限り、その方法に特に限定はなく、被覆層の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
たとえば、少なくとも樹脂と、樹脂を溶解する溶媒と、を含む塗料組成物を基材の表面に塗布した後、300℃以下に加熱して乾燥および/または焼成して被覆層を形成してもよい。
【0044】
樹脂としては、一般的な溶媒に可溶であれば特に限定はなく、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂の何れかであるとよい。特に、被覆層が摺動層(後に詳説)である場合には、樹脂自体がもつ摺動特性の観点から、ポリアミド樹脂やポリイミド樹脂が最適である。また、溶媒としては、上記の各樹脂を溶解できれば特に限定はなく、アルコール、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等の有機溶媒を用いることができる。これらの有機溶媒であれば、比較的低温(100〜300℃程度)の加熱で揮発するため、低温での乾燥による被覆層の形成が可能となる。また、市販の樹脂ワニスを用いてもよい。
【0045】
被覆層を形成した基材を摺動部材として用いる(後に詳説)場合には、塗料組成物は、固体潤滑剤を含むのが好ましい。固体潤滑剤としては、グラファイトやタルクなどの層状構造物の粉末、Pb、Ag、Cu等の軟質金属粒子やその化合物粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等などのフッ素樹脂粉末、BN粉末、など、固体潤滑剤として通常用いられているものであればよく、特に、二硫化モリブデン粉末を少なくとも含む固体潤滑剤が好ましい。
【0046】
上記の各種粉末の他、、さらに、クロム(Cr)、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)チタン(Ti)、等の酸化物粉末(CrO3 、Cr2 O3 、SiO2 、SbO2 、TiO2 など)、チタンテトライソプロポキシド(Ti[OCH(CH3 )2 ]4 )さらには、WO3 、Fe2 O3 、CoO3 、NiO2 、MoO3 、MnO2 、また、ジルコニウムブトキシド(Zr(n−OBu)4 )や、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ボロン(B)などの酸化物粉末のうちの1種以上を複合して用いることもできる。用いられる粉末が硬質粒子であれば、被覆層の耐摩耗性が向上するため、好ましい。
【0047】
固体潤滑剤などは、粉末状で樹脂組成物中に分散するのがよく、二硫化モリブデン粉末であれば、平均一次粒径が45〜150μmであるのが好ましく、さらに好ましくは70〜120μmであるのがよい。また、上記の他の粉末も、二硫化モリブデン粉末と同程度の粒径をもつのが好ましい。固体潤滑剤を構成する粉末が大きすぎる場合には、基材との密着性が低下し、また、表面粗さの良好な被覆層が形成されないため好ましくない。ごく微細な粒子は、入手困難で高コストであり、塗料組成物へ添加する際に凝集して二次粒子を形成することもあるため好ましくない。
【0048】
固体潤滑剤の混合割合としては、塗料組成物(樹脂、溶媒および添加する固体潤滑剤などの合計)を100体積%としたときに、固体潤滑剤を1〜60体積%さらには5〜50体積%含むのが好ましい。結果として、全体を100体積%としたときに、固体潤滑剤を10〜30体積%含む被覆層が得られればよいが、塗料組成物において固体潤滑剤の占める割合が過少であると、一回の基材被覆工程で得られる被覆層の厚さが極薄くなり、基材被覆工程を繰り返し行わないと所望の厚さを有する被覆層が得られないため、実用的ではない。
【0049】
塗料組成物は、少なくとも活性化処理工程にて活性化された基材の表面に塗布される。たとえば、基材を塗料組成物中に浸漬した後、引き上げる方法(ディップコート法)の他、塗布法、フローコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ロールコート法などの通常の塗工法により対象部分に塗料組成物を塗布すればよい。
【0050】
基材被覆工程では、上記の方法により塗料組成物を基材の表面に塗布した後、300℃以下さらに望ましくは150℃〜300℃に加熱して乾燥および/または焼成することにより、被覆層が形成される。加熱は、大気中で行ってもよいが、アルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気下で行えば、基材の酸化が防止される。300℃以下の加熱により、塗料組成物中の溶剤を除去して乾燥させるだけでも被覆層は得られるが、用いる樹脂の軟化点や融点が低い(300℃以下)場合には、乾燥させるとともに焼成して被覆層を形成してもよい。
【0051】
この際、固体潤滑剤を含む塗料組成物を用いれば、樹脂と、樹脂に保持された固体潤滑剤と、からなる摺動層が得られる。すなわち、少なくとも基材の摺動面側に形成され相手材と摺接する摺動層をもつ摺動部材が得られる。具体的には、バルブ、シリンダー、コンロッドなどの摺動部材が挙げられる。
【0052】
被覆層は、その厚さに特に限定はなく、求められる効果に応じて選択すればよい。耐食性を付与する場合には、層の厚さが厚い方が、耐食性が高くなるが、たとえば、被覆層が摺動層であれば、1〜20μmであるのが好ましい。
【0053】
また、化学蒸着法または物理蒸着法により、被覆層を300℃以下で成膜してもよい。
【0054】
化学蒸着法( Chemical Vapor Deposition:CVD)としては、熱CVD、光CVD、プラズマCVD法、等が挙げられる。また、物理蒸着法( Physical Vapor Deposition:PVD)としては、真空蒸着、各種スパッタリング、イオンプレーティング、等が挙げられる。なかでも、成膜中の温度上昇が少なく、基材の温度を300℃以下に保った低温の状態で成膜し易いのは、プラズマCVD法、アークイオンプレーティング、N、F、B等の元素を使用する常温でのイオン注入法である。
【0055】
被覆層の種類に特に限定はないが、チタン(Ti)またはクロム(Cr)を含む窒化物層であるのが好ましい。具体的には、TiN、Cr2 Nの他、Ti2 N、TiAlN、CrN等の組成の窒化物やそれらの複合した窒化物層であってもよい。これらの窒化物層は、PVD法やプラズマCVD法により、基材の温度を300℃以下の条件で、良好に成膜することができる。
【0056】
窒化物層は、少なくとも基材の摺動面側に形成され相手材と摺接する摺動層であるのが好ましい。TiやCrを含む窒化物層は、硬質であり、低い摩擦係数を示し、耐摩耗性に優れる。
【0057】
また、特に、CVD法やPVD法により被覆膜を成膜する場合には、前述の活性化処理工程をドライエッチング処理とし、ドライエッチングを行った装置内で基材被覆工程を行うのが望ましい。活性化処理工程後に基材を装置より取り出す手順を省くことができるし、また、活性化された表面を大気(酸素)に曝すことなく基材被覆工程を行うことができる。
【0058】
以上、本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法の実施形態を説明したが、本発明の被覆方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0059】
なお、本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法により得られた被覆層をもつ基材は、低ヤング率、高弾性変形能、高強度であるチタン材料の特性を良好に保持する。そのため、得られるチタン材料は、その特性に適合する製品に幅広く利用される。たとえば、前述の各種摺動部材の他、産業機械、自動車、バイク、自転車、家電品、航空宇宙機器、船舶、装身具、スポーツ・レジャー用品、生体関連品、医療器材、玩具などに利用される。
【0060】
具体的には、自動車の(コイル)スプリング、装身具では眼鏡フレーム、スポーツ・レジャー用品ではゴルフクラブ、医療器械の機能部材(カテーテル、鉗子、弁など)等に利用できる。
【0061】
その他、各種素材(線材、棒材、角材、板材、箔材、繊維、織物など)、携帯品(時計(腕時計)、バレッタ(髪飾り)、ネックレス、ブレスレット、イヤリング、ピアス、指輪、ネクタイピン、ブローチ、カフスボタン、バックル付きベルト、ライター、万年筆のペン先、万年筆用クリップ、キーホルダー、鍵、ボールペン、シャープペンシル等)、携帯情報端末(携帯電話、携帯レコーダ、モバイルパソコン等のケース等)、エンジンバルブ用のスプリング、サスペンションスプリング、バンパー、ガスケット、ダイアフラム、ベローズ、ホース、ホースバンド、ピンセット、釣り竿、釣り針、縫い針、ミシン針、注射針、スパイク、金属ブラシ、椅子、ソファー、ベッド、クラッチ、バット、各種ワイヤ類、各種バインダ類、クリップ類、クッション材、各種メタルシール、エキスパンダー、トランポリン、各種健康運動機器、車椅子、介護機器、リハビリ機器、カメラボディー、シャッター部品、暗幕、カーテン、ブラインド、気球、飛行船、テント、各種メンブラン、ヘルメット、魚網、茶濾し、傘、消防服、防弾チョッキ、燃料タンク等の各種容器類、タイヤの内張り、タイヤの補強材、自転車のシャシー、ボルト、定規、各種トーションバー、ゼンマイ、動力伝動ベルト(CVTのフープ等)等の各種分野の各種製品に利用することができる。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明のチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法の実施例を比較例とともに、表1〜表4および図1〜図13を用いて説明する。
【0063】
[基材]
表1に示す合金組成を有する溶製チタン合金からなる基材A(2mm×20mm×40mm)、基材B(2.5mm×10mm×50mm)、基材C(2mm×15mm×50mm)、基材D(1.5mm×20mm×40mm)、および、基材E(3mm×10mm×30mm)、工業用純チタンからなる基材F(1mm×10mm×25mm)を準備した。各基材の表面は、アセトンで脱脂した。
【0064】
【表1】
【0065】
以下に、上記基材の被覆方法を示すが、実施例1〜6の被覆方法に用いられた基材の種類と施された処理を、表2にまとめて示す。
【0066】
【表2】
【0067】
[実施例1]
実施例1では、基材Aに対して、活性化処理工程としてホーニング処理を行った後、基材被覆工程として塗料組成物を塗布することにより、被覆層を形成した(表2)。
【0068】
ホーニング処理は、80#のアルミナ粒子を含む研磨剤を使用して行った。塗料組成物は、ポリアミド系樹脂ワニス(溶媒:アルコール、ポリアミド樹脂:50部)に、固体潤滑剤として二硫化モリブデン粉末(平均一次粒径70〜110μm):30部、アンチモン酸化物粉末(平均一次粒径50〜80μm):10部、グラファイト粉末(平均一次粒径30〜80μm):50部、PTFE粉末(平均一次粒径80〜120μm):5部、を添加し攪拌して得た。この塗料組成物に、60℃に加熱された基材A(ホーニング処理済み)を1分間浸漬した後、引き上げ、基材Aに塗料組成物を塗布した。塗料組成物が塗布された基材Aを、箱形熱処理炉(大気中)にて300℃で60分の条件で加熱処理(乾燥・焼成)した。この塗布と加熱処理とを5回繰り返し行って、8μmの被覆層をもつ試料1を得た。
【0069】
得られた試料1は、被覆層の表面が滑らかな黒色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで5.2μmRzであった。
【0070】
また、試料1の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察した(図1)。基材Aには、被覆層が基材から剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザにより被覆層を厚さ方向に分析した結果を表3に示す。被覆層には、約13質量%のMo、約10質量%のS、約6質量%のSb、酸素および多量の炭素が検出された。被覆層を構成する主要元素は炭素であって、被覆層にMo、S、Sb、Oがほぼ均一に存在していると推測された。
【0071】
すなわち、試料1の被覆層は、二硫化モリブデン粉末、アンチモン酸化物粉末、グラファイト粉末およびPTFE粉末が均一に分散された状態でポリアミド樹脂に保持された所望の被覆層であった。
【0072】
[実施例2]
実施例2では、基材Bに対して、活性化処理工程として化成処理を行った後、基材被覆工程として塗料組成物を塗布することにより、被覆層を形成した(表2)。
【0073】
化成処理は、反応性溶液としてリン酸亜鉛溶液を使用し、この反応性溶液に基材Bを室温で10分間浸漬して行い、基材Bの表面にリン酸塩被膜を形成した。塗料組成物は、ポリアミド系樹脂ワニス(溶媒:アセトン、ポリアミド樹脂:60部)に、固体潤滑剤として二硫化モリブデン粉末(平均一次粒径70〜110μm):20部、アンチモン酸化物粉末(平均一次粒径50〜80μm):13部、グラファイト粉末(平均一次粒径30〜80μm):5部、PTFE粉末(平均一次粒径80〜120μm):2部、を添加し攪拌して得た。この塗料組成物に、60℃に加熱された基材B(化成処理済み)を1分間浸漬した後、引き上げ、基材Bに塗料組成物を塗布した。塗料組成物が塗布された基材Bを、箱形熱処理炉(大気中)にて250℃で60分の条件で加熱処理(乾燥・焼成)した。この塗布と加熱処理とを6回繰り返し行って、10μmの被覆層をもつ試料2を得た。
【0074】
得られた試料2は、被覆層の表面が滑らかな黒色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで5.0μmRzであった。
【0075】
また、試料2の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察したところ、試料1と同様に、被覆層が基材Bから剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザ分析によれば、試料2の被覆層には、約9質量%のMo、約8質量%のS、約6質量%のSb、酸素および多量の炭素が検出された。被覆層を構成する主要元素は炭素であって、被覆層にMo、S、Sb、Oがほぼ均一に存在していると推測された。
【0076】
すなわち、試料2の被覆層は、二硫化モリブデン粉末、アンチモン酸化物粉末、グラファイト粉末およびPTFE粉末が均一に分散された状態でポリアミド樹脂に保持された所望の被覆層であった。
【0077】
[実施例3]
実施例3では、基材Cを用い、基材被覆工程として塗料組成物を3回塗布した他は、実施例1と同様にして、8μmの被覆層をもつ試料3を得た。
【0078】
得られた試料3は、被覆層の表面が滑らかな黒色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで5.8μmRzであった。
【0079】
また、試料3の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察した(図2)。基材Cには、被覆層が基材から剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザにより被覆層の表面を分析した結果を表3に示す。被覆層には、約15質量%のMo、約12質量%のS、約4質量%のSb、酸素および多量の炭素が検出された。被覆層を構成する主要元素は炭素であって、被覆層にMo、S、Sb、Oがほぼ均一に存在していると推測された。なお、試料3の被覆層および基材Cの表面に対してX線回折測定を行った。結果を図3に示す。得られた回折ピークは、二硫化モリブデンの回折ピーク(主な回折ピーク:2θ=44.24°および60.16°等)と一致した。
【0080】
また、被覆層を形成する前の基材Cは、ビッカース硬さがHv250程度であったが、被覆層を形成後の試料3では、Hv280程度であり、各表面処理工程において、基材の脆化を効果的に抑制することができた。
【0081】
すなわち、試料3の被覆層は、二硫化モリブデン粉末、アンチモン酸化物粉末、グラファイト粉末およびPTFE粉末が均一に分散された状態でポリアミド樹脂に保持された所望の被覆層であった。
【0082】
[実施例4]
実施例4では、基材Fに対して、活性化処理工程としてスパッタリング処理を行った後、基材被覆工程としてアークイオンプレーティング法により、被覆層を形成した(表2)。
【0083】
アークイオンプレーティング法に用いられる市販のPVD装置に基材Fを装入し、ヒーターにより基材Fを250℃に加熱した。その後、PVD装置のチャンバー内にアルゴンガスを導入し、スパッタリング処理を30秒間行った。次に、Tiターゲット(蒸発源)と窒素ガスを用い、TiイオンとNイオンとを反応させて、被覆層を形成した。45分間の成膜により、2μmの被覆層をもつ試料4が得られた。なお、基材の温度は、成膜終了まで250℃程度に保たれた。
【0084】
得られた試料4は、被覆層の表面が滑らかな黄色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで0.2μmRzで平滑であった。
【0085】
また、試料4の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察した(図4)。基材Fには、被覆層が基材から剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザにより被覆層を厚さ方向に分析した結果を表3に示す。被覆層には、約74質量%のTiと約20質量%のNが主として検出された。
【0086】
すなわち、試料4の被覆層は、TiNからなる所望の被覆層であった。
【0087】
[実施例5]
実施例5では、基材Dに対して、活性化処理工程としてスパッタリング処理を行った後、基材被覆工程としてアークイオンプレーティング法により、被覆層を形成した(表2)。
【0088】
アークイオンプレーティング法に用いられる市販のPVD装置に基材Fを装入し、ヒーターにより基材Dを300℃に加熱した。その後、PVD装置のチャンバー内にアルゴンガスを導入し、スパッタリング処理を30秒間行った。次に、Crターゲット(蒸発源)と窒素ガスを用い、CrイオンとNイオンとを反応させて、被覆層を形成した。60分間の成膜により、8μmの被覆層をもつ試料5が得られた。なお、基材の温度は、成膜終了まで300℃を超えないように保たれた。
【0089】
得られた試料5は、被覆層の表面が滑らかな銀色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで0.2μmRzで平滑であった。
【0090】
また、試料4の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察した(図5)。基材Dには、被覆層が基材から剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザにより被覆層を厚さ方向に分析した結果を表3に示す。被覆層には、約88質量%のCrと約3質量%のNが主として検出された。なお、試料5の被覆層および基材Dの表面に対してX線回折測定を行った。結果を図6に示す。得られた回折ピークは、CrNの回折ピーク(主な回折ピーク:2θ=58.32°および64.92°等)と一致し、非晶質構造を含むことがわかった。
【0091】
すなわち、試料5の被覆層は、CrNからなる所望の被覆層であった。
【0092】
[実施例6]
実施例6では、基材Eを用い、スパッタリング処理の基材の加熱温度を150℃、スパッタリング時間を2分間、成膜時間を2時間とした他は、基材被覆工程として塗料組成物を3回塗布した他は、実施例5と同様にして、9μmの被覆層をもつ試料6を得た。
【0093】
得られた試料6は、被覆層の表面が滑らかな銀色を呈し、健全な表面状態であることが目視により判断できた。被覆層の表面粗さを測定すると、十点平均粗さで0.2μmRzで平滑であった。
【0094】
また、試料4の厚さ方向の断面を、光学顕微鏡により観察した(図7)。基材Dには、被覆層が基材から剥離することなく形成されていることが確認された。さらに、X線マイクロアナライザにより被覆層を厚さ方向に分析した結果を表3に示す。被覆層には、約90質量%のCrと約3質量%のNが主として検出された。なお、試料5の被覆層および基材Dの表面に対してX線回折測定を行った。結果を図8に示す。得られた回折ピークは、CrNの回折ピーク(主な回折ピーク:2θ=58.32°および64.92°等)と一致し、非晶質構造を含むことがわかった。
【0095】
すなわち、試料6の被覆層は、CrNからなる所望の被覆層であった。
【0096】
【表3】
【0097】
[実施例7]
基材Aを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状とした。この基材Aに実施例1と同様の手順で被覆層(摺動層)を形成して、摺動部材A1(摺動層(摺動面)の表面粗さ:0.3μmRz)を得た。
【0098】
[実施例8]
基材Aを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状とした。この基材Aに実施例5と同様の手順で被覆層(摺動層)を形成して、摺動部材A5(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)を得た。
【0099】
[実施例9]
基材Cを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状とした。この基材Cに実施例4と同様の手順で被覆層(摺動層)を形成して、摺動部材C4(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)を得た。
【0100】
[実施例10]
基材Cを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状とした。この基材Cに実施例3と同様の手順で被覆層(摺動層)を形成して、摺動部材C3(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)を得た。
【0101】
[実施例11]
基材Cを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状とした。この基材Cに実施例6と同様の手順で被覆層(摺動層)を形成して、摺動部材C6(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)を得た。
【0102】
[比較例1、比較例2]
基材Aを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状としたものを、摺動部材A0(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)とした。基材Cを、3.0mm×10mm×30mmで中央部に穴部を有する形状としたものを、摺動部材C0(摺動面の表面粗さ:0.3μmRz)とした。すなわち、比較例1および2では、活性化処理工程および基材被覆工程を行わなかった。
【0103】
[評価]
摺動部材A0,A1,A5および摺動部材C0,C4,C3,C6について、リングオンディスク試験を行った。リングオンディスク試験に用いた装置の断面図を図13に示す。油槽32の底部に試料台33を載置し、試料31(摺動部材)を試料台33の凹面上に固定した。また、試料31の摺動相手材として、直径(外径)25.6mm、厚さ20mmのリング34(軸受け鋼(SUJ2):Hv270、0.3μmRz)を用い、試料31の摺動面(被覆層の表面)上に載置した。試料31とリング34との摺動面積は、200.5mm2 であった。そして、油槽32には、試料31とリング34との接触面が液面下に位置するように、潤滑油O(ベース油)を入れた。
【0104】
そして、軸Xを中心としてリング34を回転させて、試料31の摺動面とリング34とを摺動させた。この際、滑り速度を2.38m/sとし、荷重5.0kgfから100kgfまでを10kgf毎にステップアップさせて1時間(各荷重での保持時間は2分間)試験を行った。表4に、焼付きの発生の有無、および、100kgfでの摩擦係数を示す。
【0105】
【表4】
【0106】
摺動部材A1、A5および摺動部材C4、C3、C6は、100kgfの荷重であっても焼付きは生じることはなく、1時間の摺動が可能であった。また、摩擦係数も低く抑えられ、特に、スパッタリング処理を施した表面にCrN膜が成膜された摺動部材A5および摺動部材C6の摩擦係数は、非常に小さかった。試験後の摺動部材A5および摺動部材C6の摺動面の観察結果を図10および図12に示す。図10および図12からわかるように、被覆層の表面に摩耗は見られなかった。また、被覆層の剥離も確認されなかったため、基材と被覆層との密着性が高いと推測される。なお、摺動部材A1、C4、C3についても、同様の表面性状が観察された。
【0107】
一方、摺動部材A0および摺動部材C0では、試験開始から2〜3秒後(荷重:5.0kgf)に焼付きが生じた。摺動部材A0および摺動部材C0の摺動面の観察結果を図9および図11に示す。図9および図11からわかるように、被覆層の表面に摩耗(矢印で示す部分)が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】試料1の厚さ方向の断面を観察した顕微鏡写真である。
【図2】試料3の摺動部材の厚さ方向の断面を観察した顕微鏡写真である。
【図3】試料3および基材CのXRD回折測定結果を示す。
【図4】試料4の厚さ方向の断面を観察した顕微鏡写真である。
【図5】試料5の厚さ方向の断面を観察した顕微鏡写真である。
【図6】試料5および基材DのXRD回折測定結果を示す。
【図7】試料6の厚さ方向の断面を観察した顕微鏡写真である。
【図8】試料6および基材EのXRD回折測定結果を示す。
【図9】摺動部材A0の摺動面を観察した写真である。
【図10】摺動部材A5の摺動面を観察した写真である。
【図11】摺動部材C0の摺動面を観察した写真である。
【図12】摺動部材C6の摺動面を観察した写真である。
【図13】リングオンディスク試験に用いた装置を模式的に示す断面図である。
【図14】Ti−36Nb−2Ta−3Zrの組成をもつチタン合金からなる基材を250℃または300℃で熱処理した際の、熱処理時間と基材の硬度の関係を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはチタン合金からなる基材の表面を活性化する活性化処理工程と、活性化された前記基材の表面に被覆層を形成する基材被覆工程と、からなり、
前記基材の活性化および前記被覆層の形成を該基材の温度が300℃を超えない条件下で行うチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法。
【請求項2】
前記基材は、少なくともVa族元素を含む合金元素群と主な残部であるチタン(Ti)とからなるVa族元素含有チタン合金からなる請求項1記載の被覆方法。
【請求項3】
前記合金元素群は、ジルコニウム(Zr)とタンタル(Ta)とニオブ(Nb)とからなる請求項2記載の被覆方法。
【請求項4】
前記活性化処理工程は、前記基材の表層部を除去して該基材の表面を活性化する研磨処理またはドライエッチング処理を施す工程である請求項1記載の被覆方法。
【請求項5】
前記研磨処理は、電解研磨処理またはホーニング処理であり、
前記ドライエッチング処理は、スパッタリング処理またはイオンエッチング処理である、請求項4記載の被覆方法。
【請求項6】
前記活性化処理工程は、前記基材を酸性溶液またはアルカリ性溶液に浸漬して該基材の表面に化成被膜を形成する化成処理工程である請求項1記載の被覆方法。
【請求項7】
前記基材被覆工程は、少なくとも樹脂と該樹脂を溶解する溶媒とを含む塗料組成物を前記基材の表面に塗布した後300℃以下に加熱して乾燥および/または焼成して前記被覆層を形成する工程である請求項1記載の被覆方法。
【請求項8】
前記塗料組成物は、固体潤滑剤を含む請求項7記載の被覆方法。
【請求項9】
前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン粉末を少なくとも含む請求項8記載の摺動層を有する摺動部材。
【請求項10】
前記被覆層は、前記樹脂と、該樹脂に保持された前記固体潤滑剤と、からなり、少なくとも前記基材の摺動面側に形成され相手材と摺接する摺動層である請求項8または9記載の被覆方法。
【請求項11】
前記基材被覆工程は、化学蒸着法または物理蒸着法により前記被覆層を300℃以下で成膜する工程である請求項1記載の被覆方法。
【請求項12】
化学蒸着法または物理蒸着法により成膜される前記被覆層は、チタン(Ti)またはクロム(Cr)を含む窒化物層である請求項11記載の被覆方法。
【請求項13】
前記窒化物層は、少なくとも前記基材の摺動面側に形成され相手材と摺接する摺動層である請求項12記載の被覆方法。
【請求項1】
チタンまたはチタン合金からなる基材の表面を活性化する活性化処理工程と、活性化された前記基材の表面に被覆層を形成する基材被覆工程と、からなり、
前記基材の活性化および前記被覆層の形成を該基材の温度が300℃を超えない条件下で行うチタンまたはチタン合金からなる基材の被覆方法。
【請求項2】
前記基材は、少なくともVa族元素を含む合金元素群と主な残部であるチタン(Ti)とからなるVa族元素含有チタン合金からなる請求項1記載の被覆方法。
【請求項3】
前記合金元素群は、ジルコニウム(Zr)とタンタル(Ta)とニオブ(Nb)とからなる請求項2記載の被覆方法。
【請求項4】
前記活性化処理工程は、前記基材の表層部を除去して該基材の表面を活性化する研磨処理またはドライエッチング処理を施す工程である請求項1記載の被覆方法。
【請求項5】
前記研磨処理は、電解研磨処理またはホーニング処理であり、
前記ドライエッチング処理は、スパッタリング処理またはイオンエッチング処理である、請求項4記載の被覆方法。
【請求項6】
前記活性化処理工程は、前記基材を酸性溶液またはアルカリ性溶液に浸漬して該基材の表面に化成被膜を形成する化成処理工程である請求項1記載の被覆方法。
【請求項7】
前記基材被覆工程は、少なくとも樹脂と該樹脂を溶解する溶媒とを含む塗料組成物を前記基材の表面に塗布した後300℃以下に加熱して乾燥および/または焼成して前記被覆層を形成する工程である請求項1記載の被覆方法。
【請求項8】
前記塗料組成物は、固体潤滑剤を含む請求項7記載の被覆方法。
【請求項9】
前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン粉末を少なくとも含む請求項8記載の摺動層を有する摺動部材。
【請求項10】
前記被覆層は、前記樹脂と、該樹脂に保持された前記固体潤滑剤と、からなり、少なくとも前記基材の摺動面側に形成され相手材と摺接する摺動層である請求項8または9記載の被覆方法。
【請求項11】
前記基材被覆工程は、化学蒸着法または物理蒸着法により前記被覆層を300℃以下で成膜する工程である請求項1記載の被覆方法。
【請求項12】
化学蒸着法または物理蒸着法により成膜される前記被覆層は、チタン(Ti)またはクロム(Cr)を含む窒化物層である請求項11記載の被覆方法。
【請求項13】
前記窒化物層は、少なくとも前記基材の摺動面側に形成され相手材と摺接する摺動層である請求項12記載の被覆方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−100180(P2007−100180A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292802(P2005−292802)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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