説明

ディップコーティング装置及びディップコーティング方法

【課題】ディスクブレーキのように、重量物であって、かつ、複雑な形状をした被処理物に対しても、均一かつ容易に被覆処理液を塗布することができるディップコーティング装置及びそのようなディップコーティング装置を用いたディップコーティング方法を提供する。
【解決手段】ディップコーティング装置及びディップコーティング方法であって、被処理物を、当被覆処理液に対して浸漬させるための浸漬槽と、被処理物を、当該被処理物の仮想中心軸を中心として回転させて、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させて除去するための回転手段と、回転手段により回転している状態の被処理物に対しエアーを吹き付けて、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、さらに除去するためのエアー吹き付け手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディップコーティング装置(浸漬塗布装置)及びディップコーティング方法(浸漬塗布方法)に関する。特に、重量物であり、かつ、複雑形状をした被処理物に対しても、均一かつ容易に被覆処理液を塗布できるディップコーティング装置及びディップコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被処理物の表面に塗膜を形成する方法として、被処理物を被覆処理液に対して浸漬させた後、引き上げ、さらに、被処理物に塗布された被覆処理液を乾燥・硬化等させる方法、所謂ディップコーティングが広く実施されている。
例えば、各種コンデンサ、バリスタ、あるいはハイブリッドIC等の電子部品には、湿気からの保護や機械的保護を目的として、絶縁被膜塗料による塗膜形成が行われるが、かかる塗膜形成には、ディップコーティングが広く採用されている。
また、ハードディスク装置等に用いられる磁気記録媒体には、耐久性の向上を目的として、フッ素系液体潤滑剤等による液体潤滑剤層の形成が行われるが、かかる液体潤滑剤層の形成にも、ディップコーティングが広く採用されている。
【0003】
しかしながら、かかるディップコーティングは、電子部品や磁気記録媒体といった、比較的表面積の小さな被処理物に対してであれば、均一な塗膜等を安定的に形成することができるが、比較的表面積の大きな被処理物に対しては、その効果を十分に発揮することができないという問題が見られた。
例えば、車両等に用いられるディスクブレーキには、防錆を目的として、エポキシ樹脂等からなる樹脂被膜の形成が行われるが、かかるディスクブレーキは、比較的表面積が大きく、しかも、パッドによって挟持される円盤状のディスク部と、その内側に位置する円筒状のハット部と、を有している。
このため、ディスクブレーキに対する防錆処理をディップコーティング法によって行った場合、被覆処理液が重力によって下方に移動したり、ハット部に被覆処理液が過度に残留したりして、均一な樹脂被膜を形成することが困難になるという問題が見られた。
また、ディスクブレーキには、ブレーキ時に生じる摩擦熱の冷却を促進することを目的として、その表面に、溝部や開口部が設けられる場合が多いが、かかる溝部や開口部が存在することも、均一な樹脂被膜の形成を困難にする原因となっていた。
【0004】
そこで、車両用ブレーキ装置におけるディスクブレーキ等の表面処理方法として、電解処理法を用い、リン酸塩被膜を形成する表面処理方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
より具体的には、鉄系材料からなるディスク状もしくはドラム状の回転ブレーキ部材のうち少なくとも相手側摩擦部材との摺動面となるべき領域に、リン酸イオン、亜鉛イオン及び硝酸イオンを含有するリン酸塩被膜形成液中での電解処理法を用いて、膜厚1〜10μm、質量4〜35g/m2、結晶粒50μm以下のリン酸塩被膜を形成する回転ブレーキ部材に対する表面処理方法が開示されている。
【0005】
また、粉体塗料を用いた車両部品におけるディスクブレーキ等の表面処理方法も提案されている(例えば、特許文献2)。
より具体的には、流動浸漬装置において、高電圧の電界をかけながら、帯電させた部分硬化状態の粉体塗料を浮遊させる工程と、車両部品の表面に粉体塗料を付着させる工程と、粉体塗料が付着された車両部品を焼付硬化させて表面に塗膜を形成する工程と、からなる車両部品の表面処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−250377号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−35692号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された表面処理方法によるリン酸塩被膜は、化学的耐性は比較的優れているものの、物理的耐性に劣り、被処理物に機械的衝撃が加わった場合、容易に剥離してしまうという問題が見られた。その上、電解処理方法を実施するための電極配置をはじめ、印加電圧、処理時間、処理液の濃度管理等、表面処理条件の制御が複雑かつ困難であるばかりか、製造コストが高くて、経済的に不利益であるという問題も見られた。
また、特許文献2に開示されている表面処理方法によれば、部分硬化した粉体塗料の特性がばらつくため、均一な厚さの塗膜を形成することが困難であって、特に、溝部や開口部が設けられた複雑形状の被処理物の場合、その箇所において、塗膜厚さが大きくばらつきやすいという問題が見られた。その上、流動浸漬装置等の特別な装置が必要になるばかりか、粉体塗料を浮遊させるためのエアー圧や塗装電極における印加電圧等、表面処理条件の制御が複雑かつ困難であって、さらには、製造コストが高くて、経済的に不利益であるという問題が見られた。
さらに言えば、ディスクブレーキのように、重量物であって、かつ複雑形状の被処理物を対象とした場合、特許文献1及び2に開示されているような複雑な表面処理方法では、表面処理条件の制御がさらに複雑かつ困難になり、安定的な表面処理ができないという問題も見られた。
【0008】
そこで、本発明の発明者は鋭意検討した結果、所定の浸漬槽、回転手段、及びエアー吹き付け手段を備えたディップコーティング装置であれば、これらの構成部品の相乗効果によって、例えば、ディスクブレーキに対して、均一かつ容易に被覆処理液を塗布するとともに、所定塗膜を形成できることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は、ディスクブレーキ等のように、重量物であって、かつ、複雑な形状をした被処理物であっても、回転軸となり得る仮想中心軸を有し、当該仮想中心軸を中心に回転可能な形状の被処理物であれば、均一かつ容易に被覆処理液を塗布することが可能となるとともに、所定塗膜が形成できるディップコーティング装置、及びそのようなディップコーティング装置を用いたディップコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、被処理物を被覆処理液に対して浸漬させるための浸漬槽と、被処理物を、当該被処理物の仮想中心軸を中心として回転させて、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させて除去するための回転手段と、回転手段により回転している状態の被処理物に対しエアーを吹き付けて、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、さらに除去するためのエアー吹き付け手段と、を備えることを特徴とするディップコーティング装置が提供され、上述した問題を解決することができる。
すなわち、本発明のディップコーティング装置であれば、所定の回転手段を備えることから、重量物である被処理物に対しても、仮想中心軸を中心として、安定的に所定のスピードで回転させることができる。
これにより、浸漬槽において浸漬塗布法にて塗布された被覆処理液のうち、余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させて、効果的に除去することができる。
また、本発明のディップコーティング装置であれば、所定のエアー吹き付け手段を備えることから、被処理物の凹部に残留し、遠心力のみによっては除去しきれない余分な被覆処理液についても、効果的に除去することができる。
したがって、本発明のディップコーティング装置であれば、例えば、ディスクブレーキのように、重量物であって、かつ、複雑形状をした被処理物に対しても、その仮想中心軸を中心として、均一かつ容易に被覆処理液を塗布することができる。
【0010】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、回転手段が、水平方向の回転軸を有するとともに、被処理物が固定された状態の軸部材を、回転軸上にて着脱自在に挟持するための回転駆動部と、軸受け部と、を備えることが好ましい。
このように構成することにより、所定の回転駆動部及び軸受け部によって、被処理物を容易に挟持し、回転させることができる。
また、このように構成することにより、塗布後における被処理物の着脱交換も容易になって、製造効率をさらに高めることができる。
【0011】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、回転駆動部が、軸部材の端部に設けてある駆動端部に対し、回転軸方向において着脱自在であるとともに、回転方向において固定された状態で嵌合するための駆動突起部を有し、かつ、軸受け部が、軸部材のもう一方の端部に設けてある軸受け端部に対し、回転軸方向において着脱自在であるとともに、回転方向において回転自在な状態で嵌合するための軸受け突起部を有することが好ましい。
このように構成することにより、回転駆動部および軸受け部によって、軸部材に固定した被処理物をさらに容易に挟持し、回転させることができる。
また、このように構成することにより、塗布後における被処理物の着脱交換も容易になって、製造効率をさらに高めることができる。
【0012】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、軸部材が、軸芯部材と、当該軸芯部材に対し被処理物を固定するための複数の固定部材と、を含むとともに、それぞれの固定部材が、軸芯部材によって貫通される筒状物であって、軸部材の軸線方向において、それぞれの固定部材間に配置された被処理物を挟持するための挟持部を有することが好ましい。
このように構成することにより、軸部材に対し、被処理物を安定的かつ確実迅速に固定することができ、かつ、自在に取り外すことができる。
【0013】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、浸漬槽が、被処理物を固定した状態の軸部材の下方に配置してあるとともに、上下方向に移動可能であることが好ましい。
このように構成することにより、被処理物を、回転駆動部と、軸受け部と、により挟持された状態で浸漬塗布することができ、さらに、被処理物を被覆処理液から引き上げた後、そのまま回転させることにより、余分な被覆処理液を飛散させることもできる。
【0014】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、エアー吹き付け手段が、往復運動が可能な複数のエアー吹き付けノズルであることが好ましい。
このように構成することにより、被処理物の凹部に残留し、遠心力のみによっては除去しきれない余分な被覆処理液を、より効果的に除去することが可能となる。
【0015】
また、本発明のディップコーティング装置を構成するにあたり、被処理物が、円板状または略円板状であり、かつ、その中央部に開口部を有する2つのディスクブレーキであるとともに、当該2つのディスクブレーキが、互いに対称的に向かい合わせとなるように、軸部材に対して固定してあることが好ましい。
このように構成することにより、被処理物を、より安定的に回転させることができるばかりか、表面処理の生産効率についても向上させることができる。
【0016】
また、本発明の別の態様は、被処理物の表面に対して被覆処理液を塗布するディップコーティング方法であって、下記工程(a)〜(c)を含むことを特徴とするディップコーティング方法である。
(a)被処理物を、浸漬槽に収容された被覆処理液に対して浸漬させる工程
(b)被処理物を、回転手段にて回転させて、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させて除去する工程
(c)回転手段により回転している状態の被処理物に対し、エアー吹き付け手段にてエアーを吹き付け、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、さらに除去する工程
すなわち、本発明のディップコーティング方法であれば、所定の工程を含むことから、重量物であって、かつ、複雑な形状をした被処理物に対しても、均一かつ容易に被覆処理を塗布することが可能となる。
【0017】
また、本発明のディップコーティング方法を実施するにあたり、回転手段の回転速度を300〜1000rpmの範囲内の値とすることが好ましい。
このように実施することにより、工程(a)にて塗布された被覆処理液を、過不足なく飛散させることができる。
【0018】
また、本発明のディップコーティング方法を実施するにあたり、エアー吹き付け手段を往復運動が可能な複数のエアー吹き付けノズルとするとともに、被処理物における凹部に対して、局所的にエアーを吹き付けることが好ましい。
このように実施することにより、被処理物に対して、より均一に被覆処理液を塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(a)〜(c)は、本発明のディップコーティング装置を説明するために供する図である。
【図2】図2(a)〜(b)は、被処理物を説明するために供する図である。
【図3】図3(a)〜(b)は、軸部材に固定された状態の被処理物を説明するために供する図である。
【図4】図4(a)〜(e)は、各種形態の被処理物を説明するために供する別の図である。
【図5】図5(a)〜(c)は、回転手段について説明するために供する図である。
【図6】図6(a)〜(c)は、回転部材と、軸部材と、の嵌合について説明するために供する図である。
【図7】図7(a)〜(d)は、回転部材と、軸部材と、の嵌合について説明するために供する別の図である。
【図8】図8(a)〜(c)は、軸部材について説明するために供する図である。
【図9】図9(a)〜(b)は、液面レベルと、軸部材と、の関係を説明するために供する図である。
【図10】図10(a)〜(c)は、浸漬槽について説明するために供する図である。
【図11】図11(a)〜(c)は、浸漬槽について説明するために供する別の図である。
【図12】図12(a)〜(c)は、エアー吹き付け手段について説明するために供する図である。
【図13】図13は、飛散防止部材について説明するために供する図である。
【図14】図14(a)〜(b)は、硬化装置及び冷却装置について説明するために供する図である。
【図15】図15(a)〜(b)は、実施例において硬化塗膜の膜厚を測定した箇所を説明するために供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、図1(a)〜(c)に示すように、被処理物50(50a、50b)を被覆処理液に対して浸漬させるための浸漬槽10と、被処理物50を、当該被処理物50の仮想中心軸を中心として回転させて、当該被処理物50に付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させて除去するための回転手段20(20a、20b)と、回転手段20により回転している状態の被処理物50に対しエアーを吹き付けて、当該被処理物50に付着した余分な被覆処理液を、さらに除去するためのエアー吹き付け手段30と、を備えることを特徴とするディップコーティング装置1である。
なお、図1(a)は、ディップコーティング装置の側面図を示し、図1(b)は上面図を示し、図1(c)は正面図を示す。
以下、図面を適宜参照しつつ、第1の実施形態としてのディップコーティング装置について、具体的に説明する。
【0021】
1.被処理物
第1の実施形態のディップコーティング装置にて処理される被処理物50としては、仮想中心軸55を有し、当該仮想中心軸55を中心として回転可能な形状を有していれば特に制限されるものではないが、例えば、図2(a)〜(b)に示すように、円板状または略円板状であり、かつ、その中央部に開口部51を有する被処理物50であることが好ましい。
この理由は、このような形状の被処理物であれば、回転手段によって安定的に回転させることができるためである。
すなわち、このような形状の被処理物であれば、図3(a)〜(b)に示すように、開口部51に後述する軸部材40を貫通させた状態で固定することで、容易に回転手段に取り付け、回転させることができるためである。
より具体的には、例えば、被処理物がディスクブレーキの場合であれば、中央部の開口部以外にも、冷却促進用の開口部や、他の部材との固定に供される開口部等が、中央部の周囲に設けられている。
しかしながら、被処理物を軸部材に固定するにあたり、これら中央部以外の開口部を利用した場合、中央部の開口部を利用した場合と比較して、軸部材上における被処理物の対称性を安定的に確保することが困難になったり、軸部材に対する被処理物の固定が過度に複雑になったりする場合がある。
これに対し、中央部の開口部に対し、軸部材を貫通させた状態で固定した場合には、軸部材上における被処理物の対称性を安定的に確保することができ、かつ、その固定も容易にすることができる。
【0022】
また、このような被処理物の直径(円形でない場合には、円相当径)としては、特に制限されるものではないが、使用するディップコーティング装置の大きさの制約や、被処理物の材料物質、さらには、被処理物の態様等にもよるが、通常、50〜1000mmの範囲内の値とすることが好ましく、100〜500mmの範囲内の値とすることがより好ましく、150〜300mmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
また、被処理物の厚さについても、特に制限されるものではないが、通常、1〜200mmの範囲内の値とすることが好ましく、5〜100mmの範囲内の値とすることがより好ましく、10〜50mmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
さらにまた、被処理物が開口部を有する場合、その直径としては、10〜300mmの範囲内の値とすることが好ましく、50〜200mmの範囲内の値とすることがより好ましく、80〜100mmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、第1の実施形態における被処理物は、図4(a)〜(e)に示すような形態であってもよい。
すなわち、図4(a)〜(e)に示すように、被処理物の形態は、円筒形50c、円錐形50d、球形50e、多面体50f及び不定形50g等、仮想中心軸55(55c〜55g)を有し、当該仮想中心軸55を中心に回転可能な形状であれば良く、その他については、特に形状を限定するものではない。
【0023】
また、被処理物の重量を、0.5〜5kgの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、被処理物の重量が0.5kg未満の値となると、被処理物の材質にもよるが、後述する軸部材に対して固定する際に、変形や損傷等の問題が生じやすくなる場合があるためである。
一方、被処理物の重量が5kgを超えた値となると、回転手段によって安定的に回転させることが困難になる場合があるためである。
したがって、被処理物の重量を、1〜3kgの範囲内の値とすることがより好ましく、1.2〜2kgの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0024】
また、第1の実施形態における被処理物、すなわち、仮想中心軸を有し、当該仮想中心軸を中心として回転可能な被処理物の具体例としては、例えば、車両等に用いられるディスクブレーキ、車両等に用いられるホイール、ギア、ダンベル、あるいは美術品等が挙げられる。
特に、図2(a)〜(b)に示すディスクブレーキ50は、元来防錆処理を施す必要がある部材である点、その形状が略円板状であって、かつ、その中央部に仮想中心軸55を設定可能な開口部51を有している点、及びその重量が一般に0.5〜5kgの範囲内の値である点から、第1の実施形態のディップコーティング装置における被処理物として、特に好適である。
【0025】
2.回転手段
また、第1の実施形態のディップコーティング装置は、図1(a)〜(c)に示すように、回転手段20(20a、20b)を備えることを特徴とする。
この理由は、かかる回転手段を備えることにより、相当重量のある被処理物であっても、安定的に所定のスピードで回転させることができるためである。
その結果、後述する浸漬槽において塗布された被覆処理液のうち、余分な被覆処理液を遠心力により飛散させ、効果的に除去することができるためである。
また、回転手段により回転している状態の被処理物に対し、後述するエアー吹き付け手段によってエアーを吹き付けることで、被処理物に付着した余分な被覆処理液を、さらに除去することができるためである。
【0026】
かかる回転手段は、図1(a)に示すように、水平方向の回転軸21を有するとともに、被処理物50(50a、50b)が固定された状態の軸部材40を、回転軸21の軸上にて着脱自在に挟持するための回転駆動部20aと、軸受け部20bと、を備えることが好ましい。
この理由は、回転手段をこのように構成することにより、回転駆動部及び軸受け部によって、被処理物を容易に挟持し、回転させることができるためである。
すなわち、図5(a)に示すように、まず、後述する構成の軸部材40に固定された状態の被処理物50(50a、50b)を、例えば、トラバース等の移動具を用いて、軸部材40を挟持しながら移動させ、軸部材40の軸芯と、回転手段20(20a、20b)の回転軸21と、が重なるように、回転駆動部20a及び軸受け部20bの間に載置する。
次いで、図5(b)に示すように、回転駆動部20a及び軸受け部20b、あるいはいずれか一方を、被処理物50(50a、50b)に向けて水平方に移動させることにより、軸部材40と、回転駆動部20a及び軸受け部20bとを、それぞれ嵌合させて、被処理物50(50a、50b)を容易に回転手段20(20a、20b)に対して取り付けて、回転させることができるためである。
さらに、回転部材をこのように着脱自在に構成することで、塗布後における被処理物の交換も容易となり、製造効率をさらに高めることにも資することができる。
なお、軸部材40を載置する載置部材45は、軸部材40及びそれに固定された被処理物50が、載置されたままの状態で回転することができることから、図5(c)に示すように、軸部材40の回転に伴って受動回転が可能な複数のローラー45aから構成してあることが好ましい。
また、回転駆動部を回転させる手段としては、電気モーター、エアーモーター及びエンジン等を用いることができる。
【0027】
また、このとき、図6(a)〜(c)に示すように、回転駆動部20aが、軸部材40の端部に設けてある所定の形状を有する駆動端部40aに対し、回転軸方向21において着脱自在であるとともに、回転方向(図示しない)において固定された状態で嵌合するための駆動突起部23aを有し、かつ、軸受け部20bが、軸部材40のもう一方の端部に設けてある軸受け端部40bに対し、回転軸方向21において着脱自在であるとともに、回転方向において回転自在な状態で嵌合するための軸受け突起部23bを有することが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、回転駆動部及び軸受け部によって、軸部材に固定した被処理物を着脱自在に挟持し、安定的に回転させることができるためである。
すなわち、図6(a)〜(c)に示すように、回転駆動部20aが、軸部材40の駆動端部40aに対し、回転軸方向21において着脱自在であって、回転方向において固定された状態で嵌合するための駆動突起部23aを有することにより、回転駆動部20aと、軸部材40とを、容易に嵌合させつつも、回転駆動部20aからの駆動力を、効果的に軸部材40に伝えて、被処理物50(50a、50b)を回転させることができるためである。
また、図6(a)〜(c)に示すように、軸受け部20bが、軸部材40の軸受け端部40bに対し、回転軸方向21において着脱自在であって、回転方向において回転自在な状態で嵌合するための軸受け突起部23bを有することにより、軸受け部20bと、軸部材40と、を容易に嵌合させて、回転駆動部20aにより回転している軸部材40を、安定的に軸受けすることができるためである。
【0028】
次いで、駆動突起部23a及び駆動端部40aについて、詳細に説明する。
すなわち、図7(a)に示すように、駆動突起部23aは、尖状傾斜部24´を有する板状部24と、かかる板状部24と連続して形成される棒状部25と、を有することが好ましい。
また、図7(b)に示すように、駆動端部40aは、その両端に尖状傾斜部45´を設けてある二股部45と、当該二股部45の底部から軸方向に設けられた軸芯空洞部46と、を備えた軸芯端部42aを有することが好ましい。
この理由は、駆動突起部23aと、駆動端部40aと、をこのように構成することにより、回転駆動部20aを、軸部材40の駆動端部40aに対し、回転軸方向において着脱自在であって、回転方向において固定された状態で嵌合させることが容易になるためである。
すなわち、図7(a)〜(b)に示す駆動突起部23a及び軸芯端部42aであれば、図7(c)〜(d)に示すように、駆動突起部23aが有する板状部24における尖状傾斜部24´と、軸芯端部42aが有する二股部45における尖状傾斜部45´と、が接触及び摺動する際に、お互いを逆方向に回転させることになる。
これにより、駆動突起部23aの板状部24が、軸芯端部42aの二股部45に嵌合し、かつ、駆動突起部23aの棒状部25が、軸芯端部42aの軸芯空洞部46に嵌合することになる。
したがって、図7(a)〜(b)に示す駆動突起部23a及び軸芯端部42aであれば、駆動突起部23aを、軸芯端部42aに対し、回転軸方向において着脱自在であって、回転方向において固定された状態で嵌合させることが容易になる。
【0029】
また、駆動突起部は、被処理物とともに順次交換されることになる軸芯端部と比較して、嵌合に供される頻度が高いため、所定の耐久性が要求される。
したがって、駆動突起部の材料物質としては、S45C等の強度の高い鋼を用いることが好ましい。一方、軸芯端部には、SS400等の、より強度に劣る鋼を用いてもよい。
【0030】
また、図6(b)に示す軸受突起部23bは、内蔵されたベアリングにより、回転自在であることが好ましく、その材料物質としては、SS400等の鋼を用いることが好ましい。
また、軸受突起部23bと嵌合する軸受端部40bは、頭部に嵌合部44´を有する軸受ボルト44を有することが好ましく、その材料物質としては、SS400等の鋼を用いることが好ましい。
なお、かかる軸受ボルトは、後述する固定部材43bを、軸芯部材42に対して固定する役割をも果たすことになる。
【0031】
また、図8(a)〜(c)に示すように、上述した軸部材40が、軸芯部材42と、当該軸芯部材42に対し被処理物50(50a、50b)を固定するための複数の固定部材43(43a、43b、43c)と、を含むとともに、それぞれの固定部材43(43a、43b、43c)が、軸芯部材42によって貫通される筒状物であって、軸部材40の軸線方向において、それぞれの固定部材43(43a、43b、43c)の間に配置された被処理物50(50a、50b)を挟持するための挟持部43´(43´a、43´b、43´c)を有することが好ましい。
この理由は、軸部材をこのように構成することにより、軸部材に対し、被処理物を安定的に固定することができ、かつ、取り外すことができるためである。
【0032】
より具体的には、まず、軸芯部材42に対し、固定部材43aを穿孔溶接等によって固定する。
次いで、被処理物50aの開口部を、軸芯部材42に通し、被処理物50aの開口部における内壁と、固定部材43aの挟持部43´aと、を嵌合させる。
なお、挟持部を、図8(a)に示すように、固定部材において放射状に複数、例えば、2〜6個設けられる板状物であって、被処理物の開口部の内壁に圧接させるための傾斜部を有した板状物として構成することで、当該傾斜部により被処理物の仮想中心軸は自動的に軸部材の軸芯と一致するように位置決めされる。
次いで、固定部材43cを、軸芯部材42に通し、被処理物50aの開口部における内壁に、固定部材43cの挟持部43´cを嵌合させる。
そして、被処理物50bの開口部を、軸芯部材42に通し、被処理物50bの開口部における内壁と、固定部材43cの挟持部43´cと、を嵌合させる。
続いて、固定部材43bを、軸芯部材42に通し、被処理物50bの開口部における内壁と、固定部材43bの挟持部43´bと、を嵌合させると、被処理物50bの仮想中心軸は、自動的に軸部材40の軸芯と一致するように位置決めされることとなる。
最後に、固定部材43bを、軸芯部材42の端部において軸受ボルト44にて固定する。
これにより、固定部材同士による挟持によって、軸芯部材に対して被処理物を安定的に固定することができる。
なお、軸芯部材及び固定部材の材料としては、SS400等の鋼を用いることが好ましい。
また、軸芯部材の直径としては、5〜100mmの範囲内の値とすることが好ましく、長さとしては、200〜1000mmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0033】
なお、図8(a)〜(c)においては、軸部材40に対し、2つの被処理物50(50a、50b)を固定するために、合計3つの固定部材43(43a、43b、43c)を用いているが、固定部材の数は、被処理物の数に合わせて適宜変更可能である。
したがって、固定部材の数は、2つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0034】
また、図8(c)に示すように、被処理物50が、円板状または略円板状であり、かつ、その中央部に開口部51を有する2つのディスクブレーキであると共に、当該2つのディスクブレーキが、互いに対称的に向かい合わせとなるように、軸部材40に対して固定してあることが好ましい。
この理由は、このようにすることで、被処理物を、より安定的に回転させることができるばかりか、表面処理効率についても向上させることができるためである。
すなわち、被処理物がディスクブレーキであれば、その形状から、容易に軸部材に対して対称的に固定することができるためである。
また、かかるディスクブレーキ2つを、向い合せの状態で軸部材に対して固定することにより、軸部材に固定された2つのディスクブレーキ全体における重量分布を均等化し、より安定的に回転させることができるためである。
さらに、一度に2つのディスクブレーキをディップコーティングできることから、表面処理効率を向上させることができる。
【0035】
3.浸漬槽
また、第1の実施形態のディップコーティング装置は、図1(a)〜(c)に示すように、浸漬槽10を備えることを特徴とする。
この理由は、かかる浸漬槽を備えることにより、当該浸漬槽に被覆処理液を収容し、被処理物を被覆処理液に対して浸漬させることで、容易に被処理物に対して被覆処理液を塗布することができるためである。
【0036】
かかる浸漬槽は、被覆処理液を収容し、かつ、被処理物を当該被覆処理液に浸漬させることができる容積及び強度を有していれば、特に制限されるものではない。
また、被処理物を回転させながら浸漬させる場合には、被処理物全体を被覆処理液に対して浸漬させる必要がないため、浸漬槽の深さを浅くすることもできる。
さらに、図9(a)〜(b)に示すように、被処理物50(50a、50b)を回転させながら浸漬させる場合には、軸部材40を被覆処理液に対して浸漬させることなく、被処理物50(50a、50b)の全体を被処理液に対して浸漬させることができる(液面L1)。なお、図9(b)は、図9(a)におけるE1方向から見た図である。
すなわち、被処理物50(50a、50b)と、軸部材40とは、挟持部43´(43´a、43´b、43´c)を介して固定されているため、軸部材40の軸芯と、被処理物50(50a、50b)と、の間には、空隙が存在している。したがって、軸部材40の軸芯を被覆処理液に対して浸漬させることなく、被処理物50(50a、50b)の全体を被処理液に対して浸漬させることができることになる。
また、例えば、被処理物がディスクブレーキの場合を例に挙げると、処理箇所をディスク部52(52a、52b)に限定したり(液面L2)、あるいは、ディスク部52(52a、52b)の一部のみに限定したり(液面L3)した場合にも、当然ではあるが、軸部材40を被覆処理液に浸漬させることなく、被処理物50(50a、50b)を処理することができる。
したがって、軸部材と、被処理物とが、共に被覆処理液によって被覆され、かつ、硬化されることを有効に抑制することができることから、被覆処理液の硬化後において、容易に軸部材から被処理物を取り外すことができる。
【0037】
また、浸漬槽の態様は、特に制限されるものではないが、一例ではあるが、開口部の面積が200〜5000cm2の範囲内の値であって、深さが50〜300mmの範囲内の値であり、容積が1〜150リットルの範囲内の値であるステンレス製の浸漬槽とすることが好ましい。
なお、被覆処理液の無駄を省く観点からは、浸漬槽の底部を、被処理物の形状に合わせた形状とすることも好ましい。
【0038】
また、図10(a)〜(c)に示すように、上下方向に移動可能な浸漬槽10が、被処理物を固定してなる軸部材40の下方に配置してあることが好ましい。
すなわち、浸漬槽10が、回転手段20(20a、20b)における回転駆動部20aと、軸受け部20bと、に着脱自在に挟持される軸部材40の下方に配置してあるとともに、上下方向に移動可能であることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、被処理物を、回転駆動部と、軸受け部と、により挟持された状態で浸漬塗布し、被処理物を被覆処理液から引き上げ、そのまま回転させることにより、被覆処理液を飛散させることができるためである。
したがって、図10(a)〜(b)に示すように、まず、回転駆動部20aと、軸受け部20bと、により挟持された状態の被処理物50(50a、50b)に対し、浸漬槽10を上方に移動させて、被処理物50(50a、50b)を被覆処理液11に対して約半分ほど浸漬させることができる。
次いで、その状態のまま、回転駆動部20aにより被処理物50(50a、50b)をゆっくりと、例えば、10〜30rpmの範囲で回転させ、被処理物50(50a、50b)の全体を被覆処理液11に対して浸漬させることができる。
そして、図10(c)に示すように、浸漬槽10を下方に移動させて、被処理物50(50a、50b)と、被覆処理液11と、を非接触の状態にした後、回転駆動部20(20a、20b)により被処理物50(50a、50b)を高速回転、たとえば、300〜1000rpmさせ、余分な被覆処理液を遠心力により飛散させて回転除去するものである。
なお、浸漬槽の上下移動は、例えば、油圧シリンダー等の駆動手段によって行うことができる。
【0039】
また、図11(a)〜(c)に示すように、浸漬槽10の下部に、被覆処理液11が貯蔵され、かつ、下方に移動した際の浸漬槽10を収容可能な貯蔵槽12を設けることが好ましい。
さらに、浸漬槽10の底部に、開閉制御可能な弁部材14と、連通穴13と、を設けることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、図11(a)〜(c)に示すように、浸漬槽10を上下方向に移動させるのに伴って、浸漬槽10内の被覆処理液11を、貯蔵槽12内の被覆処理液11と循環・混合させて、浸漬槽10内の被覆処理液11の劣化を抑制し、長寿命化させることができるためである。
したがって、浸漬槽に対して被覆処理液の新液を頻繁に追加して調整することなく、安定的な表面処理を長時間にわたって効果的に維持することができるためである。
【0040】
4.エアー吹き付け手段
また、第1の実施形態のディップコーティング装置は、図1(a)〜(b)に示すように、被処理物50(50a、50b)に対し、エアーを吹き付けるためのエアー吹き付け手段30を備えることを特徴とする。
この理由は、かかるエアー吹き付け手段を備えることにより、回転手段により回転している状態の被処理物に対しエアーを吹き付けて、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、さらに除去することができるためである。
すなわち、例えば、ディスクブレーキのように、複雑な形状であり、かつ、その表面に冷却促進用の溝部や開口部を有するような被処理物をディップコーティングした場合には、回転手段による遠心力のみでは、余分な被覆処理液を除去することが困難になる。
これは、例えば、図2(a)〜(b)に示すようなディスクブレーキ50におけるハッと部53や、冷却促進用の溝部及び開口部(図示せず)が設けてあることに起因する。そして、冷却促進用の溝部及び開口部に存在する余分な被覆処理液は、このような被処理物50自体の構造によって外部への飛散が阻害されるためである。
すなわち、第1の実施形態であれば、エアー吹き付けノズルによって、これらディスク部のみならず、ハット部や、冷却促進用の溝部及び開口部に対し、局所的、あるいは全面的にエアーを吹き付けることにより、残留していた余分な被覆処理液を強制的に飛散させることができる。
【0041】
かかるエアー吹き付け手段は、被処理物の形状に合わせて、被覆処理液が残留しやすい箇所に対し、局所的、あるいは全面的にエアーを吹き付けられるものであれば特に構成は制限されるものではない。
したがって、例えば、エアー吹き付けノズル及び扇風機等を挙げることができる。
また、エアー吹き付けノズルは、例えば、エアー供給管を介して、コンプレッサ等に接続され、0.1〜0.8MPaの条件下で、10〜2500リットル/分(0℃、1atm)の範囲内の吹き付け速度を得ることができるものであれば良く、50〜2000リットル/分(0℃、1atm)の範囲内の吹き付け速度を得ることができるものであればより好ましく、100〜1500リットル/分(0℃、1atm)の範囲内の吹き付け速度を得ることができるものであればさらに好ましい。
その他、エアー吹き付けノズルの形態に関して、幅広型エアーノズルであっても、集中型エアーノズルであってもよい。
【0042】
また、エアー吹き付け手段が、往復運動が可能な複数のエアー吹き付けノズルであることが好ましい。
この理由は、エアー吹き付け手段をこのように構成することにより、被処理物の凹部に残留し、遠心力のみによっては除去しきれない余分な被覆処理液を、より効果的に除去することができるためである。
すなわち、例えば、図12(a)〜(c)に示すように、エアー吹き付けノズル30を配置するとともに、それぞれの矢印で示す方向に往復運動させることで、被処理物50としてのディスクブレーキにおける余分な被覆処理液を、より効果的に除去することができるためである。
【0043】
5.飛散防止部材
また、第1の実施形態のディップコーティング装置は、飛散防止部材を備えることが好ましい。
この理由は、回転手段により飛散させた余分な被覆処理液により、ディップコーティング装置及びその周辺が汚染されることを防止しつつ、飛散した被覆処理液を効率的に回収及び再使用することができるためである。
すなわち、例えば、図1(c)に示すように、回転する被処理物50(50a、50b)の上面及び回転軸40に平行な両側面を囲うように、飛散防止部材60を備えることが好ましい。
また、図1(c)に示すように、回転する被処理物50(50a、50b)の上面を囲う飛散防止部材60の形状は、中心から両側方に向かって下方に傾斜した屋根型形状とすることが好ましい。
この理由は、回転手段による回転によって飛散した余分な被覆処理液を、効果的に追従させて、最終的には、下方に位置する浸漬槽において、効率的に回収することができるためである。
また、図13に示すように、上面が開閉可能な飛散防止部材60とすることが好ましい。
この理由は、このように構成することにより、処理済みの被処理物を回転手段から取り外すことが容易になると同時に、未処理の被処理物を回転手段に取り付けることも容易になるためである。
【0044】
6.被覆処理液
また、被覆処理液は、被処理物の表面に硬化塗膜を形成するための被覆成分を含有しており、かかる被覆成分を被処理物の表面に付着させた後、固化させることにより、被処理物の表面に、所定の硬化塗膜を形成可能な液状物である。
このような被覆処理液は、被覆成分として、各種熱可塑成分、熱硬化成分、光硬化成分、あるいはこれらの組み合わせを含むことができる。
そして、かかる被覆成分としては、より具体的に、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
さらに言えば、被処理物が、ディスクブレーキの場合、ポリアミド酸等のポリイミド樹脂前駆体や、ポリイミド樹脂と、エポキシ化合物やエポキシ樹脂等のポリイミド樹脂と重合可能な1種又は2種以上の硬化成分とを含むポリイミド樹脂組成物を含有する溶液又は分散液であることが好ましい。
【0045】
また、溶媒として、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、フェノール、クレゾール、キシノール、ハロゲン化フェノール、カテコール、ヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン等の極性溶剤が挙げられるが、これらのかわりに、あるいは一部として、水またはアルコール(グリコールを含む)等を用いることがより好ましい。
すなわち、溶媒として、水等を用いることにより、被覆処理液を水性とすることができるため、製造コストが安くなるばかりか、環境問題にも配慮することができるためである。
よって、これらの被覆処理液に含まれる被覆成分が固化することによって、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等からなる所定塗膜を形成することが可能である。
なお、被覆処理液における溶媒又は分散媒の濃度を、例えば、被覆処理液の全体量に対して、5〜50重量%の希薄液とするのが好ましく、10〜35重量%の範囲内の値とするのがより好ましく、15〜25重量%の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0046】
また、被覆処理液の粘度(測定温度:25℃、以下同様である。)を、通常、10〜10000mPa・secの範囲内の値とするのが好ましい。
この理由は、このような粘度を有する被覆処理液であれば、液滴を被処理物に対して、均一に付着させることができるためである。
すなわち、被覆処理液の粘度が、10mPa・sec未満の値になると、表面張力の関係で、全体として、均一な厚さの塗膜を形成することが困難となる場合があるためである。
一方、被覆処理液の粘度が、10000mPa・secを超えた値になると、余分な被覆処理液を遠心力により除去することが困難となる場合があるためである。
したがって、被覆処理液の粘度を、50〜5000mPa・secの範囲内の値とするのがより好ましく、100〜1000mPa・secの範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0047】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、被処理物の表面に対して被覆処理液を塗布するディップコーティング方法であって、下記工程(a)〜(c)を含むことを特徴とするディップコーティング方法である。
(a)被処理物を、浸漬槽に収容された被覆処理液に対して浸漬させる工程(浸漬工程と称する場合がある。)
(b)被処理物を、回転手段にて回転させて、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させて除去する工程(回転除去工程と称する場合がある。)
(c)回転手段により回転している状態の被処理物に対し、エアー吹き付け手段にてエアーを吹き付け、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、さらに除去する工程(エアー除去工程と称する場合がある。)
以下、図面を適宜参照しつつ、第2の実施形態としてのディップコーティング方法について、第1の実施形態と重複する内容は省略して、具体的に説明する。
【0048】
1.工程(a)(浸漬工程)
工程(a)は、被処理物を、浸漬槽に収容された被覆処理液に対して浸漬させる工程である。
このとき、図10(a)〜(c)に示すように、回転駆動部20aと、軸受け部20bと、により挟持された状態の被処理物50(50a、50b)に対し、浸漬槽10を上方に移動させて、被処理物50(50a、50b)を被覆処理液11に対して半分ほど浸漬させることが好ましい。
次いで、その状態のまま、回転駆動部20aにより被処理物50(50a、50b)をゆっくりと回転させ、被処理物全体を被覆処理液11に対して浸漬させることが好ましい。
このときの回転速度としては、10〜30rpmの範囲内の値とすることが好ましい。
また、浸漬時間としては、1〜10秒の範囲内の値とすることが好ましく、3〜5秒の範囲内の値とすることがより好ましい。
そして、最後に、浸漬槽10を下方に移動させて、被処理物50(50a、50b)と、被覆処理液11と、を非接触の状態とし、後の工程(b)及び(c)に移行することが好ましい。
なお、被覆処理液が重力によって下方に移動することをより効果的に抑制する観点からは、浸漬槽10を下方に移動させる際にも、被処理物50(50a、50b)を回転させ続けることが好ましい。
【0049】
2.工程(b)(回転除去工程)
次いで、工程(b)は、図5(a)〜(b)に示すように、被処理物50(50a、50b)を、回転手段20(20a、20b)にて回転させて、当該被処理物50(50a、50b)に付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させて除去する工程である。
このとき、回転手段の回転速度は、被処理液の種類や粘度によっても異なるが、300〜1000rpmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる回転速度が300rpm未満の値となると、被処理物に付着した余分な被覆処理液を、十分に飛散させて除去することが困難になる場合があるためである。一方、かかる回転速度が1000rpmを超えた値となると、被処理物に付着した被覆処理液が、過度に除去されたり、被処理物の回転軸にぶれが生じやすくなったりする場合があるためである。
したがって、回転手段の回転速度を350〜800rpmの範囲内の値とすることがより好ましく、400〜600rpmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0050】
3.工程(c)(エアー除去工程)
次いで、工程(c)は、図12(a)〜(c)に示すように、回転手段により回転している状態の被処理物50に対し、エアー吹き付け手段30にてエアーを吹き付け、当該被処理物50に付着した余分な被覆処理液を、さらに除去する工程である。
なお、かかる工程(c)は、被処理物を、回転手段により回転させた状態で実施することから、上述した工程(b)と同時に実施されることになる。
【0051】
また、このとき、図12(a)〜(c)に示すように、エアー吹き付け手段30を往復運動が可能な複数のエアー吹き付けノズルとするとともに、被処理物50における凹部に対して、局所的にエアーを吹き付けることが好ましい。
この理由は、このように実施することにより、被処理物に対して、より均一に表面処理を施すことができるためである。
また、エアー吹き付け手段が、被処理物の中心方向に運動する場合には、エアーの吹き付けを停止し、エアー吹き付け手段が、被処理物の外周方向に運動する場合のみ、エアーの吹き付けを行うことが好ましい。
この理由は、このように実施することにより、凹部等に残留している余分な被覆処理液を、エアーによって効果的に掻き出し、遠心力によって飛散させ、除去することができるためである。
【0052】
また、エアー吹き付け速度としては、100〜2500リットル/分(0℃、1atm)の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、エアー吹き付け速度が100リットル/分(0℃、1atm)未満の値となると、被処理物の凹部に残留した余分な被覆処理液を、十分に除去することが困難となる場合があるためである。一方、エアー吹き付け速度が2500リットル/分(0℃、1atm)を超えた値となると、被処理物に付着した被覆処理液が、過剰に除去される場合があるためである。
したがって、エアー吹き付け速度を400〜2000リットル/分(0℃、1atm)の範囲内の値とすることがより好ましく、1000〜1800リットル/分(0℃、1atm)の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0053】
4.硬化工程
また、上述した工程(a)〜(c)に次いで、被処理物に塗布された被覆処理液を乾燥させるとともに、被覆処理液に含まれる被覆成分を固化させるための硬化工程を実施することが好ましい。
すなわち、かかる硬化工程は、被処理物の表面にディップコーティングされた被覆処理液から溶媒等を乾燥除去した後、被覆処理液に含まれる被覆成分を、熱または光を用いて三次元架橋を生じせしめて、硬化させる工程である。
ここで、かかる硬化工程の態様としては、特に制限されるものではないが、例えば、図14(a)〜(b)に示すように、ベルトコンベアー式の硬化装置100を用いることが好ましい。
この理由は、ディップコーティング装置にてディップコーティングされた被処理物を、そのまま、ベルトコンベアー式の硬化装置に、順次投入して、安定的かつ迅速に硬化処理を施すことができるためである。
【0054】
また、かかる硬化工程を実施するに際して、被処理物を、軸部材に固定したままの状態で行うことが好ましい。
すなわち、このように実施することにより、例えば、トラバース等の移動具を用いて、軸部材の部分を挟持して、被処理物を移動させることができるためである。
したがって、被処理物に塗布された未乾燥状態の被覆処理液に直接触れることなく、被処理物をディップコーティング装置から硬化装置に移動させることができる。また、このように実施することにより、硬化装置に対して、被処理物を安定的かつ迅速に載置することができる。
なお、被処理物のこのような移動方法は、硬化装置から、後述する冷却装置への移動においても同様に行うことが好ましい。
【0055】
以下、図14(a)〜(b)に示すベルトコンベアー式の硬化装置を用いて、被覆成分の熱硬化を行った場合を例にとって、硬化条件について具体的に説明する。
まず、被覆成分の硬化温度を100〜500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、硬化温度が100℃未満の値となると、被覆処理液に含まれる被覆成分を十分に硬化させることが困難となったり、硬化時間が過度に長くなったりする場合があるためである。
一方、硬化温度が500℃を超えた値となると、膜厚方向における硬化具合が不均一になったり、塗膜に気泡が生じやすくなったりする場合があるためである。
したがって、被覆成分の硬化温度を200〜400℃の範囲内の値とすることがより好ましく、250〜350℃の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、被覆成分の硬化させる際の加熱手段としては特に制限されるものではないが、例えば、ガスオーブン、電熱オーブン、赤外線ヒータ、加熱蒸気、加熱不活性蒸気等を用いることができる。
【0056】
また、被覆成分の加熱時間を5〜20分の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、加熱時間が5分未満の値となると、被覆処理液に含まれる被覆成分を十分に硬化させることが困難となる場合があるためである。一方、加熱時間が20分を超えた値となると、硬化した塗膜がダメージを受けやすくなったり、塗膜が過度に収縮して剥離しやすくなったりする場合があるためである。
したがって、被覆成分の加熱時間を8〜18分の範囲内の値とすることがより好ましく、10〜15分の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0057】
また、硬化工程を実施する際の被処理物の運搬速度を100〜800mm/分の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、被処理物の運搬速度が100mm/分未満の値となると、硬化工程が律速となって、ディップコーティングを効率的に実施することが困難となる場合があるためである。一方、被処理物の運搬速度が800mm/分を超えた値となると、硬化装置の運搬方向における長さが過度に大きくなって、スペース的な問題が生じる場合があるためである。
したがって、被処理物の運搬速度を300〜700mm/分の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0058】
また、図14(a)〜(b)に示すように、硬化装置100における被処理物50の配置を2列とし、かつ、それぞれの列における被処理物50が互い違いに位置する、いわゆる千鳥状に配置することが好ましい。
この理由は、このように被処理物を千鳥状に配置して、硬化工程を実施することにより、硬化装置の運搬方向における長さを半減させつつも、それぞれの列における被処理物を、均一に加熱し、被覆処理液を安定的に硬化させることができるためである。
なお、硬化装置100の運搬方向における長さは、5〜10mの範囲内の値とすることが好ましい。
【0059】
5.冷却工程
また、硬化工程に次いで、被処理物の冷却工程を実施することが好ましい。すなわち、かかる冷却工程は、硬化工程において加熱された被処理物を、室温まで冷却する工程である。
ここで、かかる冷却工程の態様は、特に制限されるものではないが、例えば、図14(a)に示すように、ベルトコンベアー式の冷却装置200を用いることが好ましい。
この理由は、硬化装置にて被覆処理液を硬化された被処理物を、そのまま、順次投入して、硬化処理を施すことができるためである。
また、運搬方向における長さを硬化装置100と同じ長さとし、かつ、被処理物50の配置を1列とすると、運搬速度を硬化装置100における運搬速度の2倍とすることで、図示するように、被処理物の搬出のタイミングが対応可能となる。
このようにすることで、ディップコーティングと、硬化工程と、冷却工程と、を途中で被処理物を滞留させることなく、一定の速度で実施することが容易になる。
また、各工程間における被処理物の移動を自動化することにより、作業員による作業領域をディップコーティング装置周辺に集約することができ、ひいては、作業効率を向上させることができる。
さらに、冷却工程における運搬速度が硬化工程における運搬速度の2倍となることにより、室温でも十分な速度で被処理物を冷却させることができる。
【0060】
また、被処理物の表面に形成される塗膜に関し、塗膜の膜厚を3〜15μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる膜厚が3μm未満の値となると、塗膜が形成されない箇所が生じやすくなったり、塗膜が剥離しやすくなったりする場合があるためである。一方、かかる膜厚が15μmを超えた値となると、膜厚を均一にすることが困難となったり、逆に塗膜が剥離しやすくなったりする場合があるためである。
したがって、被処理物の表面に形成される塗膜の膜厚を3〜10μmの範囲内の値とすることがより好ましい。
【0061】
更に、このような塗膜を形成するにあたり、被覆処理液の処理量を、被処理物の表面積100cm2当たり、0.03〜0.15mlの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、被覆処理液の処理量が、所定表面積当たり、0.03ml未満の値となると、塗膜の膜厚が過度に小さくなって、塗膜が形成されない箇所が生じやすくなったり、塗膜が剥離しやすくなったりする場合があるためである。一方、被覆処理液の処理量が、所定表面積当たり、0.15mlを超えた値となると、塗膜の膜厚が過度に大きくなって、膜厚を均一にすることが困難となったり、逆に塗膜が剥離しやすくなったりする場合があるためである。
したがって、被覆処理液の処理量を、被処理物の表面積100cm2当たり、0.03〜0.1mlの範囲内の値とすることがより好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を示して、本発明をより詳細に説明する。
【0063】
[実施例1]
1.硬化塗膜の形成
図1に示すディップコーティング装置を用いて、図2に示す車両用ディスクブレーキ(材質:鉄、直径:25cm、厚さ:3cm、重量:2kg)の表面に、被覆処理液を、以下の条件で、塗布厚さが下記数値となるべく、表1に示すように、回転速度1で、回転手段にて車両用ディスクブレーキを回転させながら浸漬塗布した。
次いで、浸漬塗布した車両用ディスクブレーキを、回転速度2で、回転手段にて回転させて、付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させるとともに、図1に示すエアーノズル(合計6本)から所定条件のエアーを吹き付け、表面凹凸部における余分な被覆処理液をエアー除去した。
最後に、図14に示す硬化装置を用いて、被覆処理液に含まれる被覆成分を熱硬化させ、厚さ7μmの硬化塗膜を形成した。
回転速度1:20rpm
被覆処理液:熱硬化型エポキシ系水性塗料(粘度:3000mP・sec(測定温度2
5℃)、固形分:50重量%)
回転速度2:800rpm
エアー量 :400リットル/分(エアー吹き付けノズル1本当たり)
【0064】
2.硬化塗膜の評価
(1)平滑性1
車両用ディスクブレーキのディスク部(図15:ポイントa)に形成した硬化塗膜の平滑性を、下記基準に沿って、評価した。
◎:7箇所の膜厚のばらつき(最大−最小)が2μm未満である。
○:7箇所の膜厚のばらつき(最大−最小)が4μm未満である。
△:7箇所の膜厚のばらつき(最大−最小)が6μm未満である。
×:7箇所の膜厚のばらつき(最大−最小)が8μm以上である。
【0065】
(2)平滑性2
車両用ディスクブレーキのハット部(図15:ポイントb)に形成した硬化塗膜の平滑性を、下記基準に沿って、評価した。
◎:7箇所の膜厚のばらつき(最大−最小)が3μm未満である。
○:7箇所の膜厚のばらつき(最大−最小)が5μm未満である。
△:7箇所の膜厚のばらつき(最大−最小)が8μm未満である。
×:7箇所の膜厚のばらつき(最大−最小)が10μm以上である。
【0066】
[実施例2]
実施例2においては、浸漬塗布する際の回転速度1を15rpmとしたほかは、実施例1と同様に、車両用ディスクブレーキのブレーキ部および凹凸部分に形成した硬化塗膜の平滑性および密着性を評価した。
【0067】
[実施例3]
実施例3においては、浸漬塗布する際の回転速度1を10rpmとしたほかは、実施例1と同様に、車両用ディスクブレーキのブレーキ部および凹凸部分に形成した硬化塗膜の平滑性および密着性を評価した。
【0068】
[実施例4]
実施例4においては、付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させる際の回転速度2を300rpmとしたほかは、実施例1と同様に、車両用ディスクブレーキのブレーキ部および凹凸部分に形成した硬化塗膜の平滑性および密着性を評価した。
【0069】
[実施例5]
実施例5においては、付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させる際の回転速度2を500rpmとしたほかは、実施例1と同様に、車両用ディスクブレーキのブレーキ部および凹凸部分に形成した硬化塗膜の平滑性および密着性を評価した。
【0070】
[実施例6]
実施例6においては、エアー量を500リットル/分としたほかは、実施例1と同様に、車両用ディスクブレーキのブレーキ部および凹凸部分に形成した硬化塗膜の平滑性および密着性を評価した。
【0071】
[実施例7]
実施例7においては、エアー量を300リットル/分としたほかは、実施例1と同様に、車両用ディスクブレーキのブレーキ部および凹凸部分に形成した硬化塗膜の平滑性および密着性を評価した。
【0072】
[実施例8]
実施例8においては、エアー量を200リットル/分としたほかは、実施例1と同様に、車両用ディスクブレーキのブレーキ部および凹凸部分に形成した硬化塗膜の平滑性および密着性を評価した。
【0073】
[比較例1]
比較例1においては、被処理物に付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させる際の回転速度2を0rpm、すなわち、回転処理を行わなかったほかは、実施例1と同様に、車両用ディスクブレーキのブレーキ部および凹凸部分に形成した硬化塗膜の平滑性および密着性を評価した。
【0074】
[比較例2]
比較例2においては、エアー量を0リットル/分、すなわち、エアー処理を行わなかったほかは、実施例1と同様に、車両用ディスクブレーキのブレーキ部および凹凸部分に形成した硬化塗膜の平滑性および密着性を評価した。
【0075】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のディップコーティング装置、及びそれを用いたディップコーティング方法によれば、所定の浸漬槽、回転手段、及びエアー吹き付け手段を備えることにより、ディスクブレーキのように、重量物であって、かつ、複雑な形状をした被処理物に対しても、所定の中心軸が想定され、当該中心軸を中心に回転可能な形状の被処理物であれば、被覆処理液を、均一かつ容易に塗布することができるようになった。
したがって、本発明のディップコーティング装置、及びディップコーティング方法は、自動車、オートバイ、自転車、鉄道車両、航空機等におけるディスクブレーキを始めとする各種機械部品等の表面処理の効率化に、著しく寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0077】
1:ディップコーティング装置、10:浸漬槽、11:被覆処理液、12:貯蔵槽、13:連通穴、14:弁部材、20(20a、20b):回転手段、20a:回転駆動部、20b:軸受け部、21:回転軸、22:回転方向、23a:駆動突起部、23b:軸受け突起部、24:板状部、24´:尖状傾斜部、25棒状部、30:エアー吹き付け手段、40:軸部材、40a:駆動端部、40b:軸受け端部、42:軸芯部材、42a:軸芯端部、45:二股部、45´:尖状傾斜部、46:軸芯空洞部、43(43a、43b、43c):固定部材、43´(43´a、43´b、43´c):挟持部、45:載置部材、50(50a、50b):被処理物(ディスクブレーキ)、55:仮想中心軸、60:飛散防止部材、100:硬化装置、200:冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を被覆処理液に対して浸漬させるための浸漬槽と、
前記被処理物を、当該被処理物の仮想中心軸を中心として回転させて、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させて除去するための回転手段と、
前記回転手段により回転している状態の前記被処理物に対しエアーを吹き付けて、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、さらに除去するためのエアー吹き付け手段と、
を備えることを特徴とするディップコーティング装置。
【請求項2】
前記回転手段が、水平方向の回転軸を有するとともに、前記被処理物が固定された状態の軸部材を、前記回転軸上にて着脱自在に挟持するための回転駆動部と、軸受け部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のディップコーティング装置。
【請求項3】
前記回転駆動部が、前記軸部材の端部に設けてある駆動端部に対し、回転軸方向において着脱自在であるとともに、回転方向において固定された状態で嵌合するための駆動突起部を有し、かつ、
前記軸受け部が、前記軸部材のもう一方の端部に設けてある軸受け端部に対し、回転軸方向において着脱自在であるとともに、回転方向において回転自在な状態で嵌合するための軸受け突起部を有することを特徴とする請求項2に記載のディップコーティング装置。
【請求項4】
前記軸部材が、軸芯部材と、当該軸芯部材に対し、前記被処理物を固定するための複数の固定部材と、を含むとともに、それぞれの固定部材が、前記軸芯部材によって貫通される筒状物であって、前記軸部材の軸線方向において、それぞれの固定部材間に配置された前記被処理物を挟持するための挟持部を有することを特徴とする請求項2または3に記載のディップコーティング装置。
【請求項5】
前記浸漬槽が、前記被処理物を固定した状態の前記軸部材の下方に配置してあるとともに、上下方向に移動可能であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載のディップコーティング装置。
【請求項6】
前記エアー吹き付け手段が、往復運動が可能な複数のエアー吹き付けノズルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のディップコーティング装置。
【請求項7】
前記被処理物が、円板状または略円板状であり、かつ、その中央部に開口部を有する2つのディスクブレーキであるとともに、当該2つのディスクブレーキが、互いに対称的に向かい合わせとなるように、前記軸部材に対して固定してあることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のディップコーティング装置。
【請求項8】
被処理物の表面に対して被覆処理液を塗布するディップコーティング方法であって、
下記工程(a)〜(c)を含むことを特徴とするディップコーティング方法。
(a)前記被処理物を、浸漬槽に収容された前記被覆処理液に対して浸漬させる工程
(b)前記被処理物を、回転手段にて回転させて、当該被処理物に付着した余分な被覆処理液を、遠心力により飛散させて除去する工程
(c)前記回転手段により回転している状態の前記被処理物に対し、エアー吹き付け手段にてエアーを吹き付け、余分な被覆処理液を、さらに除去する工程
【請求項9】
前記回転手段の回転速度を300〜1000rpmの範囲内の値とすることを特徴とする請求項8に記載のディップコーティング方法。
【請求項10】
前記エアー吹き付け手段を往復運動が可能な複数のエアー吹き付けノズルとするとともに、前記被処理物における凹部に対して、局所的にエアーを吹き付けることを特徴とする請求項8または9に記載のディップコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−101831(P2011−101831A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256805(P2009−256805)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000150512)株式会社仲田コーティング (40)
【Fターム(参考)】