説明

ディスクブレーキ用制振装置

【課題】外乱が発生したとしても、最適に振動を抑制でき、ブレーキ鳴きを抑制できるディスクブレーキ用制振装置を提供する。
【解決手段】電圧印加によって剛性が変動する剛性変化部材7を用い、剛性変化部材7の剛性変動によってピストン5とブレーキパッド6との間の剛性やキャリパ4の爪部4bとブレーキパッド6との間の剛性を変化させる。そして、剛性変化部材7に電圧を印加した状態で振動を検知し、その振動に基づいて、剛性変化部材7に印加される電圧を変化させる。これにより、外乱が発生して鳴き発生領域が変化したとしても、常にブレーキ鳴きによる振動を検出して剛性変化部材7に印加する電圧を最適電圧に調整しているため、外乱が発生しても最適に振動を抑制でき、ブレーキ鳴きを抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキの振動を抑制し、ブレーキ鳴きを抑制するディスクブレーキ用制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、ディスクロータの振動を抑制してブレーキ鳴きを抑制するディスクブレーキが開示されている。このディスクブレーキは、ピストンとブレーキパッドとの間に圧電フィルムなどで構成されたセルフセンシングアクチュエーション部材を備え、振動に基づいてセルフセンシングアクチュエーション部材の剛性が自動的に変化することで、ディスクロータの振動を抑制している。
【0003】
具体的には、圧電フィルムを挟持したシムの剛性値に対するディスクロータおよびキャリパの鳴き周波数特性が図7のように表され、ディスクロータ特性とキャリパ特性が交差する箇所(図中斜線領域)においてブレーキ鳴きが発生する(以下、この領域を鳴き発生領域という)。逆に、この鳴き発生領域から外れるとブレーキ鳴きを抑制できる。このため、振動が発生すると剛性が自動的に変化する圧電フィルムを備えておき、鳴き発生領域に位置しているときに発生する振動を利用して圧電フィルムの剛性を変化させることで、ディスクブレーキの状態が鳴き発生領域から外れるようにし、ブレーキ鳴きを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−224988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧電フィルムなどで構成されるセルフセンシングアクチュエーション部材の剛性の変化幅はある程度決まっているし、その変化幅が振動の大きさによって決まるため、鳴き発生領域から確実に外れる適正な変化幅になるとは限らない。また、外乱が発生すると、圧電フィルムを挟持したシムの剛性値に対するディスクロータおよびキャリパの鳴き周波数特性が変化し、例えば図8のようになる。このため、セルフセンシングアクチュエーション部材の剛性が変化することでディスクブレーキの状態が鳴き発生領域から外れたはずなのに、他の鳴き発生領域に入り、結局ブレーキ鳴きが発生することになるという可能性もある。つまり、振動の大きさに対するセルフセンシングアクチュエーション部材の剛性の変化量として、鳴き発生領域から外れる最適値に設定した設計を行っているため、その最適値通りの振動が発生したのであればブレーキ鳴き抑制効果を見込めるが、外乱により鳴き発生領域がずれると、最適値もずれるため、ブレーキ鳴き抑制効果が見込めなくなる。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、外乱が発生したとしても、最適に振動を抑制でき、ブレーキ鳴きを抑制できるディスクブレーキ用制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、制御手段(10)により、振動検知手段(9、115、120、130、135、160、165、175、180、185、195、200、210、215)による振動の検知に応じて、電圧印加手段(125、150、170、190、205)による剛性変化部材(7)への電圧印加を行い、押圧手段(5)とブレーキパッド(6)との間の剛性を変化させることを特徴としている。
【0008】
このように、電圧印加によって剛性が変動する剛性変化部材を用い、剛性変化部材の剛性変動によって押圧手段とブレーキパッドとの間の剛性を変化させている。そして、剛性変化部材に電圧を印加した状態で振動を検知し、振動が検知されれば、剛性変化部材に印加される電圧を変化させることで、ブレーキ鳴き抑制の最適電圧を得るようにしている。
【0009】
このようにすれば、セルフセンシングアクチュエーション部材のように剛性の変化幅がある程度決まっているものと比較して、剛性変化部材の剛性の変化幅は大きく、それを印加電圧に応じて調整できるため、確実にブレーキ鳴き抑制を行うことができる。また、外乱が発生して鳴き発生領域が変化したとしても、常にブレーキ鳴きによる振動を検出して剛性変化部材に印加する電圧を最適電圧に調整している。このため、外乱が発生しても最適に振動を抑制でき、ブレーキ鳴きを抑制することが可能となる。
【0010】
例えば、請求項2に記載したように、剛性変化部材としては、電気粘性流体、磁気粘性流体、磁性流体の少なくとも1つで構成された機能性材料(7c)を含んだものを採用することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、電圧印加手段は、剛性変化部材に対する印加電圧を増加させていく電圧増加手段を含み、制御手段は、制動中に振動検知手段により振動が検知されると、該振動が検知されなくなるまで電圧増加手段にて剛性変化部材に対する印加電圧を増加させることを特徴としている。
【0012】
このように、剛性変化部材への印加電圧を増加させていくことにより、ブレーキ鳴き抑制の最適電圧を得ることができる。
【0013】
この場合、請求項4に記載したように、制御手段に、ドライバによるブレーキ操作量を検出する操作量検出手段(105)と、振動検知手段にて振動が検知されなくなったときの剛性変化材料に対する印加電圧を操作量検出手段で検出されたブレーキ操作量と対応付けて記憶する記憶手段(140)とを備え、制御手段にて、制動中に、記憶手段にて記憶されたブレーキ操作量に対する印加電圧から、操作量検出手段で検出されたブレーキ操作量と対応する印加電圧を選択し、最適電圧として剛性変化部材に印加することができる。
【0014】
このように、記憶手段にて、ブレーキ鳴き抑制ができたときのブレーキ操作量に対する印加電圧を記憶しておき、検出したブレーキ操作量について、ブレーキ操作量に対する印加電圧が既に記憶されていれば、その印加電圧に基づいて最適電圧を剛性変化部材に対して印加する。これにより、ブレーキ鳴き発生前からブレーキ鳴き抑制できる最適電圧を剛性変化部材に印加できる。したがって、より早くブレーキ鳴き抑制を行うことが可能となる。
【0015】
請求項5に記載の発明では、振動検知手段にて振動の大きさを検出し、電圧印加手段は、剛性変化部材に対する印加電圧を減少させていく電圧減少手段を含み、制御手段にて、最適電圧を剛性変化部材に印加したのち、振動検知手段にて振動の大きさ(F1)を検出すると共に電圧増加手段にて印加電圧を増加させ、さらに振動検知手段にて振動の大きさ(F2)を検出し、印加電圧の増加前の振動の大きさが増加後の振動の大きさよりも大きければ電圧増加手段にて印加電圧の増加を続け、印加電圧の増加前の振動の大きさが増加後の振動の大きさよりも小さければ電圧減少手段にて印加電圧を減少させることを特徴としている。
【0016】
このように、記憶手段に記憶した最適電圧を用いる場合、外乱によって、記憶されているブレーキ操作量に対する印加電圧が最適電圧にならないこともある。この場合、印加電圧の増加前の振動の大きさが増加後の振動の大きさよりも大きければ電圧増加手段にて印加電圧の増加を続け、印加電圧の増加前の振動の大きさが増加後の振動の大きさよりも小さければ電圧減少手段にて印加電圧を減少させれば、より早くブレーキ鳴き抑制を行うことができる。
【0017】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるディスクブレーキ用制振装置を備えたディスクブレーキシステムの概略構成を示した部分断面図である。
【図2】電気粘性流体の電界強度[kV/mm]に対する剪断応力[Pa]の変化を示したグラフである。
【図3】磁気粘性流体の磁界強度[kA/m]に対する降伏応力[kPa]の変化を示したグラフである。
【図4】ECU10で実行される鳴き抑制制御のフローチャートである。
【図5】ピストン5とブレーキパッド6との間の剛性値に対する鳴き易さについて、液圧を変化させて調べた結果を示したグラフである。
【図6】本発明の第2実施形態にかかるディスクブレーキ用制振装置を備えたディスクブレーキシステムの概略構成を示した部分断面図である。
【図7】圧電フィルムを挟持したシムの剛性値に対するディスクロータおよびキャリパの鳴き周波数特性を示したグラフである。
【図8】外乱が生じたときの圧電フィルムを挟持したシムの剛性値に対するディスクロータおよびキャリパの鳴き周波数特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかるディスクブレーキ用制振装置を備えたディスクブレーキシステムの概略構成を示した部分断面図である。以下、この図を参照して、本実施形態にかかるディスクブレーキ用制振装置について説明する。
【0021】
図1に示すディスクブレーキシステムは、ドライバがブレーキペダル1を踏み込むと、その踏力が図示しない倍力装置にて増大させられることでマスタシリンダ(以下、M/Cという)2内にM/C圧を発生させ、この圧力がディスクブレーキ3に伝えられることで制動力を発生させる。
【0022】
ディスクブレーキ3は、キャリパ4、ピストン5、ブレーキパッド6および剛性変化部材7を備えており、ブレーキパッド6にて車輪(図示せず)と共に回転させられるディスクロータ8を挟み込むことにより、制動力を発生させる。
【0023】
キャリパ4は、ピストン5が配置されるピストン収容部4aとピストン収容部4aから伸ばされた爪部4bとを有し、爪部4bにて構成される空間にブレーキパッド6や剛性変化部材7およびディスクロータ8の外縁部の一部を配置する。
【0024】
ピストン5は、ホイールシリンダ(以下、W/Cという)を構成するものであり、キャリパ4内のピストン収容部4aに配置され、ディスクロータ8の方向もしくはその反対方向に摺動させられる。具体的には、キャリパ4内のピストン収容部4aに対してM/C2内に発生したM/C圧が導入されることでW/C圧が発生させられ、このW/C圧の大きさに応じてピストン5が押圧されて移動させられる。このピストン5がブレーキパッド6をディスクロータ8へ押圧する押圧手段に相当する。
【0025】
ブレーキパッド6は、ディスクロータ8の外縁部においてディスクロータ8の端面に押し当てられる摩擦材料であり、ピストン5の先端に取り付けられてピストン5の移動に伴って移動させられるもの(第1ブレーキパッド)と、キャリパ4の爪部4bに取り付けられたもの(第2ブレーキパッド)がある。各ブレーキパッド6は、パッド部6aをパッド裏金6bに対して貼り付けた構造とされ、パッド部6aがディスクロータ8の端面から所定距離離間した状態で配置されている。
【0026】
剛性変化部材7は、ピストン5とピストン5の先端に配置されたブレーキパッド6のパッド裏金6bとの間、および、キャリパ4の爪部4bとブレーキパッド6との間にそれぞれにシムとして組み付けられ、ブレーキパッド6とピストン5との間の剛性を変化させる。本実施形態では、剛性変化部材7は、金属板7a、7bの間に機能性材料7cを配置した構成とされている。機能性材料7cは、電圧印加によって剛性を変化させる材料であり、例えば電気粘性(ER:Electrorheological)流体や磁気粘性(MR:Magnetorheological)流体、磁気粘性流体よりも粘度が低い磁性流体等で構成される。
【0027】
図2、図3は、それぞれ電気粘性流体や磁気粘性流体の特性を表したグラフである。図2は、電気粘性流体の電界強度[kV/mm]に対する剪断応力[Pa]の変化を示している。図3は、磁気粘性流体の磁界強度[kA/m]に対する降伏応力[kPa]の変化を示している。
【0028】
図2に示されるように、電気粘性流体は電界強度によって変化し、電界強度が大きくなるほど電気粘性流体の剪断応力が大きくなる。剪断応力は剛性を表すパラメータとなるため、電界強度を大きくするほど電気粘性流体の剛性を強くできることが判る。また、図3に示されるように、磁性粘性流体は磁界強度によって変化し、磁界強度が大きくなるほど磁性粘性流体の降伏応力が大きくなる。降伏応力も剛性を表すパラメータとなるため、磁界強度を大きくするほど磁性粘性流体の剛性を強くできることが判る。したがって、金属板7a、7bを通じて機能性材料7cに印加する電圧を変化させ、電界強度もしくは磁界強度を変化させることにより、機能性材料7cの剛性を調整することができる。
【0029】
なお、機能性材料7cは何らかの形で形状を維持する構造とされている必要があるが、どのような構造であっても構わない。例えば、ゴムやシリコーンなどの弾性体で機能性材料7cを覆った構造、複数のマイクロカプセル内に機能性材料7cを封入したのちマイクロカプセルを保護フィルムで挟んだ構造、スポンジ状の部材に機能性材料7cを封入してフィルムで挟んだ構造、機能性材料7cをゲル状にしたものなどを採用することができる。また、剛性変化部材7を構成するシムとしては、上記構成の他の構造であっても良く、例えば、金属板の両側に機能性材料を配置し、さらにそれら金属板および機能性材料の両側を金属板で挟みこんだ構造などとすることができる。
【0030】
さらに、ディスクブレーキシステムには、振動センサ9および電子制御装置(以下、ECUという)10、液圧センサ11などが備えられている。
【0031】
振動センサ9は、振動状態を検知するための振動検知手段の一部を構成するものであり、例えば加速度センサによって構成されることで、振動に応じた検出信号として、振動加速度に応じた信号を出力する。振動センサ9の配置場所については、ブレーキ鳴きが発生する際に生じる振動を検知できる場所であればどこであっても構わないが、制動時に他部品と接触せず、かつ、ブレーキ鳴きが発生したときの振動振幅が大きいと想定される場所が好ましい。このような条件を満たすべく、本実施形態では振動センサ9をパッド裏金6bの側面に設置している。
【0032】
ECU10は、鳴き抑制制御を行う制御手段および鳴き抑制のための電圧印加を行う電圧印加手段を構成するものであり、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って鳴き抑制制御を行う。具体的には、ECU10は、振動センサ9の出力や、W/C圧を検出する液圧センサ11からの検出信号、ストップランプスイッチ12の状態を示す信号に基づいて剛性変化部材7に対して印加する電圧を調整して印加する。ECU10は、鳴き抑制制御のみを行うものであっても構わないが、ブレーキ液圧制御等を行うブレーキECUなどであっても良い。
【0033】
液圧センサ11は、液圧検出手段に相当するもので、W/C圧を直接測定、もしくは、W/C圧と対応する圧力を測定してそれに応じた検出信号を出力する。例えば、液圧センサ11をキャリパ4内に配置すればW/C圧を直接測定することができるし、W/Cに繋がるブレーキ配管中に設置すればW/C圧と対応する液圧を測定することもできる。
【0034】
ストップランプスイッチ12は、ブレーキペダル1が踏み込まれたときにオンするものである。このストップランプスイッチ12のオンオフの状態がECU10に入力され、制動中であるか否かの判定に用いられる。
【0035】
以上のようにディスクブレーキシステムが構成されている。そして、このようなディスクブレーキシステムのうちの剛性変化部材7、振動センサ9およびECU10が本発明のディスクブレーキ用制振装置を構成している。
【0036】
続いて、上記のように構成されたディスクブレーキシステムおよびディスクブレーキ用制振装置の作動について説明する。
【0037】
まず、ディスクブレーキシステムでは、ドライバによってブレーキペダル1が踏み込まれると、図示しない倍力装置を介して増大された踏力に基づいてM/C3内のM/C圧が高められる。このM/C圧がピストン収容部4a内に伝えられることでW/C圧が発生させられ、ピストン5が移動させられると共にピストン5の先端に取り付けられたブレーキパッド6もディスクロータ8側に移動させられる。そして、ピストン5の先端のブレーキパッド6がディスクロータ8の端面に接したのち、さらにピストン5が移動させられることでもう一方のブレーキパッド6もディスクロータ8の反対側の端面と接し、両ブレーキパッド6によってディスクロータ8が挟み込まれる。これにより、ブレーキパッド6とディスクロータ8との摩擦により、運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、制動力が発生させられる。
【0038】
このようなディスクブレーキシステムの動作に伴ってディスクロータ8の振動等によってブレーキ鳴きが発生すると、ブレーキパッド6も振動する。この振動に基づいて鳴き抑制制御が実行される。図4は、ECU10で実行される鳴き抑制制御のフローチャートである。この図を参照して鳴き抑制制御の詳細について説明する。
【0039】
まず、ステップ100では、ブレーキONしているか否か、つまり制動中であるか否かを判定する。この判定は、ストップランプスイッチ12の状態を示す信号に基づいて行われる。ブレーキ鳴きは制動中に発生するもので、制動中でなければ発生しない。このため、ここで否定判定されればブレーキ鳴きが発生するタイミングではないためステップ150に進み、肯定判定されるとブレーキ鳴きが発生する可能性があるためステップ105に進む。
【0040】
ステップ105では、液圧センサ11の検出信号に基づいて液圧(W/C圧)を測定する液圧読取を行う。ブレーキ鳴きの発生し易さは、ピストン5とブレーキパッド6との間の剛性やキャリパ4の爪部4bとブレーキパッド6との間の剛性によって変動するが、その特性は液圧に応じて異なる。
【0041】
図5は、ピストン5とブレーキパッド6との間の剛性値に対する鳴き易さ、つまりブレーキ鳴きの発生し易さについて、液圧を1.5MPaと2.5MPaとした場合について調べた結果を示している。なお、ここでは鳴き抑制について、ピストン5とブレーキパッド6との間の剛性との関係を例として説明するが、キャリパ4の爪部4bとブレーキパッド6との間の剛性との関係についても同じになる。
【0042】
この図に示されるように、ピストン5とブレーキパッド6との間の剛性値を小から大に変化させたときに、最も鳴き易さが大きくなる剛性値が異なっている。このため、的確にブレーキ鳴きを抑制できる剛性値の最適値を選択できるように本ステップで液圧読込を行う。
【0043】
続くステップ110では、液圧に対する最適電圧の記憶が無いか否かを判定する。上述したように、液圧に応じて最も鳴き易さが小さくなる剛性値の最適値が異なる。そして、その最適値となるように剛性変化部材7の剛性値を調整すれば、ブレーキ鳴きを効果的に抑制することが可能となる。このため、本実施形態では、後述するステップ140において剛性変化部材7の剛性値が最適値になったと考えられるときの剛性変化部材7への印加電圧を記憶させている。これが記憶されていなければ、本ステップで肯定判定される。
【0044】
液圧と印加電圧の関係は、各液圧毎に記憶されている。例えば液圧0.1MPa刻みで記憶されており、液圧が1.45MPa以上1.55MPa未満であれば1.5MPaに対する印加電圧として記憶するなど、所定範囲内の液圧に対して1つ印加電圧が記憶されている。このため、ステップ105で読み取った液圧が記憶してあるどの範囲の液圧に該当するかを識別し、その範囲の液圧に対応する印加電圧が記憶されていないか確認することにより、ステップ110の判定を行っている。
【0045】
そして、ステップ110で肯定判定されれば、ステップ115に進んで振動センサ9の検出信号に基づいて振動の大きさF1を検出する。さらにステップ120に進み、ステップ115で検出した振動の大きさF1が閾値よりも大きいか否かを判定する。すなわち、ノイズをブレーキ鳴きによる振動と判定してしまわないように、ブレーキ鳴きの許容範囲として閾値を設定しており、振動の大きさF1が閾値よりも大きな振動であれば、ブレーキ鳴きによる振動が発生したとしている。ここで否定判定されればブレーキ鳴きが発生していないためステップ150に進み、肯定判定されればブレーキ鳴きが発生しているためステップ125に進む。
【0046】
ステップ125では、ECU10から剛性変化部材7の両金属板7a、7bに対して印加する電圧を増加する電圧増加処理を行う。本ステップが初めて処理される場合には、両金属板7a、7bに対して電圧印加されていない状態から電圧印加を行う状態とされることになる。これにより、機能性材料7cに対して電界もしくは磁界が印加されることになり、その電界強度もしくは磁界強度に応じて機能性材料7cの剛性を変化させることができる。したがって、ピストン5とブレーキパッド6との間やキャリパ4の爪部4bとブレーキパッド6との間の剛性が変動する。そして、ピストン5とブレーキパッド6との間の剛性値に対する鳴き易さは、図5に示される関係(キャリパ4の爪部4bとブレーキパッド6との間の剛性についても同様)となっている。このため、ピストン5とブレーキパッド6との間の剛性やキャリパ4の爪部4bとブレーキパッド6との間の剛性がブレーキ鳴きが発生していた値から機能性材料7cの剛性変動分ずれていく。
【0047】
この後、ステップ130に進み、再び振動センサ9の検出信号に基づいて振動の大きさF2+n(n=0、1、2・・・)を検出する。なお、nは、振動の大きさを検出した回数を表すための変数であり、ステップ130の処理が初めて行われるのであればn=0であり、ステップ130の処理が繰り返される毎にnの表す数値が1つずつインクリメントされることで、振動の大きさがF2、F3、F4・・・で表されるようになっている。
【0048】
そして、ステップ135に進み、振動の大きさF2+nが閾値よりも小さいか否かを判定する。このとき用いられる閾値をステップ120で用いられた閾値と同じとしているが、より小さい値としても良い。この処理により、まだブレーキ鳴きが抑制できず、振動が検知されることを判定できる。
【0049】
ここでまだ振動が検知されるのであれば、ブレーキ鳴き抑制を行うにはまだ機能性材料7cの剛性の変動量が小さいと考えられるため、ステップ125に戻り、両金属板7a、7bに対して印加する電圧を増加させる。そして、ステップ130で振動の大きさF2+nを検出すると共にステップ135でブレーキ鳴きが検知されなくなるまで電圧増加処理を続け、電圧増加処理が繰り返されるごとに徐々に両金属板7a、7bに対して印加する電圧を増加していき、機能性材料7cの剛性の変動量を変化させる。これにより、ブレーキ鳴きを確実に抑制することが可能となる。
【0050】
このようにしてブレーキ鳴きが検知されなくなったら、ステップ140に進み、液圧と印加電圧とを対応付けて記憶しておく。これにより、そのときの液圧に対してブレーキ鳴き抑制ができる最適電圧を記憶するという最適電圧の学習が行える。この後、ステップ145に進み、ブレーキOFFであるか否か、つまり制動中ではなくなったか否かを判定し、ブレーキOFFであればブレーキ鳴き抑制制御の必要がなくなるため、ステップ150に進む。
【0051】
そして、ステップ150では、両金属板7a、7bへの印加電圧を0にして電圧の印加をやめる。これにより、ブレーキ鳴き抑制制御が完了する。
【0052】
一方、ブレーキOFFでなければ、再びステップ105に戻り、上記処理を繰り返す。このとき、上述したように液圧ごとにブレーキ鳴きを抑制できる剛性値の最適値が異なっている。このため、的確にブレーキ鳴きを抑制できる剛性値の最適値を選択できるように液圧読込を再度行う。そして、ステップ105で読み取った液圧について、上述したステップ140で液圧に対する印加電圧が既に記憶されていれば、ステップ110で否定判定され、ステップ155に進む。そして、記憶されている液圧に対する印加電圧から、そのときの液圧に対応する印加電圧を選択し、最適電圧として両金属板7a、7bに対して印加する。
【0053】
この場合、基本的にはその液圧のときの最適電圧を印加することになるため、ブレーキ鳴きが抑制されると考えられるが、外乱により、記憶されている液圧に対する印加電圧が最適電圧にならないこともある。このため、ステップ160で振動センサ9による振動の大きさF1の検出を行うと共に、ステップ165で振動の大きさF1が閾値よりも大きいか判定し、ブレーキ鳴きが発生しているか否かを判定する。そして、ブレーキ鳴きが発生していれば、ステップ170でステップ125と同様の電圧増加処理を行い、さらにステップ175で振動センサ9による振動の大きさF2の検出を行ったのち、ステップ180で振動の大きさF2が閾値よりも大きいか否かを判定する。このとき用いられる閾値もステップ120で用いられた閾値と同じとしているが、より小さい値としても良い。
【0054】
この処理により、まだブレーキ鳴きが抑制できず、振動が検知されることを判定できる。そして、ステップ180で肯定判定されたらステップ185に進み、振動の大きさF1が振動の大きさF2よりも大きいか否かを判定する。これは、ステップ170による電圧増加処理で振動が小さくなったのであれば(F1>F2)、そのまま電圧増加を継続すべきであるが、更に振動が大きくなったのであれば(F1<F2)、電圧増加ではなく電圧減少を行うべきだからである。
【0055】
すなわち、図5に示されるように、ピストン5とブレーキパッド6との間の剛性値を小から大に変化させたときに、最も鳴き易さが大きくなる剛性値を中心として、それよりも剛性値が大きくなっても小さくなっても鳴き易さが小さくなっていく。このため、電圧増加によって鳴き易さが小→大に移行する場合と、大→小に移行する場合がある。したがって、電圧増加によって鳴き易さが小→大に移行するのであれば振動の大きさが大きくなるため、逆に電圧減少を行うことにより鳴き易さが大→小に移行するようにした方が、より早くブレーキ鳴き抑制が行えて好ましい。
【0056】
これに基づき、ステップ185で肯定判定されれば、ステップ190に進んで電圧増加処理を継続し、ステップ195で振動の大きさF3+nを検出すると共にステップ200でブレーキ鳴きが検知されなくなるまで電圧増加処理を続け、電圧増加処理が繰り返されるごとに徐々に両金属板7a、7bに対して印加する電圧を増加していき、機能性材料7cの剛性の変動量を変化させる。これにより、ブレーキ鳴きを確実に抑制することが可能となる。なお、このときには振動の大きさを検出するのが3回目からとなるため、振動の大きさをF3+nとしている。
【0057】
一方、ステップ185で否定判定されれば、ステップ205に進んでECU10から剛性変化部材7の両金属板7a、7bに対して印加する電圧を減少する電圧減少処理を行う。そして、ステップ210で振動の大きさF3+nを検出すると共にステップ215でブレーキ鳴きが検知されなくなるまで電圧減少処理を続け、電圧減少処理が繰り返されるごとに徐々に両金属板7a、7bに対して印加する電圧を減少していき、機能性材料7cの剛性の変動量を変化させる。これにより、ブレーキ鳴きを確実に抑制することが可能となる。なお、このときにも振動の大きさを検出するのが3回目からとなるため、振動の大きさをF3+nとしている。
【0058】
そして、ステップ200もしくはステップ215で肯定判定されたときには、再びステップ140に進み、ブレーキ鳴きが抑制されたときの液圧に対する印加電圧を記憶させたのち、ステップ145およびステップ150の処理を実行してブレーキ鳴き抑制処理を完了する。
【0059】
なお、ステップ140に示したようにブレーキ鳴きが抑制されたときの液圧に対する印加電圧を記憶せず、常にステップ125の電圧増加処理を行ってブレーキ鳴きが抑制されたときに電圧増加処理を停止させ、再び振動が検知されたときに電圧増加処理を再開するという形態としても構わない。ただし、この場合、ブレーキ鳴きが抑制されたときの液圧に対する印加電圧が記憶されておらず、最適電圧が学習されていないため、次の制動時にも再び電圧増加処理にて印加電圧が最適電圧となるまでステップ120およびステップ125の処理を繰り返さなければならない。したがって、最適電圧を学習しておくことで、より早くブレーキ鳴き抑制を行うことが可能となる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態のディスクブレーキシステムに備えられたディスクブレーキ用制振装置では、電圧印加によって剛性が変動する剛性変化部材7を用い、剛性変化部材7の剛性変動によってピストン5とブレーキパッド6との間の剛性やキャリパ4の爪部4bとブレーキパッド6との間の剛性を変化させている。そして、剛性変化部材7に電圧を印加した状態で振動を検知し、振動が検知されれば、剛性変化部材7に印加される電圧を変化させることで、ブレーキ鳴き抑制の最適電圧を得るようにしている。
【0061】
このようにすれば、セルフセンシングアクチュエーション部材のように剛性の変化幅がある程度決まっているものと比較して、剛性変化部材7の剛性の変化幅は大きく、それを印加電圧に応じて調整できるため、確実にブレーキ鳴き抑制を行うことができる。また、外乱が発生して鳴き発生領域が変化したとしても、常にブレーキ鳴きによる振動を検出して剛性変化部材7に印加する電圧を最適電圧に調整しているため、外乱が発生しても最適に振動を抑制でき、ブレーキ鳴きを抑制することが可能となる。
【0062】
また、ブレーキ鳴き抑制ができたときの液圧に対する印加電圧を記憶しておき、読み取った液圧について、液圧に対する印加電圧が既に記憶されていれば、その印加電圧に基づいて最適電圧を剛性変化部材7に対して印加する。このため、ブレーキ鳴き発生前からブレーキ鳴き抑制できる最適電圧を剛性変化部材7に印加できる。これにより、より早くブレーキ鳴き抑制を行うことが可能となる。
【0063】
さらに、制動中、ブレーキ鳴き抑制が行える電圧印加を継続しているため、ブレーキ鳴きが抑制されたことによって振動がなくなっても電圧印加を解除することで、再びブレーキ鳴きを発生させてしまう事も無い。
【0064】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してブレーキ操作量の検出を行う構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0065】
図6は、本実施形態にかかるディスクブレーキ用制振装置を備えたディスクブレーキシステムの概略構成を示した部分断面図である。
【0066】
第1実施形態では、ドライバによるブレーキ操作量としてW/C圧を検出したが、本実施形態では、ブレーキペダル1に対して踏力センサ13を備え、踏力センサ13で検出される踏力をブレーキ操作量として検出している。この踏力は、M/C圧と対応する値であるため、第1実施形態で示した液圧をM/C圧として鳴き抑制制御を行うことが可能となる。
【0067】
このように、液圧センサ11に代えて踏力センサ13を用いてもブレーキ操作量を検出することが可能であり、これに基づいて、第1実施形態と同様の鳴き抑制制御を実施することができる。
【0068】
(他の実施形態)
上記実施形態では、液圧センサ11や踏力センサ13にてブレーキ操作量を検出したが、その他の手法によってブレーキ操作量を検出しても良い。例えば、ブレーキペダル1のストローク量を検出したり、M/C圧を検出したりしても良い。また、液圧センサ11に限らず、周知の手法によってW/C圧を演算によって推定することもできる。例えば、M/C2とW/Cとの間にアンチスキッド制御用アクチュエータが備えられているようなブレーキ装置の場合、M/C圧とアンチスキッド制御の制御時間などからW/C圧を演算することができる。この場合、ECU10のうちW/C圧の演算を行う部分、もしくは他のECUによってW/C圧が演算されているのであれば、他のECUのうちW/C圧の演算を行う部分が液圧検出手段を構成することになる。
【0069】
また、上記実施形態では、剛性変化部材7をピストン5とブレーキパッド6との間とキャリパ4の爪部4bとブレーキパッド6との間の両方に備えているが、これらのうちの少なくとも一方にあれば良い。ただし、両方に備えておいた方が、より効果的にブレーキ鳴き抑制が行える。
【0070】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。例えば、ECU10のうち、ステップ105の処理を行う部分が操作量検出手段、ステップ115、120、130、135、160、165、175、180、185、195、200、210、215の処理を行う部分が振動検知手段、ステップ125、170、190、205の処理を行う部分が電圧印加手段(ステップ125、170、190は電圧増加手段、ステップ205は電圧減少手段)、ステップ140の処理を行う部分が記憶手段を構成している。
【符号の説明】
【0071】
1…ブレーキペダル、2…M/C、3…ディスクブレーキ、4…キャリパ、4a…ピストン収容部、4b…爪部、5…ピストン、6…ブレーキパッド、6a…パッド部、6b…パッド裏金、7…剛性変化部材、7a、7b…金属板、7c…機能性材料、8…ディスクロータ、9…振動センサ、10…ECU、11…液圧センサ、12…ストップランプスイッチ、13…踏力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキパッド(6)をディスクロータ(8)へ押圧する押圧手段(5)と前記ブレーキパッド(6)との間に介在し、印加される電圧の大きさに応じて合成が変化する剛性変化部材(7)と、
ブレーキ鳴き発生時に発生する振動を検知する振動検知手段(9、115、120、130、135、160、165、175、180、185、195、200、210、215)と、
前記剛性変化部材に対して電圧印加を行う電圧印加手段(125、150、170、190、205)と、
前記振動検知手段による振動の検知に応じて、前記電圧印加手段による前記剛性変化部材への電圧印加を行う制御手段(10)と、を具備していることを特徴とするディスクブレーキ用制振装置。
【請求項2】
前記剛性変化部材は、電気粘性流体、磁気粘性流体、磁性流体の少なくとも1つで構成された機能性材料(7c)を含んでいることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ用制振装置。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、前記剛性変化部材に対する印加電圧を増加させていく電圧増加手段を含み、
前記制御手段は、制動中に前記振動検知手段により振動が検知されると、該振動が検知されなくなるまで前記電圧増加手段にて前記剛性変化部材に対する印加電圧を増加させることを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキ用制振装置。
【請求項4】
前記制御手段は、ドライバによるブレーキ操作量を検出する操作量検出手段(105)と、前記振動検知手段にて振動が検知されなくなったときの前記剛性変化材料に対する印加電圧を前記操作量検出手段で検出された前記ブレーキ操作量と対応付けて記憶する記憶手段(140)とを有し、
前記制御手段は、制動中には、前記記憶手段にて記憶された前記ブレーキ操作量に対する前記印加電圧から、前記操作量検出手段で検出された前記ブレーキ操作量と対応する前記印加電圧を選択し、最適電圧として前記剛性変化部材に印加することを特徴とする請求項3に記載のディスクブレーキ用制振装置。
【請求項5】
前記振動検知手段にて前記振動の大きさを検出し、
前記電圧印加手段は、前記剛性変化部材に対する印加電圧を減少させていく電圧減少手段を含み、
前記制御手段は、前記最適電圧を前記剛性変化部材に印加したのち、前記振動検知手段にて振動の大きさ(F1)を検出すると共に前記電圧増加手段にて前記印加電圧を増加させ、さらに前記振動検知手段にて振動の大きさ(F2)を検出し、前記印加電圧の増加前の振動の大きさが増加後の振動の大きさよりも大きければ前記電圧増加手段にて前記印加電圧の増加を続け、前記印加電圧の増加前の振動の大きさが増加後の振動の大きさよりも小さければ前記電圧減少手段にて前記印加電圧を減少させることを特徴とする請求項4に記載のディスクブレーキ用制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−928(P2011−928A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144144(P2009−144144)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】