説明

ディーゼルエンジンの排気後処理装置

【課題】硫黄被毒解除処理に続けてフィルタ再生処理を行う場合においても、硫黄被毒処理を行いつつ、フィルタに占める結晶化度の相対的に低いスートの割合を多くし得る装置を提供する。
【解決手段】フィルタ(15)とNOxトラップ触媒(13)とを備え、NOxトラップ触媒の硫黄被毒解除処理に続けて前記フィルタの再生処理を行わせるディーゼルエンジンの排気後処理装置において、前記硫黄被毒解除処理時に結晶化度の相対的に低いスートが多く発生する第1の燃焼形態と、結晶化度の相対的に高いスートが多く発生する第2の燃焼形態とを、NOxトラップ触媒の硫黄被毒解除温度を維持するように選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はディーゼルエンジンの排気後処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気中のスート及びSOFからなるパティキュレートを捕集するフィルタを備え、フィルタの再生処理を行うものがある(特許文献1参照)。このものでは、フィルタの再生時期の近くになったら、結晶化度の相対的に低いスートを、結晶化度の相対的に高いスートを確実に燃焼させることができる量まで堆積させる。
そして、フィルタの再生時期になると、結晶化度の相対的に低いスートの燃焼温度まで昇温し、そのスートの燃焼熱によって結晶化度の相対的に高いスートの燃焼温度まで昇温させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−262896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フィルタとNOxトラップ触媒とを共に備えるレイアウトの場合、硫黄被毒解除処理を行い得る運転域と、フィルタの再生処理を行い得る運転域とが重なっているので、先にNOxトラップ触媒の硫黄被毒解除処理を行い、この処理に続けてフィルタの再生処理を行うことがある。
【0005】
このように硫黄被毒解除処理に続けてフィルタ再生処理を行う場合に上記特許文献1の技術を適用したとき、フィルタに占める結晶化度の相対的に低いスートの割合が少ないという問題がある。すなわち、フィルタ再生処理開始時に結晶化度の相対的に低いスートの割合が少なく、結晶化度の相対的に高いスートを確実に燃焼させることができる量まで堆積していないのでは、結晶化度の相対的に高いスートを確実に燃焼させる温度まで昇温できない。
【0006】
そこで本発明は、硫黄被毒解除処理に続けてフィルタ再生処理を行う場合においても、硫黄被毒処理を行いつつ、フィルタに占める結晶化度の相対的に低いスートの割合を多くし得る排気後処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のディーゼルエンジンの排気後処理装置は、流入する排気中に存在するスートを含んだパティキュレートを捕集するフィルタと、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値より大きいときに流入する排気中のNOxをトラップし、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値以上のときにトラップしたNOxを脱離浄化するNOxトラップ触媒とを備え、NOxトラップ触媒の硫黄被毒解除処理に続けて前記フィルタの再生処理を行わせるものを前提としている。そして、前記硫黄被毒解除処理時に結晶化度の相対的に低いスートが多く発生する第1の燃焼形態と、結晶化度の相対的に高いスートが多く発生する第2の燃焼形態とを、NOxトラップ触媒の硫黄被毒解除温度を維持するように選択する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1の燃焼形態の選択時に触媒温度が低下し、第2の燃焼形態の選択時に触媒温度が上昇する。触媒温度が相対的に低下しているときに結晶化度の相対的に低いスートが、燃焼することなくフィルタに到達する。すなわち、硫黄被毒解除処理中でも、結晶化度の相対的に低いスートをフィルタに堆積させることができることから、硫黄被毒解除処理に続けてフィルタ再生処理を行わせても、フィルタの再生効率を高めてフィルタの再生を従来装置より早期に終了させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態のディーゼルエンジンの排気後処理装置の概略構成図である。
【図2】結晶化度に対する燃焼温度の特性図である。
【図3】筒内温度、滞留時間、回転速度に対する結晶化度の特性図である。
【図4】硫黄被毒解除処理を行わせ得る運転域及びフィルタ再生処理を行わせ得る運転域の運転領域図である。
【図5】硫黄被毒解除モードにおける燃焼形態、筒内温度、スート結晶化度等の変化を示すタイミングチャートである。
【図6】燃焼形態切換処理を説明するためのフローチャートである。
【図7】燃焼形態切換処理を除いた残りの硫黄被毒解除処理を説明するためのフローチャートである。
【図8】フィルタ再生処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は本発明の第1実施形態のディーゼルエンジンの排気後処理装置を示す概略構成図である。図1において、ディーゼルエンジン1の吸気通路2には可変ノズル型のターボチャージャ3の吸気コンプレッサを備える。吸入空気は吸気コンプレッサによって過給され、インタークーラ4で冷却され、常開のスロットル弁5を通過した後、コレクタ6を経て、各気筒のシリンダ内へ流入する。燃料は、コモンレール式燃料噴射装置により、すなわち、高圧燃料ポンプ7により高圧化されてコモンレール8に送られ、各気筒の燃料噴射弁9からシリンダ内へ直接噴射される。シリンダ内に流入した空気と噴射された燃料はここで圧縮着火により燃焼し、排気は排気通路10へ流出する。
【0012】
排気通路10に流出した排気の一部は、EGRガスとして、EGR通路11によりEGR弁12を介して吸気側に還流される。排気の残りは、可変ノズル型のターボチャージャ3の排気タービンを通り、排気タービンを駆動する。
【0013】
エンジンコントロールユニット21には、アクセルセンサ22からのアクセル開度(アクセルペダルの踏込量のこと)ACC、クランク角センサ23からのエンジン回転速度Neの各信号が入力されている。そしてコントロールユニット21では、エンジン負荷(アクセル開度など)及びエンジン回転速度Neに基づいて、メイン噴射の燃料噴射時期及び燃料噴射量を算出し、これらに対応する開弁指令信号を燃料噴射弁9に出力する。また、エンジンコントロールユニット21では、目標EGR率と目標吸入空気量とが得られるようにEGR制御と過給圧制御を協調して行う。なお、エンジンコントロールユニット21は中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成されている。
【0014】
排気通路10の排気タービン下流には、酸素雰囲気で排気中のNOxをトラップ(例えば吸着)し、還元雰囲気ではトラップしていたNOxを脱離し、排気中のHCを還元剤として用いて還元・浄化するNOxトラップ触媒(LNC)13を備える。酸素雰囲気は排気の空気過剰率が1.0(理論空燃比相当の値)より大きいときに得られる。一方、還元雰囲気は排気の空気過剰率が1.0以下のときに得られる。
【0015】
NOxトラップ触媒13のNOx堆積量が所定値(閾値)に達すると、エンジンコントロールユニット21では、NOxトラップ触媒13を流れる排気を酸素雰囲気から還元雰囲気へと切換えるためリッチスパイク処理を行う。リッチスパイク処理では、排気の空気過剰率を1.0の目標空気過剰率tλとする。例えば、スロットル弁5の開度を全開状態から所定のスロットル弁開度へと切換える(スロットル絞りを行う)と共に、メイン噴射直後の膨張行程あるいは排気行程でポスト噴射を行って、排気通路10に排出される未燃のHC量を増やし、このHCを還元剤としてNOxトラップ触媒13に供給する。そして、ポスト噴射期間を経過したときポスト噴射を終了しスロットル弁5を全開位置へと戻す。
【0016】
エンジン1に供給する燃料中には硫黄成分が含まれており、この硫黄成分が燃焼過程で硫黄酸化物(以下「SOx」という。)となる。この硫黄酸化物は硫酸塩としてNOxの代わりにNOxトラップ触媒13にトラップされる。硫酸塩は硝酸塩よりも安定なので、排気が還元雰囲気となっても硫酸塩の一部しか還元されず、NOxトラップ触媒13に堆積するSOxの量は時間と共に増加し、NOxトラップ触媒13のNOxトラップ性能が低下する。これが硫黄被毒である。
【0017】
硫黄被毒を解消するには、NOxトラップ触媒13を高温にしてNOxトラップ触媒13からSOxを脱離させることである。このため、SOx堆積量が所定値(閾値)に達すると、エンジンコントロールユニット21では、硫黄被毒解除処理を行う。硫黄被毒解除処理により、排気の空気過剰率を1.0より多少小さな目標空気過剰率tλ(0.95<tλ≦1.0)として排気を昇温し、NOxトラップ触媒13を硫黄被毒解除温度に維持する。硫黄被毒解除温度は例えば700℃程度である。これによって、NOxトラップ触媒13からSOxを全て脱離させる(硫黄被毒を解消する)。硫黄被毒解除処理の開始から所定時間が経過したら、硫黄被毒解除処理を終了する。
【0018】
フィルタ13の下流には、排気中のパティキュレートを捕集するフィルタ(DPF)15を配置してある。
【0019】
フィルタ15のパティキュレート堆積量が所定値(閾値)に達すると、エンジンコントロールユニット21ではフィルタ15を再生する。このため、フィルタ15の入口圧とフィルタ15の出口圧との間の差圧を検出する差圧センサ25を設けてある。差圧センサ25により検出される実際の差圧ΔPが第1所定値ΔP1を超えたときフィルタ再生時期になっと判断し、フィルタ15の再生処理を行う。フィルタ再生処理により、排気の空気過剰率を1.0より多少大きな目標空気過剰率tλ(1.0<tλ≦1.3)として排気を昇温し、フィルタ15を高温にしてフィルタ15に堆積しているパティキュレートを燃焼させる。例えばメイン噴射直後の膨張行程あるいは排気行程でポスト噴射を行うことにより排気をパティキュレートの燃焼する温度にまで上昇させてフィルタ再生処理を行い、フィルタ15に堆積しているパティキュレートを燃焼除去し、フィルタ15を再生する。目標となる再生温度が得られるようにエンジンの負荷と回転速度と(運転条件)に応じてポスト噴射量とポスト噴射時期とを予め定めておき、そのときのエンジンの負荷と回転速度とに応じたポスト噴射量とポスト噴射時期とが得られるようにポスト噴射を行う。
【0020】
フィルタ再生処理によってパティキュレートが燃焼除去されれば、差圧センサ25により検出される実際の差圧ΔPが小さくなる。差圧センサ25により検出される実際の差圧ΔPが上記第1所定値ΔP1より小さな第2所定値ΔP2未満(ΔP2<ΔP1)となったとき、フィルタ15の再生が終了したと判断し、フィルタ再生処理を終了する。
【0021】
フィルタ15に堆積しているパティキュレートの全てが燃焼除去される完全再生を行わせるには再生処理時にフィルタ15の許容温度を超えない範囲で少しでもパティキュレートの燃焼温度を高めてやることが必要となる。このため本実施形態ではフィルタ15の上流に酸化触媒(貴金属)14を配置してある。この酸化触媒14によりフィルタ15の再生処理のためのポスト噴射によって流入する排気成分(HC、CO)を燃焼させて排気の温度を高めフィルタ13内のパティキュレートの燃焼を促進させる。なお、フィルタ15を構成する担体に酸化触媒をコーティングしてもよい。このときには、パティキュレートが燃焼する際の酸化反応を促進してその分フィルタ15のベッド温度を実質的に上昇させ、フィルタ15内のパティキュレートの燃焼を促進させることができる。
【0022】
なお、触媒は酸化触媒14に限られない。酸化機能を備える触媒であれば、酸化触媒に代えることができる。図1は酸化触媒14として三元触媒(TWC)を採用している。
【0023】
さて、フィルタ13に堆積するパーティキュレートは、炭素粒子であるドライスート(以下単に「スート」という。)と、ミスト状のHCである有機溶剤可溶成分(SOF)とから構成されている。SOFは300〜450℃程度で燃焼するのに対してスートは600〜650℃で燃焼する。
【0024】
さらに、スートの燃焼温度は、スートの結晶化度により異なり、図2に示したようにスートの結晶化度が相対的に低くなるほどスートの燃焼温度が低くなる。ここで、スートの構造の違いを表す指標としてスートの「結晶化度」を用いている。スートは、層状構造を有している。層と層との間隔が狭くなるほどスートの結晶化度が高くなる。層と層との間隔が最も狭いものが黒鉛に相当する。排気中のスートには層と層との間隔が様々のものを含んでいるわけである。結晶化度の相対的に低いスートは、少なくとも300〜400℃よりも高い温度であって結晶化度の相対的に高いスートが燃焼する温度(600〜650℃)に到達する前に燃焼を開始する。従って、結晶化度の相対的に低いスートが燃焼する温度までフィルタ15を昇温し、結晶化度の相対的に低いスートをまず燃焼させる。すると、結晶化度の相対的に低いスートが燃焼するときに発生する燃焼熱によって結晶化度の相対的に高いスートが燃焼する温度(600〜650℃)までフィルタ15がさらに昇温する。これによって、フィルタ15に堆積している高結晶化スートをも燃焼させることができる。結晶化度によって、結晶化度の相対的に低いスートと結晶化度の相対的に高いスートとの2種類のスートに分け、スートを2段階に燃焼させるのである。以下、結晶化度の相対的に低いスートを「低結晶化スート」、結晶化度の相対的に高いスートを「高結晶化スート」という。
【0025】
ただし、低結晶化スートが少ない場合にはフィルタ15を十分昇温させることができない場合がある。スートの結晶化度は図3に示すように筒内の燃焼状態と相関がある。すなわち、筒内温度が相対的に低い燃焼形態(またはエンジン回転速度が相対的に高い状態)でスートの結晶化度が相対的に低くなる。一方、筒内温度が相対的に高い燃焼形態(またはエンジン回転速度が相対的に低い状態)でスートの結晶化度が相対的に高くなる。なお、エンジン回転速度が相対的に高い状態でスートの結晶化度が相対的に低くなるのは、燃焼ガスが筒内に滞留する時間が短く、スートの結晶化が進まないためである。
【0026】
そこで、フィルタ再生処理を開始する前に、低結晶化スートが多く発生する燃焼形態でエンジン1を運転することにより、フィルタ再生処理開始時に低結晶化スートがフィルタ15に十分に堆積した状態にしておく。そして、フィルタ再生処理を、低結晶化スートが燃焼する温度まで昇温させることによって開始させるものがある(特開2007−262896号公報参照)。このものによれば、高結晶化スートが燃焼する温度にまで昇温させる必要がなくなる。例えばポスト噴射や燃料増量により排気の昇温を行わせている場合に、高結晶化スートが燃焼する温度にまで昇温させる必要がなくなると、その分ポスト噴射量や燃料増量を低減できることとなり、燃費が向上する。
【0027】
一方、硫黄被毒解除処理を行わせ得る運転域とフィルタ15の再生処理を行わせ得る運転域とは、図4に示したように重複する(フィルタ15の再生処理を行わせ得る運転域に硫黄被毒解除処理を行わせ得る運転域が含まれる)。かつ、各処理は排気の昇温操作を伴う点で共通している。従って、硫黄被毒解除処理の終了に続けてフィルタ再生処理に移行させることが燃費向上の点で好ましい。これは、2つの処理を時間をおいて個別に行うのでは、その都度、ポスト噴射や燃料増量による昇温操作を行わねばならず、これによって燃費の低下を招いてしまうためである。
【0028】
しかしながら、硫黄被毒解除処理では、NOxトラップ触媒13の触媒温度(以下、単に「触媒温度」ともいう。)LNCtempを上記のように硫黄被毒解除温度(700℃程度)に維持している。この高温の排気がフィルタ15を流れると、フィルタ15に堆積している低結晶化スートが燃焼し消失してしまう。つまり、フィルタ再生処理に移行したとき、低結晶化スートが、高結晶化スートを確実に燃焼させることができる量まで堆積していないこととなる。これでは、上記のようにフィルタ再生処理を、低結晶化スートが燃焼する温度まで昇温させることによって開始させても、高結晶化スートを確実に燃焼させる温度にまで昇温できない。高結晶化スートを確実に燃焼させる温度にまでフィルタ15を昇温できないと、フィルタ15の再生が不完全に終わってしまう。
【0029】
そこで本発明の第1実施形態では、硫黄被毒解除処理時に、低結晶化スートが多く発生する燃焼形態(この燃焼形態を、以下「第1の燃焼形態」という。)での運転と、高結晶化スートが多く発生する燃焼形態(この燃焼形態を、以下、「第2の燃焼形態」という。)での運転とを交互に行わせる。これによって、硫黄被毒解除温度を維持させつつ、フィルタ再生処理前の硫黄被毒解除処理中にあっても低結晶化スートを多く発生させてフィルタ15に堆積させるようにする。
【0030】
ここで、第1の燃焼形態としては、通常の(あるいは一般的な)ディーゼル燃焼の形態を採用する。言い換えると、通常のディーゼルエンジンでは、燃費向上の観点より燃焼温度が高くなるようにエンジンの仕様を定めており、高結晶化スートが多く発生している。
【0031】
一方、第2の燃焼形態とするには、燃焼時の筒内温度を通常のディーゼル燃焼の場合より相対的に低下させることである。そのためには次の少なくとも一つを実行すればよい。
【0032】
〈1〉通常のディーゼル燃焼の場合よりメイン噴射時期を遅らせる。メイン噴射時期を遅らせると、メイン噴射時期を遅らせない場合より燃焼熱の発生が遅れ、その分だけ燃焼時の筒内温度が相対的に低い燃焼形態となる。
【0033】
〈2〉EGRを行っている場合には通常のディーゼル燃焼の場合よりEGR率を増大させる。EGR率を増大させると、EGR率を増大させない場合より筒内の不活性ガスの割合が大きくなり、その分だけ燃焼時の筒内温度が相対的に低い燃焼形態となる。
【0034】
〈3〉通常のディーゼル燃焼の場合より吸気温度を低下させる。吸気温度を低下させると、吸気温度を低下させない場合より燃焼開始時の温度が低くなり、その分だけ燃焼時の筒内温度が相対的に低い燃焼形態となる。
【0035】
〈4〉可変動弁装置を備える場合には通常のディーゼル燃焼の場合より有効圧縮比を低減する。吸気弁閉時期IVCを吸気下死点より後に遅らせることによって、有効圧縮比を低減することができる。有効圧縮比を低減すると、有効圧縮比を低減しない場合より筒内圧力が高くならず、その分だけ燃焼時の筒内温度が相対的に低い燃焼形態となる。
【0036】
〈5〉通常運転モードにおいてもパイロット噴射を行っている場合には通常のディーゼル燃焼の場合より、パイロット噴射時期を進める。パイロット噴射時期を進めると、パイロット噴射を進めない場合より着火遅れ期間が長くなり、その分だけ燃焼時の筒内温度が相対的に低い燃焼形態となる。
【0037】
以下、通常のディーゼル燃焼を「高温側燃焼」、燃焼時の筒内温度を通常のディーゼル燃焼より低下させた燃焼を「低温側燃焼」という。第2の燃焼形態はこの高温側燃焼を行わせることによって、 第1の燃焼形態は低温側燃焼を行わせることによって得られる。
【0038】
これを図5を参照してさらに説明する。図5は、通常運転モード中のt1のタイミングで硫黄被毒解除許可条件が成立し硫黄被毒解除モードに続けてフィルタ再生モードへと切換えた場合に、燃焼形態、筒内温度、スート結晶化度がどのように変化するのかをモデルで示している。
【0039】
ここで、図5第2段目では高温側燃焼を「高」、低温側燃焼を「低」で記載している。図5第3段目では燃焼時の筒内温度が相対的に高い燃焼形態であることを「高」で、燃焼時の筒内温度が相対的に低い燃焼形態であることを「低」で記載している。図5第4段目ではスート結晶化度が相対的に高いことを「高」で、スート結晶化度が相対的に低いことを「低」で記載している。図5第5段目ではエンジンアウト(排気通路10の入口)のHC排出量が相対的に少ないことを「少」で、同じくHC排出量が相対的に多いことを「多」で記載している。
【0040】
ここでは、高温側燃焼(第2の燃焼形態)と低温側燃焼(第1の燃焼形態)とを一定の周期Δt1で切換える(選択する)場合を示している。すなわち、図5第2段目、第3段目に示したように、t1〜t2、t3〜t4、t5〜t6、t7〜t8、t9〜t10の5つの各期間で高温側燃焼を、t2〜t3、t4〜t5、t6〜t7、t8〜t9、t10〜t11の5つの各期間で低温側燃焼を行わせる。言い換えると、図5では硫黄被毒解除処理中に高温側燃焼を5回、低温側燃焼を5回交互に選択している。高温側燃焼と低温側燃焼とを交互に選択する回数は、複数回であることが好ましいが、少なくとも1回ずつ選択すればよい。スート結晶化度は、高温側燃焼のとき相対的に高くなり、低温側燃焼のとき相対的に低くなる(図5第4段目参照)。
【0041】
一方、エンジンアウトのHC排出量は、高温側燃焼のとき相対的に少なくなり、低温側燃焼のとき相対的に多くなる(図5第5段目参照)。低温側燃焼のときにエンジンアウトのHC排出量が相対的に多くなるのは、低温側燃焼であるときには、筒内に燃え残る燃料が相対的に多くなり、筒内に燃え残った燃料がHCとして排気通路10に排出されるためである。
【0042】
この燃え残った燃料(HC)は排気通路10に入って後燃えし、排気の温度を上昇させるため、低温側燃焼のときには触媒温度LNCtempが低温側燃焼の開始より所定のスピードで上昇する(図5第6段目参照)。「所定のスピードで上昇する」とは、触媒温度LNCtempがステップ的に高くなるのではなく、傾きを有して徐々に高くなることをいう。
【0043】
この逆に、高温側燃焼のときには触媒温度LNCtempが所定のスピードで下降する(図5第6段目参照)。これは、高温側燃焼のときには筒内に燃え残る燃料が低温側燃焼時よりも相対的に少なく排気通路10に出た排気はほとんど後燃えすることがないためである。すなわち、排気はエンジン出口から離れるほど冷やされて低温となり、これによって触媒温度LNCtempが低下する。ここで、「所定のスピードで下降する」とは、触媒温度LNCtempがステップ的に低くなるのではなく、傾きを有して徐々に低くなることをいう。
【0044】
このように低温側燃焼を行わせる(選択する)とき、触媒温度LNCtempが上昇する一方で、高温側燃焼を行わせる(選択する)とき触媒温度LNCtempが下降する。この結果、触媒温度LNCtempは、図5第6段目に示したように上昇と下降とを一定の周期Δt1で繰り返す。ここで、触媒温度の上昇程度(傾き)や下降程度(傾き)は、エンジン仕様により定まり、エンジン仕様が異なれば、触媒温度の上昇程度(傾き)や下降程度(傾き)も異なったものとなる。
【0045】
この場合に、硫黄被毒解除温度を目標触媒温度tTcatとして設定する。ここで、「硫黄被毒解除温度」とは、NOxトラップ触媒13からSOxが離脱し得る温度のことである。具体的には700℃程度を採用する(図5第6段目参照)。従って、目標触媒温度tTcatは700℃程度である。
【0046】
目標触媒温度tTcatにはこの目標触媒温度から同じ幅だけ離れた上限値Tup及び下限値Tlow1を設ける。上限値Tup及び下限値Tlow1としては、触媒温度LNCtempの平均値が硫黄被毒解除温度(つまり目標触媒温度)を維持しつつ、低温側燃焼のときに相対的に多く発生した低結晶化スートが燃焼することなくフィルタ15に到達するように設定する。例えば、目標触媒温度の上限値Tupとして750℃程度を、下限値Tlow1として650℃程度を設定する(図5第6段目参照)。上限値Tup及び下限値Tlow1を設けることで、低結晶化スートは触媒温度LNCtempが相対的に低くなっている温度域(図5第6段目に楕円で囲った部分)で、燃焼することなくフィルタ15に到達する。NOxトラップ触媒13で燃焼することなく低結晶化スートがすり抜け、下流のフィルタ15に堆積するのである。
【0047】
このようにして、硫黄被毒解除処理中(硫黄被毒解除モード)でありながら、低温側燃焼のときに多く発生した低結晶化スートがフィルタ15に徐々に堆積していく(図5最下段参照)。なお、図5最下段に示すフィルタ13内のスート堆積量は低結晶化スートと高結晶化スートとの合計を表しているが、低結晶化スートが多く含まれていることはもちろんである。
【0048】
一方、触媒温度LNCtempの平均値は硫黄被毒解除温度である700℃程度の高温に保たれる。この高温でNOxトラップ触媒13からSOxを最適に脱離させることができ、硫黄被毒解除処理を良好に行わせることができる。
【0049】
このように上限値と下限値の間の温度範囲で触媒温度が下降と上昇とを繰り返すように高温側燃焼での運転と低温側燃焼での運転とを交互に行わせることで、硫黄被毒解除温度を維持しつつフィルタ15に低結晶化スートを堆積させ得ることとなった。
【0050】
さて、触媒温度の上昇程度(傾き)及び下降程度(傾き)が一定としたとき、上記一定の周期Δt1を短くするほど、触媒温度は一定値に安定し、NOxトラップ触媒13からのSOxの脱離が効率よく行われる。しかしながらその一方で、下限値Tlow1側の温度域に滞在する時間が相対的に短くなる。下限値Tlow1側の温度域に滞在する時間が短くなると、低結晶化スートがNOxトラップ触媒13をすり抜ける量がその分だけ少なくなる。
【0051】
また、一定の周期Δt1を長くするほど、下限値Tlow1側の温度域に滞在する時間が相対的に長くなり、低結晶化スートがNOxトラップ触媒13をすり抜ける量がその分だけ多くなる。しかしながらその一方で、触媒温度は一定値に安定しない。触媒温度が一定値に安定しないと、NOxトラップ触媒13からのSOxの脱離を良好に行うことができない。
【0052】
従って、低結晶化スートが燃焼することなくNOxトラップ触媒13をすり抜け得るように、かつNOxトラップ触媒13からSOxが効率よく脱離し得るように両者を勘案して一定の周期Δt1を定めることが好ましい。
【0053】
硫黄被毒解除処理の開始時であるt1のタイミングでは、まず高温側燃焼を開始させている。これは、t1のタイミングの直前で触媒温度が高温となっている場合に、低温側燃焼をまず行わせたのでは、触媒温度が目標触媒温度の上限値Tupを大きく上回ってしまうことが考えられるので、そうならないようにするためである。
【0054】
硫黄被毒解除処理の終了タイミングであるt11より所定時間前のt9のタイミングから、上記一定の周期Δt1より長めの所定時間Δt2、高温側燃焼を行わせて、下限値Tlow1より低い所定温度Tlow2にまで触媒温度を低下させる。そして、触媒温度が所定温度Tlow2にまで低下したt10のタイミングで低温側燃焼に切換える。t10のタイミングより、上記所定時間Δt2と同じ時間だけ低温側燃焼を行わせ、触媒温度を上昇させ、t11の硫黄被毒解除処理の終了タイミングで目標触媒温度の上限値Tupに到達させる。すなわち、フィルタ再生処理に移行する直前の硫黄被毒解除処理の後半から硫黄被毒解除処理の終了タイミングまでの間(つまり硫黄被毒解除処理の最後)、最終低温側燃焼を行わせることで、触媒温度を上昇させている。
【0055】
ここで、t9からt10までの高温側燃焼は、硫黄被毒解除処理中において最後に行われる高温側燃焼である。この最後に行われる高温側燃焼を、それ以前のt1〜t2、t3〜t4、t5〜t6、t7〜t8に行われる他の高温側燃焼と区別するため、「最終高温側燃焼」という。同様に、t10からt11までの低温側燃焼は、硫黄被毒解除処理中において最後に行われる低温側燃焼である。この最後に行われる低温側燃焼を、それ以前のt2〜t3、t4〜t5、t6〜t7、t8〜t9に行われる他の低温側燃焼と区別するため、「最終低温側燃焼」という。
【0056】
硫黄被毒解除処理の最後に触媒温度を上昇させる理由は、触媒温度が低下している状態よりも触媒温度が上昇している状態でフィルタ再生処理を開始するほうが、フィルタ再生処理開始時のフィルタ温度が高くなり、フィルタ15の再生が効率よく行われるためである。
【0057】
また、最終高温側燃焼及び最終低温側燃焼を行わせる各時間を上記一定の周期Δt1より長めの所定時間Δt2として、t10での触媒温度を下限値Tlow1より低い所定温度Tlow2にまで低下させる理由は、次の通りである。すなわち、t11の硫黄被毒解除処理の終了タイミングに向かって上昇する触媒温度の時間を長くすることで、フィルタ再生開始タイミングでフィルタ15が高温状態にあるようにし、フィルタ15の再生を良好に開始させるためである。
【0058】
また、t10のタイミングでは、触媒温度が所定温度Tlow2にまで低下する。これによって、t9からt11までの期間(=2×Δt2)に低結晶化スートが、燃焼することなくNOxトラップ触媒13をすり抜けてフィルタ15に供給される量が、それ以前の例えばt7からt9までの期間(=2×Δt1)よりも多くなる。この多くなった低結晶化スートの供給を受けて、フィルタ15に堆積しているスートの燃焼を確実に開始させることができる。
【0059】
このように、硫黄被毒解除処理の最後に最終高温側燃焼及び最終低温側燃焼を行わせることで、フィルタ再生処理開始直前でのフィルタ温度を高くし得る上に、低結晶化スートをフィルタ15に多く供給してフィルタ15でのスートの燃焼開始を容易にし得る。
【0060】
所定時間Δt2によって定まる所定温度Tlow2は低いほどよいともいえるが、下げすぎると今度は昇温に時間を要するので、所定時間Δt2は適合により定める。
【0061】
こうして、硫黄被毒解除処理は、t1のタイミングからの高温側燃焼で始まり、t10のタイミングからの最終低温側燃焼で終わることとなった。ここでは簡単化のため、エンジン1の一定の運転時間毎に硫黄被毒解除モードに切換えるとすると、硫黄被毒解除温度(=目標触媒温度)が定まれば、硫黄被毒解除処理を行う時間Δt3が定まる。そして、この硫黄被毒解除処理時間Δt3内に高温側燃焼と低温側燃焼とが同じ回数実行されるように硫黄被毒解除処理時間Δt3を調整する。
【0062】
t11のタイミングでフィルタ再生処理を開始し、例えばスロットル弁5の調整とポスト噴射とを行うことによって、低結晶化スートが燃焼し得る温度にまで昇温する。すると、それまでフィルタ15に堆積させてあった低結晶化スートが先に燃焼を開始する。そして、低結晶化スートが燃焼するときに発生する燃焼熱によって高結晶化スートが燃焼する温度(600〜650℃)にまでフィルタ15が昇温する。これによって、フィルタ15に堆積している高結晶化スートまでが燃焼する。このため、フィルタ15内のスート堆積量はt11のタイミングより急激に減少する(図5最下段参照)。
【0063】
この急減するスート堆積量がt12のタイミングで所定値となったとき、差圧センサ25により検出される実際の差圧ΔPが第2所定値ΔP2未満となってフィルタ15の再生が終了したと判断される。これによって、フィルタ再生処理(フィルタ再生モード)を終了し、通常運転モードに切換える。
【0064】
このように、本実施形態によれば、硫黄被毒解除処理を終了した直後であっても、この処理中にフィルタ15に堆積させた低結晶化スートを用いてスートの燃焼を開始させることで、高結晶化スートが燃焼する温度にまでフィルタ15を確実に昇温させ得る。これによって、本実施形態の処理を採用しない場合よりフィルタ15の再生を早期に終了させることができる。
【0065】
エンジンコントロールユニット21で実行されるこの制御を図6、図7、図8のフローチャートに基づいて説明する。
【0066】
図6はこの硫黄被毒解除処理のうち、高温側燃焼と低温側燃焼とを交互に切換える燃焼形態切換処理を行わせるためのもの、図7は硫黄被毒解除処理のうちから燃焼形態切換処理を除いた残りの処理を行わせるためのである。図7と図6とは並列的に実行する。両者を統合した1つのフローチャートで構成してもかまわない。図6に示す燃焼形態切換処理のフローから先に説明する。
【0067】
図6のフローは一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。図6においてステップ1では硫黄被毒解除フラグdesulをみる。硫黄被毒解除フラグdesul=0であるときには、そのまま今回の処理を終了する。
【0068】
ここで、硫黄被毒解除処理は簡単にはエンジン1の運転時に一定の時間が経過する毎に実行するようにしている。前回の硫黄被毒解除処理の終了から一定の時間が経過したときには、そのときの運転点が図4に示した硫黄被毒解除可能運転域に含まれているか否か、またそのときの運転条件が、定常の運転条件あるいは定常に近い運転条件であるか否かをみる。ここで、「定常の運転条件」とは、エンジンの負荷と回転速度とがそれほど変化しない運転条件のことである。エンジンの負荷と回転速度とから定まる運転点が図4に示した硫黄被毒解除可能運転域に含まれており、かつ運転条件が定常の運転条件であるときに、硫黄被毒解除許可条件が成立し硫黄被毒解除フラグdesul=1となる。運転点が図4に示した硫黄被毒解除可能運転域に含まれていなかったり、運転条件が定常の運転条件でないときには、硫黄被毒解除許可条件が成立しないので、硫黄被毒解除フラグdesul=0のままである。運転条件が定常の運転条件でないときに硫黄被毒解除許可条件を成立させないのは、エンジンの負荷や回転速度が大きく変化する過渡時には硫黄被毒解除温度を一定に維持することが困難となるためである。
【0069】
ステップ1で硫黄被毒解除フラグdesul=1(硫黄被毒解除モード)であれば、ステップ2に進み、前回に硫黄被毒解除フラグdesul=1であったか否かをみる。前回に硫黄被毒解除フラグdesul=0であった、つまり今回に硫黄被毒解除フラグdesulがゼロから1に切換わったときにはステップ3〜5に進む。
【0070】
ステップ3〜5は硫黄被毒解除モードへの切換タイミング(硫黄被毒解除処理の開始タイミング)で行う操作である。
【0071】
まず、ステップ3ではタイマを起動する(タイマ値t1=0とする)。このタイマは硫黄被毒解除モードになってからの経過時間を計測するためのものである。
【0072】
ステップ4では高温側燃焼を行わせるため高温側燃焼フラグ=1とすると共に、ステップ5で高温側燃焼を開始する。ここでの高温側燃焼は、通常の(あるいは一般的な)ディーゼル燃焼を行わせるものである。本実施形態では、硫黄被毒解除モード移行前の通常運転モードで通常の(あるいは一般的な)ディーゼル燃焼を行わせているので、その同じディーゼル燃焼を継続させるだけで高温側燃焼が行われる。硫黄被毒解除モードへの切換タイミングでまず高温側燃焼を行わせることとしたのは、硫黄被毒解除処理の開始タイミングで触媒温度LNCtempをまず下げるためである。
【0073】
一方、ステップ2で前回も硫黄被毒解除フラグdesul=1であった、つまり継続して硫黄被毒解除フラグdesul=1であるとき(硫黄被毒解除モード中)にはステップ6以降に進む。ステップ6以降は硫黄被毒解除モード中に行う操作である。
【0074】
ステップ6ではタイマ値t1と所定時間Δt4を比較する。所定時間Δt4は最終高温側燃焼を開始するタイミングを定める値である。図5を参照すると、硫黄被毒解除処理時間Δt3から所定時間Δt2の2倍を差し引くことにより計算される。硫黄被毒解除処理時間Δt3及び所定時間Δt2は予め定めておく値であるので、所定時間Δt4も予め定めておく値となる。タイマ値t1が所定時間Δt4未満であれば最終高温側燃焼を開始するタイミングに到達していないと判断し、ステップ8〜14、5の操作を実行する。
【0075】
ステップ7ではタイマ値t1を制御周期(つまり10ms)の分だけインクリメントする。
【0076】
ステップ8では高温側燃焼フラグをみる。高温側燃焼フラグは硫黄被毒解除モードへの切換タイミングで1となっているので(ステップ4参照)、ステップ9に進み、触媒温度LNCtempと目標触媒温度の下限値Tlow1を比較する。触媒温度LNCtempは温度センサ26により検出されている(図1参照)。目標触媒温度の下限値Tlow1は約650℃である。
【0077】
上記のように、硫黄被毒解除モードへの切換タイミングでまず高温側燃焼を行わせることとしているので、触媒温度LNCtempは低下していく。触媒温度LNCtempが目標触媒温度の下限値Tlow1未満となっていないときには、ステップ9よりステップ5に進んで高温側燃焼の実行を継続する。
【0078】
高温側燃焼の実行を継続すると触媒温度LNCtempは低下してゆき、やがて目標触媒温度の下限値Tlow1未満となる。このときには触媒温度LNCtempを下降から上昇へと反転させるため、ステップ9よりステップ10、11に進み、高温側燃焼フラグ=0とすると共に、低温側燃焼を開始する。上記〈1〉〜〈5〉の少なくとも一つを実行することによって低温側燃焼を開始させる。この低温側燃焼の開始で触媒温度LNCtempは上昇してゆく。
【0079】
ステップ10で高温側燃焼フラグ=0としたことで、次回にはステップ8よりステップ12に進み、触媒温度LNCtempと目標触媒温度の上限値Tupを比較する。目標触媒温度の上限値Tupは約750℃である。触媒温度LNCtempが目標触媒温度の上限値Tupを超えていないときには、ステップ12よりステップ11に進んで低温側燃焼の実行を継続し触媒温度LNCtempを上昇させる。
【0080】
低温側燃焼の実行を継続すると触媒温度LNCtempはやがて目標触媒温度の上限値Tupを超える。このときには触媒温度LNCtempを上昇から下降へと反転させるためステップ12よりステップ13、14に進み、高温側燃焼フラグ=1とすると共に、高温側燃焼を開始する。つまり、上記〈1〉〜〈5〉の全ての実行をやめて、低温側燃焼から通常の(あるいは一般的な)ディーゼル燃焼へと切換え、高温側燃焼を開始させる。この高温側燃焼の開始で触媒温度LNCtempは下降してゆく。
【0081】
ステップ13で高温側燃焼フラグ=1としたことで次回にはステップ8よりステップ9に進み、触媒温度LNCtempと目標触媒温度の下限値Tlow1を比較する。触媒温度LNCtempが目標触媒温度の下限値Tlow未満でないときには、ステップ9よりステップ5に進んで高温側燃焼の実行を継続し触媒温度LNCtempを下降させる。
【0082】
高温側燃焼の実行を継続すると触媒温度LNCtempはやがて目標触媒温度の下限値Tlow1未満となる。このときには触媒温度LNCtempを下降から上昇へと反転させるためステップ9よりステップ10、11に進み、高温側燃焼フラグ=0とすると共に、低温側燃焼を開始する。低温側燃焼の開始で触媒温度LNCtempは上昇してゆく。
【0083】
ステップ10で高温側燃焼フラグ=0としたことで、次回にはステップ8よりステップ12に進み、触媒温度LNCtempと目標触媒温度の上限値Tupを比較する。触媒温度LNCtempが目標触媒温度の上限値Tupを超えていないときには、ステップ12よりステップ11に進んで低温側燃焼の実行を継続し触媒温度LNCtempを上昇させる。
【0084】
低温側燃焼の実行を継続すると触媒温度LNCtempはやがて目標触媒温度の上限値Tupを超える。このときには触媒温度LNCtempを上昇から下降へと反転させるためステップ12よりステップ13、14に進み、高温側燃焼フラグ=1とすると共に、高温側燃焼を開始する。
【0085】
後は同様であり、目標触媒温度の下限値Tlow1と上限値Tupとのあいだで触媒温度LNCtempが下降と上昇とを繰り返すように高温側燃焼での運転と低温側燃焼での運転とを交互に行わせる。
【0086】
ステップ7の操作を繰り返し行っていると、やがてステップ6でタイマ値t1が所定時間Δt4以上となる。このときには、最終高温側燃焼を開始するタイミングになったと判断してステップ15に進み、タイマ値t1と硫黄被毒解除処理時間Δt3を比較する。硫黄被毒解除処理時間Δt3(Δt3>Δt4)は、予め適合により定めている。タイマ値t1が硫黄被毒解除処理時間Δt3未満であれば硫黄被毒解除処理の終了タイミングになっていないと判断し、ステップ16に進みタイマ値t1をインクリメントする。
【0087】
ステップ17では高温側燃焼フラグをみる。ここでは、簡単のため図5に示した通り硫黄被毒解除処理が進行し、ステップ15に初めて進んできたとき、前回まで低温側燃焼が行われていた(高温側燃焼フラグ=0であった)とする。このときにはステップ17よりステップ18に進み、触媒温度LNCtempと所定温度Tlow2を比較する。所定温度Tlow2は目標触媒温度の下限値Tlow1よりも低い値で、予め定めておく。触媒温度LNCtempが所定値Tlow2未満でないときには、ステップ18よりステップ19に進んで最終高温側燃焼を開始する。最終高温側燃焼は高温側燃焼と変わりない。すなわち、上記〈1〉〜〈5〉の全ての実行をやめて、低温側燃焼から通常の(あるいは一般的な)ディーゼル燃焼へと切換え、最終高温側燃焼を開始させる。この最終高温側燃焼の開始で触媒温度LNCtempは低下する。
【0088】
触媒温度LNCtempが所定値Tlow2未満でないときにはステップ19に進み、ステップ19の操作を繰り返す。最終高温側燃焼の実行を継続することで触媒温度LNCtempは低下し、やがて触媒温度LNCtempが所定温度Tlow2未満となる。このときには触媒温度LNCtempを下降から上昇に反転させるためステップ18よりステップ20、21に進み、高温側燃焼フラグ=0とすると共に、最終低温側燃焼を開始する。最終低温側燃焼は低温側燃焼と変わりない。すなわち、上記〈1〉〜〈5〉の少なくとも一つを実行することによって最終低温側燃焼を開始させる。この最終低温側燃焼の開始で触媒温度LNCtempは上昇する。
【0089】
次回より、ステップ17からステップ18、20を飛ばしてステップ21に進む。ステップ21での最終低温側燃焼の実行を継続することで触媒温度LNCtempは上昇してゆく。
【0090】
この触媒温度LNCtempの上昇により触媒温度LNCtempが目標触媒温度の上限値Tupにほぼ到達するタイミングでタイマ値t1が硫黄被毒解除処理時間Δt3以上となる。このときには、硫黄被毒解除処理の終了タイミングになったと判断して、ステップ15よりステップ22に進み、通常のディーゼル燃焼(=高温側燃焼)に切換える。すなわち、上記〈1〉〜〈5〉の全ての実行をやめて、通常のディーゼル燃焼へと切換える。これで硫黄被毒解除処理のうちの燃焼形態切換処理を終了する。
【0091】
次に、硫黄被毒解除処理のうちから燃焼形態切換処理を除いた残りの処理を図7に示すフローを用いて説明する。
【0092】
図7のフローは、例えば燃料噴射タイミング毎に実行する。図7においてステップ31、32の操作は、図6のステップ1、2の操作と同じである。すなわち、ステップ31では硫黄被毒解除フラグdesulをみる。硫黄被毒解除フラグdesul=0であるときには、そのまま今回の処理を終了する。
【0093】
ステップ31で硫黄被毒解除フラグdesul=1(硫黄被毒解除モード)であれば、ステップ32に進み、前回に硫黄被毒解除フラグdesul=1であったか否かをみる。前回に硫黄被毒解除フラグdesul=0であった、つまり今回に硫黄被毒解除フラグdesulがゼロから1に切換わったときにはステップ33、34に進む。
【0094】
ステップ33、34は硫黄被毒解除モードへの切換タイミング(硫黄被毒解除処理の開始タイミング)で行う操作である。
【0095】
まず、ステップ33では、排気の空気過剰率を目標空気過剰率tλに設定する。硫黄被毒解除モードでの目標空気過剰率tλは1.0より多少小さな空気過剰率(0.95<tλ≦1.0)である。この目標空気過剰率tλの設定を受け、硫黄被毒解除温度(=目標触媒温度)まで排気を昇温させるため、図示しないフローでスロットル弁5の開度調整とポスト噴射とを開始する。このポスト噴射の開始により未燃のHCが排気通路10に供給されて後燃えし、排気が昇温してゆく。
【0096】
ステップ34ではタイマを起動する(タイマ値t2=0とする)。このタイマも硫黄被毒解除モードになってからの経過時間を計測するためのものである。このタイマとしてはエンジンコントロールユニット21に内蔵されているタイマを用いればよい。従って、タイマ値t2のインクリメントは、図7のフローには出てこない。
【0097】
ステップ32で前回も硫黄被毒解除フラグdesul=1であった、つまり継続して硫黄被毒解除フラグdesul=1であるとき(硫黄被毒解除モード中)にはステップ35以降に進む。ステップ35以降は硫黄被毒解除モード中に行う操作である。
【0098】
ステップ35ではタイマ値t2と硫黄被毒解除処理時間Δt3を比較する。硫黄被毒解除処理時間Δt3は予め適合により定めている。タイマ値t2が硫黄被毒解除処理時間Δt3未満であれば硫黄被毒解除処理の終了タイミングになっていないと判断し、ステップ36に進む。
【0099】
ステップ36では排気の実際の空気過剰率rλと目標空気過剰率tλの上限値1.0を比較する。ここで、実際の空気過剰率rλは、酸化触媒14の上流に設けた空燃比センサ27により検出される実際の空燃比から求めればよい(図1参照)。実際の空燃比を理論空燃比で除した値が実際の空気過剰率rλである。
【0100】
実際の空気過剰率rλが目標空気過剰率の上限値1.0を超えていれば、実際の空気過剰率rλを上限値1.0以下に戻すため、ステップ37に進んで目標空気過剰率tλを減少側に補正する。目標空気過剰率を得るため上記のようにポスト噴射を行っている場合には、目標空気過剰率を減少側に補正するため、ステップ33でのポスト噴射開始時のポスト噴射量よりもポスト噴射量を増量側に補正する。次回にもステップ36で実際の空気過剰率rλが目標空気過剰率の上限値1.0を超えていれば、実際の空気過剰率rλを上限値1.0以下に戻すため、ステップ37に進んで目標空気過剰率tλを減少側にさらに補正する。具体的にはポスト噴射量を前回よりも増量側に補正する。このように空気過剰率の減少補正を繰り返すことで、実際の空気過剰率rλを上限値1.0以下に戻す。
【0101】
一方、ステップ36で実際の空気過剰率rλが目標空気過剰率の上限値1.0以下であるときにはステップ38に進み、実際の空気過剰率rλと目標空気過剰率の下限値0.95を比較する。実際の空気過剰率rλが目標空気過剰率の下限値0.95以下であれば、実際の空気過剰率rλを、下限値0.95を超える側に戻すため、ステップ39に進んで目標空気過剰率tλを増大側に補正する。目標空気過剰率を得るため上記のようにポスト噴射を行っている場合には、目標空気過剰率を増大側に補正するため、ステップ33でのポスト噴射開始時のポスト噴射量よりもポスト噴射量を減少側に補正する。次回にもステップ38で実際の空気過剰率rλが目標空気過剰率の下限値0.95以下であれば、実際の空気過剰率rλを下限値0.95を超える側に戻すため、ステップ39に進んで目標空気過剰率tλを増大側にさらに補正する。具体的にはポスト噴射量を前回よりも減少側に補正する。このように空気過剰率の増大補正を繰り返すことで、実際の空気過剰率rλを下限値0.95を超える側に戻す。
【0102】
ステップ36、37で実際の空気過剰率rλが目標空気過剰率の下限値0.95を超えておりかつ上限値1.0以下であるときにはステップ40に進み、前回の目標空気過剰率tλを今回も維持する。目標空気過剰率を得るため上記のようにポスト噴射を行っている場合には、前回のポスト噴射量を今回も維持する。
【0103】
ステップ36で実際の空気過剰率rλが上限値1.0以下となったとき、あるいはステップ38で実際の空気過剰率rλが目標空気過剰率の下限値0.95を超えたときにもステップ40に進み、前回の目標空気過剰率tλを今回も維持する。
【0104】
このようにして、排気の実際の空気過剰率rλが目標空気過剰率の上限値1.0と下限値0.95との間に収まるようにする。実際の空気過剰率rλに基づく空気過剰率のフィードバック制御を行っていると、やがて、ステップ35でタイマ値t2が硫黄被毒解除処理時間Δt3以上となる。このときには、硫黄被毒解除処理の終了タイミングになったと判断して、ステップ41、42に進む。
【0105】
ステップ41、42は硫黄被毒解除処理の終了タイミングで行う後処理の操作である。ステップ41では硫黄被毒解除処理を終了させるため硫黄被毒解除フラグdesul=0とする。
【0106】
ステップ42ではフィルタ再生モードへと移行させるため、フィルタ再生フラグreg=1とする。実際には、硫黄被毒解除処理の終了タイミングでの運転点が図4に示したフィルタ再生可能運転域に含まれ、かつそのときの運転条件が定常の運転条件であることを満足するときに、フィルタ再生フラグreg=1となる。しかしながら、ここでは簡単のため、ステップ42の操作を実行するタイミングでこれら2つの条件を満足しているものとする。
【0107】
次に、図8はフィルタ再生処理を行わせるためのもので、図7のフローと同様に例えば燃料噴射タイミング毎に実行する。図7との関係では図7に続けて実行する。
【0108】
図8においてステップ51ではフィルタ再生フラグreg(図7のフローにより設定されている)をみる。フィルタ再生フラグreg=0であるときには、フィルタ再生許可条件が成立していないと判断しそのまま今回の処理を終了する。
【0109】
ステップ51でフィルタ再生フラグreg=1(フィルタ再生モード)であれば、ステップ52に進み、前回にフィルタ再生フラグreg=1であったか否かをみる。前回にフィルタ再生フラグreg=0であった、つまり今回にフィルタ再生フラグregがゼロから1に切換わったときにはステップ53、54に進む。
【0110】
ステップ53、54はフィルタ再生モードへの切換タイミング(フィルタ再生処理の開始タイミング)で行う操作である。まず、ステップ53では、排気の空気過剰率を目標空気過剰率tλに設定する。フィルタ再生モードでの目標空気過剰率tλは1.0より多少大きな空気過剰率(1.0<tλ≦1.3)である。
【0111】
ステップ54では、フィルタ15を低結晶化スートが燃焼可能な温度まで上昇させるため、スロットル弁5の開度調整とポスト噴射とを開始する。このポスト噴射の開始により未燃のHCが排気通路10に供給されて後燃えし、排気が昇温してゆく。
【0112】
一方、ステップ52で前回もフィルタ再生フラグreg=1であった、つまり継続してフィルタ再生フラグreg=1であるときにはステップ55以降に進む。ステップ55以降はフィルタ再生モード中に行う操作である。
【0113】
ステップ55では、実際のフィルタ温度DPFtempと、目標フィルタ温度の上限値T1とを比較する。実際のフィルタ温度DPFtempは温度センサ28により検出されている(図1参照)。目標フィルタ温度の上限値T1としては高結晶化スートが燃焼し得る温度の下限値(例えば600℃程度)を設定する。
【0114】
実際のフィルタ温度DPFtempが目標フィルタ温度の上限値T1を超えているときにはステップ56に進み、実際のフィルタ温度DPFtempを上限値T1以下へと低下させるため、ステップ54でのポスト噴射開始時のポスト噴射量よりもポスト噴射量を減少側に補正する。これは、フィルタ15に堆積しているスートが盛んに燃焼しているときにも、フィルタ温度DPFtempが上限値T1を超えることがないようにするものである。言い換えると、フィルタ15に堆積しているスートが盛んに燃焼しフィルタ15が上限値T1を超えて昇温するにまかせたのでは、フィルタ15の耐久性が低下する。これを防止するためポスト噴射量を減少側に補正して実際のフィルタ温度DPFtempを上限値T1に制限するのである。
【0115】
次回にもステップ55で実際のフィルタ温度DPFtempが目標フィルタ温度の上限値T1を超えているときにはステップ56に進み、実際のフィルタ温度DPFtempを上限値T1以下へと低下させるため、ポスト噴射量を前回よりもさらに減少側に補正する。このようにポスト噴射量の減少補正を繰り返すことで、実際のフィルタ温度DPFtempを上限値T1以下に戻す。
【0116】
ステップ55で実際のフィルタ温度DPFtempが目標フィルタ温度の上限値T1以下であるときにはステップ57に進み、実際のフィルタ温度DPFtempと、目標フィルタ温度の下限値T2(T2<T1)とを比較する。目標フィルタ温度の下限値T2としては低結晶化スートが燃焼し得る温度の下限値(例えば500℃程度)を設定する。
【0117】
実際のフィルタ温度DPFtempが目標フィルタ温度の下限値T2未満であるときにはステップ58に進み、フィルタ温度DPFtempを下限値T2以上へと上昇させるため、ステップ54でのポスト噴射開始時のポスト噴射量よりもポスト噴射量を増量側に補正する。これは、フィルタ再生処理開始時のポスト噴射量でポスト噴射を行っても実際のフィルタ温度DPFtempが下限値T2にまで上昇しない場合に実際のフィルタ温度DPFtempを下限値T2へと上昇させるものである。言い換えると、フィルタ再生処理開始時のポスト噴射量でポスト噴射を行っても実際のフィルタ温度DPFtempが下限値T2にまで上昇しなければ、フィルタ15に堆積している低結晶化スートの燃焼を開始させることができない。そこでこれを防止するためポスト噴射量を増量側に補正して実際のフィルタ温度DPFtempを下限値T2以上にまで上昇させるのである。
【0118】
次回にもステップ57で実際のフィルタ温度DPFtempが目標フィルタ温度の下限値T2未満であるときにはステップ58に進み、実際のフィルタ温度DPFtempを下限値T21以上へと上昇させるため、ポスト噴射量を前回よりもさらに増量側に補正する。このようにポスト噴射量の増量補正を繰り返すことで、実際のフィルタ温度DPFtempを下限値T2以上へと戻す。
【0119】
ステップ55、57で実際のフィルタ温度DPFtempが上限値T1以下かつ下限値T2以上の温度範囲に収まっていれば、ステップ59に進み、差圧センサ25により検出される実際の差圧ΔPと第2所定値ΔP2を比較する。第2所定値ΔP2は、フィルタ再生処理の終了タイミングを定める値で、予め設定しておく。差圧センサ25により検出される実際の差圧ΔPが第2所定値ΔP2以上であるときには、ステップ60に進み、前回のポスト噴射量を今回も維持してポスト噴射を行う。
【0120】
ステップ55で実際のフィルタ温度DPFtempが上限値T1以下となったとき、あるいはステップ57で実際のフィルタ温度DPFtempが下限値T2以上となったときにもステップ60に進み、前回のポスト噴射量を今回も維持してポスト噴射を行う。
【0121】
実際のフィルタ温度DPFtempが上限値T1以下かつ下限値T2以上の温度範囲に収まっていれば、あるいは実際のフィルタ温度DPFtempが下限値T2以上となったときには硫黄被毒解除処理中に堆積させてある低結晶化スートが速やかに燃焼を開始する。また、この低結晶化スートの燃焼熱で高結晶化スートが燃焼し得る温度にまで昇温し、高結晶化スートが燃焼する。
【0122】
このようにしてフィルタ15に堆積している低結晶化スート及び高結晶化スートを上限値T1から下限値T2までの温度範囲で燃焼させると、やがてステップ59で差圧センサ25により検出される実際の差圧ΔPが低下して第2所定値ΔP2未満となる。このときにはフィルタ15の再生が完了するタイミングになったと判断し、ステップ61、62に進む。
【0123】
ステップ61、62はフィルタ再生処理の終了タイミングで行う後処理の操作である。ステップ61ではスロットル弁5の開度調整を終了してスロットル弁5を全開位置に戻すと共に、ポスト噴射を停止する。ステップ62ではフィルタ再生処理を終了するためフィルタ再生フラグreg=0とする。
【0124】
ステップ62でフィルタ再生フラグreg=0としたことより、次回からステップ51よりステップ52以降に進むことができない。つまり、次回の硫黄被毒解除処理の終了タイミングでフィルタ再生フラグreg=1とされるまでフィルタ再生処理を待つことになる。
【0125】
上記のように、本実施形態では、硫黄被毒解除処理中であっても、低結晶化スートがフィルタ15に堆積するようにしている。このため、フィルタ再生処理を開始し、低結晶化スートが燃焼し得る温度にまで排気を昇温させたとき、この低結晶化スートが燃焼を速やかに開始し、この低結晶化スートの燃焼熱で高結晶化スートが燃焼し得る温度にまで昇温させることができる。この結果、本実施形態のように燃焼形態の切換を行うことをしない場合と比較して、実際の差圧ΔPが第2所定値ΔP2未満となるタイミングが早くなる。
【0126】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0127】
本実施形態によれば、流入する排気中に存在するスート及びSOFからなるパティキュレートを捕集するフィルタ15と、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値より大きいときに流入する排気中のNOxをトラップし、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値以上のときにトラップしたNOxを脱離浄化するNOxトラップ触媒13とを備え、NOxトラップ触媒13の硫黄被毒解除処理に続けてフィルタ15の再生処理を行わせるディーゼルエンジンの排気後処理装置において、硫黄被毒解除処理時に低温側燃焼(第1の燃焼形態)と、高温側燃焼(第2の燃焼形態)とを、NOxトラップ触媒13の硫黄被毒解除温度(700℃程度)を維持するように選択するので(図6のステップ5、11、14、19、21、図7のステップ36〜40参照)、低温側燃焼(第1の燃焼形態)の選択時に触媒温度LNCtempが低下し、高温側燃焼(第2の燃焼形態)の選択時に触媒温度LNCtempが上昇する。触媒温度LNCtempが相対的に低下しているときに低結晶化スートが、燃焼することなくフィルタ15に到達する。すなわち、硫黄被毒解除処理中でも、低結晶化スートをフィルタ15に堆積させることができることから、硫黄被毒解除処理に続けてフィルタ再生処理を行わせても、フィルタ15の再生効率を高めてフィルタ15の再生を従来装置より早期に終了させることができる。
【0128】
本実施形態によれば、低温側燃焼(第1の燃焼形態)と高温側燃焼(第2の燃焼形態)とを交互に選択するので(図6のステップ8〜14、5参照)、硫黄被毒解除温度の維持と低結晶化スートのフィルタ15への堆積とをバランスよく行わせることができる。
【0129】
本実施形態によれば、硫黄被毒解除処理の最後に最終低温側燃焼(第1の燃焼形態)を選択するので(図6のステップ21)、フィルタ温度が上昇している状態としつつフィルタ再生処理開始に際して低結晶化スートを供給できることから、フィルタ15の再生を良好に開始させることができる。
【0130】
本実施形態によれば、硫黄被毒解除処理の最後に最終低温側燃焼(第1の燃焼形態)を選択している時間を、最後より以前に低温側燃焼(第1の燃焼形態)を選択している時間より長くするので(図5の第6段目参照)、フィルタ再生処理を開始する直前に低結晶化スートをフィルタ15に多く供給することができ、フィルタ15に堆積しているスートの燃焼開始を容易にすることができる。
【0131】
本実施形態によれば、低温側燃焼(第1の燃焼形態)を選択するとき、NOxトラップ触媒の触媒温度LNCtempが上昇する一方で、高温側燃焼(第2の燃焼形態)を選択するときNOxトラップ触媒の触媒温度LNCtempが下降するので(図5の第2段目、第6段目参照)、最適な硫黄被毒解除温度を保ちつつ、低結晶化スートをフィルタ15に供給することが可能となり、フィルタ15の再生時間を従来装置より短くできる。
【0132】
本実施形態によれば、硫黄被毒解除温度を目標触媒温度としてこの目標触媒温度に上限値Tupと下限値Tlow1を設け、この上限値Tupと下限値Tlow1との温度範囲でNOxトラップ触媒13の触媒温度LNCtempが下降と上昇とを繰り返すように低温側燃焼(第1の燃焼形態)と高温側燃焼(第2の燃焼形態)とを交互に選択するので(図5の第2段目、第6段目参照)、硫黄被毒解除と低結晶化スートのフィルタ15への供給とを最適な温度範囲で行わせることができる。
【0133】
本実施形態によれば、低温側燃焼(第1の燃焼形態)は、燃焼時の筒内温度を高温側燃焼(第2の燃焼形態)のときより低下させることによって実現するので、低結晶化スートを簡易に生成することができる。
【0134】
実施形態では、排気通路10の上流側にNOxトラップ触媒15を、排気通路10の下流側にフィルタ15を備えるレイアウトの場合で説明したが、排気通路10の上流側にフィルタ15を、排気通路10の下流側にNOxトラップ触媒15を備えるレイアウトの場合にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0135】
1 エンジン
9 燃料噴射弁
13 NOxトラップ触媒
15 フィルタ
21 エンジンコントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入する排気中に存在するスートを含んだパティキュレートを捕集するフィルタと、
排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値より大きいときに流入する排気中のNOxをトラップし、排気の空気過剰率が理論空燃比相当の値以上のときにトラップしたNOxを脱離浄化するNOxトラップ触媒と
を備え、
NOxトラップ触媒の硫黄被毒解除処理に続けて前記フィルタの再生処理を行わせるディーゼルエンジンの排気後処理装置において、
前記硫黄被毒解除処理時に結晶化度の相対的に低いスートが多く発生する第1の燃焼形態と、結晶化度の相対的に高いスートが多く発生する第2の燃焼形態とを、NOxトラップ触媒の硫黄被毒解除温度を維持するように選択することを特徴とするディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項2】
前記第1の燃焼形態と前記第2の燃焼形態とを交互に選択することを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項3】
前記硫黄被毒解除処理の最後に前記第1の燃焼形態を選択することを特徴とする請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項4】
前記硫黄被毒解除処理の最後に第1の燃焼形態を選択している時間を、前記最後より以前に第1の燃焼形態を選択している時間より長くすることを特徴とする請求項3に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項5】
前記第1の燃焼形態を選択するとき、前記NOxトラップ触媒の触媒温度が上昇する一方で、前記第2の燃焼形態を選択するとき前記NOxトラップ触媒の触媒温度が下降することを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項6】
前記硫黄被毒解除温度を目標触媒温度としてこの目標触媒温度に上限値と下限値を設け、この上限値と下限値との温度範囲で前記NOxトラップ触媒の触媒温度が下降と上昇とを繰り返すように前記第1の燃焼形態と前記第2の燃焼形態とを交互に選択することを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。
【請求項7】
前記第1の燃焼形態は、燃焼時の筒内温度を前記第2の燃焼形態のときより低下させることによって実現することを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載のディーゼルエンジンの排気後処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−184716(P2012−184716A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48668(P2011−48668)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】