説明

デファレンシャル機構

【課題】小型、軽量で噛み合い調整が高精度に行なえるデファレンシャル機構を提供する。
【解決手段】第3、第4の傘歯車38、39は、ギヤケース27のケース本体28の内壁面に固定された側板36に沿って組み付けられ、当該側板36との間に挿入される調整用シム42によって第1、第2の傘歯車32、33との噛み合い位置を微調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自転車、台車、車椅子など電動機によるアシスト機構を具備した小型の動力伝達機構に好適に用いられるデファレンシャル機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などの動力伝達機構においては、エンジンにより発生した回転力を駆動輪に伝達するためデファレンシャル機構が設けられる。一般にエンジンからの駆動力を、差動歯車機構を通じて駆動輪へ伝達するようになっている。具体的にはエンジンに連繋する入力軸に設けられた傘歯車はハウジング外周に設けられた傘歯車と噛み合っている。ハウジング内には左右両側の駆動軸と直交する向きに設けられた支持軸を中心に一対の傘歯車(ピニオンギヤ)が対向配置されている。また、ハウジング内には、左右両側の駆動軸に連繋して回転する一対の傘歯車(サイドギヤ)が対向配置されている。各ピニオンギヤは隣り合うサイドギヤと互いに噛み合うように収納されている。一般に、ハウジングは鋳造品が用いられピニオンギヤとサイドギヤが噛み合った状態で鋳物に包まれて一体に製造される(特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−54453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、一対の傘歯車どうしを互いに噛み合わせて鋳造品であるハウジングに収納するとハウジングの外側にエンジンからの動力伝達を行なう入力軸に設けられた傘歯車と噛み合う傘歯車が必要になるためデファレンシャル機構が大型になり重量も嵩むことから用途は大型の車両に限定される。よって、自転車、台車、車椅子など電動機によるアシスト機構を具備した小型の動力伝達機構に適用することは難しい。
【0004】
互いに噛み合う一対の傘歯車を鋳造物に包む場合、歯車位置は鋳型により決まるため噛み合い位置を調整することは行なわれていない。また、一対の傘歯車どうしをケース内に収納してデファレンシャル機構を構築する場合、傘歯車どうしの複数の噛み合い箇所における噛み合い調整が困難である。傘歯車どうしの噛み合いに偏りがあると、異音が発生したり摩耗したりして寿命が短くなるおそれがある。また、噛み合いが浅いと傘歯車の遊びが大きくなるため駆動伝達効率が低下する。
【0005】
本願発明の目的は、上述した従来の課題を解決し、小型、軽量で噛み合い調整が高精度に行なえるデファレンシャル機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るデファレンシャル機構は以下の構成を備える。
駆動源からの駆動力を複数の傘歯車の噛み合いにより駆動軸を通じて駆動輪へ伝達するデファレンシャル機構において、前記駆動源から駆動伝達されて回転するギヤケースと、前記ギヤケースの両側を閉止するサイドプレートの内壁面に沿って各々組み付けられ、当該サイドプレートの両側からケース内に進入する駆動軸と一体に連結されてギヤケースと共に回転駆動される第1、第2の傘歯車と、前記ギヤケース内に駆動軸と直交する向きに固定された直交軸を中心に回転自在に支持され、前記第1、第2の傘歯車と各々噛み合うように対向配置された第3、第4の傘歯車を具備し、前記第3、第4の傘歯車は、ギヤケース内壁面に固定された側板に沿って組み付けられ、当該側板との間に挿入される調整材によって第1、第2の傘歯車との噛み合い位置が各々微調整されて組み付けられることを特徴とする。
また、前記第3、第4の傘歯車は、側板との間にワッシャーを介在させて軸方向中心向けて両側より付勢されており、歯先どうしの噛み合い中心を結ぶ線分が直交するように調整材を設けて噛み合い位置が微調整されて組み付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上述したデファレンシャル機構を用いれば、駆動源が起動するとギヤケースが回転し、ギヤケースが回転すると支持軸に軸支された第3、第4の傘歯車が公転し、第1、第2の傘歯車が同じ向きに回転するため、該第1、第2の傘歯車に連結する駆動軸と連繋する左右の駆動輪へ同時に駆動伝達することができる。また、車輪が旋回する際には、駆動軸の傾きに追従して第1、第2の傘歯車が逆向きに回転し、駆動軸が傾いたまま駆動源からギヤケースを介して両側駆動軸へ駆動伝達できる。このように、駆動源によりギヤケース自体を直に回転駆動して該ギヤケース内に収納した複数の傘歯車機構を通じて駆動輪へ駆動伝達するので、デファレンシャル機構を小型化、軽量化することができる。
特に、第3、第4の傘歯車は、ギヤケース内へ組み付けの際にガイドとなる側板との間に挿入される調整材によって第1、第2の傘歯車との噛み合い位置が微調整されるので、調整材の厚さを適宜変更することでギヤケース内において複数の噛み合い調整が高精度に行なえる。また、第3、第4の傘歯車は、歯先どうしの噛み合い中心を結ぶ線分が直交するように調整材を設けて噛み合い位置が微調整されて組み付けられると、歯車どうしの噛み合いバランスが良く、偏摩耗がなく傘歯車の長寿命化静音化が図られ、遊びが少なく駆動伝達効率も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係るデファレンシャル機構の最良の実施形態について図面を参照して説明する。
以下では、一例として台車に組み付けられるアシスト機構にデファレンシャル機構を適用した場合について説明する。
【0009】
先ず、台車に組み付けられるアシスト機構の概略構成について図2を参照して説明する。
台車本体1は、運搬物を載置する矩形状のプレート(金属、樹脂、木製など)が用いられる。台車本体1の手前側(進行方向後端側)にはコ字状のハンドル(図示せず)が立設されている。台車本体1の裏面側には4つの走行輪が設けられている。前輪3は駆動輪であり、後述するアシスト機構によって回転駆動することができる。
【0010】
図2において、台車本体1の裏面側前方には、取付け板5が台車本体1と平行に支持されている。この取付け板5は、台車本体1に設けられた取付けベース6に支持されている。取付け板5には前輪3が回転可能に組み付けられている。具体的には、取付け板5にはキャスターケース(図示せず)がねじ止めにより固定されている。このキャスターケース内に前輪3を配して回転軸3bをキャスターケース及び前輪3へ挿通して組み付けられている。キャスターケースの外側には締付けナット7がねじ嵌合して抜け止めされている。
【0011】
取付け板5にはデファレンシャル機構8が保持されている。デファレンシャル機構8は、取付け板5から垂下したギヤケース9に収納されている。デファレンシャル機構8は、後述する電動モータからの回転駆動を両側に連繋する前輪(駆動輪)3に伝達するものである。デファレンシャル機構8は電動モータからの駆動をギヤケース9より左右両側に連繋する駆動軸10へ伝達する。左右の駆動軸10は、ユニバーサルジョイント11を介して回転軸3bと連繋している。ギヤケース9の一方側(図2の左側)にはスプロケットホイール12が一体に組み付けられており、電動モータ13からの駆動が伝達される。
【0012】
電動モータ13は、台車本体1の裏面側に着脱可能に吊り下げ支持されている。電動モータ13はハウジング14内に収納されている。電動モータ13の回転軸13aはハウジング14に回転可能に支持されている。この回転軸13aにはスプロケットホイール17が同軸に設けられている。スプロケットホイール17とスプロケットホイール12との間に無端状のチェーン18が架設されており、電動モータ13の回転駆動をデファレンシャル機構8へ伝達するようになっている。チェーン18により駆動伝達するのは、ベルト駆動などに比べて比較的小さなモータ出力に対して抵抗が少なく効率よく駆動伝達できるためである。電動モータ13は、バッテリーにより充電可能なモータ、例えば出力電圧24Vのサーボモータ(DCモータ、ブラシレスモータ)が好適に用いられる。
【0013】
電動モータ13は、デファレンシャル機構8を通じて前輪3の回転軸3bと連繋して電動機及び発電機としての機能を併有する。具体的には、図3は人力駆動力と電動モータ13の駆動力により台車本体1を走行させる場合の制御系のブロック図制御系である。位置検出部19aは人力駆動力を入力軸(モータ回転軸と同軸に設けられる内軸)の回転から位相角度θ1により検出し、位置検出部19bは人力駆動力とモータ駆動力の合力を出力軸(モータ回転軸と同軸に設けられる外軸)の回転から位相角度θ2によって各々検出している。
【0014】
従って、人力駆動力があれば位置検出部19aの検出角度θ1と位置検出部19bの検出角度θ2間に位相ずれΔθが生じる。この位相ずれΔθは位相ずれ検出器20で検出される。この位相ずれΔθを用いて、人力トルク演算器21で人力トルクを演算する。一方、位置検出部19aで検出された検出角度θ1に基づいて速度検出器22で走行速度が検出される。この走行速度を用いて比率計算器23にてアシスト比が求められ、このアシスト比と人力トルクを掛け算器24で掛け合わせ、その結果を電動モータ13のアシストトルクとしてモータ制御回路25へ出力される。モータ制御回路25はアシストトルクに見合った回転速度で電動モータ13の駆動を制御する。また、モータ制御回路25は走行速度を監視しており、下り走行時、規定速度を越えた時または減速したときに、回生制動運転によりモータ回転速度を制限内に収まるように駆動制御すると共に、発生した電力(回生エネルギー)を蓄電装置26に蓄える。蓄電装置26は電動モータ13が発電機として機能したとき該発電機からの電力を蓄電する。
【0015】
ここで、デファレンシャル機構8の構成について図1を参照して具体的に説明する。
ギヤケース9は、筒体(ケース本体)28の両端にサイドプレート29が両側から各々嵌め込まれて閉止され、互いにねじ30により固定されている。一方側(図1の左側)のサイドプレート29にはスプロケットホイール12が一体に組み付けられている。また、一対のサイドプレート29の両側には軸受部31が設けられている。この軸受部31を通じて駆動軸10がサイドプレート29を挿通してケース本体28内へ挿入されている。駆動軸10は軸受部31に設けられた外ベアリング31aにより回転可能支持されている。ケース本体28内に挿入された駆動軸10の端部には、第1、第2の傘歯車(マイタギヤ)32、33が嵌め込まれ、ワッシャー34aを介してスクリューボルト34により固定されている。スクリューボルト34は、駆動軸10に挿入されたキー34aにより回り止めがなされている。第1、第2の傘歯車(マイタギヤ)32、33はサイドプレート29の内壁面に沿って互いに対向して組み付けられている。第1、第2の傘歯車(マイタギヤ)32、33はサイドプレート29に設けられた内ベアリング29aにより回転可能に支持されている。
【0016】
また、ギヤケース9のケース本体28内には、駆動軸10と直交する直交軸35が固定されている。この直交軸35が固定されるケース本体28の内壁面には、側板36がケース本体28の外側から皿ねじ37により固定されている。第3、第4の傘歯車(マイタギヤ)38、39はカラーブッシュ40を介して直交軸35を中心に回転自在に嵌め込まれている。第3、第4の傘歯車38、39は第1、第2の傘歯車32、33と各々噛み合うように組み付けられる。第3、第4の傘歯車38、39は、ギヤケース9のケース本体28の内壁面に固定された側板36に沿って組み付ける際、ワッシャー41を介在させて軸方向中心向けて両側より付勢されて組み付けられる。また、ワッシャー41と側板36との間に調整用シム42を介在させて、歯先の噛み合い中心を結ぶ線L1とL2が直交するように噛み合い位置を微調整されて組み付けられる。調整用シム42は、ゴム材、樹脂材、金属材など様々な薄板状のものが用いられる。
【0017】
図2において、電動モータ13を起動してスプロケットホイール12が回転するとギヤケース9も一体に回転する。このとき支持軸35に軸支された第3、第4の傘歯車38、39が公転するため、第1、第2の傘歯車32、33が同じ向きに回転する。これにより、駆動軸10に連繋する左右の駆動輪(前輪3)へ同時に駆動伝達することができる。また、前輪3が旋回する際には、ユニバーサルジョイント11を通じて左右の駆動軸10が前後方向に傾くため、第1、第2の傘歯車32、33が逆向きに回転する。これにより、駆動軸10が傾いたまま電動モータ13からギヤケース9を介して両側駆動軸10へ駆動伝達できる。従って、狭い場所でも左右両輪を小回り駆動することができる。
特に、第3、第4の傘歯車38、39は、組み付けの際にガイドとなる側板36との間に挿入される最適な厚さの調整用シム42によって第1、第2の傘歯車32、33との噛み合い位置を微調整されるので、複数箇所の噛み合い調整が高精度に行なえるため、傘歯車の寿命が長く、静音化が図られ、駆動伝達効率も向上する。
【0018】
尚、上述した実施例は、デファレンシャル機構8を台車に装着したアシスト機構に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、左右両輪を備えた自転車や車椅子などに設けられるアシスト機構に適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】デファレンシャル機構の内部構造を示す説明図である。
【図2】台車本体に設けたアシスト機構を説明する底面図である。
【図3】アシスト式制御系のブロック図である。
【符号の説明】
【0020】
1 台車本体
2 ハンドル
3 前輪
3a キャスターケース
3b、13a回転軸
5 取付け板
6 取付けベース
7 締付けナット
8 デファレンシャル機構
9 ギヤケース
10 駆動軸
11 ユニバーサルジョイント
12、17 スプロケットホイール
13 電動モータ
14 ハウジング
18 チェーン
19a、19b 位相検出部
20 位置ずれ検出器
21 人力トルク演出器
22 速度検出器
23 比率計算器
24 掛け算器
25 モータ制御回路
26 蓄電装置
28 ケース本体
29 サイドプレート
29a 内ベアリング
30 ねじ
31 軸受部
31a 外ベアリング
32 第1の傘歯車
33 第2の傘歯車
34 スクリューボルト
34a キー
35 直交軸
36 側板
37 皿ねじ
38 第3の傘歯車
39 第4の傘歯車
40 カラーブッシュ
41 ワッシャー
42 調整用シム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からの駆動力を複数の傘歯車の噛み合いにより駆動軸を通じて駆動輪へ伝達するデファレンシャル機構において、
前記駆動源から駆動伝達されて回転するギヤケースと、
前記ギヤケースの両側を閉止するサイドプレートの内壁面に沿って各々組み付けられ、当該サイドプレートの両側からケース内に進入する駆動軸と一体に連結されてギヤケースと共に回転駆動される第1、第2の傘歯車と、
前記ギヤケース内に駆動軸と直交する向きに固定された直交軸を中心に回転自在に支持され、前記第1、第2の傘歯車と各々噛み合うように対向配置された第3、第4の傘歯車を具備し、
前記第3、第4の傘歯車は、ギヤケース内壁面に固定された側板に沿って組み付けられ、当該側板との間に挿入される調整材によって第1、第2の傘歯車との噛み合い位置が各々微調整されて組み付けられることを特徴とするデファレンシャル機構。
【請求項2】
前記第3、第4の傘歯車は、側板との間にワッシャーを介在させて軸方向中心向けて両側より付勢されており、歯先どうしの噛み合い中心を結ぶ線分が直交するように調整材を設けて噛み合い位置が微調整されて組み付けられることを特徴とする請求項1記載のデファレンシャル機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−263339(P2007−263339A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92836(P2006−92836)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(504248355)有限会社 山一精工 (5)
【Fターム(参考)】