説明

テルペノイド含有液体組成物用のプラスチック製容器

【課題】本発明の目的は、テルペノイド含有液体組成物を収容するために好適に使用されるプラスチック製容器であって、テルペノイドが容器の表面に吸着するのを抑制でき、テルペノイド含有液体組成物を安定に保った状態で保管を可能にする容器を提供することである。
【解決手段】テルペノイド含有液体組成物を収容するプラスチック製容器の表面の一部又は全体に、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素の重合膜をコーティングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルペノイドを含有する液体組成物を収容するためのプラスチック製容器に関する。より詳細には、容器の表面へのテルペノイドの吸着が抑制されており、テルペノイド含有液体組成物を安定に収容、保管することができるプラスチック製容器に関する。更に、本発明は、テルペノイド含有液体組成物入り容器に関する。
【背景技術】
【0002】
テルペノイドには、芳香、清涼化、風味改善等の作用だけでなく、殺菌、鎮痛、抗アレルギー、鎮痒、ガン細胞の増殖抑制、発ガン物質の解毒化促進、血圧低下等の薬理的効能も知られており、医薬品、香粧料、食品等の分野で広く使用されている。特に、メントールは、清涼化作用が強く、優れた薬理的効能をも備えていることから、今日ではテルペノイドの中でも最も汎用されている。しかしながら、本発明者等の検討結果から、メントールを初めとするテルペノイドには、高分子樹脂素材に吸着するという特有の特性があることが明らかにされている。そのため、テルペノイドを含む液体組成物をプラスチック製の容器に充填すると、テルペノイドが容器の内部表面に吸着することにより、液体組成物中のテルペノイドの割合が低減し、その液体組成物におけるテルペノイドの作用効果が減弱されてしまう。このような理由から、従来のプラスチック製容器では、テルペノイドを含む液体組成物の充填には適しておらず、テルペノイドを含む液体組成物の充填に適した容器の開発が必要とされている。
【0003】
一方、従来、プラスチック製容器に種々の特性を備えさせる技術として、当該容器の内面に所謂硬質炭素膜であるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を形成させる方法が知られている。例えば、特許文献1には、プラスチック製容器の内面にDLC膜を形成させることによって、香臭気バリア性、有機溶媒蒸気バリア性、及び酸素や水蒸気のバリア性等の特性を付与できることが報告されている。しかしながら、内面にDLC膜を形成させたプラスチック製容器では、容器自体が不透明になる、変色する、柔軟性が損なわれる等の欠点がある。従って、プラスチック製容器の内面にDLC膜を形成させる技術は、透明性やスクイズ性(内容物の押出)が必要とされる容器の製造に適用することができず、医薬品、香粧料、食品等の広範な分野で汎用できないのが現状であった。
【0004】
このような従来の技術水準を背景として、テルペノイドを含む液体組成物を収容するのに適したプラスチック製容器、特に当該プラスチック製容器で透明性やスクイズ性を備えているものの開発が望まれている。
【特許文献1】特開2001−240034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、テルペノイド含有液体組成物を収容するために好適に使用されるプラスチック製容器であって、テルペノイドが容器の表面に吸着するのを抑制でき、テルペノイド含有液体組成物を安定に保った状態で保管を可能にする容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、プラスチック製容器の表面の一部又は全体に、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素の重合膜をコーティングすることによって、テルペノイドの吸着の抑制が可能になることを見出した。また、上記重合膜は、透明性や柔軟性をも備え得るので、上記重合膜が形成された容器は、透明性やスクイズ性をも備え得ることも見出した。更に、上記課題を一層効果的に解決するには、上記重合膜の硬度(連続剛性測定法による測定値)が0.01〜5 Gpaの範囲を充足すること、或いはハロゲン原子で置換されている炭化水素ガスを用いてプラズマ重合により上記重合膜を形成することが望ましいことを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0007】
即ち、本発明は、以下の態様のテルペノイド含有液体組成物用のプラスチック製容器、及びテルペノイド含有液体組成物入り容器を提供する:
項1. テルペノイドを含有する液体組成物を収容するためのプラスチック製容器であって、該プラスチック製容器の表面の一部又は全体に、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素の重合膜が形成されていることを特徴とする、容器。
項2. 前記重合膜の硬度が連続剛性測定法による測定値として0.01〜5 Gpaである、項1に記載の容器。
項3. 前記重合膜が、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素ガスをモノマーとして、プラズマ重合により形成されたものである、項1又は2に記載の容器。
項4. ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素ガスが、フッ素原子で置換された炭化水素である、項3に記載の容器。
項5. 前記重合膜の膜厚が、0.02〜0.5μmである、項1乃至4のいずれかに記載の容器。
項6. 前記液体組成物が経皮又は経粘膜適用製剤である、項1乃至5のいずれかに記載の容器。
項7. 前記液体組成物が点眼液である、項1乃至6のいずれかに記載の容器。
項8. 項1乃至7のいずれかに記載の容器に、テルペノイドを含有する液体組成物が充填されてなる、テルペノイド含有液体組成物入り容器。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプラスチック製容器によれば、テルペノイドが容器の表面に吸着するのが抑制されているので、テルペノイド含有液体組成物を安定に保った状態で保管することが可能になる。
【0009】
また、本発明において採用される重合膜は透明性や柔軟性を有しているので、本発明のプラスチック製容器は、外部から内容物の視認が可能な透明容器、スクイズ性が必要とされる容器、チューブ状容器等に応用可能であり、その実用的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、容器の「スクイズ性」とは、内容物を押し出すために容器を外側から押圧力により変形させた後に、元の形状に復元する特性をしめす。また、容器の「透明性」とは、外側から内容物が視認可能な程度に透明であることを示し、半透明や有色透明の状態を含む。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のプラスチック製容器の表面は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素の重合膜で被覆されている。当該重合膜は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素をモノマー原料として重合させることにより形成されるものである。ここで、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素としては、重合することによって膜を形成できるものである限り特に制限されないが、例えば、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜4の炭化水素が挙げられる。このような炭化水素(モノマー原料)として、具体的には、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1,3-ブタジエン等の炭化水素;フルオロメタン、ジフルオロメタン、フルオロホルム、テトラフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタン、1,2−ジフルオロエタン、1−フルオロプロパン、2−フルオロプロパン、1,2−フルオロロプロパン、1,3−フルオロプロパン、1−フルオロブタン、2−フルオロブタン、フッ化ビニル、1,1−ジフルオロエチレン、1,2−ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、3−フルオロプロペン、1,3−フルオロプロペン、1,1,4,4−テトラフルオロブタジエン、ペルフルオロブタジエン等のフッ素原子で置換された炭化水素;クロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1,2−クロロロプロパン、1,3−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、塩化ビニル、1,1−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、3−クロロプロペン、1,3−クロロプロペン、1,1,4,4−テトラクロロブタジエン、ペルクロロブタジエン等の塩素原子で置換された炭化水素;ブロモメタン、ジブロモメタン、ブロモホルム、テトラブロモメタン、1,1−ジブロモエタン、1,2−ジブロモエタン、1−ブロモプロパン、2−ブロモプロパン、1,2−ブロモロプロパン、1,3−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、2−ブロモブタン、臭化ビニル、1,1−ジブロモエチレン、1,2−ジブロモエチレン、トリブロモエチレン、テトラブロモエチレン、3−ブロモプロペン、1,3−ブロモプロペン、1,1,4,4−テトラブロモブタジエン、ペルブロモブタジエン等の臭素原子で置換された炭化水素;ヨードメタン、ジヨードメタン、ヨードホルム、テトラヨードメタン、1,1−ジヨードエタン、1,2−ジヨードエタン、1−ヨードプロパン、2−ヨードプロパン、1,2−ヨードロプロパン、1,3−ヨードプロパン、1−ヨードブタン、2−ヨードブタン、ヨウ化ビニル、1,1−ジヨードエチレン、1,2−ジヨードエチレン、トリヨードエチレン、テトラヨードエチレン、3−ヨードプロペン、1,3−ヨードプロペン、1,1,4,4−テトラヨードブタジエン、ペルヨードブタジエン等のヨウ素原子で置換された炭化水素等が例示される。これらの中で、好ましくは、炭化水素、又はフッ素原子で置換された炭化水素であり;更に好ましくはフッ素原子で置換された炭化水素であり;特に好ましくはフルオロメタン、ジフルオロメタン、フルオロホルム、又はテトラフルオロメタンである。特に、フッ素原子で置換された炭化水素を使用して形成された重合膜によれば、テルペノイドの吸着を一層効果的に抑制することが可能になる。
【0013】
本発明において、容器表面に形成される重合膜は、上記の炭化水素の中から1つの化合物を選択して重合させて得られるものであってもよく、上記の炭化水素の中から2以上の化合物を組み合わせて重合させることにより得られるものであってもよい。
【0014】
また、本発明において、上記重合膜は、連続剛性測定法による硬度が0.01〜5 Gpaの範囲を充足していることが望ましい。当該硬度として、好ましくは0.1〜1 Gpaが挙げられる。このような硬度を充足することにより、重合膜自体に、テルペノイドに対する吸着抑制効果と柔軟性を併せ持たせることが可能になる。一般に、DLCの膜は、連続剛性測定法による硬度の測定値が15 Gpa以上であるので、本発明における重合膜とDLCの膜とでは、その構成素材(分子構造)のみならず、硬度の点でも大きく相違しているといえる。
【0015】
ここで、連続剛性測定法による硬度の測定方法は公知であるが、具体的には、以下の方法に従って測定される:
(1)測定対象の容器の重合膜形成部分を切り出して、5×5mmの小片を得、これを試料とする。なお、測定対象の容器の場合と同条件で重合膜を表面に形成させたシリコンウェハには、測定対象の容器と同様の膜厚及び硬度の重合膜が形成されているので、その小片を試料としてもよい。
(2) 次いで、上記試料の重合膜の反対側をアルミ製の試料台に接着剤を使用して固定する。
(3) Nano Indenter XP(MTS Nano Instruments社製)を用いて、下記条件で測定する:
圧子:曲率半径50〜100nmのダイヤモンドチップからなるバーコビッチ型の圧子を用いる。
圧子荷重:2gfに設定する。
押し込み深さの設定値:500nmに設定する。
測定点の深さ:押し込み深さが20〜40nmのポイントについての硬度を測定する。
重合膜表面の位置決定:圧子を5nm/秒の速度で重合膜に降下させ、スチフネス(剛性パラメータ)が125N/mとなるところを重合膜表面とする。
(4)上記条件で、10以上の測定点で硬度(Gpa)を測定する。なお、測定点は、100μm以上の間隔を空けるものとする。斯くして測定された硬度の平均値を、重合膜の硬度(Gpa)とする。
【0016】
また、本発明において、上記の重合膜の膜厚については、特に制限されないが、例えば0.02〜0.5μm、好ましくは0.04〜0.4μm、更に好ましくは0.06〜0.3μmが例示される。膜厚については、例えば、株式会社溝尻光学工業社製のエリプソメータ(DVA−36L3)を用いて測定することができる。
【0017】
上記重合膜を容器の表面に形成させる方法としては、特に制限されるものではなく、重合膜を形成させる公知の方法が使用できる。上記重合膜の形成方法として、好ましくは、前述する炭化水素をモノマーガスとして使用して容器表面でプラズマ重合させる方法が挙げられる。プラズマ重合によって上記重合膜を形成させることにより、テルペノイドの吸着抑制効果や柔軟性が一層優れた重合膜の成膜が可能になると共に、低温で成膜が可能になる、ピンホールのない緻密な薄膜が形成できる、重合膜と容器の密着性が良好になる、等の利点が得られる。
【0018】
プラズマ重合により上記重合膜を容器表面に形成させる条件は、重合膜の膜厚や膜組成、使用するモノマーガスの種類、重合膜を形成させる容器の種類等に応じて適宜設定できる。より具体的には、対象となる容器又はその部材をプラズマ重合装置の反応管内に入れて下記の条件でプラズマ重合を行う方法が例示される:
印加電力:10〜100W、好ましくは15〜60W、更に好ましくは25〜35W
周波数:5〜27MHz、好ましくは10〜20MHz、更に好ましくは13〜14MHz
反応管内圧力:1〜20Pa、好ましくは2〜15Pa、更に好ましくは3〜8Pa
供給ガス:前記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素」のガスとアルゴンガスが容量比で1:0〜1、好ましくは1:0.3〜0.9、更に好ましくは好ましくは1:0.6〜0.8比率で含まれる混合ガス
供給ガス流量:1〜20ml/min、好ましくは1.5〜10ml/min、更に好ましくは2〜5ml/min
成膜時間:10〜400分、好ましくは20〜300分、更に好ましくは40〜220分
反応管内温度:15〜60℃、好ましくは20〜40℃、更に好ましくは25〜30℃。
【0019】
本発明では、プラスチック製容器の表面の少なくとも一部分が上記重合膜で被覆されていればよいが、内部表面の全面又はテルペノイドが吸着しやすい表面部分に対して上記重合膜で被覆されていることが好ましい。例えば、点眼剤容器、洗眼剤容器、点鼻剤容器等では、容器のノズル部分にテルペノイドが吸着して蓄積する傾向があるため、これらの容器の場合には、ノズル部分に対してのみ上記重合膜を被覆させていてもよい。また、プラスチック製容器の内部表面の一部分には、例えば、容器の中栓やキャップ等も含まれる。
【0020】
本発明において、プラスチック製容器を構成する樹脂については、特に制限されないが、例えば、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、硬質塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、セルロースアセテート類などが例示できる。
【0021】
上記オレフィン樹脂としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0022】
上記ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸成分(フタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸成分など)とジオール成分とで構成された樹脂が使用できる。具体的には、芳香族ポリエステル樹脂、例えば、ポリアルキレンテレフタレート[ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリC2-4アルキレンテレフタレートなど];ポリアルキレンナフタレート[ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレートなどのポリC2-4アルキレンナフタレートなど];ポリシクロアルキレンテレフタレート[ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)(PCT)など];ポリアリレート類[ビスフェノール類(ビスフェノール−Aなど)とフタル酸類(フタル酸、テレフタル酸)とで構成された樹脂など]などのホモポリエステルが挙げられる。また、ポリエステル樹脂には、前記ホモポリエステル単位を主成分(例えば、50重量%以上)として含むコポリエステル、前記ホモポリエステルの共重合体(PETとPCTとの共重合体など)なども含まれる。
【0023】
上記ポリカーボネート樹脂は、具体的には、ビスフェノール類(ビスフェノール−Aなど)をベースとする芳香族ポリカーボネートが例示される。
【0024】
上記スチレン樹脂としては、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)等が例示される。
【0025】
また、本発明のプラスチック製容器を構成する樹脂は、熱可塑性エラストマーであってもよい。熱可塑性エラストマーの例としては、オレフィン系エラストマー(TPO)、塩化ビニル系エラストマー(TPVC)、スチレン系エラストマー(SBC)、ウレタン系エラストマー(TPU)、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、ポリアミド系エラストマー(TPAE)、フッ素系エラストマー、シンジオタクチック1・2PB系エラストマー、塩素系エチレンコポリマー架橋ポリマーアロイ、塩素化ポリエチレン(CPE)、エステル・ハロゲン系ポリマーアロイ型エラストマー、シリコン系エラストマー、酢酸ビニル系エラストマー等が挙げられる。
【0026】
本発明において、容器を構成する樹脂については、容器に必要とさせるスクイズ性や透明性等の所望の特性を充足できるように、1種又は2種以上の樹脂を適宜選択して使用すればよい。
【0027】
上記樹脂の内、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂については、テルペノイドが特に吸着し易い樹脂であることが分かっており、本発明によれば、これらの樹脂に特有の欠点も上記重合膜の被覆により解消することができる。また、テルペノイドは、一般に、熱可塑性エラストマーに対しても吸着する傾向を示すので、本発明によれば、熱可塑性エラストマーから構成される容器の欠点をも克服することが可能になる。
【0028】
また、上記樹脂の内、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂については、スクイズ性や透明性の点で優れており、本発明において好適に使用できる。
【0029】
本発明のプラスチック製容器の形態は、テルペノイド含有液体組成物を収容できることを限度として特に制限させず、収容する液体組成物の形態や用途等に応じて適宜選択、設定できる。本発明のプラスチック製容器の形態の一例として、チューブ状容器、広口容器、細口容器(滴下型容器を含む)、噴霧器付き容器、ディスペンサー付き容器、パウチ型包装容器等が挙げられる。容量は目的に応じて適宜選択できる。これらの容器は一体成型されたものでも良いし、部品(本体、キャップ、ノズル、パッキン)等に分かれていても良い。
【0030】
上記重合膜は、柔軟性があり、容器の外形変化にも追従可能であるので、本発明のプラスチック製容器は、スクイズ性が求められる容器(例えば、点眼剤容器、洗眼剤容器、点鼻剤容器等)や柔軟性が求められる容器(例えば、チューブ状容器等)に対して好適である。
【0031】
本発明のプラスチック製容器は、テルペノイド含有液体組成物を収容するために使用される。
【0032】
上記液体組成物に配合されるテルペノイドとしては、具体的には、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、アネトール、リモネン、オイゲノール、ピネン、フェランドレイン、リナロール、シトロネロール、メントン、カルボン等を挙げることができる。これらはd体、l体又はdl体の別を問うものではない。これらの中で、メントールは食品や医薬品の分野で広く使用されている成分であり、特にプラスチック製容器への吸着能が強いことが分かっている。本発明のプラスチック製容器は、メントールの吸着を効果的に抑制できるという利点があり、メントールを含む液体組成物を収容するのに有用である。
【0033】
また、上記テルペノイドとして、上記テルペノイドを含有する精油を使用することもできる。前記テルペノイドを含有する精油としては、例えば、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ユーカリ油、ベルガモット油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油等の精油を例示することができる。
【0034】
また、上記液体組成物におけるテルペノイドの濃度については、テルペノイドの種類、該液体組成物の形態や用途等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、一例として、該液体組成物の総量に対して、テルペノイドが0.00001〜5重量%、好ましくは0.0001〜0.5重量%、更に好ましくは0.001〜0.05重量%となる濃度が例示される。
【0035】
また、一般に、プラスチック製容器に収容する液体組成物において、テルペノイドの濃度が0.0001〜0.05重量%程度と低い場合には、容器表面へのテルペノイドの吸着量が少量であっても、液体組成物におけるテルペノイド濃度の変動は大きくなる。そのため、テルペノイド濃度が低い液体組成物の場合には、容器内部表面へのテルペノイドの付着の抑制が特に強く求められる。本発明のプラスチック製容器は、テルペノイド濃度が低い液体組成物に対しても、容器表面へのテルペノイドの付着を効果的に抑制して、所定のテルペノイド濃度を安定に保持できるという利点があり、テルペノイド濃度が低い液体組成物を収容するための容器として好適である。
【0036】
また、本発明のプラスチック製容器に収容される液体組成物の形態については、特に制限させず、医薬品、香粧品、食品等の分野で使用可能なものであればよい。当該液体組成物の具体例としては、点眼液、人工涙液、洗眼液、点鼻液、鼻洗浄液、口腔咽頭薬、含嗽薬、点耳薬、注入軟膏、吸入剤、坐剤、注腸剤等の経皮又は経粘膜適用製剤;注射剤、輸液剤等の、血液等体液又は体内組織適用製剤;コンタクトレンズ(以下、「CL」と表記する)消毒液、CL用保存液、CL用洗浄液、CL用洗浄保存液等のCL用液剤;化粧水、乳液、ローション等の香粧品;トニック、ヘアローション、シャンプー、リンス等のヘアケア製品;ボディソープ等の石鹸類;飲料等の食品;パウチ型包装容器に収容されたような詰め替え用製品(例えば、鼻洗浄液、香化品、ヘアケア製品、石鹸類)が例示される。これらの中でも、経皮又は経粘膜適用製剤は、所望の薬理乃至生理作用を発揮させ、安全性を確保する等の観点から、配合成分の組成を使用時まで安定に保持することが殊に高度に要求される。従って、本発明のプラスチック製容器は、特に、経皮又は経粘膜適用製剤を収容するための容器として有用である。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例、試験例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例において使用したプラズマ重合装置は以下の通りである。
<プラズマ重合装置>
プラズマ重合膜の重合方式として、高周波(RF)電源/外部電極方式によるプラズマ重合装置を使用した。当該プラズマ重合装置の構成を以下に示す。
高周波(RF)電源:製造元 アドバンスドエナジー社;型番 RFX−600
マッチング調整器:製造元 アドバンスドエナジー社;型番 ATX−600
反応管:石英管(内径:φ56mm、外経:φ60mm、長さ:1.6m、製造元 株式会社金門コルツ)
上部電極:銅製(外径:φ76mm、内径:φ70mm、厚み:3mm、長さ:18mm、製造元 神港精機株式会社);反応管を囲むように反応管外に配置
下部電極:銅製(外径:φ76mm、内径:φ70mm、厚み:3mm、長さ:18mm、製造元 神港精機株式会社);反応管を囲むように反応管外に配置
電極移動機構:上部電極と下部電極の間隔を40mmに保った状態で、上部電極と下部電極が、0.15m/分の速度で反応管に沿ってを往復移動。
圧力コントロール:製造元 MKS社;型番 600シリーズ圧力コントローラ
排気:油回転ポンプSVC−300(製造元 株式会社神港精機)及びメカニカルブースターポンプSMB−100P(製造元 株式会社神港精機)
ガス供給:製造元 堀場エステック社;型番 SEC−E40
【0038】
実施例1
(1)プラズマ重合膜の形成
プラズマ重合装置を用いて、表1に示す条件1-1〜1-3で、シリコンウェハ小片(5×5mm、厚さ0.725mm)及びポリエチレン(LDPE:低密度ポリエチレン)製点眼液容器用ノズル(1個当たり0.275g)の表面にプラズマ重合膜を形成させた。
【0039】
形成されたプラズマ重合膜の膜厚、硬度を以下の方法に従って測定した。
<膜厚の測定>
プラズマ重合膜が形成されたシリコンウェハ小片を用いて、エリプソメータ(DVA-36L3)(株式会社溝尻光学工業社製)を用いて測定した。
【0040】
<硬度の測定>
プラズマ重合膜が形成されたシリコンウェハを熱溶融性接着剤(商品名「クリスタルボンド509」;アレムコ社製)により、アルミ製の試料台固定させた。次いで、Nano Indenter XP(MTS Nano Instruments社製)を用いて、下記条件で硬度(Gpa)を測定した。なお、1つのサンプルに対して、15個の測定点(それぞれの測定点で100μm以上の間隔を空けた)で硬度の測定を実施し、その平均値を求めることにより、プラズマ重合膜の硬度(Gpa)とした。
圧子:曲率半径50〜100nmのダイヤモンドチップからなるバーコビッチ型の圧子
圧子荷重:2gf
押し込み深さの設定値:500nm
測定点の深さ:押し込み深さが20〜40nmのポイントについての硬度を測定した。
重合膜表面の位置決定:圧子を5nm/秒の速度で重合膜に降下させ、スチフネス(剛性パラメータ)が125N/mとなるところを重合膜表面とする。
測定温度:23℃
【0041】
得られた結果を表1に併せて示す。
【0042】
【表1】

【0043】
(2)プラズマ重合膜のメントールの吸着抑制効果の評価
また、表面にプラズマ重合膜を形成させたポリエチレン製点眼液容器用ノズルについては、以下の方法に従って、メントールの吸着抑制効果を評価した。
<メントールの吸着抑制効果の評価方法>
ステンレス製の網状の棚板を中板として設置したガラス製デシケーター(外径約30cmの;相互理化学硝子製作所製)の底部に、l-メントール約30gを入れた直径約9cmのガラスシャーレ(蓋なし)を静置した。次いで、プラズマ重合膜を形成させたポリエチレン製点眼液容器用ノズル(以下、「試料」と表記する)3個(n=3)を入れたガラスシャーレ(直径約4cm;蓋なし)を、デシケーター内の中板の上に静置した。このデシケーターを25℃の恒温室で保管し、所定期間経過後、ザルトリウス社製電子天秤型式CP225Dを用いて各試料の重量を測定した。デシケーター内での保管後の試料の重量から保管前の試料の重量を差し引いた値を試料に対するl-メントールの吸着量とした。また、コントロールとして、プラズマ重合膜を形成させていないポリエチレン製点眼液容器用ノズルを用いて、同様に試験を実施した。コントロールのl-メントール吸着量に対する各試料のl-メントール吸着量の割合を算出し、l-メントールの吸着率(%)とした。
【0044】
得られた結果を表2に示す。この結果から、プラズマ重合膜で被覆していない点眼液容器用ノズル(コントロール)では、l-メントールの吸着が認められた。これに対して、プラズマ重合膜で被覆した点眼液容器用ノズルは、l-メントールの吸着が顕著に抑制されていることが確認された。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例2
プラズマ重合装置を用いて、表3に示す条件2-1〜2-4で、、ポリプロピレン製シート(販売元:アラム;厚さ1mm;約3cm×4cmに加工したもの)の表面にプラズマ重合膜を形成させた。得られたプラズマ重合膜被覆ポリプロピレン製シートについて、実施例1と同様の方法で、l-メントールの吸着抑制効果を評価した。
【0047】
得られた結果を表3に示す。この結果からも、プラズマ重合膜を形成することにより、l-メントールの吸着を抑制できることが確認された。また、プラズマ重合膜の膜厚が100nm以上であれば、l-メントールに対する吸着抑制作用が一層効果的に発現することも明らかとなった。
【0048】
【表3】

【0049】
実施例3
プラズマ重合装置を用いて、表4に示す条件3-1〜3-2で、ポリエチレン(LDPE:低密度ポリエチレン)製点眼液容器用ノズル(1個当たり0.275g)及びポリエチレン(LLDPE:直鎖状低密度ポリエチレン)製CL用洗浄剤容器用部品(1個当たり2.1g)の表面にプラズマ重合膜を形成させた。得られたプラズマ重合膜被覆点眼液容器用ノズル及びプラズマ重合膜被覆CL用洗浄剤容器用部品について、実施例1と同様の方法で、l-メントールの吸着抑制効果を評価した。
【0050】
得られた結果を表4に示す。この結果から、プラズマ重合のモノマー炭素としてフルオロホルムを用いて形成されたプラズマ重合膜によれば、l-メントールに対する吸着抑制効果が増強されて奏されることが分かった。
【0051】
【表4】

【0052】
実施例4
プラズマ重合装置を用いて、表5に示す条件4-1又は4-2で、ポリエチレン(LDPE:低密度ポリエチレン)製点眼液容器用ノズル(1個当たり0.275g)又はポリプロピレン製シート(3×4cm;1シート当たり約1g)の表面にプラズマ重合膜を形成させた。得られたプラズマ重合膜被覆ポリプロピレン製シート及びプラズマ重合膜被覆ポリエチレン製点眼液容器用ノズルについて、カンフル又はボルネオールの吸着抑制効果を評価した。なお、カンフル又はボルネオールの吸着抑制効果の評価は、l-メントールの代わりに、d-カンフル又はd-ボルネオールを使用すること以外は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0053】
得られた結果を表5に示す。この結果から、プラズマ重合膜で被覆することによって、d-カンフル及びd-ボルネオールの吸着を抑制できることが確認された。従って、実施例1−4の結果から、プラズマ重合膜で容器表面を被覆することにより、テルペノイドの吸着を抑制できることが明らかとなった。
【0054】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルペノイドを含有する液体組成物を収容するためのプラスチック製容器であって、該プラスチック製容器の表面の一部又は全体に、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素の重合膜が形成されていることを特徴とする、容器。
【請求項2】
前記重合膜の硬度が連続剛性測定法による測定値として0.01〜5 Gpaである、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
前記重合膜が、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素ガスをモノマーとして、プラズマ重合により形成されたものである、請求項1又は2に記載の容器。
【請求項4】
ハロゲン原子で置換されていてもよい炭化水素ガスが、フッ素原子で置換された炭化水素である、請求項3に記載の容器。
【請求項5】
前記重合膜の膜厚が、0.02〜0.5μmである、請求項1乃至4のいずれかに記載の容器。
【請求項6】
前記液体組成物が経皮又は経粘膜適用製剤である、請求項1乃至5のいずれかに記載の容器。
【請求項7】
前記液体組成物が点眼液である、請求項1乃至6のいずれかに記載の容器。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の容器に、テルペノイドを含有する液体組成物が充填されてなる、テルペノイド含有液体組成物入り容器。

【公開番号】特開2007−276852(P2007−276852A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107939(P2006−107939)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【出願人】(000192567)神港精機株式会社 (54)
【Fターム(参考)】